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レビー小体型認知症のMCI期の特徴は?認知症には70以上もの原因疾患があるが、レビー小体型知症(DLB)はアルツハイマー病(AD)、血管性認知症に次ぎ3番目に多い。ADのMCI(軽度認知障害)の特徴はわかっていても、「MCIレベルのDLBの特徴は?」と問われると、筆者は最近まで「はて?」という状態であった。DLB研究の元祖である小阪 憲治先生の名言に「DLBを知れば知るほど、その幅広さがわかってくる」というものがある。臨床の場でこの病気の患者さんを診ていると、一言でDLBといっても、見られる症候は実にさまざまであり、この言葉はまさに至言である。また、この病気の大脳病理について経験豊かな友人が次のように教えてくれた。「レビー小体病といっても、さまざまな病変分布や病理の程度にグラデーションがあって、検査前の見込みと検査結果はしょっちゅう乖離する。ADのほうがずっと簡単」と。DLBの診断では、激しい寝ぼけ(レム睡眠行動障害)、幻視、パーキンソン症候、そして認知機能などの変動が大きいことが軸である。DLBの権威であるIan G. McKeith氏らによれば、MCIレベルのDLBには3つの表現型がある。まず「精神症状初発型」、次に「せん妄初発型」、さらに認知機能障害パターンから分類される「MCI-LB」タイプである。今回は、この3つについてまとめてみたい。1)精神症状初発型他の認知症性疾患と比べたとき、DLBの初発症状として、老年期になって初発する大うつ病や精神病は、とても際立っている。代表的な症状としては、人の姿が見えるといった幻視、家族を偽物だと思い込むような妄想や誤認がある。また、アパシー(無気力)、不安がある。こうした症状で初発する認知症性疾患は他にまずないため、これらの症状はDLBを疑う大きなヒントになる。レム睡眠行動障害(RBD)も有用な着眼点になるが、抗うつ薬を使うことによってRBDが生じることもあるので、ここは要注意である。また、DLB を疑ううえで、パーキンソン症状の中で、動作緩慢よりも振戦や筋硬直のほうが、より有用である。なお、精神病発症型のDLB発症時では、パーキンソン症候、認知機能の変動、幻視、RBDという典型症候がみられたのは、わずか3.8%にすぎなかったという報告がある1)。この数字が語るのは、目の前の患者さんは「精神疾患に間違いない、まさかDLBとは!」と誰もが思ってしまう落とし穴だろう。2)せん妄初発型認知機能の変動、意識の清明度・覚醒度の変化は、DLBの中核症状である。そのため、せん妄で初発する人も多い。これまで認知機能障害がなかった人で、いきなりせん妄が生じるのはなぜだろうか? まずDLBという病態はせん妄を来しやすい素地を持っているのかもしれないし、あるいは曇りを伴う重篤な意識の変動をせん妄とみている可能性もある。さらにはこれら両者なのかもしれないが、答えはわからない。ところで、せん妄初発のDLBの存在に留意することには別の意義もある。というのは、一般的なせん妄に対する第1選択薬は抗精神病薬とされるが、もしこの型のDLBにこうした薬剤を投与したら、症状が悪化する可能性が高いからである。なお、せん妄や意識変動はDLB患者の介護者の43%が報告するほど多く、4人に1人のDLB患者がせん妄を繰り返し、累積の回数はAD患者のそれの約4倍といわれる。また、DLBが診断される前にみられるせん妄は、ADに比べて6倍近く高い。高齢患者においてせん妄が長引く場合、実は背後にDLBが隠れていると考えるべきとされる。つまり、「病歴にせん妄が多ければDLBを想起!」である。3)MCI-LBMCIの概念は、1990年代のRonald C. Petersen氏による提唱で有名になったが、それは「アルツハイマー病前駆状態では、他の認知機能は保たれているのに記憶のみが障害される」というものであった。このオリジナルの概念に改変がなされ、現在では「記憶障害」対「非記憶の認知機能障害」、障害される認知領域が「単数」対「複数」という基準で4つのMCI亜型に分類されるようになった。Petersen氏の提唱したオリジナルMCIは、ADの予備軍における「記憶障害」+「単数」である。しかし、レビー小体型認知症の前駆状態であるMCI-LBは、「非記憶障害」が基本で、障害領域は「単数」も「複数」もある。とくに最初期には、本人も介護者も記憶障害を訴えないことが珍しくない。つまり記憶障害は比較的軽い一方で、主に注意や遂行機能障害といった前頭葉の機能障害がみられる。また錯視など、視覚認知に障害を認める例もある。いずれにせよ、記憶障害単独型MCIのADコンバートに対して、「非記憶型」のMCI-LBがADになることはまれで、その10倍もDLBになりやすい。4)その他の留意点DLBにおけるRBDの意味RBD(レム睡眠行動障害)はDLB診断において重要である。ある12年間の追跡調査では、RBDを持つ人の73.5%が、 DLBなど神経変性疾患にコンバートしたという報告もある2)。悪夢は周囲の人によって気付かれ、RBD診断の手がかりになるが、鑑別すべきものに睡眠時無呼吸症候群、睡眠中のてんかん発作などがある。確実な診断には、ポリソムノグラフィによる測定が望まれる。どんなタイプのMCIであれ、RBDを伴うときはDLBを想起すべきである。自律神経症状などDLB患者で、初診時に自律神経障害を認めることもまれではない。便秘、立ちくらみ、尿失禁、勃起障害、発汗増加、唾液増加などのどれか1つ以上が、25~50%の患者で見つかる3)。しかし、こうした症状は他のさまざまな疾患でも見られるため、それらがあるからといって必ずしもDLBだと思う必要もない。なお、無嗅覚症もDLBのMCI期によくみられるが、その原因は数多あるため(たとえば新型コロナウイルス感染症など)、診断的価値がとくに高いわけではない。1)Gunawardana CW, et al. The clinical phenotype of psychiatric-onset prodromal dementia with Lewy bodies: a scoping review. J Neurol. 2024;271:606-617.2)Postuma RB, et al. Risk and predictors of dementia and parkinsonism in idiopathic REM sleep behaviour disorder: a multicentre study. 2019;142:744-759.3)McKeith IG, et al. Research criteria for the diagnosis of prodromal dementia with Lewy bodies. 2020;94:743-755.