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米国成人の10人に6人は炎症誘発性の食生活

 米国成人の多くが、炎症を引き起こす食生活を送っていて、そのことが、がんや心臓病、その他の深刻な健康リスクを押し上げている可能性のあることが報告された。米オハイオ州立大学のRachel Meadows氏らの研究によるもので、詳細は「Public Health Nutrition」に9月27日掲載された。論文の筆頭著者である同氏によると、「米国の成人の57%が炎症を起こしやすい食生活を送っており、その割合は男性、若年者、黒人、教育歴が短い人、収入の低い人でより高かった」という。 Meadows氏らの研究には、2005~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した20歳以上の成人3万4,547人(平均年齢47.8歳、女性51.3%)のデータが用いられた。NHANESでは、過去24時間以内に摂取したものを思い出すという方法により食習慣が把握されており、その結果に基づき、エネルギー調整食事性炎症指数(energy-adjusted dietary inflammatory index;E-DII)を算出した。 E-DIIは、n-3系脂肪酸、フラボノイド、アルコール飲料、ニンニクなど、45種類の食品や栄養素の摂取量を元に算出される。結果は-9~+8の範囲にスコア化され、0未満は炎症を抑制する食事、0超は炎症を誘発する食事であることを意味する。Meadows氏は、「食事療法に際して一般的に、果物や野菜、乳製品などの食品群の摂取量、または摂取エネルギー量、脂質・タンパク質・炭水化物摂取量に基づく指導介入が行われる。しかし、炎症という視点で評価することも重要だ」と述べている。 解析対象者のE-DIIは平均0.44(95%信頼区間0.39~0.49)と0を上回り、米国成人は全体的に炎症を誘発しやすい食生活を送っていることが示された。また、全体の57%は炎症誘発性の食生活、34%は抗炎症性の食生活であり、9%はニュートラルな食生活であることが分かった。 この結果についてMeadows氏は、食事の全体的なバランスの重要性を強調し、「果物や野菜をたくさん食べていたとしても、アルコールや赤肉を取り過ぎていれば、全体的な食生活は炎症誘発性に傾いている可能性がある。健康増進の手段として、抗炎症作用のある食品に着目してほしい」と語っている。同氏によると、「ニンニク、ショウガ、ウコン、緑茶、紅茶などが抗炎症作用を有している」という。ほかにも、全粒穀物、緑黄色野菜、サーモンなどの脂肪分の多い魚、豆類、ベリー類などが抗炎症作用のある食品とされており、これらはいずれも、健康的な食事スタイルとして知られる地中海食で、積極的に摂取される食品でもある。 抗炎症性の食生活に変えることの利点としてMeadows氏は、「糖尿病、心血管疾患、さらにはうつ病やその他の精神疾患を含む、多くの慢性疾患に良い影響を与える可能性がある」と解説。また、「慢性炎症を引き起こす要因は数多くあり、それらは全て相互に影響し合っている。睡眠に問題があることも重要な要素の一つだ。それらに対抗する手段として日々の食事を活用できる」としている。

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第2世代抗精神病薬治療104週間の最終治療結果〜国内JUMPs試験

 CNS薬理研究所の石郷岡 純氏らは、アリピプラゾール、ブロナンセリン、パリペリドンの104週間自然主義的研究である統合失調症に対する有用な薬物治療プログラム(JUMPs)試験の最終結果を報告した。BMC Psychiatry誌2024年9月5日号の報告。 本研究は、日本のリアルワールドにおける、第2世代抗精神病薬(SGA )3剤(アリピプラゾール、ブロナンセリン、パリペリドン)の長期的な有用性を検討するためのオープンラベル多施設共同ランダム化平行群間比較試験として実施された。対象は、抗精神病薬による治療または切り替えによる治療を必要とした20歳以上の統合失調症患者。主要エンドポイントは、104週にわたる治療中止率とした。副次的エンドポイントには、寛解率、個人的・社会的機能遂行度尺度(PSP)、安全性、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)、QOL(EuroQol-5 dimension[(EQ-5D])を含めた。 主な結果は以下のとおり。・対象患者数は、合計251例(アリピプラゾール:82例、ブロナンセリン:85例、パリペリドン:84例)。・104週時点での治療中止率に、有意な差は認められなかった(p=0.2385)。【アリピプラゾール】80.5%【ブロナンセリン】81.2%【パリペリドン】71.4%・寛解率(アリピプラゾール:42.9%、ブロナンセリン:46.7%、パリペリドン:45.8%)、PANSS、安全性などのエンドポイントも、同等であった。・全体コホートでは、104週目のPSP合計スコアの改善は、ベースラインと有意な違いが認められなかったが、104週目のQOLおよびPANSS合計スコア(すべてのサブスケールを含む)は、ベースラインと比較し、有意な改善が認められた(p<0.05)。・多変量解析では、治療中止の予測因子として、単剤療法切り替え前の罹病期間の短さおよびクロルプロマジン換算量1,000mg以上が確認された。 著者らは「104週の治療中止率は、アリピプラゾール、ブロナンセリン、パリペリドンで同等であった。寛解率、安全性、QOLなどの全体的な改善傾向は、治療継続において重要なポイントであることが示唆された」と結論付けている。

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日本人治療抵抗性うつ病患者に対するブレクスピプラゾール2mg補助療法の長期有用性

 うつ病患者では、抗うつ薬単独療法で治療反応が不十分な場合が少なくない。治療抵抗性うつ病に対するブレクスピプラゾール補助療法の有効性および安全性は、プラセボ対照ランダム化多施設共同並行群間第II/III相試験であるBLESS試験において確認されている。BLESS試験は、抗うつ薬単独療法で効果不十分であった日本人治療抵抗性うつ病患者740例を対象に、補助療法として6週間のブレクスピプラゾール1mg/日または2mg/日をプラセボと比較した試験である。関西医科大学の加藤 正樹氏らは、日本人治療抵抗性うつ病患者に対するブレクスピプラゾール2mg補助療法の52週間にわたる長期安全性および有効性を評価するため、本検討を行った。CNS Drugs誌オンライン版2024年10月18日号の報告。 52週間のオープンラベル試験では、6週間のBLESS試験を完了した患者および65歳以上の新規患者を対象とした。対象患者には、第1週目から固定用量としてブレクスピプラゾール2mg/日の漸増投与を行った。安全性評価には、治療中に発生した有害事象(TEAE、主要アウトカム)、臨床評価、検査値を含めた。有効性の評価には、Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)、臨床全般印象度の改善度(CGI-I)、ハミルトンうつ病評価尺度17項目(HAMD-17)合計スコア、シーハン障害尺度(SDS)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・安全性/有効性対象には247例(ロールオーバー患者:216例、新規患者:31例)を含め、そのうち138例(55.9%、ロールオーバー患者:132例、新規患者:6例)が試験を完了した。・発生率が10%以上のTEAEは、体重増加(33.2%、82例)、アカシジア(23.5%、58例)、鼻咽頭炎(21.1%、52例)、傾眠(10.5%、26例)であった。・治療中止に至るTEAE発生率は、すべての患者で26.7%、新規患者で58.1%。・ベースラインから52週目までの平均体重増加は、4.2±6.5kg(138例)であり、ベースライン後の診察で7%以上の体重増加が認められた患者の割合は、44.5%(110例)であった。・遅発性ジスキネジア、自殺/自殺企図に関連する有害事象は認められなかった。・原因不明の死亡例が1例報告されたが、治療とは無関係であると判断された。・52週間の試験期間中、ブレクスピプラゾールを投与されたすべての患者においてベースラインからのMADRS合計スコアの改善が認められた(平均変化:−7.3±8.7)。・すべての患者における52週目でのMADRSの治療反応率は41.3%(57例)、寛解率は34.8%(48例)であった。・52週間の試験期間中、CGI-S(平均変化:−0.8±1.0)、HAM-D17合計スコア(同:−5.9±6.3)、SDS平均スコア(同:−1.0±2.2)のベースラインからの改善が認められ、長期ブレクスピプラゾール治療による症状の持続的な改善が示唆された。 著者らは「本試験は、高齢者を含む日本人うつ病患者に対するブレクスピプラゾール2mg/日の安全性プロファイルを評価した初めての研究であり、これまでの報告と同様に、新たな安全性リスクは認められず、52週間にわたる持続的な有効性が確認された」と結論付けている。

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早期初潮がうつ病と関連〜メタ解析

 早期初潮とうつ病との関連におけるエビデンスには、一貫性がない。中国・北京師範大学のLing Jiang氏らは、早期初潮とうつ病との関連性を明らかにするため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2024年10月9日号の報告。 2024年6月17日までに公表された研究を複数のデータベースより検索した。プールされたエフェクトサイズを算出するため、ランダム効果モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・22研究、8万7,798例をメタ解析に含めた。・22研究のNewcastle-Ottawa Scale(NOS)スコアの範囲は4〜8、中央値は6。・早期初潮群は、非早期初潮群と比較し、うつ病スコア(標準平均差:0.13、95%信頼区間[CI]:0.04〜0.21)、うつ病発症率(オッズ比:1.37、95%CI:1.23〜1.52)が有意に高かった。・ただし、中程度の異質性が認められた(うつ病スコア:I2=54%、p=0.03、うつ病発症率:I2=61%、p=0.001)・サブグループ解析では、うつ病スコアと研究の種類(コホート研究:I2=57%、p=0.071、ケースコントロール研究:I2=61%、p=0.051)および研究の質(6以上:I2=58%、p=0.065、6未満:I2=62%、p=0.052)との有意な関連が認められた。 著者らは「早期初潮とうつ病との関連が明らかとなった。両親、学校、医療者は、より早期に初潮を迎えた女児のメンタルヘルスを注意深くモニタリングする必要がある」と結論付けている。

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成人ADHDに対するメチルフェニデート+SSRI併用療法

 うつ病は、成人の注意欠如多動症(ADHD)の一般的な併存疾患であるため、このような患者には、メチルフェニデート(MPH)と選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の併用療法が行われる。しかし、成人ADHDにおけるMPHとSSRI併用療法の安全性に関する臨床的エビデンスは、限られている。韓国・亜洲大学のDong Yun Lee氏らは、うつ病を併発した成人ADHD患者に対するMPHとSSRI併用療法の安全性を評価した。JAMA Network Open誌2024年10月1日号の報告。 2016年1月〜2021年2月の韓国請求データベースよりデータを収集した。対象は、ADHDおよびうつ病と診断され、MPHを処方された18歳以上の成人患者。処方内容により4群に分類し、比較を行った。より好ましい治療オプションを検討するため、SSRI+MPH(SSRI群)、MPH単剤(MPH群)、MPH+fluoxetine(fluoxetine群)、MPH+エスシタロプラム(エスシタロプラム群)の比較を行った。データ分析は、2023年7〜12月に実施した。神経精神医学的およびその他のイベントを含む17の主要および副次的アウトカムを評価した。対照アウトカムとして、呼吸器感染症を用いた。交絡因子を調整するため傾向スコアを用い、各群1:1でマッチングした。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出するため、Cox比例ハザード回帰モデルを用いた。性別によるサブグループ解析およびさまざまな疫学的設定での感度分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象は、成人ADHD患者1万7,234例(研究参加時の平均年齢:29.4±10.8歳、女性:9,079例[52.7%])。・MPH群とSSRI群におけるアウトカムのリスクに差は認められなかったが、SSRI群では、頭痛リスクが低かった(HR:0.50、95%CI:0.24〜0.99)。・fluoxetine群とエスシタロプラム群における感度分析では、fluoxetine群はエスシタロプラム群よりも、高血圧(HR[1:nマッチング]:0.26、95%CI:0.08〜0.67)、脂質異常症(HR[1:nマッチング]:0.23、95%CI:0.04〜0.81)のリスクが低かった。 著者らは「うつ病を併発した成人ADHD患者に対するSSRI+MPH併用療法は、MPH単独と比較し、有害事象の有意な増加は確認されなかった。SSRI併用は、頭痛リスクの低下と関連している可能性が示唆された」と結論付けている。

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精神科病床数はどのくらい必要なのか〜メタ解析

 チリ・ディエゴポルタレス大学のAdrian P. Mundt氏らは、精神科病床の必要数を推定し、これが時間経過とともにどのように変化したかを調査したうえで、実際の病床数との比較を行った。Psychological Medicine誌オンライン版2024年9月26日号の報告。 2022年9月13日までに公表された研究を、PubMed、Embase classic、Embase、PsycINFO、PsycIndex、Open Grey、Google Scholar、Global Health EBSCO、Proquest Dissertationsより検索した。対象研究には、精神科入院病床の必要数の推定を検討した研究を含めた。必要推定値、入院期間、推定年を抽出した。必要推定値は、中央値および四分位範囲(IQR)を用いて統合した。また、同じ時間と場所における必要推定値と実際の病床普及率を算出した。 主な結果は以下のとおり。・98件の推定値を含む65件の研究が特定された。・病床の需要推定値は、2000年まで低下傾向であったが、その後安定していた。・2000年以降の最新研究26件(入院期間未指定病床:15件、短期入院病床:7件、長期入院病床:4件)の推定値データを統合した。・人口10万人当たりの必要推定中央値は、入院期間未指定病床47(IQR:39〜50)、短期入院病床28(IQR:23〜31)、長期入院病床10(IQR:8〜11)であった。・2000年以降の必要推定値と実際の病床普及率の中央値は1.8(IQR:1.3〜2.3)であった。 著者らは「歴史的に、精神科病床の必要推定値は、2000年ごろまで減少していたが、それ以降は安定しており、実際の病床数よりも低値から高値に変化していた。病床数のさらなる削減を推奨している場合、この政策を見直す必要性が示唆された」とまとめている。

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幸福感が脳卒中や心筋梗塞からあなたを守る

 幸福感が高い人ほど、脳卒中や心筋梗塞のリスクが低いことを示唆するデータが報告された。中国科学技術大学脳卒中センターのWen Sun氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Heart Association」に9月18日掲載された。 論文の上席著者であるSun氏は、「われわれの研究結果は、人々の精神的な健康を高めることが心臓や脳の病気の予防に不可欠な要素であることを意味しており、健康管理への総合的なアプローチの重要性を支持するものと言える」と述べている。さらに同氏は、「医療専門家は、患者の幸福を高める効果的な方法として、習慣的な身体活動、社会活動、ストレス管理テクニックを推奨するなど、生活満足度と幸福感を向上させる戦略を、日常のケアの一部として含めることを検討する必要があるのではないか」とも付け加えている。 この研究は、英国の一般住民を対象に行われている大規模疫学研究「UKバイオバンク」の参加者、12万1,317人(平均年齢56.56±8.15歳、男性45.03%)のデータを用いて行われた。参加者の幸福感は、UKバイオバンク研究登録時に行われていた調査票の回答を基に把握した。具体的には、家族、友人関係、健康、仕事、暮らし向きに関する幸福感や満足感などを、6段階のリッカートスコアで判定して定量的に評価した。 中央値11.77年の追跡期間中に、脳卒中5,990件、慢性虚血性心疾患9,177件、心筋梗塞6,462件、心不全3,323件が発生。結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒習慣、民族、腎機能、基礎疾患、血圧・脂質・血糖管理のための薬剤処方など)を調整後、幸福感のスコアが1標準偏差高いごとに、脳卒中(ハザード比〔HR〕0.89〔95%信頼区間0.87~0.91〕)、慢性虚血性心疾患(HR0.90〔同0.88~0.92〕)、心筋梗塞(HR0.83〔0.81~0.85〕)、心不全(HR0.90〔0.87~0.93〕)のリスクが有意に低下することが示された。 また、幸福感のスコアに基づき4群に分け、スコアが最も低い群を基準として比較すると、最もスコアの高い群は、脳卒中は45%、慢性虚血性心疾患は44%、心筋梗塞は56%、心不全は51%、それぞれ低リスクであることが分かった。さらなる分析の結果、幸福感の高い人は、より健康的なライフスタイルを維持していて、慢性炎症のレベルが低いことが明らかになった。Sun氏は、「これらの結果は、感情や心理的な健康が身体的な健康に及ぼす影響力の強さを強調しており、これまで十分に理解されていなかった複雑な生物学的メカニズムに光を当てるものだ」と総括している。 本研究には関与していない米国心臓協会(AHA)のGlenn Levine氏は、「報告された研究結果は、精神的健康と心血管のリスクとの関連性を具体的に示している。精神的健康に関してはこれまで当然のことながら、うつ病やストレスなどのネガティブな事象が研究テーマとなっていた。しかしこの研究は、人々の幸福感というポジティブな面の重要性を明示した」と述べている。

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映画「路上のソリスト」(その2)【「不幸」になる権利はあるの?私たちはどうすればいいの?(ホームレスの自由権)】Part 1

今回のキーワード浮浪の罪医療保護入院アイデンティティ幸せの押し付け保護法益友情前回(その1)に、映画「路上のソリスト」を通して、ホームレスが保護を拒む原因は、認知機能の低下によって、自由がなくなること、清潔にしなければならないこと、そして先々のことを考えなければならないことがすべてストレスになるからであることがわかりました。今回(その2)は、このホームレスの心理を踏まえて、法的、そして人道的な観点から、ホームレスが保護を拒む権利、つまりホームレスの自由権について掘り下げます。そして、精神医療はどこまでその「自由」に介入すべきか、私たちはどうすればいいかという難題に挑戦してみましょう。ホームレスを強制的に保護できないわけは?なかなか話が通じないナサニエルを見て、ロペスは支援センターのスタッフに「統合失調症だろ?」「彼を救うには、拘束して強制的に薬を飲ませるべきだ」と訴えます。薬を飲めばナサニエルは話が通じるようになるとロペスは考えていたのでした。実際のところ、どうなんでしょうか?ここから、ホームレスを強制的に保護できない理由を、法的な観点と人道的な観点の2つに分けて考えてみましょう。(1)法的な観点ー違法であるから支援センターのスタッフは、ロペスに「身に差し迫った危険がないと、薬の服用を強制することはできない」と毅然として答えます。まず法的な観点として、自傷他害のおそれがなければ、強制的な治療や入院は違法であるからです。もちろん日本では、ホームレスとして路上で生活すること自体、軽犯罪法の浮浪の罪に当たる可能性があります。しかし、精神障害による認知機能の低下が疑われる場合、「働く能力がありながら」というこの罪の要件を満たしていないことになり、罪には問えません。また、日本には家族等の同意による医療保護入院という制度はありますが、ホームレスのように家族と疎遠である場合は同意は得られないでしょう。そもそも、ナサニエルは、未治療の期間が長いため、薬物治療によって認知機能が劇的に改善する可能性は極めて低いです。前回(その1)に、ナサニエルは自由を得るためにホームレス生活の不自由さに納得していると説明しましたが、これはもはや彼の生き方、アイデンティティであると言えます。つまり、彼は「ホームレスとしてのアイデンティティ」が固まっているため、ロペスの目論見通りにはならないということです。つまり、ホームレスは、精神障害であると同時に、生き方の問題になっていることがわかります。これは、彼らの自由権です。本来人間は、他人に害を与えない限り自由に生きていく権利があります。だからこそ、ホームレスを強制的に保護することが違法なのです。なお、薬物治療には鎮静効果があり、認知機能は劇的に改善しなくても、大人しくはなります。よって、本人が望んでいなくても自傷他害のおそれがある場合に限っては、強制的な治療が合法になるのです。もちろん、冒頭でも触れたように、衛生上や臭いの問題、さらには治安の問題もあるため、彼らの存在が社会にとって迷惑だという厳しい意見はあるでしょう。しかし、騒乱罪や風俗犯罪ほど社会秩序が乱れるという具体的で明らかな不利益が起きているわけではないです。よって、保護法益(法によって守られる利益)としても弱いため、強制的な保護、言い換えれば排除することはやはり違法です。ただし、映画では、「町を一掃する」という名目で、ロサンゼルスのホームレスたちが、彼らの持ち物から「窃盗」の罪で次々と逮捕されるシーンがありました。これは、ホームレスのたまり場が、違法薬物の売買などを蔓延させ、殺人を頻繁に招いている深刻な場合です。これは、非人道的ではありますが、明らかな不利益が起きているため、違法とまでは言えなくなります。次のページへ >>

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映画「路上のソリスト」(その2)【「不幸」になる権利はあるの?私たちはどうすればいいの?(ホームレスの自由権)】Part 3

ホームレスにどうしたらいいの?ロペスは、「助けてるつもりだった」「でも、助けようとしていた本人に敵意を持たれてる」と悩み、元妻に打ち明けます。すると、彼女は「必要な時にそばにいる友達でいて」と助言するのです。このセリフはまさに、ロペスとナサニエルの関係だけでなく、ロペスと元妻の関係もほのめかしているようです。ラストシーンでは、ロペスは仲直りの印として、ナサニエルと握手します。この握手は、ナサニエルが「自分の手は汚いから」と握手を拒んだ最初のシーンとは対照的で感動的です。ナサニエルは、いろいろあったけどロペスなら自分を受け入れてくると思えるようになったのでした。つまり、ホームレスへの最善の対応は、本人が困っていると決めつけて干渉するのではなく、困っていても関係ないと無関心になるのでもなく、本人が困っていると言ってきたらできることを支援することでしょう。これは、家族でもなく、他人でもなく、友達の関係です。そんな社会になることを願うという、この映画のメッセージのように思えてきます。このように自由権の視点で考えると、もちろんホームレスが増えていく社会は危ういわけですが、逆にホームレスがまったくいない社会も危ういように思えてきます。「路上のソリスト」とは?ロペスは、離婚して一人寂しく暮らしていました。そして、インターネットの普及によって、彼が勤務する新聞社にはリストラの波が押し寄せていました。「ソリスト」とは独奏者という意味で、もちろんナサニエルを指しています。同時に実は、もう1人の「路上のソリスト」として、人生の路頭に迷う孤独なロペスでもあることを暗示しているようです。そんななか、2人は出会うのです。ラストシーンでは、ベートーベンのコンサートを、ナサニエルの姉、ナサニエル、ロペス、そしてロペスの元妻が横並びで一緒に聴いています。ナサニエルが路上からアパート暮らしをするようになり、疎遠だった姉に助けを求めるようになったのと同じように、ロペスが元妻とよりを戻すことをほのめかしているように見えます。ロペスがナサニエルの人生に影響を与えたのと同じように、ナサニエルもまたロペスの人生に影響を与えたのでした。この映画は、ナサニエルの物語であると同時に、ナサニエルと深くかかわることで変わっていったロペスの物語でもあります。テーマは、ホームレス問題であると同時に友情でもあります。最後のロペスによるナレーションで、「統合失調症は友達ができると社会性が増すという論文がある」と紹介され、締めくくられます。これは、統合失調症であるナサニエルだけでなく、そうではないロペスにも当てはまるという、この映画のもう1つのメッセージでしょう。1)「ホームレス消滅」p.60、p.219、p.240、p.250、p.256:村田らむ、幻冬舎新書、20202)「ルポ路上生活」pp152-154、pp160-162:國友公司、彩図社、20233)「ホームレス収容所で暮らしてみた~台東寮218日貧困共同生活~」p.10、p.45:川上武志、彩図社、2021<< 前のページへ■関連記事映画「路上のソリスト」(その1)【それが幸せ?なんで保護されたくないの?(ホームレスの心理)】Part 1ドキュメンタリー「WHOLE」(前編)【なんで自分の足を切り落としたいの!?(身体完全性違和)】Part 1

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統合失調症患者の10年間にわたる心血管リスク

 統合失調症患者は、平均寿命が短く、その主な死因は心血管疾患となっている。精神症状、認知機能、心血管疾患との関連は十分に明らかになっておらず、性差に関する研究も不十分である。中国・天津医科大学のXiaoying Jin氏らは、統合失調症の男性および女性患者の特徴と10年間の心血管リスクとの関連を調査した。Journal of Neural Transmission誌オンライン版2024年10月10日号の報告。 対象は、慢性期統合失調症患者802例。すべての患者より空腹時の静脈血を採取し、関連する糖脂質代謝指標を測定した。精神症状の評価には、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)、認知機能の評価には、神経心理検査アーバンズ(RBANS)、10年間の心血管リスクの推定には、フラミンガムリスクスコア(FRS)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・すべての患者における10年間の平均心血管リスクは、11.76±8.99%であった。・10年間の心血管リスクが中程度以上の患者の割合は、52.8%であった。・多変量線形回帰分析では、FRSは、BMI、血圧、血糖、総コレステロール、トリグリセライドの上昇とともに増加し、HDLレベルとの逆相関が示唆された。・一般的な精神病理学的スコアとFRSとの負の相関が認められた(男性:B=−0.086、p=0.013、女性:B=−0.056、p=0.039)。・男性において、陰性症状(B=−0.088、p=0.024)とPANSS合計スコア(B=−0.042、p=0.013)は、FRSとの負の相関が認められた。・60歳以上の患者では、一般的な精神病理(B=−0.168、p=0.001)とPANSS合計スコア(B=−0.057、p=0.041)は、FRS低下と関連し、即時記憶(B=0.073、p=0.025)は、FRS上昇と関連していた。 著者らは「統合失調症患者は、心血管疾患の発症リスクが高く、10年間の心血管リスクは、女性よりも男性で高くなることが確認された。FRSと精神症状との関連は、性差が大きく、陰性症状は男性のみでFRSとの負の相関が認められた」と結論付けている。

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難聴は認知機能の低下につながる?

 フランスの大規模研究において、成人の聴覚障害(難聴)は認知症と関連することが明らかにされた。論文の筆頭著者であるパリシテ大学(フランス)のBaptiste Grenier氏は、「認知機能低下がもたらす大きな負担と、認知機能低下を治癒する治療法がないことを考え合わせると、修正可能なリスク因子を特定することが重要だ」との考えを示している。この研究結果は、「JAMA Network Open」に10月1日掲載された。 この研究でGrenier氏らは、2012年1月1日から2020年12月31日の間に募集されたCONSTANCESコホート研究参加者6万2,072人(45〜69歳、平均年齢57.4歳、女性52%)のデータの縦断的解析を行い、客観的に測定された難聴と認知機能との関連を評価した。これらの研究参加者の認知機能は、試験登録時に5種類の検査から成る認知機能評価バッテリーにより評価されていた。主成分分析により算出された認知機能スコアが分布の25パーセンタイル以下である場合を認知機能障害があると判断された。 参加者の49%は正常な聴力であったが、38%(2万3,768人)は軽度難聴、10%(6,012人)は日常生活に支障を来たす難聴(以下、重度難聴)があるが補聴器は未使用、3%(1,668人)は補聴器を使用していた。認知機能障害が認められた参加者の割合は、正常な聴力で16%、軽度難聴で27%、重度難聴で37%であり、難聴の重症度が上がるほど高かった。多変量解析からは、軽度難聴と重度難聴は認知機能障害のリスク増加と関連することが示され、オッズ比は、それぞれ1.10(95%信頼区間1.05〜1.15)と1.24(同1.16〜1.33)であった。重度難聴の人の間では、補聴器の使用の有無により、認知機能障害のリスクに有意差は認められなかった。 感度分析では、うつ病の有無に関わりなく難聴と認知機能障害との間に関連が認められたものの、うつ病がある場合での関連はより強いことが示された。また、補聴器の使用と認知機能障害の関連はうつ病のある参加者においてのみ見られた(オッズ比0.62、95%信頼区間0.44〜0.88)。このことから研究グループは、補聴器はうつ病のある重度難聴患者の認知機能障害リスクを軽減する可能性があるとの考えを示している。 Grenier氏らは、「難聴の人は社会的に孤立するだけでなく、聴覚入力のない期間が長いために思考力が低下する可能性がある」との考えを示している。それでも同氏らは、補聴器の使用と認知機能低下との関連については統一見解が得られておらず、さらなる研究が必要だとして、「重度難聴患者に対する補聴器は、認知機能の低下を緩和するためではなく、生活の質(QOL)に対する潜在的な利益に基づいて処方されるべきだ」と主張している。

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長いスクリーンタイムは子どものメンタルヘルス症状と関連

 9歳と10歳の子ども約1万人を2年間追跡した研究で、テレビやその他のスクリーンの視聴時間(以下、スクリーンタイム)の長さは抑うつなどのメンタルヘルス症状のリスク上昇と関連することが明らかにされた。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のJason Nagata氏らによるこの研究の詳細は、「BMC Public Health」に10月7日掲載された。Nagata氏は、「スクリーンタイムにより、身体活動、睡眠、対面での交流、抑うつや不安を軽減するその他の行動に費やされる時間が失われている可能性がある」と述べている。 Nagata氏らは、ティーンの間でメンタルヘルスに問題を抱える者が増えていると話す。同氏らによると、2000年代初期に比べると現代のティーンはうつ病になる可能性が50%高く、2000年から2018年にかけて自殺リスクは30%も上昇したという。一方、スクリーンタイムも増加傾向にあり、トゥイーン(8~12歳の子ども)の1日当たりのスクリーンタイムは平均5.5時間であるが、ティーンになるとそれが8.5時間に増えるという。 研究グループは、メンタルヘルスに問題を抱える若年者の増加とスクリーンタイムの増加が関係しているのではないかと考えた。それを調べるために、米国の大規模研究であるABCD(Adolescent Brain Cognitive Development)研究に2016年から2018年の間に参加した9歳と10歳の子ども9,538人(平均年齢9.9±0.6歳、男児51.2%、白人52.4%)の2年間のデータを用いて、ベースライン時のスクリーンタイムと、親が子どもの行動チェックリストを用いて評価した過去6カ月間のメンタルヘルス症状との関連を検討した。 その結果、長いスクリーンタイムはあらゆるメンタルヘルス症状と関連していることが明らかになった。特に関連が強かったのは抑うつで、そのほか、行動障害、身体的症状、注意欠如・多動症(ADHD)との関連も強かった。抑うつ症状とスクリーンタイムとの関連を、スクリーンタイムのタイプ別に検討すると、ビデオ通話、テキストメッセージのやりとり、YouTubeなどの動画視聴、ビデオゲームとの間に有意な関連が認められた。スクリーンタイムと抑うつ症状、ADHD、反抗挑発症(反抗挑戦性障害)の症状との関連は、黒人よりも白人において、また、スクリーンタイムと抑うつ症状との関連は、アジア系よりも白人において、より強かった。 Nagata氏は、「人種/民族的マイノリティに属する子どもにとって、スクリーンやソーシャルメディアは、同じような背景や経験を持つ仲間とつながるための重要なプラットフォームとして、白人の子どもとは異なる役割を果たしている可能性がある」と話す。そして、「テクノロジーは、対面での人間関係に取って代わるのではなく、子どもが身近な環境を超えてサポートネットワークを拡大するのに役立つかもしれない」との考えを示している。 一方でNagata氏は、「もちろん、親が子どもをスクリーンから遠ざけ、より健康的な活動に向かわせる方法もある」とし、「米国小児科学会(AAP)は、それぞれの子どものニーズを考慮した家族メディア利用計画を作成することを推奨している」と述べている。

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日本人の産後うつ病、10年間にわたる男女の軌跡

 周産期うつ病は、妊娠中および産後において、女性だけでなく男性にも影響を及ぼす重大な懸念事項である。母親の産後うつ病は、広く研究されている。しかし、父親のうつ病は、有病率も高く、家族のウェルビーイングへの影響があるにもかかわらず、十分に研究が行われてこなかった。横浜国立大学の久保 尊洋氏らは、10年間にわたる日本の周産期および産後うつ病の軌跡を推定し、母親および父親におけるうつ病の相互影響を考慮したうえで、各軌跡での産後うつ病の症状を特定するため、本研究を実施した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2024年9月30日号の報告。 対象は、789組のカップル。出産前、産後5週目、産後3ヵ月目、6ヵ月目、1年後および以降毎年の抑うつ症状を評価するため、エジンバラ産後うつ病質問票を用いた。並行プロセス潜在クラス成長分析を用いて、対象者の抑うつ症状のパターンに従ってグループ化を行った。 主な結果は以下のとおり。・母親と父親の抑うつ症状の軌跡により、データに最も適合し、有益であった4つの軌跡が特定された。母親と父親の抑うつ症状悪化:6.5%母親は軽度、父親は中程度の抑うつ症状:17.2%母親は重度、父親は軽度の抑うつ症状:17.9%母親、父親共に軽度の抑うつ症状:58.4%・分散分析では、無快楽症、不安、うつ病のサブスケール全体で、クラスと親の相互作用が顕著であることが示唆され、抑うつ症状の明確なパターンが示唆された。・周産期うつ病は、重症度にかかわらず、妊娠中から認められることが多かった。・男性は、援助を求めにくいため、出産後にストレスを受けやすくなる可能性が示唆された。・母親の不安および抑うつ症状は、出産後10年間において高レベルであった。 著者らは「各カップルのニーズに対応するには、カスタマイズされたメンタルヘルスプログラムやエジンバラ産後うつ病質問票を用いたユニバーサルスクリーニングが推奨される。親の長期的な抑うつ症状の軌跡を理解し、家族のウェルビーイングやレジリエンスを向上させるための包括的なサポートが求められる」としている。

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統合失調症と2型糖尿病リスクとの関連〜最新メタ解析

 統合失調症患者におけるメタボリックシンドロームは、臨床医にとって常に重要な課題の1つとなっている。これまでの研究では、統合失調症患者は2型糖尿病発症リスクが非常に高いと報告されている。近年、新たな観察研究が次々と報告されており、臨床医が統合失調症と2型糖尿病との関係をより正確に理解する必要性が高まっている。中国・済寧医学院のKai Dong氏らは、新たな観察研究を統合し、統合失調症と2型糖尿病リスクとの潜在的な関連性を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Frontiers in Endocrinology誌2024年9月11日号の報告。 MeSH(Medical Subject Headings)と関連キーワードを用いて、PubMed、Cochrane Library、Embase、Web of Scienceより包括的に検索した。コホート研究およびケースコントロール研究におけるバイアスリスクの評価にはニューカッスル・オタワ尺度(NOS)、横断研究にはAHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality scale)を用い、スコアは元の研究の内容に基づいた。p>0.1かつI2が50%以下の場合、異質性が低いことを示す固定効果モデルを採用した。I2が50%超の場合、異質性が大きいことを示すランダム効果モデルを用いた。出版バイアスは、ファンネルプロットとEgger検定を用いて評価した。統計分析には、Stata統計ソフトウェアバージョン14.0を用いた。 主な結果は以下のとおり。・2004〜23年に公表された32件の観察研究(統合失調症患者:200万7,168例、非統合失調症患者:3,588万3,980例)をメタ解析に含めた。・統合分析では、統合失調症歴と2型糖尿病リスク増加との間に有意な関連が認められた(オッズ比[OR]:2.15、95%信頼区間[CI]:1.83〜2.52、I2=98.9%、p<0.001)。・女性の統合失調症患者(OR:2.12、95%CI:1.70〜2.64、I2=90.7%、p<0.001)は、男性患者(OR:1.68、95%CI:1.39〜2.04、I2=91.3%、p<0.001)と比較し、2型糖尿病リスクが有意に高かった。・WHO地域別では、EURO(欧州)は、WPRO(西太平洋)およびAMRO(米国)と比較し、2型糖尿病リスクが有意に高かった。【EURO】OR:2.73、95%CI:2.23〜3.35、I2=97.5%、p<0.001【WPRO】OR:1.72、95%CI:1.32〜2.23、I2=95.2%、p<0.001【AMRO】OR:1.82、95%CI:1.40〜2.37、I2=99.1%、p<0.001・フォローアップ期間では、20年超の群は、10〜20年の群および10年未満の群と比較し、2型糖尿病リスクが有意に高かった。【20年超】OR:3.17、95%CI:1.24〜8.11、I2=99.4%、p<0.001【10〜20年】OR:2.26、95%CI:1.76〜2.90、I2=98.6%、p<0.001【10年未満】OR:1.68、95%CI:1.30〜2.19、I2=95.4%、p<0.001 著者らは「統合失調症と糖尿病発症リスク増加との間に強い相関が示されており、統合失調症が2型糖尿病の独立したリスク因子である可能性が示唆された」と結論付けている。

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子供がコロナで入院すると子供も親も精神衛生に影響/国立成育医療研究センター

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連するスティグマは、抑うつ、不安、孤独感などの心身の苦痛を引き起こすことが世界的な問題となっている。しかし、COVID-19のスティグマと、それに関連する子供や親のメンタルヘルスへの影響を調査した研究はほとんどないのが現状である。 国立成育医療研究センター総合診療部の飯島 弘之氏らの研究グループは、COVID-19に感染した子供とその親に対して、COVID-19に関わるスティグマ(患者に対する「差別」や「偏見」)と、メンタルヘルスへの影響について調査を実施した。その結果、主観的スティグマがある子供と推定スティグマがある親は、1ヵ月後もメンタルヘルスにネガティブな影響がみられた。本研究結果は、Pediatrics International誌2024年1~12月号に掲載された。COVID-19に感染した親子は1ヵ月後も精神衛生に影響 対象は2021年11月~2022年10月までにCOVID-19に感染し、国立成育医療研究センターに入院した4~17歳の子供および0~17歳の子供の親。COVID-19に関わるスティグマとメンタルヘルス(抑うつ、不安、孤独感)に関する質問票調査を実施した。 対象者は47例の子供と111例の親で、そのうち入院中の調査では子供43例(91%)と親109例(98%)が質問票に回答し、1ヵ月後の追跡調査では、それぞれ38例(81%)と105例(95%)が回答した。 スティグマについては、隠ぺいスティグマ(ここでは覆い隠すことによって偏見や差別を回避しようとするスティグマのことを指す)と回避スティグマ(ここでは個人や集団が感染を回避しようとするスティグマのことを指す)についてそれぞれに、主観的スティグマと推定スティグマを確認するアプローチを採用した。メンタルヘルスを評価する質問として、抑うつ、不安、孤独について調査した。 主な結果は以下のとおり。【スティグマの保有】・入院中の調査では、COVID-19に感染した子供の79%、親の68%が高スティグマに該当し、1ヵ月後の調査でも、子供の66%、親の64%が高スティグマに該当していた。・推定スティグマの方が、主観的スティグマよりも、高スティグマグループの割合が高くなっていた。【メンタルヘルスへの影響】・子供の抑うつと孤独感、親の抑うつと不安は、いずれも、入院中と比べ、1ヵ月後の追跡調査で有意に低下していた。しかし、次のとおり、主観的スティグマがある子供と推定スティグマがある親においては、1ヵ月後においても、メンタルヘルスにネガティブな影響がみられた。(1)子供のスティグマと孤独感・抑うつとの関係・子供の主観的スティグマは、入院中の孤独感(平均差[MD]:2.32、95%信頼区間[CI]:0.11~4.52)と1ヵ月後の追跡調査での抑うつ(MD:2.44、95%CI:0.40~4.48)と関連していた。・推定スティグマは、メンタルヘルスとの間に有意な関係はみられなかった。(2)親のスティグマと抑うつ・不安・孤独感との関係・親の推定スティグマは、1ヵ月後の追跡調査で抑うつ、不安、孤独感と関連していた(MD:2.24[95%CI:0.58~3.89]、1.68[0.11~3.25]、1.15[0.08~2.21])。・主観的スティグマとメンタルヘルスとの間に有意な関係はみられなかった。 研究グループは、これらの調査結果から、「COVID-19に関連するスティグマは、退院後1ヵ月以上にわたって精神衛生に影響を及ぼし続けること、スティグマが精神衛生に与える影響は子供と親で異なることが示された」と結論付けている。

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がん患者における気持ちのつらさガイドライン 2024年版

がん患者の精神心理的苦痛の緩和に関する、本邦初の指針現在のがん医療では、がんの診断や治療の過程で患者に生じる精神心理的苦痛の緩和も重要な課題とされている。本ガイドラインでは、そのような「気持ちのつらさ」の緩和に関する9件の臨床疑問を設定し、推奨と解説を提示した。総論の章ではがん患者における気持ちのつらさの定義や疫学、評価法、薬物療法・非薬物療法などに関する知見を包括的に解説した。明日からの臨床に役立つことを目指した、充実した内容の1冊。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するがん患者における気持ちのつらさガイドライン 2024年版定価3,850円(税込)判型B5判頁数356頁発行2024年9月編集日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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統合失調症の多剤併用から単剤療法への切り替えによる副作用への影響〜SwAP試験II

 オランダ・マーストリヒト大学のMushde Shakir氏らは、統合失調症入院患者における抗精神病薬多剤併用療法から単剤療法への切り替えが、各種副作用にどのような影響を及ぼすかを調査した。Schizophrenia Research誌2024年12月号の報告。 対象となる副作用には、精神症状、自律神経症状、性機能障害、代謝系副作用、運動機能障害を含めた。オランダの精神科病院2施設の慢性期入院患者136例を対象に、9ヵ月間の並行ランダム化オープンラベル臨床試験を実施した。対象患者は、併用継続群または切り替え群のいずれかにランダムに割り付けた。切り替え群は、第1世代または第2世代抗精神病薬のいずれかを中止する3ヵ月間の漸減期間を設けた後、単剤療法を実施した。評価は、ベースライン時およびフォローアップ3ヵ月、6ヵ月、9ヵ月後に実施した。精神学的、神経学的、自律神経学的、性機能関連副作用の評価には、UKU副作用評価尺度を用い、運動機能障害の測定には、St. Hans評価尺度を用いた。各代謝パラメーターも収集した。 主な結果は以下のとおり。・併用継続群では、性欲にわずかな低下が認められた以外、副作用は時間経過とともにおおむね安定していた。・対照的に、切り替え群では、精神学的および自律神経学的症状が有意に軽減し、アカシジア、パーキンソン症状、ジスキネジアの改善が認められた。・切り替え群では、ジストニア、知覚異常、てんかん、性的症状に変化は認められなかった。・さらに、切り替え群では、BMIおよび体重も有意な減少が認められた。 著者らは「長期入院患者では、多剤併用療法から単剤療法へ切り替えることにより、運動機能障害や代謝系副作用など、さまざまな副作用の重症度軽減が期待できる」と結論付けている。

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食事の質や睡眠時間が抑うつ症状に及ぼす影響

 不健康な食生活や不健康な睡眠時間を含むライフスタイルは、うつ病の修正可能なリスク因子として広く知られている。中国・四川大学のYue Du氏らは、食事の質、睡眠時間、抑うつ症状との関連およびこれらの複合的な影響を調査するため、本研究を実施した。BMC Public Health誌2024年9月27日号の報告。 対象は、2007〜14年のNHANESデータから抽出された20歳以上の成人1万9,134人。不健康な食生活は、Healthy Eating Index-2015の平均スコア60パーセンタイル未満、不健康な睡眠時間は、夜間の睡眠時間が7時間未満または9時間以上とした。対象者をライフスタイル別に4群に分類した。分析には、関連変数をコントロールする重み付け多変量ロジスティック回帰を用いた。さらに、ロバスト性を評価し、潜在的な高リスク群を特定するため、層別化分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・全体のうつ病有病率は8.44%。・健康的な睡眠時間の基準を満たした人は56.58%、健康的な食生活の基準を満たした人は24.83%であった。・不健康な食生活および不健康な睡眠時間は、抑うつ症状と正の相関が認められた。【不健康な食生活】オッズ比(OR):1.40、95%信頼区間(CI):1.18〜1.67、p<0.001【不健康な睡眠時間】OR:1.94、95%CI:1.63〜2.31、p<0.001・健康的な食生活と睡眠時間の基準を満たした人と比較し、いずれかまたは両方が不健康な人は、抑うつ症状と有意な関連が認められた。【不健康な食生活+健康的な睡眠時間】OR:1.60、95%CI:1.20〜2.13、p=0.002【健康的な食生活+不健康な睡眠時間】OR:2.50、95%CI:1.64〜3.80、p<0.001【不健康な食生活+不健康な睡眠時間】OR:2.91、95%CI:2.16〜3.92、p<0.001・層別分析では、女性、中年、大学卒業以上の学歴、推奨される身体活動レベルを満たしていない人は、不健康な食生活+不健康な睡眠時間により、抑うつ症状に対する感受性が上昇することが示唆された。 著者らは「不健康な食生活と不健康な睡眠時間の人、とくに女性、中年、大学卒業以上の学歴、推奨される身体活動レベルを満たしていない人は、抑うつ症状を呈しやすいことが示唆された」と結論付けている。

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体重増加が抗精神病薬の継続に及ぼす影響〜メタ解析

 抗精神病薬のアドヒアランス不良や服薬中止は、統合失調症スペクトラム障害を含む精神疾患患者にとって、重要な臨床上の問題である。抗精神病薬誘発性体重増加は、アドヒアランス不良のリスク因子であると報告されているが、抗精神病薬誘発性体重増加とアドヒアランス不良や服薬中止との関連を調査したシステマティックレビューは、これまでなかった。カナダ・Centre for Addiction and Mental HealthのRiddhita De氏らは、これらの関連性を明らかにするため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Acta Psychiatrica Scandinavica誌オンライン版2024年9月17日号の報告。 重度の精神疾患患者におけるアドヒアランス不良、治療中止、他剤への切り替え、抗精神病薬誘発性体重増加による治療中止について調査したすべての研究を、MEDLINE、EMBASE、PsychINFO、CINAHL、CENTRALデータベースなどよりシステマティックに検索した。該当研究のメタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・メタ解析のために、2つの研究カテゴリーを特定した。・カテゴリー1には、BMIクラス/自己申告による体重増加の程度ごとに、抗精神病薬のアドヒアランスまたは治療中止を比較した3件の研究を含めた。・過体重または肥満、抗精神病薬使用に関連した体重増加を報告した患者は、抗精神病薬治療中の標準体重の患者または抗精神病薬誘発性体重増加を報告しない患者と比較し、抗精神病薬のアドヒアランス不良のオッズ比(OR)上昇が認められた(OR:2.37、95%CI:1.51〜3.73、p=0.0002)。・カテゴリー2には、各抗精神病薬間で副作用として報告された体重増加に関連した治療中止を比較した14件の研究を含めた。・オランザピンは、体重増加リスクの低い他の抗精神病薬と比較し、アドヒアランス不良または治療中止の可能性が、3.32倍(95%CI:2.32〜4.74、p<0.00001)に増加した。・同様に、体重増加リスクが中程度の抗精神病薬(パリペリドン、リスペリドン、クエチアピン)は、体重増加リスクが低い抗精神病薬(ハロペリドール、アリピプラゾール)と比較し、アドヒアランス不良または治療中止の可能性が、2.25倍(95%CI:1.31〜3.87、p=0.003)に増加した。・定性的なサマリーにおいても、これらの知見が確認された。 著者らは「抗精神病薬誘発性体重増加は、服薬アドヒアランス不良や治療中止に影響を及ぼし、体重増加リスクの高い薬剤は、服薬アドヒアランス不良や治療中止と関連していることが示唆された。これらの結果を確認するためにも、追加試験が必要である」と結論付けている。

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半減期が短く持ち越し効果が少ない不眠症治療薬「クービビック錠25mg/50mg」【最新!DI情報】第25回

半減期が短く持ち越し効果が少ない不眠症治療薬「クービビック錠25mg/50mg」今回は、オレキシン受容体拮抗薬「ダリドレキサント塩酸塩(商品名:クービビック錠25mg/50mg、製造販売元:ネクセラファーマジャパン)」を紹介します。本剤は新規のデュアルオレキシン受容体拮抗薬であり、不眠症患者の過剰な覚醒状態を抑制し、睡眠状態へと移行させることが期待されています。<効能・効果>不眠症の適応で2024年9月24日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはダリドレキサントとして1日1回50mgを就寝直前に経口投与します。患者の状態に応じて1日1回25mgを投与することもできます。入眠効果の発現が遅れる恐れがあるため、本剤の食事と同時または食直後の服用は避けます。<安全性>副作用には、傾眠(3%以上)、頭痛、頭部不快感、倦怠感、疲労、悪夢(いずれも1~3%未満)、浮動性めまい、睡眠時麻痺、悪心(いずれも1%未満)、幻覚、異常な夢、睡眠時随伴症(夢遊症、ねごとなど)、過敏症(発疹、蕁麻疹など)(いずれも頻度不明)があります。本剤は主に薬物代謝酵素CYP3Aによって代謝されるため、CYP3Aを強く阻害するイトラコナゾール、クラリスロマイシン、ボリコナゾール、ポサコナゾール、リトナビル含有製剤、コビシスタット含有製剤、セリチニブ、エンシトレルビルフマル酸を投与中の患者には禁忌です。また、中程度のCYP3A阻害作用を持つジルチアゼム、ベラパミル、エリスロマイシン、フルコナゾールなどは併用注意です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、過剰に働いている覚醒システムを抑制して、より自然に近い睡眠を促します。2.必ず寝る直前に服用してください。3.アルコールと一緒に服用しないでください。4.食事と同時または食事の直後には、服用しないでください。5.他の睡眠薬と一緒に服用しないでください。<ここがポイント!>不眠症は罹患頻度の高い睡眠障害の1つです。不眠は、眠気や倦怠感による生産性の低下や、概日リズム障害による不登校やうつ病の発症などを引き起こすため、公衆衛生上の問題となっています。オレキシンは、覚醒と睡眠の調整に深く関わっている神経ペプチドであり、オレキシンがオレキシン受容体に作用すると覚醒が維持されます。オレキシン受容体のサブタイプであるオレキシン受容体タイプ1(OX1R)とオレキシン受容体タイプ2(OX2R)を阻害すると、脳の覚醒促進領域の活動が低下します。ダリドレキサント塩酸塩は、OX1RおよびOX2Rの活性化を阻害する新規のデュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)であり、不眠症患者の過剰な覚醒状態を抑制し、睡眠状態へと移行させることが期待されます。ダリドレキサント塩酸塩は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬にみられる依存や耐性、反跳性不眠が少なく、高齢に対してせん妄の発現の心配もありません。なお、日本ではDORAとしてスボレキサントおよびレンボレキサントが発売されていますが、ダリドレキサント塩酸塩は他のDORAと比較して半減期が6.5時間程度(非高齢者)と短く、翌日への眠気の持ち越しが少ないと考えられます。日本人不眠症患者を対象とした国内第III相試験(ID-078A304試験)において、総睡眠時間(sTST)のベースラインからの変化量について、本剤50mg群とプラセボ群との差は、4週時に20.30分(95%信頼区間[CI]:11.39~29.20)であり、プラセボ群と比較して50mg群で有意にsTSTを延長しました(p<0.001、線形混合モデル)。同様に、4週時における睡眠潜時(sLSO)のベースラインからの変化量の本剤50mg群とプラセボ群との差は-10.66分(95%CI:-15.78~-5.54)であり、プラセボ群と比較して50mg群で有意にsLSOを短縮しました(p<0.001、線形混合モデル)。

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