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新型インフルエンザ、新型コロナ両パンデミックは世界人口動態にいかなる影響を及ぼしたか?(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 米国・保健指標評価研究所(IHME)のSchumacher氏を中心とするGlobal Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study (GBD) 2021(GBD-21と略記)の研究グループは、1950年から2021年までの72年間に及ぶ世界各国/地域における年齢/性差を考慮した人口動態指標に関する膨大な解析結果を発表した。GBD-21では、72年間における移住、HIV流行、紛争、飢餓、自然災害、感染症などの人口動態に対する影響を解析している。世界の総人口は1950年に25億であったものが2000年には61億、2021年には79億と著明に増加していた。世界の人口増加は2008年から2009年に最大に達し、それ以降はプラトー、2017年以降は減少傾向に転じている。本論評では、GBD-21に示された解析結果を基に、人類の人口動態に多大な影響を及ぼしたと予想される2009~10年の新型インフルエンザ(2009-H1N1)と2019年末から始まった新型コロナ(severe acute respiratory syndrome coronavirus-2:SARS-CoV-2)両パンデミックの影響に焦点を絞り考察する。新型インフルエンザ・パンデミックの世界人口動態に及ぼした影響 20世紀から21世紀にかけて発生したA型インフルエンザ・パンデミックには、1918年のスペイン風邪(H1N1、致死率:2%以上)、1957年のアジア風邪(H2N2、致死率:0.8%)、1968年の香港風邪(H3N2、致死率:0.5%)、2009年の新型インフルエンザ(2009-H1N1、致死率:1.4%)が存在する。2009-H1N1は、2009年4月にメキシコと米国の国境地帯で発生したが1年半後の2010年8月には終焉した。2009-H1N1は、北米鳥H1、北米豚H1N1、ユーラシア豚H1N1、ヒトH3N2由来のRNA分節が遺伝子交雑(再融合)を起こした特異的な4種混合ウイルスである。2009-H1N1は8個のRNA分節を有するが、そのうち5個は豚由来、2個は鳥由来、1個がヒト由来であった。 GBD-21で提示された世界の人口動態データは1950年以降のものであるので、スペイン風邪を除いたアジア風邪、香港風邪、2009-H1N1によるパンデミックの世界人口動態に対する影響を解析することができる。GBD-21の解析結果を見る限り、世界の総人口、平均寿命、小児死亡率、成人死亡率などにおいて各インフルエンザ・パンデミックに一致した特異的変動を認めなかった。 2009-H1N1によるパンデミック時のPCRを中心とする検査確定致死率は1.4%であり、1950年以降に発生したインフルエンザ・パンデミックの中では最も高い。にもかかわらず、2009-H1N1が世界の人口動態に有意な影響を及ぼさなかったのは、それまでの季節性インフルエンザに対して開発された抗ウイルス薬オセルタミビル(商品名:タミフル、内服)とザナミビル(同:リレンザ、吸入)が2009-H1N1に対しても有効であったことが1つの要因と考えられる。宿主細胞内で増殖したインフルエンザが生体全体に播種するためにはウイルス表面に発現するNeuraminidase(NA)が必要であり、抗ウイルス薬はNAの作用を阻害しウイルス播種を阻止するものであった。2009-H1N1のNAはユーラシア豚由来であったが、ヒト型季節性インフルエンザに対して開発された抗ウイルス薬は2009-H1N1の播種を抑制するものであった。有効な抗ウイルス薬が存在したことが2009-H1N1の爆発的播種を阻止し、パンデミックの持続を1年半という短期間に限定できたことが2009-H1N1によるパンデミックによって世界の人口動態が著明な影響を受けなかった要因の1つであろう。本邦では2009-H1N1パンデミック時に抗ウイルス薬が臨床現場で積極的に使用され、その結果として、本邦の2009-H1N1関連致死率が先進国の中で最低に維持されたことは特記すべき事実である。 2009-H1N1パンデミックは1年半という短い期間で終焉したので、パンデミック期間中に予防ワクチンの問題が積極的に議論されることはなかった。しかしながら、2010年以降、2009-H1N1は従来のA型季節性インフルエンザであったソ連株H1N1を凌駕し季節性A型インフルエンザの主要株となった。それに伴い、2015年以降、A型の2009-H1N1株とH3N2株、B型の山形系統株とビクトリア系統株を標的とした4価ワクチンが予防ワクチンとして導入された。 上記以外に20世紀後半から21世紀にかけて高病原性鳥インフルエンザH5N1(1997年発生、致死率:60%)、高病原性鳥インフルエンザH7N9(2013年発生、致死率:30%)などが注目された時期もあったが、これらのウイルスのヒトへの感染性は低く人間界でパンデミックを惹起するものではなかった。新型コロナ・パンデミックの世界人口動態に及ぼした影響 SARS-CoV-2は、2019年末に中国・武漢から発生した野生コウモリを自然宿主とする新たなコロナウイルスである。WHOは2020年1月に世界レベルで懸念される公衆衛生上の“緊急事態宣言”を新型コロナに対して発出した。WHOの緊急事態宣言は2023年5月に解除された。すなわち、新型コロナの緊急事態宣言は新型インフルエンザのパンデミックに比べて長く、3年半持続したことになる。WHOは新型コロナ感染症に対して“パンデミック”という表現を正式には用いていないが、本論評では新型インフルエンザとの比較のため“緊急事態宣言”を“パンデミック”と置き換えて記載する。 ヒトに感染し局所的に健康被害をもたらしたコロナウイルスには、SARS-CoV-2以外に2002年のキクガシラコウモリを自然宿主とするSARS-CoV(致死率:9.6%)と2012年発生のヒトコブラクダを自然宿主とするMERS-CoV(Middle East respiratory syndrome coronavirus、致死率:34%)が存在する。しかしながら、これらのコロナウイルスのヒトへの感染性は低く、人間界でパンデミックを起こすものではなかった。 GBD-21の解析データによると、2020年と2021年の2年間における世界の推定総死亡者数は1億3,100万人、うち新型コロナに起因するものが1,590万人であった。WHOから報告されたPCRを中心とした検査確定新型コロナによる世界総死亡者数は、2024年3月の段階で704万人であり、2021年末ではこの値より有意に少ない死亡者数と考えられ、GBD-21で提出された推定値と大きく乖離していることに注意する必要がある。GBD-21の死亡者数データにはウイルス感染の確定診断がなされていない症例が含まれ、死亡者数の過大評価、逆にWHOの報告は厳密であるが故に死亡者数が過小評価されている可能性がある。両者の中間値が新型コロナによる死亡者数の真値に近いのかもしれない。 以上のようにGBD-21の報告には問題点が存在するが、本報告が提出した最も重要な知見は、2020年から2021年の2年間における5歳から25歳未満の群(小児、青少年、若年成人)の死亡率が他年度の値と同等であったのに対し、25歳以上の成人死亡率が明確に増加していたことを示した点である。以上の解析結果は、新型インフルエンザ・パンデミックとは異なり、新型コロナ・パンデミックは世界の人口動態、とくに、成人の人口動態に重要なインパクトを与えたことを意味する。 新型コロナの遺伝子変異は活発で、2020年度内は武漢原株と武漢原株のS蛋白614位のアミノ酸がアスパラギン酸(D)からグリシン(G)に変異したD614G株が中心であった。2021年にはアルファ株(英国株)、ベータ株(南アフリカ株)、ガンマ株(ブラジル株)、デルタ株(インド株)と変異/進化を繰り返し、2022年以降はオミクロン株が中心ウイルスとなった。以上の変異株はウイルスが生体細胞に侵入する際に重要なウイルスS蛋白の量的/質的に異なる遺伝子変異によって特徴付けられる。2024年現在、オミクロン株から多数の派生株が発生している(BA.1、BA.2、BA.4/5、BQ.1、BA.275、XBB.1.5など)。すなわち、GBD-21に示されたデータは武漢原株からデルタ株までの影響を示すものであり2022年以降のオミクロン株による影響は含まれていない。先進国の疫学データは、デルタ株最盛期まではウイルスの変異が進むほど新型コロナの病原性が上昇していたことを示唆している。すなわち、GBD-21に示された2020年を含む2年間における世界全体での成人死亡率の有意な上昇は、武漢原株からデルタ株に至るウイルスによってもたらされた結果である。 本邦独自のデータを基に考察すると(厚生労働省:新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード、2022年3月2日)、デルタ株時代の致死率が4.25%であったの対し、オミクロン株初期の致死率は0.13%と有意に低値であった。しかしながら、オミクロン株初期における年齢別死亡率は、30歳未満の群で低いのに対し30歳以上の群では有意に高く、GBD-21で示されたデルタ株最盛期までの傾向と一致した。オミクロン株最盛期における世界の年齢別死亡率がどのような動態を呈するかは興味深いものであり、2022年以降の世界人口動態に関する解析が待たれる。 新型コロナの変異に伴う感染性と病原性の増強は、ウイルス自体の性状変化に起因するものであることは間違いない。しかしながら、それらを修飾した因子として、抗ウイルス薬、予防ワクチンの開発遅延の問題を考慮する必要がある。人類の歴史にあって、コロナが世界的規模の健康被害をもたらしたのは2019年以降のパンデミックが初めてであった。そのため、パンデミック発症時点では新型コロナに特化した抗ウイルス薬、予防ワクチンの開発はほぼ“ゼロ”の状態であった。しかしながら、その後、多数の抗ウイルス薬、予防ワクチンが非常に短期間の間に開発が進められた。抗ウイルス薬の1剤目として、2020年5月、米国FDAはエボラ出血熱に対して開発されたRNA polymerase阻害薬レムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注)の新型コロナに対する緊急使用を承認した。2剤目として、2021年11月、英国医薬品・医療製品規制庁(MHRA)はRNA依存RNA polymerase阻害薬モルヌピラビル(同:ラゲブリオカプセル、内服)を承認した。3剤目として、2021年12月、米国FDAは3CL protease(Main protease)阻害薬であるニルマトレルビル・リトナビル(同:パキロビッドパック、内服)の緊急使用を承認した。上記3剤は、少なくとも初期のオミクロン株(BA.1、BA.2)に対しても有効であった。上記3剤に加え、本邦ではニルマトレルビル・リトナビルと同様に3CL protease阻害薬であるエンシトレルビル(同:ゾコーバ、内服)が、2022年11月、緊急使用が承認された。いずれにしろ、GBD-21のデータ集積時に使用できた主たる抗ウイルス薬はレムデシビルのみであった。 新型コロナに対する予防ワクチンも2020年初頭から大車輪で開発が進められ、遺伝子ワクチン、蛋白ワクチン、不活化ワクチンなど170種類以上のワクチンがふるいに掛けられた。それらの中で現在のオミクロン株時代にも生き残ったワクチンは2種類のmRNAワクチンであった(ファイザー社のBNT162b2系統[商品名:コミナティ系統]とモデルナ社のmRNA-1273系統[同:スパイクバックス系統])。話を簡単にするため本邦における成人に対するmRNAワクチンについてのみ考えていくと、武漢原株対応1価ワクチンに対する厚労省の認可は2021年春、オミクロン株BA.4/5対応2価ワクチン(武漢原株+BA.4/5)に対する認可は2022年秋、オミクロン株XBB.1.5対応1価ワクチンの認可は2023年夏であった。GBD-21に示されたデータは武漢原株対応1価ワクチンが使用された時期のものであり、デルタ株に対する予防効果は十分なものではなかった。すなわち、GBD-21のデータ集積がなされた2021年まででは、その時期の優勢株(アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株)の強い病原性に加え、抗ウイルス薬、予防ワクチンが共に不十分であったこともデータの修飾因子として作用していた可能性を否定できない。

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肺炎診療GL改訂~NHCAPとHAPを再び分け、ウイルス性肺炎を追加/日本呼吸器学会

 2024年4月に『成人肺炎診療ガイドライン2024』1)が発刊された。2017年版では、肺炎のカテゴリー分類を「市中肺炎(CAP)」と「院内肺炎(HAP)/医療介護関連肺炎(NHCAP)」の2つに分類したが、今回の改訂では、再び「CAP」「NHCAP」「HAP」の3つに分類された。その背景としては、NHCAPとHAPは耐性菌のリスク因子が異なるため、NHCAPとHAPを1群にすると同じエンピリック治療が推奨され、NHCAPに不要な広域抗菌治療が行われやすくなることが挙げられた。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を経て、ウイルス性肺炎の項目が設定された。第64回日本呼吸器学会学術講演会において、本ガイドライン関するセッションが開催され、進藤 有一郎氏(名古屋大学医学部附属病院 呼吸器内科)がNHCAPとHAPの診断・治療のポイントや薬剤耐性(AMR)対策の取り組みについて解説した。また、ウイルス性肺炎に関して宮下 修行氏(関西医科大学 内科学第一講座 呼吸器感染症・アレルギー科)が解説した。NHCAPとHAPは耐性菌のリスク因子が異なる NHCAPとHAPは「敗血症性ショックの有無の判断」「重症度の判断(NHCAPはA-DROPスコア、HAPはI-ROADスコアで評価)」「耐性菌リスクの判断」を行い、治療薬を決定していくという点は共通している。しかし、耐性菌のリスク因子は異なる。進藤氏は、「この違いをしっかりと認識してほしい」と語った。なお、それぞれの耐性菌リスク因子は以下のとおり。NHCAP:経腸栄養、免疫抑制状態、過去90日以内の抗菌薬使用歴、過去90日以内の入院歴、過去1年以内の耐性菌検出歴、低アルブミン血症、挿管による人工呼吸管理を要する(≒診断時に重度の呼吸不全がある)HAP:活動性の低下や歩行不能、慢性腎臓病(透析を含む)、過去90日以内の抗菌薬使用歴、ICUでの発症、敗血症/敗血症性ショック HAPでは、「重症度が低く、耐性菌リスクが低い(リスク因子が1つ以下)場合」は狭域抗菌治療、「重症度が高い、または耐性菌リスクが高い(リスク因子が2つ以上)場合」には広域抗菌治療を行う。NHCAPでは、外来の場合はCAPに準じた外来治療を行う。また、入院の場合も非重症で耐性菌リスク因子が2つ以下であれば、CAPと類似した狭域抗菌治療を行い、重症で耐性菌リスク因子が1つ以上あるか非重症で耐性菌リスク因子が3つ以上であれば広域抗菌治療を行うという流れとなった(詳細は本ガイドラインp.54図3、p.64図3を参照されたい)。不要な広域抗菌薬の使用は依然として多い 進藤氏は、名古屋大学などの14施設で実施した肺炎患者を対象とした前向き観察研究(J-CAPTAIN study)の結果を紹介した。本研究では、CAP患者をNon-COVID-19肺炎とCOVID-19肺炎に分けて検討した。その結果、Non-COVID-19肺炎患者(1,802例)の10%にCAP抗菌薬耐性菌(β-ラクタム系薬、マクロライド系薬、フルオロキノロン系薬のすべてに低感受性と定義)が検出された。CAP抗菌薬耐性菌のリスク因子としては、過去1年以内の耐性菌検出歴、気管支拡張を来す慢性肺疾患、経腸栄養、ADL不良、呼吸不全(PaO2/FiO2≦200)が挙げられた。これらの項目は本ガイドラインのシステマティックレビューの結果と類似していたと進藤氏は語った。 また、本研究においてNon-COVID-19肺炎患者では、CAP抗菌薬耐性菌の検出がなかった患者の29.2%に広域抗菌薬が使用されていたことを紹介した。AMR対策としては、このような患者における広域抗菌薬の使用を減らしていくことが重要となると進藤氏は指摘する。CAP抗菌薬耐性菌のリスク因子が0個であった患者は、Non-COVID-19肺炎の61.2%を占め、そのうち21.8%で広域抗菌薬が使用されていた結果から、進藤氏は「AMR対策上、耐性菌リスクのない症例では広域抗菌薬の使用を控えることが重要である」と強調した。ウイルス性肺炎は想定以上に多い? 2018~20年に九州の14施設で実施された観察研究では、CAP患者の23.3%にウイルスが検出されており2)、肺炎へのウイルスの関与が注目されている。そこで、宮下氏は本ガイドラインに新たに追加されたウイルス性肺炎について、その位置付けを紹介した。 CAPは、(1)CAPとNHCAPの鑑別→(2)敗血症の有無・重症度の判断(治療場所の決定)→(3)微生物学的検査→(4)マイコプラズマ肺炎・レジオネラ肺炎の推定→(5)抗菌薬の選択といった流れで診療が行われる。この流れに合わせて、ウイルス性肺炎の特徴を考察した。 COVID-19肺炎患者の1年後の身体機能をみると、CAPと比較してNHCAPで予後が不良である3)。したがって、宮下氏は「CAPとNHCAPでは予後がまったく異なるため、治療方針を大きく変えるべきであると考える」と述べた。 本ガイドラインでは、重症度の評価をもとに治療場所を決定するが、CAPで用いられるA-DROPスコアによる評価がCOVID-19肺炎においても有用であった。ただし、COVID-19(デルタ株以前)ではA-DROPスコア1点(中等症、外来治療が可能)であっても、R(呼吸状態)の項目が1点の場合は疾患進行のリスクが高いという研究結果4,5)を紹介し、注意を促した。 前版で細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別に用いられていた鑑別表は、細菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎の鑑別表(本ガイドラインp.32表4)に改められた。実際に、この鑑別表を非定型肺炎であるCOVID-19肺炎に当てはめると診断の感度は不十分であり、マイコプラズマ肺炎と細菌性肺炎の鑑別に用いるのが適切と考えられた。また、今回のガイドラインではレジオネラ診断予測スコアが掲載された(本ガイドラインp.33表5)。この診断スコアを用いた場合、COVID-19はいずれの株でもレジオネラ肺炎との鑑別が可能であった。 最後に、宮下氏はオミクロン株の流行後にCOVID-19肺炎において誤嚥性肺炎が増加し、誤嚥性肺炎を発症した患者の退院後の顕著な身体機能低下が認められていることに触れ、「早期診断・早期治療が重要であり、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンに加えて新型コロナワクチンによる予防も重要であると考えている」とまとめた。

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英語で「ワクチン接種はしていますか」は?【1分★医療英語】第127回

第127回 英語で「ワクチン接種はしていますか」は?《例文》医師Are you vaccinated? It looks like your new office requires it for all employees.(ワクチン接種はしていますか? あなたの新しい職場ではすべての従業員に対して求められているようですが)患者Yes, I have completed the vaccination series. I'll bring my vaccination card tomorrow.(はい、すべてのワクチン接種を[追加接種を含め]済ませてあります。明日、接種証明書を持ってきます)《解説》今回は“Are you vaccinated?”という表現の解説です。ここ数年間はコロナワクチンの登場によって「ワクチン」という言葉を聞かない日はなかったくらいでした。“vaccinate”は動詞で「ワクチンを(医療者が)打つ」という意味になります。そして、“Be vaccinated?”と受動態を使うことによって、「あなたはワクチン接種をしていますか?」という意味になります。意味は「ワクチンを打ちましたか?」ですが、あまり過去形は使われず、“Are you vaccinated?”という現在形の受け身の文で表現することが一般的です。医療現場でもこの表現はとてもよく使われています。会話例・例文に出てきた、“fully vaccinated”は「(推奨される)ワクチンをすべて接種している」という意味になり、“completed the vaccination series”は「数回接種が必要なワクチンをすべて完了している」という意味になります。“vaccination card”は「接種証明書」です。ぜひこれらも併せて覚えておきましょう。講師紹介

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非高リスクコロナ患者、ニルマトレルビル・リトナビルvs.プラセボ/NEJM

 重症化リスクが高くない症候性の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)成人外来患者において、COVID-19のすべての徴候または症状の持続的な緩和までの期間は、ニルマトレルビル/リトナビルとプラセボで有意差は認められなかった。米国・ファイザーのJennifer Hammond氏らが、無作為化二重盲検プラセボ対照第II/III相試験「Evaluation of Protease Inhibition for COVID-19 in Standard-Risk Patients trial:EPIC-SR試験」の結果を報告した。ニルマトレルビル/リトナビルは、重症化リスクがある軽症~中等症COVID-19成人患者に対する抗ウイルス治療薬であるが、重症化リスクが標準(重症化リスク因子のないワクチン未接種者)または重症化リスク因子を1つ以上有するワクチン接種済みの外来患者における有効性は確立されていなかった。NEJM誌2024年4月4日号掲載の報告。ワクチン接種済み重症化リスクあり、未接種で重症化リスクなしの外来患者に発症後5日以内に治療開始 研究グループは、RT-PCR検査でSARS-CoV-2感染が確認され、COVID-19の症状発現後5日以内の成人患者を、ニルマトレルビル/リトナビル群、またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、12時間ごとに5日間投与した。 適格患者は、COVID-19の重症化リスク因子を少なくとも1つ有するCOVID-19ワクチン接種完了者、または、COVID-19重症化に関連する基礎疾患がなくワクチン接種を1回も受けていないか、過去12ヵ月以内に接種していない患者とし、参加者には電子日記を用いて1日目から28日目まで毎日、試験薬の服用時刻と事前に規定したCOVID-19の徴候または症状の有無および重症度を記録してもらった。 主要エンドポイントは、評価対象とするすべてのCOVID-19の徴候または症状の持続的な緩和が得られるまでの期間(28日目まで)、重要な副次エンドポイントは28日目までのCOVID-19関連入院または全死因死亡であった。主要エンドポイントを達成せず 2021年8月25日~2022年7月25日に、計1,296例がニルマトレルビル/リトナビル群(658例)またはプラセボ群(638例)に無作為化された(最大の解析対象集団:FAS)。このうち少なくとも1回、試験薬の投与を受けベースライン後に受診した1,288例(それぞれ654例、634例)が、有効性の解析対象集団となった。 有効性解析対象集団において、すべてのCOVID-19の徴候または症状の持続的な緩和が得られるまでの期間の中央値は、ニルマトレルビル/リトナビル群で12日、プラセボ群で13日であり、統計学的な有意差は認められなかった(log-rank検定のp=0.60)。 COVID-19関連入院または全死因死亡の発現割合は、ニルマトレルビル/リトナビル群で0.8%(5/654例)、プラセボ群で1.6%(10/634例)であった(群間差:-0.8%、95%信頼区間:-2.0~0.4)。 有害事象の発現率は、ニルマトレルビル/リトナビル群25.8%(169/654例)、プラセボ群24.1%(153/634例)で、両群間で同程度であった。また、治療関連有害事象の発現率はそれぞれ12.7%(83/654例)、4.9%(31/634例)で、この差は主にニルマトレルビル/リトナビル群においてプラセボ群より味覚障害(5.8% vs.0.2%)および下痢(2.1% vs.1.3%)の発現率が高かったためであった。

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RSウイルス感染症予防薬が乳児の入院を90%削減

 RSウイルス感染症から赤ちゃんを守るための予防薬であるベイフォータス(一般名ニルセビマブ)の入院予防効果は90%であることが、リアルワールドデータの分析から明らかになった。これは、在胎35週以上で生まれた乳児を対象にニルセビマブの有効性を検討し、RSウイルス感染による医療処置の必要性を79%、入院の必要性を81%防ぐことを示した第3相臨床試験の結果を上回る。米疾病対策センター(CDC)の研究チームが実施したこの研究結果は、「Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)」に3月7日掲載された。 CDCは、生まれて初めてRSウイルスシーズンを迎える生後8カ月未満の乳児に対するニルセビマブの単回投与を推奨している。RSウイルスは乳幼児の入院の主な原因であり、米国では毎年、5〜8万人の5歳未満の乳幼児がRSウイルス感染症により入院している。 ニルセビマブはRSウイルス感染に対する免疫系の働きを特異的に増強する長時間作用型のモノクローナル抗体である。ニルセビマブが、生後24カ月未満の乳幼児でのRSウイルス関連下気道感染症の予防薬としてFDAにより承認されたのは2023年7月のことであり、そのため、今シーズンはその効果が証明される最初のシーズンとなる。なお、RSウイルスに対してはワクチンも承認されているが、投与対象は高齢者と妊婦である。 今回の研究でCDCの研究チームは、CDCの新ワクチンサーベイランスネットワーク(New Vaccine Surveillance Network;NVSN)から抽出した、2023年10月1日時点で生後8カ月未満であるか、同年10月1日以降に生まれた乳児のうち、2023年10月1日から2024年2月29日の間に急性呼吸器感染症により入院した699人を対象に、ニルセビマブの有効性を調査した。対象乳児のうち、407人(58%)はRSウイルス検査で陽性と判定され(症例群)、残る292人(42%)は陰性だった(対照群)。 症例群では6人(1%)、対照群では53人(18%)がニルセビマブの投与を受けていた。医学的に見てリスクの高い乳児は、健康な乳児に比べてニルセビマブを投与済みの者が多かった(46%対6%)。多変量ロジスティック回帰モデルによる解析から、RSウイルス感染症関連での入院に対するニルセビマブの予防効果は90%(95%信頼区間75〜96%)であることが示された。 研究チームは、「ニルセビマブなどのRSウイルス感染症の予防薬は、今でもRSウイルスから乳幼児を守るための最も重要な手段であることに変わりはない」とCDCのニュースリリースで述べている。 ただしCDCは、今回の研究でのサーベイランス期間が通常より短かったとし、10月から3月までの全RSウイルスシーズンを通して見ると、ニルセビマブの有効性は今回の結果より低くなる可能性があることに言及している。なぜなら、モノクローナル抗体の予防効果は通常、時間の経過とともに弱まるからである。 CDCは、ニルセビマブが妊娠中にRSウイルスワクチンを接種しなかった母親から生まれた乳児のために使われる薬であることを述べ、母親がRSウイルスワクチンを接種することで防御抗体が子どもに移行することを強調している。

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次世代コロナワクチン、第III相試験で良好な中間結果を達成/モデルナ

 米国・Moderna社は3月26日付のプレスリリースにて、同社の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「スパイクバックス」について、次世代の「mRNA-1283」が、第III相試験の結果、同社の既存のオミクロン株対応2価(起源株/オミクロン株BA.4-5)ワクチン「mRNA-1273.222」と比較して、SARS-CoV-2に対するより高い免疫応答の誘導を示したこと発表した。この次世代コロナワクチン「mRNA-1283」は、より長い保存期間と保存上の利点をもたらす可能性があり、インフルエンザとCOVID-19の混合ワクチン「mRNA-1083」の構成要素となる予定だ。 次世代コロナワクチン「mRNA-1283」と既存の「mRNA-1273.222」とを比較した第III相ピボタル試験「NextCOVE試験(NCT05815498)」は、米国、英国、カナダの12歳以上の約1万1,400人を対象とした無作為化観察者盲検アクティブ対照試験だ。本試験の結果、「mRNA-1283」は、SARS-CoV-2のオミクロンBA.4/BA.5および起源株の両方に対して、より高い免疫応答を引き起こすことが認められた。とくにこの免疫応答は、COVID-19による重篤な転帰リスクが最も高い65歳以上の参加者に顕著にみられたという。主な局所有害事象は注射部位の疼痛で、主な全身性の有害事象は頭痛、疲労、筋肉痛、悪寒だった。 「mRNA-1283」は、冷蔵庫での保存で安定するように設計されており、有効期限も従来のものよりも長くなっていることから、医療従事者の負担を軽減し、ワクチン接種へのアクセスを改善することで、公衆衛生に貢献する可能性があるという。

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新規2型経口生ポリオワクチン(nOPV2)の有効性と安全性(解説:寺田教彦氏)

 ポリオ(急性灰白髄炎)は、ポリオウイルスが中枢神経に感染し、運動神経細胞を不可逆的に障害することで弛緩性麻痺等を生じる感染症で、主に5歳未満の小児に好発するため「小児麻痺」とも呼ばれる感染症である。ウイルスは主に糞口感染で人から人に感染するが、そのほかに汚染された水や食べ物を介して感染することもあり、治療薬は存在しないため、ワクチン接種がポリオの感染対策において重要とされる。ポリオウイルスには、3つの血清型(1、2、3型)があり、1988年に世界保健機関がワクチン接種によるポリオ根絶計画を提唱し、2015年と2019年に野生型ポリオウイルス2型と3型がそれぞれ根絶認定された。残る野生型ポリオウイルス1型が流行しているのはパキスタンとアフガニスタンのみである。 ところで、今回の研究は新規2型経口生ポリオワクチン(nOPV2)を対象としているが、2型は根絶認定されたのではないか? と疑問を持たれるかもしれない。これは先の根絶計画で用いられていた経口生ポリオワクチン(OPV)の欠点に、弱毒化変異を失った伝播型ワクチン由来ポリオウイルス(circulating vaccine-derived poliovirus; cVDPV)が出現し、ワクチン接種者や接種患者から排出されたウイルスで感染症を発症する問題があったためである。cVDPVによるポリオ流行は、とくに2型cVDPVが問題で(Diop OM, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2015;64:640-6)、cVDPVの85%を占めていた。そのため、世界保健機関(WHO)は2016年前半に3価ポリオワクチン(tOPV)の接種を停止し、2型OPV成分を除いた2価経口生ポリオワクチン(bOPV)に切り替えを推奨した。しかし、2型OPVの接種中止は世界的に2型ポリオに対する著しい免疫低下をもたらし、2020年には伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)が24ヵ国で1,000例を超え、2型cVDPVへの対策を要する事態となった。 このような経緯から本研究のワクチン(nOPV)は、ワクチン由来ポリオウイルスの出現を抑制するために開発され、セービン株由来経口生ポリオウイルスワクチンの遺伝的安定性を改善し、2020年11月よりワクチンとして初めてWHOの暫定緊急使用リストに加えられていた。 本研究は2型cVDPVの被害が最も大きかったアフリカで初めて行われたnOPV2の臨床試験であり、目的はnOPV2の認可やWHOのワクチン選定に必要なデータを収集することであった。そのため、ガンビアの乳児と幼児のデータでnOPV2の安全性および忍容性データの拡充、および乳児における3種類のロットでnOPV2の免疫応答の一貫性を評価し、ワクチン投与後のセロコンバージョン率とポリオウイルス2型の排出についても調査が行われた。 本研究結果は、「新規2型経口生ポリオワクチン(nOPV2)、有効性・安全性を確認/Lancet」で掲載されている通りで、nOPV2は、ガンビアの小児と乳児に免疫原性が確認され、安全性の懸念も特定されなかった。本研究で扱われたnOPV2は、以前のポリオワクチンよりcVDPVのリスクを減らすことが期待され、本論文で引用されている文献や本研究結果からもリスク低下が示唆されているが、nOPVも伝播による変異等によりnOPV2由来のアウトブレイクが発生する懸念は残るため、注意深い監視は引き続き必要になるだろう(Martin J, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022;71:786-790.)。 ところで、本邦で実施されているポリオワクチンについても言及すると、本邦では経口生ポリオワクチン(OPV)ではなく、不活化ワクチン(IPV)が使用されている。OPVの利点は、効果的な腸管免疫・血中中和抗体誘導能を有するうえ、安価で接種も容易なことだが、欠点として接種後に接種者あるいは接触者がワクチン関連麻痺を来すことや、伝播型ワクチン由来ポリオウイルスの原因となることがある。この欠点を避けるために先進国ではOPVからIPVに切り替えを行っており、日本では2012年9月より定期接種のワクチンは3価経口生ポリオワクチン(tOPV)からIPVに切り替えられていた。 2024年4月1日以降の現時点では、ポリオワクチンは5種混合(DPT-IPV-Hib)として定期接種に含まれているが、日本小児科学会からは任意接種としてポリオに対する抗体価が減衰する前に、就学前の接種も推奨されている(日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュールの変更点)。 本邦では2013年に診断されたcVDPV 由来のワクチン関連麻痺症例以降、ポリオ確定症例の届けはされていないが、cVDPVはアフリカのみならず、欧州や米国、東南アジアからも報告されている。本邦ではIPVによる高いワクチン接種率の維持により海外からのポリオウイルス持ち込みを防いでいると考えられ、引き続き国内でもワクチン接種による予防は必要だろう。また、本邦からの海外渡航時で、出国時に1年以内のポリオワクチン接種証明書提示が必要な国に渡航する場合や、ポリオリスク国に渡航するが10年以内に接種歴がない場合などではポリオワクチンの追加接種が必要である。

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4月9日 子宮頸がんを予防する日【今日は何の日?】

【4月9日 子宮頸がんを予防する日】〔由来〕「し(4)きゅう(9)」(子宮)の語呂合わせから、「子宮頸がん」予防の啓発活動を行っている「子宮頸がんを考える市民の会」(東京)が制定。この日を中心に「子宮頸がん」についてのセミナーなどを開催している。関連コンテンツHPVワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】日本のワクチン史を変えた煉獄さん【Dr.倉原の“俺の本棚”】子宮頸がんも喫煙で増える?!【患者説明用スライド】高リスク局所進行子宮頸がん、ペムブロリズマブ追加でPFS改善/Lancet低リスク子宮頸がん、単純子宮全摘が標準治療に非劣性/NEJM

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モデルナのコロナワクチン、通常承認を取得し、引き続き供給

 新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンを提供するモデルナは、2024年3月29日付のプレスリリースで、特例承認を受けていた「スパイクバックス筋注」の通常承認を3月27日付で取得したと発表した。 なお厚生労働省によると、2024年4月1日以降、65歳以上の人および60~64歳で対象となる人※には、新型コロナウイルス感染症の重症化予防を目的として秋冬に自治体による定期接種が行われ、費用は原則有料となる。ただし、定期接種以外の時期であっても接種を希望するすべての人が、自費による任意接種が可能である。※60~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される人、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)により免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な人。 これについてモデルナは、「さまざまな理由で4月以降に任意接種を希望する方に対しても十分なワクチンを供給すべく体制を整えており、引き続き日本の国民の皆さまを新型コロナウイルスの脅威から守るため邁進していく」としている。

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現場の断捨離、始めませんか?~働き方改革に先行した日本医科大学の実例

医師の働き方改革がついに始まった。それでも、今もなお議論が絶えないのが、診療行為以外にあたる“研究や自己研鑽時間”の捉え方である。厚生労働省が2024年1月15日に『医師等の宿日直許可基準及び医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方についての運用に当たっての留意事項について』を発出したものの、これまで根付いてきた労働環境に対するパラダイムシフトは、そう簡単なものではないはずだ。今回、臨床研究法や大規模臨床試験のDx化などに力を入れている松山 琴音氏(日本医科大学医療管理学 特任教授/学校法人日本医科大学研究統括センター副センター長)に治験効率化の視点から医師の働き方改革のヒントになるポイントを聞いた。土日対応の治験、働き方にメス小児への新型コロナワクチン普及が遅れている日本の状況を危惧し、今後の再流行に備えるべく、小児のワクチン接種の有効性・安全性の証明や国産ワクチン開発の進展に尽力する―。その活動を担う一人である松山 琴音氏は日本医科大学とその付属病院をはじめとするさまざまな臨床研究の基盤整備やDx化に力を注ぐ。その松山氏が所属する日本医科大学は、新型コロナワクチンの大規模接種会場運営の応需や、小児5,000例を対象とした『新型コロナワクチン(国産不活化)とインフルエンザワクチンの同時接種に関する大規模臨床試験』(現在、募集中)を行うなどしている1)。しかし、こういった取り組みは土日の業務対応が必須であり、治験においても治験の責任は大学病院の医師らが担う必要があるため、時間外労働は当たり前となる。「この治験では、パンデミック下に構築された大規模職域接種の仕組みを再利用し、医師、看護師や担当のスタッフは正当な対価の支払いを受けられるようにした」と話した。一方、病院経営には当然ながら収益が求められるが、それには医療者という人材がなくてはならない。「治療を担う医師の確保もさることながら、入院患者の受け入れ人数は看護師の人員配置基準によって決定付けられる。コンプライアンスの達成のみならず病床数確保のための人員確保が病院としての課題」と述べ、コロナパンデミックの発生によって医療者の“働き型”に少しずつ変化が見られたことを契機に、臨床研究の視点から同氏らは医師の働き方の課題解決に乗り出した。治験開始までを効率化させ、医療者の満足度up臨床試験や治験業務にはさまざまな医療者が関わり、当たり前のように時間外勤務も発生する。なかでも治験業務の大半を病院職員の1人である治験コーディネーター(CRC:Clinical Research Coordinator)が担うわけだが、CRCの時間内業務が達成されれば、医師を含むそのほかの職員の業務も効率化を図ることができるため、まずこの目標達成に向け、日本医科大学は治験運用ルールを設定し長時間労働是正のための断捨離を決行した。「一般的な治験業務で最も問題なのは、プロセスばかりが冗長で人材を掛け過ぎていること。無駄な対人業務を断捨離すれば、国内治験のスピードが加速しジャパンバッシングが起こらなくなる」と松山氏は国内の治験の在り方を指摘した。その課題解決策として、同氏はビッグデータの利活用のために、『SmarTrial』(Activade株式会社)と共同開発した費用算定機能を導入したことを明かした。「治験に登録可能な症例データはレセプトデータ、いわゆるビッグデータを活用することでフィージビリティ調査への対応をいち早く完了させ、治験責任医師や院内チームとともに早期からリクルートプランの作成やグローバル標準であるベンチマークコスト導入に向けた対応ができる」。また、治験の症例管理が可能である『SmarTrial』を導入したことで、「自施設では治験者ごとのToDo管理と試験全体のToDo管理を臨床開発モニター(CRA:Clinical Research Associate)と参加施設間で共有・完了確認できるシステムを導入し、費用算定機能と連結させた。治験の進捗状況が一覧化され、請求情報が紐付けられれば、CRA・CRC・医療者、そして医事課のスタッフの知っておくべき情報が統合され、登録症例ごとに治験のどの段階まで進んでいるのかが見えるようになった」と話した。さらにその結果として、「CRCの業務時間が週あたり1時間半も削減できた」というから驚きだ。「このシステムを利用することで候補被験者を事前に共有し、治験の状況の予測を立てられたり患者のvisit予定が把握できたりするため、医師のワークロード軽減にも貢献できた」と述べ、来るべき分散化臨床試験(DCT:Decentralized Clinical Trial)やサイトレス試験を見据えてDx化してきたことが、働き方改革に通じる取り組みであったことを説明した。画像を拡大する業務効率のポイント「丸抱えしない」「業務を見える化」また、“時間内”に業務を収めるポイントとして、「1人で業務を丸抱えしない」「業務プロセスを見える化」することだと述べ、リクルートマネージャーの設置、トヨタのかんばん方式にならった各治験の進捗管理を“見える化”のためのダッシュボードの導入が課題解決に繋がったことを説明した。リクルートマネージャーの設置画像を拡大する治験業務の場合、外部モニターからの進捗状況などの問い合わせや院内調整に多くの時間を割かれ、サテライト医療機関から紹介された患者が治験による受診をすると、窓口がはっきりせずに院内をたらい回しにされるリスクもある。リクルートマネージャーという外部対応に特化、患者の治験同意などを介在する人材を配置したことで、CRCは治験の質向上に向けたquality managerという新たな役割を果たし、ほかの院内スタッフの労力を軽減させることに繋がった。ダッシュボードの活用画像を拡大する治験の複雑さが招く業務過多を見える化画像を拡大する直接的な治験状況の確認、やるべきこと・問題点を早期に可視化、ワークロードを可視化するために、1)IRB・必須文書の電子化、2)Delegation listや教育研修記録の作成、3)フェアバリュー方式への対応、4)契約書における手順書の標準化、5)想定される症例数の調査、6)混み具合や収支に関する情報を収集・見える化した。このような取り組みのために、幾度となく病院経営層との対話を繰り返し、実行に至るまでに数年を要したそうだが、その苦労の甲斐もあり、今では某グローバル企業の治験において、日本医科大学系列全体での症例登録数は世界2位を誇るまでに至っている。同氏らは将来展望として、「病院ごとの仕組みのバラつきを統一し、情報を集約するための管理機能を研究統括センターに組み入れた。この取り組みを日本医科大学のある種のブランディングと捉え、“治験ブランディングチーム”と称して活動していく」と話した。また、「治験施設に足を運ばなくてもリジットなコミュニケーションを円滑に実行していくためにはこのようなリモート環境の整備が重要で、VRの利活用を検証するための実証実験や治験に対する社会の理解を進めるための患者市民参画に向けた活動も始めている」と、コロナ禍で定着し始めたリモート環境の更なる可能性を引き出すために奮闘している。働き方改革の“一歩先行く”国内のドラッグラグ・ロス問題が喫緊の課題となる日本。働き方改革が臨床研究の足かせになり研究を担う人材の確保に苦戦しては本末転倒である。今を生きる、そして次世代のための医療基盤として臨床研究の根を絶やさぬためも、リモート環境整備の加速化の波に乗り、医療全体の質の向上を目指す松山氏らによる取り組みが、患者、臨床研究を担う医師・医療者や製薬企業、ひいては日本国の未来を照らす手立てになるのではないだろうか。(取材・文:ケアネット 土井 舞子)参考1)日本医科大学治験サイト日本医科大学 研究統括センター厚生労働省:「医師の働き方改革」.jp講師紹介

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Long COVIDの原因は高レベルのサイトカイン産生?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状(long COVID)が生じている患者では、通常はウイルスの除去に伴い産生されなくなるサイトカインの一種であるインターフェロン(IFN)-γが、長期にわたって高レベルで産生され続けていることが明らかになった。研究グループは、これがlong COVIDの根本的なメカニズムである可能性があると述べている。英ケンブリッジ大学医学部およびケンブリッジ治療免疫学・感染症研究所のBenjamin Krishna氏らによるこの研究結果は、「Science Advances」に2月21日掲載された。 米疾病対策センター(CDC)が2023年9月に発表した最新データに基づくと、6.9%の米国人がlong COVIDを経験している。Long COVIDの症状として最も頻繁に挙げられるのは慢性的な倦怠感であるが、ブレインフォグや慢性的な咳などの症状も珍しくない。しかし、long COVIDがなぜ生じるのかについては解明されていない。 今回の研究でKrishna氏らは、新型コロナウイルスのRT-PCR検査で陽性と判定されて入院した患者111人の転帰を追跡した。これらの患者は、陽性判定から28日目(51人)、90日目(20人)、180日目(40人)のいずれかの時点で血液検体を採取されており、55人がlong COVIDを発症していた。これらの血液サンプルに、2019年10月以前に採取された新型コロナウイルスに曝露していない54人の血液サンプルを合わせて、解析を行った。 その結果、新型コロナウイルスに感染すると、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのIFN-γの産生レベルが急上昇することが明らかになった。IFN-γのレベルは、COVID-19の症状が治まった患者では次第に減少していったが、症状が長引いたlong COVID患者では高いままであった。また、long COVID患者で新型ワクチンの接種前後でのIFN-γのレベルを比較したところ、ワクチン接種後にレベルが低下し、それが一部の症状の消失と関連することが示された。 Krishna氏は、「IFN-γはC型肝炎などのウイルス感染症の治療薬に使われているが、副作用として倦怠感、発熱、頭痛、筋肉痛、抑うつなどの症状を引き起こすことが知られている。これらの症状はlong COVIDに特徴的な症状でもある。われわれにとってこのことも、IFN-γの産生レベル上昇がlong COVIDの原因であることを支持する証拠だと思われた」と説明している。 では、何がIFN-γ産生レベルの上昇を引き起こすのだろうか。研究グループがさらに研究を進めたところ、CD8陽性T細胞とCD14陽性単球の2種類の免疫細胞の相互作用がIFN-γの過剰産生の鍵を握っていることが明らかになった。 こうした結果を受けてKrishna氏は、「われわれは、long COVIDの根底にあると思われるメカニズムを発見した。この発見がlong COVIDの治療法開発に道を開くとともに、一部の患者に確実な診断を下す一助となることを期待している」と話している。 ただしKrishna氏は、IFN-γの産生増加というメカニズムだけがlong COVIDの発症要因とは言い切れない点を強調している。例えば、先行研究では微小血栓の形成もlong COVIDの原因である可能性が示唆されている。Krishna氏は、「さまざまなLong COVIDの症状が全て同じ原因により引き起こされているとは考えにくい」として、微小血栓を原因の一つと見なすことは理にかなっていると述べている。 Krishna氏は、long COVID患者の血中のIFN-γ濃度を確認して、症状が長引くのか、徐々に回復するのかなどのサブタイプに分類することで、治療を個別化できる可能性があるとの考えを示している。

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第204回 ワクチンマニアが最後の公費接種に選んだコロナワクチンメーカーは…

前回、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の無償ワクチン接種が3月31日で終了する件について書いた。私のような高齢者にも基礎疾患保有者にも該当しない人間が、接種が始まった2021年2月17日~2024年3月31日までの期間に新型コロナワクチンを接種できる最大回数は5回だ。やはり過去の連載でも触れたように、私は一昨年末に4回目のワクチン接種を完了。昨秋には5回目のオミクロン株XBB.1.5系統対応ワクチン接種券が届いていたが、ちょうど1年間隔、すなわち昨年12月末くらいに接種しようと考えていた。しかし、予定が合わず12月末の接種はお流れ。とりあえず年初の1月接種に計画を変更したが、能登半島地震の発生でそちらの取材に時間を割き、3月に入ってしまった。というわけで、今週前半に駆け込みで5回目接種を完了した。今回も前回と同じく東京都が開設した大規模接種会場の1つ、都庁北展望室会場を選んだ。前回は当時の最新流行変異株であるオミクロン株BA.4、BA.5系統対応ワクチンのうち、ファイザー製よりも承認が1ヵ月遅れたモデルナ製を接種できる数少ない会場の1つがここだった。モデルナ製にこだわったのは、接種後の抗体価がファイザー製より高めとの研究報告が多かったからである。そして今回再び同会場で接種したのは、昨年8月に承認された国産初のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンである第一三共製での接種を望んだ結果、やはりここになったというわけだ。この選択は、1、2回目はファイザー製、3、4回目はモデルナ製を選択したので、とりあえず第一三共製も試してみたいという、自称「ワクチンマニア」の好奇心に過ぎない。前回は新型コロナの感染症法5類移行前であり、接種予約サイトにアクセスしても最短で空きがあったのは約2週間先だったが、今回はアクセスした日の翌日接種でも予約可能だった。ただし、実際の予約日は、業務の都合などを考慮し、アクセス日の1週間後にした。接種日には予約時間の20分前に都庁1階に到着。前回は北展望室行きのエレベーター脇に比較的大きな受付ブースが設置され、接種券を提示して予約確認と検温を経てエレベーターに乗る流れだった。今回はエレベーター前の案内担当者から口頭で予約有無の確認があり、さらにそこで接種券と予診票を見せて非接触式体温計を使って検温。そのまま45階への直通エレベーターに乗り込む形に簡素化されていた。ちなみにここでやや“失態”。エレベーター前の案内担当者から「マスク、お持ちですか?」と聞かれ、ハッとした。マスクは持ち歩いているものの、最近は医療機関に入る時しか着用していなかった。慌ててカバンから取り出そうとするも、担当者から「これ使って良いですよ」とマスクの入った箱を差し出されてしまい、恥ずかしながらそこから“税金”マスクを1枚頂戴することになった。45階でエレベーターを降りると、誘導に従い、受付ブースに並ぶ。前回は1階に設置されていたブースがこちらに移動した模様だ。そこで接種券と予診票を渡し、氏名と生年月日を言うように指示され、受付担当者は私が告げた内容を耳で聞きながら、接種券を凝視して確認していた。その後、ノートPCを操作し、予約を確認。第一三共製の接種希望者とわかると、「オミクロン 第一三共 XBB.1.5 3~7回目」と印字された緑の紙を予診票に貼りつけるとともに、同じ紙が挿入されたネックストラップ付カードホルダーを首から下げるように指示された。さらに受付担当者は接種券と予診票の目視確認を2回繰り返し行った。無事に受付が済み、背後の予診室のほうを振り返ると、後ろにいた誘導担当者がこちらを見ながら「はい、第一三共のワクチンはこちらです」と、予診室へ案内してくれた。どうやらカードの色で接種ワクチンを判別しているらしい。これも前回同様、通り抜け式になっている予診室に着席すると、医師から再び氏名、生年月日を告げるよう指示される。医師は私が告げた氏名、生年月日を接種券・予診票と照合し、さらに記入した予診票のチェック項目を指でなぞりながら確認した。そのうえで、今現在の不調や過去の新型コロナワクチンやそのほかのワクチン接種後の不調の有無、過去2週間のワクチン接種歴を尋ねた。「なし」と回答すると、「今回のワクチン接種で何かお尋ねになりたいことはありますか?」と返答がきた。これも「とくになし」と答えると、そのまま予診室を通り抜けて接種室に移動するよう告げられた。わずか5歩ほどで、接種室へ到着。再び氏名、生年月日、接種ワクチン種類の確認を受け、袖をまくった右腕を差し出すと、アルコール消毒によるアレルギーはないかと聴取された。それも「なし」と答えると、消毒後数秒で「ちょっとチクッとしますね」と言われ、軽い圧力を感じた直後に「はい終了です」。接種部分に絆創膏を張られ、目前の机の下にある段ボール箱に私に使用した注射器が放り投げられた。今度はアナフィラキシーチェックの待機ブースに移動。前回同様パイプ椅子が並べられた開放空間だが、着席人数は前回の3割程度だろうか。前回までの新型コロナワクチン接種では、アレルギー体質ということも考慮し、念のため30分待機をお願いしていたが、これまでとくに副反応経験がないことから、今回は15分待機組入り。スマホで仕事の資料を読んでいるうちに、待機時間を1分過ぎていたことに気付く。慌てて席を立ち、最後に予診票と接種券を記録するブースへ。ここでいつものごとくWHO版、米・CDC版の2種類のイエローカードの記入もお願いする。今回のイエローカード対応は「はいはい」という感じでシステマティックに進んだ。保管用の接種券記録、イエローカードを返却してもらい、再びエレベーターで1階に到着。時間を確認すると、展望室に向かった時から換算してわずか19分。なんとそんな短い時間だったかと驚いた。接種者の減少も影響しているだろうが、オペレーションも磨きがかかっていた感じだ。そして接種から丸1日以上経過しても接種部位の軽い圧痛以外は何の変化もなし。いつも通りか。しかし、今春以降、私が接種する場合は完全な自費。1回あたりセンベロ10回分以上かかるという野暮な算盤を弾いてしまう。痛い出費になるが、止むを得ないと考えるしかない。

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高齢者への2価コロナワクチン、脳卒中リスクは?/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するファイザー製またはモデルナ製のいずれかの2価ワクチンを接種後に脳卒中を発症した65歳以上の米国メディケア受給者において、接種直後(1~21日間)に脳卒中リスクが有意に上昇したことを示すエビデンスは確認されなかった。米国食品医薬品局(FDA)のYun Lu氏らが、自己対照ケースシリーズ研究の結果を報告した。2023年1月、米国疾病予防管理センター(CDC)とFDAは、ファイザー製の「BNT162b2」(2価:起源株/オミクロン株BA.4-5)を接種した65歳以上の高齢者における虚血性脳卒中に関する安全性の懸念を指摘していた。JAMA誌2024年3月19日号掲載の報告。2価コロナワクチン接種後に脳卒中を発症した65歳以上約1万例を検証 研究グループは、BNT162b2(ファイザー製)またはmRNA-1273.222(モデルナ製)いずれかの2価コロナワクチン接種後に脳卒中を経験した65歳以上のメディケア受給者1万1,001例を含む、自己対照ケースシリーズ研究を行った。本研究の期間は2022年8月31日~2023年2月4日である。 主として着目したのは2価コロナワクチン後の脳卒中であったが、高用量またはアジュバント付加型インフルエンザワクチンにも着目し、(1)いずれかの2価コロナワクチンを接種、(2)いずれかの2価コロナワクチンと同日に高用量またはアジュバント付加型インフルエンザワクチンを接種、(3)高用量またはアジュバント付加型インフルエンザワクチンを接種した場合における脳卒中リスク(非出血性脳卒中、一過性脳虚血発作、非出血性脳卒中または一過性脳虚血発作の複合アウトカム、または出血性脳卒中)を、ワクチン接種後1~21日または22~42日のリスクウィンドウと、43~90日の対照ウィンドウとの間で比較した。 脳卒中リスクについて、主要解析として2価コロナワクチン接種と、副次解析として高用量またはアジュバント付加型インフルエンザワクチンとの関連を評価した。製品によらず2価コロナワクチン接種直後の脳卒中リスク上昇は認めず いずれかの2価コロナワクチンを接種したメディケア受給者は、539万7,278例であった(年齢中央値74歳[四分位範囲[IQR]:70~80]、女性56%)。BNT162b2接種者は317万3,426例、mRNA-1273.222接種者は222万3,852例。 いずれかのワクチン接種後に脳卒中を発症した1万1,001例において、製品の違い、リスクウィンドウ(1~21日または22~42日)と対照ウィンドウとの比較評価で、非出血性脳卒中、一過性脳虚血発作、非出血性脳卒中または一過性脳虚血発作の複合、または出血性脳卒中との間に、統計学的に有意な関連は認められなかった(発生率比[IRR]の範囲:0.72~1.12)。高用量/アジュバント付加型インフルエンザワクチン併用接種者で有意な関連 いずれかのワクチン+高用量またはアジュバント付加型インフルエンザワクチンの併用接種後に脳卒中を発症した4,596例では、BNT162b2の場合、接種後22~42日のリスクウィンドウで、ワクチン接種と非出血性脳卒中との間に統計学的に有意な関連が認められた(IRR:1.20[95%信頼区間[CI]:1.01~1.42]、接種10万回当たりのリスク差:3.13[95%CI:0.05~6.22])。mRNA-1273.222の場合、接種後1~21日のリスクウィンドウで、ワクチン接種と一過性脳虚血発作との間に統計学的に有意な関連が認められた(IRR:1.35[95%CI:1.06~1.74]、接種10万回当たりのリスク差:3.33[95%CI:0.46~6.20])。 また、高用量またはアジュバント付加型インフルエンザワクチン接種後に脳卒中を発症した2万1,345例において、接種後22~42日のリスクウィンドウで、ワクチン接種と非出血性脳卒中との間に有意な関連が確認された(IRR:1.09[95%CI:1.02~1.17]、接種10万回当たりのリスク差:1.65[95%CI:0.43~2.87])。

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麻疹ワクチン不足、定期接種を最優先に/日医

 日本医師会常任理事の釜萢 敏氏が、2024年3月27日の定例記者会見で、現在の麻疹(はしか)の流行状況について報告した。 麻疹の届け出は、2019年は744例、2020年は10例、2021年は6例、2022年は6例、2023年は28例であったが、本年は3月17日までに20例あり、海外から持ち込まれる麻疹の感染者が着実に増えてきているという認識を示した。そのような中で、麻疹含有ワクチンの接種を希望する人が増え、それによって定期接種のMR(麻疹風疹混合)ワクチンが入手できないという懸念が寄せられているという。 そのような状況を踏まえて、定期接種(第1期、第2期)を最優先で行い、ワクチンは例年の接種実績に応じた数を適切に発注するように呼びかけるとともに、日本医師会として今後のワクチンの需要と供給を注視していくとまとめた。

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シナジス、RSウイルス発症抑制で製造販売承認(一部変更)取得/AZ

 アストラゼネカは、2024年3月26日付のプレスリリースで、抗RSウイルスヒト化モノクローナル抗体製剤「シナジス」(一般名:パリビズマブ[遺伝子組換え])について、RSウイルス感染症の重症化リスクの高い、肺低形成、気道狭窄、先天性食道閉鎖症、先天代謝異常症、神経筋疾患を有する乳幼児を新たに投与対象とする製造販売承認事項一部変更承認を取得したと発表した。 RSウイルスは、乳幼児の気管支炎や肺炎を含む、下気道感染の原因となる一般的な病原体であり、2歳までにほとんどの乳幼児が感染するといわれており、早産児や生まれつき肺や心臓などに疾患を抱える乳幼児に感染すると重症化しやすいとされている。シナジスは、これらの重症化リスクを有する乳幼児に対し発症抑制の適応としてすでに承認されている。 今回の承認は、森 雅亮氏(聖マリアンナ医科大学 リウマチ・膠原病・アレルギー内科/東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 生涯免疫難病学講座 教授)が実施した医師主導治験の結果に基づく。シナジスの投与対象としてすでに承認されている疾患以外にも、その病態からRSウイルス感染症に対し慢性肺疾患と同等の重症化リスクが存在する疾患の存在が指摘されていた。そこで、日本周産期・新生児医学会が中心となり、関連学会である日本先天代謝異常学会、日本小児神経学会、日本小児呼吸器学会および日本小児外科学会から要望を集めた結果、換気能力低下および/または喀痰排出困難によりRSウイルス感染症が重症化するリスクの高い肺低形成、気道狭窄、先天性食道閉鎖症、先天代謝異常症または神経筋疾患を伴う乳幼児への追加適応が望まれていることがわかった。これらの疾患は国内推定患者数が少なく大規模臨床研究が困難であるため、医師主導治験が実施された。医師主導治験では、今回承認された疾患群における有効性、安全性、および薬物動態を検討し、いずれの疾患においてもRSウイルス感染による入院は認められなかった。 本治験を率いた森氏は、「今回の承認の基となった治験は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構が、革新的な医薬品・医療機器の創出を目的とした臨床研究や治験のさらなる活性化を目的とした研究を推進する“臨床研究・治験推進研究事業”に採択されている。これまで薬事承認のなかった重症化リスクの高い肺低形成、気道狭窄、先天性食道閉鎖症、先天代謝異常症、神経筋疾患を有する患者に対して、ようやく臨床の場でシナジスを広く使用できることをうれしく思う」と述べている。 松尾 恭司氏(アストラゼネカ 執行役員ワクチン・免疫療法事業本部長)は、「シナジスは、今まで日本においてRSウイルス感染症による重篤な下気道疾患の発症抑制に対する唯一の抗体薬として、多くの早産児や生まれつき肺や心臓などに疾患を抱える乳幼児の医療に貢献してきた。今回の承認により、これまでシナジスを投与できなかったハイリスクの乳幼児とそのご家族に対しても貢献できることを大変うれしく思う」としている。

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第205回 アドレナリンを「打てない、打たない」医者たちを減らすには(後編) 「ここで使わなきゃいけない」というタイミングで適切に使えていないケースがある

インタビュー: 海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)昨年11月8日掲載の、本連載「第186回 エピペンを打てない、打たない医師たち……愛西市コロナワクチン投与事故で感じた、地域の“かかりつけ医”たちの医学知識、診療レベルに対する不安」は、2023年に公開されたケアネットのコンテンツの中で最も読まれた記事でした。同記事が読まれた理由の一つには、この事故を他人事とは思えなかった医師が少なからずいたためと考えられます。そこで、前回に引き続き、この記事に関連して行った、日本アレルギー学会理事長である海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)へのインタビューを掲載します。愛西市コロナワクチン投与事故の背景には何があったと考えられるのか、「エピペンを打てない、打たない医師たち」はなぜ存在するのか、「アナフィラキシーガイドライン2022」のポイントなどについて、海老澤氏にお聞きしました。(聞き手:萬田 桃)造影剤、抗がん剤、抗生物質製剤などなんでも起こり得る(前回からの続き)――「薬剤の場合にこうした呼吸器症状、循環器症状単独のアナフィラキシーが起こりやすく、かつ症状が進行するスピードも早い」とのことですが、どういった薬剤で起こりやすいですか。海老澤造影剤、抗がん剤、抗生物質製剤などなんでも起こり得ます。とくにIV (静脈注射)のケースでよく起こり得るので、呼吸器単独でも起こり得るという知識がないとアナフィラキシーを見逃し、アドレナリンの筋注の遅れにつながります。ちなみに、2015年10月1日〜17年9月30日の2年間に、医療事故調査・支援センターに報告された院内調査結果報告書476件のうち、死因をアナフィラキシーと確定または推定したのは12例で、誘引はすべて注射剤でした。造影剤4例、抗生物質製剤4例、筋弛緩剤2例などとなっていました。――病院でも死亡例があるのですね。海老澤IV(静脈注射)で起きたときは症状の進行がとても速く、時間的な余裕があまりないケースが多いです。また、心臓カテーテルで造影剤を投与している場合は動脈なので、もっと速い。薬剤ではないですが、ハチに刺されたときのアナフィラキシーも比較的進行が速いです。こうしたケースで致死的なアナフィラキシーが起こりやすいのです。2001~20年の厚労省の人口動態統計では、アナフィラキシーショックの死亡例は1,161例で、一番多かったのは医薬品で452例、次いでハチによる刺傷、いわゆるハチ毒で371例、3番目が食品で49例でした。そして、そもそもアナフィラキシーを見逃すことは致命的ですが、対応しても手遅れとなってしまうケースもあります。病院の救急部門などで治療する医師の中には、「ルートを取ってまず抗ヒスタミン薬やステロイドで様子を見よう」という方がまだいるようです。しかし、その過程で「ここでアドレナリンを使わなきゃいけない」というタイミングで適切に使えていないケースがあるのです。先程の死亡例の中にもそうしたケースがあります。点滴静注した後の経過観察が重要――いつでもどこでも起き得るということですね。医療機関として準備しておくことは。海老澤大規模な医療機関ではどこでもそうなっていると思いますが、たとえば当院では、アドレナリン注シリンジは病棟、外来、検査室、処置室などすべてに置いてあります。ただ、アドレナリンだけで軽快しないケースもあるので、その後の体制についても整えておく必要があります。加えて重要なのは、薬剤を点滴静注した後の経過観察です。抗がん剤、抗生物質、輸血などは処置後の10分、20分、30分という経過観察が重要なので、そこは怠らないようにしないといけません。ただ、処方薬の場合、自宅などで服用してアナフィラキシーが起こることになります。たとえば、NSAIDs過敏症の方がNSAIDを間違って服用するとアナフィラキシーが起こり、不幸な転帰となる場合があります。そうした点は、事前の患者さんや家族からのヒアリングに加えて、歯科も含めて医療機関間で患者さんの医療情報を共有することが今後の課題だと言えます。抗ヒスタミン薬とステロイド薬で何とか対応できると考えている医師も一定数いる――先ほど、「僕らの世代から上の医師だと、“心肺蘇生に使う薬”というイメージを抱いている方がまだまだ多い」と話されましたが、アナフィラキシーの場合、「最初からアドレナリン」が定着しているわけでもないのですね。海老澤アナフィラキシーという診断を下したらアドレナリン使っていくべきですが、たとえば皮膚粘膜の症状だけが最初に出てきたりすると、抗ヒスタミン薬をまず使って様子を見る、ということは私たちも時々やることです。もちろん、アドレナリンをきちんと用意したうえでのことですが。一方で、抗ヒスタミン薬とステロイド薬でアナフィラキシーを何とか対応できると考えている医師も、一定数いることは事実です。ルートを確保して、抗ヒスタミン薬とステロイド薬を投与して、なんとか治まったという経験があったりすると、すぐにアドレナリン打とうとは考えないかもしれません。PMDAの事例などを見ると、アナフィラキシーを起こした後、死亡に至るというのは数%程度です。そういった数字からも「すぐにアドレナリン」とならないのかもしれません。アナフィラキシーやアレルギーの診療に慣れている医師だと、「これはアドレナリンを打ったほうが患者さんは楽になるな」と判断して打っています。すごくきつい腹痛とか、皮膚症状が出て呼吸も苦しくなってきている時に打つと、すっと落ち着いていきますから。打てない、打たない医者たちを減らしていくには――打つタイミングで注意すべき点は。海老澤血圧が下がり始める前の段階で使わないと、1回で効果が出ないことがよくあります。「血圧がまだ下がってないからまだ打たない」と考える人もいますが、本来ならば血圧が下がる前にアドレナリンを使うべきだと思います。――「打ち切れない」ということでは、食物アレルギーの患者さんが所持している「エピペン」についても同様のことが指摘されていますね。海老澤文科省の2022年度「アレルギー疾患に関する調査」1)によれば、学校で子供がアナフィラキシーを発症した場合、学校職員がエピペン打ったというのは28.5%に留まっていました。一番多かったのは救急救命士で31.9%、自己注射は23.7%でした。やはり、打つのをためらうという状況は依然としてあるので、そのあたりの啓発、トレーニングはこれからも重要だと考えます。――教師など学校職員もそうですが、今回の事件で浮き彫りになった、アドレナリンを「打てない」「打たない」医師たちを減らしていくにはどうしたらいいでしょうか。海老澤エピペン注射液を患者に処方するには登録が必要なのですが、今回、コロナワクチンの接種を契機にその登録数が増えたと聞いています。登録医はeラーニングなどで事前にその効能・効果や打ち方などを学ぶわけですが、そうした医師が増えてくれば、自らもアドレナリン筋注を躊躇しなくなっていくのではないでしょうか。立位ではなく仰臥位にして、急に立ち上がったり座ったりする動作を行わない――最後に、2022年に改訂した「アナフィラキシーガイドライン」のポイントについて、改めてお話しいただけますか。海老澤診断基準の2番目で、「典型的な皮膚症状を伴わなくてもいきなり単独で血圧が下がる」、「単独で呼吸器系の症状が出る」といったことが起こると明文化した点です。食物によるアナフィラキシーは一番頻度が高いのですが、9割方、皮膚や粘膜に症状が出ます。多くの医師はそういったイメージを持っていると思いますが、ワクチンを含めて、薬物を注射などで投与する場合、循環器系や呼吸器系の症状がいきなり現れることがあるので注意が必要です。――初期対応における注意点はありますか。海老澤ガイドラインにも記載してあるのですが、診療経験のない医師や、学校職員など一般の人がアナフィラキシーの患者に対応する際に注意していただきたいポイントの一つは「患者さんの体位」です。アナフィラキシー発症時には体位変換をきっかけに急変する可能性があります。明らかな血圧低下が認められない状態でも、原則として立位ではなく仰臥位にして、急に立ち上がったり座ったりする動作を行わないことが重要です。2012年に東京・調布市の小学校で女子児童が給食に含まれていた食物のアレルギーによるアナフィラキシーで死亡するという事故がありました。このときの容態急変のきっかけは、トイレに行きたいと言った児童を養護教諭がおぶってトイレに連れて行ったことでした。トイレで心肺停止に陥り、その状況でエピペンもAEDも使用されましたが奏効しませんでした2)。アナフィラキシーを起こして血圧が下がっている時に、急激に患者を立位や座位にすると、心室内や大動脈に十分に血液が充満していない”空”の状態に陥ります。こうした状態でアドレナリンを投与しても、心臓は空打ちとなり、心拍出量の低下や心室細動など不整脈の誘発をもたらし、最悪、いきなり心停止ということも起きます。――そもそも動かしてはいけないわけですね。海老澤はい。ですから、仰臥位で安静にしていることが非常に重要です。とにかく医療機関に運び込めば、ほとんどと言っていいほど助けられますから。アナフィラキシーは症状がどんどん進んで状態が悪化していきます。そうした進行をまず現場で少しでも遅らせることができるのが、アドレナリン筋注なのです。(2024年1月23日収録)参考1)令和4年度アレルギー疾患に関する調査報告書/日本学校保健会2)調布市立学校児童死亡事故検証結果報告書概要版/文部科学省

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第203回 コロナワクチン有償化へ、最も弊害を受ける関係者とは

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の生後6ヵ月以上の国民に対する全額公費でのワクチン接種がついに3月31日に終了する。2024年4月1日から新型コロナはインフルエンザと同じく個人での予防を主眼とする予防接種法のB類疾病となり、ワクチン接種の対象者を65歳以上の高齢者および60~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される人、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染で免疫機能に障害があって日常生活がほとんど不可能な人とし、秋冬の定期接種へと切り替わる。これ自体は現状を考えれば、多くの医療従事者が納得するだろう。B類疾病となれば、ご存じのように定期接種対象者は無償とはいかない。厚生労働省が示した自己負担額の標準的な接種費用は7,000円である。ワクチン製造企業に対する非公開ヒアリングで希望小売価格を聞いた結果を踏まえ、ワクチン価格を1万1,600円とし、これに医師の手技料3,740円を加え、接種1回あたりの費用は1万5,300円程度と試算。国は接種1回あたり8,300円を助成金として自治体に交付する計画だ。また、従来からB類疾病の定期接種は、住民税非課税世帯や生活保護世帯の対象者は無償なため、これを念頭に市区町村には接種費用総額の3割を地方交付税として手当てする1)。ワクチン価格は私個人の予想からそう外れてはいなかったが、接種対象者の自己負担額はインフルエンザワクチンの約4倍。新規モダリティのワクチンであるため、この価格はある意味仕方ないが、消費者目線ではかなりに高いと言える。おそらく市区町村によっては、接種対象者の自己負担分も負担して無料にするところも出てくるだろうが、全体から見れば、おそらくそれは少数派ではないだろうか?こうなると定期接種対象者の中には接種の差し控えも増えてくるだろうと思われる。もっとも国内の高齢者の新型コロナワクチン接種率は3回目までで90%超、4回目以降の総接種回数も2024年3月17日現在9,364万7,589回であることを考えれば、この先1年程度の短期で見るならば、高齢者での感染拡大とそれに伴う重症者・死亡者の増加懸念はそれほど大きくはないだろうと個人的には受け止めている。ただ、長期的に見ると、やや違う見方ができる。とりわけ高齢者に関わる層の接種率の低下が不安要素の一つだ。代表格は若年の医療従事者と介護関係者だが、これまでのインフルエンザでの経験や個人あるいは所属組織の可処分所得から考えると、懸念すべきは後者の介護従事者である。医療従事者と比べても重症化リスクの高い高齢者に集中的に接する介護従事者の平均給与(手当・賞与を含む)は、厚生労働省の「令和4年度介護従事者処遇等調査結果」によると、同年12月時点で月額31万8,230円。国税庁による「令和3年分民間給与実態統計調査」の民間給与所得者の平均給与月額(同調査年額を月額換算)36万9,417円と比べれば、5万円以上の格差がある。ちなみに前述の介護職員の平均給与月額は、岸田 文雄首相が就任直後から介護・看護・保育従事者の賃上げを政権の重要方針に掲げ、介護従事者に関しては2022年2月から補助金、同年10月から介護職員等ベースアップ等支援加算を介護報酬に新設した後の結果である。実際、同調査結果からは前年同月と比べて平均給与月額は1万7,490円増えたが、それでもまだこれほどの格差があるのだ。この状態で介護従事者を任意接種にして1万5,000円以上の自己負担を求めるのはやや酷である。さらに今さら言うまでもなく、人によってはこの経済的負担に加え、接種後2~3日の倦怠感と発熱の副反応という肉体的負担を凌がなければならない。しかも、高齢者施設の経営状況は近年厳しさを増している。独立行政法人福祉医療機構が2月上旬に発表したデータによると、施設系サービスの代表格とも言える特別養護老人ホームのサービス活動収益対サービス活動増減差額比率(企業で言えば利益率に相当)は、2022年度で従来型が0.3%、ユニット型が4.1%。それぞれ前年度から1.1ポイント、0.7ポイント低下している。同年度の赤字施設割合は従来型が48.1%、ユニット型が34.5%で、いずれも前年度から拡大し、従来型の約半数が赤字となる極めて深刻な状況だ。施設側に介護従事者のワクチン接種を補助できる余裕はないと言ったほうがよいだろう。インフルエンザワクチンの接種に関しては、東京都目黒区のように高齢者施設を含む入所系福祉施設職員への接種補助を行っているケースもあるが、まだ稀な動きである。確かに現時点での高齢者の新型コロナワクチン接種率を考えれば、介護従事者の持ち込みによる感染・発症が発生しても、重症化は短期的には避けられるかもしれない。しかし、新型コロナでは感染・発症を繰り返すほど、後の重症化リスクが高まるとの報告もある。また、昨今の変異株に対し新型コロナワクチンの感染・発症予防効果は低下している。介護従事者などを通じて施設に繰り返し感染が持ち込まれれば、あまり良い結末は想像できないはずである。その意味で、とりわけ介護従事者の新型コロナワクチン接種に関しては、別枠の補助を設けたほうが望ましいのではないかと個人的には思わずにいられないのだが…。参考1)厚生労働省:新型コロナウイルスワクチンの接種について(令和6年3月15日)

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酒で顔が赤くなる人は、コロナ感染リスクが低い?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック時、日本は欧米などと比較して人口当たりの感染率・死亡率が低かったことが報告されている1,2)。この要因としては、手洗いやマスクなどの感染予防策が奏効した、日本の高い衛生・医療水準によるものなどの要因が考えられているが、アジア人に多い遺伝子型も一因となっている可能性があるとの報告がなされた。佐賀大学医学部 社会医学講座の高島 賢氏らによって国内で行われた本研究の結果は、Environmental Health and Preventive Medicine誌に2024年3月5日掲載された。 日本人をはじめとした東アジア人には、アルコールを分解するアルデヒド脱水素酵素2型(ALDH2)の活性が弱く、飲酒時に顔が赤くなる特性を持つ人(rs671変異体)が多い。研究者らは、遺伝子型と新型コロナウイルス感染の防御効果の関連を検証するため、rs671変異体の代替マーカーとして飲酒後の皮膚紅潮現象を用い、後ろ向きに解析した。調査はWebツールを使って2023年8月7~27日に行われ、参加者は感染歴、居住地、喫煙・飲酒歴、既往症などの質問に回答した。 主な結果は以下のとおり。・計807例(女性367例、男性440例)から有効回答を得た。362例が非紅潮群、445例が紅潮群だった。・2019年12月~23年5月の42ヵ月間の観察期間全体で、非紅潮群は40.6%、紅潮群は35.7%がCOVID-19に感染した。年齢、性別、居住地等で調整後、初感染までの時間は紅潮群のほうが遅い傾向があった(p=0.057)。・COVID-19による入院例は、非紅潮群は2.5%、紅潮群は0.5%であった。COVID-19感染および関連した入院リスクは、紅潮群で低かった(p=0.03および<0.01)。・日本人の多くがCOVID-19ワクチンの2回接種を終える前である2021年8月31日までの21ヵ月間では、紅潮群の非紅潮群に対するCOVID-19感染のハザード比は0.21(95%信頼区間:0.10~0.46)と推定された。 研究者らは、「本研究は、飲酒後の皮膚紅潮現象とCOVID-19の感染および入院のリスク低下との関連を示唆しており、rs671変異体が防御因子であることを示唆している。本研究は感染制御に貴重な情報を提供するとともに、東アジア人特有の体質の多様性を理解する一助となる」としている。

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ワクチン接種、腕を交互にすることで免疫力アップ?

 ワクチンを複数回接種する際には、接種する腕を同じ側にするのではなく交互にかえることで、より高い効果を得られる可能性があるようだ。新型コロナワクチンの2回目接種時に接種する腕を逆にした人の方が、同側の腕に接種した人よりも免疫力が高いことが確認された。米オレゴン健康科学大学の感染症専門医であるMarcel Curlin氏らによるこの研究結果は、「The Journal of Clinical Investigation」に1月16日掲載された。 研究グループは、「新型コロナワクチンに関しては、パンデミック時にすでに何百万人もの米国人が複数回の接種を受けたので、今回の研究で得られた知見はもはやさほど重要ではないかもしれないが、小児用予防接種を含む複数回接種のワクチン全てに影響を与える可能性がある」述べている。 今回の研究でCurlin氏らは、新型コロナワクチンを2回接種した947人(平均年齢44.5歳、女性73%)を対象に、2回目接種を初回と同じ腕に受けた場合(同側)と反対側の腕に受けた場合(対側)とで血清中の特定の抗体反応がどのように変わるのかを評価した。対象者のうち507人は同側に、440人は対側に接種を受けていた。 その結果、対側群では同側群に比べて新型コロナウイルスに特異的な抗体の抗体価(以下、総抗体価)が時間とともに有意に増加しており、2回目接種の後(約21日後)で1.2倍(P=0.020)、3回目接種の直前(0.5日前、2回目接種から約8カ月後)と接種後(2回目接種から約14カ月後)では1.4倍(P<0.001)であることが示された。新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合部位(RBD)に特異的な抗体(IgG抗体)についても、3回目接種直前で同側群の1.2倍(P=0.004)、3回目接種後で1.3倍(P=0.021)と同様の傾向が認められた。 次に、年齢、性別、ワクチンの接種間隔を一致させた54組の抗体価の推移を検討した。その結果、対側群の総抗体価とIgG抗体価は、3回目接種直前で同側群の1.7倍と1.5倍、3回目接種後で1.3倍と1.7倍であることが示された。さらに、初期の新型コロナウイルスに近い擬似ウイルスと、南アフリカで2021年11月に最初に報告されたオミクロン変異株(B.1.1.529)に対する中和抗体価を調べたところ、3回目接種直前では擬似ウイルスに対する中和抗体価について対側群と同側群の間に有意差は認められなかった。しかし3回目接種後では、対側群での擬似ウイルスに対する中和抗体価は同側群の約2倍、また、B.1.1.529に対する中和抗体価は約3.5〜4倍、有意に高かった(いずれもP<0.001)。 Curlin氏は、「この結果についてはさらに詳しく調査する必要があるため、現時点で、2回目は初回と反対側の腕に接種するべきだと推奨するつもりはない」と述べつつも、「全ての条件が同じであれば、反対側の腕に接種することを検討すべきだ」と話している。 一方、トロント大学(カナダ)免疫学分野のJennifer Gommerman氏はNew York Times紙に対し、「カナダでの新型コロナワクチン接種で行われたように、接種間隔を3カ月から4カ月に延長する方が、接種する腕の切り替えを行うよりも大きなベネフィットをもたらす可能性がある」と語る。同氏はさらに、「免疫不全患者にとっては、免疫力を高める助けになることなら何であれ試してみて損はない」ため、こうした接種方法の効果を研究する価値はあるとの見方を示している。

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第204回 アドレナリンを「打てない、打たない」医者たちを減らすには(前編) アナフィラキシーが呼吸器系の症状や循環器症状が単独で起こった場合は判断が難しい

インタビュー: 海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)昨年11月8日掲載の、本連載「第186回 エピペンを打てない、打たない医師たち……愛西市コロナワクチン投与事故で感じた、地域の“かかりつけ医”たちの医学知識、診療レベルに対する不安」は、2023年に公開されたケアネットのコンテンツの中で最も読まれた記事でした。同記事が読まれた理由の1つは、この事故を他人事とは思えなかった医師が少なからずいたためだと考えられます。そこで、今回と次回はこの記事に関連して行った、日本アレルギー学会理事長である海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)へのインタビューを掲載します。愛西市コロナワクチン投与事故の背景には何があったと考えられるのか、「エピペンを打てない、打たない医師たち」はなぜ存在するのか、「アナフィラキシーガイドライン2022」のポイントなどについて、海老澤氏にお聞きしました。(聞き手:萬田 桃)アドレナリンは“心肺蘇生に使う薬”というイメージを抱いている方がまだまだ多い――この記事が多くの読者に読まれた理由について、先生はどうお考えですか。海老澤タイトルにあるように、「エピペンを打てない、打たない医師」は実際に少なくなく、そうした方が読んだということが1つ考えられます。また、ワクチンの集団接種会場ということで、医師会などから依頼されて医師等が接種を行うわけですが、アナフィラキシーなど、万が一のことが起こった場合に、その場ですぐに全身管理ができるような体制は多くの会場で整っていなかったと考えられます。そういった意味で、「自分にも起こり得た事件だった」と捉えた方も多かったのかもしれません。――「エピペン」こと、アドレナリンを「打てない、打たない医師」はまだ結構いるのでしょうか。海老澤アドレナリンの筋肉注射については、僕らの世代から上の医師だと、”心肺蘇生に使う薬”というイメージを抱いている方がまだまだ多い印象です。最近は、医師国家試験でもアナフィラキシーの時のアドレナリン筋注は第一選択だということが設問になるくらいで、若い医師たちには十分浸透していることだと思います。しかし、一方で少し世代が上になると、「まずアドレナリン筋注」とは考えない医師は存在します。使った経験がない人だと躊躇してしまうことはある――今回のコロナワクチンのアナフィラキシーに最初に対応した医師は、事故報告書によれば「内科医、医師歴5年以上10年未満」となっていました。海老澤比較的若い医師だったのですね。今回のケースに当てはまるかどうかはわかりませんが、アナフィラキシーの患者にこれまで遭遇したことがある医師は、アナフィラキシーの患者を目の前にして、すぐに筋注しても問題はないと理解していると思うのですが、使った経験がない人だと躊躇してしまうことはあると思います。これまでにアナフィラキシーの患者さんを1人も診たことがなく、対処法に慣れていない医師は全国で少なくないと思います。仮に病院での治療中に起きたアナフィラキシーだったら、筋注後すぐにICUに運びルートを取り、アドレナリンを希釈して投与することも可能です。酸素投与もできます。また、手術中であればすでにルートが取れているので、即時対応が可能です。しかし、アナフィラキシーの初期対応としてアドレナリン筋注(0.1%アドレナリンの筋肉内注射、またはアドレナリン自己注射用製剤〈エピペン0.3mg製剤の投与〉)が第一選択だというのは基本中の基本です。もちろん、糖尿病や高血圧、動脈硬化など基礎疾患があるような方だと、アドレナリンを打って血圧が急上昇して脳出血を起こしたりするリスクは全くゼロではありません。そうしたリスクとベネフィットを考えて投与するわけですが、打って害になることは少ないと思います。アナフィラキシーが呼吸器系の症状や循環器症状が単独で起こった場合は判断が難しい――報告書によれば、看護師の1人は、アナフィラキシーの可能性を考え、アドレナリン1mgプレフィールドシリンジに22ゲージ針を付け、医師の指示があればいつでも筋注できるよう準備をしていましたが、「医師の判断を尊重するため、アドレナリンの準備ができていることを積極的に伝えようとはしなかった」とのことです。海老澤なるほど。ただ、そこは医師の判断ですから難しいですね。あともう1つ考えられるのは、アナフィラキシーの症状が典型的なパターンではなく、それが見逃しにつながった可能性です。――報告書では、「接種前から体調不良、呼吸苦があったようだという看護師からの情報と、粘膜所見、皮膚所見、掻痒感、消化器症状など『アナフィラキシーで典型的な症状』がなかったことから、女性の病態はアナフィラキシーの可能性が低いと判断し、アドレナリンの筋肉内注射を第一治療選択から外した」と書かれています。海老澤アナフィラキシーが呼吸器系の症状や、血圧低下などの循環器症状が単独で起こった場合は、判断が難しいというのは確かにあります。2022年に改訂した「アナフィラキシーガイドライン」1)では、診断基準が2つに集約されました。1つは、「皮膚、粘膜、またはその両方の症状(全身性の蕁麻疹、瘙痒または紅潮、口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)が急速に(数分~数時間)で発症した場合」。もう1つが「典型的な皮膚症状を伴わなくても、当該患者にとって既知のアレルゲンまたはアレルゲンの可能性が高いものに曝露された後、血圧低下または気管支痙攣または咽頭症状が急速に(数分〜数時間)で発症した場合」となっています。この2番目は、循環器症状と呼吸器症状の単独の場合を言っているわけです。アナフィラキシーの基本は皮膚症状なのですが、典型的な皮膚症状がなくても、アナフィラキシーを疑う場面で、血圧低下または気管支攣縮、咽頭症状などの呼吸器症状があればアドレナリンを打つ、というのが2022年改訂の大きなポイントです。ワクチンもそうですが、薬剤等の場合にこうした呼吸器症状、循環器症状単独のアナフィラキシーが起こりやすく、かつ症状が進行するスピードも早く時間的余裕もないので、そこはとくに注意が必要です。重症の方の場合、アドレナリン投与1回では効かないこともある――今回の事故で「打たなかった」背景にはいろいろな原因が考えられるわけですね。海老澤今回の事例に直接当てはまるかどうかは軽々に言えませんが、「アナフィラキシーの典型的な症状ではなく判断が難しかった」「アナフィラキシーに対する医療者の経験値、慣れが足りなかった」「何か起こった場合に対応する医療体制が乏しかった」ことなどが教訓として挙げられると思います。ただ、症状の進行はものすごく速かったと考えられるので、アドレナリンの1回の筋注で軽快していたかどうかはわかりません。重症の方の場合、アドレナリン投与1回では効かないこともあります。それでもダメな場合は、ルートを取って輸液したり、酸素を投与したりと全身管理が必要になってきます。救命できるかどうかは、そういった一連の流れの中で決まってきます。(この項続く)(2024年1月23日収録)【事故の概要】2022年11月、愛知県愛西市の集団接種会場で、新型コロナワクチンを接種した女性(当時42)が直後に容体が急変し死亡しました。愛西市がまとめた報告書2)によれば、接種4分後から女性に咳嗽と呼吸苦が発現したにもかかわらず、看護師らは「ワクチン接種前からマスク着用の圧迫感による過呼吸発作状態にあったもの」と解釈していました。また、体調不良者が出たことで対応を依頼された医師も「接種前から体調不良、呼吸苦があったようだ」という看護師からの情報と、粘膜所見、皮膚所見、掻痒感、消化器症状など「アナフィラキシーで典型的な症状」がなかったことから、女性の病態はアナフィラキシーの可能性が低いと判断し、アドレナリンの筋肉内注射を第一治療選択から外してしまいました。女性は接種14分後に心停止、3次救急病院に搬送されるも到着時にはすでに心肺停止状態で、心肺蘇生を試みた後、死亡が確認されました。報告書で愛西市医療事故調査委員会は、「ワクチン接種後待機中の患者の容体悪化(咳嗽、呼吸苦の訴え)に対し、看護師らがアナフィラキシーを想起できなかったこと、問診者に接種前の患者の状態を確認することなく、患者は接種前から調子が悪かったと解釈したことは標準的ではなかった。また、その情報に影響を受け、ワクチン接種後患者の容体変化に対し、アドレナリンの筋肉内注射が医師によって迅速になされなかったことは標準的ではなかった」とし、「本事例は、ワクチン接種後極めて短時間に患者が急変し、死亡に至ったものである。非心原性肺水腫による急性呼吸不全及び急性循環不全が直接死因であると考えられ、この両病態の発症にはアナフィラキシーが関与していた可能性が高い。本事例は短時間で進行した重症例であることから、アドレナリンが投与されたとしても救命できなかった可能性はあるが、特に早期にアドレナリンが投与された場合、症状の増悪を緩徐にさせ、高次医療機関での治療につなげ、救命できた可能性を否定できない」と結論付けました。参考1)アナフィラキシーガイドライン2022/日本アレルギー学会2)事例調査報告書/愛西市

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