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急性喉頭蓋炎を風邪と診断して死亡に至ったケース(2)

救急医療最終判決判例時報 1510号144-150頁概要発熱、喉の痛みを主訴に内科開業医を受診した45歳男性。急性気管支炎、扁桃腺炎と診断して解熱鎮痛薬などを投与した。帰宅後状態は改善せず息苦しくなり、薬も喉をつかえて飲み込むことができないため約2時間後に再度受診、ネブライザーなどの処置が行われた。しかし、病状は急激に進行性のため救急センターへの転院を手配し、約10分後に到着したものの、その時点で心肺停止状態。救急蘇生には反応せず、死亡確認となった。詳細な経過患者情報45歳男性経過1986年5月8日17:3045歳男性、3日前からの37℃程度の発熱、喉の痛み、易疲労感を主訴に救急指定の内科開業医を受診。診察の結果、体温37.0℃、扁桃腺が赤く腫れていたが、呼吸音には異常はなく、急性気管支炎、扁桃腺炎と診断し、扁桃へのルゴール®塗布、解熱消炎薬プラノプロフェン(商品名:ニフラン)などの内服を3日分投与し帰宅させた。19:30帰宅後も症状は改善せず、薬も喉をつかえて飲み込めず、息が苦しくなり、妻が開業医へ電話したところ、看護師からすぐに来院するようにいわれた。19:55再度診察。問診に対し「息苦しい」と答えるのがやっとであり、聴診の結果弱い乾性ラ音を聴取した。呼吸は荒く起座呼吸であったので、ネブライザー(イソプレナリン 同:アスプール2mL、チロキサポール 同:アレベール1mL)吸入をしたが改善なし。そのため肺水腫、咽後膿瘍、喉頭浮腫などの重篤な疾患を疑い、救急センターへの転院を手配した。その際、救急車の利用は時間がかかる恐れがあったので、妻の運転する乗用車で搬送することにし、担当医は自ら自動車を運転して同行した。20:25約10分で救急センターに到着。搬入時意識はなく心肺停止状態。ただちに気管内挿管などの救急蘇生術が行われたが効果なし。21:30死亡確認。当事者の主張患者側(原告)の主張1.呼吸困難、起座呼吸の患者に対し、十分な問診・全身状態の観察を行わなかった2.咽頭や喉頭を喉頭鏡などを用いて観察しなかったため重症度・緊急度を判断できず、放置すれば搬送中に気道閉塞・窒息する危険があることを予知できなかったその結果、自ら気管内挿管を行うか、救急車に同上して気道確保の措置をするべきであったのに、漫然と患者を搬送させたために死亡に至った。病院側(被告)の主張1.救急車を呼んで搬送するよりも、ただちに自家用車で出発したほうが救急センターへの到着が早いと判断したのは、医師の裁量範囲に属することである2.内科医師に耳鼻咽喉科医師が扱う間接喉頭鏡や喉頭ファイバースコープの使用を期待するのは医療水準を越えている3.当時喉頭展開用の喉頭鏡はあったが、人的物的設備を備えていない状況では使用困難であった4.独歩で来院し、意識障害やチアノーゼがない患者が、その後30分以内に喉頭浮腫による気道閉塞・窒息となることを予見するのは不可能であった裁判所の判断2回目の受診の際に、呼吸困難を訴える患者に当然要求される診察(呼吸、脈拍、血圧、意識状態やチアノーゼの有無など)を怠ったため、患者の重症度や緊急性の判定ができず、呼吸困難の急激な進行により窒息状態に陥る可能性を予見できなかった注意義務違反がある。しかも、気道確保の準備をして救急車を要請し自ら同乗していれば救命の可能性があったため、死亡という結果に対する過失があるといわざるを得ない。原告側合計1億2,009万円の請求に対し、7,282万円の判決考察このケースは前出の「急性喉頭蓋炎を風邪と診断して死亡に至ったケース(1)」と同様、一見「単なる風邪だろう」という印象を受けても、なかには急激に死亡に至るきわめて危険なケースがあることを示す教訓的な事例だと思います。本件の担当医師は、「自分の手には負えない」ということを察知して救急センターに電話を入れ、受け入れ体制を確認したところまでは適切でしたが、救急車を要請しなかった点が最大の問題点でした。もし、その当時ほかの患者さんが大勢待っていて、医院を空けることがためらわれたのであればまだしも、わざわざ自らの自動車を運転して「一刻も早く患者を救急センターに転送するため、患者の妻が運転する自動車のあとを追尾した」ということでしたので、どちらかというととても親切な医師という印象さえ受けます。しかし、せっかく患者に付き添って転送するのであれば、自家用車で搬送するよりも救急車を要請した方が酸素、吸引装置などの設備の面からいって有利なのはいうまでもありません。そして、もし救急車を要請して自らが気管内挿管などの救急蘇生を行っていれば、たとえ最悪の結果になろうとも、これほど高額の判決には至らなかった可能性が考えられます。今回のケースから得られる教訓としては、(1)一見風邪と思われる症例にも、急死に至る危険なケースが含まれていること(2)患者を搬送する場合には、可能な限り救急車を要請することと思われます。救急医療

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プロラクチン上昇リスクの低い第二世代抗精神病薬はどれか

 1970年代以降、統合失調症患者への薬物治療の基本である抗精神病薬の一般的な有害事象として、高プロラクチン血症(HPRL)に対する認識が臨床医において浸透してきている。第二世代抗精神病薬(SGA)による治療中の血漿中プロラクチン(PRL)レベルは第一世代抗精神病薬使用時と比較して低いが、これらのPRLレベルに及ぼす詳細な影響は完全には明確にされていない。さらに、新規に承認された抗精神病薬[アセナピン、イロペロリドン、ルラシドン(いずれも国内未承認)]のPRLレベルに及ぼす影響に関するレビューは現時点においてない。ベルギー・ルーヴェン・カトリック大学のJ. Peuskens氏らは、第二世代抗精神病薬および新規に承認された抗精神病薬のPRL上昇への影響を評価するため、MEDLINE文献検索によるレビューを行った。その結果、アセナピンとイロペロリドンはクロザピンと同程度の、ルラシドンはジプラシドン(国内未承認)およびオランザピンと同程度のプロラクチン上昇作用を有する所見が得られたことを報告した。CNS Drugs誌2014年3月号の掲載報告。 著者らは、PRLの生理学、PRLの測定、診断、原因、HPRLの機序と転帰、思春期および成人患者におけるSGAおよび新しく認可された抗精神病薬に伴うHPRL新規発症の発生経過、再診時に高値が維持されているPRLに関する疑問などについて言及することを目的に本レビューを行った。MEDLINEデータベース(1966年~2013年12月)を用いて文献検索を行い、HPRLの最新情報とSGAおよび新規承認抗精神病薬のPRL上昇に関する適用可能なエビデンスを概説している代表的な文献を特定した。 主な結果は以下のとおり。・HPRLは通常、正常上限値を超えるPRLレベルの持続と定義されているが、本検討における上限値は報告によりさまざまであるため、試験間の解釈や比較は困難であった。さらに多くの報告が、PRL測定に関する詳細なデータを十分に提供していなかった。・アミスルプリド(国内未承認)、リスペリドン、パリペリドンに関しては、HPRLが高頻度であるとの報告が一貫してなされていた。・一方、アリピプラゾールとクエチアピンは、PRLプロファイルに悪影響を及ぼさないことが示された。・すべてのSGAは、とくに治療開始時にPRL上昇を惹起しうること、HPRLの新規発症を引き起こす可能性があることなどが示された。・新規承認抗精神病薬によるPRL上昇作用から、アセナピンとイロペロリドンはクロザピンと、ルラシドンはジプラシドンとオランザピンと、同程度のPRLプロファイルを有していることが示唆された。・一般に、抗精神病薬によるPRL上昇は用量依存性であるが、PRL上昇のポテンシャルを有する抗精神病薬(アミスルプリド、リスペリドン、パリペリドンなど)は、低用量であってもPRLレベルに大きな影響を及ぼす可能性が示唆された。・一方、PRLレベルに及ぼす影響が小さい抗精神病薬は、ほとんどすべての用量でPRLレベルは不変(クエチアピン)または減少(アリピプラゾール)が認められた。・PRLを上昇させる抗精神病薬は、長期服用後も忍容性が示され、PRLレベルの低下も起こりうるが、大半は正常上限値を超えるレベルが維持された。・小児および思春期患者における抗精神病薬のPRLプロファイルは、成人と同様のようであった。・抗精神病薬によるプロラクチン上昇の影響は、多くの場合、下垂体前葉のプロラクチン産生細胞レベルにおけるドパミンD2受容体への親和性(および、その他の神経伝達メカニズム)、血液脳関門通過性と関連していた。・抗精神病薬は、HPRLを引き起こす最も一般的な薬物要因であるが、最近の研究では、初回エピソード精神病または精神状態がリスクにさらされている患者において、抗精神病薬の治療を受けていない状況でHPRLが存在する可能性が示されていた。関連医療ニュース 抗精神病薬による高プロラクチン血症に関するレビュー 薬剤誘発性高プロラクチン血症への対処は 初回エピソード統合失調症患者はプロラクチン値が高い

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本当にアリピプラゾールは代謝関連有害事象が少ないのか

 非定型抗精神病薬に伴う代謝異常は、薬剤の種類により異なるといわれている。非定型抗精神病薬と心血管疾患のリスク因子との関連を踏まえ、米国糖尿病学会(ADA)および米国精神医学会(APA)は、非定型抗精神病薬の中でもアリピプラゾールとジプラシドン(国内未承認)は代謝異常を生じにくいとのコンセンサスステートメントを発表した。今回、米国・ニューヨーク医科大学のLeslie Citrome氏らは、実臨床下におけるアリピプラゾールと他の非定型抗精神病薬の代謝関連有害事象リスクに関する検討を行った。Current Medical Research and Opinion誌オンライン版2014年3月26日号の掲載報告。 本検討において研究グループは、非定型抗精神病薬アリピプラゾールの治療を受けている成人患者の体重増加、脂質異常、血糖異常、糖尿病のリスクを検討した実臨床での研究(観察/自然的研究、オープンラベル研究など)を評価した。2000年1月1日~2011年10月4日までに報告された文献を対象とし、タイトルまたは抄録に「アリピプラゾール」「非定型」「糖」「インスリン」「コレステロール」「トリグリセリド」「糖尿病」「HbA1c」「体重」「BMI」「高脂血症」などの用語が含まれている論文をPubMedで検索した。 主な結果は以下のとおり。・アリピプラゾールと関連する代謝への影響を評価した22件のピアレビュー論文が抽出された。それら論文は、被験者15例の小規模観察研究から170万例を超える大規模データベースにわたった。・アリピプラゾールによる治療を受けた成人患者の体重増加、脂質異常、血糖異常および糖尿病発症リスクを評価した観察または自然的研究は13件、オープンラベル試験は9件あった。・アリピプラゾールは、その他の非定型抗精神病薬と比較して、体重増加および脂質異常に及ぼす影響が同等またはそれ以下であり、その程度は試験デザインに依存しているようであった。・さらに、アリピプラゾールはその他の非定型抗精神病薬の大半に比べ、糖尿病のリスクが少なかった。・無作為化比較試験のデータと、本レビューの所見は一致しており、アリピプラゾールは汎用されているその他の非定型抗精神病薬よりも、成人における代謝関連有害事象のリスクが少ない可能性が示唆された。所見は、ADA/APAのコンセンサスステートメントとも一致するものであった。 関連医療ニュース オランザピンの代謝異常、原因が明らかに:京都大学 抗精神病薬による体重増加や代謝異常への有用な対処法は:慶應義塾大学 最初の1年がピーク、抗精神病薬による体重増加と代謝異常

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TAVRの装着成功率、弁型で差/JAMA

 ハイリスク重度大動脈弁狭窄への経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)に関して、バルーン拡張型弁と自己拡張型弁を比較したところ、バルーン拡張型弁のほうが装着成功率が高く、その他のアウトカムも良好であることが示された。ドイツ・ゼーゲベルガークリニックのMohamed Abdel-Wahab氏らが、241例を対象に行った無作為化試験「CHOICE」の結果、報告した。TAVRは同患者に対する有効性が認められた治療選択肢だが、弁型式の違いによる検討はこれまで行われていなかった。JAMA誌オンライン版2014年3月30日号掲載の報告より。被験者を2群に分け、バルーン拡張型弁と自己拡張型弁をそれぞれ装着 研究グループは、2012年3月~2013年12月にかけて、ドイツ5ヵ所の医療機関で、ハイリスク重度大動脈弁狭窄症で、解剖学的にTAVRに適した患者を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方の群(121例)にはバルーン拡張型弁を、もう一方の群(120例)には自己拡張型弁を装着した。 主要エンドポイントは、血管アクセスの成功や装置の正しい留置などの装着成功率だった。副次エンドポイントは術後30日時点の、心血管死亡率、出血や血管合併症、術後ペースメーカー装着、および複合安全性エンドポイント(全死因死亡、重大脳卒中、その他重篤な合併症等)などだった。装着成功率、自己拡張型弁群が78%に対しバルーン拡張型弁群は96% 結果、装着が成功したのは、自己拡張型弁群では120例中93例(77.5%)だったのに対し、バルーン拡張型弁群は121例中116例(95.9%)と、有意に高率だった(相対リスク:1.24、95%信頼区間:1.12~1.37、p<0.001)。中程度以上の残存性大動脈弁逆流症の発症率は、それぞれ自己拡張型弁群18.3%とバルーン拡張型弁群4.1%(バルーン拡張型弁群の相対リスク:0.23、p<0.001)、2つ以上の弁装着が必要だった割合は、同5.8%と0.8%(p=0.03)と、いずれもバルーン拡張型弁群で有意に低率だった。 30日心血管死亡率は、自己拡張型弁群が4.3%、バルーン拡張型弁群が4.1%で、同程度だった(p=0.99)。出血(重大出血p=0.36など)や血管合併症(全症例p=0.78など)も有意差は認められず、複合安全性エンドポイントは自己拡張型弁群23.1%、バルーン拡張型弁群18.2%で有意差は示されなかった(p=0.42)。また、術後新たに恒久性ペースメーカーを装着した人の割合は、自己拡張型弁群が37.6%に対し、バルーン拡張型弁群は17.3%と有意に低率だった(p=0.001)。

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脱水症の診断が遅れて死亡した8ヵ月女児のケース

小児科最終判決判例タイムズ 952号256-265頁概要右眼充血の精査目的で総合病院眼科へ入院した生後8ヵ月の女児。全身麻酔下の眼圧、眼底、隅角検査にて先天性緑内障、ぶどう膜炎と診断された。全身麻酔から覚醒後、発熱、下痢が出現し、感冒性消化不良症の診断で小児科に転科となった。補液、止痢薬投与などが行われたが、3日間にわたって頻回の下痢が継続し、嘔吐もみられるようになった。そして、発症から4日後の深夜に持続点滴が自然抜針し、大泉門陥没、顔色不良、四肢冷汗など脱水症を示唆する症状がみられた。当直医による血管確保が試みられたがうまくいかず、静脈のカットダウンを行おうとした矢先に噴水状の嘔吐、それに続き心肺停止となり、救急蘇生の効果なく死亡確認となった。詳細な経過患者情報生後8ヵ月、体重7,710gの乳児経過1988年11月頃右眼充血に気付き、近医眼科を受診して治療を受けるが改善せず。12月23日某総合病院眼科受診、全身麻酔下の眼圧、眼底、隅角検査などが必要と判断された。12月24日精査目的で眼科に入院。胸部X線写真、心電図では異常なし。12月25日外泊(このとき兄弟がインフルエンザに罹患していた)。12月26日全身麻酔下の精密検査にて、先天性緑内障、ぶどう膜炎と診断。治療については年明けに大学病院へ転医して検討することになった。麻酔から覚醒後、38.9℃の発熱、水様便が3回みられた。12月27日39.5℃、アセトアミノフェン(商品名:アンヒバ)坐薬投与。小児科に依頼するとともに退院を延期。小児科担当医の診察では、咽頭発赤、皮膚の緊満度がやや減少、血液検査でNa 135、BUN 7、Ht 35.6%、Hb 11.1であり、発熱、下痢が続いていたことから感冒性消化不良症(インフルエンザ疑い)と診断。水様便が15~17回みられたので止痢薬を投与するとともに、20mL/hrで輸液を開始。12月28日38.7℃、解熱薬メフェナム(同:ポンタール)シロップを適宜内服。1時間に2回くらいの水様便、さらに嘔吐もみられるようになる。12月29日病院は年末年始体制へ移行。小児科担当医は当直明けの午前中に診察し、咽頭発赤、下痢、やや粗い呼吸音が聴取されたが、皮膚の緊満度には問題はないと判断し帰宅した。この日も1時間に1回くらい黄色泥状便がみられた。12月29日23:0036.0℃、脈拍142、呼吸数40回、ぐずつきが続き、活気がなく衰弱が激しいと母親は看護師に訴えた。小児科担当医に電話連絡を取ったところ、眼科領域の問題ではないかと考えて眼科医へ連絡するように指示。連絡を受けた眼科医は3日前の検査で眼科的な疾病が原因で衰弱することはないと認識していたため、鎮静薬ジアゼパム(同:セルシン)シロップの投与を指示。12月30日00:00セルシン®シロップ0.7mg哺乳瓶に入れて投与。01:40ようやく入眠。この時看護師は眼窩部のへこみを確認(担当医に上申せず)。03:00母親が抱っこしようとした時に右足に入れていた点滴がぬけていることに気付く。看護師が駆けつけると点滴はシーネごと外れており、足に巻かれた包帯はかなり濡れていた。患児は元気なくぐったりしていて、顔色不良、四肢の冷感が強く、大泉門陥没が認められた。輸液の再開のため四肢を暖め、電気あんかを入れ保温に努めた(深夜ということもありすぐに小児科担当医へは上申せず)。04:10母親が心配したため看護師は内科系の当直に診察を依頼(この日小児科当直は不在)。04:20内科系当直により末梢からの血管確保が試みられたが不成功。06:00再度内科系当直医が末梢血管から点滴を試みたが失敗したため、小児科担当医に連絡。06:45小児科担当医が駆けつけ、経皮的静脈穿刺を試みたが失敗。患児は次第に元気がなくなり、ぐったりしてきた。07:30末梢からの血管確保ができないので静脈のカットダウンが必要と判断し、外科系当直医と産婦人科当直医に応援依頼。この時患児の脈拍は弱くなり、循環不全の症状が出現。07:50応援医師が到着。静脈カットダウンの準備をしている時に患児の呼吸が微弱となったため酸素投与開始。ところがまもなく噴水状の嘔吐を来たし、これを吸い込んで呼吸停止。ただちに吸引して吐物を除去。08:30心停止。気管内挿管、鎖骨下静脈穿刺、心腔内アドレナリン(同:ボスミン)投与などの救急蘇生を行ったが、効果はみられず。09:25死亡確認。病理解剖の同意は得られなかった。当事者の主張患者側(原告)の主張1.小児科担当医は脱水症状を疑うべきであったのに、頻繁に診察することを怠り、血液検査は小児科初診時のみで、かつ体重測定を怠った結果、脱水症の悪化を見落としたため死亡した2.点滴が自然抜針したのであればただちに血管確保するべきであったのに、看護師が担当医師への報告したのはかなり時間が経過してからであり、さらに何度も経皮的静脈穿刺に失敗したのであればただちにカットダウンを行うべきであった病院側(被告)の主張1.死亡するまでの水分補給は十分であり、死亡直前まで脱水症を疑う臨床症状はなかった。点滴が自然抜針してから約5時間半輸液は行われなかったが、それまでの水分補給量に照らすと脱水症によって死亡することはあり得ない2.死亡したのはインフルエンザからライ症候群となったことが原因である裁判所の判断頻回の下痢による水分喪失に対し、死亡前の輸液量、経口水分摂取量、大泉門の陥没、眼窩のくぼみ、四肢冷汗、顔色不良などの所見を総合すると、中等症の脱水症があったと考えられる。それに対し医師および看護師らは脱水症に陥り得ることを予測するべきであったのに、体重測定、血液検査などの十分な観察を怠り、点滴注射が抜針したあとも輸液路の確保を怠ったため、循環不全を起こして死亡した。病院側が主張するライ症候群については、経過中にけいれんがみられなかったこと、脳圧亢進を示す大泉門膨隆とは逆の大泉門陥没が認められたことを考えると採用できない。原告側合計3,390万円の請求に対し、3,190万円の判決考察本件では小児科担当医、内科当直医、眼科医師、小児科看護師などの複数のスタッフが関与していながら、事の重大さを認識することができずに、本来であれば死亡するとは考えにくい乳児が最悪の転帰となってしまいました。もちろん病院側の事情、たとえば容態が急変した時間帯がたまたま年末年始の当直体制とかさなっていたこと、小児科担当医が卒後2年目の研修医であったこと、点滴が抜けたのが深夜であり当直明けの小児科医を呼び出すのがためらわれたこと、直ぐに静脈のカットダウンを行うほど切迫した状況とは思えなかったことなどを考えると、同情すべき点が多々あることも事実です。とはいうものの、以下の点については重要な教訓として今後の参考にしたいと思います。1. 各担当医の認識不足まず、本件の場合には全身麻酔後に出現した発熱、下痢ということで、小児科担当医は「単なる感冒で点滴でもすればいずれ落ち着くだろう」という程度の認識であり、ご両親の主張にもある通り頻繁に患児のもとに診察に訪れなかったと思われます。そして、点滴自然抜針の約4時間前(この時患児を診察していれば脱水症状に気付いていたはず)の23:00に、「呼吸数40回、ぐずつきが続き、活気がなく衰弱が激しい」という看護師の上申を自宅で受けた時も、「きっと眼科的問題によるものだろう」と判断して眼科医の判断を仰ぎました。その根拠としては、約12時間前の診察でとくに異常はみられなかったことが頭にあったのだと思います。この時点で(たとえ当直明けであっても)面倒くさがらずに病院まで赴き患者を診察するか、あるいは内科の当直医師に診察を依頼するなどの対策を講じていれば、最悪の結果を回避できた可能性があったと思います。ところが眼科医にボールを投げてしまったために(眼科医も眼科的には問題ないと確信していたために)、脱水状態にある患児にセルシン®投与を指示し、さらに状態を悪化させたのではないかと思います。この眼科医にしても、頻回の下痢や嘔吐を十分に把握しないままセルシン®を投与したのですから、認識不足は否めないと思います。また、今回の小児科担当医師を監督する立場にある小児科部長医師も、卒後2年目の研修医に適切な指示を与えなかった点において由々しき問題があったと思います(小児科医師同士のコミュニケーション不足も潜在していたのでしょうか)。そして、看護師が点滴再挿入を内科当直医に依頼したのは点滴自然抜針に気付いてから1時間以上経過してからであり(それも母親に催促された)、依頼を受けた内科当直医にしても、当初はおそらく「自分の役割は点滴を入れることだけだ」という程度の認識であり、その当時の患児を注意深く観察せずに眼窩のくぼみ、大泉門陥没などの脱水症状に気付きませんでした。そして、何度も針を刺したもののうまくいかず、いよいよあきらめたのが1時間40分も経ってからでした。このように、本件を担当した病院スタッフはみな脱水症の危険性を念頭におかないばかりか、責任もって観察するという姿勢に欠けていたと思われます。2. 頻回の下痢、嘔吐が続いていながら体重測定や血液検査を怠ったこと。本件は体重わずか7,710gの乳児でした。しかも発症してから3日間はひどい時で1時間に2回という頻回の下痢がみられていましたので、当然脱水症に陥らないように配慮しなければならない状況でした。ところが、血液検査を行ったのは小児科初診時の1回きりであり、以後死亡するまでの3日間は電解質のチェックすら行っていませんし、たいして手間のかからない体重測定も指示しませんでした。しかも頻回の下痢に加えて嘔吐まで出現したのですから、現行の輸液(最初から輸液量20mL/hrで変更なし)でよいのか見直すのはむしろ当然ではなかったかと思います。3. 病理解剖の重要性感冒による発熱、下痢、嘔吐で入院治療中の8ヵ月乳児が4日後に急死したとあれば、病院側のミスを疑うのがむしろ当然ではないかと思います。裁判では「ライ症候群」の可能性、つまり死亡したのは不可抗力であったと主張しましたが、血液検査が行われたのは小児科入院時の1回きりであり、しかも急性脳症を疑う所見は嘔吐だけで脳圧亢進症状(大泉門膨隆)やけいれん発作もなく、臨床上はライ症候群とするには無理があったと思います。もちろん経過中にご家族へはライ症候群という説明はありませんでしたし、判決でもライ症候群の主張は一蹴されました。やはりこのような時、つまり死因が特定できず病院側の不備を指摘されかねない状況では、是が非でも病理解剖を行うべきであったと思います。今回のケースではご遺族の同意が得られず病理解剖ができなかったということですが、はっきりと死因が特定できない場合には少々ためらわれても異状死体として「行政解剖」の手続きをとり、医学的な裏付けをとっておかないと正当性を主張するチャンスを失うことになると思います。今回のようなケースは、日常の診療でも遭遇する機会が多いのではないかと思います。このコーナーをご覧頂いている先生方の多くは診療に対する問題意識が高いと思いますので、もし本件を担当していれば発熱、下痢、嘔吐などの症状から脱水症を早期に発見し、適切な対応を行うことができたのではないかと思います。そうはいっても、本件のようにさまざまな要因が重なって適切な診断へのプロセスが妨げられることもあり得ますので、まずは先入観にとらわれることなく基本的な診察(本件では脱水症の所見を確認すること)をきちんと行うとともに、主治医となって担当する患者さんには可能な限りのコミットメントを行うことが肝心だと痛感しました。小児科

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当直の前後も通常勤務がいまだ「常識」 約35%の医師が当直が原因のヒヤリ・ハットを経験

ブラック企業並、いやそれ以上と言われるほど勤務医の過酷な労働環境。改善の必要性が叫ばれて久しいですが、実際の現場ではどうなのでしょうか?現在、病院に勤務し、当直勤務をしているケアネット医師会員に勤務状況を聞いてみました。コメントはこちら結果概要当直前後とも通常勤務と答えた医師は8割を超える回答者の平均当直回数は、1ヵ月で3.5回、当直中の平均睡眠時間はおよそ4時間34分であった。年代別に見ると、若いほど当直の回数が多く、当直中の睡眠時間も短かった。大学病院とその他の病院を比較すると、大学病院に勤務する医師のほうが当直回数が多かった。また、当直前後の勤務体系については、当直前は98.3%、当直後は83.3%が通常の勤務をしていると回答。当直後に半日勤務は12.7%、勤務なしは、2.7%、当直前後ともに半日勤務や勤務なしと答えたのはわずか1%であった。ほとんどの医師が、当直時には32時間以上の連続勤務をしていることを示している。医師の当直勤務等による長時間過重労働が問題視されているが、まったく改善されていない現状が明らかとなった。約35%の医師が当直が原因と思われるヒヤリ・ハットを経験当直による睡眠不足や疲労が原因のヒヤリ・ハットの経験の有無を聞いたところ、34.9%の医師が「ある」と答えた。「ある」と答えた医師のほうが、当直回数が多く、当直中の睡眠時間も少ない傾向にあった。また、ヒヤリ・ハットの内容としては、「薬剤の処方(薬剤名・量など)のミス」が最も多く、そのほかにも、「診察中や手術中に眠ってしまった」「患者を間違え、指示を出した」「針刺し事故」といった回答があり、一歩間違えば、大事故につながり得る実態も浮き彫りとなった。「当直明けの通常勤務はツライ」―医師の悲鳴自由回答では、「当直明けはツライ」「当直明けは休みにしてほしい」「せめて半日だけでも」「当直ではなく、夜勤だ」と当直明けの勤務に対し訴える声が多数見られた。一方で、「休むとなると、代わりがいない」「人員不足のため仕方がない」「病院の経営上やむを得ない」など医師の過酷な勤務に頼らざるを得ない現状も浮き彫りとなった。数多くの医師が勤務体制の改善や法的整備を求めている。設問詳細「当直」についてお伺いします。※病院に勤務され、現在、当直勤務のある先生を対象とさせていただきます。Q1.先生の当直の頻度をお聞かせください。月に何回当直があるのか数字を記載してください。[   ]回/月Q2.当直勤務中はどれくらいの時間、寝ることが出来ますか※分は時間に換算してください。例えば6時間30分は6.5(時間)と記載してください。[   ]時間Q3.当直前の勤務体系はどのようになっていますか1.通常勤務2.半日勤務3.勤務なし4.その他【  】Q4.当直後の勤務体系はどのようになっていますか1.通常勤務2.半日勤務3.勤務なし4.その他【  】Q5.当直明けの勤務中に当直による睡眠不足や疲労が原因と思われるヒヤリ・ハット(※)を経験したことがありますか※ヒヤリ・ハット:偶発事象で、適切な処理が行わなければ医療事故につながる可能性のあった事象1.ある2.ないQ5-1.ある場合はどのようなことでしたか[                ]Q6.コメントをお願いします。(当直、勤務体系などに関してのお考えや、これまでに経験されたことなど、どういったことでも結構です。)[                ]2013年3月21日(金)実施有効回答数1,000件調査対象病院勤務で当直勤務のあるCareNet.com医師会員コメント抜粋(一部割愛、簡略化しておりますことをご了承ください)法律上の当直の内容と実情の違いに矛盾を感じる (50代・男性・心臓血管外科)当直明けに休みにすると、その分の人件費が余計にかかる。医療費の値上げが必須(50代・男性・麻酔科)病院当直≠救急外来対応であることを願いたい.(40代・男性・整形外科)主治医制度の廃止、病院集約化ができなければ無理ではあるが、二次救急以上の病院では当直ではなく、夜勤扱いにすべきである。(40代・男性・循環器内科)診療の質を維持するため、当直明けは一定の休息が必要だと思う。(40代・男性・精神科)限られた時間に質のよい睡眠をとれるよう、ベッドや当直室の環境を考えてほしい。(40代・男性・泌尿器科)翌日の仕事効率は落ちるため、明確な勤務体系(半日勤務など)の設定が必要と思います。(30代・男性・放射線科)当直勤務の翌日は午前中勤務にしようという動きがあるが、実際には人手不足のため患者さんのマネージメントなどで通常通りに拘束されてしまう。(50代・男性・血液内科)中身が夜勤なのに当直として勤務体系にカウントされているのは、労働基準法違反(30代・女性・循環器内科)当直後通常勤務は医師になって以来当たり前となっており、特に疑問を抱いていなかったが、最近の裁判などから問題があると再認識している。(50代・男性・循環器内科)当直あけ勤務は非常に危険であり、なくすべきだとおもいます。人が足りないから仕方がないのではなく、当直あけ勤務をしなくていいような人材の集約化を広域地域レベルで行っていくべきだと思います。(30代・男性・小児科)医師も早く3交替にすべき(50代・男性・血液内科)当直明けは休みとすべきであるが、医師不足のため困難である。コンビニ受診は止めて欲しい。(60代・男性・麻酔科)勤務帯をもっと分業制に、無理なら当直前後の代替の休業時間が必要(20代・男性・糖尿病・代謝・内分泌内科)病院の収益が今の倍にでもならないかぎり、大幅な改善など期待できない(50代・男性・消化器外科)大学勤務医は大学の当直以外に、給与の点で外勤で当直をしなければならない現状がある。 人的問題から、当直の翌日に休むことは考えられない状況である。(40代・男性・外科)人間は喉元過ぎれば熱さ忘れるです.体制を決定するときには当直をしていないので今後も改訂されないでしょう(40代・男性・外科)前後の日は通常勤務ですが、寝当直となることも多く、比較的恵まれていると思っています。当直中の暇な時間は、なるべく論文を執筆したり読んだりするのに用いています。(30代・男性・精神科)頻度を減らせるように当直を設置する病院を減らすべき。(40代・男性・整形外科)やはり当直明けは帰って休みたい。朝から麻酔⇒当直⇒明けて朝から麻酔⇒夜に帰宅後緊急で呼び出し。こういうのは辛い。(30代・男性・麻酔科)当直明け日の手術はつらいです。(40代・男性・外科)当直明けは休みたいが、医師不足のため現状では休めない。他職の方は医師は給与高いので、当然だと思っている人が多い、思いやりの気持ちが少ない。 (60代・男性・外科)大雪で引き継ぎの医師が出勤できず3日続けての日勤・当直勤務となったことがありました(これは看護スタッフや栄養課スタッフも同様でした)。イレギュラー時の勤務体制をどうするかなど事前にもっと詰めておくべきだと感じます。(40代・男性・精神科)世の中の人に夜勤とは違うことを理解して欲しい(50代・男性・外科)勤務医は酷使されています。残業手当もでませんし医師の良心ですべて我慢です。(40代・男性・精神科)常勤医の当直は義務だと思うので,「当直しませんが雇ってくれ」は不可だと思う.ただし,外部の医師が当直を埋めてくれているなら,負担軽減も可能だと思う.(40代・男性・精神科)救急当直は地域のボランティアのようなもの。もっと手当を多くすべき。(30代・男性・糖尿病・代謝・内分泌内科)当直とは、通常勤務ではないため、本来診察業務などを行ってはならないことになっています。急患診察は、医師であっても看護師 の様に、「勤務」で対応する必要があり、近い将来改善されることを望みます。(40代・男性・脳神経外科)都内でも当直制度が崩壊寸前。個人の努力ではもはやどうしようもないところまできている。(30代・男性・心療内科)表向きは当直明けは休みですが、外来等の仕事を休めるわけもないので、労働基準法違反と知りながら病院は見て見ぬふりするだけ(50代・男性・整形外科)リハビリ病院であり、救急の外来は見ていないので、原則寝当直です。たまに起こされるぐらいなので、勤務に配慮はありません。(50代・男性・消化器内科)40才後半以降の夜間当直はきつく、とてもからだに悪いことを実感します。文字通り身を削る思いです。 医療安全の面からも避けるべきと考えます。日直ならまだよいですが。(50代・男性・小児科)重なる時は、なぜか、集中して救急車は救急車を呼び、 急変あればさらなる急変あり、いざというときに大変なのに、 なんもないときは、全くコールすらない時もある。(50代・男性・耳鼻咽喉科)当直勤務の負担を軽減しないと、総合病院から医者が消えます。私は6月末で退職します。(50代・女性・産婦人科)医師も交替勤務制にすべきと考えます。当直とは名ばかりの時間外労働をさせていて、医師数は足りているなどと言っている輩はけしからんと思う。(40代・男性・内科)当直免除の医師と人間関係が悪い(50代・男性・内科)当直の翌日は半休扱いになっているが,実際は普通に勤務をせざるを得ない. 時間外が出るだけでも,昔よりましになったと思えるが,「医師は無料で働いて当然」という風潮を何とかしないと,このあたりは改善されないし,そうこうしているうちに崩壊がどんどん進むのではないかと考える.(40代・男性呼吸器外科)「待たなくて済む」「昼間は仕事(用事)がある」という勝手な理由で夜間受診する患者をいかに抑制するか(ペナルティを与えるか)を考える時期。 昼間と同じ検査能力、診断精度、治療内容を求められることが多い。(50代・男性・泌尿器科)当直明けは休みなり半日勤務なりにして欲しい.(40代・男性・消化器内科 他多数)本来おかしい話で、最大40時間近く病院に拘束されてわずかな手当をもらうだけで、寝不足によるリスク増加を背負う。患者もそんなの望んでないだろうし。昔のたまに急患が来るだけの時代を想定した体制なのが問題。実際は手軽に来る患者が多いのだから、きちっと時間を仕分けて体制を作るべき。(30代・男性・整形外科)上司に訴えても「俺達が若い頃はもっと大変だった」「やってもらわないと病院業務が回らない」とまともに取り合ってくれないばかりか、「若い奴らは根性がない」と非難されていたが、最近は当直明けの業務を少し軽減してくれるので、以前より楽になった。(40代・男性・放射線科)報酬が今以上に増えて忙しくても、自分がやりたいと思わせるか、逆に人手が増えてかみんなで取り合いになるか、ぐらいのことが起こらないと現在の当直の問題は解決しないでしょう。だから、現実は空想でしかありませんし、実現不可能です。悲しいけど、このままやるしかないのです。(40代・男性・外科)当直してくれる医師を増やして欲しい。(40代・男性・精神科 他多数)医師にもきちんとした「労働者」扱いでの待遇を求めます。(40代・男性・内科)今の病院は、病棟の勤務だけなので急変がなければゆっくりできます。(60代・女性・小児科)外科系と内科系の2人当直が望ましい(50代・男性・整形外科)翌日は半日勤務となってはいますが、なかなか休めません。(40代・男性・内科)医師の高齢化が進む当院では常に当直問題が取り上げられるが、具体的解決策がないのが現状であり現状維持を強いられている。(40代・男性・消化器内科)当直明けに仕事がないから、翌日の子供の世話もできることが一番のメリット。(30代・女性・小児科)当直という呼び方になっているが、実際は夜勤の救急外来担当であり、給与や勤務時間は労働基準法に違反していると思われるため、全国的に早急に改善する方向に進んで欲しい。(40代・男性・呼吸器内科)当直明けの勤務はせめて半日にしたいが,常勤医師数が少なく現実的には困難.過疎地域で救急までこなす病院の現実です.(50代・男性・外科)技師さんや看護師さんが当直明け朝で帰っているのをうらやましく見ています。(30代・女性・内科)当直をしないと給料が安いので仕方ない。(30代・男性・循環器内科)医師は厚遇されている点もあり、こういう能力がなければ医師になるべきではないと思う。(40代・男性・糖尿病・代謝・内分泌内科)二次救急の当直もしているが、専門とかけ離れた患者ばかりなので、充実感がなく疲れる。(50代・男性・心臓血管外科)医師として当然の義務。(60代・男性・産婦人科)当直明けの勤務はせめて半日にしたいが,常勤医師数が少なく現実的には困難.過疎地域で救急までこなす病院の現実です.(50代・男性・外科)当直というシステム自体がおかしい。小さな病院に勤めている方には申し訳ないが、労働環境を考えると交代勤務にすべき。夜間緊急で働いた場合、翌日通常業務を行わなくても患者を含めて納得するような社会的環境が必要。(40代・男性・麻酔科)消化器外科医です。 肝切除やPDなど、長時間のオペの前日の当直は、なるべく代わってもらうようにしています。(30代・男性・消化器外科)研修医は守られているが、常勤以上だと翌日も通常通りの勤務となるのはおかしい (40代・男性・循環器内科)眼科当直なので、ほとんど呼ばれません。 ありがたい。(30代・男性・眼科)医師の絶対数が増加して代休がとれるとよいが~他の科の事情、自分の翌日の外来担当や予約を調整するのも苦労だとは思う。(50代・男性・小児科)幸い自分は周りのスタッフ・看護師・コメディカルに助けられて大きなヒヤリ・ハットはありませんが、 ”当直”と称して救急外来と病棟当番を兼ねた勤務は看過できません。 報酬として時間外勤務手当を出すのはもちろん、当直後半日勤務は必要だと思います。 ただ、その時には中小病院で一人診療科の先生たちは出来ない相談ですが・・・。(30代・男性・総合診療科)

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尿管結石の予測に有用な新たなスコアを開発/BMJ

 尿管結石有無の診断のために新たに開発されたSTONEスコアは、確実にその存在を予測することが、米国・エール大学のChristopher L Moore氏らによる前向きおよび後ろ向きコホート研究の結果、示された。同スコアが高い群で尿管結石が存在する割合が高く、その場合、ほかの急性重大症状を有する確率は低いことも確認された。結果を踏まえて著者は、「さらなる検討により、CT画像診断による放射線曝露、および画像診断そのものの過剰適用を制限するのに役立つことになるだろう」とまとめている。BMJ誌オンライン版2014年3月26日号掲載の報告より。尿管結石と関連する上位5つの因子を特定し、スコアリングシステムを開発 研究グループは、CT画像診断を行った患者の尿管結石の存在について、客観的な臨床予測因子を抽出し、その因子を用いたスコアを開発し検証試験を行った。検討に際して、尿管結石を有する確率の高い患者は、その他の重要所見が認められる確率は低いと仮定した。 都市部の3次緊急医療を提供する救急部門と、都市部近郊にある独立コミュニティ緊急センターで、腎結石が疑われ単純CT検査を受けた成人について、後ろ向き観察抽出コホートと前向き観察検証コホートの検討を行った。 後ろ向き観察抽出コホートは、2005年4月~2010年11月に無作為に選択したCT画像診断を受けた患者1,040例であった。前向き観察検証コホートは、2011年5月~2013年1月の間に包含された連続前向き登録患者491例であった。 抽出コホート試験では、症候性尿管結石と関連する可能性が高い因子を、カルテとCTの記録を結びつけて抽出し、診断に即して分類。また多変量ロジスティック回帰分析にて、尿管結石と関連する上位5つの因子を特定し、尿管結石が存在する確率(低、中、高)で層別化するスコアリングシステムを開発した。 前向き検証コホート試験では、開発したスコアをCTの結果を盲検化して適用し、尿管結石とほかの重大症状の存在を比較した。尿管結石が存在する確率が高い群88.6~89.6%を予測 結果、抽出コホート試験にて、尿管結石を最も予測する5つの因子として、「男性」「短い間隔の痛み」「非黒人」「悪心または嘔吐」「顕微鏡的血尿」が明らかになり、0~13のスコアからなるSTONEスコアを開発した。 尿管結石の存在について、スコアを適用して評価した結果、確率が低い群(スコア0~5の低スコア群)に該当した人は抽出コホート群8.3%、検証コホート群9.2%で、中等度群(スコア6~9の中スコア群)には同51.6%、51.3%、高い群(スコア10~13の高スコア群)には同89.6%、88.6%が該当した。 高スコア群に該当した人で、その他急性の重大所見がみられたのは、抽出コホート群0.3%、検証コホート群1.6%だった。

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下痢と体重減少を過敏性腸症候群と診断し、膵臓がんを見逃したケース

消化器概要約3ヵ月間続く下痢と、5ヵ月間に約9kgの体重減少を主訴に総合病院内科を受診、注腸検査、上部消化管内視鏡検査が行われ、過敏性腸症候群と診断された。担当医は止痢薬を約10ヵ月間にわたり投与し続け、その間に新たな検査は行われなかった。初診から11ヵ月後に別の病院を受診し、閉塞性黄疸を伴う膵頭部がんと診断されたが、その2ヵ月後に死亡した。詳細な経過経過1982年4月末食欲不振、下痢、全身倦怠感、体重減少に気付いた。6月30日5kgの体重減少、空腹時腹痛を主訴として近医受診。消化管X線検査、超音波検査などが行われ、膵臓にやや腫脹がみられたため膵炎疑いと診断された(アミラーゼは正常)。8月21日慢性下痢、体重減少を主訴にA総合病院内科受診。注腸検査、上部消化管内視鏡検査が行われ、出血性胃炎の所見以外は著変なしと判断し、過敏性腸症候群と診断した。その結果、下痢止めを処方し経過観察となった。12月27日血液検査で異常がないことから、下痢止めの処方を継続した。1983年1983年はじめ20kgに及ぶ体重減少、背部痛が出現し、鍼灸院などで治療を受ける。6月20日A総合病院再診し、下痢止めの処方を受ける。7月11日発熱を主訴に近医受診、担当医師は内臓の病気を疑い、B病院に紹介入院、精査の結果、閉塞性黄疸を伴う膵頭部がんと診断され、肝臓そのほかへの転移もみられる末期がんと判断された。8月15日A総合病院に転院、根治的治療は不可能と判断され、経皮胆管ドレナージなどが行われたが、9月25日死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張下痢と体重減少を主訴とした患者に対し、胃・腸の形態的検査で異常がないという理由で過敏性腸症候群と診断した。アミラーゼが正常であったので膵がんあるいは膵疾患を疑わなかったということだが、胃・腸の形態的検査で異常がなければ膵疾患を疑うのは医学の常識である初診時に心窩部痛、全身倦怠感、食欲不振を申告したにもかかわらず、カルテにその記載がないのは問診が不十分である。さらに前医の超音波検査で膵炎疑いと診断されていながら、これを見過ごした上腹部超音波検査を行えば膵がん発見の可能性は高かった膵がんが早期に発見されていれば、延命、さらには助命の可能性があった。病院側(被告)の主張下痢と体重減少はみられたが、通院期間中疼痛(腹痛、背部痛)をはじめとして、膵がんを疑うべき特有な症状はみられなかった。便通異常は膵がんに特有な症状ではない問診では患者の協力が必要だが、当時の医師の問診に対して腹痛を否定するなど、患者の協力が得られなかった当時の医療水準(腹部超音波検査、腹部CT)で検出できるのは進行膵がんが中心であり、小膵がんを検出できるほどの技術は発達していなかったもし初診時に膵がんと診断しても、手術不能のStageIII以上であったものと推認され、延命は期待できなかった。裁判所の判断以下の過失を認定過敏性腸症候群との診断は結果的に誤診であった。顕著な体重減少、食欲不振の患者に対し、胃・大腸に著変なしとされたのであれば、腹痛・背部痛がなかったとしても胆嚢、胆道、膵臓などの腹部臓器の異変を疑うのが当然であり、患者の苦痛がない腹部超音波検査を実施するべきであったとくに見解は示さず小膵がんの発見は難しく、超音波検査は術者の技術に診断の結果が左右されるといわれているが、当時膵がんの発見が絶無とはいえない以上、病態解明のために考えうる手段をとることが期待されているので、債務不履行である初診時に膵がんと診断されていても、延命の可能性はきわめて低かった延命の可能性がまったくなかったわけではないのに、9ヵ月近く下痢止めの投薬を受けたのみで、膵がんに対する治療は何ら受けることなく推移したのであるから、患者の期待を裏切ったことになり、精神的損害賠償の対象となる。原告側合計7,768万円の請求に対し、慰謝料として200万円の判決考察本件では「体重減少」という、悪性腫瘍をまず除外しなければならない患者に対し、下痢症状に着目して消化管の検査だけを行いましたが、腹部超音波検査を行わず、約9ヵ月にわたって膵臓がんを診断できなかった点が「期待権侵害」と判断されました。もっとも、病院側に同情するべき点もいくつかはあります。おそらく、普段は多忙をきわめる内科外来においては一人の患者に割り当てられる時間が絶対的に少ないため、初診後一定の検査が終了して一つの診断に落ち着いた場合には、患者側からの申告が唯一の診断の拠り所となります。その際、「下痢と体重減少」という所見だけで腹痛の訴えがなく、さらに血液検査上も異常値がみられなかったのならば、過敏性腸症候群と考えて「しばらくは様子を見よう」と決めたのは自然な経過ともいえるように思います。さらに、止痢薬投与によってある程度下痢が改善している点も、あえて検査を追加しようという意思決定につながらなかったのかもしれません。しかしながら、慢性に下痢と体重減少に対して9ヵ月間も経過観察とした点は、注意が足らなかったいわれても仕方がないと思います。とくに、簡便にできる腹部超音波検査をあえて行わなかったことの理由を述べるのはかなり難しいと思います。裁判の判決額をみる限り、原告の請求よりも遙かに低い金額で解決したのは、膵臓がんという予後のきわめて悪い疾病を見落としたことに関連すると思います。もし、早期発見・早期治療によって予後が改善するような疾病であれば、当然賠償額も高額になったであろうと思います。消化器

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初発の心血管疾患の予測にHbA1c値は寄与しない/JAMA

 従来の心血管リスク因子にHbA1c値の情報を加えても、初発の心血管疾患(CVD)リスク予測改善にはほとんど寄与しないことが判明した。英国・ケンブリッジ大学のJohn Danesh氏らEmerging Risk Factors Collaborationが、73件の前向き試験に参加したCVDまたは糖尿病歴のない被験者約30万人のデータを分析した結果、明らかになった。高血糖と高率のCVD発生との関連性から、初発のCVDイベント予測のためにその測定を推奨する動きがある。一方で、ACC/AHAが2013年に改訂した心血管リスク評価に関するガイドラインでは推奨がされていないなど、HbA1c値測定に対する評価は定まっていなかった。JAMA誌2014年3月26日号掲載の報告より。従来の心血管リスク因子にHbA1c情報を加えた場合のリスク予測改善を検討 本検討は、従来の心血管リスク因子にHbA1c値の情報(<4.5、4.5~<5、5~<5.5、5.5~<6、6~<6.5、≧6.5%)を加えることで、糖尿病非既往の中高年における初発のCVDアウトカム予測を改善するのかについて確定することが目的だった。また、HbA1c値測定と、その他によく行われている血糖値測定(空腹時、ランダム測定、またはブドウ糖負荷試験)との比較も行われた。 研究グループは、73件の前向き試験に参加した、ベースライン時には糖尿病またはCVDが非既往であった29万4,998例のデータを分析した。従来リスク因子だけ(年齢、性別、喫煙状況、収縮期血圧値、総またはHDLコレステロールなど)とHbA1cなど血糖値情報を加えた場合のCVDリスク予測モデルを作成し、アウトカムのリスク層別化(C統計値)および10年リスク予測(低:5%未満、中:5~7.5%未満、高:7.5%以上)の再分類(ネット再分類改善)について検討した。他の血糖値測定法と比べても、リスク予測改善は同程度かより良好 全被験者のベースライン時の平均年齢は58歳(SD 9)、49%が女性、86%がヨーロッパまたは北米の住民であり、HbA1c平均値は5.37%(SD 0.54)であった。 追跡期間中央値9.9年(四分位範囲:7.6~13.2)で記録された致死的・非致死的CVDの発生は、2万840例(冠動脈心疾患1万3,237例、脳卒中7,603例)だった。 従来の心血管リスク因子補正後分析において、HbA1c値とCVDリスクとの関連性は、ほぼJカーブの関連が認められた。また同関連性は、総コレステロール、トリグリセリド、またはeGFR値で補正後のみわずかに変化がみられ、HDLコレステロール、C反応性蛋白で補正後は減弱が認められた。 CVDリスク予測モデルのC統計値は、従来の心血管リスク因子のみでは0.7434(95%信頼区間[CI]:0.7350~0.7517)だった。HbA1cに関する情報を追加した場合のC統計値の変化は0.0018(95%CI:0.0003~0.0033)で、10年リスク予測分類のネット再分類改善は0.42(同:-0.63~1.48)だった。 なおCVDリスクの予測にHbA1c情報を加えた場合の改善は、その他の血糖値測定法における情報を加えた場合と比べて、同程度かより良好ではあった。

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抗精神病薬による体重増加や代謝異常への有用な対処法は:慶應義塾大学

 抗精神病薬に誘発される代謝異常の管理はしばしば困難であり、これらを軽減するうえで薬剤の併用は理にかなっているとされている。慶應義塾大学の水野 裕也氏らは、統合失調症患者における抗精神病薬誘発性の代謝異常に対する薬物療法の有効性を明らかにすることを目的とした、システマティックレビューとメタ解析を行った。その結果、各種薬剤の併用により体重増加およびその他の代謝異常の軽減が図られることが示され、なかでもメトホルミンは体重増加の軽減、インスリン抵抗性の改善、血清脂質の低下など代謝異常の是正に好ましい多彩な作用を示すことを報告した。Schizophrenia Bulletin誌オンライン版2014年3月17日号の掲載報告。 2013年11月までに公表された文献について、5つの電子データベースを用いて検索した。未公表の試験に関しては臨床試験登録により調査した。検索対象とした試験は、統合失調症患者を対象とした二重盲検無作為化プラセボ対照試験で、抗精神病薬に誘発される代謝異常に対する薬物併用の効果を主要アウトカムとしているものとした。検索した試験データから、被験者、介入、比較、アウトカムおよび試験デザインに関連する変数を抽出し分析した。主要アウトカムは体重変化とし、副次アウトカムは臨床的に意味のある体重変化、空腹時血糖値、HbA1c値、空腹時インスリン値、インスリン抵抗性、コレステロール値およびトリグリセリド値とした。 主な結果は以下のとおり。・メタ解析には、40試験、19の独自の介入を包含した。・体重に関して最も広範囲に検討されていたのはメトホルミンであり、プラセボと比較した体重の平均差は-3.17kg(95%CI:-4.44~-1.90kg)であった。・トピラマート、シブトラミン(国内未発売)、アリピプラゾ-ル、レボキセチン(国内未発売)のプール有効性解析においても、プラセボとの間に差がみられた。・メトホルミンとロシグリタゾン(国内未発売)は、インスリン抵抗性を改善した。・アリピプラゾール、メトホルミンおよびシブトラミンは、血清脂質を低下した。・統合失調症患者において、抗精神病薬に誘発される体重増加およびその他の代謝異常の軽減が、非薬物療法単独では不十分な場合、あるいは相対的に体重への影響がない抗精神病薬への切り替えができそうもない場合は、メトホルミンをファーストチョイスとした反作用の薬物療法を行うことが文献上では支持された。関連医療ニュース 抗精神病薬性の糖尿病、その機序とは オランザピンの代謝異常、原因が明らかに:京都大学 最初の1年がピーク、抗精神病薬による体重増加と代謝異常

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第24回 予後不良の責任は? 患者と医師の過失相殺

■今回のテーマのポイント1.代謝疾患で一番訴訟が多い疾患は糖尿病であり、糖尿病性ケトアシドーシスと糖尿病合併症の事例が争われている2.糖尿病性ケトアシドーシスに関する訴訟の争点としては、診断の遅れが多い3.国民皆保険制度下にあった適切な「損害の公平な分担」を模索していく必要がある■事件のサマリ原告患者家族(債権者)被告Y医師(A医院/債務者)争点診断の遅れ結果原告一部勝訴、約1,600万円の損害賠償(結審)事件の概要X(16歳、男性、身長157.4cm、体重約95kg)は、昭和56年8月7日夜、母に対し、「足がふらふらする」「体がだるい」と訴えました。その翌朝、起床したものの、朝食を食べたくないといい、「体がだるい。体がしんどい」「喉が渇く。喉がからからになる」というので、午前9時頃、かかりつけのA医院を受診しました。Xは、Y医師に対し、腹痛、吐き気、つかえた感じがあるなど訴えました。Y医師は診察を行い、急性胃炎と診断し、注射および投薬をしました。その際、Xの「喉が渇く」との訴えに対し、「ジュースは飲んでもよい」と指示しました。帰宅後、Xは、昼におかゆを食べ、夕食を少し食べましたが、しきりに喉が渇いて苦しいと訴え、炭酸飲料水、スポーツドリンク、麦茶などを多飲しました。翌9日は日曜日でしたが、Xの食思不振は改善せず、前日よりも具合が悪そうにしていたため、A医院に電話で治療を頼み、受診することになりました。Xの主訴は前日同様、腹痛、吐き気であり、Y医師は、前日と同じく急性胃炎の診断にて治療をしました。その際、Xから、「ジュースを飲んでもよいか」という質問が出たので、Y医師は、「プリン、ジュースはよいから飲ませてあげなさい。炭酸飲料のような刺激物はいけません」と付き添いのXの父に指示しました。Xは、帰宅途中、「先生はジュースは飲んでもよいというただろう。すぐスーパーへ行ってくれ」と父に頼み、スーパーでジュース類を10数本とアイスキャンディー4本を買って帰りました。そして、それからジュース(炭酸飲料)を4~5本飲み、プリン1個、アイスキャンディー4本を食べました。Xは、同日午後4時過ぎ、ひどくだるそうな様子で、「しんどうていけん。どこか医者に連れていってくれ」といいました。このため、午後6時半頃、A医院よりも大きいB内科医院を受診しました。C医師が診察したところ、Xに意識障害、呼吸障害を認め、血液検査および尿検査を行ったところ、血糖は760mg/dL、尿糖は1g/dLを認めました。C医師は、糖尿病性昏睡と診断し、D病院に転院させました。その際、C医師は、Xの父に対し、「これが明日だったら殺していた。どうしてこんなになるまで放っていたのだ」と叱責しました。D病院で治療が行われたものの、Xは、翌10日午前1時40分、若年性糖尿病による糖尿病性昏睡のため死亡しました。そこで、Xの遺族は、Y医師に対し、遅くとも8月9日の診察の時点で糖尿病を疑い、適切な問診および検査を行うべきであったとして約6,100万円の支払いを求める訴訟を提起しました。事件の判決被告(Y医師)は、初診の際食べ過ぎによる腹痛、吐き気が主訴であったから急性胃炎と診断したというが、前記認定事実にてらしXに過食があった形跡はないから、Xが過食を訴えたということには疑問がある。被告は、Xが異常に肥満していることを良く知っており、かつて慢性胃炎の治療したこともあって常々食べ過ぎないよう助言していたので、過食の予断をもった疑いがある。診療録に、冷えた麦茶と判読できる記載があるところからみて、Xは被告の問診に対して冷えた麦茶の飲み過ぎを答えたとみるのが合理的である。また、翌8月9日の診察の際、Xはジュースを飲みたがっている。これらの点に鑑み、Xは被告に対し、言葉不十分ながら糖尿病の典型的症状である口渇、多飲を訴えていたものと考えられる。したがって、もし被告に過食の予断がなければ、Xが異常肥満体であること、かつて脂肪肝で入院治療を受けたことがあることを知っている被告としては、社会経験の乏しいXの不完全な主訴のみに依存せず、待合室で待っているXの父に対し家庭内における症状を補充的に説明を求めることによって糖尿病を疑いえたものと考えられる。このことは、被告の診察から数時間後に診察したC医師がすぐ糖尿病を疑ったことにてらしても裏付けされるといえる。そうすると、被告は、Xが8月9日に被告の診察を受けた時点では若年性糖尿病の典型的症状である口渇、多飲を訴えていることに気づき若年性糖尿病を疑うべきであったのに、過食による急性胃炎と誤診したものと認められ、右誤診につき不可抗力ないしこれに準ずるような事情があったとは認め難い。したがって、被告は、善良な管理者としての注意義務を怠ったもので、本件診療契約に基づく診療債務につき不完全履行があることになる。●過失相殺前記認定事実に徴すると、債権者側に過失があるものと認められる。即ち、Xは、まだ高校1年生で社会生活経験が浅いため、病気の症状を的確、正確に医師に告げる能力が十分であったとは考えられないのに、被告の診察を受ける際保護者が付き添わなかったため、前記認定の如き家庭内における症状全部が正確に被告に伝えられなかった形跡がある。また、Xは、ジュース、アイスキャンデー、プリン等を常識の範囲をこえるほど多飲食しており、証拠によると、糖質の多いこれらジュース等の多飲食がその後の病状激変の大きな原因となっていることが明らかである。したがって、原告らに生じた損害のうちその7割は、債権者側の過失によるものとして控除するのが相当である。そうすると、被告の支払義務は、原告1人につき金748万6,626円となる。(*判決文中、下線は筆者による加筆)(広島地判尾道支部平成元年5月25日 判時1338号127頁)ポイント解説■代謝疾患の訴訟の現状今回は、代謝疾患です。代謝疾患で最も訴訟となっているのは糖尿病です(表1)。代謝疾患は疾患自体により、直接的に身体・生命損害が発生することが少ない、すなわち、民法709条の要件である「損害」が発生することが少ないことから、訴訟件数自体は多くはありません。その中でも、糖尿病は罹患者数が多く、かつ、(1)糖尿病性ケトアシドーシスおよび(2)糖尿病合併症(網膜症、腎症、神経症による壊疽)により、身体・生命に直接損害が発生することから訴訟件数が多いという結果となっています。糖尿病に関する訴訟は大きく分けて(1)糖尿病性ケトアシドーシスと(2)糖尿病合併症の2つの類型があります。原告勝訴率は、糖尿病性ケトアシドーシスが66.6%(表2)で、糖尿病合併症が50%と大きな差はないのですが、平均認容額は、糖尿病性ケトアシドーシスが8,500万円に対し、糖尿病合併症では560万円と大きな差がついています(表3)。本事例でもそうですが、やはり、ケトアシドーシスは死に至ることから損害額が大きくなるものと考えられます。糖尿病性ケトアシドーシスに関する訴訟の争点は、診断の遅れと、治療の瑕疵の2つに分けられますが、やはり多いのは診断の遅れです(表3)。診断の遅れが争われた事例はいずれも糖尿病の診断がついていない患者であり、本件のように不定愁訴で受診する事例もありますが、別の疾患で受診した際にたまたま糖尿病を発症していて、かつ、糖尿病性ケトアシドーシスにまで至ったという事例もあることから注意が必要といえます。本事例もそうですが、劇症1型糖尿病のように急速に糖尿病性ケトアシドーシスに至るケースは、そもそも救命が困難であり、それをコモンディジーズの単純な見落としのように扱われることには違和感を覚えます。そもそも、「後医は名医」であり、初診における診断の誤りを後から振り返って違法であると誹ることは、よほどの事例でない限り、医療に対する理解が根本的に欠けているといえます。一方、本事例において、前医がいたことを知らなかったとはいえ、後医となったC医師の「これが明日だったら殺していた。どうしてこんなになるまで放っていたのだ」との発言が本訴訟提起に寄与した可能性は高く、患者に対する発言には注意が必要です。■過失相殺第6回で解説しましたが、民法722条2項は、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」と過失相殺を定めています。本事例でもXが病状をちゃんと伝えなかったこと、Xが常識の範囲を超えるほどジュースなどを摂取したことから、7割の過失相殺が認められています。民法の不法行為の基本理念に「損害の公平な分担」という考え方があります。実社会において、現に何らかの損害が発生している中で、被害者を含め、その損害に関与した当事者間において、何対何で当該損害を分担することが公平といえるかが、民法の不法行為の基本的な考え方なのです。自動車対人の事故を想起してみましょう。現実に人の身体・生命に損害が発生しており、その損害を自動車運転者と被害者との間で何対何で分担すれば公平かというのが民法の不法行為の考え方です。皆さんもご存じのとおり、現在の実務運用として、自動車対人の事故において、自動車側の過失割合が0となるのは、よほどのことがない限りありません。このとき、判決では、「不法行為は成立するが過失相殺により減額する」という理論を構成することになります。たとえば自動車の過失割合が2割という場合は、現実的には自動車運転手にとって避けようがない事故とさえいえます。それでも2割の責任を認めるために当該運転に過失があったと判決上は示されるのです。医療訴訟において、しばしば「トンデモ判決」と揶揄される判決が見受けられます。しかし、医療訴訟の判決を見る場合には、まず、認容額、認容割合を確認してください。本事例でも、Xを糖尿病と診断することは、現実にはなかなか困難であり、このような事例において、後から見て誤診だ違法だというのはとんでもないという思いはあります。しかし、16歳の男の子が連日診察を受けたにもかかわらず、診断がつかずに死亡してしまった。その男の子の死亡という損害を被害者と医師で7対3で分けましょうという判断は、不当かと問われると若干考え方が変わってくるのではないでしょうか。もちろん、国民皆保険制度により、医療費が統制価格下にあるわが国においては、リスクを価格に転嫁できないこと、また、自動車運転と異なり、医療は行わなくても患者の身体・生命を損ねることなど、自動車運転と医療はまったく異なりますので、同様に判断することは妥当とはいえません。自動車事故とは違う、わが国の医療提供体制にあった「損害の公平な分担」を模索していく必要があるものと思われます。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)広島地判尾道支部平成元年5月25日 判時1338号127頁本事件の判決については、最高裁のサイトでまだ公開されておりません。

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アトピー性皮膚炎に紫外線療法は有効な選択肢

オランダ・アムステルダム大学のF M Garritsen氏らは最新のシステマティックレビューを行い、アトピー性皮膚炎に対する紫外線療法は有効な治療オプションとなりうることを発表した。また著者は、今回のレビュー結果に基づき、紫外線(UV)A1およびナローバンド(NB)-UVBが有用であると述べている。一方で、今後さらによりよくデザインされた、検出力が十分な無作為化試験の必要性についても 言及した。紫外線療法はアトピー性皮膚炎患者において一般的に行われているが、その効果のエビデンスについて、直近の系統的なレビューは行われていなかった。British Journal of Dermatology誌2014年3月号の掲載報告。 本レビューは、アトピー性皮膚炎患者の紫外線療法の有効性を評価すること、エビデンスベースに基づく治療勧告を提言することを目的に行われた。 MEDLINE、EMBASE、Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL)、Global Resource of EczemA Trials(GREAT)の電子的文献検索と、前向き試験レジスター、さらにPubMed検索で直近の試験を検索した。 アトピー性皮膚炎治療としての紫外線療法に関するすべての無作為化試験を、データ抽出対象とみなし評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・検索の結果、19試験・被験者905例が包含された。・無作為化試験は概して、臨床的および質的に不均一なものであった。そのため、正式なメタ解析はできなかった。・包含されたエビデンスに基づき(サンプルサイズが小さく、試験の質にばらつきがあり、直接比較は小数ではあったが)、UVA1、NB-UVBは、臨床的徴候および症状の減少に最も有効な治療法と思われた。・高用量UVA1と、中程度UVA1には差がみられなかった。・UVABは、UVAおよびブロードバンドUVBよりも、臨床的症状改善について、より効果的であることが示唆された。なおUVA1との比較は行われていなかった。・その他有効な治療オプションとしては、フルスペクトラムライト、ソラレン+UVA、balneophototherapyなどがあった。・重篤な副作用は報告されていなかった。

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術後患者の生存率は看護師の人数と学歴で改善できる(コメンテーター:中澤 達 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(189)より-

コストカット目的での看護師減員は患者アウトカムに悪影響をもたらす一方で、学士号取得の看護師配置を手厚くすると院内死亡は減少するという研究報告が発表された。 本検討は、病院運営上最も大きなコスト要素の1つである、看護師に関する意思決定を目的としたRN4CAST研究である。RN4CASTには12ヵ国が参加しているが、今回の検討では、同様の患者退院データを有する9ヵ国(ベルギー、英国、フィンランド、アイルランド、オランダ、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、スイス)300病院における、2009~2010年のデータより解析が行われた。 方法は、一般外科、整形外科または血管外科手術を受けた50歳以上の患者42万2,730例の退院データを入手、診療データを標準プロトコル(ICD-9または10に準拠)でコード化し、年齢、性別、入院タイプ、43のダミー変数で分類した手術タイプ、17のダミー変数で分類した入院時の併存疾患のリスク調整を用いて、30日院内死亡率を評価した。同時に、2万6,516人の看護師の看護職員配置と教育レベルを調査した。 結果として、看護師の労働負荷が患者1人分増大するにつき、入院患者の30日院内死亡率は7%上昇することが示された(オッズ比:1.068、95%信頼区間[CI]:1.031~1.106)。また、学士号取得看護師が10%増えると院内死亡率は7%低下することが示された(同:0.929、0.886~0.973)。つまり、看護職員の60%が学士号取得者で看護体制6対1の病院は、同看護職員が30%で看護体制8対1の病院と比べて、院内死亡が約30%低いことになる。 米国、カナダで行われた調査でも今回と同様の結果であり、病院支出を最小とするための人件費削減は患者アウトカムに悪影響を与えることが示唆された。同様の検討が心臓手術のようなハイリスク手術、内科治療についてもヨーロッパで行われている。 日本では入院治療に携わる看護師数である看護体制に加算があり、医療の質の評価として間違いではないことが証明された。今後、死亡以外の有害アウトカムに対する業務コストを算出し、労働力投資が最大価値を生む疾患群を解明する必要がある。さらにその結果が、保険償還制度に反映され、医療の質向上に寄与することが期待される。

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検査所見の確認が遅れて心筋炎を見落とし手遅れとなったケース

循環器最終判決判例時報 1698号98-107頁概要潰瘍性大腸炎に対しステロイドを投与されていた19歳男性。4日前から出現した頭痛、吐き気、血の混じった痰を主訴に近医受診、急性咽頭気管支炎と診断して抗菌薬、鎮咳薬などを処方した。この時胸部X線写真や血液検査を行ったが、結果は後日説明することにして帰宅を指示した。ところが翌日になっても容態は変わらず外来再診、担当医が前日の胸部X線写真を確認したところ肺水腫、心不全の状態であった。急性心筋炎と診断してただちに入院治療を開始したが、やがて急性腎不全を合併。翌日には大学病院へ転送し、人工透析を行うが、意識不明の状態が続き、初診から3日後に死亡した。詳細な経過患者情報19歳予備校生経過1992年4月10日潰瘍性大腸炎と診断されて近所の被告病院(77床、常勤内科医3名)に入院、サラゾスルファピリジン(商品名:サラゾピリン)が処方された。1993年1月上旬感冒症状に続き、発熱、皮膚の発赤、肝機能障害、リンパ球増多がみられたため、被告病院から大学病院に紹介。2月9日大学病院に入院、サラゾピリン®による中毒疹と診断されるとともに、ステロイドの内服治療が開始された。退院後も大学病院に通院し、ステロイドは7.5mg/日にまで減量されていた。7月10日頭痛を訴えて予備校を休む。次第に食欲が落ち、頭痛、吐き気が増強、血の混じった痰がでるようになった。7月14日10:00近所の被告病院を初診(以前担当した消化器内科医が診察)。咽頭発赤を認めたが、聴診では心音・肺音に異常はないと判断(カルテにはchest clearと記載)し、急性咽頭気管支炎の診断で、抗菌薬セフテラムピボキシル(同:トミロン)、制吐薬ドンペリドン(同:ナウゼリン)、鎮咳薬エプラジノン(同:レスプレン)、胃薬ジサイクロミン(同:コランチル)を処方。さらに胸部X線写真、血液検査、尿検査、喀痰培養(一般細菌・結核菌)を指示し、この日は検査結果を待つことなくそのまま帰宅させた(診察時間は約5分)。帰宅後嘔気・嘔吐は治まらず一段と症状は悪化。7月15日10:30被告病院に入院。11:00診察時顔面蒼白、軽度のチアノーゼあり。血圧70/50mmHg、湿性ラ音、奔馬調律(gallop rhythm)を聴取。ただちに前日に行った検査を取り寄せたところ、胸部X線写真:心臓の拡大(心胸郭比53%)、肺胞性浮腫、バタフライシャドウ、カーリーA・Bラインがみられた血液検査:CPK 162(20-100)、LDH 1,008(100-500)、白血球数15,300、尿アセトン体(4+)心電図検査:心筋梗塞様所見であり急性心不全、急性心筋炎(疑い)、上気道感染による肺炎と診断してただちに酸素投与、塩酸ドパミン(同:イノバン)、利尿薬フロセミド(同:ラシックス)、抗菌薬フロモキセフナトリウム(同:フルマリン)とトブラマイシン(同:トブラシン)の点滴、ニトログリセリン(同:ニトロダームTTS)貼付を行う。家族へは、ステロイドを服用していたため症状が隠されやすくなっていた可能性を説明した(この日主治医は定時に帰宅)。入院後も吐き気が続くとともに乏尿状態となったため、非常勤の当直医は制吐薬、昇圧剤および利尿薬を追加指示したが効果はなく、人工透析を含むより高度の治療が必要と判断した。7月16日主治医の出勤を待って転院の手配を行い、大学病院へ転送。11:00大学病院到着。腎不全、心不全、肺水腫の合併であると家族に説明。14:00人工透析開始。18:00容態急変し、意識不明となる。7月17日01:19死亡確認。当事者の主張患者側(原告)の主張1.病因解明義務初診時に胸部X線写真を撮っておきながら、それを当日確認せず心筋炎、肺水腫を診断できなかったのは明らかな過失である。そして、胸部X線で肺水腫があれば湿性ラ音を聴取することができたはずなのに、異常なしとしたのは聞き漏らしたからである2.転院義務初診時の病態はただちに入院させたうえで集中治療を開始しなければならない重篤なものであり、しかも適切な治療設備がない被告病院であればただちに治療可能な施設へ転院させるべきなのに、病因解明義務を怠ったために転院措置をとることができなかった初診時はいまだ危機的状況とまではいえなかったので、適切な診断を行って転院措置をとっていれば救命することができた病院側(被告)の主張1.病因解明義務初診時には急性咽頭気管支炎以外の異常所見がみられなかったので、その場でX線写真を検討しなかったのはやむを得なかった。また、心筋炎があったからといって必ず異常音が聴取されるとはいえないし、患者個人の身体的原因から異常音が聴取されなかった可能性がある2.転院義務初診時の症状を急性咽頭気管支炎と診断した点に過失がない以上、設備の整った病院に転院させる義務はない。仮に当初から心筋炎と診断して転院させたとしても、その重篤度からみて救命の可能性は低かったさらに大学病院の医師から提案されたPCPS(循環補助システム)による治療を家族らが拒否したことも、死亡に寄与していることは疑いない裁判所の判断当時の状況から推定して、初診時から胸部の異常音を聴取できるはずであり、さらにその時実施した胸部X線写真をすぐに確認することによって、肺水腫や急性心筋炎を診断することは可能であった。この時点ではKillip分類class 3であったのでただちに入院として薬物療法を開始し、1時間程度で病態の改善がない時には機械的補助循環法を行うことができる高度機能病院に転院させる必要があり、そうしていれば高度の蓋然性をもって救命することができた。初診患者に上記のような判断を求めるのは、主治医にとって酷に過ぎるのではないかという感もあるが、いやしくも人の生命および健康を管理する医業に従事する医師に対しては、その業務の性質に照らし、危険防止のため必要とされる最善の注意義務を尽くすことが要求されることはやむを得ない。原告側合計7,998万円の請求に対し、7,655万円の判決考察「朝から混雑している外来に、『頭痛、吐き気、食欲がなく、痰に血が混じる』という若者が来院した。診察したところ喉が赤く腫れていて、肺音は悪くない。まず風邪だろう、ということでいつも良く出す風邪薬を処方。ただカルテをみると、半年前に潰瘍性大腸炎でうちの病院に入院し、その後大学病院に移ってしまった子だ。どんな治療をしているの?と聞くと、ステロイドを7.5mg内服しているという。それならば念のため胸部X線写真や採血、痰培をとっおけば安心だ。ハイ次の患者さんどうぞ・・・」初診時の診察時間は約5分間とのことですので、このようなやりとりがあったと思います。おそらくどこでも普通に行われているような治療であり、ほとんどの患者さんがこのような対処方法で大きな問題へと発展することはないと思います。ところが、本件では重篤な心筋炎という病態が背後に潜んでいて、それを早期に発見するチャンスはあったのに見逃してしまうことになりました。おそらく、プライマリケアを担当する医師すべてがこのような落とし穴にはまってしまうリスクを抱えていると思います。ではどのような対処方法を採ればリスク回避につながるかを考えてみると、次の2点が重要であると思います。1. 風邪と思っても基本的診察を慎重に行うこと今回の担当医は消化器内科が専門でした。もし循環器専門医が患者の心音を聴取していれば、裁判官のいうようにgallop rhythmや肺野の湿性ラ音をきちんと聴取できていたかも知れません。つまり、混雑している外来で、それもわずか5分間という限定された時間内に、循環器専門医ではない医師が、あとで判明した心筋炎・心不全に関する必要な情報を漏れなく入手することはかなり困難であったと思われます。ところが裁判では、「いやしくも人の生命および健康を管理する医業に従事する医師である以上、危険防止のため必要とされる最善の注意義務を尽くさなければいけない」と判定されますので、医学生の時に勉強した聴打診などの基本的診察はけっしておろそかにしてはいけないということだと思います。私自身も反省しなければいけませんが、たとえば外来で看護師に「先生、風邪の患者さんをみてください」などといわれると、最初から風邪という先入観に支配されてしまい、とりあえずは聴診器をあてるけれどもざっと肺野を聞くだけで、つい心音を聞き漏らしてしまうこともあるのではないでしょうか。今回の担当医はカルテに「chest clear」と記載し、「心音・肺音は確かに聞いたけれども異常はなかった」と主張しました。ところが、この時撮影した胸部X線写真にはひどい肺水腫がみられたので、「異常音が聴取されなければおかしいし、それを聞こえなかったなどというのはけしからん」と判断されています。多分、このような危険は外来患者のわずか数%程度の頻度とは思いますが、たとえ厳しい条件のなかでも背後に潜む重篤な病気を見落とさないように、慎重かつ冷静な診察を行うことが、われわれ医師に求められることではないかと思います。2. 異常所見のバックアップ体制もう一つ本件では、せっかく外来で胸部X線写真を撮影しておきながら「急現」扱いとせず、フィルムをその日のうちに読影しなかった点が咎められました。そして、そのフィルムには誰がみてもわかるほどの異常所見(バタフライシャドウ)があっただけに、ほんの少しの配慮によってリスクが回避できたことになります。多くの先生方は、ご自身がオーダーした検査はなるべく早く事後処理されていることと思いますが、本件のように異常所見の確認が遅れて医事紛争へと発展すると、「見落とし」あるいは「注意義務違反」と判断される可能性が高いと思います。一方で、多忙な外来では次々と外来患者をこなさなければならないというような事情もありますので、すべての情報を担当医師一人が把握するにはどうしても限界があると思います。そこで考えられることは、普段からX線技師や看護師、臨床検査技師などのコメデイカルと連携を密にしておき、検査担当者が「おかしい」と感じたら(たとえ結果的に異常所見ではなくても)すぐに医師へ報告するような体制を準備しておくことが重要ではないかと思います。本件でも、撮影を担当したX線技師が19歳男子の真っ白なX線写真をみて緊急性を認識し、担当医師の注意を少しでも喚起していれば、医事紛争とはならないばかりか救命することができた可能性すらあると思います。往々にして組織が大きくなると縦割りの考え方が主流となり、医師とX線技師、医師と看護師の間には目にみえない壁ができてセクショナリズムに陥りやすいと思います。しかし、現代の医療はチームで行わなければならない面が多々ありますので、普段から勉強会を開いたり、症例検討会を行うなどして医療職同士がコミュニケーションを深めておく必要があると思います。循環器

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