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つらい咳症状への対応【非専門医のための緩和ケアTips】第68回

第68回 つらい咳症状への対応肺がんや呼吸器疾患などの代表的な症状である咳。ご本人のつらさはもちろん、周りで見ているのもつらい症状です。緩和するために、どういったことができるのでしょうか?今日の質問外来の肺がん終末期患者さん、咳が最もつらい症状のようです。咳込み始めるとなかなか止まらず、眠れないときもあるそうです。一般的な咳止め薬は処方しているのですが、ほかにできることはないでしょうか?緩和ケアの専門家として、もう少し症状の和らぐ薬ができてほしいと思う症状の1つが咳です。私も時々、上気道炎などの後に咳が長引くことがありますが、本当につらいものです。日中の咳は、仕事にまったく集中できなくなってしまいますし、夜間に咳がでると眠れないですよね。慢性の呼吸器疾患や肺がんのような病態による咳の苦しさは、想像もしたくないです。また、咳の難しい点が、ご質問のように咳止め薬を処方しても症状の改善が乏しいところです。細菌性肺炎のような感染症や、心不全のような病態であれば、それぞれに合わせた治療が基本となります。一方、進行した肺がんのように治療が難しい場合は、対症療法としての薬物療法やケアが中心になります。薬物療法は、デキストロメトルファンのような鎮咳薬を用いますが、効果が十分でない場合は、悪性腫瘍が原因であればオピオイドを用いる場合も多いです。コデインモルヒネを中心に使っていることが多いと思います。オピオイドの適切な投与量は確立していないものの、呼吸困難に準じて投与するエキスパートが多いでしょう。薬以外の対処としては、呼吸リハビリテーションが1つの選択肢です。気道を刺激しないように呼吸をゆっくり行う練習や、咳き込んだ後の息を整える練習などが効果を発揮する場合があります。そのほか、乾性咳嗽はアメやハチミツなどの甘いものを摂取したり、吸入などで喉などが乾燥しないようにしたりします。「何かをしたらすぐ改善した」というケースはあまりないのですが、いろいろな対処法を知っておくことは重要です。患者や家族にとって、医療者が悩みながら一緒に対処を考えてくれた、ということも大切なのだと思います。私も悩みながら対応しています。難しい症状である咳、皆さんはどのようにされているでしょうか?今回のTips今回のTips咳は難しい症状の1つ。薬が効きにくいので、薬以外の対応も工夫しながら取り組みましょう。

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ガイダンスに基づくオピオイド処方で死亡率が低減/BMJ

 オピオイド使用障害の患者では、「リスク軽減ガイダンス(Risk Mitigation Guidance; RMG)」に基づくオピオイド処方により、過剰摂取による死亡および全死因死亡の発生率が有意に低下し、違法薬物に代わる医薬品の提供は有望な介入策となる可能性があることが、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のAmanda Slaunwhite氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年1月10日号で報告された。カナダ・ブリティッシュコロンビア州の後ろ向きコホート研究 研究グループは、RMGに基づくオピオイド(モルヒネ)および精神刺激薬(デキストロアンフェタミン、メチルフェニデート)の処方が、薬物の過剰摂取と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)という公衆衛生上の二重の緊急事態下に、死亡と急性期治療のための受診に及ぼした影響を明らかにする目的で、住民ベースの後ろ向きコホート研究を行った(カナダ健康研究所[CIHR]などの助成を受けた)。 2020年3月27日~2021年8月31日に、カナダ・ブリティッシュコロンビア州で、RMG処方としてオピオイド(5,356例、年齢中央値38歳、女性36.4%)または精神刺激薬(1,061例、39歳、38.5%)の処方を受けたオピオイド使用障害または精神刺激薬使用障害の患者5,882例(535例が両方の処方を受けた)を解析に含めた。RMG精神刺激薬処方では予防効果はない 高次元傾向スコアマッチング法による解析では、RMGに基づく1日分以上のオピオイド処方を受けた患者(5,356例)は、同処方を受けていない対照群の患者(5,356例)と比較して、処方日から1週間以内の全死因死亡率(補正後ハザード比[HR]:0.39、95%信頼区間[CI]:0.25~0.60)および過剰摂取関連死亡率(0.45、0.27~0.75)が有意に低かった。 一方、RMGに基づく1日分以上の精神刺激薬処方を受けた患者(1,061例)と、同処方を受けていない対照群の患者(1,061例)の比較では、1週間以内の全死因死亡率(補正後HR:0.50、95%CI:0.20~1.23)および過剰摂取関連死亡率(0.53、0.18~1.56)の低下について、いずれも有意差を認めなかった。 また、RMGオピオイド処方による1週間以内の死亡の予防効果は、特定の週に処方された薬剤の日数が多いほど高くなった。RMGオピオイド処方を4日分以上受けた患者は、対照群と比較して、全死因死亡(補正後HR:0.09、95%CI:0.04~0.21)および過剰摂取関連死亡率(0.11、0.04~0.32)が有意に低下し、いずれも1日分以上の処方よりも優れた。RMG精神刺激薬処方は全原因による急性期受診を抑制 RMGオピオイド処方は、あらゆる要因による急性期治療のための受診(オッズ比[OR]:1.02、95%CI:0.95~1.09)および過剰摂取による急性期治療のための受診(1.09、0.93~1.27)のいずれにも有意な変化をもたらさなかった。 また、RMG精神刺激薬処方は、あらゆる要因による急性期受診(OR:0.82、95%CI:0.72~0.95)を有意に低下させたが、過剰摂取による急性期受診(0.88、0.63~1.23)には影響しなかった。 著者は、「RMG処方を受けた人々の多くは、不安定な住宅事情と貧困の割合が不釣り合いに高いことから、劣悪な健康状態への寄与が示されている重層的で複雑な社会的・経済的な不平等を経験していることが示唆される」としている。

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鎮咳薬不足、増えた手間や処方優先患者は?/医師1,000人アンケート

 後発医薬品メーカーの不祥事などで医薬品供給不安が続いているなか、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザの流行が鎮咳薬不足に追い打ちをかけている。昨年9月には厚生労働省が異例とも言える「鎮咳薬(咳止め)・去痰薬の在庫逼迫に伴う協力依頼」1)の通知を出し、処方医にも協力を仰いだことは記憶に新しい。あれから3ヵ月が経ち、医師の業務負担や処方動向に変化はあったのだろうか。今回、処方控えを余儀なくされていることで生じる業務負担や処方を優先する患者の選び方などを可視化すべく、『鎮咳薬の供給不足における処方状況』について、会員医師1,000人(20床未満:700人、20床以上:300人)にアンケート調査を行った。最も入手困難な薬剤、昨夏から変わらず まず、鎮咳薬/鎮咳・去痰薬の在庫逼迫状況の理解について、勤務先の病床数を問わず全体の95%の医師が現況を認識していた。なお、処方逼迫について知らないと答えた割合が高かったのは200床以上の施設に勤務する医師(8%)であった。 次に入手困難な医薬品について、昨年8~9月に日本医師会がアンケート調査を行っており、それによると、院内処方において入手困難な医薬品名2,096品目の上位抜粋30品目のうち9品目が鎮咳薬/鎮咳・去痰薬であった2)。これを踏まえ、本アンケートでは鎮咳薬/鎮咳・去痰薬に絞り、実際に処方制限している医薬品について質問した。その結果、最も処方制限している医薬品には、やはりデキストロメトルファン(商品名:メジコン)が挙がり、続いて、チペピジンヒベンズ酸塩(同:アスベリン)、ジメモルファンリン酸塩(同:アストミンほか)などが挙げられた。この結果は1~19床を除く施設で同様の結果であった。処方が優先される患者、ガイドラインの推奨とマッチ? 鎮咳薬/鎮咳・去痰薬の処方が必要な患者について、2019年に改訂・発刊された『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン 2019』によると、“可能な限り見極めた原因疾患や病態に応じた特異的治療(末梢に作用する鎮咳薬や喀痰調整薬など)が大切”とし、中枢性鎮咳薬(麻薬性:コデインリン酸塩水和物ほか、非麻薬性:デキストロメトルファン、チペピジンヒベンズ酸塩ほか)の処方にはいくつか問題点があることを注意喚起しながらも、“患者の消耗やQOL低下をもたらす病的な咳の制御は重要であり、進行肺がんなど基礎疾患の有効な治療がない状況では非特異的治療は必要であるが3)、少なくとも外来レベルでは初診時からの中枢性鎮咳薬の使用は明らかな上気道炎~感染後咳嗽や、胸痛・肋骨骨折・咳失神などの合併症を伴う乾性咳嗽例に留めることが望ましい”と記している。よって、「高齢者」「疾患リスクの高い患者」への適切な処方が望まれるものの、不足している中枢性鎮咳薬を処方する患者の見極めが非常に重要だ。以下には、参考までにガイドラインのステートメントを示す。<ガイドラインでの咳嗽治療薬におけるステートメント>◆FAQ*1:咳嗽治療薬の分類と基本事項は 咳嗽治療薬は中枢性鎮咳薬(麻薬性・非麻薬性)と末梢性鎮咳薬に分類される。疾患特異的な治療薬はすべて末梢性に作用する。可能な限り原因疾患を見極め、原因に応じた特異的治療を行うことが大切である。中枢性鎮咳薬の使用はできる限り控える。*frequently asked question◆FAQ2:咳嗽治療の現状は さまざまなエビデンスが年々増加しているものの、咳が主要評価項目でなかったり評価方法に問題がある研究が多い。多種多様の治療薬選択における標準化はいまだ十分ではなく、臨床現場での有用性を念頭に本ガイドラインの改訂に至った。 では、処方の実際はどうか。本アンケート結果によると、20床未満の場合、2023年7月以前では「咳が3週間以上続く患者」「高齢者」「咳があるすべての患者」「処方を希望する患者」「喘息などを有する高リスク患者」の順で処方が多く、希望患者への処方が高リスク患者へのそれよりも上回っていた。しかし、12月時点では、「喘息などを有する高リスク患者」「咳が3週間以上続く患者」「高齢者」「処方を希望する患者」「咳があるすべての患者」と処方を優先する順番が変わり、希望患者への処方を制限する動きがみられた。一方、20床以上においては2023年7月以前では「高齢者」「咳が3週間以上続く患者」「処方を希望する患者」の順で多かったが、12月時点では、「咳が3週間以上続く患者」「高齢者」「喘息などを有する高リスク患者」の順で処方患者が多かった。このことからも、高齢者よりも咳が3週間以上続く患者(遷延性咳嗽~慢性咳嗽)に処方される傾向にあることが明らかになった。鎮咳薬不足による手間、1位は疑義照会対応 供給不足による業務負担や処方変化については、疑義照会件数の増加(20床未満:48%、20床以上:54%)、長期処方の制限(同:43%、同:40%)、患者説明・クレーム対応の増加(同29%、同17%)の順で医師の手間が増えたことが明らかになり、実践していることとして「患者に処方できない旨を説明」が最多、次いで「長期処方を控える」「処方すべき患者の優先順位を設けた」などの対応を行っていることがわかった。また、アンケートには「無駄な薬を出さなくて済むので、処方箋が一枚で収まるようになった(60代、内科)」など、このような状況を好機に捉える声もいくつか寄せられた。アンケートの詳細は以下にて公開中『鎮咳薬の供給不足における処方状況』<アンケート概要>目的:製造販売業者からの限定出荷が生じているなか、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザ等の感染症拡大に伴い、鎮咳薬などの在庫不足がさらに懸念されることから、医師の認識について調査した。対象:ケアネット会員医師 1,000人(20床未満:700人、20床以上:300人)調査日:2023年12月15日方法:インターネット

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市販薬の濫用が小学生に拡大、規制強化を検討【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第123回

2023年はコロナ禍が明け、通常の生活が戻った年でした。私個人としては、飲みに行ったり旅行に行ったりできるようになったことはとてもうれしく、働くことや生活することの楽しさが戻ってきたと感じました。しかし、人も物も環境もコロナ禍の前とまったく同じ状況に戻ったわけではなく、新しい対応に苦慮した薬剤師も少なくなかったのではないかと思います。若年者が多幸感を得る目的などで市販薬をオーバードーズ(過剰摂取)する問題はこのコラムでも何回も紹介していますが、状況は悪化して世間をさらに騒がせていて、新たな規制も検討されています。東京都目黒区の小学校で12月13日、児童2人が校内に持ち込んだ薬を過剰に摂取して体調不良を訴え、病院に救急搬送されていたことがわかった。警視庁幹部によると、いずれも搬送時に意識はあり、命に別条はないという。警視庁が薬を持ち込んだ経緯を調べている。(読売新聞オンライン 2023年12月15日付)過剰摂取したのが小学生!? しかも小学校で!? とびっくりしました。昨今は、スマホやタブレット、動画配信コンテンツなどが身近にあり、すぐにさまざまな情報が入手できる状況にあります。おそらく、小学生でも簡単に市販薬の過剰摂取の情報を入手できたのでしょう。しかし、万が一そのような情報に触れたとしても、実際に服用する医薬品が簡単に入手できてしまったということは大きな問題です。今回のニュースは小学生という点が衝撃的ではありますが、ずいぶん前から問題になっていて規制が強化されました。現在、濫用の恐れのある医薬品の具体的な成分としては、エフェドリン、コデイン、ジヒドロコデイン、プソイドエフェドリン、メチルエフェドリン、ブロムワレリル尿素があります。2023年4月1日よりコデイン、ジヒドロコデイン、メチルエフェドリンは鎮咳去痰薬に限らず総合感冒薬なども指定されました。薬機法施行通知では、購入者が高校生や中学生を含む子供である場合は、その氏名や年齢を確認するとともに使用状況を確認する旨の記載があり、これらが確認できない場合は販売を行わないとされています。しかし、これらの成分は一般用医薬品のうち第1類医薬品と第2類医薬品に分類されているため、インターネット販売も可能です。インターネット販売時の年齢や症状・購入目的の確認は簡単かつ性善説で設定されている場合が多く、結果として誰でも購入できてしまいます。これに関して、2024年に厚生労働省が若者の濫用防止に向け、市販薬を販売する際の規制強化を検討しているようです。子供が何らかの寂しい気持ちを抱えていたり、興味本位でよからぬ行動を起こしたりしそうなとき、薬剤師や登録販売者が医薬品の門番としてどう機能するのか、ここは腕の見せ所だと思います。ビシッと厳しい対応を示し、その対応をどこかで集積して学会などで発表してほしいなと思います。うまくいった例はぜひ広めてください。2024年はどんな1年になるのでしょうか。このコラムが少しでも皆さんの薬局の力になれるよう、頑張りたいと思います。

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石灰化大動脈弁狭窄症に、非侵襲的超音波療法は可能か/Lancet

 石灰化大動脈弁狭窄症は、一般に外科的または経カテーテル的な大動脈弁置換術(AVR)による治療が行われているが、重度の合併症や限られた余命のために適応とならない患者が多く、代替治療として非侵襲的治療法の可能性が示唆されている。フランス・パリ・シテ大学のEmmanuel Messas氏らは、大動脈弁の弁尖を修復する超音波パルスを照射する革新的な技術である非侵襲的超音波療法(NIUT)の評価を行い、安全かつ実行可能であることを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年11月13日号で報告された。欧州3施設の前向きコホート研究の6ヵ月データ 研究グループは、経胸壁的にNIUTを行う装置(Valvosoft device、Cardiawave製)の安全性と、石灰化した弁組織を軟化させることによる弁機能の改善効果を評価する目的で、前向き単群コホート研究を行った(Cardiawaveの助成を受けた)。 3ヵ国(フランス、オランダ、セルビア)の3つの施設で、新型コロナウイルス感染症の流行による中断を挟んだ2019年3月13日~2022年5月8日の期間に、高リスクの40例を登録した。 対象は、重度の症候性大動脈弁狭窄症(二尖弁を含む)を有し、外科的大動脈弁置換術(SAVR)および経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVR)の適応とならない成人患者であった。 主要エンドポイントは、30日以内の治療に関連した死亡および弁機能の改善とした。今回は6ヵ月後のデータの解析結果を報告した。 対象となった40例(平均年齢83.5[SD 8.4]歳、女性50%)のSociety of Thoracic Surgeons(STS)の平均スコアは5.6(SD 4.4)%であり、重度の合併症(冠動脈疾患45%、頸動脈疾患28%、うっ血性心不全30%、慢性腎臓病40%、不整脈55%)を伴っていた。2例で二尖弁を認めた。30日以内の治療関連死亡はない、弁機能も有意に改善 30日以内の治療に関連した死亡は発現しなかった。3例で、それぞれ1週間後、3.5ヵ月後、5.5ヵ月後に、Valvosoftを用いて追加のNIUTを施行したが、これらの患者は6ヵ月後の時点でも生存していた。また、生命を脅かすイベントおよび脳血管イベントの報告はなかった。 6ヵ月(180日)時点での全生存率は72.5%(95%信頼区間[CI]:56.0~83.7)であった。1例の死亡が188日目に追加で報告された。ミニメンタルステート検査(MMSE)で認知機能障害を検出した患者はいなかった(平均MMSEスコア:ベースライン24.2点、退院時24.5点、30日時26.0点)。188日目に、1例で非ST上昇型心筋梗塞を認めた。 弁機能の改善は6ヵ月間を通じて確認され、平均大動脈弁口面積(AVA)はベースラインの0.58(SD 0.19)cm2から追跡時には0.64(SD 0.21)cm2へと10%増加し(p=0.0088)、平均圧較差は41.9(SD 20.1)mmHgから38.8(17.2)mmHgへと7%低下した(p=0.024)。 6ヵ月時に、NYHA心機能分類クラスが25例中17例(68%)で改善し、7例(28%)で安定化していた。また、これらの患者ではカンザスシティ心筋症質問票(KCCQ)スコアが48.5(SD 22.6)点から64.5(SD 21.0)点へと33%改善した(有意差なし)。 1例で重篤な治療関連有害事象を認めた。この患者は97歳で、不快感を和らげるためにモルヒネ(1mg)を静脈内投与したところ、徐呼吸の結果として末梢酸素飽和度(SpO2)が一過性に89%に低下した(処置により迅速に回復し、6ヵ月の時点で生存)。非重篤な有害事象として、痛み、治療中の不快感、一過性の不整脈などがみられた。 著者は、「今回の初期結果は有望であり、より大規模の臨床試験で確認する必要がある」とし、「このNIUTの方法は、さらに最適化を進める必要があり、より多くの患者で安全性を確認した後、たとえば(1)中等度または無症候性の石灰化大動脈弁狭窄症でSAVRまたはTAVRを延期するため、(2)重度に石灰化した弁に対するTAVRの前処置として、評価される可能性がある」と指摘している。

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産後7日以内のオピオイド処方は乳児の短期予後に悪影響なし(解説:前田裕斗氏)

 産後の疼痛に対するオピオイド利用は、母乳に移行することで乳児に鎮静や呼吸抑制などの有害事象を及ぼす可能性があり、これまでにいくつかの報告がなされていた。一方、母乳に移行する量はごく少量であることがわかっており、本当に母体のオピオイド利用が乳児に対して有害事象をもたらすのか、短期的影響について確かめたのが本論文である。 出産後7日以内のオピオイド処方と、乳児の30日以内の有害事象の関係が検討された。結果として、主要アウトカムである再入院率に差は認められず、オピオイド処方群で救急受診は有意に高かったものの、乳児への有害事象はいずれについても両群で差を認めなかったことから、母体へのオピオイド処方は乳児に明らかな有害事象をもたらさないと結論付けられた。 研究手法は傾向スコアマッチングを用いた後ろ向きコホート研究であり、サイズも十分大きく、マッチング後の両群のバランスも取れていることから、今回計測されたTable 1に記載がある因子に関するバイアスは除けている。結果に信頼性のある研究ではあるが、本論文のDiscussionにもあるように、カナダ・オンタリオ州ではオピオイド(コデイン)が一般に購入できるとのことで、非オピオイド群でのオピオイド使用が実際には含まれていた可能性があり、他国で同様の研究が求められる。 日本では産後の疼痛にオピオイドを処方することはまずなく、処方のハードルも高いため本研究の結果を適用する機会は少ない。しかし、今回の研究結果から示されたように、オピオイドの処方が乳児に悪影響を及ぼさないのであれば、今後、日本でも産後疼痛の切り札としてオピオイドを使用する日が来るかもしれない。産科の臨床現場で誰しも一度は経験したことがあるような、疼痛が強く離床が全く進まない、育児技術の習得が大幅に遅れる例、特に喘息などでNSAIDが利用できない患者に対してオピオイドはよい適応となるだろう。

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身体活動が物質使用障害の治療に役立つ可能性

 飲酒による問題が生じているのに飲むのをやめられない状態や、違法薬物を用いている状態を指す「物質使用障害」から立ち直ろうとしている人に対して、身体活動がそれを後押しするように働くことを示唆するデータが報告された。ケベック大学およびモントリオール大学(カナダ)のFlorence Piche氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に4月26日掲載された。週に3日、1時間の中強度運動で有効の可能性があるという。 Piche氏らの研究は、物質使用障害に対する身体活動の効果を検討した43件の研究の報告を総合的に解析したもの。その結果、治療中の身体活動量の多さが、対象物質の使用量減少と関連していることを見いだした。同氏は、「私はかつて物質使用障害の人たちのためのセラピーハウスに運動生理学の専門家として勤務していたが、その時、この領域では運動療法の有効性があまり考慮されていないことに気付いた」と、研究の動機を語っている。 実際、過去の多くの研究は「禁煙」に対する身体活動の有効性に焦点を当てていたり、それ以外の研究も1種類の物質(例えばアルコールのみ)の使用障害に対する身体活動の有効性を検討していて、患者の多くが複数の物質への依存状態にあるという実態に即していない研究が多いとのことだ。そこでPiche氏らは今回、タバコ以外の多くの精神作用物質の使用障害に対する身体活動の影響をシステマティックレビューにより検討し、有効と考えられるとの結論を示した。同氏によると、物質使用障害の治療における身体活動による効果発現のメカニズムは、「複数の経路を介したものだと考えられる」という。 効果を得るための身体活動量は、それほど多いものでないことも分かった。多くの研究で、週に3回、約1時間の中強度運動を、約3カ月間継続することの影響を検討した結果として、有効性を示していた。では、身体活動量をより増やしたとしたら、より大きな効果を得られるのだろうか? Piche氏は、「その疑問に対しては、どの研究も答えを示していない」と話す。 解析対象となった43件の研究には、合計3,135人が参加していた。全体の約4割は米国からの報告で、約4分の1が中国からの報告だった。研究参加者には、アルコール依存状態の患者のほか、覚醒剤、コカイン、ヘロインなどの使用障害の患者が含まれていた。多くの研究で身体活動による物質使用の中止または使用量の減少が検討され、介入後の使用量の減少が報告されていた。また、身体活動による有酸素能力の向上や抑うつ症状の改善も報告されていた。 本研究には関与していない、米国の栄養と食事のアカデミーの元会長であるConnie Diekman氏は、「身体活動を行うと、多くの人は『健康になる』という目的意識が高まるとともに、多幸感のような感覚が生まれることもある。本研究のみでは因果関係を述べることはできず、このトピックに関するさらなる研究が求められるものの、物質使用障害から立ち直ろうとしている人々に対して身体活動は、確かに無視できない効果があるようだ」と話している。

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若年者でOTC薬の問題増加、濫用恐れのある医薬品の範囲拡大へ【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第107回

若年者のOTC医薬品の濫用が問題になっている、というのは今に始まったことではありませんが、具体的にその状況を想像したり解決策を考案したりできる薬剤師はそれほど多くはないでしょう。恥ずかしながら私もそうです。この4月より、濫用などの恐れのある医薬品の指定範囲が拡大されますので、現在の問題や議論を紹介します。厚生労働省は3月8日に開いた「医薬品の販売制度に関する検討会」で、若者の間で増加している鎮咳薬や総合感冒薬といったOTC薬の濫用について、本人確認などの販売方法や、複数購入の防止、包装単位や製品表示の変更といった対応策の議論に着手した。第1類と第2類のネット販売を解禁し、危険ドラッグの取り締まりを強化した14年以降、OTC薬で中毒を起こした救急搬送事例が「増加傾向にある」と指摘。現状では多くの濫用のおそれのある成分が、薬剤師などによる情報提供が努力義務とされる「指定第2類」に分類されているが、さらなる対策の必要性を投げかけた。(2023年3月9日付 RISFAX)記事にある「医薬品の販売制度に関する検討会」の第1回は2023年2月に開催され、現在の医薬品の販売方法などが紹介されました。第2回の今回は、若者のOTC医薬品の濫用による薬物依存治療を行う医師の資料が提供され、その切迫性が浮き彫りになりました。その医師による報告内容は以下のとおりです。コロナ禍でOTC医薬品の過量服薬による救急搬送が2倍に増加した。OTC医薬品を主たる薬物とする依存症患者が急増した。「過去1年以内にOTC医薬品の濫用経験がある」という高校生は約60人に1人(2021~22年の調査)。濫用する高校生は、男性より女性が多く、社会的に孤立している可能性が高い。日本のOTC医薬品は含有成分が多い。恐怖教育は有効ではなく、薬剤師・登録販売者による声かけなどのソーシャルスキル・アプローチが有効。高校生の1%以上がOTC医薬品の濫用経験があり、またこの2~3年で状況が悪化していると知り、現状にぞっとしたのは私だけではないはずです。濫用の恐れのある医薬品の具体的な成分としては、エフェドリン、コデイン、ジヒドロコデイン、プソイドエフェドリン、メチルエフェドリン、ブロムワレリル尿素があります。現在はコデイン、ジヒドロコデイン、メチルエフェドリンは鎮咳去痰薬に限る指定範囲ですが、2023年4月1日より、鎮咳去痰薬に限らず総合感冒薬なども指定範囲となります。これらの6成分は、一般用医薬品のうち第1類医薬品と第2類医薬品に分類されているため、インターネット販売も可能です。第2類医薬品は患者・購入者への情報提供は義務ではなく努力義務ですので、意外と軽いなと思います。一方で、薬機法施行通知には、購入者が高校生や中学生を含む子供である場合は、その氏名や年齢を確認するとともに使用状況を確認する旨の記載があり、これらが確認できない場合は販売を行わないとされています。検討会に出席した専門家からは、インターネットも実店舗も含め、販売歴の記録や本人確認をしなければ買えない仕組みの構築が必要というコメントがありました。今後は販売方法の変更、複数購入の防止、包装単位や製品表示の変更などの仕組みを変える検討が行われるのではないかと想像します。これから春になり新しい環境での生活が始まると、若い人たちには新しい誘惑があるかもしれません。この問題の周知や声かけの強化など、薬局ですぐにできることも抑止力の1つになると思います。

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第30回 市販薬にご用心!?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)患者さんの内服薬は処方薬以外も確認しよう!2)注意が必要な市販薬を知ろう!【症例】23歳女性。特記既往はなく、手術歴もない。仕事中に頭痛、嘔気を自覚した。しばらく様子をみていたが症状が改善せず、嘔吐も認めたため、仕事を早退し、外来を受診した。●来院時のバイタルサイン意識清明血圧108/61mmHg脈拍102回/分(整)呼吸18回/分SpO299%(RA)体温36.1℃中毒の入り口中毒患者さんはどのように来院するでしょうか。薬を過量に内服したことを自己申告ないし発見され来院する場合も多いですが、その他、意識障害、嘔気・嘔吐、頭痛、動悸、ふらつきなどを主訴に来院します。また、重篤な場合にはショック、痙攣、心停止状態で搬送されてくることもあります。今回は、どこでも来院しうる一見軽症そうにみえる中毒患者さんに関して取り上げます。市販薬の現状コロナ禍となり、自宅に解熱鎮痛薬や総合感冒薬を常備している方も多くなりました。発熱や咽頭痛を主訴に来院した患者さんに対して、アセトアミノフェンなどを処方するとともに、今後に備えて患者さん、ご家族へ市販薬を常備するようにオススメした方も少なくないと思います。適切に使用すれば基本的には問題ありませんが、内服量や方法を誤ってしまうと、いくら市販薬といえども危険なことはいくらでもあります。薬局やコンビニ、さらにはインターネット上で総合感冒薬などの市販薬はいくらでも入手可能です。規制がかかっている薬剤もありますが、実際のところ抜け穴はいくらでもあり、購入しようと思えば購入できてしまっているのが現状でしょう。注意が必要な市販薬処方薬ではベンゾジアゼピン系などの薬に注意が必要ですが、市販薬ではどのような薬剤が問題となっているのでしょうか。表11)が代表的な薬剤であり、みなさんもよくみかけると思います。実際に、救急外来で診療していると、これらの薬剤を過量に内服し、来院する方を多く経験するとともに、常備し乱用している方も少なくありません。これらの薬剤がなぜ問題なのか、代表的な2剤を中心に簡単に説明しておきましょう。表1 注意が必要な市販薬1)商品名:エスエスブロン錠(表2)成分は主に4つです。上から、オピオイド、エフェドリン、抗ヒスタミン薬、カフェインです。ジヒドロコデインは半合成オピオイドです。オピオイド受容体に結合し、中枢神経抑制作用や呼吸抑制作用を発揮し、高揚感や多幸感をもたらします。メチルエフェドリンは、エフェドリンの作用を抑えたものですが、アンフェタミン類に属し、中枢神経興奮作用や交感神経興奮作用を発揮します。これらの成分が含まれる薬剤を適正量以上に、また不用意に内服すると、他の成分と相互作用を及ぼし頭痛や嘔気・嘔吐、興奮などの症状、さらには意識障害やショック、痙攣、呼吸抑制などの重篤な病態を引き起こします。表2 エスエスブロン錠2)商品名:パブロンゴールドA(表3)エスエスブロン錠と共通している成分が多いことに気付くと思います。大きな違いとしてパブロン系の薬にはアセトアミノフェンが含有されているという点です。この点は非常に重要であり、アセトアミノフェンは多量に内服すると肝毒性があり、場合によっては肝不全に陥るリスクがあります(アセトアミノフェン中毒に関しては、以前の連載「第24回 風邪薬1箱飲んだら、さぁ大変」を参照してください。表3 パブロンゴールドAエスエスブロン錠は規制がかかっているため、本来は薬局などで購入する際は1瓶までです。これは販売元のホームページにも明記されています。また、値段も決して安くはないため、同成分が含まれ、比較的安価なパブロン系の薬剤を購入する流れがあります。パブロン系は規制がかかっていないため、多量に購入可能なのです(中国向けの転売目的で多量に購入されたニュースが今年に入ってから流れていましたよね)。市販薬を乱用している方は10代、20代も多く、最近の状況を知るためにはSNSも有用です。twitterで「ブロン」、「金パブ(パブロンゴールド)」、「メジコン」などで検索すると多くの投稿が閲覧できます。「市販薬中毒なんてそんなに多くないでしょ!?」、そう感じている先生はちょっとのぞいてみてください。本症ではどうだったか冒頭の症例はそもそも市販薬の中毒を疑わなければ診断は難しいかもしれません。実際に、初めは本人も薬を内服したことを話してくれませんでした。しかし、改めて確認すると職場のストレスなどを理由に市販薬を過量に飲んでしまったことを打ち明けてくれました。セルフメディケーションは大切です。しかし、一般用医薬品(OTC医薬品)を不適切に利用している方も少なくありません。「くすりもりすく」、これは処方薬だけでなく市販薬も含め常に意識し対応することが重要です。1)松本俊彦、他. 2020年全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患実態調査.2022.

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第149回 今の日本の医療IoT、東日本大震災のイスラエル軍支援より劣る?(後編)

2月6日に発生したトルコ・シリア大地震のニュースを見て村上氏は東日本大震災時のイスラエル軍の救援活動を思い出します。後編の今回は、現在の日本が顔負けのIoTを駆使したイスラエル軍の具体的な支援内容についてお伝えします。前編はこちら 仮設診療所エリアには内科、小児科、眼科、耳鼻科、泌尿器科、整形外科、産婦人科があり、このほかに冠状動脈疾患管理室(CCU)、薬局、X線撮影室、臨床検査室を併設。臨床検査室では血液や尿の生化学的検査も実施できるという状態だった。ちなみにこうした診察室や検査室などはそれぞれプレハブで運営されていた。一般に私たちが災害時の避難所で見かける仮設診療所は避難所の一室を借用し、医師は1人のケースが多い。例えて言うならば、市中の一般内科クリニックの災害版のような雰囲気だが、それとは明らかに規模が違いすぎた。当時、仮設診療所で働いていたイスラエル人の男性看護師によると、これでも規模としては小さいものらしく、彼が参加した中米・ハイチの地震(2010年1月発生)での救援活動では「全診療科がそろった野外病院を設置し、スタッフは総勢200人ほどだった」と説明してくれた。この仮設診療所での画像診断は単純X線のみ。プレハブで専用の撮影室を設置していたが、完全なフィルムレス化が実行され、医師らはそれぞれの診療科にあるノートPCで患者のX線画像を参照することができた。ビューワーはフリーのDICOMビューアソフト「K-PACS」を使用。検査技師は「フリーウェアの利用でも診療上のセキュリティーもとくに問題はない」と淡々と語っていた。実際、仮設診療所内の診療科で配置医師数が4人と最も多かった内科診療所では「K-PACS」の画面で患者の胸部X線写真を表示して医師が説明してくれた。彼が表示していたのは肺野に黒い影のようなものが映っている画像。この内科医曰く「通常の肺疾患では経験したことのない、何らかの塊のようなものがここに見えますよね。率直に言って、この診療所での処置は難しいと判断し、栗原市の病院に後送しましたよ」と語った。ちなみに東日本大震災では、津波に巻き込まれながらも生還した人の中でヘドロや重油の混じった海水を飲んでしまい、これが原因となった肺炎などが実際に報告されている。内科医が画像を見せてくれた症例は、そうした類のものだった可能性がある。診療所内の薬局を訪問すると、イスラエル人の薬剤師が案内してくれたが、持参した医薬品は約400品目にも上ると最初に説明された。薬剤師曰く「持参した薬剤は錠剤だけで約2,000錠、2ヵ月分の診療を想定しました。抗菌薬は第2世代ペニシリンやセフェム系、ニューキノロン系も含めてほぼ全種類を持ってきたのはもちろんのこと、経口糖尿病治療薬、降圧薬などの慢性疾患治療薬、モルヒネなども有しています」と説明してくれ、「見てみます?」と壁にかけられた黒いスーツカバーのようなものを指さしてくれた。もっとも通常のスーツカバーの3周りくらいは大きいものだ。彼はそれを床に置くなり、慣れた手つきで広げ始めた。すると、内部はちょうど在宅医療を受けている高齢者宅にありそうなお薬カレンダーのようにたくさんのポケットがあり、それぞれに違う経口薬が入っていた。最終的に広げられたカバー様のものは、当初ぶら下げてあった時に目視で見ていた大きさの4倍くらいになった。この薬剤師によると、イスラエル軍衛生部隊では海外派遣を想定し、国外の気候帯や地域ブロックに応じて最適な薬剤をセットしたこのような医薬品バッグのセットが複数種類、常時用意されているという。海外派遣が決まれば、気候×地域性でどのバッグを持っていくかが決まり、さらに派遣期間と現地情報から想定される診療患者数を割り出し、それぞれのバッグを何個用意するかが即時決められる仕組みになっているとのこと。ちなみに同部隊による医療用医薬品の処方は南三陸町医療統轄本部の指示で、活動開始から1週間後には中止されたという。この時、最も多く処方された薬剤を聞いたところ、答えは意外なことにペン型インスリン。この薬剤師から「処方理由は、糖尿病患者が被災で持っていたインスリン製剤を失くしたため」と聞き、合点がいった。ちなみにイスラエルと言えば、世界トップのジェネリックメーカー・テバの本拠地だが、この時に持参した医薬品でのジェネリック採用状況について尋ねると、「インスリンなどの生物製剤、イスラエルではまだ特許が有効な高脂血症治療薬のロスバスタチンなどを除けば、基本的にほとんどがジェネック医薬品ですよ。とくに問題はないですね」とのことだった。この取材で仮設診療所エリア内をウロウロしていた際に、偶然ゴミ集積所を見かけたが、ここもある意味わかりやすい工夫がされていた。感染性廃棄物に関しては、「BIO-HAZARD」と大書されているピンクのビニール袋でほかの廃棄物とは一見して区別がつくようになっていたからだ。大規模な医療部隊を運営しながら、フリーウェアやジェネリック医薬品を使用するなど合理性を追求し、なおかつ患者情報はリアルタイムで電子的に一元管理。ちなみにこれは今から11年前のことだ。2020年時点で日常診療を行う医療機関の電子カルテ導入率が50~60%という日本の状況を考えると、今振り返ってもそのレベルの高さに改めて言葉を失ってしまうほどだ。

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アセトアミノフェン含有製剤、薬剤性過敏症症候群を重大な副作用に追加/厚労省

 アセトアミノフェン含有製剤の添付文書について、2023年1月17日、厚生労働省が改訂を指示した。改訂内容は『重大な副作用』の項への「薬剤性過敏症症候群」の追記で、薬剤性過敏症症候群の国内症例を評価したことに基づく。症例の因果関係評価および使用上の注意の改訂要否について、専門委員の意見も聴取した結果、アセトアミノフェン含有製剤と薬剤性過敏症症候群との因果関係の否定できない国内症例が集積したことから、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。アセトアミノフェンの『重大な副作用』として薬剤性過敏症症候群が新設 該当医薬品は、アセトアミノフェン(経口剤、坐剤、注射剤)/トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン/サリチルアミド・アセトアミノフェン・無水カフェイン・クロルフェニラミンマレイン酸塩/サリチルアミド・アセトアミノフェン・無水カフェイン・プロメタジンメチレンジサリチル酸塩/ジプロフィリン・ジヒドロコデインリン酸塩・dl-メチルエフェドリン塩酸塩・ジフェンヒドラミンサリチル酸塩・アセトアミノフェン・ブロモバレリル尿素。 アセトアミノフェン含有製剤の添付文書の改訂は以下のとおり。重大な副作用薬剤性過敏症症候群:初期症状として発疹、発熱がみられ、更に肝機能障害、リンパ節腫脹、白血球増加、好酸球増多、異型リンパ球出現等を伴う遅発性の重篤な過敏症状があらわれることがある。なお、ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)等のウイルスの再活性化を伴うことが多く、投与中止後も発疹、発熱、肝機能障害等の症状が再燃あるいは遷延化することがあるので注意すること。アセトアミノフェンと「薬剤性過敏症症候群」症例*の集積状況(1)~(3)44例[うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例6例]【死亡3例(うち、医薬品と事象による死亡との因果関係が否定できない症例0例)】(5)3 例[うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例0例]【死亡0例】(9)1 例[うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例0例]【死亡0例】(4)、(6)~(8)、(10)は0例(1)アセトアミノフェン[経口剤]…カロナール原末ほか(2)アセトアミノフェン[坐剤]…カロナール坐剤小児用50ほか(3)アセトアミノフェン[注射剤]…アセリオ静注液1000mgバッグ(4)SG配合顆粒[一般名:ピラゾロン系解熱鎮痛消炎配合剤](5)トラムセット配合錠など  [一般名:トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合剤](6)カフコデN配合錠[一般名:ジプロフィリン・ジヒドロコデイン配合剤](7)ペレックス配合顆粒[一般名:非ピリン系感冒剤](8)小児用ペレックス配合顆粒[一般名:非ピリン系感冒剤](9)PL配合顆粒など[一般名:非ピリン系感冒剤](10)幼児用PL配合顆粒[一般名:非ピリン系感冒剤]*:医薬品医療機器総合機構における副作用等報告データベースに登録された症例

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低用量徐放性モルヒネ、COPD患者の慢性息切れを改善せず/JAMA

 重度の慢性的な息切れを伴う慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において、低用量徐放性モルヒネの毎日の使用はプラセボと比較して、治療開始から1週間後までで、最も重度な息切れに有意な改善は認められず、1日の平均歩数にも有意な変化はなかったことが、スウェーデン・ランド大学のMagnus Ekstrom氏らが実施した「BEAMS試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2022年11月22・29日合併号に掲載された。オーストラリアの無作為化プラセボ対照比較試験 BEAMS試験は、オーストラリアの20施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2016年9月~2019年11月の期間に患者の登録が行われた(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]などの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、COPDと診断され、呼吸器内科医によって確定された根本的な原因に対する至適な治療を行っても重度の慢性的息切れ(修正MRC息切れスケールのスコア3または4[「平坦な道を約100ヤード〈91.4m〉または数分歩くと息切れのため立ち止まる」「息切れがひどくて家から出られない」「衣服の着替えをする時にも息切れがする」])がみられる患者であった。 被験者は、徐放性モルヒネ8mg/日、同16mg/日、プラセボを1週間経口投与する群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けられ、ベースラインの受診時に手首にアクチグラフ装置が装着された。さらに、2週目と3週目にも、それぞれ徐放性モルヒネを1週目の用量に加えて8mg/日またはプラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられ、3週目にはモルヒネ8mg/日、同16mg/日、同24mg/日、同32mg/日、プラセボを投与する5つの群に分けられた。 主要アウトカムは、プラセボと比較した徐放性モルヒネ投与例における、患者報告による最も重度な息切れの強度の変化とされ、ベースライン(-3~-1日目)と投与開始1週目(5~7日目)の平均スコアを用いた数値スケール(0[なし]~10[最も悪いまたは最も強い])で評価した。副次アウトカムには、アクチグラフを用いた1日の歩数の変化が含まれ、ベースライン(-1日目)と3週目(19~21日目)の平均歩数が比較された。漸増された4つの用量で、平均1日歩数に差はない 156例(年齢中央値72歳[四分位範囲[IQR]:67~78]、女性48%)が主解析に含まれ、モルヒネ8mg群に55例、同16mg群に51例、プラセボ群に50例が割り付けられた。138例(48例、43例、47例)が1週目の投与を完了した。修正MRC息切れスケールのスコア3が121例(78%)、スコア4は35例(22%)だった。 1週目における最も重度な息切れの強度の変化は、モルヒネ8mg群とプラセボ群で有意な差はなく(平均群間差:-0.3、95%信頼区間[CI]:-0.9~0.4)、同16mg群とプラセボ群の間にも差は認められなかった(-0.3、-1.0~0.4)。 3週目における平均1日歩数の変化は、モルヒネ8mg群とプラセボ群(平均群間差:-1,453歩、95%CI:-3,310~405)、同16mg群とプラセボ群(-1,312歩、-3,220~596)、同24mg群とプラセボ群(-692歩、-2,553~1,170)、同32mg群とプラセボ群(-1,924歩、-4万7,699~921)のいずれにも有意な差はみられなかった。 治療関連有害事象は、1週目にモルヒネ8mg群の64%、同16mg群の78%、プラセボ群の48%で発現し、多くが一般的なモルヒネ関連有害事象(便秘、疲労、めまい、吐き気、嘔吐など)であった。有害事象による投与中止は、それぞれ2例、5例、0例で認められた。入院や死亡を含む重篤な治療関連有害事象は、全用量のモルヒネ群が139例中46例(33%、85件)、プラセボ群は17例中2例(12%、2件)でみられた。 著者は、「今後は、モルヒネは特定のCOPD患者に息切れの軽減をもたらすか、より高用量のモルヒネによって利益を得る患者は存在するかを検討する研究や、重度の息切れにおける短時間作用型オピオイドの役割を明らかにするための研究が必要である」としている。

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第135回 long COVIDに依存症薬naltrexone低用量が有望

依存症治療薬ナルトレキソン(naltrexone)低用量(LDN)を新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(Post COVID-19 Syndrome;PCS)患者52人に試しに2ヵ月分処方したところ調べた7項目のうち6つの改善が認められました1,2)。naltrexoneは50 mg投与でオピオイド(アヘン)遮断作用を担いますが、その10分の1未満の1~4.5 mgの低用量投与は独特の免疫調節活性をどうやら有し、low dose naltrexoneにちなんでLDNと呼ばれ、いつもの用量のnaltrexoneとは区別されています。LDNに特有の作用はオピオイド成長因子受容体(OGF)遮断、Toll様受容体4炎症経路阻害、マクロファージ/マイクログリアの調節、T/B細胞の阻害などによるらしく、数々の病気への効果が小規模試験や症例報告で示唆されています。たとえばいつもの治療が不十分な炎症性腸疾患(IBD)患者47人への投与で寛解を促す効果3)、今では筋痛性脳脊髄炎(ME)/慢性疲労症候群(CFS)と呼ばれる慢性疲労症候群(CFS)の患者3人への投与でその治療効果4)が示唆されています。また、関節リウマチ(RA)、線維筋痛症、多発性硬化症、疼痛症候群患者へのLDN投与では抗炎症薬が少なくて済むようになりました。アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(UCD)の感染症専門家John Lambert氏はライム病と関連する痛みや疲労の治療にLDNを使っていたことから、COVID-19罹患後症状へのLDNの使用を同僚に勧めました。するとすこぶる評判が良く、それではということで彼はCOVID-19罹患後症状、俗称long COVIDへのLDNのまずは安全性、さらには効果も調べる試験を計画しました2)。試験には52人が参加し、それらのうち38人がLDN服用を始めました。2人は有害事象を生じてLDNを中止し、36人が2ヵ月のLDN服用期間後の問い合わせに回答し、症状や体調の指標7つの変化が検討されました。結果は有望で、それら7つ中6つ(COVID-19症状、体の不自由さ、活力、痛み、集中、睡眠障害)の改善が認められました。気分は改善傾向を示したものの有意レベルではありませんでした。Lambert氏のライム病患者への使用目的と符合し、LDNは痛みに最も有効でした。今回に限らずLDNの慢性痛緩和効果はこれまでのいくつかの試験でも認められています。先立つ試験でも示唆されているとおりLDNはどうやら安全で、LDN服用中止に至る有害事象を生じたのは2人のみで、被験者のほとんど95%(36/38人)は無事にLDNを服用できたようです。今回の試験は対照群がないなどの不備があり、示唆された効果が全部LDNの手柄と判断することはできません。Lambert氏はLDNの効果の確かさを調べる大規模試験を計画しています。Lambert氏の他にもCOVID-19罹患後症状へのLDN の試験があります。米国ミシガン州のサプリメント企業AgelessRx社はCOVID-19罹患後症状患者の疲労の軽減や生活の質の改善を目当てとするLDNとNAD+併用の下調べ試験(pilot study)を実施しています5,6)。医薬品以外のCOVID-19罹患後症状治療の開発も進んでいます。その1つが嗅覚消失を脳刺激装置で治療する取り組みです7,8)。いわずもがな嗅覚消失はCOVID-19の主症状の1つであり、日にち薬で回復することも多いとはいえ一向に回復しないことも少なくありません。嗅覚や味覚の突然の変化を被ったCOVID-19患者およそ千人を調べた試験の最近の結果報告によると、COVID-19診断から少なくとも2年経つ267人のうち嗅覚消失が完全に解消していたのは5人に2人ほど(38%)で、半数超(54%)は部分解消にとどまっており、13人に1人ほど(7.5%)は全く回復していませんでした9)。そういった嗅覚消失患者の嗅覚の回復を目指して開発されている人工嗅覚装置は難聴を治療する人工内耳が脳で処理できる電気信号に音を変えるように匂いの信号を脳に移植された信号受信電極に送ります。それが匂い成分ごとに異なるパターンで脳の嗅球を刺激して匂いを把握できるようになることを目指します。販売に向けた協力体制も発足しており、そう遠くない未来、向こう5~10年に製品の発売が実現するかもしれません8)。参考1)O'Kelly B, et al. Brain Behav Immun Health. 2022;24:100485.2)Addiction drug shows promise lifting long COVID brain fog, fatigue / Reuters3)Lie MRKL, et al. J Transl Med. 2018;16:55.4)Bolton MJ, et al. BMJ Case Rep. 2020;13:e232502.5)AgelessRx Launches Pilot Post-COVID Clinical Trial / AgelessRx6)Pilot Study Into LDN and NAD+ for Treatment of Patients With Post-COVID-19 Syndrome(Clinical Trials.gov)7)Bionic nose could help people smell again / Nature8)WITH THIS BIONIC NOSE, COVID SURVIVORS MAY SMELL THE ROSES AGAIN / IEEE Spectrum9)McWilliams MP, et al. Am J Otolaryngol. 2022;43:103607.

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知っておきたい新しいオピオイド(1)タペンタドール【非専門医のための緩和ケアTips】第35回

第35回 知っておきたい新しいオピオイド(1)タペンタドール私が緩和ケアの仕事を始めた頃と比べ、臨床で活用できるオピオイドが増えています。今回は、国内承認が比較的最近で、使ったことのある方がまだ少ないと思われる「タペンタドール」についてお話しします。今日の質問「オピオイドといえばモルヒネ」という時代からすると、さまざまなオピオイドの選択肢が増えたことは良いのですが、使い分けがよくわかりません。先日、がん拠点病院から紹介されてきた患者さんは、タペンタドールというオピオイドを内服していました。どういった特徴のある薬剤なのでしょうか?タペンタドール(商品名:タペンタ)は、2014年に保険承認されました。緩和ケアを専門とする医療者には広く知られるようになった一方で、プライマリ・ケア領域では、まだ使用経験のない先生も多いでしょう。タペンタドールは「強オピオイド」に位置付けられる薬剤です。日本では徐放製剤のみが発売されており、適応は各種がんにおける中等度から高度の疼痛です。タペンタドールは薬理学的にはユニークな特徴があります。腎機能障害があっても使用ができ、便秘が少ないとされています。このあたりはモルヒネと比較して、好んで使用される特徴でしょう。オピオイドはμオピオイド受容体を介した鎮痛効果が中心ですが、タペンタドールはSNRI様作用も有しています。SNRIと聞いて抗うつ薬を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。緩和ケア領域では抗うつ薬を神経障害性疼痛に対する鎮痛補助薬として用います。タペンタドールはこの鎮痛補助役としての作用も有する、ユニークなオピオイドなのです。より薬理学的なポイントとしては、「CYP2D6」という酵素活性に影響を受けない代謝経路になっていることが挙げられます。これは他薬剤との併用の際に大切です。併用薬剤によっては代謝酵素に影響を及ぼし、作用が減弱したり逆に予想よりも強く出たり、といった相互作用が生じるのです。さらなる特徴は、オピオイドの濫用防止の加工がしてあることです。粉砕できないように加工されており、水に溶かすとネバネバのゼリー状になります。よって、経管投与ができません。注射薬もないので、内服が難しくなりそうな患者の場合は、早めに別のオピオイドに変更するマネジメントが必要になります。私がタペンタドールが最も適すると感じるのは、頭頸部がんの難治性がん疼痛の患者、抗真菌薬のような相互作用に注意が必要な薬剤をよく使う血液腫瘍の患者さんなどです。もちろん、こうした患者さんは内服が難しい状況にもなりやすいのでその見極めも必要です。そうした意味では、少し“上級者向け”のオピオイドといえるかもしれません。今回のTips今回のTipsタペンタドールはユニークな特性を持つ、少し“上級者向け”のオピオイド。

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第123回 ケタミンの依存性はどうやら低い

ケタミンは遡ること60年前の1962年に初めて合成されて長く麻酔薬として使われてきました。ケタミンはいまやすぐに効く抗うつ薬として研究や配慮を払った治療環境で使われることが増えていますが、いつもの治療で常用するとなると依存性が心配です。あいにくケタミンの依存性がどれほどかはその複雑な薬理作用などのせいで定まっていませんでしたが、先週水曜日にNature誌に掲載されたマウスでの新たな実験によると、依存性の恐れがある薬物に分類されているのとは裏腹にケタミンの依存性はどうやら低いようです1,2)。実験の結果、ケタミンは脳の側坐核(NAc)のドーパミンをコカインなどの依存性薬物と同様に一過性に増やすもののそれら依存性薬物でたいてい生じるシナプス可塑性を誘発しませんでした。ケタミンは側坐核と繋がる腹側被蓋野(VTA)のドーパミン放出神経をNMDA受容体遮断作用により脱抑制するものの、2型ドーパミン受容体の作用によってその脱抑制はすぐに打ち消されます。ドーパミンはそうしてすぐに消沈し、VTAやNAcでのシナプス可塑性は生じずに済み、依存を意味する振る舞いをマウスは示しませんでした。2019年に米国で承認されたJohnson & Johnson(J&J)社の治療抵抗性うつ病治療点鼻薬Spravatoの成分はその名前が示す通りケタミンの光学異性体S体・エスケタミン(esketamine)であり、ケタミンと同様にNMDA受容体遮断作用を有します3)。依存性(dependence)は服薬を突然中止したときや服薬量がかなり減ったときに生じる離脱症状/兆候で把握されます。Spravatoはケタミンのマウス実験結果と同様にどうやら依存性の心配は少ないらしく、その治療を止めてから4週間後までの観察で離脱症状は認められていません3)。ケタミンのもう1つの光学異性体R体の抗うつ効果も期待されており、米国のatai Life Sciences社の開発品PCN-101(R-ketamine、アールケタミン)はそのケタミンR体を成分とします。PCN-101は欧州で第II相試験が進行中です4)。大塚製薬はPCN-101の日本での権利をatai Life Sciencesの子会社Perception Neuroscienceから昨春2021年3月に手に入れており、日本での販売を目指して日本での臨床試験を担当します5)。J&Jもエスケタミンの日本での開発をどうやら進めており、臨床研究情報ポータルサイトによると治療抵抗性うつ病患者への同剤の国内での第II相試験が完了しています6)。S体やR体ではないただのケタミンも奮闘しており、たとえば今年初めにBMJ誌に掲載された比較的大規模なプラセボ対照無作為化試験結果では自殺願望の解消効果が認められています7)。その報告の論評者もまた依存性を懸念していますが8)、今回のマウスでの結果がヒトで検証されて依存性の懸念が晴れればエスケタミンがすでに期待の星9)となっているようにケタミンも治療抵抗性うつ病治療でのいつもの薬の地位をやがて手に入れることになるかもしれません。参考1)A short burst of reward curbs the addictiveness of ketamine / Nature2)Simmler LD,et al.Nature. 2022 Jul 27. [Epub ahead of print]3)SPRAVATO PRESCRIBING INFORMATION.4)atai Life Sciences announces FDA Investigational New Drug (IND) Clearance for PCN-101 R-ketamine Program / PRNewswire5)治療抵抗性うつ治療薬「アールケタミン」の日本国内におけるライセンス契約締結について/大塚製薬6)日本人の治療抵抗性うつ病患者を対象に,固定用量のesketamine を鼻腔内投与したときの有効性,安全性及び忍容性を検討するランダム化,二重盲検,多施設共同,プラセボ対照試験(臨床研究情報ポータルサイト)7)Abbar M,et al. BMJ. 2022 Feb 2;376:e067194.8)De Giorgi R, BMJ. 2022 Feb 2;376.9)Swainson J,et al. Expert Rev Neurother. 2019 Oct;19:899-911.

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がんの緩和ケア、放射線・神経ブロック治療普及のセミナー開催

 働くがん患者を企業と一緒に支援する厚生労働省の取り組み「がん対策推進 企業アクション」は、6月28日、「がん治療における緩和ケア」をテーマとしたメディア向けセミナーを開催した。これは、6月9日に厚生労働省が医療者への啓蒙と一般患者への説明用として、がんにおける緩和ケアを説明する資料1)を作成し、都道府県衛生主管部(局)、がん診療連携拠点病院等の病院長、日本医師会を通じて広報をはじめたことを受けたもの。資料は、心理的・精神的ケアを含めて診断時から緩和ケアが受けられること、痛みへの対応としてオピオイド等の使用だけでなく放射線治療や神経ブロック等の活用を促すこと、が主な内容となっている。 セミナーの冒頭では、がん対策推進 企業アクション議長の中川 恵一氏(東京大学 総合放射線腫瘍学講座 特任教授)が「日本国内では年間100万人ががんに罹患し、38万人が命を落としている。その3分の1は働く世代であり、この年代にも緩和ケアは重要なテーマ。日本はこの分野において遅れが目立つ」と述べた。「これまで、日本では治すことが最優先され、癒すという観点が後手になりがちだった。緩和ケアも進行がんの終末期患者を中心に行われてきたが、2006年に制定されたがん対策基本法に基づき、あらゆる種類・進行状態のがん患者に提供するよう医療者への働きかけを進めており、今回の資料作成もその一環だ」と説明した。加えて、「がんの疼痛緩和の基本はオピオイド等の処方だが、それが効かない場合には放射線治療や神経ブロックが有効であり、その周知や実施を進めることが患者のQOLの維持・改善のために必要だ」とした。 その後、沖縄徳洲会病院の服部 政治氏(疼痛治療科統括 部長)が「がん疼痛治療の現状」と題した講演を行った。服部氏が積極的に行っている疼痛緩和目的の神経ブロックは、全国の実施回数が年間300回と非常に少ない水準に留まっている。服部氏は「がんの疼痛には鎮痛薬の内服や皮下注、手術・放射線治療、そして神経ブロック療法・脊髄鎮痛法がある。治療初期は鎮痛薬、それが効かなくなったら放射線、最後に神経ブロックと直線的に各手法が提供されているのが現状」と説明した。そして、「疼痛緩和のためモルヒネを大量投与されているケースにおいて神経ブロックを行うことで痛みを軽減させ、モルヒネの投与量を10分の1程度まで減らせることが複数のデータで示されている。神経ブロックを施術したことで終末期患者が在宅診療に切り替えられた例もあるが、オピオイドの投与量は一気には減らせないため、大量投与になる前の初期から、複数の緩和ケアの手法を組み合わせて提供することが有効だ」と説明した。そして、現状の課題として「20年ほど前まで一般的だった神経ブロック・脊髄鎮痛法が行われなくなった結果、施術できる医師、研修できる施設が減っている。鎮痛薬に偏った日本における緩和ケアの課題感を共有し、人材育成を進めることが重要だ」と強調した。

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第116回 地域医療のパイオニアが院長だったクリニックでモルヒネ過剰投与、経緯や原因明らかにせず

DX以前の日本の光景に口があんぐりこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。暑いですね。節電要請に加え、KDDIの通信障害もあって、この土日は各方面、いろいろな意味でバタバタしていたようです。猛暑で熱中症患者が急増する中、コロナ患者も再び漸増傾向です。通信障害によってauの携帯電話が使用できないことで、救急医療や在宅医療などの現場にも少なからぬ影響が出たようです。自治体の中には消防車が「緊急時は自宅の固定電話や公衆電話、au以外の携帯電話から通報してください」と拡声器で呼びかけて回っていたところもありました。電力不足といい、電話がつながらない状態といい、DX以前の日本の光景に口があんぐりと開いてしまった週末でした。さて、今回は東京・国分寺市で起きたモルヒネ過剰投与事件を取り上げます。昔からよくある古典的な医療過誤ですが、古典的だけにいろいろ考えさせられることが多い事件です。40代女性医師と60代女性薬剤師を業務上過失致死疑いで書類送検必要量の100倍のモルヒネを高齢患者に処方して死亡させたなどとして、警視庁が東京都国分寺市の医療法人実幸会・武蔵国分寺公園クリニックの40代女性医師と、近隣の調剤薬局の60代女性薬剤師の2人を業務上過失致死の疑いで東京地検立川支部に書類送検していたことわかり、6月29日、各紙が一斉に報じました。送検は23日付で、2人は容疑を認めているとのことです。各紙報道等によると、昨年2月1日、都内の男性(93)が息苦しさを訴えてクリニックを受診。処方されたモルヒネ含有の内服薬を服用したところ、1週間後の2月8日にモルヒネ中毒で死亡したとのことです。警視庁の調べで、医師が電子カルテの入力を誤って必要量の100倍のモルヒネを処方した疑いが判明。一方、処方箋を受け取った薬剤師は処方内容をよく確認せずに薬を調剤した疑いがあるとのことです。医薬分業のセーフティーネット機能せず報道を読む限り、よくある処方箋に関する医療過誤です。ただ、医薬分業においては、重大な医療事故に至る前に、セーフティーネットが何重にも張り巡らされているはずです。今回はそれらがまったく機能していなかったようで、その意味でもとても深刻な事件と言えるでしょう。処方箋の記入ミスや電子カルテの入力間違いは誰にでも起こり得ます。仮に電子カルテに100倍のモルヒネという異常値が入力された場合、アラートが出るようなシステムではなかったのでしょうか?一方、処方箋を受け取った薬局の薬剤師は処方箋の監査を行っていなかったのでしょうか。医薬分業が進められてきた最大の理由は、薬局の薬剤師による処方監査や疑義照会によって、薬物投与に関する医療過誤を防ぐためであったはずです。今どき「100倍量のモルヒネ」に気づかない薬剤師が普通に地域で働いていること自体が驚きです。この事件が報道される直前の6月26日、日本薬剤師会は役員改選を行い、山本 信夫会長の5選が決まっています。日本医師会会長が1期で代わったことを考えると相当な長期政権と言えます。山本会長は5期目の課題として「国民に薬局・薬剤師の存在を見えるようにすること」語ったそうですが、昔から同じようなことを言ってきている印象です。そんな抽象的なことよりも、最低限、処方監査や疑義照会がきちんとできる薬剤師を地域にきちんと配してほしいものです。ちなみに、日本医療機能評価機構が今年4月13日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」1)でも、処方医が小児患者に10倍量のリスパダールを過量投与する処方箋を出し、薬局薬剤師が気づかなかった事例が紹介されています。今回のモルヒネ過剰投与の件も含め、薬剤師の処方監査忘れは、全国各地で起こっているであろうことが、こうした事例からも伺い知ることができます。僻地医療、地域医療で著名な前院長モルヒネ過剰投与事件に関して、もう1点驚いたことがあります。事件を起こした武蔵国分寺公園クリニックが、僻地医療、地域医療で有名な名郷 直樹氏が院長を務めていたクリニックだということです。名郷氏は、自治医大卒。作手村国保診療所所長、自治医大地域医療学助手、社団法人地域医療振興協会・地域医療研究所地域医療研修センター長などを経て、2011年に武蔵国分寺公園クリニックの院長となり、昨年末まで院長を務めていました。この間、地域医療、家庭医療、EBMのパイオニアとして多くの大学医学部、大学薬学部で非常勤講師などを務め、後進の指導にあたってきました。著書も多数あります。武蔵国分寺公園クリニック自体も、日本プライマリ・ケア連合学会認定のプログラムに従って、家庭医療専門医(家庭医)を目指す医師を対象とする研修プログラムを運営。また、東京都立多摩総合医療センターの協力型臨床研修施設として、初期臨床研修医の受け入れも行っています。事故の原因や詳細は不明なままそんな地域医療のお手本と言えるようなクリニックですが、この事件に関してはマスコミの取材に一切応えていません。ホームページには6月29日付で「報道の件について」として、「本件はご遺族とはすでに示談が成立しています。事故の詳細については 一般社団法人日本医療安全調査機構に詳細な報告書を提出しています。また、警察には当院より届出を行い、できる限りの情報を開示し、捜査に協力してきました。当院としては医師・薬剤師個人に責任があるとは考えておらず、すべての責任は当院自体にあると考えています。(中略)。事故後には医療安全管理委員会を定期開催し、事故の再発防止に努めており、今後二度とこのような事故を起こすことのないよう努めてまいります」という文章が掲載されたのみです。7月2日にも追加で「報道に関するお知らせ」が掲載されましたが、「二度とこのような事故を起こすことのないよう、今後も対策徹底に努めてまいります。(中略)。今回の報道にある調剤薬局は、国分寺市内を含む近隣の調剤薬局ではない事をお知らせ致します」と事故の詳細には触れていません。事故の経緯や原因といったエビデンスを明らかにすべきでは名郷氏は現在、管理者(院長)ではなく名誉院長ですが、昨年、院長時代に勤務していた医師が起こした医療過誤です。「示談は成立している」「日本医療安全調査機構に報告書を提出した」「警察には情報を開示し、捜査に協力している」だけではなく、なぜ事故が起こったのか、薬局との連携はどうなっていたのか、その後、同様の事故が起きないようにどんな対策を取っているのかを、概要だけでも世間に報告すべきではないでしょうか。地域住民も本当にこのクリニックにかかり続けてよいのか、判断に困ると思います。こうした医療事故が起こると、日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)に報告済みであることをもって、十分な対応をしていると考える医療機関(とくに民間医療機関)は多いですが、税金(診療報酬)が投入された地域の社会インフラであることを考えると、医療事故がなぜ起きたか、防止対策をどうとっているかについて、住民への情報開示は不可欠だと思います。日本の地域医療、家庭医療を牽引し、EBMの定着にも尽力してきた人だけに、院長時代に自院で起こした事故の経緯や原因といった“エビデンス”を明らかにしないのはとても残念に感じます。参考1)薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業「共有すべき事例」/日本医療機能評価機構

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第107回 医師が臨床工学技士に縫合を指示、医師法違反に当たるか?

<先週の動き>1.医師が臨床工学技士に縫合を指示、医師法違反に当たるか?2.新型コロナウイルスの新規感染者数、再び増加傾向に/厚労省3.コロナの影響で国保と後期高齢者医療広域連合は大幅黒字/厚労省4.100倍のモルヒネ処方、業務上過失致死の疑いで医師と薬剤師を書類送検5.在宅医銃殺事件のふじみ野市、「殺意や危険を感じた」スタッフが複数6.部下を眠らせ自宅に連れ込んだ美容CL院長、強制わいせつ容疑で逮捕1.医師が臨床工学技士に縫合を指示、医師法違反に当たるか?千葉市立海浜病院で昨年7月、医師の指示により医師免許を持たない臨床工学技士に皮膚縫合の一部を行わせたことが明らかとなった。同院によれば、問題が起きたのは心臓ペースメーカーの部品交換手術で、当技士はペースメーカーの動作確認のため手術に参加。執刀医は「自分の指導下であれば問題ないと思った」と話している。2022年1月、市に匿名の情報提供があったことから発覚。同院は速やかに事実確認を行い、外部の有識者を交えて医療事故検討委員会での検討を行い、当事者である技士と縫合を指示した執刀医の2人に訓告処分を行った。病院全体で改善と再発防止に向けた取り組みを進めている。医師法は医師資格を持たない者の医療行為を禁じているが、市は「違法行為には当たらない」との認識を示している。なお、患者への身体的な影響はなく、同院は3月に患者本人への説明・謝罪を行っている。(参考)医師免許ない臨床工学技士、手術で皮膚縫合(読売新聞)医師資格ないのに手術の縫合 千葉市立病院で、健康面被害なし(中日新聞)医師以外の医療従事者による業務範囲を超えた医療行為について(市立海浜病院)2.新型コロナウイルスの新規感染者数、再び増加傾向に/厚労省厚生労働省は、6月30日に第89回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードを開催した。新規感染者数の今週先週比は1.17と「全国的に上昇傾向に転じた」とされ、今後の短期的な予測では、大都市を中心に感染者数のさらなる増加が見込まれる。年代別で見ても、おおむねすべての年代で微増となっており、療養者数および重症者数は緩やかな増加に転じている。なお、病床使用率は総じて低水準にあり、死亡者数は減少傾向にある。今後、これまでのワクチン接種などによる免疫効果が徐々に下がっていくことや、7月以降は夏休みなどで人との接触機会が増えること、オミクロン株の「BA.5」が国内でも主流になる可能性があることなどから、医療体制への影響も含め注視する必要がある。60歳以上に対する4回目ワクチン接種の加速のほか、基本的な感染対策を徹底することなどが呼びかけられた。(参考)新規感染者数「全国的に上昇傾向に転じた」コロナアドバイザリーボード分析・評価(CB news)新型コロナ“全国で増加 BA.5で感染拡大の懸念も”専門家会合(NHK)第89回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード3.コロナの影響で国保と後期高齢者医療広域連合は大幅黒字/厚労省厚労省は2020年度の国民健康保険の財政状況を発表した。新型コロナウイルスの感染拡大以降、医療機関に支払われる保険給付費が減少したため、支出は前年度比3.5%減少して保険料収入を下回った。これにより単年度の実質収支は+2,054億円と過去最大の黒字となった。同時に2020年度の後期高齢者医療制度の財政状況についても公表し、収支は前年度より4,600億円あまり増加し、8,219億円の黒字となっている。(参考)市町村国保でも2020年度はコロナ感染症の影響で大幅黒字、積立金は1兆3257億円に増加―厚労省(Gem Med)後期高齢者医療広域連合、8,200億円超の黒字 20年度 受診控えで保険給付費大幅減、厚労省(CB news)4.100倍のモルヒネ処方、業務上過失致死の疑いで医師と薬剤師を書類送検必要とされる量の100倍のモルヒネを誤って処方し、高齢患者をモルヒネ中毒死させたとして、警視庁は、武蔵国分寺公園クリニックの女性医師と調剤にあたった薬剤師を業務上過失致死容疑にて書類送検した。患者は93歳の男性で、昨年2月に呼吸困難のためクリニックの在宅診療を受け、この医師からモルヒネの内服薬を処方された。薬剤師から渡された薬を服用したところ、約1週間後にモルヒネ中毒により死亡した。クリニックによれば、遺族とはすでに示談が成立しており、また事故の詳細については 一般社団法人 日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)に詳細な報告書を提出している。(参考)93歳に必要量100倍のモルヒネ処方 容疑の医師と薬剤師書類送検(朝日新聞)モルヒネ中毒で男性死亡 業務上過失致死の疑い 医師ら書類送検(NHK)報道の件について(武蔵国分寺公園クリニック)5.在宅医銃殺事件のふじみ野市、「殺意や危険を感じた」スタッフが複数埼玉県ふじみ野市で、今年1月に患者家族が在宅医療を担当していた医師を射殺した事件で、さいたま地検は1日、容疑者を殺人や殺人未遂などの罪で起訴した。この事件を受け、地元の東入間医師会が在宅医療や訪問介護を行っている事業所を対象に調査した結果、介護従事者への殺意をほのめかす家族に遭遇したり、包丁を向けられるなど危険を感じたことがあるという回答が複数寄せられていたことが判明した。在宅医療や介護の安全を確実に守るため、行政命令の規定や罰則が必要とする意見も上がっている。(参考)在宅医療や介護で「危険感じた」医師ら殺傷事件受け調査 埼玉(NHK)医師殺害の罪、男起訴 埼玉の立てこもりで地検(日経新聞)6.部下を眠らせ自宅に連れ込んだ美容CL院長、強制わいせつ容疑で逮捕美容整形クリニックの女性職員が、上司に当たる医師に睡眠薬を飲まされて自宅でわいせつ行為を受けたとして、警視庁捜査1課は準強制性交等とわいせつ目的略取の疑いで「ミッドクリニック」の院長を逮捕した。女性職員が院長と会食した後、院長の自宅に連れこまれ、わいせつ行為を受けたと警視庁に相談して被害が発覚した。被害者の体内からは睡眠薬の成分が検出されている。竹沢容疑者の周辺からは警察に同様の被害相談があり、同課が調べている。(参考)部下に睡眠薬飲ませわいせつ 容疑で美容外科医逮捕(産経新聞)部下に睡眠薬でわいせつ行為か 美容整形クリニック院長を逮捕(NHK)

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高齢患者の「薬が飲めなくなった」という状況に使えるのは?【非専門医のための緩和ケアTips】第30回

第30回 高齢患者の「薬が飲めなくなった」という状況に使えるのは?緩和ケアを実践していると、よく遭遇するのが「薬が飲めなくなった」という状況です。こんなとき、皆さんはどうしていますか? 症状緩和に必要な薬剤の投与を継続するための強い味方、皮下投与に関するお話です。今日の質問終末期、多くの患者さんは内服が難しくなります。がん疼痛などでオピオイドを使用していると、静脈投与に切り替えようと思っても末梢ルートが取れないことも多いです。貼付剤もあるのは知っていますが、レスキューが必要な場合、どのように対応すればよいのでしょうか?今回いただいた質問のような状況は、非常に多く経験します。終末期であれば内服ができなくなるのは当然のことです。また、がん患者や高齢者では、抗がん剤の影響や皮膚の脆弱性によって末梢ルートの確保が難しいこともよくあります。何度もルート確保に失敗すると、苦痛緩和のために行う処置が苦痛の原因になってしまう……。避けたい事態です。では、そんな時にどのようにすればよいのでしょうか? 緩和ケア領域では、しばしば皮下投与が行われます。今回の状況であれば、モルヒネやオキシコドンの注射薬がありますので、それらの持続皮下投与が使えます。皮下投与は静脈ルートの確保が必要ないので、手技的には非常に簡便です。認知症高齢者やせん妄患者が自己抜去してしまった際も、出血が少ないので安全です。また、投与可能な薬剤もオピオイドだけでなく、ハロペリドールや腸閉塞に対して使用するオクトレオチド、セフトリアキソンといった一部の抗菌薬も皮下投与が可能です。皮下投与には注意が必要な面もあります。一つは、静脈投与に比べて効果発現までに時間がかかる、という点です。非常に強い症状に対して急速な鎮静が必要、といった場合には向きません。また、皮下投与が可能な薬剤の多くは適応外使用となります。「経験上、安全かつ有効な投与が可能と見なされる」という位置づけで、この点は理解しておく必要があります。このあたりは皮下投与に限らず、緩和ケア領域で使用する薬剤では常に出てくる懸念です。オピオイドを皮下投与で行う場合は、少量ずつ持続投与します。そのために皮下投与用のデバイスが必要となり、多くの施設の緩和ケア病棟で利用されています。在宅医療の場合には、持続皮下投与のためのシリンジポンプが必要です。皮下投与が使えると、緩和ケアの対応の幅がぐっと広がります。デバイスが必要にはなりますが、ぜひ活用してください。今回のTips今回のTips内服が難しくなった患者さんには、皮下投与が有効です。

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添付文書改訂:カナグルに2型糖尿病CKD追加/ツートラムにがん疼痛追加/コミナティ、スパイクバックスに4回目接種追加/エムガルティで在宅自己注射が可能に/不妊治療の保険適用に伴う追記【下平博士のDIノート】第100回

カナグル:2型糖尿病患者のCKD追加<対象薬剤>カナグリフロジン水和物(商品名:カナグル錠100mg、製造販売元:田辺三菱製薬)<承認年月>2022年6月<改訂項目>[追加]効能・効果2型糖尿病を合併する慢性腎臓病。ただし、末期腎不全または透析施行中の患者を除く<Shimo's eyes>SGLT2阻害薬については近年、心血管予後・腎予後の改善効果を示した大規模臨床研究が次々と発表されています。本剤は2型糖尿病患者の慢性腎臓病(CKD)に対する適応追加で、用法・用量は既承認の「2型糖尿病」と同じとなっています。2022年6月現在、類薬で「CKD」に適応があるのはダパグリフロジン(同:フォシーガ)、「心不全」に適応があるのはダパグリフロジンおよびエンパグリフロジン(同:ジャディアンス)となっています。ツートラム:がん疼痛が追加<対象薬剤>トラマドール塩酸塩徐放錠(商品名:ツートラム錠50mg/100mg/150mg、製造販売元:日本臓器製薬)<承認年月>2022年5月<改訂項目>[追加]効能・効果疼痛を伴う各種がん<Shimo's eyes>本剤は、速やかに有効成分が放出される速放部と、徐々に有効成分が放出される徐放部の2層錠にすることで、安定した血中濃度推移が得られるように設計された国内初の1日2回投与のトラマドール製剤です。今回の改訂で、がん患者の疼痛管理に本剤が使えるようになりました。本剤を定時服用していても疼痛が増強した場合や突出痛が発現した場合は、即放性のトラマドール製剤(商品名:トラマールOD錠など)をレスキュー薬として使用します。なお、レスキュー投与の1回投与量は、定時投与に用いている1日量の8~4分の1とし、総投与量は1日400mgを超えない範囲で調節します。鎮痛効果が不十分などを理由に本剤から強オピオイドへの変更を考慮する場合、オピオイドスイッチの換算比として本剤の5分の1量の経口モルヒネを初回投与量の目安として、投与量を計算することが望ましいとされています。なお、ほかのトラマドール製剤(商品名:トラマール注、トラマールOD錠、ワントラム錠)は、すでにがん疼痛に対する適応を持っています。参考日本臓器製薬 ツートラム錠 添付文書改訂のお知らせコミナティ、スパイクバックス:4回目接種が追加<対象薬剤>コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)(商品名:コミナティ筋注、製造販売元:ファイザー/商品名:スパイクバックス筋注、製造販売元:武田薬品工業)<承認年月>2022年4月<改訂項目>[追記]接種時期4回目接種については、ベネフィットとリスクを考慮したうえで、高齢者等において、本剤3回目の接種から少なくとも5ヵ月経過した後に接種を判断することができる。<Shimo's eyes>オミクロン株流行期において、ワクチン4回目接種による「感染予防」効果は短期間とはいえ、「重症化予防」効果は比較的保たれると報告されています。それを踏まえ、4回目の追加接種の対象は、60歳以上の者、18歳以上60歳未満で基礎疾患を有する者など、重症化リスクが高い方に限定されました。また、3回目以降の追加免疫の間隔はこれまで「少なくとも6ヵ月」となっていましたが、今回の改訂で「少なくとも5ヵ月」と短縮されました。追加免疫の投与量については、コミナティ筋注は初回免疫(1、2回目接種)と同じく1回0.3mL、スパイクバックス筋注の場合は、初回免疫は1回0.5mLですが、追加免疫では半量の1回0.25mLとなっています。参考ファイザー 新型コロナウイルスワクチン 医療従事者専用サイト武田薬品COVID-19ワクチン関連特設サイト<mRNAワクチン-モデルナ>エムガルティ:在宅自己注射が可能に<対象薬剤>ガルカネズマブ(遺伝子組み換え)注射液(商品名:エムガルティ皮下注120mgオートインジェクター/シリンジ、製造販売元:日本イーライリリー)<承認年月>2022年5月<改訂項目>[追記]重要な基本的注意、副作用自己投与に関する注意<Shimo's eyes>薬価収載から1年が経過し、本剤の在宅自己注射が可能となりました。承認された経緯としては、日本頭痛学会および日本神経学会から要望書が出されていました。自己注射が可能になることで、毎月の通院が難しかったケースでも抗体医薬を用いた片頭痛予防療法を実施しやすくなることが期待されます。本剤の投与開始に当たっては、医療施設において必ず医師または医師の直接の監督の下で投与を行い、自己投与の適用についてはその妥当性を慎重に検討します。自己注射に切り替える場合は十分な教育訓練を実施した後、本剤投与によるリスクと対処法について患者が理解し、患者自らの手で確実に投与できることを確認したうえでの実施となります。参考日本イーライリリー 医療関係者向け情報サイト エムガルティフェマーラほか:不妊治療で使用される場合の保険適用<対象薬剤>レトロゾール錠(商品名:フェマーラ錠2.5mg、製造販売元:ノバルティス ファーマ)<承認年月>2022年2月<改訂項目>[追加]効能・効果生殖補助医療における調節卵巣刺激[追加]用法・用量通常、成人にはレトロゾールとして1日1回2.5mgを月経周期3日目から5日間経口投与する。十分な効果が得られない場合は、次周期以降の1回投与量を5mgに増量できる。<Shimo's eyes>2022年4月から、不妊治療の経済的負担を軽減するために生殖医療ガイドライン等を踏まえて、人工授精等の「一般不妊治療」、体外受精・顕微授精等の「生殖補助医療」について、保険適用されることになりました。アロマターゼ阻害薬である本剤は、従前の適応は閉経後乳がんでしたが、不妊治療に用いる場合、閉経前女性のエストロゲン生合成を阻害する結果、卵胞刺激ホルモン(FSH)分泌が誘導され、卵巣内にアンドロゲンが蓄積し、卵巣が刺激されて卵胞発育が促進されます。ほかにも、プロゲステロン製剤(商品名:ルティナス腟錠等)は「生殖補助医療における黄体補充」、エストラジオール製剤(同:ジュリナ錠等)は「生殖補助医療における調節卵巣刺激の開始時期の調整」「凍結融解胚移植におけるホルモン補充周期」、さらに卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合製剤(同:ヤーズフレックス配合錠、ルナベル配合錠等)は「生殖補助医療における調節卵巣刺激の開始時期の調整」の適応がそれぞれ追加されています。バイアグラほか:男性不妊治療に保険適用<対象薬剤>シルデナフィルクエン酸塩錠(商品名:バイアグラ錠25mg/50mg、同ODフィルム25mg/50mg、製造販売元:ヴィアトリス製薬)タダラフィル錠(商品名:シアリス錠5mg/10mg/20mg、製造販売元:日本新薬)<承認年月>2022年4月<改訂項目>[追加]効能・効果勃起不全(満足な性行為を行うに十分な勃起とその維持ができない患者)[追加]保険給付上の注意本製剤が「勃起不全による男性不妊」の治療目的で処方された場合にのみ、保険給付の対象とする。<Shimo's eyes>こちらも少子化社会対策として、従前の勃起不全(ED)の適応は変わりませんが、保険適用となりました。本製剤について、保険適用の対象となるのは、勃起不全による男性不妊の治療を目的として一般不妊治療におけるタイミング法で用いる場合です。参考資料 不妊治療に必要な医薬品への対応(厚労省)

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