入院患者と医師の言語が一致していると転帰良好

提供元:HealthDay News

印刷ボタン

公開日:2022/08/10

 

 医師が話す専門的な内容を、患者が全て正しく理解することは難しい。まして、自分が使っている言語とは異なる言語で説明されたとしたら、どうだろうか?

 オタワ病院(カナダ)のPeter Tanuseputro氏らが行った研究によると、医師が入院患者の第一言語(最も得意な言語のことで一般的には母国語)とは異なる言語を使って患者に接した場合、入院期間の延長や有害事象の増加、死亡リスクの上昇につながる可能性が示された。詳細は、「Canadian Medical Association Journal(CMAJ)」に7月11日掲載された。研究が実施されたカナダのオンタリオ州は多様な言語が使われている地域として知られており、Tanuseputro氏によると、「気の毒なことに、本研究に参加したフランス語を話す患者のうち、フランス語でケアを受けていたのは44.4%にとどまっていた」とのことだ。

 この研究は、2010~2018年にカナダのオンタリオ州の病院に入院した18万9,690人の在宅介護受給者を対象とする、後ろ向きコホート研究として行われた。在宅介護の記録から患者の第一言語を把握して、医師が患者の第一言語を使って行った治療が、入院治療全体の50%以上を占めていた場合に、「言語の一致」と定義し、転帰との関連を検討した。なお、医師の58.3%は英語のみを話し、他の医師は多言語を使うことができた。

 転帰に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、併存疾患、日常生活動作、婚姻状況、教育歴、所得、居住地など)を調整後、フランス語を第一言語とする患者に医師がフランス語で接していた場合の転帰を、言語が一致していなかったケースと比較。その結果、入院中の有害事象が36%〔調整オッズ比(aOR)0.64(95%信頼区間0.52~0.77)〕、院内死亡が24%〔aOR0.76(同0.62~0.95)〕有意に少なく、入院期間は7%短いことが分かった〔調整後の比0.93(同0.87~1.00)〕。

 英語を第一言語とする患者の場合は、医師の用いた言語の一致/不一致により、以下のように、より大きな差が認められた。入院中の有害事象は、言語が一致していた場合に74%有意に少なく〔aOR0.26〔同0.15~0.44)〕、院内死亡は54%有意に少なかった〔aOR0.46〔同0.31~0.70)〕。また入院期間は23%短かった〔調整後の比0.77(同0.68~0.86)〕。なお、退院後の経過(救急受診、再入院、退院後30日以内の死亡)には、言語の一致/不一致による有意な差は認められなかった。

 Tanuseputro氏らは論文の結論を以下のようにまとめている。「入院中に言語の一致する医師による治療を受けていた患者は、そうでない患者に比べて院内転帰が良好だった。この結果は、潜在的な交絡因子を調整後も有意であったことから、患者特性ではなく、医師との言語の一致/不一致に起因する可能性が示唆される。医師が患者の第一言語を使って治療に当たることで、言語に起因する転帰への負の影響を抑制できるのではないか。病院管理者には、例えば複数の言語に堪能な医師を採用するなどの対策が求められる」。

 また、論文の筆頭著者であるオタワ大学のEmily Seale氏は、「本研究の結果は、患者中心の医療を推進するために言語の一致が重要であることを意味するだけでなく、言語の不一致のために患者の健康に重大な影響が生じることを示している」と述べている。なお、米国からは、喘息や糖尿病の患者の言語が医師の言語と一致している場合に、疾患管理状況が良好になるとする研究結果が報告されている。

[2022年7月11日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら