サイト内検索|page:214

検索結果 合計:5052件 表示位置:4261 - 4280

4261.

狭心症を肋間神経痛と誤診して死亡したケース

循環器最終判決判例タイムズ 914号234-240頁概要60歳男性が夜間胸痛を訴えて、救急車にて近く病院に搬送され、診察を受けたところ、肋間神経痛との診断で消炎鎮痛薬を処方され帰宅した。翌日、苦しんで身動きがとれなくなっているところを発見され、救急車にて再度病院を受診したが、急性心筋梗塞を発症したために入院後3時間で死亡した。詳細な経過患者情報60歳男性経過昭和63年4月22日12:00頃この頃から胸の苦しさを自覚していた。4月23日胸痛と左脇から左腕の内側にかけての痛みのため仕事を休んだ。23:00頃胸痛のため、救急車にてA病院に搬送された。当直であるB医師が診察に当たり、問診したところ、左胸痛と左腕にひびく痛みを訴えた。血圧は152/90mmHg、脈拍84、触診および聴診にて異常は認められず、心電図検査では「完全右脚ブロック」であった。心筋梗塞を示す異常を認めず、以前に肋間神経痛といわれたことがあったことから、「肋間神経痛の疑い」として、消炎鎮痛薬を投与し、痛みが持続したり、増強するようであれば再度受診するように注意を与えて、帰宅させた。4月24日08:00階段の横で息を荒くし、苦しんでいるところを発見され、救急車にてA病院に再度搬送された。救急外来担当のC医師が診察し、左胸痛を訴えていたものの、心肺に異常を認めないため、心電図検査は行わず、胸/腹部のX線写真が撮られた。09:50さらに検査の必要があるため、A病院への入院となった。10:30頃病棟に入院後、顔色不良で看護師に対し、全身倦怠感、胸苦、胸痛、左腕および左背部の差し込むような痛みを訴えた。消炎鎮痛薬の注射がされ、心電図検査が行われた。11:00頃胸痛が増強するため、重症病室に移動し、心電図検査結果は急性心筋梗塞を呈していたため、酸素吸入、心電図モニター装着が開始された。11:20呼吸が停止し、心肺蘇生を試みた。11:55死亡。その後の解剖により、左冠状動脈内に血栓が認められ、内腔をほぼ閉塞し、左室前壁に梗塞がみられ、裂孔も生じており、心嚢内に約300mLの凝血を認めたことから、死因は急性心筋梗塞による心破裂で心タンポナーデを来したためと考えられた。当事者の主張患者側(原告)の主張主訴および心電図検査結果から狭心症に罹患していることを疑い、十分な問診を尽くし、必要な検査を行って、狭心症と診断したうえで、入院させて定期的な観察、検査をし、血管拡張薬、血栓溶解薬の投与などの治療を行って心筋梗塞へ移行することを阻止すべき義務があった。4月24日A病院に救急搬入された際、胸部の激痛で身動きできない状態であったのであるから、C医師はただちに心電図検査をして心筋梗塞の診断をし、二次救急病院に搬送するか、または心筋梗塞に対する適切な治療をすべき義務があった。病院側(被告)の主張A病院が4月23日に実施した心電図検査によると、完全右脚ブロックであり、狭心症や心筋梗塞を疑えるものではない。この心電図の結果から、狭心症や心筋梗塞の疑いを否定し、聴診の結果からとくに緊急を要するような肺疾患の疑いを否定し、以前に肋間神経痛と一度いわれたことがあり、肋間にひびくような痛みがあると述べたことから、肋間神経痛の疑いと診断したのであり、過失はない。4月24日救急隊員に介助されながら徒歩でA病院に来院し、医師の問診、看護師の質問にも通常に対応した。同日の心電図検査時より、数時間ないしは十数時間前に左冠状動脈主幹部に血栓性の閉塞を来していた。それ故、左心室の広範囲前壁の急性心筋梗塞を発症して心筋の壊死が進行し、11:00~11:10頃に左室前壁の心筋断裂による穿孔を来して、心嚢内に出血し、心タンポナーデにより急速な経過で死に至ったのであるから、たとえ、心電図検査を来院直後に実施していても、救命できなかった。つまり、来院直後に心電図検査を施行しなかったことと死亡との間には因果関係がない。裁判所の判断4月23日にA病院に搬入された際にすでに狭心症に罹患していたか、という点について、受診した際に訴えていた左上腕にひびくような痛みは、放散痛(関連痛)であり、狭心症に典型的な症状である。これに加え、4月24日に救急車でA病院に搬入され、数時間後に急性心筋梗塞による心嚢血腫症(心タンポナーデ)で死亡したことから、4月23日には不安定狭心症に罹患していたとみるべきであるとした。次に、B医師が肋間神経痛と診断したことについて、カルテには胸痛発作の性状、誘因、時間帯、経過などの記載がなく、十分な問診をしたとはいえず、安易に心電図検査のみで狭心症の疑いを否定している。また、肋間神経痛と診断するために必要な圧痛点を確認したことの記載もなく、肋間神経痛の疑いとして消炎鎮痛薬を投与して帰宅させた。それ故、B医師にはこの診断と、取るべき処置を誤ったという過失があるとした。最後に4月23日の時点で狭心症を疑って必要な処置をしていれば、死亡は回避できたか、という点について、そうしていれば、24日に急性心筋梗塞を発症しておらず、死亡を回避することができた蓋然性が高いとした。つまり、A医師の過失行為と心筋梗塞による死亡との間には相当因果関係があるとした。原告側合計759万円の請求に対し、426万円の判決考察本件は、プライマリケアを担当する医師にとっては教訓的な事例だと思います。胸痛というありふれた症状に対しては、基本的な対応(問診、カルテ記載)をぜひとも心掛けたいと思います。1. 問診義務最近では、さまざまな臨床検査により得られた情報を重視して診断を下す傾向があり、一見素朴ではありますが、患者の健康状態を全体的に把握する方法の視診、触診、問診などが少々軽視されがちであると思います。中でも、問診は患者の記憶の中に潜む情報を収集する方法であり、ほかの検査では代替できないため、その重要性はあらためて認識するべきと思われます。それは裁判においても同様であり、問診義務違反を理由として医師の責任を問われるのは、問診から得られるべき情報が医療上の意思決定の際の判断材料とされていたならば、当該医療事故の発生を予見し、回避することができたはずである、という場合です。2. 胸痛患者を診た場合ところが、入院後に抗菌薬などの点滴をすると「強い不快感」が出現するというエピソードをくり返し、もともと高血圧症の患者でありながら入院2日後には血圧が80台へと低下しました。このとき、入院時に認められていた湿性ラ音が消失していたため、担当医師は抗菌薬の効果が出てきたと判断、血圧低下は脱水によるものだろうと考えて、輸液を増やす指示を出しました。しかしこの時点ですでに心タンポナーデが進行していて、脱水という不適切な判断により投与された点滴が、病態をさらに悪化させたことになります。心タンポナーデでは、心膜内に浸出液が貯留して静脈血の心臓への環流が妨げられるため、心拍量が低下して低血圧が生じるほか、消化管のうっ血が強く生じるため嘔気などの消化器症状がみられます。さらに肺への血流が減少して肺うっ血が減少し、湿性ラ音が聴取されなくなることも少なくありません。3. 狭心症患者を診た場合狭心症の特徴は、典型的な狭心痛のほかに漠然とした不快感や、違和感のこともあります。時に冷汗を伴ったりします。痛みの自覚部位は通常胸骨の裏側であることが多いとされていますが、中には、上腕、肩、顎、歯、心窩部などに症状を訴えることもあり、肩から手にかけてのしびれ感、すなわち放散痛を訴えることもあります。持続時間は通常5分前後のことが多いようです。このように狭心症の疑いがある場合には、痛みの性状、誘因、時間帯、部位、持続時間などを聴取する必要があります。狭心症の検査には、心電図検査、核医学検査、心エコー図検査、冠動脈造影検査、血液検査などがありますが、まずは簡便な心電図検査が用いられます。狭心症の典型的な例では、心電図はST-T変化として認められることが多いですが、実際は非発作時を含めて変化のないこともしばしば経験されます。このため、心電図検査のみで狭心症を否定することはできず、その診断に当たっては十分な注意を要します。狭心症の中には、適切な治療が行われなければ、心筋梗塞に移行し、突然死するものもあり、診断に迷った際には、循環器科専門医のコンサルトを得るか、入院させて医師の管理下に置き経過観察をするべきでしょう。本件でも心電図検査のみで狭心症を否定し、上記のような問診をしなかった、あるいはたとえ問診をしていたとしても、医師が狭心症を否定するに至った重要な情報をカルテに記載していなかったのは、問診をしていないのと同等であると裁判所では判断しています。したがって、問診を詳しくとることはもちろんのこと、日頃からこのような重要な情報はカルテに記載しておくことを心掛ける必要があります。見方によっては、最初のB医師(内科非常勤で専門は麻酔科)は深夜の当直帯で患者を診て、心電図まで取ったのだから良いだろう、というご意見もあろうかと思います。しかし、狭心症は胸痛発作時にしか心電図異常が出ないため、狭心症を否定できないのであらば帰宅させる時のリスクを考えて、ニトログリセリン舌下錠を処方しておくという方法もあり得るのではないかと思います。循環器

4262.

虚血性僧帽弁逆流症、僧帽弁形成術vs.置換術のアウトカムは同等/NEJM

 虚血性僧帽弁逆流症に対し、僧帽弁形成術と置換術では、12ヵ月の左室収縮終末期容積係数(LVESVI)は同等であることが示された。死亡率も有意差はなかったが、中等度~重度の僧帽弁逆流症の再発率については、形成術群が置換術群より有意に高率だった。米国・ペンシルベニア大学のMichael A. Acker氏らが、251例の患者について行った無作為化比較試験の結果、明らかにした。虚血性僧帽弁逆流症は、死亡リスクが高く、ガイドラインでは手術が推奨されているが、形成術か置換術かを支持するエビデンスは限定的であった。NEJM誌オンライン版2013年11月18日号掲載の報告より。僧帽弁形成術と置換術をそれぞれ実施、12ヵ月後のLVESVIを比較 Acker氏らは、重症虚血性僧帽弁逆流症の患者251例を無作為に2群に分け、一方には僧帽弁形成術を、もう一方には僧帽弁置換術を行い、その有効性と安全性を比較した。主要アウトカムは、12ヵ月後のLVESVIだった。 被験者の平均年齢は、68~69歳、男性は61~62%だった。LVESVI値、死亡率、主要有害心・脳血管イベント発生率ともに両群で同等 結果、12ヵ月後、僧帽弁形成術群の生存患者の平均LVESVI値は54.6(標準偏差:25.0)mL/m2であり、僧帽弁置換術群は60.7(同:31.5)mL/m2と、ベースライン時からの平均変化量はそれぞれ-6.6mL/m2と-6.8mL/m2だった。 死亡率は、形成術群が14.3%、置換術群が17.6%と、両群で有意差はなかった(形成術群の置換術群に対するハザード比:0.79、95%信頼区間:0.42~1.47、log-rank検定p=0.45)。また、死亡について補正を行った後のLVESVI値も、両群で有意差はなかった(Zスコア=1.33、p=0.18)。 一方、12ヵ月後の中等度~重度の僧帽弁逆流症の再発率は、形成術群32.6%に対し、置換術群では2.3%と有意に低かった(p<0.001)。 その他、12ヵ月後の主要有害心・脳血管イベントや、身体機能状態、生活の質についても、両群で有意差はなかった。

4263.

乳がん手術のインフォームドコンセント

癌・腫瘍最終判決平成15年3月14日 東京地方裁判所 判決概要乳がんの疑いでがんセンターを受診した48歳女性。生検目的で約2cmの腫瘤を摘出したところ、異型を伴う乳頭部腺腫と診断された。病理医からは、「明らかに悪性とは言い切れないが異型を伴う病変であり、断端陽性のため完全に取り切ることが望ましい」というアドバイスがあったので、単純乳房切除術を施行した。ところが、切らなくてもよい乳房を切除されたということで、医事紛争に発展した。詳細な経過患者情報48歳の既婚女性、ご主人が内科医経過昭和61年6月12日左鼻出血が続き、近医で上顎洞がんの疑いと診断された。6月20日夫(内科医)の紹介でがんセンターを受診し、がんではなく上顎洞炎であると診断され手術を免れた(その後がんセンター専門医の診断能力を強く信頼するようになる)。平成4年4月20日右乳頭から黄色分泌物、乳頭部の変形、しこりに気付く。4月23日近医を受診して、乳がんの疑いがあるといわれた。5月6日がんセンター受診。右乳頭部上方に1.8×1.2cmの腫瘤、右乳頭部より黄色分泌物を認め、乳管内がん(乳頭腫)の疑いで細胞診検査を施行したが、がんは陰性であった。5月13日マンモグラフィー:乳がんまたは乳頭腫乳腺超音波検査:乳管内乳頭腫5月25日右乳頭の真上を水平に約28mm切開して腫瘤を摘出。病理診断:「組織学的には著しい乳頭状増殖を示す異型的な乳管上皮の増加からなる。それらの中には筋上皮細胞を伴い二層性構造を示す部もあるが、そのような所見が不明瞭な部もある。そのような部では個々の乳管上皮細胞の異型性は一段と強くなっており、やや大型の核を有す。ただし核質は微細であり、核小体も小型のものが多い。病変自体の硬い変化もある。かなり異型性の強い病変であるが、その発生部位も考慮に入れると乳頭部腺腫がもっとも考えられる。断端に病変が露出し、明らかに悪性とは言い切れないが異型を伴う病変であり、完全に取り切ることが望ましい」との所見から、「右乳房の異型を伴った乳頭部腺腫」と診断。6月5日患者への説明:悪性とは言い切れないが異型を伴う病変であり、切除断端が陽性であること、病名は異型を伴う乳頭部腺腫であること、経過観察をした場合相当数の浸潤性がんが認められること、小範囲の部分切除を行ったとしても乳頭・乳輪を大きく損傷し、病変の再遺残の可能性があることから、単純乳房切除術が望ましいと説明した(しかし診療録には説明の記載なし)。患者:「がんではないのだから悪いところだけを部分的に取ればよいのではないですか」医師:「部分的に取ると跡が噴火口のようになり、そのような中途半端な手術はできない」として単純乳房切除術を勧めた。6月11日手術目的で入院。6月12日夫である内科医が、病理診断が悪性であるかどうかの確認を求めたところ、「悪性と考えてよい」、「完全に取り切れば治癒するが残しておけば命にかかわる」と答えた。手術の立会を申し入れたが担当医師は拒否。6月22日病状については境界領域という説明を受けただけで、その具体的内容は理解できなかったこと、同室の患者が術後苦しそうにしているのをみたことから不安になり、手術の延期を申し出た。医師:「構いませんよ。こちらは何も損はしませんからね。そちらが損をするだけですからね」看護師:「手術の予定が決まっていたのだから医師が立腹するのもやむを得ないですよ」といわれ、そのまま帰宅した。6月26日外来を受診して病状の確認とその後の指示を求めたが、同医師は答えず、内科医である夫を連れてくるよう指示した。6月29日内科医の夫がナースセンターの前で面談したが、「2~3ヵ月先に予約を入れておいてください」とだけ述べてそのまま立ち去ったので、担当医師の応対および病状などについて詳しい説明をしない態度に不信を抱き、患者に転院を勧めた。7月3日なおも不安になった患者は再度診察を希望。患者:「境界領域の意味を教えてください。2~3ヵ月後の予約で手遅れになりませんか」医師:「あんたのはたちが悪い。再発するとがんになって危険ですよ。飛ぶかもしれませんよ」などと述べ、病状や予後について詳しい説明はしなかった。患者は自身の病気がいつ転移するかもわからないものであり、早急に手術を受けなければ手遅れになると考えて、がんセンターで手術を受けることを決意し、入院を予約した。7月17日再入院。7月23日担当医師は病室を訪れ、「一応形式ですから」と告げて、「手術名:右乳房切除術」「このたび上記の手術を受けるにあたり、その内容、予後などについて担当の医師から詳細な説明を受け、了解しましたので、その実施に同意いたします」と記載された手術同意書をベッドの上に置いて立ち去る。患者は手術の詳細な説明は受けていなかったものの、手術前に詳細な説明があるはずで命にかかわることは医師に任せるしかないと考えて、承諾書に署名捺印した。7月27日手術当日、切除部分および切除後の傷の大きさがよくわからなかったので病室を訪れた担当医師に質問したが、無言のまま両手で20~30cm位の幅を示しただけで退室した。当日、単純乳房切除術を施行。病理所見:「乳頭部腺腫の遺残を認めず、乳腺組織にはアクポリン腺、盲端腺増生症および導管内乳頭腫症といった病変が散見される」との所見から「線維性のう胞性疾患」と診断。7月29日ドレーンを抜去。8月3日退院。8月12日全抜糸施行。患者と夫の内科医に、病理検査の結果遺残はないこと、今回の治療は終了したこと、残存した左乳房について年に1回か半年に1回検査すればよいことを説明した。患者は手術後、精神的に落ち込む日が続き、手術創の突っ張り感、乳房を喪失したことにより左右の均衡が取れない不快感、物を背負ったりシートベルトを着用した際の痛みを感じるようになった。また、温泉などの公衆浴場に入ったり、病院で上半身の診察や検査を受けることがためらわれるようになり、薄い服を着る際には容姿を整えるための下着およびパッドを入れなければならなくなった。10月27日乳がんの患者団体「あけぼの会」から乳がんに関する知識を得て、乳房再建手術を考えるようになり別病院を受診。がんセンターからの入院証明書(診断書)や病変の標本を取り寄せることによって、ますますがんセンターに不信感をいだき、提訴を決意した。当事者の主張単純乳房切除術は過大な措置であったか患者側(原告)の主張乳頭部腺腫は前がん状態ではない良性腫瘍であり、がん化の報告はきわめて少なく、がんとの関連性はないとされ、切除後の再発、転移の報告もみられない。そのため身体に対する侵襲は必要最小限度にとどめるべき基本的な注意義務があったのに、必要もない侵襲の大きな単純乳房切除術を採用したのは明らかな過失である。病院側(被告)の主張一般に乳頭部腺腫とは、乳頭内または乳輪直下乳管内に生ずる乳頭状ないし充実性の腺腫であり、良性の場合と、がんと断定できないが異型(悪性と良性との境界領域)に属する場合がある。本件では生検の結果、異型性が強く悪性に近い病変で切除断端に露出し取り残しの可能性があったため、病変部などの切除が必要不可欠であった。そして、摘出生検後は、病変の遺残の程度は推定できず、適切な切除範囲を設定することは不可能であるから、乳頭・乳輪を含む広範囲切除である単純乳房切除術によらざるを得なかった。説明義務違反があったかどうか患者側(原告)の主張担当医師は手術の前後にはっきりとした診断名、「境界領域」の意味、病気の内容、治療方法についての内容、危険性、治療を回避した場合の予後などについて一切説明しなかったのみならず、「再発したらがんになる、飛ぶ」などの誤った説明をし、患者の自己決定権が侵害されたことは明らかである。病院側(被告)の主張担当医師は患者と内科医の夫に対し、手術前に検査結果や正確な病名、手術方法などについて十分に説明し、患者の選択、同意を得たうえで単純乳房切除術を施行した。このような十分な説明がありながらも、1回目の入院で手術を取りやめ、ほかの病院あての紹介状の発行を依頼、受領し、積極的にセカンドオピニオンを求めて行動していることや、2回目の入院から手術までの10日間、複数の看護師に対し自分の意思によって手術を受ける決断をしたという意向を複数回表明していることからみても、担当医師の説明に過失はない。裁判所の判断単純乳房切除術は過大な措置であったか乳頭部腺腫は、一般に前がん状態ではない良性腫瘍とされているので、病変部ががん化する可能性は高かったとはいえないが、乳頭部腺腫とがんとの因果関係についてはいまだ不明な点が多く、病変部ががん化する可能性をまったく否定することはできない。そして、患者の腫瘤は乳頭、乳輪の近くに存在し、しかも生検後病変部が断端に露出していたため、乳管内に造影剤を注入することは困難で遺残腫瘍がどの範囲で広がっているかを特定することは不可能であった。そのため、残存腫瘍ががん化する可能性を必ずしも否定できないこと、遺残腫瘍の広がりの範囲を特定できないことから、がん化の危険を避けるために残存腫瘍を完全に除去する方法として、単純乳房切除術を実施したことに過失はない。説明義務違反があったかどうか単純乳房切除術は、女性を象徴する乳房を切除することにより身体的障害を来すばかりか、外観上の変ぼうによる精神面・心理面への著しい影響ももたらし、患者自身の生き方や人生の根幹に関係する生活の質にもかかわるものであるから、手術の緊急性がない限り、手術を受けるか否かについて熟慮し判断する機会を与える義務がある。患者にとっては、「がんではないのに単純乳房切除術が必要である」という医師の診断は理解困難なものであった。さらに、生検において摘出した部位を中心に部分切除にとどめることも不相当な処置とはいえず、腫瘍の一部を残す危険と一部でも乳房を残す利益とを比較衡量し、単純乳房切除術を受けるか部分切除にとどめるか、患者に選択させる余地があった。しかし担当医師は、「悪性と良性の境界領域」という程度の説明に終始し、部分切除の可能性を断定的に否定したうえで、「そちらが損をするだけですからね」「再発するとがんになりますよ」「飛ぶかもしれませんよ」などと危険性をことさらに強調し、不安をあおるような発言をした。そのためただちに単純乳房切除術を受けなければ生命にかかわると思い込み、病状や治療方針について理解し熟慮したいという希望を断念し、納得しないまま単純乳房切除術を受けた。このような対応は、単純乳房切除術を受けるか否かを熟慮し選択する機会を一切与えず、結果的に医師の診断を受け入れるよう心理的な強制を与えたもので、診療契約上の説明義務違反が認められる。原告側2,413万円の請求に対し、120万円の判決考察先生方は「ドクターハラスメント(通称ドクハラ)」という言葉を聞いたことがありますでしょうか。最近では、新聞でも取り上げられていますし、ドクハラの書籍(ドクターハラスメント 許せない!患者を傷つける医師のひと言)までもが、書店に並ぶようになりました。普段の患者さんとの対話で、こちらはそれほどきつい言葉とは思っていなくても、受け取る患者の方は筆舌に尽くしがたいダメージととらえるケースがあるようです。今回の症例をふりかえると、乳がん疑いで生検を行った48歳の女性の病理診断で、異型を伴う乳頭部腺腫が疑われ、切除断端に病巣が露出していたので完全切除を目指し、単純乳房切除術を施行しました。裁判では、このような治療方針自体は過失でないと認定しましたが、問題は術前術後のインフォームドコンセントにありました。つまり、患者との信頼関係が破綻した状態で手術となってしまい、間違ったことはしなかったけれども、説明義務違反という物差しを当てられて敗訴した、というケースではないかと思います。多くの先生方にも経験があると思いますが、真摯な態度で患者を診察し、自らがこれまでに培ってきた最大限の知識を提供したうえで、その時点で考えられる最良の治療を提案したにもかかわらず、患者の同意が得られないということもあり得ると思います。そのような場合、どのような対応をとりますでしょうか。まあしょうがないか、そのような考え方もあるので仕方がないなあ、と割り切ることができればよいのですが、つい、自らが提案した治療方針が受け入れられないと、不用意な発言をしたくなる気持ちも十分に理解できると思います。今回の症例では、手術予定まで組んだ乳がん疑いの患者が、手術を土壇場でキャンセルし、以下のような発言をしてしまいました。「そちらが損をするだけですからね」「再発するとがんになりますよ」「飛ぶかもしれませんよ」あとから振り返ると、このような言葉はなるべくするべきではなかったと判断できると思います。しかし、きわめて多忙な診療場面で、入院予約、検査のアレンジ、手術室の手配など、患者のためを思って効率的にこなしてきたのに、最後の最後で患者から手術を拒否されてしまうと、このような発言をしたくなる気持ちも十分に理解できます。そのことは看護師にもよく伝わっていて、「手術の予定が決まっていたのだから医師が立腹するのもやむを得ないですよ」という援護射撃とも思える発言がありました。しかし、こうして不毛な医事紛争へ発展してしまうと、ちょっとした一言を巡って膨大な時間が忙殺される結果となってしまいます。ましてや、間違った医療行為はしていないのに、インフォームドコンセントも自分としては十分と考えていたにもかかわらず、「説明義務違反」などといわれるのは到底納得できないのではないでしょうか。本件でも結局のところは、「言った言わない」という次元の争いごとになってしまい、そのような細かいことまで診療録に記載しなかった医師側が、何らかの形で賠償責任を負うという結末を迎えました。このような医事紛争を避けるためには、不用意な発言はなるべく避けるとともに、患者に説明した内容はできるだけ診療録に残すようにするといった配慮が望まれると思います。癌・腫瘍

4264.

診療報酬改定の逆風に負けない 科学的経営で「強い病院」に変革せよ!

病院向け医療教育動画サービス「CareNeTV hospital」発売記念病院マネジメントエグゼクティブセミナー病院経営への大きな影響が予想される2014年診療報酬改定。これまでのやり方で病院は生き残っていくことができるでしょうか。本セミナーでは、病院経営トップを対象に、DPC分析やBSC(バランスト・スコアカード)を活用し科学的アプローチで経営戦略を立案・実行する方法論、それを具現化するためのノウハウ、さらに改定後の病院経営の指針を、各分野の第一人者がレクチャーします。このセミナーが、貴院の科学的な病院経営スタイル確立への第一歩となることをお約束します。開催概要開催日:2014年2月1日(土)13時30分~17時15分(13時開場)開催場所:ベルサール飯田橋ファースト[住所] 東京都文京区後楽2-6-1住友不動産飯田橋ファーストタワーB1地図:http://www.bellesalle.co.jp/bs_iidabashifirst/access.html[電話] 03-5805-3231[交通] JR線 飯田橋駅 東口徒歩5分/大江戸線 飯田橋駅 C3出口徒歩4分/有楽町線・南北線 飯田橋駅 B1出口徒歩5分/東西線 飯田橋駅 A3出口徒歩6分/丸ノ内線 後楽園駅 2番出口徒歩8分※飯田橋駅には、「ベルサール飯田橋駅前」という施設があります。お間違えないようご注意ください定員:130名(先着順)対象:病院経営幹部(院長、事務長など)参加費:10,000円(当日会場にてお支払いください)主催:株式会社ケアネット協力:産業医科大学公衆衛生学教室申込方法:申込は締め切りました※受講料は当日会場にてお支払いくださいプログラム【講座1】13時30分~14時30分(60分)講師:松田晋哉氏(産業医科大学 公衆衛生教室学 教授) 「勘と度胸の」経営から「データに基づく」科学的経営へ病院を「勘と度胸」で経営できる時代は終わりを告げました。これからの生き残りに必要なのは、一般企業では常識になっているデータに基づく科学的な経営手法です。「財務」「顧客」「内部業務プロセス」「イノベーションと学習」の4つの視点から戦略に適合した個別の実施項目/数値目標/評価指標を設定し、PDCAサイクルを回していくバランスト・スコアカード(BSC)。DPCデータの正しい分析とその経営改善への活用方法。これらを融合させた、新時代の科学的病院経営手法を概説します。【講座2】14時30分~15時15分(45分)講師:遠山峰輝氏(株式会社メディカルクリエイト 代表取締役社長)改善策はこう導き出す― 事例とともに学ぶ課題解決手法 ―自院の経営状態をデータで把握し、科学的な手法で経営改善につなげていく―。口で言うのは簡単ですが、それを実践して具体的な成果を上げるまでには様々なハードルがあるのは言うまでもありません。早くから科学的な病院経営の分析と改善策立案、実行の必要性を提唱し、実際に数多くの病院の経営改善に取り組んできた医療経営コンサルタントの立場から、課題解決型の科学的経営を確立するための具体的ノウハウの一端を開陳します。【休憩】15時15分~15時30分(15分)【講座3】15時30分~16時15分(45分)講師:鐘江康一郎氏(聖路加国際病院 経営企画室/QIセンター マネジャー)「経営企画室」は何をやって、どんな成果を上げるのか?どんなに有能な病院長でも、科学的な病院経営スタイルを独りの力で確立するのは困難です。経営トップの意思決定を組織としてサポートするのが「経営企画室」。事実、最先端の病院では、経営企画室を設け、MBAや一般産業界で経営企画を行ってきたエキスパートを登用し、実績を上げています。病院における「経営企画室」とはどのようなものなのか。その実際の役割と機能を、聖路加国際病院における具体例を引きながら解説します。【講座4】16時15分~17時15分(60分)講師:西澤寛俊氏(公益社団法人全日本病院協会 会長)「2014年度診療報酬改定」後の経営の舵取り科学的な病院経営がこれからの時代には必須ですが、保険医療機関である以上、同時に、厚生労働省の政策のトレンド、診療報酬改定のポイントも当然押さえておかなければなりません。特に、次期改定は消費税引き上げ対応を伴う病院にとって厳しい内容になると予想されています。2014改定後、病院経営者は何を見据え、どの方向に経営の舵を切ればよいのか?厚労行政、診療報酬に精通する中小病院経営者のリーダーとして、明日の病院経営に直結する指針を語ります。 【個人情報の取り扱いについて】株式会社ケアネットは、お客様の個人情報をJIS規格(JISQ15001:2006「個人情報保護マネジメントシステム要求事項」)に準拠して適切に取扱い、保護いたします。ご記入いただきましたお客様の個人情報は、本セミナーの実施目的(申込受付、確認の連絡など)以外には使用いたしません。ただし、弊社からのお知らせやアンケートのご協力をメールまたはDMでお送りすることがあります。予めご了承ください。 【ご注意】セミナーの内容に一部変更が生じる場合があります。予めご了承ください。 【問合せ先】株式会社ケアネット 病院マネジメントエグゼクティブセミナー事務局 担当:戸田(トダ) 〒102-0074 東京都千代田区九段南1-5-6 りそな九段ビルTel:03-5214-5750 受付時間10時~18時(土日祝日、冬期休業期間12/28~1/5を除く)Fax:03-6867-0354e-mail:hospital-manage@carenet.co.jp

4265.

TAVR後の院内死亡率5.5%、脳卒中2.0%/JAMA

 経カテーテル大動脈弁置換術(Transcatheter aortic valve replacement:TAVR)を受けた米国患者のデバイス植込み成功率は92%であり、全院内死亡率は5.5%、脳卒中の発生は2.0%であったことなどが、Edwards Sapien XTデバイスの市販後調査報告として発表された。TAVRは2011年に米国食品医薬品局(FDA)によって、重症の症候性大動脈弁狭窄症で手術不能の患者に対する治療法として承認され、2012年には高リスクだが手術可能な症例にも適応となり施術が行われている。JAMA誌2013年11月20日号掲載の報告より。デバイス承認後の全米224病院・7,710例のアウトカムを分析 調査は、全米レジストリ(Society of Thoracic Surgeons/American College of Cardiology Transcatheter Valve Therapy:STS/ACC TVT)の登録患者を対象に行われた。STS/ACC TVTはメディケアでカバーするための条件を満たすために開始されたもので、アウトカムの評価や他試験や国際的なレジストリとの比較も容易にするものである。今回の検討は、2011年11月~2013年5月の間に224病院から登録されたすべてのTAVR症例7,710例の結果を入手して分析が行われた。 主要アウトカムは、TAVR後のすべての院内死亡と脳卒中であった。2次解析には、手術による合併症と臨床症状や手術部位などのアウトカムを含んだ。入院期間中央値6日間、63%が自宅に退院 TAVRを受けた7,710例のうち、手術不能例は1,559例(20%)で、残り6,151例(80%)は高リスクだが手術可能な症例であった。年齢中央値は84歳(範囲:78~88歳)、3,783例(49%)が女性であり、死亡リスク予測のSTS中央値は7%(範囲:5~11%)だった。 ベースライン時に、2,176例(75%)が症状の現状について「まったく満足していない」(45%)か「ほとんど満足していない」(30%)と回答していた。2,198例(72%)が、5m歩行時間が6秒以上(歩行速度が遅い)であった。 バスキュラーアクセスのアプローチ法として最も多かったのは、経大腿アプローチ(64%)で、次いで経心尖アプローチ(29%)、その他代替アプローチ(7%)であった。 デバイス植込み成功例は7,069例(92%、95%信頼区間[CI]:91~92%)、院内死亡率は5.5%(95%CI:5.0~6.1%)だった。その他の重大合併症は、脳卒中(2.0%、95%CI:1.7~2.4%)、透析が必要な腎不全(1.9%、同:1.6~2.2%)、重大血管損傷(6.4%:同:5.8~6.9%)だった。 入院期間中央値は6日間(範囲:4~10日間)で、4,613例(63%)が自宅に退院した。 30日アウトカムは、代表的な114施設・3,133例(40.6%)で評価された(フォローアップ報告の80%以上を占めていた)。同患者における死亡率は7.6%(95%CI:6.7~8.6%)だった(非心血管系原因52%)。脳卒中の発生は2.8%(同:2.3~3.5%)、透析新規導入は2.5%(同:2.0~3.1%)、再介入率は0.5%(同:0.3~0.8%)だった。

4266.

コーヒー・緑茶と上部気道消化管がんリスクとの関連~コーヒーと緑茶では逆

 上部気道消化管がんリスクにおけるコーヒーや緑茶の影響ははっきりしていない。これらは通常摂取するときに高温であるため、その潜在的なリスク増加により、含まれる成分の抗発がん作用の評価に交絡が生じている。愛知県がんセンター研究所疫学・予防部の尾瀬 功氏らは、コーヒーや緑茶の摂取と上部気道消化管がんのリスクとの関連を評価するために、ケースコントロール研究を実施した。その結果、コーヒーの摂取は上部気道消化管がんのリスク低下と関連する一方、緑茶はリスク増加と関連する可能性があることを示唆した。International Journal of Cancer誌オンライン版2013年12月6日号に掲載。 本研究では、2001年~2005年に愛知県がんセンターを受診した上部気道消化管がん患者961例と、がんではない外来患者2,883例が登録された。コーヒーや緑茶の摂取量やその他のライフスタイル要因に関する情報は、自記式質問紙を用いて収集した。 主な結果は以下のとおり。・コーヒー3杯/日以上の摂取は、上部気道消化管がんと有意に逆相関していた(オッズ比:0.73、95%信頼区間:0.55~0.96)。・逆に、緑茶3杯/日以上の摂取は、上部気道消化管がんと有意な正の相関がみられた(オッズ比:1.39、95%信頼区間:1.13~1.70)。・これらの関連性は、頭頸部がんでは明らかであったが、食道がんでは明らかではなかった。・頭頸部がんとコーヒー摂取との関連は非喫煙者・飲酒者でのみ観察され、緑茶摂取との関連は非喫煙者・非飲酒者で認められた。・各交絡因子による層別においても、これらの関連は同様であった。

4274.

麻酔薬などの静脈注射で呼吸停止を来したケース

救急医療最終判決判例時報 1611号62-77頁概要原付バイクの自損事故で受傷した18歳男性。左下腿骨開放骨折と診断され、傷の縫合処置およびスピードトラック牽引が施行された。受傷6日目に観血的整復固定術が予定されたが、受傷部位に皮膚壊死がみられ骨髄炎が危惧されたため、ジアゼパム(商品名:セルシン)、チオペンタール(同:ラボナール)静脈麻酔下の徒手整復に変更された。ところが、静脈麻酔後まもなく呼吸停止となり、ただちに気管内挿管が施行され純酸素による強制換気が行われた。その後バイタルサインは安定したが意識障害が継続し、高圧酸素療法が施行されたものの、脳の不可逆的障害に起因する四肢麻痺、言語障害、視覚障害などが残存した。詳細な経過患者情報昭和42年3月28日生まれ18歳経過1986年12月13日22:15原付バイクを運転中の自損事故で左下腿骨開放骨折を受傷した18歳男性。近医に救急車で搬送され、骨折部位を生食・抗菌薬で洗浄したうえで、傷口を縫合しシーネ固定とした。抗菌薬としてセファゾリンを投与(12月17日まで投与し中止)。12月14日スピードトラック牽引施行(以後手術当日までの5日間消毒施行せず)。WBCCRPHbHt12月15日9,600(4+)11.1g/dL31.7%12月18日6,100(3+)11.5g/dL33.1%12月19日13:00骨折部位に対する内固定手術のため手術室入室。直前の体温37.6℃、脈拍92、血圧132/74mmHgであった。ところが、骨折部位に約3cmの創があり、その周辺皮膚が壊死していたため、観血的手術を行うことは骨髄炎発生のリスクが高いと判断し、内固定術を中止して徒手整復に治療方針が変更された。13:40マスクで酸素を投与しながら、麻酔薬としてブプレノルフィン(同:レペタン)0.3mg、ラボナール®125mg、セルシン®10mgを静脈注射した。13:43脈拍124、血圧125/50mmHg(この時に頻脈がみられたことをもって呼吸不全状態にあったと裁判所は認定)13:47血圧80/40mmHgと低下し、深呼吸を1回したのち呼吸停止状態に陥る。顔面および口唇にはチアノーゼが認められ、脈拍76、血圧60mmHg、心電図にはPVCが頻発。13:50気管内挿管を施行し、純酸素を投与して強制換気を行ったところ、血圧128/47mmHg、脈拍140となった。13:52血液ガス検査。pHpCO2pO2BEpH 7.266pCO2 39.7pO2 440.7BE -8.3代謝性アシドーシスのため炭酸水素ナトリウム(同:メイロン)投与。15:10自発呼吸が戻った直後に全身硬直性のけいれん発作が出現。脳神経外科医師が診察し、頭部CTスキャンを施行したが異常なし。16:15再びけいれん発作が出現。18:00高圧酸素療法目的で、脳神経外科医院に転院。その際の看護師申し送りに「無R7分ほどあり」と記載。12月24日徐々に意識状態は改善し、氏名年齢を不明瞭かつゆっくりではあるが発語。12月25日再度けいれん発作があり、その後意識状態はかなり後退(病院側鑑定人はこの時に2回目の脂肪塞栓が起こったと証言したが、採用されず)。1987年2月26日脳障害の改善と骨折の治療目的で、某大学病院に転院。徐々に意識は回復したが、脳の不可逆的障害に起因する四肢麻痺、言語障害、視覚障害(皮質盲)などの障害が残存した。当事者の主張患者側(原告)の主張手術前から感染症、貧血傾向がみられたにもかかわらず、術前状態を十分に把握しないままセルシン®、ラボナール®の静脈麻酔を行った。しかも麻酔中の呼吸・循環状態を十分に監視しなかったために低酸素状態に陥り、不可逆的な脳障害が発生した。病院側(被告)の主張患者には開放骨折はあったが、感染症は鎮静化しており、貧血も改善傾向にあり、手術を行うのに不適切な状態ではなく、また、脳障害は脂肪塞栓症によるものであるので、病院側に責任はない。裁判所の判断感染症についてCRPが3プラスとか4プラスという状態は、下腿骨骨折程度の組織損傷では得られないものであり、当時の所見を考えるとまず感染症を疑って創部の確認を行うのが普通なのに、担当医らは何も留意していなかった。貧血について一般に輸血の指標としてHb 10、Ht 30%とされているが、当時十分な食事や水分の摂取ができない時期があり、脱水状態にあったと判断される。そのため実際は貧血の度合いが高度であった。脂肪塞栓症について患者側鑑定人の意見を全面採用し、脂肪塞栓とは診断できないと認定。重度の脳障害を負うに至った原因は、麻酔施行中に発生した呼吸抑制によって酸素欠乏状態に陥ったためである。病院側は術前状態(貧血、感染症)などを十分に把握することなく漫然と麻酔薬(セルシン、ラボナール®)を投与し、麻酔施行中は呼吸・循環状態を十分に監視するべきであるのに、暗い部屋で手術を行ったこともあって患者の呼吸状態、胸郭の動きを十分に注視することを怠ったため、呼吸困難による酸素欠乏状態・チアノーゼが生じたのに発見が遅れた。原告側合計1億5,030万円の請求に対し、1億4,994万円の判決考察この裁判の最大の争点は、重度の脳障害に至った原因を、患者側静脈麻酔後の観察不足で低酸素脳症に陥った。病院側脳が低酸素になったのは脂肪塞栓のためである。と主張している点です。結果は第1審、第2審ともに患者側の主張を全面採用し、ほぼ請求通りのきわめて高額な判決に至りました。この裁判では、原告、被告双方とも教授クラスの鑑定人をたてて、かなり専門的な議論が交わされましたが、どちらの意見をみても医学的には適切な内容の論理を展開しています。ところが、結論がまったく正反対となっているのは、このケースの難しさを物語っていると同時に、さまざま情報を取捨選択することによって異なる結論を導くのが可能なことをあらわしていると思います。判決文を読み直しても、なぜ裁判官が原告側の鑑定を受け入れたのか納得のいく理由は示しておらず、患者側の主張に沿った鑑定内容を羅列した後に、「(患者側)認定に反する病院側鑑定(意見)は措信することができない」とだけ断定しています。これはそのまま「患者側」と「病院側」をそっくり入れ替えても通じるような論理展開なので、少なくとも医師の立場ではここまで断定することは無謀すぎるという印象さえ持ちます。結局のところ、もしかすると本当のところは脂肪塞栓による脳障害なのかもしれませんが、「18歳の青年が下腿骨骨折程度のけがで重度の脳障害を負った」という現代の医療水準からみれば大変気の毒な出来事に対し、その結果責任の重大性が強調されたケースだと思います。そして、このような判決に至ったもう一つの重要な点として、病院側が「裁判官の心証」をかなり悪くしている点は見逃せません。具体的には以下の2点です。1. 手術まで傷の消毒を5日間も行わず、感染徴候を見逃した。欧米では無菌手術後にあえて包帯交換を行わずに、抜糸まで様子をみることがありますが、本件では交通事故による開放骨折ですので、けっして無菌状態とはいえません。したがって、スピードトラック牽引後に5日間も開放創の消毒をせず、手術時に傷をみてはじめて感染兆候に気付いたのは、問題なしとはいえないと思います。その点を強調するために裁判所は、手術前の「CRPが3プラスとか4プラスという状態は、下腿骨骨折程度の組織損傷では得られない明らかな骨折部の感染だ」と決めつけています。日常臨床にたずさわる整形外科医であれば、下腿骨骨折だけでもこの程度の炎症反応をみることはしばしば経験しますし、経過を通じて骨髄炎などは併発していませんので「明らかな感染は起こしていない」という病院側の主張も理解できます。しかし、消毒を行わなかったという点や、とくに理由もなく術前に抗菌薬を中止していることについての抗弁は難しいと思います。また、本件では整形外科の常勤医師がおらず、患者の骨折を一貫してみることができなかった点も気の毒ではありますが、裁判ではそのような病院側の事情はまったく考慮しません。2. 看護師の申し送りに「無R7分程」と記載されたこと。実際に無呼吸状態が7分も継続したのか、真偽のほどはわかりませんが、看護師同士がこのような申し送りをしてしまうと、後からどのような言い訳をしても状況はきわめて厳しくなると思います。病院側は「入院時看護記録の『無R7分程』との記載は、看護師が手術中に生じた脳障害なのだから無Rに違いないという先入観に従ってしたものと推測される」という反論をしましたが、裁判官の立場では到底採用できないものでしょう。おそらく、担当医師らが「麻酔中に呼吸障害が7分くらいあったのかも知れない」という認識でいたのを、看護師が「無R7分程」と受け取ってしまったのではないか思いますが、このように医師と看護師の見解が食い違うと、それだけで「病院側は何かを隠しているにちがいない」という印象を強く与えてしまうので、ぜひとも注意しなければなりません。救急医療

4275.

「メディカルインタビューのブラッシュアップ」セミナー開催のお知らせ

 女性医師の復帰支援を行っている東京女子医科大学 女性医師再教育センター(センター長:川上 順子氏)は、2014年2月2日(日)に「メディカルインタビューのブラッシュアップ~自分に合った患者コミュニケーションスキルを見つけよう! ~」を開催する。 このセミナーは、休職中の女性医師のみでなく、現在勤務している医師、医療従事者、医学生など職種・性別を問わず役立てられる内容となっており、患者コミュニケーション能力の向上、ひいては地域医療への貢献を目的としている。今回、共通の一人の患者に対し3名のベテラン医師がメディカルインタビューを行い、その際どのようなProblem listsを念頭に、どのようなコミュニケーションスキルで、いかに診察を構成していったかを当人が事後的に解説し、診察におけるコミュニケーションの意味を討議する。医師によって、患者への問診内容や説明方法などが異なるため、当日はそれぞれのメディカルインタビューを比較し、医師側と患者側からのポイントを明らかにする。■「メディカルインタビューのブラッシュアップ」の概要は次のとおり日時 2014年2月2日(日) 13:00~16:30(受付開始 12:30~)会場 東京女子医科大学総合外来センター5階 大会議室費用 無料。託児ご希望の方はご連絡ください(無料/先着順)。対象 性別、職種を問わず、どなたでもご参加可能申し込み方法 女性医師再教育センター ホームページの申し込みフォーム、または電話にて申し込み(ホームページURLおよび電話番号は文末に記載)。内容概略 【メディカルインタビュー 1】   手稲渓仁会病院 総合内科・感染症科 医長 岸田 直樹 氏 【メディカルインタビュー 2】  あさお診療所 所長 西村 真紀 氏 【メディカルインタビュー 3】  千葉県立東金病院 院長 平井 愛山 氏 【患者側から見たメディカルインタビュー】  NPO法人ささえあい医療人権センターCOML 理事長 山口 育子 氏 【総合討論】■詳しくは、女性医師再教育センター事務局まで。TEL 03-5369-8685(直通) FAX 03-5369-8687メールアドレス saikyouiku.bm@twmu.ac.jpホームページ http://www.twmu.ac.jp/CECWD/index.html

4277.

β遮断薬はメラノーマの再発・死亡リスク低下に関連

 イタリア・フローレンス大学のVincenzo De Giorgi氏らは、1993~2009年にわたる741例の連続患者を対象に、メラノーマ(悪性黒色腫)の再発および死亡に対するβ遮断薬とそのほかの降圧薬の影響について検討した結果、β遮断薬は同リスク低下と関連しているという以前と同様の所見が得られたことを報告した。著者は、今回の結果は、その関連をより確定的なものとするために、無作為化試験による検討が必要であることをも強く示す結果であると述べている。Mayo Clinic Proceedings誌2013年11月号の掲載報告。 検討は、1993年1月1日~2009年12月31日の間、フローレンス大学の皮膚科部門でメラノーマと診断された全連続患者のデータを入手して行われた。 被験者は、ベースライン時にメラノーマの既往とその他難病を有する場合は除外された。また診断時に、臓器、リンパ、転移巣が認められた患者も除外された。 主な結果は以下のとおり。・メラノーマを有していた741例の連続患者のうち、β遮断薬を1年以上服用していた患者(大半が高血圧の治療目的のため)は、79例(11%)であった。非服用患者は662例(89%)であった。・多変量Coxモデル解析の結果、服用群はフォローアップ中央値4年後の全生存率が有意に改善された(p=0.005)。・β遮断薬服用者は、年間38%ずつリスクが減少していた。・高血圧の罹患、降圧薬服用が1年以上、あるいはそのほかの頻度の高い薬物服用は、メラノーマの患者の良好なアウトカムと関連がみられなかった。

4278.

医師の7割がTPPに賛成!一方で、8割以上が日本の医療制度に影響を及ぼすと考える

医師・医療従事者向け情報サービスサイトを運営する株式会社ケアネット(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:大野元泰、証券コード:2150)は2013年11月22日、当社医師会員1,000人に対し、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に対する意識調査を実施しました。TPP最終合意へ向けて日米両政府の交渉が進む中で、TPPが医療へ及ぼす影響を医師はどのように考えているのか、詳細をご報告致します。コメントはこちら結果概要医師の7割以上がTPPに賛成全面的に賛成(9.4%)に、参加はやむを得ない(64.8%)を加えると、74.2%と、医師の7割以上が賛成する結果になった。フリーコメントでは、「日本の経済全体を考えるとTPPは避けられない」「グローバル化の中で、鎖国の様な政策を取りつづけるのは現実的ではない」というものが散見された。8割以上の医師が、TPPは日本の医療制度に影響を及ぼすと回答TPP参加により、「国民皆保険制度」や「混合診療の禁止」、「営利企業(株式会社)の参入」はどうなると考えているか尋ねたところ、すべての項目に対して、今まで通り維持されると回答した医師は2割を切り、8割以上の医師がTPPへの参加には賛成するが、日本の医療制度に影響を及ぼすことは避けられないと考えていることがわかった。政府はもっと具体像を示して欲しいISD条項を知っているか尋ねたところ、内容を理解していると答えたのは7.0%と少なく、だいたいの内容は知っている(21.3%)を加えても、3割にも満たない結果となった。フリーコメントには、「正確な内容を国民に知らせずに進んでいることが恐い」、「TPP参加でどのように変化するのか十分に理解できていない。政府はもっと具体像を示して欲しい」などの情報不足を指摘するコメントが複数見られた。画像を拡大する調査タイトル:医師のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に対する意識調査調査方法:インターネットリサーチ調査対象:医師・医療従事者向け専門サイト「CareNet.com」医師会員有効回答数:1,000サンプル調査日時:2013年11月22日(金)画像を拡大する設問設定TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)ついてお尋ねします。安倍晋三首相は11月12日、ルー米財務長官と首相官邸で会談し、TPPの年内妥結に向け協力する方針を確認しました。以前より日本政府はTPPによる国民皆保険制度への影響はないと発表していますが(*1)、日本医師会では、公的な医療給付範囲を将来にわたって維持すること、混合診療を全面解禁しないこと、営利企業(株式会社)を医療機関経営に参入させないこと、の3つが保証されない限り、国民皆保険制度は維持されないと表明しています(*2)。そこで先生にお尋ねします。*1)『TPP協定交渉について:平成25年6月内閣官房TPP政府対策本部、p.66』1.政府が現時点で得ている情報では、TPP 交渉においては、公的医療保険制度のあり方そのものなどは議論の対象になっていません。また、これまで日本が締結してきた経済連携協定においても、公的医療保険制度については、金融サービスの自由化について定める規定等から除外しています。2.政府としては、日本が誇る国民皆保険制度を維持し、安全・安心な医療が損なわれることのないよう、しっかりと主張していきます。国民皆保険制度は、日本の医療制度の根幹であり、この制度を揺るがすことはありません。*2) 日本医師会『TPP交渉参加について【2013.3.15】』「日本医師会は、世界に誇る国民皆保険を守るために、第1に公的な医療給付範囲を将来にわたって維持すること、第2に混合診療を全面解禁しないこと、第3に営利企業(株式会社)を医療機関経営に参入させないこと、の3つが絶対に守られるよう、厳しく求めていきます。もし、日本の国益に反すると判断された場合は、TPP交渉から速やかに撤退するという選択肢も持つべきです。」Q1.TPPへの参加をどのようにお考えですか?(必須)全面的に賛成参加はやむを得ない参加しないほうがよい全面的に反対Q2.TPPに参加したら、国民皆保険制度はどうなるとお考えですか?(必須)今まで通り維持されるなんらかの影響を受けるが、維持される国民皆保険制度は維持されないわからないQ3.TPPに参加したら、混合診療の禁止はどうなるとお考えですか?(必須)今まで通り、一部の例外を除き禁止のまま混合診療の是認範囲が広がる混合診療は解禁されるQ4.TPPに参加したら、営利企業(株式会社)の参入はどうなるとお考えですか?(必須)今まで通り認められない部分的に参入が認められるようになる営利企業(株式会社)の参入が認められるようになるQ5.TPPにおける、ISD条項についてご存知ですか?(必須)内容を理解しているだいたいの内容は知っている名称だけは知っている知らないQ6.TPPに対するご意見・ご感想等何でも結構ですので、お知らせください。(任意)[         ]コメント抜粋(一部割愛、簡略化しておりますことをご了承下さい)交渉をするかが肝心です。(40代,内科,診療所・クリニック(19床以下))一次産業は大きな影響を受ける可能性が高いと思うので、しっかりした対応が必要。 医療業界はそんなに大きな影響はないと思うし、そう願いたい。(50代,内科,診療所・クリニック(19床以下))日本の経済が立ち行かなければ医療費そのものが払えなくなるので変えられない流れだと思います。(40代,精神科,診療所・クリニック(19床以下))医療のレベルに関して、日本は高度であるのでTTPに参加しても問題ない。(60代,外科,上記以外)TPP参加は日本にとってもビジネスチャンスだと思う。(30代,麻酔科,一般病院(20床以上))見通しが不透明すぎて議論の対象にならない。そういう状況でも話を進めて行く政府のやり方に大いなる不信感がある。(50代,呼吸器内科,大学病院)日常診療にどのような変化が生じるのか、不安が強い。(30代,呼吸器内科,一般病院(20床以上))医療関係の情報が少ない。(50代,皮膚科,一般病院(20床以上))保険医療の適応範囲の縮小につながり賛成である。(30代,整形外科,大学病院)TPPで既存の勢力は痛手をこうむると思うが、逆に良くなるところもあるのではないかと期待する。(50代,泌尿器科,一般病院(20床以上))いずれ営利目的の企業が参入してくるでしょうね。そうなれば、皆保険も潰れるでしょう。 (60代,小児科,一般病院(20床以上))日本の法律の上に来るような条項の導入など許されない。(30代,腎臓内科,一般病院(20床以上))時代の流れとして受け止めないといけないし既得権は放棄すべき。(50代,神経内科,一般病院(20床以上))デンマークのハーモナイズウップの原則などを参考にした交渉や規制の緩和を進めることも一つの方策かと思います。(60代,循環器内科,一般病院(20床以上))TPP反対だが、もう政府は決めてしまっているのだろう。(40代,外科,一般病院(20床以上))日本医師会の主張はもっともだと思うが、たとえ政府が医師会の主張を受け入れてTPP参加したとしても、いずれ約束は反故にされると思う。ISD条項は大変な曲者である。(40代,精神科,一般病院(20床以上))TPP参加は少なくとも医師の既得権益を脅かすものにはなると思うが、ある程度医療が自由化されれば医師が淘汰され診療のレベル自体は上がると思う。(40代,小児科,大学病院)どういう話が進められるのか、逐一情報がほしいし、国民がそれに対し、反対か賛成かある程度意見が言えるぐらいにあってほしいなと思います。(30代,神経内科,大学病院)報道では主として農産物など関税障壁に関することが取り上げられているが、ISD条項も含めて非関税障壁のほうが日本の社会を大混乱に陥れるものとしてもっとしっかりと知らしめるべきだと考える。(50代,その他,上記以外)正確な内容を国民に知らせずに、進んで行っていることが怖い。 誰の意思で進んで行っているのか分からない。 (40代,循環器内科,診療所・クリニック(19床以下))制度としての「国民皆保険」は維持されたとしても、実際に受けられる医療や介護の質と量が患者の経済状況によって左右される「米国型」にシフトさせられる。 (50代,整形外科,一般病院(20床以上))保険システムにおいては費用がかかる割に効果の無いアメリカシステム。費用がかからない割にアメリカより効果を出している日本システム。これで何故システムまでアメリカ型に追従しなければならないのか。(30代,循環器内科,大学病院)現在、世界的な経済競争の中で日本が取り残される可能性が強く感じられるためTPPは必ず締結してほしい。(60代,呼吸器内科,一般病院(20床以上))一旦TPP交渉の場についた以上、医療の場の変化は避けられない。ましてや、現在の政策で医療費を確保しようとするより如何に削減するかを重要視している以上、混合診療の規制緩和等はほぼ決定的と言っていいだろう。アメリカをはじめとする諸外国の圧力に日本が外交的に抗しきれるとはとても思えない。(50代,外科,一般病院(20床以上))TPP参加でどのように変化するのか、十分に理解できていない。政府はもっと具体像を示してほしい。(60代,整形外科,一般病院(20床以上))

4279.

気管支喘息で入院中に、自宅から持ち込んだ玩具で窒息した乳児例

小児科最終判決判例時報 1790号119-131頁概要気管支喘息、上気道炎と診断されて入院治療を受けていた1歳男児。家族の常時付添を許可しない完全看護体制の病院であり、母親は普段から一番気に入っていたおもちゃのコップを病室に持ち込んだ。入院翌日13:30頃看護師が訪室してみると、おもちゃのコップによって鼻と口が塞がれ心肺停止状態であり、ただちにコップを外して救急蘇生を行ったが、重度脳障害が発生した。詳細な経過患者情報平成4年5月21日生まれの1歳男児。既往症なし経過平成5年5月31日発熱、咳を主訴として総合病院小児科を受診し、喘息性気管支炎と診断された。6月1日容態が改善しないため同病院小児科を再診、別の医師から気管支喘息、上気道炎と診断され、念のため入院措置がとられた。この時患児は診察を待っている間も走り回るほど元気であり、気管支喘息以外には特段異常なし。同病院では完全看護体制がとられていたため、平日の面会時間は15:00~19:00までであり、母親が帰宅する時には泣いて離れようとしないため、普段から一番気に入っていた玩具を病室に持ち込んだ(「コンビコップがさね」:大小11個のプラスチック製コップ様の容器で、重ねたり、水や砂を入れたり、大きなものに小さなものを入れたりして遊ぶことができる玩具)。6月2日10:00喘鳴があり、息を吸った時のエア入りがやや悪く、湿性咳嗽(痰がらみの咳)、水様性鼻汁がでていたが、吸引するほどではなかった。12:40~12:50担当看護師が病室に入って観察、床頭台においてあった「コンビコップがさね」を3~4個とって患児に手渡した。13:00担当看護師が検温のため訪室したが、「コンビコップがさね」を重ねたりして遊んでいたので、検温は後回しにしていったん退室。13:30再び看護師が検温のために訪室すると、患児は仰向けになってベッドに横たわり、「コンビコップがさね」によって鼻と口が塞がれた状態であった。ただちにコップを強く引いて取り外したが、顔面蒼白、チアノーゼ、心肺停止状態であり、駆けつけた医師によって心肺蘇生が行われた。何とか心拍は再開したものの低酸素脳症に陥り、精神発達遅滞、痙性四肢麻痺、てんかんなどの重度後遺障害が残存した。当事者の主張患者側(原告)の主張患児は気管支喘息の大発作を起こしていたので、担当医師は玩具によって患児の身体に危険が及ばないように、少なくとも10分おきに病状観察をするよう看護師に指示する義務があった。完全看護体制をとっている以上、ナースコールを押すことができず危機回避能力もない幼児を担当する看護師は、頻繁に(せめて10分おきに)訪室して監視する義務があった。ナースコールもできず、付添人もいない幼児を病室に収容するのであれば、ナースステーションに患者動静を監視する監視装置をつけなければならない安全配慮義務があった。病院側(被告)の主張担当医師、担当看護師ともに、「コンビコップがさね」のような玩具で窒息が生じることなどまったく予見できなかったため、10分毎に訪室する義務はない。そして、完全看護といっても、すべての乳幼児に常時付き添う体制はとられていない。病室においても、カメラなどの監視装置を設置するような義務があるとは到底いえない。裁判所の判断事故の原因は、喘息の発作に関連した強い咳き込みによって陰圧が生じ、たまたま口元にあった玩具を払いのけることができなかったか、迷走神経反射で意識低下が起きたため玩具が口元を閉塞したことが考えられる。患児の病状のみに着目する限り、喘息の観察のために10分おきの観察を要するほど緊急を要していたとはいえないので、医師としての注意義務を怠ったとはいえない。幼児の行動や、与えた玩具がどのような身体的影響を及ぼすかについては予測困難であるから、看護師は頻繁に訪室して病状観察する義務があった。そのため、30分間訪室しなかったことは観察義務を怠ったといえるが、当時は別の患者の対応を行っていたことなどを考えると、看護師一人に訪室義務を負わせることはできない。しかし、家族の付添は面会時間を除いて認めないという完全看護体制の病院としては、予測困難な幼児の行動を見越して不測の事態が起こらないよう監視するのが医療機関として当然の義務である。そして、喘息に罹患していた幼児に呼吸困難が発生することは予測でき、玩具によって危険な状態が発生することもまったく予見できなかったわけではないから、そのような場合に備えて常時看護師が監視しうる体制を整えていなかったのは病院側の安全配慮義務違反である。原告側合計1億5,728万円の請求に対し、1億3,428万円の判決考察今回の事故は、喘息で入院中の幼児が、おもちゃのコップによって口と鼻を塞がれ、窒息して心肺停止状態になるという、たいへん不幸な出来事でした。もしこのおもちゃを用意したのが病院側であれば、このような紛争へ発展しても仕方がないと思いますが、問題となったおもちゃは幼児にとって普段から一番のお気に入りであり、完全看護の病院では一人で心細いだろうとのことで母親が自宅から持ち込んだものです。したがって、当然のことながら自宅でも同様の事故が起きた可能性は十分に考えられ、たまたま発生場所が病院であったという見方もできます。判決文をみると、わずか30分間看護師が病室を離れたことを問題視し、常時幼児を監視できる体制にしていなかった病院側に責任があると結論していますが、十分な説得力はありません。完全看護を採用している小児科病棟で、幼児は何をするかわからないからずっと付きっきりで監視する、などということはきわめて非現実的でしょう。そして、「玩具によって危険な状態が発生することもまったく予見できなかったわけではない」というのも、はじめて幼児に与えた玩具ではなく普段から慣れ親しんでいたお気に入りを与えたことを考えれば、かなり乱暴な考え方といえます。ちなみに、第1審では「病院側の責任はまったく無し」と判断されたあとの今回第2審判決であり、医療事故といってもきわめて単純な内容ですから、裁判官がかわっただけで正反対の判決がでるという、理解しがたい判決でした。今回の事例は、医師や看護師が当然とるべき医療行為を怠ったとか、重大なことを見落として患者の容態が悪化したというような内容ではけっしてありません。まさに不可抗力ともいえる不幸な事件であり、今後このような事故を予防するにはどうすればよいか、というような具体的な施策、監視体制というのもすぐには挙げられないと思います。にもかかわらず、「常時看護師が監視しうる体制を整えていなかったのは病院側の安全配慮義務違反である」とまで言い切るのであれば、どのようにすれば安全配慮義務を果たしたことになるのか、具体的に判示するべきだと思います。ただし医療現場をまったく知らない裁判官にとってそのような能力はなく、曖昧な理由に基づいてきわめて高額な賠償命令を出したことになります。このケースは現在最高裁判所で係争中ですので、ぜひとも良識ある最終判断が望まれますが、同様の事故が起きると同じような司法判断が下される可能性も十分に考えられます。とすれば医療機関側の具体的な対策としては、「入院中の幼児におもちゃを与えるのは、家族がいる時だけに限定する」というような対応を考えること以外に、不毛な医事紛争を避ける手段はないように思います。小児科

4280.

日本を含む主要国の喫煙率の最新情報を発表~国際肺がん連盟による21ヵ国同時調査

 がんはわが国の死因の約3割を占め、その中でも肺がんが約2割と最も多い。肺がんの7割は喫煙が原因とされ、禁煙によって肺がんの発症を大幅に減らせることは確実である。 このたび、喫煙率と肺がん初期症状の認知度について、肺がん患者支援団体の国際組織である国際肺がん連盟(Global Lung Cancer Coalition:GLCC)が、2013年6月~8月、世界同時にアンケート調査を実施した結果が報告された。その中で、日本では男性の喫煙率が高く、また喫煙者における肺がん初期症状の認知度が低いことが示された。11月22日(金)、都内で開催された日本肺癌学会主催プレスセミナーにて、GLCC日本代表の澤 祥幸氏(岐阜市民病院診療局長)が報告した。日本では喫煙率の男女差が大きい GLCCの調査は今回が2回目(1回目は2010年)である。今回は2013年6月2日~8月16日に21ヵ国(文末の【試験概要】を参照)の成人に対して、喫煙状況(喫煙者率)と肺がん初期症状の認知度について、電話または対面での聞き取り調査を行った。わが国では、7月5日~15日に1,204人に対して、電話により聞き取り調査を実施した。 その結果、現喫煙者(現在習慣的に喫煙している)の割合は、ブルガリア(41%)、スペイン(33%)、フランス(30%)が高く、スウェーデン(12%)とオーストラリア(13%)は低かった。日本は24%と、21ヵ国中7番目に多く、既喫煙者(以前習慣的に喫煙していたが現在喫煙していない)の割合は21%であった。非喫煙者(習慣的に喫煙した経験がない)の割合は、エジプト(70%)が最も高く、次いでメキシコ(66%)、イタリア(60%)で、日本は55%であった。既喫煙者の割合が高かったのは、2010年からタバコ規制を強く推進しているカナダ(31%)、ノルウェー(29%)、スウェーデン(29%)であった。 喫煙者率の男女差は顕著であり、ほとんどの国で女性と比較して男性の喫煙者率が高かった(現喫煙者率:女性18%に対し男性28%、既喫煙者率:女性17%に対し男性26%、非喫煙者率:女性64%に対し男性46%)。日本の現喫煙者率は、女性10%に対し男性38%と、男女差がとくに大きかった。澤氏は、「喫煙者率の男女差が大きいということは、たとえば家庭内で、非喫煙者である女性が受動喫煙により肺がんになる危険があるということ」と懸念する。GLCCでもこれを非常に問題視しているという。 一方、WHOによると、男性の喫煙者率が減少しているのに対して、欧州では女性の喫煙者率が上昇傾向にあり、カナダ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、スイスでは喫煙者率の男女差がなかった。日本では喫煙者のほうが肺がん症状の認知度が低い 肺がん初期症状の認知度については、呼吸困難(40%)と非特異的な咳嗽(39%)が他の症状を大きく上回った。咳嗽関連の症状や疲労の認知度は10%以上であったが、ばち状指(1%)と頸部リンパ節腫脹(2%)の認知度は低かった。日本では、非特異的な咳嗽の認知度が50%と最も高いが、それに比較して呼吸困難の認知度が22%と低いことが特徴的である。 また、肺がんの初期症状をまったく知らない回答者の割合は全体で23%であったが、国による違いが大きく、エジプト(48%)、アルゼンチン(42%)で高いのに対し、フランス(7%)、アイルランド(9%)では低かった。このように国による認知度の違いが大きいことから、認知度の向上にはキャンペーンが有効と考えられた。 さらに、現喫煙者、既喫煙者、非喫煙者ごとに肺がん初期症状の認知度をみたところ、日本では、非喫煙者、既喫煙者、現喫煙者の順で低くなっており、澤氏は「喫煙者のほうが肺がんを心配していないと考えられる」と指摘した。【調査概要】●調査期間:2013年6月2日~8月16日●調査対象(カッコ内は人数):オーストラリア(1,000)、アルゼンチン(500)、ブルガリア(1,148)、カナダ(1,005)、デンマーク(650)、エジプト(1,009)、フランス(953)、英国(957)、ドイツ(1,073)、アイルランド(1,000)、イタリア(510)、日本(1,204)、メキシコ(600)、オランダ(1,004)、ノルウェー(529)、ポルトガル(1,203)、スロベニア(580)、スペイン(500)、スウェーデン(550)、スイス(510)、米国(1,000)計21ヵ国の成人(成人年齢は各国の定義による)●調査方法:電話または対面による聞き取り●調査内容:喫煙状況と肺がん初期症状の認知度の2項目-喫煙状況現喫煙者(現在習慣的に喫煙している)、既喫煙者(以前習慣的に喫煙していたが現在喫煙していない)、非喫煙者(習慣的に喫煙した経験がない)の3群に分類した。-肺がん初期症状の認知度回答者に初期症状を思いつく限り挙げさせ、それを「非特異的な咳嗽」「継続する咳嗽」「悪化していく咳嗽」「血痰」「咳嗽または呼吸時の痛み」「呼吸困難」「嗄声」「嚥下困難または嚥下痛」「体重減少」「食欲減退」「疲労・エネルギー低下」「胸部感染症持続」「胸部・肩部痛」「頸部リンパ節腫脹」「指先の肥大化(ばち状指)」「その他」「肺がん初期症状を知らない」の17種の回答に分類した。●結果解析:年齢、性別とともに集計し、各国の成人人口で重み付けして解析

検索結果 合計:5052件 表示位置:4261 - 4280