CLEAR!ジャーナル四天王|page:6

動脈硬化疾患の1次予防に積極的な脂質管理の幅が広がった(解説:平山篤志氏)

脂質低下療法にスタチンが広く用いられるが、筋肉痛などの副作用を訴える場合があり、スタチン不耐性と呼ばれ使用できない患者がいて、脂質への介入がなされていない場合がある。心血管疾患の既往のある患者の2次予防では、エゼチミブあるいはPCSK9阻害薬を使用してでも脂質低下が行われる。しかし、1次予防の動脈硬化疾患発症リスクの高い対象、たとえば糖尿病患者では脂質低下療法が行われていないことが多く、さらにスタチン不耐性では放置されていることが多い。

途上国で最強、最適な治療(解説:岡慎一氏)

ケニアで行われた臨床試験である。途上国では2000年以降、非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)をKey drugとして、核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)2剤との3剤を合剤にしたGeneric薬が、治療の中心として用いられてきた。もちろん、これにより多くの命が救われた。しかし、NNRTIを中心とする治療は、治療に失敗した場合に薬剤耐性ウイルスが出やすい一方、薬の種類が少ないため、2回目以降の治療の選択肢は限られていた。その後、プロテアーゼ阻害薬(PI)がKey drugとなってから治療失敗による薬剤耐性の頻度はやや減ったが、PIは薬剤の相互作用が多く、脂質異常など副作用も多いため、すでに先進国ではあまり使用されていない。

トランスジェンダーの自殺に関する疫学研究(解説:岡村毅氏)

トランスジェンダーはいまや政治の最前線になってしまった。プーチン大統領はウクライナ侵略を西側の悪魔主義(ここにはトランスジェンダーも含まれる)との戦いだと規定しようとしている。米国では、民主党・都市部がトランスジェンダーに寛容、共和党・非都市部が非寛容と分断してしまった。英国でも、スコットランドが性別変更を容易にする方向に動いたが、イングランドが止めようとしている。日本では反共産主義と奇妙に融合した一教団が政界に隠れた影響力を保ち続け、トランスジェンダー等に反対してきたとされている。

遠隔血行動態モニタリングシステムは心不全患者のEFに関係なく入院を減少させ、QOLを改善する(解説:原田和昌氏)

心不全患者のセルフケアは大きな問題である。心不全は高齢化の進行により増加し、多くの医療資源を必要とする。そのため、専門看護師が頻回に患者に電話連絡したり、心不全患者の各種パラメータを遠隔モニタリングしたりすることで、心不全の入院を防止したり、QOLを改善したり、死亡率を低下させたりすることが可能であるかという検討が以前より行われてきた。遠隔モニタリングは何をモニタリングするか、侵襲的か非侵襲的か、どういったシステム構築でだれがモニタリングするか、警告値が出たときのアルゴリズムはどうするか、さらには警告値を見逃したり、発見が遅れたときの免責などが問題になる。したがって、遠隔モニタリング群がシステムとして、対照群よりも優れていることが臨床試験で証明されてガイドラインにて推奨され、各国の医療システムの償還の枠組みに載る、という手順を踏むことが必要となる。

脳出血患者の収縮期血圧を1時間以内に130~140mmHgにコントロールすると通常治療と比較して6ヵ月後の神経学的予後(modified Rankin Scale)が良い(解説:石川讓治氏)

脳出血患者の急性期の血圧をどのようにコントロールすればよいのかという問題は、徐々に変化してきた。『脳卒中治療ガイドライン』の2009年版においては、「脳出血急性期の血圧は、収縮期血圧が180mmHg未満または平均血圧が130mmHg未満を維持することを目標に管理する」ことが推奨されていたが、2015年版では、「できるだけ早期に収縮期血圧140mmHg未満に降下させ、7日間維持することを考慮しても良い」となり、2021年版では、「脳出血急性期における血圧高値をできるだけ早期に収縮期血圧140mmHg未満へ降圧し、7日間維持することは妥当であり、その下限を110mmHg超に維持することを考慮しても良い」となった。本研究において、低および中所得国(9ヵ国)で行われた多施設共同研究で、発症6時間以内の脳出血患者を対象に、(1)1時間以内の収縮期血圧(140mmHg未満を目標、130mmHgを下限)、(2)できるだけ早期の血糖(非糖尿病患者では6.1~7.8mmol/L、糖尿病患者では7.8~10.0mmol/L)、(3)1時間以内の体温(37.5度未満)、(4)ワルファリン内服患者においては1時間以内にINR1.5未満を目標に速やかにコントロールを行うことで、6ヵ月後に評価したmodified Rankin Scaleにおける神経学的予後が、通常治療よりも良好であったことが報告された。

アジア系研究者をもっと雑誌の編集委員に抜てきすべきだろう(解説:折笠秀樹氏)

論文査読の招待メールはたまに来ますが、「agree受諾」か「decline辞退」で答えます。どういった基準で答えているかというと、忙しさよりは、内容への興味かなと思います。この論文ですが、査読招待に関わる調査結果です。本研究の研究デザインは後ろ向きコホート研究です。査読招待メールをどなたに送り、受諾か辞退だったかというデータベースが保存されているのでしょう。BMJグループの21誌が対象でした。編集者を地域別で見ると、欧米が88%を占めており、アジアはわずか6%でした。論文の筆頭著者はというと、欧州42.1%、アジア28.2%、北米19.8%でした。アジアが結構多いのです。

LGBTQ+はもはや日常風景か:米国における医学研究の職場ハラスメント調査を読んで(解説:岡村毅氏)

この研究は米国の医学研究の職場ハラスメントを包括的に調査したものだ。斬新なところは「これまでの調査はシスジェンダーに偏っていた」として、LGBTQ+を基礎的データとしてとっているところだ。また国立衛生研究所(NIH)のキャリアデヴェロップメントアワードを受けた若手研究者を対象にしており、適切なサンプリングであろう。生物学的性(男性と女性)と性的志向(シスジェンダー[生物学的性と性自認が一致]兼ヘテロセクシュアル[異性愛]である多数派か、LGBTQか)を聞いている。おそらくこれからの調査はこのような方向になっていくと思われる。

わが国のオンラインHDFの現況(解説:浦信行氏)

 つい先日のNEJM誌オンライン版(2023年6月16日号)に、欧州における多施設共同研究であるCONVINCE研究の結果が報告された。その結果は、従来のハイフラックス膜の血液透析(HFHD)に比較して、大量置換液使用のオンライン血液透析濾過(HDF)は全死亡を有意に23%減少させたと報告された。それまでの両者の比較はローフラックスHDとの比較が多く、またHFHDとの比較では一部の報告では有意性を示すが、有意性がサブクラスにとどまるものも見られていた。また、置換液量(濾過量+除水量:CV)の事前設定がなされておらず、階層分析で大きなCVが確保できた症例の予後が良好であった可能性も報告され、患者の病状によるバイアスが否定できなかった。本研究においては目標CVが23±1Lと定められ、患者背景にも群間に差はなかった。そのうえでの予後の改善の報告は大変意義の大きいものである。

COVID-19罹患後症状の追跡調査(解説:小金丸博氏)

COVID-19に罹患した一部の患者にさまざまな罹患後症状(いわゆる後遺症)を認めることがわかってきたが、その原因やメカニズムはまだ解明されておらず、効果的な介入方法も確立していない。罹患後症状はpost COVID-19 condition、long COVID、post-acute sequelae of SARS-CoV-2 infection(PASC)などと呼ばれ、WHOは「新型コロナウイルスに感染した人にみられ、少なくとも2ヵ月以上持続し、他の疾患による症状として説明できないもの」と定義している。罹患後症状の種類や有病率、長期経過の把握は、治療方法や介入方法を検討するための臨床試験の設計につながる有益な情報となる。

僕らはみんな発展途上(解説:今中和人氏)

たとえば、あなたがテニスをするのに面のサイズが半分のラケットを渡されたら、直径半分のバットで野球の打席に立ったら、普通は無惨な結果が待っており、猛練習の末であれ、通常のラケットやバットと同等のパフォーマンスを挙げられたら実に見上げたものである。とあるテレビ番組でプロの演奏家が弦を1~2本抜いた楽器で室内楽曲を演奏し、出演者がそれを言い当てる企画があり、私は聞いてもまったくわからなかったが、少ない弦でフレットもない楽器を華麗に演奏なさるシーンを見て、プロの技に舌を巻いた。だが、プロとはいえ事前にかなり練習したそうで、しかも放映が1回だから視聴者は一発録りだと勝手に思っているが、あるいはそうとは限らない。それがテクニカル・チャレンジというものである。

多遺伝子リスクスコアと冠動脈石灰化スコアを比較することは適当なのか?(解説:野間重孝氏)

pooled cohort equations(PCE)はACC/AHA心血管ガイドラインの一部門であるリスク評価作業部会によって開発されたもので、2013年のガイドラインにおいて、これを使用して一次治療においてアテローム性動脈硬化性心血管病のリスクが高いと判断された患者(7.5%以上)に対する高強度、中強度のスタチンレジメンが推奨され話題となった。現在PCEを計算するためのサイトが公開されているので、興味のある方は開いてみることをお勧めする(https://globalrph.com/medcalcs/pooled-cohort-2018-revised-10-year-risk/)。わが国であまり用いられないのは国情の相違によるものだろうが、米国ではPCE計算に用いられていない付加的指標を組み合わせることにより、精度の向上が議論されることが多く、現在その対象として注目されているのが冠動脈石灰化スコア(CACS)と多遺伝子リスクスコアだと考えて論文を読んでいただけると理解しやすいのではないかと思う。

低中所得国において、せっけん手洗いによる介入は急性呼吸器感染症(ARI)の減少に寄与する(解説:寺田教彦氏)

本研究は、低所得国および中所得国(LMIC)において、せっけんを用いた手洗いにより急性呼吸器感染症(ARI)の減少が推定されることを示した研究である。研究グループは、公衆衛生・感染症研究においてハーバード大学やジョンズ・ホプキンズ大学に並び有名なロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)である。2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが世界的な問題となったが、それ以前はARIが世界的に罹患および死亡の主な原因であり、そしてARIによる死亡の83%が低中所得国で発生していた。本研究の和文要約は「せっけん手洗いで、低中所得国の急性呼吸器感染症が減少/Lancet」にまとめられている。

スコアに基づくコロナ罹患後症状の定義を提案した論文報告(解説:寺田教彦氏)

新型コロナウイルス感染症罹患後、数週間から数ヵ月にわたってさまざまな症状が続くことがあり、海外では「long COVID」や「postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection:PASC」、本邦では新型コロナウイルス感染症の罹患後症状と呼称されている。世界各国から報告されているが、この罹患後症状の明確な診断基準はなく、病態も判明しきってはいない。WHOは「post COVID-19 condition」について、新型コロナウイルス感染症に罹患した人で、罹患後3ヵ月以上経過しており、少なくとも2ヵ月以上症状が持続し、他の疾患による症状として説明がつかない状態を定義しており(詳細はWHO HP、Coronavirus disease (COVID-19): Post COVID-19 condition.[2023/06/18最終確認]を参照)、本邦の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第2.0版」でも引用されている。

心臓死ドナー心を用いた心臓移植成績(解説:許俊鋭氏)

本論文で示されたRCT臨床試験は、TransMedics社のポータブル体外循環臓器保存システム(Organ Care System:OCS)を使用して保存した、心臓死ドナー心を用いた心移植(DCD群)の脳死ドナー心移植(DBD群)に対する非劣性を、多施設非盲検ランダム化比較試験で証明することを目的として実施された。DCD群(80例)とDBD群(86例)のリスク調整後の6ヵ月生存率(94% vs.90%)の比較で、DCD群の非劣性が証明された。また、心移植30日の時点での患者1人当たりの心移植グラフトに関連する重篤な有害事象数は2群間で差はなかった。

難治性クローン病の寛解導入と寛解維持に対するウパダシチニブの有用性(解説:上村直実氏)

慢性かつ再発性の炎症性腸疾患であるクローン病(CD)の治療に関しては、病気の活動性をコントロールして患者の寛解状態をできるだけ長く保持し、日常生活のQOLに影響する狭窄や瘻孔形成などの合併症の治療や予防が非常に重要である。すなわち、十分な症状緩和と内視鏡的コントロールを提供する新しい作用機序の治療法が求められる中、最近、活動性とくに中等症から重症のCDに対しては、生物学的製剤により寛解導入した後、引き続いて同じ薬剤で寛解維持に対する有用性を検証する臨床試験が多く施行されている。

CAT対策は重要!(解説:後藤信哉氏)

日本の死因の第1位は悪性腫瘍である。悪性腫瘍治療の選択肢は増えた。抗がん剤治療では体内で腫瘍細胞が壊れることになる。組織の壊れたところでは血栓ができやすい。Cancer Associated Thrombosis(CAT)対策は日本でも真剣に考える必要がある。いわゆるDOACは使いやすい。心房細動の脳卒中治療でも、凝固異常を合併しない静脈血栓でも広く使用されている。本研究ではevidenceの豊富な低分子ヘパリンとDOACの比較試験を行った。

妊娠・出産対策を真剣に考えよう!(解説:後藤信哉氏)

2回以上流産など妊娠の中断をした経験のある、先天性の凝固異常の症例を対象としたランダム化比較試験である。低分子ヘパリンの使用により出産に至る確率を上げられるだろうか? 血栓性素因の症例では妊娠中に静脈血栓症リスクが上昇する。妊娠を目指す時点からランダム化比較試験に参加している。低分子量ヘパリンの抗血栓効果により静脈血栓症を予防できるかもしれない。凝固異常は不育症に寄与している可能性もあるかもしれない。きわめて挑戦的な研究であった。しかし、結果として低分子量ヘパリンを使用しても安全な出産に至る確率は増加しなかった。日常臨床の疑問を解決するために簡素なランダム化比較試験を施行できる環境が日本でもできるとよい。

tirofiban、知っている?(解説:後藤信哉氏)

動脈血栓の主成分はフィブリンと血小板である。閉塞血栓形成における血小板の機能は血小板凝集と同等と考えられた時期があった。tirofibanは血小板のGP IIb/IIIaに結合して血小板凝集を完全に阻害する。tirofiban、abciximab、eptifibatideの3種のGP IIb/IIIa阻害薬が心筋梗塞などを対象として有効性を示した。血小板凝集を阻害するので出血合併症も多い。日本ではabciximabの治験を行ったが、結局GP IIb/IIIa阻害薬は1つも承認されなかった。血栓形成プロセスはダイナミックである。

妊娠糖尿病への早期治療介入は時期尚早か(解説:住谷哲氏)

妊娠糖尿病が母児の産科的合併症のリスク増大と関連することが明らかにされている。妊娠糖尿病のスクリーニングはIADPSGが推奨する、初回受診時に通常の糖尿病診断基準を用いて妊娠中の明らかな糖尿病overt diabetes in pregnancyを除外し、それ以外の妊婦に対しては妊娠24~28週に75gOGTTを実施して妊娠糖尿病gestational diabetes mellitusを拾い上げる方法が一般的である。しかし現実的には、糖尿病発症ハイリスク妊婦に対しては24週以前に75gOGTTが実施され、妊娠糖尿病と診断されて治療介入されるケースも少なくない。

血小板数が少ない症例に血小板輸血は?(解説:後藤信哉氏)

血小板数が5万を切ると出血性合併症は増える。自然出血も増えるかもしれない。そんな症例でも中心静脈にカテーテルを入れる必要がある場合はある。カテーテル挿入にエコーを利用するようになって、合併症リスクは減少している。カテーテル挿入は必要である。しかし、血小板数が低いときに、一時的にでも血小板輸血をするか? 日常臨床に直結した疑問である。この疑問に対してランダム化比較試験を行ったのが本研究である。血小板数1~5万の症例を対象とした。中心静脈カテーテル挿入前に血小板輸血をする群としない群にランダムに振り分けた。カテーテルによるGrade2~4の出血を主要エンドポイントとした。血小板輸血をしても、出血リスクは事前に設定した非劣性マージンを超えなかった。