新たなRSウイルスワクチン、高齢者と乳児の双方で効果を発揮

提供元:HealthDay News

印刷ボタン

公開日:2023/05/01

 

 ファイザー社が開発したRS(呼吸器合胞体)ウイルスワクチンは、高齢者と乳児の双方でRSウイルス感染症を安全かつ効果的に予防するという2件の臨床試験の結果が報告された。ファイザー社は、同ワクチンの高齢者に対する接種が5月までに、妊婦に対する接種が8月までに米食品医薬品(FDA)により承認されるものと見ている。これらの臨床試験の結果は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に4月5日掲載された。

 RSウイルスに感染しても、通常は風邪様の症状が現れる程度だ。しかし米国では、1歳未満の子どもの気管支炎と肺炎の最も一般的な原因ウイルスがRSウイルスである。また、このウイルスは高齢者、特に健康状態が不良な人にリスクをもたらす。米疾病対策センター(CDC)によると、毎年、5万8,000〜8万人の5歳未満の子ども、および6万〜16万人の高齢者がRSウイルス感染症で入院し、さらに6,000〜1万人の高齢者が同感染症により死亡しているという。

 RSウイルスワクチンの臨床試験は1960年代に実施されたが、ワクチンにより産生された抗体が、ウイルスへの感染や重症化を促してしまう「抗体依存性感染増強」を引き起こし、失敗に終わった。しかし、2010年代初頭、米国国立衛生研究所(NIH)の研究グループが、RSウイルスのヒト細胞への侵入に関わるウイルス表面のFタンパク質がヒト細胞の受容体と結合し、ウイルス粒子が細胞膜と融合した後に構造を変えることを突き止めた。そして、RSウイルスワクチンが効果を発揮するには、融合前のFタンパク質の構造をターゲットにする必要があることを報告した。この画期的な発見により、ファイザー社やグラクソ・スミスクライン(GSK)社をはじめとする製薬企業が、安全で効果的なRSウイルスワクチンの開発をめぐって競争を繰り広げている。

 2件の臨床試験のうち、高齢者を対象にした第3相試験では、中間解析の時点で60歳以上の高齢者3万4,284人がファイザー社のRSウイルスワクチン(1万7,215人)、またはプラセボ(1万7,069人)のいずれかを接種する群にランダムに割り付けられていた。解析の結果、RSウイルスワクチン接種群では、3種類以上の兆候や症状を伴うRSウイルス感染に関連した下気道疾患の予防に85.7%、2種類以上の兆候や症状を伴う同疾患の予防に66.7%の効果を有することが明らかになった。

 米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院国際保健学分野教授のRuth Karron氏は、「重症化においては入院に関心が集まるが、この中間解析では、入院に対する有効性を示すことはできなかった。しかし、2種類以上よりも3種類以上の兆候や症状を伴うRSウイルス感染症に対する有効性の方が高かったことから、重症化の予防効果も期待できるのではないか」と述べている。

 一方、妊婦を対象に18カ国で実施された第3相試験では、妊娠24〜36週の妊婦にファイザー社のRSウイルスワクチン(3,682人)、またはプラセボ(3,676人)がランダムに投与された。その後、生まれた子どもの追跡調査を行い、ワクチンによって産生された母親の抗体が子どもに保護効果をもたらすのかどうかを確認した。

 RSワクチン接種群の子ども3,570人、プラセボ接種群の子ども3,558人を対象にした中間解析の結果、入院を要するような重症の下気道感染症が生じたのは、生後90日以内ではRSワクチン接種群の子どもで6人、プラセボ接種群の子どもで33人(ワクチンの有効性81.8%)、生後180日以内では同順で19人と62人(ワクチンの有効性69.4%)であることが明らかになった。ファイザー社の副社長であり臨床ワクチン研究の長を務めるBill Gruber氏は、「乳児を守るためには、妊娠中の母親がワクチンを接種し、抗体を子どもに受動的に移行させる必要がある。FDAの承認が早ければ早いほど、RSウイルスワクチンを接種できる妊婦の数が増え、保護される乳児の数も増える」と話している。

 なお、Gruber氏によると、ファイザー社は、ワクチン接種後の副作用の有無と、接種による保護効果の持続期間を確認するために、今後もワクチン接種者を追跡調査する予定とのことだ。

[2023年4月6日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら