既治療のエストロゲン受容体(ER)陽性・HER2陰性の進行乳がん患者において、フルベストラントと比較してvepdegestrant(ユビキチン・プロテアソーム系を利用した標的タンパク質分解誘導キメラ分子[PROTAC]、経口ER分解薬)は、全患者では無増悪生存期間(PFS)の改善を認めなかったものの、エストロゲン受容体遺伝子(ESR1)変異を有するサブグループではPFSの有意な延長が認められ、安全性プロファイルも良好であることが、フランス・Institut de Cancerologie de l'Ouest Angers-NantesのMario Campone氏らVERITAC-2 Study Groupが実施した「VERITAC-2試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年5月31日号に掲載された。
25ヵ国の非盲検無作為化第III相試験
VERITAC-2試験は、日本を含む25ヵ国213施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2023年3月~2024年10月に患者を登録した(PfizerとArvinasの助成を受けた)。
年齢18歳以上、外科的切除や放射線治療の適応がないER陽性、HER2陰性の局所・領域再発または転移を有する乳がんで、サイクリン依存性キナーゼ阻害薬(CDK4/6阻害薬)療法1ライン+内分泌療法1ライン(1ラインの追加まで可)の治療歴のある患者を対象とした。
被験者を、vepdegestrant(200mg、28日を1サイクルとし、毎日1回)を経口投与する群、またはフルベストラント(500mg、1サイクル目は1および15日目、2サイクル目以降は1日目)を筋肉内注射する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。
主要評価項目はPFSとし、
ESR1変異を有する患者と全患者について、盲検下独立中央判定で評価した。
OS中央値は両群とも未到達
624例を登録し、vepdegestrant群に313例、フルベストラント群に311例を割り付けた。全体の99.5%が女性で、年齢中央値は60.0歳であり、63.1%が臓器障害を伴う内臓転移を有し、全例が進行または転移を認める病変に対する治療を受けており、前治療ライン数は1が79.0%、2が20.4%であった。また、270例(43.3%)が
ESR1変異を有していた(vepdegestrant群136例、フルベストラント134例)。
ESR1変異例におけるPFS中央値は、フルベストラント群が2.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:1.9~3.5)であったのに対し、vepdegestrant群は5.0ヵ月(3.7~7.4)と有意に延長した(ハザード比[HR]:0.58[95%CI:0.43~0.78]、p<0.001)。
一方、全患者のPFS中央値は、vepdegestrant群が3.8ヵ月(95%CI:3.7~5.3)、フルベストラント群は3.6ヵ月(2.6~4.0)であり、両群間に有意な差を認めなかった(HR:0.83[95%CI:0.69~1.01]、p=0.07)。
全生存期間(OS)中央値は、両群とも未到達であった。また、盲検下独立中央判定による
ESR1変異例の奏効率(完全奏効、部分奏効)は、vepdegestrant群18.6%、フルベストラント群4.0%であり、試験担当医師判定の値とほぼ一致していた。
Grade3/4の有害事象23.4%、投与中止2.9%
vepdegestrant群で頻度の高い有害事象は、疲労感(26.6%)、ALT値上昇(14.4%)、AST値上昇(14.4%)、悪心(13.5%)、貧血(12.2%)であり、ほとんどがGrade1または2であった。消化器関連有害事象の発現率は低かった。
Grade3/4の有害事象は、vepdegestrant群で23.4%、フルベストラント群で17.6%に発現し、このうち最も頻度が高かったのは、それぞれ好中球減少(1.9%)と低カリウム血症(1.9%)、および貧血(3.3%)とAST値上昇(2.6%)であった。担当医によって治療関連と判定された有害事象は、vepdegestrant群で56.7%、フルベストラント群で40.4%に発現し、このうちGrade3/4はそれぞれ7.7%および2.9%だった。
重篤な有害事象は、vepdegestrant群で10.3%、フルベストラント群で9.1%に発現した。有害事象による死亡は、vepdegestrant群で8例、フルベストラント群で2例にみられたが、担当医が治療関連と判定したものはなかった。また、QT延長を、それぞれ9.9%および1.3%に認めたが、臨床的続発症は発生しなかった。恒久的な投与中止に至った有害事象は、それぞれ2.9%および0.7%に発現した。
著者は、「本試験の知見は、現在、治療選択肢が限られているこれらの患者において、異なる作用機序と、良好な安全性プロファイルを有する新たな内分泌療法としてのvepdegestrantを支持するものである」としている。
(医学ライター 菅野 守)