日本語でわかる最新の海外医学論文|page:557

スコットランドにおける双極性障害に対する処方変化

 双極性障害患者は、一般的にうつや躁状態を予防するために、長期の薬理学的治療が必要とされる。しかし、エビデンスに基づくガイドラインは、しばしば従われておらず、一部の国では、リチウムの処方量は減少している。また、多剤併用も双極性障害の治療において一般的に認められる。英国・グラスゴー大学のLaura M. Lyall氏らは、2009~16年のスコットランドにおける双極性障害治療のための処方パターンについて、データリンケージアプローチを用いて評価した。The British Journal of Psychiatry誌オンライン版2019年2月28日号の報告。

ショック非適応の院外心停止、高度気道管理で生存率改善/BMJ

 All-Japan Utstein Registryの登録患者から約31万人を対象に行われた日本発のコホート試験の結果、院外心停止患者に対する高度気道管理(advanced airway management:AAM)は、初回心電図波形でショック適応と判断した患者では生存との関連が認められなかったが、ショック非適応患者では良好な生存との関連が示されたことを、東京慈恵会医科大学麻酔科学講座の井澤 純一氏らが、BMJ誌2019年2月28日号で報告した。多くの観察研究で、院外心停止患者へのAAMとアウトカムとの関連は不良であることが報告されている。一方、最近行われた無作為化試験で、バッグバルブマスク法が気管挿管に対して非劣性であることを立証できなかった。日本で行われた本試験では、救急医療サービス(EMS)の隊員による院外心停止患者へのAAMが生存を増大するかについて、時間依存的介入や共変量を補正して検討が行われた。

誤解されやすいが重要な研究(解説:野間重孝氏)-1019

多くの忙しい医師たちは論文を熟読するよりabstract部分をチェックして、自分が本当に興味のあるものならば熟読するし、そう思えなかった場合はすぐに次の論文のチェックに移っていくというのが実情なのではないかと思う。そう考えると、バッグマスクによる陽圧換気が誤嚥リスクを増大させるのではないかという問題にあまり関心がない医師がこの論文を読んだ場合、低酸素血症の発生頻度がバッグマスクによる陽圧換気群で低かったという一見当たり前の結論のほうばかりに目が行ってしまい、著者らの研究の真意が伝わらなかった可能性が懸念される。著者らが言いたかったことは結論の後半部分で、バッグマスク陽圧呼吸は誤嚥を増加させなかったというほうなのである。

せん妄のマネジメントと予防のための薬理学的介入~メタ解析

 せん妄に対する薬理学的介入については、さまざまな調査が行われているが、全体的なベネフィットや安全性はよくわかっていない。台湾・林口長庚紀念医院のYi-Cheng Wu氏らは、せん妄の治療および予防に対する薬理学的介入に関するエビデンスの評価を行った。JAMA Psychiatry誌オンライン版2019年2月27日号の報告。  せん妄の治療および予防に対する薬理学的介入を検討した、2018年5月17日までのランダム化臨床試験(RCT)を、各種データベース(PubMed、Embase、ProQuest、ScienceDirect、Cochrane Central、Web of Science、ClinicalKey、ClinicalTrials.gov)より検索した。事前リストに従いデータを抽出した。PRISMA(システマティックレビューおよびメタ解析のための優先的報告項目)ガイドラインを適用し、すべてのメタ解析は、ランダム効果モデルを用いて行った。主要アウトカムは、せん妄患者の治療反応およびせん妄リスクのある患者におけるせん妄発生率とした。

日本は職業階層が高いと冠動脈疾患リスク高い?

 欧米では、職業階層が高い(専門職や管理職)ほど、冠動脈疾患(CHD)や脳卒中を含む心血管疾患リスクが低いと報告されているが、日本では明らかになっていない。今回、東京大学/Harvard T.H. Chan School of Public Healthの財津 將嘉氏らが実施した病院ベースの症例対照研究の結果、日本では職業階層が高いほどCHDリスクが高く、脳卒中リスクは低いことが報告された。

正常眼圧緑内障にも遺伝子変異の関与が示唆

 原因が特定されていない正常眼圧緑内障(NTG)について、ミオシリン(MYOC)遺伝子変異にp.Gln368Terが関与しているとの知見が報告された。MYOC遺伝子変異は、原発開放隅角緑内障における緑内障遺伝子として同定されている。今回、米国・アイオワ大学のWallace L. M. Alward氏らは2つの症例対照研究を行い、p.Gln368Terの関連を調査。その結果、NTG患者への関連頻度は、既報の高眼圧(IOP)患者のそれよりは低かったものの認められることを報告した。p.Gln368Terについては、これまでに最大30mmHg以上のIOPの原発開放隅角緑内障患者で1.6%の関連が報告されている。一方、眼圧21mmHg以下のNTG患者での関連は不明であった。著者は、「IOP患者と同様、21mmHg以下の正常眼圧患者においても、p.Gln368Terが緑内障と関連している可能性が示唆された」とまとめている。JAMA Ophthalmology誌オンライン版2019年2月28日号掲載の報告。

テストステロンが血栓塞栓症、心不全、心筋梗塞に関連/BMJ

 JMJD1C遺伝子変異で予測した遺伝的内因性テストステロンは、とくに男性において、血栓塞栓症、心不全および心筋梗塞にとって有害であることを、中国・香港大学のShan Luo氏らが、UK Biobankのデータを用いたメンデル無作為化試験の結果、明らかにした。テストステロン補充療法は世界的に増大しているが、心血管疾患でどのような役割を果たすのか、エビデンスは示されていない。そうした中、最近行われたメンデル無作為化試験で、遺伝的予測の内因性テストステロンが、虚血性心疾患や虚血性脳卒中と、とくに男性において関連していることが示されていた。検討の結果を踏まえて著者は、「内因性テストステロンは、現在の治療法でコントロール可能であり、血栓塞栓症や心不全のリスク因子は修正可能である」と述べている。BMJ誌2019年3月6日号掲載の報告。

死産後の妊娠間隔と出産転帰に関連性はあるのか/Lancet

 3つの高所得国では、死産から12ヵ月以内の受胎は63%と一般的であり、この間隔での次回妊娠は、不良な出産アウトカムのリスク増大とは関連しないことが、オーストラリア・カーティン大学のAnnette K. Regan氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2019年2月28日号に掲載された。世界保健機関(WHO)は、次回の妊娠における不良な出産アウトカムのリスクを低減するために、次の受胎までは、生児出産後は2年以上、流産または人工妊娠中絶後は6ヵ月以上の間隔をあけるよう推奨しているが、死産後の次回受胎までの至適な期間の推奨はないという。

女性研究者は性差に関する論文を多く書いていた(解説:折笠秀樹氏)-1018

本研究では、計量書誌学(Bibliometrics)という珍しい手法が使われた。図書館情報学ではよく使われる手法のようだ。著者の性別を知るために、Web of Scienceという文献データベースでは、2008年から姓(Family name or Last name)と名(Given name or First name)を分けてデータベース化し始めたようである。けれども、名から性別をどう判別するのだろうか。基本は言語や国ごとに、名と性別を対応させたリストをデータベース化しているようである。しかしながら、イニシャルしか書いていない論文があるらしく、性別が判明しなかったのも25%近くあったようだ。

気候変動と認知症入院リスクとの関連

 人間が引き起こす気候変動がここ数十年で加速しており、健康への悪影響が懸念されている。しかし、高齢者の神経疾患に対する気候変動の影響は、まだよくわかっていない。米国・ハーバード公衆衛生大学院のYaguang Wei氏らは、ニューイングランドにおける認知症の入院と夏季、冬季の平均気温および気温変動との関連について検討を行った。Environment International誌オンライン版2019年2月26日号の報告。

加齢で脆くなる運動器、血管の抗加齢

 2月18日、日本抗加齢医学会(理事長:堀江 重郎)はメディアセミナーを都内で開催した。今回で4回目を迎える本セミナーでは、泌尿器、内分泌、運動器、脳血管の領域から抗加齢の研究者が登壇し、最新の知見を解説した。  「知っておきたい運動器にかかわる抗加齢王道のポイント」をテーマに運動器について、石橋 英明氏(伊奈病院整形外科)が説明を行った。  厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2016)によると、65歳以上の高齢者で介護が必要となる原因は、骨折・転倒によるものが約12%、また全体で関節疾患も含めると約5分の1が運動器疾患に関係するという。

糖尿病患者の身体活動継続に行動介入は有効か/JAMA

 2型糖尿病患者において、行動介入戦略は、標準ケアと比較し身体活動の持続的な増加と座位時間の減少をもたらすことが示された。イタリア・ローマ・ラ・サピエンツァ大学のStefano Balducci氏らが、ローマの糖尿病クリニック3施設で実施した無作為化非盲検試験(評価者盲検優越性試験「Italian Diabetes and Exercise Study 2:IDES_2」)の結果を報告した。身体活動/座位行動の変化が、2型糖尿病患者で長期的に持続されうるかは不明であった。JAMA誌2019年3月5日号掲載の報告。

日光角化症の治療薬4剤を比較/NEJM

 頭部の多発性日光角化症に対する治療において、治療終了後12ヵ月時では外用薬4剤のうち5%フルオロウラシルクリームが最も有効だという。オランダ・マーストリヒト大学医療センターのMaud H.E. Jansen氏らが、多施設共同単盲検無作為化試験の結果を報告した。日光角化症は、白人で最も頻度が高い皮膚前がん病変であるが、現在のガイドラインでは治療法について明確な推奨はなされていない。NEJM誌2019年3月7日号掲載の報告。

女性で研究助成採択率が低いのは、研究レベルが低いわけではなかった(解説:折笠秀樹氏)-1017

研究助成の採択率は、男性研究者のほうが高いといわれていた。それを大規模な調査で裏付けた結果が得られた。それ以上に、どうして女性研究者の採択率が低くなるか、その原因の一端も見えた気がする。カナダ政府へのグラント申請2万3,918件について、その中身を調べた。全体の採択率は、男性で16.4%、女性で14.6%であった。その差は1.8%だが、年齢や研究分野で合わせると、その実質差は0.9%であった。男女差は意外に小さいなという印象を持った。

医師1,000人の意見割れる! 時間外労働規制に賛成か、反対か

 1年半以上にわたり続けられてきた「医師の働き方改革」の議論がいよいよ大詰めを迎えている。この間、学会や関連団体は提言を行い、特例の上限時間に反対を唱える医師有志らによる署名活動も巻き起こっている。実際に、現場で働く医師1人ひとりは現行の枠組み案をどのように受け止めているのか。ケアネットでは、CareNet.comの医師会員を対象にアンケート調査を実施し、1,000人にその時間外労働の実情や意見を聞いた。  厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」は2019年3月13日、20回目となる検討会を開催し、月内にとりまとめ予定の報告書案を提示した。この報告書案には、勤務間インターバル9時間・当直明けは18時間確保、それらが難しい場合には随時代償休息(時間単位での休息)を付与といった健康確保措置のほか、大きく3つの枠組みを設けた時間外労働の上限規制案が盛り込まれている:

「働き方改革」のカギは体内リズム

 3月15日の「世界睡眠デー」を前に、「目覚め方改革プロジェクト」主催のメディアセミナーが2月19日に都内にて開催された。  この春、わが国では「働き方改革」がスタートし、オンとオフのメリハリのついた生活がますます重要視されるようになる。今回のセミナーではそうした背景を受け、日中のパフォーマンス向上を切り口に、体内リズムの重要性が語られた。  はじめに、内村 直尚氏(久留米大学 医学部 神経精神医学講座 教授)が、「パフォーマンスを左右する目覚めと体内リズム」をテーマに、日中のパフォーマンスと体内リズムの関係や、体内リズムの整え方について説明した。

クロザピンとアリピプラゾールの併用療法は統合失調症患者の再入院リスクが最も低い

 統合失調症の再発予防に対する抗精神病薬多剤併用療法の有効性は疑問であり、複数の薬剤を使用することは、一般的に身体的健康状態に悪影響を及ぼすと考えられる。スウェーデン・カロリンスカ研究所のJari Tiihonen氏らは、精神医学的再入院と特定の抗精神病薬の組み合わせに関する研究を実施した。JAMA Psychiatry誌オンライン版2019年2月20日号の報告。  1996年1月~2015年12月に行われたフィンランドの全国コホート研究のデータを用い、統合失調症患者6万2,250例を対象に、29種の抗精神病薬単剤療法および多剤併用療法のタイプについて、精神医学的再入院リスクの評価を行った。データ分析期間は、2018年4月24日~6月15日であった。再入院リスクは、選択バイアスを最小にするため、個別(within-individual)分析を用いて調査した。主要アウトカムは、個別の多剤併用療法 vs.単剤療法の精神医学的再入院のハザード比(HR)とした。

非ICUでのdecolonisationは、耐性菌発生リスクに有効か?/Lancet

 ICU入室以外の入院患者について、全患者を対象としたクロルヘキシジンによる清拭・シャワー浴とハイリスク患者を対象にしたムピロシンでの除菌による介入(decolonisation)は、ルーチンに行う消毒薬を使わない清拭/シャワー浴の介入と比べて、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の発生リスクを有意に減少しなかったことが報告された。米国・カリフォルニア大学アーバイン校のSusan S. Huang氏らが、53病院194の病棟(ICUを除く)を対象に行ったクラスター無作為化比較試験「ABATE(active bathing to eliminate) Infection trial」の結果で、Lancet誌オンライン版2019年3月5日号で発表した。

60μmの超薄型シロリムスDES、エベロリムスDESに非劣性/Lancet

 超薄型ストラット生分解性ポリマー・シロリムス溶出ステント「Supraflex」は、エベロリムス溶出耐久性ポリマーステント「Xience」と比較して、冠動脈狭窄治療のデバイス関連複合アウトカムに関して非劣性であることが示された。英国・ニューカッスル大学のAzfar Zaman氏らが、欧州23ヵ所の医療機関を通じて行った、all-comers集団対象の前向き無作為化単盲検多施設共同試験「TALENT」の結果で、Lancet誌オンライン版2019年2月28日号で発表した。Supraflexのストラットは60μmで、薬剤を48日間という短期間で溶出する。FLEX-Registryで12ヵ月時点の主要有害心イベントの発生が低い(3.7%)ことが示されるなどしていたが、これまで無作為化試験は行われていなかった。結果を踏まえて著者は、「Supraflexは実臨床において、ほかの薬剤溶出ステントに代わりうる安全性と有効性を示したといえる」とまとめている。

インスリンアナログとヒトインスリンのどちらを使用すべきか?(解説:住谷哲氏)-1016

はじめに、わが国におけるインスリン製剤の薬価を見てみよう。すべて2018年におけるプレフィルドタイプのキット製剤(300単位/本、メーカー名は省略)の薬価である。インスリンアナログは、ノボラピッド注1,925円、ヒューマログ注1,470円、アピドラ注2,173円(以上、超速効型)、トレシーバ注2,502円、ランタス注1,936円、インスリングラルギンBS注1,481円、レベミル注2,493円(以上、持効型)。ヒトインスリンは、ノボリンR注1,855円、ヒューマリンR注1,590円(以上、速効型)、ノボリンN注1,902円、ヒューマリンN注1,659円(以上、中間型)。つまり、わが国でインスリン頻回注射療法(MDI)を最も安く実施するための選択肢は、インスリンアナログのインスリングラルギンBS注とヒューマログ注の組み合わせになる。さらにわが国においてはインスリンアナログとヒトインスリンの薬価差はそれほどなく、ヒューマログ注とヒューマリンR注のようにインスリンアナログのほうが低薬価の場合もある。したがって、本論文における医療費削減に関する検討はわが国には適用できない。それに対して米国では、インスリンアナログはヒトインスリンに比較してきわめて高価であり(本論文によると米国では10倍の差のある場合もあるらしい)、インスリンアナログをヒトインスリンに変更することでどれくらい医療費が削減できるかを検討した本論文が意味を持つことになる。