麻痺を伴う謎に満ちた小児の疾患、原因特定へ前進

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/06/29

 

 米国では2014年以降、小児の間でポリオに似た急性弛緩性脊髄炎(AFM)と呼ばれる疾患が多発した。呼吸器感染症を引き起こすウイルスの一種であるエンテロウイルスD68(EV-D68)感染症が同時期に流行していたことから、同ウイルスの感染がAFMの集団発生に関与している可能性が指摘されていたが、研究者らはついにEV-D68がAFMの原因であることを裏付ける明確な証拠をつかんだようだ。詳細は、米ノースカロライナ大学チャペルヒル校のMatthew Vogt氏らにより、「The New England Journal of Medicine」5月26日号に報告された。

 AFMは、四肢に急性発症する弛緩性麻痺と、MRI検査で主に灰白質で認められる脊髄病変を特徴とする疾患である。一部の患者では呼吸筋も障害されるため、人工呼吸器による呼吸管理が必要となる場合もある。

 AFMは以前から散発的に発生し、その多くがウエストナイル熱などのウイルス感染症と関連付けられていた。しかし、米国では2014年以降、2年ごとにAFMの集団発生が報告されるようになった。集団発生は決まって8月から10月の間に起こり、患者の90%以上を低年齢児が占めていた。

 特に2018年に起こった集団発生では、238例ものAFM患者が米疾病対策センター(CDC)に報告された。CDCはその2年後に当たる2020年にもAFMの集団発生が起こるとの予測を示していたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを受けてソーシャルディスタンスが保持されるようになり、同年のAFMの報告数は33例にとどまっていた。

 今回の研究では、2008年にAFM様の疾患により死亡した5歳の小児患者の剖検が、患者の家族の同意を得た上で行われた。その結果、患者の脊髄の細胞からEV-D68の遺伝物質を検出することに成功した。Vogt氏は、「患者の家族のおかげでAFMについてさらに解明を進めることができた」と語る。

 専門家らはVogt氏らの検討から得られた知見について、今後の研究者らによる取り組みの方向性を示したものだとしている。AFMに対して特異的な抗ウイルス薬あるいはワクチンを開発するには、どのウイルスを標的とすべきかを明らかにしなくてはならないからだ。

 今回の研究には関与していない米ピッツバーグ小児病院の感染症専門医であるMegan Culler Freeman氏は、「これは素晴らしい報告だ。ヒトから得られたエビデンスとしては、最も質の高いものだ」と高く評価する。同氏によると、AFMに罹患した小児が死亡することはまれであるという。また、脊髄組織を採取する脊髄生検は危険性がかなり高い。そのため、AFM患者の脊髄細胞へのEV-D68の感染を裏付けるエビデンスを得ることは困難だった。

 CDCもEV-D68がAFMの原因であることを示唆する手掛かりをつかんでいた。例えば、AFMに罹患した小児から採取した粘液検体の多くで、EV-D68が検出されていた。また、2014年には米国で、EV-D68を原因とする重度の呼吸器疾患の集団発生が起こったが、同時期に最初のAFMの集団発生も起こっていた。ただ、それだけではEV-D68がAFMの原因であると結論付けるには不十分だった。Vogt氏によると、EV-D68は平凡な呼吸器系ウイルスであるため、このウイルスを原因とする説に首を傾げる研究者もいたという。

 2022年にAFMの集団発生が起こるかどうかについては予測困難だ。Freeman氏は、「AFMはまれだが、子どもの兆候に注意を払い、もし何らかの兆候が現れた場合には医師の診察を受けるべき」としている。なお、CDCによると、AFMに罹患した小児のほとんどで前触れなく腕や足の脱力が生じ、筋肉の緊張が失われるなどの症状が現れるほか、一部の小児では顔面あるいはまぶたの片側に下垂が認められるという。

[2022年5月26日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら