僧帽弁閉鎖不全症、死亡率高いが過少治療の傾向:米国/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2018/03/26

 

 孤立性僧帽弁閉鎖不全症は、地域における死亡を過度に増加させ、診断後の心不全の発生と関連があるにもかかわらず、僧帽弁手術を受けた患者はきわめて少ないことが、米国・メイヨー・クリニックのVolha Dziadzko氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌2018年3月10日号に掲載された。僧帽弁閉鎖不全症は世界的に頻度の高い弁病変であり、低侵襲治療デバイスの開発が重視されているが、重篤なアウトカムや治療への満たされない必要性(unmet need)が実際に存在するかは不明だという。

10年間の地域の有病率、臨床的特徴、アウトカムなどを評価
 研究グループは、ミネソタ州オルムステッド郡における僧帽弁閉鎖不全症の臨床的特徴、アウトカム、過少治療の程度の評価を目的に観察的コホート研究を実施した(メイヨー・クリニック財団の助成による)。

 メイヨー・クリニックの電子カルテとロチェスター疫学計画のデータを用いて、2000年1月1日~2010年12月31日の10年間に同郡で、ドプラ心エコー検査により中等度~重度の孤立性僧帽弁閉鎖不全症と診断された全症例を同定した。

 1,294例が同定され、診断時の年齢中央値は77歳(IQR:66~84)、男性が47%、一次性僧帽弁閉鎖不全症は44%であった。全体の有病率は0.46%(95%信頼区間[CI]:0.42~0.49)、成人の有病率は0.59%(0.54~0.64)だった。

全サブセットで、予測以上の過度な死亡率
 左室駆出率(LVEF)<50%の患者は42%(538例)と高頻度であり、これらの患者はLVEF≧50%の患者に比べ、平均逆流量がわずかだが有意に少なかった(39mL[SD 16]vs.45mL[21]、p<0.0001)。

 診断後の死亡の原因は主に心血管疾患で、死因が判明していた患者の51%(420/824例)を占めており、これは郡の住民の年齢や性別から予測された割合よりも高かった(リスク比[RR]:2.23、95%CI:2.06~2.41、p<0.0001)。

 この予測を超える過度な死亡率は、LVEFが<50%(RR:3.17、95%CI:2.84~3.53、p<0.0001)か、≧50%(1.71、1.53~1.91、p<0.0001)か、また一次性(1.73、95%CI:1.53~1.96、p<0.0001)か、二次性(2.72、2.48~3.01、p<0.0001)かにかかわらず、患者のあらゆるサブセットで認められた。

 さらに、合併症の負担が少なく、かつ好ましい背景因子(LVEF≧50%[RR:1.28、95%CI:1.10~1.50、p<0.0017]、一次性[1.29、1.09~1.52、p=0.0030])を有する患者でさえ、過度に死亡率が高かった。

 診断後は心不全の頻度が高く、5年時には64%(SE 1)で発生しており、LVEF≧50%の患者でも49%(2)に、一次性の患者でも48%(2)に認められた。

 一方、僧帽弁手術は、最終的に15%(198/1,294例)にしか行われておらず、主な手術法は弁形成術(149例、75%)であり、弁置換術(49例、25%)は少なかった。僧帽弁手術は、LVEF<50%の患者では5%(28/538例)、≧50%の患者では22%(170/756例)に施行され、一次性の患者では29%(164/571例)、二次性の患者では5%(34/723例)に行われた。僧帽弁手術以外の心臓手術を受けた患者は、すべてを合わせても18%(237例)であり、僧帽弁手術を受けた患者(15%)に比べて3%しか多くなかった。

 著者は、「この結果は、広範な地域住民において、本症の治療法に対する実質的なunmet needが存在する可能性を示唆する」としている。

(医学ライター 菅野 守)

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コメンテーター : 今井 靖( いまい やすし ) 氏

自治医科大学 臨床薬理学部門・循環器内科学部門 教授 附属病院 薬剤部長

J-CLEAR評議員