注射による猫の避妊治療、小規模研究で100%の効果を示す

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/07/04

 

 猫の個体数を抑制するための手段としては、生殖腺を外科的に摘出する不妊手術が主流であるが、より効果が高く安全な避妊法として、1回の注射で済む避妊治療が有望であることを示した小規模研究の結果が報告された。米シンシナティ動植物園の動物研究部長であるWilliam Swanson氏らによる研究で、「Nature Communications」に6月6日掲載された。

 Swanson氏は、「1回の注射で生涯を通して不妊になる可能性のある避妊薬は、不妊手術という現在の標準的な治療法に比べて多くの利点がある」と述べる。現在、雄猫に対しては、全身麻酔で精巣(睾丸)を切除する去勢手術、雌猫に対しては、卵巣のみを摘出するか、卵巣と子宮の双方を摘出する避妊手術が行われている。このような不妊手術は、猫の繁殖を抑制する上では有効だが、デメリットもある。

 例えば、「手術には、専門的な器具や医療用品、獣医の専門的な技術、麻酔薬や鎮痛薬が必要であり、術後のケアも必要だ」とSwanson氏は指摘する。また、保護された猫の数が多くなければ、不妊手術は頭数コントロールのための効果的な手段となり得るが、「世界中の何億匹もいる野良猫の繁殖をコントロールするには十分な手段ではない」と同氏は強調する。

 この研究論文の背景情報によると、世界中で猫(イエネコ;ネコ科の動物のうちで家畜化された種類)の数は6億匹に上るが、このうちペットとして飼われているのはわずか20%に過ぎず、残りの80%は野良猫と推定されている。野良猫の住環境や健康状態は最適とはいえず、また、猫による野生動物の捕食が生態系に悪影響を及ぼすことなどが指摘されてはいるものの、保護施設に収容された猫を安楽死させることには倫理的な問題がつきまとう、と研究グループは指摘する。

 AMH(抗ミュラー管ホルモン)は、女性では卵巣で、男性では精巣で生成される非ステロイド系ホルモンであり、女性では卵巣の中に残っている卵子の数を予測するための指標として用いられている。研究論文の上席著者である米マサチューセッツ総合病院小児外科研究所のDavid Pepin氏は、過去の研究で、女性のAMHレベルを一定の閾値以上に上げると卵胞の成長が抑制され、排卵と妊娠を防止できることを発見している。

 今回の研究では、雌猫のAMHレベルを上げることにより、同様の効果が得られるのかどうかが検討された。Swanson氏らは、性的に成熟した雌猫9匹のうちの6匹に、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによりAMH遺伝子を導入する遺伝子治療を、1回の筋肉内注射で行った。この注射により、通常は卵巣でしか産生されないAMHが筋細胞内でも産生されるようになり、体内のAMHレベルが通常の100倍に上昇するのだという。残りの3匹は、このような遺伝子治療を行わない対照群とした。

 治療後8カ月と20カ月の時点で、これら9匹の雌猫と1匹の雄猫を1日8時間ずつ週に5日、4カ月にわたって共に過ごさせる実験を2度行った。その結果、2年間の追跡期間中に遺伝子治療を受けた6匹のうちの2匹が雄猫と交尾したが、妊娠した猫はいなかった。これに対して、対照群の3匹は、いずれも雄猫と交尾して妊娠したことが明らかになった。この遺伝子治療による副作用は観察されなかった。

 米国動物虐待防止協会(ASPCA)のシェルター医療担当シニアディレクターであるLauren Overman氏は、「米国では、毎年300万匹以上の猫が施設に保護されるが、これらの猫に飼い主を見つけることにしばしば苦労する」と述べる。同氏は、「不妊手術はこの問題の解決に役立つが、猫用の避妊薬の開発に関するこの研究結果は、特に野良猫や従来の不妊手術を行うための資源がない地域の猫に対する不妊治療を増やす可能性があり、その結果、野良猫の数が減少するかもしれない」と期待を寄せる。

 この治療法はまだ臨床で使用できる段階にはない。Swanson氏は、目下、遺伝子治療を行った猫のその後の経過を追跡調査するとともに、別の臨床試験の実施も計画しているところだという。同氏は「この治療法がいつ利用できるようになるかの予測は難しいが、まだ何年も先のことになるだろう」と述べている。

[2023年6月6日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら