CLEAR!ジャーナル四天王|page:4

認知症ケアの方法間の比較:カウンターフレンチと、無農薬の農家レストランと、町の定食屋(解説:岡村毅氏)

 認知症と診断された人をどうやってケアするのがよいか、という実際的な研究である。1番目の群は「医療」で働いている専門家が、本人に合ったケアをコーディネートしてくれる。2番目の群は「地域」で働いている専門家が、いろいろとつないだりアドバイスしてくれる。3番目の群は、通常のケアである。これらを、認知症の行動心理症状(もの忘れ等の中核的な症状ではなく、たとえば、興奮とか妄想とか、介護者が最も困るもの)をメインアウトカムとして比較している。

ワクチン接種後の免疫抑制療法患者のリスクを抗体の有無で評価(解説:栗原宏氏)

本研究は、免疫抑制患者におけるSARS-CoV-2スパイク抗体の有無が、感染および入院率にどのような影響を与えるかを評価する約2万人規模のコホート研究である。免疫抑制療法では、ワクチン接種後の免疫応答が低下する可能性があり、COVID-19感染リスクが高いと考えられる。英国の全国疾病登録データを用い、以下の3つの免疫抑制患者群において抗体の影響を評価した。1)固形臓器移植(SOT)2)まれな自己免疫性リウマチ疾患(RAIRD)3)リンパ系悪性腫瘍(lymphoid malignancies)

活動性クローン病に対する抗サイトカイン抗体ミリキズマブの有効性と安全性(解説:上村直実氏)

中等症~重症の活動期クローン病(CD)の寛解導入療法および寛解維持療法における抗IL-23p19抗体ミリキズマブ(商品名:オンボー)の有用性と安全性を、プラセボと実薬対照である抗IL-12/IL-23p40抗体ウステキヌマブ(同:ステラーラ)と同時に比較検討した結果、ミリキズマブが寛解導入および維持療法においてプラセボと比べて有意な優越性を示し、さらに、ウステキヌマブと同等の有用性を示したことが2024年11月のLancet誌に掲載された。わが国におけるクローン病に対する治療は、経腸栄養療法、5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤、ステロイド、アザチオプリンなど従来の薬物療法が行われてきたが、難治例に対してインフリキシマブやアダリムマブなどTNFα阻害薬が使用されるケースが増えている。しかし、以上のような治療を適切に行っても、寛解導入できない症例や寛解を維持できなくて再燃する症例がいまだ多くみられるのが現状であるため、さらに新たな薬剤が次々と開発されている。

脳梗塞治療は完全に心筋梗塞治療の後追い?(解説:後藤信哉氏)

血栓溶解療法による心筋梗塞の予後改善効果を示す論文は、循環器領域にて大きなインパクトがあった。しかし、経皮的カテーテル治療(percutaneous coronary intervention:PCI)が標準治療となり、血栓溶解療法は標準治療とはならなかった。PCIをしても冠動脈内各所に血栓は残る。線溶療法にて血栓を取り切るほうが良いかも? との仮説は循環器領域でも生まれた。しかしPCIに線溶療法を追加すると、むしろ予後は悪化する場合が多かった。医師は線溶効果を期待して線溶薬を投与するが、ヒトの身体には恒常性維持機能がある。線溶が亢進して身体が出血方向に傾けば、血栓性が亢進して止血方向の作用も生まれる。現在は線溶薬による凝固系亢進メカニズムも詳しく理解されるようになった。

新しい認知症観と疫学(解説:岡村毅氏)

「新しい認知症観」という言葉がキーワードになっている。昨年12月に閣議決定された「認知症施策推進基本計画」には、お役所とは思えない情熱的な表現がちりばめられている。  このような熱い思いで国の方針を考えている人がいることに胸が熱くなる。なぜ「新しい認知症観」かというと、認知症ほど、概念が変化しているものはないからだ。近年では「疾病ですらない」というやや極端な意見もある。  私の理解する歴史的変遷を簡単に述べよう。

服薬アドヒアランスの悪い心血管疾患の患者に対して、一般的なテキストメッセージ、ナッジを追加したテキストメッセージ、ナッジとチャットボットによるテキストメッセージを提供しても、通常のケアと比較して12ヵ月後のアドヒアランスを改善しなかった(解説:名郷直樹氏)

ナッジやチャットボットという新しい介入手段が出現し、患者の服薬アドヒアランスを改善できるのではないかという視点で行われたランダム化比較試験である。服薬アドヒアランスの悪い心血管疾患の18歳から90歳までの患者を対象に、一般的なテキストメッセージ、ナッジを追加したテキストメッセージ、ナッジとチャットボットによるテキストメッセージのそれぞれの提供を通常のケアと比較し、12ヵ月後のリフィルの処方箋の発行のギャップを服薬アドヒアランスのアウトカムとして検討している。

敗血症が疑われる入院患者に対するバイオマーカーガイド下の抗菌薬投与期間(解説:寺田教彦氏)

本研究は、敗血症が疑われる重篤な入院成人患者に対して連日血液検査を行い、バイオマーカー(プロカルシトニン[PCT]またはC反応性タンパク質[CRP])のモニタリングプロトコールに基づいた抗菌薬中止に関する助言を臨床医が受けた際の、標準治療と比較した有効性(総抗菌薬投与期間)と安全性(全死因死亡率)を評価している。本論文の筆者は、ジャーナル四天王「敗血症疑い患者の抗菌薬の期間短縮、PCTガイド下vs.CRPガイド下/JAMA」にもあるように、有効性(無作為化から28日までの総抗菌薬投与期間)はDaily PCTガイド下プロトコール群(以下PCT群)で認め(期間短縮)、Daily CRPガイド下プロトコール群(以下CRP群)では有意差なし。安全性(無作為化から28日までの全死因死亡)はPCT群で非劣性だが、CRP群では非劣性の確証は得られなかった、と結論付けている。

SBTの最適な頻度と手法は?(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

本研究は、人工呼吸器の離脱に最適な自発呼吸トライアル(SBT)の施行頻度とその手技の方法について検討された。人工呼吸管理されている患者の状態が改善し、人工呼吸器が必要とされた原因が解決したときにウィーニングが開始される。一般的には長期間人工呼吸器で管理された症例は慎重かつ徐々にウィーニングを行い、短期間であれば早期に離脱が可能である。本研究では患者が自発的に呼吸を開始し、人工呼吸器をトリガーできる能力があること、動脈血酸素分圧(PaO2)と吸入酸素濃度(FiO2)の比が200mmHg以上であること、呼吸数が35回/分以下、心拍数が140回/分以下であること、呼吸数と1回換気量の指標(Rapid Shallow Breathing Index:RSBI)が105回/分/L未満であること、人工呼吸器設定のPEEPが10cmH2O以下であることが挙げられている。

医師による腺腫検出率が大腸がんリスクに影響する(解説:上村直実氏)

大腸内視鏡検査の精度は施行医の力量に大きく左右されるものであるが、内視鏡医の技量を比較するための明確な尺度に関して信頼できるものがあるわけではなく、消化器内視鏡学会の認定専門医の有無や経験年数などに頼っているのが現状と思われる。欧米では、大腸内視鏡医の力量の尺度として、一般的に大腸内視鏡検査における腺腫検出率であるAdenoma Detection Rate(ADR)が用いられている。今回、ポーランドにおける大腸がん検診プログラム受診者の検査後の大腸がん発生率と検査施行医のADRとの関連を比較した研究結果が、2024年12月のJAMA誌に発表された。

過去30年間の世界の糖尿病有病率と治療率の推移(解説:住谷哲氏)

昨年国連が発表した世界人口は約82億人で、今世紀中には100億人を突破するようだ。今から30年ほど前の1990年の世界人口は53億人だったのでこの30年間に約30億人増加したことになる。そこでこの30年間に世界の糖尿病患者数と治療率がどう推移したかを検討したのが本論文である。世界中から収集した18歳以上の1億4,100万人のデータに基づく解析であるから、現時点でのもっとも詳細な疫学データと思われる。従来実施された同様の研究では糖尿病の診断に主としてFPGが用いられたが、本解析ではHbA1cまたは糖尿病治療歴の有無も使用されているので精度の点でも優れている。

乳がん手術におけるセンチネルリンパ節生検の省略、全身治療選択への影響は?(解説:下村昭彦氏)

現在、臨床的にリンパ節転移陰性(cN0)の患者の手術の際には、センチネルリンパ節生検(SNB)を実施し腋窩リンパ節郭清の要否を判断している。INSEMA試験は、腫瘍径がcT1またはcT2かつcN0(かつ画像上もN0)の乳がん患者を対象として、SNB省略がSNB実施に対して非劣性であることを検証した試験である。対象の患者が腋窩操作省略群とSNB群に1:4にランダムに割り付けられた。SNBで陽性だった症例は、さらに腋窩リンパ節郭清実施と非実施に1:1にランダムに割り付けられた。本報告ではSNB実施、非実施の結果が報告された。主要評価項目は無浸潤疾患生存(iDFS)で、ITTではなくper-protocol解析が実施されている。対象期間に5,502例がランダム化され、うち4,858例が解析対象となった(腋窩操作省略962例、SNB 3,896例)。主要評価項目の5年iDFSは腋窩操作省略群91.9%(95%CI:89.9~93.5)、SNB群91.7%(90.8~92.6)、ハザード比(HR)0.91(95%CI:0.73~1.14)であった。非劣性マージンの1.271を下回っており、腋窩操作省略のSNBに対する非劣性が示された。

重症大動脈弁狭窄症に冠動脈疾患を合併した症例の治療方針を決めるのに、たった1年の予後調査でよいのか(解説:山地杏平氏)

重症の大動脈弁狭窄症に冠動脈疾患を合併する場合、患者が80歳以上や高リスク症例であれば、経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)と経皮的冠動脈形成術(PCI)による経皮的治療が選択されることが多く、一方で、若年者やリスクが低い症例では、長期成績を踏まえ、大動脈弁置換術(SAVR)と冠動脈バイパス術(CABG)による外科手術が推奨されます。TCW研究では、70歳以上の無症候性重症大動脈弁狭窄症かつ、50%以上の狭窄を有する2枝以上の冠動脈病変、もしくは20mm以上の病変、あるいは分岐部を含む左前下行枝病変を有する症例について、経皮的治療と外科手術を無作為比較しています。

経口SERDとCDK4/6阻害薬併用の有用性(解説:下村昭彦氏)

ホルモン受容体陽性(HR+)HER2陰性(HER2-)乳がんに対する選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)は注射剤であるフルベストラントが唯一の薬剤であったが、投与経路の問題から多くの経口SERDが開発されている。単剤療法としてはelacestrantがESR1変異を有するHR+HER2-進行乳がんにおいてフルベストラントを含む主治医選択ホルモン療法に対する優越性を示し、海外では承認されている(Shah M, et al. J Clin Oncol. 2024;42:1193-1201.)。一方、現在のホルモン療法はCDK4/6阻害薬、AKT阻害薬、PI3K阻害薬などの分子標的薬との併用が主となっており、経口SERDにおける有効性の結果が待たれていた。

2型糖尿病発症予防のためにダークチョコレートを毎日食べますか?(解説:住谷哲氏)

チョコレートの主成分であるカカオには抗酸化物質の一種であるフラバノール(flavan-3-ol)が豊富に含まれている。抗酸化物質を含む食品を摂取することの健康ベネフィットはこれまでに多く報告されているが、本論文はダークチョコレートの摂取が2型糖尿病発症予防に関連することを大規模前向きコホート研究の結果を用いて明らかにした。解析に用いたのは米国の医療従事者を対象としたNHS、NHSII、HPFSの3つの大規模前向きコホートであり、これまでにも多くの食品と健康ベネフィットとの関連を研究する目的で使用されてきている。解釈する際の注意点としては、対象がすべて医療従事者であり、さらにNHS、NHSIIは対象が看護師なので、全体として健康意識の高い女性を中心とした対象から得られた結果であることである。

GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドは、駆出率の保たれた心不全肥満患者に有効(解説:佐田政隆氏)

左室駆出率が40%未満の心不全を「左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)」、左室駆出率が50%以上の心不全を「左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)」、左室駆出率が40%以上50%未満の心不全は「左室駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)」と定義されている。HFrEFに対する薬物療法では、この30年ほどの間に著明な進歩があった。β遮断薬、ACE阻害薬/ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)もしくはARNI (アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)、そして最近はSGLT2阻害薬の上乗せが予後をさらに改善することが証明された。現在、β遮断薬、ARNI、MRA、SGLT2阻害薬はfantastic fourと呼ばれ、HFrEF患者の予後改善のために1ヵ月以内に早期に導入することが強く推奨されている。

おそらく後進国(資源の限られた国)における血友病治療の光となる新たな遺伝子治療(解説:長尾梓氏)

インドから新たな血友病に対する遺伝子治療の報告である。他の疾患では使われている(と聞いている)レンチウイルスを使った治療は血友病では初めての報告で、NEJM誌に掲載された当日に米国血液学会(ASHといって世界最大の血液学会です)での口頭発表・拍手喝采もあった。筆頭著者のAlok Srivastava氏は筆者の友人でもあり以前からこの活動を聞いていたが、とにかくすごいのはインドと米国の政府による研究資金支援で実施された臨床研究であって、製薬会社が関わっていない点である。彼はさまざまな血友病関連の学会などで役割を担っているのはもちろんのこと、AHAD-APというAPAC領域の血友病学会を数年前に立ち上げて、APACの患者のために尽力している(私もsteering committeeとして参加しています)。すごいバイタリティ!!

心筋梗塞後のβ遮断薬の長期投与は不要か―統計学的には非劣性だが、臨床的にはそうとは限らない(解説:名郷直樹氏)

β遮断薬内服中で駆出率が40%以上の6ヵ月以前に発症した心筋梗塞患者で、β遮断薬を継続する群と中止する群で、死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、心血管疾患による入院の複合アウトカムを1次アウトカムにしたランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)であるが、プラセボは使用せずオープン試験である。このRCTは薬剤中止試験と呼ばれるもので、歴史的にはジギタリスの中止試験が有名である。ジギタリスの中止試験では、いずれも中止による心不全症状の悪化が報告されている。対象者がすでに治療を継続できている患者だけが対象であることに留意すべきで、新規の患者にどうするかというのはまた別問題であると考えるのが重要である。

アルツハイマー型認知症になりたくなければタクシーか救急車の運転手になろう?(解説:岡村毅氏)

アルツハイマー型認知症では「もの忘れ」もあるが、視空間障害が特徴的である。臨床現場では「知っている場所での迷子」とか、キツネさんの手の模倣の失敗があると、アルツハイマー型認知症の可能性を考える(あとはレビー小体型認知症)。さらには逆さキツネテスト(キツネさんの手を両手で作り、上下逆でくっつける)などで失敗すると、強く疑う。となると、空間的に道順をいつも考えている職業は、鍛えられており、アルツハイマー型認知症になりにくいのではないかと考えるのは自然だ。いきなり「○○まで行って下さい」と言われて、頭の中で必死に道順を考える職業といえば・・・タクシーと救急車の運転手だ!

閉経後HRT(ホルモン補充療法)のビッグデータを用いたtarget trial emulation(標的模倣試験)の結果(解説:名郷直樹氏)

閉経後のホルモン補充療法(hormone replacement therapy:HRT)は、かつて観察研究で心血管イベントを減らすがランダム化比較試験では増やすという真逆の結果が報告され、多くの論争を呼んだ。結論としては、RCTでは閉経直後でない多くの患者が対象とされていたり、 ITT解析がなされていたりすることと、観察研究での実際に投与された患者での解析による選択バイアスや、観察研究では排除できない交絡によって、違いが出たとされている。さらに最近では、新しいホルモン製剤によるHRTが主流となっている現状もある。

完璧なHIV感染予防法にアクセスできるのは?(解説:岡慎一氏)

年2回の注射で完璧にHIV感染を予防できることは、PURPOSE 1試験にて、最も予防が難しいといわれていたアフリカ女性ですでに証明されている。今回の試験は、PURPOSE 2試験と呼ばれ、男性同性愛者やトランスジェンダーなどその他の感染リスクの高い人すべてを組み入れたHIV感染予防の研究である。結果は、PURPOSE 1試験同様、ほぼ完璧に予防できるという事が示された。これらの試験で用いられた画期的新薬は、レナカパビルという新しい機序の薬剤であり、多剤耐性ウイルスを持つHIV患者の治療薬としては、すでに認可されている。日本で、この薬剤を治療に用いた場合の医療費は、年間約700万円である。