医師への問い合わせメールはいずれ有料になる?

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/03/21

 

 電子メール(以下、メール)はその手軽さから、医師と患者間の重要なコミュニケーションの一形態となり、医師の元には毎日、患者から大量のメッセージが届く。こうした状況を受け、米国の一部の病院や医療システムが、患者からのメールへの対応に要する医師の仕事の内容や量に応じて、料金を請求し始めている。

 ただし現状では、このような制度を採用している医療機関はごく一部であり、また、請求が発生する医師の返信メールもわずかな割合を占めるに過ぎない。しかし、一部の患者支援者からは、このような請求が、医療へのアクセス拡大のための選択肢の制限につながりかねないとの懸念が示されている。そのような患者支援者の一人である、米Patient Advocate Foundation(患者支援基金)のCaitlin Donovan氏は、「少額の費用負担でも、患者のサービスの利用減少につながることはすでに明らかになっている」と話す。

 そうした中、Donovan氏の懸念が事実に基づいたものであることを示唆する研究結果が、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)臨床情報学・改善研究センターのA. Jay Holmgren氏らにより、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に1月6日掲載された。UCSFヘルスにおいて、医師からの返信メールの一部に対して料金を請求する制度を導入した直後に、患者からのメールの件数が、前週の平均(約5万6,600件)から4,600件程度減少したことが明らかになったという。

 Holmgren氏は、「われわれは、UCSFヘルスのウェブサイトや患者ポータルに、参考情報として、医師へのメールの内容が臨床的質問の要件を満たす場合には、料金の請求が発生し得ることを掲載し始めた。その後、患者から送られてくるメールは、わずかながらも統計学的に有意に減少した」と話す。

 Holmgren氏によると、米国では1950年代の健康保険の普及に伴い、医療機関を30分程度訪れて医師の診察を受け、それに対して支払いをするという医療提供体制が整えられた。しかし、技術が進歩し、医師が患者からのメールを時間とは無関係に受け取るようになった今日では、受診ごとに支払いをするという仕組みは過去のものになったと同氏は指摘する。そして、「1950年代に作られた医療システムに、患者からのメールをどうやって押し込めようというのか」と疑問を投げかける。

 実は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック発生前の段階では、医師たちは、Holmgren氏が「非同期的な遠隔医療」と呼ぶ、メールを介した医師と患者のコミュニケーションの取り方に希望を見出していた。実際に2020年以前の関連文献は、ほぼ全てが患者ポータルや非同期的なメッセージシステムを利用する患者の数をいかにして増やすかなどに関する内容だったという。

 しかし、パンデミックに伴うロックダウンによりこのような状況は一変し、患者からの医師へのメールはパンデミック前の平均の157%に跳ね上がった。Holmgren氏は、「急増するメールへの返信が、医師の就業外の時間の大部分を侵食し始めていた」と指摘する。UCSFヘルスが医師の時間と注意を要するメールに対して料金を請求し始めたのは、こうした医師の状況に鑑みてのことだった。

 では、どのようなメールが料金請求の対象となるのか。UCSFヘルスと同様に、メールに対する請求システムを導入している米クリーブランドクリニックでは、処方薬の変更、新たに出現した症状、慢性疾患に生じた変化、慢性疾患に対するケアの精査、医療関係の書類への記入に関わる内容のメールには料金が発生する。一方で、予約取りや薬の再処方、過去7日以内の診療内容に関する質問などの内容は、請求の対象にならない。同クリニック食物アレルギーセンターのSandra Hong氏は、「料金が発生するのは、医療に関わる意思決定が必要な場合と、資格のある医師がケアを行う場合のみだ」と強調する。

 Holmgren氏とHong氏は、今後も、それぞれの医療システムにおいて医師と患者間のメールの送受信の傾向を追跡し続け、発生し得る潜在的な格差について検討していく予定だとしている。

[2023年2月10日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら