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第34回 ワルファリン服用時PT-INR2.0~3.0の根拠を説明できますか?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 ワルファリンはあまりにも有名な抗凝固薬であり、直接経口抗凝固薬(DOAC)もワルファリンとの非劣性試験を行っており、血栓塞栓症の予防薬としてのベンチマークとなっています。多くの薬剤師がその説明に慣れているのではないかと思いますが、スタンダードとされるその効果はどの程度で、なぜPT-INRを2.0~3.0くらいで管理する必要があるのか根拠を示しながら服薬指導できているでしょうか。今回は、意外に正確に即答するのが難しいワルファリンに関するエビデンスを紹介します。ワルファリンは脳卒中リスクを対照群に比べて60%、抗血小板薬に比べて40%低下ワルファリンの血栓塞栓症予防効果は、数多くの試験で示唆されています。非弁膜症性心房細動患者の脳卒中予防効果についてまとめたメタ解析がありますので、押さえておくとよいでしょう1)。この解析には29試験、合計2万8,044例の被験者が含まれており、その平均年齢は71歳で、平均フォローアップ期間は1.5年です。6試験、2,900例の解析によるワルファリン服用群の脳卒中の相対リスクは、抗血栓薬を服用していない対照群と比べて64%低下(95%信頼区間[CI]:49%~74%)、死亡率は26%低下しています。一方、8試験、4,876例の解析による抗血小板薬服用群の脳卒中の相対リスクは、対照群と比べて22%低下(95%CI:6%~35%)しています。また、12試験、1万2,963例の解析によるワルファリン群の脳卒中の相対リスクは、抗血小板薬群と比べて39%低下(95%CI:22%~52%)しています。対照群と比べて約60%、抗血小板薬群と比べて約40%の脳卒中リスク低減というのはとても大きな効果で、DOACが出るまでスタンダードとされていた理由もうなずけます。ただし、試験の前提としてワルファリンの用量が調整されていたことは留意しておくべきで、現実においても当然同様に必要です。上記解析では、抗血小板薬はワルファリンより小さいとはいえ、一定の脳卒中予防効果を示しています。しかし、日本人の非弁膜症性心房細動患者において、アスピリン150~200mg/日投与群と抗血小板薬や抗凝固薬を服用しないプラセボ群を比較した試験(JAST)では、アスピリンは脳卒中予防に対して有効でなかったうえに、中間解析で重篤な出血が増加して試験中止になっているため、推奨されているわけではありません2)。不整脈により生じる脳卒中予防でワルファリンがよく用いられるのにそういった背景があることを知っていると、説明で役に立つかもしれません。PT-INR 2.0~3.0管理群は1.5~1.9管理群よりも有意に深部静脈血栓塞栓症再発が少ないワルファリンの薬効評価では、血液の凝固速度を表すPT-INRの数値をみます。日本血栓止血学会によれば、ワルファリンによる一般的な抗凝固療法では2.0~3.0に管理するとあります。通常の標準値は1.0前後で、それより数値が大きいほど血が止まりにくくなるため、内出血や鼻血、歯茎からの出血などが生じやすくなります。なぜ2.0~3.0がよいのかについては、静脈血栓塞栓症予防におけるINRコントロールの最適値を検討した研究があります3)。ワルファリン治療を3ヵ月以上行っている静脈血栓塞栓症患者738例を、INR 1.5~1.9の低強度管理群とINR 2.0~3.0の通常強度管理群に1:1に割り付け、有効性と安全性を比較しています。主要アウトカムは静脈血栓塞栓症再発および出血です。その結果、深部静脈血栓塞栓症の再発は、INR 1.5~1.9管理群では16回(1.9/100人・年)、INR 2.0~3.0管理群では6回(0.7/100人・年)と有意差があり、ハザード比は2.8(95%CI:1.1~7.0)でした。一方で、重大な出血、全出血発生頻度はともに両群間に有意差はありませんでした。管理が不十分だと塞栓症リスクが3倍近く上昇することは知っておくとよいでしょう。さらに、PT-INRの目標値1.5~2.0と2.0~3.0で比較した別の研究においても、一貫性のある結果が得られており、目標値の妥当性がよくわかります。逆に3.0を超えても予防効果が用量依存的に上がるわけではなく、出血性リスクが高くなるのであくまでも基準値を目指すのがよいということになります4)。抗凝固療法などの予防薬は患者さん自身に治療効果が見えづらくてアドヒアランスが低下しがちです。どの程度の出血傾向があれば注意すべきなのかという目安を伝えることはもちろん重要ですが、治療しない場合と比べてどの程度の効果が期待できて、どのくらいの目標値で管理するとそれがリスクを避けながら最大化されるのかをしっかりと説明できるとよいと思います。そのようなときに、これらの知見をお役立ていただければ幸いです。1)Hart RG, et al. Ann Intern Med. 2007;146:857-867. 2)Sato H, et al. Stroke. 2006;37:447-451. 3)Kearon C, et al. N Engl J Med. 2003;349:631-639. 4)Crowther MA, et al. N Engl J Med. 2003;349:1133-1138.

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第17回 2020改定で決定的に分かれる薬局格差【噂の狭研ラヂオ】

動画解説2020改定はいまだ調剤するまでの対物業務に重きを置いている薬局にとってはかなりしんどい内容となっています。今回は狭間先生が経営者の目線で改定の3つの基本的な考え方を解説。薬剤師が対人業務へうまくシフトできるか、非薬剤師に何を託せるか、今こそ薬局格差を決定づけるターニングポイントです!

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抗体検査【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第4回

はじめに2019年4月から、風疹対策として、特定年齢の男性を対象とした抗体検査とワクチンの提供サービスが始まった。しかし、実際にワクチン接種の効果を判定するために測定された抗体価の解釈は難しい。ここでは抗体価検査全般とその解釈について述べる。抗体検査について理解を深める前に以下の3点に注意しておきたい。(1)現在入手可能なワクチンは、抗体を産生することで疾患を予防するという機序が主ではあるが、実際に病原体に曝露した際には細胞性免疫をはじめとした他のさまざまな免疫学的機序も同時に作用することがわかっている。したがって、抗体価と発症/感染予防には必ずしも相関性がないことがある。(2)免疫の有無は、年齢、性別、主要組織適合抗原(major histocompatibility complex::MHC)などによっても左右される。(3)“免疫能”の定義をどこにおくか(侵襲性感染症/粘膜面における感染の予防、感染/発症の予防)によっても判定基準が変わってくる。以上を踏まえた上で読み進めていただきたい。抗体検査法一般的に用いられる方法としては次の5つがある。EIA法(Enzyme-Immuno-Assay:酵素免疫法)/ ELISA法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent  Assay:酵素免疫定量法)HI法(Hemagglutination Inhibition test:血球凝集抑制反応)NT法(Neutralization Test:中和反応)CF法(Complement Fixation test:補体結合反応)PA法(Particle Agglutination test:ゼラチン粒子凝集法)このうちCF法は感度が低いため、疾患に対する免疫の有無を判断する検査法としては適さない。ワクチンの効果判定や病原体に対する防御能の測定にあたって最も有効とされているのはPRN法(plaque reduction neutralization)による中和抗体の測定である。しかし、中和抗体の測定は手技が煩雑で判定にも時間がかかるため、実際には様々な抗体の中から発症予防との相関があるとされるもので、検査室での測定に適したものが使用されることが多い。各疾患のカットオフ値について麻疹および風疹については、発症予防および感染予防に必要とされる抗体価が検査別にある程度示されている(表1)1)が、ムンプス、水痘については未確定である。表1 麻疹・風疹における抗体価基準1)画像を拡大する1)麻疹(Measles)麻疹に対する免疫の有無を判断するうえで最も信頼性が高い検査法はPRN法による中和抗体の測定であるが、前述のように多数の検体のスクリーニングには向いていない。WHOは中和抗体(PRN法)で120mIU/mL以上をカットオフとしている2)。これは中和抗体(PRN法)≧120mIU/mLであればアウトブレイク時にも発症例が見られなかったことによる。一方、わが国で用いられている環境感染学会の医療従事者に対するワクチンガイドライン3)ではIgG抗体(EIA法)で16以上を陽性基準としており、国際単位へ変換すると720mIU/mL(EIA価×45=国際単位(mIU/mL))となる。麻疹抗体120mIU/mLは発症予防レベルであるが、報告によっては120~500mIU/mLでも発症がみられたとするものもある4)。したがって曝露の機会やウイルス量が多い危険性のある医療従事者ではより高い抗体価を求めるものとなっている。2)風疹(Rubella)古くから用いられているのはHI法であり、8倍以上が陽性基準とされている。HI法と他の検査を用いた場合の読み替えに関しては、国立感染症研究所の公開している情報が有用である5)。1985年にNCCLS(National Committee on Clinical Laboratory Standards)は風疹IgG抗体>15IU/mLを、発症予防レベルに相当する値として免疫を有している指標とした。1992年に数値は10IU/mLに引き下げられたが、それ以降のカットオフの変更はなされていない。その後の疫学データなどから独自にカットオフを引き下げて対応している国もある6)。環境感染学会のガイドラインではIgG(EIA法:デンカ生研)≧8.0を十分な抗体価としているが、国際単位へ変換すると18.4IU/mL(EIA価×2.3=国際単位(IU/mL))となり、高めの設定となっていることがわかる。これは麻疹と同様に曝露の機会や多量のウイルス曝露が起こる危険性があるためである。ただし、HI法で8倍以上、EIA法で15IU/mL以上の抗体価を有している場合でも風疹に罹患したり、先天性風疹症候群を発症したりといった報告もある7)。風疹における感染予防に必要な抗体価として、国際的なコンセンサスを得た値は示されていない。3)ムンプス(Mumps)ムンプスに対する免疫の有無を正確に測定する方法は、現在のところはっきりとはわかっていない8)。中和法で2倍もしくは4倍の抗体価が発症予防に有効であったとする報告がみられる一方、2006年に米国の大学で起こったアウトブレイクの際にワクチン株および流行株に対する中和抗体(PRN法)、およびIgG抗体(EIA法)を測定したところ、発症者は非発症者に比べて抗体価が低い傾向にはあったが、その値はオーバーラップしており、明確なカットオフを見出すことはできなかった9)。環境感染学会ではEIA価で4.0以上を陽性としているが3)、その臨床的な意義は不明である。4)水痘(Varicella)WHOが規定する発症予防に十分な抗体価はFAMA(fluorescent antibody to membrane antigen)法で4倍以上もしくはgrycoprotein(gp)ELISA法で5U/mL以上である10)。FAMA法で4倍以上の抗体価を保有していた者のうち家庭内曝露で水痘を発症したのは 3%以下であった。gp ELISA法は一般的な検査方法ではなく、偽陽性が多いのが欠点である。わが国において両検査は一般的ではなく、代替案として、中和法で4倍以上を発症予防レベルと設定し、IAHA(immune adherence hemagglutination:免疫付着赤血球凝集)法で4倍以上、EIA法で4.0以上をそれぞれ十分な抗体価としているが3)、その臨床的な意義は不明である。その他の代表的なワクチン予防可能疾患を含めた発症予防レベルの抗体価示す(表2)11,12)。一般的に抗体価測定が可能な疾患としてA型肝炎、B型肝炎について述べる。表2 代表的なワクチン予防可能疾患の発症予防レベル抗体価11,12)画像を拡大するND:未確定* :侵襲性肺炎球菌感染症の発症予防5)A型肝炎(Hepatitis A)13,14)A型肝炎ウイルスに対して、有効な免疫力を有するとされる抗体価の基準値は明確には示されていない。測定法にもよるが、有効な抗体価は10~33mIU/mLとされており、VAQTA(商標名)やHAVARIX(商標名)といったワクチンの臨床試験における効果判定は抗体価10mIU/mL以上を陽性としている。実臨床の場ではワクチン接種前に要否を確認するための測定は行うが、ワクチン接種後の効果判定として通常は測定しない。6)B型肝炎(Hepatitis B)3回のワクチン接種完了後1~3ヵ月の時点でHBs抗体価測定を行う。HBs抗体≧10mIU/mLが1回でも確認できれば、その後抗体価が低下しても曝露時に十分な免疫応答が期待できることから、WHOは免疫正常者に対してワクチンの追加接種は不要としている15)。おわりにここまで述べてきたように、各ウイルスに対する抗体価の基準についてはわかっていないことが多い。これは感染防御に働くのが単一の機構のみではないことに起因する。国際基準とわが国の基準の違いも前述の通りである。麻疹、風疹、ムンプス、水痘に関しても、代替案としての抗体検査が独り歩きしてしまっているが、個人の感染防御という点において重要なのは、抗体価ではなく1歳以上における2回のワクチン接種歴である。接種記録がなければ抗体陽性であってもワクチン接種を検討するべきである。まれな事象として2回の接種歴があっても各疾患が発症したとする報告はあるが、追加のワクチン接種で抗体価を上昇させることで、そのような事象を減らすことができるかは現時点では明確な答えは出ていない。現在、環境感染学会ではガイドラインの改訂がすすめられており、2020年1月まで第3版のパブリックコメントが募集された。近日中に改訂版が公表される予定であり、基本的には1歳以上で2回の確実な接種歴を重視した形になると考えられる16)。抗体価の測定に頼るのではなく、小児期から確実に2回の接種率を上昇させることでコミュニティーからウイルスを根絶すること、そして個人および医療機関でその記録の保管を徹底することの方が重要である。1)庵原 俊. 小児感染免疫. 2011;24:89-95.2)The immunological basis for immunization series. Module 7: Measles Update 2009. World Health Organization, 2009. (Accessed 03/25, 2019)3)日本環境感染症学会ワクチンに関するガイドライン改訂委員会. 医療関係者のためのワクチンガイドライン 第2版. 日本環境感染学会誌. 2014;29:S1-S14.4)Lee MS, et al. J Med Virol. 2000;62:511-517.5)風疹抗体価の換算(読み替え)に関する検討. 改訂版(2019年2月改定). (Accessed 03/20, 2019)6)Charlton CL, et al. Hum Vaccin Immunother. 2016;12:903-906.7)The immunological basis for immunization series. Module 11: Rubella. World Health Organization, 2008.(Accessed 03/25, 2019)8)The immunological basis for immunization series. Module 16: Mumps. World Health Organization, 2010.(Accessed 03/25, 2019)9)Barskey AE, et al. J Infect Dis. 2011;204:1413-1422.10)The immunological basis for immunization series. Module 10: Varicella-zoster virus. World Health Organization, 2008.(Accessed 03/25, 2019)11)Plotkin SA,et al(eds). Plotkin's Vaccines(7th Edition). Elsevier. 2018:35-40.e4.12)Plotkin SA. Clin Vaccine Immunol. 2010;17:1055-1065.13)The immunological basis for immunization series. Module 18: Hepatitis A. World Health Organization, 2011. (Accessed 03/25, 2019)14)Plotkin SA, et al(eds). Plotkin's Vaccines (Seventh Edition).Elsevier.2018:319-341.e15.15)The immunological basis for immunization series. Module 22: Hepatitis B. World Health Organization, 2012.(Accessed 03/25,2019)16)医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版. 2020.講師紹介

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施設看護師から腎機能を聴取し抗菌薬の適正用量を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第17回

 今回は、患者さんの腎機能を考慮した処方提案についてです。腎排泄型の薬剤の投与量を提案するためには腎機能を評価する必要があります。しかし、その腎機能を評価するための検査値や体重、処方薬の追加の理由は処方箋からのみでは把握できません。今回は処方提案に至るまでの情報収集や連携方法について紹介します。患者情報80歳、女性(施設入居)基礎疾患:高血圧症、便秘症既 往 歴:とくになし処方内容<往診医からの処方>1.アムロジピン錠2.5mg 1錠 分1 朝食後2.酸化マグネシウム錠500mg 1錠 分1 朝食後3.酪酸菌配合錠 4錠 分2 朝夕食後<初めて受診した病院からの新規処方>1.レボフロキサシン錠500mg 1錠 分1 朝食後※病院からの処方箋には、検査値や体重・身長などの情報はなし。本症例のポイントある日の午前、施設スタッフより抗菌薬を本日中に配薬してほしいと電話連絡があり、レボフロキサシン錠500mg 1錠 分1 7日分の処方箋FAXが届いていました。第一印象として、高齢者に対する処方としてはレボフロキサシンの用量が多く、そもそもどこの感染なのかなども含めて情報が不足しているため注意が必要と感じました。そこで、この施設では日中は看護師が常勤していて、病院受診の際は看護師が同行していることを知っていたため、担当看護師に状況を確認することにしました。看護師に確認したのは、採血結果の腎機能に関わる項目(血清クレアチニン、BUN)と直近の身体測定の結果、今回の受診契機と診察時の状況です。その結果、昨夜から発熱、頻尿、倦怠感が強く生じて継続したため、本人および家族から病院受診の希望があり受診したとのことでした。複雑性膀胱炎が疑われ、本来であれば入院加療が必要な状態でしたが、本人と家族は施設に戻って治療することを希望したため、今回の処方薬になったそうです。また、受診時の採血と直近の身体測定の結果は、血清クレアチニン:0.8mg/dL、BUN:13.6mg/dL、身長:148cm、体重:45kgであったという情報も得ることができました。以前紹介した推算CCrの計算方法で腎機能を評価したところ、推算CCr:39.84mL/minと年齢相応に腎機能が低下していました。レボフロキサシンの腎機能に合わせた推奨用量処方提案と経過今回の処方用量では過剰投与になり、中毒症状であるめまいや痙攣などの神経症状、アキレス腱炎、低血糖などが懸念されることから減量が望ましいと判断し、医師に相談することにしました。また、この患者さんは便秘症にて酸化マグネシウムを朝食後に服用していたことから、効果減弱の相互作用を考慮して服用時点を昼食後で調整してよいかどうかも併せて確認することにしました。電話で、「患者さんのレボフロキサシンの用量について確認があります。維持用量を250mgに減量してはいかがでしょうか。80歳と高齢で、本日の採血結果を基に腎機能を評価したところ、推算CCrは50mL/min未満と年齢相応の低下がありました。現在の500mgを維持用量として継続した場合、中毒症状が出現する恐れもあるので減量が望ましいと考えます。初回負荷投与量500mg、維持用量250mgでいかがでしょうか。また、朝食後に施設の往診医から処方されている酸化マグネシウムを服用しているので、レボフロキサシンの効果減弱を避けるため、レボフロキサシンの服用時点を昼食後に変更してもよろしいでしょうか」と相談しました。医師からは、「症状がやや重めなのでFull Doseがいいかと思いましたが、腎機能をそこまで調べていませんでした。初回500mg、以降250mgに調整しましょう。用法は昼食後でよいです。初診なので酸化マグネシウムを服用していたことを把握できていませんでした。情報提供ありがとうございます」というお返事をいただきました。そこで、施設看護師にレボフロキサシンを減量かつ昼食後服用へ変更することをフィードバックし、同日中に配薬しました。患者さんにもその旨を説明し、レボフロキサシンを開始したところ、翌日には解熱して倦怠感や頻尿も改善していきました。また、レボフロキサシン服用期間中および終了後も下痢などの消化器症状、めまいなどの神経症状もなく経過しました。1)「透析患者に対する投薬ガイドライン」,白鷺病院.2)クラビット錠添付文書

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新型コロナ肺炎、その他の肺炎と比較した臨床的特徴

 新型コロナ(2019-nCoV)肺炎とその他の肺炎の臨床的特徴に関する比較研究が行われ、新型コロナ肺炎では肝機能障害の発生頻度が高く、またLDHおよびα-HBDHの値がマーカーとなる可能性が示唆された。中国・安徽医科大学のDahai Zhao氏らによる、Clinical Infectious Diseases誌オンライン版3月12日号掲載の報告。 2020年1月23日から2月5日まで、中国・安徽省の2病院において、19例の新型コロナ肺炎患者と15例の非新型コロナ肺炎患者が登録された。1日おきに咽頭スワブまたは喀痰検体が採取され、リアルタイムRT-PCRにより2019-nCoV感染の有無が確認された。非新型コロナ肺炎患者については、入院後7日間での3回の連続的なリアルタイムRT-PCRで陰性だった場合に、確定された。 主な結果は以下のとおり。・すべての患者に、COVID-19の確定症例への暴露歴あるいは、発症前の湖北省への旅行歴があった。・平均年齢は、新型コロナ肺炎患者が48歳(IQR:27~56)、非新型コロナ肺炎患者が35歳(IQR:27~46)であった。・慢性疾患の併存歴は、新型コロナ肺炎患者が3例(15.79%)、非新型コロナ肺炎患者が3例(20%)。血清検査の結果、新型コロナ肺炎患者でコクサッキーウイルスおよびマイコプラズマ陽性が1例ずつ、非新型コロナ肺炎患者でマイコプラズマ陽性が2例確認された。・発症までの期間中央値は、新型コロナ肺炎患者で8日(IQR:6~11)、非新型コロナ肺炎患者で5日(IQR:4~11)であった。・いずれの場合も臨床症状は類似しており、ともに多くみられたのは発熱(新型コロナ肺炎:78.95% vs.非新型コロナ肺炎:93.33%)、咳(47.37% vs.80%)であった。・CT所見について、入院時両側性病変を有していたのは新型コロナ肺炎患者で15例(78.95%)、非新型コロナ肺炎患者では4例(26.7%)であった。多発性病変およびすりガラス影がみられたのは、新型コロナ肺炎患者で17例(89.47%)、非新型コロナ肺炎患者では1例(6.67%)のみであった。・臨床検査結果について、新型コロナ肺炎患者では、非新型コロナ肺炎患者と比較してAST(>40U/L;27.78% vs.0%、p=0.03)、ALT(>50U/L;27.78% vs.0%、p=0.03)、γ-GT(>45 U/L;44.44% vs.0%、p=0.004)、LDH(>250U/L;31.58% vs.0%、p=0.02)、α-HBDH(>182U/L;75% vs.20%、p=0.01)の異常な増加がみられた。・新型コロナ肺炎患者はロピナビルとリトナビル、対症療法により治療され、非新型コロナ肺炎患者は抗生物質(モキシフロキサシン)と対症療法により治療された。2020年2月14日までに、ICU入室が必要とされた患者はいなかった。 著者らは、本研究の限界としてサンプルサイズの小ささと、症例が軽症患者に限られる点を挙げた上で、CT検査がスクリーニングの一助になる可能性と、新型コロナ肺炎患者では肝機能関連マーカー(ALT、ASTおよびγ-GT)とLDH、α-HBDHの異常値がみられる頻度が高く、肝障害や他の臓器障害を引き起こす可能性があると指摘している。

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新型コロナ感染拡大防止でオンライン服薬指導が可能に【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第44回

新型コロナウイルスに関する報道が始まって以降、患者さんから新型コロナウイルスに関する問い合わせは増え続けているのではないでしょうか。一般的な公衆衛生や感染予防の知識はあっても、情報が錯綜している中で最新の情報を収集し、一般の方々に提供するというのは本当に難しいことだと身をもって感じています。そのような中、新たな感染拡大を防ぐ目的で、厚生労働省が事務連絡を発出しました。厚生労働省は3月2日までに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染防止を目的とした電話やテレビ電話での診察について、医療機関は「オンライン診療料」(月70点)ではなく「電話等再診料」(月73点)を算定すると明確化した。処方箋を発行し、FAXなどで薬局に送付した場合は「処方箋料」も算定できる。(2020年3月3日付 RISFAX)新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、2月28日に厚生労働省より事務連絡「新型コロナウイルス感染症患者の増加に際しての電話や情報通信機器を用いた診療や処方箋の取扱いについて」が発出されました。内容としては、高血圧症や糖尿病などの慢性疾患で何度も同じ病院にかかっている患者さんに対しては、病院に来なくても電話などで医師の診察を受けることができ、処方箋情報をFAXで薬局に流すことでいつもの薬を渡すことができますよ、というものです。感染拡大を防止するためによい取り組みだと思いますが、いくつか注意点があるので薬局に関わるFAX処方箋調剤の流れを抜粋して紹介します。患者さんからFAXなどで処方箋情報を受け付けた薬局は、処方箋の真偽を確認するため、処方医が所属する医療機関に処方箋の内容を確認する。直接医療機関からFAXなどで処方箋情報を受け付けた場合は、上記の真偽確認は不要。医療機関から処方箋原本を入手するまでの間は、FAXなどにより送付された処方箋情報を「処方箋」と見なして調剤を行う。服薬指導は電話や情報通信機器を用いて行うことができる。調剤した薬剤は、当該薬剤の品質の保持や、確実な授与がなされる方法で患者さんへ渡す。長期処方に伴う患者さんの服薬アドヒアランスの低下や薬剤の紛失などを回避するため、調剤後も必要に応じてフォローする。(「新型コロナウイルス感染症患者の増加に際しての電話や情報通信機器を用いた診療や処方箋の取扱いについて」(2020年2月28日厚生労働省医政局医事課、医薬・生活衛生局総務課事務連絡)より改変)患者さんからのFAXの場合と、医療機関からのFAXの場合では扱いが異なることに注意が必要です。原則は医療機関から処方箋情報を送ることになりますが、もし患者さんからFAXが送られてきた場合は、その内容に疑義がなくても医療機関に確認することが求められています。患者さんが複数の薬局にFAXを送って、複数の薬局から重複して薬を受け取ることを避けるためです。薬の受け渡し方法や支払い方法は各薬局が定めることになりますが、私の周りでは宅配便で薬を配送し、支払いは再来局時などの後払いという薬局が多そうです。後で処方箋原本を受け取ることを忘れないようにしましょう。また、同日に報酬の取り扱いに関するQ&Aも発出されています。それによると、FAXなどで処方箋情報を受け付けた薬局がその処方箋情報を基に調剤を行った場合でも、調剤技術料および薬剤料は算定することができます。また、電話で服薬指導を行った場合に、その他の要件を満たしていれば、薬剤服用歴管理指導料などを算定することも可能ですので、普通の処方箋を受け付けた場合と同様の対応となりそうです。患者さんへの対応を薬歴へ記載する必要がありますので、薬局内で十分に記録を残す旨の情報共有をしましょう。2018年度の診療報酬改定でオンライン診療に関する評価が新設され、2020年度の改定でも点数構成が見直されましたが、オンライン服薬指導については国家戦略特区内で実証的に行われているのみです。今回の対応はあくまでも新型コロナウイルス対策ですが、薬機法が改正されると特区以外でもオンライン服薬指導は可能になりますので、普及きっかけになればいいなと思っています。個人的にはこのご時世にまだFAXか…というちょっと落胆した気持ちもありますが。※本コラムは2020年3月18日に掲載いたしましたが、その後2020年4月10日に新たな通知「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」が発出され、本コラムで紹介した通知は廃止されています。

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第16回 かなりヤバい?2020改定、処方箋単価はいくら下がるのか?【噂の狭研ラヂオ】

動画解説2020年度調剤報酬改定はどこが下がって、なにが上がる?いつもの処方箋の単価はズバリいくら下がるのか、簡潔にお伝えします。またプラス要素としては薬剤師のフォロー・アセスメント・フィードバックに点数がつくようになりました。いよいよ本領発揮となる薬剤師へ狭間先生からのエール!

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毎日1個の卵、アジア人は心血管疾患リスク低下の可能性/BMJ

 卵の中等度の消費(最大1日1個まで)は、心血管疾患全般のリスクを増加させず、アジア人ではむしろリスクを低下させる可能性があることが、米国・ハーバード公衆衛生大学院のJean-Philippe Drouin-Chartier氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2020年3月4日号に掲載された。卵の消費と心血管疾患リスクの関連は、この10年間、激しい議論を呼ぶ主題となっているが、これまでに得られた知見では結論が出ていないという。コホート研究とこれを含むアップデートメタ解析 研究グループは、卵の摂取と心血管疾患リスクの関連を評価する目的で前向きコホート研究を行い、この研究結果を含めたアップデートメタ解析を実施した(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。 米国の3つのコホート研究(Nurses’ Health Study[NHS、1980~2012年]、NHS II[1991~2013年]、Health Professionals’ Follow-Up Study[HPFS、1986~2012年])のデータが用いられた。ベースライン時に心血管疾患や2型糖尿病、がんに罹患していない集団(NHS[女性]8万3,349例、NHS II[女性]9万214例、HPFS[男性]4万2,055例)が解析に含まれた。 卵摂取の頻度で6つの群(月1個未満、月1~4個未満、週1~3個未満、週3~5個未満、週5~7個未満、1日1個以上)に分けた。卵は、卵黄を含む全卵とし、焼いた製品(例 ケーキ)や液状卵、卵白のみの場合は除外された。 主要アウトカムは、初発の心血管疾患(非致死的心筋梗塞、致死的冠動脈性心疾患、脳卒中)とした。 次いで、今回の研究と既報の前向きコホート研究のアップデートメタ解析が行われた。卵消費量が相対的に低い点に留意 米国の3つのコホート研究では、最長32年のフォローアップ期間(554万人年以上)に、1万4,806例が初発の心血管疾患を発症した。卵の消費量は、多くの参加者が週に1~5個未満だった。 卵の摂取量が多い参加者ほど、BMIが高く、身体活動が少なく、喫煙者が多かった。また、卵摂取量の多い参加者は、スタチン治療の割合や心筋梗塞の家族歴が少なく、2型糖尿病が多かった。さらに、高い卵摂取量は、高いカロリー摂取量と関連し、未加工の赤身肉、ベーコン、その他の加工肉、精製穀物、ジャガイモ、高脂肪分牛乳、コーヒー、砂糖入り飲料の摂取量が多かった。 多変量統合解析では、卵摂取と関連のある生活様式や食事因子で補正すると、1日1個以上の卵消費は、初発心血管疾患のリスクと関連しなかった(1日1個以上と月1個未満の比較のハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.82~1.05、p=0.16、1日1個増加のHR:0.98、0.92~1.04)。冠動脈性心疾患(p=0.22)および脳卒中(p=0.53)にも有意な関連は認められなかった。 一方、アップデートメタ解析では、この研究を含む28件の前向きコホート研究(日本のNIPPON DATA80、NIPPON DATA90などのデータを含む)が対象となった。 このアップデートメタ解析(リスク指標[risk estimate]33個、参加者172万108例、心血管疾患イベント13万9,195件)では、1日の卵摂取が1個増えても、心血管疾患リスクは増加しなかった(統合相対リスク[RR]:0.98、95%CI:0.93~1.03、I2=62.3%)。同様に、卵摂取量が最も多い集団と少ない集団の間にも、心血管疾患リスクには差がなかった(0.99、0.93~1.06、52.9%)。 冠動脈性心疾患(リスク指標21個、参加者141万1,261例、イベント5万9,713件、統合RR:0.96、95%CI:0.91~1.03、I2=38.2%)および脳卒中(22個、105万9,315例、5万3,617件、0.99、0.91~1.07、71.5%)についても、1日の卵摂取が1個増えた場合のリスクに差はなかった。いずれの疾患も、最高摂取量集団と最低摂取量集団の間にリスクの差はみられなかった。 卵摂取の1日1個増加と心血管疾患リスクの関連に関する地理的な層別解析(相互作用のp=0.07)では、米国(RR:1.01、95%CI:0.96~1.06、I2=30.8%)と欧州(1.05、0.92~1.19、64.7%)のコホートでは関連がなかったのに対し、アジア人のコホート(リスク指標10個、参加者68万5,147例、イベント9万100件、0.92、0.85~0.99、I2=44.8%)では逆相関の関係が認められた。 著者は、「この研究に含まれるコホートの平均的な卵消費量は相対的に低い。週に1~5個未満の参加者が多く、1日1個以上の参加者は相対的に少ないため、結果を解釈する際は、この消費レベルを考慮する必要がある」と指摘している。

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新規RNAi治療薬givosiran 、急性肝性ポルフィリン症のEU承認を取得/アルナイラム

 RNAi治療のリーディングカンパニーであるアルナイラム社は、2020年3月3日、RNAi(RNA interference:RNA干渉)治療薬givosiranが、成人および 12 歳以上の未成年者の急性肝性ポルフィリン症(AHP)治療における、アミノレブリン酸合成酵素1(ALAS1)を標的とする皮下注射剤として、欧州委員会(EC)より製造販売承認を取得したことを発表した。  AHPは、遺伝子変異により肝臓内の特定の酵素が欠如することで生じ、体内のポルフィリンが毒性量まで蓄積する疾患。 重症の腹痛、嘔吐および痙攣などの消耗性の発作を特徴とする希少疾患であり、発作中に麻痺や呼吸停止の可能性もあることから生命を脅かす危険もある。  ALAS1を標的とする RNAi治療薬givosiranは、ALAS1メッセンジャーRNAを特異的に低下させることで、AHPの発作やその他の症状の発現に関連する毒性を減少させる。  今回のEUにおける製造販売承認は、急性肝性ポルフィリン症(AHP)患者を対象として、givosiranの有効性と安全性を評価する、無作為化二重盲検プラセボ対照国際第III相 ENVISION試験の結果に基づくもの。当第III相試験において、givosiranはプラセボと比較して、入院、緊急訪問診療などの主要評価項目を有意に低下させることが示された。

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世界初の低侵襲処置で鼓膜の再生を促す治療剤「リティンパ耳科用250μgセット」【下平博士のDIノート】第45回

世界初の低侵襲処置で鼓膜の再生を促す治療剤「リティンパ耳科用250μgセット」今回は、鼓膜穿孔治療薬「トラフェルミン製剤(商品名:リティンパ耳科用250μgセット、製造販売元:ノーベルファーマ)」を紹介します。本剤は、自然閉鎖が見込めない鼓膜穿孔患者に対し、低侵襲な処置で鼓膜の再生を促し、聴力を回復させることが期待されています。<効能・効果>本剤は鼓膜穿孔の適応で、2019年9月20日に承認され、2019年12月9日より販売されています。<用法・用量>鼓膜用ゼラチンスポンジに100μg/mLトラフェルミン溶液全量を浸潤させて成形し、鼓膜穿孔縁の新鮮創化後、鼓膜穿孔部を隙間なくふさぐように留置します。本剤の投与4週間後を目安に鼓膜穿孔の閉鎖の有無を確認し、完全に閉鎖しなかった場合は、必要に応じて片耳あたり合計4回まで同様の投与を行うことができます。ただし、再投与にあたっては、各投与前に鼓膜、鼓室などの状態を確認した上で、穿孔の閉鎖傾向が認められないなど、本剤による鼓膜の閉鎖が見込まれない場合には、ほかの治療法への切替えを考慮する必要があります。<安全性>鼓膜穿孔6ヵ月以上経過した自然閉鎖が認められない鼓膜穿孔患者を対象とした臨床試験では、全解析対象例20症例中13例(65.0%)に、臨床検査値異常を含む有害事象が認められました(承認時)。主な有害事象は、耳漏7例(35.0%)、耳咽頭炎3例(15.0%)、喘息2例(10.0%)でした。なお、重篤な有害事象、中止に至った有害事象および死亡に至った有害事象は認められていません。<患者さんへの指導例>1.穿孔が生じた鼓膜を再生し、閉鎖するための治療法です。鼓膜細胞の増殖と鼓膜への血流量増加によって鼓膜の再生を促します。2.耳だれ、全身発赤、冷や汗、立ちくらみなどが起こる場合は受診してください。3.鼻を強くかんだり、すすったりするなど、耳に圧力がかかるようなことはしないでください。くしゃみ、咳は我慢せず自然に行い、鼻を手で押さえないでください。4.飛行機、高層エレベーターなどの気圧が大きく変化する乗り物はできるだけ避けてください。5.必要以上に耳に触れず、洗髪や入浴時は耳に水が入らないようにしてください。6.ゼラチンスポンジが外れたり、薬剤が溶け出したりすると、鼓膜の再生ができなくなることがあるので、処置後4週間はとくに注意してください。<Shimo's eyes>本剤は、世界初の鼓膜穿孔治療薬です。主成分のトラフェルミンを含有する外用薬としては、褥瘡・皮膚潰瘍(熱傷潰瘍、下腿潰瘍)治療薬(商品名:フィブラストスプレー)、歯周組織再生薬(同:リグロス)がすでに承認されています。鼓膜穿孔は、中耳炎、鼓膜チューブ挿入術、外傷などが原因で生じ、通常は自然に閉鎖します。状態によっては自然閉鎖が見込めない場合があり、その際は鼓膜形成術、鼓膜穿孔閉鎖術などが行われていますが、侵襲性が高いこと、聴力が低下する恐れがあること、複雑な形状の穿孔や大きな穿孔を閉鎖することができないなどの課題がありました。本剤を用いた治療は、従来必要とされていた外科手術を受けずとも、さまざまな穿孔の大きさや形状に幅広く対応することができます。使用方法は、鼓膜用ゼラチンスポンジに溶液を浸潤させて成形し、鼓膜穿孔縁の新鮮創化後、鼓膜穿孔部を隙間なく塞ぐように留置します。本剤の投与4週間後を目安に鼓膜穿孔の閉鎖の有無を確認し、閉鎖していない場合は片耳につき4回まで投与が可能です。鼓膜穿孔6ヵ月以上経過した自然閉鎖が認められていない鼓膜穿孔患者20例を対象とした国内第III相試験において、観察期16週目における鼓膜穿孔閉鎖の有無に基づく鼓膜閉鎖割合は75.0%、観察期16週目の聴力改善割合は100.0%でした。また、慢性鼓膜穿孔患者56例63耳を対象としたプラセボ対照比較試験において、鼓膜閉鎖割合は実薬群で98.1%、プラセボ群で10.0%であり、実薬群は、1回⽬で⿎膜閉鎖を認めた割合は77.4%、2回⽬は13.2%、3回⽬が5.7%、4回⽬が1.9%でした。元の状態に近い聴力の回復が見込めるため、鼓膜穿孔によって聞こえにくさや補聴器の効果不足を感じていた患者さんにとっては、非常に喜ばしいことでしょう。なお、海外において耳科用剤として本薬が承認されている国はありません。(2020年2月現在)参考1)PMDA リティンパ耳科用250μgセット

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オシメルチニブ、uncommon EGFR変異にも有効か/JCO

 uncommon変異はEGFR変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)患者の約10%にみられる。EGFR変異陽性のNSCLCにおけるオシメルチニブの有用性は広く知られているが、uncommon変異についてはどうか。uncommon EGFR変異を有するNSCLC患者に対するオシメルチニブの有効性と安全性を評価した韓国の多施設単群非盲検第II相試験がJournal of Clinical Oncology誌2019年2月10日号で発表された。対象:exon19 del、L858R、T790M変異以外の転移または再発NSCLC評価項目:[主要評価項目]客観的奏効率(ORR)[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、奏効期間(DoR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・2016年3月~2017年10月に、37例の患者が登録された。・患者のうち、61%が1次治療としてオシメルチニブを投与されていた。・同定された変異は、G719X 53%(n=19)、L861Q 25%(n=9)、S768I 22%(n=8)、その他 11%(n=4)であった。・ORRは50%(18例/36例)であった。・PFS中央値は8.2ヵ月、OS中央値は未達、DoR中央値は11.2ヵ月であった。  オシメルチニブは、uncommonなEGFR変異を有するNSCLC患者においても良好な活性を示した。

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メチルマロン酸血症〔Methylmalonic acidemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義メチルマロン酸血症は常染色体劣性遺伝形式をとる有機酸代謝異常症である。メチルマロニルCoAムターゼという酵素の活性が低いために、身体が特定のアミノ酸(イソロイシン、バリン、スレオニン、メチオニン)や奇数鎖脂肪酸、コレステロールを適切に処理できず、メチルマロン酸をはじめとする中間代謝産物が蓄積し、代謝性アシドーシスを伴うさまざまな症状を呈する疾患である。■ 疫学わが国における新生児マススクリーニングの試験研究(1997~2012年、被検者数195万人)では、本症は11万人に1人の発症頻度だった。これは有機酸代謝異常症の中ではプロピオン酸血症(5万人に1人)に次ぐ頻度だったが、プロピオン酸血症患者の中には少なくとても小児期にはほぼ無症状の最軽症型が多く含まれるため、臨床的に問題となる有機酸代謝異常症の中では本症が最多の疾患である。■ 病因メチルマロニルCoAを異化する際に必要なメチルマロニルCoAムターゼの活性低下が原因である。先天的にメチルマロニルCoAムターゼの活性が低値の場合と、補酵素であるコバラミン(ビタミンB12)の代謝に異常がある場合に分けられる。いずれの場合も常染色体劣性遺伝形式をとる。■ 症状1)代謝不全発作疾患のコントロールが良好であれば無症状だが、感染症罹患・経口摂取不良、タンパク質過剰摂取時に代謝不全発作を起こしうる。活気不良、哺乳・食事摂取不良、嘔気・嘔吐、筋緊張低下、呼吸障害(多呼吸・努力呼吸・無呼吸)、意識障害といった症状が数時間~数日単位で進行し、アニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシスや高アンモニア血症を伴う。2)中枢神経症状急性代謝不全により高アンモニア脳症や低酸素性虚血性脳症を来すと、重度の神経学的後遺症(精神運動発達遅滞、てんかん、筋緊張亢進など)を残しうる。大脳基底核病変により不随意運動が生じることもある。急性の代謝不全発作を起こさずとも、慢性進行性に上記の症状が出現することがある。3)嘔気・嘔吐メチルマロン酸血症の患者は、臨床的に明らかな代謝不全とは言えない場合でも嘔気・嘔吐の症状を呈することが多い。4)腎機能障害尿細管間質の慢性的な障害により腎機能が徐々に低下し、腎不全に至る例が存在する。正確な発症年齢や合併率はまだ明らかではないが、メチルマロン酸血症のサブタイプにより発症頻度が異なるとの報告がある。この腎機能障害は肝移植を受けた症例でも進行することが知られている。5)その他汎血球減少や視神経委縮、拡張型・肥大型心筋症、膵炎の合併報告がある。■ 分類1)分子遺伝学的分類Mut0:メチルマロニルCoAムターゼの残存酵素活性が測定感度以下の症例Mut-:メチルマロニルCoAムターゼの残存酵素活性が測定可能な症例cblA、cblB、cblD-variant2:コバラミンの代謝異常によるメチルマロン酸単独の増加(なお、cblC、cblE、cblF、cblGはホモシステイン増加を伴う)2)臨床的分類(1)発症前型新生児マススクリーニングにより代謝不全発作を起こす前に診断された症例。(2)急性発症型哺乳によるタンパク負荷が始まる新生児期と、食事間隔が空き、感染症罹患が増える乳幼児期に多い。前者はMut0の症例が多く、新生児マススクリーニングの結果が出る前に発症することもある。(3)遅発型成長発達遅延や食思不振、反復性嘔吐が徐々に進行する症例。小さな代謝発作を周期性嘔吐症や胃腸炎と診断されていることがある。経過中に重篤な代謝不全発作を起こすこともある。■ 予後代謝不全発作により脳症を併発した場合は重度の神経学的後遺症を残すことが少なくない。肝移植を受けた症例の多くで症状の改善が報告されているが、代謝不全発作や中枢神経症状の進行を完全に抑えられるわけではない。また、肝移植実施の有無に関わらず腎機能障害は進行し、腎移植が必要になることがある。移植の有無に関わらず、ほぼ全例でタンパク質摂取制限またはビタミン剤などの内服が生涯必要となる。代謝不全を可能な限り回避することが重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 新生児マススクリーニング新生児マススクリーニングでC3またはC3/C2高値(C5-OH増加なし)を指摘された場合は、メチルマロン酸血症あるいはプロピオン酸血症を疑って精密検査を開始する。新生児マススクリーニングで指摘された時点で代謝不全になりかけている症例も存在するため、診断を詰めることよりも、まずは急性期治療が必要な状態かどうかを判断することが重要である。メチルマロン酸血症とプロピオン酸血症は、診察と一般検査のみで鑑別することは困難であり、急性期治療がほぼ同じであるため、初期治療の際に診断がついていなくても構わない。■ 外来で代謝疾患を疑う場合メチルマロン酸血症は、新生児マススクリーニングの結果が出る前に症状を呈する症例や、新生児マススクリーニングでは発見できない例が存在するため、新生児マススクリーニングで異常が無かったとしても本疾患を否定することはできない。感染症や絶食後の急激な全身状態の増悪、not doing well、努力呼吸、意識障害、けいれん、筋緊張低下といった病歴の患者を診察する際には、有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝異常症、尿路サイクル異常症、ミトコンドリア異常症を念頭に置く必要がある。メチルマロン酸血症はその重要な鑑別診断である。1)問診と診察新生児期には哺乳量と体重増加量、嘔気・嘔吐、活気不良、傾眠傾向、努力呼吸(呻吟やクスマウル呼吸、多呼吸など)といった症状が、生後数日の時点から増悪傾向にないかを特に注意する。メチルマロン酸血症などの有機酸代謝異常症は、胎児期には母親が代謝を担ってくれるため無症状で、出生後哺乳によるタンパク負荷が始まってから症状が出現する。そのため、生直後は元気だったが徐々に活気不良となった、という病歴の方が有機酸代謝異常症らしい。乳幼児期以降では、離乳食が進み食事間隔が空いたときや感染症(特に胃腸炎)に罹患したときに急性代謝発作を起こしやすい。また、代謝不全による慢性の食思不振や反復する嘔気・嘔吐を、周期性嘔吐症やケトン性低血糖症と診断されていることがある。いずれの場合もアニオンギャップ陽性の代謝性アシドーシスを起こし、糖入りの点滴で症状が軽快するため原疾患に気付きにくい。検査ではアンモニアの測定や尿中有機酸分析が鑑別に有用である。2)検査メチルマロン酸血症の鑑別に必要な検査尿中有機酸分析(最低0.5mL、-20℃冷凍)、血漿アミノ酸分析39種類(血漿0.5mL、-20℃冷凍)、血漿総ホモシステイン(0.3mL冷蔵)、ビタミンB12(血清0.6mL冷蔵)、アシルカルニチン分析(ろ紙血最低1スポット、常温乾燥、乾燥後-20℃冷凍保存可)状態の評価に必要な検査血液ガス分析、アンモニア、一般生化学検査、血糖(血液ガス分析で代用可能)、血液像、尿定性(pH、ケトン体)※乳酸・ピルビン酸、遊離脂肪酸、血中ケトン体分画、頭部MRIも全身状態の評価や他の代謝異常疾患を鑑別する際に有用な検査である。3)鑑別(図)メチルマロン酸血症と確定した後は、ビタミンB12を内服させて反応性を評価する。病型診断にはメチルマロニルCoAムターゼ活性測定と遺伝子検査が有用である。図 メチルマロン酸血症の鑑別診断フローチャート画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 慢性期の管理母乳や調整粉乳に特殊ミルク(商品名:雪印S-22、S-23)を一定の割合で混合し、自然タンパクを制限しつつ必要なカロリーを確保する。薬物療法としてはメチルマロニルCoAムターゼの補酵素であるビタミンB12や、有機酸の排泄促進目的でL-カルニチンを使用する。乳酸高値の場合はビタミンCを併用することもある。メトロニダゾールやラクツロースによる腸内細菌のプロピオン酸産生抑制も有効である。経口摂取が困難な場合は経管栄養を併用する。これらの治療を行っても代謝発作を起こすリスクが高い場合は肝移植を検討する。学童期以降に問題となりやすい腎機能低下に対して腎移植が必要になることもある。■ 代謝不全発作時基本的には他の有機酸代謝異常症の代謝不全と同じ対応でよい。急性期にはタンパク質摂取を中止し、異化抑制のためブドウ糖液で十分なエネルギーを確保する。ビタミンB12とL-カルニチンの投与も行う。高アンモニア血症に対して、急性期であればカルグルミン酸も有効である。循環・呼吸不全を安定化させても代謝性アシドーシスによるアシデミア(pH5 主たる診療科小児科、神経内科、移植外科、肝臓内科、腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター メチルマロン酸血症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾患情報センター メチルマロン酸血症(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2020年03月16日

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肝型・筋型糖原病

1 疾患概要■ 概念・定義グリコーゲン代謝経路の解糖系酵素の欠損による(表1、図)。「糖原病」は歴史的にはグリコーゲンが臓器に蓄積し腫大することから命名されたが、グリコーゲンの臓器蓄積は病型によって程度がさまざまであり、「糖原病」と呼ぶよりも「グリコーゲン代謝異常症」と呼ぶのが妥当であるが、本稿では従来使われている診断名を踏襲する。表1 糖原病の分類と一般的な特徴の一覧画像を拡大する図 解糖系代謝マップ画像を拡大する■ 疫学わが国における本症の発生頻度は不明であるが、肝型糖原病は約1:2万人と考えられている。最も多い病型はIX型で、その他ではI、II、III、V、VI型が多く、この6病型で全糖原病の約90%を占める。■ 病因・病態(表2)現在までに16種類の病型が知られている。解糖の目的は(1)ATPを産生、(2)グルコースを産生することであり解糖経路の障害により前者の障害は主に筋型で「エネルギー供給障害型」、後者の障害は主に肝型で「グルコース供給障害型」とに分けられる。表2 基本的な糖原病の病態生理画像を拡大する■ 症状・検査所見・治療酵素発現の臓器特異性により、一般的には症状の出方から肝型、筋型、肝筋型と大別する(表1)。本稿では糖原病の約90%を占める6病型を中心に概略を述べる。1)糖原病I型(フォン・ギールケ病)Ia型(グルコース-6-ホスファターゼ欠損)、Ib型(グルコース-6-P-トランスロカーゼ欠損)がある。Ia型が80~90%、Ib型が10~20%を占める。Ia型とIb型の症状は類似するが、Ib型では好中球減少、易感染性、炎症性腸疾患などを伴う。著明な肝腫大が認められるが脾腫は認めない。頬部がふっくらし、人形様顔貌を示す。成長障害がみられ、低身長となる。2次性の病態として血小板機能の障害による鼻出血、頬部のクモ様毛細血管拡張、高脂血症による黄色腫、高尿酸血症による痛風、尿酸結石もみられる。成人では肝腺腫およびその悪性化、 腎不全などの合併症が問題となる。糖新生、解糖の両経路からのグルコース産生が障害されるため、低血糖の程度は糖原病の中では強い。低血糖に伴い高乳酸血症、代謝性アシドーシスなども増悪する。低血糖の予防が重要で、血糖のコントロールを良好にすることで2次的な代謝異常、成長障害の改善が期待できる。頻回食が基本であるが糖原病治療乳(昼間用および夜間用)が開発されているので乳幼児期には有用である。未調理コーンスターチ療法と組み合わせることで一定の血糖維持が期待できる。Ib型の好中球減少に対してはG-CSFを用いる。高尿酸血症に対してはアロプリノールを用いる。成人になり多発性の肝腺種、悪性化を伴っているもの、内科的に代謝異常のコントロールが困難なものに対しては、肝移植が適応とされているが長期予後は不明である。2)糖原病II型(ポンペ病)発症時期により乳児型、遅発型に分けられる。乳児型は生後早期に筋緊張低下、巨舌、心拡大、肝種大がみられる。1歳前後で心不全、呼吸不全で死亡する。心電図ではPR短縮、QRSの増高、心肥大がみられる。胸部X線では著明な心拡大、心エコーでは両心室壁と心室中隔が肥厚し、左室流出路の閉塞を来す場合もある。遅発型では幼児期から成人期に主に筋力低下で発症する。心筋、肝臓の罹患は認めないか、あっても軽度である。肢帯型筋ジストロフィーと症状が類似することがあり、肢帯型筋ジストロフィーの診断症例の中に一定程度混在していると推測されている。遅発型では四肢筋力低下に比較して不釣合いに呼吸障害を強く認める例もある。治療では酵素補充療法の導入により乳児型の生命予後は劇的に改善した。本症のスクリーニングは乾燥ろ紙血を用いた簡便な検査が提供されている。3)糖原病III型(フォーブ-スコーリー病)脱分枝酵素の欠損により、分枝が多く残存したlimit dextrineが蓄積する。肝筋型のIIIa型(約85%)と肝型のIIIb型(約15%)がある。乳幼児期に肝種大、低血糖で気付かれる。I型に比較すると低血糖は軽症で、思春期以降改善する。一部肝障害が遷延し、肝硬変や肝線腫その悪性化なども報告されている。IIIa型では筋力低下、心筋障害進行する症例もあり、定期的な心機能のチェックが必要である。近年IIIa型では修正Atkins法による低炭水化物、高蛋白、高脂肪食が試され心筋障害の改善が認められている。4)糖原病V型(マッカードル病)典型例では運動時の筋痛、筋硬直、横紋筋融解症などである。まれに発症時期が乳児の例や、無症状例があり中高年では筋力低下例もある。阻血下(または非阻血下)前腕運動負荷試験では乳酸の上昇が認められない (表3)。横紋筋融解症を来さないように日常の生活指導が大切である。なお、日本人の本症の一部ではビタミンB6が有効である。表3 前腕阻血(非阻血)運動負荷試験の評価画像を拡大する5)糖原病VI型(ハーズ病)乳幼児期に低血糖、肝種大、成長障害で気付かれる。症状は年齢と共に次第に軽快していく。6)糖原病IX型ホスホリラーゼキナーゼ(PhK)は4種類のサブユニット(α、β、γ、δ)からなり(表4)、肝型(IXa、IXc)、筋型(IXd)、肝筋型(IXb)がある。最も頻度の多いIXaの予後は良好で成長と共に肝種大、低血糖などの症状は軽快する。IXcは低血糖症状も強く、後に肝硬変に進行したり、肝腺腫の報告もある。表4 糖原病IX型の亜型とその詳細画像を拡大する■ 分類1)欠損酵素による病型分類(ローマ字表記)16病型があり、基本的には報告年代順にローマ数字で命名されてきた(表1)。2)症状から見た分類肝腫大、低血糖を呈する肝型、筋力低下、運動不耐、筋硬直、横紋筋融解症などの筋症状を示す筋型、両方の症状を持つ肝筋型がある(表1の症状参照)。■ 予後I型は成人期になると、肝腫瘍、腎不全、高尿酸血症など、多臓器の障害がみられてくる。II型では特に乳児型で心不全、呼吸障害のため死に至る。遅発型では四肢筋に比較して不釣り合いな呼吸障害が認められるのが特徴である。IIIa型では肥大型心筋症により、心不全が進行する例がある。V型の典型例では筋負荷による横紋筋融解症を予防することが有用である。VI型、IX型は一般に予後は良好であるが、一部肝線維化などがみられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 肝型糖原病の診断1)Fernandesの負荷テスト(表5)肝型糖原病の病型鑑別の負荷テストである。負荷物はブドウ糖、ガラクトース、グルカゴン(空腹時、および食後2時間)で行われるが、酵素診断、遺伝子診断と併用することですべての負荷が必須ではない。特にガラクトース、グルカゴン負荷はI型では異常な高乳酸血症を引き起こし、酸血症になる例も報告されているため「新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019」では推奨されていない。表5 肝型糖原病・病型診断:Fernandesの負荷テスト画像を拡大する2)画像検査超音波検査で輝度上昇のため、脂肪肝と診断されることが多い。肝臓CTでは信号強度の上昇がみられることから脂肪肝とは区別ができる。3)好発遺伝子変異の検索日本人Ia型患者では、好発変異c.648G>Tが90%以上の患者にみられる。また、Ib型ではp.Trp118Argが約半数にみられる。4)肝生検肝型では肝組織に正常あるいは異常グリコーゲンが蓄積するため著明なPAS染色性と、肝細胞のバルーニングが認められる。また、ジアスターゼによりPAS陽性物質が消化されない場合は糖原病IV型が疑われる。5)酵素診断表1にある検体で酵素診断は可能である。■ 筋型糖原病の診断1)阻血下(または非阻血下)前腕運動負荷試験(表3)運動負荷後に血中乳酸の上昇を認めない(ただし0型、II型、IV型、IXd型を除く)。負荷試験後の筋硬直・筋痛などの苦痛を考慮して最近では非阻血下での運動負荷試験も行われている。2)血清creatine kinase (CK)筋型糖原病では程度の差はあるがCKは上昇していることが多い。一時的なCKの上昇かどうかを判断するために、2週間後以降に再検する。3)好発遺伝子変異を持つ筋型糖原病原病V型(マッカードル病)では日本人患者の約50%にp.Phe710delが認められる。4)筋生検筋型糖原病では筋組織に程度の差はあるがグリコーゲンの増加が認められる。なかでもIIIa型の肝筋型(コーリー病)では筋組織に空胞が多発している(Vacuolar Myopathy)。5)酵素診断生検筋組織を用いた酵素診断が確定診断となる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)症状で先述したが基本的には、肝型糖原病では低血糖の予防、筋型糖原病では横紋筋融解症の予防が重要である。4 今後の展望糖原病は古典的な代謝異常症であるが、近年多彩な臨床症状や新たな知見も報告され、併せて病態解明の進歩とともに病態に即した治療法の開発が進んでいる。5 主たる診療科糖原病は先天性の疾患であり、特に肝型は小児期に発見されることが多く、小児科が主たる診療科となる。筋型はその症状から学童期~成人期に診断されることから小児科、神経内科が主たる診療科となる。いずれにせよ適切な時期でのトランジションも課題となる。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 筋型糖原病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 肝型糖原病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)杉江秀夫(総編集). 代謝性ミオパチー.診断と治療社. 2014.p.31-83.2)日本先天代謝異常学会(編集). 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019. 診断と治療社.2019.p.181-199.3)矢崎義雄(総編集). 内科学 11版.朝倉書店.2017.公開履歴初回2020年03月16日

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オピオイド中止によって増大するリスクとは?/BMJ

 オピオイド治療を受けている退役軍人保健局の患者では、処方の中止により過剰摂取または自殺による死亡リスクが増大し、治療期間が長い患者ほど死亡リスクが高いことが、米国退役軍人局精神保健自殺予防部のElizabeth M. Oliva氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2020年3月4日号に掲載された。米国では、オピオイドの過剰摂取やオピオイド使用障害による死亡の増加に伴い、オピオイド処方関連リスクの軽減戦略が求められており、リスクがベネフィットを上回った時点での治療中止が推奨されている。その一方で、長期の治療を受けている患者では、治療中止後の有害事象(過剰摂取による死亡、自殺念慮、自傷行為、薬物関連イベントによる入院や救急診療部受診)の増加が報告されている。約140万例の観察研究 研究グループは、オピオイド治療の中止またはオピオイド治療の期間と、過剰摂取または自殺による死亡の関連を評価する目的で、観察研究を行った(米国退役軍人局精神保健自殺予防部の助成による)。 対象は、2013~14年の会計年度(2012年10月1日~2014年9月30日)に、米国の退役軍人保健局の施設を受診し、オピオイド鎮痛薬の外来処方を受けた退役軍人の患者139万4,102例であった。過剰摂取の薬物には、オピオイドのほか、鎮静薬、アセトアミノフェン、その他の薬物中毒が含まれた。オピオイド治療を中止した患者と、継続した患者を比較した。 多変量Cox非比例ハザード回帰モデルを用いて、過剰摂取または自殺による死亡(主要アウトカム)を評価し、主な共変量としての治療期間別(30日以下、31~90日、91~400日、400日以上)のオピオイド中止の交互作用を検討した。開始後と中止後最低3ヵ月間は、リスク低減の取り組み強化 全体の平均年齢は約60歳、女性が約8%で、ほぼ半数が既婚者、61%が都市部居住者であった。また、半数強が3つ以上の医療診断を受けており、アルコール使用障害の診断は約10%、ニコチン使用障害の診断は約22%の患者が受けていた。最も頻度の高い精神疾患は、うつ状態と心的外傷後ストレス障害だった。 79万9,668例(57.4%)がオピオイド治療を中止し、59万4,434例(42.6%)は治療を継続した。2,887例が、過剰摂取(1,851例)または自殺(1,249例)により死亡した。オピオイド治療の期間が30日以下の患者は32.0%、31~90日は8.7%、91~400日は22.7%、400日以上は36.6%であった。 オピオイド治療中止と治療期間には交互作用が認められ(p<0.001)、治療期間が長い患者ほど治療中止後の過剰摂取または自殺による死亡リスクが高いことが示唆された。治療を中止した患者における過剰摂取または自殺による死亡リスクのハザード比(他のすべての共変量を参照値として比較)は、治療期間30日以下が1.67、31~90日が2.80、91~400日が3.95、400日以上は6.77であった。 過剰摂取または自殺による死亡リスク増加の他の独立の関連因子として、長時間作用型/短時間作用型オピオイドの処方(トラマドールとの比較)、医療診断数、精神疾患の診断、薬物使用障害(ニコチンを除く)などが挙げられた。一方、高齢、女性、既婚は低リスクの独立の関連因子だった。 また、生命表の記述的データでは、過剰摂取または自殺による死亡はオピオイドの開始と中止の双方の直後に増加し、発生率が低下するまで約3~12ヵ月を要すると示唆された。 著者は、「オピオイド治療の開始後および中止後は、それぞれ少なくとも3ヵ月間は、リスク軽減の取り組み(患者モニタリング、自殺および過剰摂取の防止)を強化する必要がある」と指摘している。

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2020年度 診療報酬改定について ~ポイント解説~

今回の診療報酬改定の要点を集合学習ができない今、DVDで学ぶ!2020年度の診療報酬改定のポイントを解説します。診療所から急性期を担う大病院まで網羅。診療点数表の区分ごとに分けて説明し、気になるところだけを視聴することができます。また、プロジェクターにつなぎグループで同時視聴も可能。新型コロナウイルスの感染防止対策として、働き方改革に沿った改定説明会の新しいスタイルを提供します。具体的な内容としては、「入院料/救急医療/外来・在宅医療/投薬・注射/検査・画像診断/手術・処置/リハビリ・その他/DPC・PDPS」が解説されています。そのほか、DVD購入者特典として『新旧対象表(エクセル版)』『改定新設項目抽出ツール』などもついています。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。2020年度 診療報酬改定について~ポイント解説~定価8,000円(税込)判型DVD発行2020年2月制作・編集株式会社ソラスト

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魚油サプリ、全死因死亡と心血管疾患死リスクを低下/BMJ

 魚油サプリメントの摂取は、全死因死亡および心血管疾患(CVD)死亡のリスク低下と関連し、一般集団においてCVDイベントに対して最低限の有益性をもたらす可能性があることが示された。中国・南方医科大学のZhi-Hao Li氏らが、大規模前向きコホート研究の結果を報告した。魚油サプリメントは、英国やその他の先進国でよく用いられており、最近の無作為化比較試験13件を対象としたメタ解析で、オメガ3脂肪酸サプリメントと比較して、わずかではあるが有意なCVDの予防効果が示唆された。ただし無作為化試験での魚油サプリメント摂取は、理想的な管理下で評価されたものであり、結果を大規模かつ多様な集団に一般化することは難しいことから、研究グループは、リアルライフ設定での大規模コホート研究で評価を行った。BMJ誌2020年3月4日号掲載の報告。42万人超の大規模前向きコホート研究 研究グループは2006~10年にUK Biobankに登録された参加者のうち、ベースラインでCVDあるいはがんを有していない40~69歳の男女42万7,678例について、2018年末まで追跡調査した。全参加者は、魚油を含むサプリメントの常用に関する質問票に回答した。 主要評価項目は全死因死亡、CVD死亡、CVDイベントとし、Cox比例ハザードモデルを用いて解析した。高血圧者で関連性はより強い ベースラインで42万7,678例中13万3,438例(31.2%)が魚油サプリメントを常用していた。 非常用者に対する常用者の多変量補正ハザード比(HR)は、全死因死亡が0.87(95%信頼区間[CI]:0.83~0.90)、CVD死亡が0.84(95%CI:0.78~0.91)、CVDイベントが0.93(95%CI:0.90~0.96)であった。CVDイベントに関しては、高血圧症を有する参加者においてこの関連性はより強い傾向があった(交互作用p=0.005)。 著者は、研究の限界として魚油サプリメントに関する詳細情報(用量、剤形、使用期間)の記録がなかったこと、残余交絡因子あるいは逆の因果関係が存在する可能性などを挙げたうえで、「今後、さらなる研究で魚油サプリメントの用量が臨床的に意味のある効果にどのように影響を及ぼすかを調べる必要がある」とまとめている。

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大手製薬企業、他業種と比べ収益性は高いのか/JAMA

 2000~18年の大手製薬会社35社の収益性は、代表的な他業種の米国上場企業357社と比べて有意に高いが、その差について、会社の規模、会計年度、研究開発費を考慮すると、必ずしもそうとは断言できないというエビデンスが示された。米国・ベントレー大学のFred D. Ledley氏らによる検討の結果で、著者は「大手製薬会社の収益性に関するデータは、医療をより利用しやすくする根拠に基づく施策を作成するために重要とはいえるだろう」とまとめている。JAMA誌2020年3月3日号掲載の報告。売上総利益、EBITDA、純利益を比較 研究グループは、大手製薬会社35社と、S&P 500種指数の該当企業357社について、2000~18年の年次会計報告書の横断研究を行った。利益率を比較し、大手製薬会社がその他業種の大企業と比べ、収益性が高いとするエビデンスを究明した。 主要アウトカムは、売上高と、年間収益の3つの指標である売上総利益(売上高-売上原価)、EBITDA(主事業からの税引き前利益:支払利息、税金、減価償却費、償却費を含まない収益)、純利益(すべての収益と支出の差)。2000~18年までの累積や、年間の利益率(マージン)を算出して比較した。純利益マージン、大手製薬13.8%で他業種大手7.7% 2000~18年にかけて、大手製薬会社35社の合計累積売上高は11.5兆ドル、売上総利益は8.6兆ドル、EBITDAは3.7兆ドル、純利益は1.9兆ドルだった。 一方、S&P 500・357社の合計は、それぞれ130.5兆ドル、42.1兆ドル、22.8兆ドル、9.4兆ドルだった。 二変量回帰モデルによる解析の結果、大手製薬会社はS&P 500・357社に比べ、年間利益率の中央値は有意に高かった。総利益マージンは76.5% vs.37.4%(群間差:39.1%、95%信頼区間[CI]:32.5~45.7、p<0.001)、EBITDAマージンは29.4% vs.19%(10.4%、7.1~13.7、p<0.001)、純利益マージンは13.8% vs.7.7%(6.1%、2.5~9.7、p<0.001)だった。 ただし、会社の規模、会計年度を補正し、また研究開発費を報告している企業に絞った回帰モデルでの解析では、それらの差は縮小することが示された。総利益マージンの群間差は30.5%(95%CI:20.9~40.1、p<0.001)、EBITDAマージンの群間差は9.2%(5.2~13.2、p<0.001)、純利益マージンの群間差は3.6%(0.011~7.2、p=0.05)だった。

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新型コロナをきっかけに!今すぐやるべき「お金の対策」【医師のためのお金の話】第30回

こんにちは。自由気ままな整形外科医です。2020年3月11日は、東日本大震災発生から丸9年にあたる日です。さまざまな追悼・復興祈念行事も10年目となる来年を機に縮小が予定されるものも多いと聞き、被災者の方の胸中は複雑ではと感じます。さて、東日本大震災のような大規模災害を予測することは困難であり、ある日突然起こります。新型コロナウイルス肺炎で皆さんも今体験されているように、危機は突然やってきます。各種の防災マニュアルを見ると「外部の救援が到着するまでの3日間を生き延びること」がメインテーマとなることが多いようです。確かに、自分や家族の命を守るためには「3日が大事」というのは理解できますが、実際に助かったら4日目以降の生活も考えなければなりません。「まずは命を守る」の後には現実の生活が待っており、大規模災害では発生直後の対策に加えてそれ以降の生活防衛も重要です。新型肺炎では都市封鎖も! 命の次に大切なのは「お金」と「情報」中国発の新型コロナウイルス肺炎では、武漢という東京に匹敵する人口を抱えた大都市が封鎖されました。これなど、まさに想定外の事態です。都市活動が停止すると、どんなことが起こるでしょうか? 武漢では外出すらままならない状態が続き、社印やインターネットバンキングのワンタイムパスワード端末をオフィスに取りに行くことができずに資金繰りに窮する中小企業が多く出たそうです。資金がショートすると倒産してしまう企業経営ほどではないにせよ、個人もお金がなければ生活が困難になります。「都市封鎖なんて中国でしか起こらないでしょ?」と思われるかもしれませんが、実際にイタリアでも地区封鎖が行われました。状況次第では日本でも実行される可能性はゼロではありません。こうしたことを念頭に置いて、命の次に大事な「お金」と「情報」の管理を考えておく必要があります。私が実践する、お金と情報を防衛する「3つの対策」以下、私がとっている3つの対策を紹介しましょう。対策1)複数の決済手段を用意する大規模災害において最も脆弱なのは、電気・ガス・水道、それに鉄道やデータサービスといった社会インフラです。「物理的に存在するもの」は災害に弱い、と言わざるを得ません。では、災害に対して比較的強いものは何でしょうか? いろいろな考え方がありますが、私は「バーチャルなもの」ほど災害に対する耐性が強くなると考えています。銀行口座1つとっても、実店舗の通帳だけよりもインターネットバンキングやデビットカードなどの選択肢もあるほうが有利です。もちろん、災害発生直後は電源が喪失してブラックアウトする可能性も高いので、手元にある程度の現金を準備しておく必要はあるでしょうが、国家機能が維持されている限り、災害発生から数日すれば復旧する可能性が高いでしょう。災害時に多額の現金を持ち歩くことは安全面からも望ましくありません。このように決済手段は1つではなく、複数所有していることが望ましいのです。さらに言えば「PayPal」など国境をまたいだ決済手段も持っておくと、大規模災害やテロ事件に際しても比較的安心できるはずです。対策2)地震保険に加入する1995年に発生した阪神・淡路大震災の時には、地震保険に加入している世帯がわずか9%だったことが問題になりました。2018年時点の世帯加入率は32.2%まで上昇しましたが、まだ過半数に届きません。世帯加入率には賃貸世帯も分母に含まれますが、そのことを差し引いても低いと感じます。私は住居系物件を購入したら地震保険の加入は必須だと考えています。事業系物件であれば地震保険が割高で事実上加入できないこともあるのですが、住居系物件の地震保険は、政府の政策の一環として損益度外視の保険料体系となっています。大規模災害で家財のみならず所有物件まで失ってしまったら再起は相当難しいでしょう。住宅ローンがない方も火災保険と地震保険には加入しましょう。対策3)クラウドで情報を管理するお金の管理以外では、業務を継続できるかどうかも重要なポイントです。とくに私のように個人で仕事をしている方や開業医の先生にとっては死活問題でしょう。紙ベースの情報管理では、大規模災害が発生するとひとたまりもありません。江戸時代の商家では火事になると売り上げや顧客の情報が書かれた「大福帳」を井戸に投げ込んでから逃げた、といわれています。業務を継続するうえで情報ほど価値のあるものはなく、大規模災害に際して死守するべきものの筆頭に挙げられます。私自身は、文献や手術のコツを記載した長年の「備忘録」をはじめ、仕事関係の資料はほぼ100%クラウドに電子データとして保管しています。開業医の方は、ぜひ「クラウド型電子カルテ」を利用しましょう。紙カルテが災害に弱いことはもちろんですが、電子カルテであっても、サーバーにデータを保管する形式だと火災や津波でサーバーを失ったら終わりです。この点クラウド型であれば、大事な診療情報を安全に保管できます。最近では従量課金制のリーズナブルなサービスも提供されています。これで端末やサーバーが破損しても致命的なダメージは避けられます。物理的なバックアップを取っておいても大規模災害の前にはほぼ無力。普段から情報の電子化を進め、災害に強い体制を整えましょう。

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第15回 非薬剤師への業務引き渡し成功のカギは?【噂の狭研ラヂオ】

動画解説早くから登録販売者など非薬剤師との協働を始めていたまえはら薬局。調剤業務に関しても0402通知以前からタスクシフトを進めていた。薬剤師は当初、業務の一部を非薬剤師に引き渡すことに抵抗を感じていたが、今では薬剤師が対人業務に避ける時間を作り出せているという。成功のポイントは「機械化」だと前原理佳社長は語る。

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