CLEAR!ジャーナル四天王|page:12

COVID-19に対するモデルナ製のオミクロン株対応2価ブースターワクチン(オミクロン株対応2価ワクチン[BA.1])の安全性と免疫原性について(解説:寺田教彦氏)

本論文は、COVID-19に対するモデルナ製のオミクロン株対応2価ブースターワクチン(オミクロン株対応2価ワクチン[BA.1])の安全性と免疫原性の評価の中間解析結果を示している。新型コロナウイルスワクチンは、当初、野生株(従来株)に対して高い感染予防効果、発症予防効果、重症化予防効果が示されていた(Baden LR, et al. N Engl J Med. 2021;384:403-416.)。しかし、デルタ株が流行した時期には新型コロナウイルス感染症の感染予防効果や発症予防効果は減衰することも指摘されるようになった(Andrews N, et al. N Engl J Med. 2022;386:1532-1546.)。その後、オミクロン株の流行下では、ワクチンの効果は比較的短期間で減衰し、また効果も低下していることが示されていた。変異株に対する戦略としては、株に対応したワクチンの作成が行われ、ベータ株対応の2価ワクチンの使用では、従来のワクチンに比較して複数の変異体に対して一貫して高い中和抗体応答とスパイク結合応答を誘導することが報告されていた(Chalkias S, et al. Nat Med. 2022 Oct 6. [Epub ahead of print])。

1型糖尿病におけるオープンソースAID(自動インスリン送達)システムの効果(CREATE試験)(解説:小川大輔氏)

1型糖尿病の治療において、一般にインスリン頻回注射療法あるいはインスリンポンプ療法が用いられる。これまでCGM(持続血糖モニター)を用いたインスリンポンプ療法とオープンソースのAID(自動インスリン送達)システムの効果について比較した試験はなかった。今回ニュージーランドの施設において実施された、オープンソースAIDシステムとセンサー付きインスリンポンプ療法(SAPT)システムの安全性および有効性を比較する初の多施設ランダム化比較試験(CREATE試験)の結果が報告された1)。AIDシステムとは、CGMを搭載したインスリンポンプ療法(SAPT)に、インスリン送達を自動的に調整して血糖値を目標範囲内に維持するアルゴリズムを組み合わせた方法である。そして企業が開発し非公開のアルゴリズムを用いる商用AIDシステムとは異なり、糖尿病患者らが開発・公開し修正を重ねてきたアルゴリズムを用いるシステムをオープンソースAIDシステムと呼んでいる。

超加工食品の利便性と有害性はもろ刃の剣であり、摂取過剰は男性の遠位大腸がん発生の危険性を高めるため超加工食品の摂取には注意!―(解説:島田俊夫氏)

大腸がんの発生は国により多少の差はあるが世界中で日増しに大きな問題となっており、その原因として超加工食品を大きく取り上げている。超加工食品の分類には、ブラジル・サンパウロ大学の公衆衛生メンバーが提唱したNOVA分類(1~4)が通常用いられている。食品加工に伴う加熱処理、保存性の向上のための塩、砂糖やその他食品添加物、加工処理に伴う有害生成物、自然食品に含まれる抗酸化物質等の喪失等が発がん機序に深く関与していると推測されているが、十分に解明されているとはいえない。

1人より2人〜DPNPに対する併用療法という選択肢〜(解説:永井聡氏)

糖尿病患者の4人に1人に合併しうる糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)は、QOLに大きな影響を及ぼし、海外の多くのガイドラインでは、アミトリプチリン(A)、デュロキセチン(D)、プレガバリン(P)、ガバペンチン(G)が第一選択となっており、日本においても同様である。これらの推奨は、システマティックレビューからのエビデンスの強さでなされ、単剤としてデュロキセチンが中等度の推奨、アミトリプチリンおよびプレガバリンが低い推奨とされている。ただし、最適な薬剤あるいは併用すべきかについてのある程度の規模の比較試験は行われていなかった。そのような背景の中、DPNPに対する単剤および併用療法の有効性について、多施設共同無作為化二重盲検クロスオーバー試験、OPTION-DMが報告され、検討されたどの治療方針でも鎮痛効果は同等であり、併用療法の鎮痛効果は単剤療法を継続した患者より大きいことが示された。

腎除神経術〜6ヵ月追跡で無効、3年追跡で有効の不思議(解説:桑島巌氏)

治療抵抗性高血圧に対する治療法としてカテーテル腎除神経術が提唱され、いくつかの臨床研究で有効性の検証が行われてきたが、その代表的な研究として米国のSYMPLICITY HTNシリーズと欧州、オーストラリアのSPYRAL HTN-ON MED研究シリーズがある。いずれもラジオ波による焼灼であるが、他に超音波で焼灼するRADIAN-HTN SOLO研究もある。これらの試験では、焼灼方法の違いのほかに、治療抵抗性の定義の違いや対照の置き方などの違いがある。2014年に発表されたSYMPLICITY HTN-3研究では、治療6ヵ月の成績では診察室血圧、24時間血圧ともにシャム治療群との間の降圧度の差を認めることができなかった。SYMPLICITY HTN-3試験の参入基準は3剤以上の降圧薬を服用していてもなお、診察室収縮期血圧160mmHg以上、24時間血圧135mmHgの治療抵抗性の高血圧症例である。本論文は観察期間をさらに延長して長期的有効性と有害事象について検討したものである。当初、参入資格を満たした535例を腎除神経治療群364例(68%)、シャム対照群171例(32%)にランダム化されたが、試験開始後6ヵ月の時点でシャム治療群に割り当てられた症例の中で、なお、治療抵抗性の基準を満たす例は腎除神経治療に切り替えてクロスオーバ群として腎除神経群に追加解析した。

人工知能なんてこんなもんさ?(解説:後藤信哉氏)

各所で「人工知能」が話題になる。『鉄腕アトム』のように人間と会話できる「人工知能」ができれば素晴らしい。しかし、現在のニューラルネットワークによる「人工知能」は人間の脳とは異なる。ヒトの脳には「直感」という優れた能力があり、コンピューターは真似できない。また、コンピューターは単純な四則演算しかできないが、疲労せず、同じことを長期間繰り返せる。今の、しょぼい「人工知能」でも、結構診療の助けにはなる。心電図を画像と理解しているヒトが多いと思う。実態は2 m/秒ごとに計測した電位の集積である。1枚の心電図には1誘導について1万くらいの電位の情報がある。1万次元の時系列計測情報として「ビッグデータ」ともいえる。この入力の「ビッグデータ」と診断Yes/No、未来イベントY/Nなど、定量的相関関係を見出すプロセスを「人工知能」と呼んでいる。知能といっても、革新的コンセプトを生み出すわけではない。単純に多次元情報と1次元アウトカムの定量的相関関係を見出す数学的プロセスに過ぎない。

日本には静脈血栓予防・治療の低分子ヘパリンがないのが痛いね(解説:後藤信哉氏)

医師は目の前の患者の予後の改善に努力する。10年以上の長いスパンで考えることはない。未来を見通して、将来増える疾患への対応を考えるのは製薬企業なのであろうか?ヘパリンは分子量の異なる各種分子の混合物である。吸収、代謝にばらつきがある。静脈投与と容量調節が必須である。低分子成分を抽出すると吸収、代謝が均一な「低分子ヘパリン」を作ることができる。均質な低分子なので「皮下注可能」、「容量調節不要」との利点がある。個別の患者による家庭での自己皮下注の可能性も開ける。静脈血栓の予防、治療のために日本でもフラグミンなどの適応を拡大しておく選択はあったが、選択してこなかった。

高齢者におけるポリピル(スタチン、ACE阻害薬、アスピリン)の使用が通常処方よりも心筋梗塞後の患者の予後を改善する(解説:石川讓治氏)

高齢者においては、年齢と共にポリファーマシーが増加し、薬物有害事象や転倒のリスクが増加するだけではなく、認知機能や生活の質の低下、独居などが誘因となり、服薬アドヒアランスが低下することも問題になっている。服薬アドヒアランスの低下した患者においては、処方の単純化、合剤による服薬数の減少などが有効であるとされており、家族や訪問介護者などを介し服薬アドヒアランスを改善させることが可能になるとされている。

第3世代植込型LVAD(HeartMate 3)はポンプ血栓症の合併頻度が極めて少なく第2世代植込型LVAD(HeartMate II)に比較して5年生存率も良好である。(解説:許俊鋭 氏)

第3世代植込型LVADのHeartMate 3(完全磁気浮上遠心ポンプ、HM 3)と第2世代のHeartMate II(軸流ポンプ、HM II)とのRCT比較試験(MOMENTUM 3)の2年の治療成績が2019年に報告された。結果、(1)ポンプ交換の必要度が低い(2.7% vs.14.3%)、(2)後遺症のある脳卒中や再手術(ポンプ摘出またはポンプ交換)を伴わない2年生存の複合結果(Composit Outcome)においてHM 3群の優位性(76.9% vs.64.8%)が示された。本論文では、MOMENTUM 3の延長研究として5年の治療成績が報告された。2年終了の時点でLVAD治療が継続されていたHM 3群289症例とHM II群247症例のうち、477例(HM 3:258例、HM II:219例)を対象として5年まで経過観察された。5年終了時の複合結果、すなわち(1)心臓移植、(2)心機能回復によるLVAD離脱、および(3)後遺症のある脳卒中や再手術を伴わない5年生存率においてHM 3群の優位性(54.0% vs.29.7%)が示され、MOMENTUM 3全体の5年生存率もHM 3群の優位性(58.4% vs.43.7%)が示された。合併症の中の重大合併症率(events/patient-years)は、脳卒中(0.050 vs.0.136)、出血(0.430 vs.0.765)、ポンプ血栓(0.010 vs.0.108)でHM 3群が有意に少なかった。完全磁気浮上遠心ポンプであるHM 3は当初からポンプ血栓症の合併頻度が少ないことは予測されており、複合結果は2年の成績も5年の成績もこの傾向は変わっていない。ポンプ血栓に関連した合併症は確実に治療成績を低下させ患者のQOLを低下させる。とくに、長期の良好なLVAD補助が必要とされるDT(destination therapy)において重大合併症が少ないことは重要である。また、重大合併症の減少は再入院率を下げ、植込型LVAD治療の費用対効果を改善する。下図に2022年5月27日までの日本のHM IIおよびHM 3の治療成績を示す。現時点でHM 3群の成績は2年生存率(94.1%)までしか出ていないがHM II群(92.8%)よりやや良好な傾向がみられる。一般的に欧米より良好な植込型LVAD治療成績が達成されている日本の状況を鑑みれば、日本のHM 3の5年生存率はMOMENTUM 3で示された治療成績を上回ることが期待される。また、MOMENTUM 3を含め第3世代磁気浮上植込型LVADが世界で素晴らしい治療成績を上げていることから、日本が開発した磁気浮上植込型LVADであるDuraHeart(テルモ社)の臨床開発を推進した一人として、筆者は次世代植込型LVADとして小型化されたDuraHeart IIが製品化に至らなかったことは残念でならない。

糖尿病性末梢神経障害性疼痛治療に新たなエビデンスが報告された(解説:住谷哲氏)

糖尿病性末梢神経障害DPN(diabetic peripheral neuropathy)は無症状のことが多く、さらに網膜症に対する眼底撮影、腎症に対する尿アルブミンのような客観的診断検査がないため見逃されていることが少なくない。しかしDPNの中でも糖尿病性末梢神経障害性疼痛DPNP(diabetic peripheral neuropathic pain)は疼痛という自覚症状があるため診断は比較的容易である。不眠などにより患者のQOLを著しく低下させる場合もあるので治療が必要となるが、疼痛コントロールに難渋することが少なくない。多くのガイドラインでは三環系抗うつ薬であるアミトリプチリン(以下A)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬SNRIであるデュロキセチン(以下D)、電位依存性カルシウムチャネルα2δリガンドのガバペンチノイドに分類されるプレガバリン(以下P)およびガバペンチン(以下G)の4剤が有効性のある薬剤として推奨されている。疼痛をコントロールするためには十分量の薬剤を投与する必要があるが、実際にはそれぞれの薬剤の持つ特有の副作用で増量が困難となり、中断や他の薬剤の併用を必要とすることが多い。ちなみにわが国での神経障害性疼痛に対する最大投与量は、A 150mg、D 60mg、P 600mgとなっている。GはPと同様の作用機序であるが、添付文書上は抗てんかん薬としての適応のみであり神経障害性疼痛に対する保険適応はない。しかし社会保険診療報酬支払基金では最大投与量2,400mgまで認めているという不思議な状況である。

観察研究データで因果推論をする新しい方法論(解説:折笠秀樹氏)

この新しい方法論はたぶん聞きなれないでしょう。「target trial emulation」というものです。あえて和訳すれば、「標的試験模倣」でしょうか。観察研究データを使って、標的の(やってみたい)臨床試験を真似ることにより、因果推論、つまり治療効果を評価する手法です。因果推論するためのゴールドスタンダードは、ランダム化比較試験といわれています。その欠陥として、それは理想状況下での実験のため、診療現場と乖離しているといわれます。一般化可能性が低いのがランダム化比較試験の欠点です。現場に近いデータで得られる結果は、リアルワールドエビデンス(RWE)と呼ばれます。その代表例は診療録やレセプトです。一般性の高いリアルワールドデータを単純に解析すれば、さまざまなバイアスが混入します。プロペンシティ解析や操作変数解析は、主に交絡バイアスを補正する手法です。今回提案された「標的試験模倣」は、現場に近いリアルワールドデータを、目標とするランダム化比較試験へ近付けたうえで解析する手法です。

教育研修プログラムとして高く評価(解説:野間重孝氏)

現在ヨード造影剤を用いた検査・治療手技は日常診療で欠かすことのできない存在となっている。その際問題になるのが造影剤による急性腎障害(CIN)であり、ヨード造影剤投与後72時間以内に血清クレアチニン値が前値より0.5mg/dL以上、または前値より25%以上上昇した場合と定義される。CINは院内発症の急性腎障害(AKI)の10~13%に及ぶと考えられ、多くのAKIが不可逆的であるのと同様にCINもその多くが不可逆的であり、その後の治療の大きな障壁となる。検査・治療に当たる医師は最大限の注意を払うことが求められ、裏付けとなる十分な知識・経験と技術が求められるところとなる。本研究は非緊急冠動脈造影や経皮的冠動脈インターベンションを施行する心臓専門医に対して教育、造影剤投与量および血行力学的に誘導された輸液目標に対するコンピュータによる臨床的意志決定支援、監査とフィードバックを行い、介入前後の成績を比較検討したものである。この一連の報告は、研究というより教育・研修プログラムの効果判定とその報告と考えるべきで、その意味から今回の試みは成功だったと評価されると考えられる。

TN乳がんの免疫チェックポイント阻害薬によるOS延長(解説:下村昭彦氏)

2022年7月21日のNew England Journal of Medicine誌にKEYNOTE(KN)-355試験の全生存期間(OS)についての結果が公表された。すでにCPS(combined positive score)が10以上のトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の初回化学療法に対するペムブロリズマブの上乗せが、無増悪生存期間(PFS)を延長することは発表され、国内でも標準治療として実施されている(Cortes J, et al. Lancet. 2020;396:1817-1828.)。KN-355試験ではCPS 10以上のグループにおけるOSが9.7ヵ月vs.5.6ヵ月(HR:0.66、95%CI:0.50~0.88)と統計学的有意にペムブロリズマブ群で良好であった。一方、ITT集団やCPS 1以上のグループではその差を検出できなかった。

FFRとIVUSを同時に使うのはぜいたく?(解説:山地杏平氏)

韓国、中国から、冠血流予備量比(FFR)ガイド下と血管内超音波法(IVUS)ガイド下での経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を比較したFLAVOUR研究がAmerican College of Cardiology 2022で報告され、New England Journal of Medicine誌2022年9月1日号に掲載されました。FLAVOUR研究では、FFRガイド群で838症例、IVUSガイド群で844症例が登録され、FFRガイド群で33.2%の病変、IVUSガイド群で58.4%の病変が治療されました。そして、2年後の総死亡、心筋梗塞、再血行再建のイベント率は、FFRガイド群で8.1%、IVUSガイド群で8.5%と両群に差はありませんでした。統計学的に差がないことを評価するために設けられる非劣性マージンが2.2%と大きいのは確かですが、カプランマイヤー生存曲線を見る限り、どちらの群も差がないということが真実である可能性が高そうです。この研究結果のメッセージとしては、治療適応に悩むような中等度狭窄のときには、FFR、IVUSいずれも同等の効果が期待されるということになります。

妊娠糖尿病診断の明確なカットオフ値perfect lineはあるのか?(解説:住谷哲氏)

現在の妊娠糖尿病(GDM)の診断は HAPO(Hyperglycemia and adverse pregnancy outcomes)研究の結果を受けてIADPSG(International Association of Diabetes and Pregnancy Study Groups)が2010年に発表した診断基準に基づいている1)。わが国においても、当初は日本糖尿病学会、日本産科婦人科学会および日本糖尿病・妊娠学会で見解の相違があったが2015年に統一された。GDMの診断基準は「75gOGTTにおいて、(1)空腹時血糖値92mg/dL以上、(2)1時間値180mg/dL以上、(3)2時間値153mg/dL以上のいずれか1点を満たした場合」とされている(ただし妊娠中の明らかな糖尿病[overt diabetes in pregnancy]は除く)。

鼻腔ぬぐい液を用いた新型コロナウイルス検査-自己採取と医療従事者採取の比較-(解説:小金丸博氏)

4~14歳の小児において、鼻腔ぬぐい液を用いた新型コロナウイルスの検出率を自己採取と医療従事者採取で比較した横断研究がJAMA誌オンライン版2022年8月26日号に報告された。自己採取は簡単な説明資材(ビデオと印刷物)を見た後に行い、その次に医療従事者が2回目の検体を採取した。その結果、陽性一致率は97.8%(95%信頼区間[CI]:94.7~100.0)、陰性一致率は98.1%(同:95.6~100.0)と高率だった。陽性検体のCt値も検討されているが、両群間で同等の結果であった。検査結果が不一致となったのが4例あったが、陽性検体において比較的高いCt値を示しており、ウイルスの排出量が少ない場合に一致率が低下する可能性が示唆された。

日本人の脂質値の推移とコントロールの重要性(解説:三浦 伸一郎 氏)

 2022年8月23・30日号のJAMA誌に米国成人の脂質値の推移の研究が報告された。総コレステロール値は年齢調整後、2018年までの10年間で有意に改善していたが、注目されることはアジア人では改善を認めなかったことである。  日本人の脂質値の推移は、「健康日本21(第二次)」の計画の途中経過を見ると、2019年で血清総コレステロール値が240mg/dL以上の割合は男性12.9%、女性22.4%であった(「令和元年国民健康・栄養調査結果の概要」厚生労働省)。この10年間でみると、その割合は、男性で有意な変化はなかったが、女性では有意に増加していた。「健康日本21(第二次)」の脂質異常症(40~79歳)の減少目標は、総コレステロール240mg/dL以上の割合が男性10%、女性17%であり、かなり乖離があるのが現状である。

内科治療に血管内治療を追加する有効性は示されなかったものの、周術期合併症率は低く抑制された(解説:高梨成彦氏)

SAMMPRIS(Chimowitz MI, et al. N Engl J Med. 2011;365:993-1003.)、VISSIT(Zaidat OO, et al, JAMA. 2015;313:1240-1248.)において症候性頭蓋内動脈狭窄症に対する血管形成術・ステント留置術は、内科治療に対する有効性を示すことができなかった。本研究もまた内科治療に対する血管内治療の有効性を示すことはできなかったものの、30日以内の脳卒中または死亡が5.2%であった。単純比較はできないもののSAMMPRISにおけるそれが14.7%であったことを考慮すれば、周術期合併症率を低く抑制することができたといえるだろう。その要因は考察でも示されているように、発症から3週間以上経過した症例を選択し、症例数の多い施設・術者が参加したことが大きいだろう。WEAVE trial(Alexander MJ, et al. Stroke. 2019;50:889-894.PMID: 31125298)もまた厳格な適応基準、経験豊富な術者、抗血小板薬の効果判定、緩徐な拡張などの条件を満たすことで、周術期合併症を2.6%と低く抑制できている。

収縮機能の良しあしにかかわらず心不全へのSGLT2阻害薬の有効性を確認、しかし副作用に対する注意は不可欠(解説:桑島巌氏)

糖尿病治療薬として開発されたSGLT2阻害薬がいまや心不全治療薬として大ブレークしている。心不全でも収縮機能が低下しているHFrEF(heart failure with reduced EF)に対する有効性は多くの大規模臨床試験で証明されていたが、収縮機能が良好な心不全(HFpEF)に対する有用性は明らかではなかった。しかしDELIVER試験(2021年)とEMPEROR-Preserved試験(2022年)という2つの大規模臨床試験によってHFpEFに対する有効性も確認され、心不全治療薬としての適応範囲は大きく広がる可能性が示された。

ROSCした患者の血圧管理目標値はどのくらいがよいか?(解説:江口和男氏)

本研究は、院外心停止で蘇生され生存した昏睡状態の患者さんについて、平均血圧目標を63mmHgで保つ群と、77mmHgで保つ群にランダム化し予後を比較するという研究であった。主要アウトカムはあらゆる原因による死亡または神経学的予後不良状態での90日以内の退院の複合、2次アウトカムは血清神経特異エノラーゼ(NSE)レベル(高いと予後不良)、あらゆる原因による死亡、Montreal Cognitive Assessmentの点数(0~30の範囲で高いと認知機能良好)、そして、3ヵ月におけるmodified Rankin scaleおよびCerebral Performance Category(CPC)であった。