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Vol. 1 No. 1 緒言

森野 禎浩 氏岩手医科大学内科学講座循環器内科分野本邦における急性冠症候群(acute coronarysyndrome: ACS)の治療実態を客観視する機会が訪れた。冠動脈インターベンション(percutaneous coronaryintervention:PCI)は国内で急速に普及したが、大都市にとどまらず、比較的中小の都市に点在する基幹病院でもprimary PCI(ACSの再潅流療法)を行うことができるのが日本の最大の特徴だ。欧米と異なり、年間PCI症例数300例に満たない小規模施設が散在するため、人的リソースが分散しがちで、スタッフ1人にかかる負担が増すばかりか、教育効率低下の恐れもある。一方、各地域に治療可能施設が分散することは、時間との闘いであるACS治療には潜在的なメリットも多い。ACS患者が来院すれば、主に若い専門医が昼夜を問わず集まり、心臓カテーテルで診断・血行再建を行うことが日本型診療の通例となっている。その代償として、現場スタッフはオンコール体制に縛られ街から外に出ることすら制約を受け、朝まで緊急カテをしてもそのまま午前の定時仕事に就くというのが通常で、それに見合う十分な報酬体制も整っていない。要するに、PCI 施行医やコメディカルの自己犠牲のもとに日本の急性期循環器医療は成り立ってきた。 日本のACSの治療実態を把握するため、約100施設で、連続症例登録を基本とした前向きレジストリー(PACIFIC試験)が行われ、その結果が最近公表された。同様の大規模国際レジストリー(GRACE試験:施行時期が異なるが大勢に大きな差はないはずである)と比較し、諸外国に比べて日本のACS治療体制がいかに特殊なのか、いかに好成績を収めているのか容易に理解できる。日本の代表的施設では94%ものACS患者が緊急PCIを受けているのに対し、欧米を含む諸外国においてはカテーテル検査ですら56%、PCIとなると全体の33%にしか行われていない。この著しい治療スタイルの違いが、ACS患者の院内死亡率に大差をつけた最大の誘因と考察されている。こうした事実を実感していないであろう日本の多くの現場スタッフに、日本型ACS医療の素晴らしさをできるだけ速く伝達しなければならないと考えていた。幸いなことに、新しく発刊されるCardioVascular Contemporary誌にこの分野の特集をしていただけることになり、さらに同試験を企画・指導した宮内先生ご自身に、PACIFIC試験に見る日本のACS治療の実態について詳説いただけることとなった。 ACSの急性期治療の大原則は、一刻も早い再潅流療法である。それに付随して、アスピリンとクロピドグレルのローディング投与のように、万国共通の確立された薬物療法が基礎を占める。しかしながら、ACS治療の具体的工夫となると、日本が牽引する分野が少なくない。primary PCIは大量の血栓を末梢に飛ばさないよう処理する必要があるが、血栓吸引や末梢塞栓防止の保護フィルターの臨床応用は、日本で盛んに進められてきた。また、ニコランジルやhANPといった薬剤の心筋保護作用を証明するために臨床試験も精力的に仕掛けられてきた。恐らく、生命予後のみならず、「心筋壊死量を少しでも少なくする」ことを目的に、これだけ精緻に、かつ二重・三重の追加療法を具体的に実践してきた国もないだろう。日本の良好なACS治療成績は、PCIの施行体制のみならず、このようなさまざまな集学的アプローチの複合結果だと思われる。こうしたACS治療の最新コンセンサスについては石井先生に明快にまとめていただいた。 救命し得たACS発症患者の外来管理のゴールは、血管イベントの2次予防であり、本質的にはそこまでACS治療と呼ぶべきである。彼らは安定狭心症の血行再建後の患者に比べても、血管イベントの再発率が高いことが知られ、より積極的な薬物治療介入が求められる。日本の動脈硬化性疾患の特徴として、脳血管障害の比率が高いことがREACHレジストリーで指摘されたが、薬物溶出性ステントによるPCI後の患者においても、脳血管障害の発生頻度が冠動脈イベントより高いことがj-Cypherレジストリーで明らかとなった。アテローム血栓症(ATIS)という疾患概念が提唱され随分経つが、脳血管合併症をかなり意識した薬物療法が日本の循環器内科医には必要である。ACS発症後の2次予防治療として、抗血小板薬やスタチンを中心とした積極的薬物介入の必要性やその他動脈硬化因子の改善が必要であることは周知の事実だが、この分野を画像診断に造詣の深い大倉先生にまとめていただけることとなった。 ACS、特にST上昇型心筋梗塞(STEMI)の場合、発症から閉塞血管の疎通にかかる時間が予後を左右する。そのため、「door-to-balloon時間(来院からバルーンなどによって血行の再疎通を果たせるまでの時間)を90分以内にしよう」ということが国際的スローガンとなってきた。筆者は最近岩手県に転勤したが、STEMI患者のpeak CPK値が、今まで経験した患者群より明らかに高いと実感している。これは広い医療圏ゆえの搬送問題、我慢強い患者さんの気質など、種々の時間的ハンディキャップに基づいていると考察できる。管轄地域のACSの医療体制構築が自身の最大のテーマであり、実現のためには1人でも多くのPCI施行医を育成するとともに、primary PCI施設の効率的再配置、患者啓蒙活動、初診医との連携強化など、時間短縮を目指したトータルな医療設計が不可欠である。地方の内科医数の減少に歯止めがかからないなか、過酷な診療実態から特に循環器内科医になることが敬遠される傾向にある昨今だ。今回の特集で、日本型ACS治療体制がどうやら世界に誇れる素晴らしいものであることがわかってきたが、現場スタッフの献身的努力に極度に依存する体質など、課題も山積みである。本来、循環器医療は非常にやり甲斐があり、おもしろく、若い医師の人気が集まる分野のはずである。今こそ、急性期循環器診療体制のグランドデザインを、行政も交えて皆で熟考していく必要があるのではないか?そんなことばかり考えて、初めての北国の冬を過ごしている。

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統合失調症、双極性障害の急性期治療に期待!アリピプラゾール筋注製剤

 非定型抗精神病薬であるアリピプラゾール(商品名:エビリファイ)は、統合失調症患者や双極性障害患者に対し広く用いられている。海外では筋注製剤も承認されており、急性期治療における有用な選択肢として期待されている。イタリア・サピエンツァ大学のSergio De Filippis氏らは、統合失調症または双極性障害の急性期治療として、アリピプラゾール筋注の有用性をオープランラベル試験により検証した。Pharmacotherapy誌オンライン版2013年3月15日号の掲載報告。 研究グループは、統合失調症または双極性障害で急性の興奮状態にある患者について、非定型抗精神病薬アリピプラゾール9.75mgの筋肉注射の有効性と安全性を評価した。試験は、一大学の精神科病棟で行われ、筋注後の治療反応を評価した。評価は、初回筋注後30、60、90、120分および24時間後にPANSS陽性・陰性症状評価尺度(Positive and Negative Syndrome Scale)の興奮項目(PANSS-EC)と興奮/鎮静評価尺度(Agitation/Calmness Evaluation Scale:ACES)にて、また2、4、6、24時間後に臨床全般印象度(Clinical Global Impressions scale:CGI)にて行われた。また、サブサンプルにおいて血中アリピプラゾール値とデヒドロアリピプラゾール値を測定した。 主な結果は以下のとおり。・201例(統合失調症79例、双極性障害122例)を対象とした。・PANSS-ECのスコアは、40%以上減少した。・アリピプラゾール筋注は、臨床指標を有意に改善した。・PANSS-ECの改善は、30分後から始まり進行していった。・ACESの改善は90分後で、その後は維持された。・CGIスコアの減少は絶え間なく着実に24時間後まで続いた。・治療反応率は2時間後時点で83.6%であった。再投与後は、統合失調症群、双極性障害群とも90%超まで上昇した。・PANSS-ECの個別指標別にみた場合に、治療反応に性差が認められる項目もあったが、全体的には同程度であった。・臨床モニタリングにおいて、副作用の報告をした患者は皆無であった。ただし、あらゆる副作用が報告されなかったのは、観察期間が短かったことと関連している可能性がある。・治療領域は特定されなかった。また、治療レベルはいずれの臨床指標とも関連していなかった。・本研究結果は、二重盲検試験に十分に匹敵するもので、おそらくプラセボを対照と していない試験においてより高値が期待できる。関連医療ニュース ・アリピプラゾール筋注に関するコンセンサス・ステートメント(英国) ・抗精神病薬投与前に予後予測は可能か? ・アリピプラゾールvsその他の非定型抗精神病薬:システマティックレビュー

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ECTが適応となる統合失調症患者は?

 電気けいれん療法(ECT)は双極性障害や大うつ病などの気分障害の治療において有効な手段のひとつである。また、統合失調症の緊張型、重症なうつ病、躁病、その他の感情障害に対して有効な治療法でもある。イタリア、ラ・サピエンツァ大学のMaurizio Pompili氏らは統合失調症患者に対するECTの短期的および長期的な効果や薬物療法との比較を行い、ECT適応患者を明らかにしようと試みた。Schizophrenia research誌オンライン版2013年3月14日号の報告。 ECTが施行された統合失調症患者に関する文献より系統的レビューを行った。ピアレビュー誌より31報が同定され、最も関連性の高い報告が本レビューのために使用された。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者に対するECT使用の最も一般的な適応は、薬物療法の強化であった。また、適応患者の随伴症状は、緊張病症状、攻撃性、自殺企図の順で多かった。・緊張型の患者では、統合失調症の他のサブタイプをもつ患者と比較し、ECTへの反応が有意に優れていた。・薬物療法とECTの併用は、薬物療法耐性患者に対し有用である可能性がある。・従来の薬物療法耐性患者に対し、ECTとリスペリドン、またはECTとクロザピンの併用が最も効果的であった。・薬物療法耐性を示す緊張型、攻撃性、自殺企図を有する統合失調症患者に対し、急速な改善が必要な場合にECTと抗精神病薬との併用療法が推奨される。■関連記事難治性の強迫性障害治療「アリピプラゾール併用療法」難治性双極性障害患者への併用療法は?難治性うつ病に対するアプローチ「SSRI+非定型抗精神病薬」

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退院時診断に基づくERの軽症患者の受診抑制策は効果的なのか?/JAMA

 米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のMaria C. Raven氏らは、非緊急の救急部門(ER)受診を退院時診断で特定できるのか、主訴と退院時診断を比較する検討を行った。米国では増大する医療費削減策として、ERのいわゆる軽症患者の受診を抑制するため、非緊急ER受診が退院診断と関連しているような場合は医療費支払いを拒否または制限するというメディケア施策が、複数の州で制定・実行または検討されているという。本施策については効果的とする一方、たとえば高齢の糖尿病患者で胸痛を訴えた後の逆流性食道炎が退院時診断であったような場合や、医療費支払いの制限を心配した過度の受診抑制が起きるのではないかという懸念も示されている。JAMA誌2013年3月20日号掲載の報告より。退院時診断と主訴を調べ、非緊急ER受診者の主訴等の一致を検証 研究グループは、ER受診時の主訴および診断が、ER受診抑制策での原則としている退院時診断と緊密に一致しているかを検証した。非緊急ER受診者の特定には、ニューヨーク医科大学のERアルゴリズムを共通の指標として用い、同アルゴリズムを2009 NHAMCS(全米病院外来調査)のデータからER受診者のデータを入手して適用し、“プライマリ・ケアで治療可能”であった人を特定した。また、ER受診者を退院時診断で階層化し、その主訴の特定も行った。それらの主訴と非緊急ER受診者との一致を調べ、各主訴群のER経過コース、最終的な状態の傾向、退室時診断を調べた。 主要評価項目は、各患者の人口動態学的特性と臨床的な特色、および非緊急ER訪問と関連した主訴の傾向とした。事前に非緊急と判定された人のうち、1割強は実際には緊急治療を実施 2009 NHAMCSのER受診記録数は、3万4,942件であった。そのうち、退院時診断(および当検討に用いた修正アルゴリズム)に基づきプライマリ・ケアで治療可能と判定されたのは、6.3%(95%CI:5.8~6.7)であった。 しかしながら、それらのうちER受診時の主訴と退院時診断の主訴が同じであったと報告した人は、88.7%(同:88.1~89.4)であった。 また、11.1%(同:9.3~13.0)の人が、ERでのトリアージで即時または緊急治療が必要と特定され、12.5%(同:11.8~14.3)の人が入院が必要であり、そして3.4%(同:2.5~4.3)の人がERから手術室へ即時搬送された。 著者は、「退院時診断においてプライマリ・ケアで治療可能と判断されていた人のうち主訴がER受診時と同じであった人では、相当数が即時の緊急治療や入院を必要とした。主訴とER退室時診断の不一致は、退院時診断が非緊急ER受診者を正確には特定できないことを示す」と結論している。

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p53と乳がんのサブタイプ、化学療法への反応 ザンクト・ガレン乳癌カンファレンス2013 会員レポート

 2013年3月13日から16日までスイス ザンクト・ガレンにて第13回ザンクト・ガレン乳癌カンファレンス2013が開催された。この重要な会議における、実用的な情報をニュートラルに提供するため、ケアネットでは会員現役ドクターによる聴講レポートを企画。現在そして今後の乳がん診療トレンドを本日から紹介する。レポートより一部抜粋 p53と乳がんのサブタイプ、化学療法への反応に関する考察 Dumayら(2013年)は乳がんのサブタイプ別に検討し、p53変異はluminal A 17%,luminal B 41%,HER2+ 50%,molecular apocrine 69%,basal-like 88%であった。 従来は、p53のwild typeではDNA損傷があるとアポトーシスが起こるため治療効果が高く、p53変異があるとアポトーシスを起こさないため、治療への反応が悪いと考えられてきた。しかしER陽性乳がんでは、しばしばp53 wild typeであるが、p53変異が高頻度であるER陰性乳がんと比べて化学療法への反応性が不良である。p53と化学療法への反応を考えるとき、乳がんのサブタイプ、治療の目的、化学療法のレジメン、そしてp53評価の方法を考慮する必要がある。進行性または炎症性乳がんにおけるdose-dense ACの効果とp53の状況をみたとき、p53 wild typeではpCRが0であったのに対し、p53変異があったものでは15/28でpCRがみられた。予後もp53変異のあったもので良好であったが、タキサンベースでは予後に差がなかった......その他にも第一弾として・経過観察中に再発を発見するための検査:患者の安心のため?それとも医学的必要性?・浸潤前および浸潤性乳がんの補助療法におけるゲノミクスの影響・ゲノムから臨床へ:我々は翻訳によって混乱するかを配信中詳しくはこちらザンクト・ガレン乳癌カンファレンス2013 会員聴講レポート

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75歳以上高齢者に対するCABG、off-pumpとon-pumpに有意差なし/NEJM

 75歳以上の高齢者に焦点をあてoff-pump冠動脈バイパス術(CABG)のベネフィットについて検討した、ドイツ・ヘルツ&ゲファスクリニックのAnno Diegeler氏らによる無作為化試験「GOPCABE」の結果が発表された。on-pump CABGと比べて、30日時点、12ヵ月時点ともに死亡や脳卒中など複合アウトカムに関する有意差は認められなかったという。off-pump CABGについてはその有用性はなお議論の的である。これまで低リスク患者や異なるリスク背景をもつ患者を対象とした試験は行われているが、高齢者については確認されておらず、Diegeler氏らは、高リスク患者におけるoff-pump CABGの有効性を明らかにできることを確信して本検討を行った。NEJM誌オンライン版2013年3月11日号の掲載報告より。死亡・脳卒中・心筋梗塞・再血行再建・新規腎代替療法の主要複合エンドポイントを評価 GOPCABE(German Off-Pump Coronary Artery Bypass Grafting in Elderly Patients)試験は、2008年6月5日~2011年9月9日の間にドイツ国内12ヵ所で、待機的初回CABGを受ける75歳以上の患者を登録して行われた。 4,355例がスクリーニングを受け、2,539例が無作為化を受け、off-pump群に1,271例、on-pump群に1,268例が割り付けられた。主要エンドポイントは、手術後30日時点と12ヵ月時点についての、死亡・脳卒中・心筋梗塞・再血行再建・新規腎代替療法の複合であった。 無作為化後に適格除外となり、割り付けられた手術を受け解析に組み込まれたのはoff-pump群1,187例、on-pump群1,207例であった。両群のベースラインでの患者特性はほぼ同等で、平均年齢は78歳、女性が約3割で、心筋梗塞既往は36.9%、左室駆出率≦50%は32.2%などであった。30日時点、12ヵ月時点ともに主要複合エンドポイントの有意差はみられず 結果、術後30日時点の主要複合エンドポイント発生は、off-pump群93例(7.8%)、on-pump群99例(8.2%)で、両群間に有意な差はみられなかった[オッズ比(OR):0.95、95%信頼区間(CI):0.71~1.28、p=0.74)。ただし5つの複合エンドポイントを個別にみると、再血行再建のみoff-pump群で有意に高い発生がみられた(同:2.42、1.03~5.72、p=0.04)。他の4つは有意差はみられなかった(各ORは0.80~0.92)。 12ヵ月時点についても主要複合エンドポイントの発生は、両群間で有意な差はみられなかった[154/1,179例(13.1%)対167/1,191例(14.0%)、ハザード比(HR):0.93、95%CI:0.76~1.16、p=0.48]。個別にみても、再血行再建のみoff-pump群の発生が高率だったが有意差は認められず(同:1.52、0.90~2.54、p=0.11)、その他4つのエンドポイントは有意差はみられなかった(各HRは0.79~0.90)。 同様の結果は、per-protocol解析(割り付け治療がクロスオーバーした被験者177例を除外)においてもみられた。

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収縮期心不全患者に対するESA製剤、臨床アウトカムを改善しない:RED-HF試験/NEJM

 軽症~中等度の貧血を有する慢性収縮期心不全患者について、ダルベポエチンアルファ(商品名:ネスプ)による治療は臨床アウトカムの改善には結びつかなかったことが、スウェーデン・イェーテボリ大学のKarl Swedberg氏らによる無作為化二重盲検試験「RED-HF」で示された。収縮期心不全患者において貧血はよくみられる症状で、腎機能やRAS阻害薬服用との関連が示されている。同患者では症状や運動耐容能の悪化や、入院、死亡などの転帰が貧血のない患者と比べて高率であり、先行研究においてESA製剤の腎性貧血治療薬ダルベポエチンアルファによる造血効果が運動耐容能の改善や貧血による入院を低下する可能性が示唆されていた。一方でESA製剤は、慢性腎臓病患者の心血管アウトカムは改善しないこと、ヘモグロビン高値を目標とする治療においてアテローム血栓性イベントのリスクを増大したといった試験報告もあった。NEJM誌オンライン版2013年3月10日号掲載報告より。2,278例をダルベポエチンアルファ群とプラセボ群に無作為化 RED-HF試験は、軽症~中等度の貧血(ヘモグロビン値:9.0~12.0g/dL)の慢性収縮期心不全患者2,278例を対象とした。被験者は2006年6月13日~2012年5月4日の間、33ヵ国453施設で、ダルベポエチンアルファによる治療を受ける群(ヘモグロビン達成目標値13g/dL;1,136例)とプラセボを受ける群(1,142例)に割り付けられ追跡された。ベースラインでの両群の患者特性は同等であり、平均年齢72.0歳、女性が41%、65%がNYHA心機能分類IIIまたはIV、左室駆出率中央値31%、eGFR値45.7mL/分/1.73m2であった。 主要アウトカムは、全死因死亡・心不全悪化による入院の複合であった。主要アウトカムに有意差なし、副次アウトカムも 本試験は、追跡期間中央値28ヵ月時点で終了となった。 主要アウトカムの発生は、ダルベポエチンアルファ群576/1,136例(50.7%)、プラセボ群565/1,142例(49.5%)であった[ハザード比(HR):1.01、95%信頼区間(CI):0.90~1.13、p=0.87]。 副次アウトカム(心血管系による死亡と心不全悪化による初回入院の複合:p=0.92、心血管系による死亡:p=0.56)や、その他アウトカムもすべて有意差はみられなかった。 致死的・非致死的脳卒中の発生は、ダルベポエチンアルファ群42例(3.7%)、プラセボ群は31例(2.7%)であった(p=0.23)。血栓塞栓性有害イベントの発生は、それぞれ153例(13.5%)、114例(10.0%)であった(p=0.01)。がん関連の有害事象発生についても、両群で同程度であった。 以上の結果を踏まえて著者は、「軽症~中等度の貧血を有する慢性収縮期心不全患者について、ダルベポエチンアルファによる治療を支持しない」と結論している。

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小児双極I型障害に対するアリピプラゾールの効果は?

 米国・ジョンズ・ホプキンス大学のRobert L. Findling氏らは、小児の双極I型障害に対するアリピプラゾール長期投与の有効性と安全性を検討する、30週間の無作為化プラセボ対照試験を行った。その結果、アリピプラゾール10mg/日群、30mg/日群ともプラセボ群に比べ優れた有効性を示し、忍容性も良好であることを報告した。Bipolar Disorders誌2013年3月15日号の掲載報告。 試験は、10~17歳の双極I型障害(躁症状または混合型症状)患者296例(精神障害の有無は問わない)を対象とした。4週間の急性期治療完了後、二重盲検期に移行し、26週間の治療を行った。主要アウトカムは、ヤング躁病評価尺度(Young Mania Rating Scale:YMRS)による総スコアの変化とした。 主な結果は以下のとおり。 ・26週間の延長試験に登録された210例のうち、試験を完了した者は32.4%であった(アリピプラゾール10mg/日群:45.3%、アリピプラゾール30mg/日群:31.0%、プラセボ群:18.8%)。試験完了率はいずれの群も低かった。・プロトコールで規定されていた最終観察日を評価に繰り込んだ解析において、アリピプラゾール10mg/日群、30mg/日群とも、プラセボ群に比べてYMRS総スコアの有意な改善が認められた(p<0.001)。しかし、30週時点におけるObserved case (OC)解析や混合モデル反復測定 (MMRM) 法による解析では同様の結果は得られなかった。・あらゆる原因による試験中止までの期間は、アリピプラゾール10mg/日群15.6週、アリピプラゾール30mg/日群9.5週、プラセボ群5.3週であった(アリピプラゾール両群のプラセボに対するp値はいずれもp<0.05)。・すべての解析で、アリピプラゾール10mg/日群、30mg/日群はプラセボ群に比べ、エンドポイントにおける奏効率、小児用包括的評価尺度(Global Assessment of Functioning)および臨床的全般改善度-双極性障害用(Clinical Global Impressions-Bipolar)による重症度、躁症状スコアにおいて有意に優れていた。・報告の多かった有害事象は、頭痛、眠気、錐体外路障害であった。・本検討では試験完了率がいずれの群も低かった点に留意が必要である。関連医療ニュース ・アリピプラゾールvsその他の非定型抗精神病薬:システマティックレビュー ・難治性双極性障害患者への併用療法は? ・アリピプラゾールが有用な双極性障害の患者像とは?

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(68)〕 慢性疾患の遠隔医療におけるテレシステムの優越性を示せず(英国)

慢性疾患に罹患した高齢者が増えているのはわが国ばかりでなく、欧州でも同じである。高齢者をできる限り在宅で自立して生活できるよう支援することが、医療経済の大きなテーマとなっている。欧州は遠隔医療に関して長い歴史を有するが、なかでもドイツや英国は、伝送システムやロボットシステムによる在宅管理に先進的に取り組んでいる。しかし、これらの遠隔医療が本当に患者の生活の質の改善や入院の抑制、医療経済の改善に役立っているのかどうかに関しては、確かな指標に乏しい。 本論文は、英国のWholeSystems Demonstrator (WSD)というプログラムを先行して実施し、慢性呼吸器疾患、糖尿病、心不全などを有している高齢者を、自宅のセンサーによって専門病院がモニタリングすることで、自立支援を促している。今回の研究はそのWSD評価チームによって行われた集団(nested)疫学研究で、伝送システムを用いたことによるQOLや自立などの12ヵ月間における変化を、開業医による通常ケアと比較した成績である。 その結果は、電送システムによる介入は、通常ケアとの間にQOLや精神的自立において有意差を見いだせなかったという結論である。しかし、質問表への回答を拒んだ症例も多く、limitationを含んだ結果であることから、今後電送システム自体の改良も含めて改善することで、その成果は上がると思われる。 英国の通常ケアとは、患者が直接専門病院を受診することはなく、まずかかりつけ医の開業医が診察して、その病態によって病院に紹介するという、根本的にわが国とは違ったシステムである。

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ブプロピオンで統合失調症患者の禁煙達成!?

 統合失調症患者では一般集団と比べて喫煙率が高く、喫煙関連の疾患の罹病率や死亡率が高い。一方で、喫煙率を低下させるために、どのような介入が効果的であるかは不明なままである。英国・Nottinghamshire Healthcare NHS TrustのDaniel T. Tsoi氏らによるシステマティックレビューの結果、ブプロピオンが精神状態への影響を及ぼすことなく禁煙達成率を高められることが示された。また、バレニクリンも禁煙達成率の改善が期待できるが、精神状態への有害な影響が除外できず、また、禁煙したら報酬を与えるといった強化随伴性(contingent reinforcement:CR)の介入は、短期的効果が期待できそうであった。その他にはエビデンスが確かな効果的な介入は見いだせなかったと報告している。Cochrane database of systematic reviewsオンライン版2013年2月28日掲載の報告。 MEDLINE、EMBASE、PsycINFO(いずれもサービス開始から2012年10月まで)とCochrane Tobacco Addiction Group Specialized Register(2012年11月)にて、禁煙または減煙に関する無作為化試験を検索した。統合失調症または統合失調感情障害を呈する成人患者について、あらゆる薬物・非薬物治療とプラセボまたはその他の治療を比較した試験を適格とし、2人の独立レビュワーが試験の適格性と質を評価してデータ抽出を行った。解析の評価項目は、禁煙達成(禁煙)、総喫煙量の減少(減煙)、あらゆる精神状態の変化とした。禁煙、減煙については、治療終了時と介入終了後6ヵ月時点のデータを抽出した。また同定義については最も厳格なものを用い、入手したデータは生化学的検証を行った。有害事象についてはあらゆる報告に注意を払い、また必要に応じてランダムエフェクトモデルも用いられた。 主な結果は以下のとおり。・レビューには、34試験(禁煙試験16件、減煙試験9件、再喫煙予防試験1件、喫煙についてのアウトカムが報告されていた他の目的での試験8件)が組み込まれた。・ブプロピオンとプラセボを比較した試験(7件)のメタ解析の結果、ブプロピオン治療後の禁煙率がプラセボより有意に高かった。 治療終了時の評価(7試験・340例) リスク比(RR):3.03、95%CI:1.69~5.42 6ヵ月後の評価(5試験・214例) RR:2.78、95%CI:1.02~7.58・また両群間に、陽性・陰性症状また抑うつ症状について有意差はみられなかった。・ブプロピオン群において、てんかん発作のような重大な副作用の報告はなかった。・バレニクリンもプラセボと比較して、治療後の喫煙率が有意に高かった。 治療終了時の評価(2試験・137例) RR:4.74、95%CI:1.34~16.71 6ヵ月後の評価(1試験のみで128例、CIもエビデンスに乏しい) RR:5.06、95%CI:0.67~38.24・精神症状に関してバレニクリン群とプラセボ群には、有意な差はみられなかったが、バレニクリン群の2人で希死念慮と自殺関連行動がみられた。・金銭(money)の強化随伴性(CR)を検討していた試験(2件)の解析の結果、禁煙率の上昇と喫煙量の低下の可能性があったが、これが長期に持続するかどうかは不明であった。・統合失調症患者に対する、その他の薬物治療(ニコチン補充療法など)や、禁煙・減煙支援のための心理社会的な介入の試験はほとんどなく、有用性についてのエビデンスは得られなかった。■「ブプロピオン」関連記事禁煙補助薬として抗うつ薬は有用なのか

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左室駆出率保持の心不全、スピロノラクトン長期投与で左室拡張能改善/JAMA

 左室駆出率が保存された左室拡張機能障害の認められる心不全患者に対する、抗アルドステロン薬スピロノラクトン(商品名:アルダクトンAほか)の長期投与は、左室拡張機能を改善することが示された。一方、最大運動耐容能の改善効果は認められなかった。ドイツ・ゲッチンゲン大学のFrank Edelmann氏らによる、400例超について行ったプラセボ対照無作為化二重盲検試験「Aldo-DHF」からの報告で、JAMA誌2013年2月27日号で発表された。本検討は、同患者について確立した治療法がない中、その進行にアルドステロン活性が関与している可能性が示されたことが背景にあった。スピロノラクトン25mgを1日1回投与、12ヵ月追跡 Aldo-DHF試験は、左室駆出率が保存されている心不全患者に対して、スピロノラクトンの長期投与の有効性と安全性を検討することを目的とした。2007~2012年にかけて、ドイツ、オーストリアの医療機関10ヵ所を通じて、同症状を呈する患者422例を対象に行われた。被験者を無作為に2群に分け、一方の群(213例)にはスピロノラクトン25mgを1日1回、もう一方の群(209例)にはプラセボを投与し、12ヵ月間追跡し左室拡張機能と最大運動耐容能に対する効果について比較した。 被験者はNYHA心機能分類クラスIIまたはIIIで、左室駆出率が50%以上、左室拡張機能障害が認められた。被験者の平均年齢は67歳(SD:8)、52%が女性だった。左心室拡張機能は有意に改善、逆リモデリングも促進 平均追跡期間は、11.6ヵ月だった。結果、左室拡張機能はスピロノラクトン群で有意に改善し、平均E/e値は12.7(SD:3.6)から12.1(同:3.7)へと減少したが、プラセボ群では平均12.8(同:4.4)から13.6(同:4.3)へと増加した[補正後平均差:-1.5、95%信頼区間(CI):-2.0~-0.9、p<0.001]。 一方、最高酸素摂取量の変化には両群で有意差はなく(補正後平均差:+0.1mL/分/kg、95%CI:-0.6~0.8、p=0.81)、スピロノラクトンの最大運動耐容能への効果は認められなかった。 また、スピロノラクトンは逆リモデリングを促し(p=0.009)、神経内分泌活性を改善したが(p=0.03)、心不全症状やQOLの改善は認められなかった。さらに、6分間歩行距離はやや減少した(-15m、95%CI:-27~-2、p=0.03)。 その他にスピロノラクトン群では、いずれも入院は伴わずわずかではあったが、血清カリウム値の上昇(+0.2mmol/L、95%CI:0.1~0.3、p<0.001)、およびeGFR値の減少(-5mL/分/1.73m2、95%CI:-8~-3、p<0.001)がみられた。 これらの結果を踏まえて著者は、「本試験で認められた左室機能改善についての臨床的意義は、さらなる大規模な試験で検討する必要がある」とまとめている。

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アリピプラゾール vs.その他の非定型抗精神病薬:システマティックレビュー

 英国・East Midlands Workforce DeaneryのPriya Khanna氏らは、統合失調症に対するアリピプラゾールの有効性および忍容性について、他の非定型抗精神病薬と比較した試験結果を評価するシステマティックレビューを行った。Cochrane Database of Systematic Reviewsオンライン版2013年2月28日号の掲載報告。 レビューは、Cochrane Schizophrenia Group Trials Registerによる文献検索(2011年11月時点)とともに、製薬会社や医薬品承認省庁、論文執筆者から追加の情報などを得て行われた。統合失調症または統合失調症様精神障害を有する患者を対象とした、アリピプラゾール(経口薬)とその他の抗精神病薬(経口・非経口含む:アミスルプリド、クロザピン、オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、セルチンドール、ジプラシドン、ゾテピン)を比較したすべての無作為化試験(RCT)を適格試験とした。ランダムエフェクトモデルに基づきintention-to-treat分析法にてリスク比(RR)と95%信頼区間(CI)を算出し、可能な限り主要アウトカムの比較リスクを算出した。また平均差(MD)の算出や、バイアスリスクについての評価も行われた。 主な結果は以下のとおり。・レビューには、12試験、被験者6,389例のデータが組み込まれた。・アリピプラゾールとの比較試験は、オランザピン、リスペリドン、ジプラシドンについて行われており、すべての試験が利害関係のある製薬会社がスポンサーとなり行われていた。・全被験者のうち30~40%が試験を早期に中止しており、妥当性(群間差なし)は限定的なものであった。[対オランザピン試験]・全体的な状態(global state)には差がみられなかった(703例・1試験、短期RR:1.00、95%CI:0.81~1.22/317例・1試験、中期RR:1.08、95%CI:0.95~1.22)。・精神状態についてはオランザピンでやや良い傾向がみられた[1,360例・3試験、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)総合スコアのMD:4.68、95%CI:2.21~7.16]。・錐体外路症状には有意な差はみられなかったが(529例・2試験、RR:0.99、9%CI:0.62~1.59)、コレステロール値の上昇(223例・1試験、RR:0.32、95%CI:0.19~0.54)、全重量の7%以上の体重増加(1,095例・3試験、RR:0.39、95%CI:0.28~0.54)はアリピプラゾール群のほうが少なかった。[対リスペリドン試験]・全体的な状態(384例・2試験、重大改善なしに関するRR:1.14、95%CI:0.81~1.60)、精神状態(372例・2試験、PANSS総合スコアのMD:1.50、95%CI:-2.96~5.96)に関して、アリピプラゾールの優位性は示されなかった。[対ジプラシドン試験]・アリピプラゾールとの比較は1試験(247例)であり、全体的な状態[臨床全般印象・重症度尺度CGI-S)スコアのMDの平均変化:-0.03、95%CI:-0.28~0.22]、精神状態[PANSS総合スコアのMD:-3.00、95%CI:-7.29~1.29]の変化はともに同程度であった。・いずれか1つの非定型抗精神病薬と比較した際、アリピプラゾールは、活力(523例・1試験、RR:0.69、95%CI:0.56~0.84)、気分(523例・1試験、RR:0.77、95%CI:0.65~0.92)、陰性症状(523例・1試験、RR:0.82、95%CI:0.68~0.99)、傾眠(523例・1試験、RR:0.80、95%CI:0.69~0.93)、体重増加(523例・1試験、RR:0.84、95%CI:0.76~0.94)にて全体的な状態の改善を示した。・アリピプラゾール群の被験者では、嘔気(2,881例・3試験、RR:3.13、95%CI:2.12~4.61)の報告が有意に多かったが、体重増加(全重量の7%以上の増加)は有意に少なかった(330例・1試験、RR:0.35、95%CI:0.19~0.64)。・アリピプラゾールは、攻撃性への有望な作用がある見込みがあたが、データが限定的であった。これは別の機会のレビューの焦点となるであろう。・著者は「すべての比較に関する情報には限界があり、必ずしも臨床に適用するとは限らない」とした上で、「アリピプラゾールは明らかな副作用プロファイルのない抗精神病薬である」と結論した。また、長期データが十分でないことを考慮すべきであり、今後は中国で行われている複数の試験や、進行中の大規模な独立したプラグマティックな試験のデータなどを組み込み、レビューのアップデートを行うことで新たなデータが得られると述べている。関連医療ニュース ・10年後の予後を見据えた抗精神病薬選択のポイント ・バイポーラの躁症状に対するアリピプラゾールの位置付けは? ・統合失調症、双極性障害の急性期興奮状態に対する治療:   アリピプラゾール筋注に関するコンセンサス・ステートメント(英国)

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皮膚レーザー治療をめぐる訴訟、原告勝訴が約半数、賠償額は平均約38万ドル

 米国・UCLA デイヴィッド・ゲフィン医科大学院 のH. Ray Jalian氏らは、皮膚レーザー治療をめぐる訴訟について分析を行った。全米データベースでオンライン公開されている法定文書を精査したもので、レーザー治療に関する訴訟の詳細を特定した最大規模の研究だという。分析の結果、実際の処置をphysician extenderが行っていた場合でも医師の責任も問われていることが明らかになった。著者は、インフォームド・コンセントの重要性とともに、医師には最終的な監督責任があることを強調している。JAMA Dermatology誌2013年2月号の掲載報告。 研究グループは、皮膚レーザー治療に関してよくみられる訴訟や、医師の職業上の責任を問われた判例の詳細を調べることを目的とした。 全米のデータベースでオンライン公開されている法定文書から、年間の訴訟件数、医療提供側の開業地および許認可、被った傷害、法的措置の理由、評決、賠償額を主要評価項目とし調査した。 主な結果は以下のとおり。・1985~2012年の、皮膚レーザー治療に起因する傷害訴訟174件を同定した。内訳は形成外科手術に関するものが25.9%と最も多く、次いで皮膚科手術が21.3%であった。・皮膚レーザー治療に関する訴訟は、年々増加している傾向がみられた。ピークは2010年(22件)であった。・最も多い訴訟は、脱毛処置(63件)であった。若返り処置(rejuvenation、43件)が続いた。・医師が施術者と特定されていたケースは100件(57.5%)であったが、146件の訴訟において被告人として名前が明記されていた。・医師ではない施術者には、医療関係者[カイロプラクター、足病医(podiatrist)、ナースプラクティショナー(NP)、登録看護師(RN)など]、非医療関係者(エステティシャン、テクニシャンなど)が含まれ、訴訟ケースの37.9%で関与していた。・訴訟に至った最大の要因(かつ、予防可能であった要因)は、医師がインフォームド・コンセントを得ていなかったことであった(約3分の1)。・評決に持ち込まれた120件のうち、61件(50.8%)で原告勝訴の判決が下されていた。・被告側が支払った賠償額は平均38万719ドルであり、これまでに報告されている全医療専門職における平均額を上回っていた。

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第12回 添付文書 その1:「添付文書」の解釈、司法と臨床現場の大きな乖離!

■今回のテーマのポイント1.医薬品の使用において、添付文書の記載に反した場合には、特段の合理的理由がない限り、過失が推定される2.「特段の合理的理由」の該当性判断は、判例により幅があることから、一定のエビデンスを確保したうえで行うことが安全といえる3.その場合においては、インフォームド・コンセントの観点から、患者に対し適切な説明がなされるべきである事件の概要7歳男性(X)。昭和49年9月25日午前0時30分頃、腹痛と発熱を訴え、救急車にてA病院を受診し、経過観察及び加療目的にて入院となりました。その後、同日午後3時40分まで保存的治療を行っていたものの、化膿性ないし壊阻性の虫垂炎と診断されたため、虫垂切除手術を行うこととなりました。Y医師は、自身と看護師3名、看護補助者1名とで、Xに対する虫垂切除術を行うこととしました(麻酔科医不在)。Y医師は、同日午後4時32分頃、Xに対し腰椎麻酔として0.3%のジブカイン(商品名: ペルカミンS)1.2mLを投与しました。Y医師は、A看護師に対しては、Xの脈拍を常時とるとともに、5分ごとに血圧を測定して自身に報告するよう指示し、B看護師に対しては、Xの顔面等の監視にあたるよう指示し、午後4時40分より執刀を開始しました。午後4時45分頃、Xの虫垂の先端が後腹膜に癒着していたため、Y医師が、ペアン鉗子で虫垂根部を挟み、腹膜のあたりまで牽引したところ、Xが「気持ちが悪い」と訴えました。同時に、A看護師が「脈拍が遅く弱くなった」と報告しました。Y医師が、Xに対し、「どうしたぼく、ぼくどうした」と声をかけましたが、返答はなく、Xの顔面は蒼白で唇にはチアノーゼ様のものが認められ、呼吸はやや浅い状態で意識はありませんでした。A看護師から、血圧は触診で最高50mmHgであると報告されました。午後4時47分には、Xは心肺停止となり、Y医師および応援に駆け付けた医師らによる蘇生処置が行われた結果、午後4時55分には、Xの心拍は再開し、自発呼吸も徐々に回復しましたが、残念ながらXの意識が回復することはありませんでした。Xは、その後、長期療養を行いましたが、脳機能低下症のため意思疎通は取れず、寝たきりのため全介助が必要な状態となりました。これに対し、Xおよび両親は、A病院およびY医師らに、9,400万円の損害賠償の請求を行いました。第1審では、検査、腰麻の選択、手術方法、術中の管理、救急措置のいずれにおいても、過失を認めることはできないとして請求を棄却しました。第2審においては、Xの血圧低下は、Y医師が虫垂をペアン鉗子で挟んだことによる迷走神経反射が起因しているとして、その場合、仮にペルカミンS®の添付文書記載通り2分ごとに血圧を測定していたとしても、午後4時45分以前にはXの血圧に異状は認められないことから、添付文書の記載に従わなかったこととXの血圧低下との間には因果関係がないとして原告らの請求を棄却しました。この原審に対し、原告らが上告したところ、最高裁は、午後4時45分に脈拍が低下した時点で、Xの唇にチアノーゼ様のものが認められたことから、Xの血圧低下の原因は、迷走神経反射だけでなく、ペルカミンS®による腰麻ショックも存在していたとし、下記の通り判示し、原判決を破棄し、原審に差し戻しました。なぜそうなったのかは、事件の経過からご覧ください。事件の経過7歳男性(X)。昭和49年9月25日午前0時30分頃、腹痛と発熱を訴え、救急車にてA病院を受診し、経過観察および加療目的にて入院となりました。その後、同日午後3時40分まで保存的治療を行っていたものの、化膿性ないし壊阻性の虫垂炎と診断されたため、虫垂切除手術を行うこととなりました。Y医師は、自身と看護師3名、看護補助者1名とで、Xに対する虫垂切除術を行うこととしました(麻酔科医不在)。Y医師は、同日午後4時32分頃、Xに対し腰椎麻酔として0.3%ペルカミンS® 1.2mLを投与しました。 なお、麻酔実施前のXの血圧は112/68mmHg、脈拍は78/分であり、麻酔後3分(午後4時35分)の血圧は124/70mmHg、脈拍は84/分でした。Y医師は、A看護師に対しては、Xの脈拍を常時とるとともに、5分ごとに血圧を測定して自身に報告するよう指示し、B看護師に対しては、Xの顔面等の監視にあたるよう指示し、午後4時40分(40分時点での血圧122/72mmHg)より執刀を開始しました。午後4時45分頃、Xの虫垂の先端が後腹膜に癒着していたため、Y医師が、ペアン鉗子で虫垂根部を挟み、腹膜のあたりまで牽引したところ、Xが「気持ちが悪い」と訴えました。同時に、A看護師が「脈拍が遅く弱くなった」と報告しました。Y医師が、Xに対し、「どうしたぼく、ぼくどうした」と声をかけましたが、返答はなく、Xの顔面は蒼白で唇にはチアノーゼ様のものが認められ、呼吸はやや浅い状態で意識はありませんでした。この時点で、A看護師から、血圧は触診で最高50mmHgであると報告されました。午後4時47分には、Xは心肺停止となり、Y医師および応援に駆け付けた医師らによる蘇生処置が行われた結果、午後4時55分には、Xの心拍は再開し、自発呼吸も徐々に回復しましたが、残念ながらXの意識が回復することはありませんでした。Xは、その後、長期療養を行いましたが、脳機能低下症のため意思疎通は取れず、寝たきりのため全介助が必要な状態となりました。事件の判決「本件麻酔剤の能書には、「副作用とその対策」の項に血圧対策として、麻酔剤注入前に1回、注入後は10ないし15分まで2分間隔に血圧を測定すべきであると記載されているところ、原判決は、能書の右記載にもかかわらず、昭和49年ころは、血圧については少なくとも5分間隔で測るというのが一般開業医の常識であったとして、当時の医療水準を基準にする限り、被上告人に過失があったということはできない、という。しかしながら、医薬品の添付文書(能書)の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が医薬品を使用するに当たって右文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである。そして、前示の事実に照らせば、本件麻酔剤を投与された患者は、ときにその副作用により急激な血圧低下を来し、心停止にまで至る腰麻ショックを起こすことがあり、このようなショックを防ぐために、麻酔剤注入後の頻回の血圧測定が必要となり、その趣旨で本件麻酔剤の能書には、昭和47年から前記の記載がされていたということができ(鑑定人によると、本件麻酔剤を投与し、体位変換後の午後4時35分の血庄が124/70、開腹時の同40分の血圧が122/72であったものが、同45分に最高血圧が50にまで低下することはあり得ることであり、ことに腰麻ショックというのはそのようにして起こることが多く、このような急激な血圧低下は、通常頻繁に、すなわち1ないし2分間隔で血圧を測定することにより発見し得るもので、このようなショックの発現は、「どの教科書にも頻回に血圧を測定し、心電図を観察し、脈拍数の変化に注意して発見すべしと書かれている」というのである)、他面、2分間隔での血圧測定の実施は、何ら高度の知識や技術が要求されるものではなく、血圧測定を行い得る通常の看護婦を配置してさえおけば足りるものであって、本件でもこれを行うことに格別の支障があったわけではないのであるから、Y医師が能書に記載された注意事項に従わなかったことにつき合理的な理由があったとはいえない。すなわち、昭和49年当時であっても、本件麻酔剤を使用する医師は、一般にその能書に記載された5分間隔での血圧測定を実施する注意義務があったというべきであり、仮に当時の一般開業医がこれに記載された注意事項を守らず、血圧の測定は五分間隔で行うのを常識とし、そのように実践していたとしても、それは平均的医師が現に行っていた当時の医療慣行であるというにすぎず、これに従った医療行為を行ったというだけでは、医療機関に要求される医療水準に基づいた注意義務を尽くしたものということはできない」(最判平成8年1月23日民集50号1巻1頁)ポイント解説今回と次回は添付文書の法的意義について解説いたします。第1回のポイント解説で示したように、民事医療訴訟における過失とは、一般的には「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」に満たない診療のことをいいます。しかし、この文言をいくら眺めたところで、具体的な事例についての線引きの基準を導き出すことはできません。したがって、例えば、本件における腰椎麻酔下での虫垂切除術において血圧測定を何分間隔で行うことが「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」なのかは、個別具体的に判断せざるを得ません。しかし、裁判官は、医学知識を有しているわけではありませんし、当然、医療現場を経験したこともありません(ロースクール制度により、最近、医師として医療現場を経験した裁判官が生まれるようになりましたがわずか数名です)。したがって、民事医療訴訟において、そういった個別具体的な事例における医療水準を決定する際に用いられるのが、今回のテーマとなる添付文書や次々回のテーマであるガイドラインであったり、医学文献、教科書、意見書、鑑定等です。添付文書は、薬事法52条(医療機器については63条の2)によって下記のように定められています。 (添附文書等の記載事項)第52条  医薬品は、これに添附する文書又はその容器若しくは被包に、次の各号に掲げる事項が記載されていなければならない。ただし、厚生労働省令で別段の定めをしたときは、この限りでない。一用法、用量その他使用及び取扱い上の必要な注意二日本薬局方に収められている医薬品にあつては、日本薬局方においてこれに添附する文書又はその容器若しくは被包に記載するように定められた事項三第四十二条第一項の規定によりその基準が定められた医薬品にあつては、その基準においてこれに添附する文書又はその容器若しくは被包に記載するように定められた事項四前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項 そして、添付文書の記載については、「医療用医薬品添付文書の記載要領について」(薬発第606号平成9年4月25日厚生省薬務局長通知、薬安第59号厚生省薬務安全課長通知)「医療機器の添付文書の記載要領について」(薬食発第0310003号平成17年3月10日厚生労働省医薬食品局長通知)があり、記載内容、方法について詳細に定められています。同通知別添に記載されている添付文書作成の目的は、「医療用医薬品の添付文書は、薬事法第52条第一号の規定に基づき医薬品の適用を受ける患者の安全を確保し適正使用を図るために、医師、歯科医師及び薬剤師に対して必要な情報を提供する目的で当該医薬品の製造業者又は輸入販売業者が作成するものであること」となっています。このようなことから、古くから裁判所は、医薬品の使用に関する医療水準の判断について、添付文書の記載を他の証拠と比べ重視していました。そのような背景の中で出された、本判決の特徴は、「医薬品の添付文書(能書)の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が医薬品を使用するに当たって右文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである」と示されるとおり、医薬品の使用に関しては、特段の合理的理由がない限り、添付文書の記載がすなわち医療水準となるとしたことです。確かに、高度の専門性を有する医療訴訟の判断をすることは、裁判所にとって非常に困難でありストレスであることは理解できますし、医師がいつでも手に取って読むことができる添付文書の記載さえ遵守していれば、医薬品の使用に関しては違法と問われることがないという意味においては、適法行為の予見可能性を高めるものであり、医師にとって有利なのかもしれません。しかし、皆さんご存知の通り添付文書の記載には、臨床の実情を反映しているとはいえない記載がしばしば見受けられます。そのような場合、医師が、患者に最善の治療を提供しようと添付文書記載に反する治療を行うことに躊躇してしまう(萎縮効果)こととなり問題といえます。特にわが国では、ドラッグラグが問題となっており、世界標準の治療薬の半数程度しか保険適用されていない現状において、未承認薬や適用外処方が原則違法であるとすることは、医学的に不当な結論といえます。このような医療界からの指摘を受け、現在では、例外となる「特段の合理的理由」を広く解することにより適切な判断をするように対応している判例が複数認められます。「添付文書の内容に違反した場合に,医師に過失が推定されるのは,製造業者や輸入販売業者は,当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有しており,それが添付文書に反映されているという事情に基づくものであるところ,本件においては,ベサコリン散の添付文書に,パーキンソン病の患者に対して禁忌であると記載がされたことについては,販売元の株式会社○○に対する調査嘱託の結果,厚生労働省からの指導によるものであって,株式会社○○自身が裏付けとなる研究結果等に基づいて記載したものではないことが判明しており,禁忌とされた根拠は必ずしも明確ではない。その上,ベサコリン散の成分は血液脳関門を通過しないからパーキンソニズムを悪化させることはないものとの考えが一部の出版物にも掲載されており,また,ベサコリン散のインタビューフォームにも,ベサコリン散の成分は血液脳関門を通過しない旨の記載がある。以上によれば,本件におけるベサコリン散の投与については,添付文書の記載内容には違反しているものの,原告に対してベサコリン散を投与すべき必要性が認められる反面,添付文書上の禁忌の根拠が明確でなく,むしろY医師自身は禁忌の根拠はないものと考えてあえて投与を行っていたものといえる。したがって,添付文書に反していても,本件においてはそこに合理的理由があるものといえ,直ちにY医師に過失があるものということはできない。パーキンソニズムの患者に対し、添付文書においてパーキンソン病の患者には禁忌であると記載されているベサコリン散を投与したとしても、当該患者に対してベサコリン散を投与すべき必要性が認められる反面、添付文書上の禁忌の根拠が明確でなく、当該医師が禁忌の根拠はないものとあえて投与を行っていたときには、当該投与が添付文書に反していても、そこには合理的な理由があるものといえるから、直ちに当該医師に過失があるものということはできない」(横浜地判平成21年3月26日判タ1302号231頁)とした判決や、ステロイド抵抗性の喘息患者に対し、適用外となる免疫抑制剤の投与を行った事案において、「ガイドラインに『難治性喘息に対する治療法として,免疫抑制剤の併用を考慮する場合がある』とされていることや有効性を示す症例報告が複数存在することを理由にただちに違法とはならない」とした判決(京都地判平成19年10月23日)などがあります。とはいえ、本件最高裁判決はまだいきていますので、適用外処方を行う場合には、事前にガイドラインや複数の医学文献等エビデンスを確保したうえで行うことが望ましいといえます。また、適用外処方をする場合には、インフォームド・コンセントの観点から、患者に対し、「(1) 当該治療方法の具体的内容、(2) 当該治療方法がその時点でどの程度の有効性を有するとされているか、(3) 想定される副作用の内容・程度及びその可能性、(4) 当該治療方法を選択した場合と選択しなかった場合とにおける予後の見込み等について、説明を受ける者の理解力に応じ、具体的に説明し、その同意を得た上で実施」(前掲京都地判平成19年10月23日より引用)すべきといえます。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)最判平成8年1月23日民集50号1巻1頁横浜地判平成21年3月26日判タ1302号231頁本事件の判決については、最高裁のサイトでまだ公開されておりません。 京都地判平成19年10月23日

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