ICU患者の握力が退院後の精神症状と関連

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/07/17

 

 集中治療室(ICU)で治療を受けた患者に見られる集中治療後症候群(PICS)の精神症状が、退院時の握力と関連している可能性を示唆するデータが報告された。特に不安レベルと強く逆相関しているという。国内多施設共同観察研究の結果であり、日立総合病院救命救急センターの中村謙介氏らによる論文が「BMJ Open」に5月5日掲載された。

 PICSはICU入室中から退室後に生じる身体や精神の症状のことで、退院後にも数カ月以上続くことがある。一般的には時間の経過とともに軽快するが、精神症状は時に悪化していくことがあり、PICSリスクの高い患者を早期に特定し予防的に対処する戦略の確立が求められている。他方、高齢者や慢性疾患のある患者では、握力の低いことが精神症状のリスクの高さと関連していることが報告されている。これを背景に中村氏らは、ICU患者の握力がPICS精神症状の関連因子の一つではないかとの仮説を立て、ICU患者対象の国内多施設共同研究「EMPICS研究」のデータを事後解析し検討した。

 2019年6~12月に国内9カ所のICUに入室した、滞在期間が48時間以上の患者1,041人から、18歳未満、中枢神経疾患患者、精神疾患の既往者、入院前から歩行に介助を要していた患者、および末期症状の見られる患者を除外し、退院3カ月後のアンケート調査に回答した98人を解析対象とした。アンケートには調査項目の一つとして、不安や抑うつの強さを評価する「HADS」が含まれていた。本研究では、HADS-A(不安レベルの指標)、HADS-D(抑うつレベルの指標)が、それぞれ21点満点中8点以上の場合に、不安や抑うつ症状が強いと判定した。

 解析対象者の主な特徴は、平均年齢70.5歳、男性63%、BMI23で、ICU滞在期間は4.7日、入院期間は23.5日。ICU入室時点で、重症度の指標であるAPACHE IIスコアが18点、SOFAスコアは7点。ICU退室時点で、筋力の指標であるMRCスコアは58点。退院3カ月後の調査で、不安レベルが高いと判定された人が26人(26.5%)、抑うつレベルが高いと判定された人が16人(16.3%)だった。

 単変量解析の結果、退院時の握力が低いほど3カ月後の不安や抑うつ症状が強いという有意な逆相関が認められた(HADS-Aはr=-0.37、P<0.001、HADS-Dはr=-0.30、P=0.0026)。握力以外にも、MRCスコア(r=-0.25、P=0.014)、および日常生活動作(ADL)の指標であるバーゼル指数(r=-0.22、P=0.029)も、HADSの総合スコアとの有意な逆相関が認められた。ただし、MRCスコアやバーゼル指数は、多くの患者が満点近くに分布するという偏りがあったのに対して、握力は正規分布していた。

 ROC解析から、退院時の握力による3カ月後のHADS-A 8点以上の予測能(AUC)は0.71であり、MRCスコア(0.61)やバーゼル指数(0.60)より予測能が高かった。一方、HADS-D 8点以上の予測能は、バーゼル指数0.58、握力0.56、MRCスコア0.44であり、いずれも高くなかった。

 年齢、性別、BMI、退院時握力、APACHE IIを説明変数とする多変量解析の結果、握力は3カ月後のHADS-Aと独立した有意な関連が認められ(P=0.025)、その他の因子は非有意だった。HADS-Dに関しては、独立した関連のある因子が抽出されなかった。

 このほか、ADL低下の有無で二分して(バーゼル指数が100点の群と100点未満の群)、退院時握力とHADSの関連を検討した結果から、ADLが維持されている場合は握力とHADS-Aが有意に逆相関し(r=-0.40、P=0.0035)、HADS-Dとは有意な関連がなく、一方でADLが低下している場合はHADS-Dと有意に逆相関し(r=-0.41、P=0.0043)、HADS-Aとは有意な関連がないことが分かった。

 以上より著者らは、「ICUに48時間以上滞在した患者では、退院時の握力が退院3カ月後の不安や抑うつ症状の強さと関連がある。あらゆる施設で簡便に評価できる握力が、退院後の精神症状のリスク評価に利用できるのではないか」と結論付けている。

[2023年6月26日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら