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GLP-1受容体作動薬が乳がんの治療成績を改善する可能性

 血糖コントロールや肥満症の治療のために用いられているGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)が、一部の乳がん患者の予後改善につながる可能性を示唆するデータが報告された。肥満または糖尿病のある乳がん患者では、同薬の使用の有無によって全死亡や再発のリスクに有意差が見られるという。米VCUマッセイ総合がんセンターのBernard Fuemmeler氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に5月11日掲載された。 これまでの研究から、肥満や2型糖尿病を有する乳がん患者は、生存率が低い傾向にあることが示されている。また、エビデンスは十分ではないものの、肥満と乳がんが併存する場合には、減量が乳がんの予後を改善させる可能性が示唆されている。他方で近年では、2型糖尿病や肥満症に対してGLP-1RAが処方される機会が増えている。ただし、GLP-1RAの使用と乳がん患者の予後との関連は明らかにされていない。以上を背景としてFuemmeler氏らは、米国内の医療機関68施設の電子医療記録が統合されたリアルワールドデータベース(TriNetX US Collaborative Network)を用いた検討を行った。 2006年4月1日~2023年4月1日に乳がんと診断された18歳以上の女性84万1,831人(平均年齢69.1±12.2歳)を対象に、傾向スコアマッチングにより、年齢、人種・民族、肥満有病率などの背景因子が調整されたコホートが3つ作成された。1つ目はBMI30以上の肥満患者を対象にGLP-1RA処方の有無で比較するコホート(各群1,610人)、2つ目は2型糖尿病のある患者を対象にGLP-1RA処方群とインスリンまたはメトホルミン処方群を比較するコホート(各群2,323人)、3つ目は2型糖尿病のある患者を対象にGLP-1RA処方群とSGLT2阻害薬(SGLT2i)処方群を比較するコホート(各群4,052人)。追跡期間を10年とし、主要評価項目は全死因死亡、副次評価項目は無再発生存期間(RFS)とした。 解析の結果、1つ目のコホートにおいてGLP-1RAの処方は、全死因死亡(ハザード比〔HR〕 0.35〔95%信頼区間0.21~0.58〕)、およびRFSのリスク低下(HR 0.44〔同0.30~0.64〕)と関連していた。また、2つ目のコホートにおいてGLP-1RAの処方は、全死因死亡(HR 0.09〔0.06~0.15〕)、およびRFSのリスク低下(HR 0.33〔0.21~0.50〕)と関連していた。3つ目のコホートでのSGLT2iとの比較では有意差が認められなかった(全死因死亡はHR 0.97〔0.82~1.14〕、RFSはHR 0.91〔0.71~1.18〕)。 この結果をFuemmeler氏は、「われわれの研究はGLP-1RAが一部の乳がん患者に対して、生存率の改善および再発リスク低下と関連する可能性を示している」と総括。ただし、「この影響が、GLP-1RAが有する減量効果や心肺機能改善効果、あるいはその他の生物学的な要因と関連したものかどうかを判断するには、さらなる研究が必要だ」と同氏は付け加えている。なお、研究者らは今後、ランダム化比較試験の実施を予定している。

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IgA腎症へのatrasentan、eGFR低下を長期抑制するか/Lancet

 選択的経口エンドセリンA受容体拮抗薬であるatrasentanはIgA腎症患者において、プラセボと比較して2.5年間にわたり蛋白尿を減少させ、腎機能低下を抑制した。この効果はSGLT2阻害薬の併用の有無にかかわらず認められ、忍容性は良好であった。オランダ・フローニンゲン大学のHiddo J. L. Heerspink氏らALIGN study groupが、20ヵ国133施設で実施した第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「ALIGN試験」の最終解析結果を報告した。同試験の事前に規定された中間解析(36週時点)では、atrasentanはプラセボと比較して、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある蛋白尿の減少をもたらしたことが報告されていた。Lancet誌2026年6月13日号掲載の報告。第III相無作為化試験の2.5年間の最終解析 ALIGN試験の対象は、生検によりIgA腎症と確定診断され、スクリーニング前12週以上安定した至適用量のレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬投与下で、eGFRが30mL/分/1.73m2以上かつ尿中総蛋白排泄量が1.0g/日以上の成人患者であった(主要解析集団)。 安定用量のRAS阻害薬に加えて安定用量のSGLT2阻害薬を12週以上投与されていた患者は、探索的にSGLT2阻害薬併用集団として登録した。 研究グループは、適格患者をatrasentan群(0.75mgを1日1回経口投与)またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。投与期間は132週間で、その後、4週間の追跡期間を設け、136週時の受診を完了した患者は任意で48週間の非盲検延長投与期間に移行した。 主要アウトカムは、主要解析集団におけるベースラインから36週時までの24時間蓄尿による尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)の変化量で、中間解析で評価され、すでに報告されている(ジャーナル四天王「高リスクIgA腎症へのatrasentan、重度蛋白尿を改善/NEJM」)。 本論で報告する重要な副次アウトカムは、主要解析集団におけるベースラインから136週時までのeGFRの変化量で、無作為化されたすべての患者を解析対象とした(ただし、中間事象[IgA腎症に対する制限薬もしくは代替薬の投与開始、または腎代替療法の開始]発生後のデータは除外)。安全性は、試験薬の投与を少なくとも1回受けた無作為化された全患者を対象に評価された。atrasentanの蛋白尿低減効果は持続 2021年3月15日~2023年4月28日に、404例が無作為化された(主要解析集団340例、SGLT2阻害薬併用集団64例)。 主要解析集団において、重要な副次アウトカムである136週時のeGFRのベースラインからの変化量は、atrasentan群-7.5mL/分/1.73m2(95%信頼区間[CI]:-9.2~-5.8)、プラセボ群-9.9mL/分/1.73m2(95%CI:-11.7~-8.1)であり、群間差は2.4mL/分/1.73m2(95%CI:-0.1~4.8、p=0.057)であった。 4週間の追跡期間中にeGFRの上昇が認められなかったことから、投与を終了した132週時のeGFRのベースラインからの変化量が評価項目として事後に追加された。その群間差は2.6mL/分/1.73m2(95%CI:0.1~5.0、名目上のp=0.039)であった。 また、重要な副次アウトカムの支持的解析項目として評価した136週時までの総eGFRスロープは、atrasentan群-2.7mL/分/1.73m2/年(95%CI:-3.4~-2.1)、プラセボ群-4.1mL/分/1.73m2/年(95%CI:-4.8~-3.4)、群間差は1.4mL/分/1.73m2/年(95%CI:0.5~2.3、名目上のp=0.0033)であった。 SGLT2阻害薬併用集団では、136週時のeGFRのベースラインからの変化量は、atrasentan群-1.5mL/分/1.73m2(95%CI:-5.7~2.7)に対し、プラセボ群-10.6mL/分/1.73m2(95%CI:-15.0~-6.2)で、群間差は9.1mL/分/1.73m2(95%CI:3.0~15.2)であった。 主要解析集団において、治療下で発現した有害事象はatrasentan群(157/169例、93%)、プラセボ群(159/170例、94%)でおおむね同様であり、新たな安全性シグナルは認められなかった。 atrasentan群でプラセボ群よりとくに発現割合が高かったのは体液貯留で、それぞれ14%(24/169例)、12%(20/170例)であった。

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飲食制限のない経口GLP-1薬elecoglipron、2型DM患者のHbA1cを有意に改善/Lancet

 2型糖尿病治療薬として開発中の1日1回経口投与の低分子GLP-1受容体作動薬elecoglipronは、プラセボと比較して、より優れた血糖降下作用を示し、安全性および忍容性プロファイルは他のGLP-1受容体作動薬と同様であった。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のVanita R. Aroda氏らが、日本を含む9ヵ国で行われた第IIb相の多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「SOLSTICE試験」の結果を報告した。elecoglipronは、食事や水分制限なしに投与ができる。著者は、「2型糖尿病患者を対象とする第III相試験でさらなる開発を進めることが支持された」とまとめている。Lancet誌2026年6月20日号掲載の報告。 第IIb相試験、5~75mgを1日1回26週間にわたり経口投与 第IIb相試験は、9ヵ国(カナダ、ドイツ、ハンガリー、日本、ポーランド、スロバキア、スペイン、英国、米国)の医学研究センターおよび病院で実施された。食事・運動療法のみ、あるいはメトホルミンまたはSGLT2阻害薬の単剤療法を受けている2型糖尿病患者を対象に、elecoglipron治療についてさらなる評価を行うよう設計され、5~75mgを1日1回26週間にわたり経口投与するレジメンについて評価が行われた。試験施設は、試験実施要件(規制当局および倫理委員会による承認、適切な施設設備および人員確保、対象患者集団へのアクセスほかを含む)を満たす能力に基づき選定された。 主な適格基準は、18歳以上、BMI値23以上、2型糖尿病(HbA1cが7.0%以上10.5%以下[米国は6.5%以上10.5%以下])、食事・運動療法単独あるいは安定用量のメトホルミンまたはSGLT2阻害薬の単剤療法を受けていることとした。双方向ウェブ応答システムを用いて、elecoglipronの固定用量群(5mg/日群、15mg/日群、25mg/日群)、または目標用量を50mgまたは75mgとする用量漸増群(2週間隔で50mg/日に漸増する群、2週間隔で75mg/日に漸増する群、4週間隔で75mg/日に漸増する群)、これらレジメンの適合プラセボ群、あるいは非盲検下で経口投与するセマグルチド14mg/日(4週間隔で漸増)群に、3対5対3対5対3対3対6対4の割合で無作為に割り付けられた。参加者、治療担当医、試験スポンサーは、elecoglipron群およびプラセボ群について盲検化され、セマグルチド群については盲検化されなかった。 主要エンドポイントは、26週時におけるHbA1cのベースラインからの変化量であった。プラセボと比較しHbA1cが大きく改善 2024年10月8日~2025年6月6日に、863例が試験の適格性についてスクリーニングされた。適格基準を満たしていない、または除外基準に該当した457例を除外。406例が登録され、8つの治療群のいずれか1つを受けるよう無作為化され、404例が少なくとも1回の試験治療を受けた。 404例のベースライン特性(平均[SD])は、年齢58.4歳(10.7)、HbA1cが7.9%(0.9)、体重99.8kg(22.1)、BMI値34.9(7.5)で、168例(42%)が女性、また280例(69%)が白人であった。 26週時点におけるHbA1cのベースラインからの変化量は、プラセボ群-0.15%(95%信頼区間[CI]:-0.42~0.12)に対し、elecoglipron投与群は5mg群の-0.91%(95%CI:-1.25~-0.58)から2週間隔で目標用量75mg/日に漸増する群の-1.88%(95%CI:-2.23~-1.53)の範囲にわたった。 有害事象の発現割合は、プラセボ群63%(45/71例)に対し、elecoglipron投与群は5mg群の63%(24/38例)から4週間隔で75mg/日に漸増する群の87%(33/38例)の範囲にわたった。最も多くみられたのは消化器系有害事象で、悪心、便秘、下痢、嘔吐などであった。

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フィネレノンが原因疾患や糖尿病の有無を問わずCKD患者の腎・心リスクを低減/Lancet

 原因疾患や血糖値、推算糸球体濾過量(eGFR)、アルブミン尿の程度が異なる慢性腎臓病(CKD)の患者において、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノンは腎不全単独を含むCKD進行リスクを抑制し、心不全による入院、心血管死および全死因死亡リスクを低下させることが、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のBrendon L. Neuen氏らFIND-CKD, FIDELIO-DKD and FIGARO-DKD Investigatorsが行ったメタ解析の結果で示された。フィネレノンは、2型糖尿病合併CKDにおいて腎関連および心血管系への有益性が示されているが、広範なCKD患者集団における有効性や安全性は評価されていなかった。結果を踏まえて著者は、「フィネレノンは多岐にわたるCKD患者の基礎治療として支持される」と述べている。Lancet誌2026年6月13日号掲載の報告。3つの無作為化二重盲検プラセボ対照試験の患者個別データをメタ解析 研究グループは、CKD患者におけるフィネレノンについて評価した3つの無作為化二重盲検プラセボ対照試験(FIDELIO-DKD試験[2015年9月17日~2020年4月14日]、FIGARO-DKD試験[2015年9月17日~2021年2月2日]、FIND-CKD試験[2021年9月21日~2026年2月2日])の、被験者個々のデータを用いてメタ解析を行った。 Cox比例ハザードモデルを用いて、腎関連および心血管アウトカムへの相対的有効性を評価した。腎関連の主要アウトカムは、腎不全またはeGFRの57%以上の持続的な低下であり、心血管系の主要アウトカムは、心不全による入院または心血管死であった。腎関連複合アウトカムリスクを24%、心血管系複合アウトカムリスクを20%低下 3試験には1万4,574例が登録されており、平均年齢は63.7歳(SD 10.6)、女性4,467例(30.7%)、男性1万107例(69.3%)で、平均eGFRは56.4mL/分/1.73m2(SD 21.4)であり、尿中アルブミン/クレアチニン比の中央値は567.4mg/g(四分位範囲:233.6~1,164.7)であった。 フィネレノンはプラセボと比較して、腎関連複合アウトカムのリスクを24%低下させ(22.3 vs.28.8件/1,000患者年、ハザード比[HR]:0.76[95%信頼区間[CI]:0.68~0.86])、腎不全単独のリスクも低下させた(HR:0.85[95%CI:0.74~0.99])。 また、フィネレノンはプラセボと比較して、心血管系複合アウトカムのリスクを20%低下させた(19.1 vs.23.9件/1,000患者年、HR:0.80[95%CI:0.70~0.91])。心不全による入院のHRは0.78(95%CI:0.66~0.92)、心血管死のHRは0.82(95%CI:0.67~0.999)であった。 フィネレノンは、全死因死亡のリスクも低下させた(HR:0.88、95%CI:0.79~0.99)。 腎関連複合アウトカムへの治療効果は、血糖値、CKDの原因疾患、ベースラインのeGFR値、アルブミン尿およびSGLT2阻害薬の使用状況を問わず一貫していた。 フィネレノン群ではプラセボ群よりも高カリウム血症が高頻度に認められたが、入院に至る高カリウム血症の絶対的な発現頻度は低かった。

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糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント改訂版の概要/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第69回年次学術集会(会長:下村 伊一郎氏[大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授])が、5月21~23日の日程で、大阪国際会議場、リーガロイヤルホテル大阪をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「IMAGINE いのち輝く 糖尿病の医療・医学を共に目指して」をテーマに、41のシンポジウム、143の口演、ポスターセッション、会長特別企画による講演、特別企画「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 糖尿病患者の生命予後を左右するリスクに心血管障害がある。そこで、日本糖尿病学会(JDS)と日本循環器学会(JCS)は、2017年より合同委員会を立ち上げ、臨床知見の情報交換などを行ってきた。また、2020年にはこれらを成書化した『糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント』が刊行された。今回、6年ぶりにその内容が更新されたことから、本稿ではシンポジウム14より「JDS・JCSコンセンサスステートメントについて」の概要をお届けする。前心不全の早期からの治療介入を記載 「JDS・JCS合同コンセンサスステートメント改訂のオーバービュー」をテーマにJCS側を代表し田中 敦史氏(佐賀大学医学部循環器内科)が今回の改訂のポイントを説明した。 全体の改訂としては、循環器疾患、高血圧に関連する最新の診療ガイドラインの内容を盛り込んだほか、慢性腎臓病(CKD)のセクションを新たに設け、口腔管理についても記載した。また、専門医への紹介基準や両科の連携についてもより内容を充実させている。 今回の改訂では目次は2020年の前版と変更なく、1章では「診断」、2章では「予防・治療」、3章では「紹介(連携)基準」を踏襲している。診断対象は糖代謝異常と循環器疾患(アテローム性動脈硬化性心血管疾患、心不全、不整脈)であり、循環器疾患は3つの軸で記載されている。 2章では、糖代謝異常患者の大血管障害の予防・治療に対応する非薬物療法について、ライフスタイル介入として運動療法や食事療法、禁煙指導などのほかに、今回は口腔(歯)衛生についても記載された。 同じく薬物療法では、血圧、脂質のほかに、近年エビデンスが集積してきたCKDについても1つのセクションとして取り上げた。また、糖尿病治療薬が、心血管疾患の治療や予防にどの程度寄与するのか、内容をアップデートした。そのほか、糖尿病患者の経皮的冠動脈形成術(PCI)について、どのような患者を対象にするかを記載している。 糖代謝異常患者の心不全の予防・治療、心房細動の治療についても同様に記載し、エビデンスなどアップデートしている。 3章では「紹介(連携)基準」として、今改訂ではあえて「専門医」という言葉を使わずに「診療する医師」と幅広くとらえる変更を行った。対象を広げて糖尿病、循環器疾患、それぞれを診療する医師からの紹介とした。 心不全のフローチャートについて、今回は早期に心不全のリスクを検出する目的で、BNP(35pg/mL以上)/NT-proBNP(125pg/mL以上)の数値基準を記載し、ステージA・B・C・Dで分類。とくにステージBは前心不全ということで早期介入での進行予防を、ステージCとDでは循環器専門医へ紹介するように示している。また、糖代謝異常者に対する心不全の予防および治療については、『心不全診療ガイドライン2025』(日本循環器学会/日本心不全学会)に準拠した記載に改訂されている。 高血圧では『高血圧管理・治療ガイドライン2025』(日本高血圧学会)を反映し、糖尿病患者の目標値も診察室で130/80mmHg未満、家庭(自宅)で125/75mmHg未満で新たに記載し、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、MR拮抗薬が第2段階では同列などの記載がされている。 脂質異常症へのアプローチは、基本的には糖尿病患者の高LDL-C血症、低HDL-C血症、高TG血症などの1・2次予防として薬物治療やそのエビデンスなどについて『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』(日本動脈硬化学会)から引用している。 大血管障害に対する糖尿病治療については、特定の薬剤推奨は前回版では見送りとなっていたが、その後、薬剤の個別化が欧米を中心に普及しエビデンスも蓄積されてきたことを受け、とくに2次予防のためにGLP-1受容体作動薬もしくはGIP/GLP-1受容体作動薬、ならびにSGLT2阻害薬の推奨がされている。 本ステートメントの目次は次のとおり。【I 診断】1 糖代謝異常2 循環器疾患  2-1 アテローム性動脈硬化性心血管疾患(とくに冠動脈疾患)  2-2 心不全  2-3 不整脈(心房細動と心臓突然死)【II 予防・治療】 1 糖代謝異常者における大血管障害(冠動脈疾患・末梢動脈疾患)の予防・治療  1-1 Lifestyle介入  1-2 薬物療法  1-3 糖尿病患者における冠血行再建術 2 糖代謝異常者における心不全の予防・治療  2-1 Lifestyle介入  2-2 薬物療法 3 糖代謝異常者における心房細動の治療【III 紹介(連携)基準】 1 糖尿病を診療する医師から循環器疾患を診療する医師(とくに専門医)への紹介(連携)基準 2 循環器疾患を診療する医師から糖尿病を診療する医師(とくに専門医)への紹介(連携)基準 3 循環器疾患・糖尿病を診療する両医師間で糖尿病治療について連携する場面での留意点

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ジギタリス配糖体の再評価――復権ではなく再配置として読む(解説:野間重孝氏)

 私が循環器内科医として臨床の現場に入ったのは1980年(昭和55年)である。当時、心不全治療においてまず教えられたのは、利尿薬の使い方とジギタリスの使い方であった。病棟では、浮腫や肺うっ血に対して利尿薬をどう調節するか、また心不全例あるいは心房細動合併例に対してジギタリスをどのように用いるかが、循環器診療の基本手技の1つとして扱われていた。しかし、当時は現在のように、大規模ランダム化比較試験によって薬剤の有効性を検証し、その結果に基づいてガイドライン上の位置付けを定めるという考え方は、まだ一般的ではなかった。利尿薬もジギタリスも、経験的に症状を改善する薬として使用されていたのである。 その後、心不全治療は大きく変化した。ACE阻害薬、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、さらにARNIやSGLT2阻害薬が、次々に生命予後を改善する薬剤として位置付けられた。一方、ジギタリスは、症状や心不全入院を減らす可能性は示されながらも、死亡率を改善しない薬剤として、次第に主役の座から退いていった。これは、必ずしもその臨床的有用性が完全に否定されたからではない。むしろ、心不全治療の評価軸が大きく変化したことが大きかった。 大規模臨床試験の時代に入り、死亡率あるいは心不全入院を減らす薬剤が次々に登場すると、心不全治療は、経験的治療から、臨床試験によって生命予後改善効果を示した薬剤を基軸とする治療へと移行していった。その中で、ジギタリスは不利な立場に置かれた。DIG試験では、ジゴキシンは心不全入院を減らす一方で、全死亡を減らすことは示せなかった。以後、ジギタリスは「症状や入院には効くかもしれないが、生命予後を改善する薬ではない」と理解され、心不全治療の主役から次第に外れていった。またジギタリスは治療域が狭く、腎機能低下、低カリウム血症、薬物相互作用などによって中毒を来しやすいという古典的な問題がある。新しい薬剤が次々に登場する中で、エビデンスが明確で安全域の広い新規治療を導入する方向へ臨床の関心が移ったことは、ある意味で自然であったといえる。 今回のメタ解析は、そのような歴史を持つジギタリス配糖体を、現代の心不全試験で用いられる評価項目に照らして再評価しようとしたものである。本研究の成果は、ジギタリス配糖体を現代心不全治療の中で再評価した点にある。解析の結果、ジギタリス配糖体は、HFrEFまたはHFmrEF患者において、心血管死または初回心不全悪化イベントからなる複合エンドポイントを有意に減少させた。しかし、その効果の主体は心不全悪化イベントの減少であり、心血管死および全死亡については有意な低下を示していない。 したがって、本研究から導かれる臨床的メッセージは、ジギタリス配糖体を生命予後改善薬として復権させることではなく、標準的心不全治療を行ってもなお心不全悪化リスクが残るHFrEF/HFmrEF患者において、低用量のジギタリス配糖体が心不全悪化・入院を減らす補助的治療となりうる、という点にある。この意味で、本研究は「ジギタリスの復権」を示したというより、長い歴史を持つ古典的薬剤を、現代の心不全治療体系の中でどこに置き直すべきかを考えるための研究と位置付けるべきであろう。 ただし、その臨床的射程は明確に限定しておく必要がある。本研究における複合エンドポイントの改善は、主として心不全悪化イベントの減少によるものであり、心血管死および全死亡の低下は示されていない。また、対象はHFrEFまたはHFmrEFに限られており、HFpEFへの外挿はできない。さらに、心不全の原因疾患別の検討は十分ではなく、虚血性心筋症、非虚血性心筋症、弁膜症性心疾患、心房細動関連心不全などにおいて、ジギタリス配糖体の意義が同一であるかどうかは、本研究からは明らかでない。 今回のメタ解析に取り上げられた3つの試験は、それぞれ異なる時代的背景を持っている。DIG試験は、ジギタリスがなお心不全治療の重要な薬剤として用いられていた時代に、その有効性を大規模臨床試験の枠組みで検証しようとした研究であった。当時問われた中心的課題は、ジゴキシンが全死亡を減らすかどうかであった。その結果、ジゴキシンは全死亡を減らさなかったが、心不全入院を減少させることが示された。 これに対して、DIGIT-HF試験とDECISION試験は、ジギタリスをかつてのような中心的治療薬として復活させようとした研究ではない。むしろ、ACE阻害薬/ARB/ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬などの標準治療が普及した後にもなお残る心不全悪化リスクに対して、低用量のジギタリス配糖体が追加療法として意味を持つかどうかを検討した研究と位置付けるべきである。3者は同じ薬剤群を扱ってはいるが、問われている臨床的意味は同一ではない。 今回統合された3つの試験は、いずれもジギタリス配糖体を扱っているとはいえ、同じ臨床的問いに答えた試験ではない点には、十分な注意が必要である。DIG試験の主要エンドポイントは全死亡であり、DIGIT-HF試験では全死亡と心不全入院、DECISION試験では心血管死と反復性心不全悪化イベントが用いられている。さらに、DIG試験は現代的心不全治療が確立する以前の試験であり、最近の2試験とは背景治療が大きく異なる。すなわち、対象患者、治療背景、評価項目のいずれもそろっていない。 本メタ解析では、これらの試験を「心血管死または初回心不全悪化イベントまでの期間」という現代的複合エンドポイントに組み替えて統合している。これは統計学的には可能であっても、臨床的にはかなり人工的な再構成である。したがって、本研究は「3つの大規模試験が一貫してジギタリス配糖体の有効性を示した」と読むべきではない。むしろ、異なる時代、異なる背景治療、異なる評価項目を持つ試験を、現代的な物差しで読み替えた研究と理解すべきである。 さらに重要なのは、本メタ解析の結果が、量的にはDIG試験に大きく依存している点である。主要複合エンドポイントにおける試験ごとの重みをみると、DIG試験が全体の約8割を占めており、DIGIT-HF試験およびDECISION試験の寄与は相対的に小さい。したがって、本研究の統合結果は、3つの試験が均等に支えた結論というより、DIG試験で示されていた心不全悪化イベント抑制効果を、最近の2試験が大きく否定しなかったために成立している、と読むべきである。 つまり、本研究は古典的なDIG試験の結果を、近年の2試験を加えて現代的評価項目のもとに再解釈した研究と位置付けるのが妥当であろう。したがって、この論文はジギタリスの復権を宣言するものではなく、心不全悪化イベントを減らす補助薬として、現代的文脈で再評価した研究である。ただし、その結論は異質な3試験の再構成に基づくものであり、慎重に読む必要がある。

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IgA腎症へのtelitacicept、第III相試験の中間解析結果/NEJM

 疾患進行のリスクが高いIgA腎症患者において、新規開発中のtelitaciceptの投与により、プラセボと比較し、39週時点の24時間尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)が有意に低下した。中国・北京大学第一医院のJicheng Lv氏らTELIGAN Investigatorsが、同国72施設で行われた第III相の二重盲検プラセボ対照無作為化試験の、事前規定の中間解析の結果を報告した。telitaciceptは、IgA腎症の病態に関与するB細胞活性化因子(BAFF)および増殖誘導リガンド(APRIL)の両方を標的とする組み換え融合タンパク質製剤で、IgA腎症への有効性が期待されている。NEJM誌2026年5月14・21日号掲載の報告。39週時点の24時間UPCRを対プラセボで検証 試験は、最適な支持療法を受けているものの、生検でIgA腎症と診断され、蛋白尿(尿蛋白値1.0g/日以上)の持続が認められる患者を登録して行われた。 研究グループは被験者を、週1回telitacicept 240mgを皮下投与する群またはプラセボ投与群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、ベースラインと比較した39週時点の24時間UPCRとし、幾何平均比(GMR)で評価した。安全性も評価した。UPCRの変化率は、telitacicept群-58.9%、プラセボ群-8.8% 2023年4月~2025年2月に、318例がtelitacicept群(159例)またはプラセボ群(159例)に無作為化された。全被験者が少なくとも1回、試験薬を投与され、有効性および安全性の解析集団に包含された。今回の中間解析の時点で、それぞれ154例(96.9%)、150例(94.3%)が39週の試験期間を完了していた。 ベースラインの両群の被験者特性は類似しており、平均年齢は38.2歳、女性が53.8%であり、eGFRの平均値は75.5mL/分/1.73m2、24時間UPCRの中央値は1.26であった。また、全例がACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を使用しており、telitacicept群の35.2%およびプラセボ群の34.6%がSGLT2阻害薬を使用していた。 39週時点の24時間UPCRのベースラインからの変化率は、telitacicept群-58.9%、プラセボ群-8.8%であり、相対的群間差は-55.0%(95%信頼区間[CI]:-61.3~47.6、p<0.001)と実薬群で良好であった。 ベースラインと比較したeGFRの変化率は、telitacicept群-1.0%(95%CI:-3.2~1.2)、プラセボ群-7.7%(95%CI:-9.9~-5.4)であった。 有害事象は、telitacicept群のほうがプラセボ群よりも多くみられた(89.3%vs.78.6%)が、重篤な有害事象の発現頻度は低かった(2.5%vs.8.2%)。telitaciceptに関する予期せぬ安全上の問題は報告されなかった。

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「MASLD診療ガイドライン」改訂、脂肪肝を全身疾患として再定義/日本消化器病学会

 2026年4月、「MASLD診療ガイドライン」が改訂された1)。2020年に発刊した前版の「NAFLD/NASH診療ガイドライン」から6年ぶりの改訂で、第3版となる。2026年4月16~18日に開催された第112回日本消化器病学会総会では、改訂ポイントを解説するパネルディスカッションが開催された。 今改訂の最大のトピックスは、疾患名の変更とその定義だ。従来、脂肪性肝疾患に用いられてきた「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」の疾患名は国際的コンセンサスに基づき、2023年に「MASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)」「MASH(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)」に変更された。日本でも日本消化器病学会・日本肝臓学会がこれに賛同し、2024年8月に「MASLD:代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」「MASH:代謝機能障害関連脂肪肝炎」との日本語名を発表している。改訂版ガイドラインでは、これらの新たな疾患名・定義を踏まえた診断・診療体系が提唱された。疾患定義:世界的な名称変更 NAFLDという名称は1980年代に提唱され、その後40年以上にわたり使用されてきた。しかし「non-alcoholic(非アルコール性)」という否定形表現や、「fatty」という言葉が患者へのスティグマにつながるとの指摘が国際的に強まっていた。これを受け、脂肪性肝疾患を「SLD(steatotic liver disease)」という1つの大きな疾患群として捉え直し、そのなかで心代謝系危険因子(CMRF)の有無、飲酒量、その他(薬物、ウイルス、遺伝子など)の要因に応じて疾患を再分類したうえで、その中心的な病態としてMASLDが位置付けられた。従来のNAFLD/NASHとMASLD/MASHの臨床像や診断アルゴリズムはおおむね一致しており、従来のエビデンスは引き続き活用される。診断フローチャート:新たに「MetALD」を設定 新たな疾患分類では、SLDを認めた患者に対し、まず、CMRFの有無を評価する。ガイドラインではCMRFとして 1)肥満:BMI≧23kg/m2 or 腹囲男性>94cm・女性>80cm 2)血糖:空腹時≧100mg/dL or 食後2時間≧140mg/dL or HbA1c≧5.7% or 2型糖尿病 or その治療 3)血圧:収縮期≧130mmHg or 拡張期≧85mmHg or 降圧薬内服 4)中性脂肪:≧150mg/dL or 脂質異常症治療薬内服 5)HDL:男性≦40mg/dL、女性≦50mg/dL or 脂質異常症治療薬内服の5項目を採用している。これらのリスク因子が1つ以上あり、かつ飲酒量が基準未満(純エタノール量:男性30g/日未満・女性20g/日未満)であればMASLDと診断される。 今回のガイドラインでは、新たな疾患カテゴリとして、CMRFが1つ以上の中等量飲酒例(男性30~60g/日・女性20~50g/日)を「MetALD(代謝機能障害アルコール関連肝疾患)」として独立して規定した。これを超える飲酒量であれば「ALD(アルコール関連肝疾患)」となる。MetALDは従来ではNAFLDから除外されていた群だが、近年、代謝異常とアルコール双方が病態進展に関与すると示されたことを背景に設定され、MASLDよりも肝関連イベントリスクが高いことが報告されている。さらに心血管イベントも増加するとの報告もあることがFRQで示され(FRQ1-1)、今後はこれらの病態に応じた治療法やサーベイランス法の開発が重要となる。診断:肝生検が「必須」から外れる BQ4-1 MASLDの診断に肝生検は必須か? MASLDの診断に肝生検は必須ではない。 今回の改訂で大きな変更点が、確定診断にあたって「肝生検は必須ではない」とされた点だ。これは近年のNIT(非侵襲的検査)の発達によるもので、NITには血液検査による肝線維化マーカー、年齢と検査値を組み合わせたスコアリングシステム(FIB-4 indexなど)、画像検査、そしてこれらの組み合わせがあり、非侵襲的かつ繰り返し評価できることが大きなメリットとなる。とくに複数の線維化マーカーが保険収載されているのは世界中で日本だけであり、この点に関するエビデンスを蓄積することも求められている。一方、肝生検を必要とするケースも依然として存在しており、高リスクMASHの確定診断、炎症の程度の把握が必要なケース、複数のNITの不一致例などが挙げられている。 今回、診断フローチャートのほかに「肝疾患高リスク症例の絞り込み・フォローアップのフローチャート」が作成された。これはNITと肝生検を組み合わせて高リスク症例を絞り込む手順と、その検査や重症度別の患者のフォローアップをかかりつけ医と専門医でどう分担すべきか、という2軸のマトリクスからなる。NITを使った2段階のハイリスク症例の絞り込み、2次リスク評価で使用できるNITのリストアップ、肝生検・超音波エラストグラフィ・MRエラストグラフィによる最終評価と治療方針の決定、その後のリスクに応じたフォローアップ体制など、診断の全体像と医師の役割分担の提唱が可視化されている。非専門医が押さえるべきポイント・従来、「飲酒歴を確認し、ウイルス性肝炎、アルコール性肝障害を除外した残り」としてNAFLDを診断していたが、MASLDにおいてはBMI、糖代謝異常、高血圧、脂質異常症などのCMRFの確認が診断プロセスの中心となる。・飲酒評価の重要性も増した。とくにMetALD概念の導入により、「少量飲酒であれば問題ない」と一律に扱うことは難しくなった。ガイドラインではMASLDを男性30g/日未満、女性20g/日未満、MetALDを男性30~60g/日、女性20~50g/日の飲酒群として整理しているが、実際にはMASLD基準内の少量飲酒でも線維化リスク上昇が報告されており、診療現場では飲酒量を細かく聴取することが重要になる。・「MASLD患者の消化器科へのコンサルテーション基準は?」という設問(BQ4-2)に対しては、「FIB-4 index>2.67(65歳以下の場合)」の高リスク群を紹介基準とし、同1.3~2.67の中間リスク群でも「血小板数<20万/μL」「AST値・ALT値が持続高値」「画像検査で肝硬変の所見を認める」場合には紹介が望ましいとされている。全身疾患としてのMASLD MASLDは多くの疾患と関連するが、診断基準となるCMRF関連4疾患である「2型糖尿病、脂質異常症、肥満、高血圧」についてはBQが設定され、相互補完関係にあることが示されている(BQ3-1~3-4)。さらに、慢性腎障害、内分泌異常、睡眠時無呼吸症候群など、多様な合併症との関連も整理された(BQ3-5、3-6)。また、肝臓以外の悪性腫瘍リスク上昇についても大腸がんを中心に、胃がん、食道がん、婦人科がんとの関連が解説された(BQ3-7)。中でも心血管疾患はMASLD患者の主要死因の1つであり、大規模メタ解析では、MASLD患者の心不全新規発症リスクは一般人口の約1.5倍と報告されている。一方で、肝線維化が心血管リスクを上昇させる独立した因子であるかについては現時点ではまだ明確ではなく、今後探索していくべき課題とされた(FRQ3-1、3-2)。 治療面では、生活習慣介入が中心である点は従来と変わらないが、「単純性脂肪肝だから経過観察のみ」という従来型対応は見直されつつある。肥満、糖尿病の合併例、線維化進展を伴う例では、早期から積極的介入を行う方向性がより明確になっている。GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬など代謝改善薬への期待も高まっており、今後の承認に向けての動きやエビデンス蓄積が注目される。

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1型糖尿病合併CKDに対するフィネレノンの可能性と限界―FINE-ONE試験が示したもの(解説:石上友章氏)

 1型糖尿病合併CKDに対する腎保護は、2型糖尿病合併CKDとは景色が異なる。2型ではSGLT2阻害薬が腎・心血管保護の中核に位置付けられ、そこにフィネレノンをどう上乗せするかが論点になりやすい。一方、1型では今なおインスリンを基盤とした良好な血糖管理が治療の根幹であり、KDIGOも1型では血糖管理の基盤をインスリンと整理している。さらにDCCT/EDICは、早期からの強化血糖管理が腎症を含む合併症の発症・進展抑制につながることを示しており、1型糖尿病合併CKDではまず血糖管理の質そのものが腎保護の出発点である。近年はCGM活用の重要性も一段と高まっている。 そのうえでFINE-ONE試験は、RAS阻害薬投与下の1型糖尿病合併CKD患者において、フィネレノンが6ヵ月時点のUACRを有意に低下させた点で意義深い。もっとも、その効果は手放しでは評価できない。高カリウム血症は増加し、eGFRは治療中により低下した一方、washout後にはeGFR差が縮小し、UACR改善もやや減弱した。したがって本剤の効果の少なくとも一部は、糸球体内圧変化を含むhemodynamicな機序を介した可逆的・機能的変化である可能性がある。これはRAS阻害薬や従来のステロイド性MRAにも通じる現象であり、本試験だけで長期腎予後や構造的腎保護を断定するのは早い。ただし、1型糖尿病合併CKDで新たな上乗せ治療の選択肢を示した意義は小さくない。 SGLT2阻害薬との比較では、2型糖尿病の経験をそのまま1型に持ち込めない点にも注意が必要である。FINE-ONE試験では、少なくともスクリーニング前8週間以内のSGLT2/1阻害薬またはGLP-1受容体作動薬使用例が除外されており、1型糖尿病合併CKDでフィネレノンとSGLT2阻害薬の優劣を直接論じられる設計ではない。加えて米国では、ダパグリフロジンは1型糖尿病の血糖管理適応を有しておらず、DKAリスク増加への注意喚起がなされている。欧州でも1型糖尿病適応は撤回されている。したがって現時点での本試験の位置付けは、「1型糖尿病合併CKDでは血糖管理とRAS阻害薬が主軸であり、そのうえにフィネレノンという新たな腎保護オプションが加わった」とみるのが最も妥当だろう。なお、民族差やアジア人集団での解釈は、今回の試験規模では探索的にとどまると受け止めたい。

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イプタコパンがIgA腎症の腎機能障害を有意に抑制(解説:浦信行氏)

 イプタコパンは補体代替経路の補体B因子の経口阻害薬であり、2025年2月のNEJM誌(Perkovic V, et al. N Engl J Med. 2025;392:531-543.)に9ヵ月時点での有意な蛋白尿減少効果が報告されている。今回は最終24ヵ月までの推算糸球体濾過率(eGFR)の変化度をプラセボ群と対比した。結果の概要はCareNet.comの2026年4月14日配信の記事に示されているが、イプタコパン群のeGFRの変化は-3.10mL/分/1.73m2/年とプラセボ群の-6.12mL/分/1.73m2/年に比較して腎機能障害進行の程度が半減していた。有害事象はやはり感染関係が多かったが、有害事象の発生率と重篤な有害事象の発生率に差はなかった。サブグループ解析では、年齢、性別、アジア人と非アジア人、尿蛋白の程度、eGFRの程度、血尿の有無、SGLT2阻害薬使用の有無で効果に差はなかった。わが国では発症が多いとされるIgA腎症であるが、効果は同様に期待でき、またSGLT2阻害薬使用下でも同様の効果があることから併用療法の有効性もあるものと考えられる。 近年はIgA腎症の病態の一端が徐々に明らかとなり、その病態の各段階に作用する薬剤の開発が盛んに行われ、多くの開発中の薬剤の尿蛋白低減効果が報告されている。しかし、長期の腎機能保護効果を報告するものは少なく、また長期とは言っても24ヵ月程度の成績である。現時点では腸管に限定的に作用するグルココルチコイドのブデソニドはやはり腎機能障害の程度は有意に半減したが、エンドセリンとアンジオテンシン両者の受容体阻害効果を示すsparsentanは減少の傾向にとどまった。その他の新規開発薬剤もこれから報告が相次ぐと思われるが、より長期の保護効果に関する成績や、組織的にも有意な改善があるかの検討も待たれる。なお、現時点での成績では腎機能障害の程度は半減しているが、それでも毎年eGFRが3mL/分減少するため末期腎不全までの進行は避けられない。この減少が1mL/分/1.73m2/年以内にとどまれば言うことはないのだが。

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猫さん糖尿病の顛末記 ― 主治医は獣医、コンサル先は教授【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第95回

帰宅しても返事がない家「ただいま」玄関のドアを開けた瞬間、空気の密度が違うことに気付きます。これまでは決まって「ニャオー」と勇ましい出迎えがあったはずの気配が、ない。2025年10月、愛猫レオは猫の星へと旅立ちました。こうしてわが家には、静かすぎる帰宅が日常となりました。猫の糖尿病は、予想以上に「フルスペック」だった以前の本エッセイでも触れましたが、2024年春、レオに持病が見つかりました。主訴は多飲多尿。獣医さんを受診すると、血糖値は500mg/dLを超えています。文句なしのDM(糖尿病)診断です。治療はもちろんインスリン。持続型製剤を朝夕2回投与する生活が始まりましたが、問題は用量調節です。人間と違い、猫の体はあまりにコンパクト。1.8単位、2.2単位……この「0.2単位を刻む世界」は、老眼が進み始めた眼球にはきわめて非友好的です。さらに、猫用SGLT2阻害薬も併用。ナトリウム・グルコース共輸送体をブロックし、尿糖排泄を促進する――。学生時代、まさか人間と同じ最新の医学ロジックを、ヒゲの生えた四足歩行の患者に適応する日が来るとは夢にも思いませんでした。教授への「アポなし猫コンサルト」ここで白状します。血糖コントロールが難航し、低血糖リスクに怯えていたある日、私は禁じ手を使いました。勤務先の糖尿病内分泌・腎臓内科の教授の部屋をノックしたのです。もちろん、患者は猫。しかもアポなし。完全なる「猫糖尿病コンサルト」です。にもかかわらず、教授は嫌な顔ひとつせず、インスリンの薬物動態から投与量調整のロジックまで、実に真顔でレクチャーしてくださいました。「猫ですか……なるほど、興味深い」この一言に、医師としての、そして人としての底知れぬ懐の深さ(あるいは重度の動物好きの片鱗)を見ました。この場を借りて、改めて深謝申し上げます。予後は一進一退、そして「終末期」の選択多くの方のサポートもあり、レオは一時、QOLを取り戻しました。「このまま維持できるかも」という淡い期待を抱いた時期もありましたが、2024年秋に再入院。点滴で持ち直しはしたものの、それ以降は緩やかな下り坂でした。それでも、レオは1年以上も病魔と付き合い、立派に生き抜きました。2025年夏の終わり、食欲不振が顕著になります。9月下旬にはADLが著しく低下。再入院の際、獣医さんは静かに言いました。「……そろそろ、お家で過ごさせてあげませんか」医師としての私、飼い主としての妻、そしてプロフェッショナルである獣医さん。三者の目に映る「予後」の景色が、完全に一致した瞬間でした。「これ以上、何ができるのか」その問いへの答えは、ガイドラインには載っていないシンプルなものでした。「ただ、最後までそばにいること」です。プロ顔負けのラスト・メッセージレオは最期まで見事でした。バスタオルの上で静かに横たわり、撫でるとしっぽの先を数ミリだけ動かす。それが彼なりの「インフォームド・コンセント」だったのかもしれません。午前3時頃。妻がおでこを撫でていると、彼は残った力を振り絞るように前脚を伸ばし、おでこで指をぐっと押し返します。「もっと撫でろ」そう命じられた直後、彼は静かに呼吸を止めました。不思議なことに、押し寄せたのは悲しみよりも安堵でした。「もう、打たなくていいんだ。苦しくないんだ」という想いだけが、深夜のリビングに満ちていました。ちなみに、毛並みは最期まで最高の手触りでした。いつまでも撫でていたかった。瞳も綺麗なままです。美しい姿です。猫のいない家と、尊敬の過去形声を上げて泣きたい時、一緒に泣いてくれる妻がいます。レオのいたずら、表情、賢さを語り合いながら、私たちは「欠員」の出た家で、生活を続けました。「ほんと、すごい猫だったよね」これは単なる過去形ではありません。最大の敬意を込めた、完了形に近い過去形です。「新患」ルナの来訪「次の猫は迎えない」それが当初の夫婦のコンセンサスでした。しかし半年が過ぎ、悲しみが穏やかな思い出へと昇華された頃、自然とこう思えたのです。「また、猫と暮らしたい」それはきっと、レオが遺していった最高のギフトでした。そんな折、運命の出会いがありました。里親を探していたメスの子猫――ルナです。初対面で直感しました。「……ビビッときた」医学的根拠はありません。しかし、臨床医としての長年の勘によれば、この「ビビッ」は、エビデンスを凌駕する正解なのです。オチ:主治医交代のお知らせ ルナと運動療法中 現在、わが家には再び猫がいます。ただし、以前とは立ち位置が異なります。今度は、私が「診察」される側です。深夜の運動療法(強制運動)、早朝の覚醒チェック、そして厳格な生活指導(主に激しい叱責)。レオは「人生」を教えてくれましたが、ルナは「生活習慣の矯正」を徹底してくれます。 私は今日も帰宅し、「ただいま」と言います。 今度は、耳をつんざくような、やたら元気なレスポンスが返ってきます。

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物質使用障害(SUD)のリスク低減にGLP-1受容体作動薬は有効か(解説:小川大輔氏)

 物質使用障害(SUD:Substance Use Disorder)は、特定の物質の使用を制御できなくなり、健康上の問題や社会生活への支障があっても使用を続けてしまう慢性・再発性の疾患である。アルコール(お酒)やタバコ(ニコチン)のほか、処方薬(睡眠導入剤、鎮痛剤など)、覚醒剤、大麻、コカイン、オピオイドなど、脳に作用するさまざまな物質によって引き起こされる。 今回、GLP-1受容体作動薬と米国退役軍人の糖尿病患者におけるSUDリスクの関係を調査した研究結果が発表された1)。電子カルテのデータを用いて、各種SUDの新規発症と、既存SUD患者の臨床アウトカム(救急外来、入院、死亡、過量摂取、自殺念慮・試み)を調査したところ、GLP-1受容体作動薬の使用は新規および既存のSUDのリスク低減に関連している可能性が報告された。 この研究により、GLP-1受容体作動薬はSUDの予防と治療の両面で有望な役割を果たす可能性が示唆された。しかし、対象が米国退役軍人という特定集団に限定されるため一般化には注意しなければならない。またSGLT2阻害薬を比較薬とした観察研究であるため、今後さらなる臨床試験が必要である。 SUDの治療は、単に物質の使用をやめるだけでなく、心身の健康や社会生活の回復を目指す多角的なアプローチが必要である2)。それはSUDが「意志の弱さ」から生じるものではなく、脳の機能が変化した疾患であるからである。SUDは専門的な治療と継続的なサポートが不可欠な疾患であり、GLP-1受容体作動薬はその治療の一助になるかもしれない。

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2つのRCT事後解析からみたカナグリフロジンの尿路感染症発症リスク

 2型糖尿病患者におけるカナグリフロジンの尿路感染症(UTI)発症リスクは尿中白血球エステラーゼ(LE)および亜硝酸塩が異常値であってもプラセボと同程度だったという研究結果が、Nephrology Dialysis Transplantation誌オンライン版2026年3月16日号に報告された。 SGLT2阻害薬は心腎系の有益性が確立されているものの、UTIのリスクに対する懸念から、とくに高リスク患者では使用が制限される可能性がある。 大阪大学の土井 洋平氏らは、UTIの診断に有用とされるLEおよび亜硝酸塩1)を指標にカナグリフロジンとUTIとの関連を検証した。 本研究は2型糖尿病患者を対象としたカナグリフロジンの無作為化二重盲検プラセボ対照試験であるCANVAS試験およびCREDENCE試験の事後解析として行われた2,3)。主要評価項目は初回UTI発症までの時間、副次評価項目は総UTI発症数などである。 主な結果は以下のとおり。・被験者8,614例中、LEの異常は10.7%、亜硝酸塩の異常は3.5%で認められた。・調整後LE陽性率1+、2+、3+の正常群に対するハザード比(HR)はそれぞれ1.72、1.89、2.77と、LE陽性率が高いほど初回UTI発症リスクは増加した。・亜硝酸塩の異常1+、2+のHRは2.28、1.66と、正常群に対して初回UTI発症リスクが上昇していた。・LE陽性率および亜硝酸塩の異常は総UTI発症も増加させた。・全体的にみて、カナグリフロジン投与はプラセボと比べ、初回UTI発症リスク(HR:1.06、95%信頼区間[CI]:0.93~1.21)も総UTI発症リスク(HR:1.01、0.86~1.18)も増加させなかった。・LE正常群におけるカナグリフロジン投与のプラセボに対する初回UTI発症のHRは1.17(95%CI:1.00~1.38)、LE異常群におけるHRは0.94(0.73~1.21)であった(交互作用のp=0.10)。・亜硝酸塩正常群におけるカナグリフロジン投与のプラセボに対する初回UTI発症のHRは1.08(95%CI:0.94~1.24)、異常群のHRは0.92(0.59~1.43)であった(交互作用のp=0.45)。・LEおよび亜硝酸塩の変化による初回UTI発症リスクは、カナグリフロジンとプラセボで差がみられなかった。・副次評価項目である総UTIイベントのリスクについて、カナグリフロジンは、LEおよび亜硝酸塩群のいずれの異常群においてもプラセボよりも増加させなかった(各HR:0.76[95%CI:0.58~0.99]、1.18[0.79~1.76])。 LEおよび亜硝酸塩の異常値はUTIのリスク増加と関連していたものの、カナグリフロジン投与によるリスクの増加は確認されなかった。これらの結果は、膿尿や細菌尿の所見がある2型糖尿病患者において、SGLT2阻害薬の投与を一律に控えるものではない、という考えを支持している、と筆者らは結んでいる。

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SGLT2阻害薬、腎臓の加齢変化抑制の可能性――老化が速い魚で検証

 糖尿病などの治療に用いられているSGLT2阻害薬(SGLT2-i)という薬に、老化した腎臓を保護するように働く可能性があることが報告された。米MDI生物学研究所のHermann Haller氏らの研究によるもので、詳細は「Kidney International」3月号に掲載された。 この研究では、寿命がわずか4~6カ月のアフリカンターコイズキリフィッシュという小魚が用いられた。この魚は非常に老化が速いため、わずか数週間の研究でヒトの数十年分に相当する加齢現象を観察することができる。研究の結果、SGLT2-iの投与によって、加齢に伴う腎臓の変化が抑えられ、腎臓の健康が維持されることが示された。論文の上席著者であるHaller氏は、「SGLT2-iは糖尿病の有無にかかわらず、心臓や腎臓に対して保護的に作用することが既に知られているが、その作用のメカニズムはこれまで十分明らかにされていなかった」と語っている。 SGLT2-iを投与しない場合、この魚の腎臓には人間の腎臓と非常によく似た加齢変化が観察された。具体的には、腎臓内の毛細血管が少なくなり、ろ過システムがダメージを受け、炎症が強まり、細胞のエネルギー産生に支障が生じた。しかしSGLT2-iを投与した魚では、これらの変化が少なく、血流やろ過機能、エネルギー産生機能も正常に維持されていた。また、炎症抑制や細胞間のコミュニケーション改善といった作用も観察された。Haller氏は、「これまでの研究でSGLT2-iは血糖降下作用を上回るメリットをもたらすことが示されてきているが、それは今回明らかになったさまざまな同薬の機序が、疾患の病態の上流に働きかけるためではないか」と述べている。 SGLT2-i投与の有無による最大の違いの一つは毛細血管に認められた。同薬を投与されていない魚は加齢とともに毛細血管が徐々に失われていき、その結果、腎臓の細胞は酸素を得ることが困難になり、エネルギー産生に支障が生じ始めた。一方で同薬を投与された魚はより多くの毛細血管が維持され、エネルギー産生の改善と炎症抑制に関連する遺伝子の発現が若い個体に近い状態を示した。 論文の筆頭著者であるハノーバー医科大学(ドイツ)のAnastasia Paulmann氏は、「急速に老化する動物モデルを用いた研究の結果、これほど明確なSGLT2-iの影響が現れたことは衝撃的だった。最も驚いたのは、機序が一見単純そうな同薬が、血管やエネルギー代謝、炎症をはじめ、腎臓内で互いに関連して働くさまざまなシステムに影響を及ぼすことだ」と、本研究のインパクトを強調している。 研究者らは、老化の速いこの魚を研究に用いることで、マウスなどを用いるよりも迅速に新しい治療法を検討できるのではないかと考えている。Haller氏らの研究チームでは今後、既にダメージが進行している腎臓の修復にもSGLT2-iが役立つか否かの検討、および治療開始のタイミングの重要性に関する研究を予定している。

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日本のインスリン治療、非インスリン薬併用が20年で2倍に

 日本におけるインスリン療法の実態とその変遷を解析した大規模リアルワールド研究「Insulin JP2DB Study」の結果が報告された。日本では近年、インスリンと非インスリン薬の併用が増加している。本研究では、その割合が約20年間で大きく増加していることが示された。京都府立医科大学の福井 道明氏らによる本研究はDiabetes Therapy誌オンライン版2026年1月27日号に掲載された。 日本の医療データベース(JP2DB)を用いて、インスリン治療の導入パターンおよび併用薬の使用動向を後ろ向きに解析した。解析は、年次ごとの治療動向を評価する「連続横断解析」と、インスリン導入後の治療法の推移を追跡(2型糖尿病は9ヵ月、1型糖尿病は21ヵ月)した「縦断コホート解析」の2つのデザインで実施された。 インスリン治療法は、bolus(追加インスリン)、basal(基礎インスリン)、premixed(混合型インスリン)、basal-bolus(強化インスリン)などに分類した。さらにDPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬などの非インスリン血糖降下薬の併用状況を評価した。 主な結果は以下のとおり。・連続横断解析では、4,953例(2型糖尿病4,693例、1型糖尿病260例)が対象となった。2型糖尿病においてインスリン治療と非インスリン薬を併用する割合は、2002年の31%から2021年には61%へと倍増した。とくに2014年以降はインスリン使用者の30%以上がDPP-4阻害薬を併用した。SGLT2阻害薬の併用率は2013年の0%から2021年には20.2%に増加した。2018年以降は、1型糖尿病でも非インスリン薬併用の増加傾向が確認された。・縦断コホート解析では、2万7,492例(2型糖尿病2万7,031例、1型糖尿病461例)が対象となった。2型糖尿病では、入院中にインスリン療法を開始した患者は、導入時は追加インスリンが70.8%と高かったが、9ヵ月後には17.3%まで低下した。その代わりに基礎インスリン(6.3%→31.1%)、強化インスリン(17.0%→23.4%)が増加した。外来で開始した場合、導入時は基礎インスリンが最も多く、病院では53.9%、診療所では58.9%を占めた。・1型糖尿病患者では、入院時にインスリン療法を開始した患者の57.9%が追加インスリンを投与されたが、1ヵ月後には強化インスリンが主流(85.0%)となった。外来で開始した場合は、研究期間を通じて強化インスリンが主流であった。 著者らは「2型糖尿病では、導入環境によって治療法に違いが見られた。入院中は高血糖是正を目的に強化インスリンが行われることが多いが、時間の経過とともに退院後の外来管理を想定した治療法へ移行する傾向が示された。外来では低血糖リスクや治療負担を考慮し、初回治療は比較的簡便な基礎インスリンから開始する戦略が一般的であることが示唆された。一方、1型糖尿病では、入院導入例では約6割が追加インスリンで開始されたが、1ヵ月後には85.0%が強化インスリンへ移行していた。外来導入例でも研究期間を通じて強化インスリンが主流であり、導入環境による違いが少なかった。さらに、インスリン治療患者における非インスリン薬併用は年々増加しており、本試験は日本の糖尿病治療が多剤併用戦略へと移行していることを示す結果である」とまとめている。

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GLP-1受容体作動薬、物質使用障害の予防や治療に有効か/BMJ

 GLP-1受容体作動薬の使用は、さまざまな物質使用障害(SUD)の発症リスク低下と一貫して関連し、複数の物質タイプにわたる幅広い予防効果があること、また、SUD既往患者においても有害な臨床アウトカムのリスク低下に関連していることが、米国退役軍人省セントルイス・ヘルスケアシステムのMiao Cai氏らによる観察研究の結果で示された。GLP-1受容体作動薬の使用がアルコール、タバコ、大麻使用障害の発症および再発リスクを低下させることが示されていたが、他の物質に関するエビデンスや、SUD既往患者の臨床アウトカムの改善に有効かどうかを評価する大規模研究は不足していた。著者は、「今回のデータは、GLP-1受容体作動薬がさまざまなSUDの予防と治療の両方において潜在的な役割を果たす可能性を示唆しており、さらなる評価が必要である」とまとめている。BMJ誌2026年3月4日号掲載の報告。退役軍人の医療記録を用いて8件の実薬対照比較試験をエミュレーション 研究グループは、米国退役軍人省の電子医療記録を用いて新規投与開始者に関する8件の実薬対照標的試験エミュレーション(target trial emulation)を行った。内訳は、SUD既往のない患者における新規SUD発症に関する7試験(プロトコール1)と、SUD既往患者における有害アウトカムに関する1試験(プロトコール2)であった。 2型糖尿病を有する米国退役軍人60万6,434例をベース集団とし、患者を2つのプロトコールのいずれかに割り付け、最大3年間追跡した。 プロトコール1(主要試験)では、GLP-1受容体作動薬新規投与開始者12万4,001例およびSGLT2阻害薬新規投与開始者40万816例の計52万4,817例が、プロトコール2では、それぞれ1万6,768例および6万4,849例の計8万1,617例が対象となった。 主要アウトカムは、アルコール、大麻、コカイン、ニコチン、オピオイドの使用障害、その他のSUD発症、およびこれらの複合アウトカムとした。SUD既往患者における有害アウトカムには、SUD関連の救急外来受診、SUD関連入院、SUD関連死、薬物過剰摂取、自殺念慮または自殺企図などが含まれた。 ハザード比(HR)および3年間の純リスク差(NRD、1,000人当たり)を、逆確率重み付けを用いた原因特異的Cox生存モデルに基づいて報告した。アルコール、大麻、コカイン、ニコチン、オピオイド、他のSUD発症リスクの低下と関連 SGLT2阻害薬の開始と比較し、GLP-1受容体作動薬の開始は以下の使用障害のリスク低下と関連していた。・アルコール(HR:0.82[95%信頼区間[CI]:0.78~0.85]、NRD:-5.57[95%CI:-6.61~-4.53])・大麻(0.86[0.81~0.90]、-2.25[-3.00~-1.50])・コカイン(0.80[0.72~0.88]、-0.97[-1.37~-0.57])・ニコチン(0.80[0.74~0.87]、-1.64[-2.19~-1.09])・オピオイド(0.75[0.67~0.85]、-0.86[-1.19~-0.52]) また、主要アウトカムとした、その他のSUD発症(0.87[0.81~0.94]、-1.12[-1.68~-0.55])、複合アウトカム(0.86[0.83~0.88]、-6.61[-7.95~-5.26])のリスク低下も認められた。 SUD既往患者では、GLP-1受容体作動薬の投与開始は、次のリスク低下と関連していた。・SUD関連救急外来受診(HR:0.69[95%CI:0.61~0.78]、NRD:-8.92[-11.59~-6.25])・SUD関連入院(0.74[0.65~0.85]、-6.23[-8.73~-3.74])・SUD関連死(0.50[0.32~0.79]、-1.52[-2.32~-0.72])・薬物過剰摂取(0.61[0.42~0.88]、-1.49[-2.43~-0.55])・自殺念慮または自殺企図(0.75[0.67~0.83]、-9.95[-13.14~-6.77]) 治療アドヒアランスに基づく解析でも、新規SUD発症およびSUD既往患者における有害アウトカムの両方について、治療開始に基づく解析と一貫した結果が示された。

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3月12日 世界腎臓デー【今日は何の日?】

【3月12日 世界腎臓デー】〔由来〕腎臓病の早期発見と治療の重要性を啓発する取り組みとして、国際腎臓学会などにより2006年から、3月第2木曜日を「世界腎臓デー」と定め、毎年、世界各地で腎臓病に関する啓発に向けてイベントが開催されている。関連コンテンツ腎不全・透析診療アップデート【診療よろず相談TV】腎不全リスク別にみたSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の有効性亜鉛欠乏がCKD患者のAKIリスクを37%上昇、死亡リスクは約2倍にIgA腎症における蛋白尿0.3g/日未満達成は腎予後とどう関連するか?SGLT2阻害薬、eGFRやアルブミン尿を問わずCKD進行を抑制/JAMA

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HFpEF診療で期待のフィネレノン、適格患者と注意点とは/バイエル

 非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)フィネレノン(商品名:ケレンディア)は、これまで2型糖尿病かつ慢性腎臓病患者の心不全発生予防に対し有効性が示されていたが、2025年12月22日、新たに「慢性心不全」の適応を取得した。 これを受け、バイエル薬品は2月19日にプレセミナーを開催。昨年の第89回日本循環器学会学術集会で本剤の研究結果や日本人サブ解析データを発表した絹川 弘一郎氏(富山大学第二内科 教授/日本心不全学会理事長)と佐藤 直樹氏(かわぐち心臓呼吸器病院 副院長/循環器内科)が登壇し、心不全治療の課題やフィネレノン処方時の注意点などについて解説した。HFpEFに投与を考慮すべき、異例のスピードでガイドライン推奨 2025年3月発刊の『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』において、フィネレノンの位置付けは大きく変貌を遂げた。従来の適応に加え、左室駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)や左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)における薬物治療の推奨とエビデンスが加わった(症候性のHFpEFに対して、心血管死または心不全増悪イベントの抑制を目的としてMRA(フィネレノン)の投与を考慮する[推奨クラスIIa・エビデンスレベルB-R])。この適応拡大に至った背景について、絹川氏は「FINEARTS-HF試験で予後改善効果が示された」と説明し、適応取得前にガイドラインに掲載された異例のスピード感について、「それだけ現場の期待が大きかったことの表れ」と述べた。非ステロイド骨格による炎症/線維化抑制への期待 上記を踏まえ、絹川氏は「心不全診療の現状と課題:左室駆出率の保たれた心不全とは?」と題し、HFpEF診療におけるフィネレノンの可能性を解説。これまで心不全診療の中心はHFrEFであり、心不全~全身臓器の機能低下や各種ホルモンの上昇といった多臓器連関をブロックするため、近年ではARNI(ACE阻害薬/ARB)、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の4剤を併用するファンタスティック・フォーが基本治療とされてきた。その一方で、この20年で増加傾向にあるHFpEFには、HFrEFに準じた治療で有効性が見いだせていなかった。 また以前より、HFpEFの背景にある生活習慣病などのリスク因子を有する患者では、ミネラルコルチコイド受容体(MR)が過剰活性化を起こし、これが心不全の増悪・進行の原因であることは示されていたため、これまで、MRAの1つでステロイド骨格を有するスピロノラクトンでHFpEFに対する有効性が試験されるも、予後改善のエビデンスを得るには至らなかった。これに対して、非ステロイド骨格のフィネレノンは、FINEARTS-HF試験で有効性を示したのである。その理由について同氏は「ステロイド骨格の有無による効果の違いは現時点では明らかではないが、非ステロイド骨格のMRAは、炎症/線維化遺伝子発現を誘導するcofactor(共役因子)と結合しない点が大きいのではないか」と見解を示した。1年予後改善のため、安易な中止は逆効果に 続いて佐藤氏は、「心不全治療はケレンディアによってどう変わるのか?―ケレンディアの対象となる患者像は?―」と題し、フィネレノンのガイドラインでの推奨根拠となったFINEARTS-HF試験に基づき、日本人の適格患者を以下のように示した。<適格患者>―――――――――――――・年齢≧40歳・NYHA心機能分類 II~IV・左室駆出率≧40%・eGFR≧25mL/min/1.73m2・血清カリウム値≦5.5(5.0mmol/L)・SGLT2阻害薬併用可――――――――――――――――――― フィネレノンは、上述のようにガイドラインにおいて“投与を推奨すべき”という位置付けが示されたものの、腎機能やカリウム値のモニタリングが不可欠である。同氏は「除外基準としてeGFR、血清カリウム値について考慮する必要がある」と前置きし、「非ステロイド性MRAを開始できない、あるいはすぐに中止してしまうといった処方医の過度な慎重さが逆に患者の不利益につながりかねない」と注意喚起し、処方医らの不安を払拭する材料として、AHA2024で発表された知見に触れ、血清カリウム値が一時的に5.5mmol/Lを超えた症例においても、フィネレノンの臨床的効果が維持されていたデータを示した。また、FINEARTS-HF試験サブグループ解析結果から、フィネレノンをSGLT2阻害薬服用患者にアドオンすることによる利点、有効性・安全性についても言及した。 最後に同氏は「予後改善目的でフィネレノンを投与することを常に念頭に置いて処方検討を行うことが重要」とし、「フィネレノンは血清カリウム5.5mmol/Lまでは投与可能だが、フィネレノン、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬で血清クレアチニン値の急な上昇がみられることがある。ただし、これは必ずしも腎機能悪化を示すものではなく、これらの治療は腎機能改善と関連している。そして、心不全診療において、安易な反射的中止が課題になっており、診療ガイドラインに基づく薬物療法(GDMT)の中止が心不全の転帰悪化に影響する」と患者の利益を最優先した基準の順守ならびにモニタリングの実施をHFpEF診断にあたる医師に向けて訴えた。 

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第309回 臨床医が扱い慣れたGLP-1薬なら依存症治療の敷居を低くできそう

セマグルチドやチルゼパチドなどのGLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1薬)の使用が、アルコールやその他の薬物乱用を生じ難くするらしいことを示す大規模観察試験結果がまた1つ報告されました1-4)。BMJ誌に今回報告されたのは、米国の2型糖尿病の退役軍人の解析結果です。言わずもがなGLP-1薬は膵臓の受容体に働いてインスリン分泌を促します。しかしそれだけでなく、脳でも作用することが知られ、薬物乱用やアルコール依存を促す脳の報酬回路へのGLP-1薬の働きが盛んに検討されています4)。試験ではそのように脳でも働くGLP-1薬か、腎臓でもっぱら働くエンパグリフロジンなどのSGLT2阻害薬を使い始めた60万例超の経過が調べられました。3年間追跡したところ、薬物依存症の既往がない人のGLP-1薬使用は大麻、アルコール、コカイン、ニコチン、オピオイドの依存症の発生率がSGLT2阻害薬使用に比べて14%低いことと関連しました。すでに依存症の人の薬物乱用と関連した救急科受診、入院、オーバードーズの割合の比較でもGLP-1薬使用に分があり、SGLT2阻害薬に比べてそれぞれ約30%、25%、40%低いことが示されました。薬物乱用と関連する死亡や自殺念慮/自殺企図もGLP-1薬使用群がより少なく、SGLT2阻害薬群に比べてそれぞれ50%と25%低い割合で済んでいました。依存症へのGLP-1薬の効果は無作為化試験でも示されつつあります。昨年2月にはアルコール依存患者の飲酒量を減らすセマグルチド週1回注射の効果を裏付けた無作為化試験が報告されています5)。進行中の試験もあり、GLP-1薬の類いのmazdutideのアルコール依存治療を調べているプラセボ対照無作為化第II相試験がLillyの手によって実施されています。結果は今夏8月に判明するようです6)。セマグルチドの別の無作為化試験も米国立薬物乱用研究所(NIDA)医師のLorenzo Leggio氏の主導で進行中です7)。Leggio氏は、たいていが治療されないままのアルコール依存症の治療にGLP-1薬の類いが光明をもたらしうると考えています4)。日本もおよそ似たような状況と思われますが、Leggio氏によるとアルコール依存症患者のほぼ全員の98%は米国で承認されているアルコール依存治療薬を手にしていません。その原因の一端は臨床医のほとんどが依存症治療薬に精通していないことにあるとLeggio氏は言っています。アルコール依存症とは対照的に、糖尿病患者のほとんどの85%超は米国で承認された治療を受けており、臨床医はGLP-1薬を含む糖尿病薬の扱いに手慣れています。GLP-1薬が誰にでも効くというわけにはいかないでしょうが、もし効果の裏付けが済んでGLP-1薬による依存症治療が承認されたら専門医限定という垣根を超えて普及するだろうとLeggio氏は示唆しています。それに、糖尿病治療として社会的により受け入れられているGLP-1薬なら依存症の薬物治療への偏見も減らせるかもしれません4)。米国などでは承認されているnaltrexoneなどのめぼしい依存症治療薬が未承認の日本では、あくまでも有効性が確立して承認されればの話ですが、臨床医が扱いに慣れたGLP-1薬による依存症治療はとくに重宝されそうです。参考1)Cai M, et al. BMJ. 2026;392:e086886.2)GLP-1 diabetes drugs linked to reduced risk of addiction and substance-related death / Eurekalert3)GLP-1 medications get at the heart of addiction: study / Eurekalert4)GLP-1 drugs linked to lower addiction rates in large study of veterans / Science5)Hendershot CS, et al. JAMA Psychiatry. 2025;82:395-405.6)ClinicalTrials.gov(NCT06817356)7)ClinicalTrials.gov(STAR)

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IgA腎症〔IgA nephropathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義IgA腎症は、糸球体性血尿や蛋白尿などの検尿異常が持続し、腎生検で腎糸球体メサンギウム領域を中心としたIgA優位の免疫グロブリン沈着を認め、全身性疾患や慢性疾患など明らかな原因疾患を伴わない原発性糸球体腎炎である。確定診断には腎生検が必須である。■ 疫学IgA腎症は、世界で最も頻度の高い原発性糸球体腎炎であり、わが国を含む東アジアでとくに多いとされる。わが国では学校検尿や健康診断が普及しているため、無症候性血尿・蛋白尿を契機に若年~中年で診断される例が多い。一方、欧米では症候性の症例や腎機能障害を伴って初めて診断される例が多いとされる。■ 病因病因としては、「粘膜免疫異常により過剰産生された糖鎖異常IgA1が、自己抗体や補体と免疫複合体を形成し、糸球体メサンギウムに沈着して炎症と線維化を惹起する」というマルチヒット仮説が提唱されている。遺伝的素因も関与しており、HLA領域や粘膜免疫関連遺伝子の関連が報告されている。■ 症状多くは自覚症状に乏しく、持続する顕微鏡的血尿・軽度蛋白尿のみである。上気道感染や消化管感染の数日後に肉眼的血尿(褐色尿、コーラ色尿)を来す例が典型的である。進行例では浮腫、高血圧、倦怠感など慢性腎臓病(CKD)としての症状が出現する。■ 分類組織学的には腎糸球体メサンギウム増多所見が主体であるが、半月体形成、分節性硬化、全節性硬化など多彩な像をとる。病理重症度評価にはOxford分類(MEST-Cスコア)が広く用いられており、メサンギウム・管内細胞増多、分節性硬化、尿細管萎縮/間質線維化、半月体の有無を評価する。■ 予後かつての長期追跡では、診断後20年で約4割が慢性腎不全に至ると報告され、決して良性の腎炎ではないことが明らかとなった。近年では、早期発見・レニンアンギオテンシン(RA)系阻害薬の普及などにより予後は改善しつつあるが、蛋白尿が持続する例や腎機能障害を伴う例では依然としてCKD進行のリスクが高い。国際IgA腎症予測ツール(International IgAN Prediction Tool)により、臨床所見とMEST-Cスコアを組み合わせた予後予測も行われている。2 診断■ 検査1)尿検査持続する顕微鏡的血尿(尿定性検査に加え、尿沈査分析が必要。しばしば赤血球円柱がみられる)程度の異なる蛋白尿(しばしば0.3~1g/日程度から始まり得る)急性上気道炎や消化管感染後の一過性肉眼的血尿(褐色尿、コーラ色尿)2)血液検査血清クレアチニン、推算糸球体ろ過量(eGFR)で腎機能を評価する。血清IgA値はしばしば高値だが、診断的特異性は高くない。補体価は通常正常であり、低補体血症では他疾患を考慮する。3)腎生検IgA腎症の確定診断には腎生検が必要である。腎生検は、確定診断のみならず予後や治療反応性を予測する上でも重要である。光顕でメサンギウム増殖性糸球体腎炎を示し、免疫蛍光法でメサンギウム優位のIgA沈着(しばしばC3が共に沈着)を認める(図1、2)。病理重症度評価にはOxford分類(MEST-Cスコア)が広く用いられており、メサンギウム・管内細胞増多、分節性硬化、尿細管萎縮/間質線維化、半月体の有無を評価する(表)。「KDIGO 2025国際ガイドライン」では、IgA腎症が疑われる成人で蛋白尿0.5g/日以上が持続する場合、腎生検を考慮することが推奨されている。図1 IgA腎症の代表的な光顕所見画像を拡大する画像を拡大するa:メサンギウム細胞増多(↑)とメサンギウム基質増生(*)b:メサンギウムへの半球状沈着物(↑)c:管内細胞増多を示す糸球体糸球体毛細血管内の細胞数が増加し、管腔が狭小化している(↑)d:係蹄壊死この糸球体では毛細血管基底膜が断裂し(↑)、フィブリンの析出(*)がみられるe:細胞性半月体この糸球体の半月体は、ほとんどが細胞成分で占められているf:線維細胞性半月体この半月体は細胞成分10%以上50%未満で、細胞外基質は90%未満であるg:線維性半月体この半月体は細胞成分10%未満で、細胞外基質が90%以上を占めているh:分節性硬化点線で囲まれた部分に硬化がみられ、硬化はすべての係蹄には及んでいない(参考文献1、2より引用)図2 蛍光抗体法(IgA)画像を拡大する主にメサンギウム領域にIgAが高度に沈着している(参考文献1より引用)表 IgA腎症Oxford分類画像を拡大する■ 鑑別診断IgA腎症と類似する状態として、以下の疾患などと鑑別する必要がある。菲薄基底膜病、アルポート症候群など遺伝性血尿疾患IgA血管炎(ヘノッホ-シェーンライン紫斑病):紫斑、腹痛、関節痛など全身症状を伴う。感染関連糸球体腎炎(とくにMRSA感染に伴うIgA優位の感染関連糸球体腎炎)ループス腎炎など他の自己免疫性腎炎慢性肝疾患に伴う二次性IgA沈着症家族歴を含む臨床背景、血清学的検査、腎生検での所見を総合して診断する。3 治療■ 治療の基本方針治療の第1目標は、蛋白尿をできるだけ低く抑え(目標0.5g/日未満、理想的には0.3g/日未満)、腎機能低下速度を生理的なレベル(年間eGFR低下1mL/分/年未満)に近付けることである。■ 腎保護療法すべての患者に以下の腎保護療法が基本となる。生活習慣介入:減塩(食塩<6g/日が目安)、適正体重の維持、禁煙、適度な運動。血圧管理:目標<130/80mmHg(蛋白尿が多い例ではさらに厳格に)。RA系阻害薬:ACE阻害薬またはARBは蛋白尿減少と腎保護効果のエビデンスがあり、IgA腎症でも第1選択である。SGLT2阻害薬:糖尿病の有無にかかわらずCKD進行抑制効果が示されており、蛋白尿を伴うIgA腎症では追加投与が推奨されている。■ 免疫抑制療法腎保護療法を十分に行っても蛋白尿が持続し、腎機能低下が進行する例では免疫抑制療法を検討する。副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド):わが国のガイドラインでは、中等度以上の蛋白尿や組織学的重症例で、一定期間のステロイド療法が推奨されている。ただし、糖尿病、肥満、感染など副作用リスクが高い症例では慎重な適応判断が必要である。扁摘+ステロイドパルス療法:わが国では、口蓋扁桃摘出術とステロイドパルス療法の併用が長年行われており、蛋白尿の寛解や長期予後改善を示す国内データが蓄積している。その他の免疫抑制薬:シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)などについては一定の効果報告もあるが、エビデンスは限定的であり、難治例や特別な状況に限って専門医のもとで検討されるべきである。■ 高リスク例・特殊病型急速進行性糸球体腎炎像(半月体多数、急激なeGFR低下)を示す例では、ステロイド大量療法にシクロホスファミドなどを併用する血管炎に類似した治療が行われるが、エビデンスは限られている。ネフローゼ症候群を呈する微小変化病合併IgA腎症などでは、ステロイド単独でも反応性が良い場合が多い。4 今後の展望■ 新たな診断・予後マーカー血中の糖鎖異常IgA1(galactose-deficient IgA1)やそれに対する自己抗体、補体関連マーカーなどがIgA腎症に特異的なバイオマーカー候補として研究されているが、現時点では診断や治療選択に用いる標準検査としては確立していない。国際IgAN予測ツールや病理MEST-Cスコアを活用したリスク層別化が進み、今後は個々の患者に応じた治療強度の決定に応用されることが期待される。■ 新規治療薬近年、IgA腎症の病態(粘膜免疫・補体・腎保護)を標的とした新規薬剤の開発が急速に進んでいる。標的放出型ブデソニド(Nefecon):回腸末端の腸管関連リンパ組織に到達するよう設計された経口ステロイドで、病的IgA1産生の抑制を目的とする。海外第III相試験では蛋白尿減少とeGFR低下抑制が示され、欧米などで承認されているが、わが国ではまだ使用できない。デュアルET-A/AT1受容体拮抗薬(sparsentan):ARB作用に加えエンドセリン受容体拮抗作用を併せ持ち、蛋白尿減少とeGFRスロープ改善を示している。補体阻害薬:経口補体因子B阻害薬iptacopanをはじめ、C5、C3、レクチン経路などを標的とした薬剤がIgA腎症で検証されており、一部は海外で承認されつつある。B細胞/BAFF・APRIL経路阻害薬:自己抗体産生抑制を目的としたataciceptや他の抗BAFF/APRIL抗体が臨床試験段階にある。「KDIGO 2025国際ガイドライン」では、「病的IgA産生と免疫複合体形成を抑える治療」と「すでに生じたネフロン喪失に伴うCKDの進行を抑える治療」を並行して行う2本立ての治療戦略が提案されている。わが国でも、支持療法にSGLT2阻害薬などを組み合わせつつ、新規薬剤が順次導入されれば、より早期から蛋白尿を強力に抑え、長期腎予後のさらなる改善が期待される。5 主たる診療科腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター IgA腎症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報難病治験ウェブ(難病に関する治験情報を簡単検索、医療従事者向けのまとまった情報)1)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)難治性腎障害に関する調査研究班 編集. エビデンスに基づくIgA腎症診療ガイドライン 2020. 2020:東京医学社.2)厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業:進行性腎障害に関する調査研究班報告 IgA腎症分科会 IgA診療指針-第3版-補追 IgA腎症組織アトラス.日腎会誌. 2011;53:655-666.3)KDIGO 2025 Clinical Practice Guideline for the Management of Immunoglobulin A Nephropathy (IgAN) and Immunoglobulin A Vasculitis (IgAV).公開履歴初回2026年2月27日

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