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第191回 医師の地域偏在解消へ、財務省の提案に日医が反発/財政制度分科会

<先週の動き>1.医師の地域偏在解消へ、財務省の提案に日医が反発/財政制度分科会2.急増する医療機関の倒産・休廃業、背景に後継者問題/帝国データバンク3.退院前の指導不足で市民病院が逆転敗訴、約7,500万円の賠償命令/名古屋高裁4.患者受診せずがん告知が1年以上遅れ、大腸がんステージ進行/神戸市立医療センター5.医療機器メーカーとの癒着疑惑、整形外科医逮捕/東京労災病院6.元理事長への不正な麻薬処方、元副学長が医師法違反の疑い/日本大学1.医師の地域偏在解消へ、財務省の提案に日医が反発/財政制度分科会財務省は、4月16日に財政制度分科会を開き、この中で少子化対策のほか医師の偏在問題について議論を行った。2020年の医学部定員を前提とした厚生労働省の将来推計では、2029年ごろにマクロでは医師需給が均衡し、医師の供給過剰が見込まれ、今後は医学部の定員の適正化が必要と指摘された。現状のままでは大都市部において、医師や診療所数が過剰となり、地方はそれらが過小のまま続くとして、診療所の偏在是正のために都市部での新規開業を規制し、診療所が不足している地域での診療報酬の単価を引き上げることを提案した。これは地域や診療科ごとに医師の定員があるヨーロッパのシステムを参考にしている。武見 敬三厚労大臣は、今後の医師の偏在対策を「骨太の方針」に組み込み、具体的な方向性を年末までに示すと述べた。日本医師会は財務省提案に強く反対しており、医師の偏在は人口分布に起因する問題であり、診療報酬での調整は不適切であると主張している。さらに医師会は、地域枠など既存の対策を強化することが先決であるとしている。また、厚労省も地域医療の将来の姿や偏りの見直しを議論するために「新たな地域医療構想等に関する検討会」(座長:遠藤 久夫氏[学習院大学長])を立ち上げて議論を開始している。文部科学省も、医学部の特別枠を通じて医師を地方に派遣する新たなプログラムを提案し、これにより地域医療に貢献する医師の養成を目指している。これにより大学病院から地域への医師派遣を容易にし、地域医療の充実を図りたいとしている。これらの提案と議論は、わが国の医療システムの将来に重大な影響を与える可能性があり、医師の偏在解消を目指す一連の施策が、どのように進展するかが注目されている。参考1)こども・高齢化 財政制度分科会(財務省)2)第2回新たな地域医療構想等に関する検討会 資料(厚労省)3)医師の都市集中、解消探る 過剰地域の報酬下げ/開業規制 財制審提言(日経新聞)4)過剰地域の診療報酬下げ「受け入れられない」 医師会長(同)5)医師偏在問題、「都市部で開業規制を」と財務省提言 医師会は反発(朝日新聞)6)医師の偏在解消で「大学特別枠」、文科省が試案 大学病院から地域への派遣強化(CB news)2.急増する医療機関の倒産・休廃業、背景に後継者問題/帝国データバンクわが国の医療機関の休廃業・解散件数が2023年度(2023年4月~2024年3月)に過去最多の709件に達し、過去10年で2.3倍となった。そのうち診療所が23年度は580件と全体の8割超を占めていることが帝国データバンクの調査で明らかになった。医療機関の倒産・休廃業数は前年の517件から大幅に増加していた。同様に、歯科医院も110件と過去最多を記録。同社によれば、経営者の高齢化と後継者不在が主な原因であり、今後もこの傾向は続くと予測されている。また、2023年度には医療機関の倒産件数も過去最多を更新し、55件が報告された。これは2009年度の45件を上回る数であり、診療所と歯科医院がそれぞれ28件と24件で過去最多を更新している。これらの倒産は法的な手続きを経て確認されたもので、高齢経営者の健康問題などが倒産につながるケースもみられている。日本医師会の「医業承継実態調査」では、診療所の約半数が後継者不在と答えており、帝国データバンクの企業概要ファイルによると、2024年には診療所経営者のボリュームゾーンが65~77歳となっている。この高齢化が顕著な中で、診療所はコンビニの約2倍の数が存在し、狭い市場での競争が熾烈を極めている。こうした状況は、医療機関の持続可能性に深刻な影響を及ぼしており、とくに地域医療にも影響が出ている可能性がある。今後、後継者問題の解決や高齢経営者の支援策を強化することが急務となる。参考1)医療機関の「休廃業・解散」 動向調査(2023年度)(帝国データバンク)2)医療機関の休廃業・解散が過去最多、昨年度 計709件、診療所が8割超(CB news)3.退院前の指導不足で市民病院が逆転敗訴、約7,500万円の賠償命令/名古屋高裁気道確保のため「カニューレ」を装着していた6ヵ月の女児が、退院後に低酸素脳症を発症し、3歳で亡くなった事件について、名古屋高等裁判所は1審の判決を覆し、一宮市に約7,500万円の賠償支払いを命じた。裁判では、一宮市立市民病院が退院時の必要な救命処置の指導を怠ったことが問題視された。女児は、喉頭の組織が軟弱で、気管が塞がりやすく呼吸がしづらい「喉頭軟化症」であり、気管カニューレを必要としていた。入院中には装着器具が外れる事故が3回発生していたが、これについて病院側から十分な説明や指導が行われていなかったとされている。両親は当初、原因を自分たちに求めていたが、裁判を通じて同病院の責任が明らかになり、「娘の無念を晴らせた」と安堵の声を上げた。同病院は「判決文が届いていないので、現時点ではコメントを差し控える」と述べている。この判決は、医師の指導義務違反を問題視した点で重要な意義を持つ。代理人弁護士の森下 泰幸氏は、「気管カニューレが外れる事故は全国で相次いでおり、今回の判決を受け、退院時には必ず救命方法などの指導を全国の病院で徹底してもらいたい」と訴えている。この判決により、今後の医療機関における指導・教育のあり方に影響を与えると考えられる。参考1)“医師は指導義務怠る” 1審と逆 市に賠償命令 名古屋高裁(NHK)2)愛知・一宮市に7,400万円賠償命令 呼吸用器具の事故後に女児死亡(朝日新聞)3)気道確保の重要性など説明せず、3歳女児死亡 遺族が逆転勝訴(毎日新聞)4.患者受診せずがん告知が1年以上遅れ、大腸がんステージ進行/神戸市立医療センター神戸市立医療センター中央市民病院は、60代の男性患者が大腸がんと診断されたにもかかわらず、診断結果の告知が1年2ヵ月遅れるという重大なミスを病院側が公表した。2022年8月に内視鏡検査を受けた男性は、翌月に大腸がんと診断されたが、結果を説明するために予定していた受診日に来院しなかったため告知が行われなかった。その後も男性は、別の科で定期的に通院していたが、告知されなかったため治療開始が遅れ、男性のがんはステージ1からステージ3bまで進行していた。この事実が明らかになったのは、男性が2023年11月に別の疾患で入院し、脳神経内科の医師がカルテを確認したときであった。同病院では、未受診患者を管理するリストがあり、通常は診療終了後にリストから外されるが、今回の重大案件では、男性がリストから誤って外されていた可能性が指摘されている。この案件を受け、同病院では未受診の患者の管理方法を見直し、ルールの明文化を進めている。この重大案件は、病院内の情報管理システムの改善の必要性を浮き彫りにした。同病院は男性と補償についての協議を行っており、病院側は公式に謝罪している。参考1)大腸がんと診断された患者に1年2ヵ月告知忘れる…その間にステージ「1」から「3b」に進行(読売新聞)2)がん告知日に患者来院せず…そのまま1年超、ステージ3に 病院謝罪(朝日新聞)5.医療機器メーカーとの癒着疑惑、整形外科医逮捕/東京労災病院東京労災病院の整形外科副部長の医師(41歳)が、特定の医療機器メーカーの製品を使用することで現金約50万円の賄賂を受け取ったとして逮捕された。この事件では、逮捕された医師が同僚にも同じメーカーの製品の使用を勧め、それにより得たポイントを自身の利益に変換していたことが判明している。また、医師は医療機器の選定に影響を与えたとされ、医師が受け取ったポイントは現金に交換可能で、飲食代などの領収書を提出することで換金されていたと報じられている。警視庁は、このほかにも余罪があるか捜査を進めており、このスキームがどれほど広範に及んでいたのか、また、その影響についても調べている。贈収賄に関与したHOYA Technosurgical社および親会社HOYA社は、捜査に協力する姿勢を示している。同病院は再発防止策を講じ、職員の倫理教育を強化すると公表している。参考1)東京労災病院 医師を収賄容疑で逮捕 製品巡り50万円受け取りか(NHK)2)他の医師使用分も見返り収受 部下に贈賄側企業製品を推奨か 東京労災病院の汚職事件・警視庁(時事通信)3)東京労災病院副部長を収賄容疑で逮捕 「ポイント制」で業者から現金(朝日新聞)4)当院職員の逮捕について(東京労災病院)6.元理事長への不正な麻薬処方、元副学長が医師法違反の疑い/日本大学日本大学の「不正事案洗い出しのための特別調査委員会」は、元理事長の田中 英寿氏(故人)への医療用麻薬モルヒネを含む痛み止めの不正処方について報告した。田中氏は2021年8月~2022年4月にかけて、元副学長だった主治医により、医師3人を介して7回にわたり痛み止めが処方された。しかし、これらの処方はいずれも診療記録がなく、実際の診察は行われていなかった。調査委員会によれば、田中氏に処方された薬の診療記録は電子カルテシステムに一切残されておらず、元副学長は診療の有無について守秘義務を理由に説明を拒否。また、元副学長や関連医師は、田中氏の自宅で診療行為を行っていたが、これに関する記録も存在しなかった。医師法では、診療行為を行った場合、病名や治療内容をカルテに記載することが義務付けられており、違反した場合には罰則が科されている。調査委は元副学長の医師法違反の可能性が高いと結論付け、「厳格に管理すべき医療用麻薬が不適切に処方されていた悪質性は高い」と指摘している。同大学は監督官庁との協議を待っている状態で、元副学長からの回答は得られていない。参考1)日大の田中英寿・元理事長にモルヒネ処方、診察記録なし…主治医の元副学長は守秘義務理由に説明せず(読売新聞)

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つらい咳症状への対応【非専門医のための緩和ケアTips】第68回

第68回 つらい咳症状への対応肺がんや呼吸器疾患などの代表的な症状である咳。ご本人のつらさはもちろん、周りで見ているのもつらい症状です。緩和するために、どういったことができるのでしょうか?今日の質問外来の肺がん終末期患者さん、咳が最もつらい症状のようです。咳込み始めるとなかなか止まらず、眠れないときもあるそうです。一般的な咳止め薬は処方しているのですが、ほかにできることはないでしょうか?緩和ケアの専門家として、もう少し症状の和らぐ薬ができてほしいと思う症状の1つが咳です。私も時々、上気道炎などの後に咳が長引くことがありますが、本当につらいものです。日中の咳は、仕事にまったく集中できなくなってしまいますし、夜間に咳がでると眠れないですよね。慢性の呼吸器疾患や肺がんのような病態による咳の苦しさは、想像もしたくないです。また、咳の難しい点が、ご質問のように咳止め薬を処方しても症状の改善が乏しいところです。細菌性肺炎のような感染症や、心不全のような病態であれば、それぞれに合わせた治療が基本となります。一方、進行した肺がんのように治療が難しい場合は、対症療法としての薬物療法やケアが中心になります。薬物療法は、デキストロメトルファンのような鎮咳薬を用いますが、効果が十分でない場合は、悪性腫瘍が原因であればオピオイドを用いる場合も多いです。コデインモルヒネを中心に使っていることが多いと思います。オピオイドの適切な投与量は確立していないものの、呼吸困難に準じて投与するエキスパートが多いでしょう。薬以外の対処としては、呼吸リハビリテーションが1つの選択肢です。気道を刺激しないように呼吸をゆっくり行う練習や、咳き込んだ後の息を整える練習などが効果を発揮する場合があります。そのほか、乾性咳嗽はアメやハチミツなどの甘いものを摂取したり、吸入などで喉などが乾燥しないようにしたりします。「何かをしたらすぐ改善した」というケースはあまりないのですが、いろいろな対処法を知っておくことは重要です。患者や家族にとって、医療者が悩みながら一緒に対処を考えてくれた、ということも大切なのだと思います。私も悩みながら対応しています。難しい症状である咳、皆さんはどのようにされているでしょうか?今回のTips今回のTips咳は難しい症状の1つ。薬が効きにくいので、薬以外の対応も工夫しながら取り組みましょう。

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ガイダンスに基づくオピオイド処方で死亡率が低減/BMJ

 オピオイド使用障害の患者では、「リスク軽減ガイダンス(Risk Mitigation Guidance; RMG)」に基づくオピオイド処方により、過剰摂取による死亡および全死因死亡の発生率が有意に低下し、違法薬物に代わる医薬品の提供は有望な介入策となる可能性があることが、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のAmanda Slaunwhite氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年1月10日号で報告された。カナダ・ブリティッシュコロンビア州の後ろ向きコホート研究 研究グループは、RMGに基づくオピオイド(モルヒネ)および精神刺激薬(デキストロアンフェタミン、メチルフェニデート)の処方が、薬物の過剰摂取と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)という公衆衛生上の二重の緊急事態下に、死亡と急性期治療のための受診に及ぼした影響を明らかにする目的で、住民ベースの後ろ向きコホート研究を行った(カナダ健康研究所[CIHR]などの助成を受けた)。 2020年3月27日~2021年8月31日に、カナダ・ブリティッシュコロンビア州で、RMG処方としてオピオイド(5,356例、年齢中央値38歳、女性36.4%)または精神刺激薬(1,061例、39歳、38.5%)の処方を受けたオピオイド使用障害または精神刺激薬使用障害の患者5,882例(535例が両方の処方を受けた)を解析に含めた。RMG精神刺激薬処方では予防効果はない 高次元傾向スコアマッチング法による解析では、RMGに基づく1日分以上のオピオイド処方を受けた患者(5,356例)は、同処方を受けていない対照群の患者(5,356例)と比較して、処方日から1週間以内の全死因死亡率(補正後ハザード比[HR]:0.39、95%信頼区間[CI]:0.25~0.60)および過剰摂取関連死亡率(0.45、0.27~0.75)が有意に低かった。 一方、RMGに基づく1日分以上の精神刺激薬処方を受けた患者(1,061例)と、同処方を受けていない対照群の患者(1,061例)の比較では、1週間以内の全死因死亡率(補正後HR:0.50、95%CI:0.20~1.23)および過剰摂取関連死亡率(0.53、0.18~1.56)の低下について、いずれも有意差を認めなかった。 また、RMGオピオイド処方による1週間以内の死亡の予防効果は、特定の週に処方された薬剤の日数が多いほど高くなった。RMGオピオイド処方を4日分以上受けた患者は、対照群と比較して、全死因死亡(補正後HR:0.09、95%CI:0.04~0.21)および過剰摂取関連死亡率(0.11、0.04~0.32)が有意に低下し、いずれも1日分以上の処方よりも優れた。RMG精神刺激薬処方は全原因による急性期受診を抑制 RMGオピオイド処方は、あらゆる要因による急性期治療のための受診(オッズ比[OR]:1.02、95%CI:0.95~1.09)および過剰摂取による急性期治療のための受診(1.09、0.93~1.27)のいずれにも有意な変化をもたらさなかった。 また、RMG精神刺激薬処方は、あらゆる要因による急性期受診(OR:0.82、95%CI:0.72~0.95)を有意に低下させたが、過剰摂取による急性期受診(0.88、0.63~1.23)には影響しなかった。 著者は、「RMG処方を受けた人々の多くは、不安定な住宅事情と貧困の割合が不釣り合いに高いことから、劣悪な健康状態への寄与が示されている重層的で複雑な社会的・経済的な不平等を経験していることが示唆される」としている。

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鎮咳薬不足、増えた手間や処方優先患者は?/医師1,000人アンケート

 後発医薬品メーカーの不祥事などで医薬品供給不安が続いているなか、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザの流行が鎮咳薬不足に追い打ちをかけている。昨年9月には厚生労働省が異例とも言える「鎮咳薬(咳止め)・去痰薬の在庫逼迫に伴う協力依頼」1)の通知を出し、処方医にも協力を仰いだことは記憶に新しい。あれから3ヵ月が経ち、医師の業務負担や処方動向に変化はあったのだろうか。今回、処方控えを余儀なくされていることで生じる業務負担や処方を優先する患者の選び方などを可視化すべく、『鎮咳薬の供給不足における処方状況』について、会員医師1,000人(20床未満:700人、20床以上:300人)にアンケート調査を行った。最も入手困難な薬剤、昨夏から変わらず まず、鎮咳薬/鎮咳・去痰薬の在庫逼迫状況の理解について、勤務先の病床数を問わず全体の95%の医師が現況を認識していた。なお、処方逼迫について知らないと答えた割合が高かったのは200床以上の施設に勤務する医師(8%)であった。 次に入手困難な医薬品について、昨年8~9月に日本医師会がアンケート調査を行っており、それによると、院内処方において入手困難な医薬品名2,096品目の上位抜粋30品目のうち9品目が鎮咳薬/鎮咳・去痰薬であった2)。これを踏まえ、本アンケートでは鎮咳薬/鎮咳・去痰薬に絞り、実際に処方制限している医薬品について質問した。その結果、最も処方制限している医薬品には、やはりデキストロメトルファン(商品名:メジコン)が挙がり、続いて、チペピジンヒベンズ酸塩(同:アスベリン)、ジメモルファンリン酸塩(同:アストミンほか)などが挙げられた。この結果は1~19床を除く施設で同様の結果であった。処方が優先される患者、ガイドラインの推奨とマッチ? 鎮咳薬/鎮咳・去痰薬の処方が必要な患者について、2019年に改訂・発刊された『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン 2019』によると、“可能な限り見極めた原因疾患や病態に応じた特異的治療(末梢に作用する鎮咳薬や喀痰調整薬など)が大切”とし、中枢性鎮咳薬(麻薬性:コデインリン酸塩水和物ほか、非麻薬性:デキストロメトルファン、チペピジンヒベンズ酸塩ほか)の処方にはいくつか問題点があることを注意喚起しながらも、“患者の消耗やQOL低下をもたらす病的な咳の制御は重要であり、進行肺がんなど基礎疾患の有効な治療がない状況では非特異的治療は必要であるが3)、少なくとも外来レベルでは初診時からの中枢性鎮咳薬の使用は明らかな上気道炎~感染後咳嗽や、胸痛・肋骨骨折・咳失神などの合併症を伴う乾性咳嗽例に留めることが望ましい”と記している。よって、「高齢者」「疾患リスクの高い患者」への適切な処方が望まれるものの、不足している中枢性鎮咳薬を処方する患者の見極めが非常に重要だ。以下には、参考までにガイドラインのステートメントを示す。<ガイドラインでの咳嗽治療薬におけるステートメント>◆FAQ*1:咳嗽治療薬の分類と基本事項は 咳嗽治療薬は中枢性鎮咳薬(麻薬性・非麻薬性)と末梢性鎮咳薬に分類される。疾患特異的な治療薬はすべて末梢性に作用する。可能な限り原因疾患を見極め、原因に応じた特異的治療を行うことが大切である。中枢性鎮咳薬の使用はできる限り控える。*frequently asked question◆FAQ2:咳嗽治療の現状は さまざまなエビデンスが年々増加しているものの、咳が主要評価項目でなかったり評価方法に問題がある研究が多い。多種多様の治療薬選択における標準化はいまだ十分ではなく、臨床現場での有用性を念頭に本ガイドラインの改訂に至った。 では、処方の実際はどうか。本アンケート結果によると、20床未満の場合、2023年7月以前では「咳が3週間以上続く患者」「高齢者」「咳があるすべての患者」「処方を希望する患者」「喘息などを有する高リスク患者」の順で処方が多く、希望患者への処方が高リスク患者へのそれよりも上回っていた。しかし、12月時点では、「喘息などを有する高リスク患者」「咳が3週間以上続く患者」「高齢者」「処方を希望する患者」「咳があるすべての患者」と処方を優先する順番が変わり、希望患者への処方を制限する動きがみられた。一方、20床以上においては2023年7月以前では「高齢者」「咳が3週間以上続く患者」「処方を希望する患者」の順で多かったが、12月時点では、「咳が3週間以上続く患者」「高齢者」「喘息などを有する高リスク患者」の順で処方患者が多かった。このことからも、高齢者よりも咳が3週間以上続く患者(遷延性咳嗽~慢性咳嗽)に処方される傾向にあることが明らかになった。鎮咳薬不足による手間、1位は疑義照会対応 供給不足による業務負担や処方変化については、疑義照会件数の増加(20床未満:48%、20床以上:54%)、長期処方の制限(同:43%、同:40%)、患者説明・クレーム対応の増加(同29%、同17%)の順で医師の手間が増えたことが明らかになり、実践していることとして「患者に処方できない旨を説明」が最多、次いで「長期処方を控える」「処方すべき患者の優先順位を設けた」などの対応を行っていることがわかった。また、アンケートには「無駄な薬を出さなくて済むので、処方箋が一枚で収まるようになった(60代、内科)」など、このような状況を好機に捉える声もいくつか寄せられた。アンケートの詳細は以下にて公開中『鎮咳薬の供給不足における処方状況』<アンケート概要>目的:製造販売業者からの限定出荷が生じているなか、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザ等の感染症拡大に伴い、鎮咳薬などの在庫不足がさらに懸念されることから、医師の認識について調査した。対象:ケアネット会員医師 1,000人(20床未満:700人、20床以上:300人)調査日:2023年12月15日方法:インターネット

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市販薬の濫用が小学生に拡大、規制強化を検討【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第123回

2023年はコロナ禍が明け、通常の生活が戻った年でした。私個人としては、飲みに行ったり旅行に行ったりできるようになったことはとてもうれしく、働くことや生活することの楽しさが戻ってきたと感じました。しかし、人も物も環境もコロナ禍の前とまったく同じ状況に戻ったわけではなく、新しい対応に苦慮した薬剤師も少なくなかったのではないかと思います。若年者が多幸感を得る目的などで市販薬をオーバードーズ(過剰摂取)する問題はこのコラムでも何回も紹介していますが、状況は悪化して世間をさらに騒がせていて、新たな規制も検討されています。東京都目黒区の小学校で12月13日、児童2人が校内に持ち込んだ薬を過剰に摂取して体調不良を訴え、病院に救急搬送されていたことがわかった。警視庁幹部によると、いずれも搬送時に意識はあり、命に別条はないという。警視庁が薬を持ち込んだ経緯を調べている。(読売新聞オンライン 2023年12月15日付)過剰摂取したのが小学生!? しかも小学校で!? とびっくりしました。昨今は、スマホやタブレット、動画配信コンテンツなどが身近にあり、すぐにさまざまな情報が入手できる状況にあります。おそらく、小学生でも簡単に市販薬の過剰摂取の情報を入手できたのでしょう。しかし、万が一そのような情報に触れたとしても、実際に服用する医薬品が簡単に入手できてしまったということは大きな問題です。今回のニュースは小学生という点が衝撃的ではありますが、ずいぶん前から問題になっていて規制が強化されました。現在、濫用の恐れのある医薬品の具体的な成分としては、エフェドリン、コデイン、ジヒドロコデイン、プソイドエフェドリン、メチルエフェドリン、ブロムワレリル尿素があります。2023年4月1日よりコデイン、ジヒドロコデイン、メチルエフェドリンは鎮咳去痰薬に限らず総合感冒薬なども指定されました。薬機法施行通知では、購入者が高校生や中学生を含む子供である場合は、その氏名や年齢を確認するとともに使用状況を確認する旨の記載があり、これらが確認できない場合は販売を行わないとされています。しかし、これらの成分は一般用医薬品のうち第1類医薬品と第2類医薬品に分類されているため、インターネット販売も可能です。インターネット販売時の年齢や症状・購入目的の確認は簡単かつ性善説で設定されている場合が多く、結果として誰でも購入できてしまいます。これに関して、2024年に厚生労働省が若者の濫用防止に向け、市販薬を販売する際の規制強化を検討しているようです。子供が何らかの寂しい気持ちを抱えていたり、興味本位でよからぬ行動を起こしたりしそうなとき、薬剤師や登録販売者が医薬品の門番としてどう機能するのか、ここは腕の見せ所だと思います。ビシッと厳しい対応を示し、その対応をどこかで集積して学会などで発表してほしいなと思います。うまくいった例はぜひ広めてください。2024年はどんな1年になるのでしょうか。このコラムが少しでも皆さんの薬局の力になれるよう、頑張りたいと思います。

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石灰化大動脈弁狭窄症に、非侵襲的超音波療法は可能か/Lancet

 石灰化大動脈弁狭窄症は、一般に外科的または経カテーテル的な大動脈弁置換術(AVR)による治療が行われているが、重度の合併症や限られた余命のために適応とならない患者が多く、代替治療として非侵襲的治療法の可能性が示唆されている。フランス・パリ・シテ大学のEmmanuel Messas氏らは、大動脈弁の弁尖を修復する超音波パルスを照射する革新的な技術である非侵襲的超音波療法(NIUT)の評価を行い、安全かつ実行可能であることを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年11月13日号で報告された。欧州3施設の前向きコホート研究の6ヵ月データ 研究グループは、経胸壁的にNIUTを行う装置(Valvosoft device、Cardiawave製)の安全性と、石灰化した弁組織を軟化させることによる弁機能の改善効果を評価する目的で、前向き単群コホート研究を行った(Cardiawaveの助成を受けた)。 3ヵ国(フランス、オランダ、セルビア)の3つの施設で、新型コロナウイルス感染症の流行による中断を挟んだ2019年3月13日~2022年5月8日の期間に、高リスクの40例を登録した。 対象は、重度の症候性大動脈弁狭窄症(二尖弁を含む)を有し、外科的大動脈弁置換術(SAVR)および経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVR)の適応とならない成人患者であった。 主要エンドポイントは、30日以内の治療に関連した死亡および弁機能の改善とした。今回は6ヵ月後のデータの解析結果を報告した。 対象となった40例(平均年齢83.5[SD 8.4]歳、女性50%)のSociety of Thoracic Surgeons(STS)の平均スコアは5.6(SD 4.4)%であり、重度の合併症(冠動脈疾患45%、頸動脈疾患28%、うっ血性心不全30%、慢性腎臓病40%、不整脈55%)を伴っていた。2例で二尖弁を認めた。30日以内の治療関連死亡はない、弁機能も有意に改善 30日以内の治療に関連した死亡は発現しなかった。3例で、それぞれ1週間後、3.5ヵ月後、5.5ヵ月後に、Valvosoftを用いて追加のNIUTを施行したが、これらの患者は6ヵ月後の時点でも生存していた。また、生命を脅かすイベントおよび脳血管イベントの報告はなかった。 6ヵ月(180日)時点での全生存率は72.5%(95%信頼区間[CI]:56.0~83.7)であった。1例の死亡が188日目に追加で報告された。ミニメンタルステート検査(MMSE)で認知機能障害を検出した患者はいなかった(平均MMSEスコア:ベースライン24.2点、退院時24.5点、30日時26.0点)。188日目に、1例で非ST上昇型心筋梗塞を認めた。 弁機能の改善は6ヵ月間を通じて確認され、平均大動脈弁口面積(AVA)はベースラインの0.58(SD 0.19)cm2から追跡時には0.64(SD 0.21)cm2へと10%増加し(p=0.0088)、平均圧較差は41.9(SD 20.1)mmHgから38.8(17.2)mmHgへと7%低下した(p=0.024)。 6ヵ月時に、NYHA心機能分類クラスが25例中17例(68%)で改善し、7例(28%)で安定化していた。また、これらの患者ではカンザスシティ心筋症質問票(KCCQ)スコアが48.5(SD 22.6)点から64.5(SD 21.0)点へと33%改善した(有意差なし)。 1例で重篤な治療関連有害事象を認めた。この患者は97歳で、不快感を和らげるためにモルヒネ(1mg)を静脈内投与したところ、徐呼吸の結果として末梢酸素飽和度(SpO2)が一過性に89%に低下した(処置により迅速に回復し、6ヵ月の時点で生存)。非重篤な有害事象として、痛み、治療中の不快感、一過性の不整脈などがみられた。 著者は、「今回の初期結果は有望であり、より大規模の臨床試験で確認する必要がある」とし、「このNIUTの方法は、さらに最適化を進める必要があり、より多くの患者で安全性を確認した後、たとえば(1)中等度または無症候性の石灰化大動脈弁狭窄症でSAVRまたはTAVRを延期するため、(2)重度に石灰化した弁に対するTAVRの前処置として、評価される可能性がある」と指摘している。

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産後7日以内のオピオイド処方は乳児の短期予後に悪影響なし(解説:前田裕斗氏)

 産後の疼痛に対するオピオイド利用は、母乳に移行することで乳児に鎮静や呼吸抑制などの有害事象を及ぼす可能性があり、これまでにいくつかの報告がなされていた。一方、母乳に移行する量はごく少量であることがわかっており、本当に母体のオピオイド利用が乳児に対して有害事象をもたらすのか、短期的影響について確かめたのが本論文である。 出産後7日以内のオピオイド処方と、乳児の30日以内の有害事象の関係が検討された。結果として、主要アウトカムである再入院率に差は認められず、オピオイド処方群で救急受診は有意に高かったものの、乳児への有害事象はいずれについても両群で差を認めなかったことから、母体へのオピオイド処方は乳児に明らかな有害事象をもたらさないと結論付けられた。 研究手法は傾向スコアマッチングを用いた後ろ向きコホート研究であり、サイズも十分大きく、マッチング後の両群のバランスも取れていることから、今回計測されたTable 1に記載がある因子に関するバイアスは除けている。結果に信頼性のある研究ではあるが、本論文のDiscussionにもあるように、カナダ・オンタリオ州ではオピオイド(コデイン)が一般に購入できるとのことで、非オピオイド群でのオピオイド使用が実際には含まれていた可能性があり、他国で同様の研究が求められる。 日本では産後の疼痛にオピオイドを処方することはまずなく、処方のハードルも高いため本研究の結果を適用する機会は少ない。しかし、今回の研究結果から示されたように、オピオイドの処方が乳児に悪影響を及ぼさないのであれば、今後、日本でも産後疼痛の切り札としてオピオイドを使用する日が来るかもしれない。産科の臨床現場で誰しも一度は経験したことがあるような、疼痛が強く離床が全く進まない、育児技術の習得が大幅に遅れる例、特に喘息などでNSAIDが利用できない患者に対してオピオイドはよい適応となるだろう。

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若年者でOTC薬の問題増加、濫用恐れのある医薬品の範囲拡大へ【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第107回

若年者のOTC医薬品の濫用が問題になっている、というのは今に始まったことではありませんが、具体的にその状況を想像したり解決策を考案したりできる薬剤師はそれほど多くはないでしょう。恥ずかしながら私もそうです。この4月より、濫用などの恐れのある医薬品の指定範囲が拡大されますので、現在の問題や議論を紹介します。厚生労働省は3月8日に開いた「医薬品の販売制度に関する検討会」で、若者の間で増加している鎮咳薬や総合感冒薬といったOTC薬の濫用について、本人確認などの販売方法や、複数購入の防止、包装単位や製品表示の変更といった対応策の議論に着手した。第1類と第2類のネット販売を解禁し、危険ドラッグの取り締まりを強化した14年以降、OTC薬で中毒を起こした救急搬送事例が「増加傾向にある」と指摘。現状では多くの濫用のおそれのある成分が、薬剤師などによる情報提供が努力義務とされる「指定第2類」に分類されているが、さらなる対策の必要性を投げかけた。(2023年3月9日付 RISFAX)記事にある「医薬品の販売制度に関する検討会」の第1回は2023年2月に開催され、現在の医薬品の販売方法などが紹介されました。第2回の今回は、若者のOTC医薬品の濫用による薬物依存治療を行う医師の資料が提供され、その切迫性が浮き彫りになりました。その医師による報告内容は以下のとおりです。コロナ禍でOTC医薬品の過量服薬による救急搬送が2倍に増加した。OTC医薬品を主たる薬物とする依存症患者が急増した。「過去1年以内にOTC医薬品の濫用経験がある」という高校生は約60人に1人(2021~22年の調査)。濫用する高校生は、男性より女性が多く、社会的に孤立している可能性が高い。日本のOTC医薬品は含有成分が多い。恐怖教育は有効ではなく、薬剤師・登録販売者による声かけなどのソーシャルスキル・アプローチが有効。高校生の1%以上がOTC医薬品の濫用経験があり、またこの2~3年で状況が悪化していると知り、現状にぞっとしたのは私だけではないはずです。濫用の恐れのある医薬品の具体的な成分としては、エフェドリン、コデイン、ジヒドロコデイン、プソイドエフェドリン、メチルエフェドリン、ブロムワレリル尿素があります。現在はコデイン、ジヒドロコデイン、メチルエフェドリンは鎮咳去痰薬に限る指定範囲ですが、2023年4月1日より、鎮咳去痰薬に限らず総合感冒薬なども指定範囲となります。これらの6成分は、一般用医薬品のうち第1類医薬品と第2類医薬品に分類されているため、インターネット販売も可能です。第2類医薬品は患者・購入者への情報提供は義務ではなく努力義務ですので、意外と軽いなと思います。一方で、薬機法施行通知には、購入者が高校生や中学生を含む子供である場合は、その氏名や年齢を確認するとともに使用状況を確認する旨の記載があり、これらが確認できない場合は販売を行わないとされています。検討会に出席した専門家からは、インターネットも実店舗も含め、販売歴の記録や本人確認をしなければ買えない仕組みの構築が必要というコメントがありました。今後は販売方法の変更、複数購入の防止、包装単位や製品表示の変更などの仕組みを変える検討が行われるのではないかと想像します。これから春になり新しい環境での生活が始まると、若い人たちには新しい誘惑があるかもしれません。この問題の周知や声かけの強化など、薬局ですぐにできることも抑止力の1つになると思います。

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第30回 市販薬にご用心!?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)患者さんの内服薬は処方薬以外も確認しよう!2)注意が必要な市販薬を知ろう!【症例】23歳女性。特記既往はなく、手術歴もない。仕事中に頭痛、嘔気を自覚した。しばらく様子をみていたが症状が改善せず、嘔吐も認めたため、仕事を早退し、外来を受診した。●来院時のバイタルサイン意識清明血圧108/61mmHg脈拍102回/分(整)呼吸18回/分SpO299%(RA)体温36.1℃中毒の入り口中毒患者さんはどのように来院するでしょうか。薬を過量に内服したことを自己申告ないし発見され来院する場合も多いですが、その他、意識障害、嘔気・嘔吐、頭痛、動悸、ふらつきなどを主訴に来院します。また、重篤な場合にはショック、痙攣、心停止状態で搬送されてくることもあります。今回は、どこでも来院しうる一見軽症そうにみえる中毒患者さんに関して取り上げます。市販薬の現状コロナ禍となり、自宅に解熱鎮痛薬や総合感冒薬を常備している方も多くなりました。発熱や咽頭痛を主訴に来院した患者さんに対して、アセトアミノフェンなどを処方するとともに、今後に備えて患者さん、ご家族へ市販薬を常備するようにオススメした方も少なくないと思います。適切に使用すれば基本的には問題ありませんが、内服量や方法を誤ってしまうと、いくら市販薬といえども危険なことはいくらでもあります。薬局やコンビニ、さらにはインターネット上で総合感冒薬などの市販薬はいくらでも入手可能です。規制がかかっている薬剤もありますが、実際のところ抜け穴はいくらでもあり、購入しようと思えば購入できてしまっているのが現状でしょう。注意が必要な市販薬処方薬ではベンゾジアゼピン系などの薬に注意が必要ですが、市販薬ではどのような薬剤が問題となっているのでしょうか。表11)が代表的な薬剤であり、みなさんもよくみかけると思います。実際に、救急外来で診療していると、これらの薬剤を過量に内服し、来院する方を多く経験するとともに、常備し乱用している方も少なくありません。これらの薬剤がなぜ問題なのか、代表的な2剤を中心に簡単に説明しておきましょう。表1 注意が必要な市販薬1)商品名:エスエスブロン錠(表2)成分は主に4つです。上から、オピオイド、エフェドリン、抗ヒスタミン薬、カフェインです。ジヒドロコデインは半合成オピオイドです。オピオイド受容体に結合し、中枢神経抑制作用や呼吸抑制作用を発揮し、高揚感や多幸感をもたらします。メチルエフェドリンは、エフェドリンの作用を抑えたものですが、アンフェタミン類に属し、中枢神経興奮作用や交感神経興奮作用を発揮します。これらの成分が含まれる薬剤を適正量以上に、また不用意に内服すると、他の成分と相互作用を及ぼし頭痛や嘔気・嘔吐、興奮などの症状、さらには意識障害やショック、痙攣、呼吸抑制などの重篤な病態を引き起こします。表2 エスエスブロン錠2)商品名:パブロンゴールドA(表3)エスエスブロン錠と共通している成分が多いことに気付くと思います。大きな違いとしてパブロン系の薬にはアセトアミノフェンが含有されているという点です。この点は非常に重要であり、アセトアミノフェンは多量に内服すると肝毒性があり、場合によっては肝不全に陥るリスクがあります(アセトアミノフェン中毒に関しては、以前の連載「第24回 風邪薬1箱飲んだら、さぁ大変」を参照してください。表3 パブロンゴールドAエスエスブロン錠は規制がかかっているため、本来は薬局などで購入する際は1瓶までです。これは販売元のホームページにも明記されています。また、値段も決して安くはないため、同成分が含まれ、比較的安価なパブロン系の薬剤を購入する流れがあります。パブロン系は規制がかかっていないため、多量に購入可能なのです(中国向けの転売目的で多量に購入されたニュースが今年に入ってから流れていましたよね)。市販薬を乱用している方は10代、20代も多く、最近の状況を知るためにはSNSも有用です。twitterで「ブロン」、「金パブ(パブロンゴールド)」、「メジコン」などで検索すると多くの投稿が閲覧できます。「市販薬中毒なんてそんなに多くないでしょ!?」、そう感じている先生はちょっとのぞいてみてください。本症ではどうだったか冒頭の症例はそもそも市販薬の中毒を疑わなければ診断は難しいかもしれません。実際に、初めは本人も薬を内服したことを話してくれませんでした。しかし、改めて確認すると職場のストレスなどを理由に市販薬を過量に飲んでしまったことを打ち明けてくれました。セルフメディケーションは大切です。しかし、一般用医薬品(OTC医薬品)を不適切に利用している方も少なくありません。「くすりもりすく」、これは処方薬だけでなく市販薬も含め常に意識し対応することが重要です。1)松本俊彦、他. 2020年全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患実態調査.2022.

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第149回 今の日本の医療IoT、東日本大震災のイスラエル軍支援より劣る?(後編)

2月6日に発生したトルコ・シリア大地震のニュースを見て村上氏は東日本大震災時のイスラエル軍の救援活動を思い出します。後編の今回は、現在の日本が顔負けのIoTを駆使したイスラエル軍の具体的な支援内容についてお伝えします。前編はこちら 仮設診療所エリアには内科、小児科、眼科、耳鼻科、泌尿器科、整形外科、産婦人科があり、このほかに冠状動脈疾患管理室(CCU)、薬局、X線撮影室、臨床検査室を併設。臨床検査室では血液や尿の生化学的検査も実施できるという状態だった。ちなみにこうした診察室や検査室などはそれぞれプレハブで運営されていた。一般に私たちが災害時の避難所で見かける仮設診療所は避難所の一室を借用し、医師は1人のケースが多い。例えて言うならば、市中の一般内科クリニックの災害版のような雰囲気だが、それとは明らかに規模が違いすぎた。当時、仮設診療所で働いていたイスラエル人の男性看護師によると、これでも規模としては小さいものらしく、彼が参加した中米・ハイチの地震(2010年1月発生)での救援活動では「全診療科がそろった野外病院を設置し、スタッフは総勢200人ほどだった」と説明してくれた。この仮設診療所での画像診断は単純X線のみ。プレハブで専用の撮影室を設置していたが、完全なフィルムレス化が実行され、医師らはそれぞれの診療科にあるノートPCで患者のX線画像を参照することができた。ビューワーはフリーのDICOMビューアソフト「K-PACS」を使用。検査技師は「フリーウェアの利用でも診療上のセキュリティーもとくに問題はない」と淡々と語っていた。実際、仮設診療所内の診療科で配置医師数が4人と最も多かった内科診療所では「K-PACS」の画面で患者の胸部X線写真を表示して医師が説明してくれた。彼が表示していたのは肺野に黒い影のようなものが映っている画像。この内科医曰く「通常の肺疾患では経験したことのない、何らかの塊のようなものがここに見えますよね。率直に言って、この診療所での処置は難しいと判断し、栗原市の病院に後送しましたよ」と語った。ちなみに東日本大震災では、津波に巻き込まれながらも生還した人の中でヘドロや重油の混じった海水を飲んでしまい、これが原因となった肺炎などが実際に報告されている。内科医が画像を見せてくれた症例は、そうした類のものだった可能性がある。診療所内の薬局を訪問すると、イスラエル人の薬剤師が案内してくれたが、持参した医薬品は約400品目にも上ると最初に説明された。薬剤師曰く「持参した薬剤は錠剤だけで約2,000錠、2ヵ月分の診療を想定しました。抗菌薬は第2世代ペニシリンやセフェム系、ニューキノロン系も含めてほぼ全種類を持ってきたのはもちろんのこと、経口糖尿病治療薬、降圧薬などの慢性疾患治療薬、モルヒネなども有しています」と説明してくれ、「見てみます?」と壁にかけられた黒いスーツカバーのようなものを指さしてくれた。もっとも通常のスーツカバーの3周りくらいは大きいものだ。彼はそれを床に置くなり、慣れた手つきで広げ始めた。すると、内部はちょうど在宅医療を受けている高齢者宅にありそうなお薬カレンダーのようにたくさんのポケットがあり、それぞれに違う経口薬が入っていた。最終的に広げられたカバー様のものは、当初ぶら下げてあった時に目視で見ていた大きさの4倍くらいになった。この薬剤師によると、イスラエル軍衛生部隊では海外派遣を想定し、国外の気候帯や地域ブロックに応じて最適な薬剤をセットしたこのような医薬品バッグのセットが複数種類、常時用意されているという。海外派遣が決まれば、気候×地域性でどのバッグを持っていくかが決まり、さらに派遣期間と現地情報から想定される診療患者数を割り出し、それぞれのバッグを何個用意するかが即時決められる仕組みになっているとのこと。ちなみに同部隊による医療用医薬品の処方は南三陸町医療統轄本部の指示で、活動開始から1週間後には中止されたという。この時、最も多く処方された薬剤を聞いたところ、答えは意外なことにペン型インスリン。この薬剤師から「処方理由は、糖尿病患者が被災で持っていたインスリン製剤を失くしたため」と聞き、合点がいった。ちなみにイスラエルと言えば、世界トップのジェネリックメーカー・テバの本拠地だが、この時に持参した医薬品でのジェネリック採用状況について尋ねると、「インスリンなどの生物製剤、イスラエルではまだ特許が有効な高脂血症治療薬のロスバスタチンなどを除けば、基本的にほとんどがジェネック医薬品ですよ。とくに問題はないですね」とのことだった。この取材で仮設診療所エリア内をウロウロしていた際に、偶然ゴミ集積所を見かけたが、ここもある意味わかりやすい工夫がされていた。感染性廃棄物に関しては、「BIO-HAZARD」と大書されているピンクのビニール袋でほかの廃棄物とは一見して区別がつくようになっていたからだ。大規模な医療部隊を運営しながら、フリーウェアやジェネリック医薬品を使用するなど合理性を追求し、なおかつ患者情報はリアルタイムで電子的に一元管理。ちなみにこれは今から11年前のことだ。2020年時点で日常診療を行う医療機関の電子カルテ導入率が50~60%という日本の状況を考えると、今振り返ってもそのレベルの高さに改めて言葉を失ってしまうほどだ。

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アセトアミノフェン含有製剤、薬剤性過敏症症候群を重大な副作用に追加/厚労省

 アセトアミノフェン含有製剤の添付文書について、2023年1月17日、厚生労働省が改訂を指示した。改訂内容は『重大な副作用』の項への「薬剤性過敏症症候群」の追記で、薬剤性過敏症症候群の国内症例を評価したことに基づく。症例の因果関係評価および使用上の注意の改訂要否について、専門委員の意見も聴取した結果、アセトアミノフェン含有製剤と薬剤性過敏症症候群との因果関係の否定できない国内症例が集積したことから、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。アセトアミノフェンの『重大な副作用』として薬剤性過敏症症候群が新設 該当医薬品は、アセトアミノフェン(経口剤、坐剤、注射剤)/トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン/サリチルアミド・アセトアミノフェン・無水カフェイン・クロルフェニラミンマレイン酸塩/サリチルアミド・アセトアミノフェン・無水カフェイン・プロメタジンメチレンジサリチル酸塩/ジプロフィリン・ジヒドロコデインリン酸塩・dl-メチルエフェドリン塩酸塩・ジフェンヒドラミンサリチル酸塩・アセトアミノフェン・ブロモバレリル尿素。 アセトアミノフェン含有製剤の添付文書の改訂は以下のとおり。重大な副作用薬剤性過敏症症候群:初期症状として発疹、発熱がみられ、更に肝機能障害、リンパ節腫脹、白血球増加、好酸球増多、異型リンパ球出現等を伴う遅発性の重篤な過敏症状があらわれることがある。なお、ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)等のウイルスの再活性化を伴うことが多く、投与中止後も発疹、発熱、肝機能障害等の症状が再燃あるいは遷延化することがあるので注意すること。アセトアミノフェンと「薬剤性過敏症症候群」症例*の集積状況(1)~(3)44例[うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例6例]【死亡3例(うち、医薬品と事象による死亡との因果関係が否定できない症例0例)】(5)3 例[うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例0例]【死亡0例】(9)1 例[うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例0例]【死亡0例】(4)、(6)~(8)、(10)は0例(1)アセトアミノフェン[経口剤]…カロナール原末ほか(2)アセトアミノフェン[坐剤]…カロナール坐剤小児用50ほか(3)アセトアミノフェン[注射剤]…アセリオ静注液1000mgバッグ(4)SG配合顆粒[一般名:ピラゾロン系解熱鎮痛消炎配合剤](5)トラムセット配合錠など  [一般名:トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合剤](6)カフコデN配合錠[一般名:ジプロフィリン・ジヒドロコデイン配合剤](7)ペレックス配合顆粒[一般名:非ピリン系感冒剤](8)小児用ペレックス配合顆粒[一般名:非ピリン系感冒剤](9)PL配合顆粒など[一般名:非ピリン系感冒剤](10)幼児用PL配合顆粒[一般名:非ピリン系感冒剤]*:医薬品医療機器総合機構における副作用等報告データベースに登録された症例

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低用量徐放性モルヒネ、COPD患者の慢性息切れを改善せず/JAMA

 重度の慢性的な息切れを伴う慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において、低用量徐放性モルヒネの毎日の使用はプラセボと比較して、治療開始から1週間後までで、最も重度な息切れに有意な改善は認められず、1日の平均歩数にも有意な変化はなかったことが、スウェーデン・ランド大学のMagnus Ekstrom氏らが実施した「BEAMS試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2022年11月22・29日合併号に掲載された。オーストラリアの無作為化プラセボ対照比較試験 BEAMS試験は、オーストラリアの20施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2016年9月~2019年11月の期間に患者の登録が行われた(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]などの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、COPDと診断され、呼吸器内科医によって確定された根本的な原因に対する至適な治療を行っても重度の慢性的息切れ(修正MRC息切れスケールのスコア3または4[「平坦な道を約100ヤード〈91.4m〉または数分歩くと息切れのため立ち止まる」「息切れがひどくて家から出られない」「衣服の着替えをする時にも息切れがする」])がみられる患者であった。 被験者は、徐放性モルヒネ8mg/日、同16mg/日、プラセボを1週間経口投与する群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けられ、ベースラインの受診時に手首にアクチグラフ装置が装着された。さらに、2週目と3週目にも、それぞれ徐放性モルヒネを1週目の用量に加えて8mg/日またはプラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられ、3週目にはモルヒネ8mg/日、同16mg/日、同24mg/日、同32mg/日、プラセボを投与する5つの群に分けられた。 主要アウトカムは、プラセボと比較した徐放性モルヒネ投与例における、患者報告による最も重度な息切れの強度の変化とされ、ベースライン(-3~-1日目)と投与開始1週目(5~7日目)の平均スコアを用いた数値スケール(0[なし]~10[最も悪いまたは最も強い])で評価した。副次アウトカムには、アクチグラフを用いた1日の歩数の変化が含まれ、ベースライン(-1日目)と3週目(19~21日目)の平均歩数が比較された。漸増された4つの用量で、平均1日歩数に差はない 156例(年齢中央値72歳[四分位範囲[IQR]:67~78]、女性48%)が主解析に含まれ、モルヒネ8mg群に55例、同16mg群に51例、プラセボ群に50例が割り付けられた。138例(48例、43例、47例)が1週目の投与を完了した。修正MRC息切れスケールのスコア3が121例(78%)、スコア4は35例(22%)だった。 1週目における最も重度な息切れの強度の変化は、モルヒネ8mg群とプラセボ群で有意な差はなく(平均群間差:-0.3、95%信頼区間[CI]:-0.9~0.4)、同16mg群とプラセボ群の間にも差は認められなかった(-0.3、-1.0~0.4)。 3週目における平均1日歩数の変化は、モルヒネ8mg群とプラセボ群(平均群間差:-1,453歩、95%CI:-3,310~405)、同16mg群とプラセボ群(-1,312歩、-3,220~596)、同24mg群とプラセボ群(-692歩、-2,553~1,170)、同32mg群とプラセボ群(-1,924歩、-4万7,699~921)のいずれにも有意な差はみられなかった。 治療関連有害事象は、1週目にモルヒネ8mg群の64%、同16mg群の78%、プラセボ群の48%で発現し、多くが一般的なモルヒネ関連有害事象(便秘、疲労、めまい、吐き気、嘔吐など)であった。有害事象による投与中止は、それぞれ2例、5例、0例で認められた。入院や死亡を含む重篤な治療関連有害事象は、全用量のモルヒネ群が139例中46例(33%、85件)、プラセボ群は17例中2例(12%、2件)でみられた。 著者は、「今後は、モルヒネは特定のCOPD患者に息切れの軽減をもたらすか、より高用量のモルヒネによって利益を得る患者は存在するかを検討する研究や、重度の息切れにおける短時間作用型オピオイドの役割を明らかにするための研究が必要である」としている。

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第135回 long COVIDに依存症薬naltrexone低用量が有望

依存症治療薬ナルトレキソン(naltrexone)低用量(LDN)を新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(Post COVID-19 Syndrome;PCS)患者52人に試しに2ヵ月分処方したところ調べた7項目のうち6つの改善が認められました1,2)。naltrexoneは50 mg投与でオピオイド(アヘン)遮断作用を担いますが、その10分の1未満の1~4.5 mgの低用量投与は独特の免疫調節活性をどうやら有し、low dose naltrexoneにちなんでLDNと呼ばれ、いつもの用量のnaltrexoneとは区別されています。LDNに特有の作用はオピオイド成長因子受容体(OGF)遮断、Toll様受容体4炎症経路阻害、マクロファージ/マイクログリアの調節、T/B細胞の阻害などによるらしく、数々の病気への効果が小規模試験や症例報告で示唆されています。たとえばいつもの治療が不十分な炎症性腸疾患(IBD)患者47人への投与で寛解を促す効果3)、今では筋痛性脳脊髄炎(ME)/慢性疲労症候群(CFS)と呼ばれる慢性疲労症候群(CFS)の患者3人への投与でその治療効果4)が示唆されています。また、関節リウマチ(RA)、線維筋痛症、多発性硬化症、疼痛症候群患者へのLDN投与では抗炎症薬が少なくて済むようになりました。アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(UCD)の感染症専門家John Lambert氏はライム病と関連する痛みや疲労の治療にLDNを使っていたことから、COVID-19罹患後症状へのLDNの使用を同僚に勧めました。するとすこぶる評判が良く、それではということで彼はCOVID-19罹患後症状、俗称long COVIDへのLDNのまずは安全性、さらには効果も調べる試験を計画しました2)。試験には52人が参加し、それらのうち38人がLDN服用を始めました。2人は有害事象を生じてLDNを中止し、36人が2ヵ月のLDN服用期間後の問い合わせに回答し、症状や体調の指標7つの変化が検討されました。結果は有望で、それら7つ中6つ(COVID-19症状、体の不自由さ、活力、痛み、集中、睡眠障害)の改善が認められました。気分は改善傾向を示したものの有意レベルではありませんでした。Lambert氏のライム病患者への使用目的と符合し、LDNは痛みに最も有効でした。今回に限らずLDNの慢性痛緩和効果はこれまでのいくつかの試験でも認められています。先立つ試験でも示唆されているとおりLDNはどうやら安全で、LDN服用中止に至る有害事象を生じたのは2人のみで、被験者のほとんど95%(36/38人)は無事にLDNを服用できたようです。今回の試験は対照群がないなどの不備があり、示唆された効果が全部LDNの手柄と判断することはできません。Lambert氏はLDNの効果の確かさを調べる大規模試験を計画しています。Lambert氏の他にもCOVID-19罹患後症状へのLDN の試験があります。米国ミシガン州のサプリメント企業AgelessRx社はCOVID-19罹患後症状患者の疲労の軽減や生活の質の改善を目当てとするLDNとNAD+併用の下調べ試験(pilot study)を実施しています5,6)。医薬品以外のCOVID-19罹患後症状治療の開発も進んでいます。その1つが嗅覚消失を脳刺激装置で治療する取り組みです7,8)。いわずもがな嗅覚消失はCOVID-19の主症状の1つであり、日にち薬で回復することも多いとはいえ一向に回復しないことも少なくありません。嗅覚や味覚の突然の変化を被ったCOVID-19患者およそ千人を調べた試験の最近の結果報告によると、COVID-19診断から少なくとも2年経つ267人のうち嗅覚消失が完全に解消していたのは5人に2人ほど(38%)で、半数超(54%)は部分解消にとどまっており、13人に1人ほど(7.5%)は全く回復していませんでした9)。そういった嗅覚消失患者の嗅覚の回復を目指して開発されている人工嗅覚装置は難聴を治療する人工内耳が脳で処理できる電気信号に音を変えるように匂いの信号を脳に移植された信号受信電極に送ります。それが匂い成分ごとに異なるパターンで脳の嗅球を刺激して匂いを把握できるようになることを目指します。販売に向けた協力体制も発足しており、そう遠くない未来、向こう5~10年に製品の発売が実現するかもしれません8)。参考1)O'Kelly B, et al. Brain Behav Immun Health. 2022;24:100485.2)Addiction drug shows promise lifting long COVID brain fog, fatigue / Reuters3)Lie MRKL, et al. J Transl Med. 2018;16:55.4)Bolton MJ, et al. BMJ Case Rep. 2020;13:e232502.5)AgelessRx Launches Pilot Post-COVID Clinical Trial / AgelessRx6)Pilot Study Into LDN and NAD+ for Treatment of Patients With Post-COVID-19 Syndrome(Clinical Trials.gov)7)Bionic nose could help people smell again / Nature8)WITH THIS BIONIC NOSE, COVID SURVIVORS MAY SMELL THE ROSES AGAIN / IEEE Spectrum9)McWilliams MP, et al. Am J Otolaryngol. 2022;43:103607.

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知っておきたい新しいオピオイド(1)タペンタドール【非専門医のための緩和ケアTips】第35回

第35回 知っておきたい新しいオピオイド(1)タペンタドール私が緩和ケアの仕事を始めた頃と比べ、臨床で活用できるオピオイドが増えています。今回は、国内承認が比較的最近で、使ったことのある方がまだ少ないと思われる「タペンタドール」についてお話しします。今日の質問「オピオイドといえばモルヒネ」という時代からすると、さまざまなオピオイドの選択肢が増えたことは良いのですが、使い分けがよくわかりません。先日、がん拠点病院から紹介されてきた患者さんは、タペンタドールというオピオイドを内服していました。どういった特徴のある薬剤なのでしょうか?タペンタドール(商品名:タペンタ)は、2014年に保険承認されました。緩和ケアを専門とする医療者には広く知られるようになった一方で、プライマリ・ケア領域では、まだ使用経験のない先生も多いでしょう。タペンタドールは「強オピオイド」に位置付けられる薬剤です。日本では徐放製剤のみが発売されており、適応は各種がんにおける中等度から高度の疼痛です。タペンタドールは薬理学的にはユニークな特徴があります。腎機能障害があっても使用ができ、便秘が少ないとされています。このあたりはモルヒネと比較して、好んで使用される特徴でしょう。オピオイドはμオピオイド受容体を介した鎮痛効果が中心ですが、タペンタドールはSNRI様作用も有しています。SNRIと聞いて抗うつ薬を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。緩和ケア領域では抗うつ薬を神経障害性疼痛に対する鎮痛補助薬として用います。タペンタドールはこの鎮痛補助役としての作用も有する、ユニークなオピオイドなのです。より薬理学的なポイントとしては、「CYP2D6」という酵素活性に影響を受けない代謝経路になっていることが挙げられます。これは他薬剤との併用の際に大切です。併用薬剤によっては代謝酵素に影響を及ぼし、作用が減弱したり逆に予想よりも強く出たり、といった相互作用が生じるのです。さらなる特徴は、オピオイドの濫用防止の加工がしてあることです。粉砕できないように加工されており、水に溶かすとネバネバのゼリー状になります。よって、経管投与ができません。注射薬もないので、内服が難しくなりそうな患者の場合は、早めに別のオピオイドに変更するマネジメントが必要になります。私がタペンタドールが最も適すると感じるのは、頭頸部がんの難治性がん疼痛の患者、抗真菌薬のような相互作用に注意が必要な薬剤をよく使う血液腫瘍の患者さんなどです。もちろん、こうした患者さんは内服が難しい状況にもなりやすいのでその見極めも必要です。そうした意味では、少し“上級者向け”のオピオイドといえるかもしれません。今回のTips今回のTipsタペンタドールはユニークな特性を持つ、少し“上級者向け”のオピオイド。

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第123回 ケタミンの依存性はどうやら低い

ケタミンは遡ること60年前の1962年に初めて合成されて長く麻酔薬として使われてきました。ケタミンはいまやすぐに効く抗うつ薬として研究や配慮を払った治療環境で使われることが増えていますが、いつもの治療で常用するとなると依存性が心配です。あいにくケタミンの依存性がどれほどかはその複雑な薬理作用などのせいで定まっていませんでしたが、先週水曜日にNature誌に掲載されたマウスでの新たな実験によると、依存性の恐れがある薬物に分類されているのとは裏腹にケタミンの依存性はどうやら低いようです1,2)。実験の結果、ケタミンは脳の側坐核(NAc)のドーパミンをコカインなどの依存性薬物と同様に一過性に増やすもののそれら依存性薬物でたいてい生じるシナプス可塑性を誘発しませんでした。ケタミンは側坐核と繋がる腹側被蓋野(VTA)のドーパミン放出神経をNMDA受容体遮断作用により脱抑制するものの、2型ドーパミン受容体の作用によってその脱抑制はすぐに打ち消されます。ドーパミンはそうしてすぐに消沈し、VTAやNAcでのシナプス可塑性は生じずに済み、依存を意味する振る舞いをマウスは示しませんでした。2019年に米国で承認されたJohnson & Johnson(J&J)社の治療抵抗性うつ病治療点鼻薬Spravatoの成分はその名前が示す通りケタミンの光学異性体S体・エスケタミン(esketamine)であり、ケタミンと同様にNMDA受容体遮断作用を有します3)。依存性(dependence)は服薬を突然中止したときや服薬量がかなり減ったときに生じる離脱症状/兆候で把握されます。Spravatoはケタミンのマウス実験結果と同様にどうやら依存性の心配は少ないらしく、その治療を止めてから4週間後までの観察で離脱症状は認められていません3)。ケタミンのもう1つの光学異性体R体の抗うつ効果も期待されており、米国のatai Life Sciences社の開発品PCN-101(R-ketamine、アールケタミン)はそのケタミンR体を成分とします。PCN-101は欧州で第II相試験が進行中です4)。大塚製薬はPCN-101の日本での権利をatai Life Sciencesの子会社Perception Neuroscienceから昨春2021年3月に手に入れており、日本での販売を目指して日本での臨床試験を担当します5)。J&Jもエスケタミンの日本での開発をどうやら進めており、臨床研究情報ポータルサイトによると治療抵抗性うつ病患者への同剤の国内での第II相試験が完了しています6)。S体やR体ではないただのケタミンも奮闘しており、たとえば今年初めにBMJ誌に掲載された比較的大規模なプラセボ対照無作為化試験結果では自殺願望の解消効果が認められています7)。その報告の論評者もまた依存性を懸念していますが8)、今回のマウスでの結果がヒトで検証されて依存性の懸念が晴れればエスケタミンがすでに期待の星9)となっているようにケタミンも治療抵抗性うつ病治療でのいつもの薬の地位をやがて手に入れることになるかもしれません。参考1)A short burst of reward curbs the addictiveness of ketamine / Nature2)Simmler LD,et al.Nature. 2022 Jul 27. [Epub ahead of print]3)SPRAVATO PRESCRIBING INFORMATION.4)atai Life Sciences announces FDA Investigational New Drug (IND) Clearance for PCN-101 R-ketamine Program / PRNewswire5)治療抵抗性うつ治療薬「アールケタミン」の日本国内におけるライセンス契約締結について/大塚製薬6)日本人の治療抵抗性うつ病患者を対象に,固定用量のesketamine を鼻腔内投与したときの有効性,安全性及び忍容性を検討するランダム化,二重盲検,多施設共同,プラセボ対照試験(臨床研究情報ポータルサイト)7)Abbar M,et al. BMJ. 2022 Feb 2;376:e067194.8)De Giorgi R, BMJ. 2022 Feb 2;376.9)Swainson J,et al. Expert Rev Neurother. 2019 Oct;19:899-911.

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がんの緩和ケア、放射線・神経ブロック治療普及のセミナー開催

 働くがん患者を企業と一緒に支援する厚生労働省の取り組み「がん対策推進 企業アクション」は、6月28日、「がん治療における緩和ケア」をテーマとしたメディア向けセミナーを開催した。これは、6月9日に厚生労働省が医療者への啓蒙と一般患者への説明用として、がんにおける緩和ケアを説明する資料1)を作成し、都道府県衛生主管部(局)、がん診療連携拠点病院等の病院長、日本医師会を通じて広報をはじめたことを受けたもの。資料は、心理的・精神的ケアを含めて診断時から緩和ケアが受けられること、痛みへの対応としてオピオイド等の使用だけでなく放射線治療や神経ブロック等の活用を促すこと、が主な内容となっている。 セミナーの冒頭では、がん対策推進 企業アクション議長の中川 恵一氏(東京大学 総合放射線腫瘍学講座 特任教授)が「日本国内では年間100万人ががんに罹患し、38万人が命を落としている。その3分の1は働く世代であり、この年代にも緩和ケアは重要なテーマ。日本はこの分野において遅れが目立つ」と述べた。「これまで、日本では治すことが最優先され、癒すという観点が後手になりがちだった。緩和ケアも進行がんの終末期患者を中心に行われてきたが、2006年に制定されたがん対策基本法に基づき、あらゆる種類・進行状態のがん患者に提供するよう医療者への働きかけを進めており、今回の資料作成もその一環だ」と説明した。加えて、「がんの疼痛緩和の基本はオピオイド等の処方だが、それが効かない場合には放射線治療や神経ブロックが有効であり、その周知や実施を進めることが患者のQOLの維持・改善のために必要だ」とした。 その後、沖縄徳洲会病院の服部 政治氏(疼痛治療科統括 部長)が「がん疼痛治療の現状」と題した講演を行った。服部氏が積極的に行っている疼痛緩和目的の神経ブロックは、全国の実施回数が年間300回と非常に少ない水準に留まっている。服部氏は「がんの疼痛には鎮痛薬の内服や皮下注、手術・放射線治療、そして神経ブロック療法・脊髄鎮痛法がある。治療初期は鎮痛薬、それが効かなくなったら放射線、最後に神経ブロックと直線的に各手法が提供されているのが現状」と説明した。そして、「疼痛緩和のためモルヒネを大量投与されているケースにおいて神経ブロックを行うことで痛みを軽減させ、モルヒネの投与量を10分の1程度まで減らせることが複数のデータで示されている。神経ブロックを施術したことで終末期患者が在宅診療に切り替えられた例もあるが、オピオイドの投与量は一気には減らせないため、大量投与になる前の初期から、複数の緩和ケアの手法を組み合わせて提供することが有効だ」と説明した。そして、現状の課題として「20年ほど前まで一般的だった神経ブロック・脊髄鎮痛法が行われなくなった結果、施術できる医師、研修できる施設が減っている。鎮痛薬に偏った日本における緩和ケアの課題感を共有し、人材育成を進めることが重要だ」と強調した。

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第116回 地域医療のパイオニアが院長だったクリニックでモルヒネ過剰投与、経緯や原因明らかにせず

DX以前の日本の光景に口があんぐりこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。暑いですね。節電要請に加え、KDDIの通信障害もあって、この土日は各方面、いろいろな意味でバタバタしていたようです。猛暑で熱中症患者が急増する中、コロナ患者も再び漸増傾向です。通信障害によってauの携帯電話が使用できないことで、救急医療や在宅医療などの現場にも少なからぬ影響が出たようです。自治体の中には消防車が「緊急時は自宅の固定電話や公衆電話、au以外の携帯電話から通報してください」と拡声器で呼びかけて回っていたところもありました。電力不足といい、電話がつながらない状態といい、DX以前の日本の光景に口があんぐりと開いてしまった週末でした。さて、今回は東京・国分寺市で起きたモルヒネ過剰投与事件を取り上げます。昔からよくある古典的な医療過誤ですが、古典的だけにいろいろ考えさせられることが多い事件です。40代女性医師と60代女性薬剤師を業務上過失致死疑いで書類送検必要量の100倍のモルヒネを高齢患者に処方して死亡させたなどとして、警視庁が東京都国分寺市の医療法人実幸会・武蔵国分寺公園クリニックの40代女性医師と、近隣の調剤薬局の60代女性薬剤師の2人を業務上過失致死の疑いで東京地検立川支部に書類送検していたことわかり、6月29日、各紙が一斉に報じました。送検は23日付で、2人は容疑を認めているとのことです。各紙報道等によると、昨年2月1日、都内の男性(93)が息苦しさを訴えてクリニックを受診。処方されたモルヒネ含有の内服薬を服用したところ、1週間後の2月8日にモルヒネ中毒で死亡したとのことです。警視庁の調べで、医師が電子カルテの入力を誤って必要量の100倍のモルヒネを処方した疑いが判明。一方、処方箋を受け取った薬剤師は処方内容をよく確認せずに薬を調剤した疑いがあるとのことです。医薬分業のセーフティーネット機能せず報道を読む限り、よくある処方箋に関する医療過誤です。ただ、医薬分業においては、重大な医療事故に至る前に、セーフティーネットが何重にも張り巡らされているはずです。今回はそれらがまったく機能していなかったようで、その意味でもとても深刻な事件と言えるでしょう。処方箋の記入ミスや電子カルテの入力間違いは誰にでも起こり得ます。仮に電子カルテに100倍のモルヒネという異常値が入力された場合、アラートが出るようなシステムではなかったのでしょうか?一方、処方箋を受け取った薬局の薬剤師は処方箋の監査を行っていなかったのでしょうか。医薬分業が進められてきた最大の理由は、薬局の薬剤師による処方監査や疑義照会によって、薬物投与に関する医療過誤を防ぐためであったはずです。今どき「100倍量のモルヒネ」に気づかない薬剤師が普通に地域で働いていること自体が驚きです。この事件が報道される直前の6月26日、日本薬剤師会は役員改選を行い、山本 信夫会長の5選が決まっています。日本医師会会長が1期で代わったことを考えると相当な長期政権と言えます。山本会長は5期目の課題として「国民に薬局・薬剤師の存在を見えるようにすること」語ったそうですが、昔から同じようなことを言ってきている印象です。そんな抽象的なことよりも、最低限、処方監査や疑義照会がきちんとできる薬剤師を地域にきちんと配してほしいものです。ちなみに、日本医療機能評価機構が今年4月13日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」1)でも、処方医が小児患者に10倍量のリスパダールを過量投与する処方箋を出し、薬局薬剤師が気づかなかった事例が紹介されています。今回のモルヒネ過剰投与の件も含め、薬剤師の処方監査忘れは、全国各地で起こっているであろうことが、こうした事例からも伺い知ることができます。僻地医療、地域医療で著名な前院長モルヒネ過剰投与事件に関して、もう1点驚いたことがあります。事件を起こした武蔵国分寺公園クリニックが、僻地医療、地域医療で有名な名郷 直樹氏が院長を務めていたクリニックだということです。名郷氏は、自治医大卒。作手村国保診療所所長、自治医大地域医療学助手、社団法人地域医療振興協会・地域医療研究所地域医療研修センター長などを経て、2011年に武蔵国分寺公園クリニックの院長となり、昨年末まで院長を務めていました。この間、地域医療、家庭医療、EBMのパイオニアとして多くの大学医学部、大学薬学部で非常勤講師などを務め、後進の指導にあたってきました。著書も多数あります。武蔵国分寺公園クリニック自体も、日本プライマリ・ケア連合学会認定のプログラムに従って、家庭医療専門医(家庭医)を目指す医師を対象とする研修プログラムを運営。また、東京都立多摩総合医療センターの協力型臨床研修施設として、初期臨床研修医の受け入れも行っています。事故の原因や詳細は不明なままそんな地域医療のお手本と言えるようなクリニックですが、この事件に関してはマスコミの取材に一切応えていません。ホームページには6月29日付で「報道の件について」として、「本件はご遺族とはすでに示談が成立しています。事故の詳細については 一般社団法人日本医療安全調査機構に詳細な報告書を提出しています。また、警察には当院より届出を行い、できる限りの情報を開示し、捜査に協力してきました。当院としては医師・薬剤師個人に責任があるとは考えておらず、すべての責任は当院自体にあると考えています。(中略)。事故後には医療安全管理委員会を定期開催し、事故の再発防止に努めており、今後二度とこのような事故を起こすことのないよう努めてまいります」という文章が掲載されたのみです。7月2日にも追加で「報道に関するお知らせ」が掲載されましたが、「二度とこのような事故を起こすことのないよう、今後も対策徹底に努めてまいります。(中略)。今回の報道にある調剤薬局は、国分寺市内を含む近隣の調剤薬局ではない事をお知らせ致します」と事故の詳細には触れていません。事故の経緯や原因といったエビデンスを明らかにすべきでは名郷氏は現在、管理者(院長)ではなく名誉院長ですが、昨年、院長時代に勤務していた医師が起こした医療過誤です。「示談は成立している」「日本医療安全調査機構に報告書を提出した」「警察には情報を開示し、捜査に協力している」だけではなく、なぜ事故が起こったのか、薬局との連携はどうなっていたのか、その後、同様の事故が起きないようにどんな対策を取っているのかを、概要だけでも世間に報告すべきではないでしょうか。地域住民も本当にこのクリニックにかかり続けてよいのか、判断に困ると思います。こうした医療事故が起こると、日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)に報告済みであることをもって、十分な対応をしていると考える医療機関(とくに民間医療機関)は多いですが、税金(診療報酬)が投入された地域の社会インフラであることを考えると、医療事故がなぜ起きたか、防止対策をどうとっているかについて、住民への情報開示は不可欠だと思います。日本の地域医療、家庭医療を牽引し、EBMの定着にも尽力してきた人だけに、院長時代に自院で起こした事故の経緯や原因といった“エビデンス”を明らかにしないのはとても残念に感じます。参考1)薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業「共有すべき事例」/日本医療機能評価機構

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