日本語でわかる最新の海外医学論文|page:130

マイクロプラスチック・ナノプラスチックに関する記念碑的研究(解説:野間重孝氏)

環境問題がさまざまな方向から論じられるようになって久しい。しかし、いわゆる公害問題のように、原因・原因物質と結果として出現する疾病との関係が明らかであるような場合を除けば、環境内に伏在する危険因子・物質と疾病との相関が、疫学的に明快に究明された例はなかったといってよい。この研究は、マイクロプラスチック・ナノプラスチック(MNP)と心血管イベントの関係を疫学的な見地から明らかにした世界初の研究であるばかりでなく、環境問題の研究としても、まさしく記念碑的な研究であると位置付けられるものではないかと思う。ディスカッションの中で研究グループは、「われわれの結果は因果関係を証明するものではないことに注意することが重要である」と語っているが、これはMNPが心血管イベントを引き起こすメカニズムが明らかになっていないということを言っているのであって、彼らの疫学的手法は完璧なものであったと言ってよいと思う。今、バトンは疾病研究者たちにタッチされたのであって、これから細胞内組織研究部門から、このメカニズムについての究明的な研究が発表されるのが待たれるところである。

降圧薬治療による認知症リスク低下、超高齢やフレイルでも

 降圧薬治療で認知症リスクが低下するというエビデンスはあるが、これが一般集団の高齢者にも一般化できるかは不明である。今回、イタリア・University of Milano-BicoccaのFederico Rea氏らが、一般集団の高齢者において、新たに降圧薬の服用を開始した患者について検討したところ、降圧薬治療と認知症リスクの低下の関連が示唆された。また、この関連は超高齢(85歳以上)やフレイルの患者でも同様であったという。Journal of the American College of Cardiology誌2024年4月2日号に掲載。

シナジス、RSウイルス発症抑制で製造販売承認(一部変更)取得/AZ

 アストラゼネカは、2024年3月26日付のプレスリリースで、抗RSウイルスヒト化モノクローナル抗体製剤「シナジス」(一般名:パリビズマブ[遺伝子組換え])について、RSウイルス感染症の重症化リスクの高い、肺低形成、気道狭窄、先天性食道閉鎖症、先天代謝異常症、神経筋疾患を有する乳幼児を新たに投与対象とする製造販売承認事項一部変更承認を取得したと発表した。  RSウイルスは、乳幼児の気管支炎や肺炎を含む、下気道感染の原因となる一般的な病原体であり、2歳までにほとんどの乳幼児が感染するといわれており、早産児や生まれつき肺や心臓等に疾患を抱える乳幼児に感染すると重症化しやすいとされている。シナジスは、これらの重症化リスクを有する乳幼児に対し発症抑制の適応としてすでに承認されている。

前立腺がん放射線療法後6ヵ月のPSA最低値が予後と関連/JCO

 放射線療法(RT)±アンドロゲン除去療法(ADT)を受けた限局性前立腺がん患者において、RT終了後6ヵ月間の前立腺特異抗原(PSA)最低値が長期予後と関連することが示唆された。イタリア・Catholic UniversityのLucia Kwak氏らによるJournal of Clinical Oncology誌オンライン版2024年3月12日号掲載の報告より。  著者らは、RT単独、RT+短期(3~6ヵ月)ADT、RT+長期(24~36ヵ月)ADTを受けた限局性前立腺がん患者における、RT終了後6ヵ月間のPSA値が予後に及ぼす影響を評価する目的で、1987~2011年に実施された16の無作為化比較試験から個々の患者データを入手。RT終了後6ヵ月以内に記録されたPSA最低値を同定し、<0.1ng/mLまたは≧0.1ng/mLに分類した。

運転パフォーマンスに対する睡眠薬の残存効果の影響~ネットワークメタ解析

 睡眠薬には残存効果があり、運転中の安全性に悪影響を及ぼす可能性がある。イタリア・フェデリコ2世ナポリ大学のMichele Fornaro氏らは、不眠症患者における睡眠薬の残存効果と運転パフォーマンスへの影響を明らかにするためネットワークメタ解析を実施した。European Neuropsychopharmacology誌2024年4月号の報告。  2023年5月28日までに公表された、不眠症患者と健康対照者を比較した睡眠薬使用および運転に関するランダム化比較試験(RCT)を、PubMed、EMBASE、TRID、Clinicaltrials.gov、WHO-ICTRP、Web Of Scienceより検索した。エンドポイントとして、車両の横位置の標準偏差(SDLP)、朝の最初の運転時における障害率を考慮した。バイアスリスクおよび不均一性(グローバル/ローカル)を測定し、エビデンスの信頼性を評価するためCINeMAを用いた。

「親子で思い出話」が未就学児の言語能力を向上させる?

 未就学児に思い出話をすることは、言語能力の向上に役立つ可能性があるようだ。過去の出来事についての思い出話をする際には質の高い話し言葉で語りかけることになるため、親子でおもちゃを使って遊んだり本を楽しんだりすることと同程度か、それ以上の効果を子どもにもたらす可能性のあることが、新たな研究で示された。米フロリダ・アトランティック大学心理学教授のErika Hoff氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of Applied Developmental Psychology」3/4月号に掲載された。  Hoff氏は、「過去の出来事についての会話は、他の多くの状況での会話と比べて長くて複雑な文で構成されるという点が特徴として挙げられる」と説明。また、「思い出話をすることは、本を読むことと比べて、あらゆる文化で社会経済的地位の高低にかかわらず、多くの人々が自然に行っている行為であると指摘されている」と同大学のニュースリリースの中で付け加えている。

慢性腎臓病に対する心不全の因果関係

 心不全と慢性腎臓病(CKD)との間に因果関係のあることが、メンデルランダム化解析の結果として示された。この関係は、糖尿病と高血圧の影響を調整した後でも、依然として有意だという。湖南中医薬大学(中国)のJunyu Zhang氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に12月11日掲載された。  肥満や糖尿病、高血圧、冠動脈疾患、および遺伝的素因が心不全やCKDのリスク上昇と関連のあることは、多くの疫学研究の結果として示されている。ただし、それらの因果関係については未解明の点が多く残されており、特に心不全が腎機能低下やCKDのリスクを押し上げるか否かは不明。Zhang氏らはこれらの点を明らかにするため、双方向2サンプルメンデルランダム化(2SMR)解析を行った。

乳児HIV感染予防、母親のウイルス量に基づくラミブジン単剤投与が有望/Lancet

 小児の新規HIV感染の半数以上が母乳を介したものだという。ザンビア・University Teaching HospitalのChipepo Kankasa氏らは「PROMISE-EPI試験」において、ポイントオブケア検査での母親のウイルス量に基づいて、乳児へのラミブジンシロップ投与を開始する予防的介入が、小児のHIV感染の根絶に寄与する可能性があることを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年3月11日号で報告された。  研究グループは、母親への抗レトロウイルス療法(ART)に加えて、母親のウイルス量のポイントオブケア検査に基づく乳児へのラミブジンによる出生後予防治療の期間を延長することで、出生後の感染の抑制が可能との仮説を立て、これを検証する目的で、ザンビアとブルキナファソの8施設で非盲検無作為化対照比較第III相試験を行った(英国保健省[DHSC]によるEDCTP2プログラムの助成を受けた)。

血管内血栓除去療法は大梗塞の長期予後も改善するか?(解説:内山真一郎氏)

前回は、不可逆的な虚血コアおよび救命しうる虚血部位(ペナンブラ)と、臨床転帰および血管内血栓除去療法(EVT)の治療効果との関係を検討したPROBEデザインによる国際多施設共同介入試験SELECT2の事後解析の成績を紹介したが、今回はSELECT2試験の長期転帰を解析した結果である。これまでは、どの試験も発症後24時間までの大血管閉塞による大梗塞例にEVTが短期(多くは3ヵ月まで)の転帰改善効果があるというエビデンスであったが、長期にわたる転帰改善効果は検討されていなかった。

EGFR陽性NSCLCの1次治療、オシメルチニブ+化学療法の第2回OS中間解析(FLAURA2)/ELCC2024

 EGFR遺伝子変異陽性の進行・転移非小細胞肺がん(NSCLC)に対する1次治療として、第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬のオシメルチニブと化学療法の併用療法とオシメルチニブ単剤を比較する国際共同第III相無作為化比較試験(FLAURA2試験)が実施されており、主解析の結果、併用療法群で無増悪生存期間(PFS)が改善したことが報告されている(治験担当医師評価に基づくPFS中央値は併用群25.5ヵ月、単独群16.7ヵ月、ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.49~0.79)。欧州肺がん学会(ELCC2024)において、本試験の全生存期間(OS)に関する第2回中間解析の結果と、主解析時点をデータカットオフとした病勢進行後の治療成績が、ペルー・Instituto Nacional de Enfermedades NeoplasicasのNatalia Valdiviezo氏により報告された。

早期乳がん術前・術後化療にペルツズマブ上乗せ、長期有効性は?(PEONY試験)

 HER2陽性の早期または局所進行を有するアジア人乳がん患者に対して、術前および術後化学療法にペルツズマブを上乗せした第III相PEONY試験の最終解析の結果、5年間の長期有効性が認められたことを、中国・Fudan University Shanghai Cancer CenterのLiang Huang氏らが明らかにした。Nature Communications誌2024年3月9日号掲載の報告。

統合失調症診断の指標となりえる唾液中ガレクチン3レベル

 精神疾患を特定する生物学的マーカーはほとんどなく、精神疾患患者に対する侵襲的なサンプリング手法は困難なケースも少なくないため、非侵襲的な手法である唾液サンプルの活用は、有用であると考えられる。パキスタン・Islamic International Medical CollegeのSaba Shoukat氏らは、統合失調症患者と健康対照者における血清および唾液中のガレクチン3レベルの比較を行った。Journal of the College of Physicians and Surgeons Pakistan誌2024年2月号の報告。  2022年9月~2023年5月に、Islamic International Medical CollegeとBenazir Bhutto Hospitalの精神医学研究所と共同で横断的研究を実施した。対象は、統合失調症患者30例および年齢性別がマッチした健康対照者30例。統合失調症の診断は、DSM-Vの診断基準に従った。対象者から無刺激で口腔内全体から唾液を摂取するため、唾液を吐きだす方法により収集した。EDTAチューブを用いて血液サンプルを収集し、統合失調症患者の唾液および血清中のガレクチン3レベルを測定した。ガレクチン3の検出にはELISA法を用いた。独立サンプルのt検定およびピアソン相関分析を行った。

がん合併の低リスク肺塞栓症患者に対する在宅療養は適切か(ONCO PE)/日本循環器学会

 肺塞栓症含む血栓塞栓症はがん患者の主要な合併症の1つだ。通常の肺塞栓症の場合、低リスクであればDOACによる在宅療養を安全に行えるものの、がん患者の肺塞栓症に対してもそれが可能であるか議論されていた。倉敷中央病院心臓病センター循環器内科の茶谷 龍己氏らは、肺塞栓症重症度スコア(sPESI)が1点のがん合併の低リスク肺塞栓症患者に対して、リバーロキサバンによる在宅療養と入院療養の比較試験を、ONCO PE試験のコンパニオンレポートとして実施した。3月8~10日に開催された第88回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Trials 2セッションにて茶谷氏が発表した。なお本結果は、Circulation Journal誌オンライン版2024年3月8日号に同時掲載された。

アレルギー性鼻炎か副鼻腔炎か?誤診の実態が明らかに

 実際には慢性副鼻腔炎(chronic rhinosinusitis;CRS)に罹患しているにもかかわらず、アレルギー性鼻炎と誤診され、CRSにはほとんど効果のない抗アレルギー薬を使用し続けている米国人が相当数いることが、新たな研究で示された。米シンシナティ大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科のAhmad Sedaghat氏らによるこの研究の詳細は、「Otolaryngology Head & Neck Surgery」に1月31日掲載された。  研究論文の上席著者であるSedaghat氏は、「われわれは、アレルギーとCRSが混同されたことで長い間苦しまざるを得なかった患者を数多く見てきた」と振り返る。同氏は続けて、「これまで、10年や20年、人によってはそれ以上にわたってアレルギーの治療を受けてきたにもかかわらず症状が改善しなかったと訴える患者を私は見てきた。しかし、それがCRSであることが判明し、われわれが適切な治療を開始したところ、症状は数カ月以内に改善した」と話す。

「血糖値も測れる」とうたうスマートウォッチなどの使用に米FDAが注意喚起

 米国の糖尿病患者の中には現在、「血糖変動も把握できる」とうたって販売されているスマートウォッチやスマートリングを使用している人がいる。この状況に対して2月21日、米食品医薬品局(FDA)は、皮膚への針の穿刺や留置を伴わずに血糖を測定可能とする表現は虚偽であって、その使用は潜在的に危険であるとする安全性情報(safety communications)を発出して注意を喚起した。なお、日本国内で承認され保険診療下で糖尿病治療に使われている連続血糖測定(CGM)や間歇スキャン式持続血糖測定(isCGM)用の機器は、今回のFDA安全性情報が対象としている製品とは異なる。

ナイアシンの取り過ぎは心臓に悪影響

 ナイアシンは必須ビタミンB群の一つだが、取り過ぎは心臓に良くないようだ。何百万人もの米国人が口にする多くの食品に含まれるナイアシンの過剰摂取が炎症を引き起こし、血管にダメージを与える可能性のあることが、米クリーブランド・クリニック、ラーナー研究所の心血管・代謝科学主任研究員であるStanley Hazen氏らの研究で示唆された。この研究結果は、「Nature Medicine」2月19日号に掲載された。  Hazen氏は、「ナイアシンの過剰摂取により心血管疾患の発症リスクが高まる可能性が示された以上、平均的な人はナイアシンのサプリメントの摂取を控えるべきだ」とNBCニュースに対して語った。  米メイヨークリニックによれば、ナイアシンの推奨摂取量は男性で1日16mg、妊娠していない女性では1日14mgである。米国では、穀物やシリアルにナイアシンが強化され始めた1940年代以来、その摂取量が増加している。Hazen氏によると、食品にナイアシンを強化する動きは、ナイアシンが不足するとペラグラと呼ばれる致命的な疾患を引き起こす可能性があることを示唆した研究を受けて助長されたと説明する。皮肉なことに、ナイアシンのサプリメントは、かつてはコレステロール値を改善するために医師によって処方されていた。

がん罹患数が著増、がん死は減少~英国の25年/BMJ

 英国の年齢35~69歳の集団では、1993~2018年の25年間にがん罹患数が大きく増加したのに対し、がんによる死亡率は減少しており、この減少にはがんの予防(喫煙防止策、禁煙プログラムなど)と早期発見(検診プログラムなど)の成功とともに、診断検査の改善やより有効性の高い治療法の開発が寄与している可能性があることが、英国・Cancer Research UKのJon Shelton氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2024年3月13日号に掲載された。

成人心臓移植待機患者の移植到達前死亡を予測するリスクスコアの開発と検証(解説:小野稔氏)

2018年10月に、米国において6段階に分けた新しい心臓移植待機患者への臓器配分モデルが適用された。これは登録時に受けている治療の濃厚さに応じて階層化されたもので、待機中死亡を減少させ、かつ移植後の予後を最適化するという目的を有している。この臓器配分モデルが適用されて5年が経過したが、すでに適切性に疑問が呈され始めていて、より公正な新しい配分モデルの策定が議論されている。本論文は新たな配分モデルに適用されうる可能性を念頭に置いて、フランスで運用されているFrench Candidate Risk Score (French-CRS)にヒントを得て、心不全重症度を反映した血液検査データと機械的循環補助(MCS)状態を因子として用いて開発されたUS-CRSの優れた移植登録患者の待機死亡予測精度を報告している。

日本における認知症教育による潜在的態度の変化

 東京大学の松本 博成氏らは、成人および高齢者における認知症に対する偏見などの潜在的な態度の測定に関して、その実現可能性と妥当性を評価し、仮想現実(VR)を用いた認知症フレンドリー教育が潜在的な態度に及ぼす影響を評価した。Australasian Journal on Ageing誌オンライン版2024年2月15日号の報告。  ランダム化比較試験のデータを2次分析した。東京在住の20~90歳が、VRの有無にかかわらず、認知症フレンドリー教育に参加した。認知症フレンドリー教育プログラム終了後、Implicit Relational Assessment Procedure(IRAP)を用いて、認知症に対するimplicitを測定した。

日本人の口腔/咽頭がんの10年全死亡率、飲酒量による違いは?

 飲酒と口腔/咽頭がんの予後との関連については先行研究が少なく、そのほとんどが欧州の研究で5年までの全生存を調査しているもので、結果が一致していない。今回、日本における口腔/咽頭がん患者における飲酒と10年全死亡率の関連を大阪国際がんセンターがん対策センターの小山 史穂子氏らが評価した。その結果、多量飲酒者(エタノール46g/日以上摂取)では非飲酒者と比較して死亡リスクが1.36倍と高く、とくに女性では2.52倍になることが示唆された。Cancer Epidemiology誌2024年4月号に掲載。