睡眠時無呼吸の治療に薬剤を使える日が来る?

睡眠時無呼吸の治療法として最も一般的なのは持続陽圧呼吸(CPAP)療法やマウスガードなどによる非薬物治療だ。こうした中、ヨーテボリ大学(スウェーデン)のJan Hedner氏らは、通常はてんかんの治療薬として使用されているスルチアム(商品名オスポロット)が、一部の患者の睡眠時無呼吸を改善したとする初期段階の臨床試験の結果を、「American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine」に2月24日発表した。
米メイヨー・クリニックの睡眠医学専門家であるKannan Ramar氏によると、一部の人では血中の酸素や二酸化炭素に対する感受性が上昇し、呼吸の調節が不安定になる“高ループゲイン”と呼ばれる状態が生じる。閉塞性睡眠時無呼吸の患者の約3分の1では、この高ループゲインが原因で無呼吸が起こりやすくなると考えられている。高ループゲインに対しては、炭酸脱水酵素阻害薬が有効である可能性が指摘されている。今回検討されたスルチアムも、炭酸脱水酵素阻害作用を有する。
この試験は、主にスルチアムの安全性を検証するために実施された。試験対象とされた68人の中等症または重症の睡眠時無呼吸患者は、4週間にわたって、1)高用量(400mg)のスルチアムを使用する群(34人)、2)低用量(200mg)のスルチアムを使用する群(12人)、3)プラセボを使用する群(22人)のいずれかにランダムに割り付けられた。高用量群から9人が脱落し、最終的に59人が試験を完了した。睡眠時の無呼吸と低呼吸については、1時間当たりの無呼吸と低呼吸の合計回数である無呼吸低呼吸指数(AHI)で評価した。
その結果、AHIは、高用量群では55.2回から33.0回に、低用量群では61.1回から40.6回に減少したのに対して、プラセボ群では53.9回から50.9回の減少にとどまっていた。血中の平均酸素飽和度は、高用量群と低用量群の双方で1.1%の改善が認められた。
また、スルチアムの相対的な安全性についても確認された。重篤な有害事象の報告はなかったが、高用量群では6人の患者が頭痛やめまいなどの副作用を理由に試験から脱落していた。報告された副作用で最も頻度が高かったのは、頭痛と肌のピリピリとした感覚だった。このほか、高用量群では18%(6人)で息切れも報告された。
Hedner氏らは、「スルチアムの投与を受けた患者では、無呼吸や低呼吸の起きる回数が1時間当たり平均20回以上減少した。この結果は、これまでに報告されている睡眠時無呼吸に対する薬物治療の臨床試験の結果の中で、最も強力なものの一つだ」と話す。
また、Ramar氏は、「高ループゲインは呼吸器系の不安定化を招く。一方、スルチアムは高ループゲインにおける反応を鈍化させ、呼吸器系の安定化をもたらす。そのため、二酸化炭素あるいは酸素の変化に対して極端な反応を示さなくなり、結果的に無呼吸が起こらなくなるのだ」と説明する。
米ジョンズ・ホプキンス大学の睡眠医学の専門家であるJonathan Jun氏によると、これまでにも睡眠時無呼吸の治療薬の候補として検討された薬剤は複数あったが、有用性が示されたものはなかった。今回の試験結果について同氏は、「スルチアムによって睡眠時無呼吸が原因で起こる呼吸器イベントの頻度や無呼吸あるいは低呼吸の回数が減少することを示唆するもの」と話す。その一方で同氏は、一部の患者には同薬が奏効したが、ほとんど反応しなかった患者もいたことから、「同薬は“部分的な解決法”にとどまる」との考えを示し、「スルチアムが全てを解決する手段、あるいはCPAPのような治療法の代わりとなるとは思わない」と述べている。
なお、Hedner氏らはすでに欧州5カ国の約400人の患者を対象としたスルチアムの次の段階の臨床試験を開始しており、今年の後半または来年早々には結果をまとめたいとしている。
[2022年4月20日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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