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市販薬のオーバードーズ防止、とうとう警察から協力依頼【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第141回

若年者が“多幸感”を得る目的などで市販薬をオーバードーズ(過量服薬)する問題はこのコラムでも何回も紹介していますが、状況は一向に改善していません。昨今では、未成年誘拐の被害者が市販薬の過量服薬によって死亡する例や、過量服薬願望のある中学生が睡眠導入薬提供の誘惑によりわいせつ目的で誘拐される例など、想像を超える大きな事件が発生しています。このような状況のなか、警察庁生活安全局人身安全・少年課長より、医薬品販売に係る関係団体に協力依頼がありました(警察庁丁人少発第1325号)。1.一般用医薬品を販売する薬局開設者等への要請(1)万引き防止対策の徹底医薬品のうち、過量服薬の懸念の強い商品によっては、以下の対応を執ること。購入者の手が直接届かない場所、従業員が常駐する場所から目に付きやすい場所に配置・陳列店頭に複数個陳列せず、商品カードや空箱で対応防犯タグ等の万引き防止機器の取り付け短期間での棚卸し等在庫管理の徹底(2)警察への通報万引きを認知した場合には、警察へ届け出ることはもとより、通常必要であると考えられる回数を超える頻度で過量服薬に用いられるおそれのある医薬品を購入するといった顧客の不審動向がある場合には、速やかに警察に通報すること。(3)「濫用のおそれのある医薬品」の適正販売厚生労働大臣が指定する「濫用等のおそれのある医薬品」の販売・授与に当たっては、厚生労働省令に定められた方法を遵守すること。2.都道府県等の関係部局及び関係業界団体等への要請少年による過量服用防止対策を推進するため、警察と情報共有体制を構築するなど連携強化に努めること。「警察への通報」というちょっとおっかない文言も飛び出してきました。過量服薬を繰り返す少年たちの一部は、万引きによって一般用医薬品を調達しているということが確認されているとのことです。医薬品を販売する立場として販売方法の工夫はもちろん行っていると思いますが、万引き対策を一層強化し、また万引きを認知した際や不審な動向があった際は警察に通報することが求められています。地域で連携をとることで抑止力を高めていこうということなのでしょう。全国の薬局やドラッグストアが警察と連携しているというイメージが広まることで、多少の抑止力になるかもしれません。しかしながら、現在、多くの咳止め薬などは第2類医薬品に分類されています。第2類医薬品がインターネットで購入できてしまう以上、なかなかこれらを撲滅することは難しい気もしてしまいます。なお、第1類から第3類に分かれている現状の販売区分が購入者にとってわかりにくい、現場任せの管理で法令順守が徹底されていないなどの問題があり、厚生労働省は2025年以降に一般用医薬品の区分を再編する方針を決定しています。要指導医薬品のインターネット販売については、薬剤師がビデオ通話で服薬指導を行うことを条件に認めるという規制緩和の動きがあります。規制を強化するのか、緩和するのか。「医薬品へのアクセス向上」は聞こえがよく感じますが、実際にメリットを享受するのは製薬企業なのではないでしょうか。過量服薬による非行や犯罪が社会問題化しているなかでの規制緩和は少し早い気がするのは私だけでしょうか。被害を受けるのが何も知らない子供、ということがないようにしたいものです。

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動画で学ぶ 眼科処置・小手術の実際

「これだけはマスターしたい!」日常眼科診療ですぐに使える基本手技とコツを動画で詳解眼科診療の初心者、若手医師からレベルアップを目指したい専門医まで、今こそ確実に身に付けたい安全で確実な診療のヒントをWeb動画付きで詳解しています。後進の治療指針となるべく明日の診療ですぐに使える実践・実際的な教本として最適です。歴史と伝統ある京都府立医科大学眼科学教室と関連病院の眼科診療エキスパートが専門分野ごとにポイントを伝授します。角膜、結膜・ドライアイ、眼瞼、涙道、白内障、網膜硝子体、緑内障、斜視の「技」を知ることができる1冊。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する動画で学ぶ 眼科処置・小手術の実際定価16,500円(税込)判型B5判(並製)頁数280頁発行2024年11月編集外園 千恵(京都府立医科大学)渡辺 彰英(京都府立医科大学)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第242回 脂肪細胞の肥満記憶がリバウンドを引き起こすらしい

脂肪細胞の肥満記憶がリバウンドを引き起こすらしい体重を減らして代謝をよくし、体重絡みの不調をなくすことが肥満治療の主な目標です。しかし減った体重を維持するのは容易ではありません。治療で落ちた体重のおよそ30~35%は1年もすると復活(リバウンド)し、2人に1人は体重減少から5年目までにもとの体重に戻ってしまいます1)。米国疾病管理センター(CDC)の調査で、10%以上の体重減少を少なくとも1年間維持できたことがある太り過ぎや肥満の人の割合は、ほんの6人に1人ほど(約17%)に限られました2)。ヒトの体は体重が減っても持続する肥満時の特徴、いわば肥満記憶を維持していて、それがリバウンドに寄与しているようです。チューリッヒ工科大学(ETH Zurich)のLaura C. Hinte氏らのヒトやマウスの新たな研究3)によると、そのような肥満記憶は脂肪細胞の核内のDNAの取り巻きの変化(後成的変化)によってどうやら支えられているようです。Hinte氏らは肥満の20例の肥満手術直前と手術の甲斐あって体重が少なくとも4分の1減った2年後の脂肪組織を解析しました。また、正常体重の18例の脂肪組織も検討しました。脂肪細胞のRNAの推移を調べたところ、肥満者では正常体重者に比べて100を超えるRNAが増えるか減っており、肥満手術で体重が減った2年時点も同様でした。その変化は体重を増えやすくすることと関連する炎症を促進し、脂肪の貯蔵や燃焼の仕組みを損なわせるらしいと研究を率いたFerdinand von Meyenn氏は言っています4)。そういうRNAの変化が体重のリバウンドに寄与するかどうかがマウスを使って次に検討されました。まず、体重を減らした肥満マウスにヒトに似たRNA変化が持続していることが確かめられました。続いて、体重を減らしたかつて肥満だったマウスと非肥満マウスに高脂肪食を1ヵ月間与えました。すると、非肥満マウスの体重増加は5gほどだったのに対して、かつて肥満だったマウスの体重は14gほども増加しました。かつて肥満だったマウスの脂肪細胞を取り出して調べたところ、脂肪や糖を非肥満マウスに比べてより取り込みました。そして、マウス脂肪細胞の肥満に伴うDNA後成的変化は体重が減ってからも維持されていました。その後成的変化が肥満と関連するRNA変化を生み出し、後の体重増加の火種となるようです。マウスのDNA後成的変化がヒトにも当てはまるのかどうかを今後の研究で調べる必要があります。また、脂肪細胞が肥満の記憶をどれほど長く維持するのかも調べる必要があります。Hinte氏によると脂肪細胞は長生きで、新しい細胞と入れ替わるのに平均10年もかかります5)。肥満の記憶を保持するのは脂肪細胞だけとは限らないかもしれません。脳、血管、その他の臓器の細胞も肥満を覚えていて体重リバウンドに寄与するかもしれません。研究チームは次にその課題を調べるつもりです。細胞の核内の体重関連後成的変化を薬で手入れし、肥満の後成的記憶を消すことは今のところ不可能です5)。しかし、やがてはそういう薬ができて肥満治療に役立つようになるかもしれません。参考1)Sarwer DB, et al. Curr Opin Endocrinol Diabetes Obes. 2009;16:347-352.2)Kraschnewski JL, et al. Int J Obes (Lond). 2010;34:1644-1654.3)Hinte LC, et al. Nature. 2024 Nov 18. [Epub ahead of print] 4)We're starting to understand why some people regain weight they lost / NewScientist5)Cause of the yo-yo effect deciphered / ETH Zurich

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境界性パーソナリティ障害に非定型抗精神病薬は有効なのか〜メタ解析

 境界性パーソナリティ障害(BPD)患者は、心理社会的機能に問題を抱えていることが多く、その結果、患者自身の社会的関与能力の低下が認められる。英国・サセックス大学のKatie Griffiths氏らは、成人BPD患者の心理社会的機能の改善に対する非定型抗精神病薬の有効性を検討した。Psychiatry Research Communications誌2024年9月号の報告。 1994〜2024年に実施されたプラセボ対照ランダム化比較試験6件をメタ解析に含めた。対象は、オランザピン、クエチアピン、ziprasidone、アリピプラゾールのいずれかで治療されたBPD患者1,012例。 主な結果は以下のとおり。・メタ解析では、BPD患者の心理社会的機能の治療において、非定型抗精神病薬の小さな改善を示す証拠が明らかとなった。・とくに、非定型抗精神病薬は、プラセボと比較し、機能の全般的評価(GAF)スコアの改善が認められた。・複数の研究より、GAFのp値を組み合わせたところ、統計学的に有意であることが示唆された。・非定型抗精神病薬は、対人関係、職業機能、家族生活の質の改善においても、プラセボより優れていた。・社会生活、余暇活動においても、ポジティブな改善傾向が認められた。・非定型抗精神病薬治療では、体重増加や過鎮静など、既知の副作用発現がみられた。 著者らは「BPD患者に対する非定型抗精神病薬治療は、心理社会的機能やその他の症状改善に有用であるが、その効果は、プラセボをわずかに上回る程度であり、臨床的意義については議論の余地が残る。そのため、より多くのランダム化比較試験が必要とされる」としている。

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手術目的の入院患者の有害事象、多くは予防可能/BMJ

 米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のAntoine Duclos氏らは、多施設共同後ろ向きコホート研究の結果、手術目的で入院した患者の3分の1以上で有害事象が確認され、そのうちの約半数が重大な有害事象であり、また多くが予防できた可能性があることを明らかにした。これまでの研究では、2018年のすべての入院医療で入院患者の約4人に1人に有害事象が認められたことが報告されているが、外科手術(周術期を含む)における有害事象の発生と主な特徴について、最新の評価が必要とされていた。著者は、「今回の結果は、周術期医療全体で、すべての医療従事者が関与し患者の安全性向上を進めていく必要性がきわめて高いことを強調している」とまとめている。BMJ誌2024年11月13日号掲載の報告。11施設の約6万4,000例から無作為抽出した1,009例を解析 研究グループは、米国の11施設(100床未満:2、100~200床:4、201~500床:2、700床超:3)において、2018年に手術目的で入院した18歳以上の成人患者6万4,121例のうち、重み付けランダムサンプリングにより無作為に抽出した1,009例について解析した。 訓練を受けた看護師9人がすべてのカルテを精査して有害事象(医療に起因し、追加のモニタリング、治療または入院が必要となった、または死亡に至った予期しない身体的損傷と定義)を特定した。その後、医師8人が、事象の発生と特徴、重症度を確認し、臨床的に重要な事象(不要な害[harm]を引き起こすが速やかな回復につながる)、重篤な事象(相当の介入および回復期間の延長につながる)、生命を脅かす事象または死亡に至った事象の4つに分類するとともに、それらが予防可能であったかどうかについても評価した。38%に有害事象が発現、全有害事象の21%は予防可能、49%は手術関連有害事象 解析対象1,009例のうち、383例(38.0%、95%信頼区間:32.6~43.4)で1件以上の有害事象が発生し、160例(15.9%、12.7~19.0)で1件以上の重大な有害事象(重篤な事象、生命を脅かす事象または死亡に至った事象)が認められた。 全有害事象593件のうち、353件(59.5%)は予防できた可能性あり、123件(20.7%)はおそらくまたは確実に予防可能であったと判定された。 原因別では、外科手術関連有害事象が最も多く(292件、49.3%)、次いで薬剤関連有害事象(158件、26.6%)、医療関連感染症(74件、12.4%)、患者ケア関連有害事象(66件、11.2%)、輸血関連有害事象(3件、0.5%)の順であった。 有害事象の発生場所は、一般病棟(289件、48.8%)が最も多く、次いで手術室(155件、26.1%)、集中治療室(77件、13.0%)、回復室(20件、3.3%)、救急外来(11件、1.8%)、その他院内(42件、7.0%)の順であった。 有害事象に関与した職種は、主治医(531件、89.5%)、看護師(349件、58.9%)、研修医(294件、49.5%)、上級医(169件、28.5%)、フェロー(68件、11.5%)であった。

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生後2年間のデジタル介入で肥満リスク低下/JAMA

 小児科医による保護者への健康行動カウンセリングに加えて、ヘルスリテラシーに基づくデジタル介入を併用することで、乳児の生後24ヵ月時の体重/身長比の改善と肥満の割合の減少が認められ、さらにこの介入は、小児肥満のリスクが高い集団を含む多様な人種/民族集団に有効であることが示された。米国・バンダービルト大学医療センターのWilliam J. Heerman氏らが実施した無作為化並行群間比較試験の結果を報告した。乳児の成長は長期的な肥満と心血管疾患を予測する。先行研究では、生後2年間の肥満を予防するために多くの介入が考案されたが、ほとんどが成功していなかった。また、伝統的な人種・民族の少数派集団では肥満の有病率が高いことも問題視されていた。JAMA誌オンライン版2024年11月3日号掲載の報告。カウンセリングのみvs.ヘルスリテラシーに基づくデジタル介入併用を比較 研究グループは、2019年10月~2022年1月に、次の条件に該当する児とその保護者を対象に試験を行った。対象児の適格要件は、(1)生後0~21日、(2)在胎期間34週以上、(3)出生時体重1,500g以上、(4)試験登録時の体重がWHOの成長曲線ベースの3パーセンタイル超、(5)体重増に影響を及ぼす慢性疾患がないこと。両親の適格要件は、(1)18歳以上、(2)英語またはスペイン語が優先言語、(3)データサービスにアクセスできるスマートフォンを所持、(4)2年以内に今の小児プライマリケアを離れざるを得ない予定はない、(5)試験参加の障壁となる視力障害や神経学的疾患を有していない、(6)ベースラインデータ収集を完了していることであった。 試験は、米国内6つの大学(デューク大学、マイアミ大学、ニューヨーク大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、スタンフォード大学、バンダービルト大学)の医療センターと、各系列の小児プライマリケアクリニックで行われた。 適格な900例をクリニック群(451例)とクリニック+デジタル群(449例)に無作為に割り付け、2024年1月まで追跡評価した。 クリニック群では、児の肥満予防を目的として出生時から2歳まで、小児科医が両親に対し小冊子を用いて健康行動カウンセリングを行った。 クリニック+デジタル群では、健康行動カウンセリングに加えて、テキストメッセージの送受信とウェブベースのダッシュボードを用いた。 主要アウトカムは、24ヵ月時までの児の身長別体重(体重/身長[kg/m])の推移、副次アウトカムは、身長別体重のZスコアの推移、BMIのZスコアの推移、過体重または肥満の児の割合であった。デジタル介入により、生後24ヵ月時に体重/身長比が改善し肥満の割合が減少 無作為化された900例の乳児のうち、24ヵ月時の主要アウトカムのデータがあったのは86.3%であった。対象児の特性(人種・民族)は、非ヒスパニック系の黒人が143例(15.9%)、ヒスパニック系が405例(45.0%)、非ヒスパニック系の白人が185例(20.6%)、その他の人種・民族が165例(18.3%)であった。 クリニック+デジタル群ではクリニック群と比較して、24ヵ月間を通して平均体重/身長比が低く、24ヵ月時点で推定0.33kg/m(95%信頼区間[CI]:0.09~0.57)低かった。 また、24ヵ月時の身長別体重のZスコアの補正後平均群間差は-0.19(95%CI:-0.37~-0.02)、BMIのZスコアの補正後平均群間差は-0.19(-0.36~-0.01)であった。 24ヵ月時の乳児のうち過体重または肥満(疾病管理予防センター[CDC]の基準でBMIが85パーセンタイル以上)であった児の割合は、クリニック+デジタル群23.2%、クリニック群24.5%(補正後リスク比:0.91、95%CI:0.70~1.17)、肥満([CDC]の基準でBMIが95パーセンタイル以上)の児の割合は、それぞれ7.4%、12.7%(補正後リスク比:0.56、95%CI:0.36~0.88)であった。

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第239回  温暖化でツツガムシ病はこれから増える?須藤・秋田大名誉教授の訃報を聞いて考えたこと

ツツガムシ病の早期診断法の開発、危険性・治療法の啓発活動に尽力した須藤恒久氏こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。いやあ、米国の大統領選に続き、兵庫県知事選の結果には驚きました。報道ではSNSを駆使して選挙運動を行ったとのことですが、誤情報も多く発信され、対立候補はその対応に相当苦慮したようです。新聞やテレビといった旧来のマスコミ報道の限界も垣間見えました。日本もポピュリズム政治がメインストリームになっていきそうで心配です。さて、今回は突然ですが、「ツツガムシ病」について書いてみたいと思います。というのも、私が新人記者時代、何度も取材でお世話になった秋田大学名誉教授の須藤 恒久氏が10月23日、98歳で逝去されたニュースを読んだからです。ツツガムシ病の早期診断法の開発、その危険性・治療法の啓発活動に尽力された須藤先生を悼みつつ、ツツガムシ病をはじめとするダニ媒介性疾患のこれからについて勝手に予想してみます。医師の頭にツツガムシ病の知識があれば診断できるが、なければ診断できず死に至る病ツツガムシ病は、ダニの一種であるツツガムシに刺されることによって発症する感染症です。かつては山形県、秋田県、新潟県などで夏季に河川敷で感染する“風土病”と言われていましたが、現在は媒介するツツガムシの種類も増え、ほぼ全国(北海道以外)で発生が確認されています。国立感染症研究所のWebサイトなどによれば、潜伏期は5〜14日で、典型的な症例では39℃以上の高熱、頭痛が現れます。その他の症状としては筋肉痛、咳、全身性のリンパ節腫脹、悪心、嘔吐、腹痛などがあります。早期に適切な治療を受けないと間質性肺炎、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、髄膜脳炎、急性腎障害、播種性血管内凝固(DIC)などを起こし、死亡する患者もいます。皮膚のどこかに特徴的なダニの刺し口がみられ、発症後数日で体幹部を中心に発疹が出るのも特徴です。この病気の最大のポイントは、ダニ媒介性のリケッチア症であることです。リケッチア症にはβラクタム系抗菌薬は効きません。ミノサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬が第一選択となります。というわけで、ツツガムシ病の診療経験がなく、リケッチア症の存在や、その治療法に疎い医師が初診でこの病気を診た場合、通常の抗菌薬が効かないために右往左往し、最悪、患者は死に至ることになります。実際、昨年1月、千葉県船橋市で70歳男性がツツガムシ病で死亡しています。この男性は、ツツガムシ病の発生が多い千葉県の南部地域に滞在中に草刈りをし、その約1週間後から咽頭痛や発熱、発疹の症状が出て、入院先の病院で約18日後に敗血症で死亡しています。ツツガムシ病との検査結果が出たのは死亡後でした。抗菌薬使用の主流がβラクタム系に変わり、知らないうちに治っていたツツガムシ病が治らなくなるさて、私が新人記者だった1980年代半ば頃、ツツガムシ病はまだ“風土病”の範疇で、全国的にはそれほど知られた病気ではありませんでした。ですから、医師向け月刊誌の企画にも選ばれたのでしょう。須藤氏に取材を依頼したのは、学会発表を聞いたか、学会誌などでの論文を読んだことがきっかけだったと思います。秋田大医学部の微生物学教室の狭い教授室で会った須藤氏は実に温厚で、秋田弁なまりの言葉でゆっくりと、そしてわかりやすくツツガムシ病について解説してくれました。須藤氏は秋田県由利本荘市出身で、東北大医学部を卒業後、県立中央病院微生物検査科長などを経て、1971年に秋田大医学部に創設された微生物学教室の教授に就任しました。1973年にツツガムシ病の研究を始め、1976年頃からツツガムシ病の早期診断・早期治療の啓発に取り組みました。その理由を須藤氏は、「秋田県の雄物川水系の風土病と言われていたツツガムシ病をなんとかしたかった」ことと、「医師の抗菌薬使用の主流がクロラムフェニコールやテトラサイクリン系からβラクタム系に変わってきたことで、それまで抗菌薬投与で知らないうちに治っていたツツガムシ病が治らなくなり、死亡例も多くなってきた」ことを挙げていました。須藤氏は1980年に免疫ペルオキシダーゼ反応による迅速血清診断法を確立、この診断法が普及していなかった当初は、全国からの検査依頼に対応したそうです。また、この方法は世界保健機関(WHO)の標準診断法に推薦され、東南アジア各国でも活用されるに至っています。こうした功績が認められ、須藤氏は1987年には病原微生物学、感染症学、公衆衛生学分野でわが国最高の賞とされる小島三郎記念文化賞を受賞しています。1992年に大学を退職した後も、医学誌などでツツガムシ病への注意喚起や早期診断・早期治療の啓発を続けられていました。4、5年おきに雑誌に掲載すると定番のように読まれたツツガムシ病の記事1980年代に書いた私の記事はとても読まれました。それだけ当時の医師にツツガムシ病の知識がなかったからだとも言えます。その後、日本紅斑熱(やはりマダニに刺されて発症するリケッチア症)やライム病(やはりマダニに刺されて発症するが、こちらはスピロヘータ感染症)などの取材で、幾度か秋田を訪れ、須藤氏を取材しました。当時は秋田の飲み屋街、川反通りも大変賑やかで、それはそれでいい思い出です。ツツガムシ病の記事は、4、5年おきに雑誌に掲載すると定番のように読まれました。それは、一定の期間が経てばこの病気を知らない医師が出てくることを意味します。須藤氏が生涯にわたって啓発活動に取り組んだ理由がわかる気がします。なお、ツツガムシ病は1999年4月に新感染症予防法の施行に伴って第4類感染症となり全数把握の対象となりました。ということで、国立感染症研究所のWebサイトに行けばその発症数を確認することができます。夏に患者数が多いわけではなく、むしろ今の時期、11月〜12月に患者数が多い地域もツツガムシ病は1種類のツツガムシによって発症するのではありません。かつての東北地方の”風土病”のように、夏に患者数が多いわけでもありません。むしろ今の時期、12月に患者数が多い地域もあります(先述した千葉県の死亡例は1月でした)。国立感染症研究所の病原微生物検出情報(IASR)の2022年8月号によれば、「全国集計では3~5月の春と11~12月の秋~初冬にかけた2つのピークがある。患者発生時期はツツガムシの種ごとの生息地域での幼虫の活動時期に左右される。寒冷に強いフトゲツツガムシが主に分布する地域では、孵化後の秋~初冬に患者が発生すると同時に、越冬した幼虫により春にも患者届出数のピークがみられる。一方、寒冷に弱いタテツツガムシの幼虫は越冬できず、その生息地では孵化した後の秋~初冬にかけて患者発生数のピークを示す」とのことです。ちなみに、かつて秋田県雄物川流域のほかに山形、新潟県の一部河川流域で多発していたツツガムシ病はアカツツガムシによるものだったそうです(最近は症例数が少なく、「古典型つつが虫病」と呼ばれています)。つまり、生息するツツガムシの種類とその地域の気候によって、患者の発生パターンは変わってくるということです。今後、温暖化が進めば、患者発生パターンも変動していくでしょう。たとえば、寒冷に弱いタテツツガムシが越冬できる地域が増えれば、そこでの春の発生も増えてくるかもしれません。ツツガムシ病は微増傾向、マダニが媒介する日本紅斑熱は明らかに増加傾向気になって、国立感染症研究所のWebサイトで年別の発生動向を調べてみました1)。それによると、ツツガムシ病は微増傾向、そしてマダニが媒介する日本紅斑熱は明らかに増加傾向にあるようです。マスコミは、北海道でブリが大漁となるなど、地球温暖化でとれる魚が変化することなどは大騒ぎしますが、ツツガムシ病などのダニの生息域の変化は大きくは報道されていません。日常診療と温暖化は今のところ関係ないように見えますが、昆虫などが媒介する感染症は大きな影響を受けます。ヤブ蚊(ヒトスジシマカ)が媒介するデング熱の発症地域が日本でも北上中との報道もあります。日頃から各都道府県の衛生研究所や地元の保健所からの最新情報には敏感になっておきたいものです。参考1)発生動向調査年別一覧(全数把握)/国立感染症研究所

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カルシニューリン阻害で免疫を抑制するループス腎炎治療薬「ルプキネス」【最新!DI情報】第27回

カルシニューリン阻害で免疫を抑制するループス腎炎治療薬「ルプキネス」今回は、カルシニューリン阻害薬「ボクロスポリン(商品名:ルプキネスカプセル7.9mg、製造販売元:大塚製薬)」を紹介します。本剤は、ループス腎炎に対する治療薬として承認された新規のカルシニューリン阻害薬であり、免疫抑制作用により予後が改善することが期待されています。<効能・効果>ループス腎炎の適応で、2024年9月24日に製造販売承認を取得しました。本剤投与により腎機能が悪化する恐れがあることから、eGFRが45mL/min/1.73m2以下の患者では投与の必要性を慎重に判断し、eGFRが30mL/min/1.73m2未満の患者では可能な限り投与を避けます。<用法・用量>通常、成人にはボクロスポリンとして1回23.7mgを1日2回経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。本剤の投与開始時は、原則として、副腎皮質ステロイド薬およびミコフェノール酸モフェチルを併用します。<安全性>重大な副作用には、肺炎(4.1%)、胃腸炎(1.5%)、尿路感染症(1.1%)を含む重篤な感染症(10.1%)があり、致死的な経過をたどることがあります。また、急性腎障害(3.4%)が生じることがあるため、重度の腎機能障害患者への投与は可能な限り避けるようにし、中等度の腎機能障害患者には投与量の減量を行います。その他の副作用は、糸球体濾過率減少(26.2%)、上気道感染(24.0%)、高血圧(20.6%)、貧血、頭痛、咳嗽、下痢、腹痛(いずれも10%以上)、インフルエンザ、帯状疱疹、高カリウム血症、食欲減退、痙攣発作、振戦、悪心、歯肉増殖、消化不良、脱毛症、多毛症(いずれも10%未満)があります。本剤は、主としてCYP3A4により代謝されるため、強いCYP3A4阻害作用を有する薬剤(アゾール系抗真菌薬やリトナビル含有製剤、クラリスロマイシン含有製剤など)との併用は禁忌です。また、P糖蛋白の基質であるとともに、P糖蛋白、有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)1B1およびOATP1B3への阻害作用を有するので、ジゴキシンやシンバスタチンなどのHMG-CoA還元酵素阻害薬との併用には注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ループス腎炎の治療薬であり、体内の免疫反応を抑制します。2.飲み始めは原則としてステロイド薬およびミコフェノール酸モフェチルと併用します。3.この薬は、体調が良くなったと自己判断して使用を中止したり、量を加減したりすると病気が悪化することがあります。4.この薬を使用中に、感染症の症状(発熱、寒気、体がだるいなど)が生じたときは、ただちに医師に連絡してください。<ここがポイント!>ループス腎炎は、自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)が原因で生じる腎機能障害です。この疾患は、尿蛋白や尿潜血を伴い、ネフローゼ症候群や急速進行性糸球体腎炎症候群を引き起こすことがあります。治療は、急性期の寛解導入療法と慢性期の寛解維持療法があり、急性期の寛解導入療法には強力な免疫抑制療法を実施し、尿蛋白や尿沈査、腎機能の正常化を目指します。治療薬はグルココルチコイド(GC)に加えてミコフェノール酸モフェチル(MMF)またはシクロホスファミド間欠静注療法(IVCY)の併用投与が推奨されています。ボクロスポリンは、ループス腎炎の治療薬として開発された新規の経口免疫抑制薬です。最近の研究では、MMFとの併用療法がMMF単独療法に比べて、より有効であることが示されています。ボクロスポリンはカルシニューリン阻害薬であり、T細胞の増殖・活性化に重要な酵素であるカルシニューリンを阻害することで免疫抑制作用を発揮します。ボクロスポリンの投与開始時は、原則として、GCおよびMMFを併用します。ループス腎炎患者を対象とした国際共同第III相試験(AURORA1試験)では、主要評価項目である投与開始52週時点の完全腎奏効患者の割合は、本剤群の40.8%に対してプラセボ群は22.5%と有意な差が認められました(p<0.001、ロジスティック回帰モデル)。なお、本剤群およびプラセボ群ともに、MMFとGCが併用されていました。

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尿から嫌気性菌が発育したら何を考える?【とことん極める!腎盂腎炎】第9回

尿から嫌気性菌が発育したら何を考える?Teaching point(1)ルーチンで尿検体の嫌気性培養は依頼しない(2)汚染のない尿検体のグラム染色で菌体が見えるのに通常の培養で発育がないときに嫌気性菌の存在を疑う(3)尿検体から嫌気性菌が発育したら、泌尿器および生殖器関連の膿瘍疾患や瘻孔形成を疑う《今回の症例》66歳女性。進行子宮頸がんによる尿管狭窄のため半年前から尿管ステントを留置している。今回、発熱と腰痛で来院し、右腰部の叩打痛から腎盂腎炎が疑われた。ステントの交換時に尿管から尿検体を採尿し、グラム染色で白血球と複数種のグラム陰性桿菌を認めた。通常の培養条件では大腸菌のみが発育し、細菌検査室が嫌気培養を追加したところ、Bacteroides fragilisが発育した。検体採取は清潔操作で行われ、汚染は考えにくい。感染症内科に結果の解釈と治療についてコンサルトされた。1.尿検体の嫌気性培養は通常行わない細菌検査室では尿検体の嫌気性培養はルーチンで行われず、また医師側も嫌気培養を行う明確な理由がなければ依頼すべきではない。なぜなら、尿検体から嫌気性菌が分離されるのは約1%1)とまれで、嫌気性菌が常在している陰部からの採尿は汚染の確率が高く起炎菌との判別が困難であり、培養に手間と費用を要するためだ。とくに、中間尿やカテーテル尿検体の嫌気性培養は依頼を断られる2)。嫌気性培養が行われるのは、(1)恥骨上穿刺や泌尿器手技による腎盂尿などの汚染の可能性が低い尿検体、(2)嫌気性菌を疑う尿所見があるとき、(3)嫌気性菌が関与する病態を疑うときに限られる2)。2.嫌気性菌を疑う尿所見は?尿グラム染色所見と培養結果の乖離が嫌気性菌を疑うきっかけとして重要である2)。まず、検体の採取状況で汚染がないことを確認する。扁平上皮の混入は皮膚接触による汚染を示唆する。また、抗菌薬の先行投与がないことも確認する。そのうえで、尿検体のグラム染色で膿尿と細菌を認めるが通常の培養(血液寒天培地とBTB乳糖寒天培地)で菌の発育がなければ嫌気性菌の存在を疑う2)。細菌検査室によっては、この時点で嫌気性培養を追加することがある。グラム陰性桿菌であればより嫌気性菌を疑うが、グラム陰性双球菌の場合には淋菌を疑い核酸増幅検査の追加を考える。一方で、膿尿がみられるのにグラム染色で菌体が見えず、通常の尿培養で発育がなければ嫌気性菌よりも、腎結核やクラミジア感染症などの無菌性膿尿を疑う。3.嫌気性菌が発育する病態は?表に嫌気性菌が発育した際の鑑別疾患をまとめた。なかでも、泌尿器および生殖器関連の膿瘍疾患と、泌尿器と周囲の消化管や生殖器との瘻孔形成では高率に嫌気性菌が同定され重要な鑑別疾患である。その他の感染経路に、便汚染しやすい外性器および尿道周囲からの上行性感染やカテーテル、泌尿器科処置に伴う経尿道感染、経血流感染があるがまれだ3)。画像を拡大する主な鑑別疾患となる泌尿器・生殖器関連の膿瘍では、103例のうち95例(93%)で嫌気性菌を含む複数菌が同定され、その内訳はグラム陰性桿菌(B. fragilis、Prevotella属、Porphyromonas属)、Clostridium属のほか、嫌気性グラム陽性球菌やActinomyces属だったとされる3)。膀胱腸瘻についても、瘻孔形成による尿への便混入を反映し48例のうち44例(92%)で嫌気性菌を含む複数菌が同定されたとされる4)。逆に尿検体から嫌気性菌が同定された症例を集めて膿瘍や解剖学的異常の頻度を調べた報告はないが、筆者はとくに悪性腫瘍などの背景のある症例や難治性・反復性腎盂腎炎の症例などでは、解剖学的異常と膿瘍の検索をすることをお勧めしたい。また、まれな嫌気性菌が尿路感染症を起こすこともある。通性嫌気性菌のActinotignum(旧Actinobaculum)属のA. schaalii、A. urinale、A. massilienseで尿路感染症の報告がある。このうち最多のA. schaaliiは腎結石や尿路閉塞などがある高齢者で腎盂腎炎を起こす。グラム染色ではわずかに曲がった時々分岐のあるグラム陽性桿菌が見えるのに通常の培養で発育しにくいときは炭酸ガスでの嫌気培養が必要である。A. schaaliiはST合剤とシプロフロキサシンに耐性で、β-ラクタム系薬での治療報告がある5)。Arcanobacterium属もほぼ同様の経過で判明するグラム陽性桿菌で、やはり発育に炭酸ガスを要し、β-ラクタム系薬での治療報告がある6)。グラム陽性桿菌のGardnerella vaginalisは性的活動期にある女性の細菌性膣症や反復性尿路感染症、パートナーの尿路感染症の原因になるが、約3万3,000の尿検体中の0.6〜2.3%とまれである7)。メトロニダゾールなどでの治療報告がある。臨床経過と背景リスクによっては炭酸ガスを用いた嫌気培養の追加が考慮されるだろう。《症例(その後)》造影CTを追加したところ骨盤内膿瘍が疑われ、緊急開腹で洗浄したところ、腫瘍転移による結腸膀胱瘻が判明した。細菌検査室の機転により発育した嫌気性菌が膿瘍および膀胱腸瘻の手掛かりになった症例であった。1)Headington JT、Beyerlein B. J Clin Pathol. 1966;19:573-576.2)Chan WW. 3.12 Urine Cultures. Clinical microbiology procedures handbook, 4th Ed. In Leber AL (Ed), ASM Press, Washington DC. 2016;3.12.14-3.12.17.3)Brook I. Int J Urol. 2004;11:133-141.4)Solkar MH, et al. Colorectal Dis. 2005;7:467-471.5)Lotte R, et al. Clin Microbiol Infect. 2016;22:28-36.6)Lepargneur JP, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 1998;17:399-401.7)Clarke RW, et al. J Infect. 1989;19:191-193.

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最新 神経眼科エッセンスマスター-診察の基本と疾患別の診療の実際

神経眼科のエキスパートが最新の内容で“わかりやすく”解説「眼科診療エクレール」第5巻神経眼科診療において、(1)疑問に思ったことが直ぐ参照できる、(2)実際の診療に即した内容で臨床に役立つ、(3)患者に説明できる、の3点をコンセプトとして、神経眼科のエキスパートが、最新の内容でわかりやすく解説した極めて良質な参考書。高度な専門的知識と診療技術が必要なために「難解」とされる神経眼科診療に必要な神経機能解剖の知識、問診・視診の技術、さらに検査法を詳しく解説。そのうえで、視神経・視路疾患、眼球運動障害、眼振、瞳孔異常/眼瞼機能異常、そして眼窩および全身疾患まで、神経眼科疾患を網羅的に取り上げて、疾患の背景、病態生理、典型的所見、実際の治療法について解説。非常に高い死亡率の急性浸潤性副鼻腔真菌症、視力予後や生命予後不良の疾患、視神経先天異常や腫瘍との鑑別、高次視覚情報処理機構の障害なども盛り込まれており、神経眼科への興味と理解が深まる絶好の書。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する最新 神経眼科エッセンスマスター -診察の基本と疾患別の診療の実際定価16,500円(税込)判型B5判頁数384頁発行2024年8月担当編集澤村 裕正(帝京大学)相原 一(東京大学)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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自殺リスク、曜日や祝日との関連は?/BMJ

 ほとんどの国では自殺リスクは月曜日に最も高く、元日に増加するが、週末やクリスマスでは国や地域によって異なることを、韓国・釜山大学のWhanhee Lee氏らが、Multi-City Multi-Country(MCC)Collaborative Research Networkのデータベースを用いた解析の結果を、報告した。これまでの研究では、自殺リスクは曜日によって異なることが報告されているが、研究対象地域が限定され、方法論的枠組みが不均一であったため、結果の一般化には限界があった。BMJ誌2024年10月23日号掲載の報告。26ヵ国740地点、約170万件の自殺について解析 研究グループは、MCC Collaborative Research Networkのデータベースを用い、1971年1月1日~2019年12月31日における26ヵ国740地点の自殺のデータを収集した(国によってデータの期間は異なる)。 各国の各地点における1日当たりの自殺者数を合計して国別の1日当たりの自殺者数とし、曜日および3つの祝日(元日、クリスマス、その他の国民の祝日)と自殺との関連を解析した。 合計170万1,286件の自殺が解析に組み込まれた。月曜と元日は、ほとんどの国で自殺リスクが高い 研究期間中、10万人当たりの自殺率が高かったのは韓国(26.7)、南アフリカ(24.2)、日本(24.0)、エストニア(22.6)であった。 平日(月~金曜日)の自殺リスクは、すべての国で月曜日が最も高く、相対リスク(相対参照:水曜日)はコスタリカの1.02(95%信頼区間[CI]:0.95~1.10)からチリの1.17(1.09~1.25)の範囲にわたっていた。 週末(土~日曜日)の自殺リスクは国によって異なり、北米、アジア、欧州のほとんどの国では平日より低い(1週間のうちで最も低い)一方で、中南米、南アフリカ、フィンランドでは平日より高かった。 また自殺リスクは、ほとんどの国において元日で顕著に増加することが示された。相対リスクは日本の0.93(95%CI:0.75~1.14)からチリの1.93(1.31~2.85)の範囲にわたっていた。一方、クリスマス当日の自殺リスクは国によって異なっていた。相対リスクはスイスの0.54(0.39~0.76)から南アフリカの1.89(1.01~3.56)の範囲にわたり、中南米と南アフリカではわずかに増加するが、北米と欧州ではわずかに減少することが認められた。 その他の国の祝日当日の自殺リスクは、ほとんどの国で減少することが認められた。相対リスクは英国の0.80(95%CI:0.71~0.89)からチリの1.14(0.97~1.35)の範囲であったが、とくに中南米で祝日の1~2日後に、わずかだがリスクが増すことが認められた。

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日本の頭痛外来受診患者、頭痛の種類や特徴は?

 頭痛外来を受診した患者に関する単一施設研究の報告は行われているものの、日本で実施された多施設共同研究は、これまでほとんどなかった。静岡赤十字病院の今井 昇氏らは、日本において頭痛外来を受診した患者の臨床的特徴、頭痛の種類、重症度、精神疾患の併存について多施設分析を実施し、ギャップを埋めることを目指し、本研究を実施した。Clinical Neurology and Neurosurgery誌オンライン版2024年10月15日号の報告。 3ヵ所の頭痛外来を受診した頭痛患者2,378例を対象に、臨床的特徴をプロスペクティブに評価した。視覚的アナログスケール(VAS)などのベースライン時の人口統計学的特徴、7項目の一般化不安障害質問票(GAD-7)やこころとからだの質問票(PHQ-9)などの精神疾患の評価を行った。頭痛の種類は、片頭痛、緊張型頭痛、三叉神経・自律神経性頭痛(TAC)、その他の一次性頭痛疾患、二次性頭痛に分類した。頭痛の種類間でのパラメータを比較するため、必要に応じてKruskal-Wallis検定または共分散分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・最も多かった頭痛の種類は、片頭痛(78.8%)であり、次いで緊張型頭痛(12.2%)、二次性頭痛(5.5%)、その他の一次性頭痛疾患(2.1%)、TAC(1.6%)であった。・片頭痛患者は、初診時の年齢が他の頭痛患者よりも有意に若年であった。【片頭痛】年齢中央値:32.0歳【緊張型頭痛】年齢中央値:47.0歳【二次性頭痛】年齢中央値:39.0歳【その他の一次性頭痛疾患】年齢中央値:49.5歳【TAC】年齢中央値:47.0歳・TAC患者は、重症度と精神症状が最も重度であり、VAS(p<0.001)、GAD-7(p=0.019)、PHQ-9(p<0.001)のスコア中央値が、他の頭痛患者よりも有意に高かった。【TAC】VAS:90.0、GAD-7:7.0、PHQ-9:7.5【片頭痛】VAS:70.0、GAD-7:5.0、PHQ-9:5.0【緊張型頭痛】VAS:50.0、GAD-7:4.0、PHQ-9:4.0【その他の一次性頭痛疾患】VAS:65.0、GAD-7:4.0、PHQ-9:3.5【二次性頭痛】VAS:60.0、GAD-7:3.0、PHQ-9:3.5 著者らは「頭痛外来を受診した患者の多くは、片頭痛患者であった。TAC患者は、他の頭痛患者よりも頭痛の重症度および精神症状が有意に高いことが確認された」とまとめている。

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ChatGPTの活用法いろいろ【Dr. 中島の 新・徒然草】(555)

五百五十五の段 ChatGPTの活用法いろいろ日本の衆院選に続いて米国大統領選も終わり、4年ぶりに共和党のドナルド・トランプ前大統領が返り咲きました。次に何を言い出すやら予測不能なトランプ大統領のこと。果たして今後の4年間、日本はどんな影響を受けることになるのでしょうか?さて、先日オンライン講演会の演者をしました。「ChatGPTを使った英会話上達法」という演題です。主催者によれば、普段の聴衆とは少し違ったメンツが集まったとのこと。皆さん、それぞれに英語では苦労しているのでしょう。私はChatGPTのパソコン版とスマホ版を使っての上達法を紹介しました。とくにスマホを使った実演は、見ていた人たちには随分なインパクトを与えたようです。早速その場でアプリをダウンロードした人もおられました。さて、講演会の後は恒例のフリートークです。それぞれの人が自分のChatGPT活用法を紹介しており、いろいろと参考になりました。1つ目。某医療機関のリハビリ担当者。患者さん向けにポスターやパンフレットを作成しているのですが、そのタイトルをChatGPTに考えてもらうというもの。3つほど考えてもらって、その中から選ぶそうです。私もこの「新・徒然草」のタイトルをChatGPTに考えてもらうことがあります。ただ、私の場合は20個ほど考えてもらい、その候補をさらに組み合わせて作っています。2つ目は推薦状です。誰かの昇進や異動に伴う推薦状は、何をどう書いていいやらさっぱりわかりません。そこでChatGPTに下書きさせるという先生がおられました。氏名や簡単な経歴、被推薦者の長所などの情報を入れて「貴院の○○というポジションに相応しい人物だ」という形での推薦状作成です。すると「おいおい、ちょっと誉めすぎと違うか」としか思えないようなものが出来てきたのだとか。で、念のため推薦される本人に見せてみると頷きながら読み、「ありがとうございます。まあ、こんなものでしょうね」みたいな反応だったそうです。決して「先生、これは誉めすぎですよ!」という反応ではなかったとか。さすがにそのまま提出するのも憚られたので、現実的な方向に軌道修正したそうです。3つ目は患者さんの質問に対する回答。外来で診ている患者さんからは、思わぬ質問が来ることがあります。たとえば、検査結果をプリントしてお渡しした時に「○○が異常値なのですが、どうしてでしょうか?」など。「基準値の上限をちょっと超えているくらい気にしなくていいのに」と言っても、納得しない人が大勢おられます。そこでChatGPTに「病気がないのに○○の検査結果が基準値をわずかに上回っている場合、どのような原因が考えられますか?」と尋ねると、即座に10個ほどの原因らしきものを挙げてくれます。たとえば喫煙加齢炎症性疾患や慢性疾患良性疾患妊娠やその他の一時的状態食生活や一時的な要因薬剤の影響遺伝的要因女性のホルモンバランスの異常一過性の自己免疫反応などですね。「病気がないのに」とわざわざ断っているのに、炎症性疾患、慢性疾患、良性疾患などを挙げるのがChatGPTらしいところですが、そこは大目に見ておきましょう。また、「遺伝的要因」などと言うと、余計に患者さんを心配させてしまいます。ここは「体質」と言ったほうが無難でしょうね。4つ目は英文校正です。何か英語の論文や文書を作成した時の校正は、皆さんそれぞれに工夫しておられることと思います。ネイティブによる英文校正サービスを使っている先生も何人かおられましたが、人力ではいくら速くても数時間から数日のタイムラグができてしまいます。その点、ChatGPTは瞬時に校正してくれるので、役立つことこの上ないのが正直なところ。とくに、どういう理由でこの部分を直したのかも教えてくれるところが親切です。しかも、同じ部分を修正したとしても、そのたびに何度でも校正可能。これは大変ありがたい機能で、いわば親切で忍耐強いバイリンガルが、24時間そばにいてくれるみたいなものです。ただ、ChatGPTも使いようです。フリートークでのディスカッションでは、英会話におけるスピーキングは確かにChatGPTで鍛えてもらうことはできるけれども、リスニングはどうなのか、ということがありました。これについては誰からもいいアイデアが出ませんでした。私自身も現在は模索中です。ただChatGPT自身の進化、そしてユーザー側の使い方の工夫も相まって、近いうちに効果的なリスニングの向上法が見いだされるのではないかと期待しております。最後に1句立冬や もはや友達 AIは

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飛行機の換気システムでナッツアレルゲンは広がらない

 ナッツやピーナッツにアレルギーを持っている人は、「飛行機の中で誰かがナッツを食べているかもしれない」と心配する必要はないようだ。一般的に言われている、「ナッツなどのアレルゲンが機内の換気システムを通じて広がる」という説を裏付けるエビデンスは見つからなかったとする研究結果が報告された。英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)国立心肺研究所アレルギー・免疫学臨床教授のPaul Turner氏と同研究所のNigel Dowdall氏によるこの研究結果は、「Archives of Disease in Childhood」に10月16日掲載された。Turner氏は、「実際、飛行中の食物アレルギー反応の発生件数は、地上に比べて10~100倍も少ない。これは、おそらく食物アレルギーのある乗客が飛行中にさまざまな予防措置を講じているためと思われる」と述べている。 この研究でTurner氏らは、1980年1月1日から2022年12月31日までの間に発表された、民間航空機の乗客がさらされる食物アレルギーリスクや、リスクの低減方法に関する文献のシステマティックレビューを実施し、その結果をまとめた。 レビューからは、全体的に、エアロゾル化した食物粒子により呼吸器系の症状が引き起こされることはまれなことが明らかになった。ただし、魚介類と小麦粉に関しては例外であり、調理中の蒸気への曝露や職業的な曝露(パン屋での小麦粉曝露による喘息、魚市場での魚介類への曝露など)がアレルギー反応を引き起こす可能性があるという。 一般的に、特に機内では、アレルゲンを含んだエアロゾルによりアレルギー反応が引き起こされやすいと考えられているが、レビューからは、それを示すエビデンスはほぼないことが示された。例えば、ピーナッツの殻をむくと、そのすぐ上の空気中に微量のピーナッツアレルゲンが検出されるが、それらはすぐに沈降するため、殻をむいている間しか検出されないのだという。 また、飛行中は客室の換気システムにより、3分程度で空気が完全に入れ替わる。研究グループによると、機内の空気取り入れ口の半分はエアフィルターを通過した再循環空気で、残りの半分は機外から取り入れられるのだという。それゆえTurner氏らは、「ピーナッツやナッツのアレルゲンが、飛行機の換気システムを通じて拡散するというエビデンスはない」と主張。「むしろ、主なリスクは、食事からのアレルゲン摂取回避の失敗、または環境表面に残留したアレルゲンとの接触によるものだ。残留アレルゲンの問題は、便間の折り返し時間(ターンアラウンドタイム)が非常に短い多くの格安航空会社ではより顕著だ」と指摘している。 またこの研究では、飛行中にナッツを食べないように乗客に要請するアナウンスによりアレルギー反応のリスクが軽減する可能性は低いことも示された。研究グループは、「それよりも、食物アレルギーのある乗客の搭乗を早めに許可し、座席テーブルやその他の表面の徹底的な清掃を促す方が賢明かもしれない」と述べている。研究グループによると、米国運輸省はすでに、ナッツアレルギーのある乗客に対するこのような対応を航空会社に義務付けているという。 研究グループは、「航空会社は、ウェブサイトやリクエストを通じて簡単に入手できる、食物アレルギーに関する明確なポリシーを持つべきだ。食物アレルギーのある乗客とその介護者に安心感を与えるために、グランドスタッフ(地上職員)と客室乗務員の両方がこれらのポリシーを一貫して適用する必要がある」と述べている。

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変形性関節症/関節リウマチ患者の約4割が抑うつ、不安、線維筋痛症のいずれかを合併

 変形性関節症(OA)、関節リウマチ(RA)の患者はいずれも約10人に4人が不安、抑うつ、線維筋痛症のうち少なくとも1つを合併しているとする研究結果が「ACR Open Rheumatology」に7月16日掲載された。これらの併存疾患は自記式の多次元健康評価質問票(MDHAQ)で適切にスクリーニングできる可能性があることも示された。 OA患者とRA患者の合併症は類似しており、いずれも抑うつ、不安や線維筋痛症の合併率が高いことが知られている。しかし、実臨床ではこれらの併存疾患のスクリーニングは十分に行われていない。米ラッシュ大学医療センターのJuan Schmukler氏らは、2011年から2022年にかけて同センターを受診したOA患者361人(平均年齢66.6歳、女性80%)およびRA患者488人(同56.9歳、86%)を対象に、MDHAQの回答から不安、抑うつ、線維筋痛症の有病率などを検討するため、後ろ向きの横断研究を実施した。 なお、MDHAQには全般的な状態を評価するRAPID3、線維筋痛症の評価ツールであるFAST4、抑うつ状態の評価ツールであるMDS2、不安の評価ツールであるMAS2が含まれている。また、これら3つの併存疾患の有無とMDHAQに含まれる疼痛など別の指標の結果との関連も検討した。解析にはMantel-Haenszel法を用いた。 その結果、OA患者の40.4%(361人中146人)、RA患者の36.3%(488人中177人)が不安、抑うつ、線維筋痛症のうち少なくとも1つが陽性と判定された。OA患者の8.6%(361人中31人)、RA患者の7.0%(488人中34人)は3疾患全て陽性だった。また、不安、抑うつ、線維筋痛症のそれぞれが陽性だった場合に、身体機能、疼痛、全体の評価、RAPID3それぞれが悪化するオッズ比(OR)を算出したところ、不安が陽性だったRA患者における身体機能悪化のORが2.58と最も低く、線維筋痛症が陽性だったRA患者における疼痛悪化のORが35.75と最も高く、その他の場合はこれらの数字の中間となった。 著者らは「MDHAQを使用すれば、不安、抑うつ、線維筋痛症のスクリーニングを臨床現場で行えることが分かった。これによってOAやRA患者の状態や予後、治療への反応について、よりよい情報が得られるだろう」と述べている。著者の一人は製薬企業との利益供与を明らかにしており、別の著者はMDHAQおよびRAPID3の著作権と商標を有している。

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第238回 広がる救急車利用の選定療養費化、茨城県では筑波大病院1万3,200円、土浦協同病院1万1,000円、その他病院7,700円と料金に違い

救急車利用の選定療養費化のスキーム、じわりじわりと広がる気配こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。野球シーズンはストーブリーグに突入、今年も日本からMLBに誰が行くのかで盛り上がっています。そんな中、千葉ロッテマリーンズは11月9日、佐々木 朗希投手(23)の今オフのポスティングによるメジャー挑戦を容認することを発表しました。あと2年待てばMLBの「25歳ルール」による契約金制限が解けるので、佐々木投手自身も、譲渡金の入る球団も金銭的にWin-Winとなったでしょうが、ロッテとしては、佐々木投手の“わがまま”に折れた形での容認となりました。2022年の完全試合の印象は強烈ですが、大事に育てられ過ぎたのか、故障も多く5年間で登板はわずか64試合で、29勝15敗、防御率2.10という「中の下」の成績です。中4日、中5日で162試合を戦うMLBで果たして通用するのでしょうか。日本で怪我がちだった選手の多くは、MLBでも早々と故障してしまう傾向にあります。同じくMLB挑戦予定の、“旬”を過ぎた読売ジャイアンツの菅野 智之投手(ストレートで150キロ出ない)とともに、今後の“活躍”を見守りたいと思います。さて今回は、全国で広がりを見せ始めた軽症患者の救急車利用の“有料化”について書いてみたいと思います。“有料化”とは言っても、厳密には保険外併用療養費制度の一つ、選定療養費の仕組みを活用したものですが、三重県松阪市に続いて、茨城県が全県での導入を決め、12月からスタートさせます。救急車利用の選定療養費化のスキームは今後じわりじわりと広がっていきそうな気配です。軽度の切り傷・擦過傷、風邪などを「緊急性が低い症状」としてガイドラインで例示茨城県は10月18日、「緊急性のない救急搬送患者から選定療養費を徴収する際のガイドライン」(救急搬送における選定療養費の取扱いに係る統一的なガイドライン)1)を策定、公表しました。県内22病院で12月2日から救急車による救急搬送の際、緊急性が認められなかった場合に、患者から選定療養費を徴収する予定です。対象となる患者については、軽度の切り傷・擦過傷、風邪などを「緊急性が低い症状」として例示しました。なお、県単位で救急搬送に選定療養費の仕組みを導入するのは全国で初めてです。茨城県によれば2023年度の救急搬送は14万3,046件で増加傾向が続いているとのことです。うち6万8,549件、47.9%を軽症等が占めており、この状況が続けば救急医療の体制が維持できなくなるとして、4月以降検討を重ね、厚生労働省や県医師会、各病院などと協議を経て、選定療養費化に至ったとのことです。「軽症」と診断された場合も救急車を呼んだ時点での緊急性が認められるケースは徴収の対象外同ガイドラインは、患者が救急車で搬送された場合、選定療養費の対象となる「緊急性が認められない」ケースかどうかを医療機関が判断する目安として作られました。具体的には、救急車要請時の緊急性が認められない可能性がある主な事例として、以下が提示されています。ア. 明らかに緊急性が認められない症状:1)軽度の切り傷のみ、2)軽度の擦過傷のみイ. 緊急性が低い症状(※ただし、別の疾患の兆候である可能性あり):1)微熱(37.4℃以下)のみ、2)虫刺創部の発赤、痛みのみで、全身のショック症状は無い、3)風邪の症状のみ、4)打撲のみ、5)慢性的又は数日前からの歯痛、6)慢性的又は数日前からの腰痛、7)便秘のみ、8)何日も前から症状が続いていて特に悪化したわけではない、9)不定愁訴のみ、10)眠れないのみイについては「緊急性が低いことから、基本的に緊急性が認められないものとするが、診断の結果、別の疾患の兆候である可能性を否定できず、評価が難しいケースや判断に迷うケースである場合は、緊急性が認められるものとして差し支えない」として、現場で選定療養費の徴収対象外と判断して構わないとしています。なお、熱中症、小児の熱性けいれん、てんかん発作などの症状は、病院到着時には改善して結果として「軽症」と診断された場合でも、救急車を呼んだ時点での緊急性が認められるケースに該当するため、徴収の対象とはならないとしています。徴収額は初診患者の選定療養費に準じる茨城県は7月に全県での導入を公表、12月から多くの救急患者を受け入れている県内22病院で一斉に運用を開始することにしました。紹介状なしの初診患者から選定療養費の徴収を義務付けられている県内22病院のうち、友愛記念病院と古河赤十字病院(いずれも古河市)は12月時点の参加を見送り、既に選定療養費を徴収していた病院が20病院、徴収していない病院が2病院となりました。徴収額は紹介状なしの初診患者の選定療養費と同額となるため、病院ごとに異なります。筑波大学附属病院が1万3,200円、総合病院土浦協同病院と筑波メディカルセンター病院が1万1,000円、白十字総合病院が1,100円で、ほかの病院は7,700円(いずれも税込)。なお、白十字総合病院と筑波学園病院は地域医療支援病院等ではなく、紹介状なしの初診の選定療養費徴収が義務付けられていませんが、今回、軽症救急患者に限って選定療養費を設定したとのことです。「救急車の有料化ではありません」と県は強調茨城県は今回の救急車利用の選定療養費化について、一般向けにQ&A集も用意しています。それによれば、「Q.救急車を有料化するということですか?」という質問に対しては、「救急車の有料化ではありません。既存の選定療養費制度の運用を見直し、救急車で搬送された方のうち、救急車要請時の緊急性が認められない場合には、対象病院において選定療養費をお支払いいただくものです」と、「有料化ではない」旨を強調しています。有料化と選定療養費化は制度が違うと言われても、県民にとっては“負担増”になるのは同じです。これまで無料だった筑波大学附属病院への搬送が1万3,200円というのは、かなりの出費と言えるでしょう。軽症者のタクシー代わりの救急車利用の抑止力としては、それなりに機能しそうです。三重県松阪市は3ヵ月間のモニタリング結果を公表ところで、救急車利用の選定療養費化の先駆けだった三重県松阪市は10月25日、三重県松阪地区で2次救急医療を担う3病院(松阪市民病院、松阪中央総合病院、済生会松阪総合病院)における、救急車利用時に入院に至らなかった軽症患者などから選定療養費を徴収する取り組みのモニタリング結果を報告しました2)。三重県松阪地区では3病院において、6月から救急車利用時に入院に至らなかった軽症患者などから選定療養費7,700円を徴収する取り組みを始めていました。報告されたモニタリング期間は、運用開始の2024年6月1日~8月31日の3ヵ月間で、救急車で3病院に搬送(病院収容)された人を対象に、搬送された時間帯や年齢、特別の料金の徴収有無に加え、主たる搬送要因・傷病名などを調査しました。選定療養費の徴収対象となったのは278人、7.4%3病院の救急搬送における費用徴収の状況について、救急車で3病院に搬送された3,749人のうち、帰宅となり、さらに費用徴収の対象となったのは278人、7.4%でした。徴収対象者の傷病内訳としては、最多は疼痛24人(8.6%)、次いで打撲傷21人(7.6%)、熱中症・脱水症21人(7.6%)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)16人(5.8%)、めまい15人(5.4%)、胃腸炎・食道炎等15人(5.4%)でした。徴収対象外となった1,778人の内訳は、「緊急の患者等、医師の判断による」が最多で1,014人(57.0%)。そのほか、再診が408人(22.9%)、交通事故等が178人(10.0%)、生活保護受給者が88人(4.9%)、紹介状ありが57人(3.2%)でした。費用を徴収した278人のうち高齢者が114人(41.0%)でした。「持続可能な松阪地区の救急医療体制の整備に一定の寄与が確認」と松阪市傷病程度別の救急搬送人員数は、軽症者率が52.9%と前年同期の59.4%から6.5%減少した一方で、中等症者率が42.8%と前年同期の37.0%から5.8%増加しました。一方、「松阪地区救急相談ダイヤル24の相談件数」は7,969件で、前年同期と比較して2,390件(42.8%)増加しました。以上の結果を踏まえ、松阪市は「医療機関の適正受診に繋がる状況が確認でき、今回の取り組みは、『一次二次救急医療の機能分担』、ひいては、『救急車の出動件数の減少』等、持続可能な松阪地区の救急医療体制の整備に一定の寄与が確認できたのではないか」と評価しています。松阪市、茨城県に続く自治体が今後続出することは必至モニタリング期間のため、ゴリゴリと選定療養費を徴収してはいない状況にあって、徴収対象が7.4%というのは結構高い数字と言えるのではないでしょうか。紹介状なしの200床以上の病院(特定機能病院、地域医療支援病院、紹介受診重点医療機関)の初診・再診時などに、病院が独自に設定した選定療養費を徴収する仕組みを軽症救急患者に適用するというスキーム、誰が考えたのか、なかなか名案だと思います。ただ、松阪市のように管轄の3病院だけでやるのではなく、茨城県のように全県で対応したほうが、国民に“正しい”救急車利用の仕方を周知できるでしょう。さらに言えば、茨城県のケースでも、病院によって選定療養費にバラツキがあるのは今後の制度定着に向けては具合が悪そうです。今後、軽症救急の選定療養費は紹介状なしの額とは別に「県内均一」にする、2次救急、3次救急で額を変える、といった工夫が必要でしょう。いずれにせよ、松阪市、茨城県に続く自治体が続出することは必至と考えられます。参考1)救急搬送における選定療養費の取扱いに係る統一的なガイドライン/茨城県2)三基幹病院における選定療養費について/松阪市

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米国成人の10人に6人は炎症誘発性の食生活

 米国成人の多くが、炎症を引き起こす食生活を送っていて、そのことが、がんや心臓病、その他の深刻な健康リスクを押し上げている可能性のあることが報告された。米オハイオ州立大学のRachel Meadows氏らの研究によるもので、詳細は「Public Health Nutrition」に9月27日掲載された。論文の筆頭著者である同氏によると、「米国の成人の57%が炎症を起こしやすい食生活を送っており、その割合は男性、若年者、黒人、教育歴が短い人、収入の低い人でより高かった」という。 Meadows氏らの研究には、2005~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した20歳以上の成人3万4,547人(平均年齢47.8歳、女性51.3%)のデータが用いられた。NHANESでは、過去24時間以内に摂取したものを思い出すという方法により食習慣が把握されており、その結果に基づき、エネルギー調整食事性炎症指数(energy-adjusted dietary inflammatory index;E-DII)を算出した。 E-DIIは、n-3系脂肪酸、フラボノイド、アルコール飲料、ニンニクなど、45種類の食品や栄養素の摂取量を元に算出される。結果は-9~+8の範囲にスコア化され、0未満は炎症を抑制する食事、0超は炎症を誘発する食事であることを意味する。Meadows氏は、「食事療法に際して一般的に、果物や野菜、乳製品などの食品群の摂取量、または摂取エネルギー量、脂質・タンパク質・炭水化物摂取量に基づく指導介入が行われる。しかし、炎症という視点で評価することも重要だ」と述べている。 解析対象者のE-DIIは平均0.44(95%信頼区間0.39~0.49)と0を上回り、米国成人は全体的に炎症を誘発しやすい食生活を送っていることが示された。また、全体の57%は炎症誘発性の食生活、34%は抗炎症性の食生活であり、9%はニュートラルな食生活であることが分かった。 この結果についてMeadows氏は、食事の全体的なバランスの重要性を強調し、「果物や野菜をたくさん食べていたとしても、アルコールや赤肉を取り過ぎていれば、全体的な食生活は炎症誘発性に傾いている可能性がある。健康増進の手段として、抗炎症作用のある食品に着目してほしい」と語っている。同氏によると、「ニンニク、ショウガ、ウコン、緑茶、紅茶などが抗炎症作用を有している」という。ほかにも、全粒穀物、緑黄色野菜、サーモンなどの脂肪分の多い魚、豆類、ベリー類などが抗炎症作用のある食品とされており、これらはいずれも、健康的な食事スタイルとして知られる地中海食で、積極的に摂取される食品でもある。 抗炎症性の食生活に変えることの利点としてMeadows氏は、「糖尿病、心血管疾患、さらにはうつ病やその他の精神疾患を含む、多くの慢性疾患に良い影響を与える可能性がある」と解説。また、「慢性炎症を引き起こす要因は数多くあり、それらは全て相互に影響し合っている。睡眠に問題があることも重要な要素の一つだ。それらに対抗する手段として日々の食事を活用できる」としている。

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英語で「念のために」は?【1分★医療英語】第156回

第156回 英語で「念のために」は?《例文1》Let's give it another week, just to be on the safe side.(念のため、もう1週間様子を見ましょう)《例文2》I need to take an X-ray, just to be on the safe side and make sure there's no fracture.(念のため、骨折がないか確認するのにレントゲンを撮りたいと思います)《解説》“just to be on the safe side”は直訳すると「安全な側にいるようにするために」となり、「起こりうる問題を避けるために何かをする」というニュアンスを表現する言葉です。医療現場で、見逃すと致死的になる疾患などを除外するため検査を行いたいときなどによく使う表現です。「念のために」を表すほかの表現としては、“just in case”や“just to be sure”などといったフレーズがあります。安全策のために、本来行うべきことよりも過剰に検査や治療を行うことを表す表現としては、“to make sure we are not missing anything”(何か見落としがないか確認するために)や、“I’d rather be safe than sorry.”(後悔するくらいなら安全策を取るべきです)などがあります。講師紹介

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急速進行性糸球体腎炎〔RPGN:Rapidly progressive glomerulonephritis〕

1 疾患概要■ 定義急速進行性糸球体腎炎(Rapidly progressive glomerulonephritis:RPGN)は、数週~数ヵ月の経過で急性あるいは潜在性に発症し、血尿(多くは顕微鏡的血尿、まれに肉眼的血尿)、蛋白尿、貧血を伴い、急速に腎機能障害が進行する腎炎症候群である。病理学的には、多数の糸球体に細胞性から線維細胞性の半月体の形成を認める半月体形成性(管外増殖性)壊死性糸球体腎炎(crescentic[extracapillary]and necrotic glomerulonephritis)が典型像である。■ 疫学わが国のRPGN患者数の新規受療者は約2,700~2,900人と推計され1)、日本腎臓病総合レジストリー(J-RBR/J-KDR)の登録では、2007~2022年の腎生検登録症例のうちRPGNは年度毎にわずかな差があるものの5.4~9.6%(平均7.4%)で近年増加傾向にある2)。また、日本透析医学会が実施している慢性透析導入患者数の検討によると、わが国でRPGNを原疾患とする透析導入患者数は1994年の145人から2022年には604人に約5倍に増加しており、5番目に多い透析導入原疾患である3)。RPGNは、すべての年代で発症するが、近年増加が著しいのは、高齢者のMPO-ANCA陽性RPGN症例であり、最も症例数の多いANCA関連RPGNの治療開始時の平均年令は1990年代の60歳代、2000年代には65歳代となり、2010年以降70歳代まで上昇している6)。男女比では若干女性に多い。■ 病因本症は腎糸球体の基底膜やメサンギウム基質といった細胞外基質の壊死により始まり、糸球体係蹄壁すなわち、毛細血管壁の破綻により形成される半月体が主病変である。破綻した糸球体係締壁からボウマン腔内に析出したフィブリンは、さらなるマクロファージのボウマン腔内への浸潤とマクロファージの増殖を来す。この管外増殖性変化により半月体形成が生じる。細胞性半月体はボウマン腔に2層以上の細胞層が形成されるものと定義される。細胞性半月体は可逆的変化とされているが、適切な治療を行わないと、非可逆的な線維細胞性半月体から線維性半月体へと変貌を遂げる4)。このような糸球体係蹄壁上の炎症の原因には、糸球体係締壁を構成するIV型コラーゲンのα3鎖のNC1ドメインを標的とする自己抗体である抗糸球体基底膜(GBM)抗体によって発症する抗GBM抗体病、好中球の細胞質に対する自己抗体である抗好中球細胞質抗体(ANCA)が関与するもの、糸球体係蹄壁やメサンギウム領域に免疫グロブリンや免疫複合体の沈着により発症する免疫複合体型の3病型が知られている。■ 症状糸球体腎炎症候群の中でも最も強い炎症を伴う疾患で、全身性の炎症に伴う自覚症状が出現する。全身倦怠感(73.6%)、発熱(51.2%)、食思不振(60.2%)、上気道炎症状(33.5%)、関節痛(18.7%)、悪心(29.0%)、体重減少(33.5%)などの非特異的症状が大半であるが5)、潜伏性に発症し、自覚症状を完全に欠いて検尿異常、血清クレアチニン異常の精査で診断に至る例も少なくない。また、腎症候として多いものは浮腫(51.2%)、肉眼的血尿(14.1%)、乏尿(16.4%)、ネフローゼ症候群(17.8%)、急性腎炎症候群(18.5%)、尿毒症(15.8%)5)などである。肺病変、とくに間質性肺炎の合併(24.5%)がある場合、下肺野を中心に湿性ラ音を聴取する。■ 分類半月体形成を認める糸球体の蛍光抗体法所見から、(1)糸球体係蹄壁に免疫グロブリン(多くはIgG)の線状沈着を認める抗糸球体基底膜(glomerular basement membrane:GBM)抗体型、(2)糸球体に免疫グロブリンなどの沈着を認めないpauci-immune型、(3)糸球体係蹄壁やメサンギウム領域に免疫グロブリンや免疫複合体の顆粒状の沈着を認める免疫複合体型の3型に分類される。さらに、血清マーカー、症候や病因を加味しての病型分類が可能で、抗GBM抗体病は肺出血を合併する場合にはグッドパスチャー症候群、腎病変に限局する場合には抗GBM腎炎、pauici-immune型は全身の各諸臓器の炎症を併発する全身性血管炎に対し、腎臓のみに症候を持つ腎限局型血管炎(Renal limited vasculitis)とする分類もある。このpauci-immune型の大半は抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophi cytoplasmic antibody:ANCA)が陽性であり、近年ではこれらを総称してANCA関連血管炎(ANCA associated vasculitis:AAV)と呼ばれる。ANCAには、そのサブクラスにより核周囲型(peri-nuclear)(MPO)-ANCAと細胞質型(Cytoplasmic)(PR3)-ANCAに分類される。■ 予後RPGNは、糸球体腎炎症候群の中で腎予後、生命予後とも最も予後不良である。しかしながら、わが国のRPGNの予後は近年改善傾向にあり、治療開始からの6ヵ月間の生存率については1989~1998年で79.2%、1999~2001年で80.1%、2002~2008年で86.1%、2009~2011年で88.5%、2012~2015年で89.7%、2016~2019年で89.6%と患者の高齢化が進んだものの短期生命予後は改善している。6ヵ月時点での腎生存率は1989~1998年で73.3%、1999~2001年で81.3%、2002~2008年で81.8%、2009~2011年で78.7%、2012~2015年で80.4%、2016~2019年で81.4%であり、腎障害軽度で治療開始した患者の腎予後は改善したものの、治療開始時血清クレアチニン3mg/dL以上の高度腎障害となっていた患者の腎予後については、改善を認めていない6)。また、脳血管障害や間質性肺炎などの腎以外の血管炎症候の中では、肺合併症を伴う症例の生命予後が不良であることがわかっている。感染症による死亡例が多いため、免疫抑制薬などの治療を控えるなどされてきたが、腎予後改善のためにさらなる工夫が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)RPGNは、早期発見による早期治療開始が予後を大きく左右する。したがって、RPGNを疑い、本症の確定診断、治療方針決定のための病型診断の3段階の診断を速やかに行う必要がある。■ 早期診断指針(1)血尿、蛋白尿、円柱尿などの腎炎性尿所見を認める、(2)GFRが60mL/分/1.73m2未満、(3)CRP高値や赤沈亢進を認める、の3つの検査所見を同時に認めた場合、RPGNを疑い、腎生検などの腎専門診療の可能な施設へ紹介する。なお、急性感染症の合併、慢性腎炎に伴う緩徐な腎機能障害が疑われる場合には、1~2週間以内に血清クレアチニン値を再検する。また、腎機能が正常範囲内であっても、腎炎性尿所見と同時に、3ヵ月以内に30%以上の腎機能の悪化がある場合にはRPGNを疑い、専門医への紹介を勧める。新たに出現した尿異常の場合、RPGNを念頭において、腎機能の変化が無いかを確認するべきである。■ 確定診断のための指針(1)病歴の聴取、過去の検診、その他の腎機能データを確認し、数週~数ヵ月の経過で急速に腎不全が進行していることの確認。(2)血尿(多くは顕微鏡的血尿、まれに肉眼的血尿)、蛋白尿、赤血球円柱、顆粒円柱などの腎炎性尿所見を認める。以上の2項目を同時に満たせば、RPGNと診断することができる。なお、過去の検査歴などがない場合や来院時無尿状態で尿所見が得られない場合は臨床症候や腎臓超音波検査、CT検査などにより、腎のサイズ、腎皮質の厚さ、皮髄境界、尿路閉塞などのチェックにより、慢性腎不全との鑑別を含めて、総合的に判断する。■ 病型診断可能な限り速やかに腎生検を行い、確定診断と同時に病型診断を行う。併せて血清マーカー検査や他臓器病変の評価により二次性を含めた病型の診断を行う。■ 鑑別診断鑑別を要する疾患としては、さまざまな急性腎障害を来す疾患が挙げられる。とくに高齢者では血尿を含めた無症候性血尿例に、脱水、薬剤性腎障害の併発がある場合などが該当する。また、急性間質性腎炎、悪性高血圧症、強皮症腎クリーゼ、コレステロール結晶塞栓症、溶血性尿毒症症候群などが類似の臨床経過をたどる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)入院安静を基本とする。本症の発症・進展に感染症の関与があること、日和見感染の多さなどから、環境にも十分配慮し、可能な限り感染症の合併を予防することが必要である。RPGNは、さまざまな原疾患から発症する症候群であり、その治療も原疾患により異なる。本稿では、ANCA陽性のpauci-immune型RPGNの治療法を中心に示す。治療の基本は、副腎皮質ステロイド薬と免疫抑制薬による免疫抑制療法である。初期治療は、副腎皮質ホルモン製剤で開始し、炎症の沈静化を図る。早期の副腎皮質ホルモン製剤の減量が必要な場合や糖尿病などの併発例で血糖管理困難例には、アバコパンの併用を行う。初期の炎症コントロールを確実にするためにシシクロホスファミド(経口あるいは静注)またはリツキシマブの併用を行う。また、高度腎機能障害を伴う場合には血漿交換療法を併用する。これらの治療で約6ヵ月間、再発、再燃なく加療後に、維持治療に入る。維持治療については経口の免疫抑制薬や6ヵ月毎のリツキシマブの投与を行う。また、日和見感染症は、呼吸不全により発症することが多い。免疫抑制療法中には、ST合剤(1~2g 48時間毎/保険適用外使用)の投与や、そのほかの感染症併発に細心の注意をはらう。4 今後の展望RPGNの生命予後は各病型とも早期発見、早期治療開始が進み格段の改善をみた。しかしながら、進行が急速で治療開始時の腎機能進行例の腎予後はいまだ不良であり、初期治療ならびにその後の維持治療に工夫を要する。新たな薬剤の治験が開始されており、早期発見体制の確立と共に、予後改善の実現が待たれる。抗GBM腎炎については、早期発見がいまだ不能で、過去30年間にわたり腎予後は不良のままで改善はみられていない。現在欧州を中心に抗GBM腎炎に対する新たな薬物治療の治験が進められている7)。5 主たる診療科腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本腎臓学会ホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)急速進行性腎炎症候群の診療指針 第2版(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 急速進行性糸球体腎炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)旭 浩一ほか. 腎臓領域指定難病 2017年度新規受療患者数:全国アンケート調査. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)難治性腎疾患に関する調査研究 平成30年度分担研究報告書.2019.2)杉山 斉ほか. 腎臓病総合レジストリー(J-RBR/J-KDR) 2022年次報告と経過報告.第66回日本腎臓学会学術総会3)日本透析医学会 編集. 我が国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在)4)Atkins RC, et al. J Am Soc Nephrol. 1996;7:2271-2278.5)厚生労働省特定疾患進行性腎障害に関する調査研究班. 急速進行性腎炎症候群の診療指針 第2版. 日腎誌. 2011;53:509-555.6)Kaneko S, et al. Clin Exp Nephrol. 2022;26:234-246.7)Soveri I, et al. Kidney Int. 2019;96:1234-1238.公開履歴初回2024年11月7日

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第237回 「新たな地域医療構想」の議論本格化、どんどん増える“協議”する項目、元々機能していなかった地域医療構想調整会議のさらなる形骸化が心配

四病協が新たな地域医療構想における「医療機関機能」のイメージ案に再考求めるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。野球シーズンも終わってしまいました。米国のMLBは、大谷 翔平選手が所属するロサンゼルス・ドジャースが4年ぶりのワールドシリーズ優勝を決めました。前の優勝は4年前、2020年です。このときはコロナ禍の真っ只中、レギュラーシーズンの試合数はわずか60試合で、ワールドシリーズも両チーム(相手はタンパベイ・レイズ)の本拠地でもないテキサス州のグローブライフ・フィールドで行われました。しかも、試合のとき以外は選手全員がホテルに缶詰めとなって全試合を戦うバブル方式(まとまった泡の中で開催する、という意味)でした。さらに、ジャスティン・ターナー選手が新型コロナウイルス陽性なのに出場して物議を醸すなど、優勝にちょっとしたケチも付きました。たった4年前ですが、コロナ禍というのはいろんなことが異常だったなと改めて思います。そのドジャース、今年は年間162試合をフルに戦い、ポストシーズンでさらに16試合、最後は宿敵ニューヨーク・ヤンキースを破っての優勝(しかもパレード付き)ということで、文句のつけようがない正真正銘の世界一です。選手にとってもファンにとっても喜びはひとしおでしょう。それにしても、ワールドシリーズ第5戦の5回表、ヤンキースのアーロン・ジャッジ選手、アンソニー・ボルピー選手、ゲリット・コール投手が連続して守備のミスを連発、5点差を逆転され自滅していったのには驚きました。それも高校生でもしないような単純ミスばかりです。王者ヤンキースの選手も普通の人間で、大舞台では緊張したり、うっかりしたりするということですね。いやはや、野球は面白いです。さて、今回は厚生労働省の「新たな地域医療構想等に関する検討会」で議論されている「医療機関機能」のイメージ案に対して、四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会で構成)が再考を求めたことについて書いてみたいと思います。四病協はいったい何が不満だったのでしょうか。入院医療だけでなく、外来・在宅医療、介護との連携等を含む医療提供体制全体の課題解決を図る「新たな地域医療構想」厚生労働省の「新たな地域医療構想等に関する検討会」は、2025年を目標年とする現在の地域医療構想の「次」について検討を進める会です。2040年を目処に、それまでにどのような医療提供の姿を作っていくのかが、多面的に議論されています。2024年3月29日に第1回が開かれて以降、10月17日までに10回を数えました。8月26日に開かれた第7回では、厚労省が“中間取りまとめ”として「新たな地域医療構想を通じて目指すべき医療について」と題する資料を提示、次のような基本的な考え方が示され、委員の了承も得て本格的な議論に入りました。85歳以上の高齢者の増加や人口減少がさらに進む2040年以降においても、全ての地域・全ての世代の患者が、適切な医療・介護を受け、必要に応じて入院し、日常生活に戻ることができ、同時に、医療従事者も持続可能な働き方を確保できる医療提供体制を実現する必要がある。このため、入院医療だけでなく、外来医療・在宅医療、介護との連携等を含め、地域における長期的に共有すべき医療提供体制のあるべき姿・目標として、地域医療構想を位置づける。人口や医療需要の変化に柔軟に対応できるよう、二次医療圏を基本とする構想区域や調整会議のあり方等を見直した上で、医療・介護関係者、都道府県、市区町村等が連携し、限りある医療資源を最適化・効率化しながら、「治す医療」を担う医療機関と「治し、支える医療」を担う医療機関の役割分担を明確化し、「地域完結型」の医療・介護提供体制を構築する。端的に言えば、今の地域医療構想が、病床の機能分化・連携のみに重点を置いていたのに対し、次の地域医療構想は、入院医療だけでなく、外来・在宅医療、介護との連携等を含む、医療提供体制全体の課題解決を図るため大幅にバージョンアップを図る、ということです。四病協での指摘はちょっと神経質過ぎる気もさて、四病院団体協議会は、厚労省が示した構想区域で求められる「医療機関機能のイメージ案」が誤解を生みかねないなどとして、11月にも書き換えを求める意見を出す方針を決めました。これは、四病協が10月23日に開いた記者会見で、日本病院会の相澤 孝夫会長が明らかにしたものです。「医療機関機能のイメージ案」とは、9月30日と10月17日に開かれた「新たな地域医療構想等に関する検討会」で厚労省が示したものです。下図のように、医療機関に報告を求める機能の類型について、(1)高齢者救急の受け皿となり地域への復帰を目指す機能、(2)在宅医療を提供し、地域の生活を支える機能、(3)救急医療等の急性期の医療を広く提供する機能、の3項目と「その他地域を支える機能」を提示しています。新たな地域医療構想等に関する検討会(令和6年10月17日)提出資料より10月23日付のキャリアブレインマネジメントなどの報道によれば、四病協では、(1)の病院は高齢者の救急医療のみに対応すればよいのか、という指摘があったほか、(3)の病院は3次救急医療だけを提供すればよいのか、といった意見が出て、「誤解を生む」との声が上がったとのことです。相澤氏は記者会見で、「イメージ案を書き直してもらうようにしたらどうかということで、四病協としての意見をまとめて厚労省に提出していく」と述べたとのことです。確かに、この図をぼーっと眺めると、「高齢者救急の受け皿」と「救急医療等の急性期の医療」は別の医療機関が担うように見えるかもしれません。ただ、「医療機関」と書かれているのではなく「医療機関機能」と、「機能」という言葉が付いています。四病協の指摘はちょっと神経質過ぎる気もします。とは言え、適当に書かれたポンチ絵が一人歩きしてしまうこともよくあります。まだ何も決まっていないので、誤解を生まない表現に変えておくことは大切かもしれません。地域医療構想調整会議も見直さないと次の地域医療構想も“絵に描いた餅”で終わりかねない私自身がこの「新たな地域医療構想」で気になるのは、検討すべき(あるいは協議すべき)項目が多岐に渡り、多過ぎる点です。病床の機能分化・連携推進だけが目的だった今の地域医療構想ですら、地域医療構想調整会議(いわゆる協議の場)の多くはほとんど機能しなかったと言われています。結果、多くの構想区域で病床の機能分化は進まず、急性期病床は思うようには減らず、回復期病床が足りない状況を招いたわけです。地域医療構想調整会議という組織には、現状、大きな強制力はありません。ダラダラ協議をして、何も決めなくても罰則もありません。唯一、地域医療構想調整会議での協議が整わないときに、都道府県知事は公的医療機関には「不足する医療機能を提供することを指示」でき、民間医療機関には「不足する医療機能を提供することを要請」できるくらいです。都道府県知事の医療機関に対する「要請」はほとんど意味がなく、実質機能しないことはコロナ禍で実証済みです。「新たな地域医療構想」に向けて、地域医療構想調整会議の位置付けや強制力、権限、さらには都道府県知事の権限も見直さないと、「地域医療構想」はまた“絵に描いた餅”で終わりかねません。これからの「検討会」の議論の行方に注目したいと思います。

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