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第248回 GLP-1薬とてんかん発作を生じにくくなることが関連

GLP-1薬とてんかん発作を生じにくくなることが関連セマグルチドなどのGLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)とてんかん発作を生じにくくなることの関連が新たなメタ解析で示されました1)。たいてい60~65歳過ぎに発症する晩発性てんかん(late-onset epilepsy)を生じやすいことと糖尿病やその他いくつかのリスク要因との関連が、米国の4地域から募った45~64歳の中高年の長期観察試験で示されています2)。近年になって使われるようになったGLP-1 RA、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬を含む新しい血糖降下薬は多才で、糖尿病の治療効果に加えて神経保護や抗炎症作用も担うようです。たとえば血糖降下薬とパーキンソン病を生じ難くなることの関連が無作為化試験のメタ解析で示されており3)、血糖降下薬には神経変性を食い止める効果があるのかもしれません。米国FDAの有害事象データベースの解析では、血糖降下薬と多発性硬化症が生じ難くなることが関連しており4)、神経炎症を防ぐ作用も示唆されています。晩発性てんかんは神経変性と血管損傷の複合で生じると考えられています。ゆえに、神経変性を食い止めうるらしい血糖降下薬は発作やてんかんの発生に影響を及ぼしそうです。そこでインドのKasturba Medical CollegeのUdeept Sindhu氏らはこれまでの無作為化試験一揃いをメタ解析し、近ごろの血糖降下薬に発作やてんかんを防ぐ効果があるかどうかを調べました。GLP-1 RA、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬の27の無作為化試験に参加した成人20万例弱(19万7,910例)の記録が解析されました。血糖降下薬に割り振られた患者は半数強の10万2,939例で、残り半数弱(9万4,971例)はプラセボ投与群でした。有害事象として報告された発作やてんかんの発生率を比較したところ、血糖降下薬全体はプラセボに比べて24%低くて済んでいました。血糖降下薬の種類別で解析したところ、GLP-1 RAのみ有益で、GLP-1 RAは発作やてんかんの発生率がプラセボに比べて33%低いことが示されました(相対リスク:0.67、95%信頼区間:0.46~0.98、p=0.034)。発作とてんかんを区別して解析したところ、GLP-1 RAと発作の発生率の有意な低下は維持されました。しかし、てんかん発生率の比較では残念ながらGLP-1 RAとプラセボの差は有意ではありませんでした。試験の平均追跡期間は2.5年ほど(29.2ヵ月)であり、てんかんの比較で差がつかなかったことには試験期間が比較的短かったことが関与しているかもしれません。また、試験で報告されたてんかんがInternational League Against Epilepsy(ILAE)の基準に合致するかどうかも不明で、そのことも有意差に至らなかった理由の一端かもしれません。そのような不備はあったもの、新しい血糖降下薬が発作やてんかんを防ぎうることを今回の結果は示唆しており、さまざまな手法やより多様で大人数のデータベースを使ってのさらなる検討を促すだろうと著者は言っています1)。とくに、脳卒中患者などのてんかんが生じる恐れが大きい高齢者集団での検討を後押しするでしょう。参考1)Sindhu U, et al. Epilepsia Open. 2024;9:2528-2536.2)Johnson EL, et al. JAMA Neurol. 2018;75:1375-1382.3)Tang H, et al. Mov Disord Clin Pract. 2023;10:1659-1665.4)Shirani A, et al. Ther Adv Neurol Disord. 2024;17:17562864241276848.

22.

GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドは、駆出率の保たれた心不全肥満患者に有効(解説:佐田政隆氏)

 左室駆出率が40%未満の心不全を「左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)」、左室駆出率が50%以上の心不全を「左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)」、左室駆出率が40%以上50%未満の心不全は「左室駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)」と定義されている。 HFrEFに対する薬物療法では、この30年ほどの間に著明な進歩があった。β遮断薬、ACE阻害薬/ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)もしくはARNI (アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)、そして最近はSGLT2阻害薬の上乗せが予後をさらに改善することが証明された。現在、β遮断薬、ARNI、MRA、SGLT2阻害薬はfantastic fourと呼ばれ、HFrEF患者の予後改善のために1ヵ月以内に早期に導入することが強く推奨されている。 一方、HFpEFに対しては、β遮断薬、ACE阻害薬、ARB、ARNI、MRAを用いて各種大規模臨床研究が行われてきたが、いずれも予後を改善することは証明できなかった。近年、HFrEFよりHFpEFが増加しているという報告もあり、今後予想される心不全パンデミックに備えて、HFpEFに対する有効な治療法の開発が望まれていた。 この数年、SGLT2阻害薬がHFrEFのみでなくHFpEFに対しても有効性があることが証明され、ダパグリフロジンとエンパグリフロジンは糖尿病がなくても心不全治療薬として承認されている。しかし、HFpEF患者の予後改善のためには、さらなる追加の治療法が求められていた。 2023年、肥満を有するHFpEF患者において、セマグルチド2.4mgによる治療によって、プラセボと比較して、症状と身体的制限が軽減し、運動機能が改善し、体重が減少することがSTEP-HFpEF試験で報告された。 小腸から分泌されて膵臓に作用するインクレチン製剤としては長年GLP-1受容体作動薬が用いられてきたが、昨今、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドが糖尿病治療薬として開発され、その強力な血糖降下作用と体重減少効果から、本邦でも急速に普及している。 本論文では、BMI 30以上の肥満をもったHFpEF患者(2型糖尿病患者はおよそ48%)に対するチルゼパチドの効果を検討した。主要評価項目である104週間での「心血管死と心不全増悪」を、チルゼパチドでプラセボと比較して有意に減少させた。また、カンザスシティ心筋症質問票臨床サマリースコア(KCCQ-CSS:スコア範囲は0~100で、数値が高いほど症状と身体的制限が少ないことを示す)と6分間歩行距離を改善した。体重減少は、チルゼパチド群で-13.9%、プラセボ群で-2.2%であった。注目すべきことには、高感度CRPがチルゼパチド群でなんと-38.8%低下し、プラセボ群では-5.9%であった。この抗炎症効果は、体重減少だけでは説明がつかないと思われ、膵臓以外の臓器へのチルゼパチドの多面的な作用の関与が大きいと思われる。 米国ではチルゼパチドは肥満症治療薬として2023年11月にすでに承認されているが、日本においてもセマグルチドに続いて2024年12月27日に承認された。肥満を有するHFpEF患者に対するチルゼパチドの効果のメカニズム、GLP-1受容体作動薬とGIP/GLP-1受容体作動薬でHFpEFに対してどちらがより効果的なのか、肥満のないHFpEFにも有効なのかと疑問は尽きないが、今後の臨床研究、基礎研究で解明されていくことが期待される。

23.

SGLT2iはDPP-4iより網膜症リスクを抑制する可能性―国内リアルワールド研究

 合併症未発症段階の日本人2型糖尿病患者に対する早期治療として、DPP-4阻害薬(DPP-4i)ではなくSGLT2阻害薬(SGLT2i)を用いることで、糖尿病網膜症発症リスクがより低下することを示唆するデータが報告された。千葉大学予防医学センターの越坂理也氏、同眼科の辰巳智章氏らの研究グループが、大規模リアルワールドデータを用いて行ったコホート研究の結果であり、詳細は「Diabetes Therapy」に9月30日掲載された。 SGLT2iは血糖降下作用に加えて、血圧や脂質などの糖尿病網膜症(以下、網膜症)のリスク因子を改善する作用を持ち、また網膜症に関する観察研究の結果が海外から報告されている。ただし日本人でのエビデンスは少なく、特に早期介入のエビデンスは国際的にも少ない。これを背景として越坂氏らは、健康保険組合の約1,700万人分の医療費請求情報および健診データが登録されている大規模データベース(JMDC Claims Database)を用いた解析を行った。 2015年1月から2022年9月末の期間にSGLT2iまたはDPP-4iの処方が開始されていた患者から、18歳未満、両剤併用、合併症(網膜症を含む細小血管症や大血管症)診断の記録、および1型糖尿病や妊娠糖尿病の患者などを除外した上で、傾向スコアマッチングにより背景因子の一致する各群1万166人を解析対象とした。SGLT2iまたはDPP-4iの処方開始日から網膜症(黄斑浮腫を含む)の発症、治療中断、患者データ最終日、または死亡のいずれか最も早い日まで追跡した。追跡開始時点において、平均年齢(約50歳)、男性の割合(同80%)、BMI(29kg/m2)、HbA1c(7.7%)は両群間に大きな差はなく、また喫煙者率、血圧、血清脂質、eGFR、チャールソン併存疾患指数、併用薬剤、医療機関の規模、追跡開始年などもよく一致しており、標準化平均差が0.05未満だった。 SGLT2i群は1万5,012人年の追跡で694人が網膜症を発症し、1,000人年当たりの罹患率は46.23だった。DPP-4i群は1万3,954人年の追跡で797人が網膜症を発症し、1,000人年当たりの罹患率は57.12だった。Cox比例ハザードモデルによる解析で、DPP-4i群に比較しSGLT2i群は網膜症発症リスクが有意に低いことが示された(ハザード比0.83〔95%信頼区間0.75~0.92〕、P=0.0003)。 患者背景別のサブグループ解析でも、おおむね全体解析と同様にSGLT2i群において網膜症発症リスクが有意に低いことが示された。ただし、65歳以上、HbA1cが7~8%の範囲、脂質低下薬またはレニン-アンジオテンシン系降圧薬の併用、およびベースライン時点で何らかの血糖降下薬が既に処方されていたケースでは、DPP-4i群とのリスク差が非有意だった。 著者らは、本研究を「合併症のない日本人2型糖尿病患者を対象に、網膜症リスクに対するSGLT2iとDPP-4iの影響の違いを検討した初の大規模研究」と位置づけている。研究の限界点として、健康保険組合のデータを用いたため高齢者の割合が低いこと、および残余交絡が存在する可能性などを挙げた上で、「SGLT2iが処方された患者はDPP-4iが処方された患者よりも網膜症リスクが低い可能性が示された」と結論。また、研究参加者が比較的若年で合併症がない集団であり、かつサブグループ解析では血糖や脂質・血圧に対して既に介入がなされていた群でリスク差が非有意であったことから、「より早期からのSGLT2iによる治療が網膜症抑止において有益と考えられる」と付け加えている。

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SGLT2阻害薬はがん発症を減らすか~日本の大規模疫学データ

 近年、SGLT2阻害薬は実験レベルでさまざまながん種に対する抗腫瘍効果が示唆されている。臨床においても、無作為化試験や観察研究などでSGLT2阻害薬とがん発症リスクとの関係が検討されているが結論は出ておらず、一般的にがん発症率が低いことを考慮すると大規模な疫学コホートでの検討が必要となる。今回、東京大学/国立保健医療科学院の鈴木 裕太氏らが全国規模の疫学データベースを用いて、SGLT2阻害薬またはDPP-4阻害薬を処方された患者におけるがん発症率を調べた結果、SGLT2阻害薬のほうががん発症リスクが低く、とくに大腸がんの発症リスクが低いことがわかった。Diabetes & Metabolism誌2024年11月号に掲載。 大規模疫学データベースにおいて、新規でSGLT2阻害薬またはDPP-4阻害薬を処方された糖尿病患者を解析した。主要評価項目はがん発生率とし、傾向スコアマッチングアルゴリズムを用いて、SGLT2阻害薬群とDPP-4阻害薬群におけるがん発症率を比較した。 主な結果は以下のとおり。・2万6,823例を1:2(SGLT2阻害薬群8,941例、DPP-4阻害薬群1万7,882例)に傾向スコアマッチングした。平均追跡期間2.0±1.6年の間に1,076例ががんを発症した。・SGLT2阻害薬投与はがんリスク低下と関連し(ハザード比[HR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.70~0.91)、とくに大腸がんリスクの低下と関連していた(HR:0.71、95%CI:0.50~0.998)。・この結果は、オーバーラップ重み付け解析(HR:0.79、95%CI:0.66~0.94)、治療の逆確率重み付け解析(HR:0.75、95%CI:0.65~0.86)、導入期間の設定(HR:0.78(95%CI:0.65~0.93)を含む種々の感度解析で一貫していた。・がん発症リスクはそれぞれのSGLT2阻害薬で同程度であった。 この全国のリアルワールドデータを用いた検討結果から、著者らは「糖尿病患者におけるがん発症抑制においてはDPP-4阻害薬よりSGLT2阻害薬のほうが有利である可能性が示された」としている。

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SGLT2阻害薬やMR拮抗薬などで添文改訂指示/厚労省

 2024年12月17日、厚生労働省はSGLT2阻害薬やミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MR拮抗薬)などに対して、添付文書の改訂指示を発出した。ケトアシドーシスの持続に注意 SGLT2阻害薬はこれまでにもケトアシドーシスに関連した注意喚起がなされていたが、投与中止後の尿中グルコース排泄およびケトアシドーシスの遷延に関連する症例が集積し、現行の注意喚起からは予測できない事象と結論付けられたことから、重要な基本的注意の項に「本剤を含むSGLT2阻害薬の投与中止後、血漿中半減期から予想されるより長く尿中グルコース排泄及びケトアシドーシスが持続した症例が報告されているため、必要に応じて尿糖を測定するなど観察を十分に行うこと」が新たに追記される。 対象医薬品は以下のとおり。・エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)・ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物(同:フォシーガ)・イプラグリフロジン L-プロリン(同:スーグラ)・カナグリフロジン水和物(同:カナグル)・トホグリフロジン水和物(同:デベルザ)・ルセオグリフロジン水和物(同:ルセフィ)MR拮抗薬、禁忌が一部変更に MR拮抗薬のエプレレノン(商品名:セララ)とエサキセレノン(同:ミネブロ)はカリウム貯留作用により高カリウム血症を誘発する可能性がある薬剤であるため、ヨウ化カリウムとの併用が禁忌となっている。しかし、両剤を服用中の患者において、現行では放射線による内部被爆の予防・低減のためにヨウ化カリウムを使用できないことから、「放射性ヨウ素による甲状腺の内部被曝の予防・低減に使用する場合」については、禁忌の項から除外され、併用禁忌から併用注意に変更される。同様に、ヨウ化カリウムの添付文書もエプレレノンとエサキセレノンを併用禁忌から併用注意へ変更される。

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“Fantastic Four”の一角に陰り:心筋梗塞例にミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は無効(解説:桑島巌氏)

 アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬の4つは心不全の治療薬におけるFantastic Fourとして広く宣伝されてきた。しかし本論文は、その一角を成すMRAの1つスピロノラクトンが心筋梗塞後の心血管死や心不全悪化に対しての効果はプラセボ群と差がなく、有用性を認めなかったという結果を示した。 心不全、収縮機能が低下した心筋梗塞例に対してスピロノラクトンやエプレレノンが死亡率を減少させることは、すでにRALES研究(Pitt B, et al. N Engl J Med. 1999;341:709-717.)やEPHESUS研究(Pitt B, et al. N Engl J Med. 2003;348:1309-1321.)などで証明されている。しかし今回発表されたCLEAR研究では、心筋梗塞後の症例に対してのスピロノラクトンの有用性は証明できなかった。 スピロノラクトンに有意な有効性を認めなかった最大の要因は、イベント数が少ないことによる検出力不足である。本研究の対象者は心筋梗塞後に冠動脈インターベンション(PCI)を受けた症例であり、ほとんどの例でステント(96%)や、抗血小板薬(97%)やスタチン(97%)などによる厳格な再発予防治療を受けており、心血管イベント発症率は低いのは当然である。この点、RALES研究やEPHESUS研究の時代とは背景が大きく異なっている。 また本研究ではKillip II以上の心不全症例が含まれていないことも、スピロノラクトンの有用性を示すことができなかった一因であろう。 約7,000例規模の試験において有効性を認めなかったことは、実臨床においても心不全を合併しない心筋梗塞例に漫然とMRAを処方することは避けるべきとのメッセージである。

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『糖尿病治療ガイド2024』発刊、GIP/GLP-1受容体作動薬を追加/糖尿病学会

 日本糖尿病学会は、糖尿病診療で頻用されている『糖尿病治療ガイド』の2024年版を11月に発刊した。本書は、糖尿病診療の基本的な考え方から最新情報までをわかりやすくまとめ、専門医だけでなく非専門の内科医、他科の医師、医療スタッフなどにも、広く活用されている。今回の改訂では、GIP/GLP-1受容体作動薬の追加をはじめ、2024年10月現在の最新の内容にアップデートされている。【主な改訂のポイント】・「糖尿病診療ガイドライン2024」に準拠しつつ、診療上必要な専門家のコンセンサスも掲載。・GIP/GLP-1受容体作動薬の追加など、最新の薬剤情報にアップデート。・「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)」に基づいた経口薬療法および注射薬療法の解説。・緩徐進行1型糖尿病の診断基準や糖尿病患者の脂質管理目標値、糖尿病性腎症の病期分類など、最新の基準・目標値の内容を反映。※アドボカシー活動の進展による言葉の変更は、いまだ適切な基準がないため、全面的な変更は見送った。 編集委員会は序文で「日々進歩している糖尿病治療の理解に役立ち、毎日の診療に一層活用されることを願ってやまない」と期待を述べている。

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非肥満2型糖尿病患者の心血管障害へのSGLT2阻害薬の効果は/京大

 糖尿病の薬物治療で頻用されているSGLT2阻害薬。しかし、SGLT2阻害薬の有効性を示した過去の大規模臨床研究の参加者は、平均BMIが30を超える肥満体型の糖尿病患者が多数を占めていた。 わが国の実臨床現場ではBMIが25を下回る糖尿病患者が多く、肥満のない患者でも糖分を尿から排泄するSGLT2阻害薬が本当に有効なのかどうかは、検証が不十分だった。そこで、森 雄一郎氏(京都大学大学院医学系研究科)らの研究グループは、協会けんぽのデータベースを活用し、わが国のSGLT2阻害薬の効果検証を行った。その結果、肥満傾向~肥満の患者ではSGLT2阻害薬の有効性が確認できたが、BMI25未満の患者では明らかではなかったことがわかった。本研究の結果はCardiovascular Diabetology誌2024年10月22日号に掲載された。肥満者にSGLT2阻害薬の主要アウトカムの効果はみられた一方で非肥満者ではみられず この研究は、2型糖尿病でBMIが低~正常の患者におけるSGLT2阻害薬の心血管アウトカムに対する有効性を、従来の試験よりも細かい層別化を用いて検討することを目的に行われた。 研究グループは、2015年4月1日~2022年3月31日の協会けんぽのデータベースを活用し、3,000万例以上の現役世代の保険請求記録および健診記録を用い、標的試験エミュレーションの枠組みを用いたコホート研究を行った。 SGLT2阻害薬の新規使用者13万9,783例とDPP-4阻害薬の使用者13万9,783例をBMI区分(20.0未満、20.0~22.4、22.5~24.9、25.0~29.9、30.0~34.9、35.0以上)で層別化し、マッチングした。主要アウトカムは全死亡、心筋梗塞、脳卒中、心不全。 主な結果は以下のとおり。・参加者の17.3%(4万8,377例)が女性で、31.0%(8万6,536例)のBMIが低~正常だった(20.0未満:1.9%[5,350例]、20.0~22.4:8.5%[2万3,818例]、22.5~24.9:20.5%[5万7,368例])。・追跡期間中央値24ヵ月で、主要なアウトカムは参加者の2.9%(8,165例)に発現した。・SGLT2阻害薬は全集団において主要アウトカムの発生率低下と関連していた(ハザード比[HR]:0.92[95%信頼区間[CI]:0.89~0.96])。・BMIが低~正常の集団では、SGLT2阻害薬は主要アウトカム発生率の低下と関連しなかった(20.0未満のHR:1.08[95%CI:0.80~1.46]、20.0~22.4のHR:1.04[95%CI:0.90~1.20]、22.5~24.9のHR:0.92[95%CI:0.84~1.01])。 この結果から研究グループは、「2型糖尿病患者の心血管イベントに対するSGLT2阻害薬の効果は、BMIが低いほど低減するようであり、BMIが低~正常(25.0未満)の患者では有意ではなかった。これらの結果はSGLT2阻害薬の投与開始時にBMIを考慮することの重要性を示唆している」と述べている。

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エンパグリフロジン投与終了後もCKDの心・腎保護効果が持続、レガシー効果か?(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか EMPA-KIDNEY試験では、SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(エンパ)の心・腎保護作用が、糖尿病性腎症(DKD)のみならず非糖尿病CKD(CKD)においても示された(The EMPA-KIDNEY Collaborative Group. N Engl J Med. 2023;388:117-127.)。今回の報告は、同試験の終了後の追跡評価(post-trial follow-up)である。その結果、エンパの投与終了後、少なくとも1年間は心・腎保護作用が持続した。この成績が先行治療終了後も臓器保護作用が持続する、いわゆるレガシー(遺産)効果の初期像を観察しているとすれば、SGLT2阻害薬の新知見の可能性がある。EMPA-KIDNEY試験終了後の追跡研究 本研究では、EMPA-KIDNEY試験で無作為化された6,609例のうち、同意が得られた4,891例(74%)を登録し追跡評価の対象とした。EMPA-KIDNEY試験開始から追跡評価終了までを統合期間(4年間)とし、オーバーラップ期間を経て2年間を追跡観察期とした。全体での主要アウトカムイベントの発生は、エンパ群で865/3,304例(26.2%)、プラセボ群で1,001/3,305例(30.3%)であり(ハザード比[HR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.72~0.87)、統合期間中のエンパの有用性が示唆された。追跡期間の主要アウトカムは、腎疾患進行または心血管死の2つであった。その追跡評価期間の主要アウトカムイベントのHRは0.87(95%CI:0.76~0.99)であり、エンパ群で投与終了後も最長12ヵ月間、心・腎保護作用をもたらし続けることが示された。また、統合期間における腎疾患進行の発生率はエンパ群23.5%、プラセボ群27.1%、死亡または末期腎不全(ESKD)の複合の発生率はエンパ群16.9%、プラセボ群19.6%、心血管死の発生率はエンパ群3.8%、プラセボ群4.9%で、いずれもエンパ群で改善がみられた。一方、非心血管死への影響は両群とも5.3%で差異は認められなかった。なお、追跡期間中のエンパを含めたSGLT2阻害薬投与は治験担当医の判断に委ねられており、EMPA-KIDNEY試験終了後2年でエンパ群の45.4%、プラセボ群の42.0%がSGLT2阻害薬治療を受けていた。DKD/CKDにおけるSGLT2阻害薬の腎保護機序 DKD/CKDの進行性機序は多因子である。SGLT2阻害薬の腎保護作用は、Tubulo-Glomerular Feedback(TGF)機構を介した糸球体過剰濾過軽減が主な機序である。また、血圧改善、Na利尿、ブドウ糖尿とNa排泄による浸透圧利尿なども腎保護に寄与する。SGLT2阻害薬による代謝系改善は、血糖降下作用、尿酸値低下、脂質代謝改善、体重減少、Hb値上昇、ケトン体形成などがある。SGLT2阻害薬は、これらの複合的機序により、腎虚血改善、抗炎症作用、抗酸化作用、腎線維化抑制作用などを惹起する(Dharia A, et al. Annu Rev Med. 2023;74:369-384.)。CKDでは血糖低下による効果は期待されないため、腎保護にはTGFなど、他の機序が複合的に関与している。本論文のレガシー効果の信ぴょう性 2型糖尿病において早期から集中的に良好な血糖管理を行うと、全死亡リスク減少や糖尿病合併症を抑制するとの「レガシー効果」はUKPDS 91で報告された(1型糖尿病のDCCT研究のMetabolic Memoryも同義)。今回の所見が、エンパによる心・腎保護作用のレガシー効果の初期像を見ている可能性は否定できない。25万人の2型糖尿病治療のコホート研究において、SGLT2阻害薬を治療開始2年で早期導入することでCVD発症が減少するとのレガシー効果の報告はある(Ceriello A, et al. Lancet Reg Health Eur. 2023;31:100666.)。本研究は、観察期間がエンパ投与終了後2年と短期であることや、EMPA-KIDNEY試験終了後のエンパ群とプラセボ群とのSGLT2阻害薬投与率がほぼ同程度であることなどから、レガシー効果は(仮にあるとして)検出しにくい条件であった。それにもかかわらず、追跡期間に心・腎保護効果を認めたことは、レガシー効果を観察している可能性はある。DKD/CKDにおける心・腎保護療法の未来展望 DKDにおけるSGLT2阻害薬の心・腎保護作用は、EMPA-REG OUTCOME、CANVAS Program、DECLARE-TIMI 48、CREDENCEなどで確認され腎保護療法として確立してきた。その後、DAPA-CKDやEMPA-KIDNEYにおいてCKDにも腎保護作用が報告された。これらの試験の結果を踏まえ、2024年KDIGOガイドラインのDKD/CKD治療のアルゴリズムでは、SGLT2阻害薬とRAS阻害薬が第1選択とされ、病態に応じGLP-1受容体作動薬、非ステロイド型MRAを選択すべきことが推奨されている (Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) CKD Work Group. Kidney Int. 2024;105(4S):S205-S254.)。ここでRAS阻害薬とSGLT2阻害薬の腎複合エンドポイント(EP)のリスク減少度(RR)に注目すると、 RAS阻害薬であるARBを使用したRENAAL試験での腎複合EPのRRは16%、IDNT試験では19%であったが、SGLT2阻害薬を使用したDAPA-CKD試験ではRRは39%と著しい改善がみられた。また、EMPA-KIDNEY試験は、RR 28%の時点で有効性のエビデンスが明白であるとの理由で、独立データモニタリング委員会の勧告で早期中止となった。両薬剤間のRRは直接比較することはできないが、SGLT2阻害薬の優れた腎保護作用は明白である。 実臨床の問題として、DKDは低レニン性低アルドステロン血症によって、RAS阻害薬投与による高K血症のリスクは少なからず危惧される(Sousa AG, et al. World J Diabetes. 2016;7:101-111.)。その点、SGLT2阻害薬は、近位尿細管でのSGLT2抑制とそれに伴う浸透圧利尿によりK喪失的に作用するため高K血症は少ない。これらの両剤の相違から、今後、「SGLT2阻害薬をDKD/CKDの早期から使用することにより、さらなる腎予後改善が望めるかもしれない」との治療上の作業仮説が注目される。たとえば、EMPA-KIDNEY試験の試算では、エンパを腎機能軽度低下の早期(eGFR 60mL/分/1.73m2)に開始すると、中等度に低下した晩期(eGFR 30mL/分/1.73m2)に開始することに比較し、末期腎不全への移行を9年ほど延長することが期待される(腎生存期間:早期群17.8年vs.晩期群8.9年)(Fernandez-Fernandez B, et al. Clin Kidney J. 2023;16:1187-1198.)。SGLT2阻害薬のメタ解析からも、将来的に同剤がDKD/CKD治療において、Foundational drug therapy(基礎治療薬)となりうる可能性が注目されている(Mark PB, et al. Lancet. 2022;400:1745-1747.)。

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HFrEF患者の死亡リスク、SGLT-2阻害薬で25%減/BMJ

 駆出率が低下した心不全(HFrEF)を有する患者において、SGLT-2阻害薬の使用者は非使用者と比較して、全死因死亡リスクが25%低かった。デンマーク・国立血清学研究所(SSI)のHenrik Svanstrom氏らが、同国心不全レジストリ(Danish Heart Failure Registry)と国民登録簿(Danish national registers)を結び付けて解析した非介入データベース試験の結果を報告した。臨床試験では、SGLT-2阻害薬は糖尿病の有無にかかわらず、駆出率が低下した心不全患者の病状悪化および死亡のリスクを低下することが示されている。しかし、臨床試験のような管理下にない幅広い心不全患者集団における、SGLT-2阻害薬の有効性はほとんどわかっていなかった。著者は、「今回の結果は、実臨床において、および糖尿病患者と非糖尿病患者を含むすべての重要な臨床サブグループにおいて、SGLT-2阻害薬の有効性を支持するものであった」とまとめている。BMJ誌2024年11月6日号掲載の報告。対象は45歳以上、左室駆出率40%以下の心不全患者 研究グループは、2020年7月~2023年6月のデータを用いて、駆出率が低下した心不全を有する患者におけるSGLT-2阻害薬の使用と全死因死亡リスクとの関連を調べた。 対象は、45歳以上、左室駆出率40%以下の心不全患者とした。 主要アウトカムは全死因死亡で、SGLT-2阻害薬による治療開始・継続群と、SGLT-2阻害薬非使用でほかの標準的な心不全治療薬による治療継続群を比較した。副次アウトカムは心血管死または心不全による入院の複合およびそれぞれの発生とした。傾向スコアに基づく逆確率治療重み付け(IPTW)で補正したCox回帰法によりハザード比(HR)を算出して評価した。糖尿病患者vs.非糖尿病患者の死亡抑制効果は同等 SGLT-2阻害薬(ダパグリフロジン79%、エンパグリフロジン21%)を開始していた6,776例と、SGLT-2阻害薬非使用でほかの標準的な心不全治療薬を継続使用していた1万4,686例が試験に組み入れられた。 SGLT-2阻害薬使用群は、70%が男性で、平均年齢は71.2歳(SD 10.6)、20%が2型糖尿病を有していた。 追跡期間中の死亡は、SGLT-2阻害薬使用群で374例(死亡率5.8/100人年)、非使用群で1,602例(8.5/100人年)だった。全死因死亡の重み付けHRは0.75(95%信頼区間[CI]:0.66~0.85)であり、死亡の重み付け発生率(100人年当たり)の群間差は-1.6(95%CI:-2.5~-0.8)であった。 心血管死または心不全による入院の複合のHRは0.94(95%CI:0.85~1.04)、心血管死のHRは0.77(0.64~0.92)、心不全による入院のHRは1.03(0.92~1.15)であった。 全死因死亡の重み付けHRは、糖尿病患者(0.73[95%CI:0.58~0.91])と非糖尿病患者(0.73[0.63~0.85])で同等だった(p=0.99)。

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CKDへのエンパグリフロジン、中止後も心腎保護効果が持続/NEJM

 疾患進行リスクのある幅広い慢性腎臓病(CKD)患者において、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンは、投与中止後も最長12ヵ月間、追加的な心腎ベネフィットをもたらし続けることが、英国・オックスフォード大学のWilliam G. Herrington氏らEMPA-KIDNEY Collaborative Groupによる「EMPA-KIDNEY試験」の試験後追跡評価において示された。EMPA-KIDNEY試験では、エンパグリフロジンが疾患進行リスクのある幅広いCKD患者に良好な心腎効果をもたらすことが示されていた。今回の試験後追跡評価(post-trial follow-up)では、試験薬中止後のエンパグリフロジンの効果がどのように進展するかが評価された。NEJM誌オンライン版2024年10月25日号掲載の報告。EMPA-KIDNEY試験後の追跡評価 EMPA-KIDNEY試験は、CKD患者を対象に8ヵ国241施設で行われた第III相二重盲検プラセボ対照試験。被験者は、エンパグリフロジン(1日1回10mg)またはプラセボの投与を受ける群に無作為化され、中央値2年間追跡された。全被験者が、eGFR≧20~<45mL/分/1.73m2もしくは≧45~<90mL/分/1.73m2かつ尿中アルブミン(mg)/クレアチニン(g)比≧200であった。 試験終了後、同意を得た生存患者を2年間観察した。同期間中に試験薬(エンパグリフロジンまたはプラセボ)は投与されなかったが、各試験施設の治験担当医師はエンパグリフロジンを含むSGLT2阻害薬の非盲検での処方は可能であった。 主要アウトカムは2つで、EMPA-KIDNEY試験開始から試験後追跡評価終了まで評価した腎疾患進行または心血管死であった。統合期間の主要アウトカムイベント発生HRは0.79、試験後のみでは0.87 試験後追跡評価は、7ヵ国185施設で行われ、EMPA-KIDNEY試験で無作為化された6,609例のうち、4,891例(74%)が登録された。この間の非盲検SGLT2阻害薬の使用は、両群で同程度であった(エンパグリフロジン群43%、プラセボ群40%)。 EMPA-KIDNEY試験開始から試験後追跡評価終了まで(統合期間)に、主要アウトカムイベントの発生は、エンパグリフロジン群で865/3,304例(26.2%)、プラセボ群で1,001/3,305例(30.3%)報告された(ハザード比[HR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.72~0.87)。試験後追跡評価期間のみでは、主要アウトカムイベントのHRは0.87(95%CI:0.76~0.99)であった。 統合期間における腎疾患進行の発生は、エンパグリフロジン群23.5%、プラセボ群27.1%であり、死亡または末期腎不全(ESKD)の複合の発生は各群16.9%、19.6%、心血管死の発生は各群3.8%、4.9%であった。エンパグリフロジンの非心血管死への影響は認められなかった(両群とも5.3%)。

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患者数が5年で5倍!心不全診療で取りこぼせない疾患とは/日本心臓病学会

 心アミロイドーシスは、もはや希少疾患ではないのかもしれない―。9月27~29日、仙台で開催された第72回日本心臓病学会学術集会のシンポジウム「心臓アミロイドーシス診療Up to date」において、本疾患の歴史や病理診断、病態~治療に関する現況や最新情報が報告され、これまでの心アミロイドーシスに対する意識を払拭すべき現状が浮き彫りとなった。心不全診療、心アミロイドーシスの除外診断は落とせない 心アミロイドーシスは全身性アミロイドーシスの一症状で、心臓の間質にアミロイド蛋白が沈着し、形態的・機能的異常をきたす進行性かつ予後不良の疾患である。アントニオ猪木氏が闘った病としても世間を賑わしたが、他方で医学界においても見過ごすことができない疾患として、今、注目を浴びている。というのは、心アミロイドーシスが心不全のなかでも治療方法が確立していないHFpEFの原因疾患の1つであること、診断方法や治療薬の進歩により診断件数が直近5年で約5倍にまで急増していることなどに端を発する。 ほんの10年前までは診断に心内膜心筋生検を要し、遺伝性では肝移植を治療法とするなどの高いハードルがあったが、『2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン』の発刊により、心臓99mTcピロリン酸シンチグラフィ(骨シンチグラフィ)を用いた非侵襲的な病型診断ができるようになり、さらには2019年に入りタファミジス(商品名:ビンダケルCap80mg、ビンマックCap61mg[2022年承認])にATTRアミロイドーシス(遺伝性[ATTRv]および野生型[ATTRwt])が適応追加されたことで状況が一変。現在、国内のATTRアミロイドーシスを基礎とした心不全患者は「5万人に上る」と田原 宣広氏(久留米大学心臓・血管内科循環器病センター 教授)は説明した。診断時に留意する点 心アミロイドーシスは免疫グロブリン性のAL(amyloid light chain)とトランスサイレチン(transthyretin:TTR)を前駆蛋白とするアミロイドが全身諸臓器に沈着するATTR(ATTRvとATTRwt)で98%以上を占め、原因不明の心不全や心肥大、大動脈弁狭窄症、そして強い伝導障害のある患者をみた際に鑑別したい疾患である。 病理医の立場から解説した内木 宏延氏(福井大学分子病理学 教授)は、確定診断を下す際の注意点として、骨シンチグラフィの普及により診断精度が向上したものの、日本では病理診断が必須であることを言及しており、「生検が必要な場合には、アミロイドが蓄積している皮下脂肪深部の細胞を採ることが大切で、その目安は親指の第一関節くらいの深さ」と説明した。 続いて診断時のポイントを解説した久保 亨氏(高知大学医学部老年病・循環器内科 病院准教授)は「心臓外症状に注目してほしい」と強調。病型を推察する際の目安として以下の所見を踏まえて診断を進めていくとともに、「AL、ATTRそれぞれを想定した心臓外症状としてみることが重要」と説明した。<とくにチェックすべき徴候・身体所見>・手根管症候群(とくに両側)・脊柱管狭窄・末梢神経障害・巨舌・自律神経障害・shoulder pain sign・蛋白尿などの腎障害・下血などの消化器症状 このほかに心電図検査や心エコーにてapical sparing(心基部の長軸方向ストレインが低下し、相対的に心尖部では保たれている所見)が認められ、心アミロイドーシス疑いが強まった時点でALかATTRかを判断するが、ALは骨シンチグラフィで偽陽性を示す場合があるため、「予後不良で準緊急対応が必要とされるALの除外は早急に行わなければならない。そこで、われわれはM蛋白の評価と骨シンチグラフィを同時に実施している」とし、「Definite診断(組織生検でのTTR同定が必要[タファミジス使用には必要])が付いていなくても、Probable診断(M蛋白の除外+骨シンチグラフィ陽性)の段階で申請可能であり、2024年度から書式が病型ごとに分かれたため、ATTRのprobable診断が得られれば、組織所見を待たずに遺伝学的検査を実施するほうがスピーディに進められる」と特定疾患申請方法についても説明した。治療薬の現状と将来展望 トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)の治療には、心不全治療とアミロイド沈着に対し疾患修飾薬による治療が必要となる。心不全治療について、南澤 匡俊氏(信州大学循環器内科)は「SGLT2阻害薬によりイベント抑制のみならずeGFRやNT-proBNPの増悪抑制効果1)が得られる」と述べ、心機能予防については「DELIVER試験のように左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)への心保護効果に対する薬物療法の検証が活発になってきている。心アミロイドーシスで心機能低下がない場合でも将来を見据えた予防的治療を行い、心保護を行うことが推奨される」と説明した。 疾患修飾薬については、アミロイドの原因となる血中TTRの90%以上が肝臓で産生されるため、治療標的として(1)siRNA製剤による肝臓でのTTR産生抑制、(2)TTR四量体の安定化、(3)アミロイド沈着に対する除去が挙げられる。現在、ATTRv神経症には(1)と(2)が、ATTR-CMには(2)が保険収載されており、(3)は治験段階である。遠藤 仁氏(慶應義塾大学医学部循環器内科)はATTR-CMの治療介入のタイミングについて「NYHAIII症例へはなるべく早期に安定化薬であるタファミジスを処方したほうがイベント改善効果は得られる。一方、心不全がないATTR-CMであっても早晩に心不全を発症するため、タファミジス投与により予後の改善が期待できる」と説明、さらに高齢ATTR-CM(>80歳)についてのタファミジスの有効性を示した2)。このほか、新たなTTR量体安定化薬acoramidisやsiRNA製剤ブトリシランについての有効性・安全性を紹介し、「ATTR-CMの治療薬として、TTR安定化薬やsiRNA製剤が広く使われていくだろう」と述べ、肝細胞の遺伝子編集、アミロイド線維を除去する抗体医薬NI006などの将来的な治療についても触れた。他科からのコンサルト需要が増加傾向に 近年、整形外科医から心アミロイドーシスを疑う手根管症候群患者の病理診断の依頼件数が増えており、「その数は心筋検査に匹敵するくらい」と内木氏は驚いていた。このように他科にも心アミロイドーシスを疑う視点が浸透しつつある今、循環器医への心アミロイドーシス診療に対するコンサルトが今後ますます増えていくと予想される。

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2型糖尿病患者の認知症リスクに対するSGLT2iの影響はデュラグルチドと同等

 高齢2型糖尿病患者の認知症リスクに対するSGLT2阻害薬(SGLT2i)の影響は、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)のデュラグルチドと同程度ではないかとする研究結果が報告された。推定リスク差の95%信頼区間は-2.45~0.63パーセントポイントだという。成均館大学(韓国)薬学部のBin Hong氏らの研究の結果であり、詳細は「Annals of Internal Medicine」に8月27日掲載された。 SGLT2iとGLP-1RAはいずれも、2型糖尿病に対して血糖降下以外の多面的な作用のあることが知られており、神経保護作用も有する可能性が報告されている。ただし、認知症予防という点での評価は定まっておらず、これら両剤の有効性を比較し得るデータは限られており、臨床上の疑問点として残されている。これを背景としてHong氏らは、リアルワールドデータを用いてランダム化比較試験を模倣する、ターゲット試験エミュレーション研究を行い、SGLT2iとGLP-1RAであるデュラグルチドの認知症リスクを比較検討した。 この研究では、韓国国民健康保険公団から入手した2010~2022年の同国における医療データを用いて、SGLT2iまたはデュラグルチドで治療が開始された60歳以上の2型糖尿病患者を抽出。主要評価項目を、臨床データに基づき推定される認知症とし、その発症は認知症の診断の記録から1年前と仮定した。交絡因子を調整後に、処方開始から5年間のリスク比とリスク差を求めた。 傾向スコアにより背景因子をマッチさせた結果、SGLT2iで治療が開始されていた1万2,489人(ダパグリフロジン51.9%、エンパグリフロジン48.1%)と、デュラグルチドで治療が開始されていた1,075人が解析対象となった。中央値4.4年の追跡期間中に、主要評価項目イベントはSGLT2i群で69人、デュラグルチド群で43人に発生。推定リスク差は-0.91パーセントポイント(95%信頼区間-2.45~0.63)、推定リスク比は0.81(同0.56~1.16)と計算され、いずれも非有意だった。 この結果に基づき著者らは、「われわれのデータから、SGLT2iとデュラグルチドの2型糖尿病患者の認知症リスクに対する影響はほとんど差がないことが分かった」と結論付けている。ただし、本研究の限界点として、HbA1cや糖尿病の罹病期間が調整されておらず、そのほかにも残余交絡が存在する可能性、および、GLP-1RAについては比較的初期に登場したデュラグルチドのみを評価対象としたことなどを挙げている。また、「われわれの研究結果は既報研究と一致するものではあるが、より新しいGLP-1RAを含めた解釈の一般化が可能か否かは不明であり、さらなる研究が求められる」と付け加えている。

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セマグルチドがタバコ使用障害リスクを下げる可能性

 GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)のセマグルチドが処方されている患者は、タバコ使用障害(tobacco use disorder;TUD)関連の受療行動が、他の糖尿病用薬が処方されている患者よりも少ないという研究結果が、「Annals of Internal Medicine」に7月30日掲載された。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学医学部のWilliam Wang氏らが報告した。 2型糖尿病または肥満の治療のためにセマグルチドが処方されている患者で喫煙欲求が低下したとの報告があり、同薬のTUDに対する潜在的なメリットへの関心が高まっている。これを背景としてWang氏らは、米国における2017年12月~2023年3月の医療データベースを用いたエミュレーションターゲット研究を実施した。エミュレーションターゲット研究は、リアルワールドデータを用いて実際の臨床試験をエミュレート(模倣)する研究手法で、観察研究でありながら介入効果を予測し得る。 本研究では、血糖管理目的でセマグルチドと他の7種類の血糖降下薬(インスリン、メトホルミン、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、スルホニル尿素薬、チアゾリジン薬、およびセマグルチド以外のGLP-1RA)が新規に処方された患者群での7件の比較対象試験を模倣した。12カ月間の追跡中にTUD関連の受療行動(TUD診断のための受診、禁煙補助薬の処方、禁煙カウンセリングの実施)を、Cox比例ハザードモデルとカプランマイヤー法により解析した。データセットに含まれる患者数は22万2,942人で、このうちセマグルチドが新規処方されていたのは5,967人だった。 解析の結果、セマグルチドは他の糖尿病用薬と比較してTUD診断のための受診が有意に少なく、特にインスリンとの比較において最も差が大きかった(ハザード比〔HR〕0.68〔95%信頼区間0.63~0.74〕)。一方、セマグルチド以外のGLP-1RAとの比較では最も差が小さかったが、統計学的に有意だった(HR0.88〔同0.81~0.96〕)。また、セマグルチドは禁煙補助薬の処方および禁煙カウンセリングの実施件数の低下とも関連していた。肥満の診断の有無で層別化した場合、いずれにおいても同様の関連が示された。なお、7件の比較対象試験の多くで、処方開始から30日以内にこれらの発生率の乖離が認められた。 著者らは本研究の限界点として、出版バイアスや残余交絡の存在、およびBMIや喫煙行動、薬剤使用コンプライアンスに関する情報が欠如していることを挙げている。その上で、「新たにセマグルチドが処方された患者は、セマグルチド以外のGLP-1RAを含む他の糖尿病用薬が新規処方された患者と比較して、TUD関連の受療行動が少ないことが示された。 これは、セマグルチドが禁煙に有益であるとする仮説と一致した結果と言えるかもしれないが、研究手法の限界により確固たる結論には至らず、臨床医が禁煙を目的としてセマグルチドを適応外使用することを正当化するものではない」と総括。また同薬によるTUD治療の可能性を評価するための臨床試験の必要性を指摘している。

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SGLT2阻害薬は認知症の発症をも予防できるのか?(解説:住谷哲氏)

 SGLT2阻害薬の慢性腎臓病や心不全合併2型糖尿病患者における臓器保護作用は確立している。また、最近ではSGLT2阻害薬が肝臓がんの発症を抑制するとの報告もなされている1)。がんと並んで高齢者糖尿病患者で問題になるのが認知症である。本論文では韓国の住民コホートデータベースを用いて、DPP-4阻害薬と比較してSGLT2阻害薬の投与が2型糖尿病患者の認知症発症を抑制するかどうかが検討された。 本研究は無作為化試験ではなく観察研究なので、残余交絡residual confoundingをいかに最小化するかが重要となる。筆者らはそのために、種々の統計学的手法(active comparator new user design、extensive propensity score matching、target trial emulationなど)を駆使して、現時点で可能な限りの補正を実施している。さらに陽性コントロールとして性器感染症、陰性コントロールとして白内障と変形性膝関節症とを用いて、結果の内的妥当性internal validityを担保している。 以上のように可能な限りの統計学的処理を実施した結果であるが、やはり残余交絡をゼロにできたわけではない。たとえば、コホートに組み入れられた時点での糖尿病罹病期間は不明である。糖尿病網膜症の有無を罹病期間のproxyとして代用しているようであるが、それで十分に調整されたとはいえない。次に、観察期間中の血糖管理状態についても不明である。3つ目に、それぞれの患者のフレイルについての情報が不明である。読者の先生方も日常臨床で経験されることが多いと思うが、筆者はフレイルが懸念される患者にはSGLT2阻害薬ではなくDPP-4阻害薬を投与することが多い。これは筆者に限ったことではなく、大規模な横断研究からも同様の処方傾向が報告されている2)。これが適応による交絡confounding by indicationである。つまり、それぞれの薬剤が選択投与された患者は最初から異なったpopulationであり、当然ながら予後も異なることになる。この交絡を回避する方法は無作為化しかない。 したがって非常に有望な結果ではあるが、認知症の発症予防目的でDPP-4阻害薬ではなくSGLT2阻害薬を積極的に投与するエビデンスとはならないだろう。やはり認知症の発症を主要評価項目としたRCTの実施が待たれる。現時点ではSGLT2阻害薬の投与が積極的に推奨される患者にSGLT2阻害薬を投与して、それによって認知症発症の抑制をも期待するのが妥当だろう。

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HFpEFに2番目のエビデンスが登場―非ステロイド系MRAの時代が来るのか?(解説:絹川弘一郎氏)

 ESC2024はHFpEFの新たなエビデンスの幕開けとなった。HFpEFに対する臨床試験はCHARM-preserved、PEP-CHF、TOPCAT、PARAGONと有意差を検出できず、エビデンスのある薬剤はないという時代が続いた。 CHARM-preservedはプラセボ群の一部にACE阻害薬が入っていてなお、プライマリーエンドポイントの有意差0.051と大健闘したものの2003年時点ではmortality benefitがない薬剤なんて顧みられず、PEP-CHFはペリンドプリルは1年後まで順調に予後改善していたのにプラセボ群にACE阻害薬を投与される例が相次ぎ、2年後には予後改善効果消失、TOPCATはロシア、ジョージアの患者のほとんどがおそらくCOPDでイベントが異常に少なく、かつ実薬群に割り付けられてもカンレノ酸を血中で検出できない例がロシア人で多発したなど試験のqualityが低かった、PARAGONではなぜか対照にプラセボでなくARBの高用量を選んでしまうなど、数々の不運または不思議が重なってきた。 その後ここ数年でSGLT2阻害薬がHFmrEF/HFpEFにもmortality benefitこそ示せなかったが心不全入院の抑制は明らかにあることがわかり、初のHFpEFに対するエビデンスとなったことは記憶に新しい。今回のFinearts-HF試験は、スピロノラクトンやエプレレノンと異なる非ステロイド骨格を有するMRA、フィネレノンがHFmrEF/HFpEFを対象に検討された。ここで、ステロイド骨格のMRAとフィネレノンとの相違の可能性について、まず説明する。 アルドステロンが結合したミネラルコルチコイド受容体は、cofactorをリクルートしながら核内に入って転写因子として炎症や線維化を誘導する遺伝子の5’-regionに結合して、心臓や腎臓の臓器障害を招くとされてきた。ステロイド骨格のMRAではアルドステロンを拮抗的に阻害するものの、ミネラルコルチコイド受容体がcofactorをリクルートすることは抑制できず、わずかながらではあっても炎症や線維化を促進してしまうことが知られている。このことがステロイド系MRAに腎保護作用が明確には認めづらい原因かといわれてきた。 一方、フィネレノンはもともとCa拮抗薬の骨格から開発された非ステロイド系MRAであり、cofactorのリクルートはなく、アルドステロン依存性の遺伝子発現はほぼ完全にブロックされるといわれている。FIDELIO-DKD試験ですでに示されているように糖尿病の合併があるCKDに限定されているとはいえ、フィネレノンには腎保護作用が明確にある。さらに、フィネレノンの体内分布はステロイド系MRAに比較して腎臓より心臓に多く分布しているようであり、腎臓の副作用である高カリウム血症が少なくなるのではないかという期待があった。このような背景においてHFmrEF/HFpEF患者を対象に、心不全入院の総数と心血管死亡の複合エンドポイントの抑制をプライマリーとして達成したことはSGLT2阻害薬に続く快挙である。カプランマイヤー曲線はSGLT2阻害薬並みに早期分離があり、フィネレノン20mgをDKDに使用している現状では血圧や尿量にさほどの変化を感じないが、早期に効果があるということは、やはり血行動態的に作用しているとしか考えられず、40mgでの降圧や利尿に対する効果を今一度検証する必要があると感じた。またかというか、HFpEFでは心血管死亡の発症率が低いため、mortalityに差がついていないが、これはもともと6,000人2年の規模の試験では当初から狙えないことが明らかなので、もうあまりこの点をいうのはやめたほうがいいかと思われる。 ちなみに死亡のエンドポイントで事前に有意差を出すための症例数を計算すると、1万5,000人必要だそうである。しかし、高カリウム血症の頻度は依然として多く、非ステロイド系MRAとしての期待は裏切られた格好になっている。もっとも、プロトコル上、eGFR>60の症例にはターゲット40mg、eGFR<60ではターゲット20mgとなっており、腎機能の低い症例に高カリウムが多いのか、むしろ高用量にした場合に一定程度高カリウムになっているのか、など細かい解析は今後出てくる予定である。腎保護の観点でもAKIはむしろフィネレノンで多いという結果であり、DKDで認められたeGFR slopeの差などがHFpEFでどうなのかも今後明らかになるであろう。このように、現状では非ステロイド系という差別化にはいまだ明確なデータはないようであり、それもあってTOPCAT Americasとのメタ解析が出てしまうことで、MRA一般にHFpEFに対するクラスエフェクトでI/Aというような主張も米国のcardiologistから出ている。 しかし、前述のようにいかにロシア、ジョージアの症例エントリーやその後のマネジメントに問題があったとはいえ、いいとこ取りで試験結果を解釈するようになればもう前向きプラセボ対照RCTの強みは消失しているとしかいえず、あくまでもTOPCAT全体の結果で解釈すべきで、ここまで長年そういう立場で各国ガイドラインにも記述されてきたものを、FINEARTS-HF試験の助けでスピロノラクトンの評価が一変するというのは、さすがに多大なコストと時間と手間をかけた製薬企業に残酷過ぎると思う。 少なくともFINEARTS-HF試験の結果をIIa/B-Rと評価したうえで、今後フィネレノン自体がHFrEFにも有効であるのか、または第III相試験中の他の非ステロイド系MRAの結果がどうであるかなどを合わせて、本当に非ステロイド系MRAが既存のステロイド系MRAに取って代わるかの結論には、まだ数年の猶予は必要であろうか。

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HFpEF/HFmrEFに、フィネレノンが有効/NEJM

 左室駆出率が軽度低下の心不全(HFmrEF)または保たれた心不全(HFpEF)患者の治療において、プラセボと比較して非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノンは、総心不全増悪イベントと心血管系の原因による死亡の複合アウトカムの発生を有意に抑制し、高カリウム血症のリスクが高いものの低カリウム血症のリスクは低いことが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のScott D. Solomon氏らFINEARTS-HF Committees and Investigatorsが実施した「FINEARTS-HF試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年9月1日号に掲載された。国際的な無作為化イベント主導型試験 FINEARTS-HF試験は、日本を含む37ヵ国654施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照イベント主導型試験であり、2020年9月~2023年1月に参加者のスクリーニングを行った(Bayerの助成を受けた)。 年齢40歳以上、症状を伴う心不全で、左室駆出率が40%以上の患者6,001例を登録した。通常治療に加え、フィネレノン(ベースラインの推算糸球体濾過量に応じて最大用量20mgまたは40mg、1日1回)を投与する群に3,003例(平均[±SD]年齢71.9[±9.6]歳、女性45.1%)、プラセボ群に2,998例(72.0[±9.7]歳、45.9%)を無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、総心不全増悪イベント(心不全による予期せぬ初回または再入院、あるいは緊急受診と定義)と心血管系の原因による死亡の複合とした。総心不全増悪イベント数も有意に少ない ベースラインにおける全体の平均(±SD)左室駆出率は53(±8)%で、69.1%がNYHA心機能分類クラスIIであった。84.9%がβ遮断薬、35.9%がACE阻害薬、35.0%がARB、8.5%がARNI、13.6%がSGLT2阻害薬の投与を受けていた。 追跡期間中央値32ヵ月の時点で、主要アウトカムのイベントは、フィネレノン群で3,003例中624例に1,083件、プラセボ群で2,998例中719例に1,283件発生し、率比は0.84(95%信頼区間[CI]:0.74~0.95)とフィネレノン群で有意に良好であった(p=0.007)。 心不全増悪イベントの総数は、フィネレノン群が842件、プラセボ群は1,024件であり、率比は0.82(95%CI:0.71~0.94)とフィネレノン群で有意に少なかった(p=0.006)。また、心血管系の原因で死亡した患者の割合は、フィネレノン群8.1%、プラセボ群8.7%であった(ハザード比[HR]:0.93、95%CI:0.78~1.11)。0.5%で入院に至った高カリウム血症が発現 重篤な有害事象はフィネレノン群で1,157例(38.7%)、プラセボ群で1,213例(40.5%)に発現した。また、死亡に至った高カリウム血症のエピソードはなく、入院に至った高カリウム血症はフィネレノン群で16例(0.5%)、プラセボ群で6例(0.2%)であった。低カリウム血症は、プラセボ群に比べフィネレノン群で少なかった。 6ヵ月時の平均収縮期血圧は、プラセボ群に比べフィネレノン群で低かったが(群間差:-3.4mmHg、95%CI:-4.2~-2.6)、1ヵ月時の血圧の変化で補正しても、主要アウトカムに関して観察された治療効果は減弱しなかった。 著者は、「フィネレノンは、患者報告による健康状態(カンザスシティ心筋症質問票[KCCQ]総症状スコア)の改善に関して中等度の有益性をもたらしたが、NYHA心機能分類クラスや腎複合アウトカムのリスクを改善しなかった」とし、「ベースラインでSGLT2阻害薬(この患者集団においてガイドラインで強く推奨されている唯一の治療薬)を使用していた患者の主要アウトカムの結果が、使用していなかった患者と同程度であったことは重要である」としている。

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SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬、食事や体重の変化の違い

 2型糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬によるエネルギー摂取量や糖尿病関連指標に対する影響の違いは不明である。今回、奈良県立医科大学附属病院臨床研究センターの五十川 雅裕氏らがカナグリフロジンとテネリグリプチンによるエネルギー摂取量と体重の変化を比較した結果、エネルギー摂取量への影響は逆で、体重についてはカナグリフロジンでのみ有意に減少した。BMC Endocrine Disorders誌2024年8月19日号に掲載。 本解析は日本人2型糖尿病患者においてカナグリフロジンとテネリグリプチンのメタボリックリスク因子に与える効果を比較したCANTABILE試験のサブ解析である。ヘモグロビンA1c(HbA1c)、エネルギー摂取量、体重などの糖尿病関連指標におけるベースラインから24週までの変化を、カナグリフロジン群(75例)とテネリグリプチン群(70例)で比較した。 主な結果は以下のとおり。・HbA1cは両群とも有意に低下した。・テネリグリプチン群では、エネルギー摂取量は有意に減少したが、体重に有意な変化はみられなかった。・カナグリフロジン群では、エネルギー摂取量は増加傾向だったが、体重は有意に減少した。 今回の結果から、著者らは「カナグリフロジンは、エネルギー摂取量が増加しても体重増加なしに血糖管理が可能であることが示唆された」としている。

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SGLT2阻害薬による長期治療、2型DMの認知症予防に有効/BMJ

 年齢40~69歳の2型糖尿病患者の治療において、DPP-4阻害薬と比較してSGLT-2阻害薬は認知症の予防効果が高く、治療期間が長いほど大きな有益性をもたらす可能性が、韓国・Seoul National University Bundang HospitalのAnna Shin氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年8月28日号に掲載された。傾向スコアマッチング法を用いた韓国のコホート研究 研究グループは、中高年の2型糖尿病患者における認知症リスクと、SGLT-2阻害薬およびDPP-4阻害薬との関連を比較する目的で住民ベースのコホート研究を行った(韓国保健産業振興院[KHIDI]の助成を受けた)。 解析には、2013~21年の韓国の国民健康保険サービスのデータを用いた。対象は、SGLT-2阻害薬またはDPP-4阻害薬の投与を開始した40~69歳の2型糖尿病患者で、傾向スコアでマッチさせた11万885組(22万1,770例、平均年齢61.9歳、男性55.7%)であった。 主要アウトカムは、認知症の新規発症とし、副次アウトカムは、薬物療法を要する認知症および認知症の個々の型(アルツハイマー病、血管性認知症など)とした。アルツハイマー病、血管性認知症のリスクもSGLT-2阻害薬で低い 平均追跡期間670(SD 650)日において、11万885組のうち1,172例が新規に認知症と診断された。As treated解析による100人年当たりの認知症発症率は、SGLT-2阻害薬群が0.22、DPP-4阻害薬群は0.35であり、ハザード比(HR)は0.65(95%信頼区間[CI]:0.58~0.73)とSGLT-2阻害薬群でリスクが低かった。 また、100人年当たりの薬物療法を要する認知症の発症率は、SGLT-2阻害薬群0.12、DPP-4阻害薬群0.21(HR:0.54、95%CI:0.46~0.63)、100人年当たりのアルツハイマー病の発症率はそれぞれ0.17および0.28(0.61、0.53~0.69)、100人年当たりの血管性認知症の発症率は0.02および0.04(0.48、0.33~0.70)といずれもSGLT-2阻害薬群で良好だった。今後、無作為化対照比較試験が必要 性器感染症のHRは2.67(95%CI:2.57~2.77)、変形性関節症のHRは0.97(0.95~0.98)、白内障手術のHRは0.92(0.89~0.96)であった。白内障手術によって測定された残余交絡を補正すると、認知症のHRは0.70(0.62~0.80)となった。 治療期間が2年以内の場合の認知症のHRは0.57(95%CI:0.46~0.70)であったのに対し、2年以上の場合は0.52(0.41~0.66)であり、治療期間が長いほうがSGLT-2阻害薬群の有益性が高い可能性が示唆された。 著者は、「本研究は観察研究であるため、残余交絡や打ち切りが起こりやすく、効果量が過大評価された可能性がある」と指摘したうえで「これらの知見は、今後の無作為化対照比較試験の必要性を強調するものである」としている。

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糖尿病黄斑浮腫へのSGLT2阻害薬使用で注射回数減

 糖尿病黄斑浮腫患者に対するSGLT2阻害薬の使用は、ステロイド薬のトリアムシノロンアセトニド(TA)注射頻度の減少と関連しており、非侵襲的かつ低コストの補助療法となる可能性があるとの研究結果が発表された。君津中央病院糖尿病・内分泌・代謝内科の石橋亮一氏と千葉大学眼科、糖尿病・代謝・内分泌内科、人工知能(AI)医学による研究チームによる研究であり、「Journal of Diabetes Investigation」に6月14日掲載された。 増殖糖尿病網膜症による失明は、近年減少傾向ではあるが、糖尿病黄斑浮腫は、中高年の社会生活の質を低下させる重要な視力障害の原因となっている。糖尿病黄斑浮腫の第一選択薬は抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の硝子体内注射だが、眼球への頻回の注射と、高額な医療費が患者の負担となり、また奏功しない患者の存在も次第に明らかとなり、ステロイドテノン嚢下注射(STTA)なども選択される。ただし、TA投与も侵襲的な局所注射療法であり、眼圧上昇などの特有の副作用がある。 一方、2型糖尿病などに広く用いられている経口薬のSGLT2阻害薬は、糖尿病黄斑浮腫への治療効果が報告されている。著者らの過去の研究では、抗VEGF薬投与歴のある糖尿病黄斑浮腫患者において、SGLT2阻害薬の使用が抗VEGF薬の投与頻度の減少と関連することを明らかにした。 著者らは今回の研究では、糖尿病黄斑浮腫へのTA投与に着目し、SGLT2阻害薬の有効性を評価するため、日本の保険請求データベースを用いた後ろ向きコホート研究を行った。糖尿病黄斑浮腫を合併する糖尿病患者を対象とし、他の眼疾患(加齢黄斑変性、網膜静脈閉塞症、脈絡膜新生血管など)への抗VEGF薬投与歴のある患者などは除外した。2014年以降のSGLT2阻害薬または他の糖尿病治療薬の使用開始日を指標日とし、指標日以降のTAのテノン嚢下または硝子体への投与頻度などを解析した。 傾向スコアマッチングを行い、SGLT2阻害薬使用群1,206人(平均年齢54±9歳、男性63%)と非使用群1,206人(同54±10歳、61%)が選択された。平均追跡期間はSGLT2阻害薬使用群が2.3±1.5年(2,727人年)、非使用群が3.4±2.1年(4,141人年)だった。観察開始時点で糖尿病関連眼疾患を合併していた患者は、SGLT2阻害薬使用群で852人(71%)、非使用群で858人(71%)、抗VEGF薬投与歴のある患者は同順に46人(3.8%)、15人(1.2%)、TA投与歴のある患者は55人(4.6%)、56人(4.6%)だった。 TAの投与頻度は、SGLT2阻害薬使用群で1,000人年当たり63.8回、非使用群で同94.9回だった。生存時間解析を行ったところ、SGLT2阻害薬は、初回のTA投与(ハザード比0.66、95%信頼区間0.50~0.87)、2回目のTA投与(同0.53、0.35~0.80)、3回目のTA投与(同0.44、0.25~0.80)が必要となるリスクをそれぞれ有意に低下させることが明らかとなった。さらに、さまざまな臨床背景によりサブグループ解析を行った結果、SGLT2阻害薬によるTAの投与頻度の減少効果は一貫して認められた。また硝子体手術の頻度も初回は2群間で差はなかったものの、2回目で有意に減少していた(同0.51、0.29~0.91)。 以上の結果から著者らは、「SGLT2阻害薬は、糖尿病黄斑浮腫に対する新たな非侵襲的かつ低コストの補助療法となる可能性がある」と結論付けている。SGLT2阻害薬の効果の基礎となるメカニズムとしては、局所代謝の改善、虚血の改善、浮腫の軽減などが考えられると説明した上で、SGLT2阻害薬の併用は糖尿病黄斑浮腫の発症予防などの報告もされていることから、より早期の糖尿病黄斑浮腫でより有効な可能性を指摘し、今後さらなる研究が必要だとしている。

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