ED治療薬が眼疾患のリスクを高める?

勃起障害(ED)治療薬が網膜や視神経の病気のリスクを高めるのではないかとする論文が、「JAMA Ophthalmology」に4月7日掲載された。ED治療薬が処方されている人は、絶対リスクは低いながらも、網膜剥離などの相対リスクが85%有意に高いという。論文の筆頭著者であるブリティッシュコロンビア大学(カナダ)のMahyar Etminan氏は、「網膜に何らかの疾患リスクがある人は、ED治療薬の服用に際して医師に相談すべきかもしれない」と述べている。
PDE5阻害薬と呼ばれるED治療薬の使用と網膜疾患とのリスクの関連については、これまでにも複数の研究結果が報告されている。しかし、いずれも小規模な研究であり、結果に一貫性が見られない。これを背景としてEtminan氏らは、2006~2020年の医療費請求データベースを用い、米国成人男性21万3,033人(平均年齢64.6±13.3歳)を対象とする大規模な症例対照研究を行った。
検討した薬剤は、シルデナフィル(商品名:バイアグラ)、バルデナフィル(レビトラなど)、タダラフィル(シアリスなど)、avanafil(国内未承認)という4種類のPDE5阻害薬。それらが処方されている人と、処方されていない人とで、漿液性網膜剥離、網膜血管閉塞、虚血性視神経症の発症率を比較した。なお、コホート登録の前年までにこれらの疾患による受療歴がある人は除外した。
上記期間内に、PDE5阻害薬の処方を受けた人の中で漿液性網膜剥離が278人、網膜血管閉塞が628人、虚血性視神経症が240人、計1,146人の発症が記録されていた。PDE5阻害薬の処方を受けていない人の中で、これら3疾患を発症した年齢と発症時期の一致する4,584人を対照群として設定。条件付きロジスティック回帰分析にて、高血圧、冠状動脈疾患、喫煙、糖尿病の影響を調整(虚血性視神経症に関しては睡眠時無呼吸も調整)した解析の結果、以下の関連が明らかになった。
まず、前記の3疾患を複合エンドポイントとした場合、PDE5阻害薬の処方を受けていた群は処方されていなかった群に比較し、85%ハイリスクだった〔調整済み発生率比(IRR)1.85(95%信頼区間1.41~2.42)〕。エンドポイントを個別に見ると、漿液性網膜剥離〔IRR2.58(同1.55~4.30)〕と虚血性視神経症〔IRR2.02(同1.14~3.58)〕は、ともに2倍強の有意なリスク差が認められた。網膜血管閉塞のリスク差は非有意だった〔IRR1.44(同0.98~2.12)〕。
1万人年当たりの罹患率は、3疾患合計で15.5、漿液性網膜剥離は3.8、網膜血管閉塞は8.5、虚血性視神経症は3.2だった。これらは比較的低い値という見方もできるが、米国ではPDE5阻害薬が毎月2000万件処方されており、多くの男性が服用していることから、全体的な影響は小さくないと考えられる。
本研究はPDE5阻害薬とこれら網膜・視神経疾患発症リスクとの間に関連のあることを示しているが、因果関係を証明するものではない。Etminan氏も、「EDのある男性は、血流を介して視機能に影響を及ぼし得る全身疾患を併発している可能性がある」とし、交絡因子の影響を指摘。ただし、高血圧、糖尿病、冠状動脈疾患などの血流障害のリスクと関連する因子を調整しても結果が有意であったことから、「PDE5阻害薬の服用に際しては視覚の変化に留意した方が良い」と述べている。
米ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部のNicholas Volpe氏は、「全ての薬に副作用の可能性がある。新しい薬を服用し始めた際に、何らかの症状に気付いたらそれを無視すべきではない」と語る。また同氏は、「漿液性網膜剥離、網膜血管閉塞、虚血性視神経症のいずれも、薬剤を服用しなければ発症しないというわけではなく、例えば糖尿病性網膜症がある人は薬剤を服用していなくてもリスクは高い」と解説する。
米国では現在、前記3疾患のうちPDE5阻害薬の添付文書に副作用として警告されているのは虚血性視神経症のみだという。またEtminan氏によると、「視機能に影響を及ぼす可能性のある薬がほかにも少なくない」とのことだ。「眼は他の臓器と同じように血流を必要としており、眼球内の組織には薬の作用する受容体が多く存在する。よって他の疾患の処方薬の影響を、治療標的ではない眼も同じように受けることがある点に注意が必要だ」と同氏は語っている。
[2022年4月7日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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