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高用量タンパク質投与、人工呼吸器装着患者には無益/Lancet

 人工呼吸器を要する重症患者への高用量タンパク質投与は標準量タンパク質投与と比較して、健康関連QOLを悪化させ、集中治療室(ICU)入室後180日間の機能的アウトカムを改善しなかった。オランダ・マーストリヒト大学のJulia L. M. Bels氏らPRECISe study teamが、同国とベルギーで実施した「PRECISe試験」の結果を報告した。先行研究で、重症患者へのタンパク質投与量の増加が、筋萎縮を緩和し長期的アウトカムを改善する可能性が示されていた。Lancet誌オンライン版2024年8月17日号掲載の報告。高用量(2.0g/kg/日)vs.標準量(同1.3g/kg/日)の無作為化試験 PRECISe試験は、オランダの5病院とベルギーの5病院で行われた研究者主導の多施設共同並行群間二重盲検無作為化比較試験である。機械的人工呼吸器を装着した重症患者への経腸栄養によるタンパク質投与について、高用量(すわなち1日当たり2.0g/kg)が標準量(同1.3g/kg)と比較して、健康関連QOLと機能的アウトカムを改善するかどうかを評価した。試験組み入れ基準は、ICU入室後24時間以内に侵襲的人工呼吸器による管理を開始し、同装着期間が3日以上と予想されることとした。除外基準は、経腸栄養禁忌、瀕死状態、BMI値18未満、透析不要コードの腎不全、または肝性脳症であった。 患者は双方向ウェブ応答システムを介して、2つの試験群に対応した4つの無作為化ラベルの1つ(すなわち各群2つの無作為化ラベルを有する標準または高タンパク質群)に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。無作為化には置換ブロック法が用いられ、ブロックサイズは8および12で試験施設ごとに層別化した。参加者、ケア提供者、研究者、アウトカム評価者、データ分析者、独立データ安全性監視委員会はすべて割り付けについて盲検化された。 患者は、1.3kcal/mLおよび0.06g/mLのタンパク質(標準タンパク質)または1.3kcal/mLおよび0.10g/mLのタンパク質(高タンパク質)を含む経腸栄養剤を投与された。本試験の栄養介入は、患者のICU入室中で経腸栄養が必要とされた期間(最長90日)に限定された。 主要アウトカムは、無作為化後30日、90日、180日時点でのEuroQoL 5-Dimension 5-level(EQ-5D-5L)健康効用値(health utility score)で、ベースラインのEQ-5D-5L健康効用値で補正し評価した。180日間の試験期間中、高タンパク質でEQ-5D-5L健康効用値が低い 2020年11月19日~2023年4月14日に935例が無作為化された。うち335例(35.8%)が女性、600例(64.2%)が男性で、465例(49.7%)が標準タンパク質群に、470例(50.3%)が高タンパク質群に割り付けられた。 標準タンパク質群の430/465例(92.5%)と、高タンパク質群の419/470例(89.1%)が、主要アウトカムの評価を受けた。 主要アウトカムである無作為化後180日間のEQ-5D-5L健康効用値(30日、90日、180日時点で評価)は、高タンパク質群の患者が標準タンパク質群の患者より低く、平均群間差は-0.05(95%信頼区間[CI]:-0.10~-0.01、p=0.031)であった。 安全性アウトカムに関して、全フォローアップ期間中の死亡確率は標準タンパク質群0.38(SE 0.02)、高タンパク質群0.42(SE 0.02)であった(ハザード比:1.14、95%CI:0.92~1.40、p=0.22)。 高タンパク質群の患者では、消化管不耐性症状の発生頻度が高かった(オッズ比:1.76、95%CI:1.06~2.92、p=0.030)。その他の有害事象の発現頻度は群間で差がなかった。

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押さえておきたい「合理的配慮」のポイント【実践!産業医のしごと】

押さえておきたい「合理的配慮」のポイント2016(平成28)年4月より、改正障害者雇用促進法が施行され、雇用分野における「合理的配慮」の提供が義務とされました。合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と同じように保障されるとともに、教育や就業、その他社会生活において平等に参加できるように周囲が配慮することを指します。現在、すでに法の施行から8年が経過していますが、合理的配慮は職場において十分に浸透したとはいえない状況にあります。合理的配慮への対応が不十分な職場がある一方で、合理的配慮の求めにどこまでも対応しようとして苦慮する職場もあるようです。産業医は合理的配慮に直接関わる立場ではないものの、仕事と人を適合させることが役割です。働く人の専門家の立場として意見を述べ、必要に応じて主治医との連携、職場や人事等も含めた、関係者間の調整的なハブの立場として関わることが求められています。今回は、合理的配慮について解説していきます。職場における合理的配慮は、仕事に支障となる障壁を解消する措置である合理的配慮の概念は米国の発祥で、障害を理由とする差別を禁止した連邦法である「障害を持つアメリカ人法(Americans with Disabilities Act:ADA)」の制定を機に広まります。法学者の長谷川 珠子氏によると、ADAにおける合理的配慮は、「障害」を持ち、かつ当該職務に対して「適格性」を有する人を適用(保護)の対象としています1)。「適格性」とは、合理的配慮があれば(あるいはなくとも)「職務の本質的機能」の遂行ができる人を指し、合理的配慮があっても「当該職務の本質的機能」を遂行できない人は、障害者であっても保護の対象とはならない、とされています。ジョブ型の雇用である米国らしい法律ともいえますが、合理的配慮とは、仕事をするために障壁となっている事柄に関して必要かつ適切な調整を行うこと、と捉えるのが基本です。日本で厚生労働省が制定した「合理的配慮指針」2)では、合理的配慮の説明として「障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき…(中略)…措置」と記載されています。基本的な考え方は米国と大きく変わらず、合理的配慮とは働くために必要な合理性がある配慮であり、障壁のために本来のパフォーマンスを発揮できない場合には調整を行う必要がある、という考え方です。実際にあった職場における合理的配慮の申し出合理的配慮の申し出があった場合に、企業はどのように合意を形成していくのが望ましいのでしょうか。下記は、私が担当する企業で、精神障害を持つ方から合理的配慮の申し出があったケースです。過集中の傾向があり、業務中に疲労がたまったときは、自由に休憩させてほしい。不安が高まるため、納期のない自分のペースでできる仕事を担当したい。過去のトラウマを思い出すため、仕事でミスをしても厳しく指導しないでほしい。合理的配慮を進める際に、カギとなるのは対話です。何が障壁となるかは、当事者である本人にしかわかりません。精神障害の場合、さらに個別性は高く、画一的な配慮はまったく意味をなさないこともあります。また、すべての要求に応じようとすると、職場に負担がかかり、公正性の観点からも問題が生じることがあります。結局のところ、必要なステップを踏みながら、関係者の間で建設的に対話をする以外の方法はありません。合意形成のステップ配慮する事柄を決めるための合意形成のステップを示します。以下の流れで進めていきます。1)当事者からの意思表明(申し出)2)希望や理由を聞き取りながら職場と本人で話し合いを行う3)過度な負担(設備、費用等)とならない範囲で対応を検討する4)職場で対応できる内容を本人に伝え、理由も説明する5)お互いに合意した配慮を実施する6)定期的にその内容や程度について見直し・改善をする対話を通じて、職場と当事者の理解を深め、双方に納得感がある合意が得られることが重要です。また配慮が困難な場合でも、対話を尽くし、代替案が取れないか等、互いに納得できるプロセスを経るように意識しましょう。先ほどの例で挙げたケースは対話の結果、以下の内容で合意を得ました。  合理的配慮の例画像を拡大する「合理的配慮」は記録に残して、定期的に見直す合理的配慮の内容に合意した際は、確認書として記録に残すことが重要です。その際に必要なのは以下の4点です。1)従業員側の希望する配慮とその理由2)企業側が実施できない配慮とその理由3)対話によって決定した合意的配慮の事柄4)本人および企業側の署名合理的配慮は、上司の異動や組織変更などがあっても継続するように留意します。また、環境や業務の変化によって必要とする配慮が変わることもあるため、定期的に見直すようにしましょう。合理的配慮が浸透している職場は、すべての人が働きやすい合理的配慮が浸透している職場は、障害の有無にかかわらず、すべての労働者にとって働きやすい職場であるはずです。働く人の障壁を排除することによって能力を発揮でき、仕事のパフォーマンスが向上します。合理的配慮とは個別性への対応であり、産業医はときに組織の潤滑油となり、労働者と企業側の間に立つ専門家としての機能が求められています。合理的配慮を理解し、安心して働ける職場を支援しましょう。参考文献・参考サイト1)アメリカにおける「合理的配慮」について/日本学術振興会 長谷川珠子 2)合理的配慮指針(平成27年厚生労働省告示第117号)/厚生労働省

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第228回 パワハラの訴えを撤回させようとまたパワハラ 札幌医大教授が今年2回目の懲戒処分で停職合計8ヵ月に

台風10号の大雨で北陸新幹線経由が注目こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。台風10号には皆さんほとほと参ったのではないでしょうか。大雨に見舞われた地域の方々だけではなく、出張や旅行などで“東海道”や“山陽道”を移動しようとする人も大変だったようです。飛行機や東海道新幹線が止まる中、関西方面から関東へは、まず福井の敦賀に出て、北陸新幹線経由で東京に向かう、というルートが注目されていました。JR西日本も北陸新幹線と特急列車サンダーバード(大阪から敦賀への特急列車)を増発するほどでした。これからも台風などによって似た気象状況は頻繁に起きそうです。皆さんもこの迂回ルート、頭の片隅に入れておくといいかもしれません。パワハラを断固として認めずあくまでも「必要な指導だった」と兵庫県知事断続的な雨が続いたこの週末、私はMLBのドジャース戦や、兵庫県の斎藤 元彦知事のパワハラの疑いなどを告発する文書をめぐって開かれた県議会調査特別委員会(百条委員会)のライブ中継を観るなどして時間を潰しました。証人尋問での斎藤知事の受け答えで感心したのは、「パワハラをしていた」を断固として認めないその意志の強さです。あくまでも「必要な指導だった」と無表情で言ってのける鉄面皮振りは、ホラー映画を観ているようでした。さらに、委員から「出張先で玄関の20メートルほど手前で公用車を降りて歩かされ、出迎えた職員らをどなり散らしたのは事実か」問われたのに対し、「歩かされたことを怒ったのではなく、円滑な車の進入経路を確保していなかったことを注意した」と説明していたのにも驚きました。それにしても、百条委員会の委員たち(各党の県議会議員)はちょっと追及が甘過ぎますね。誰も知事を追い詰め、しどろもどろにさせることができませんでした。各紙報道によれば、百条委員会終了後、報道陣から進退を問われた斎藤知事は「知事としての仕事を果たすのが私の責任」と続投の意思を改めて表明、「職員からの人望や信頼感が1ミリもないということはないと思っている。信頼関係を再構築する」と話したとのことです。信頼感が“ミリ単位”かつ、レームダック状態となりそうな斎藤知事で、今後の兵庫県政は大丈夫なのでしょうか。心配になります。札幌医科大パワハラ事件で2回目の懲戒処分ということで、今回は8月に各紙で報道された、札幌医科大学(札幌市)におけるパワハラ問題について書いてみたいと思います。札幌医科大は8月8日、今年5月に教員2人にパワハラなどをしたとして停職3ヵ月になった50代男性教授について、処分直前の4月、同教授が被害を訴えたと推測した相手に対して申し出を撤回するよう求めていたことがわかったとして、新たに停職5ヵ月の処分を行いました。停職期間は計8ヵ月となりました。さらに、この教授の処分軽減のために動いていた50歳代の准教授も停職 1ヵ月の処分を受けました。パワハラで就業環境を害したほか、アカハラも行い研究、教育環境を害したこの教授については、昨年に複数人からハラスメント被害の申し出があり、大学側は調査の結果その事実を認定し、今年5月29日に停職3ヵ月の処分を行ったばかりでした。このときの処分は、「所属する教員2名に対して、パワーハラスメントを行い、就業環境を害したほか、うち1名に対してはアカデミックハラスメントも行い、研究、教育環境を害した」(同大プレスリリースより)ことが理由でした。部下を呼び出し処分の撤回・軽減に向けた嘆願書作成に協力するよう強く要請今回のパワハラは、5月の処分が下る前、調査が進んでいる段階で起きていました。同大学が8月8日に出したプレスリリースの「職員の懲戒処分について」によれば、「4月、当該教授は、自らの懲戒処分を軽減するため、ハラスメントの申出人と類推した教室員に対し、ハラスメントの申出の有無を尋ねるなどの不利益な取扱いを行ったほか、ハラスメントの申出の撤回を求めるなどのパワー・ハラスメントを行った」とのことです。一方、准教授については、「現状の教室体制を維持するため、当該教室員に対し、ハラスメントに係る証言内容等を確認するなどの不利益な取扱いを行ったほか、当該教授の懲戒処分への反証の協力を求めるパワー・ハラスメントを行った」とのことです。端的に言えば、ハラスメントの申出人と思われる部下を呼び出し、申し出をしたかどうかを問い詰め、処分の撤回・軽減に向けた嘆願書の作成に協力するよう強く要請した、ということです。しかし、大学によれば、この「申し出人だと思われる部下」はハラスメントを訴え、認定された2人とは別の人物だったとのことです。教授と准教授は要請する相手を間違ってしまったようです。なお、8月9日付の東京読売新聞によれば、教授の代理人弁護士は同紙の取材に対し、「教授はパワハラをしておらず今回も事実誤認がある。処分内容も重すぎで、社会的相当性を逸脱した懲戒権の乱用だ」と話したとのことです。嘆願書作成への協力要請に応じず、一連のやり取りの証拠を大学に提出北海道の経済誌『財界さっぽろ』8月号(7月15日発行)は、「法廷闘争に発展も…札幌医科大学、名物教授パワハラ停職の波紋」と題する記事を掲載、事件の経緯をより詳細に報じています。同記事によれば、処分を受けた教授は「がん治療においては世界的エキスパート」で「全国ネットの人気テレビ番組でも取り上げられたこともある」X氏です。X氏のパワハラを大学に申し立てたのは同じ医局に所属する3人の医師で、計30件のパワハラの申し立てたとのことです。しかし、学内調査の結果、最終的にパワハラの被害者として認定されたのは2人、6ケースでした。「医者を辞めろ」と怒鳴りつけたり、新規患者の担当や手術を行わせないようにしたり、学位論文の作成を意図的に妨害したりしたことなどがパワハラと認定されました。今年5月の処分は、この2人に対するパワハラが認定された結果として下されたものでした。しかし、処分前、調査の過程では3人の申し立てが検討されていました。それを知ったX氏が准教授とともに、学内調査で最終的に認定されなかったもう1人の医師を呼び出し、処分の撤回や嘆願書作成に協力するよう求めたというのです。この医師はその要請に応じず、一連のやり取りの証拠を大学に提出、それが2回目の処分につながったというのが真相のようです。同記事によれば、「(5月の)処分発表後、X氏は弁護士を通じて、裁判所に停職撤回の仮処分命令を申し立てた。しかし、審査の結果この申し立ては却下された」とのことです。有名ドキュメンタリー番組に登場の医師X氏は、関西地方の私立医大を卒業後、国立大学医学部の医局に入局。複数病院の勤務などを経て、40代で札幌医大の教授に就任しました。手術支援ロボットを駆使した手術で脚光を浴び、NHKや民放の有名なドキュメンタリー番組などでロボット手術のエキスパートとして取り上げられたこともあります。つまり、X氏は札幌医大にとってはまさにスター医師だったわけです。ただ、『財界さっぽろ』の記事は、「目立つ教授だけに最新機材を自分の科にどんどん導入し、他科とのパワーバランスが崩れるようなもこともあったようです」、「外部の人間には人当たりが良いが、就任当初からハラスメント気質があったようです」といった関係者の言葉を紹介しています。何年にもわたるパワハラの積み重ねが、被害者たちの怒りに火を付けるこの連載でも、「第104回 パワハラ事件に大甘の医療界、旭川医大、大津市民の幕引きの背後に感じた“バーター”の存在」、「第154回 日本はパワハラ、セクハラ、性犯罪に鈍感、寛容すぎる?WHO葛西氏解任が日本に迫る意識改造とは?(前編)」、「第227回 東京女子医大第三者委員会報告書を読む(後編)『“マイクロマネジメント”』と評された岩本氏が招いた『どん底のどん底』より深い“底”」などで、医療界におけるパワハラについて書いてきました。共通するのは、パワハラを行う人間は、1回、2回のパワハラが問題になるのではなく、何年にもわたるパワハラの積み重ねが、被害者たちの怒りに火を付け、内部告発などにつながっているという点です。それはあたかも、コップにポツリ、ポツリと溜まった水がある時点で満杯となって溢れ出すかのようです。パワハラを行う人の多くは相手の気持ちを慮ることをしないので、限界を超えてしまったことに気付きません。結果、告発された時はすでに手遅れ、ということになります。「第154回」でも書きましたが、欧米先進国では、パワハラやセクハラについては表沙汰になった(訴えられた、告発された)段階でほぼアウト、というのが常識です。そもそも複数の人間から告発された段階で、仕事の能力以前にその人の人間性やリーダシップに疑問符が付けられてしまいます。そうした意味では、札幌医大の教授も、兵庫県知事も、人の上に立つ人間ということでは、法律以前の問題としてすでにアウトと言えるのかもしれません。

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高齢のCKD患者、タンパク質制限は本当に必要?

 軽度または中等度の慢性腎臓病(CKD)を有する高齢者におけるタンパク質摂取量と全死亡率を調査した結果、タンパク質摂取量が多いほど死亡リスクが低く、タンパク質摂取の利点が欠点を上回る可能性があることを、スウェーデン・カロリンスカ研究所のAdrian Carballo-Casla氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2024年8月1日号掲載の報告。 健康な高齢者では健康を維持するために一定のタンパク質を摂取することが推奨されているが、CKD患者ではCKDのステージ進行を抑制することを目的として、タンパク質摂取量を制限することが推奨されている。しかし、軽度または中等度のCKDを有する高齢者のタンパク質摂取を制限した場合の全般的な健康への影響については十分なエビデンスが得られていない。 そこで研究グループは、60歳以上の地域在住成人で構成されたスウェーデンおよびスペインの3つのコホート研究の縦断的データを統合し、国際腎臓病ガイドライン機構(KDIGO)の分類によるCKDステージ1~3の高齢者における総タンパク質、動物性タンパク質、植物性タンパク質の摂取量と10年全死亡率との関連性を推定し、その結果をCKDを有さない高齢者(対照群)の結果と比較した。参加者は2001年3月~2017年6月に募集され、最長で2024年1月まで追跡された。食事や死亡率に関する情報がない参加者、CKDステージが4または5の参加者、腎代替療法を受けている参加者、および腎移植を受けた参加者は除外された。 タンパク質摂取量は、食事歴および食物摂取頻度調査票により推定された。穀物、豆類、ナッツ類、その他の植物由来のタンパク質は植物性タンパク質とみなされ、乳製品、肉、卵、魚類、その他の動物由来のタンパク質は動物性タンパク質とみなされた。Cox比例ハザードモデルを用いて、タンパク質摂取量と死亡率の関連性についてハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。●合計1万4,399例(CKD群:4,789例、対照群:9,610例)が解析に含まれた。CKD群は女性が2,726例(56.9%)、平均年齢が78.0(SD 7.2)歳であった。追跡期間中に、両群合わせて1,468例が死亡した。●CKD群では、総タンパク質摂取量が多いほど死亡リスクが低くなることが示された。 ・1.00g/kg/日vs.0.80g/kg/日のHR 0.88(95%CI:0.79~0.98) ・1.20g/kg/日vs.0.80g/kg/日のHR 0.79(95%CI:0.66~0.95) ・1.40g/kg/日vs.0.80g/kg/日のHR 0.73(95%CI:0.57~0.92) ・1.60g/kg/日vs.0.80g/kg/日のHR 0.67(95%CI:0.51~0.89)●CKD群の各タンパク質摂取量0.20g/kg/日増加当たりの死亡のHRは、総タンパク質、動物性タンパク質、植物性タンパク質で同等であった。 ・総タンパク質のHR 0.92(95%CI:0.86~0.98) ・動物性タンパク質のHR 0.88(95%CI:0.81~0.95) ・植物性タンパク質のHR 0.80(95%CI:0.65~0.98)●CKD群の総タンパク質摂取量0.20g/kg/日増加当たりの死亡のHRは、75歳未満でも75歳以上でも同等であった(相互作用のp=0.51)。 ・75歳未満のHR 0.94(95%CI:0.85~1.04) ・75歳以上のHR 0.91(95%CI:0.85~0.98)●総タンパク質摂取量と死亡率との逆相関は、対照群のほうがCKD群よりも大きかった(相互作用のp=0.02)。 ・CKD群のHR 0.92(95%CI:0.86~0.98) ・対照群のHR 0.85(95%CI:0.79~0.92) これらの結果より、研究グループは「高齢者を対象としたこのマルチコホート研究では、総タンパク質、動物性タンパク質、植物性タンパク質の摂取量が多いほど、CKD患者の死亡リスクが低いことが示された。CKDを有さない人では関連性がより強く、軽度または中等度のCKDを有する高齢者ではタンパク質摂取の利点が欠点を上回る可能性があることを示唆している」とまとめた。

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アトピー性皮膚炎へのデュピルマブ、5年有効性・安全性は?

 デュピルマブで治療を受けたアトピー性皮膚炎患者を最長5年追跡調査したコホート研究において、デュピルマブの臨床的有効性は維持された。一方で3分の2の患者は3週ごとまたは4週ごとの投与量に漸減し、23.8%の患者が治療を中止した。治療中止の主な理由は有害事象、無効であった。これまで日常診療でのアドピー性皮膚炎に対するデュピルマブの、長期の有効性と安全性に関するデータは限られていた。オランダ・ユトレヒト大学医療センターのCeleste M. Boesjes氏らが、JAMA Dermatology誌オンライン版2024年8月7日号で報告した。 研究グループは、日常診療で最長5年間治療を受けたアトピー性皮膚炎の小児、成人および高齢者における、デュピルマブ治療の臨床的有効性と治療中止の理由を評価する前向き多施設コホート研究を行った。 BioDayレジストリ(オランダの大学病院4施設とその他10施設で登録)を用いて、2017年10月~2022年12月にデュピルマブによる治療を受けたすべての年齢のアトピー性皮膚炎患者を特定し、研究対象とした。 臨床的有効性は、小児(18歳未満)、成人(18~64歳)、高齢者(65歳以上)で層別化を行い、Eczema Area and Severity Index(EASI)、Investigator Global Assessment(IGA)、そう痒Numeric Rating Scale(NRS)で評価した。さらに、TARC値、好酸球数などを評価。デュピルマブを中止した患者について、中止の理由を評価した。 主な結果は以下のとおり。・計1,286例のアトピー性皮膚炎患者(年齢中央値38歳[四分位範囲[IQR]:26~54]、男性726例[56.6%])がデュピルマブによる治療を受けた(小児130例、成人1,025例、高齢者131例)。・追跡期間中央値は87.5ヵ月(IQR:32.0~157.0)。・ほとんどの患者が最長5年の治療期間にわたりアトピー性皮膚炎のコントロールを維持しており、EASIが7以下の患者は78.6~92.3%、そう痒NRSが4以下の患者は72.2~88.2%であった。・全患者の最大70.5%の投与間隔が延長し、ほとんどが300mgの3週ごとまたは4週ごと投与となっていた。・治療開始5年後、EASIスコア平均値は2.7(95%信頼区間[CI]:1.2~4.2)、そう痒NRS平均値は3.5(2.7~4.3)であった。・EASI、IGAについて、観察期間を通じて年齢群間に統計学的有意差がみられたが、その差(52週時点でEASIは0.3~1.6、IGAは0.12~0.26)は非常に小さかった。そう痒NRSについては、統計学的有意差はみられなかった。・TARC中央値は、1,751pg/mL(95%CI:1,614~1,900)から治療開始6ヵ月で390pg/mL(368~413)へ大幅に低下し、低値を維持した。・好酸球数中央値は16週まで一時的に上昇したが、その後は経時的に統計学的有意な低下がみられた。・合計306例(23.8%)がデュピルマブを中止し、中止までの期間中央値は54.0週(IQR:29.0~110.0)であった。多く報告された中止の理由は、有害事象98例(7.6%)、無効85例(6.6%)であった。41例(3.2%)がデュピルマブ投与を再開し、これらの患者の大半で奏効が認められた。

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貧血改善も期待できる骨髄線維症薬「オムジャラ錠100mg/150mg/200mg」【最新!DI情報】第22回

貧血改善も期待できる骨髄線維症薬「オムジャラ錠100mg/150mg/200mg」今回は、ヤヌスキナーゼ(JAK)/アクチビンA受容体1型(ACVR1)阻害薬「モメロチニブ塩酸塩水和物(商品名:オムジャラ錠100mg/150mg/200mg、製造販売元:グラクソ・スミスクライン)」を紹介します。本剤は約10年ぶりの骨髄線維症の新薬であり、抗腫瘍効果だけでなく、貧血改善効果も示すことが期待されています。<効能・効果>骨髄線維症の適応で、2024年6月24日に製造販売承認を取得し、同年8月15日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはモメロチニブとして200mgを1日1回経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。<安全性>重大な副作用として、感染症(2.3%)、骨髄抑制(血小板減少症[18.3%]、貧血[5.8%]、好中球減少症[4.7%]など)、肝機能障害(6.4%)、間質性肺疾患(頻度不明)があります。その他の副作用として、悪心(10%以上)、ビタミンB1欠乏、頭痛、浮動性めまい、錯感覚、末梢性ニューロパチー、回転性めまい、霧視、低血圧、潮紅、咳嗽、下痢、腹痛、嘔吐、便秘、四肢痛、関節痛、疲労、無力症(いずれも1%以上~10%未満)、失神、血腫、発熱、挫傷(いずれも1%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、骨髄線維症にかかわるタンパク質(JAK)の働きを選択的に阻害することにより、脾臓の腫れ(脾腫)を縮小します。また、骨髄線維症に伴う貧血にかかわるタンパク質(ACVR1)の働きを選択的に阻害することにより、血液中の鉄分を増やして造血を促します。2.体の抵抗力が弱まり、感染症(発熱、寒気、体がだるいなど)にかかりやすくなることがあります。人ごみを避けるなど、感染症にかからないように気をつけてください。3.帯状疱疹が現れることがあります。初期症状が現れた場合は、ただちに医師に連絡してください。4.妊婦または妊娠している可能性がある人は医師に相談してください。5.セント・ジョーンズ・ワートを含有する食品は、この薬の効果を下げる可能性があるので、控えてください。<ここがポイント!>骨髄線維症(MF)は、骨髄に広範な線維化を来す疾患の総称であり、脾臓の腫れ、貧血および血小板減少症を含む血液細胞の産生異常、サイトカインの過剰産生による全身性炎症がみられる血液がんです。MFの罹患期間中に高度な貧血や血小板減少が生じると、輸血を含む追加の支持療法が必要となり、輸血依存の患者の予後は悪く、生存期間が短縮されることが示されています。モメロチニブは日本における約10年ぶりとなるMF治療の新薬です。ヤヌスキナーゼ(JAK)1およびJAK2阻害による腫瘍増殖抑制作用に加え、アクチビンA受容体1型(ACVR1)阻害による造血作用を有しています。既存薬であるルキソリチニブ(商品名:ジャカビ錠)では骨髄抑制による貧血が高頻度で認められますが、モメロチニブはACVR1阻害作用により、MF治療の重要な課題である貧血に対する効果も期待できます。JAK阻害薬による治療歴のないMF患者を対象とした国際共同第III相試験(SIMPLIFY-1試験)において、24週時の脾臓容積がベースラインから35%以上縮小した患者の割合(SRR)は、モメロチニブ群で26.5%、ルキソリチニブ群で29.5%、非劣性の群間差は9%(95%信頼区間[CI]:2~16、p=0.014)であり、両側95%CIの下限が0を上回ったため、ルキソリチニブに対する非劣性を示しました。日本人集団では、24週時のSRRはモメロチニブ群で50.0%、ルキソリチニブ群で44.4%でした。一方、24週時の輸血非依存割合では、モメロチニブ群で66.5%、ルキソリチニブ群で49.3%、割合の群間差は18%(95%CI:9~26、p<0.001:名目上のp値)でした。

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芍薬甘草湯が効かないこむら返り【漢方カンファレンス】第8回

芍薬甘草湯が効かないこむら返り以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】70代男性主訴こむら返り、大腿の筋肉痛既往高血圧、糖尿病で内服治療生活歴喫煙(-)、飲酒(+)、散歩と体操を毎日行っている。病歴数年前から夜間を中心にこむら返りがある。ほぼ毎晩、寝返りを契機に両下腿に起こる。前医で芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)の処方を受けたが無効。普段から腰痛や大腿の筋肉痛がある。X年6月に受診した。現症身長159cm、体重61kg(BMI 24kg/m2)。体温36.2℃、血圧142/96mmHg、脈拍70回/分 整、呼吸数20回/分。身体所見では大腿神経進展テストで両側大腿四頭筋の短縮を認めた。経過初診時「???」3包 分3を処方。(解答は本ページ下部をチェック!)2週間後こむら返りの回数が減った。1ヵ月後こむら返りがなくなった。4ヵ月後大腿の筋肉痛が軽減して、以前よりよく歩けるようになった。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】寒がりですか? 暑がりですか?体の冷えを自覚しますか?のぼせはありませんか?暑がりで冷えはありません。のぼせることはありませんが、赤ら顔だとよくいわれます。こむら返りはいつ起こりやすいですか?夜間や明け方に多いです。どんな日に多いですか?寒い日や雨天に多くないですか?天候は関係ありません。よく運動した日に多いです。入浴では長くお湯に浸かるのが好きですか?冷房は好きですか?入浴は短いほうです。冷房は好きです。飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか?のどは渇きませんか?1日どれくらい飲み物を摂っていますか?温かい物、冷たい物どちらも飲みます。のどは渇きません。飲水は1日1.0L程度です。<ほかの随伴症状を確認>疲れやすいですか?横になりたいほどの倦怠感はありますか?倦怠感はなく、毎日散歩をしています。食欲はありますか?食欲はあります。尿は1日に何回出ますか?夜間尿はありますか?便秘・下痢はありませんか?尿は6~7回で、夜間尿は1回くらいです。便はほぼ毎日出ます。抜け毛が多くないですか?皮膚が乾燥しやすいですか?目が疲れやすくないですか?足はむくみやすいですか?抜け毛は多くありません。乾燥肌です。目はすぐに疲れます。足のむくみはありません。ほかに困っている症状はありますか?足の筋肉、とくに太ももがいつもこわばっているような感じで痛みがあります。また、腰痛があります。【診察】顔色はやや赤ら顔。脈診では浮沈間、強弱中間であった。また、舌は暗赤色、舌下静脈の怒張があり、乾燥した白色の舌苔が、軽度付着していた。腹診では腹力は中等度、腹直筋の緊張を認めた。触診では四肢に明らかな冷えはなく、皮膚は乾燥傾向であった。カンファレンスこむら返りには芍薬甘草湯が有名ですね。しかし今回の症例では芍薬甘草湯が無効です…。そういう場面でこそ漢方医の腕の見せどころだね!芍薬甘草湯の服用方法が気になります。まれに芍薬甘草湯が3包 分3で処方されていることをみかけます。芍薬甘草湯は甘草(かんぞう)が多く含まれる(3包中6.0g)ことから、偽アルドステロン症のリスクが高いですね。副作用の恐れから芍薬甘草湯の使用は1包 分1で頓服にとどめておくのが無難です。たしかに自分の診療でも「よく効いたので芍薬甘草湯が欲しい」と希望されることが多いのですが、偽アルドステロン症のリスクが気になってしまいます。そのようなケースではほかの漢方薬を予防薬として用いて芍薬甘草湯の使用量が減らせるとよいね。こむら返りは現代医学的には有痛性の筋けいれんですが、漢方ではどのように考えたらよいか、漢方診療のポイントの順にみていきましょう。問診では、暑がり、長風呂はしない、冷たい飲み物を好む、強い倦怠感はないなどから、「陽証」です。陰証を示唆する所見は乏しいため、陽証でよいですね。六病位ではどうでしょう?太陽病(悪寒・発熱など。第4回「今回のポイント」の項参照)や陽明病(腹満・便秘など)を示唆する所見はないので少陽病(第6回「今回のポイント」の項参照)です。いいですね!慢性疾患で明らかな冷えがなければ少陽病といわれます。では虚実はどうですか?脈の反発力は中等度、腹力も中等度であることから「虚実間」です。気血水の異常はどうでしょう?浮腫はなくて、雨天で悪化することもないので、水毒は目立ちません。血に関しては、男性なので月経は関係ないし…。本症例からは元気な高齢者のイメージが浮かびますね。先生の言うように水毒はなさそうです。瘀血に関しては、男性の場合、舌下静脈の怒張、歯肉の暗赤、臍周囲の圧痛などで判断します。また、痔の既往をたずねることも有用です。本症例では舌色が暗赤色で舌下静脈の怒張もあるので、瘀血はあると考えてよいでしょう。漢方ではこむら返りを、筋の働きが弱くなって起こると考えて、生体内の赤い液体「血」が量的に不足した病態(血虚)で起こるとまず考えるよ(血虚については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。芍薬甘草湯も血虚を改善する漢方薬に分類されることもあるんだ。ほかの血虚の症状をたずねるために皮膚の乾燥、脱毛、目の疲れを問診で確認しているのですね! 本症例では、こむら返り以外にも皮膚の乾燥や目が疲れやすいといった症状があります。そうですね。本症例では陰陽は陽証、気血水では血虚や瘀血が主体の病態といえますね。本症例をまとめましょう。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?暑がり、長風呂できない、倦怠感なし、冷房、冷たい飲み物を好む脈:浮沈間→少陽病(2)虚実はどうか脈:強弱中間、腹力:中等度→虚実間(3)気血水の異常を考える舌の暗赤色、舌下静脈の怒張→瘀血こむら返り、皮膚が乾燥、目が疲れる→血虚(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む大腿のこわばりと筋肉痛、腰痛解答・解説【解答】本症例は、血虚で痛みを伴う場合に用いる疎経活血湯(そけいかっけつとう)で治療しました。【解説】血虚に対する基本処方は四物湯(しもつとう)です。四物湯は、当帰(とうき)、川芎(せんきゅう)、芍薬(しゃくやく)、地黄(じおう)で構成されます。こむら返りを含む血虚の症状に対して、四物湯そのもので治療することもありますが、四物湯を含む漢方薬をその他の症状、徴候に応じて使い分けます。疎経活血湯は四物湯の4つの生薬に加えて駆瘀血作用、利水作用、鎮痛作用のある生薬が加わった構成です。疎経活血湯は、足腰が痛いとか筋肉痛があるときに用います。痛みは左優位であることが多く、疎経活血湯の典型例では、診察時に左右の肋骨や大腿を押すと、左側の方が痛いといいます。また、痩せ気味、赤ら顔といった特徴があるとされます。腰痛、坐骨神経痛、変形性膝関節症などの慢性の痛みを生じる疾患に対して用いる漢方薬です。さらに、当科では芍薬甘草湯が無効のこむら返りに対する疎経活血湯の有用性を報告1,2)しており、こむら返りの予防薬として用いることもあります。登山で考えると、芍薬甘草湯は即効性があるため、山登り中にこむら返りが起こったら芍薬甘草湯、山登り前の予防薬として疎経活血湯といった感じで活用するとよいですね。今回のポイント「血虚」の解説漢方では生体内を循環する赤い液体を「血」といい、血液およびその働きを含めた概念と考えます。血は生体の物質的側面を支えるとされています。血が量的に不足した病態が「血虚」です。血虚では、こむら返りのほか、皮膚の乾燥、赤ぎれ、眼精疲労、集中力の低下、脱毛が多い、爪が割れやすい、過少月経などの症状が出現します。また血虚の原因として、成長に見合った血の生成ができない、消耗性疾患や出血で血の消費が増大する、薬剤、放射線などにより血の生成が障害されるなどがあげられます。よい例として、悪性腫瘍における化学・放射線治療中の状態があがります。脱毛、皮膚の枯燥、爪が割れる、しびれ感などが出現することが多く、腫瘍自体とその治療により消耗して血虚に陥りやすいと考えることができます。また血虚は、血の流通障害である瘀血と合併することも多く、瘀血と血虚の治療が同時に必要な場合もあります。参考文献1)田原英一ほか. 日東医誌. 2011;62:660-663.2)土倉潤一郎ほか. 日東医誌. 2017;68:40-46.

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新クラスの抗菌薬、「人喰いバクテリア」にも有効か

 新たな抗菌性化合物により、マウスに感染した化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)を効果的に除去できることを示した研究成果が報告された。S. pyogenesは「人喰いバクテリア(劇症型溶血性レンサ球菌感染症)」の主な原因菌であり、この細菌による感染症により毎年50万人が死亡している。研究グループは、「この化合物は、薬剤耐性菌との闘いにおいて貴重な存在となり得る、新規クラスの抗菌薬の第1号となる可能性がある」と述べている。米セントルイス・ワシントン大学医学部分子微生物学分野のScott Hultgren氏らによるこの研究結果は、「Science Advances」に8月2日掲載された。 ペプチドミメティックなジヒドロチアゾロ環縮合2-ピリドンという分子構造を持つこの新しい化合物は、「GmPcides」と名付けられている。当初、Hultgren氏らは、共同研究者であるウメオ大学(スウェーデン)化学分野のFredrik Almqvist氏に、尿道カテーテルの表面に細菌のバイオフィルムが付着するのを防ぐ化合物の開発を依頼したが、結果的に、この化合物が複数の種類の細菌に対して感染防止効果を持っていることが判明したという。 論文の上席著者である、セントルイス・ワシントン大学医学部分子微生物学分野のMichael Caparon氏は、「エンテロコッカス属やブドウ球菌、クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)など、われわれがテストした全てのグラム陽性菌がこの化合物に対して感受性を示した」と話す。グラム陽性菌は細胞壁が厚く、感染時にさまざまな毒素を放出する傾向があり、薬剤耐性の黄色ブドウ球菌感染症、中毒性ショック症候群、その他の致命的な感染症の原因となっていると研究グループは説明する。 今回の研究では、S. pyogenesに感染させたマウスを用いて、皮膚軟部組織感染症(SSTI)に対するGmPcidesの効果が検討された。壊死性筋膜炎などで知られる皮膚軟部組織感染症には複数の細菌が関与し、症状の進行が早く、感染の広がりを抑えるために肢の切断を要する場合もあり、罹患者の約20%が死亡する。 その結果、GmPcidesを投与されたマウスでは未治療のマウスに比べて、体重減少が少なく、感染による症状として現れる潰瘍が小さく、感染からの回復も速いことが示された。 ただし、GmPcidesがどのようにしてこのような効果をもたらすのかは明確になっていない。しかし、顕微鏡による観察からは、GmPcidesが細菌の細胞膜に重要な影響を与えていることが示されている。Caparon氏は、「細胞膜の機能の1つは、外部からの物質を排除することだ。GmPcidesによる処理後5〜10分以内に膜が透過性を持ち始め、通常は排除されるべきものが細菌の中に入り込むようになることが分かっている」と説明する。GmPcidesによる細胞膜の損傷は、細菌が宿主に対して損傷を引き起こす機能や、宿主の免疫応答に対抗する能力を低下させることが考えられるという。 さらにGmPcidesによる治療では、薬剤耐性菌の発生が少ない可能性も示された。薬剤耐性菌を作成する実験では、治療に耐えられる細胞はごくわずかであり、そのため耐性を持つ菌が次世代に引き継がれることはほとんどなかった。 以上のように有望な結果が得られたとはいえ、Caparon氏は、GmPcidesが病院や薬局で入手できるようになるまでには、まだ時間がかかると話す。同氏らは、この研究で使用された化合物の特許を取得し、彼らが所有権を持つ企業QureTech Bio社にライセンスを供与した。同氏らはこの企業と協力して製薬開発や臨床試験を進め、GmPcidesを市場に出すことを計画している。

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ポケジェリ―AGS高齢者診療マニュアル

あなたのポケットにジェリアトリクス(老年医学)を!本書は、米国老年医学会(American Geriatrics Society)が刊行する、“Geriatrics At Your Fingertips”の翻訳版です。日本の超高齢社会において、すべての医師は老年医学のマインドセットを身につける必要があります。すなわち、内科学、総合診療を根幹におき、高齢者一人ひとりの尊厳を大切にする視点、特有の問題や複雑な症状を見極める洞察力、最適な薬剤・治療法を選択する判断力を加えた老年医学の考え方です。翻訳では全面的な薬剤監修も実施し、丁寧な日本化を試みました。実践で使いこなしながら学べる1冊になっています。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するポケジェリ―AGS高齢者診療マニュアル定価6,930円(税込)判型B6変判頁数472頁発行2024年8月編著者山田 悠史(Brookdale Department of Geriatrics and Palliative Medicine, Icahn School of Medicine at Mount Sinai)原田 洸(Brookdale Department of Geriatrics and Palliative Medicine,  Icahn School of Medicine at Mount Sinai)榎本 貴一(練馬光が丘病院 薬剤室)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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コロナ後遺症、6~11歳と12~17歳で症状は異なるか/JAMA

 米国・NYU Grossman School of MedicineのRachel S. Gross氏らは、RECOVER Pediatric Observational Cohort Study(RECOVER-Pediatrics)において、小児(6~11歳)と思春期児(12~17歳)の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後の罹患後症状(postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection:PASC)を特徴付ける研究指標を開発し、これらの年齢層で症状パターンは類似しているものの区別できることを示した。これまでPASC(またはlong COVID)に関する研究のほとんどは成人を対象としたもので、小児におけるPASCの病態についてはあまり知られていなかった。JAMA誌オンライン版2024年8月21日号掲載の報告。6~11歳の約900例と12~17歳の約4,500例について解析 RECOVER-Pediatricsコホート研究は、4つのコホートで構成され、前向き研究と後ろ向き研究を併合して解析した。今回は、SARS-CoV-2感染歴の有無にかかわらず医療機関および地域から新規に募集した0~25歳の参加者を含むde novo RECOVERコホートと、米国最大の思春期の脳の発達に関する長期研究であるAdolescent Brain Cognitive Development(ABCD)コホートのデータの解析結果が報告された。 対象は2022年3月~2023年12月に登録された6~17歳の、初感染日が明らかなSARS-CoV-2感染既往者(感染群)と、SARS-CoV-2ヌクレオカプシド抗体陰性が確認された非感染者(非感染群)であった。 9つの症状領域にわたる89の遷延症状に関する包括的な症状調査を行った。 主要アウトカムは、COVID-19パンデミック以降に発症または悪化した、調査完了時(感染後少なくとも90日以上)の4週以上持続する症状とした。4週以上続く症状を有していたが調査完了時に症状がなかった場合は、対象に含まなかった。 小児898例(感染群751例、非感染群147例)および思春期児4,469例(感染群3,109例、非感染群1,360例)が解析対象集団となった。背景は、小児が平均年齢8.6歳、女性49%、黒人またはアフリカ系アメリカ人11%、ヒスパニック系、ラテン系またはスペイン人34%、白人60%、思春期児がそれぞれ14.8歳、48%、13%、21%、73%であった。初感染から症状調査までの期間の中央値は、小児で506日、思春期児で556日であった。小児は神経認知症状、疼痛、消化器症状、思春期児は嗅覚/味覚障害、疼痛、疲労が多い 小児では感染者の45%(338/751例)、非感染者の33%(48/147例)、思春期児ではそれぞれ39%(1,219/3,109例)、27%(372/1,369例)が、持続する症状を少なくとも1つ有していると報告した。 性別、人種、民族で調整したモデルにおいて、小児と思春期児の両方で非感染者と比較して感染者で多くみられた症状(オッズ比の95%信頼区間下限が1を超えるもの)は14個あり、さらに小児のみでみられた症状は4個、思春期児のみでみられた症状は3個であった。これらの症状はほとんどすべての臓器系に影響を及ぼしていた。 感染歴と最も関連の高い症状の組み合わせを特定し、小児と思春期児のPASC研究指標を作成した。いずれも、全体的に健康や生活の質の低下と相関していた。小児では神経認知症状、疼痛、消化器症状、思春期児では嗅覚や味覚の変化や消失、疼痛、疲労に関連する症状が多かった。 クラスタリング解析により、小児では4個、思春期児では3個のPASC症状表現型(クラスター)が同定された。両年齢群ともに症状の負荷が大きいクラスターが1個存在し(成人と同様)、疲労と疼痛の症状が優勢なクラスターも同定された。その他のクラスターは年齢群で異なり、小児では神経心理および睡眠への影響を有するクラスター、消化器症状が優勢なクラスターが、思春期児では、主に味覚と嗅覚の消失を有するクラスターが同定された。

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医師偏在に対する6項目の考え方/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、定例会見を開催し、「医師偏在に対する日本医師会の考え方」について、過去の地域医療と医師会の取り組みや実績を辿りつつ、今後の医師偏在への医師会の取り組みについて、その考え方を説明した。 会見では松本会長が、日本医師会は、地域のかかりつけ医として自院の診療や在宅診療以外に「地域の時間外・救急対応」、「行政・医師会などの公益活動」、「地域保健・公衆衛生活動」、「多職種連携(訪問診療などの在宅医療ネットワークへの参画など)」、「その他(看護師・准看護師養成所、種々の診断書の作成など)」の活動を地域と連携して行い、住民の健康を守るため、それぞれの地域を面として支えてきたことを説明した。 そのうえで、「医師偏在については、解決のためあらゆる手段を駆使して複合的に対応していく必要がある」と簡単な解決策はないことを示唆し、「超高齢・人口減少社会を迎える中で、医師会も医師偏在対策に主体的かつ積極的に取り組み、地域医療の強化につなげていくとともに、都道府県における議論とこれまでの取り組みを引き続き充実させていく」として、以下6項目の取り組みを提示した。【医師偏在に対する日本医師会の考え方】(1)公的・公立病院の管理者要件 現在、2020年度に臨床研修を開始した医師から適用されている医師少数区域勤務経験を求める地域医療支援病院の管理者要件の対象病院を、今後医師免許を取得する医師のキャリア形成などに十分に配慮した上で、公的・公立病院にも拡大する。 臨床研修医への導入や、いわゆる後期研修医などの若手医師の研修で、医師少数地域での研修期間をのばすプログラムも検討する。(2)医師少数地域の開業支援など 医師少数地域において新たに診療所を開設する医師に対して、開設から一定期間の資金支援策を創設するとともに、医師少数地域で働く医師(勤務医・開業医)の確保・派遣を強化する。(3)全国レベルの医師マッチング支援 医師不足地域での勤務を希望する医師に対し、リカレント研修や現場体験を行いつつ、医師少数地域での勤務を全国的にマッチングする仕組みを創設する。(4)保険診療実績要件 保険医療機関の管理者として、卒後一定期間の保険診療実績の要件を加え、保険診療の質を高める。(5)地域医療貢献の枠組み推進 現行の地域に必要とされる医療機能を担うことへの要請の枠粗みを制度化し、地域で足りない医療機能を強化し、実績をフォローアップする仕組みを導入する。(6)医師偏在対策基金の創設 上記の施策を5~10年で推進するための1,000億円規模の基金を国において創設する。 とくに(1)では、管理者要件を緩和して拡大することに加え、研修プログラムの工夫とモチベーションの向上について整備すること、(2)では、地域の重要なクリニックなどの継承にも対応すること、(3)では、医師会の「女性医師支援センター」のノウハウを活用して、医師のマッチングにつなげること、(4)では、わが国の医療の根幹は保険医療であることから、保険医の経験を管理者要件として重視すること、(5)では、医師会の種々の取り組みを今後もフォローアップすること、(6)では、国に対して要望し、実現に向けて働きかけを行うことを各項目ごとに解説した。

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X世代とミレニアル世代でがん罹患率が上昇

 X世代(1965年から1980年の間に生まれた世代)とミレニアル世代(1981年から1990年代半ば頃までに生まれた世代)でがん罹患率が上昇していることが、新たな研究で明らかにされた。若い世代ほど、34種類のがんのうちの17種類の罹患率が上昇していることが示されたという。米国がん協会(ACS)のサーベイランス・健康公平性科学の上級主任研究員であるHyuna Sung氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Public Health」8月号に掲載された。 今回の研究でSung氏らはまず、2000年1月1日から2019年12月31日の間の、34種類のがんの罹患率と25種類のがんによる死亡率のデータを入手した。このデータは、2365万4,000人のがん罹患者と734万8,137人のがんによる死亡者で構成されていた。Sung氏らは、これらの人を、1920年から1990年までの5年ごとの出生コホートに分け、出生コホート間でがんの罹患率比(IRR)と死亡率比(MRR)を計算して比較した。 その結果、世代を追うごとに34種類のがんのうちの17種類でIRRの増加傾向が認められ、このうちの8種類のがんでは出生コホートの影響が有意であることが示された。特に、男女にかかわらず、1990年生まれのコホートの小腸がん、腎臓・腎盂がん、および膵臓がんのIRRは1955年生まれのコホートの2〜3倍に達していた(IRRは同順で、3.56、2.92、2.61)。また、女性では、肝臓がん・肝内胆管がんのIRRも2倍であった(IRR 2.05)。さらに、残りのエストロゲン受容体陽性乳がん、子宮体がん、大腸がん、非噴門部胃がん、胆嚢がん・その他の胆管がん、卵巣がん、精巣がん、男性の肛門がん、男性のカポジ肉腫の9種類のがんについては、古い世代で減少傾向が認められた後に、若い世代での増加傾向が認められた。がんの罹患率が最も低い世代と比べた1990年生まれのコホートでの罹患率上昇には、卵巣がんでの12%から子宮体がんでの169%までの幅があった。 MRRは、肝臓がん・肝内胆管がん(女性)、子宮体がん、胆嚢がん・その他の胆管がん、精巣がん、大腸がんについては、若い出生コホートでIRRの増加に伴い増加が認められたが、ほとんどのがん種で、若い出生コホートでのMRRは減少するか一定であった。 Sung氏は、「これらの知見は、最近増加しつつある、ベビーブーマー以降の世代でのがんリスクの増加を示すエビデンスに新たに加わるものだ。これまで、若年発症の大腸がんといくつかの肥満関連のがんの若い世代での発症増加が報告されていたが、今回の結果は過去のこの知見を広げる、より広範ながん種を網羅している」と述べている。 本論文の上席著者である、ACSのサーベイランス・健康公平性科学のシニアバイスプレジデントであるAhmedin Jemal氏は、「このような若年層におけるがん死亡率の増加は、がんリスクの世代交代を示すものであり、しばしば、国が今後追うことになるがん負担の早期指標となる」と述べている。またJemal氏は、「このデータは、X世代とミレニアル世代における根本的なリスク因子を特定し、予防戦略に反映させる必要性を強調するものだ」と主張する。 本研究には関与していない、ACSがんアクションネットワーク(ACS CAN)会長のLisa Lacasse氏は、「この研究結果は、米国の中年および若年層における包括的なヘルスケアの必要性をも浮き彫りにするものだ。若い世代でのがんの負担増加は、がんの転帰の重要な要因である手頃な包括的医療保険へのアクセスを年齢を問わず全ての人に保証することの重要性を強調している」とACSのニュースリリースで述べている。

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英語で「オブラートに包む」は?【1分★医療英語】第145回

第145回 英語で「オブラートに包む」は?《例文1》I did not sugarcoat anything when I obtained informed consent.(インフォームドコンセントを得た際には、まったくオブラートに包まず話しました)《例文2》I will be always honest with you.(私は、常にあなたに対して正直に接します)《解説》医療現場では、患者に対してがん診断などの重大な告知をすることがあります。その状況でよく使われる日本語の表現に「オブラートに包んで話す」があります。この表現を英語に訳すのは難しいと思われるかもしれませんが、実は適切な類似語があり、感覚的にはほぼ直訳することが可能です。“sugarcoat”という英語表現は、「砂糖で物質の表面をコーティングする」ことを意味し、苦い薬を飲みやすくするために使用される動詞です。そのため、“sugarcoat”は「受け入れ難い内容を、直接的でない言い方で伝える」という意味もあります。一方、オブラートはゼラチン質の薄い膜で、苦い薬を包んで飲みやすくするために使われることから、日本語の「オブラートに包む」という表現の由来となっています。単語自体は異なりますが、その由来は驚くほど類似しています。ほかの類似表現としては、“be honest with someone”があります。直訳すると、「相手に対して正直である」という意味です。講師紹介

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麻酔科「麻酔維持期はアタマを使え!」【臨床実習を味わうケアネット動画Café】第8回

動画解説臨床研修サポートプログラムの研修医のための麻酔科ベーシックより、鈴木昭広先生の「麻酔維持期はアタマを使え!」を鑑賞します。実は民谷先生の研修時代の指導医である鈴木先生。軽妙でわかりやすいレクチャーでは医師としての心得も学べます。

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重篤な薬疹を起こしやすい経口抗菌薬は?/JAMA

 一般的に処方される経口抗菌薬の中には、マクロライド系薬と比較して救急外来受診または入院に至る重篤な皮膚有害反応(cADR)のリスクが高い薬剤があり、とくにスルホンアミド系とセファロスポリン系で最も高いことが、カナダ・トロント大学のErika Y. Lee氏らによるコホート内症例対照研究の結果で示された。重篤なcADRは、皮膚や内臓に生じる生命を脅かす可能性のある薬物過敏症反応である。抗菌薬はこれらの原因として知られているが、抗菌薬のクラス間でリスクを比較した研究はこれまでなかった。結果を踏まえて著者は、「処方者は、臨床的に適切な場合はリスクの低い抗菌薬を優先して使用すべきである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年8月8日号掲載の報告。経口抗菌薬のクラスと重篤なcADRの関連性について解析 研究グループは、2002年4月1日~2022年3月31日に、カナダ・オンタリオ州の行政保健データベースを用いて、コホート内症例対照研究を実施した。データソースは、65歳以上のオンタリオ州住民に処方された外来処方薬のデータを含むOntario Drug Benefit database、救急外来受診の詳細情報を含むCanadian Institute for Health Information(CIHI)National Ambulatory Care Reporting System、入院患者の診断と治療のデータを含むCIHI Discharge Abstract Database、オンタリオ州健康保険(Ontario Health Insurance Plan)データベースである。ICES(旧名称:Institute for Clinical Evaluative Sciences)でこれらのデータを個人レベルで連携し、分析した。 対象は、少なくとも1回経口抗菌薬を処方された66歳以上の患者で、このうち、処方後60日以内に重篤なcADRのため救急外来を受診または入院した患者を症例群、これらのイベントがなく各症例と年齢と性別をマッチさせた患者(症例1例当たり最大4例)を対照群とした。 主要解析では、条件付きロジスティック回帰分析を用い、マクロライド系抗菌薬を参照群として、抗菌薬のクラスと重篤なcADRとの関連を評価した。スルホンアミド系とセファロスポリン系で重篤なcADRのリスク大 20年の研究期間において、症例群2万1,758例、対照群8万7,025例を特定した(両群とも年齢中央値75歳、女性64.1%)。 多変量調整後、スルホンアミド系抗菌薬が重篤なcADRと最も強く関連しており、マクロライド系抗菌薬に対する補正後オッズ比(aOR)は2.9(95%信頼区間[CI]:2.7~3.1)であった。次いで、セファロスポリン系(2.6、2.5~2.8)、その他の抗菌薬(2.3、2.2~2.5)、ニトロフラントイン系(2.2、2.1~2.4)、ペニシリン系(1.4、1.3~1.5)、フルオロキノロン系(1.3、1.2~1.4)の順であった。 重篤なcADRの粗発現頻度が最も高かったのはセファロスポリン系(処方1,000件当たり4.92、95%CI:4.86~4.99)で、次いでスルホンアミド系(3.22、3.15~3.28)であった。 症例群2万1,758例のうち重篤なcADRで入院した患者は2,852例で、入院期間中央値は6日(四分位範囲[IQR]:3~13)、集中治療室への入室を要した患者は273例(9.6%)で、150例(5.3%)が病院で死亡した。 なお、著者は研究の限界として、ICD-10コードを使用してcADRを特定したが重篤なcADR専用のコードはなく本研究固有の定義を作成したこと、cADRを引き起こす可能性のある非ステロイド性抗炎症薬などの市販薬の使用については調査できなかったことなどを挙げている。

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日本発の論文数は横ばい、博士課程への進学者は微増/文科省

 文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の科学技術予測・政策基盤調査研究センターが毎年発行している『科学技術指標2024』が公開された。 この指標は、わが国の科学技術活動を客観的・定量的データに基づき、体系的に把握するための基礎資料であり、科学技術活動を「研究開発費」、「研究開発人材」、「高等教育と科学技術人材」、「研究開発のアウトプット」、「科学技術とイノベーション」の5つのカテゴリーに分類、約160の指標で状況を表している。 2024年版の主要な指標では、産学官を合わせた研究開発費、研究者数は主要国(日米独仏英中韓の7ヵ国)中第3位、論文数(分数カウント法)は世界第5位だった。注目度の高い論文を見るとTOP10%・TOP1%補正論文数で第13位・第12位であり、いずれについても昨年と同順位だった。また、博士課程入学者数は長期的に減少していたが、2023年度に対前年度比4.4%増加した。特許数は6.7万件で世界1位 主要指標におけるわが国の動向は次のとおり。・研究開発費:3位(前年3位)19.1兆円(参考:1位 米国、2位 中国)・研究者数:3位(前年3位)70.6万人(参考:1位 中国、2位 米国)・論文数(分数カウント):5位(前年5位)7.2万件(参考:1位 中国、2位 米国、3位 インド、4位 ドイツ)・Top10%補正論文数(分数カウント):13位(前年13位)3.7千件(参考:1位 中国、2位 米国、3位 英国、4位 インド、5位 ドイツ、6位 イタリア、7位 オーストラリア、8位 カナダ、9位 韓国、10位 フランス、11位 スペイン、12位 イラン)・Top1%補正論文数(分数カウント):12位(前年12位)3.1百件(参考:1位 中国、2位 米国、3位 英国、4位 ドイツ、5位 イタリア、6位 インド、7位 オーストラリア、8位 カナダ、9位 フランス、10位 韓国、11位 スペイン)・特許(パテントファミリー)数:1位(前年1位)6.7万件(参考:2位 米国、3位 中国)・居住国以外への商標出願数(クラス数):6位(前年6位)12.0万件(参考:1位 米国、2位 中国、3位 ドイツ、4位 英国、5位 フランス)特許の出願数は世界1位だがシェアは低下傾向 「2024年版の全体傾向」によると、企業・大学部門の研究開発費は、米国が主要国中1番の規模であり、両部門ともに2010年代に入って伸びが大きくなった。わが国の政府負担分は同時期に44%増加し、企業部門全体における重みは小さいが、研究開発費の増加には政府部門の寄与もある。大学部門では、2000年代に入ってから、ほぼ横ばいに推移しており、この間に中国、ドイツ、英国がわが国を上回っていた。 「高等教育と科学技術人材の状況」では、わが国の大学院への入学者数が伸び悩んでいたが、修士課程入学者数は2020年度を境に増加。大学院修士課程の入学者数は、2023年度は対前年度比1.4%増の7.7万人だった。そのうち社会人の割合は9.3%。大学院博士課程の入学者数は2003年度をピークに長期的には減少傾向にあったが、2023年度は増加し1.5万人、対前年度比4.4%増(うち社会人は0.6万人で、対前年度比は3.9%)。大学院博士課程の男女別入学者数は、ピーク時と比較すると女性は4%減であるのに対して、男性は24%減で、男女ともに「自然科学」系の方が「人文社会科学・その他」系より多かった。博士号取得者数は、2006年度をピークに減少傾向、2010年代半ばからほぼ横ばいに推移していたが、近年微増している。2021年度の日本の博士号取得者数は1万5,767人、主要専攻別では「保健」が最も多く6,796人と全体の43.1%を占めた。 「研究開発のアウトプットの状況」では、論文数(分数カウント法)は世界第5位、注目度の高い論文をみるとTop10%・Top1%補正論文数で第13位・第12位であり、中国はすべての論文種別で世界第1位だった。国際共著論文割合は上昇基調であるが、2020年頃から、すべての分野で低下し、主要国の中でも中国の低下が大きい。論文の各分野の2022年時点の割合は、環境・地球科学は33.1%、物理学では32.9%であり、他分野に比べ国際共著論文割合が高かった。臨床医学は22.9%であり、国際共著論文割合が1番低かった。 「パテントファミリー(2ヵ国以上への特許出願)数」では、世界第1位を保っているが、世界シェアは2000年代半ばから低下傾向。中国は2017~19年で世界第3位であり、着実にその数を増やしている。

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現金給付は、医療アクセスを改善するか/JAMA

 貧困は医療へのアクセスの大きな障壁となり、健康アウトカムの悪化と関連することが知られている。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のSumit D. Agarwal氏らは、現金給付が医療サービス利用と健康にベネフィットをもたらすかを無作為化試験で調べた。現金給付を受けた人では、とくに精神疾患や物質使用障害(substance use disorder:SUD)に関連した理由での救急外来の受診が有意に減少し、入院に至った救急外来の受診の減少や専門外来の受診の増加もみられた。著者は、「試験の結果は、所得支援の提供で貧困を軽減しようとする政策が、健康および医療アクセスに大きなメリットをもたらす可能性があることを示唆するものであった」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年7月22日号掲載の報告。月額最大400ドルを給付、主要アウトカムは救急外来の受診 本試験は、マサチューセッツ州ボストン近郊の低所得者コミュニティであるチェルシー市が、現金給付を受ける人を抽選により選ぶ無作為化法にて行われた。2020年9月17日に抽選を行い、当選者には市庁舎でデビットカードを配布した。入金は、初回が同年11月24日、その後8ヵ月間に毎月行われ、当選者には月額最大400ドルが給付された。デビットカードの使用はVisaが使える場所ならどこでも可能であった。参加者の医療記録は、複数の医療システムと結び付いていた。 2020年11月24日~2021年8月31日の介入期間にアウトカムを評価。主要アウトカムは、救急外来の受診であった。副次アウトカムは、4つのタイプ別にみた救急外来の受診(入院に至った受診、精神疾患またはSUD[アルコール、薬物]に関連した受診、SUDに関連した受診、回避可能だった救急外来受診[緊急性の低い状況で治療できた可能性のある受診])、外来全体および専門外来の利用状況、COVID-19ワクチン接種、コレステロール値などのバイオマーカーなどであった。現金給付により救急外来の受診が有意に減少 抽選に応募したのは2,880例で、平均年齢45.1歳、女性が77%を占めた。 現金給付を受ける群に割り付けられた1,746例は対照群と比較して、救急外来の受診が有意に少なかった(217.1 vs.317.5件/1,000人、補正後群間差:-87.0件/1,000人[95%信頼区間[CI]:-160.2~-13.8])。これには、精神疾患またはSUD関連の受診(-21.6件/1,000人[-40.2~-3.1])、SUD関連の受診(-12.8件/1,000人[-25.0~-0.6])および入院に至った受診(-27.3件/1,000人[-53.6~-1.1])の減少が含まれた。 現金給付は、すべての外来受診(424.3件/1,000人[95%CI:-118.6~967.2])、プライマリケア受診(-90.4件/1,000人[-308.1~127.2])、精神疾患またはSUDの専門外来受診(83.5件/1,000人[-182.9~349.9])には、統計学的に有意な影響を及ぼさなかった。 その他の専門外来受診は、対照群と比較して現金給付群でより多く(303.1件/1,000人[95%CI:32.9~573.2])、とくに車を持たない人で多かった。 現金給付は、COVID-19ワクチン接種、血圧、体重、グリコヘモグロビン、コレステロール値には、統計学的に有意な影響を及ぼさなかった。

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第226回 東京女子医大 第三者委員会報告書を読む(前編)「金銭に対する強い執着心」のワンマン理事長、「いずれ辞任するが、今ではない」と最後に抗うも解任

第三者委員会の調査報告書公表後、臨時理事会で岩本理事長解任こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は高校野球観戦三昧でした。知人に早稲田実業OB、OGが多いため、早実の試合を中心にテレビで観たのですが、8月15日の鶴岡東高校戦、17日の大社高校戦ともに好試合で高校野球の面白さを満喫しました。早実はいずれの試合も相手校の好投手を打ちあぐね、西東京大会では爆発(準々決勝以降10点以上得点)していた打線が沈黙していたのが印象的でした。それにしても、大社高校戦で9回裏に早実が敷いたスクイズ警戒のための内野5人シフト(左翼手を投手の右斜め前に配置)には驚きました。しかもそれが的中してタイブレークに持ち込むとは…。最終的に早実は負けてしまいましたが、歴史に残るであろう名試合でした。さて今回は、再び東京女子医大(東京都新宿区)を取り上げます。本連載でも、「第207回 残された道はいよいよ身売りか廃校・学生募集停止か? ガバナンス崩壊、経営難の東京女子医大に警視庁が家宅捜索」、「第219回 女子医大のXデー近づく?警視庁の家宅捜索の次は、卒業生の教員への採用・昇格に寄付金要請、推薦入試での寄付金受け取りも発覚」などで度々書いてきたワンマン理事長、岩本 絹子氏が招いた東京女子医大の数々な問題は、第三者委員会の調査報告書公表、臨時理事会での理事長解任をもって次なるフェーズに入ったようです。私も調査報告書1)を読んでみたのですが、大学経営のことは二の次、三の次にして、私腹を肥やすことばかりに注力してきた前理事長の経営姿勢は本当に呆れるほかありません。また、前理事長の暴走を長年黙認してきた大学の理事会や、評議員会も大いに責められるべきでしょう。同窓会組織・至誠会と学校法人の不適切な資金支出を指摘、寄付金を重視する推薦入試や人事のあり方も問題視東京女子医大の同窓会組織・至誠会を巡って不透明な資金支出等があった問題で、同大が設置した第三者委員会(委員長=山本 秀明弁護士)は調査報告書をまとめ、8月2日に公表しました。調査報告書は至誠会の不適切な資金支出を指摘するだけでなく、学校法人の不適切な資金支出も指摘、さらに寄付金を重視する推薦入試や大学の人事のあり方も問題視しました。そして、その根本原因として、同大は岩本前理事長に権限が集中する「一強体制」で「ガバナンス機能が封鎖された」と指摘しました。日本経済新聞等の報道によれば、委員長の山本弁護士は2日の記者会見で、岩本氏について「問題が明るみに出ても説明責任を果たさず、不満分子の鎮圧に躍起となっていた。非常に問題だと認定した」と語ったそうです。同大は、調査報告書を受け取った直後も、「内部統制・ガバナンスの機能不全の問題を重く受け止め、ステークホルダーの皆様の信頼回復に向けて、本学の理念である『至誠と愛』に今一度立ち返って、組織の改善・改革に全身全霊で取り組んでまいります」という通り一遍のコメントをWebサイトなどで出したのみでした。しかし、8月7日に開かれた臨時理事会において岩本理事長の解任動議が出され、解任が決定しました。そして、新体制発足までの暫定措置として肥塚 直美理事(東京女子医大病院・病院長)が新理事長に選任されました。8月8日付の毎日新聞等の報道によれば、臨時理事会で「理事が岩本氏に辞任を勧告したが、岩本氏は『いずれ辞任するが、今ではない』と拒否。理事長職の解任の動議が提出され、岩本氏を除く10人全員が賛成した」とのことです。その後、8月16日には、東京女子医大の臨時評議委員会が開かれ、岩本氏は同大の理事と評議員からも解任されました。これによって、岩本氏は同大のすべての役職から退くことになりました。また、同日、大学経営及びガバナンス体制の正常化を速やかに進めるために、岩田 喜美枝・元厚生労働省雇用均等・児童家庭局長らを委員とする「新生東京女子医科大学のための諮問委員会」が設置されています。総額約33億円の工事等を受注した複数社が岩本氏側近関与の3社にコンサル料などの名目で総額約1億数千万円支払う第三者委の調査対象は、本連載の「第207回 残された道はいよいよ身売りか廃校・学生募集停止か? ガバナンス崩壊、経営難の東京女子医大に警視庁が家宅捜索」でも詳しく書いた、学校法人及び至誠会における不透明な資金支出が中心でした。調査報告書の「岩本絹子理事長及び経営統括部による資金の不正支出・利益相反行為の疑義」と題する章では、資金の不正支出・利益相反行為を5つに分類し、その不正の有無を細かく検証しています。至誠会の元職員が元事務長と共謀して、勤務実態がないのに約2,000万円の給与を至誠会から受け取ったとする特別背任容疑で警視庁が3月、理事長室や岩本氏宅など十数カ所を家宅捜索しました。そして、この問題については、元職員と元事務長が大学から業務委託を受けた会社の雇用になった後、同社と至誠会から給与が出ていたとして「二重払い」と指摘、この業務委託は岩本氏に近い2人の利益を図る行為で、過大な報酬だった疑いがあるとしました。また、学校法人の不適切な資金支出についても指摘しました。岩本氏が副理事長に就任した直後の2015年、学校法人は外部企業とコンサルティング契約を結びましたが、この会社は岩本氏の知人が代表でした。法人が支払った600万円の一部が岩本氏側に還流した可能性が高いとしました。さらに、2015年から2023年にかけて学校法人から総額約33億円の工事等を受注した複数社が、岩本氏が経営する江戸川区の葛西産婦人科の関係者であった人物が関与する3社にコンサル料などの名目で総額約1億数千万円が支払われていたことも明らかになりました。この工事費等が還流した疑義について調査報告書は、「3社が受領した金銭のその後の流れ等については本調査の限界から解明に至らなかったところ、銀行取引の状況を把握している警察による捜査によって解明されることを期待したい」としています。この他にも、岩本氏が至誠会から顧問料や現金賞与等の名目で利益を享受していたことや、法人全体として人件費等を積極的に削っていったにもかかわらず岩本氏は自身の報酬を継続的に増額していったことなども指摘しています。ちなみに2016年度1,714万円だった岩本氏の理事長報酬は、2023年度は3,179万円まで膨れ上がっていました。一連の行為について「岩本氏の金銭に対する強い執着心の端をうかがうことができる」と断じています。今年3月に警視庁捜査2課が至誠会、大学本部、葛西産婦人科などを家宅捜索した件についてはまだ捜査中とのことです。今後、特別背任などの罪で、書類送検、起訴の可能性も大いにあると言えるでしょう。至誠会の推薦入試における寄付金の収受は、入試での寄付金の受け取りを禁じた文部科学省通知に反する可能性第三者委員会が調査したもう一つの大きな問題は、「第219回 女子医大のXデー近づく?警視庁の家宅捜索の次は、卒業生の教員への採用・昇格に寄付金要請、推薦入試での寄付金受け取りも発覚」でも書いた推薦入試です。至誠会が持つ枠(約10人)で推薦する生徒を決める際、寄付額が加点要素となっていた点について、調査報告書は、受験生側から至誠会と法人への寄付は、推薦対象者を選ぶための面接の直前2ヵ月間に集中、2019~22年度は受験生側による寄付の年間総額の64%にあたる計3,520万円がこの期間に寄付されていた、としています。寄付の実績がない受験生が計700万円を寄付した受験生に順位で抜かれて推薦を受けられなかった事例や、1回目の面接後、2回目の面接前に至誠会に10万円、法人に300万円を寄付した事例もありました。調査報告書には実際の「面接採点票」が1枚掲載されています。それには「面接での質問・確認事項」の欄に採点者が手書きで「寄付等」と記し、「回答内容」の欄にやはり手書きで「協力をおしまない」と書かれており、「評価」は最高得点の5点となっています。そうした調査結果を踏まえ、調査報告書では、至誠会の推薦入試における寄付金の収受は、入試での寄付金の受け取りを禁じた文部科学省通知に反する可能性がある、としています。「医科大学と大学病院を擁する本法人の理事長としての適格性が備わっていたのかという点について、疑問と言わざるを得ない」と経営面での無能ぶりも指摘また、調査報告書は、東京女子医大卒業生の大学への採用・昇格などにおいて寄付金の多寡等を点数化する「至誠会ポイント」(当時大学副理事長、至誠会代表理事だった岩本氏の提案で2018年にスタート)が評価要素となっていたことについても、「採用・昇進・昇格を望む教員が、寄付を行わなければ採用・昇進・昇格に事実上不利益となると考えていたと認められる。至誠会ポイント制度が事実上寄付を強いる制度になっていたと評価せざるを得ず、この制度が「公正かつ厳格・適切」なものであったとは到底評価することができない」としています。数年前から東京女子医大で問題視されてきたさまざまな事案について、第三者委員会は以上のような結論を下したわけですが、私が調査報告書を読んで興味深かったのは、後半で岩本氏の経営手法について評価した部分です。「そもそも医科大学と大学病院を擁する本法人の理事長としての適格性が備わっていたのかという点について、疑問と言わざるを得ない」とその経営面での無能ぶりをあけすけに記述しています。その内容は医療機関経営、大学医学部経営に携わる人にも参考になりそうです。次回はその内容を紹介したいと思います。(この項続く)参考1)第三者委員会による調査報告書の公表について/東京女子医科大学

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重症敗血症へのアセトアミノフェン、生存日数を改善せず/JAMA

 重症敗血症患者において、アセトアミノフェン(パラセタモール)の静脈内投与は、安全性は高いものの、生存日数および臓器補助(腎代替療法、機械換気、昇圧薬)が不要な日数を改善しないことが、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのLorraine B. Ware氏らが実施した「ASTER試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2024年8月6日号で報告された。米国の無作為化第IIb相試験 ASTER試験は、米国の40の病院の救急診療部または集中治療室(ICU)で実施した二重盲検無作為化第IIb相試験であり、2021年10月~2023年4月に参加者のスクリーニングを行った(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成を受けた)。 年齢18歳以上の敗血症で、呼吸器系または循環器系の臓器障害を有する患者447例(平均年齢64[SD 15]歳、女性51%、平均SOFAスコア5.4[SD 2.5]点)を登録した。被験者を、アセトアミノフェン1gを6時間ごとに静脈内投与する群(227例)、またはプラセボ群(220例)に無作為に割り付け、5日間投与した。 主要エンドポイントは、28日目までの生存日数および臓器補助(腎代替療法、機械換気、昇圧薬)が不要な日数とした。28日間の全死因死亡にも差はない ベースラインで全体の76%の患者が昇圧薬の投与を、42%が補助換気を受けており、登録前に44%がアセトアミノフェンの投与を受けていた。 アセトアミノフェンは安全であり、治療群間で肝酵素値の異常や低血圧の頻度、体液バランスに差はなかった。 28日目までの生存日数および臓器補助不要日数は、アセトアミノフェン群が20.2日(95%信頼区間[CI]:18.8~21.6)、プラセボ群は19.6日(18.2~21.0)であり、両群間に有意な差を認めなかった(群間差:0.6日、95%CI:-1.4~2.6、p=0.56)。 また、臓器補助の各項目のいずれにも両群間に差はなく、28日間の全死因死亡(アセトアミノフェン群17.5% vs.プラセボ群22.5%、群間差:-5.0%、95%CI:-12.4~2.5、p=0.19)にも差はみられなかった。7日以内のARDSの発生率が有意に改善 15項目の副次アウトカムのうち、7日以内の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の発生率のみがアセトアミノフェン群で有意に低く(2.2% vs.8.5%、群間差:-6.3%、95%CI:-10.8~-1.8、p=0.01)、他の項目には両群間に差はなかった。 また、アセトアミノフェン群は、2、3、4日目の総SOFAスコア(いずれもp<0.05)とSOFA凝固系スコア(いずれもp<0.05)の改善度が有意に優れた。 著者は、「本試験の結果で重要な点は、重症敗血症では、アセトアミノフェンの6時間ごとの5日間投与はプラセボに比べ、肝障害のバイオマーカーの異常、全身性低血圧、その他の有害事象の発生率に差がなく安全であったことである」としている。

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英語で「代わりに来ました」は?【1分★医療英語】第144回

第144回 英語で「代わりに来ました」は?《例文1》Good morning, my name is Dr. Smith. I came to see you on behalf of Dr. Yamada while he's away at a conference. How can I assist you today?(おはようございます。スミスと申します。山田医師が学会に出席しているので、代わりに診察に来ました。本日はどうされましたか?)《例文2》Dr. Johnson is here on behalf of Dr. Tanaka to discuss your test results.(ジョンソン先生が田中先生の代わりにあなたの検査結果についてお話しします)《解説》“on behalf of”は、「ほかの医師の代わりに診察を行う」際に使用できる丁寧な表現です。“on behalf of”は「〜の代わりに」「〜を代表して」という意味を持ち、比較的フォーマルな場面で使用されます。この表現は、ビジネスや法律の分野でも頻繁に使用されますが、医療現場においても適切な表現だといえるでしょう。「代表して」というニュアンスがあるので、たとえば、“I would like to thank you on behalf of my team.”(チームを代表して、私がお礼を申し上げたいです)といったようにも使えます。医療現場では急な代診や担当医の変更など、予期せぬ状況が発生することがあります。そのような場面で“on behalf of”を使用することで、専門的かつ丁寧に状況を説明することができます。なお、このような代診のシチュエーションでは、以前に扱った“fill in for”も“I'm filling in for Dr. Yamada today.”のように使えますので、そちらのフレーズとセットで覚えておいていただくとよいでしょう。講師紹介

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