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新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の生後6ヵ月以上の国民に対する全額公費でのワクチン接種がついに3月31日に終了する。2024年4月1日から新型コロナはインフルエンザと同じく個人での予防を主眼とする予防接種法のB類疾病となり、ワクチン接種の対象者を65歳以上の高齢者および60~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される人、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染で免疫機能に障害があって日常生活がほとんど不可能な人とし、秋冬の定期接種へと切り替わる。これ自体は現状を考えれば、多くの医療従事者が納得するだろう。B類疾病となれば、ご存じのように定期接種対象者は無償とはいかない。厚生労働省が示した自己負担額の標準的な接種費用は7,000円である。ワクチン製造企業に対する非公開ヒアリングで希望小売価格を聞いた結果を踏まえ、ワクチン価格を1万1,600円とし、これに医師の手技料3,740円を加え、接種1回あたりの費用は1万5,300円程度と試算。国は接種1回あたり8,300円を助成金として自治体に交付する計画だ。また、従来からB類疾病の定期接種は、住民税非課税世帯や生活保護世帯の対象者は無償なため、これを念頭に市区町村には接種費用総額の3割を地方交付税として手当てする1)。ワクチン価格は私個人の予想からそう外れてはいなかったが、接種対象者の自己負担額はインフルエンザワクチンの約4倍。新規モダリティのワクチンであるため、この価格はある意味仕方ないが、消費者目線ではかなりに高いと言える。おそらく市区町村によっては、接種対象者の自己負担分も負担して無料にするところも出てくるだろうが、全体から見れば、おそらくそれは少数派ではないだろうか?こうなると定期接種対象者の中には接種の差し控えも増えてくるだろうと思われる。もっとも国内の高齢者の新型コロナワクチン接種率は3回目までで90%超、4回目以降の総接種回数も2024年3月17日現在9,364万7,589回であることを考えれば、この先1年程度の短期で見るならば、高齢者での感染拡大とそれに伴う重症者・死亡者の増加懸念はそれほど大きくはないだろうと個人的には受け止めている。ただ、長期的に見ると、やや違う見方ができる。とりわけ高齢者に関わる層の接種率の低下が不安要素の一つだ。代表格は若年の医療従事者と介護関係者だが、これまでのインフルエンザでの経験や個人あるいは所属組織の可処分所得から考えると、懸念すべきは後者の介護従事者である。医療従事者と比べても重症化リスクの高い高齢者に集中的に接する介護従事者の平均給与(手当・賞与を含む)は、厚生労働省の「令和4年度介護従事者処遇等調査結果」によると、同年12月時点で月額31万8,230円。国税庁による「令和3年分民間給与実態統計調査」の民間給与所得者の平均給与月額(同調査年額を月額換算)36万9,417円と比べれば、5万円以上の格差がある。ちなみに前述の介護職員の平均給与月額は、岸田 文雄首相が就任直後から介護・看護・保育従事者の賃上げを政権の重要方針に掲げ、介護従事者に関しては2022年2月から補助金、同年10月から介護職員等ベースアップ等支援加算を介護報酬に新設した後の結果である。実際、同調査結果からは前年同月と比べて平均給与月額は1万7,490円増えたが、それでもまだこれほどの格差があるのだ。この状態で介護従事者を任意接種にして1万5,000円以上の自己負担を求めるのはやや酷である。さらに今さら言うまでもなく、人によってはこの経済的負担に加え、接種後2~3日の倦怠感と発熱の副反応という肉体的負担を凌がなければならない。しかも、高齢者施設の経営状況は近年厳しさを増している。独立行政法人福祉医療機構が2月上旬に発表したデータによると、施設系サービスの代表格とも言える特別養護老人ホームのサービス活動収益対サービス活動増減差額比率(企業で言えば利益率に相当)は、2022年度で従来型が0.3%、ユニット型が4.1%。それぞれ前年度から1.1ポイント、0.7ポイント低下している。同年度の赤字施設割合は従来型が48.1%、ユニット型が34.5%で、いずれも前年度から拡大し、従来型の約半数が赤字となる極めて深刻な状況だ。施設側に介護従事者のワクチン接種を補助できる余裕はないと言ったほうがよいだろう。インフルエンザワクチンの接種に関しては、東京都目黒区のように高齢者施設を含む入所系福祉施設職員への接種補助を行っているケースもあるが、まだ稀な動きである。確かに現時点での高齢者の新型コロナワクチン接種率を考えれば、介護従事者の持ち込みによる感染・発症が発生しても、重症化は短期的には避けられるかもしれない。しかし、新型コロナでは感染・発症を繰り返すほど、後の重症化リスクが高まるとの報告もある。また、昨今の変異株に対し新型コロナワクチンの感染・発症予防効果は低下している。介護従事者などを通じて施設に繰り返し感染が持ち込まれれば、あまり良い結末は想像できないはずである。その意味で、とりわけ介護従事者の新型コロナワクチン接種に関しては、別枠の補助を設けたほうが望ましいのではないかと個人的には思わずにいられないのだが…。参考1)厚生労働省:新型コロナウイルスワクチンの接種について(令和6年3月15日)