経済危機による失業で、殺人が増え交通事故死が減る:欧州の場合

提供元:ケアネット

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公開日:2009/08/06

 



失業率の上昇により、殺人(意図的な暴力による早死)が短期的に有意に増加し、交通事故死が有意に低下することが、イギリスOxford大学社会学科のDavid Stuckler氏らが実施したヨーロッパ諸国の実証的な調査結果から判明した。現今の経済危機、特に失業が公衆衛生に及ぼす有害な影響については、広範な関心の高まりが見られるという。世界保健機構(WHO)は、「ストレス、自殺、精神疾患の持続的な増加を目の当たりにしても驚くべきでない」「貧困層および社会的弱者が最初に影響を受けるであろう」「保健予算の確保はますます難しくなるであろう」と警告している。Lancet誌2009年7月25日号(オンライン版2009年7月8日号)掲載の報告。

失業率1%上昇ごとに自殺と殺人が0.79%増加、交通事故死は1.39%低下




研究グループは、1970~2007年までのヨーロッパ26ヵ国について、人口の高齢化、過去の死亡率、就業傾向で補正した多変量回帰分析を行い、国別の保健医療インフラを考慮して就業率と死亡率の変化の関連について評価し、個々の政府の財政支出のタイプによってこの関係性がどう変化するか検討した。

失業率が1%上がるごとに65歳未満の人口の自殺率が0.79%上昇し(effect sizeは全年齢層で有意差なし)、殺人の発生率は0.79%増加した。これに対し、交通事故死亡率は1.39%低下した。失業率の上昇が3%以上になると、65歳未満人口の自殺率やアルコール濫用による死亡率が増大した。

景気低迷の健康への悪影響は、職場復帰で軽減する可能性も




失業率が上がると全原因死亡率が上昇するというエビデンスはEU各国に共通のものではなかった。死亡率が経済危機の影響をどの程度受けるかは集団によって実質的なばらつきがみられ、一部は社会的保護政策の差に依存していた。

積極的な労働市場政策への投資が1人当たり10ドル上昇するごとに、失業が自殺に及ぼす影響は0.038%ずつ低下した。

著者は、「失業率の上昇によって、殺人(意図的な暴力による早死)が短期的に有意に増加し、交通事故死は有意に低下していた」とまとめ、「積極的労働市場政策によって仕事を確保し、労働者の職場復帰が実現されれば、景気低迷が健康に及ぼす有害な影響がある程度軽減される可能性がある」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)