CLEAR!ジャーナル四天王|page:21

脳梗塞の再発を予防するために:老刑事のように心房細動を追う(解説:香坂俊氏)

この原稿を読んでいる方の「4人に1人」は今後の人生のどこかで脳梗塞を経験することになる。上記はAmerican Heart Association(AHA)をはじめとする世界の主要学会が脳梗塞予防の啓蒙活動でしばしば用いる文言であるが、確かに「4人に1人」と言われるとずっしりと重みを感じられる方も多いのではないだろうか。が、残念ながら脳梗塞予防のために行動に移せることはそれほど多くはない。血圧やコレステロールを下げ、健全なライフスタイルを実施し、禁煙や減塩食を心掛ける、といったところだろうか。このあたりの危険因子は過去四半世紀の公衆衛生分野の先生方の献身的な努力により危険因子として浮き彫りにされ、すでに医療の現場でもそのコントロールに向けての努力が広く実践されるに至っている。

化学療法・ニボルマブ(オプジーボ)併用が胃がんと食道がんに対する標準治療となるか(解説:上村直実氏)

今年5月のコメント1382で抗PD-L1阻害薬ニボルマブ(商品名:オプジーボ)が進行食道がんに対する1次治療に使用される可能性を記述したが、今回、HER2陰性の進行胃がんと食道胃接合部がんに対する1次治療の有用性がLancet誌にて報告された。日本を含む国際共同CheckMate試験の結果、1次治療として化学療法単独群と比較してオプジーボ・化学療法併用群が生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)を有意に延長することが示されている。通常、外科的切除不能な胃がんや食道腺がんに対する化学療法において抗PD-L1阻害薬は複数の化学療法が無効であった場合の3次治療として使用されている。すなわち、国内においてオプジーボは9つのがん種で承認されているが、胃がんや食道がんなどに対する適応は「がん化学療法後に増悪した根治切除不能な進行がん」に限定されているのが現状である。

JAK阻害薬フィルゴチニブ、潰瘍性大腸炎の寛解導入・維持に有効(解説:上村直実氏)

潰瘍性大腸炎(UC)は特定疾患に指定されている原因不明の炎症性腸疾患(IBD)であり、最近の全国調査によると18万人以上の患者が存在している。UCに対する薬物治療については、寛解導入および寛解維持を目的として5-ASA製剤、ステロイド製剤、免疫調節薬、生物学的製剤が使用されている。なかでも生物学的製剤については、抗TNF阻害薬、インターロイキン阻害薬ウステキヌマブ、インテグリン拮抗薬ベドリズマブ、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬など、異なる作用機序を有する分子標的薬が次々と開発され、それぞれの臨床試験結果が報告されている。なお、本邦のIBD診療ガイドライン2020において、血球成分除去療法や生物学的製剤の適応はステロイド依存例で免疫調節薬も効果のない患者やステロイド抵抗性の患者に限定されている。さらにJAK阻害薬と免疫調節薬チオプリン製剤との併用が原則禁忌となっている。

COVID-19ワクチンの血栓性合併症にIgGは有効なのか?(解説:後藤信哉氏)

COVID-19 pandemicは持続している。ワクチンは切り札と理解されているが、ウイルスベクターのワクチンでは血栓イベントの合併がまれとはいえ発症する。血栓性合併症に対して抗凝固療法とIgGbの併用が推奨されている。カナダではウイルスベクターワクチンChAdOx1 nCoV-19を、ワクチンによる血栓症が少ないとされた55歳以上に使用した。それでも63~72歳の症例に血栓イベントが発症した。血栓イベントは2例が下肢動脈血栓症、1例が脳静脈洞血栓症であった。3例ともヘパリンと血小板第4因子に対する抗体(いわゆるHIT抗体)を認めた。IgG投与によりHIT抗体は減少した。

COVID-19に関連した血栓症の発症メカニズムは従来の血栓症とは異なる?(解説:後藤信哉氏)

心筋梗塞のような動脈系の血栓症でも、深部静脈血栓症のような静脈系の血栓症でも、ヘパリンは血栓イベント発症予防効果を示してきた。従来、医師が治療に貢献してきた血栓症のうち、出血イベントリスクの欠点はあっても、ヘパリンの増量により制圧できない血栓症はなかったと言っていい。COVID-19の感染に起因する血栓症は従来の血栓症とは様子が異なる。まず、ICUへの入院例として予防的なヘパリン投与を全例受けているのに、高率に症候性の静脈血栓症が起きてしまう。本研究が初めてではないが、予防量より多い治療量のヘパリンを用いても血栓イベントを防げないことが示唆されている。本研究の治療量抗凝固薬としてはヘパリンのみでなく、安定している症例では選択的Xa阻害薬リバーロキサバンも用いられた。ヘパリンに限らず、選択的Xa阻害薬を静脈血栓症の治療量で用いても有効性のエンドポイントには差がなく、出血リスクは増えた。

治療抵抗性高血圧に対する超音波腎デナベーションの効果(解説:石川讓治氏)

腎デナベーションによる降圧効果を評価する臨床試験が行われてきた。ラジオ波(radiofrequency)を用いた焼灼法を用いた過去の研究においては、外来血圧を用いて評価されていたため、血圧低下度が過大評価されていたことが問題であったとされ、治療抵抗性高血圧患者を対象にラジオ波を用いた腎デナベーション群とShamコントロール群とを比較した大規模臨床試験(SYMPLICITY HTN-3)では、外来血圧や自由行動下血圧に有意な血圧低下は認められなかった。その原因として、降圧薬の服薬アドヒアランス、降圧薬の投与方法、手技の精度、エンドポイントの確認法などの問題点が指摘されていた。

低リスク集団における卵巣がん検診は死亡率を低下させるか〜無作為割り付け後20年目の報告〜(解説:前田裕斗氏)

卵巣がんの死亡率を検診で減らせるかどうかについては長らく議論が行われてきた。卵巣がんは発生率がそこまで高くない(2017年、日本では人口10万人対20.5人)が、一方でII期やIII期など進んだ状態で見つかることが多く、検診での早期発見、早期治療に結び付けにくいとされてきた。そんな中2016年に発表されたUKCTOCS試験では血液検査の値を経時的に評価する方法と超音波検査を組み合わせる検診を行うことで最終的に15%の相対的な死亡率低下を認め、これは有意ではなかったものの、試験後半で検診を行う群と行わない群で死亡率の差が開いてきていたことから追跡調査を行うことで有意な死亡率低下を見込めるのではないかと考えられた。今回の研究はこのUKCTOCS試験の追跡調査である。

心筋梗塞非責任病変治療においてFFRは有用なガイドか?(解説:上田恭敬氏)

責任病変のPCIに成功したSTEMI症例で、狭窄度50%以上の非責任病変を有する症例を対象として、非責任病変に対するPCIをアンジオガイドで行うかFFRガイドで行うかの2群に無作為に割り付け、1年間の全死亡、心筋梗塞、入院を伴う緊急血行再建術施行の複合エンドポイントを主要評価項目として、フランスの41病院で実施された多施設研究であるFLOWER-MI試験の結果が報告された。アンジオガイド群に581症例、FFRガイド群に590症例が割り付けられた。主要評価項目の発生は、アンジオガイド群で4.2%、FFRガイド群で5.5%に認められ、群間に差を認めなかった。全死亡は、アンジオガイド群で1.7%、FFRガイド群で1.5%に認めた。心筋梗塞は、アンジオガイド群で1.7%、FFRガイド群で3.1%に認めた。入院を伴う緊急血行再建術施行は、アンジオガイド群で1.9%、FFRガイド群で2.6%に認めた。

まれだが致死的な血栓症への対応・事前説明はきわめて難しい(AZワクチン)(解説:後藤信哉氏)-1407

新型コロナウイルス対策としてワクチンの普及は切り札になれると期待している。ワクチンに限らず、すべての医療介入にはメリットとデメリットがある。新型コロナウイルスワクチンの場合には、ワクチン接種によりウイルス感染の広がりを阻止できるとの社会的期待がある。しかし、個別症例にはデメリットもある。本研究は医療従事者における13万例の接種に合併した5例の血栓症の報告である。対象となった医療従事者は32~54歳で特段の疾病の既往はなかった。いずれの症例も接種後7~10日にイベントが起こっている。アナフィラキシーは接種現場で起こる。対応の準備もできる。接種後7~10日に頭痛、背部痛、腹痛などにて救急搬送されている。いずれの症例も静脈血栓が確認されている。血栓の形成部位は脳静脈洞など普通遭遇しない部位である。本研究では臨床イベントのみでなく血液検査を詳細に施行している。いずれの症例もHIT抗体と呼ばれる血小板第4因子・ポリアニオンの高い抗体価を呈した。著者は、これらの症例をワクチンによる免疫性の血小板減少・血栓症としての自発的な(ヘパリンを使用していないとの意味)ヘパリン惹起血小板減少・血栓症(HITT:heparin-induced thrombocytopenia・thrombosis)としている。HITは時に致死的な病態である。ワクチンにまったくの健常者に、ワクチン接種の1~2週に発症する。

これから「プラグマティックトライアル」が増える?(解説:後藤信哉氏)-1408

臨床的仮説の検証にはランダム化比較試験による有効性、安全性の検証が必須というのが現在のルールである。巨額の利潤を期待できる新薬の認可承認、適応拡大が目的であれば日常臨床とは若干異なる条件におけるランダム化比較試験も可能である。しかし、循環器領域では標準治療が進歩して革新的新薬の認可承認、適応拡大を目指したランダム化比較試験の数は減少している。科学雑誌の発刊とはいえビジネスである。ランダム化比較試験が減少した時代でも臨床論文を発表して、多く引用されなければ雑誌の未来はなくなってしまう。臨床試験のコストを下げつつ、質を担保する工夫が必要となる。

アタマにやさしい冠動脈血行再建法は?(解説:今中和人氏)-1406

心原性ショックなどの一部を除き、冠動脈血行再建法は長期成績に基づいて選択されるべき時代に入って久しい。医療者側は生命と心臓アウトカムを重視しがちな一方、当事者たちの最大の関心事の1つは認知機能低下である。患者さんの家族に「心臓を治してもらってからボケが進んじゃって…」という意味のことを言われて複雑な気持ちになった経験が、循環器系の医師なら誰しも一度や二度、いや、何度もあるのではないだろうか。本論文は、2年ごとに米国の50歳以上の成人の健康状態を聞き取り調査する、Health and Retirement Study(HRS)という前向きプロジェクトに参加したメディケア加入者2万3,860例のうち、医療費支払い記録を基に65歳以上で冠血行再建を受けた患者1,680例(CABG 665例[うちオフポンプ168例]、PCI 1,015例。両方受けた患者は、初回の血行再建法で分類)を抽出し、治療前後にわたる記銘力の推移を検討している。諸因子を補正して両群とも約75歳、男性6割、白人85%強、糖尿病28%台、脳梗塞既往13%台で、治療前に平均2.3回、治療後に平均3.2回、合計5.5回の聞き取り調査を実施した。ただ実際は、CABG群もPCI群も14%強と、約7人に1人は血行再建後の評価が行われなかった(うち9割前後は死亡か辞退のため)。

降圧薬のイベント防止効果は1次および2次予防や心血管疾患既往の有無で異なるか?(解説:江口和男氏)-1405

血圧は下げれば下げるほど将来の脳心血管発症リスクが減少する。わが国およびその他の国際的な高血圧ガイドラインでは、降圧薬による降圧治療の適応は、生活習慣修正により十分な降圧効果が得られない場合や、血圧レベルが高くない場合でもリスク表により高リスクと判断される場合である。一般的に降圧薬開始の基準となるのは、外来血圧140/90mmHg以上、家庭血圧135/85mmHg以上の場合であり、それ以下の血圧の場合、降圧薬治療開始の適応とはならない。高血圧のリスク表(JSH2019ガイドライン表3-2)については、糖尿病や尿蛋白の有無、心血管疾患の既往のありなしで血圧目標が異なり、日常診療で応用するにはやや複雑である。たとえば、心血管疾患既往があれば、高値血圧(130~139/80~89mmHg)の範囲であっても、リスク第三層「高リスク」に分類される。しかし、心血管疾患既往の有無やベースラインの血圧レベルで、どの程度イベント抑制効果が異なるかということについて結論が出ていなかった。

スクリーニング普及前後の2型糖尿病における心血管リスクの予測:リスクモデル作成(derivation study)と検証(validation study)による評価(解説:栗山哲氏)-1404

2型糖尿病の心血管リスクを、予知因子を用いてリスクモデルを作成(derivation study)し、さらにその検証(validation study)を行うことで評価した。ニュージーランド(NZ)からの本研究は、国のデータベースにリンクして大規模であること、データの適切性、対象者の95%がプライマリケアに参加していること、新・旧コホートの2者の検証を比較して後者での過大評価を明らかにしたこと、などの点で世界に先駆けた研究である。本研究のような最新の2型糖尿病スクリーニング普及は、低リスク患者のリスク評価にとっても重要である。

限界はあるが必要だった研究(解説:野間重孝氏)-1403

アスピリンは世界で初めて人工合成された医薬品で、ドイツ・バイエル社がこの開発に成功したのは1897年にさかのぼる。ところが、低用量アスピリンに血小板凝集抑制作用があることが発見されたのは1967年のことだった。Gruentzigが経皮的冠動脈形成術(PTCA)を初めて行ったのが1977年であることを考えると、不思議な暗合を感じてしまうのは評者だけではないと思う。PTCAは確かに画期的な技術ではあったが、バルーンによる拡張のみでは血管壁の解離、リコイルを防ぐことができず、高頻度に発生する急性冠動脈閉塞や慢性期再狭窄率の高さが問題となっていた。これに解決策を与えるべく開発されたのが冠動脈ステントだった。慢性期に対する効果はSTRESS、BENESTENT両試験により証明されたが、亜急性期ステント血栓症(SAT)にはなかなか解決策が見いだされなかった。当初アスピリンとワルファリンの併用による効果が期待されたが、十分な効果は得られなかった。90年代初めに開発されたチエノピリジン系薬剤であるチクロピジンとアスピリンの併用、つまり抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)が初めてこの問題に解決策を与えたのである。

コロナ関連急性呼吸不全の呼吸管理:高流量鼻腔酸素or ヘルメット型非侵襲換気?(解説:山口佳寿博氏)-1402

新型コロナ感染症に惹起された急性低酸素性呼吸不全(ARDS)の病理/形態、分子生物学的異常は、本感染症が発生した2020年の早い段階で明らかにされた(Ackermann M, et al. N Engl J Med. 2020;383:120-128., 山口. CLEAR!ジャーナル四天王-1265)。その結果、コロナARDSの病理/形態学的特徴は;(1)ARDSの通常所見としてのDiffuse alveolar damage(DAD)、(2)特異的所見として、血管内皮細胞炎(Endothelialitis)、血管増生賦活遺伝子と抑制遺伝子の不均衡に起因する著明な血管増生(Angiogenesis)を伴う肺微小循環血栓形成(TMA:Thromboembolic microangiopathy)であることが判明した。

遺伝子ワクチン接種後の新たな変異株感染(Breakthrough Infection)は何を意味するか?(解説:山口佳寿博氏)-1401

米国においては、2020年12月中旬よりFDAが承認した3種のワクチン(Pfizer:BNT162b2、Moderna:mRNA-1273、Johnson & Johnson:Ad26.COV2.S)の接種が急ピッチで進められており、2021年5月28日現在、18歳以上の米国成人の62%、12歳以上の国民の59%が少なくとも1回のワクチン接種を、18歳以上の51%、12歳以上の48%が完全なワクチン接種(BNT162b2:2回接種、mRNA-1273:2回接種、Ad26.COV2.S:1回接種)を終了している(The New York Times. 2021年5月28日)。ただし、血栓形成という特殊副反応のためにAd26.COV2.Sの接種が2021年4月13日から4月23日までの間中止されたので、本ワクチンの接種率は他の2つのワクチンに比べ低い。上記のデータは、ワクチンによる疑似感染が集団免疫の確立に必要な最低感染率40%を超過し(山口. 日本医事新報 2020;5026:26-31)、米国は現時点でワクチン疑似感染による集団免疫を確立しつつある国だと考えることができる。その結果、2021年1月中旬以降、米国のコロナ感染者数、入院者数、死亡者数は順調に低下し、感染者数は2週間平均で37%、入院者数は23%、死亡者数は12%と明確な低下を示している。

脳卒中後の上肢麻痺、“慢性期”でも回復の希望―リハビリの効果を底上げする神経刺激デバイス(解説:森本悟氏)-1399

脳卒中診療は、近年血栓溶解療法や血栓回収療法、あるいは急性期・回復期リハビリテーションの発達により、機能予後の改善は着実にみられている。しかしながら、それでもなお、麻痺等の後遺障害が残存、数ヵ月以上を経て症状が固定し、いわゆる慢性期というそれ以上回復の望みにくいステージへと移行していく。無論治療法がないわけではなく、脳卒中治療ガイドライン2015(追補2019対応)において、脳卒中後の上肢機能障害に対するリハビリテーションは、慢性期であっても麻痺の程度に応じて、麻痺側上肢の強制使用や、特定の動作の反復を伴った訓練、あるいは電気刺激の使用が、(上肢機能障害に対して)行うよう勧められている。

厳格な降圧により心血管イベント抑制、しかし腎機能低下例は多い〜SPRINT追跡最終報告(解説:桑島巖氏)-1397

収縮期血圧120mmHg未満の厳格な降圧が140mmHg未満の緩和降圧に比べて心血管イベントを有意に抑制するという結果を示した2015年発表のSPRINT試験は、世界のガイドラインに大きな影響を与えた。本論文はランダム化解除後、約8ヵ月延長された後のイベントを解析した追跡解析である。 主要エンドポイント(心筋梗塞、脳卒中、心不全、心血管死)の発生は、厳格治療群1.77%/年対緩和治療群2.40%/年(HR:0.75)、全死亡は各々1.06%/年対1.41%/年でいずれも厳格降圧群で有意に少なく、2015年のオリジナル発表と同じ結果であった。

BNT162b2(コミナティ筋注)のReal-World Settingにおける予防効果はなぜ国/地域によって異なるのか?(解説:山口佳寿博氏)-1400

mRNAワクチンであるBNT162b2(以下、ワクチン)の第III相試験が終了した後、real-world settingでの実際の予防効果が、ワクチン接種が早期に開始された中東諸国(イスラエル、カタール)、英国、米国などから相次いで報告されている。各国で報告された予防効果は、必ずしも一致せず背景因子に何らかの差が存在するものと考えられる。本論評では、Angel氏らの論文(Angel Y, et al. JAMA. 2021 May 6. [Epub ahead of print])を基礎としながら、なぜ、各国からの報告でワクチンの予防効果に差を認めたのか、その原因について考察する。Angel氏らは、2020年12月20日~2021年2月25日の2ヵ月の間にワクチンを2回接種したイスラエルの医療従事者を対象(接種者:5,517人、非接種者:757人)として2回目ワクチン接種後7日以上経過した時点での有症候性感染、無症候性感染に対するワクチンの予防効果を検討した。その結果、有症候性感染に対する予防効果は97%、無症候性感染に対する予防効果は86%であることが示された。一方、Dagan氏らは、ほぼ同じ時期(2020年12月20日~2021年2月1日)にワクチンを接種したイスラエルの一般住民を対象(接種者と非接種は同数で各59万6,681人、総数はイスラエルの総人口の13%に相当)とした解析で、2回目のワクチン接種後7日以上経過した時点での有症候性感染に対する予防効果が94%、無症候性感染を含む感染全体に対する予防効果が92%、入院予防効果が87%、重症化予防効果が92%であると報告した(Dagan N, et al. N Engl J Med. 2021;384:1412-1423.)。対象者数、従事する仕事の内容に差を認める両解析ではあるが、最も信頼できる有症候性感染予防効果に関しては2つの論文でほぼ同じ値が報告された。この時期のイスラエルでは、従来株(D614G株)から英国株(B.1.1.7)に蔓延ウイルスの置換が進んでいた時期で、上記の2つの論文は、従来株と英国株が混在した状況下でのワクチンの有効性を示したものだと判断できる。この予防効果は、従来株が主流を占めた2020年の夏から秋にかけて施行されたワクチンの第III相試験によって示された予防効果(95%)とほぼ同じであり(Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020;383:2603-2615.)、英国株に対するワクチンの予防効果は従来株に対するそれと同等であると結論できる。

非糖尿病肥満症に対するGLP-1受容体作動薬と運動の併用によるリバウンド抑制効果(解説:小川大輔氏)-1398

肥満によるさまざまな健康障害に内臓脂肪蓄積が関与していることが知られている。また内臓脂肪蓄積があれば糖尿病や脂質異常症などの疾患を発症することが予測されるため、減量治療が推奨されている。そして治療の基本は食事、運動、行動などの生活習慣改善療法である。ただBMI≧35kg/m2の高度肥満症では、生活習慣改善療法で一時的に体重の減少が得られても、リバウンドを繰り返し、長期的にみると減量治療が成功しないことも多いとされている。今回減量治療後の体重維持に、GLP-1受容体作動薬リラグルチド3mgと運動療法の併用が運動療法単独より有効であることがNEJM誌に報告された。