職場で差別を受けると高血圧になりやすい?

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/05/31

 

 職場の上司や同僚から差別を受けることが、高血圧の発症リスクとなる可能性を示す研究結果が報告された。被差別体験の多寡で最大54%のリスク差が示されたという。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のJian Li氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Heart Association」に4月26日掲載された。

 論文の筆頭著者であるLi氏は、「この研究は因果関係を証明可能な研究デザインでは行われていない。ただし、職場での差別が高血圧の潜在的な危険因子であることが示唆される」と述べている。そのように考えられる理由の一つは、本調査では職場の差別の経験が高血圧の発症よりも時間的に先行していたことであり、もう一つの理由は、ストレスの多い状況が血圧上昇の一因となることを示す研究結果が存在しているからだとしている。

 Li氏らの研究には、米国の中高年成人の幸福感を調査したコホート研究(MIDUS)のデータが用いられた。MIDUSは2004~2006年に参加登録が行われ、今回の研究では登録時点で高血圧を自己申告した人を除いた1,246人を解析対象とした。職場での差別の経験は、「ほかの人がやりたがらない仕事をどのくらいの頻度で不当に担当させられたか?」、「民族的、人種的、性的な中傷や冗談を、同僚からどのくらいの頻度で言われたか?」などの6項目の質問に対する回答からスコア化し判定された。

 平均7.96年(9,923.17人年)の追跡で、319人が高血圧を発症。受けた差別のスコアの三分位で3群に分けると、第1三分位群(被差別体験が最も少ない下位3分の1)では1,000人年当たりの高血圧発症率が25.90、第2三分位群は同30.84、第3三分位群(被差別体験が最も多い上位3分の1)は同39.33だった。高血圧発症リスクに影響を及ぼしうる因子(年齢、性別、喫煙・飲酒・運動習慣、人種、婚姻状況、学歴、収入、業務上のストレスなど)を調整後の解析で、第3三分位群は第1三分位群に比較して54%リスクが高いことが明らかになった〔ハザード比1.54(95%信頼区間1.11~2.13)〕。

 このような差別と心血管系の健康リスクとの関連をLi氏は、「差別を受けてストレスがかかると、心血管系の負荷となるホルモンの分泌が高まる。そのような状況が続くと身体は消耗し、ストレスからの回復能力も低下する可能性がある」と解説している。また、本研究には関与していない米国心臓協会(AHA)のEduardo Sanchez氏は、「人々は労働に人生の多くの時間を費やしている。よって職場で受ける差別が健康へ与える影響を研究することは、極めて重要だ。ストレスは、われわれが思いもよらないメカニズムで心血管系の健康に影響を及ぼしているのではないか」と語っている。

 Li氏は、「職場環境の改善という問題は以前から存在しているが、これまでは主に『労働条件』という視点から語られることが多かった。しかし今日では、人間関係やワークライフの質などの、より多くの関連因子を考慮する必要がある」と指摘。さらにSanchez氏は、「職場での差別の解決を目指すことは正しいことに違いない。それは、従業員だけでなく企業にとっても重要である。なぜなら、幸福感の高い従業員が勤務していることは、雇用者側の利益にもつながるからだ」と、この問題に取り組むことの意義を述べている。

[2023年4月26日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら