栄養不良による糖尿病が世界で8千万人に達する可能性

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/08/10

 

 栄養不良に伴う糖尿病に関する、米アルバート・アインシュタイン医科大学のMeredith Hawkins氏らの研究報告が、「Diabetes Care」6月号に掲載された。同氏らは、「本研究は、このタイプの糖尿病は1型糖尿病や2型糖尿病などとは大きく異なる独自の代謝特性を示すことを明らかにした初の報告であり、治療法の開発における重要な知見と言える。栄養不良に関連する糖尿病のさらなる研究が求められる」と述べている。

 栄養不良に伴う糖尿病は約70年前に初めて報告され、1985年には世界保健機関(WHO)が「栄養不良関連糖尿病(malnutrition-related diabetes mellitus)」と命名し、糖尿病の病型の一つとして位置付けた。しかしその後、栄養不良が糖代謝異常の原因であるとする十分なエビデンスが集まらないことから1999年、WHOはこのカテゴリーを削除し今日に至っている。しかし1999年以降も食料事情の良くない国々からは、栄養不良に伴う糖尿病の存在を支持する疫学データの報告が続いている。

 Hawkins氏らは過去12年間にわたり、栄養不良に伴う糖尿病の研究を続けてきた。同氏によると、このタイプの糖尿病の患者の多くは痩せた貧しい十代の青年や若年成人であり、診断から1年以上生存することはほとんどないという。通常、インスリン注射は無効で、かえって低血糖による死亡を引き起こす可能性さえあるとのことだ。

 「栄養不良に伴う糖尿病は、世界中の60以上の低中所得国に存在している。その一方、高所得国ではめったに見られない。低中所得国の医師も高所得国で編集された医学誌から情報を得ているため、このタイプの糖尿病について学ぶことができず、目の前に患者が現れても、この疾患の可能性を疑うことができない」と、大学発のリリースの中で同氏は語っている。そして、「われわれの発見がこの病気への認識を高め、効果的な治療法の開発への道を開くことを願っている」と述べている。

 Hawkins氏らの研究はインドで行われた。栄養不良に伴う糖尿病のリスクが高いと考えられる19〜45歳のインド人男性の糖代謝を、1型・2型糖尿病の患者群、および糖代謝が正常な対照群と比較した。なお、栄養不良に伴う糖尿病の患者は約85%が男性で占められているため、本研究は男性のみを対象とした。糖代謝の評価には最新の検査技術を用い、インスリン分泌能、肝臓および末梢のインスリン感受性を測定したほか、肝臓や筋肉の脂肪含有量なども評価した。

 その結果、栄養不良に伴う糖尿病の患者は、2型糖尿病と比較してインスリン分泌能が低く、内因性グルコース産生が少なく、グルコースの取り込みは多いといった特徴が見られた。論文の結論は、「栄養不良に伴う糖尿病は、1型および2型糖尿病とは代謝的に明確に異なり、別のタイプの糖尿病と見なされるべきである」とまとめられている。

 Hawkins氏によると、「現在、世界中の成人の10人に1人が糖尿病に罹患しており、その約4分の3に当たる4億人程度が低中所得国に住んでいる。それらの国々からの研究報告に基づけば、低中所得国の糖尿病患者の約20%は栄養不良が関連していると考えられる」とのことだ。同氏は、「これはつまり、世界中で約8000万人の糖尿病患者が、栄養不良の影響を受けている可能性があることを意味する」と推測。そして、「他の疾患の患者数に目を向けると、例えば現在HIV/AIDSとともに生きている人は3800万人と推定されている。その数値との比較からも、われわれが栄養不良に伴う糖尿病とその治療法について、もっと多くを学ぶ必要があることは明らかだ」と付け加えている。

[2022年6月10日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら