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第2回 薬物療法のキホン(総論)【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第2回】薬物療法のキホン(総論)-薬物療法のポイントを教えてください。 糖尿病では、血糖のみならず、体重、血圧、脂質の良好なコントロール状態を維持し、細小血管合併症や動脈硬化性疾患の発症・進展を抑制し、健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)を維持し、寿命を確保することが求められます1)。そのために、まず、食事・運動療法から開始し、効果がなければ薬物療法を開始しますが、そのときも重要なのは“食事・運動療法”です。 第1回でもお話ししましたが、糖尿病では、食事・運動療法は治療の大前提です(第1回 食事療法・運動療法のキホン)。食事・運動療法、とくに食事療法が守られなければ、薬物療法の効果が十分に得られないからです。薬物治療を開始する際には、患者さんに“食事療法の代わりになる薬はない”こと、“食事療法が守られないと、どんな薬を使っても十分な効果が得られない”ことをお伝えするとよいでしょう。また、薬物療法で期待できる効果が得られないときには、食事・運動療法が守られていない可能性があるので、生活習慣が乱れていないかを確認してください。-経口血糖降下薬のファーストチョイスは?DPP-4阻害薬かメトホルミンかで迷っています。 DPP-4阻害薬、メトホルミンのいずれの薬剤も単独で低血糖を来しにくく、体重増加を来さないという点で使いやすい薬剤です。 DPP-4阻害薬は、腎機能、あるいは肝機能障害に注意が必要ですが、薬剤によって異なるので、各薬剤の腎・肝機能障害のある患者さんに対する適応を確認して選択します。メトホルミンは、高齢者や腎機能低下進行例注)では注意が必要ですが、薬価が安いというメリットがあります。糖尿病患者さんは他の薬剤を服用していることも多いため、経済的事情を考慮するのも大切な視点です。 私は、メトホルミンを最初に処方することが比較的多く、メトホルミンが使えない場合はDPP-4阻害薬を選択することがあります。また、メトホルミンで治療を開始するも、副作用である消化器症状のために治療が継続できない場合には、DPP-4阻害薬に切り替えることがあります。 DPP-4阻害薬はインスリン分泌促進系の薬剤で、メトホルミンはインスリン抵抗性改善系の薬剤ですので、若くて肥満があり、食事療法が守れない方であればメトホルミン、非肥満、高齢であればDPP-4阻害薬という考え方もよいと思います。それぞれの薬剤の特性や副作用、禁忌などを考慮し、患者さんに適した薬剤を選択するとよいでしょう。注:メトグルコを除くビグアナイド薬は、腎機能障害患者に禁忌となっています。-機序の異なる薬の使い分け・効果的な組み合わせを教えてください。 日本糖尿病学会の「糖尿病治療ガイド」1)では、病態に合わせた経口血糖降下薬の選択が示されています。病態で分けるとすれば、インスリン分泌能低下、あるいはインスリン抵抗性のどちらが優位かによって薬剤を選択できます。いずれかを使っても目標とする血糖コントロールが得られなければ、異なる作用機序の薬剤を組み合わせるのも有用です。 もう1つは、「平均血糖」と「血糖変動」という考え方です。診断、あるいは治療開始後の血糖コントロール状況の確認のために、空腹時血糖値とHbA1cでみることが多いと思いますが、HbA1cは、過去1~2ヵ月の血糖値の平均をみているものです。しかし、血糖値は1日の中で常に変動していて、その変動する血糖値をならした「平均血糖」を反映しているのがHbA1cであり、そこに大きく影響するのは基本的には空腹時血糖値です。 血糖値は、食事のたびに上昇し、食後1時間半~2時間の間にピークを迎えますが(食後血糖値)、糖尿病、あるいは予備軍であるIGT(境界型)で、食後高血糖が心血管疾患のリスクになることが、幾つかの大規模臨床試験で示されています2,3)。しかし、食後高血糖をHbA1cでみることはむずかしく、空腹時血糖値やHbA1cで良好な血糖コントロールが得られている患者さんで、CGM(Continuous Glucose Monitoring:持続血糖測定)により24時間の血糖変動をみたところ、空腹時血糖値は正常範囲でしたが、食後高血糖が認められたというケースも少なくありません。 糖尿病で血糖値を下げる目的は、合併症の予防です。生命予後を左右する心血管疾患などの大血管障害予防のために、空腹時血糖のみならず、食後の急激な血糖上昇を抑制し、血糖変動幅を縮小させる治療が重要だと私は考えています。血糖変動幅の縮小によりHbA1cが低下することを、われわれは「“上質”なHbA1cの低下」と呼んでいます。 平均血糖、つまり主に空腹時血糖値を低下させる薬剤には、スルホニル尿素(SU)薬、チアゾリジン薬、BG薬、SGLT2阻害薬があります。対して、食後高血糖を抑制し、血糖変動幅を縮小させる薬剤には、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)と速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)があります。DPP-4阻害薬はいずれの作用も持ちます。空腹時血糖値、食後血糖値ともに高い患者さんであれば、空腹時血糖値を低下させる薬剤と食後高血糖を改善する薬剤を組み合わせるのもよいでしょう。 このように病態や血糖日内変動幅などの観点から患者さんに適した薬剤を選択しますが、加えて年齢や肝・腎などの生理機能、肥満の有無や低血糖を起こしにくい、といった視点も合わせて、最適な治療を決めていきます。-同グループ内での薬剤の選択、使い分けを教えてください。 いざ、薬剤を選択しようとすると、同種・同効の薬剤が多いものもあり、どれを選べばよいか迷うこともあると思います。とくに比較的新しい薬剤はそうですね。 DPP-4阻害薬は血糖低下作用についてはおおむね同等ですが、排出経路が薬剤によって異なります。主に腎で排泄される薬剤と肝で排泄される薬剤があるので、腎機能、もしくは肝機能障害がある患者さんで使い分けるとよいでしょう。また、半減期の違いから、1日1回投与のものと2回投与のものがあるので、服薬回数で選択するというのもよいでしょう。 最も新しい薬剤であるSGLT2阻害薬は、腎の近位尿細管で糖の再吸収を担うSGLT2を阻害することで、腎における糖の再吸収を抑制し、尿中への糖排泄を促進させて血糖を低下させます。SGLT2阻害薬の血糖低下作用についてもおおむね同等と思っていますが、私は、SGLT2以外に腎でブドウ糖の再吸収を担うSGLT2と同じファミリーであるSGLT1に注目しています。 腎における糖の再吸収の90%はSGLT2によるものですが、残り10%を担っているのがSGLT1です4)。このSGLT1は主に小腸に存在し、腸管からの糖の吸収・再吸収という役割を担っています5)。SGLT2に選択性が高い場合、腎における糖の再吸収抑制という点ではよいのですが、食直後に消化管から糖が吸収されるスピードに、尿細管での糖の再吸収阻害がどうしても追い付かないという問題が出てきます。SGLT2阻害薬の中にはSGLT2に対する選択性が低い、つまりSGLT1の阻害作用を持つ薬剤もあり、その場合、食後の消化管における糖の吸収遅延が期待できます。実際に、カナグリフロジン(商品名:カナグル)で、小腸での糖の吸収を遅らせ、食後の血糖上昇を抑制したというデータもあります6)。α-GIと同じ作用と考えてよいでしょう。このSGLT1の小腸における糖の吸収・再吸収という作用に着目し、SGLT2とSGLT1の両方を阻害するデュアルインヒビターが現在、海外では開発中です。 インスリン分泌を促進する消化管ホルモンであるインクレチンに着目し、7年前にその関連薬として臨床応用できるようになったのがDPP-4阻害薬と、もう1つGLP-1受容体作動薬があります。間接的に作用するのがDPP-4阻害薬であるのに対し、直接作用するのがGLP-1受容体作動薬です。GLP-1受容体作動薬は注射ですので、インスリン療法のようにきめ細やかな用量設定の必要はないものの、患者さんの注射に対する心理的障壁もあって、導入は容易ではないかもしれません。GLP-1受容体作動薬では、血糖低下以外に体重減少が期待できますが、これは、中枢神経系にも作用して食欲を抑制する以外に、胃の内容物の排出を遅らせることで、内容物が胃にとどまっている時間が長くなり、満腹感を感じやすいことにもよります。 GLP-1受容体作動薬には、半減期の長い長時間作用型[リラグルチド(商品名:ビクトーザ)、持続性エキセナチド(同:ビデュリオン)、デュラグルチド(同:トルリシティ)]と、半減期の短い短時間作用型[エキセナチド(同:バイエッタ)、リキシセナチド(同:リキスミア)]があり、短時間作用型のものは、高濃度のGLP-1が維持されないため、胃排泄の遅延作用に対するタキフィラキシー(効果減弱)が起こりにくいという特徴があります。胃排泄の遅延作用が継続するため、体重減少効果が期待でき、さらに、食後高血糖の抑制作用が期待できます。対して、長時間作用型のものは、高濃度のGLP-1が維持されるため、空腹時の血糖低下作用が期待できます。1)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2015-2016. 文光堂;2016. 2)DECODE Study Group, the European Diabetes Epidemiology Group. Arch Intern Med 2001;161:397-405.3)Tominaga M et al. Diabetes Care 1999;22:920-924.4)Fujita Y, et al . J Diabetes Investig. 2014;5:265-275.5)稲垣暢也編. 糖輸送体の基礎を知る. SGLT阻害薬のすべて. 先端医学社;2014. 6)Polidori D et al. Diabetes Care. 2013;36:2154-2161.

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EMPA-REG OUTCOME試験のサブ解析:SGLT2阻害薬は糖尿病腎症の進展を抑制する(解説:吉岡 成人 氏)-561

エンパグリフロジンによる糖尿病腎症の進展阻止 SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンが、心血管イベントの既往がある2型糖尿病患者において心血管死、総死亡を抑止することを示したEMPA-REG OUTCOME試験のサブ解析が第76回米国糖尿病学会で発表され、その詳細がNew Engl J Med誌に掲載された(オンライン版2016年6月14日号)。 顕性腎症の発症(尿アルブミン>300mg/gCr)、推定GFR(eGFR)が45mL/min/1.73m 2以下となり血清クレアチニン値が倍増する、腎代替療法の導入、腎疾患による死亡の4つのアウトカムを「腎症の発症・進展」として、Cox比例ハザードモデルによる解析を行った結果、腎症の発症・進展がエンパグリフロジン投与群で12.7%(4,124例中525例)、プラセボ群18.8%(2,061例中388例)でエンパグリフロジンでの有意なリスク低下が確認された(ハザード比0.61、95%信頼区間:0.53~0.70、p<0.001)。対象者のeGFRは30mL/min/1.73m2以上で、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAS)阻害薬が80%に、利尿薬が58%に処方されている。顕性腎症への進行、血清クレアチニン値の倍加、腎代替療法導入の各項目単独でもエンパグリフロジンは有意にリスクを低下させた。しかし、腎症を伴わない患者が早期腎症(尿アルブミン≧30mg/gCr)に至るリスクは軽減されていない(エンパグリフロジン群:51.5%、プラセボ群:51.2%、ハザード比0.95、95%信頼区間:0.87~1.04、p=0.25)。腎症の進展と発症に関わるメカニズムは違うのか エンパグリフロジン投与群では、投与量(10mg、25mg)にかかわらず、一過性にeGFRが2~3mL/min/1.73m2低下するが、その後回復傾向を示している。一方、プラセボ群ではeGFRが経時的に緩やかに低下している。 糖尿病では、尿糖の排泄に伴い近位尿細管でのグルコース量が増加すると、SGLT2の作用によりグルコースとともにNa+の再吸収が活性化するため、遠位尿細管にある傍糸球体装置の緻密斑(macula densa)に到達するNa、Clが減少し、GFRの低下によるClの減少と同様な事態が生じる。そこで、尿細管糸球体フィードバック(TGF:tubuloglomerular feedback)機構のシグナルが作動し、糸球体の輸入細動脈を拡張させて糸球体内圧を上昇させるために糸球体過剰濾過がもたらされる。一方、SGLT2阻害薬が投与されると、グルコースの再吸収は阻害され、近位尿細管でのNa+の再吸収も減少し、緻密斑に到達するNa、Clが増加する。そのため、GFRの低下が改善された状態と同様な状況となり、輸入細動脈の拡張が解除されて糸球体内圧の過剰濾過が是正されるというのである。このTGF機構の回復が、腎症の進展を抑止したのではないかと推察されている。 心血管イベントの既往がある2型糖尿病患者における腎症の進展が、エンパグリフロジンで抑止されうることは示された。しかし、早期腎症の発症抑止にはつながらない可能性も同時に示唆された。今後は、その背景にある病態の解明が待たれる。

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エンパグリフロジン、腎症の発症・進行を抑制/NEJM

 心血管リスクが高い2型糖尿病患者において、SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)は、標準治療への追加によりプラセボと比較して腎症の進行を抑制し、臨床的な腎イベント発生率を低下させることが明らかとなった。ドイツ・Wurzburg University ClinicのChristoph Wanner氏らが、EMPA-REG OUTCOME試験で事前に規定されていた腎アウトカムの解析から報告した。糖尿病では心血管および腎イベントのリスクが増加するが、エンパグリフロジンは、EMPA-REG OUTCOME試験において標準治療への追加により、主要評価項目である心血管イベントのリスクを有意に低下させることが報告され、注目されていた。NEJM誌オンライン版2016年6月14日号掲載の報告。約7,000例でエンパグリフロジン上乗せによる腎アウトカムを解析 EMPA-REG OUTCOME試験は、42ヵ国、590施設において、心血管イベントの発生リスクが高い2型糖尿病患者を対象に、エンパグリフロジンの標準治療への上乗せによる有効性を評価した長期無作為化二重盲検プラセボ対照試験である。心血管疾患の既往歴を有し、推算糸球体濾過量(eGFR)が30mL/分/1.73m2以上の2型糖尿病患者7,020例が、エンパグリフロジン(10mgまたは25mg、1日1回投与)群、またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。 事前に規定された腎アウトカムは、腎症の発症・悪化(微量アルブミン尿の進行、血清クレアチニン倍化、腎代替療法の導入、腎疾患による死亡)、ならびにアルブミン尿の新規発症であった。プラセボと比較し、腎症の発症・悪化が39%、腎代替療法導入が55%低下 治療期間中央値2.6年、観察期間中央値3.1年において、腎症の発症・悪化はエンパグリフロジン群で12.7%(525/4,124例)、プラセボ群で18.8%(388/2,061例)にみられ、エンパグリフロジン群で39%有意なリスク低下が認められた(ハザード比[HR]:0.61、95%信頼区間[CI]:0.53~0.70、p<0.001)。血清クレアチニンの倍化は、エンパグリフロジン群で1.5%(70/4,645例)、プラセボ群で2.6%(60/2,323例)にみられ、エンパグリフロジン群で44%有意にリスクが低下した(HR:0.56、95%CI:0.39~0.79、p<0.001)。また、腎代替療法の導入率はエンパグリフロジン群0.3%(13/4,687例)、プラセボ群0.6%(14/2,333例)であり、エンパグリフロジン群で55%有意にリスクが低下した(HR:0.45、95%CI:0.21~0.97、p=0.04)。アルブミン尿の新規発症率は、両群間で有意差は認められなかった(エンパグリフロジン群51.5%、プラセボ群51.2%、p=0.25)。 ベースラインに腎機能障害を有する患者におけるエンパグリフロジンの有害事象プロファイルは、患者全体で報告されたものと類似していた。 なお、著者は「今回の結果は心血管リスクの低い2型糖尿病患者にも一般化できるというわけではなく、エンパグリフロジン投与患者でみられた腎機能の違いを説明するには追跡期間が不十分である」と述べている。

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eGFRが30未満は禁忌-メトホルミンの適正使用に関する Recommendation

 日本糖尿病学会「ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会」は、5月12日に「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」の改訂版を公表した。 わが国では、諸外国と比較し、頻度は高くないもののメトホルミン使用時に乳酸アシドーシスが報告されていることから2012年2月にRecommendationを発表、2014年3月に改訂を行っている。とくに今回は、米国FDAから“Drug Safety Communication”が出されたことを受け、従来のクレアチニンによる腎機能評価から推定糸球体濾過量eGFRによる評価へ変更することを主にし、内容をアップデートしたものである。メトホルミン使用時の乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴1)腎機能障害患者(透析患者を含む)2)脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態3)心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者4)高齢者 高齢者だけでなく、比較的若年者でも少量投与でも、上記の特徴を有する患者で、乳酸アシドーシスの発現が報告されていることに注意。メトホルミンの適正使用に関するRecommendation まず、経口摂取が困難な患者や寝たきりなど、全身状態が悪い患者には投与しないことを大前提とし、以下の事項に留意する。1)腎機能障害患者(透析患者を含む) 腎機能を推定糸球体濾過量eGFRで評価し、eGFRが30(mL/分/1.73m2)未満の場合にはメトホルミンは禁忌である。eGFRが30~45の場合にはリスクとベネフィットを勘案して慎重投与とする。脱水、ショック、急性心筋梗塞、重症感染症の場合などやヨード造影剤の併用などではeGFRが急激に低下することがあるので注意を要する。eGFRが30~60の患者では、ヨード造影剤検査の前あるいは造影時にメトホルミンを中止して48時間後にeGFRを再評価して再開する。なお、eGFRが45以上また60以上の場合でも、腎血流量を低下させる薬剤(レニン・アンジオテンシン系の阻害薬、利尿薬、NSAIDsなど)の使用などにより腎機能が急激に悪化する場合があるので注意を要する。2)脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取などの患者への注意・指導が必要な状態 すべてのメトホルミンは、脱水、脱水状態が懸念される下痢、嘔吐などの胃腸障害のある患者、過度のアルコール摂取の患者で禁忌である。利尿作用を有する薬剤(利尿剤、SGLT2阻害薬など)との併用時には、とくに脱水に対する注意が必要である。 以下の内容について患者に注意・指導する。また、患者の状況に応じて家族にも指導する。シックデイの際には脱水が懸念されるので、いったん服薬を中止し、主治医に相談する。脱水を予防するために日常生活において適度な水分摂取を心がける。アルコール摂取については、過度の摂取を避け適量にとどめ、肝疾患などのある症例では禁酒する。3)心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者 すべてのメトホルミンは、高度の心血管・肺機能障害(ショック、急性うっ血性心不全、急性心筋梗塞、呼吸不全、肺塞栓など低酸素血症を伴いやすい状態)、外科手術(飲食物の摂取が制限されない小手術を除く)前後の患者には禁忌である。また、メトホルミンでは軽度~中等度の肝機能障害には慎重投与である。4)高齢者 メトホルミンは高齢者では慎重に投与する。高齢者では腎機能、肝機能の予備能が低下していることが多いことから定期的に腎機能(eGFR)、肝機能や患者の状態を慎重に観察し、投与量の調節や投与の継続を検討しなければならない。とくに75歳以上の高齢者ではより慎重な判断が必要である。「ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会」からのお知らせはこちら。

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2度目の改訂版を発表-SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation

 日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」は、5月12日に「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」の改訂版を公表した。SGLT2阻害薬は、新しい作用機序を有する2型糖尿病薬で、現在は6成分7製剤が臨床使用されている。 Recommendationでは、75歳以上の高齢者への投与を慎重投与とするほか、65歳以上でも老年症候群の患者には同様としている、また、利尿薬との併用については、「推奨されない」から「脱水に注意する」に変更された。そのほか、全身倦怠・悪心嘔吐・体重減少などを伴う場合には、血糖値が正常に近くともケトアシドーシスの可能性を考慮し、血中ケトン体の確認を推奨している。 今回の改訂は、1年9ヵ月ぶりの改訂となるが、その間に報告された副作用情報や高齢者(65歳以上)に投与する場合の全例特定使用成績調査による、高齢者糖尿病における副作用や有害事象の発生率や注意点について、一定のデータが得られたことから、改訂されたものである。 本委員会では、「これらの情報をさらに広く共有することにより、副作用や有害事象が可能な限り防止され、適正使用が推進されるよう、Recommendationをアップデートする」と表明している。Recommendation1)インスリンやSU薬などインスリン分泌促進薬と併用する場合には、低血糖に十分留意して、それらの用量を減じる(方法については下記参照)。患者にも低血糖に関する教育を十分行うこと。2)75歳以上の高齢者あるいは65~74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合には慎重に投与する。3)脱水防止について患者への説明も含めて十分に対策を講じること。利尿薬の併用の場合にはとくに脱水に注意する。4)発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。5)全身倦怠・悪心嘔吐・体重減少などを伴う場合には、血糖値が正常に近くてもケトアシドーシスの可能性があるので、血中ケトン体を確認すること。6)本剤投与後、薬疹を疑わせる紅斑などの皮膚症状が認められた場合には速やかに投与を中止し、皮膚科にコンサルテーションすること。また、必ず副作用報告を行うこと。7)尿路感染・性器感染については、適宜問診・検査を行って、発見に努めること。問診では質問紙の活用も推奨される。発見時には、泌尿器科、婦人科にコンサルテーションすること。副作用の事例と対策(抜粋)重症低血糖 重症低血糖の発生では、インスリン併用例が多く、SU薬などのインスリン分泌促進薬との併用が次いでいる。DPP-4阻害薬の重症低血糖の場合にSU薬との併用が多かったことに比し、本剤ではインスリンとの併用例が多いという特徴がある。SGLT2阻害薬による糖毒性改善などによりインスリンの効きが急に良くなり低血糖が起こっている可能性がある。このように、インスリン、SU薬または速効型インスリン分泌促進薬を投与中の患者へのSGLT2阻害薬の追加は、重症低血糖を起こす恐れがあり、あらかじめインスリン、SU薬または速効型インスリン分泌促進薬の減量を検討することが必要である。また、これらの低血糖は、比較的若年者にも生じていることに注意すべきである。 インスリン製剤と併用する場合には、低血糖に万全の注意を払い、インスリンをあらかじめ相当量減量して行うべきである。また、SU薬にSGLT2阻害薬を併用する場合には、DPP-4阻害薬の場合に準じて、以下のとおりSU薬の減量を検討することが必要である。 ・グリメピリド2mg/日を超えて使用している患者は2mg/日以下に減じる ・グリベンクラミド1.25mg/日を超えて使用している患者は1.25mg/日以下に減じる ・グリクラジド40mg/日を超えて使用している患者は40mg/日以下に減じるケトアシドーシス インスリンの中止、極端な糖質制限、清涼飲料水多飲などが原因となっている。血糖値が正常に近くてもケトアシドーシスの可能性がある。とくに、全身倦怠・悪心嘔吐・体重減少などを伴う場合には血中ケトン体を確認する。SGLT2阻害薬の投与に際し、インスリン分泌能が低下している症例への投与では、ケトアシドーシスの発現に厳重な注意が必要である。同時に、栄養不良状態、飢餓状態の患者や極端な糖質制限を行っている患者に対するSGLT2阻害薬投与開始やSGLT2阻害薬投与時の口渇に伴う清涼飲料水多飲は、ケトアシドーシスを発症させうることにいっそうの注意が必要である。脱水・脳梗塞など 循環動態の変化に基づく副作用として、引き続き重症の脱水と脳梗塞の発生が報告されている。脳梗塞発症者の年齢は50~80代である。脳梗塞はSGLT2阻害薬投与後数週間以内に起こることが大部分で、調査された例ではヘマトクリットの著明な上昇を認める場合があり、SGLT2阻害薬による脱水との関連が疑われる。また、SGLT2阻害薬投与後に心筋梗塞・狭心症も報告されている。SGLT2阻害薬投与により通常体液量が減少するので、適度な水分補給を行うよう指導すること、脱水が脳梗塞など血栓・塞栓症の発現に至りうることに改めて注意を喚起する。75歳以上の高齢者あるいは65~74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合や利尿薬併用患者などの体液量減少を起こしやすい患者に対するSGLT2阻害薬投与は、注意して慎重に行う、とくに投与の初期には体液量減少に対する十分な観察と適切な水分補給を必ず行い、投与中はその注意を継続する。脱水と関連して、高血糖高浸透圧性非ケトン性症候群も報告されている。また、脱水や脳梗塞は高齢者以外でも認められているので、非高齢者であっても十分な注意が必要である。脱水に対する注意は、SGLT2阻害薬投与開始時のみならず、発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には万全の注意が必要であり、SGLT2阻害薬は必ず休薬する。この点を患者にもあらかじめよく教育する。また、脱水がビグアナイド薬による乳酸アシドーシスの重大な危険因子であることに鑑み、ビグアナイド薬使用患者にSGLT2阻害薬を併用する場合には、脱水と乳酸アシドーシスに対する十分な注意を払う必要がある(「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」)。皮膚症状 皮膚症状は掻痒症、薬疹、発疹、皮疹、紅斑などが副作用として多数例報告されているが、非重篤のものが大半を占める。すべての種類のSGLT2阻害薬で皮膚症状の報告がある。皮膚症状が全身に及んでいるなど症状の重症度やステロイド治療がなされたことなどから重篤と判定されたものも報告されている。皮膚症状はSGLT2阻害薬投与後1日目からおよそ2週間以内に発症している。SGLT2阻害薬投与に際しては、投与日を含め投与後早期より十分な注意が必要である。あるSGLT2阻害薬で皮疹を生じた症例で、別のSGLT2阻害薬に変更しても皮疹が生じる可能性があるため、SGLT2阻害薬以外の薬剤への変更を考慮する。いずれにせよ皮疹を認めた場合には、速やかに皮膚科医にコンサルトすることが重要である。とくに粘膜(眼結膜、口唇、外陰部)に皮疹(発赤、びらん)を認めた場合には、スティーブンス・ジョンソン症候群などの重症薬疹の可能性があり、可及的速やかに皮膚科医にコンサルトするべきである。尿路・性器感染症 治験時よりSGLT2阻害薬使用との関連が認められている。これまで、多数例の尿路感染症、性器感染症が報告されている。尿路感染症は腎盂腎炎、膀胱炎など、性器感染症は外陰部膣カンジダ症などである。全体として、女性に多いが男性でも報告されている。投与開始から2、3日および1週間以内に起こる例もあれば2ヵ月程度経って起こる例もある。腎盂腎炎など重篤な尿路感染症も引き続き報告されている。尿路感染・性器感染については、質問紙の活用を含め適宜問診・検査を行って、発見に努めること、発見時には、泌尿器科、婦人科にコンサルテーションすることが重要である。 本委員会では、SGLT2阻害薬の使用にあたっては、「特定使用成績調査の結果、75歳以上では安全性への一定の留意が必要と思われる結果であった。本薬剤は適応やエビデンスを十分に考慮したうえで、添付文書に示されている安全性情報に十分な注意を払い、また本Recommendationを十分に踏まえて、適正使用されるべきである」と注意を喚起している。「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」からのお知らせはこちら。

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DPP-4阻害薬は2型糖尿病患者における重度腎不全のリスクを増加させる可能性がある(解説:住谷 哲 氏)-520

 DPP-4阻害薬は、わが国で最も多く処方されている血糖降下薬である。しかし、DPP-4阻害薬が2型糖尿病患者の心血管イベントを抑制する可能性は、TECOS試験1)などの3つのランダム化比較試験(RCT)の結果からほぼ否定された。同時に、これら3つのRCTにおいて、DPP-4阻害薬が他の血糖降下薬に比較して心血管イベントを増加させる可能性もほぼ否定された。つまり、少なくとも心血管イベント発症に対する安全性は担保されたことになる。しかし、DPP-4阻害薬が細小血管障害(網膜症、腎症、神経障害)に及ぼす影響については、これまでほとんど報告されていない。そこで著者らは、real worldにおいてDPP-4阻害薬が2型糖尿病患者の細小血管障害のリスクを減少させるか否かを検討した。その結果は、DPP-4阻害薬がメトホルミンと比較して重度腎不全のリスクを約3.5倍に増加させる可能性を示唆しており、DPP-4阻害薬が多用されているわが国の2型糖尿病診療に及ぼす影響は少なくない。 英国プライマリケアのデータベースであるQResearchデータベースを用いて、2007年4月1日から2015年1月31日の間に、2型糖尿病と診断された患者46万9,688例(25~84歳)をオープンコホートに組み込み、DPP-4阻害薬(80%はシタグリプチン)、チアゾリジン薬(90%はピオグリタゾン)、メトホルミン、SU薬、インスリン、その他の血糖降下薬(αGI薬、グリニド薬、SGLT2阻害薬)と5つの臨床アウトカム(失明、高血糖、低血糖、下肢切断、重度腎不全)との関連を検討した(ここで下肢切断は神経障害と考えられている点に注意が必要である)。血糖降下薬は、単剤、2剤併用、3剤併用のすべての組み合わせについてそれぞれ検討した。重度腎不全は、透析導入、腎移植、CKD ステージ5(eGFR<15 mL/min/1.73m2)のいずれかと定義した。それぞれのアウトカムに対するハザード比(HR)を、Cox比例ハザードモデルにより計算した。それぞれの薬剤への暴露(exposure)は、たとえば、ある患者がコホートに組み込まれた最初12ヵ月間はメトホルミンのみ、その後メトホルミンとチアゾリジン薬との併用24ヵ月、その後投薬なし6ヵ月の時点でイベントを発症した場合はメトホルミン単剤12ヵ月、メトホルミン+チアゾリジン薬24ヵ月、無投薬6ヵ月としてモデルに組み込まれた。 観察期間中に、27万4,324例(58.4%)が何らかの血糖降下薬を処方された。そのうちメトホルミンが25万6,024例(投薬群の93.3%)に処方された。一方、DPP-4阻害薬は3万2,533例(投薬群の11.9%)に処方された。その結果は表3に示されているように、メトホルミンのみが失明(HR:0.70、95%信頼区間:0.66~0.75、以下同様)、高血糖(0.65、0.62~0.67)、低血糖(0.58、0.55~0.61)、下肢切断(0.70、0.64~0.77)、重度腎不全(0.41、0.37~0.46)とすべてのアウトカムのリスクを減少させた。 これに基づいて、各薬剤群(単剤、2剤併用、3剤併用)および無投薬群のメトホルミン単剤投与群に対する、それぞれの5つのアウトカムの調整HRが表5にまとめられている。DPP-4阻害薬単剤投与群においては、失明(1.39、0.66~2.93)、高血糖(1.44、0.85~2.43)、低血糖(0.83、0.21~3.33)、下肢切断(1.03、0.33~3.20)、重度腎不全(3.52、2.04~6.07)であり、重度腎不全のリスクのみがメトホルミン単剤投与群に比較して3.52倍増加していた。この重度腎不全のリスク増加は、メトホルミン+DPP-4阻害薬の2剤併用群では消失(0.59、0.28~1.25)していたが、SU薬+DPP-4阻害薬の2剤併用群では残存(3.21、2.08~4.93)していた。さらに、メトホルミン+DPP-4阻害薬+SU薬の3剤併用群においては重度腎不全リスクの増加は認められなかった(0.68、0.39~1.20)。 本論文の結果は、DPP-4阻害薬単剤投与は2型糖尿病患者において重度腎不全のリスクを約3.5倍に増加させる可能性を示唆する。しかし、本論文はRCTではなくコホート研究であるため、因果関係を厳密に証明することは困難である。糖尿病罹病期間、血清クレアチニン値、HbA1c、合併症の有無をはじめとした26の潜在的交絡因子で調整した結果であるが、未知の交絡因子の残存は否定できない。著者らも本論文の限界として、recall bias、indication bias、channelling biasについて論じているが、DPP-4阻害薬を単剤投与された患者(おそらく何らかの理由でメトホルミンが投与できなかった患者)が、重度腎不全発症の高リスク群であった可能性が残るであろう。 単純には、これらの患者は最初から腎機能が悪かったのではないかと考えられるが、表2のbaseline characteristicsを見る限り、血清クレアチニン値はメトホルミン投与群(84.8 μmol/L、0.96 mg/dL)、DPP-4阻害薬投与群(84.9 μmol/L、0.96 mg/dL)であり、両群に差は認められていない。さらに、コホートに組み込まれた時点ですでに腎疾患(kidney diseaseと記載されているが詳細は不明)を有する患者から発症した重度腎不全は解析から除外されている。 DPP-4阻害薬が、尿中アルブミン排泄量を減少させるとの報告は散見されるが2)、病態生理学的および薬理学的にDPP-4阻害薬が重度腎不全を来すメカニズムは説明困難であると思われる。しかし、シタグリプチンの添付文書には重大な副作用に急性腎不全(頻度不明)が記載されている3)4)。したがって、本論文の結果は医薬品安全性監視(pharmacovigilance)の観点から解釈される必要がある。つまり、real worldで発生するDPP-4阻害薬の有害事象シグナルは微小であり、本論文のような膨大なデータの解析によって初めて明らかになったと考えられる。 英国においてはメトホルミンが第1選択薬とされていることから、DPP-4阻害薬の単剤投与はきわめて例外的であるが、わが国においては、メトホルミンではなくDPP-4阻害薬のみを投与されている患者はきわめて多く存在している。メトホルミンとの併用では重度腎不全の発症リスクが増加しないことから、DPP-4阻害薬は第1選択薬ではなく、メトホルミンへの追加薬剤としての位置付けが適切である。

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スーグラほかSGLT2阻害薬は高齢者に安全か

 3月3日、アステラス製薬株式会社は、「本邦の高齢者におけるSGLT2阻害薬の安全性と有効性」と題し、演者に横手 幸太郎氏(千葉大学大学院医学研究院 細胞治療内科学講座 教授)を招き、プレスセミナーを開催した。講演では、65歳以上の高齢者7,170人を対象としたSGLT2阻害薬イプラグリフロジン(商品名:スーグラ)錠の大規模調査「STELLA-ELDER」の中間報告も行われた。約10年でHbA1cは下がったが… はじめに、2型糖尿病をメインにその概要や機序が説明された。わが国の糖尿病患者は、疫学推計で2,050万人(2012年)と予想され、この5年間で予備群といわれている層が減少した半面、糖尿病と確定診断された層は増加しているという。血糖コントロールについては、さまざまな治療薬の発売もあり、2002年と2013年を比較すると、2型糖尿病患者のHbA1cは7.42%から6.96%へと低下している。しかしながら、患者の平均BMIは24.10から25.00と肥満化傾向がみられる。SGLT2阻害薬の課題 これまで糖尿病の治療薬は、SU薬をはじめメトホルミン、チアゾリジン、DPP-4阻害薬などさまざまな治療薬が上市されている。そして、これら治療薬では、患者へ食事療法などの生活介入なく治療を行うと、患者の体重増加を招き、このジレンマに医師、患者は悩まされてきた。 そうした中で発売されたSGLT2阻害薬は、糖を尿中排出することで血糖を下げる治療薬であり、体重減少ももたらす。また、期待される効果として、血糖降下、膵臓機能の改善、血清脂質の改善、血圧の低下、腎機能の改善などが挙げられる。その反面、危惧される副作用として、頻尿による尿路感染症、脱水による脳梗塞などがあり、昨年、日本糖尿病会から注意を促す「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」が発出されたのは記憶に新しい。 米国では、処方率においてDPP-4阻害薬をすでに抜く勢いであるが、わが国では、5%前後と低調である。今後、わが国でも適応の患者にきちんと使えるように、さらなる検証を行い、使用への道筋を作ることが大切だという。スーグラ処方の注意点 続いて、イプラグリフロジン(スーグラ)錠について、高齢者を対象に行われた全例調査「STELLA-ELDER」の中間報告の説明が行われた。 「STELLA-ELDER」は、スーグラの高齢者への安全性について確認することを目的に、2014年4月から2015年7月にかけて、本剤を服用した65歳以上(平均72.2歳)の2型糖尿病患者(n=7,170)について調査したものである。 スーグラの副作用の発現症例率は全体で10.06%(721例)であった。多かった副作用の上位5つをみてみると皮膚疾患(2.27%)が最も多く、次に体液量減少(1.90%)、性器感染症(1.45%)、多尿・頻尿(1.32%)、尿路感染症(0.77%)などであった。いずれも重篤ではなく、90%以上がすでに回復している。また、これら副作用の発現までの日数について、「脱水・熱中症」「脳血管障害」「皮膚関連疾患」「尿路/性器感染」は、投与開始後早期(30日以内)に発現する傾向が報告された。 スーグラの全例調査で注目すべきは、高齢者に懸念される「低血糖」の発現状況である。全例中23例(0.3%)に低血糖が発現し、とりわけBMIが18.5未満の患者では発現率が高い(6.8%)ことが示された。また、腎機能に中等度障害、軽度障害がある患者でも高いことが報告された。その他、体液減少に伴う副作用の発現については、75歳以上(68/2,223例)では75歳未満(68/4,947例)に比べ、発現率が約2倍高くなることも示された。 最後に、横手氏は、「これらの調査により、腎機能が低下している、痩せている高齢者(とくに75歳以上)には、処方でさらに注意が必要となることが示された。今後も適正な治療を実施してほしい」とレクチャーを終えた。アステラス製薬 「STELLA-ELDER」中間報告はこちら(pdfが開きます)「SGLT2阻害薬」関連記事SGLT2阻害薬、CV/腎アウトカムへのベースライン特性の影響は/Lancet

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第25回

第25回:HbA1cだけではなく、患者もみるべし監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 ここ数年、糖尿病をめぐる状況は大きな変化を迎えています。治療目標を個別化することが世界的な流れとなり、日本糖尿病学会のガイドライン1)でも治療目標を患者の状況によって個別に設定することが明記されました。また複数の新薬も登場しています。 普段の診療でも、とくに高齢者では、HbA1cが高めであってもあまり全身状態が悪化しない例を多くの方が経験しているだろうと思います。欧米のガイドラインも含めた世界的な流れを確認しておきたいと思います。 Individualizing Target Goals and Treatment in Patients with Type 2 Diabetes2型糖尿病患者の個別化された治療目標と治療法以下、American family physician 2015年6月1日号1)より抜粋【治療目標について】アメリカとヨーロッパの糖尿病研究学会は、2型糖尿病患者に対して、いつどのように個別化された治療を行うかに焦点をあてたposition statement第2版を発表している。これまで同様に、治療法と治療目標の個別化が提案されている。次のような場合はあまり厳格なコントロールを行うべきではない(訳者注:厳格な目標とは、「HbA1c<7%」のこと)。 低血糖のリスクが高い 疾患の罹患期間が長い 生命予後が短い 進行した血管合併症を含む重大な併存疾患の存在 アドヒアランスの欠如やモチベーションの低さ 資源やサポートシステムが限られている【治療法について】メトホルミンは治療の基礎である。もし有効でなかった場合、ガイドラインでは他の6種類(訳者注:SU薬、チアゾリジン、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体拮抗薬、インスリンの6種類)の薬のどれかの併用を提案しており、有効性の差は臨床上問題にならないとしている。必要なら3剤目も同様であり、患者の好みなどによって個別に調整する。抜粋ここまで。厳しい目標を適用する患者を限定すべきという方向性が強く現れている反面、どの程度の目標が良いのかについては明確にされていません。複数の組織からいくつかの具体的な治療目標の提案がされていますが2)、内容も相互に異なっており、今後の検証が待たれます。肥満の少ない日本人の2型糖尿病患者に対するメトホルミンの血糖コントロール改善についてはMORE studyで検証されており、メトホルミンを第1選択とする本論文の提案は、日本人においても同様に考えてよいと思います。いずれにしろ、機械的にHbA1cの数値だけをみてコントロールをしてはいけないということをあらためて肝に銘じたいと思います。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Shaughnessy AF. Am Fam Physician. 2015;91:788. 2) 日本糖尿病学会. 科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013.(参照2015.11.26) 3) M. Sue Kirkman, et al. Consensus Report: Diabetes in Older Adults. 2012 Oct 25.

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SPRINT試験:厳格な降圧が心血管発症を予防、しかし血圧測定環境が違うことに注意!(解説:桑島 巖 氏)-446

 これまで、フラミンガム研究あるいはわが国の久山町研究、HOMED-BP研究などの観察研究では、収縮期血圧120mmHg以上から心血管合併症が増えてくることが明らかにされており、120mmHgが至適血圧値とされてきた。しかし、降圧薬治療でこのレベルまで下げることの是非については、多くの議論があった。とくに、高齢者では降圧目標値は高めにすべき、という意見は少なくなかった。しかし、本研究は、高齢者や冠動脈疾患の高リスク症例ほど収縮期血圧120mmHgという厳格な降圧が、140mmHgというこれまでの標準値とされたレベルまでの降圧治療よりも、心不全発症を含む心血管合併症の発症予防効果が大きく、生命予後を改善することを示し、J曲線の存在を否定した点で意義がある。決め手は心不全発症が少なかったこと。しかし、なぜ心不全なのか 注目すべきは主要評価項目の中でも、心不全発症と心血管死のみが有意かつ大幅に減少しており、これが全体の主要評価項目を、厳格降圧治療群が好ましいという結果に導いていることである。 このような心不全発症の抑制効果が全体の流れに大きく影響するという現象は、かつてのALLHAT試験でも観察され、最近では糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の有用性を検証したEMPA-REG OUTCOME試験でもみられている。前者では降圧薬としてのサイアザイド系利尿薬、後者ではSGLT2阻害薬の利尿作用が、心不全発症の抑制に大きく貢献したと考えられている。 心不全発症を複合エンドポイントに含めるか否かは、結果に大きく影響する。たとえば、糖尿病症例における降圧目標値を120mmHgと140mmHgで比較したACCORD試験では、両群で主要エンドポイントに有意差がなかったが、そのエンドポイントに心不全は含まれておらず、心筋梗塞、脳卒中、心血管死のみである。複合エンドポイントに心不全を含めるか否かの基準が一定していない。 とくに、SPRINT試験のように非盲検法で行われた試験において、急性心不全発症をどのように客観的に定義したかが知りたいところである。 今回のSPRINT試験でも、サイアザイド類似薬を優先的に使うことが推奨されていることから考えると、やはり心血管合併症を構成する重要な要素である心不全の抑制には利尿薬が不可欠であることを示唆している。この結果を日常診療に反映することは、慎重に~血圧測定環境の違い しかし、SPRINT研究の結果を、そのまま臨床に適応することには慎重であるべきである。血圧測定環境が、医師のいない場所で自動血圧計による3回血圧測定の平均値であることは注目すべきである。すなわち、白衣高血圧を徹底的に除外している状態での血圧評価である。わが国の家庭血圧計を用いた観察研究でも、収縮期血圧がほぼ120mmHg以上から心血管イベントが上昇することをすでに発表していることから、実際の臨床応用に当たっては家庭血圧で静かな環境での収縮期血圧120mmHgを目標とすべきと思われる。 もう1つ注意が必要なことは、今回の結果は血圧が安定するまで1ヵ月ごとの受診という細かい観察を伴う、しかも臨床研究という究極の適正治療の場での結果であることに留意すべきである。 とくに今回明らかになったように、腎機能の悪化、電解質異常の悪化は重篤な病態を招きかねない。低ナトリウム血症、低カリウム血症が厳格降圧群で多いことは、サイアザイド類似降圧薬の影響と思われる。本剤は非常に強力である反面、電解質異常にはくれぐれも注意が必要である。糖尿病合併例や脳卒中既往例は除外されている 糖尿病合併例や脳卒中既往例は対象から除外されている点は、注意が必要である。糖尿病合併高血圧例の降圧レベルに関してはACCORD試験で、脳卒中合併例ではSPS3試験で決着済みという考えからであろうか。今回は、あくまでもJカーブ論争で問題になった冠動脈疾患での降圧レベルの検証ということであろう。 あくまでも臨床研究という適正治療下での結果であり、わが国の一般診療で行っている医師による1回測定ではなく、血圧安定までは毎月の受診という慎重な高血圧診療での結果であることは留意すべきである。 予後を改善することが示されたが、血圧測定環境が日本の一般臨床とは異なること、臨床研究という慎重な観察の下で行われた降圧治療であることを念頭に置くべきである。関連コメントSPRINT試験:75歳以上の後期高齢者でも収縮期血圧120mmHg未満が目標?(解説:浦 信行 氏)SPRINT試験:絶対リスクにより降圧目標を変えるべきか?(解説:有馬 久富 氏)

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EMPA-REG OUTCOME試験:糖尿病治療薬久々の朗報~治療学的位置付けは今後の課題~(解説:景山 茂 氏)-438

 慢性疾患の治療において、短期間の薬効を示す指標(surrogate endpoint)と長期間の治療による予後を示す指標(true endpoint)が乖離することが最初に示されたのは、1970年のUGDP研究である。この研究では、スルホニル尿素類のトルブタミド(商品名:ラスチノン)はプラセボおよびインスリンに比較して死亡率、とくに心血管死が有意に高いことが示された。その後、同研究により、現在は用いられていないビグアナイド類のフェンホルミンについてもトルブタミドと類似の結果が示された。その後も、チアゾリジンジオン類のロシグリタゾンについて、心筋梗塞を増やす可能性が示唆されている。 糖尿病特有の合併症である細小血管障害は、血糖コントロールと密接な関係があることが示されている。一方、大血管障害については、DCCT/EDICおよびUKPDSでは、良好な血糖コントロールが大血管障害を改善することを示したが、VADT、ACCORD、ADVANCEの数年間の臨床試験では大血管障害の予後改善を示せなかった。 このような状況の中で、米国FDAは2008年に企業向けのガイダンスで、糖尿病治療薬については治験段階から心血管イベントの収集をしてメタ解析ができるよう求めている。 さて、今回のEMPA-REG OUTCOME試験は予想外の良い結果が示された。本試験では、心血管疾患のハイリスク患者に対して、標準治療にエンパグリフロジンの上乗せは、プラセボよりprimary outcome(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中から成る複合エンドポイント)を有意に減少させることを示した。この臨床試験は、薬効のメカニズムを検討するものではないが、なぜこのような結果が得られたかは考察する必要があろう。primary outcomeについては、グラフからは試験開始3ヵ月後から群間の乖離が認められる。primary outcomeの構成要素にはなっていないが、心不全による入院は試験開始後間もなく群間に差が認められる。 これらの成績からは、エンパグリフロジンの利尿作用が心不全の予防と改善に効果を及ぼしたことが推測される。そして、これが心血管死の減少に寄与した可能性が考えられる。HbA1c、体重、腹囲、収縮期・拡張期血圧、HDLC、尿酸にエンパグリフロジンの効果が認められているが、少なくとも短期間の心血管イベントの発症には、これらの因子の改善よりも水およびNaの利尿効果が予後改善には有効であったと考えるのが妥当ではないだろうか。 さて、本試験のprimary outcomeは複合エンドポイントであり、その構成要素の組み合わせは妥当なものである。複合エンドポイントは、当該治療の全般的な治療効果がみられるという利点がある一方、その構成要素となっている事象への作用の方向性が異なる場合は、解釈が難しくなるという欠点がある。単一エンドポイントではサンプルサイズが大きくなり、追跡期間が長くなるので、試験の実施可能性の観点から複合エンドポイントが採用されることも多い。 EMPA-REG OUTCOME試験では、これらの構成要素に同様な効果がもたらされたわけではなく、エンパグリフロジンは心血管死と非致死性心筋梗塞を減少させる方向に働いているが、脳卒中についてはむしろ増やす方向に作用しているようにみえる。これについては、今後の研究を待たねばならない。 今回の試験成績は、予想を超えた素晴らしい結果であるが、ぜひSGLT2阻害薬について、同様の成績を示す臨床試験がもう1つ欲しいところである。その折には、EMPA-REG OUTCOME試験により示されたSGLT2阻害薬の心血管疾患抑制効果はより確かなものとなり、効果がclass effectか否かも明らかになるであろう。 また、SGLT2阻害薬の治療学的位置付けを検討する研究が望まれる。今回はあくまで心血管疾患のハイリスク患者に標準治療に上乗せした場合、エンパグリフロジンはプラセボより心血管疾患の予防効果が優れていたという成績である。今後は、SGLT2阻害薬をより早い段階から用いた場合の、より一般的な糖尿病患者における効果の検討が望まれる。また、大血管障害のみならず細小血管障害に関する検証も必要であろう。 ともすればsurrogate endpointとtrue endpointが乖離するというparadoxicalな結果が懸念される糖尿病治療薬において、EMPA-REG OUTCOME試験は久々の朗報である。今後の検討に期待したい。関連コメントEMPA-REG OUTCOME試験の概要とその結果が投げかけるもの(解説:吉岡 成人 氏)リンゴのもたらした福音~EMPA-REG OUTCOME試験~(解説:住谷 哲 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:SGLT2阻害薬はこれまでの糖尿病治療薬と何が違うのか?(解説:小川 大輔 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:それでも安易な処方は禁物(解説:桑島 巌 氏)

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EMPA-REG OUTCOME試験:それでも安易な処方は禁物(解説:桑島 巌 氏)-428

 この結果をみて真っ先に連想したのは、高血圧治療薬で、利尿薬がCa拮抗薬、ACE阻害薬、α遮断薬などよりも優れた心血管合併症予防効果を証明したALLHAT試験である。利尿作用が心不全悪化を防いだために全体を有利に導き、心疾患合併症例における利尿薬の強さをみせた試験であった。 EMPA-REG試験でも、利尿作用を有するSGLT2阻害薬が虚血性心疾患で心機能が低下した症例での心不全死を抑制したと考えやすい。しかし、心血管死の内訳をみると必ずしもそうではないようである。心不全の悪化による死亡は10%前後にすぎず、心臓突然死や心原性ショックも広い意味での心不全死と捉えると40%を占めることになり、本剤の利尿作用の貢献も考えられる。しかし、「その他の心血管死」とはどのような内容なのかが明らかでない限り、エンパグリフロジンがどのような機序で心血管死を減らしたのかを推定するのは難しい。 しかし、本試験で重要なことは、致死的、非致死的を含めた心筋梗塞と脳卒中発症はいずれも抑制されていないことである。不安定狭心症は急性心筋梗塞と同等の病態であり、なぜこれを3エンドポイントから外したか不明だが、これを加えた4エンドポイントとすると有意性は消失する。したがって、本試験はSGLT2阻害薬の優位性を証明できなかったという解釈もできる。本試験の対象は、すでに高度な冠動脈疾患、脳血管障害、ASOを有していて循環器専門医に治療を受けているような糖尿病患者であり、実質的には2次予防効果を検証した試験での結果である。試験開始時に、すでにACE阻害薬/ARBが80%、β遮断薬が65%、利尿薬が43%、Ca拮抗薬が33%に処方されている。糖尿病治療にしてもメトホルミンが74%、インスリン治療が48%、SU薬も42%が処方されており、さらにスタチン薬81%、アスピリンが82%にも処方されており、かつ高度肥満という、専門病院レベルの合併症を持つ高度な治療抵抗性の患者を対象にしている。 このことから、一般診療で診る、単に高血圧や高脂血症などを合併した糖尿病症例に対する有用性が示されたわけではない。 本試験における、エンパグリフロジンの主要エンドポイント抑制効果は、利尿作用に加えて、HbA1cを平均7.5~8.1%に下げた血糖降下作用、そして体重減少、血圧降下利尿作用というSGLT2阻害薬が有する薬理学的な利点が、肥満を伴う超高リスク糖尿病例で理想的に反映された結果として、心血管死を予防したと考えるほうが自然であろうと考える。臨床試験という究極の適正使用だからこそ、本剤の特性がメリットに作用したのであろう。 本試験を日常診療に活用する点で注意しておくことは、1.本試験はすでに冠動脈疾患、脳血管障害の既往があり、近々心不全や突然死が発症する可能性が高い、きわめて超高リスクの糖尿病例を対象としており、診療所やクリニックでは診療する一般の糖尿病患者とは異なる点。2.本試験の結果は、臨床試験という究極の適正使用の診療下で行われた結果である点。3.心筋梗塞、脳卒中の再発予防には効果がなく、不安定狭心症を主要エンドポイントに追加すると有意性は消失してしまう点。したがって、従来の糖尿病治療薬同様、血糖降下治療に大血管疾患の発症予防効果は期待できないという結果を皮肉にも支持する結果となっている。 本試験が、高度の心血管合併症をすでに有している肥満の治療抵抗性の糖尿病症例の治療にとって、福音となるエビデンスであることは否定しないが、この結果を十分に批判的吟味することなく、一般臨床医に喧伝されることは大きな危険性をはらんでいるといえよう。本薬の基本的な抗糖尿病効果は利尿という点にあり、とくに口渇を訴えにくい高齢者では、脱水という重大な副作用と表裏一体であることは常に念頭に置くべきである。企業の節度ある適正な広報を願うばかりである。関連コメントEMPA-REG OUTCOME試験の概要とその結果が投げかけるもの(解説:吉岡 成人 氏)リンゴのもたらした福音~EMPA-REG OUTCOME試験~(解説:住谷 哲 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:SGLT2阻害薬はこれまでの糖尿病治療薬と何が違うのか?(解説:小川 大輔 氏)

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EMPA-REG OUTCOME試験:試験の概要とその結果が投げかけるもの(解説:吉岡 成人 氏)-421

 心血管イベントを主要アウトカムとするEMPA-REG OUTCOMEの試験結果が、2015年9月17日の欧州糖尿病学会(EASD2015、スウェーデン・ストックホルム)で発表され、New England Journal of Medicine誌のオンライン版に同時掲載された。日本国内で使用できる6種類のSGLT2阻害薬の中で、最も遅れて市場に登場したエンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)の驚くべきデータであり、大きな話題を呼んでいる。 EMPA-REG OUTCOME試験 心血管イベントの既往がある成人の2型糖尿病患者で、BMI 45以下、eGFR 30mL/分/1.73m2以上の患者を対象として、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンが心血管イベントに及ぼす影響を検討した試験である。北米、中南米、オーストラリア、ニュージーランド、ヨーロッパ、アフリカ、アジアの世界各地からの患者を登録し、プラセボ群、エンパグリフロジン10mg群、25mg群の3群にランダムに割り付けて実施された。主要アウトカム(primary outcome)として3つの複合心血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の初発までの期間)、重要2次アウトカム(key secondary outcome)には、主要アウトカムに不安定狭心症による入院までの期間を加えた4つの複合心血管イベントを総合したのものを設定して実施された。3年間の観察期間で心血管死、全死亡が有意に減少 2010年から2013年までに7,028例が登録され、7,020例(平均63.1歳、男性72%、白人72%、アジア人22%、レニン・アンジオテンシン系阻害薬使用者81%、利尿薬使用者43%、スタチン使用者77%)が解析の対象となっている(プラセボ群2,333例、エンパグリフロジン群4,687例であり、10mg投与患者と25mg投与患者のデータが合算されている)。 中央値3.1年の観察期間における主要アウトカムはプラセボ群282例(12.1%)、エンパグリフロジン群490例(10.5%)であり、エンパグリフロジン群で有意な減少が確認された[ハザード比(HR)0.86、95%信頼区間:0.74~0.99、p=0.04]。また、重要2次アウトカムについては、プラセボ群333例(14.3%)、エンパグリフロジン群599例(12.8%)と有意差はないもの(HR:0.89、95%信頼区間:0.78~1.01、p=0.08)減少傾向にあることが確認された。わずか3年間の観察期間において、糖尿病治療薬の使用によって心血管死、全死亡が減少したことは驚くべきことであり、にわかには信じがたい(“too good to be true”)試験結果といえる。死亡率は減少しても個別のアウトカムとして、心筋梗塞は減少しない 個別のアウトカムについては、心血管死(HR:0.62、95%信頼区間:0.49~0.77、 p<0.001)、全死亡(HR:0.68、95%信頼区間:0.57~0.82、p<0.001)、心不全による入院(HR:0.65、95%信頼区間:0.50~0.85、p=0.002)について有意差が認められている。しかし、脳卒中については、非致死性脳卒中のみならず、致死性の脳卒中を含めた場合でも、ハザード比は1.24(95%信頼区間:0.92~1.67、 p=0.16)、1.18(95%信頼区間:0.89~1.56、 p=0.26)であり、統計学的には有意ではないものの増加する可能性を否定しえない。さらには、症候性の心筋梗塞(非致死性、致死性)、無症候性の心筋梗塞についてもHRはそれぞれ、0.87(95%信頼区間:0.70~1.09、p=0.22)、1.28(95%信頼区間:0.70~2.33、p=0.42)であり、心筋梗塞の減少が死亡率の減少に結び付くわけではない。サブグループ解析では高齢者、アジア人で有用性が高い傾向 主要アウトカムについてのサブグループ解析では、高齢者(65歳以上、p=0.01)、アジア人(p=0.09)、HbA1c 8.5%未満(p=0.01)、BMI 30未満(p=0.06)の群での有益性が高いと考えられた。併用薬剤に関しては、利尿薬の有無で主要アウトカムに差はなく(p=0.72)、ACE-IやARBの併用に関しても差はなかった(p=0.49)。eGFRについても60mL/分/1.73m2未満、60~90 mL/分/1.73m2未満、90mL/分/1.73m2以上の3群間で差異は認めなかった(p=0.20)。 EMPA-REG OUTCOMEの結果はなぜもたらされたのか… 心血管イベントの既往がある2型糖尿病に、3年間SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンを投与すると、死亡率が32%減少する(NNT:38/3年間)。心血管死も心不全による入院も有意に減少する。しかし、症候性の心筋梗塞は減少せず、無症候性の心筋梗塞や脳卒中は増加するかもしれない…。 EMPA-REG OUTCOMEの試験期間中、薬剤投与群ではHbA1cで約0.4~0.6%の低下が認められた。しかし、死亡の減少がわずかな血糖コントロールの改善とは考えられず、むしろ、SGLT2阻害薬による「体液量の減少」による「心不全の管理」が奏効した症例が一定の割合であったためなのではないかと思われる。 SGLT2阻害薬は近位尿細管に存在するSGLT2を選択的に阻害することで、尿糖の排泄量を増加させ、血糖値を降下させる薬剤である。浸透圧利尿により短期的にはレニン・アンギオテンシン・アルドステロン(RAS)系が活性化される。しかし、SGLT2はグルコースとNaを1:1で再吸収するため、SGLT2の阻害はNaの再吸収を低下させ、遠位尿細管に到達するNaClを増加させる。レニンはmacula densaに達するClが減少することでその分泌が刺激されるため、Clの増加はレニンの分泌を刺激しない可能性が想定される。腎臓におけるレニン活性には、浸透圧利尿による脱水とmacula densaにおけるCl濃度の双方が影響するため、SGLT2阻害薬がRAS系に及ぼす影響は短期投与と長期投与では異なり、個体差もあるのかもしれない。さらにSGLT2阻害薬は tubuloglomerular feedback(TGF)を回復させ、糸球体過剰濾過を改善させるとの報告もある。 Na代謝を介して循環血液量と血管抵抗性を調節することで血圧を規定しているRAS系、さらには、腎臓へ対しての複雑なSGLT2阻害薬の作用を明らかにすることが、EMPA-REG OUTCOME試験の結果を理解するための重要なポイントになるのかもしれない。【お知らせ】本コメントの公開当初、コメントの一部に「有意ではないが脳卒中と無症候性心筋梗塞は増加傾向」との表現がありました。「増加傾向」という表現を、“増加”と誤解された読者もおられましたので、より正確性を期すために、その部分について表現の変更をJ-CLEARからコメンテーターにお願いいたしました。(10月19日)臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)理事長 桑島 巌関連コメントEMPA-REG OUTCOME試験:リンゴのもたらした福音(解説:住谷 哲 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:SGLT2阻害薬はこれまでの糖尿病治療薬と何が違うのか?(解説:小川 大輔 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:それでも安易な処方は禁物(解説:桑島 巌 氏)

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EMPA-REG OUTCOME試験:リンゴのもたらした福音(解説:住谷 哲 氏)-422

 リンゴを手に取ったために、アダムとイブは楽園から追放された。ニュートンは、リンゴが木から落ちるのを見て万有引力の法則を発見した。どうやら、リンゴは人類にとって大きな変化をもたらす契機であるらしい。今回報告されたEMPA-REG OUTCOME試験の結果も、現行の2型糖尿病薬物療法に変革をもたらすだろう。 優れた臨床試験は、設定された疑問に明確な解答を与えるだけではなく、より多くの疑問を提出するものであるが、この点においても本試験はきわめて優れた試験といえる。本試験は、FDAが新たな血糖降下薬の認可に際して求めている心血管アウトカム試験(cardiovascular outcome trial:CVOT)の一環として行われた。SGLT2(sodium-glucose cotransporter 2)阻害薬であるエンパグリフロジンが、心血管イベントリスクを増加しないか、増加しないならば減少させるか、が本試験に設定された疑問である。短期間で結果を出すために、対象患者は、ほぼ100%が心血管疾患を有する2型糖尿病患者が選択された。かつ、心血管疾患を有する2型糖尿病患者に対する標準治療に加えて、プラセボとエンパグリフロジンが投与された。その結果、3年間の治療により心血管死が38%減少し、さらに、総死亡が32%減少する驚くべき結果となった。しかし、奇妙なことに、非致死性心筋梗塞および非致死性脳卒中には有意な減少が認められず、心不全による入院の減少が、心血管死ならびに総死亡の減少と密接に関連していることを示唆する結果であった。さらに、心血管死の減少は、治療開始3ヵ月後にはすでに認められていることから、血糖、血圧、体重、内臓脂肪量などのmetabolic parameterの改善のみによっては説明できないことも明らかになった。つまり、インスリン非依存性に血糖を降下させるエンパグリフロジンが、血糖降下作用とは無関係に患者の予後を大きく改善したことになる。この結果の意味するところを、われわれはじっくりと咀嚼する必要があるだろう。 エンパグリフロジンが心血管死を減少させたメカニズムは何か? これが本試験の提出した最大の疑問である。残念ながら本試験は、この疑問に解答を与えるようにはデザインされておらず、新たなexplanatory studyが必要となろう。科学史における多くの偉大な発見は、瞥見すると突然もたらされたようにみえるが、実際はそこに至るまでに多くの知見が集積されており、そこに最後の一歩が加えられたものがほとんどである。したがって本試験の結果も、これまでに蓄積された科学的知見の文脈において理解される必要がある。ニュートンも、過去の多くの巨人達の肩の上に立ったからこそ、はるか遠くを見通せたのである。この点において、われわれは糖尿病と心不全との関係を再認識する必要がある。 糖尿病と心不全との関係は古くから知られているが、従来の糖尿病治療に関する臨床試験においては、システマティックに評価されてきたとは言い難い1)。これは、FDAの規定する3-point MACE(Major adverse cardiac event:心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)および4-point MACE(3-point MACEに不安定狭心症による入院を加えたもの)に、心不全による入院が含まれていないことから明らかである。糖尿病と心不全との関係は病態生理学的にも血糖降下薬との関係においても複雑であり、かつ現時点でも不明な点が多く、ここに詳述することはできない(興味ある読者は文献2)を参照されたい)。血糖降下薬については、唯一メトホルミンが3万4,000例の観察研究のメタ解析から心不全患者の総死亡を抑制する可能性のあることが報告されているだけである3)。 本試験においては、ベースラインですでに心不全と診断されていた患者が約10%含まれていたが、平均年齢が60歳以上であること、すべての患者が心血管病を有していること、糖尿病罹病期間が10年以上の患者が半数を占めること、約半数の患者にインスリンが投与されていたことから、多くの潜在性心不全患者または左室機能不全(収縮不全または拡張不全)患者が含まれていた可能性が高い。筆者が考えるに、これらの患者に対して、エンパグリフロジンによる浸透圧利尿が心不全の増悪による入院を減少させたと考えるのが現時点での最も単純な推論であろう。これは、軽症心不全患者に対するエプレレノン(選択的アルドステロン拮抗薬)の有用性を検討したEMPHASIS-HF試験4)において、総死亡の減少が治療開始3ヵ月後の早期から認められている点からも支持されると思われる。興味深いことに、ベースラインで約40%の患者がすでに利尿薬を投与されており、エンパグリフロジンには既存の利尿薬とは異なる作用がある可能性も否定できない。 本試験の結果から、エンパグリフロジンは2型糖尿病薬物療法の第1選択薬となりうるだろうか? 筆者の答えは否である。EBMのStep4は「得られた情報の患者への適用」とされている。Step1-3は情報の吟味であるが、本論文の内的妥当性internal validityにはほとんど問題がない。しいて言えば、研究資金が製薬会社によって提供されている点であろう。したがって、この論文の結果はきわめて高い確率で正しい。ただし、本論文のpatient populationにおいて正しいのであって、明日外来で目前の診察室の椅子に座っている患者にそのまま適用できるかはまったく別である。つまり、外的妥当性applicabilityの問題である。そこでは医療者であるわれわれの技量が問われる。その意味において、本論文は糖尿病診療におけるEBMを考えるうえでの格好の教材だろう。 薬剤の作用は多くの交互作用のうえに成立する。そこで注意すべきは、本試験が心血管病の既往を有する2型糖尿病患者における2次予防試験であることである。2次予防で有益性の確立した治療法が1次予防においては有益でないことは、心血管イベント予防におけるアスピリンを考えると理解しやすい。心血管イベント発症絶対リスクの小さい1次予防患者群においては、消化管出血などの不利益が心血管イベント抑制に対する有益性を相殺してしまうためである。同様に、心不全発症絶対リスクの小さい1次予防患者においては、性器感染症やvolume depletionなどの不利益が、心不全発症抑制に対する有益性を相殺してしまう可能性は十分に考えられる。さらに、エンパグリフロジンの長期安全性については現時点ではまったく未知である。 薬剤間の交互作用については、メトホルミン、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬、β遮断薬、スタチン、アスピリンなどの標準治療に追加することで、エンパグリフロジンの作用が発揮されている可能性があり、本試験の結果がエンパグリフロジン単剤での作用であるか否かは不明である。それを証明するためには、同様の患者群においてエンパグリフロジン単剤での試験を実施することが必要であるが、その実現可能性は倫理的な観点からもほとんどないと思われる。 糖尿病治療における基礎治療薬(cornerstone)に求められるのは、(1)確実な血糖降下作用、(2)低血糖を生じない、(3)体重を増加しない、(4)真のアウトカムを改善する、(5)長期の安全性が担保されている、(6)安価である、と筆者は考えている。現時点で、このすべての要件を満たすのはメトホルミンのみであり、これが多くのガイドラインでメトホルミンが基礎治療薬に位置付けられている理由である。本試験においても、約75%の患者はベースラインでメトホルミンが投与されており、エンパグリフロジンの総死亡抑制効果は、前述したメトホルミンの持つ心不全患者における総死亡抑制効果との相乗作用であった可能性は否定できない。 ADA/EASDの高血糖管理ガイドライン2015では、メトホルミンに追加する薬剤として6種類の薬剤が横並びで提示されている。メトホルミン以外に、総死亡を減少させるエビデンスのある薬剤のないのがその理由である。最近の大規模臨床試験の結果から、インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬およびGLP-1受容体作動薬)の心血管イベント抑制作用は、残念ながら期待できないと思われる。本試験の結果から、心血管イベント、とりわけ心不全発症のハイリスク2型糖尿病患者に対して、エンパグリフロジンがメトホルミンに追加する有用な選択肢としてガイドラインに記載される可能性は十分にある。EMPA-REG OUTCOME試験は、2型糖尿病患者の予後を改善するために実施された多くの大規模臨床試験が期待した成果を出せずにいる中で、ようやく届いたgood newsであろう。参考文献はこちら1)McMurray JJ, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2014;2:843-851.2)Gilbert RE, et al. Lancet. 2015;385:2107-2117.3)Eurich DT, et al. Circ Heart Fail. 2013;6:395-402.4)Zannad F, et al. N Engl J Med. 2011;364:11-21.関連コメントEMPA-REG OUTCOME試験:試験の概要とその結果が投げかけるもの(解説:吉岡 成人 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:SGLT2阻害薬はこれまでの糖尿病治療薬と何が違うのか?(解説:小川 大輔 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:それでも安易な処方は禁物(解説:桑島 巌 氏)

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EMPA-REG OUTCOME試験:SGLT2阻害薬はこれまでの糖尿病治療薬と何が違うのか?(解説:小川 大輔 氏)-423

 2015年9月14日から、ストックホルムで開催された欧州糖尿病学会(EASD)に参加した。今大会でEMPA-REG OUTCOME試験の結果が発表されるとあって、世界中から集まった糖尿病の臨床医や研究者の注目を集めていた。私も当日、発表会場に足を運んだが、超満員でスクリーンの文字がよく見えない位置に座るしかなかった。しかし、EMPA-REG OUTCOME試験の結果は同日論文に掲載されたため、内容を確認することができた1)。 2008年以降、米食品医薬品局(FDA)は新規の糖尿病治療薬に対し、心血管系イベントに対する安全性を評価する、ランダム化プラセボ対照比較試験の実施を義務付けている。そして、SGLT2阻害薬ではエンパグリフロジン、カナグリフロジン、ダパグリフロジンで心血管系の安全性試験が行われている。この3製剤の中で、エンパグリフロジンの試験(EMPA-REG OUTCOME)が最も早く終了し、今回の発表となった。 この試験は、心筋梗塞・脳梗塞の既往や心不全などのある、心血管イベントの発症リスクの高い2型糖尿病患者を対象に、SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)10mgあるいは25mgを投与し、プラセボと比較して心血管イベントに対する影響を検討した研究である。主要アウトカムは、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳梗塞のいずれかの初回発現までの期間で、結果の解析はエンパグリフロジン群(10mg群と25mg群をプールしたもの)のプラセボ群に対する非劣性を検定した後に優越性を検定する、とデザインペーパーに記載されている2)。 日本を含む世界42ヵ国、約7,000人がこの試験に参加し、追跡期間の中央値は3.1年であった。主要エンドポイントは、エンパグリフロジン群(10mgと25mgの合計)がプラセボ群より有意に低かった(hazar ratio:0.86、95%CI:0.74~0.99)。また、非致死的心筋梗塞と非致死的脳梗塞では有意差が付かなかったが、心血管死は有意に低下していた(3.7% vs.5.9%、Hazard ratio:0.62、95%CI:0.49~0.77)。また、全死亡も有意に低下しており(5.7% vs.8.3%、Hazard ratio:0.68、95%CI:0.57~0.82)、生命予後を改善することが示唆された。 おそらく多くの方々がこの結果を評価するであろう。これまでの糖尿病治療薬でこれほど心血管イベントを抑制した薬剤はなく、世界中の医療関係者を驚かせた。また、高血圧症や脂質異常症の標準治療をされたうえでも心血管死を減少したというのは特筆すべき結果である。 本稿ではあえて気になった点を列記する。(1)主要エンドポイントはエンパグリフロジン10mg群および25mg群ではいずれも有意差が付いていない。おそらく症例数が少ないことによるものであろう。(2)心血管死の発症は著明に抑制されていたが、一方で心筋梗塞や脳梗塞の発症は抑制されておらず、とくに脳梗塞は、むしろ増加する傾向を認めている点には注意が必要である。(3)心血管死や心不全による入院は試験開始直後から減少しているが、この点をどう解釈するか。これほど早く薬剤の臨床効果が出現するものだろうか。 また、なぜSGLT2阻害薬エンパグリフロジンを投与すると、試験開始早期より心血管死を抑制できたのであろうか。HbA1cはプラセボ群よりたかだか0.5%程度しか低下していない。これまでに行われた糖尿病治療薬の試験でも今回のような効果は認められたことはなく、血糖コントロールの改善が寄与したとは考えにくい。また、血圧に関しても収縮期血圧はおよそ4mmHgの低下を認めるが、血圧低下だけでは十分に説明できない。脂質に関しても、HDLコレステロールの増加はわずか2mg/dL程度であり、むしろLDLコレステロール値は上昇している。1つの機序としては、心血管死と心不全に対する効果が早くかつ大きいことや、これまでの心不全に関する試験においても今回と同様の結果が認められることから、SGLT2阻害薬の利尿作用が関係している可能性がある。また、別の機序として、複数の治療目標を同時に積極介入したSteno-2試験の結果に類似することから、SGLT2阻害薬が血糖のみならず血圧、脂質、肥満などをトータルに改善したことが結果につながったのかもしれない。いずれにしても、この心血管イベント抑制のメカニズムは推測の域を超えない。 この効果がエンパグリフロジンだけに認められる結果なのか、それともほかのSGLT2阻害薬でも認められるのか。今後のカナグリフロジン(CANVAS試験)やダパグリフロジン(DECLARE-TIMI58試験)の結果を待たなければ断言できないが、現時点ではクラスエフェクトと考えるほうが妥当であろう、そうEASDで発表者の一人が質疑応答で返答していた。 EMPA-REG OUTCOME試験により、SGLT2阻害薬の心血管イベントに対する効果のみならず、さらに興味深い結果が得られた。これまで日本では、「若くて肥満のある患者が良い適応だ」とうたわれてきた。しかし、主要アウトカムのサブグループ解析で、高齢者(65歳以上)や非肥満者(BMI 30以下)のほうが、むしろ効果が高いという結果をみると、SGLT2阻害薬の対象となる患者の範囲は案外広いのかもしれない。また、「利尿薬との併用はしてはいけない」ともいわれてきたが、この研究では実に約43%の症例で利尿薬が併用されていたにもかかわらず、体液減少による有害事象の増加は認められなかった。EMPA-REG OUTCOME試験はこれまでの常識を覆す、インパクトのある試験であることは間違いない。参考文献はこちら1)Zinman B, et al. N Engl J Med. 2015 Sep 17. [Epub ahead of print]2)Zinman B, et al. Cardiovasc Diabetol. 2014;13:102.関連コメントEMPA-REG OUTCOME試験:試験の概要とその結果が投げかけるもの(解説:吉岡 成人 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:リンゴのもたらした福音(解説:住谷 哲 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:それでも安易な処方は禁物(解説:桑島 巌 氏)

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104)脱水予防は、「水」か「お茶」で!【高血圧患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話医師この新しい薬(SGLT2阻害薬)の副作用として、膀胱炎など尿路感染症になるリスクが高まることが報告されています。患者他にはどんな副作用がありますか?医師糖分とともに水分も身体から出ていきます。つまり、脱水予防が大切です。とくに、薬を飲み始めてから最初の1ヵ月間は、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが高まることも報告されていますので、水分を積極的に摂取するように注意してください。患者はい。水分なら、何でもいいですか?医師いいえ。糖分が入っているコーラ、ジュース、砂糖入りの缶コーヒーやスポーツドリンクは控えてください。患者血糖値も上がりますしね。医師そうです。それに、ナトリウムを含んでいるダイエット飲料ではなく、できればお茶か水にしてください。患者はい。わかりました。●ポイントSGLT2阻害薬投与時には、脱水予防のためにお茶か水を積極的に摂取することを上手に説明します※お茶については、緑茶や紅茶以外のカフェインのないものを選ぶようにしましょう。1)Chao EC, et al. Nat Rev Drug Discov. 2010; 9: 551-559.

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92)リンゴの樹皮から誕生したSGLT2阻害薬【糖尿病患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話 患者最近、新しい薬が出たそうですね。 医師SGLT2阻害薬のことですね。 患者SGLT2阻害薬? 医師そうです。19世紀にリンゴの木の樹皮から発見された物質(フロリジン)で、尿糖排泄作用があることが、昔からわかっていたんです。 患者なんだ。昔からある薬なんですね。 医師ところが、吸収率が悪かったり、副作用があったりで、薬として出回るのに時間がかかったわけです。ただし、リンゴを食べたからといって、血糖が下がるわけではありませんよ。 患者なるほど。よくわかりました。●ポイントSGLT2阻害薬について、開発の歴史を振り返りつつ、説明することで患者さんの理解度が深まります

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SGLT2阻害薬のさらなる安全使用に必要なこと

 2月9日、「糖尿病薬物治療の現状と課題」と題し、生命科学フォーラム主催のセミナーが加来 浩平氏(川崎医科大学 内科学 特任教授)を講師に迎え、東京都内で開催された。患者は増加しているものの予備軍は減少 はじめにわが国の糖尿病における患者数の推移や発症機序の説明が行われた。 最近の調査では、メタボ健診などによる予防策が功を奏し、糖尿病予備軍は減少した。しかし、患者数は増加し、若年化、肥満化傾向を示し、それは運動不足や日常生活での活動量不足が原因と考えられる。また、30~40代の働き盛りの患者の増加と受診回避が問題となっており、早期の治療介入をいかに行うべきかが今後の課題であると述べた。 早期治療介入に関連し、最近の研究では、糖尿病の合併症として「認知症」と「がん」がクローズアップされており、これら合併症阻止に向け、早急なエビデンスの構築が必要であると強調するとともに、DCCT/EDICスタディ、UKPDSなどのエビデンスを示し、大血管障害予防のためにも早期介入が求められ、とくに治療の最初の10年をいかに過ごすかが重要だと解説を行った。SGLT2阻害薬のベネフィットを考える 糖尿病の治療薬は、1950年代のSU薬から2014年のSGLT2阻害薬まで非常に多くの薬剤が開発され、使用されている。今回は1番新しい治療薬であるSGLT2阻害薬にとくに焦点をあて解説を行った。 SGLT2阻害薬は、余分な糖を尿により体外に排出させ、血糖値を下げる糖尿病治療薬であり、現在わが国では6成分7製剤(うち4製剤は日本製)と幅広く使用できる。その作用機序は従来の糖尿病治療薬と異なるため、糖尿病のどの段階でも使用でき、他剤と併用ができるのも大きな特徴である。 そして、SGLT2阻害薬の効果としては、急激な血糖降下を抑えるために低血糖が起きにくく、安全に使用できること、糖が体外へ排出されるので体重減少を来すこと、HbA1cの改善は先行のDPP-4阻害薬ほど効果は高くないが、全体的に0.7%程度下げること、また、心血管イベントの発生を予防する可能性につき、現在研究が進められていることなどが報告された。SGLT2阻害薬の処方率は10%に届かず SGLT2阻害薬のリスクとしては、尿量の増加とそれに伴う頻尿、脱水のほか、糖排出による尿路感染症が報告されている。また、他剤併用(たとえばSU薬など)による低血糖の発生、皮膚障害などもある。ただ、いずれも臨床試験で予想された範囲内の副作用、有害事象であり、特段大きなリスクを伴う治療薬ではないことを強調した。 しかしながら、昨年の発売以降SGLT2阻害薬の処方シェア率は10%に届くことがなく(参考までにDPP-4阻害薬は60%強)、臨床現場でかなり慎重に処方されていると報告した。 その原因として、わが国ではSGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会より『SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation』が発出されたことや、65歳以上の患者処方の際の全例調査実施などが影響していると指摘した。 その一方で海外の動きをみてみると、わが国で報告されているリスクは大きな問題となっておらず、広く処方されており、着々とエビデンスの蓄積、研究が行われている。現在の状態が続けば、さらに安全に処方するためのエビデンスなどの蓄積(たとえば、長期有効性・安全性、休薬後のリバウンドリスク、多面的作用など)ができなくなると懸念を示した。 最後に、これからの糖尿病治療と研究の方向性について、「肥満」と「加齢」がキーワードになると示唆。具体的なターゲットとして血管病防止、認知症防止、がん防止、骨関節疾患防止のため、壮年・中年からの早期治療介入、ベネフィットとリスクを考えた治療薬剤の選択が重要となり、治療薬ではDPP-4阻害薬が今後も大きな役割を担うことになる。同時に、SGLT2阻害薬も正しい患者像を見据え、適正使用の推進による安全確保の確立のためにも、患者のベネフィットを考えた処方が望まれるとレクチャーを終了した。■関連記事ケアネット特集 糖尿病 SGLT2阻害薬SGLT2阻害薬、CV/腎アウトカムへのベースライン特性の影響は/Lancet

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76)気をつけたいSGLT2阻害薬の有害事象を説明する【糖尿病患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話医師この新しい薬(SGLT2阻害薬)の副作用として、尿路感染症になるリスクが高まることが、報告されています。患者それは心配です。どうしたらいいですか?医師いくつかのポイントがあります。まずは、身体を清潔にしてください。ほとんどの尿路感染は、腸内細菌が尿道の先から入っていきますので・・・。患者なるほど。医師夜中にトイレにいく回数が多くなるのが心配で、水分をあまりとらない人がいます。患者それ、私です。医師尿がたくさんでると、細菌を洗い流します。水分は日中は大目に、夕方から控えられるといいですね。患者なるほど、わかりました。●ポイント尿路感染症を予防する項目を、わかりやすく説明できるといいですね●資料尿路感染症にかからないための10ヵ条1.下着を毎日、取り換える2.トイレを我慢しない3.水分は日中は多めに、夕方から控える4.適度な運動をする5.アルコールは控えめに6.陰部を清潔に保つ(排便時は前から後ろにふく)7.下半身を冷やさない8.疲れを残さない9.身体の抵抗力をつける10.うがい・手洗いをする

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【医療ニュース トップ100】2014年、最も読まれた「押さえておくべき」医学論文は?

今年も、4大医学誌の論文を日本語で紹介する『ジャーナル四天王』をはじめ、1,000本以上の論文をニュース形式で紹介してきました。その中で、会員の先生方の関心の高かった論文は何だったのでしょう? ここでは、アクセス数の多いものから100本を紹介します。 1位 日本男性の勃起硬度はアレと関連していた (2014/11/13) 2位 日本人若年性認知症で最も多い原因疾患は:筑波大学 (2014/1/7) 3位 子供はよく遊ばせておいたほうがよい (2014/3/28) 4位 思春期の精神障害、多くは20代前半で消失/Lancet (2014/1/27) 5位 なぜコーヒーでがんリスクが低下? (2014/7/31) 6位 メロンでかゆくなる主要アレルゲンを確認 (2014/4/15) 7位 新たな輸液プロトコル、造影剤誘発急性腎障害の予防に有効/Lancet (2014/6/9) 8位 体幹を鍛える腹部ブレーシング、腰痛に効果 (2014/5/7) 9位 コーヒーを多く飲む人は顔のシミが少ない (2014/8/7) 10位 スタチンと糖尿病リスク増大の関連判明/Lancet (2014/10/9) 11位 スルピリドをいま一度評価する (2014/5/16) 12位 米国の高血圧ガイドライン(JNC8)のインパクト/JAMA (2014/4/16) 13位 インフルエンザワクチン接種、無針注射器の時代に?/Lancet (2014/6/16) 14位 新規経口抗凝固薬4種vs.ワルファリン-心房細動患者のメタ解析-/Lancet (2013/12/25) 15位 アルコール依存症、薬物治療の減酒効果は?/JAMA (2014/5/29) 16位 SGLT2阻害薬「トホグリフロジン」の日本人への効果 (2014/2/28) 17位 大人のリンゴ病 4つの主要パターン (2014/7/29) 18位 脳動脈瘤、コイルvs. クリッピング、10年転帰/Lancet (2014/11/12) 19位 ACE阻害薬を超える心不全治療薬/NEJM (2014/9/8) 20位 アルツハイマーに有用な生薬はコレ (2014/11/14) 21位 塩分摂取と死亡リスクの関係はJカーブ/NEJM (2014/8/25) 22位 スタチン投与対象者はガイドラインごとに大きく異なる/JAMA (2014/4/14) 23位 食後血糖によい食事パターンは?(低脂肪vs低炭水化物vs地中海式) (2014/3/27) 24位 成人ADHDをどう見極める (2014/5/21) 25位 各種ダイエット法の減量効果/JAMA (2014/9/16) 26位 牛乳1日3杯以上で全死亡リスクが2倍/BMJ (2014/11/13) 27位 腰痛持ち女性、望ましい性交体位は? (2014/11/21) 28位 ロマンチックな恋愛は幸せか (2014/3/26) 29位 無糖コーヒーがうつ病リスク低下に寄与 (2014/5/8) 30位 下肢静脈瘤、ベストな治療法は?/NEJM (2014/10/10) 31位 せん妄管理における各抗精神病薬の違いは (2014/9/18) 32位 降圧薬投与量の自己調整の有用性/JAMA (2014/9/11) 33位 深部静脈血栓症の除外診断で注意すべきこと/BMJ (2014/3/20) 34位 StageII/III大腸がんでのD3郭清切除術「腹腔鏡下」vs「開腹」:ランダム化比較試験での短期成績(JCOG 0404) (2014/2/26) 35位 たった1つの質問で慢性腰痛患者のうつを評価できる (2014/2/21) 36位 スタチン時代にHDL上昇薬は必要か/BMJ (2014/8/7) 37位 就寝時、部屋は暗くしたほうがよいのか:奈良医大 (2014/8/29) 38位 認知症のBPSD改善に耳ツボ指圧が効果的 (2014/10/28) 39位 統合失調症患者の突然死、その主な原因は (2014/4/18) 40位 うつ病と殺虫剤、その関連が明らかに (2014/7/9) 41位 帯状疱疹のリスク増大要因が判明、若年ほど要注意/BMJ (2014/5/26) 42位 慢性のかゆみ、治療改善に有用な因子とは? (2014/7/1) 43位 女性の顔の肝斑、なぜ起きる? (2014/5/8) 44位 DES1年後のDAPT:継続か?中断か?/Lancet (2014/7/30) 45位 駆出率が保持された心不全での抗アルドステロン薬の効果は?/NEJM (2014/4/23) 46位 レビー小体型認知症、パーキンソン診断に有用な方法は (2014/10/30) 47位 アトピー性皮膚炎患者が避けるべきスキンケア用品 (2014/2/6) 48位 タバコの煙を吸い込む喫煙者の肺がんリスクは3.3倍:わが国の大規模症例対照研究 (2014/6/18) 49位 世界中で急拡大 「デング熱」の最新知見 (2014/10/17) 50位 円形脱毛症とビタミンDに深い関連あり (2014/4/10) 51位 不眠の薬物療法を減らすには (2014/7/23) 52位 オメプラゾールのメラニン阻害効果を確認 (2014/11/6) 53位 タバコ規制から50年で平均寿命が20年延長/JAMA (2014/1/16) 54位 ICUでの栄養療法、静脈と経腸は同等/NEJM (2014/10/15) 55位 認知症のBPSDに対する抗精神病薬のメリット、デメリット (2014/3/17) 56位 COPDにマクロライド系抗菌薬の長期療法は有効か (2014/1/13) 57位 座りきりの生活は心にどのような影響を及ぼすか (2014/5/12) 58位 PSA検診は有用か:13年後の比較/Lancet (2014/8/22) 59位 気道感染症への抗菌薬治療 待機的処方 vs 即時処方/BMJ (2014/3/17) 60位 血圧と12の心血管疾患の関連が明らかに~最新の研究より/Lancet (2014/6/19) 61位 マンモグラフィ検診は乳がん死を抑制しない/BMJ (2014/2/21) 62位 機能性便秘へのプロバイオティクスの効果 (2014/8/14) 63位 超高齢の大腸がん患者に手術は有用か:国内での検討 (2014/2/14) 64位 糖尿病予防には歩くよりヨガ (2014/8/4) 65位 乳がん術後リンパ節転移への放射線療法、効果が明確に/Lancet (2014/3/31) 66位 75歳以上でのマンモグラフィ検診は有効か (2014/8/11) 67位 大腸がん術後の定期検査、全死亡率を減少させず/JAMA (2014/1/23) 68位 「歩行とバランスの乱れ」はアルツハイマーのサインかも (2014/5/13) 69位 食事由来の脂肪酸の摂取状況、国によって大きなばらつき/BMJ (2014/4/28) 70位 心房細動合併の心不全、β遮断薬で予後改善せず/Lancet (2014/9/19) 71位 薬剤溶出ステントの直接比較、1年と5年では異なる結果に/Lancet (2014/3/24) 72位 ピロリ除菌、糖尿病だと失敗リスク2倍超 (2014/8/21) 73位 認知症にスタチンは有用か (2014/7/25) 74位 RA系阻害薬服用高齢者、ST合剤併用で突然死リスク1.38倍/BMJ (2014/11/20) 75位 腰痛へのアセトアミノフェンの効果に疑問/Lancet (2014/8/6) 76位 食べる速さはメタボと関連~日本の横断的研究 (2014/9/12) 77位 うつになったら、休むべきか働き続けるべきか (2014/9/16) 78位 英プライマリケアの抗菌治療失敗が増加/BMJ (2014/10/1) 79位 総胆管結石疑い 術前精査は必要?/JAMA (2014/7/21) 80位 歩くスピードが遅くなると認知症のサイン (2014/10/8) 81位 前立腺がん、全摘vs.放射線療法/BMJ (2014/3/10) 82位 緑茶が認知機能低下リスクを減少~日本の前向き研究 (2014/6/3) 83位 高力価スタチンが糖尿病発症リスクを増大させる/BMJ (2014/6/16) 84位 乳がんの病理学的完全奏効は代替エンドポイントとして不適/Lancet (2014/2/27) 85位 Na摂取増による血圧上昇、高血圧・高齢者で大/NEJM (2014/8/28) 86位 抗グルタミン酸受容体抗体が神経疾患に重大関与か (2014/8/15) 87位 歩数を2,000歩/日増加させれば心血管リスク8%低下/Lancet (2014/1/8) 88位 肩こりは頚椎X線で“みえる”のか (2014/3/19) 89位 地中海式ダイエットと糖尿病予防 (2014/4/7) 90位 閉塞性睡眠時無呼吸、CPAP vs. 夜間酸素補給/NEJM (2014/6/26) 91位 揚げ物は肥満遺伝子を活性化する?/BMJ (2014/4/3) 92位 6.5時間未満の睡眠で糖尿病リスク上昇 (2014/9/4) 93位 セロトニン症候群の発現メカニズムが判明 (2014/3/14) 94位 日本発!牛乳・乳製品を多く摂るほど認知症リスクが低下:久山町研究 (2014/6/20) 95位 肥満→腰痛のメカニズムの一部が明らかに (2014/8/8) 96位 低炭水化物食 vs 低脂肪食 (2014/8/7) 97位 認知症患者の調子のよい日/ 悪い日、決め手となるのは (2014/3/21) 98位 統合失調症患者は、なぜ過度に喫煙するのか (2014/7/2) 99位 血糖降下強化療法の評価―ACCORD試験続報/Lancet (2014/8/20) 100位 小児BCG接種、結核感染を2割予防/BMJ (2014/8/21) #feature2014 .dl_yy dt{width: 50px;} #feature2014 dl div{width: 600px;}

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【GET!ザ・トレンド】糖尿病専門医からがんを診療する医師へのメッセージ

はじめに糖尿病に伴うがんリスクには、糖尿病治療薬も関与している可能性がある。本稿では、糖尿病治療薬に関するエビデンスとその解釈上の注意点、および日常診療に携わる医師への提言を述べる。糖尿病治療薬とがんリスク特定の糖尿病治療薬が、がん罹患リスクに影響を及ぼすか否かについての現時点でのエビデンスは限定的であり、治療法の選択に関しては、添付文書などに示されている使用上の注意に従ったうえで、良好な血糖コントロールによるベネフィットを優先した治療1)が望ましい。以下に、治療薬ごとにリスクを述べる。1)メトホルミン筆者らが行ったメタアナリシスでは、メトホルミン服用患者は非服用患者に比べてがんの発症リスクが0.67倍と有意に低下していた(図)2)。がん死リスクもほぼ同等であった。さらに臓器別には、大腸がん約30%、肺がん約30%、肝臓がんに関しては約80%と有意な低下を認めた。ただし、糖尿病で有意に増加するといわれている膵臓がんなどにおいては、リスク比の変化は有意ではなかった。図を拡大するメトホルミンは、AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)を介して主に肝臓に作用して、血糖降下を発揮する。最近判明してきたことだが、このAMPKという物質は、下流にあるmTORというがん関連因子を抑制することで発がんを抑えるのではないか、という研究が進んでいる。実際に日本人の非糖尿病を対象としたランダム化比較試験(RCT)においても、メトホルミン投与群では非投与群に比べて、大腸がんの内視鏡的マーカーの有意な低下を認めた。ただし、短期間の研究なので、長期的な予後までは判明していない。まだまだ研究段階ではあるが、このようにメトホルミンは、がんの発症を抑える可能性があるということで着目されている。ただし、観察研究が主体なのでバイアスに留意すべきである。 筆者らのメタアナリシスに含まれているRCTや、時間関連バイアス調整後の観察研究3)やRCT(短期間も含む)のみの他のメタアナリシス4)では、結果はニュートラルであった。2)インスリン/スルホニル尿素(SU)薬/グリニド薬理論上は、高インスリン血症によりがんリスクが高まることが懸念される。3~4年ほど前、インスリン投与により乳がんのリスクが有意に増加するという報告が続いた。しかし、これらの報告は研究デザイン上の問題やバイアスが大きく、妥当性は低い(表1)。実際、その後行われた1万2千人余りのランダム化研究などの分析によると、インスリン投与群とインスリン非投与群では、がん全般の発症率およびがんによる死亡リスクともに有意な増減を認めておらず、現時点ではインスリンによるがんリスクの上昇の可能性はほぼ否定されている。表1を拡大する血中インスリン濃度を高めるSU薬も、メタアナリシスでまったくのリスク増減を認めていない。また、グリニド薬に関しては、アジア人の報告ではがん全般リスクはやや上昇するという報告があったが、こちらの疫学研究は非常にバイアスの強い報告なので、まだまだデータとしては限定的である。3)ピオグリタゾン膀胱がんのリスクが上昇するというニュースで、近年話題となった。アメリカの報告では、がん全般としては有意な増減を認めていない。ただし、日本、アメリカ、ヨーロッパの報告を見ると、ピオグリタゾンにより膀胱がんリスクが1.4~2倍あまりも有意に上昇する可能性が示唆されている。実際、フランス・ドイツでは処方禁止、インドでは第1選択薬としての処方は禁止となっている。まだまだ研究段階で最終的な結論は出ていないが、このような現状を踏まえ、添付文書の注意書き(表2)に従ったうえで投与することが必要である。表2を拡大する4)α-グルコシダーゼ阻害薬アメリカの副作用登録では、膀胱がんのリスクが有意に増加するということが報告されている。しかし、台湾の疫学研究では、膀胱がんの有意なリスク増減は認めていない。いずれも非常に限定的でバイアスの強いデータであり、まだまだ最終結論は出ていない。5)DPP-4阻害薬/GLP-1アナログDPP-4阻害薬のメタアナリシスでは、がんリスクの有意な増減はまったく認めていない5)。ただし、含まれている研究は非常に追跡期間の短いものばかりなので、臨床的にあまり価値がないエビデンスである。その後発表されたRCT 2件では有意なリスクの増加を認めていないので、がんのリスクに対する安全性も比較的確保されたものと思われる。6)SGLT2阻害薬今年、わが国でも承認されたこの薬物は、腎臓でのブドウ糖吸収を抑制することで血糖値を下げ、さらに体重も低下する報告がある。まだまだ新薬として登場して間もないものでデータも非常に限定的であるため、長期的なリスクは未知数である。糖尿病患者のがん検診糖尿病ではがんのリスクが高まる可能性が示唆されているため、日常診療において糖尿病患者に対しては、性別・年齢に応じて臨床的に有効ながん検診(表3)を受診するよう推奨し、「一病息災」を目指すことが重要である。がん検診は、がん発見が正確で確実であること、受診率が高いこと、受診の結果予後が改善することを満たして初めて有効性を持つ。日本のがん検診の多くは有効性が実証されておらず、過剰診断と過剰治療によるリスクも小さくはないことに留意する。さらに、無症状でも急激に血糖コントロールが悪化した場合には、がんが潜在している可能性があるため、がん精査を考慮する必要がある。表3を拡大する文献1)国立国際医療研究センター病院.糖尿病標準診療マニュアル(一般診療所・クリニック向け).http://ncgm-dm.jp/center/diabetes_treatment_manual.pdf(参照 2014.8.22)2)Noto H, et al. PLoS One. 2012; 7: e33411.3)Suissa S, et al. Diabetes Care. 2012; 35: 2665-2673.4)Stevens RJ, et al. Diabetologia. 2012; 55: 2593-2603.5)Monami M, et al. Curr Med Res Opin. 2011; 27: 57-64.6)厚生労働省. がん検診について. http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/gan_kenshin01.pdf(参照2014.8.22)

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