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第163回 Elsevier社のオープンアクセス論文誌、“ハゲタカ”ばりの貪欲さに編集委員が反発、全員辞任し新しい論文誌創刊へ

The LancetやCellなどを発行するオランダのElsevier社で起きた事件こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、リアルな山登りの予定だったのですが、急遽予定を変更して、“ハイラル平原”や“サトリ山”の散策に出かけ、2日間をつぶしました。そう、任天堂から5月12日に発売された、Nintendo SwitchのアクションRPG、「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」です。Nintendoのゲームと言えば、「スーパーマリオブラザーズ」シリーズが最も有名ですが、もう一つの大看板、「ゼルダの伝説」シリーズは、その時々の任天堂のゲームマシンの能力を最大限に引き出すことを大きな目的として作られます。独特のアクションとトリッキーな謎解きも、1986年ファミリーコンピューターのディスクシステム向けの第1作、「ゼルダの伝説」から脈々と受け継がれており、不朽の名作と言われるスーパーファミコンの「ゼルダの伝説 神々のトライフォース」(1991年)、Nintendo64の「ゼルダの伝説 時のオカリナ」(1998年)などは、今でもNintendo Switch Onlineで遊ぶことができます。今回発売された「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」は、Nintendo Switch発売直後の2017年に発売され、世界で3,000万本売り上げた「ゼルダの伝説 ブレス オブ ワイルド」の続編です。前作の世界観がさらに広がり、楽しみ方も重層的になっています(この新作も既に1,000万本を売り上げたとの報道もありました)。Switchのゼルダの特徴は、前作のタイトル「ブレス オブ ワイルド(BREATH OF THE WILD)」の言葉の通り、ゲームの中の平原や山、川、空の息吹を感じられることです。ゲームの進行(ボス倒し)は二の次に、ハイラルの世界をブラブラ、狩りや洞窟探検、料理や道具作りだけをコツコツと楽しんでいる人も少なくないようです。確かに仕事で疲れて帰ってきて、2時間ほどハイラルの世界にいると、疲れも吹き飛ぶような気もします。私自身、「ブレス オブ ワイルド」のクリアには半年ほどかかりましたが、今作は1年以上かかりそうな気もします。さて今回は、The LancetやCellなどを発行するオランダのElsevier社の神経画像の論文誌「NeuroImage」の編集委員会の委員を務めていた40人以上の研究者全員が辞任したニュースを取り上げます。欧米の論文誌を中心に拡大し続けているオープンアクセス誌ですが、高額な論文掲載料(Article Publishing Charge:APC)など問題も少なくありません。今回の辞任は、同誌の高額な論文掲載料に対し、編集委員会の委員が反旗を翻したことで起きました。「Elsevierは学界を食い物にし、科学に貢献せずに莫大な利益を主張」英国の一般紙、The Guardianは5月7日付で「‘Too greedy’: mass walkout at global science journal over ‘unethical’ fees(「貪欲すぎる」:「非倫理的な」手数料を理由に世界的科学論文誌で多数が辞任)」というタイトルの記事を同紙のウェブサイトに掲載しました。同記事によれば、オランダのElsevier社の神経画像の論文誌「NeuroImage」で編集委員会の委員を務めていた40人以上の研究者全員が、編集委員を辞任したとのことです。辞任の理由として挙げられたのは、同誌の掲載料が高額過ぎるということです。Elsevier社の業績が高い利益率を確保していることから、編集委員会はElsevier社に対して掲載料の引き下げを要求していました。ところが、Elsevier社がその要求を拒否したため、編集委員会の委員全員が辞任するという事態に至ったのです。「NeuroImage」は購読料の支払いがないオープンアクセス誌で、研究者は論文を発表するため3,450ドルを支払う必要があるとのことです。同記事によれば、辞めた委員の1人は、「Elsevierは学界を食い物にし、科学にほとんど貢献せずに莫大な利益を主張している」と語ったそうです。そのElsevier社の利益率ですが、同記事によれば2019年の決算でのElsevier社の利益率は約40%と、GoogleやApple、Amazonといった世界的企業をも上回る莫大な利益を上げていたとのことです。2022年の売上高も10%増加していました。40%の利益率とは驚きです。インパクトファクターを餌に貧乏研究者たちからお金を搾り取る一流科学論文誌発行は「アコギな商売」と言われますが、この高い利益率からもその一端を窺い知ることができます。掲載料を3,450ドルから2,000ドル以下に引き下げるよう要請したもののElsevier社は応じずこの編集委員の辞任騒動、日経バイオテクも5月23日付で「Elsevier社の神経系論文誌、全エディターが辞任し独自に非営利論文誌を創刊」というタイトルのニュースで報じています。同記事によれば、「NeuroImage」は1992年創刊で、現在のインパクトファクターは7.4。2020年に完全オープンアクセス化されています。元編集委員たちは「2022年6月以降、掲載料を2,000ドル(約27万6,000円)以下に引き下げるよう要請したもののElsevier社は応じなかった。2023年3月、引き下げに応じない場合エディター全員が辞任すると通達したが、応じないとの回答があったため辞任した」とのことです。元編集委員たちは新たな論文誌のウェブサイト1)を立ち上げ、声明を発表しています。声明によれば、新たな論文誌は「Imaging Neuroscience」と名付けられ、7月中旬を目処に同じくオープンアクセス誌として始動する予定だそうです。そして、「論文掲載料は可能な限り低く抑え、低所得国または中所得国では免除します。私たちの目標は、Imaging Neuroscience が NeuroImage に代わってこの分野のトップジャーナルになることです。編集委員会のチームは、NeuroImageのときと同じです」としています。ちなみに、通常の論文掲載料は1,600ドルと半額以下にする予定だそうです。マイナーな専門領域での“反乱”がその他の論文誌にも広がっていくか?オープンアクセス誌は、購読料がないことから従来型の論文発表と比較してより多くの人の目に留まりやすくなると言われています。研究成果に誰でもアクセスできるようになれば研究人脈が広がったり、被引用件数が増えたりなど、研究者としてさまざまなメリットも期待できます。しかし、一方で、購読料収入がないため、研究者が支払う論文掲載料がオープンアクセス誌の収入源となります。オープンアクセス誌の多くは、Elsevier社やSpringer Nature社など大手出版社が発行している高いインパクトファクターをもつ学術誌であり、結果、数千ドル〜1万ドル近い“強気”の掲載料をふっかけられることになるわけです。なお、オープンアクセス誌については、著者から論文掲載料を得ることを第一目的として、インパクトファクターを詐称したり、十分な査読を行わないなどといった粗悪な論文誌、通称“ハゲタカジャーナル”も増えてまた別の問題となっています。今回の「NeuroImage」の編集委員退職は、大手で著名なElsevier社で起こったことなので、別問題のようには見えます。しかし、結局はお金、利益を第一義としている点では、“ハゲタカ”度合いは似たようなものかもしれません。その意味で、論文掲載料が高額でElsevier社の利益率も高いにもかかわらず、編集委員会の委員への報酬が「最低レベルだった」と批判されている点も興味深いです。高いインパクトファクターをもつ学術雑誌を発行する大手出版社は、高額の論文掲載料、高い購読料(購読誌の場合)にもかかわらず、編集委員やレビュアーの報酬は決して高くはなく、研究者たちから度々「強欲」と批判されてきたからです。神経画像の専門誌という若干マイナーな専門領域での“反乱”が、その他の論文誌にも広がっていくのかどうか、今後の動きが気になります。参考1)Imaging Neuroscience

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Jackler 耳科手術イラストレイテッド

精緻かつ美しいイラストで耳科手術を俯瞰1,100点以上の精緻で美しいイラストと洞察に満ちた解説文で、耳科手術をstepごとに解説。耳科や耳鼻咽喉科の初学者に必携です。また経験豊富な外科医には、技術に磨きをかけ、より高度な課題に取り組むための洞察に満ちたアドバイザーとなります。アブミ骨手術、鼓膜形成術、耳介形成術、乳突削開術、真珠腫、顔面神経の問題、めまいに対する手術、側頭骨骨折、人工内耳、側頭骨切除術、錐体尖切除術、拍動性耳鳴など、幅広い手術に対応。付録として、外科医が患者に渡すことができる教育用イラスト集を収載しています。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するJackler 耳科手術イラストレイテッド定価33,000円(税込)判型A4判頁数512頁発行2023年5月著者Robert K. Jackler(スタンフォード大学教授)監訳欠畑 誠治(山形大学名誉教授/太田総合病院中耳内視鏡手術センター センター長)神崎 晶(国立病院機構 東京医療センター感覚器センター聴覚障害研究室 室長)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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顔面神経麻痺診療ガイドライン 2023年版

ガイドラインに進化した顔面神経麻痺診療のバイブル誕生!『顔面神経麻痺診療の手引2011年版』を、Bell麻痺・Hunt症候群・外傷性顔面神経麻痺を対象に、『ガイドライン』として大改訂。日本顔面神経学会認定の「顔面神経麻痺治療医」、「顔面神経麻痺リハビリテーション指導士」のテキストで、リハビリテーション治療・形成外科的治療・鍼灸治療・その他の治療内容を詳しく解説します。システマティックレビューに基づいたCQも充実。顔面神経麻痺の治療がどこまで確立しているか、どのような点が不足しているのかも明確化される教科書になっています。顔面神経診療に携わるすべての方々に必読の1冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    顔面神経麻痺診療ガイドライン 2023年版定価3,300円(税込)判型B5判頁数176頁(図数:37枚)発行2023年5月編集日本顔面神経学会

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NPhAが24年度改定の要望書を提出、薬局の「不公平」解消へ?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第110回

日本保険薬局協会(以下、NPhA)から、次回の調剤報酬改定の要望書が提出されました。これによって、薬局が果たしている機能がきちんと評価されるようになるかもしれません。日本保険薬局協会は5月11日、24年度診療報酬改定に対する「要望書」を発表。重点事項として「薬局グループの規模に関わらず薬局が果たしている機能を公正に評価」と「医薬品の安定供給と後発品の継続的な使用促進に対する評価」が必要とした。グループ規模による評価に関しては、協会が「1丁目1番地」に掲げ、従来から要望している項目。調剤基本料1とそれ以外で格差がある地域支援体制加算を、要件・点数ともに「同一」にすることなどを求めた。(2023年5月12日付 RISFAX)NPhAは、比較的店舗数が多い中堅以上の保険薬局チェーンを中心とした団体です。NPhAは過去に実施した調査結果を根拠として24年度改定の要望書を提出しました。例示された根拠は、調剤基本料1を算定する薬局とそれ以外の基本料を算定する薬局の機能を比較すると、かかりつけ薬剤師の届出数や年間10件の在宅実績、無菌調剤、地域連携薬局と専門医療機関連携薬局の取得数などが基本料1以外の薬局のほうが多いというもので、要望書では調剤基本料1とそれ以外で格差がある地域支援体制加算を要件・点数ともに「同一」にすることを求めました。薬局薬剤師はご存じだと思いますが、調剤基本料で最も点数が高いのが調剤基本料1の42点で、調剤基本料2が26点、調剤基本料3が21点または16点と下がっていきます。薬局グループの規模が大きかったり、集中率が高かったりすると調剤基本料1を算定することができません。大規模グループや集中率の高い薬局は効率的な経営が可能なため、小規模な薬局を守るために点数が下げられていますが、薬局の本来の機能自体が評価されていないのは薬剤師としては悲しい状況であると言わざるを得ません。地域体制加算の要件にも調剤基本料が関係NPhAは、地域体制加算の算定要件についても改善を求めています。地域支援体制加算は、2018年度改定で新設された加算で、それ以前の基準調剤加算を踏襲し、より地域医療に貢献する薬局を評価する目的で新設されました。しかしながら、点数が高い地域体制加算1および2を算定する要件として調剤基本料1の算定があり、調剤基本料1を算定できる小規模の薬局が実績や貢献度に深く言及されずに高い地域体制加算を算定できるとして、薬局内外から疑問や不満の声が挙がっていました。実は前回の報酬改定の際にも別のエビデンスで同様の動きがありました。今回採用されるかどうかはわかりませんが、もし採用されなかったとしても当たり前のことをきちんと主張するというのは大事なことだと思います。2024年度は、6年に1度の医療・介護・障がい福祉等のトリプル報酬改定になります。医療と介護に関わる関連制度の一体改革にとって大きな節目であることから、今後の医療および介護サービスの提供体制の確保に向け、さまざまな視点からの検討が重要になるとされています。年度末に向けて、また騒がしい日々が始まりそうです。

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第148回 新型コロナ定点感染者数を初公表、緩やかな増加傾向/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナ定点感染者数を初公表、緩やかな増加傾向/厚労省2.国内で麻疹患者を複数確認、国内でも流行を懸念/厚労省3.GLP-1ダイエットの健康被害、日本医師会も問題視4.国立健康危機管理研究機構の設立へ、衆議院を通過/国会5.高度急性期偏重の診療報酬改定で、2次救急医療に悪影響か/中医協6.次世代医療基盤法改正案が成立、医療ビッグデータの利用促進へ/内閣府1.新型コロナ定点感染者数を初公表、緩やかな増加傾向/厚労省厚生労働省は、5月19日に定点把握による新型コロナウイルス感染症の感染状況データを初めて公表した。全国の約5,000の医療機関から報告された1週間の感染者数は1万2,922人で、1医療機関当たりの平均患者数は2.63人だった。東京、神奈川、埼玉、千葉の推移をみると、都道府県ごとの感染者数は増加しており、特に沖縄県が最も多い6.07人だった。厚労省はこれまでの感染者数と比較して、緩やかな増加傾向が続いていると分析している。また、新たに始められた「新規入院者数」の発表では、1週間で2,330人の新規入院があり、前週と比べてほぼ横ばい。厚労省では、今後も定点把握を通じて感染状況を把握し、対策を進める方針。(参考)新型コロナウイルス感染症サーベイランス週報:発生動向の状況把握(国立感染症研究所)新型コロナ「緩やかな増加傾向」 厚労省が定点把握で初発表(東京新聞)コロナ定点把握 5類変更後初めて公表 新規患者数 8-14日の1週間分 厚労省(CB news)新型コロナ「定点把握」全国の感染状況データ 初の発表 厚労省(NHK)2.国内で麻疹患者を複数確認、国内でも流行を懸念/厚労省感染力が強い「麻疹」の感染者が国内で複数確認され、厚生労働省が注意喚起を行っている。今月に入って確認された感染者は、インドから帰国した30代男性と、東京都在住の男女2人で、同じ新幹線の車内にいたことで感染経路が特定されている。海外との往来の増加により、国内での感染例が増加する可能性が懸念されており、厚労省は海外渡航者へ注意喚起とワクチン接種を呼びかけている。麻疹は非常に感染力が強く、免疫力のない人が感染するとほぼ100%発症する。感染経路は空気感染のため、手洗いやマスクでは予防できない。麻疹の治療は対症療法であり、ワクチン接種が有効とされている。しかし、国内でのワクチン接種率は目標の95%を下回っており、国内での流行の懸念が高まっている。加藤厚生労働大臣は、5月16日の記者会見で麻疹の症状を有する場合は麻疹を疑い、医療機関を受診のための移動の際は公共交通機関の利用を控えるよう呼び掛けている。厚労省は、自治体や医療機関に対し、麻疹に対する注意喚起を行い、同省のホームページやSNSなどで国民に向けた情報の提供をしている。(参考)加藤大臣会見概要[令和5年5月16日](厚労省)国内での麻しん流行を懸念、発熱や発疹のある者は麻しんを疑った行動・診療を!医療従事者は2回の予防接種歴確認を-厚労省(Gem Med)「麻しん疑われる時は受診前に医療機関に連絡を」相次ぐ感染者の確認を受け 加藤厚労相(CB news)はしか、国内で複数の感染者確認 同じ新幹線車両に乗り合わせ(朝日新聞)はしか相次ぎ、厚労相「症状あれば交通機関の利用控えて」…感染者が不特定多数と接触か(読売新聞)3.GLP-1ダイエットの健康被害、日本医師会も問題視糖尿病治療薬のセマグルチド(商品名:リベルサス)が「飲むだけで痩せられる薬」として処方され、健康被害が相次いでいることが5月18日に一般報道された。ダイエット目的でのGLP-1受容体作動薬の処方は、美容クリニックやオンラインクリニックで行われている。しかし、吐き気やめまいなどの副作用が出現するほか、急性膵炎で入院する人も報告されている。本来、セマグルチドは糖尿病の治療薬であり、ダイエットの薬としての厚生労働省の承認はなく、適応外使用となる。オンライン診療での医師の診察は短時間で行われ、医師とは対面もなく検査もされないまま処方薬が自宅へ配送されており、TwitterなどのSNSでも副作用の訴えが多く寄せられている。現在、美容クリニックやオンライン診療での糖尿病の薬の処方は自由診療で行われているため、現状では規制が難しい状況であり、日本医師会もこれを問題視し、繰り返しこの行為の問題を表明している。同会では今後、処方を正しく行うための法整備が必要と訴えている。(参考)「飲むだけで痩せられる」糖尿病の薬を“痩せる薬”として処方 副作用で吐き気やめまいなど健康被害相次ぐ…入院する人も(TBS)自由診療における糖尿病治療薬の不適切使用に対する見解示す(日医)自由診療におけるオンライン診療の不適切事例について(医薬品の適応外使用)(同)4.国立健康危機管理研究機構の設立へ、衆議院を通過/国会次の感染症に備えるため、アメリカのCDC(疾病対策センター)をモデルとして、内閣感染症危機管理統括庁や厚生労働省に科学的知見を提供するため、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合して新たな専門家組織「国立健康危機管理研究機構」を設立する法案が国会に提出されていた。この5月18日に衆議院本会議で採決が行われ、自民、公明党などの賛成多数で可決された。今後、参議院に送付されて採決で成立すれば、法案に基づいて設立される。設立は令和7年度以降に予定されている。(参考)国立健康危機管理研究機構について(厚労省)国立健康危機管理研究機構(仮称)と地方衛生研究所等の連携強化(同)国立健康危機管理研究機構法案(衆議院)日本版CDC法、衆院通過 司令塔新設案、参院審議へ(東京新聞)5.高度急性期偏重の診療報酬改定で、2次救急医療に悪影響か/中医協厚生労働省は5月17日に中央社会保険医療協議会(中医協)の総会を開催した。来年度から始まる第8次医療計画のうち新興感染症を除く5事業について、診療報酬の在り方の議論を始めた。診療側が問題提起したのは救急医療。去年の診療報酬の改定では、高度急性期医療を評価する「急性期充実体制加算」の新設によって、「総合入院体制加算」(診療科として精神科、小児科、産婦人科の標榜が施設基準)から急性期充実体制加算の算定に移行するため、医療機関側が精神科や産科を廃止するなど地域の2次救急の維持・運営に支障が生じていると指摘があった。本来は100万人に1つの3次救急施設を整備する方針だったが、すでに国内には300施設存在し、さらに増加傾向が続いており、診療側は医療計画がゆがんでいないか、診療報酬以外の財政措置も考慮すべきだと主張した。また、診療報酬の評価方法を見直し、2次救急の評価を充実させる必要があると訴えた。その他、高齢者の救急患者については、急性期以外の医療機関での対応を促す仕組みを強化すべきだと指摘があった。(参考)総合入院体制加算の届け出1年間で35%減 厚労省、周産期医療への影響を注視(CB news)二次救急医療機関への評価充実要望、中医協で診療側 支払側「高齢の救急患者は急性期以外で」(同)総合入院体制加算⇒急性期充実体制加算シフトで産科医療等に悪影響?僻地での訪問看護+オンライン診療を推進!-中医協総会(Gem Med)中央社会保険医療協議会 総会[第545回](厚労省)6.次世代医療基盤法改正案が成立、医療ビッグデータの利用促進へ/内閣府医療ビッグデータの利用を促進するため、今国会に内閣府が提出していた次世代医療基盤法(医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律)の改正法案が、5月17日に開かれた参議院本会議で可決・成立した。この法律は、病院などから提供された医療情報を加工し、研究開発などに活用するために、個人情報保護法の特例法として平成29年に制定されていた。現行法では個人情報の保護のため制限があり、これまでの利用実績は20数件と少なく、新薬の研究開発などに活用しにくいという課題があった。このため経団連や日本製薬工業協会などからは改正を求める声が上がっていた。新たに成立した改正次世代医療基盤法では、匿名化したままでより精緻な医療データを新薬の開発などに利用に活用することが可能となる。具体的には、血圧や体重などの検査値の提供範囲を拡大し、創薬や副作用の早期把握などに活用することが期待されている。また、個人情報保護のため新たな制度が導入され、元の医療情報から患者本人を直接特定できないように、個人情報の保護と情報漏えいの防止強化にも取り組むことになる。(参考)「次世代医療基盤法」とは(内閣府)精緻な医療データを製薬利用へ 法改正、個人情報は配慮(日経新聞)医療データ活用へ 改正次世代医療基盤法 参院本会議で成立(NHK)世代医療基盤法の見直し(経団連)

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脊椎脊髄領域の画像診断-最新の知識と進歩

外来診療での脊椎脊髄疾患の診断にお役立ち!「整形・災害外科」66巻・第5号(2023年4月臨時増刊号)脊椎脊髄領域の画像診断技術は急速に進歩しています。総論ではEOSやPET/CT、MRI、トモシンセシス、脊磁図、エコー、有限要素解析など最新の画像診断技術を紹介。各論では成人、小児の画像診断の章を設け、整形外科にとどまらず放射線科や脳神経内科などスペシャリストが解説します。また、近年注目の人工知能(AI)の総論や深層学習を用いた自動診断システムについての章も設け、解説しています。外来診療における脊椎脊髄疾患の診断に役立つ最新の技術と知識が満載の1冊。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    脊椎脊髄領域の画像診断-最新の知識と進歩定価8,250円(税込)判型B5判頁数224頁発行2023年4月編集今釜 史郎電子版でご購入の場合はこちら

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既治療大腸がん、FTD/TPIへのベバシズマブ上乗せでOS延長/NEJM

 切除不能な進行・再発大腸がん患者において、トリフルリジン・チピラシル(FTD/TPI)+ベバシズマブ併用療法はFTD/TPI単独療法と比較して、全生存期間(OS)を延長することが確認された。オーストリア・ウィーン医科大学のGerald W. Prager氏らが、13ヵ国87施設で実施された第III相無作為化非盲検実薬対照比較試験「SUNLIGHT試験」の結果を報告した。これまでの第III相試験において、FTD/TPIは転移のある大腸がん患者のOSを延長することが示されていた。また、第II相単群および無作為化試験の予備データから、ベバシズマブにFTD/TPIを追加することで生存期間が延長する可能性が示唆されていた。NEJM誌2023年5月4日号掲載の報告。FTD/TPI+ベバシズマブvs.FTD/TPI単独でOSを比較 研究グループは、2レジメン以下の化学療法歴がある切除不能な進行・再発の結腸・直腸腺がんで、ECOG PSが0または1の18歳以上の成人患者を、FTD/TPI+ベバシズマブ群(FTD/TPI併用群)またはFTD/TPI単独群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。割り付けは、地域(北米、欧州、その他の地域)、最初の転移診断からの期間(18ヵ月未満、18ヵ月以上)、RAS状態(野生型、変異型)により層別化された。 主要評価項目はOS、副次評価項目は治験責任医師評価による無増悪生存期間(PFS)、全奏効率(ORR)およびECOG PSが0または1から2以上に悪化するまでの期間を含む安全性とした。FTD/TPI併用群10.8ヵ月vs.単独群7.5ヵ月、OSが有意に延長 2020年11月25日~2022年2月18日の期間に492例が割り付けられた(FTD/TPI併用群246例、単独群246例)。 OS中央値は、FTD/TPI併用群10.8ヵ月、単独群7.5ヵ月であり、死亡のハザード比(HR)は0.61(95%信頼区間[CI]:0.49~0.77、層別log-rank検定のp<0.001)で、FTD/TPI併用群においてOSが有意に延長したことが認められた。6ヵ月全生存率はFTD/TPI併用群77%、単独群61%、12ヵ月全生存率はそれぞれ43%、30%であった。 PFS中央値はFTD/TPI併用群5.6ヵ月、単独群2.4ヵ月(HR:0.44、95%CI:0.36~0.54、p<0.001)、ORRはそれぞれ6.1%(95%CI:3.5~9.9)、1.2%(95%CI:0.3~3.5)であった。 両群で発現頻度が高かった有害事象は、好中球減少症(FTD/TPI併用群62.2%、単独群51.2%)、悪心(それぞれ37.0%、27.2%)、貧血(28.9%、31.7%)であった。治療に関連した死亡の報告はなかった。ECOG PSが0または1から2以上に悪化するまでの期間の中央値は、FTD/TPI併用群9.3ヵ月、単独群6.3ヵ月(HR:0.54、95%CI:0.43~0.67)であった。

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重症アルコール性肝炎に抗菌薬予防投与は有効か?/JAMA

 重症アルコール性肝炎の入院患者に対する抗菌薬の予防的投与のベネフィットは明らかになってないが、フランス・Lille大学のAlexandre Louvet氏らが292例を対象に行った多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験で、60日全死因死亡率を改善しないことが示された。著者は、「今回示された結果は、重症アルコール性肝炎で入院した患者の生存改善に対して抗菌薬の予防的投与を支持しないものであった」とまとめている。JAMA誌2023年5月9日号掲載の報告。Maddrey機能スコア32以上、MELDスコア21以上の患者を対象 研究グループは2015年6月13日~2019年5月24日に、フランスとベルギーの医療センター25ヵ所で、生検で確認された重症アルコール性肝炎の患者292例を対象に試験を開始した。被験者のMaddrey機能スコアは32以上、末期肝疾患モデル(MELD)スコアは21以上だった。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはプレドニゾロン+アモキシシリン・クラブラン酸(145例)、もう一方にはプレドニゾロン+プラセボ(147例)をそれぞれ投与した。追跡期間は180日で、最終フォローアップは2019年11月19日だった。 主要アウトカムは、60日時点の全死因死亡率だった。副次アウトカムは、90日、180日時点の全死因死亡率、60日時点の感染症、肝腎症候群、MELDスコア17未満のいずれも発生率、および7日時点のLilleスコア0.45未満の患者の割合だった。60日全死因死亡率、アモキシシリン群17%、プラセボ群21%で有意差なし 被験者292例の平均年齢は52.8歳、女性80例(27.4%)で、284例(97%)が解析に含まれた。 60日死亡率は、アモキシシリン群17.3%、プラセボ群が21.3%で統計的有意差はなかった(補正前絶対群間差:-4.7ポイント[95%信頼区間[CI]:-14.0~4.7]、ハザード比[HR]:0.77[95%CI:0.45~1.31]、p=0.33)。 60日時点の感染症発生率は、アモキシシリン群(29.7%)がプラセボ群(41.5%)より有意に低かった(補正前絶対群間差:-11.8ポイント[95%CI:-23.0~-0.7]、サブHR:0.62[95%CI:0.41~0.91]、p=0.02)。その他の副次的アウトカムは、両群で有意差はなかった。 最も多くみられた重篤有害イベントは、肝不全関連(アモキシシリン群25例、プラセボ群20例)、感染症(同23例、46例)、胃腸障害(同15例、21例)だった。

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閉経後の骨粗鬆症治療薬、69試験のネットワークメタ解析で効果比較/BMJ

 閉経後女性への骨粗鬆症治療薬の大部分にベネフィットがあることが、デンマーク・Bispebjerg and Frederiksberg HospitalのMina Nicole Handel氏らによる69試験・被験者総数8万例超を対象としたシステマティックレビューとメタ解析で明らかにされた。骨形成促進薬はビスホスホネートよりも、ベースラインのリスク指標にかかわらず、臨床的骨折および脊椎骨折の予防に有効であることが示された。著者は、「今回の分析結果は、骨折リスクの高い患者への骨形成促進薬による治療を制限する、臨床的エビデンスはないことを示すものであった」とまとめている。BMJ誌2023年5月2日号掲載の報告。ビスホスホネートやSERM、PTH受容体作動薬などのRCTをレビュー・解析 研究グループはMedline、Embase、Cochrane Libraryを基に、1996年1月1日~2021年11月24日に発表され、ビスホスホネート、デノスマブ、選択的エストロゲン受容体修飾薬(SERM)、副甲状腺ホルモン(PTH)受容体作動薬、ロモソズマブをプラセボまたは実薬と比較した無作為化試験を特定し、システマティックレビューとネットワークメタ解析およびメタ回帰分析を行った。適格試験は、全年齢の非アジア人閉経後女性を対象に、介入時に骨質について幅広い要素を評価したものだった。 主要アウトカムは、臨床的骨折とした。副次アウトカムは、脊椎、非脊椎、腰、その他の主な骨粗鬆症骨折と、全死因死亡、有害イベント、重篤な心血管有害事象だった。骨吸収抑制薬治療、ベースライン時の年齢増加と共に予防効果増大 69試験(被験者総数8万人超)を対象に解析が行われた。臨床的骨折の統合結果は、ビスホスホネート、PTH受容体作動薬、ロモソズマブが、いずれもプラセボに比べ、予防的効果があることを示した。 その中でビスホスホネートはPTH受容体作動薬に比べ、臨床的骨折を軽減する効果が低かった(オッズ比[OR]:1.49、95%信頼区間:1.12~2.00)。デノスマブは、PTH受容体作動薬とロモソズマブに比べ、臨床的骨折の軽減効果が低かった(デノスマブvs.PTH受容体作動薬のOR:1.85[95%CI:1.18~2.92]、デノスマブvs.ロモソズマブのOR:1.56[95%CI:1.02~2.39])。 脊椎骨折リスクについては、すべての薬剤で、プラセボと比べ軽減効果が認められた。実薬の比較では、デノスマブ、PTH受容体作動薬、ロモソズマブが、経口ビスホスホネートに比べ、脊椎骨折の予防効果が高かった。 骨吸収抑制薬による治療は、ベースラインの平均年齢が高くなるにつれ、対プラセボの臨床的骨折リスクの減少幅が増大したが(試験数17、β=0.98、95%CI:0.96~0.99)、それ以外のすべての治療の効果は、ベースラインのリスク指標による影響を受けなかった。 有害アウトカムはみられなかったが、個々のアウトカムに関する効果予測の確実性については、深刻なバイアスリスクや不正確性が示され、評価は中等度~低度であった。

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第147回 健康長寿の自治体は、男女とも川崎市麻生区、ワースト自治体は大阪市西成区/厚労省

<先週の動き>1.健康長寿の自治体は、男女とも川崎市麻生区、ワースト自治体は大阪市西成区/厚労省2.改正健康保険法が成立、出産育児一時金の財源のため75歳以上の保険料の引き上げへ/国会3.全世代型社会保障関連法が成立、「かかりつけ医機能」報告制度を創設へ/国会4.大都市など外来医師多数区域での新規開業規制を/財務省5.緊急避妊薬の市販化、パブリックコメントは圧倒的多数が賛成/厚労省6.財政制度等審議会で医薬品の保険給付範囲の早急な見直しを提案/財務省1.健康長寿の自治体は、男女とも川崎市麻生区、ワースト自治体は大阪市西成区/厚労省厚生労働省は、令和2年に行われた国勢調査の結果を基に市区町村別にみた平均寿命を発表した。それによると、男女ともに最も寿命が短いのは大阪市西成区で、男性が73.2歳、女性が84.9歳。一方、最も長寿な市区町村は男女ともに川崎市麻生区で、男性の寿命は84.0歳、女性の寿命は89.2歳だった。厚労省は、市区町村ごとの平均寿命の差は、生活習慣や健康への意識などの要因によるものとしている。日本人の平均寿命は全国平均で男性が81.49歳、女性が87.60歳で、男女の平均寿命の差は6.1歳。この調査結果を基に、住民の健康増進に役立てることが期待されている。(参考)市区町村別にみた平均寿命 (厚労省)令和2年市区町村別生命表の概況(同)平均寿命 川崎 麻生区が男女とも最長 厚労省調査(NHK)最も長寿な市区町村、男女とも川崎市麻生区…ワーストの区とは10歳の差(読売新聞)市区町村別ニッポンの平均寿命 男性の“短命”は1~3位とも大阪市 厚労省の最新調査(MBS)2.改正健康保険法が成立、出産育児一時金の財源のため75歳以上の保険料の引き上げへ/国会後期高齢者医療制度の保険料の上限引き上げを含む改正健康保険法が、5月12日の参議院本会議で自民党、公明党などの賛成多数で可決、成立した。社会保障の持続性を高める「全世代型社会保障」への改革の一環として、2024年度から所得のある75歳以上の人の医療保険料を段階的に引き上げ、現役世代の負担増を抑えつつ、出産育児一時金の増額に充てる財源とする。法案によれば、年金収入が年153万円を超える約4割の後期高齢者を対象に、2024年度から保険料の上限を73万円、2025年度には80万円に引き上げる予定。厚生労働省の試算では、高齢者の1人当たりの保険料は年平均でおよそ5千円増え、25年度は8万7,200円となる見通し。また、自営業者などが加入する国民健康保険では、出産前後の4ヵ月間の保険料を免除する措置も創設される。(参考)75歳以上の公的医療保険料、段階的引き上げ…出産一時金増額で健康保険法改正(読売新聞)改正健保法が成立 75歳医療保険料引き上げ 出産一時金財源にも充当(産経新聞)75歳以上、保険料5000円増 改正健保法成立 対象4割 財政の持続性 懸念なお(日経新聞)3.全世代型社会保障関連法が成立、「かかりつけ医機能」報告制度を創設へ/国会5月12日に参議院本会議で改正医療法を含む、全世代型社会保障関連法が賛成多数で可決、成立した。これによって「かかりつけ医機能」の法定化と報告制度の創設が決まった。改正医療法では、「かかりつけ医機能」を「身近な地域における日常的な診療、疾病の予防のための措置その他の医療の提供を行う機能」と定義している。今後、政府は報告制度について検討を行い、今年の夏までに今後の具体的な情報提供項目のあり方や情報提供についてまとめる。2025年4月施行後、診療所や病院は「かかりつけ医機能」として休日・夜間の対応、介護サービスとの連携などについて都道府県に届け出ることになる。都道府県は医療機関の体制を確認し、患者が適切な選択をするための情報を提供するとともに、地域の「かかりつけ医機能」の向上を協議し、医療計画や介護保険事業計画に反映させることを目指す。また、2007年に創設された「医療機能情報提供制度」は、2024年度に全国統一のシステムに切り替えられる予定。(参考)全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の改正案(厚労省)「かかりつけ医機能」を法定化、報告制度創設へ 全世代型社会保障関連法が成立(CB news)4.大都市など外来医師多数区域での新規開業規制を/財務省財務省は、財務大臣の諮問機関の財政制度等審議会財政制度分科会を5月11日に開催し、この中で今後の医師の需給見込みについて議論を行った。厚生労働省の将来推計によれば、2029年頃にマクロでは医師需給が均衡し、その後は医師の供給過剰となることが見込まれており、現状のままでは、大都市部において医師や診療所数が過剰となり、地方はそれらが過少となる傾向が続く。厚労省は「外来医師多数区域」における取組みとして、2020年度の「外来医療計画」に基づくガイドラインで「外来医師多数区域」において新規開業を希望する者に対しては、不足する医療機能を担うように要請しているが、一部の都道府県では、そもそも要請を行っておらず、また、要請を行っても、新規開業者に求める医療機能が不明瞭なケースもある。厚労省の調査によれば、要請に従っている新規開業者は7割程度と十分ではない。今後、わが国でも、地域ごとに病院・診療所間の役割分担を明確にしつつ、必要な医療人材を集中・確保していくことが求められる中で、たとえば診療所の新規開設についても、国外の例を参考にもう一歩踏み込んだ対応が必要などの意見が出された。日本医師会は「外来医療計画」について2019年に、外来医療計画は開業を制限するものではないことを確認している。現在、厚労省は第8次医療計画の策定を進めており、来年度から各都道府県に対して、医師の偏在対策を求めていくとみられる。(参考)財政制度等審議 財政制度分科会 財政各論(3):こども・高齢化等[※74頁目より](財務省)財務省、診療所の新規開業規制に言及「一歩踏み込んだ対応必要ではないか」(CB news)2024年度から強力に「医師偏在解消」を推進!地域の「すべての開業医」に夜間・休日対応など要請-厚労省(Gem Med)外来医療計画について(日本医師会)医師確保計画策定ガイドライン~第8次(前期)~(厚労省)5.緊急避妊薬の市販化、パブリックコメントは圧倒的多数が賛成/厚労省厚生労働省は、5月12日に「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」を開催し、医師の処方箋なしで購入できる緊急避妊薬(モーニングアフターピル)の市販化について、約4万6千件のパブリックコメントが寄せられ、およそ99%が賛成であったことを明らかにした。しかし、検討会議では最終報告書がまとまらず、議論が継続されることとなった。現在、緊急避妊薬は医師の処方箋が必要で、診療可能な医療機関やオンライン診療の医師一覧が厚労省のウェブサイトに掲載されているが、休日や夜間に手に入りにくいという課題も存在する。これまで緊急避妊薬については、処方箋が不要な市販薬に変更する意見が取り上げられてきたが、厚労省の専門家会議では、市販化は女性の権利に関わる問題であり、アクセス向上の面でも良い方法であるとの認識が共有されていた。パブリックコメントでは、4万5,314件が賛成であり、反対は412件であった。賛成意見の中には、未成年が避妊薬を手に入れやすくなることへの懸念や、性犯罪被害者のサポートセンターの存在を広く知らせる必要性などが挙げられた。厚労省の専門家会議は、緊急避妊薬に関心の高い女性の存在を認識し、次回までに最終報告書をまとめることを決定したほか、一部薬局や地域での試験的な導入を検討する。今後、課題などを整理した後、製薬会社から緊急避妊薬のOTC化の申請があれば、承認するかどうか別の会議で審議する。(参考)第24回 医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議(厚労省)緊急避妊薬「市販化を」 異例のパブコメ4万6千件、賛成の声多く(朝日新聞)緊急避妊薬スイッチOTC化前の試験運用検討へ パブリックコメント踏まえ評価会議が方向性(CB news)6.財政制度等審議会で医薬品の保険給付範囲の早急な見直しを提案/財務省財務省は、5月11日に開催された財政制度等審議会において、医療・介護の給付費用が過去20年で大幅に増加しており、医療・介護の給付費用の効率化が必要として、医薬品の保険給付範囲の見直しを求めた。この中で、日本の医療保険制度は、患者側が受診コストを意識しづらく、医療機関側は患者数・診療行為数が増えるほど収入が増える構造である。わが国の保健医療支出GDP比はOECDで5番目に高く、政府支出に占める公的保健医療支出の割合はOECDで2番目に高い状況にある。近年、医薬品に対する給付費用が経済成長率以上に伸びており、さらに高齢化の進展に伴い、さらなる薬剤費の増加も見込まれている。医療・介護の報酬改定で制度改正を行っているが、今後も給付費用の抑制に取り組む必要がある。また、画期的な新薬を含め高額医薬品の収載が増えており、今後も保険財政への影響が大きい医薬品が出てくることも予想され、保険給付について今のままでは保険料や国庫負担の増大が避けられない現状であるとした。すでに欧米諸国では、高額な医薬品については、費用対効果をみて保険対象とするか判断する、医薬品の有用性が低いものは自己負担を増やす、あるいは、薬剤費の一定額までは自己負担とする方策をとっており、わが国でも早急な対応が必要として、新しい枠組みを求めた。政府はこれらの提言を基に、令和5年度の「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」を今年の夏までに決定して、岸田内閣が取り組む課題とするとみられる。(参考)財務省主計局 財政審に「薬剤費の一定額までは自己負担」など保険給付範囲の早急な見直しを正式に提案(ミクスオンライン)財政制度等審議会 財政制度分科会 財政各論(3):こども・高齢化等[※64頁目より](財務省)

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帝王切開時のトラネキサム酸、産科異常出血を予防せず/NEJM

 帝王切開時のトラネキサム酸の予防的投与は、プラセボと比較して母体死亡および輸血の複合アウトカム発生を有意に低下させることはなかった。米国・テキサス大学のLuis D. Pacheco氏らが無作為化試験の結果を報告した。これまでに、帝王切開時のトラネキサム酸の予防的投与は、出血量を減じることが示唆されていたが、輸血の必要性に関する影響については不明であった。NEJM誌2023年4月13日号掲載の報告。米国の31の病院でプラセボ対照無作為化試験 研究グループは、米国の31の病院で帝王切開を受ける妊婦を、臍帯クランプ後にトラネキサム酸またはプラセボを投与する群に無作為に割り付け追跡評価した。 主要アウトカムは、母体死亡または輸血(退院までもしくは出産後7日までのいずれか早いほう)の複合。副次アウトカムは、術中の推定1L超の失血、出血および関連合併症への介入、ヘモグロビン値の術前術後の変化量、出産後の感染性合併症などであった。有害事象も評価した。母体死亡・輸血の相対リスク0.89、有意差なし 2018年3月~2021年7月に1万1,000例が無作為化された(トラネキサム酸群5,529例、プラセボ群5,471例)。このうち、トラネキサム酸群2,768例(50.1%)、プラセボ群2,693例(49.2%)が予定通り帝王切開にて出産した。 主要アウトカムの発生は、トラネキサム酸群201/5,525例(3.6%)、プラセボ群233/5,470例(4.3%)であった(補正後相対リスク:0.89、95.26%信頼区間[CI]:0.74~1.07、p=0.19)。 術中の推定1L超の失血の発生は、トラネキサム酸群7.3%、プラセボ群8.0%であった(相対リスク:0.91、95%CI:0.79~1.05)。出血関連合併症への介入発生は、それぞれ16.1% vs.18.0%(相対リスク:0.90、95%CI:0.82~0.97)、ヘモグロビン値の変化量は、-1.8g/dL vs.-1.9g/dL(平均群間差:-0.1g/dL、95%CI:-0.2~-0.1)、出産後の感染性合併症の発生は、3.2% vs.2.5%(相対リスク:1.28、95%CI:1.02~1.61)であった。 母体の血栓塞栓性イベントおよびその他の有害事象の発現頻度は、両群で類似していた。

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糖質過剰摂取は糖尿病患者のみならず万人にとって生活習慣病リスクを高める危険性がある?―(解説:島田俊夫氏)

 私たちは生きるために食物を食べることでエネルギーを獲得している。その主要なエネルギー源は3大栄養素であり、その中でも代表的なエネルギー源が糖質である。 糖質の摂り過ぎは糖尿病患者では禁忌だということは周知されている。しかし健康人においてさえ、糖の摂り過ぎには注意が必要だとの警鐘を告げる論文も散見され、その中には糖質過剰摂取1,2)が3大死因に密接に関連し、生活習慣病を引き起こす可能性について言及した論文も少なくない。しかしながら、エビデンスレベル不ぞろいの論文が混在しており、玉石混交の中で可能な限り厳密に分析・評価し、糖質過剰摂取に関する情報の真実を明らかにすべく行われた、中国・四川大学のYin Huang氏らにより解析されたUmbrella Review(包括的Review)が、BMJ誌の2023年4月5日号に期せずして掲載された。一読に値するとの思いで取り上げた。Umbrella Reviewの概略 今回のUmbrella Reviewのデータソースは、検索により、観察研究のメタアナリシスにおける74のユニークなアウトカムと無作為化対照試験のメタアナリシスでの9アウトカムを含む、8,601のユニークな論文から73のメタアナリシスと83の健康アウトカムを特定した。健康に関するアウトカム83項目中、食事由来の糖質摂取と有意な関連を認めた45項目の内訳、内分泌/代謝系18項目、心血管系10項目、がん7項目、その他10項目(神経精神、歯科、肝臓、骨、アレルギーなど)に関して有害性が確認された。 食事の砂糖消費量の最高と最低では、体重の増加(加糖飲料)(クラスIVエビデンス)および異所性脂肪の蓄積(加糖)(クラスIVエビデンス)と関連していることを示唆した。低品質のエビデンスでは、1食分/週の砂糖入り飲料消費の増加は、痛風の4%リスク(クラスIIIエビデンス)増加と関連し、250mL/日の砂糖入り飲料消費の増加は、冠動脈疾患(クラスIIエビデンス)および全死因死亡(クラスIIIエビデンス)のそれぞれ17%および4%のリスク増加と関連することを示した。さらに、低品質のエビデンスでは、フルクトース消費量が25g/日増加するごとに、膵臓がんのリスクが22%増加(クラスIIIエビデンス)することを示した。 現時点では糖質過剰摂取の有害性をすなおに受け入れることが賢い選択だと考えるが、全面的に信じることはせず、多少の疑問を残しておくことが大事である。糖質の過剰摂取が肥満を招くことは欧米ではすでに受け入れられており、糖尿病のみならず肥満是正に糖質制限食が好んで使用されていることを考えれば、今回の解析結果は理にかなっている。その反面、長期にわたる糖質制限食に関しては議論の多いところであり3,4)、安全性への不安が根強く残っていることも忘れてはならない。現時点では、長期の糖質制限食への不安が払拭されない限りは、この結果を無条件に受け入れるのは時期尚早ではないかと考える。

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査読者が教える 臨床研究のロジック‐臨床センスを生かした統計解析と論文作成

カンファレンスの設定で学ぶ論文作成法大好評、森本 剛先生の「査読者が教えるシリーズ」第3弾。「ピエール先生と弟子(臨床医)のカンファレンス」という設定で、師弟のやりとりを通じて研究の論文化方法を学びます。論文の流れに沿って適宜掲載しているコラムでは、単なる用語解説にとどまらず、著者森本先生の実体験を基に適用できるケースや注意点などを紹介しています。SNSは一切しない森本先生の言葉が読めるのは本書のみ。初めての論文を書いてみよう!論文を書いたことがあるが、書き方のコツがつかめていない!論文を書いてもなかなか採用されない!論文作成の指導をすることになってしまった!という読者にはとくにオススメです。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    査読者が教える 臨床研究のロジック‐臨床センスを生かした統計解析と論文作成定価3,850円(税込)判型菊判、並製頁数208頁(写真・図・表:約100点)発行2023年4月著者森本 剛(兵庫医科大学)

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スタチンでアジア人乳がん患者のがん死亡リスク低下

 スタチン製剤を服用しているアジア人の乳がん患者では、スタチンを服用していない乳がん患者と比べて、がん関連の死亡リスクが有意に低かったことを、台湾・国立成功大学のWei-Ting Chang氏らが明らかにした。なお、心血管疾患による死亡リスクには有意差はなかった。JAMA Network Open誌4月21日号掲載の報告。 スタチンは化学療法と併用することで、がんの進行や微小転移を抑制することが報告されていて、乳がんの再発リスクを低減させる可能性が示唆されている。しかし、欧米の乳がん患者とは異なり、アジアの乳がん患者は診断時の年齢が比較的若く、ほとんどが心血管リスク因子を有していないため、スタチンの服用によって生存率が改善するかどうかは不明である。そこで研究グループは、アジア人の乳がん患者において、スタチン使用とがんおよび心血管疾患による死亡リスクとの関連を後方視的に調査した。 本コホート研究の対象は、台湾の国民健康保険研究データベース(NHIRD)と国民がん登録を用いて、2012年1月~2017年12月までに乳がんと診断された女性患者1万4,902例で、乳がんの診断前6ヵ月以内にスタチンを服用した患者と、スタチンを服用していない患者を比較した。年齢、がんの進行度、抗がん剤治療、併存疾患、社会経済的状況、心血管系薬剤などを傾向スコアマッチング法で適合させ、解析は2022年6月~2023年2月に実施された。主要アウトカムは死亡(全死因、がん、心血管疾患、その他)で、副次的アウトカムは新規発症の急性心不全、急性心筋梗塞や虚血性脳卒中などの動脈イベント、深部静脈血栓症や肺塞栓症などの静脈イベントであった。平均追跡期間は4.10±2.96年であった。 主な結果は以下のとおり。・スタチン使用群7,451例(平均年齢64.3±9.4歳)とスタチン非使用群7,451例(平均年齢65.8±10.8歳)がマッチングされた。・非使用群と比較して、使用群では全死因死亡のリスクが有意に低かった(調整ハザード比[aHR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.77~0.91、p<0.001)。・がん関連死亡のリスクも、非使用群と比較して、使用群では有意に低かった(aHR:0.83、95%CI:0.75~0.92、p<0.001)。・心不全、動脈・静脈イベントなどの心血管疾患の発生は少数であり、使用群と非使用群で死亡リスクに有意差は認められなかった。・時間依存性解析でも、非使用群と比較して、使用群では全死因死亡(aHR:0.32、95%CI:0.28~0.36、p<0.001)およびがん関連死亡(aHR:0.28、95%CI:0.24~0.32、p<0.001)が有意に少なかった。・これらのリスクは、とくに高用量スタチンを服用している群でさらに低かった。 これらの結果より、研究グループは「アジア人の乳がん患者を対象としたこのコホート研究では、スタチンの使用は心血管疾患による死亡ではなく、がん関連の死亡リスクの低減と関連していた。今回の結果は、乳がん患者におけるスタチンの使用を支持するエビデンスとなるが、さらなるランダム化試験が必要である」とまとめた。

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全く英語が話せなかった私のとっておき医療英語勉強法

私にもできる? 全く英語を話せない人が効率よく医療英語を習得・勉強する方法を披露!今回こそは英語をものにするぞとやる気を出しても、なかなか続かないというそこのあなた! どうせ私にはできないと最初から諦めているそこのあなた! 医師、医学生、薬剤師、看護師、いろいろな立場から、どのように医療英語を勉強しているかを紹介します。勉強法は人それぞれです。そんな勉強法があったのか、これなら自分にできるかも、と自分に合った英語学習法が見つかるはずです。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    全く英語が話せなかった私のとっておき医療英語勉強法定価3,080円(税込)判型A5判頁数146頁発行2023年4月編著者山田 悠史(マウントサイナイ医科大学 老年医学科 アシスタント・プロフェッサー/Medical English Hub[めどはぶ]代表)

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手持ち不足の薬剤の処方依頼前に継続の必要性を再検討【うまくいく!処方提案プラクティス】第53回

 今回は、手持ちの薬がなくなって服薬ができていなかった症例を紹介します。患者さんの希望で処方依頼をするシチュエーションは多々ありますが、状態によっては継続ではなく中止を提案することもあります。治療効果を意識して体調の変化を確認しましょう。患者情報80歳、男性(施設入居)基礎疾患気管支喘息、慢性気管支炎、前立腺肥大症、高血圧症、緑内障、便秘症、アレルギー性鼻炎介護度要介護2服薬管理施設職員が管理処方内容1.アジルサルタン錠40mg 1錠 分1 朝食後2.タムスロシン錠0.2mg 1錠 分1 朝食後3.ミラベグロン錠25mg 1錠 分1 朝食後4.アンブロキソール徐放錠45mg 1錠 分1 朝食後5.ベポタスチン錠10mg 2錠 分2 朝夕食後6.モンテルカスト錠10mg 1錠 分1 就寝前7.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後8.センノシド錠12mg 2錠 分1 就寝前9.ヒアルロン酸点眼液0.1% 1日3回 両眼10.タフルプロスト点眼液0.015% 1日1回 両眼本症例のポイントこの患者さんは、施設入居から4日目に当薬局に訪問介入の依頼がありました。入居前は薬剤を自己管理していたようですが、過去の飲み忘れも含めて約1ヵ月半分の持参薬があり、用法ごとの残数もそろっていない状況でした(朝:42、昼:66、夕:58、就寝前:70日分)。気管支喘息の診断を受けていたとのことで、ブデソニド・ホルモテロールの空容器を持参していましたが、夜間は不安だからプロカテロール吸入薬も吸入したいので処方してもらいたいという患者さんからの依頼がありました。よくよく話を聞いてみると入居3週間前からブデソニド・ホルモテロールもプロカテロールも残薬がなくなっていて、手元にないと不安なので処方してほしいとのことでした。情報分析これまでの情報から私なりに分析してみました。まず、大量かつ不均等の持参薬から患者さんの服薬アドヒアランスは不良であることが想像できます。薬に対する依存度が強く、患者さんから医師にさまざまな薬を要望している様子もあったため、使用していた薬剤の種類と処方理由を明確にしておく必要があると考えました。なお、患者さんが要望している吸入薬はどちらも約1ヵ月間使用していませんでしたが、喘息発作などは起きていません。前医の診療情報書に目を通したところ、小児喘息や成人時期の喘息発作の経験はなかったものの、患者によると喘息の素因があるとのことで、感冒の際に希望があり処方しているという文面を確認することができました。患者さんはその後、長期間にわたって吸入薬を使用していました。基礎疾患にある気管支喘息の診断情報に疑問をもち、訪問診療医に相談することにしました。処方提案と経過患者さんとの初回面談から3日目に訪問診療医の初診があったため同行することにしました。診察前に、医師に初回面談時のやりとりを共有しました。入居前は服薬アドヒアランスが安定していなかったと考えられ、患者さんの希望から吸入薬が追加されている可能性があるものの、約1ヵ月間使用していなくても発作症状はないことなどを伝えました。医師からは、診察時に呼吸音や病状を確認し、診断の見直しをするという返答がありました。その結果、気管支喘息を積極的に疑う所見ではないので、このまま吸入薬をやめて様子をみようという判断になりました。その2週間後の診療でもその間の喘息発作は認められませんでした。患者さんからは、吸入の負担が減って精神的に楽になったと聞き、その後も状態が悪化することなく施設で穏やかに生活されています。

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第157回 アステラス社員のスパイ疑い、考えられる3つの理由(前編)

あの事件が発覚してから1ヵ月が経過しようとしている。「あの事件」とは、アステラス製薬の50代の日本人男性社員が、北京で中国国家安全部に反スパイ法違反容疑で拘束された事件である。4月2日に訪中した外務大臣の林 芳正氏は、中国・国務委員兼外相の秦 剛氏との会談で拘束へ抗議の意を表明し、早期解放を要求。この2日後には在中国日本国大使館が領事面会を行い、この時点で拘束された社員の健康状態に問題がないことを確認したものの、それ以降はぱったりと情報が途絶えている。拘束された社員はアステラス製薬の前身である旧山之内製薬出身者で、中国事業の経験が約20年におよぶベテランのようだ。中国国内で活動する日本企業の団体である中国日本商会の役員を務めた経歴もあり、中国高官ともかなり交流があったと言われている。中国の反スパイ法は2014年に制定されたもので正式名称は「中華人民共和国反間諜法」である。制定当初の同法ではスパイ行為として、以下が規定されている。(1)中国の安全に危害を及ぼす活動(2)スパイ組織への参加あるいはスパイ組織やその代理人の任務引受け(3)国家秘密・国家情報を窃取、偵察、買収もしくは不法に提供する活動(4)公務員に対して中国を裏切るよう扇動、誘惑、買収する活動(5)敵に対する攻撃目標の指示(6)その他のスパイこの社員の拘束後にはこれらに加え、新たにこれらも追加された。▽国家の安全と利益に関わる文書・データ、資料や物品の窃盗行為▽国家機関や重要な情報インフラへのサイバー攻撃一見、具体的に見えるかもしれないが、規定された「中国の安全」とは何かが非常に曖昧である。もちろんこれを条文に詳しく書いてしまえば、国家機密そのものの例示になりかねないとの指摘もあるが、どちらかというと従来から法治というよりは人治の色彩が強い中国の場合、この曖昧さが「後出しじゃんけん」とも言われかねないイメージを強めてしまう。同法制定以降、これに関連して拘束された日本人は判明しているだけで17人。あえて「判明しているだけ」と記述したのは、拘束後約1年もその事実が明らかにされなかったケースがあるためだ。このうち裁判に至らず釈放された事例は5人のみ。少なくとも現状で今回拘束された社員が今後どうなるのかはまったく予測ができない。正直、第一報を聞いた時はかなり驚いた。世間一般では「反スパイ法」「製薬企業の社員」というキーワードから、「何らかの産業スパイを働いたのではないか?」「拘束して逆に日本の製薬業界やアステラス製薬が抱える技術情報を盗み取ろうとしているのでは?」と考える人は少なくないようだが、私見ながらその可能性は低いと考えているからだ。まず、日本と中国の製薬企業の研究開発力を比べれば、まだ日本のほうがいくらか上だ。ただし、中国は全世界の大学や研究所に日本より数多くの留学生を派遣し、それらの人材を基礎として中国の製薬企業は急速に力をつけている。そして両国の技術差は、日本の製薬企業関係者にとってリスクを冒してまで得なければならないほどのものでもなければ、中国側が外交関係悪化を覚悟してまで得ようとしなければならないものはない微妙な位置関係である。現時点でこの社員のどのような行為が反スパイ法に抵触したかの情報はまったくない。この点については彼が無事解放、あるいは最終的に刑が確定した段階でも中国側が明らかにすることはないだろう。それは、これまでそうしたケースがないからである。また、解放あるいは刑期満了による帰国後に当該社員やアステラス製薬が明らかにする可能性も低い。過去の事例でも解放者、刑期満了者がメディアなどの取材に応じたケースはほぼ皆無である。これには中国当局による口止めも予想されるが、同時に本人や勤務先に長期的な不利益が及ぶことを恐れて口をつぐんでしまっている側面もあると考えられる。こうした前提は承知の上で、中国の現状などを踏まえ、この社員が拘束された理由と私が予想しているものは3つある。―その1:中国共産党幹部などの汚職の巻き添えを食らった第一は中国の国家主席である習 近平氏の統治下で活発化している「汚職・腐敗撲滅運動」により摘発された中国共産党幹部などの巻き添えを食らった可能性である。中国の場合、共産党が国家を指導する、つまり国家の上に共産党があるという政治構造になっている。ちなみに習氏は中国の公式な国家元首である国家主席への就任直前に共産党のトップである総書記に就任しており、このことはまさに党→国家という順位を端的に示している。その共産党内にある党員の腐敗行為を監督する中央規律検査委員会は昨年10月、習氏による指導部発足以来の成果として10年間に約464万人の党員を汚職で摘発したことを明らかにした。事実上の一党独裁(表面には共産党以外の政党が存在するが、実際には共産党がすべての権力を握る「ヘゲモニー政党制」)ゆえに日本では「中国国内には共産党員なぞ、掃いて捨てるほどいる」と思っている人もいるかもしれない。しかし、中国の総人口約14億1,200万人のうち、共産党員は国民の約14人に1人未満の約9,671万人しかいない。つまり習氏の政権期間内に汚職摘発を受けたのは党員の約5%にものぼる。日本人向けの例えをすると、10年間で神奈川県の人口(約922万人)の半分が摘発されたとも表現できる。習氏の下で行われている汚職摘発はかなり容赦のないものだ。たとえば、2014年には中国人民解放軍の最高位階級の上将まで上り詰め、中国共産党中央政治局委員、党中央軍事委員会副主席も務めた徐 才厚氏が汚職で摘発され、党籍はく奪処分を受けたが、それだけに留まらない。念のため、わかりにくい中国共産党の権力構造を簡単に解説したい。中国の最高権力機関は、5年に1度開催される構成員約3,000人の一院制議会「全国人民代表大会(通称・全人代あるいは党大会)」。ただ、開催頻度からもわかるように、あくまで名目上の最高権力機関である。このため全人代閉会期間中に共産党を指導し、政策を決定する組織が全人代で選出された200人超の中央委員と170人弱の中央候補委員で構成される「中国共産党中央委員会」である。さらにこの党中央委員会も開催は年1回であるため、中央委員会全体会議で選出された20数人で構成される「中国共産党中央政治局」が日常的な政務を担い、さらにその中でも慣例上7人で構成される「中国共産党中央政治局常務委員会」が日常的な共産党の指導方針や国家の政策を決定している。海外ではこの7人を「チャイナ・セブン」と呼ぶこともある。当然、習氏もその一員である。中国では鄧 小平氏がトップだった時代から党内での無意味な権力闘争を避けることを目的に中央政治局常務委員経験者には暗黙の不逮捕特権があるとされてきた。しかし、習氏はこの慣例を破り、2012年11月まで常務委員会委員だった周 永康氏の党籍を汚職の罪ではく奪。最終的に周氏は裁判にかけられ無期懲役の判決が確定した。憲法の規定である国家主席の2期10年までという任期を改正してまで3期目を務める習氏にとって、この徹底した汚職摘発は最高権力者としての自分を周囲に納得させる手段であると同時に、時には政敵を粛正するために使える手段として欠かすことができないものである。さて今回拘束された社員は、複数の中国高官(共産党員)とかなり親交が深い人物と言われている。こうした立場にいると、親密度の高い相手が汚職で摘発された場合、その余罪追及に向けて周辺人物に身柄拘束が及ぶことは中国では珍しくない。実際、前述の周氏のケースも、まず本人の動静が途絶え、側近や周囲の親密度が高い人物の摘発が明るみに出たことで、周氏の摘発の可能性が噂され、それが後に現実になった。今回のケースがこれに該当していると仮定した場合、拘束された社員はたまたま外国人でかつ企業の駐在員だったことで消息が途絶えたことに周囲が気づきやすかったため、騒ぎになったとも考えられるもっとも1番目に挙げながら、このようなことを言うのも何だが、これは広く捉えた可能性の1つであって、むしろ私が考えているほかの2つのほうがより拘束理由に近いのではないかと考えている。次回は残り2つの可能性について言及したい。

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コロナ後の情報提供、MRの役割はどう変わる?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第109回

今や医療や調剤に関する情報収集は主にインターネットを用いるようになりました。医療用医薬品の添付文書は原則として製品への同梱が廃止されてPMDAのホームページで最新版を確認するようになり、勉強会もオンラインになりました。以前はMRさん主催の勉強会でお弁当を食べながら製品紹介を受ける、というのが薬局全体の底上げに一役買っていましたが、コロナ禍になってMRさんの訪問が規制されてほぼなくなりました。変わり続ける医療業界において、MRさんの役割も激変しそうです。MR認定センターと日本製薬工業協会が、「MRの果たすべき役割」をまとめた同名の冊子の改訂に向けて、月内に検討を開始する。製薬協が内部で検討し、1997年に初めて公表した冊子は、現在は認定センターが継承・発行しており、2017年の現行版を最後に改訂されていない。今回、MRを取り巻く現状などを確認しながらその中身について検討する。まとまった内容は26年度スタートの新たなMR認定試験制度で活用する見通し。関係者は25年2月の公表を視野に、8年ぶりの改訂へ取り組みを進める。(2023年4月17日付 日刊薬業)コロナ禍になり、製薬会社からの情報提供が急速にインターネット中心に移行しました。また、情報提供の内容も良くも悪くも規制が強化されたり、販売促進とは異なる中立的な立場のメディカルアフェアーズ(MA)が活躍したりするなど、MRさんの役割や業務が大きく変わりました。つい最近、「私はWeb担当のMRなんです」という方が現れてビックリしました。私が薬剤師になった約20年前は、4年制卒の薬剤師が大手製薬企業へ就職する場合の職種はMRがほとんどでした。2023年度においては、MR職を最も多く採用した会社でも30人未満で、一時期よりもずいぶん減少しました。新卒のMR採用を一切しないという判断をしている一部の外資系大手製薬企業もあるようです。MR認定試験は製薬会社以外の人にも門戸が開かれていますが普及しておらず、製薬会社がMRを採用しないとMRは減る一方でしょう。製薬会社自体がMRを経由しない情報提供を推進しようとしていると考えられます。冒頭の記事には「MRを取り巻く現状などを確認しながらその中身について検討する」とあり、MR認定センターと製薬団体が協力し合って何か新しい役割を提唱していくのでしょうか。オンラインの勉強会や情報収集だけだと薬局のスタッフの底上げが難しいと感じますので、医療機関や薬局への訪問や情報提供がどのように変わっていくのかとても興味があります。しかし、今からその議論を開始して、そのスタートは2026年とのこと。そのスピード感は大丈夫なのか…と少し不安にもなります。

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あめいろぐ移植

移植医療は究極のパラダイムシフト!在米日本人医療従事者による情報発信サイト「あめいろぐ」シリーズの第7弾は「移植」編。米国では「移植医療の存在しない世界はもはや想像すらできない」といわれています。実際、米国の全臓器の年間移植件数は約4万1,000件、うち心臓移植は米国3,818件であるのに比べて日本は59件(2021年)です。なぜ、移植医療は日本で普及せず、米国ではこれほど普及したのでしょうか? その答えと移植医療を打開する鍵が本書にあります。脳死移植、心停止後移植、渡航移植、移植医療の完全分業制、公平な臓器分配に関する議論やシステムなど、米国で活躍する日本人医師が移植医療の現場を解説し、その未来を語ります。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    あめいろぐ移植定価3,850円(税込)判型A5判頁数160頁発行2023年3月監修浅井 章博著者浅井 章博、川名 正隆、武田 浩二

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2型DMの追加処方に有益なのは?~816試験をメタ解析/BMJ

 中国・四川大学のQingyang Shi氏らはネットワークメタ解析を行い、2型糖尿病(DM)成人患者に対し、従来治療薬にSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬を追加投与する場合の実質的な有益性(心血管系および腎臓系の有害アウトカムと死亡の減少)は、フィネレノンとチルゼパチドに関する情報を追加することで、既知を上回るものとなることを明らかにした。著者は、「今回の結果は、2型DM患者の診療ガイドラインの最新アップデートには、科学的進歩の継続的な評価が必要であることを強調するものである」と述べている。BMJ誌2023年4月6日号掲載の報告。24週以上追跡のRCTを対象に解析 研究グループは、2型DM成人患者に対する薬物治療として、非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(フィネレノンを含む)とチルゼパチド(二重GIP/GLP-1受容体作動薬)を既存の治療オプションに追加する有益性と有害性の比較を目的にシステマティックレビューとネットワークメタ解析を行った。 Ovid Medline、Embase、Cochrane Centralを用いて、2022年10月14日時点で検索。無作為化比較試験で、追跡期間24週以上を適格とし、クラスの異なる薬物治療と非薬物治療の組み合わせを体系的に比較している試験、無作為化比較試験のサブグループ解析、英語以外の試験論文は除外した。エビデンスの確実性についてはGRADEアプローチで評価した。816試験、被験者総数47万1,038例のデータを解析 解析には816試験、被験者総数47万1,038例、13の薬剤クラスの評価(すべての推定値は、標準治療との比較を参照したもの)が含まれた。 SGLT2阻害薬と、GLP-1受容体作動薬の追加投与は、全死因死亡を抑制した(それぞれオッズ比[OR]:0.88[95%信頼区間[CI]:0.83~0.94]、0.88[0.82~0.93]、いずれも高い確実性)。 非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬については、慢性腎臓病を併存する患者へのフィネレノン投与のみが解析に含まれ、全死因死亡抑制の可能性が示唆された(OR:0.89、95%CI:0.79~1.00、中程度の確実性)。その他の薬剤については、おそらくリスク低減はみられなかった。 SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の追加投与については、心血管死、非致死的心筋梗塞、心不全による入院、末期腎不全を抑制する有益性が確認された。フィネレノンは、心不全による入院、末期腎不全をおそらく抑制し、心血管死も抑制する可能性が示された。 GLP-1受容体作動薬のみが、非致死的脳卒中を抑制することが示された。SGLT2阻害薬は他の薬剤に比べ、末期腎不全の抑制に優れていた。GLP-1受容体作動薬は生活の質(QOL)向上に効果を示し、SGLT2阻害薬とチルゼパチドもその可能性が示された。 報告された有害性は主に薬剤クラスに特異的なもので、SGLT2阻害薬による性器感染症、チルゼパチドとGLP-1受容体作動薬による重症胃腸有害イベント、フィネレノンによる高カリウム血症による入院などだった。 また、チルゼパチドは体重減少がおそらく最も顕著で(平均差:-8.57kg、中程度の確実性)、体重増加がおそらく最も顕著なのは基礎インスリン(平均差:2.15kg、中等度の確実性)とチアゾリジンジオン(平均差:2.81kg、中等度の確実性)だった。 SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、フィネレノンの絶対的有益性は、ベースラインの心血管・腎アウトカムリスクにより異なった。

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