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1日2回以上の歯磨きで児童のレジリエンス向上か―貧困下で特に顕著

 歯磨きの頻度が高い子どもはレジリエンスが高く、特に貧困に該当する子どもでこの関係が強固であるとする研究結果が報告された。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科公衆衛生学分野※の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Oral Health」に8月10日掲載された。 貧困は健康リスク因子の一つとして位置付けられていて、成長過程にある子どもでは、その影響が成人後にも及ぶ可能性も指摘されている。また幼少期の貧困は、レジリエンスの低下につながることが報告されている。レジリエンスとは、ストレスやトラブルに対応して逆境から立ち直る精神的な回復力であり、レジリエンスの高さは、うつ病や不安症などのメンタルヘルス疾患のリスクの低さと関連がある。 幼少期の貧困そのものは修正困難であるため、レジリエンスの発達にはコストのかからない修正可能な因子を見いだす必要がある。一方、これまでの研究から、歯磨きの頻度が幼少期の自己管理能力と関連することや、歯磨き頻度が低い小学生に不登校が多いことなどが報告されている。これらを背景として藤原氏らは、子どもの歯磨きの頻度とレジリエンスとの関連を検討し、その関連が貧困の有無によって異なるのかを検討した。 この研究は、東京都足立区内の全ての公立小学校の生徒を対象に行われた、「足立区子どもの健康生活実態調査」のデータを利用する縦断的研究として実施された。2015年に小学1年生5,355人の貧困、レジリエンス、および歯磨きの頻度などが調査され、4,291人の保護者が回答(回答率80.1%)。2018年に子どもたちが小学4年生になった段階で追跡調査を行い、3,519人(追跡率82.0%)が回答し、データ欠落のない3,458人(平均年齢9.59±0.49歳、男児50.6%)を解析対象とした。 貧困は、1年生時点で(1)世帯収入300万円未満、(2)物理的剥奪(経済的理由のため、本やスポーツ用品、必要度の高い家電製品を購入できないなど)が一つ以上、(3)支払い困難(給食費、住宅ローン、電気代、電話代、健康保険料などを払えない)が一つ以上――のいずれかに該当する場合と定義した。レジリエンスは、「子どものレジリエンス評価スケール(CRCS)」という指標で評価した。CRCSは「最善を尽くそうとする」、「からかいや意地悪な発言にうまく対処する」、「必要な時に適切な助けを求める」などの8項目の質問から成り、合計100点満点に換算するもので、スコアが高いほどレジリエンスが高いと評価される。 1年生時点での貧困児童の割合は23.0%だった。歯磨きの頻度については、1日2回以上が77.5%であり、貧困に該当する場合はその割合が有意に低かった(79.4対71.4%、P<0.001)。レジリエンスを表すCRCSのスコアは、1年生時点で46.87±12.11点、4年生時点では69.27±16.3点だった。4年生時点のCRCSスコアを、1年生時点の貧困の有無と歯磨きの頻度別に見ると、貧困なしの場合、歯磨き頻度が1日2回未満では67.6点、1日2回以上では70.8点、貧困ありでは同順に62.0点、68.0点だった。 レジリエンスに影響を及ぼし得る因子(性別、同居中の親・祖父母の人数、母親の年齢・教育歴・就労状況・メンタルヘルス状態〔K6スコア〕)を調整後、1年生時点で貧困に該当していた子どもはそうでない子どもに比べて、4年生時点のCRCSスコアが有意に低かった(-1.53点〔95%信頼区間-2.91~-0.15〕)。また、1年生時点の歯磨き頻度が1日2回以上の子どもは2回未満の子どもに比べて、4年生時点のCRCSスコアが有意に高かった(3.50点〔同2.23~4.77〕)。 次に、前記の調整因子のほかに1年生時点のCRCSスコアも調整したうえで、1年生時点の歯磨き頻度と4年生時点のCRCSスコアとの関係を、貧困の有無別に検討した。すると、貧困なしの場合、歯磨き頻度が1日2回未満と以上とで、CRCSスコアに有意差がなかったが(0.65点〔-0.57~1.88〕)、貧困に該当する場合は、1年生時点の歯磨き頻度が1日2回以上の群のCRCSスコアの方が有意に高かった(2.66点〔0.53~4.76〕)。 これらの結果に基づき著者らは、「日本の小学生を対象とした縦断的研究により、1日2回以上の歯磨きが子どものレジリエンスの発達に及ぼし得る影響は、貧困に該当する子どもでより顕著であることが明らかになった。歯磨きという実践しやすい行動に焦点を当てた保健政策が、貧困児童の精神的健康にとって役立つのではないか」と述べている。 なお、歯磨きが貧困児童のレジリエンスにプラスの影響を与えることの理由として、以下のような考察が加えられている。まず、貧困という環境では種々の要因から炎症が発生しやすく、慢性炎症がレジリエンスを低下させると報告されているが、歯磨きによって炎症が抑制されることでレジリエンスへの負の影響も抑えられるのではないかという。また、歯磨きという“少し面倒な”ライフスタイルを保つことが、子どもの自己管理能力とレジリエンスを醸成する可能性があるとのことだ。(HealthDay News 2024年9月24日)※東京医科歯科大学は東京工業大学と統合し2024年10月1日より、国立大学法人「東京科学大学」に改称予定。

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日本におけるうつ病に対するベンゾジアゼピン長期使用の分析

 うつ病および不眠症を合併している患者では、持続的な不眠症のマネジメントのために抗うつ薬と併用してベンゾジアゼピン薬(BZD)やZ薬などの睡眠薬がよく使用される。しかし、うつ病患者に対する睡眠薬の長期使用に関連する要因は、あまりよくわかっていない。久留米大学の土生川 光成氏らは、不眠症を合併したうつ病患者に対する睡眠薬併用の長期的な状況を分析した。Journal of Psychiatric Research誌2024年10月号の報告。 抗うつ薬と睡眠薬(BZD /Z薬)を開始したうつ病患者351例のデータをレトロスペクティブに分析し、12ヵ月時点での睡眠薬の長期使用率と関連する要因を調査した。長期使用についてロジスティック回帰分析を用いて、不眠症重症度を縦断的に評価した32例の患者において、睡眠薬継続群と中止群の間で不眠症重症度を比較した。 主な結果は以下のとおり。・12ヵ月間睡眠薬を使用した患者の割合は、66.1%であった。・多重ロジスティック回帰分析では、睡眠薬の長期使用と関連していた因子は、併用治療開始時の睡眠薬のジアゼパム換算量5mg超、うつ病診断前の慢性不眠症、入院であった(各々、p<0.01)。・不眠症重症度の不十分な改善と睡眠薬長期使用との関連も示唆された。・これらの結果の信頼性は、睡眠薬への依存、睡眠薬使用に対する患者の態度、鎮静性抗うつ薬や抗精神病薬など他剤で治療されている患者の除外など、さまざまな因子により弱められた。 著者らは「本結果は、不眠症を合併したうつ病患者の治療戦略に役立つ可能性がある。睡眠薬の長期使用を避けるには、併用治療開始時の投与量(5mg以下)を適切に維持する必要があり、難治性不眠症にはBZD/Z薬の代替治療を行う必要がある」と結論付けている。

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10月10日 世界精神保健デー【今日は何の日?】

【10月10日 世界精神保健デー】〔由来〕世界精神保健連盟が、メンタルヘルス問題に関する世間の意識を高め、偏見をなくし、正しい知識を普及することを目的として1992年に制定。世界保健機関(WHO)も協賛し、国際記念日とされて、「シルバーリボン運動」として全世界でイベントが開催されている。関連コンテンツ不安や恐怖心が強いときの症状チェック【患者説明用スライド】炭水化物カロリー比が高いとうつ病リスク上昇うつ病や双極症、季節性と日光曝露は初回使用の診断や薬剤使用量に影響するのか成人のうつ病や不安症と関連する幼少期の要因とは境界性パーソナリティ障害、思春期?成人期の経過

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誤嚥性肺炎に関連する抗コリン薬~日本医薬品副作用データ

 日本の超高齢化社会は、とくに高齢者の誤嚥性肺炎のマネジメントに関して、大きな課題を呈している。大阪・藤立病院の上田 章人氏らは、主に日本医薬品副作用(JADER)データベースを用いて、抗コリン薬使用と誤嚥性肺炎の発生率との関連を調査した。Respiratory Investigation誌2024年11月号の報告。 2004年第1四半期〜2023年第3四半期のJADERデータベースより抽出した、60歳以上の誤嚥性肺炎2,367例のデータを分析に用いた。シグナル検出による報告オッズ比を用いて、誤嚥性肺炎と抗コリンリスクスケールに記載されている49の薬剤との関連を評価した。これらの関連性を検証するため、MEDLINEとコクランライブラリーの調査結果を組み込んだスコープレビューが実施された。 主な結果は以下のとおり。・一次解析では、クロザピン、ハロペリドール、リスペリドン、クエチアピン、オランザピンなど特定の薬剤に関連する誤嚥性肺炎リスクの増加が認められた。・20の薬剤が、誤嚥性肺炎リスク増加と有意に関連していた。・とくに高齢者などの高リスク集団や統合失調症、パーキンソン病などの患者において、これらの薬剤のドーパミンブロック作用を考慮することの重要性が示唆された。 著者らは「誤嚥性肺炎リスクを軽減するためには、クロザピン、ハロペリドール、リスペリドン、クエチアピン、オランザピンなどの強力なドーパミンブロック作用を有する抗コリン薬を注意深くモニタリングする必要がある。これらの関連をさらに調査するためにも、今後の観察研究や介入研究が求められる」と結論付けている。

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患者の望む抗精神病薬の特性とは

 統合失調症や双極症I型に対し抗精神病薬は有効な治療薬であるが、異なる治療オプションの中で、症状改善と副作用とのバランスをみながら、選択する必要がある。新たな治療オプションが利用可能になると、評価される抗精神病薬の特性と治療選択時の患者の希望を考慮することは重要である。米国・AlkermesのMichael J. Doane氏らは、統合失調症または双極症I型患者における経口抗精神病薬の好みを明らかにするため、本研究を実施した。BMC Psychiatry誌2024年9月10日号の報告。 経口抗精神病薬の5つの特性(症状重症度改善度などの治療効果、6ヵ月間の体重増加、性機能障害、過鎮静、アカシジア)に関する、患者の好みを明らかにするため、離散選択実験をオンラインで実施した。対象は、統合失調症または双極症I型と診断された18〜64歳の患者。 主な結果は以下のとおり。・対象患者数は、統合失調症患者144例、双極症I型患者152例。・統合失調症患者は、女性の割合50%、白人の割合69.4%、平均年齢41.0±10.1歳であった。・双極症I型患者は、女性の割合69.7%、白人の割合77.6%、平均年齢40.0±10.7歳であった。・いずれのコホートにおいても、患者は、より有効性が高く、体重増加が少なく、性機能障害やアカシジアがなく、過鎮静リスクの低い経口抗精神病薬を好んだ。・治療の有効性は、最も重要であり、conditional relative importance(CRI)は、統合失調症患者で31.4%、双極症I型で31.0%であった。・患者の最も避けたい副作用は、体重増加(統合失調症患者CRI:21.3%、双極症I型CRI:23.1%)と性機能障害(統合失調症患者CRI:23.4%、双極症I型CRI:19.2%)であった。・統合失調症患者では、症状改善のためであれば、9.8ポンドの体重増加または過鎮静リスク25%超を受け入れると回答し、双極症I型患者では、8.5ポンドの体重増加または過鎮静リスク25%超を受け入れると回答した。 著者らは「統合失調症患者および双極症I型患者は、抗精神病薬の最も重要な特性として、治療効果を挙げた。体重増加および性機能障害は、最も避けたい副作用であったが、より良い効果のためであれば、ある程度の体重増加や過鎮静を受け入れ可能であった」とし、「これらの結果は、患者が抗精神病薬に求める特徴と治療選択を行う際のリスクとベネフィットのバランスを考えるうえで、役立つであろう」と結論付けている。

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アルツハイマー病における妄想観念と抑うつ症状との関連性

 妄想性思考は、精神神経症状の1つであり、アルツハイマー病の長期的な進行において頻繁にみられ、うつ病や興奮など他の精神神経症状と併発する。妄想性思考には、さまざまなタイプがあり、それぞれの妄想性思考と抑うつ症状の併発については、あまりよくわかっていない。東京慈恵会医科大学の永田 智行氏らは、アルツハイマー病における妄想性思考と抑うつ症状の併発パターンの仮説的メカニズムを検証するため、横断的研究を実施した。Journal of Alzheimer's Disease誌2024年号の報告。 アルツハイマー病患者421例を対象に、アルツハイマー病に対する臨床的抗精神病薬治療介入効果試験のデータを分析し、年齢、性別、人種、ミニメンタルステート検査(MMSE)スコア、Neuropsychiatric Inventory(NPI)うつ病スコアを妄想性思考サブタイプの有無で比較した。妄想性思考には、被害妄想、物盗られ妄想、嫉妬妄想、見捨てられ妄想、幻の同居人妄想、カプグラ症候群、場所誤認妄想、テレビサイン妄想を含めた。次に、MMSEスコア15ポイント未満または15ポイント以上で層別化し、一次分析で有意差が認められた妄想性思考と抑うつ症状との関連性をさらに調査した。 主な結果は以下のとおり。・8つの妄想性思考のサブタイプのうち、被害妄想とカプグラ症候群は、うつ病スコアが高かった。・カプグラ症候群は、抑うつ症状に加え、全体的に認知機能低下の状態がより重度である可能性が示唆された。 著者らは「異なる妄想性思考における病因の違いを考慮し、アルツハイマー病患者に対する治療戦略の選択に役立てることが重要である」と結論付けている。

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統合失調症における抗精神病薬使用と心臓突然死との関連

 台湾・高雄医学大学のKun-Pin Hsieh氏らは、抗精神病薬使用と心臓突然死リスクとの関連を明らかにするため、人口ベースのケースコントロール研究を実施した。Psychiatry Research誌オンライン版2024年9月2日号の報告。 2011〜20年の国民健康保険研究データベースおよび台湾の複数死因データを用いて、本研究を実施した。対象は、2020年までに心臓突然死が発生した初発統合失調症患者。症例と対照は、年齢、性別、統合失調症診断年により1:4でマッチングした。抗精神病薬には、経口抗精神病薬(OAP)の連日投与、長時間作用型注射剤抗精神病薬(LAI)、OAPとLAIの併用を含めた。 主な結果は以下のとおり。・OAP単独療法と比較し、OAPとLAIの併用(OR:1.91)およびLAI単独療法(OR:1.45)は、心臓突然死リスク増加と関連が認められた。・心臓突然死の重要なリスク因子として、心血管合併症が特定された(調整OR:11.15)。・抗精神病薬関連の心臓突然死リスクは、抗精神病薬未使用、OAP単独療法、LAI単独療法、OAPとLAIの併用の順で高まることが明らかとなった。 著者らは「統合失調症患者にLAIを使用する際には、事前に心血管疾患の病歴を評価することは重要であり、LAI使用に当たっては、他の抗精神病薬を併用しないよう努めるべきであろう」としている。

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第234回 これまでにない作用の統合失調症治療薬を米国が承認

これまでにない作用の統合失調症治療薬を米国が承認ここ数十年なかった新しい作用機序の統合失調症治療薬Cobenfyが米国で先月末26日に承認されました1,2)。その承認により、統合失調症患者にこれまで処方されてきた薬剤とは一味違う抗精神病薬の使用が同国で可能になります。Cobenfyは神経伝達に携わるコリン作動性受容体の1つであるムスカリン受容体を標的とします3)。それらの受容体を活性化することは幻覚や妄想などの統合失調症を特徴づける症状の源である神経伝達物質ドーパミン放出に影響することが知られています。ムスカリン伝達は認知や感情の処理に携わる脳回路を調節することも知られています。ムスカリン伝達を手入れするCobenfyはそれゆえドーパミン活性の抑制を主とする他の統合失調症治療薬に比べてよりあまねく効果があるようです。Cobenfyの道のりCobenfyの歴史は古く、その始まりは米国の製薬会社Eli Lillyが1990年代の初めにキサノメリン(xanomeline)という化合物の開発を始めたことに端を発します3)。キサノメリンはムスカリン受容体の作動薬です。もっぱらアルツハイマー病患者の記憶の改善を目指して開発が始まりましたが、統合失調症の治療の可能性も検討されていました。幸いキサノメリンはアルツハイマー病患者や統合失調症患者を募った試験で認知機能や精神症状の改善効果を示しました4,5)。しかし、どうやら消化管のムスカリン受容体活性化のせいで、キサノメリン投与群には悪心や嘔吐などの胃腸有害事象が多く生じました。たとえばアルツハイマー病患者342例が参加した試験ではキサノメリン高用量投与群の半数強(52%)が有害事象で脱落しており4)、用量依存的な有害事象はもっぱら胃腸系でした。Lillyは最終的にキサノメリンの開発から手を引くことになります。Lillyが手を引いてからしばらくしてキサノメリンの復活を図る取り組みが始まります。2009年に米国のボストンにバイオテクノロジー企業Karuna Therapeuticsを設立したAndrew Miller氏は、ムスカリン受容体作動薬と脳の外でのその働きを打ち消す化合物を組み合わせた薬なら大した胃腸障害を生じることなく認知や精神症状への有益効果を保てるのではないかと思いつきました。そこでKarunaはLillyから権利を手に入れたキサノメリンと血液脳関門(BBB)を通過しないムスカリン受容体拮抗薬であるトロスピウム(trospium)を組み合わせた薬を作りました。それがCobenfyです。Cobenfyはキサノメリンが胃腸に手出しするのをトロスピウムによって防ぎ、脳に限って作用するようにすることを目指します。その後の臨床試験は順調に進み、最終的に2つの第III相試験(EMERGENT-2とEMERGENT-3)でCobenfyの統合失調症症状改善効果がプラセボを有意に上回りました。陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の合計点がCobenfy投与群5週時点ではベースラインに比べて21点ほど低く、プラセボ群の約12点低下を10点弱ほど上回りました6)。胃腸の有害事象はプラセボに比べてどうしても多かったものの、たいていは1週間か2週間で解消しました3)。Cobenfyとプラセボ群の有害事象での脱落率は似たりよったりでどちらも5%ほどです(それぞれ6%と4%)6)。Cobenfyで心配なことCobenfyはいくつか悩ましいことがあります。いまや抗精神病薬の多くは年に数回の注射で事足りる持効性製剤をそろえていますが、Cobenfyは1日2回の服用が必要です。頻繁な投与を要する薬は続けることが困難であり、中止してしまう統合失調症患者が多いようです7)。また、Cobenfyはご多分にもれずいい値段で、1ヵ月あたりの定価は1,850ドル、1年間では2万ドル強かかります。医療経済の専門家は他の薬剤に比べてその価格が効果に見合ったものかどうかを心配しています3)。そんな心配をよそに製薬業界のアナリストのほとんどはCobenfyの需要は大きいとみており、やがて数十億ドルの年間売り上げに達すると予想しています。そういう期待を背景にしてBristol Myers Squibb(BMS)は140億ドルも払ってKaruna Therapeuticsを今春3月に手中に収めました8)。BMSは米国の患者が今月遅くにCobenfyを入手できるようにするつもりです。長期効果は有望Cobenfyの長期使用の成績は有望で、この4月に発表された52週間のEMERGENT-4試験では同剤投与患者のPANSS合計点がベースラインと比べて約33点低下しました9)。EMERGENT-4試験は上述した5週間の二重盲検第III相試験2つのいずれかを完了した患者を募って実施されています。参考1)FDA Approves Drug with New Mechanism of Action for Treatment of Schizophrenia / PRNewswire2)U.S. Food and Drug Administration Approves Bristol Myers Squibb’s COBENFY? (xanomeline and trospium chloride), a First-In-Class Muscarinic Agonist for the Treatment of Schizophrenia in Adults / BUSINESS WIRE3)Revolutionary drug for schizophrenia wins US approval / Nature 4)Bodick NC, et al. Arch Neurol. 1997;54:465-473.5)Shekhar A, et al. Am J Psychiatry. 2008;165:1033-1039.6)OBENFY U.S.:Prescribing Information7)Zacker C, et al. Clinicoecon Outcomes Res. 2024;16:567-579.8)Bristol Myers Squibb Completes Acquisition of PureTech's Founded Entity Karuna Therapeutics for $14 Billion / BUSINESS WIRE9)Bristol Myers Squibb Presents New Interim Long-Term Efficacy Data from the EMERGENT-4 Trial Evaluating KarXT in Schizophrenia at the 2024 Annual Congress of the Schizophrenia International Research Society / BUSINESS WIRE

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レキサルティ、AD型認知症に伴うアジテーションに対して承認/大塚

 大塚製薬は9月24日付のプレスリリースにて、同社の抗精神病薬レキサルティ(一般名:ブレクスピプラゾール)について、国内初となる「アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動」の効能効果の承認を取得したことを発表した。本剤の国内における効能は、「統合失調症」、「うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)」に加えて、3つ目となる。 今回日本で承認取得した効能は、米国で2023年5月に「アルツハイマー型認知症に伴うアジテーション」の治療における効能として米国食品医薬品局(FDA)に承認され、その後、カナダ、フィリピン、台湾でも承認されている。国際老年精神医学会において、認知症に伴うアジテーションは、情動的な苦痛を背景要因とする攻撃的な症状と非攻撃的な症状を含み、同じ動作の反復などの活動亢進、攻撃的発言または攻撃的行動のうち、少なくとも1つ以上の症状からなり、患者の日常生活、社会生活、人間関係のいずれかに支障を来した状態とされている。 アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションの症状として、悪態をつく、言葉による攻撃、たたく(自分をたたく場合も含む)、何度も同じ行為を繰り返す、全般的な落ち着きのなさ、不満を訴える、拒絶する、唾を吐く(食事中を含む)、蹴る、人や物につかみかかる、押す、物を投げる、叫ぶ、噛む、ひっかく、自分や他人を傷つける、物を壊す・割る、徘徊する、目的なく歩き回る、不適切な着衣・脱衣、別の場所に行こうとする(室外や屋外へ出ようとする)、物を不適切に取り扱う、注目や助けを不当なほど要求し続ける、文章や質問の繰り返し、などが挙げられる。 これらの症状は、アルツハイマー型認知症の約半数で認められ、介護者の負担を重くし、認知症患者や家族、介護者の生活の質を低下させるとともに家族と同居できず介護施設へ入居せざるを得ない要因の1つとなっている。 本剤の国内フェーズ3試験では、アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションを有する55~90歳の410例を対象に、ブレクスピプラゾール(1mgまたは2mgを1日1回)を10週間投与し、有効性と安全性を評価した。ブレクスピプラゾールの1mg群および2mg群は、プラセボ群と比較し、いずれも主要評価項目であるCMAI合計スコアにおいて、統計学的な有意差をもって有効性が示された。また、臨床全般印象・重症度スコア(CGI-S)など、副次評価項目においても、プラセボ群と比較してブレクスピプラゾールの1mg群および2mg群で改善が認められた。本試験において、ブレクスピプラゾールは全般的に良好な忍容性を示し、新たな安全性の懸念は認められなかった。【アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動に対する本剤の用法及び用量】 通常、成人にはブレクスピプラゾールとして1日1回0.5mgから投与を開始した後、1週間以上の間隔をあけて増量し、1日1回1mgを経口投与する。なお、忍容性に問題がなく、十分な効果が認められない場合に限り、1日1回2mgに増量することができるが、増量は1週間以上の間隔をあけて行うこと。

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日本人治療抵抗性うつ病に対するケタミン治療の有用性~二重盲検ランダム化比較試験

 治療抵抗性うつ病(TRD)に対しケタミンが抗うつ効果をもたらすことは、北米や欧州各国から頻繁に報告されているが、アジア人患者におけるエビデンスは、これまで十分ではなかった。慶應義塾大学の大谷 洋平氏らは、日本人TRD患者におけるケタミン静脈内投与の有効性および安全性を評価するため、二重盲検ランダム化プラセボ対照試験を実施した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2024年8月30日号の報告。 TRDの日本人患者34例を対象に、ケタミン群(0.5mg/kg)またはプラセボ群にランダムに割り付け、2週間にわたり週2回、40分間静脈内投与を行った。主要アウトカムは、ベースラインから治療終了までのMontgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)合計スコアの変化とした。副次的アウトカムは、その他のうつ病症状スコア、寛解率、治療反応率、部分反応率などであった。また、ベースライン時の臨床人口統計学的特性とMADRS合計スコアの変化との関連も調査した。 主な結果は以下のとおり。・ITT解析では、両群間でMADRS合計スコアの減少に有意な差は認められなかったが(−8.1±10.0 vs.−2.5±5.2、t [32]=2.02、p=0.052)、per-protocol解析では、ケタミン群はプラセボ群よりも、MADRS合計スコアの有意な減少が認められた(−9.1±10.2 vs.−2.7±5.3、t [29]=2.22、p=0.034)。・その他のアウトカムは、両群間で差は認められなかった。・ケタミン群はプラセボ群よりも有害事象の発現が多かったが、重篤な有害事象は報告されなかった。・ベースライン時のMADRS合計スコアが高い、およびBMIが高い場合、MADRS合計スコアの減少は大きかった。 著者らは「日本人TRD患者において、ケタミン静脈内投与は、プラセボよりも優れており、多様な民族におけるTRD患者の抑うつ症状軽減に対するケタミンの有用性が示唆された」と結論付けている。

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初発統合失調症患者の約40%が治療抵抗性の可能性あり

 初回エピソード統合失調症(FES)患者における治療抵抗性統合失調症(TRS)の有病率は、国際的およびオーストラリア国内で十分に調査されていない。オーストラリア・Graylands HospitalのMirza Detanac氏らは、FES患者コホートにおけるTRSの有病率を評価し、TRS患者の社会人口学的および臨床的特徴について、治療反応が認められたFES患者との比較を行った。The Australian and New Zealand Journal of Psychiatry誌オンライン版2024年8月28日号の報告。 2020年10月、西オーストラリアの早期精神疾患介入サービス(EPIS)4施設において、統合失調症と診断されたすべての患者(ICD-10)の人口統計学的、臨床的、治療関連のデータを2年にわたり収集した。TRSの診断には、慶應義塾大学の鈴木 健文氏らが2012年に報告したTRSの修正版診断基準を用いた。データ分析は、記述統計、マン・ホイットニーのU検定、Studentのt検定、False-Discovery Rateモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・FESと診断された167例におけるTRSの有病率は41.3%であり、EPIS間で差は認められなかった(p=0.955)。・TRS患者は、治療反応が認められたFES患者と比較し、自立度が低く(p=0.011)、失業期間が長く(p=0.014)、障害年金受給者になる可能性が高かった(p=0.011)。・さらに、症状がより重症であり(p=0.002)、精神症状の持続期間が長く(p=0.019)、入院回数が多く(p=0.002)、累積入院期間が長かった(p=0.002)。 著者らは「EPISでマネジメントされているFES患者では、抗精神病薬に対する治療抵抗性を示す患者の割合が、非常に多いことが明らかとなった。とくに、TRSと臨床的重症度の上昇、心理社会的および治療上の負担との関連性が確認された。これらの結果は、TRSの早期発見と、精神保健サービスにおけるTRSに対するよりタイムリーな専門的介入の必要性を浮き彫りにしている」と結論付けている。

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アニメ「インサイド・ヘッド2」(その2)【なんで不安やうつは「ある」の?どうすれば?(病的感情)】Part 3

本当のジブンラシサの花とは?ヨロコビたちが感情操縦デスクにようやく戻ってきたあと、ヨロコビはオレンジ色の感情の渦巻きの嵐の中で固まっていました。ヨロコビは、何とかシンパイをデスクから引きはがします。そして、もとのジブンラシサの花を戻します。しかし、シンパイから「ヨロコビの言う通りだよ。ライリーらしさは私たち感情が決めるものじゃない」と言われて、ヨロコビはハッとします。そして、さっき戻したばかりの花をまた引っこ抜くのです。すると、もともとジブンラシサの花が栄養源としている地下の「信念の泉」に流れ着いていた無数のさまざまな記憶のボールから、まるで芽のように光がどんどんと出ていき、新しいジブンラシサの花が現れるのです。そして、ライリーの心の声が頭の中に次々と響いていきます。「私はわがまま」「私はやさしい」「私は全然だめ」「私はいい人」…「私は強い」「私は弱い」「私は助けてもらいたい時もある」と。最後、ヨロコビは、新しいジブンラシサの花を抱きしめ、他の感情のキャラクターたちも次々と集まって抱きしめます。このシーンは感動的です。ジブンラシサの花とは、まさに自分らしさのメタファーであり、心理学では自我と呼ばれます。自分らしさとは、「私はこうだ」という自分に納得していることなのですが、実はそれは1つの「私」の良い面ではなく、だめなところも含めたいろいろな「私」の面をすべて受け入れるということなのです。すると、自分を大切に思えて、自分は大丈夫と思えてきます。自分は愛されるために完璧である必要はないと気付いていきます。それを、感情のキャラクターたち全員がジブンラシサの花をそのまま丸ごと全員で抱きしめるシーンとして、わかりやすく描いています。このように自分は完璧である必要はない、良いところもだめなところも含めてこれが自分だと思えることは、自己イメージの安定と呼ばれています。すると、やがて相手に対しても完璧であることを求めなくなります。良いところもだめなところも含めてこれが相手だと思えることは、他者イメージの安定と呼ばれています。こうして、相手も愛するために完璧である必要はないと気付き、相手も大切に思えるようになるのです。逆に言えば、自己イメージが安定していないと、相手に完璧さを求めてしまいがちになります。相手を理想化して、その後にちょっとでも違っていると幻滅することを繰り返してしまいます。これは、思春期の恋愛における「蛙化現象」を説明できます。「インサイド・ヘッド2」とは?「インサイド・ヘッド2」のキャッチフレーズは「どんな自分もまるごと好きになる」であり、テーマは「自分自身を受け入れる」でした。ラストシーンで、感情のキャラクターたちが、ジブンラシサの花をみんなで抱きしめたことで、過呼吸になっていたライリーは、その後に落ち着きます。そしてすぐに、もともと仲良しだった2人に謝り、仲直りします。そして、その後は、ホッケーの試合を心から楽しむのでした。彼女は、本来の自分らしさを取り戻し、さらに成長したのでした。自我とは、思春期になると、ヨロコビたち(基礎感情)が最初に主導したように「ただ自分はこうしたい」と好きに思うことではなく、シンパイたち(社会的感情)が主導したように「こうなるべき」と無理に思い込んだり損得勘定に走ることでもなく、「社会の中でこうしていきたい」と自然に自覚するようになることです。この先が、自我の確立です。そして、何より、その自我によって日々の人生を楽しむことでしょう。今回は、思春期になったライリーの成長を、感情のキャラクターたちと一緒に私たちも見守る構図になっています。世界中の親子にとっての普遍的な物語であり、思春期の子供に接する親だけでなく、まさに思春期の子供たちが自分の気持ちを俯瞰することにも役立つでしょう。<< 前のページへ■関連記事アニメ「インサイド・ヘッド2」(その1)【なんで恥ずかしくなるの?なんで恥ずかしさは「ある」の?(社会的感情)】Part 1ウォーキングデッド【この世界観だからこそわかる!「コロナ不安」への処方せん】ツレがうつになりまして。【うつ病

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炭水化物カロリー比が高いとうつ病リスク上昇

 うつ病は、世界的に重大なメンタルヘルスの課題の1つである。中国・四川大学のYifei Tan氏らは、うつ病と炭水化物摂取カロリー比(CRC)との関連を明らかにするため、大規模な横断的研究を実施した。Journal of Affective Disorders誌2024年12月号の報告。 2005〜20年のNHANESデータベースのデータを用いて、Rプログラミング言語によりデータ分析を行った。うつ病の評価には、こころとからだの質問票(PHQ-9)を用いた。CRCは、総炭水化物摂取量の4倍を総カロリー摂取量で割ることにより算出した。CRCとうつ病との関連を調査するため、多変量ロジスティック回帰モデルおよび回帰スプラインモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・参加者データ9,254例中、1,530例がうつ病と診断された。・CRCが高く、54.1%(人口レベルの第4四分位[Q4])超の場合、抑うつ症状レベルが上昇した。・調整済み多変量ロジスティック回帰モデルでは、人口レベルの第1四分位(Q1)と比較し、Q4ではうつ病レベルが高く、うつ病リスクが高く、うつ病が人生に及ぼす影響が大きかった。【うつ病レベルが高い】β=0.5102、95%信頼区間(CI):0.2419〜0.7784、p=0.0002【うつ病リスクが高い】ハザード比(HR)=1.3380、95%CI:1.1331〜1.5812、p=0.0006【うつ病が人生に及ぼす影響が大きい】HR=1.5133、95%CI:1.1656〜1.9746、p=0.0020 著者らは「米国成人において、CRCが高いほど、抑うつ症状の可能性が有意に高まることが示唆された」と結論付けている。

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脳を使ってしゃべることができる未来が来る(解説:岡村毅氏)

 ブレイン・コンピュータ・インターフェースが注目を集めている。映画「マトリックス」などでも扱われており、ご存じの方も多いだろう。イーロン・マスク氏も「ニューラリンク」という会社を立ち上げている。 この論文は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者の脳の表面に電極を設置し、口を動かして発語しようとする電気活動を検出し、それを音声化することに成功したというものである。 米国・カリフォルニア大学のYoutubeで動画を見ることができるが、衝撃的そして感動的である。 2つの点からコメントする。 1つはALSの患者にとって福音となるという点である。 ALSは、運動神経の変性により、徐々に体が動かなくなり、呼吸や発語もできなくなるという疾患である。患者は考えることはできる、しかし、話そうとしても、話すために体を動かす神経系が障害を受けている。今この瞬間にも、考えたり、悩んだり、喜んだりすることはできる、しかし体はまったく動かないという状態の人がいることに思いをはせなければならない。 意識清明なのに体が動かないこと、コミュニケーションが困難であること、不本意な身体介護を受けなければならない可能性などのため、ALSの患者はしばしば耐え難い苦痛を持つ。このためALSはいわゆる「安楽死」の文脈で出てくる。社会的には安楽死が許されうるのは(1)耐えがたい肉体的苦痛、(2)死期が迫っている、(3)苦痛緩和が尽くされ代替手段がない、(4)患者の意思表示、の4つとされている(抜粋、1995年横浜地裁)。日本では「安楽死」などとお茶を濁して言うが、海外では、医師による自殺幇助(Physician-assisted suicide:PAS)が実際に行われてきた。近年はPASと積極的安楽死も含めて許容する国や地域が広がっていることを医療者は知っておくべきだろう。なお、映画監督のジャンリュック・ゴダール氏も2022年にPASで旅立った。 覚悟を持ってスイスなどの海外に渡り、自らの人生を終わらせる人のことがしばしば報道されるが、ALSの患者が多い。この問題では、「自らの人生を自己決定することは人権」という主張と、「これを許すと社会が弱い人を死に追いやる滑り坂になる」という主張が真っ向から対立している。これについて私は立場を表明しない。 ただ、医療者としては希望を語りたいものだ。本研究のように、しゃべれるようになる未来が見えてきた。あるいは最近もアクセプタンス&コミットメントセラピーという心理療法が効果的だという結果1)も出ている。ALSに関しては、対立の前提も常に変わり続ける。 2つ目は、心の中が見られてしまうのではないか、という危惧についてである。 心の中が見られているのではないか(厳密には自己と他者の境界があいまいになっているのではないか、筒抜けになっていないか)というのは、統合失調症の古典的症状である。この研究から、そのような危惧を持つ向きもあるかもしれない。 しかし、本研究は、話そうとして口周りを動かそうとする脳神経の動きを検出しているに過ぎない。SF映画のように脳の中から「概念」を検出しているのではないことに注意しよう。これを読んでいる人が生きているうちは、そのような荒唐無稽なことはできないだろう。あなたの考えや思考がもし外に取り出せたら、それはもはやあなたではない。単に口の動きを脳内から外の世界に出すことが可能になりつつあるのが人類の現在地だ。

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セマグルチドを使用しても自殺リスクは上昇せず

 肥満症治療薬であるGLP-1受容体作動薬のセマグルチドの人気が急上昇する一方で、その潜在的な副作用に対する懸念も高まりを見せている。しかし、新たな研究により、そのような懸念の一つが払拭された。米ペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院ペン自殺予防センター所長のGregory Brown氏らによる研究で、セマグルチドの使用により抑うつ症状や自殺念慮、自殺行動のリスクは増大しないことが示されたのだ。セマグルチドを有効成分とするオゼンピックやウゴービを製造するノボ ノルディスク社の資金提供を受けて実施されたこの研究の詳細は、「JAMA Internal Medicine」に9月3日掲載された。 2型糖尿病治療薬として開発されたセマグルチドは、臨床試験で肥満症治療薬としての有効性が明らかにされて以降、大きな注目を集め、今や医師が患者に週1回のセマグルチドの皮下注射を処方することは珍しいことではなくなっている。実際に、2023年には500万人もの米国人がセマグルチドを処方されており、そのような人の10人に4人は体重管理のために同薬を使用しているという。 この研究では、セマグルチドに関する4つの主要な臨床試験(第3a相STEP1、2、3試験および第3b相STEP5試験)の対象者から得たデータを用いて、週に1回のセマグルチド2.4mgの皮下注射が精神面にどのような影響を与えるのかが、プラセボとの比較で検討された。STEP1、2、3試験の対象者は総計3,377人(平均年齢49歳、女性69.6%)、STEP5試験の対象者は304人(平均年齢47歳、女性77.6%)で、いずれも肥満または過体重であり、STEP2参加者は2型糖尿病にも罹患していた。対象者の抑うつ症状はPatient Health Questionnaire(PHQ-9)で、自殺念慮と自殺行動はコロンビア自殺重症度評価尺度(C-SSRS)で評価されていた。 STEP1、2、3試験対象者のベースライン時のPHQ-9スコアは、セマグルチド群で2.0点、プラセボ群で1.8点であり、抑うつ症状は「ない/最小限」と判定されていた。治療開始から68週目でのPHQ-9スコアは、同順で2.0点と2.4点であり、解析からは、68週間にわたる治療により、プラセボ群と比べてセマグルチド群のPHQ-9スコアの重症度カテゴリーが上昇する可能性は低いことが示された(オッズ比0.63、95%信頼区間0.50〜0.79、P<0.001)。自殺念慮や自殺行動については、治療中に両群ともに1%未満の対象者が自殺念慮を抱いたことを報告していたが、両群間に有意差はなかった。STEP5対象者の結果も、これらの結果と同様であった。 Brown氏は、「セマグルチドを使用している過体重や肥満の人が抑うつ症状、自殺念慮や自殺行動を経験する可能性は確かにあるが、本研究結果は、セマグルチドを使用していない人が自殺念慮や自殺行動を経験する可能性も同程度であることを示唆している」と言う。 研究グループは、「これらの結果は、米食品医薬品局(FDA)によるセマグルチドの継続的な調査結果と一致している」とペンシルベニア大学のニュースリリースの中で指摘している。最新のデータ分析では、セマグルチドの使用が自殺念慮や自殺行動を引き起こすという証拠は見つからなかったことが報告されているという。 しかし研究グループは、今回の研究に精神障害を有する人が含まれていなかったことを踏まえ、「うつ病やその他の重篤な精神障害罹患者に対するセマグルチドの効果については、さらなる研究で検討する必要がある」と話している。

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精神疾患患者の認知機能と自殺リスクとの関連~メタ解析

 うつ病や双極性障害などの治療可能な精神疾患は、自殺リスク因子の大部分を占めており、これらの患者は神経認知機能障害を伴うことが少なくない。カナダ・トロント大学のGia Han Le氏らは、統合失調症感情障害、双極性障害、うつ病患者における認知機能と自殺念慮/自殺企図との関連を調査した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2024年8月19日号の報告。 2024年4月までに公表された研究をPubMed、Ovid、Scopusのデータベースよりシステマティックに検索した。認知機能と自殺念慮/自殺企図との関連についてエフェクトサイズが報告された適格研究を、ランダム効果モデルを用いてプールした。 主な結果は以下のとおり。・分析には、41件の研究を含めた。・統合失調症感情障害およびうつ病患者において認知機能と自殺念慮/自殺企図との負の相関が認められた。【統合失調症感情障害】自殺企図:Corr=−0.78(95%信頼区間[CI]:−1.00~0.98)、自殺念慮:Corr=−0.06(95%CI:−0.85~0.82)【うつ病】自殺企図:Corr=−0.227(95%CI:−0.419~−0.017)、自殺念慮:Corr=−0.14(95%CI:−0.33~0.06)・双極性障害の結果はまちまちであり、自殺企図と全般実行機能との間に有意な正の相関が認められ(Corr=0.08、95%CI:0.01~0.15)、感情抑制と負の相関が認められた。・処理速度、注意力、学習、記憶については、診断横断的にさまざまな結果がみられた。・本研究の限界として、サンプル構成や認知機能測定にばらつきがある点、個々の人口統計および併存疾患に関する情報を用いていない点が挙げられる。 著者らは「認知機能と自殺傾向との間に、診断横断的な関連性が認められた。とくに報酬機能における認知機能障害の相互作用が、精神疾患患者の自殺傾向の根底にある可能性が示唆された。また、衝動制御、計画、作業記憶の認知機能障害が、自傷行為や自殺に影響を及ぼしている可能性がある」としている。

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統合失調症の全死亡リスク、抗精神病薬LAI vs.経口剤~メタ解析

 統合失調症患者に対する抗精神病薬治療は、死亡率の低下に寄与しているが、抗精神病薬の治療アドヒアランスが低いことは問題である。長時間作用型注射剤(LAI)抗精神病薬を用いると、この問題を部分的に対処可能であると考えられるが、経口抗精神病薬と比較した全死亡率への影響は不明である。スペイン・バスルト大学のClaudia Aymerich氏らは、LAI抗精神病薬治療を行っている患者における全死亡率、自殺死亡率、非自殺死亡率について、経口抗精神病薬治療を行った場合との比較を行った。Molecular Psychiatry誌オンライン版2024年8月22日号の報告。 経口抗精神病薬と比較したLAI抗精神病薬による治療を行っている患者における全死亡率、自殺死亡率、非自殺死亡率のオッズ比(OR)を分析するため、ランダム効果メタ解析を実施した。個々のLAI抗精神病薬およびプールされたLAI抗精神病薬とプールされた経口抗精神病薬との比較を行い、分析した。感度分析は、研究デザイン、設定、スポンサードについて実施した。性別、年齢、抗精神病薬投与量、人種について、メタ回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・17件、1万2,042例(経口群:5,795例、LAI群:6,247例)を対象に含めた。・LAI群は、経口群よりも、全死亡リスクが低かった(OR:0.79、95%CI:0.66~0.95)。・LAIと経口抗精神病薬を比較した研究のみを対象とした場合、全死亡率(OR:0.79、95%CI:0.66~0.95、p<0.01)、非自殺死亡率(OR:0.77、95%CI:0.63~0.94、p=0.01)については、統計学的に有意な差が認められたが、自殺死亡率(OR:0.86、95%CI:0.59~1.26、p=0.44)については有意な差が認められなかった。・LAI抗精神病薬による死亡率低下は、初回エピソード患者において、慢性期患者と比較し、より顕著であった(OR:0.79、95%CI:0.66~0.95)。・個々のLAIにおいては、プールされたすべての経口抗精神病薬と比較し、統計学的に有意な差は認められなかった。 著者らは「LAI抗精神病薬は、経口抗精神病薬と比較し、統合失調症患者の全死亡率、非自殺死亡率の低下に寄与することが示唆された。この違いは、投薬や医療サービスに対するアドヒアランスが影響していると考えられる」とし、「可能な限り、初回エピソードからLAI抗精神病薬の使用を検討する必要がある」とまとめている。

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双極症に対するリチウム使用、23年間の変遷

 薬剤の疫学データによると、双極症に対するリチウムの使用は、徐々に減少しており、他の適応症への注目も低下している。ドイツ・ミュンヘン大学のWaldemar Greil氏らは、1994~2017年のリチウム処方の変化を調査した。Pharmacopsychiatry誌オンライン版2024年8月22日号の報告。 ドイツ、オーストリア、スイスの精神科病院を含む精神医学における薬物安全性プログラムAMSPのデータを用いて、1994~2017年のリチウム処方を分析した。さまざまな疾患に対するリチウムの使用は、2001年以前と以降および3つの期間(T1:1994~2001年、T2:2002~09年、T3:2010~17年)により比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象は、成人入院患者15万8,384例(女性の割合:54%、平均年齢:47.4±17.0歳)。・リチウム処方は、統合失調症スペクトラム患者で2001年以前の7.7%から2001年以降の5.1%へ、情動障害患者では16.8%から9.6%へと、統計学的に有意な減少が確認された。・各疾患サブグループにおいてもリチウム処方の減少が認められた。【統合失調感情障害(ICD-10:F25)】27.8%→17.4%(p<0.001)【双極症(ICD-10:F31)】41.3%→31.0%(p<0.001)【うつ病エピソード(ICD-10:F32)】8.1%→3.4%(p<0.001)【再発性うつ病(ICD-10:F33)】17.9%→7.5%(p<0.001)【情緒不安定、境界性パーソナリティ障害】6.3%→3.9%(p=0.01)・T1、T2、T3における比較は次のとおりであり、双極症に対するリチウム処方は、2002年以降、あまり減少していなかった。【統合失調感情障害】26.7%→18.2%→16.2%【双極症】40.8%→31.7%→30.0%【うつ病エピソード】7.7%→4.2%→2.7%【再発性うつ病】17.2%→8.6%→6.6%・リチウムと併用された主な向精神薬は、クエチアピン(21.1%)、ロラゼパム(20.6%)、オランザピン(15.2%)であった。 著者らは「入院患者に対するリチウム処方は、双極症だけでなく、さまざまな疾患において減少していることが確認された」としている。

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医師はなぜ自ら死ぬのか(解説:岡村毅氏)

 医師の自殺率は高いとされてきた。本論文は1960年から2024年に出版されたすべての論文を対象にしたシステマティックレビューとメタ解析であり、現時点での包括的な情報と言っていいだろう。ちなみに英語とドイツ語以外は、翻訳ソフトであるDeepLを用いて評価しているのが現代的だ。男性医師では時代と共に自殺率は低下してきていることが示されたが、女性医師においてはむしろ増加している。 いくつかの視点で論じてみよう。 自殺の関連要因はさまざまであるが、この論文1)では以下のように分けている。第一に精神疾患(うつ病統合失調症)、第二に身体疾患、第三に当たり前だが自殺関連行動(過去の自殺企図歴など)、第四に人口社会学的要因(借金、学歴、信仰、仕事のストレスなど)、そしてその他として犯罪歴、幼少期の逆境、火器が身近にあるなどを挙げている。医師といっても多様だとは思うが、身体疾患、貧困、借金、火器などが一般人口より多いとは思えないので、やはり仕事のストレスやうつ病が関与するのかもしれない。 自殺は、近年は「絶望死」の1つとして捉えられることもある。「絶望死」とは自殺、薬物の過剰摂取、そしてアルコール性肝疾患を指す。米国の労働者階級の白人においてこれらの絶望死が増えていることが指摘され2,3)、トランプ現象との関連も語られている。これを医師の自殺と結び付けるのは飛躍かもしれないが、激しい競争と格差が「絶望死」とつながっているとしたら、医師の世界の激しい競争が関係しているのかもしれない。 仕事のストレスといえば、患者や家族からの過大な要求などは増えているとされている(いわゆるモンスターペイシェント)。一方で、たとえば私が某下町の救命救急センターで研修を受けていた2000年代初頭は、日・当・日直で36時間稼働して12時間休むのを3回(つまり6日稼働し、その間に3晩休める)して、初めて休日になるというありさまだった。あらゆる仕事は尊く大変だが、医師は命が関わる局面が多く、休みたいなどと言うと人間性を疑われることが多いのはつらい。これを米国の友人に言うとドン引きされるので、日本が異常なのだろう。とはいえ、このような身体的なストレスは確かに減ってきた。 この論文の対象外であるが、新型コロナウイルスパンデミックのような社会現象も関連するだろう。新型コロナの患者に接している医療従事者の子供が保育園で差別されるといった事象や、国民の生命を守るためにマスコミに姿を曝した専門家に対する誹謗中傷4)などである。 ではなぜ女性で増えているのか。本論文ではまったく明らかになっていないが、これまでの研究を総合して、問題の在りかを明らかにし、これからの研究の道標にするというのがこの研究の意義である。

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医師の燃え尽き症候群と関連する覚醒度~日本全国調査

 日本の医師の約40%は年間960時間以上の残業を報告しており、10%は1,860時間を超えている。2024年、医師の健康を守るため、年間の残業時間に上限が設定された。順天堂大学の和田 裕雄氏らは、長時間労働医師の働き方改革に関する全国横断調査において、自己報告による睡眠時間と、メンタルヘルスおよび客観的覚醒度との関連を調査した。Journal of Sleep Research誌オンライン版2024年8月12日号の報告。 調査に協力した医師は、毎日の睡眠時間、燃え尽き症候群(Abbreviated Maslach Burnout Inventory:マスラック・バーンアウト尺度簡易版)、うつ病(CES-D:うつ病自己評価尺度)、交通事故に関して自己報告を行った。覚醒度は、精神運動覚醒度検査短縮版を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・調査の依頼をした2万382人のうち1,226人の医師が、調査および精神運動覚醒度検査を完了した。・毎日の睡眠時間は、週の労働時間と逆相関が認められた(β=-5.4、95%信頼区間[CI]:-6.8~-4.0、p<0.0001)。・1日当たりの睡眠時間6時間未満および8時間以上は、精神運動覚醒度検査短縮版の反応遅延と関連が認められた(調整済みp<0.05)。・1週当たりの労働時間が10時間増加するごとに、燃え尽き症候群の重症度(0.40ポイント、95%CI:0.08~0.72)および交通事故の報告率(1.7%、95%CI:0.1~3.3)が増加した。・覚醒度の低下(精神運動覚醒度検査短縮版での間違いの増加)は、うつ病(β=0.23ポイント、95%CI:0.14~0.31、p<0.0001)および燃え尽き症候群(β=0.25ポイント、95%CI:0.13~0.36、p<0.0001)の症状悪化と関連が認められた。 結果について著者らは、「覚醒状態を維持するためには十分な睡眠が重要であることを強調し、日本の医師のメンタルヘルスを守るため勤務時間を制限することを支持するものである」とし、「精神運動覚醒度検査短縮版の成績は、メンタルヘルスの有用な指標となる可能性がある」とまとめている。

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