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ER+乳がんの術前化療にペムブロリズマブ追加、pCRを有意に改善(KEYNOTE-756)/ESMO2023

 高リスクのER陽性(+)/HER2陰性(-)早期乳がん患者を対象とした第III相KEYNOTE-756試験の結果、術前化学療法にペムブロリズマブを上乗せすることで、病理学的完全奏効(pCR)率が有意に改善したことを、ポルトガル・Champalimaud Clinical Centre/Champalimaud FoundationのFatima Cardoso氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)で報告した。・対象:T1c~2 cN1~2またはT3~4 cN0~2、ER+/HER2–、Grade3、未治療の浸潤性乳管がん患者 1,278例・試験群(ペムブロリズマブ群):ペムブロリズマブ+パクリタキセル→ペムブロリズマブ+AC療法またはEC療法→手術→ペムブロリズマブ+内分泌療法 635例・対照群(プラセボ群):プラセボ+パクリタキセル→プラセボ+AC療法またはEC療法→手術→プラセボ+内分泌療法 643例・評価項目:[主要評価項目]pCR(ypT0/Tis ypN0)、無イベント生存期間(EFS)[副次評価項目]pCR(ypT0 ypN0およびypT0/Tis)、全生存期間、安全性など・層別化因子:東ヨーロッパ:PD-L1発現状況、中国:なし、その他の国/地域:PD-L1発現状況、リンパ節転移、AC/EC療法の投与スケジュール、ER陽性率 今回がKEYNOTE-756試験結果の初報告で、主要評価項目の1つであるpCRの結果が報告された。EFSについては引き続き評価が行われる予定。 主な結果は以下のとおり。・pCRの最終解析(データカットオフ:2023年5月25日)における追跡期間中央値は33.2ヵ月(範囲:9.7~51.8)であった。・ペムブロリズマブ群およびプラセボ群の年齢中央値は49歳(範囲:24~82)/49歳(19~78)、PD-L1 CPS≧1%が75.9%/76.0%、T3/4が36.7%/35.8%、リンパ節転移陽性が89.8%/90.5%、ER≧10%が94.6%/93.3%で、両群でバランスがとれていた。・主要評価項目のpCR(ypT0/Tis ypN0)は、ペムブロリズマブ群24.3%、プラセボ群15.6%であり、統計学的に有意な改善を示した(推定差8.5%[95%信頼区間[CI]:4.2~12.8]、p=0.00005)。・副次評価項目のpCRは、ypT0 ypN0がペムブロリズマブ群21.3%、プラセボ群12.8%(推定差8.3%[95%CI:4.2~12.4])、ypT0/Tisはペムブロリズマブ群29.4%、プラセボ群18.2%(推定差11.0%[95%CI:6.5~15.7])であった。・事前に規定したサブグループのpCRもペムブロリズマブ群のほうが良好であった。とくにER陽性率が10%以上の場合の推定差は8.0%であったが、10%未満の場合は25.6%であった。・Grade3以上の治療関連有害事象発生率は、ペムブロリズマブ群52.5%、プラセボ群46.4%で、安全性プロファイルは既報と一致していた。Grade3以上の免疫関連有害事象はペムブロリズマブ群7.1%、プラセボ群1.2%であった。ペムブロリズマブ群では急性心筋梗塞による死亡が1例(0.2%)認められた。 これらの結果より、Cardoso氏は「PD-L1発現状況にかかわらず、術前化学療法にペムブロリズマブを追加することで、pCR(ypT0/Tis ypN0)は8.5%改善し、ypT0 ypN0およびypT0/Tisでも同様であった。安全性プロファイルはこれまでのものと同様で、新たな有害事象は報告されなかった」としたうえで、「今回の結果は、もう1つの主要評価項目であるEFSの評価を行うに値する結果である。現時点ではまだ不十分であるが、引き続き評価が必要である」とまとめた。

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切除可能ALK陽性NSCLC、術後アレクチニブがDFS改善(ALINA)/ESMO2023

 切除可能なStageIB~IIIAのALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する標準治療は、プラチナ製剤を用いた化学療法である。そこで、進行期のALK融合遺伝子陽性NSCLC患者に対する有効性が認められているアレクチニブを術後補助療法として用いた場合の有効性・安全性を検討するALINA試験が実施され、オーストラリア・Peter MacCallum Cancer CentreのBenjamin Solomon氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)で中間解析の結果を発表した。アレクチニブはプラチナ製剤を用いた化学療法と比較して無病生存期間(DFS)が有意に改善したことが示された。試験デザイン:国際共同第III相非盲検無作為化比較試験対象:抗がん剤による全身療法歴のないECOG PS 0/1の切除可能なStageIB(4cm以上)~IIIAのALK融合遺伝子陽性NSCLC患者(UICC/AJCC第7版に基づく)試験群:アレクチニブ600mg(1日2回)を2年間または再発まで(アレクチニブ群:130例)対照群:シスプラチン+ペメトレキセドまたはビノレルビンまたはゲムシタビン(シスプラチン不耐の場合はカルボプラチンに変更可能)を3週ごと4サイクルまたは再発まで(化学療法群:127例)評価項目:[主要評価項目]DFS(StageII~IIIA集団→ITT集団[StageIB~IIIA]の順に階層的に検証)[その他の評価項目]中枢神経系再発に対するDFS(CNS DFS)、全生存期間(OS)、安全性など解析計画:今回の解析におけるStageII~IIIA集団の有意水準はα=0.0118、ITT集団の有意水準はα=0.0077とした。データカットオフ日:2023年6月26日 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値は27.8ヵ月であった。・StageII~IIIA集団におけるDFS中央値は化学療法群44.4ヵ月(95%信頼区間[CI]:27.8~推定不能)であったのに対し、アレクチニブ群は未到達であり、アレクチニブ群が有意に改善した(ハザード比[HR]:0.24、95%CI:0.13~0.45、p<0.0001)。・StageII~IIIA集団における2年DFS率は化学療法群63.0%、アレクチニブ群93.8%、3年DFS率はそれぞれ53.3%、88.3%であった。・ITT集団においても、アレクチニブ群は化学療法群と比較してDFSが改善した(HR:0.24、95%CI:0.13~0.43、p<0.0001)。・DFSのサブグループ解析において、いずれのサブグループにおいてもアレクチニブ群が良好な傾向にあった。・ITT集団において、アレクチニブ群は化学療法群と比較してCNS DFSが改善した(HR:0.22、95%CI:0.08~0.58)。・再発はアレクチニブ群15例、化学療法群49例に認められ、そのうち遠隔転移はアレクチニブ群33.3%(5/15例)、化学療法群55.1%(27/49例)であった。脳転移はアレクチニブ群4例、化学療法群14例に認められた。・OSのデータは未成熟であった(死亡は6例)。・Grade3以上の有害事象は化学療法群31%(37/120例)、アレクチニブ群30%(38/128例)に認められ、Grade5の有害事象は認められなかった。重篤な治療関連有害事象はそれぞれ7%(8/120例)、2%(2/128例)、治療中止に至った有害事象はそれぞれ13%(15/120例)、5%(7/128例)に認められた。 本結果について、Solomon氏は「本試験は、切除可能なStageIB~IIIAのALK融合遺伝子陽性NSCLC患者におけるALK阻害薬の有効性を第III相試験で初めて示した試験であり、アレクチニブは術後補助療法における新たな治療選択肢となる」とまとめた。

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革新的新薬の創出へ、アカデミア・ベンチャーと製薬企業の連携強化

 一般社団法人アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャー協会が設立記念シンポジウムを10月18日に開催した。本協会は前身の大学発バイオベンチャー協会の趣旨を引継ぎ、バイオベンチャーやスタートアップの振興と産官学連携の推進を目的に今年5月22日に設立された。本協会の理事長である森下 竜一氏(大阪大学寄付講座 教授)によると、医療イノベーション推進のためには業界をワンボイスで進めて行く必要があり、そのためにさまざまな意見を取り込みながらアカデミア発のベンチャー振興の政策提言を令和6年半ばを目途に取りまとめていく予定だという。アカデミア・ベンチャーと製薬企業の連携は革新的新薬開発の必須条件 近年、日本の新薬開発は世界に後れを取っている。これまでは製薬企業が創薬のすべてを担ってきたが、医薬品開発の複雑性・専門性が高まることで自前主義が成り立たなくなり、世界的にも水平分業が進んでいる。そこで、特定領域に特化した技術を有するアカデミアや医療ベンチャーとともにエコシステムを構築し、協業によるイノベーション創出が求められるようになった。官公庁を代表し、浅沼 一成氏(厚生労働省医政局長)が『医療イノベーション推進のための課題とバイオ・ヘルスケアベンチャー支援策』と題し、現状の医薬品開発の動向や創薬開発の問題点などを取り上げ、国内製薬企業と医療系ベンチャーとの結びつきの重要性と将来展開について説明した。 浅沼氏は国内の創薬にかかる課題として「現状、国内創薬スタートアップは未成熟で、スタートアップが開発した新薬は承認・上市には至っておらず、臨床ステージに入っている新薬候補物質の導出も少ない」と指摘。一方で、大型契約を成立させているスタートアップがあるものの外資系製薬企業との契約に偏っていることから、「“スタートアップの買収が起こらない→メガファーマが育たない→買収ができない”という負のスパイラルに陥っているのではないか」と製薬企業側の課題を示した。また、「日本政府は医薬品産業が向かうべきビジョンや戦略を打ち出してきたが、諸外国と比較すると中長期的な戦略を示せていない」と、企業側だけの問題ではないことも明らかにし、政府側に求められる対応として、「新規モダリティの創出支援(一丸となった総合的な戦略を作成ほか)や創薬エコシステムの構築のように、中長期的な戦略を策定し、実効性のある取り組みを進めるべき」と方向性を示した。 来年度の政府の取り組みは『スタートアップ育成5ヵ年計画』などに基づき、アカデミア・ベンチャーと製薬企業のお見合いのようなビジネスマッチング・オープンイノベーションの促進を図り、ドラッグラグ・ロスの解消に向けて海外リソースの呼び込みを含め、ベンチャーが開発する革新的医薬品の導入促進を行うなど、医療系スタートアップ・エコシステム形成を図っていく。 なお、本協会の設立趣旨ならびに活動内容は以下のとおり。【設立趣旨】1.アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャーの推進を図り、その研究活動・事業を通じて福祉への貢献、経済・産業の活性化を図ることを主たる目的とする2.会員相互の親睦を深め、情報交換や交流の場を提供し、会員の研究開発力の向上や人間関係の形成を促進すること3.社会的な課題に対する啓発活動や研究、政策提言などを通じて、社会的な意義や価値を追求すること【活動内容】1.アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャー個々の企業が抱える悩みや問題点の解決に向けた関連行政機関等への提言2.アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャーの発展に必要とされる制度および事業の研究・情報提供・情報交換および交流活動3.研究会、講演会、セミナーその他の会合の開催4.図書の作成および刊行その他研究成果の発表5.国内外の関係機関および研究機関との連携および協力

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「人生をエンジョイ」する人は認知症発症リスクが低い~JPHC研究

 人生をエンジョイすることは、自身の環境と楽しく関わる能力と関連しており、これは認知症リスクとも関連しているといわれている。順天堂大学の田島 朋知氏らは、日本の地域住民における人生のエンジョイレベルと認知症発症との関連を調査した。The Journals of Gerontology. Series B, Psychological Sciences and Social Sciences誌オンライン版2023年9月18日号の報告。 対象は、Japan Public Health Center-based(JPHC)研究に参加した5年間のフォローアップ調査時点で45~74歳の日本人3万8,660例。心理的状態およびその他の交絡因子の特定には、自己記入式アンケートを用いた。認知症発症は、2006~16年の日本の介護保険(LTCI)制度に基づき評価した。Cox比例ハザードモデルを用いた、ハザード比[HR]および95%信頼区間[CI]を算出した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中央値9.4年の間に認知症を発症した患者は4,462例であった。・人生のエンジョイレベルは、認知症リスクとの反比例が認められた。・多変量HRは、エンジョイレベルが低い人と比較し、中程度の人で0.75(95%CI:0.67~0.84、p<0.001)、高い人で0.68(同:0.59~0.78、p<0.001)であった。・人生のエンジョイレベルの増加と認知症リスク低下との関連性は、低~中程度の精神的ストレスを抱えている人で最も強かった。・精神的ストレスレベルが高い人では、脳卒中後の身体障害性認知症において関連性が明らかであったが、脳卒中歴のない身体障害性認知症では認められなかった。 結果を踏まえ、著者らは「人生のエンジョイレベルが高い人は、とくに低~中程度の精神的ストレスを抱える人において、認知症発症リスクが低いことが示唆された。認知症リスクを軽減するためにも、精神的ストレスをマネジメントし、人生をエンジョイすることが重要である」としている。

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第183回 アイン、「敷地内薬局」入札妨害事件が問うもの(後編) 近い将来、病院の薬剤部は給食同様に外部委託に向かう?

アインファーマシーズの社長ら3人、公契約関係競売入札妨害の罪で逮捕、起訴こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、大学時代の山仲間と東北の栗駒山に行ってきました。栗駒山は宮城・岩手・秋田の三県にまたがる1,600m足らずの山で、私の学生時代はそんなに有名でもなく、登山者や観光客もそれほど多くはなかった印象です。ところが今や、北アルプス・穂高の涸沢と並ぶ日本屈指の山岳紅葉の名所と言われるまでになり、この時期は“神が織りなす錦繍の絨毯”を観るために、全国各地から人が訪れます。我々はいつも激混みの宮城県側からの中央コースを避け、秋田県側の須川温泉からのコースを選んだのですが、ここもやはり駐車場は激混みで、登山開始時間が昼近くになってしまいました。それでも、なんとか晴天下、赤と黄色に輝く見事な紅葉を堪能することができました。栗駒山の“錦繍の絨毯”をご覧になりたい方は、平日の登山をお勧めします。あと、熊にも十分注意して下さい。さて、今回も引き続き、敷地内薬局について考えたいと思います。前回は、「アイン薬局」を全国で展開する調剤薬局最大手、アインファーマシーズ(札幌市白石区)の社長ら3人が、KKR(国家公務員共済組合連合会)の病院の敷地内薬局の入札を巡り、公契約関係競売入札妨害の罪で逮捕、起訴された事件の詳細や、日本の医療提供体制における敷地内薬局の位置付けの変遷について書きました。今回の事件が発覚する前に開かれた中央社会保険医療審議会(中医協)でも、敷地内薬局に対しては厳しい意見が出ていました。将来的にはその位置付けが、再び180度転換するかもしれません。敷地内薬局の誘致事例、1年で256件から371件に急増政府の規制改革会議による答申を受け、薬局の経営の独立性確保を前提として、厚労省は2016年10月から「公道をまたがない」敷地内薬局を実質的に認める方針に転じました。その後、調剤薬局チェーンの出店攻勢も手伝って、大学病院や国公立病院を中心に敷地内薬局が激増しました。9月16日に和歌山市で開かれた日本薬剤師会の都道府県会長協議会では、同会が調べた敷地内薬局の実態が報告されています。それによれば、今年6月までの敷地内薬局の誘致事例が昨年6月の42都道府県256件から45都道府県371件に増加していたそうです。内訳としては、国公立病院が36都道府県81件→39都道府県98件、公的病院が25都道府県44件→26都道府県53件、社会保険病院が5都道府県6件→8都道府県10件となっていました。私立や民間のその他病院も26都道府県94件→34都道府県146件と急増していました。また、診療所は昨年6月に比べ、2倍の64件でした。患者の利便性と病院経営の2つの観点から、限りなく点分業に近い体制に変化日本薬剤師会は、敷地内薬局は「適正な医薬分業の推進・定着を阻害する」として、一貫してその拡大に反対してきました。しかし、少なくとも医療機関側、医師側はまったくそう考えていないことが、この急増からもうかがい知ることができます。患者の利便性と病院経営の2つの観点から、それまでの面分業(市中の複数の薬局に処方箋を応需してもらう)から、限りなく点分業(もっぱら特定の薬局に処方箋を応需してもらう)に近い体制に変えてきたわけです。患者や利用者からも敷地内薬局に対して否定的な声はほとんど聞こえてきません。こうした動きは、見方を変えれば、日本薬剤師会が進めてきた医薬分業、面分業に、医療機関や患者は大したメリットを感じていない、ということです。日本薬剤師会は認めたくない事実でしょうが、それが現実です。中医協「中間とりまとめ」でも敷地内薬局の問題点を指摘とは言うものの、敷地内薬局については、中医協で厳しい意見も出ています。2024年度の診療報酬改定に向けた議論を進める中医協では、7月26日に開かれた総会で「特定の保険医療機関と不動産の賃貸借取引がある」「特別調剤基本料を算定している」「処方箋受付回数が年1回以上」という条件に該当する、451の敷地内薬局に関するデータが示されました。それによると、敷地内薬局の処方箋受付回数(年間)は平均1万6,607回で、全薬局の平均1万2,624回を上回りました。しかし一方で、薬局による地域医療への貢献を評価する「地域支援体制加算」の届け出割合は14.9%(67/451ヵ所)で、全薬局の37.3%を下回りました。さらに、敷地内に薬局が出店している18の医療機関のうち、その薬局との「連携あり」と答えたのは、7医療機関(38.9%)に留まっていました。席上、診療側委員で日本薬剤師会副会長の森 昌平委員は、「地域包括ケアシステムを整備する国の方針に敷地内薬局が逆行する」と指摘、支払い側委員で健康保険組合連合会理事の松本 真人委員も診療報酬上の評価の見直しの検討を求めました。こうした議論は、中医協が8月30日に行った「中間とりまとめ」(令和6年度診療報酬改定に向けた議論の概要)にも反映されました。「議論の概要」の中の「現状と課題」の項には、「敷地内薬局は、処方箋受付回数が多いものの、地域支援体制加算の届出割合は低かった。医療機関側からは連携していると認識されていない薬局も半数以上存在している」と記され、「主な意見」では、「敷地内薬局は、薬局開設者の姿勢として、適切な医薬分業と地域包括ケアシステムの構築を進めていく中で国の目指す姿に逆行している。効率的に大量の処方箋が取り扱われているが、医療機関との連携が必ずしも図られていないため、実態をより詳細に把握し、特別調剤基本料以外の部分についても更なる見直しを検討すべき」と記載されました。人口減社会、高齢社会に向け、敷地内薬局は「規制」より「普及・定着」が正解では連携をきちんと行っているかどうかは、敷地内の薬局かどうかの問題ではなく、個々の医療機関や薬局の姿勢の問題であり、中医協の議論は少々ズレているようにも思えます。しかし、それはさておき、こうした記載や、その直後に起こったアインの入札妨害事件を考えると、来年の診療報酬改定でも特別調剤基本料等の引き下げなど、敷地内薬局にさらなる逆風が吹くのは必至とみられます。ただ、少なくとも医療機関や患者は歓迎しているのですから、いたずらに敷地内薬局をイジメるのは得策ではないでしょう。人口減を背景に病院の再編・統合が進み、薬局についても面分業などときれいごとを言っていられない地域が増えています。さらに、後発品をはじめとする医薬品不足も手伝って、薬局も集約化やDX化が避けられない状況です。そう考えると、これからの人口減社会、高齢社会に向けて、敷地内薬局は規制するのではなく、むしろよい具合に普及・定着させていくのが正解ではないでしょうか。「機能として院内薬局と変わらない薬局であるならば、保険指定する必要はない」と日本医師会ところで、アインの事件や、敷地内薬局の議論に、日本医師会がほとんど登場してこないのは不思議だと思いませんか。その理由は、端的に言えば「どうでもいいから」です。医薬分業の進展や調剤チェーンの台頭を背景に調剤報酬が年々莫大になり過ぎたので、そこが”是正”(削減)されることが最重要、というのが日医の基本的なスタンスです。2022年の3月に行われた日本医師会臨時代議員会で、代議員から敷地内薬局に対する日医の見解を問う質問が出ています。これに対し、宮川 政昭常任理事は以下のように答えています。「敷地内薬局は、医療機関において入札公告をして誘致されるために、その時点で経済的・機能的・構造的な独立性が保たれていない。機能として院内薬局と変わらない薬局であるならば、保険指定する必要はない。実質的に院内薬局と同じような機能を担っているのであれば、それに基づいて考え方を今後整理する必要がある。(中略)。敷地内薬局は病院薬剤部の外注形態とみなすこともできる。敷地内薬局は、院内薬局の調剤作業をしているだけにもかかわらず、院内薬局よりも高い点数が調剤報酬として加味されていること自体、貴重な財源の浪費だ」(令和4年5月1日、北海道医報第1244号より)。敷地内薬局の仕組みを突き詰めると病院の薬剤業務の外部委託化につながる「保険指定する必要はない」などと少々乱暴ですが、理に適った主張にも聞こえます。「今後整理する必要がある」の真意はわかりませんが、うがった見方をすれば、敷地内薬局は最終的に、病院の薬剤業務の外部委託化につながっていくとも考えることができます。敷地内薬局は病院の薬剤業務の外部委託ととらえ、保険薬局の指定をするのではなく、病院に院内処方の診療報酬として調剤料などが入るようにし、薬局には病院から調剤の外部委託費などが支払われる、というスキームが考えられます。これは病院給食の外部委託と同様の仕組みです。これだと院内処方になるので、調剤にかかる診療報酬は院外に比べて圧倒的に安くなります。医療費の削減になり、患者負担も減ります。これまで処方箋を受けて、保険薬局として機能してきた薬局にとってはたまったものではない話ですが、調剤薬局チェーンは「実質的に院内薬局と同じような機能を担う」ことを目指し、敷地内薬局の出店を活発化、規模拡大を闇雲に進めてきたわけです。病院の薬剤業務の外部委託化は、そうした敷地内薬局の出店攻勢の先にあるかもしれない、一つの“風景”なのです。「薬剤師の地域における対人業務の強化(対物業務の効率化)」のため「薬剤の一包化」の外部委託が進行中2022年6月に閣議決定された「規制改革実施計画」では、「薬剤師の地域における対人業務の強化(対物業務の効率化)」が明記され、「薬局における調剤業務のうち、一定の薬剤に関する調製業務を、患者の意向やニーズを尊重しつつ、当該薬局の判断により外部に委託して実施することを可能とする方向」で検討が進んでいます。手始めに「薬剤の一包化」が検討されており、9月6日、大阪府は薬局DX推進コンソーシアム、大阪市と共同で、薬局における調剤業務の一部の他薬局への委託について、内閣府の国家戦略特別区域(特区)制度で提案した、と発表しています。敷地内薬局と処方薬のネット販売が台頭か「薬剤一包化の外部委託」と「病院の薬剤業務全体の外部委託」とでは次元が異なる話ですが、基本的な方向性は同じです。病院薬剤師には病棟や外来での対人業務に注力してもらい、調剤はロボットや外部の企業に任せてしまえ、ということだからです。調剤業務の外部委託については、本連載の「第126回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(前編)」でも書きました。やや極端に言えば、近い将来、病院の調剤業務は外部委託した敷地内薬局が担い、処方せんを持ち帰った一部の患者やオンライン診療の患者の薬は、処方薬のネット販売事業者が担う、という形に2分していくのかもしれません。仮にそうなるとすれば、半世紀を経た日本の医薬分業の「成れの果て」と言えるかもしれません。

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医師の英語学習、どのくらいお金と時間をかけている?/1,000人アンケート

 英語で学会発表を行ったり、外国人患者を診療したりするために、英語は医師にとって欠かせないスキルとなっている。英語を学ぶ主な目的や学習方法といった医師の英語学習状況を把握するため、会員医師1,021人を対象に『医師の英語学習に関するアンケート』を9月21日に実施した。年代別の傾向をみるため、20~60代以上の各年代を約200人ずつ調査した。その結果、英語学習に最も費用と時間をかけているのは30代であることなどが明らかとなった。海外学会への参加頻度から、おすすめの英語系YouTubeチャンネルや語学学習アプリなど、学習に役立つツールまで、英語学習に関するさまざまな意見が寄せられた。全体の18%が海外学会に参加 「Q1. 2022~23年、どれくらい海外学会に参加しましたか?(参加形式は発表・聴講を問わない、オンラインでの参加も含む)」という設問では、年代別に海外学会への参加の実態を聞いた。全体で18%が1回以上参加していた。 年代別で1回以上の参加率が高い順に、30代(24%)、40代(23%)、20代(17%)、50代(14%)、60代以上(12%)であった。一方、20~50代では、期間中1回の参加の割合が最も多くを占めていたが、60代以上は、3回以上参加した割合が最も多かった(7%)。診療科別の海外学会参加率(1回以上)では、参加率が高い順に、皮膚科(39%)、血液内科(36%)、放射線科(30%)、腎臓内科(29%)、リハビリテーション科(27%)であった。学ぶ目的、年代が低いほど「研究」、高いほど「臨床」を重視 「Q2. 医療業務やキャリアアップに関わるもので、英語を学ぶ目的は?(当てはまるものを3つ選択)」の設問では9つの選択肢を設け、多い順に「医学論文を投稿するため」(39%)、僅差で「外国人患者を診療するため」(39%)、続いて「英語の学会発表を聴くため」(31%)、「外国人医療者とコミュニケーションを取るため」(26%)、「英語で学会発表を行うため」(26%)であった。 学ぶ目的については、年代別で傾向が分かれた。目的別で最も多い年代は、「医学論文を投稿するため」は20代、「英語で学会発表を行うため」は30代、「外国人患者を診療するため」は60代、「外国人医療者とコミュニケーションを取るため」は50代となり、年代が低いほど研究に関わる目的の割合が高く、年齢が高いほど臨床に関わる目的が高くなった。最も時間とコストをかけているのは30代 「Q3. 現在行っている英語学習法は?(当てはまるものすべて選択)」では、選択肢を12個設け、多い順に「英語論文を読む」(47%)、「YouTube、Podcast」(21%)、「勤務先の抄読会」(14%)、「市販のテキストやラジオ」(13%)、「英語のドラマや映画、小説」(12%)、「英語学習アプリ」(10%)となった。30代と40代では、「YouTube、Podcast」、「英語学習アプリ」の割合が多く、60代以上では、「市販のテキストやラジオ」、「英語の映画やドラマ、小説」が多かった。 「Q4. 英語学習に月間かける費用は?」の設問では、費用をかけていない人の割合が71%と大半を占め、次いで「1円以上、5,000円未満」が20%であった。「Q5. 英語を学習する頻度は?」の設問では、学習する習慣のある人が60%であった。学習の頻度は、多い順に「週に1日」(26%)、「週に2、3日」(15%)、「毎日」(10%)、「週に4~6日」(9%)であった。30代が英語学習に費用をかけている割合が最も多く(33%)、学習する習慣のある人も最も多かった(67%)。おすすめの英語学習法 Q6では、自由回答として、おすすめの英語学習法やサービス名、そのほか英語学習に関する意見を聞いた。回答者から寄せられた意見、おすすめの学習法、英語系YouTubeチャンネル、語学学習アプリなどは以下のとおり。【YouTube】・あいうえおフォニックスは発音や英語表現を簡単にテンポよく解説してくれる。(総合診療科・30代)・英語学習系YouTuberのタロサック。(総合診療科・30代)・もりてつという塾講師のYouTubeが参考になる。(総合診療科・40代)・フレンズ英会話はおすすめです。(腫瘍科・50代)・Kevin's Englishは楽しいです。(産婦人科・60代)【アプリ・オンラインツール】・ChatGPTは活用している。(小児科・40代)・スピーク、ELSA、mikanというアプリがおすすめ。(放射線科・20代)・スタディサプリ。(消化器内科・30代)・NHKの語学講座アプリ。無料で複数回復習ができる。(小児科・40代)・Duolingo。(皮膚科・40代)・HiNative(ネイティブにチャットで質問できるアプリ)。(呼吸器内科・40代)・DMM英会話で毎日外国の人と話し、振り返りをしている。あとはアプリで単語を覚えたり、発音の練習などしている。(循環器内科・30代)【ニュース】・ワシントンポストやニューヨークタイムズの動画ニュースを聞く。(小児科・40代)・CNN English Express。(消化器外科・50代)・BBCのPodcast。(腎臓内科・30代)【論文・学会】・ひたすら論文を書いています。(総合診療科・30代)・英文抄録を読む。(内科・60代)・好きなジャンルの講演を聴く。(血液内科・40代)・NEJMやJAMAのPodcast。(循環器内科・60代)【その他、独自の工夫】・IELTSを受けている。(臨床研修医・20代)・駅で電車を待っている間や、外を歩いているときに英語で独り言を呟いてみる。(消化器内科・40代)・歌詞を覚えて歌う。(消化器外科・50代)・子供用アニメは英語がそれほど難しくなくとっつきやすい。(泌尿器科・50代)・医療系の英語ドラマで、英語の字幕を見ながら英語で聞いて、言葉を復唱する。海外留学の経験からも、これが一番の勉強法だと思います。(内科・50代)【英語が使えてよかったこと】・突然海外からの患者が来た時に、対応できるので信頼度が上がる。(小児科・20代)・英語論文を書く時間がかからない。(整形外科・30代)・外資系の産業医活動ができた。海外出張に参加できた。(精神科・50代)・日々の絶え間ない学習が有効とわかったのが良かった。(その他・60代)アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。医師の英語学習、おすすめの学習ツールは?/医師1,000人アンケート

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筋肉量の多寡にかかわらずタンパク質摂取量が高齢者の全死亡リスクに関連

 日本人高齢者を対象とする研究から、タンパク質の摂取量が多いほど全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが低いという関連が示された。この関連は、筋肉量や血清アルブミンなどの影響を統計学的に調整してもなお有意であり、独立したものだという。東京都済生会中央病院糖尿病・内分泌内科の倉田英明氏(研究時点の所属は慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科)らの研究によるもので、詳細は「BMC geriatrics」に8月9日掲載された。 タンパク質摂取量と健康リスクとの関連については、動脈硬化や腎機能、またはサルコペニア(筋肉量・筋力の低下)、フレイル(要介護予備群)などの観点から研究されてきている。しかし、食文化の違いによるタンパク源の相違などの影響のため、それらの研究結果は一貫性が見られない。また、国内発の知見はいまだ少なく、かつサルコペニアやフレイルリスクを有する高齢者の筋肉量とタンパク質摂取量との関連を検討した研究が主体であって、地域在住一般高齢者の死亡リスクとの関連は明らかになっていない。 以上を背景として倉田氏らは、慶應義塾大学と川崎市が共同で行っている「川崎元気高齢者研究(Kawasaki Aging and Wellbeing Project;KAWP)」のデータを用いて、この関連を縦断的に解析した。KAWPは、日常生活動作(ADL)が自立した身体障害のない85~89歳の地域住民対象前向きコホート研究として2017年にスタート。今回の研究ではKAWP参加者のうち、簡易型自記式食事歴質問票(BDHQ)を正しく回答でき、認知機能の低下(MMSE24点未満)がなく、解析に必要なデータに欠落のない833人を対象とした。主な特徴は、平均年齢86.5±1.36歳、女性50.6%、BMI23.1±3.16で、骨格筋量指数(SMI)は7.33kg/m2、血清アルブミンは4.16±0.28mg/dL。BDHQにより把握された摂取エネルギー量は2,038±606kcal/日であり、その17.0±3.18%をタンパク質から摂取していた。 摂取エネルギー量に占めるタンパク質の割合の四分位で全体を4群に分類して比較すると、その割合が高い群ほど高齢(傾向性P=0.042)で女性が多い(同0.002)という有意な関連が認められた。一方、BMI、腎機能(eGFR)やそのマーカー(BUN、尿アルブミン)、心血管疾患(CVD)既往者の割合には有意差がなかった。血清アルブミンは傾向性P値が0.056と非有意ながら、タンパク質エネルギー比が高い群で高値となる傾向にあった。SMIについては全体解析では、タンパク質エネルギー比が高い群ほどSMIが低いという負の有意な関連があったが(傾向性P=0.018)、性別に解析すると、男性、女性ともに非有意となった。 タンパク質の摂取源に着目すると、タンパク質エネルギー比が最も低い(平均13.1%)第1四分位群は、魚の摂取量が20.3g/1,000kcalであるのに対して第4四分位群(同21.2%)は68.6g/1,000kcalと、約3.5倍であった。タンパク質以外の主要栄養素については、タンパク質エネルギー比が高い群ほど炭水化物摂取量が少なく、脂質の摂取量が多かった(いずれも傾向性P<0.001)。 平均1,218日(約3.5年)の観察で、89人の死亡が記録されていた。タンパク質エネルギー比の第1四分位群を基準として、共変量(年齢、性別、SMI、血清アルブミン、教育歴、がん・CVDの既往)を調整したCox回帰モデルにより、タンパク質摂取量が多いほど全死亡リスクが低いという有意な関連が明らかになった。具体的には第4四分位群ではハザード比(HR)0.44(95%信頼区間0.22~0.90)と56%低リスクであり、全体の傾向性P値が0.010だった。共変量のSMIをBMIに置き換えた場合も結果は同様だった。 魚の摂取量の多寡の影響に着目して、その四分位数で4群に群分けして検討すると、第4四分位群で有意なリスク低下が認められたが〔HR0.48(95%信頼区間0.23~0.97)〕、全体の傾向性は非有意だった(傾向性P=0.13)。その他、肉類、卵、乳製品に分けて行った解析からは、全死亡リスクとの有意な関連は示されなかった。 著者らは、本研究が観察研究であるために解釈に限界があるとした上で、「ADLが自立している85歳以上の高齢者では、タンパク質摂取量が多いことが全死亡リスクの低下と関連しており、この関連は筋肉量にかかわらず認められた」と結論付けている。また、タンパク質エネルギー比が高い群ほど魚の摂取量が多かったことから、「魚には抗炎症作用や発がん抑制作用が報告されているn-3系多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれており、健康に対して多面的なプラス効果を期待できる。高齢アジア人の健康アウトカム改善には、魚を中心とするタンパク質の摂取量を増やすことも重要なポイントではないか」と述べている。

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医師になってからの進路で悩んでいます【医学生お悩み相談ラヂオ】第13回

動画解説第13回は、医学部5年生の男性からのお悩み。臨床実習や国試対策の勉強も進む中で、本格的に医師への道を歩み始めているのですが、医師としての将来像がまったく定まっていないとのこと。多くの学生の進路相談を受けてきたえど先生の回答とは。

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NHKラジオ「小学生の基礎英語」【和製英語教育」から抜け出せる?日本人がバイリンガルになった未来とは?(言語政策)】Part 1

今回のキーワード学習開始年齢学習時間数学習の動機付け工場型一斉授業異年齢レベル分けバイカルチュラル文化の淘汰圧NHKラジオ「小学生の基礎英語」は、小学生向けの英語の教育番組です。1回のレッスンは10分で週3回(再放送を含めると週7回)、さらにNHKのホームページで過去のレッスンをいつでも聴くこともできます。英語を「チャンク」(意味のかたまり)として捉えることが勧められており、これは前回にも説明した生活言語能力を高めることにつながります。小学校の英語教育も、会話重視でより効果的になってきており、内容的には望ましくなりつつあります。しかし、構造的にはまだ問題が残っています。どういうことでしょうか?前回に、日本人がなかなかバイリンガルになれない根本的な原因はモノカルチュラル(日本文化)、モノリンガル(日本語の話し言葉)、そしてモノリテラル(日本語の書き言葉)にとらわれているからであると説明しました。そして、この状態を「語学障害」(文化結合症候群)と名付けました。この詳細については、関連記事1をご覧ください。この日本人ならではの「語学障害」を踏まえると、現在の日本の英語教育は「和製英語教育」と名付けることができます。和製英語が外国人に通じないのと同じように、「和製英語教育」は外国に通用しないからです。今回は、「小学生の基礎英語」をヒントに、この日本の英語教育の構造的な問題点を整理して、より良い英語教育、さらには言語政策を考えてみましょう。そして、文化進化の視点から、日本人の多くがバイリンガルになった時、どんな日本になっているかを一緒に想像してみましょう。日本の英語教育の構造的な問題点は?前々回に、言葉の学習の敏感期(グラフ1)の観点から、英語教育は、中学校からでは遅すぎて、幼児期では早すぎることがわかりました。この詳細については、関連記事2をご覧ください。それでは、小学校から始めれば良いでしょうか? ただ始めればいいというわけではないです。ここから、日本の英語教育の構造的な問題点を主に3つ挙げてみましょう。(1)学習時間数が少なすぎる「小学生の基礎英語」はほぼ毎日放送されており、しかもオンラインで何回も復習できます。一方、小学校の英語の授業時間数は、小学3、4年生で週1時間(年間35時間)、5、6年生で週2時間(年間70時間)、トータル4年間で210時間になります。実際の研究1)において、小学校の低中学年を対象に児童英検でのリスニングで英単語と絵がマッチしているかの判定を脳活動(N400)で測定する検査を行ったところ、英語の学習時間数が800時間を超えると、正答率が大きく伸びていくことが判明しました。その他の多くの研究1)でも、外国語の習得には相当数の学習時間数の確保が必要とされています。1つ目の問題点は、学習時間数が少なすぎることです。文法の敏感期が終わる12歳までの小学校4年間で210時間という授業数は、先ほどの研究結果の800時間を大きく下回っています。もちろん、これは現時点での話で、段階的に授業数を増やしている過渡期であると考えれば、今後に注目する必要があります。(2)学習開始年齢と進度が同じである「小学校の基礎英語」のテキストは、漢字にすべてふりがなが打ってあり、小学1年生からでも聴くことができます。実際に、小学1年生の生徒さんからの投稿アンケートもレッスン中に紹介されています。もちろん、出演者の人たちのやり取りがおもしろくて、小学6年生でも大人でも楽しめる内容です。一方で、小学校の英語教育が始まる学年は一律3年生(8歳)で、一律同じ進度で学習します。言葉の学習の敏感期の観点から、確かに8歳は、母語の基礎的な語彙(生活言語)がある程度固まる時期なので、前々回で説明したダブルリミテッドバイリンガルのような母語である日本語の言語能力への弊害のリスクがなくなりそうです。また、読み書きを通した抽象的な語彙(学習言語)へと脳の機能が移行する時期でもあると考えれば、音声だけでなく文字を併用することで、英語の学習がよりスムーズになるでしょう。ネイティブレベルの発音や語彙力は期待できないにしても、文法の敏感期が終わる12歳まであと4年間あります。よって、たとえば、日本語にない文法の“a”(不定冠詞)か“the”(定冠詞)か、“-s”(複数形)を付けるかどうか、どの前置詞とどの単語がセットかなどの言い回しや、さまざまな基本構文をより感覚的に理解することができるので、英会話でより自然に聞き取って話すことが期待できます。ただし、すべての生徒に期待できるわけではありません。2つ目の問題点は、学習開始年齢と進度が同じであることです。先ほど触れた日本語の言語能力への弊害のリスクがなくなるのは、あくまでもともとの言語理解IQ(VCI)が85以上の子供(約85%)についてです。前々回でも触れましたが、言語理解IQ(VCI)が85以下の子供(約15%)が日本語だけの学習でも問題を抱えている状況は、年齢が上がっても変わりはありません。これは、端的に言うと、国語の成績が低い子供です。つまり、教師が話している日本語でさえちゃんと理解できず、余力がまったくないのに、さらに英語の学習を推し進めるのは意味がないどころか、日本語ももっとおぼつかなくなるということです。なお、現時点では、英語の授業時間数が少ないことで、結果的にこの問題が起きないわけですが、やはり授業時間数を増やしていく場合には避けては通れない問題です。そして、この問題のために結局、授業時間数を増やせなくなってしまうことが最も懸念されます。(3)学習の動機付けに限界がある「小学生の基礎英語」は、レッスンの3回のうち1回は、英語についての質問コーナーがあり、単なる言葉を覚えるだけでなく、文化的な面にも興味を持てる仕組みがつくられています。一方で、小学校3、4年生の英語の授業内容も、「外国語活動」として、英語の文化的な要素も学習指導要領に盛り込まれているようです。ただし、家族も学校の友達も近所の人もほぼ全員日本語を話します。前回でも触れたように、世界的に見て、日本人のように母語しか話さない国民は実は珍しいのですが、日本はそれが成り立ってしまう国です。よって、子供にとっての現実の日常生活において、英語を理解していなければ困るという状況に遭遇することがまずなく、単純に必要性を感じません。今ちゃんと英語の勉強をした方が将来的に役に立つと思うのは、あくまで大人の発想であり、小学3年生にはぴんと来ません。3つ目の問題点は、学習の動機付けに限界があることです。動機があまりないなか、英語教育をただ推し進めても、やはり効果は限定的でしょう。実はこの状況は、英語に限らず、すべての教科にも言えることです。それは、自分の行動は自分で決めるという個人主義化が進むなか、ただ教室に座って言われたとおりに周りと同じことをしさえすれば学習が進んだことにするという日本の従来の横並び(集団主義)的な教育のあり方です。これが時代遅れになってきているのです。ちなみに、この日本独特の授業スタイルは、「工場型一斉授業」として海外の教育学者から指摘されています2)。まさに、商品がベルトコンベヤーに並べられて自動的に作り込まれていくのと同じように、生徒たちが教室に並べられて有無を言わさずに一方的に知識を詰め込まれるイメージです。昭和の時代まではそれが可能だったようですが、令和の時代にはそぐわなくなってきています。次のページへ >>

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多くの人は受動喫煙に気が付いていない

 自分は副流煙(他人が吸っているタバコの燃焼部分から立ち上る煙)にさらされていないと思っている人の多くが、実際には副流煙にさらされている(受動喫煙)ことが、米国成人を対象に行われた新たな研究で明らかになった。血液検査では、調査対象者の半数以上が過去数日内に副流煙にさらされていたことが示されたにもかかわらず、大半はその自覚がなかったのだ。米フロリダ大学College of Public Health and Health ProfessionsのRuixuan Wang氏らによるこの研究の詳細は「Nicotine & Tobacco Research」に8月30日掲載された。 Wang氏は、「副流煙曝露に安全なレベルはなく、長期間の曝露は、冠動脈疾患や呼吸器疾患、がんなどの多くの慢性疾患のリスクを高める可能性がある。われわれは、人々が防御措置を講じることができるように、自分が副流煙に曝露していることに気付いてほしいと思っている」と同大学のニュースリリースで述べている。 今回の研究では、2013年から2020年にかけての米国国民健康栄養調査(NHANES)への参加者から抽出した非喫煙者1万3,503人のデータが分析された。参加者のうち、あらゆるタバコ製品への曝露(ニコチン曝露)はないと報告したが、血清中のコチニン(ニコチンの体内での代謝産物)が検出可能な値(>0.015ng/mL)であった場合を「ニコチン曝露の過小報告」と見なし、これに関連する社会人口統計学的因子や慢性疾患について検討した。 その結果、参加者の22.0%がニコチン曝露のあったことを自己報告し、51.2%で血清コチニンレベルからニコチン曝露が確認され、34.6%がニコチン曝露を過小報告していたことが明らかになった。血清中のコチニンが検出可能レベルだった参加者に占める過小報告者の割合は67.6%に上った。男性、非ヒスパニック系の黒人、その他の人種(アジア系米国人、ネイティブ・アメリカン、太平洋諸島系米国人)、心血管疾患のない人は、ニコチン曝露を過小報告する傾向が強かった。血清コチニンレベルの中央値は、ニコチン曝露を自己報告した人で0.107ng/mLであったのに対し、ニコチン曝露を過小報告した人で0.035ng/mLだった。 Wang氏は、「この研究結果は、ニコチン曝露リスクのあるグループに的を絞った介入の考案に役立つと思われる」と話す。 なぜ、参加者の多くがニコチンに曝露していることに気が付かなかったのだろうか。その理由について、論文の上席著者であるフロリダ大学健康アウトカム・生物医学情報学分野のJennifer H. LeLaurin氏は、「低レベルの曝露であれば、気付かない可能性もある。公共の場で、周囲の誰かがタバコを吸っていることに気が付かなかったという状況は考えられる。あるいは、わずかな曝露であれば、忘れてしまう可能性もある」と分析する。同氏はさらに、「研究参加者の中には、スティグマに対する懸念から、自分が副流煙にさらされていることに気付いていたにもかかわらず、それを報告しなかった人がいる可能性もある」と述べている。 なお、研究グループによると、今回の結果を米国全土に当てはめると、およそ5600万人が、気付かないうちに有害な副流煙に日常的にさらされていると計算されたとのことだ。

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胎児が母体に残す細胞が母親の将来の妊娠を支える可能性

 妊娠中の母親の体内では、母体と胎児との間で細胞が交換され、双方の組織に互いの細胞がわずかに定着することが、近年の研究で示されている。この現象は、マイクロキメリズムと呼ばれる。マイクロキメリズムは、妊娠中の母親の免疫系が、本質的には異物である胎児を攻撃しないように調節する一因と見なされているが、その全体像はいまだ明らかになっていない。こうした中、米シンシナティ小児病院医療センターのSing Sing Way氏らによるマウスを用いた研究で、この現象が考えられている以上に長期にわたって影響を及ぼし、母体の次の妊娠の成功に寄与する可能性が示唆された。この研究の詳細は、「Science」に9月21日掲載された。 今回の結果は、実験用マウスを用いて得られたものであるが、Way氏は、「マウスで観察された母子間のマイクロキメリズムがヒトでも見られることを示した研究報告はある」と説明し、今回の結果がヒトにも該当する可能性があることを強調する。同氏はまた、「『母体が胎児を拒絶しないようにするにはどうすればよいのか』という生殖にまつわる課題を抱えているのは、マウスに限らずどの種も同じだ」と話す。 今回の研究では、二つの興味深い現象を結び付ける結果が得られた。一つは、少数の胎児の細胞が子宮を離れて母体のさまざまな組織に定着するマイクロキメリズムである(同様に、母親の細胞も胎児の中に移動して定着する)。しかし、そのようにして母体の組織に定着した胎児の細胞が、その後、どのような働きをするのかは完全には解明されていない。 もう一つの現象は、Way氏らが2012年に「Nature」に報告したもので、正常な妊娠を経験した後の母親の体内には、同じ両親による次の胎児を認識し、免疫系の反応を抑える役割を果たす保護的な(protective)T細胞が、その後何年にもわたって供給され続けることが示された。ただ、そのメカニズムは不明だった。例えば、感染症において免疫系がその力を発揮するには、メモリーT細胞が病原体に低レベルでさらされる必要のあることが多い。 それらに対する答えを示したのが、今回の研究だ。Way氏の説明によると、最初の妊娠で母親マウスの体内に移行したマウス胎児の細胞が、少数ながらも妊娠後の母体の心臓、肝臓、腸、子宮やその他の組織に定着し、それらが将来の同胞のために「友好的な」免疫環境を維持する役割を果たしていることが示されたという。同氏は、「きょうだい愛のように思うかもしれないが、見方によっては、自分の遺伝子を増殖させようとする、やや利己的だが自然な衝動でもある」と語る。 さらにこの研究では、新たに妊娠した母親マウスでは、母体に残っていた年長のきょうだいマウスの細胞が新たな胎児マウスの細胞に完全に置き換わってしまうものの、それぞれの妊娠から得られた有益なT細胞はわずかに残存し続け、次の妊娠時に活性化されることも示された。 Way氏は、「前回の妊娠が将来の妊娠アウトカムにどのように影響するのか、言い換えれば、母体が自分の子どもをどのように記憶しているのかを調べることにより、われわれの研究結果は妊娠の仕組みの理解に新たな広がりをもたらした」と話す。そして、「得られた知見は、人間の妊娠合併症に見られるパターンと一致する。合併症は初回の妊娠では起こりやすいが、正常妊娠を経験した人では次の妊娠で合併症が生じるリスクが低下する。これとは対照的に、妊娠高血圧腎症、早産、死産などの合併症に見舞われた人では、次の妊娠での合併症の発症リスクが平均より高くなる」と話す。 Way氏はさらに、この研究により、「もし母親の免疫系が健康な妊娠を"記憶"しているとすれば、合併症を起こすような妊娠の記憶も保持しているのだろうか」という重要な疑問が提起されたとの見方を示す。そして、「もしこの疑問が解明されれば、妊娠合併症の再発を予防する方法につながる可能性がある」と話している。

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有病率の高い欧州で小児1型糖尿病発症とコロナ感染の関連を調査(解説:栗原宏氏)

特徴・新規に出現したウイルスと自己抗体の関連を示した・追跡期間が長く、感染と自己抗体の発現の前後関係を区分できている・SARS-CoV-2抗体以外に、その他の呼吸器感染代表としてインフルエンザ抗体も調査・インフルエンザは著減しており、SARS-CoV-2の影響がメインと考えられる限界・対象は遺伝的ハイリスク群。かなり特殊で結果が一般化しづらい・日本国内での発症率は調査地域である欧州よりも格段に低い・因果関係が逆である可能性:自己抗体が発現する子供がコロナに感染しやすい? 本研究で対象となっている小児1型糖尿病は、発症率に人種差があり白人に非常に多い。欧州全般に発症者は多く、とくに多い北欧諸国、カナダ、イタリアのサルディニアでは年間約30/10万人と日本(1.4~2.2/10万人)に比して10倍以上の違いがある。1歳ごろに膵島細胞への自己抗体が発生するピークがあり、10年以内に臨床的な糖尿病を発症する。自己抗体の発生原因は不明ながら、呼吸器系ウイルス感染が関与している可能性があるとされている。 本研究はPrimary Oral Insulin Trial(POINT)のデータが使用されている。2018年2月~2021年3月のCOVID-19拡大前からパンデミック期にかけて、欧州5ヵ国の複数施設で、遺伝的に1型糖尿病リスクが高い乳児(4~7ヵ月)1,050人を対象として、SARS-CoV-2感染と膵島自己抗体の発現の時間的関係を明らかにするために実施されたコホート研究である。このうち、実際に対象となったのは885人である。 本研究は、SARS-CoV-2という新規に出現した疾患と自己抗体の出現との関連を自己抗体発現の可能性が高い乳児を対象として調査した点が特徴である。性別、年齢、国に調整後のSARS-CoV-2抗体陽性例における膵島自己抗体陽性のハザード比は3.5(95%信頼区間[CI]:1.6~7.7、P=0.002)となっており、遺伝子的ハイリスク群ではSARS-CoV-2感染はリスク因子であることが示されたことは意義が大きいと思われる。 SARS-CoV-2抗体出現後に自己抗体が発現する割合が有意に高いことが示された。一方、他のウイルス感染評価目的に実施されたインフルエンザA(H1N1)抗体では自己抗体発現はなかった。少なくともこの対象群においては、呼吸器系ウイルス全般で自己抗体が出現するわけではないことが示唆された。 自己抗体の出現がすぐさま臨床的1型糖尿病発症を意味するわけではない点には留意が必要である。SARS-CoV-2感染と膵島自己抗体出現には関連があるが、感染後の短期間での急激な糖尿病発症率の増加には影響しない可能性が高い。将来的な1型糖尿病発症率については当該地域でフォローが必要である。 前述のとおり、小児1型糖尿病は遺伝子的な問題で人種差が大きい。本研究はその中でもさらに遺伝子的なハイリスク群を対象としており、その結果は広く一般化できるものではない。日本国内では比較的まれな疾患であり、SARS-CoV-2感染の影響は非常に小さいと推測されるが、否定しうるものでもない。今後の本邦での小児1型糖尿病の発症率の推移をみていく必要がある。

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鎮咳薬や去痰薬がひっ迫、国が節度ある処方・在庫確保を求める【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第119回

医薬品の流通不安や在庫不足がこんなに長く大変なものになるとは思ってもみませんでした。とくに鎮咳薬や去痰薬の品薄状態は顕著で、もう薬局の努力だけではどうにもならない状態まできています。その流通問題に関して、厚生労働省が9月29日に通知を発出しました。内容としては、鎮咳薬や去痰薬が安定的に供給されるまでの間、以下3点を各所にお願いする内容になっています。1.鎮咳薬(咳止め)・去痰薬については、初期からの長期での処方を控えていただき、医師が必要と判断した患者へ最小日数での処方に努めていただきたいこと。また、その際に残薬の有効活用についても併せて御検討いただきたいこと。2.薬局におかれては、処方された鎮咳薬(咳止め)・去痰薬について、自らの店舗だけでは供給が困難な場合であっても、系列店舗や地域における連携により可能な限り調整をしていただきたいこと。3.鎮咳薬(咳止め)・去痰薬について、必要な患者に広く行き渡るよう、過剰な発注は控えていただき、当面の必要量に見合う量のみの購入をお願いしたいこと。医師や薬剤師などに対して、過剰な処方や在庫確保、発注は控えるようにという通知です。この通知で節度ある処方や在庫確保となり、この混乱が少しでも落ち着けばよいのですが、そんなに甘くもないだろうなとも思います。今回の通知の前提として、「新型コロナウイルス感染症やインフルエンザなどの感染症の拡大に伴い鎮咳薬(咳止め)・去痰薬の需要が増加しており、製造販売業者からの限定出荷が生じている」と記されています。また、その具体的な数字も出されていて、「主要な鎮咳薬(咳止め)の供給量については、新型コロナウイルス感染症の流行以前の約85%まで生産量が低下しており、また主要な去痰薬の供給量については、新型コロナウイルス感染症の流行以前と同程度ではあるものの、メーカー在庫が減少している状況」とあります。え? ちょっと待って、と思いませんか? 今回のお願いの前提となっている「生産量がコロナ禍の前より減少している」という点に少し驚きました。需要が増えているから不足しているとばかり思っていましたが、生産量自体が減っているというのはちょっと意外です。今回の医薬品の流通問題は、先発医薬品も後発医薬品も含む薬価制度などの医薬産業の構造の問題である可能性もあります。その場合、今回の通知で節度ある行動がとられたとしてもその生産量は増えないと思われ、薬価の変更や薬価制度の見直しなどの抜本的な対応がとられない限り、残念ながらこの供給不足は解決しないだろうと想像します。また一方で、後発医薬品については、後発品調剤体制加算や後発品使用体制加算などに関する臨時的な取り扱いを延長するという通知「後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて」が発出されました。実績要件である後発医薬品の使用(調剤)割合を算出する際に算出対象から除外しても差し支えない、とするものです。今回の延長は前回と同様ですが、後発医薬品の供給停止や出荷調整が続いており、代替の後発品の入手が困難な状況となっていることを踏まえたものであるとされています。この後発医薬品の供給停止や出荷調整が始まって2年以上が経過し、この通知の延長は今回で3回目です。10月1日以降に除外対象となる医薬品は、2023年6月1日時点で医政局医薬産業振興・医療情報企画課に供給停止に関する報告があった85成分980品目で、今回示した供給停止品目と同一成分・同一投与形態の医薬品を除外しても差し支えないとしています。また、これまでと同様に、一部の成分の品目のみの除外は認められないこと、1ヵ月ごとに適用できること、加算などの施設基準を直近3ヵ月の新指標の割合の平均を用いる場合は当該3ヵ月にこの取り扱いを行う月と行わない月が混在しても差し支えない、などの注意点がありますので注意が必要です。加算算出方法の臨時的な取り扱いの延長などは助かりますが、やはり一番に望むことは適切な量の医薬品が安定的に流通することです。医薬品の流通問題については各所で議論されていますが、抜本的かつ効果的な対策が早急にとられることを切に願います。

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臨床実習のスケジューリングで困っています【医学生お悩み相談ラヂオ】第12回

動画解説第12回は、医学部5年生の女性からのお悩み。臨床実習のスケジュールが見えにくく、時間を有効活用できずに困っているとのこと。民谷先生はこのお悩みに対して、指導する先生方にも事情があり、ただ不平不満を述べることは生産的ではないと説きます。そのうえで提案する解決とは?

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運動誘発性ホルモンがアルツハイマー病の抑制に有望か

 運動中に分泌されるホルモンを用いた治療法が、アルツハイマー病(AD)に対する次の最先端治療となるかもしれない。運動により骨格筋から分泌されるイリシン(irisin)が、ADの特徴であるアミロイドβの蓄積を減少させる可能性が、米マサチューセッツ総合病院(MGH)Genetics and Aging Research UnitのSe Hoon Choi氏らの研究で示唆された。この研究の詳細は、「Neuron」に9月8日掲載された。 運動がアミロイドβの蓄積を減少させることは、ADモデルマウスを用いた研究によりすでに示されていたが、そのメカニズムは不明だった。運動をすると、骨格筋からのイリシン分泌が促されて、その血中濃度が上昇する。イリシンには脂肪組織中の糖と脂質の代謝を調節し、また、白質脂肪組織の褐色脂肪化を促すことでエネルギー消費量を増大させる働きがあると考えられている。過去の研究で、イリシンはヒトやマウスの脳に存在するが、AD患者やADモデルマウスではそのレベルが低下していることが報告されている。 Choi氏らは以前の研究で、ADの3次元細胞培養モデルを開発し、ADの主要な特徴であるアミロイドβの蓄積とタウタンパク質のもつれを再現させることに成功していた。今回の研究では、この3次元細胞培養モデルを用いて、イリシンが脳内のアミロイドβの蓄積に及ぼす影響について検討した。 その結果、イリシンを投与することで、脳のグリア細胞であるアストロサイトから分泌されるアミロイドβ分解酵素のネプリライシンのレベルと活性化が上昇し、これによりアミロイドβレベルが著しく低下することが明らかになった。過去の研究では、運動やアミロイドβの減少につながるその他の条件にさらされたADモデルマウスの脳では、ネプリライシンのレベルが上昇することが確認されている。 イリシンがアミロイドβレベルを低下させる、より詳細なメカニズムも明らかになった。例えば、インテグリンαVβ5という受容体を介したイリシンのアストロサイトへの結合が引き金となって、アストロサイトからのネプリライシンの分泌量が増えることが確認された。さらに、イリシンがこの受容体と結合することで、重要な2つのタンパク質〔ERK(細胞外シグナル制御キナーゼ)、STAT3(シグナル伝達兼転写活性化因子3)〕に関わるシグナル伝達経路が阻害されることも示され、これがネプリライシンの活性化を増強させる上で重要なことが示唆された。 マウスを用いた過去の研究では、血流に注入されたイリシンが脳内に到達することが示されている。このことは、イリシンが治療薬として有用となる可能性のあることを意味する。論文の責任著者であり、Genetics and Aging Research UnitのディレクターであるRudolph Tanzi氏は、「われわれが得た結果は、運動により誘発されたイリシンの分泌が主要なメディエーターとなってネプリライシンレベルが上昇し、アミロイドβの蓄積が減少することを示すものだ。この結果は、ADの予防法や治療法の開発において、イリシンとネプリライシンに関わる経路が新たなターゲットとなり得ることを示唆している」と述べている。

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第66回 カットオフ値とは?【統計のそこが知りたい!】

第66回 カットオフ値とは?カットオフ値(Cutoff value)とは、定量データを区切るために用いる基準の値のことです。医療分野に絞っていえば、ある検査の陽性、陰性を分ける値のことで、「病態識別値」とも呼ばれています。検査結果によって、特定の疾患に罹患した患者と罹患していない患者を分ける境界値のことです。いくつかの事例で解説します。(1)肥満を判定するBMIのカットオフ値は30以上である。(2)大腸がんをスクリーニングする便潜血検査のカットオフ値は、約120ng/mLである。(3)日本動脈硬化学会では、LDLコレステロール値が140mg/dL以上である場合、HDLコレステロール値が40mg/dL未満である場合に脂質異常症を疑うこととしている。たとえば、(1)の肥満は健康に重大な悪影響を及ぼします。肥満指数(BMI)は体重(kg)を身長(m)の2乗で割って算出され、測定・計算が簡単で、肥満・痩せの指標として広く使われており、その水準が健康リスクや死亡率と深く関係していることが海外の多くの研究で報告されています。WHOでは国際的な基準(カットオフ値)として、BMIは25以上を過体重、30以上を肥満としています。BMI(kg/m2)=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)■真陽性、偽陽性、偽陰性、真陰性とは過体重であるかのカットオフ値は25ですが、ある生活習慣病をスクリーニングするBMIのカットオフ値は25とは限りません。そこで、ある生活習慣病のBMIのカットオフ値を算出するために、病院に来院した患者20人にこの検査をしました。表1~3にその結果をまとめます。画像を拡大する表1:BMIの検査結果およびある生活習慣病の疾病の有無(陽性、陰性)を調べたデータです。表2:表1のデータを陽性・陰性別にBMIを降順で並べ替えました。表3:表2のデータについて、陽性・陰性別BMI数値別に患者人数を集計したものです。このデータにおけるカットオフ値を求めることが課題ですが、とりあえず、カットオフ値を27とします。そこで表4にBMI27以上、27未満別の陽性・陰性別の患者人数を集計しました。表4 カットオフ値27以上とした場合の陽性・陰性別の人数表4の4つのセルの値は、表5に示す名前が付けられています。表5 真陽性、偽陽性、偽陰性、真陰性の定義真陽性(A)実際に疾患がある人が陽性と判断されること偽陽性(B)実際には疾患がない人が陽性と判断されること偽陰性(C)実際に疾患がある人が陰性と判断されること真陰性(D)実際には疾患がない人が陰性と判断されること■感度、特異度とは理想的なカットオフ値とは、検査陽性者(BMI検査で陽性と判定された患者)は皆疾患(疾病有無で陽性の患者)があり、検査陰性者は皆疾患がないと判定できる検査です。しかし、現実的にはどのようなカットオフ値を設定しても、疾患があるが陰性と判定(偽陰性)、疾患がないが陽性と判定(偽陽性)される患者が出現します。したがって、適正なカットオフ値は、偽陰性および偽陽性と判定される患者が少なくなるように定められる検査です。裏返せば真陽性および真陰性と判定される患者が多くなるカットオフ値が適正だということです。先ほどの表4における真陽性は3人、真陰性は13人です。真陽性が多いかの判断は、「疾患がある患者のうち検査陽性者がどれほどいるかの割合(真陽性者÷疾病有無陽性者)」で調べることができます。求められた値を「感度」と言います。表5の単語名を使って感度を求める式を示します。表4について感度を求めると、3÷(3+3)=0.5(50%)です。真陰性が多いかの判断は、「疾患がない患者のうち検査陰性者がどれほどいるかの割合(真陰性者÷疾病有無陰性者)」で調べることができます。求められた値を「特異度」と言います。表5の単語名を使って特異度を求める式を示します。表4について特異度を求めると、13÷(13+1)=0.929(92.9%)です。感度、特異度の両方が大きければ、設定したカットオフ値は良いといえます。このケースでは、特異度(92.9%)は大きいですが、感度(50%)は大きいといえません。そのため27以上に設定したカットオフ値は適正とはいえません。カットオフ値を26以上として、表3のデータについて、陽性・陰性別の患者人数を表6に集計しました。表6 カットオフ値を26以上とした場合の陽性・陰性別人数表6について感度と特異度を求めます。感度、特異度の両方が大きいので、設定したカットオフ値26以上は適正といえそうです。カットオフ値27以上と26以上について検討しましたが、その他のカットオフ値すべてについて感度、特異度を求め、どのカットオフ値が適正かを調べなければなりません。表7にその結果を示します。表7 感度、特異度感度、特異度どちらも高いのはBMI26以上で、この生活習慣病の疾病の有無を判定するBMIのカットオフ値は26以上であるといえます。カットオフ値を算出するための方法として、今まで述べてきた「感度・特異度最小値法」以外にも別の方法があります。次回はカットオフ値を算出するための他の方法を紹介します。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問18 ロジスティック回帰分析とは?質問21 ロジスティック回帰分析の説明変数の選び方は?質問22 ロジスティック回帰分析の事例特別編 カットオフ値とROC解析

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事例033 ミグシス錠の査定【斬らレセプト シーズン3】

解説事例では、片頭痛を訴える患者に処方したロメリジン(商品名:ミグシス)錠(以下「ミグシス」)がD事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)にて査定となりました。傷病名も用量も添付文書に記載された範囲内であり、再度、添付文書をみてみました。投薬禁忌に、「頭蓋内出血又はその疑いのある患者」とあります。病名には1年前の開始日にて「脳出血」が記載されています。その他のコメントなどの記載はありません。したがって、投与禁忌病名が存在するため算定要件に合致しないとして、コンピュータ審査により査定となったものと推測できます。医師にこの旨を伝えて尋ねると、「レセプトチェックシステムで指摘はあったが、脳出血再発の兆候はなく開始日も1年前であり特段の治療も行われていない、そのままで良いものとして提出に回した」と返答を頂きました。現在治療中の保険診療に対して直接に係わらない病名は、無用の査定を招くために速やかに転記して整理をいただくか、「脳出血再発の兆候が無いためミグシス錠を投与」などと医学的に必要としたコメントを頂けるようにお願いしました。このように、医学上では適切であっても保険診療では不適切とされる事例は、多々あります。こうした査定を防ぐためには、レセプトチェックシステムにて明らかに保険診療の範囲を超えると指摘があった場合には、必ず修正もしくはコメントをいただけるように重ねて医師にお願いしました。

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趣味がうつ病の予防に役立つ可能性

 趣味を持つこと、例えば編み針や絵筆を手に取ったり、あるいは好きな小説を読んだりすることは、高齢者の抑うつ症状の軽減につながるという研究結果が発表された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)疫学・ヘルスケア研究所のHei Wan Mak氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に9月11日掲載された。 この研究は、米国、日本、中国、英国、その他のヨーロッパ諸国(オーストリア、ベルギー、チェコ、デンマーク、エストニア、フランス、ドイツ、イタリア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス)の計16カ国に及ぶ5件の研究データを用いて、65歳以上の高齢者9万3,263人(各国対象者の平均年齢71.7〜75.9歳)を対象に行われた。趣味は、「余暇に楽しみとして取り組む活動」と定義され、ガーデニング、ゲーム、美術工芸、ボランティア活動、読書、サークル活動など、多岐にわたるものが含まれた。 4年から8年にわたるデータを分析した結果、趣味を持つことは、抑うつ症状の軽減、主観的な健康感、幸福感、生活満足度の増加に関連していることが明らかになった。この結果は、パートナーや配偶者との同居の有無、仕事の有無、世帯収入などの他の要因を調整しても変わらなかった。 Mak氏は、「4つの結果のうち、趣味と最も強い関連を示したのは生活満足度だった。趣味には、自分の心と体をコントロールできていると感じたり、生きがいを見つけたり、日々の問題に取り組む能力があると感じたりするなど、多くの働きがある。これらの働きにより、後年の生活満足度が向上するのかもしれない」と同大学のニュースリリースで述べている。 研究グループによると、この研究は観察研究であるため、因果関係を証明することはできないが、趣味と幸福の間に関連がある可能性を示唆しているという。Mak氏はさらに、「趣味とウェルビーイングの関係は双方向であり、精神的に健康な人ほど趣味を持つ傾向があり、趣味を続けることで生活満足度が向上する可能性がある」と話す。 趣味を持つ人の割合は国によって大きく異なり、スペインでは51.0%だったのに対し、デンマークでは96.0%、スウェーデンでは95.8%、スイスでは94.4%だった。割合が最も低かったのは中国で、37.6%だった(ただし、中国では社会的な趣味についてのみ調査され、一般的な趣味については調査されていない)。また、平均余命や国民の幸福度が高い国では、趣味を持つ人の割合が高く、趣味を持つこととウェルビーイングとの関連も、これらの国でより強かった。 Mak氏は、「われわれの研究結果が示しているのは、加齢によって精神的な健康やウェルビーイングが低下するのを、趣味を持つことで防げるという可能性だ。この可能性は、多くの国や文化的環境で一貫して認められた」と述べている。さらにこの研究は、「高齢者のウェルビーイングと健康増進の方法として、趣味へのアクセスを促進する政策立案者を支援するものでもある」と付け加えている。

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