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慢性膵炎に伴う疼痛に対して内視鏡的治療か早期の外科的治療か?(解説:上村直実氏)-1203

 「慢性膵炎に伴う腹痛」に対する治療に関しては、最初に内科的保存治療(脂肪制限食+禁酒+NSAIDs、制酸剤+高用量膵酵素)が施行され、その無効例に対して砕石目的のESWLと主に狭窄部の拡張を目的とした内視鏡的治療(ステント装着および結石除去)が優先され、内視鏡的治療の無効例や再発例に対して外科的治療を選択することが一般的とされていたが、最近報告された観察研究やRCTの結果から外科的治療の有用性が見直されており、今回実施されたオランダの多施設共同RCTの結果、内視鏡的治療を先行して行う方法に比べて早期に実施する外科的治療のほうが、優れた疼痛緩和効果を示したことが再確認されている(Issa Y, et al. JAMA. 2020;323:237-247.)。 日本の『慢性膵炎診療ガイドライン2015』において「ESWLを含む内視鏡的治療は、慢性膵炎の腹痛に対して短期的にはきわめて有効であり長期的にも有効性を示すため、行うことを提案する」と、早期の内視鏡的治療を施行する有用性が記述されている。一方で「膵管の強い狭窄や屈曲蛇行などにより内視鏡的治療が容易ではないと予測される症例では起こりうる偶発症や治療期間も考慮に入れたうえで、当初より外科的治療を含めて治療方針を慎重に検討する必要がある」、さらに「慢性膵炎における膵管ステント治療の継続期間は1年前後をひとつの基準とし、無効例や腹痛が再燃する症例では外科的治療を考慮することを提案する」と、症例によっては早期の外科的治療を推奨している。以上、短期的な内視鏡的治療の有用性は明らかであるが、長期的な視野に立てば、症例によって、早期の外科的治療が考慮されるべきだと思われる。 「本論文において内視鏡的治療群の多くで内視鏡的手技が難しいために膵管の拡張を得られなかった」という成績は重要である。わが国の診療現場においても、種々の内視鏡的治療成績は技術的な施設間や術者間の格差に大きく影響されることが明白であり、今後、内視鏡的手術などの一定以上の専門技術を要する手技の有用性を検討する場合に、「施設間・術者間の技術格差」因子を加味する方法を考慮しなければならない場合もあると思われた。

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クローン病〔CD : Crohn’s disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義クローン病(Crohn’s disease: CD)は消化管の慢性肉芽腫性炎症性疾患であり、発症原因は不明であるが、免疫異常などの関与が考えられる。小腸、大腸を中心に浮腫や潰瘍を認め、腸管狭窄や瘻孔など特徴的な病態を生じる。■ 疫学主として若年者(10代後半~30代前半)に好発する。年々増加傾向にあり、わが国のCDの有病率は最近15年間で約4倍に増加、患者数4万人以上と推測され、日本では1.8:1.0の比率で男性に多い。現在も増加していると考えられる。■ 病因原因はいまだ不明であるが、遺伝的素因と食事などの環境因子の両者が関与し、消化管局所の免疫学的異常により、慢性の肉芽腫性炎症が持続する多因子疾患である。喫煙が増悪因子とされている。ほかに長鎖脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、精製糖質の過剰摂取などが増悪因子として想定されている。■ 症状主症状は腹痛(70%)、下痢(80%)、体重減少・発熱(40~70%)である。肛門病変はCD患者の半数以上にみられ、先行する場合も多い(36~81%)。検査値の異常として、炎症所見(白血球数、CRP、血小板数、赤沈)の上昇、低栄養(血清総蛋白、アルブミン、総コレステロール値の低下)、貧血を示す。■ 分類正しい治療を考える上で、病変部位、疾患パターン、活動度・重症度の把握が重要である。病変部位は小腸型、小腸大腸型、大腸型の3つに大きく分類される。日本では小腸型20%、小腸大腸型50%、大腸型30%とされている。疾患パターンとして炎症型、狭窄型、瘻孔形成型の3通りに分類することが国際的に提唱されている。さらに疾患活動性として、症状が軽微もしくは消失する寛解期と、症状のある活動期に分けられる。重症度を客観的に評価するために、CD活動指数CDAI(表1)、IOIBDなどがあるが、日常診療に適した重症度分類は現在のところまだないため、患者の自覚症状、臨床所見、検査所見から総合的に評価する。画像を拡大する■ 予後CDは再燃、寛解を繰り返し慢性に経過する疾患である。病初期は消化管の炎症が中心であるが、徐々に狭窄型・瘻孔型へ移行し、手術が必要となる症例が多い。2000年に提唱されたCDの分類法であるモントリオール分類(表2)では発症時年齢、罹患範囲、病気の性質により分類されている。病型や病態は罹患期間により比率が変化し、Cosnes氏らは診断時に炎症型が85%であっても、20年後には88%が狭窄型から瘻孔型へ移行すると報告している 。累積手術率は発症後経過年数とともに上昇し、生涯手術率は80%以上になるという報告もある。海外での累積手術率は10年で34~71%である。わが国の累積手術率も、10年で70.8%、初回手術後の5年再手術率は16~43%、10年で26~67%と報告されている。とくに瘻孔型では手術率、術後再発率とも高くなっている。死亡率に関しては、Caravanらのメタ解析によるとCDの標準化死亡率は1.5(1.3~1.7)と算出されている。死亡率は過去30年で減少傾向にあるが、CDの死亡率比は一般住民よりやや高いとの報告がある。わが国では、やや高いとする報告と変わらないとする報告があり、死亡因子としては肝胆道疾患、消化管がん、肺がんが挙げられている。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準厚生労働省の診断基準(表3)に沿って診断を行う。2018年に改訂した診断基準(案) ではCDAI(Crohn’s disease activitiy index)や合併症、炎症所見、治療反応に基づくECCO(European Crohn’s and colitis organisation )(表4)の分類に準じた重症度分類(軽症、中等症、重症)が記載されている。画像を拡大する■ 診断の実際若年者に、主症状である腹痛(70%)、下痢(80%)、体重減少・発熱(40~70%)が続いた場合CDを念頭に置く。肛門病変はCD患者の半数以上にみられ、先行する場合も多い(36~81%)。血液検査にて炎症所見、低栄養、貧血がみられたら、CDを疑い終末回腸を含めた下部消化管内視鏡検査および生検を行う。診断基準に含まれる特徴的な所見および生検組織にて、非乾酪性類上皮肉芽腫が検出されれば診断が確定できる。病変の範囲、治療方針決定のためにも、上部消化管内視鏡検査、小腸X線造影検査を行うべきである。CDと鑑別を要する疾患として、腸結核、腸型ベーチェット病、単純性潰瘍、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)潰瘍、感染性腸炎、虚血性腸炎、潰瘍性大腸炎などがあるため、服薬歴の確認・便培養・ツベルクリン反応およびクォンティフェロン(QFT)、病理組織検査を確認する。診断のフローチャートを図に示す。画像を拡大する1)画像検査所見(1)下部消化管内視鏡検査、小腸バルーン内視鏡検査検査前に、問診やX線にて強い狭窄症状がないか確認する。60~80%の患者では大腸と終末回腸が罹患する。病変は非連続性または区域性に分布し、偏側性で介在部はほぼ正常である。活動性病変として、縦走潰瘍と敷石像が特徴的な所見である。小病変としてはアフタや不整形潰瘍が認められる。(2)上部消化管内視鏡検査胃では、胃体上部小弯側の竹の節状外観、前庭部のたこいぼびらん・不整形潰瘍が認められる。十二指腸では、球部と下行脚に好発し、多発アフタ、不整形潰瘍、ノッチ様陥凹、結節状隆起が認められる。(3)消化管造影検査(X線検査)病変の大きさや分布、狭窄の程度、瘻孔の有無について簡単に検査ができる。所見の特徴は、縦走潰瘍、敷石像、非連続性病変、瘻孔、非対称性狭窄(偏側性変形)、裂孔、および多発するアフタがある。(4)その他近年、機器の性能向上および撮影技法の開発により、超音波検査、CT、MRIにより腸管自体を詳細に描出することが可能となった。小腸病変の診断に、経口造影剤で腸管内を満たし、造影CT検査を行うCT enterography(CTE)や、MRI撮影を行うMR enterography(MRE)が欧米では広く用いられており、わが国の一部の医療施設でも用いられている。撮影法の工夫により大腸も同時に評価ができるMR enterocolonography(MREC)も一部の施設では行われており、検査が標準化されれば、繰り返し行う場合も侵襲が少なく、内視鏡が到達できない腸管の評価にも有用と考えられる。2)病理検査所見CDには病理診断上、絶対的な基準となるものがなく、種々の所見を組み合わせて診断する。生検診断をするにあたっては、その有無を多数の生検標本で連続切片を作成し検討する。組織学的所見として重要なものは(1)全層性炎症像、(2)非乾酪性類上皮肉芽腫の検出、(3)裂溝、(4)潰瘍である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)CDは発症原因が不明であり、経過中に寛解と再燃を繰り返すことが多い。CDの根治的治療法は現時点ではないため、治療の目標は病勢をコントロールし、炎症を繰り返すことによる患者のQOL低下を予防することにある。そのため薬物療法、栄養療法、外科療法を組み合わせて症状を抑えるとともに、栄養状態を維持し、炎症の再燃や術後の再発を予防することが重要である。■ 内科治療(主に薬物治療として)活動期の治療と寛解期の治療に大別される。活動期CDの治療方針は、疾患の重症度、病変範囲、合併症の有無、患者の社会的背景を考慮して決定する。初発のCDでは、診断および病変範囲、重症度の確定と疾患に関する教育や総合的指導のため、専門医にコンサルトすることが望ましい。また、ステロイド依存や免疫調節薬の投与経験がない場合においても、生物学的製剤の投与に関しては専門医にコンサルトすべきである。わが国における平成30年度 CD治療指針、および各治療法の位置づけ(表5)を示す。画像を拡大する1)5-ASA製剤CDに適応があるのはメサラジン(商品名:ペンタサ)、サラゾスルファピリジン(同:サラゾピリン)の経口薬である。治療指針においては軽症~中等症の活動期の治療、寛解維持療法、術後再発予防のための治療薬として推奨されている。CDの寛解導入効果および寛解維持効果は限定的であるが有害性は低い。腸の病変部に直接作用し炎症を抑えるため、製剤の選択には薬剤の放出機序に注意して病変範囲によって決める必要がある。2)ステロイド(GS)5-ASA製剤無効例、全身症状を有する中等症以上の症例で寛解導入に有効である。関節症状、皮膚症状、眼症状などの腸管外合併症を有する場合や、発熱、CRP高値などの全身症状が著明な場合は、最初からステロイドを使用する。寛解維持効果はないため、副作用の面からも長期投与は避けるべきである。ステロイド依存となった場合は、少量の免疫調節薬(アザチオプリン〔AZA〕、6-メルカプトプリン〔6-MP〕)を併用し、ステロイドからの離脱を図る。軽症あるいは中等症例の回盲部病変の寛解導入には、全身性副作用を軽減し局所に作用するブデソニド(同:ゼンタコート)9mg/日の投与が有効である。3)免疫調節薬(AZA、6-MPなど)免疫調節薬として、AZA(同:イムラン、アザニン)、6-MP(同:ロイケリン)が主なものであり、AZAのみ保険適用となっている。AZAと6-MPは寛解導入、寛解維持に有効であり、ステロイド減量効果を有する。欧米の使用量はAZA 2.0~3.0mg/kg/日、6-MP 50mg/日または1.5mg/kg/日であるが、日本人は代謝酵素の問題から用量依存性の副作用が生じやすく、欧米より少量のAZA(50~100mg/日)、6-MP(20~50mg/日)が投与されることが多い。チオプリン製剤の副作用の中で、服用開始後早期に発現する重度の急性白血球減少と全脱毛がNUDT15遺伝子多型と関連することが明らかとされている。2019年2月よりNUDT15遺伝子多型検査が保険適用となっており、初回チオプリン製剤治療前には本検査を施行し、表6に従ってチオプリン製剤の適応を判断することが推奨される。AZA/6-MPの効果発現は緩徐で2~3ヵ月かかることが多いが、長期に安定した効果が期待できる。適応としてステロイド減量効果、難治例の寛解維持目的、瘻孔病変、術後再燃予防、抗TNF-α抗体製剤を使用する際の相乗効果があげられる。画像を拡大する4)抗体製剤(1)抗TNF-α抗体製剤わが国ではインフリキシマブ(同:レミケード)、アダリムマブ(同:ヒュミラ)が保険適用となっている。抗TNF-α抗体製剤は、CDの寛解導入、寛解維持に有効で外瘻閉鎖維持効果を有する。適応として、中等症~重症のステロイド・栄養療法が無効な症例、重症例で膿瘍や狭窄がない治療抵抗例、抗TNF-α抗体製剤で寛解導入された症例の寛解維持療法、膿瘍がコントロールされた肛門病変が挙げられる。早期に免疫調節薬と併用での導入が治療成績がよいとの報告があるが、副作用と医療費の問題もあり、全例導入は避けるべきである。早期導入を進める症例として、肛門病変を有する症例、穿孔型の症例、若年発症が挙げられる。(2)抗IL12/23p40抗体製剤2017年5月より中等症から重症の寛解導入および維持療法としてウステキヌマブ (同:ステラーラ)が使用可能となっている。導入時のみ点滴静注(体重あたり、55kg以下260㎎、55kgを超えて85kg以下390㎎、85kgを超える場合520㎎)、その後は12週間隔の皮下注射もしくは活動性が高い場合は8週間隔の皮下注射であり、投与間隔が長くてもよいという特徴がある。また、安全性が高いことも特徴である。腸管ダメージの進行があまりない炎症期の症例に有効との報告がある。肛門病変への効果については、まだ統一見解は得られていない。(3)抗α4β7インテグリン抗体製剤2018年11月より中等症から重症の寛解導入および維持療法としてベドリズマブ (同:エンタイビオ)が使用可能となっている。インフリキシマブ同様0週、2週、6週で投与後維持療法として8週間隔の点滴静注 (30分/回)を行う。抗TNF-α抗体製剤failure症例よりもnaive症例で寛解導入および維持効果を示した報告が多い。日本での長期効果の報告に関してはまだ症例数も少なく、今後のデータ集積が必要である。5)栄養療法活動期には腸管の安静を図りつつ、栄養状態を改善するために、低脂肪・低残渣・低刺激・高蛋白・高カロリー食を基本とする。糖質・脂質の多い食事は危険因子とされている。「クローン病診療ガイドライン(2011年)」では、栄養療法はステロイドとともに主として中等症以上が適応となり 、痔瘻や狭窄などの腸管合併症には無効である。1日30kcal/kg以上の成分栄養療法の継続が再発防止に有効であるが、長期にわたる成分栄養療法の継続はアドヒアランスの問題から困難であることも少なくない。総摂取カロリーの半分を成分栄養剤で摂取すれば、寛解維持に有効であることが示されており、1日900kcal以上を摂取するhalf EDが目標となっている。6)抗菌薬メトロニダゾール、シプロフロキサシンなどの抗菌薬は中等度~重症の活動期の治療薬として、肛門部病変の治療薬として有効性が示されている。病変部位別の比較では小腸病変より大腸病変に対して有効性が高いとされる。7)顆粒球・単球吸着療法(granulocyte/monocyte apheresis: GMA)2010年より大腸病変のあるCDに対しGMAが適応拡大となった。GMAは単独治療の適応はなく、既存治療の有効性が乏しい場合に併用療法として考慮すべきである。施行回数は週1回×5回を1クールとして、最大2クールまで施行する。8)内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilatation: EBD)CDは、経過中に高い確率で外科手術を要する疾患であり、手術適応の半数以上は腸管狭窄である。EBDは手術回避の目的として行われる内視鏡的治療であり、治療指針にも取り上げられている。適応としては、腸閉塞症状を伴う比較的短く(3cm以下)屈曲が少ない良性狭窄で、深い潰瘍や瘻孔を伴わないものである。適応外としては、細径内視鏡が通過する程度の狭窄、強度に屈曲した狭窄、長い狭窄、瘻孔合併例、炎症や潰瘍が合併している狭窄である。■ 外科的治療CDの外科的治療は内科的治療で改善しない病変のみに対して行い、QOLの改善が目的である。腸管病変に対する手術では、原則として切除をなるべく小範囲とし、小腸病変に対しては可能な症例では狭窄形成術を行い、腸管はなるべく温存する。5年再手術率16~43%、10年で32~76%と高く、可能な症例では腹腔鏡下手術が有効である。緊急手術、穿孔、広範囲膿瘍形成、複数回の開腹手術既往、腸管外多臓器への複雑な瘻孔などは開腹手術が選択される。厚生労働省研究班治療指針によるCDの手術適応は表7の通りである。完全な腸閉塞、穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症は緊急に手術を行う。狭窄病変については、活動性病変は内科治療、線維性狭窄で口側拡張の著しいもの、短い範囲に多発するもの、狭窄の範囲が長いもの、瘻孔を伴うもの、狭窄症状を繰り返すものは手術適応となる。肛門病変は、難治性で再発を繰り返す痔瘻・膿瘍が外科的治療の対象となる。治療として、痔瘻根治術、シートン法ドレナージ、人工肛門造設(一時的)、直腸切断術が選択される。治療の目標は症状の軽減と肛門機能の保持となる。画像を拡大する4 今後の展望現在、各種免疫を ターゲットとした治験が行われており、進行中の治験を以下に示す。グセルクマブ(商品名:トレムフィア):抗IL-23p19抗体(点滴静注および皮下注射製剤)Upadacitinib:JAK1阻害薬(経口)E6011:抗フラクタルカイン抗体(静注)Filgotinib:JAK1阻害薬(経口)BMS-986165:TYK2阻害療法(経口)5 主たる診療科消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究に関するサイト難病情報センター CD(一般利用者と医療従事者向けの情報)東京医科歯科大学消化器内科 「潰瘍性大腸炎・クローン病先端治療センター」(一般利用者向けの情報)JIMRO IBD情報(一般利用者と医療従事者向けの情報)患者会に関するサイトIBDネットワーク(IBD患者と家族向け)1)日比紀文 監修.クローン病 新しい診断と治療.診断と治療社; 2011.2)難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班プロジェクト研究グループ 日本消化器病学会クローン病診療ガイドライン作成委員会・評価委員会.クローン病診療ガイドライン: 2011.3)NPO法人日本炎症性腸疾患協会(CCFJ)編.潰瘍性大腸炎の診療ガイド. 第2版.文光堂; 2011.4)日比紀文.炎症性腸疾患.医学書院; 2010.5)渡辺守.IBD(炎症性腸疾患を究める). メジカルビュー; 2011.公開履歴初回2013年04月11日更新2020年03月09日

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若年性特発性関節炎〔JIA:juvenile idiopathic arthritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義若年性特発性関節炎(juvenile idiopathic arthritis:JIA)は、滑膜炎による関節の炎症が長期間繰り返す結果、関節軟骨および骨破壊が進行し関節拘縮や障害を引き起こすいまだ原因不明の慢性の炎症性疾患であり、小児期リウマチ性疾患の中で最も頻度が多い。「16歳未満で発症し、6週間以上持続する原因不明の関節炎で、他の病因によるものを除外したもの」と定義されている1)(表)。表 JIAの分類基準(ILAR分類表、2001、Edmonton改訂)画像を拡大する■ 疫学本疾患の頻度は、わが国では海外の報告と同程度の小児人口10万人対10〜15人といわれ、関節リウマチの1/50~1/100程度である。■ 病因、発症病理各病型により病態が大きく異なることが知られている。全身型は、自己免疫よりも自己炎症の要素が強い。関節型に包含される少関節型やリウマトイド因子(rheumatoid factor:RF)陽性多関節型は、自己抗体の頻度が高く液性免疫の関与が強い。RF陰性多関節型や腱付着部炎関連型ではHLA遺伝子多型の関与が示されている。いずれも活性化したT細胞やマクロファージが病態に深く関わっていると推測されている。また、家族歴が参考となる病型を除き、通常家族性発症は認めない。近年、炎症のメカニズムについての知見が集積し、関節炎の炎症病態形成における炎症性サイトカインの関与が認識されるようになった。全身型ではインターロイキン(interleukin:IL)-1βとIL-6が、関節型では腫瘍壊死因子(tumornecrosis factor:TNF)-α、IL-1β、IL-6のいずれもが、炎症の惹起・維持に主要な役割を果たしている。現在治療として重要な地位を占める生物学的製剤の臨床応用が、全身炎症と関節炎症における個々のサイトカインの役割について重要な示唆を与えている。■ 症状1)全身型発熱、関節痛・関節腫脹、リウマトイド疹、筋肉痛や咽頭痛などの症状を呈する。3割は発症時に関節症状を欠く。マクロファージ活性化症候群(macrophage activation syndrome:MAS)(8%)、播種性血管内凝固症候群(5%)などの重篤な合併症に注意を要する。2)関節型(1)少関節型関節痛・関節腫脹、可動域制限、朝のこわばりなどに加え、ぶどう膜炎の合併が見られる。少関節型に伴うぶどう膜炎は女児、抗核抗体(antinuclear antibody:ANA)陽性例に多く無症候性で前部に起こり、放置すれば失明率が高い(15~20%)。5〜10年の経過では、3割が無治療、5割が無症状であった。ぶどう膜炎は10〜20%に認め、関節炎発症後5年以内に発病することが多い。関節機能は正常~軽度障害が98%で、最も関節予後はよい。(2)多関節型(RF陰性)関節痛・関節腫脹、可動域制限、朝のこわばりに加え、4割で発熱を認める。5〜10年の経過では、3割が無治療で4割が無症状であった。関節可動域制限や変形を認める例があるものの、95%が関節機能正常~軽度障害と、少関節型に次いで関節予後はよい。(3)多関節型(RF陽性)この病型は関節リウマチに近い病態である。関節痛・関節腫脹・可動域制限・朝のこわばりが著明で、初期にすでに変形を来たしている例もある。皮下結節は2.5%と欧米の報告(30%)に比べ少ない。5〜10年の経過では、無治療はわずか8%で、無症状は3割とほとんどの患者が治療継続し、症状も持続していた。可動域制限を7割、変形を2割で認め、16%に中等度~重度の関節機能障害を認める。■ 分類疾患は、原因不明の慢性関節炎を網羅するため7病型に分けられているが、病型ごとの頻度は図1に示した通りである2)。ここでは、わが国の小児リウマチ診療の実情に合わせ、本疾患群を病態の異なる「全身型」(弛張熱、発疹、関節症状などの全身症状を主徴とし、症候の1つとして慢性関節炎を生じる)、「関節型」(関節炎が病態の中心となり、関節滑膜の炎症による関節の腫脹・破壊・変形を引き起こし機能不全に陥る)の2群に大別して考えていくことにする。また、乾癬や潰瘍性大腸炎などに併発して、二次的に慢性関節炎を呈するものは「症候性」と別に分類する。図1 JIA発症病型の割合画像を拡大する■ 予後全身型、関節型JIAとも、生物学的製剤が出現する以前は全患者の75%に程度の差はあるが身体機能障害が存在していたものの、普及した後は頻度が明らかに減少した。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)日本小児リウマチ学会と日本リウマチ学会は、共同でJIAの適切な診断と標単的な治療について、わが国の一般小児診療に関わる医師のために「初期診療の手引き2015年版」3)を作成しているので、詳細は成書にてご確認願いたい。1)全身型JIA全身型JIAではIL-6とIL-6受容体が病態形成の核となっていることが判明しており、高サイトカイン血症を呈する代表的疾患である。症状としては、とくに弛張熱が特徴的で、毎日あるいは2日毎に定まった時間帯に38~40℃に及ぶ発熱が生じ、数時間すると発汗とともに解熱する。発熱時は体全体にリウマトイド疹という発疹が出現し、倦怠感が強く認められる。本病型は、敗血症、悪性腫瘍、特殊な感染症あるいは感染症に対するアレルギー性反応などを除外した上で診断される。検査所見では、左方移動を伴わない好中球優位(全分画の80~90%以上)の白血球数の著増を認め、血小板増多、貧血の進行などが特徴である。赤血球沈降速度(erythrocyte sedimentation rate:ESR)、CRP値、血清アミロイドA値が高値となる。凝固線溶系の亢進があり、D-ダイマーなどが高値となる。炎症が数ヵ月以上にわたり慢性化すると、血清IgG値も高値となる。フェリチン値の著増例では、MASへの移行に注意が必要である。IL-6/IL-6Rの他に、IL-18も病態形成に重要であることが判明しており、血清IL-18値の著増も特徴的である。関節炎の診断には前述の通り、血清MMP-3値が有用である。鑑別診断として、深部膿瘍や腫瘍性病変が挙げられるが、これらの疾患に対して通常治療薬として使用するグルココルチコイド(glucocorticoid:GC)は疾患活動性を修飾し原疾患の悪化などを来す可能性がある。これらの鑑別のため、画像検査としては18F-FDG-positron emission tomography(PET)やガリウムシンチグラフィーが有用である。全身炎症の強く生じている全身型の急性期には骨髄(脊椎、骨盤、長管骨など)や脾臓への集積が目立つことが多い。2)関節型JIA関節炎が長期に及ぶと関節の変形(骨びらん、関節脱臼/亜脱臼、骨性強直)や成長障害が出現し、患児のQOLは著しく障害される。また、関節変形による変形性関節症様の病態が出現することもある。少関節炎では下肢の関節が罹患しやすく、多関節炎では左右対称に大関節・小関節全体に見られる。関節炎症の詳細な臨床的把握(四肢・顎関節計70関節+頸椎関節の診察)、血液検査による炎症所見の評価(赤沈値、CRP)、血清反応による関節炎の評価(MMP-3、ヒアルロン酸、FDP-E)、病型の判断(RF、ANA)を行う。また、抗CCP抗体は関節型で特異的に検出されるため、診断的意義と予後推定に有用である。関節部位の単純X線検査では、発症後数ヵ月の間は一般的には異常所見は得られないため、有意な所見がなくても本症を否定できない。関節炎が長期間持続した例では、X線検査で関節裂隙の狭小化や骨の辺縁不整などを認める。また、罹患関節の造影MRIにより、関節滑液の貯留と増殖性滑膜炎の存在を確認することも重要である。関節の炎症を検出し得る検査法として、MRIに加え超音波検査が有用である。ただし、発達段階の小児の画像評価を行う際は、成人と異なり、関節軟骨の厚さや不完全骨化に多様性があるため注意して評価する。鑑別疾患として、感染性関節炎、他の膠原病に伴う関節炎、整形外科的疾患(とくに十字靭帯障害)、小児白血病が挙げられる。外来診療で多いのは「成長痛」で、夕方から夜にかけて膝や足関節の痛みを訴えるところがJIAとの相違点である。関節型では関節炎が診察により明確に認められる対称性関節炎であり、関節症状は早朝から午前中に悪化する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 全身型(図2)図2 全身型に対する治療画像を拡大する1)初期対応全身型JIAにおいて非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)で対応が可能な例は確かに存在するが一部の症例に限られる。したがってGCが全身型JIA治療の中心であるが、これまでしばしば大量GCが漫然と長期にわたり投薬されたり、種々の免疫抑制薬も併用され続けたが不応である患児、MASへ病態移行した患児などを診療する機会も多く見受けられた。NSAIDs不応例にはプレドニゾロン(prednisolone:PSL)1~2mg/kg/日が適用される。メチルプレドニゾロン・パルス療法を行い、後療法としてPSL0.5~0.7mg/kg/日を用いると入院期間の著しい短縮に繋がる場合もある。免疫抑制薬としてシクロスポリン、メトトレキサート(methotrexate:MTX)が加えられることもあるが、少なくとも単独で活動期にある全身型の炎症抑制はできず、また併用効果も疑問である。また、関節炎に対しMTXの効果が期待されるが、一般に有効ではない。このことは、関節型JIAと全身型JIAとでは関節炎発症の機序が異なることを示唆している。本病型は、基本的には大量GCだけが炎症抑制効果をもつと考えられてきた。GCは他の薬剤と異なり、副腎という器官が生成する生理的活性物質そのものである。GCの薬理作用はすでに身体に備わっている受容体、細胞内代謝機構などを介して発現するので、一定量投与の後に減量に入ると、安定していたこれらの生体内機構の機能縮小が過剰に生じるため、直ちに再燃が起こることがある。したがってGCの減量はごく微量ずつ漸減するのが原則となる。2)生物学的製剤(抗IL-6レセプター抗体:トシリズマブ〔商品名:アクテムラ〕)の投与難治性JIAの場合、以下の条件を満たしたら、速やかに専門医に相談し、トシリズマブ(tocilizumab:TCZ)の投与を検討すべきである。(1)治療経過でGCの減量が困難である場合(2)MASへの病態転換が考えられる場合(3)治療経過が思わしくなく、次の段階の治療を要すると判断された場合TCZによる全身型JIAに対する治療は、臨床治験を経てわが国で世界に先駆けて認可され、使用経験が増加することで、有効性が極めて高く、副作用は軽微である薬剤であることが現在判明している。エタネルセプトなどの抗TNF治療薬の散発的な報告によると効果は10~30%程度といわれている。また、IL-1レセプターアンタゴニストは本症に有効であるとの報告が海外であるが、わが国でもカナキヌマブ(同:イラリス)が臨床試験を経て2018年7月に適用を取得することができた。■ 関節型(図3)図3 関節型への治療画像を拡大する1)診断確定まで臨床所見、関節所見、検査所見から診断が確定するまで1~2週間は要する。この間、NSAIDsであるナプロキセン(同: ナイキサン)、イブプロフェン(同: ブルフェンほか)を用いる。鎮痛効果は得られることが多く、一部の例では関節炎そのものも鎮静化するが、鎮痛に成功しても炎症反応が持続していることが多く、2〜3週間の内服経過で炎症血液マーカーが正常化しない場合は、次のステップに移る。NSAIDsにより鎮痛および炎症反応の正常化がみられる例ではそのまま維持する。2)MTXを中心とした多剤併用療法RF陽性型、ANA陽性型およびRF/ANA陰性型のうち多関節型の症例は、できるだけ早くMTX少量パルス療法に切り替える。当初スタートしたNSAIDsの効果が不十分であると判断された場合にも、MTX少量パルス療法へ変更する。MTXの効果発現までには少なくとも8週間程度の期間が必要で、この期間を過ぎて効果が不十分と考えられた例では、嘔気や肝機能障害が許容範囲内であるならば、小児最大量(10mg/m2)まで増量を試みる。また、即効性を期待して治療の初めからPSL5~10mg/日を加える方法も行われている。この方法では効果の発現は2~4週間と比較的早い。MTX効果が認められる時期(4~8週間)になれば、PSLは漸減し、維持量(3~5mg/日)とする。PSLによる成長障害や骨粗鬆症などの副作用の心配は少なく、かえって炎症を充分に抑制するため骨・軟骨破壊は多くない。3)生物学的製剤治療前述のMTXを中核におく併用療法にても改善がみられない症例では、生物学的製剤の導入を図る。生物学的製剤の導入の時期は、MTX投与後3〜6ヵ月が適当で、以下の場合が該当する。(1)「初期診療の手引き」に沿って3ヵ月間以上治療を行っても、関節炎をはじめとする臨床症状および血液炎症所見に改善がなく治療が奏効しない場合(2)MTX少量パルス療法およびその併用療法によってもGCの減量が困難またはステロイド依存状態にあると考えられる場合(3)MTX基準量にても忍容性不良(嘔気、肝機能障害など)である場合わが国では2008年にヒト化抗IL-6レセプター抗体トシリズマブ、2009年にはTNF結合蛋白であるエタネルセプト(同:同名)、2011年にはヒト化TNF抗体アダリムマブ(同:ヒュミラ)に加え、2018年にはCD28共刺激シグナル阻害薬アパタセプト(同: オレンシア)がいずれも臨床試験の優れた安全性および有効性の結果をもって、関節型JIAの症例に対して適応拡大を取得した。安全性についても、重篤な副作用はいずれの薬剤についてもみられていない。4 今後の展望上述の通り、わが国では、JIA治療に関わる生物学的製剤(全身型:トシリズマブ、カナキヌマブ、関節型:エタネルセプト、アダリムマブ、トシリズマブ、アバタセプト)が適用を取得したことで、小児リウマチ診療は大きく変貌し、“CARE”から“CURE”の時代が到来したと、多くの診療医が実感できるようになっている。今後もさまざまな生物学的製剤の開発が予定されており、その薬剤の開発、承認および臨床現場への早期実用化を目指すために、わが国での小児リウマチ薬の開発から承認までの問題点を可視化し、将来に向けての提案を行っている。5 主たる診療科小児科、(膠原病リウマチ内科、整形外科)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本小児リウマチ学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本リウマチ学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター 若年性特発性関節炎(一般利用者向けと医療従事者向けの公費助成などのまとまった情報)難病情報センター 若年性特発性関節炎(一般利用者向けと医療従事者向けの公費助成などのまとまった情報)患者会情報若年性特発性関節炎(JIA)親の会「あすなろ会」(患者とその家族および支援者の会)1)Fink CW. J Rheumatol. 1995;22:1566-1569.2)武井修治. 小児慢性特定疾患治療研究事業を利活用した若年性特発性関節炎JIAの二次調査.小児慢性特定疾患治療研究事業.平成19年度総括・分担研究報告書. 2008;102~113.3)日本リウマチ学会小児リウマチ調査検討小委員会. 若年性特発性関節炎初期診療の手引き(2015年). メデイカルレビュー社:2015.公開履歴初回2020年03月09日

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第32回 血管拡張薬による頭痛、潰瘍はどれくらいの頻度で生じるのか【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 血管拡張薬による薬剤誘発性頭痛は比較的よく知られている副作用で、私も患者さんから強度の頭痛について相談されたことが何度もあります。NSAIDsを併用することもありますが、効果が不十分なケースもあるため対応に困ることがありました。今回は、血管拡張薬の中でも特徴的な作用を持つニコランジルについて紹介します。頭痛のため9人中1人は脱落ニコランジルを用いた長期のプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験として、5,126例(平均年齢67歳)を組み入れて、平均1.6年追跡したIONA試験があります1)。これはニコランジル唯一の大規模ランダム化試験で、組み入れ基準は、男性は45歳以上、女性は55歳以上、心筋梗塞、冠動脈バイパス術の既往または過去2年間の運動負荷試験陽性例で、次のリスク因子のうち少なくとも1つを有する被験者でした。条件:心電図による左室肥大、EF≦45%、拡張終期径>55mm、糖尿病、高血圧、その他の血管疾患薬局では、心臓カテーテル治療によりステントを留置している患者さんの対応も多いと思いますが、この試験の対象ではないことに注意が必要です。介入群はニコランジル10mg×2回/日を2週間服用後、20mg×2回/日に増量した2,565例で、比較対象はプラセボ服用の2,561例でした。いずれの群もベースラインで他の標準療法(抗血小板薬、β遮断薬、Ca拮抗薬、スタチンおよびACE阻害薬)を受けています。主解析項目は、冠動脈心疾患死、非致死性心筋梗塞、胸痛による緊急入院の複合エンドポイントで、ニコランジル群337例(13.1%)、プラセボ群398例(15.5%)で、ハザード比:0.83、95%信頼区間[CI]:0.72~0.97、p=0.014でした。NNTは100/(15.5-13.1)≒42ですので、複合エンドポイントでは有意差が出ています。しかし、中に入っている各イベント自体は同列に扱えるものではないことに留意が必要です。二次解析項目では、冠動脈性心疾患死および非致死性心筋梗塞を見ています。こちらはニコランジル群107例(4.2%)に対してプラセボ群134例(5.2%)で、ハザード比:0.79、95%CI:0.61~1.02、p=0.068と有意差はありませんでした。総死亡はハザード比:0.85、95%CI:0.66~1.10と減少傾向であるものの、こちらも有意差はありませんでした。頭痛による脱落は、プラセボ群の81例(3.1%)に対して、ニコランジル群では364例(14.2%)ですので、9人服用すれば1人が頭痛で脱落するという計算になります。本研究に限った話ではないのですが、このように副作用の頻度に偏りが大きいと事実上盲検化が維持できないケースもあります。高用量であるほど潰瘍が早期にできて治りにくい添付文書に頻度不明の副作用として記載がある潰瘍の頻度については、IONA試験の各種コホート研究およびIONA試験の著者から収集した未公表データを含めたシステマティックレビューが2016年に発表されています2)。ここでは、Kチャネル開口作用を持つニコランジルに特徴的な潰瘍について紹介されています。同文献によれば、口腔潰瘍は被験者の0.2%で発症し、肛門潰瘍は0.07~0.37%で発症するとされています。口腔潰瘍を発症するまでの期間は、30mg/日未満群では74週間であるのに対し、高用量群では7.5週間(p=0.47)と用量依存性がありました。また、用量と潰瘍治癒時間にも有意な相関関係がみられています。重症の場合は医師と相談のうえで中止されることがあるため、口内炎が悪化するようなら報告を求めるよう伝える必要があります。実際に口腔内や舌に生じた潰瘍の症例報告の文献がありますが3)、ニコランジルを中止後4週間前後で治癒しています。まれな副作用ではありますが、同文献内に症例写真が掲載されていますので、ご覧いただきイメージをつかむとよいと思います。1)IONA Study Group. Lancet. 2002;359:1269-1275.2)Pisano U, et al. Adv Ther. 2016;33:320-344.3)Webster K, et al. Br Dent J. 2005;198:619-621.

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第14回 高齢糖尿病患者の動脈硬化、介入や治療強化のタイミングは?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第14回 高齢糖尿病患者の動脈硬化、介入や治療強化のタイミングは?Q1 ABIだけで十分? それとも他の検査も行うべき?頸動脈エコーや足関節上腕血圧比(ABI)は簡便であり、後述の通り冠動脈スクリーニングの意味もあるので、糖尿病の患者であれば一度は行っておくとよいと思います。頸動脈狭窄やABI低下はいずれも冠動脈疾患とよく合併します1)。頸動脈内膜剥離術(CEA)を行った頸動脈狭窄症例での冠動脈疾患合併は約40%みられるとの報告があります2)。ABI低下がなくても無症候頸動脈狭窄と冠動脈狭窄を呈する症例もあるので、やはり頸動脈エコーは行っておくべきでしょう。また頸動脈エコーを行うとQ2で述べる不安定プラークの有無を知ることができるので有意義です。Q2 頚動脈エコーの結果と治療法選択の判断について教えてくださいIMT肥厚がその後の心血管疾患の発症予測に使えることが知られていますが、軽度のIMT肥厚は糖尿病患者では高頻度で認められるため、これらの患者においては一般的な動脈硬化のリスク因子の介入を行っています。すなわち、禁煙の他、適切な血糖・血圧・脂質のコントロールです。この段階での抗血小板薬の投与は行いません。高度の肥厚があるものについては、冠動脈病変をスクリーニングしています(後述)。無症候頸動脈狭窄の患者への抗血小板薬の投与で、脳梗塞一次予防の介入エビデンスはありません。しかし観察研究では、≧50%あるいは≧70%狭窄のある患者で抗血小板薬投与が同側の脳卒中発症抑制に関連したという報告があり、2015年の脳卒中ガイドラインでも、中等度以上の無症候頸動脈狭窄では他の心血管疾患の併存や出血性合併症のリスクなどを総合的に評価した上で、必要に応じて抗血小板療法を考慮してよいとしています3)。われわれもこれに準じ、通常50%以上(NASCET法)の狭窄例では抗血小板薬を投与していることが多いです。一方、無症候頸動脈狭窄や高度のIMT肥厚は冠動脈疾患を合併していることが多いので、これらの症例では通常の12誘導心電図だけでなく、一度循環器内科を紹介し、心エコーの他、冠動脈CTや心筋シンチグラムなどを考慮しています(高齢者ではトレッドミルテストが困難なことが多いため)。2型糖尿病患者で冠動脈インターベンションやバイパス術を必要とするような、高度な冠動脈病変を伴う患者を検出するために適正なIMT最大値(Max IMT)のカットオフ値としては2.45mmという報告があり、参考になると思います4)。冠動脈病変が疑われれば、抗血小板薬(アスピリンやクロピドグレル)を投与する意義はさらに大きくなります。抗血小板薬による消化管出血リスクは年齢リスクとともに増加し、日本人では海外の報告より高いといわれます。胃十二指腸潰瘍の既往があるものや、NSAIDs投与中の患者ではとくに消化管出血に注意を払わなければなりません。冠動脈疾患をともなわない無症候頸動脈狭窄でとくに出血リスクが高いと考えられる症例には、患者に説明のうえ投与を行わないこともあります。あるいは出血リスクが低いといわれているシロスタゾールに変更することもありますが、頭痛や頻脈などの副作用がありえます。とくに頻脈には注意が必要で、うっ血性心不全患者には禁忌であり、冠動脈狭窄のある患者にも狭心症を起こすリスクがあることから慎重投与となっています。このため必ず冠動脈病変の評価を行ってから投与すべきと考えます。なお、すでに他の疾患で抗凝固薬を投与されているものでは、頸動脈狭窄に対しての抗血小板薬の投与は控えています。なお、無症候性の頸動脈狭窄が認知機能低下5)やフレイル6) に関連するという報告もみられます。これらの患者では認知機能やフレイルの評価を行っておくことが望ましいと考えられます。頚動脈エコー所見で低輝度のプラークは、粥腫に富んだ不安定プラークであり脳梗塞のリスクとなります7)。潰瘍形成や可動性のあるものもリスクが高いプラークです。このような不安定プラークが観察されれば、プラーク安定化作用のあるスタチンを積極的に投与しています。糖尿病治療薬については、頸動脈狭窄症のある患者に対し、とくに有効だというエビデンスをもつものはありません。SGLT2阻害薬は最近心血管イベントリスクを低下させるという報告がありますが、高齢者では脱水をきたすリスクがあるので、明らかな頸動脈狭窄症例には慎重に投与すべきと考えます。Q3 専門医への紹介のタイミングについて教えてください脳卒中ガイドラインでは高度無症候性狭窄の場合、CEAやその代替療法としての頸動脈ステント留置術(CAS)を考慮してよいとされています3)。脳神経外科に紹介し、手術になることは高齢者では少ないように思いますが、内科治療を十分行っていても狭窄が進展したり、不安定プラークが残存したりする症例などはCASを行うことが多くなっています。また、TIAなどの有症状症例で50%以上狭窄の症例では紹介しています。手術は高齢者のCEAやCASに熟練した施設で行うことが望まれます。最近、CEAやCASを行った症例において認知機能の改善が認められたという報告がみられており、エビデンスの蓄積が期待されます8)。末梢動脈疾患では跛行や安静時痛のある患者や、ABIの低下があり下肢造影CTを撮影して狭窄が疑われる場合に血管外科に紹介しています。腎機能が悪い患者については下肢動脈エコーや非造影MRAで代用することが多いですが、エコーは検査者の技量に左右されることが多く、またいずれの検査も造影CTよりは精度が劣ると考えられます。最近炭酸ガスを用い、造影剤を使用しない血管造影がありますが9) 、施行している施設は限られます。このような施設で検査を受けるか、透析導入のリスクを説明のうえ造影剤検査を行うか、しばらく内科治療で様子をみるかは、外科医と患者さんで相談のうえ、決めていただいています。 Q4 頚動脈エコー検査の頻度は? 何歳まで検査を行うべき?頚動脈エコーのフォロー間隔についてのエビデンスはありませんが、われわれは通常1年に1回フォローしています。無症候の頸動脈狭窄や不安定プラークが出現した場合、内科治療の強化や冠動脈のスクリーニングの検討が必要と考えますので、80~90代でも冠動脈インターベンションを行う今日では、このような高齢の方でも評価を行っています。IMTは年齢とともに健常者でも肥厚しますが、平均IMTは90歳代でも1mmを超えないという報告もあり10)、高度の肥厚は異常と考えます。また上述のように、無症候頸動脈狭窄に対して内科治療を十分行っていても病変が進展した際には、外科医に紹介する判断の一助となります。一方、頸動脈狭窄あるいは冠動脈CTで石灰化がある方でも、すでにしっかり内科的治療が行われており、かつ冠動脈検査やインターベンションの希望がない場合は検査の頻度は減らしてもよいかもしれません。 1)Kawarada O. et al. Circ J .2003;67; 1003-1006. 2)Shimada T et al. J Neurosurg. 2005;103: 593-596.3)日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン2015[追補2017対応].pp88-89.協和企画;2017.4)Irie Y, et al. Diabetes Care. 2013;36: 1327-1334.5)Dutra AP. Dement Neuropsychol. 2012;6:127-130.6)Newman AB, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001;56: M158–166.7)Polak JF, et al. Radiology. 1998;208: 649-654.8)Watanabe J, et al. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2017;26:1297-1305.9)Merz CN, et al. Angiology. 2016;67:875-881.10)Homma S, et al. Stroke. 2001; 32: 830-335, 2001.

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添付文書改訂:ベージニオ錠に安全性速報発出/抗コリン薬の禁忌が閉塞隅角緑内障に限定/トリプタンに薬物乱用頭痛に関する注意追加 ほか【下平博士のDIノート】第32回

ベージニオ錠に間質性肺疾患に関する安全性速報が発出画像を拡大する<Shimo's eyes>本剤は、これまでも重大な副作用として間質性肺疾患が報告されていましたが、市販直後調査中の2018年11月~2019年5月に本剤を使用した患者において、間質性肺疾患の重篤な症例が14例報告され、このうち3例が死亡に至ったことから、安全性速報(ブルーレター)1)が発出されました。今回、「警告」に下記の注意喚起が追加され、それに伴い「慎重投与」、「重要な基本的注意」、「重大な副作用」が改訂されました。【警告】間質性肺疾患があらわれ、死亡に至った症例も報告されているので、初期症状(呼吸困難、咳嗽、発熱等)の確認及び胸部X線検査の実施等、患者の状態を十分に観察すること。異常が認められた場合には、本剤の投与を中止し、必要に応じて、胸部CT、血清マーカー等の検査を実施するとともに、適切な処置を行うこと。本剤を服用する患者さんやご家族に対して、もし間質性肺疾患の初期症状(呼吸困難、咳嗽、発熱など)が発現した場合には、速やかに医師・薬剤師に連絡するようしっかりと伝える必要があります。抗コリン薬の禁忌が閉塞隅角緑内障に限定画像を拡大する<Shimo's eyes>これまで、多くの抗コリン作用を有する薬剤(抗コリン薬)は「緑内障」が禁忌であったため、本来安全性に懸念のある閉塞隅角緑内障患者のみならず、緑内障の95%を占める開放隅角緑内障患者にも使用できませんでした。そのため、開放隅角緑内障患者では、大きな影響がなくても使用できないという不利益や、疑義照会によって医療者の時間がとられることなどが問題となっていました。今回、薬事・食品衛生審議会で、抗コリン薬の添付文書の「禁忌」に記載されている緑内障にかかわる記載の変更が了承され、閉塞隅角緑内障のみが禁忌となりました2)。しかし、実際には患者自身が自身の緑内障のタイプを正確に把握していない場合も多く、今後の疑義照会の是非については、薬剤師側が難しい判断を迫られることになるかもしれません。今回の改訂の対象薬剤は、感冒薬、鎮痙薬、抗アレルギー薬、向精神薬、抗不整脈薬、パーキンソン病治療薬、AD/HD治療薬など多岐にわたりますが、眼科用製剤は含まれないことに留意しましょう。トリプタン系薬剤に薬物乱用頭痛に関する注意追加画像を拡大する<重要な基本的注意>トリプタン系薬剤により、頭痛が悪化することがあるので、頭痛の改善を認めない場合には、「薬剤の使用過多による頭痛」の可能性を考慮し、投与を中止するなど、適切な処置を行うこと。<Shimo's eyes>薬剤を過剰に使用することで起こる薬物乱用頭痛(MOH)は、緊張型頭痛、片頭痛に次いで3番目に多い頭痛といわれています。MOHの原因となる薬物には、トリプタン系薬剤以外にも、NSAIDsやエルゴタミン製剤などがありますが、トリプタン系薬剤は少ない服薬回数でMOHを発症する傾向があるとの報告があるため、今回の改訂3)に至ったと考えられます。片頭痛治療中の患者さんがMOHに陥らないために、頭痛治療薬の正しい服用タイミングや生活指導を含めた適切な服薬指導を心掛けましょう。メトホルミン含有製剤、重度の腎機能障害患者のみを禁忌へ画像を拡大する<Shimo's eyes>これまで、メトホルミン含有製剤について、乳酸アシドーシスに対するリスク回避の観点などから、1日最高投与量が2,250mgの製剤では「中等度以上」、1日最高投与量が750mgの製剤では「軽度~重度」の腎機能障害の患者に対して禁忌となっていました。今回の改訂4)では、海外の最新の科学的知見に基づいて使用制限が見直され、禁忌がeGFR30mL/min/1.73m2未満の重度腎機能障害の患者に限定されることとなりました。軽度~中等度の腎機能障害患者は「慎重投与」となり、eGFR値に応じた1日最高投与量の目安が添付文書に記載されています。製剤ごとに内容が異なるため、それぞれの薬剤の添付文書をしっかり確認しましょう。参考1)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 ベージニオ錠50mg/100mg/150mgによる重篤な間質性肺疾患について(安全性速報)2)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 抗コリン作用を有する薬剤における禁忌「緑内障」等に係る添付文書の「使用上の注意」改訂について(薬生安発0618)3)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 トリプタン系薬剤の「使用上の注意」の改訂について4)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 使用上の注意改訂情報(令和元年6月18日指示分)

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アナフィラキシーには周囲の理解が必要

 2019年8月21日、マイランEPD合同会社は、9月1日の「防災の日」を前に「災害時の食物アレルギー対策とは」をテーマにしたアナフィラキシー啓発のメディアセミナーを開催した。セミナーでは、アナフィラキシー症状についての講演のほか、患児の親の声も紹介された。アナフィラキシーの原因、小児は食物、成人は昆虫 セミナーでは、佐藤さくら氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター 病態総合研究部)を講師に迎え、「アナフィラキシーの基礎知識とガイドラインに基づく正しい治療法について」をテーマに講演を行った。 アナフィラキシーとは「短時間に全身に現れる激しい急性のアレルギー反応」とされ、その原因として抗菌薬やNSAIDsなどの医薬品、手術関連、ラテックス、昆虫、食物などがある。とくに小児では食物が本症の一番大きな誘因となる(65%)のに対し、成人では昆虫刺傷が一番大きな誘因となる(48%)というデータが欧州では報告されている1)。 日本アレルギー学会が行った「全国アナフィラキシー症例集積研究」(n=767、平均年齢6歳[3~21歳])によれば、本症の誘因は食物(68.1%)、医薬品(11.6%)、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA:5.2%)の順で多く、誘因が食物の場合、牛乳(21.5%)、鶏卵(19.7%)、小麦(12.5%)の順で発生があったと報告されている。また、アナフィラキシーショックによる死亡は毎年60例前後(多い年は70例超)が報告されている。必要ならば早くアドレナリン筋注を 診断として次の3項目のいずれかに該当すればアナフィラキシーと診断する。1)皮膚症状(全身の発疹、瘙痒または紅斑)または粘膜症状(口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)のいずれかが存在し、急速(数分~数時間以内)発現する症状で、かつ呼吸症状(呼吸困難、喘鳴など)、循環器症状(血圧低下、意識障害)の少なくとも1つを伴う2)一般的にアレルゲンとなりうるものへの曝露後、急速に(数分~数時間以内)発現する皮膚・粘膜症状(全身の発疹、瘙痒、紅潮、浮腫)、呼吸器症状(呼吸困難、喘鳴など)、循環器症状(血圧低下、意識障害)、持続する消化器症状(腹部疝痛、嘔吐)のうち、2つ以上を伴う3)当該患者におけるアレルゲンへの曝露後の急速な(数分~数時間以内)な血圧低下。具体的には、収縮期血圧の場合、平常時血圧の70%未満、または生後1~11ヵ月まで(<70mmHg)、1~10歳(<70mmHg+2×年齢)、11歳~成人(<90mmHg) 以上の診断のあとグレード1(軽症)、2(中等症)、3(重症)の重症度を評価2)し、それぞれのグレードに応じた治療が行われる。 グレード1(軽症)であれば抗ヒスタミン薬やβ2アドレナリン受容体刺激薬、ステロイド薬が選択されるが、即効性はない。グレード3(重症)ならアドレナリン筋肉注射(商品名:エピペンなど)の適応となる(ただしグレード2[中等症]でも過去に重篤な本症の既往がある、病状進行が激烈な場合、気管支拡張薬吸入で改善しない呼吸症状では適応となる)。 佐藤氏は、本症の診療では「初期対応が大切で、軽いうちから治療していくことが重要。エピペンの使用率が低く、使用に対する教育・啓発も必要」と説明を行った。災害時の食物アレルギーのリスクを最低限に抑えるために つぎに大規模災害とアナフィラキシーについて触れ、とくに食物アレルギー患者への対応が重要と指摘した。 災害時には、患者の誤食リスクの上昇、アレルギー対応食品の入手困難、症状発症時の治療薬不足、周囲の病気への理解不足などリスクが生じるため、さまざまな対応が必要となる。現在は、「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」(平成25年8月内閣府作成)などが決められ、避難所にはアルファ米や特別ミルクなどの備蓄と配給上の配慮などが決められている。その一方で、熊本地震でのアレルギー対応食への取り組みについて自治体に聞いたアンケートでは、「十分取り組まれていた」がわずか3.1%など現場への浸透に課題があることも紹介された。 災害時の食物によるアナフィラキシーへの備えとして、地域公的機関での備蓄、ネットワーク作り、病気への理解、アレルギー情報の携帯、発症時の対応、炊き出し原材料の確認、アレルギー表示の確認、自宅での備蓄が必要であり、こうした情報は「アレルギーポータル」などのwebサイト、自治体の各種配布物に記されている。おわりに「こうした媒体で医療者も患者もよく学び、病気への理解を深めることが大切」と語り、佐藤氏は講演を終えた。 続いて、患者会代表の田野 成美氏が、実子の闘病経験を語り、親の目の届かない学校生活での不安や周囲の理解不足による発症の危険性、氾濫する診療情報などの問題点を指摘した。■参考「アレルギーポータル」(日本アレルギー学会)「アナフィラキシーってなあに.jp」(マイランEPD合同会社)

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第27回 本当に高プリン体食は痛風の敵なのか【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 高尿酸血症や痛風の患者さんで、アルコールや肉・魚の内臓などプリン体を多く含む食品の摂取を制限されている方は多いと思います。プリン体は最終的に尿酸に代謝されるため、プリン体が多い食品を避けようというのはよく聞く話ですが、この摂取制限にどれほどの効果があるのでしょうか。プリン体制限食は尿中尿酸排泄を減らすと考えられていますが、プリン体は体内で生成される割合のほうが多いこともあり、尿酸値への影響は約1mg/dL程度と小さいことが知られています1)。さらに、尿酸値が多少高くても、必ずしも痛風発作が起こるわけではありません。無症候性高尿酸血症の結果を定量化するために、健康な男性2,046例を対象とした14.9年間にわたる追跡調査2)では、尿酸値と痛風発作の年間発症率の関係は下記のとおりでした。尿酸値9 mg/dL以上:年間発症率4.9%尿酸値7.0~8.9 mg/dL:年間発症率0.5%尿酸値7.0 mg/dL未満:年間発症率0.1%※尿酸値9 mg/dL以上の場合、痛風発作の5年累積発生率は22%。この研究では、痛風の強力な予測因子として、年齢、肥満度指数(BMI)、高血圧、コレステロール値およびアルコール摂取が指摘されています。多くの人が自覚症状がない疾患で、尿酸値と発作の発症率や食事の影響が小さいとなると、継続的なプリン体の摂取制限はなかなか難しいように思います。動物性プリン体の摂取制限は痛風発作の予防に有用しかし、プリン体制限食が急性痛風発作の発症予防に寄与するという報告もありますので紹介します。1つ目が2004年にNEJMに掲載された論文で3)、プリン体、タンパク質および乳製品の摂取が痛風発作の新規発症に及ぼす影響を前向きに調査したものです。対象はベースライン時点で痛風の既往がない男性 47,150 例で、食事要因と痛風の新規発症の関係を12年間追跡しています。研究期間中に痛風と初診断された730例のうち、各食品の摂取量が最小五分位群に対する最大五分位群の痛風の多変量補正相対リスクは次のとおりでした。肉類摂取量:1.41 (95%信頼区間[CI]1.07~1.86、p=0.02)魚介類摂取量: 1.51 (95%CI 1.17~1.95、p=0.02)乳製品摂取量の増加:0.56(95%CI 0.42~0.74、p<0.001)興味深いことに、プリン体が豊富な野菜の摂取量やタンパク質の総摂取量は痛風リスクの上昇と関連がみられませんでした。ちなみに、乳製品の摂取がリスク低減につながる理由として、尿酸とナトリウムが結合した針状結晶が関節で炎症を起こす過程を阻害するためという説があるようです4)。続いて、高プリン体食と再発性痛風発作リスクの関係を調べた症例クロスオーバー研究です5)。こちらはオンラインで募集した痛風患者633例を1年間追跡しています。平均年齢は54歳、78%が男性、88%が白人です。参加者は、痛風発作時に、発作発症日、発作の兆候、服用薬剤(抗痛風薬を含む)、発作前2日間の潜在的なリスクファクターの有無(プリン体含有食品の摂取を含む)について質問を受けています。すべての高プリン体食品(例:肉、内臓肉、肉汁、魚介類、豆類、ホウレンソウ、アスパラガス、マッシュルーム、酵母、ビール、その他ワインなどのアルコール飲料)が対象となっています。2日間の総プリン体摂取量の最小五分位群と比較して、他の各五分位群の再発性痛風発作のオッズ比の増加は、それぞれの群の低いものから1.17、1.38、2.21、4.76(p<0.001)で、動物性のプリン体摂取量については1.42、1.34、1.77、2.41(p<0.001)、植物性のプリン体摂取量については1.12、0.99、1.32、1.39(p=0.04)でした。プリン体摂取の影響は、性別、アルコール、利尿薬、アロプリノール、NSAIDs、コルヒチン服用のサブグループ間で一貫していました。高プリン体食の摂取で、再発性痛風発作のリスクが約5倍増加しており、とくに動物由来のプリン体の制限が有効であることが示唆されています。プリン体は食事由来よりも体内で生成される割合のほうが高いものの、実際にプリン体制限食では痛風発作が少ないというリスク感覚を持っておくと患者さんへ説明がしやすいかなと思います。植物性のプリン体摂取についてはあまり過敏になる必要はなさそうですが、アルコールや動物性のプリン体摂取は尿酸値への影響が直接大きくなかったとしても、痛風発作の原因になりうることや、乳製品が予防となりうることは押さえておくとよいでしょう。1)Kakutani-Hatayama M, et al. Am J Lifestyle Med. 2015;11:321-329.2)Campion EW, et al. Am J Med. 1987;82:421-426.3)Choi HK, et al. N Engl J Med. 2004;350:1093-1103.4)Dalbeth N, et al. Curr Rheumatol Rep. 2011;13:132-137.5)Zhang Y, et al. Ann Rheum Dis. 2012;71:1448-1453.

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がん慢性疼痛の薬物治療に有意な差/JCO

 がん慢性疼痛に処方するオピオイドの効果は、どれでも同じではないようだ。中国・雲南省第一人民病院のRongzhong Huang氏らは、Bayesianネットワークメタ解析にて、がん慢性疼痛治療について非オピオイド治療を含む有効性の比較を行った。その結果、現行のがん慢性疼痛治療の有効性には、有意な差があることが示されたという。また、特定の非オピオイド鎮痛薬と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)について、オピオイドと同程度の有効性を有する可能性が示唆されたことも報告した。がん慢性疼痛にはオピオイドが主要な選択肢となっている。一方で多くの非オピオイド鎮痛薬は現在、その有効性について公表されたエビデンスが少ないまま、がん慢性疼痛に処方されているという。Journal of Clinical Oncology誌2019年7月10日号掲載の報告。 検討は、がん慢性疼痛の治療において、あらゆる全身性薬剤による治療および/またはそれらの組み合わせを比較している無作為化対照試験(RCT)を、電子データベースを検索して行われた。 主要アウトカムは、オッズ比(OR)で報告されている全体的な有効性とし、副次アウトカムは、標準化平均差(SMD)で報告されている疼痛強度の変化とした。 主な結果は以下のとおり。・検索によりRCT81件、患者1万3例、11種の薬物治療のデータを、解析に包含した。・大部分のRCT(80%)は、バイアスリスクが低かった。・全体的な有効性が高い薬物クラスは上位から、非オピオイド鎮痛薬(ネットワークOR:0.30、95%確信区間[CrI]:0.13~0.67)、NSAIDs(0.44、0.22~0.90)、オピオイド(0.49、0.27~0.86)の順であった。・上位にランクされた薬物は、リドカイン(ネットワークOR:0.04、95%CrI:0.01~0.18、累積順位曲線下表面解析[SUCRA]スコア:98.1)、コデイン+アスピリン(0.22、0.08~0.63、81.1)、プレガバリン(0.29、0.08~0.92、73.8)であった。・疼痛強度の低減については、プラセボに対して優越性を示す薬物クラスを見いだせなかった。・一方で、プラセボに対して優越性を示す薬物で上位にランクされたのは、ziconotide(ネットワークSMD:-24.98、95%CrI:-32.62~-17.35、SUCRAスコア:99.8)、dezocine(-13.56、-23.37~-3.69、93.5)、ジクロフェナク(-11.22、-15.91~-5.80、92.9)であった。

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抗精神病薬使用と胃がんリスクとの関係

 台湾・桃園長庚紀念病院のYi-Hsuan Hsieh氏らは、抗精神病薬使用と胃がんの発症率との関連を明らかにするため、検討を行った。これまで、抗精神病薬の使用と胃がんリスクとの関連は、明らかとなっていなかった。Cancer Medicine誌オンライン版2019年6月10日号の報告。 ネステッド・ケース・コントロール研究を用いて、1997~2013年の台湾全民健康保険研究データベースより、胃がん患者3万4,470例および非胃がん患者16万3,430例を抽出した。交絡因子の可能性を調整するため、条件付きロジスティック回帰モデルを用いてデータ分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・抗精神病薬の使用は、潜在的な交絡因子(収入、都市部、薬剤、身体疾患、アスピリン使用、NSAIDs使用、3剤併用療法)で調整した後、胃がんリスクと独立した逆相関が認められた。・さらに、胃がんリスクに対する各種抗精神病薬(thioridazine、ハロペリドール、スルピリド、クロザピン、オランザピン、クエチアピン、amisulpride、リスペリドン)の用量依存的傾向も示された。・感度分析では、消化性潰瘍疾患の有無にかかわらず、胃がんリスク減少に対し、第2世代抗精神病薬の有意な用量依存的作用が認められた。 著者らは「抗精神病薬の使用は、胃がんリスクと逆相関が認められた。また、いくつかの抗精神病薬において、胃がんリスクに対する用量依存的作用が認められた」としている。■「スルピリド」関連記事スルピリドをいま一度評価する

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間質性膀胱炎(ハンナ型)〔IC:interstitial cystitis with Hunner lesions〕

1 疾患概要■ 概念・定義間質性膀胱炎(interstitial cystitis:IC)という名称は、1887年に膀胱壁に炎症と潰瘍を有する膀胱疾患を報告したSkeneによって最初に用いられた。そして1915年、Hunnerが、その膀胱鏡所見と組織所見の詳細を報告したことから、ハンナ潰瘍(Hunner's ulcer)と呼ばれるようになった。しかし、ハンナ潰瘍と呼ばれた病変は、胃潰瘍などで想像する潰瘍とは異なるため(詳細は「2 診断-検査」の項参照)、潰瘍という先入観で膀胱鏡を行うと見逃すことも少なくなく、現在はハンナ病変(Hunner's lesion)と呼ぶことになった。以前は米国・国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases:NIDDK)による診断基準(1999年)が用いられたが、これは臨床研究のための診断基準で厳し過ぎた。『間質性膀胱炎診療ガイドライン 第2版』では、「膀胱の疼痛、不快感、圧迫感と他の下部尿路症状を伴い、混同しうる疾患がない状態」の総称を間質性膀胱炎/膀胱痛症候群(interstitial cystitis/bladder pain syndrome:IC/BPS)とし、このうち膀胱内にハンナ病変のあるものを、「IC/BPS ハンナ病変あり(IC/BPS with Hunner lesion)」、それ以外を「IC/BPS ハンナ病変なし(IC/BPS without Hunner lesion)」とすることとした。これまでは、ハンナ病変はないが点状出血を認めるIC/BPSを非ハンナ型ICとしていたが、これもIC/BPSハンナ病変なしに含まれることになる。要は、ハンナ病変が確認されたIC/BPSのみが「間質性膀胱炎」であり、ハンナ病変がなければ、点状出血はあってもなくても「膀胱痛症候群」となる。本症の名称については、前述の経緯も含め変遷があるが、本稿では「間質性膀胱炎(ハンナ型)」の疾患名で説明をしていく。■ 疫学過去のICに関する疫学調査の対象はIC/BPS全体であり、0.01~2.3%の範囲である。疾患に対する認知度が低いために、疫学調査の結果が低くなっている可能性がある。2014年に行ったわが国での疫学調査では、治療中のIC患者数は約4,500人(0.004%:全人口の10万人当たり4.5人)であった。性差は、女性が男性の約5倍とされる。■ 病因尿路上皮機能不全として、グリコサミノグリカン層(glycosaminoglycan:GAG layer)異常が考えられている。GAG層の障害は、尿路上皮の防御因子の破綻となり、尿が膀胱壁へ浸潤して粘膜下の神経線維がカリウムなどの尿中物質からの影響を受けやすくなり、疼痛や頻尿を引き起こすと考えられる。しかし、GAG層が障害される原因は解明されていない。このほか、細胞間接着異常、上皮代謝障害、尿路上皮に対する自己免疫が推測されている。また、肥満細胞の活性化によりサイトカインなどの炎症性メディエータが放出され、疼痛、頻尿、浮腫、線維化、粘膜固有層内の血管新生などが引き起こされるとされる。これら以外にも免疫性炎症、神経原性炎症、侵害刺激系の機能亢進、尿中毒性物質、微生物感染など、複数の因子が関与していると考えられている。■ 症状IC/BPSの主な症状には、頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、尿意亢進、膀胱不快感、膀胱痛などがある。尿道、膣、外陰部痛、性交痛などを訴えることもある。不快感や疼痛は膀胱が充満するに従い増強し、そのためにトイレにいかなければならず、排尿後には軽減・消失する場合が多い。■ 分類膀胱鏡にてハンナ病変が確認されたIC/BPSに限り「IC/BPS ハンナ病変あり」とし、ハンナ病変がないIC/BPSは「IC/BPS ハンナ病変なし」と分類する。「IC/BPS ハンナ病変あり」は、間質性膀胱炎(ハンナ型)として2015年1月1日に難病指定された。■ 予後良性疾患であるので生命への影響はない。1回の経尿道的ハンナ病変切除・焼灼術で症状改善が生涯持続することもあるが、繰り返しの手術を必要とし、疼痛コントロールがつかなかったり、自然経過あるいは手術の影響によって膀胱が萎縮したりして、膀胱摘出術が必要となることもまれにある。症例によって経過はさまざまである。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断のフローは、『間質性膀胱炎・膀胱痛症候群診療ガイドライン』(2019/6発刊)に詳しく紹介されているので参照いただきたい。本稿では、エッセンスだけにとどめる。■ 検査1)症状IC/BPSを疑う症状があることが、最も重要である(「1 疾患概要-症状」の項参照)。2)排尿記録排尿時刻と1回排尿量を24時間連続して記録する。蓄尿時膀胱・尿道部痛または不快感により頻尿となるため、1回排尿量が低下し、排尿回数が増加している症例が多い。多くの場合、夜間も日中同様に頻尿である。3)尿検査多くの場合、尿所見は異常を認めない。赤血球や白血球を認める場合は感染や尿路上皮がんとの鑑別を行う必要がある。4)膀胱鏡ハンナ病変(図)を認める。ハンナ病変とは、膀胱粘膜の欠損とその周囲が毛細血管の増生によりピンク色に見えるビロード状の隆起で、しばしば瘢痕形成を伴う。表面にフィブリンや組織片の付着が認められることがある。膀胱拡張に伴い病変が亀裂を起こし、裂け、そこから五月雨状あるいは滝状に出血するため、拡張前に観察する必要がある。図 IC/BPSハンナ病変ありの膀胱鏡所見画像を拡大する■ 鑑別診断過活動膀胱、細菌性膀胱炎、慢性前立腺炎、心因性頻尿との鑑別を要するが、子宮内膜症との鑑別はともに慢性骨盤痛症候群であるから非常に難しい。しかし、最も注意すべきは膀胱がん、とくに上皮内がんである。膀胱鏡所見も、瘢痕を伴わないハンナ病変は、膀胱上皮内がんとよく似ており鑑別を要する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)病因が確定されていないため根治的な治療はなく、対症療法のみである。また、IC/BPS ハンナ病変あり/なしを区別した論文は少ない。なお、わが国で保険収載されている治療は「膀胱水圧拡張術」だけである。■ 保存的治療患者の多くが食事療法を実行しており、米国の患者会である“Interstitial Cystitis Association”によればコーヒー、紅茶、チョコレート、アルコール、トマト、柑橘類、香辛料、ビタミンCが、多くのIC/BPS患者にとって症状を増悪させる飲食物とされている。症状を悪化させる食品は、個人によっても異なる。膀胱訓練は決まった方法はないものの有効との報告がある。■ 内服薬治療三環系抗うつ薬であるアミトリプチリン(商品名:トリプタノール)は、セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを抑制して中枢神経の痛み刺激の伝達を抑えるほか、ヒスタミンH1受容体をブロックして肥満細胞の活動を抑制するなどの作用機序があると考えられ、有効性の証拠がある。トラマドール(同:トラマール)、抗けいれん薬であるガバペンチン(同:ガバペン)も神経因性疼痛に対するある程度の有効性があるとされる。また、肥満細胞の活性化抑制を目的として、スプラタスト(同:アイピーディ)、ロイコトリエン受容体拮抗薬のモンテルカスト(同:キプレス、シングレア)がある程度有効である。免疫抑制薬のシクロスポリンA、タクロリムス、プレドニゾロンはある程度の有効性はあるが、長期使用による副作用に十分注意が必要であり、安易な使用はしない。このほかNSAIDs、選択的COX-2阻害薬、尿のアルカリ化のためのクエン酸もある程度の有効性がある。■ 膀胱内注入療法ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide:DMSO)は炎症抑制、筋弛緩、鎮痛、コラーゲンの分解、肥満細胞の脱顆粒などの作用があるとされ、IC/BPSに有効性のエビデンスがある。ハンナ病変ありのIC/BPSには効果があるとの報告もある。わが国では、現在臨床試験中である。ヘパリン、ヒアルロン酸はGAG層の欠損を補うことにより症状を緩和すると考えられ、IC/BPSに対してある程度の有効性のエビデンスがある。リドカインは短時間で疼痛の軽減が得られるが、その効果は短期間である。ボツリヌス毒素の膀胱壁内(粘膜下)注入、ステロイドのハンナ病変および辺縁部膀胱壁内注入も、ある程度の有効性のエビデンスがある。■ 手術療法膀胱水圧拡張術が、古くからIC/BPSの診断および治療の目的で行われてきた。有効性のエビデンスは低く、奏効率は約50%、奏効期間は6ヵ月未満との報告が多い。IC/BPSハンナ病変ありには、経尿道的ハンナ病変切除・焼灼術が推奨される。反復治療を要することが多いが、症状緩和には有効である。膀胱全摘出術や膀胱部分切除術+膀胱拡大術は、他の治療がすべて失敗した場合にのみ施行されるべきである。ただし、膀胱全摘出術後も疼痛が残存することがある。4 今後の展望これまではIC/BPS ハンナ病変あり/なしを区別、同定して行われた研究は少ない。世界的に「IC/BPSハンナ病変あり」は1つの疾患として、他のIC/BPSとは分けて考えるという方向になった。以前の非ハンナ型ICを含む「IC/BPSハンナ病変なし」は、heterogeneousな疾患の集合であり、これから「IC/BPSハンナ病変あり」(ハンナ型IC)を分けることによって、薬の開発も行われやすく、薬の効果評価も明確なものになると期待される。5 主たる診療科泌尿器科膀胱水圧拡張術を保険診療として行うためには、施設基準が必要である。間質性膀胱炎(ハンナ型)(「IC/BPSハンナ病変あり」のこと)は、難病指定医により申請が可能である。日本間質性膀胱炎研究会ホームページに掲載されている「診療に応じる医師」が参考になるが、このリストは医師からの自己申告に基づくものであり、診療内容は個々の医師により異なる。日本排尿機能学会認定医のような、排尿障害に関する専門医が望ましい。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本間質性膀胱炎研究会(Society of Interstitial Cystitis of Japan:SICJ)(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 間質性膀胱炎(ハンナ型)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)日本間質性膀胱炎研究会 ガイドライン作成委員会 編集. 間質性膀胱炎・膀胱痛症候群診療ガイドライン. リッチヒルメディカル;2019. 2)Hanno PM,et al. J Urol. 1999;161:553-557.3)Yamada Y,et al. Transl Androl Urol. 2015;4:486-490.4)Tomoe H. Transl Androl Urol. 2015;4:600-604.5)Tomoe H, et al. Arab Journal of Urol. 2019;17:77-81.6)Whitmore KE, et al. Int J Urol. 2019;26:26-34.公開履歴初回2019年7月9日

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第21回 関節リウマチとMTXにまつわるお役立ちエビデンス集【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 関節リウマチの罹患率は人口の1%とも言われ、とくに女性の患者は男性の2~3倍と多く、いずれの年代でも発症しうる疾患です1)。関節リウマチ治療の第1選択薬は言わずと知れたメトトレキサート(MTX)で、関節破壊の進行を抑制するために重要かつ有名な薬剤です。今回はそのMTXに関連するエビデンスをあらためて紹介します。有効性についてMTXの有効性については、関節リウマチ患者732例においてMTX単独投与の効果をプラセボと比較したコクランのシステマティックレビュー2)など、すでに十分なエビデンスがあります。これは1997年に発表されたレビューの2014年改訂版で、レビューに含まれているのは1980〜90年代の試験です。以前の治療や併用薬としてNSAIDsや他の抗リウマチ薬を使用している場合もありますが、有効性については、ほとんどの主要評価項目で有意な改善を認めています。ACR50(圧痛関節数、膨張関節数、患者による疼痛評価、患者による全般活動性評価、などの評価で必須項目を含む50%以上の改善)を達成したのは100人当たりプラセボ8例、MTX23例で、健康関連QOLのNNT(Number Needed to Treat:必要治療数)=9、X線写真における関節破壊の進行評価のNNT=13と、MTXの有意な効果が示されています。一方で、3~12ヵ月の評価では、プラセボと比較して100人当たり9例に、多くの有害事象による中止が報告されています。葉酸との併用について葉酸またはフォリン酸(ロイコボリン)を摂取することで、MTXによる悪心、腹痛、肝機能異常などが低減し、口内炎も減る傾向にあることが示唆されています3)。こちらもコクランに掲載された、MTXと葉酸またはプラセボ併用を比較した6つの二重盲検ランダム化比較試験、計624例を含むシステマティックレビューです。葉酸またはフォリン酸併用群では、24~52週のフォローアップで、消化器系の副作用(悪心、嘔吐、腹痛)の絶対リスク減少率-9.0%、相対リスク減少率-26.0%、NNT=11と、プラセボ群よりも有意に減少しています。同じ期間の口内炎の発生については、絶対リスク減少率-6.2%、相対リスク減少率-27.8%で、統計的有意差はないものの減少傾向にありました。また、肝毒性(トランスアミナーゼ上昇)の発生率は、8〜52週間のフォローアップ期間において、絶対リスク減少率-16.0%、相対リスク減少率-76.9%、NNT=6と、葉酸を併用する多くのメリットが示されています。なお、葉酸併用によるMTXの効果の有意な減弱はありませんでした。関節リウマチ治療におけるMTX診療ガイドライン 2016年改訂版においても、MTXを継続している患者では、必要に応じて葉酸を併用することが推奨されています4)。投与間隔については、MTX服用の24~48時間後が一般的です。同ガイドラインによれば、そのベストな投与間隔について明確なエビデンスはないとされていますが、少なくともその時間を空ければMTXの効果に影響はないだろうとのことです。なお、ロイコボリンレスキュー療法の研究では、MTX服用後42~48時間を過ぎてしまうとMTXの毒性が発現しやすくなることが報告されています5)。感染症リスクについてMTXは免疫抑制作用を有する薬剤ですので、肺炎、発熱、口内炎など感染兆候に注意を払うことも大切です。2015年にLancetに掲載されたネットワークメタ解析で、慢性関節リウマチ患者において、MTX使用時と生物学的製剤使用時の重篤感染症(死亡例、入院例、静脈注射の抗菌薬使用例)発現リスクについて検討されています6)。結果としては、生物学的製剤はDMARDsに比べて重篤感染症リスクが約30%高く、とくにMTX使用歴がある患者および標準〜高用量の生物学的製剤使用患者ではリスクが高いという傾向にありました。年間1,000人当たりの重篤感染症発生人数は、DMARDs服用群で20例、標準量の生物学的製剤使用群で26例、高用量の生物学的薬剤使用群で37例、生物学的製剤との併用群で75例です。MTX使用歴がない患者では、感染症リスクの有意な増加はありませんでした。近年では多くの生物学的製剤が発売されているので、MTXとの併用時や易感染性疾患罹患時の感染兆候モニタリングは意識しておくとよいでしょう。1)MSDマニュアル 関節リウマチ2)Lopez-Olivo MA, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014;6:CD000957.3)Shea B, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2013;5:CD000951.4)関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン 2016年改訂版5)Cohen IJ, et al. Pediatr Blood Cancer. 2014;61:7-10.6)Singh JA, et al. Lancet. 2015;386:258-265.

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双極性障害治療に対する新薬候補

 ドラッグ・リポジショニングは、多くの医療分野において有望なアイデアである。躁病および双極性障害の発症率低下に対するアスピリン以外の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、低用量アスピリン、高用量アスピリン、スタチン、アロプリノール、アンジオテンシン系薬の継続使用の影響を調査するため、デンマーク・コペンハーゲン大学のLars Vedel Kessing氏らは、デンマークの全国人口ベースレジストリをシステマティックに使用し、検討を行った。Bipolar Disorders誌オンライン版2019年3月14日号の報告。 対象薬剤を購入したすべてのデンマーク人および人口の30%のランダム化サンプルを対象に、ポアソン回帰分析を用いた全国人口ベース縦断的研究を行った。フォローアップ期間は、2005~15年の10年間とし、アウトカム指標には、次の2つを含めた。(1)入院または外来患者として精神科病院受診による躁病または双極性障害の診断、(2)躁病または双極性障害の診断またはリチウム使用開始とを組み合わせた測定。 主な結果は以下のとおり。・2005~15年の10年間で対象薬剤のうち1剤を使用した患者は160万5,365例(年齢中央値:57歳[四分位:43、69]、女性の割合:53.1%)であった。・低用量アスピリン、スタチン、アンジオテンシン系薬の継続使用は、両アウトカム測定において躁病または双極性障害の発症率低下との関連が認められた。・アスピリン以外のNSAIDs、高用量アスピリンの継続使用は、双極性障害の発症率上昇との関連が認められた。・アロプリノールでは、統計学的に有意な関連性は認められなかった。 著者らは「双極性障害における炎症やストレス反応システムに作用する薬剤の可能性が支持された。また、ドラッグ・リポジショニングの可能性のある薬剤を識別するために、人口ベースのレジストリが使用可能であることが示唆された」としている。■関連記事統合失調症と双極性障害の違い、脳内の炎症/ストレスに派生双極性障害、リチウムは最良の選択か双極性障害の補助治療オプションに関する情報のアップデート

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強直性脊椎炎に新たな治療薬

 2019年1月30日、ノバルティスファーマ株式会社は、同社が製造販売(共同販売:マルホ株式会社)するセクキヌマブ(商品名:コセンティクス)が、昨年12月21日に指定難病である強直性脊椎炎への効能効果の追加承認を取得したことから都内でメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、強直性脊椎炎の概要のほか、患者を交えてパネルディスカッションが行われ、医療者、患者双方から診療の課題などが語られた。強直性脊椎炎の付着部炎症への治療に注目 はじめに「強直性脊椎炎(AS)の病態と新たな治療選択肢~IL-17阻害薬~」をテーマに亀田 秀人氏(東邦大学医学部 内科学講座 膠原病学分野 教授)を講師に迎え、ASの診療概要とセクキヌマブの効果について解説が行われた。 ASは、脊椎関節炎の中でも体軸関節の炎症が主体となる代表疾患であり、リウマチなどと比較しても、若年での発症が多いとされている。また、「本症はHLA-B24の白血球の型が関係していると推定され、この陽性者はわが国で3万人程度と推計されているが、本症の指定難病受給者証所持者は3千人程度にとどまっている。陽性者イコール発症するわけではないが、見過ごされている患者もいる」と亀田氏は指摘する。 診断では、1984年の改訂ニューヨーク基準が使用され、3つの臨床基準とX線検査基準とでASを確定診断する1)。日常診療では、炎症性背部痛とくに腰痛の兆候が重要所見であり、画像診断ではX線とMRIで行うが、MRIの方が仙腸骨の描出が優れていると診断でのポイントを語った。また、ASでは腱や靭帯の付着部の炎症が起こるとされ、痛みを伴い、患者のQOLを著しく低下させ、こうした痛みの管理も必要とされる。 ASの治療目標としては、根治療法が現在ない以上、疾患との共生にむけ、「病状のコントロール、構造破壊の予防、身体機能の正常化を通じて、健康に関連したQOLと社会参加を最大にする」ことが挙げられる。 治療では、薬物療法と運動・理学療法が主体となり、痛みにはNSAIDsが、体軸の炎症には生物学的製剤であるTNF阻害薬などが使用される。また、患者には、疾患への教育と運動の励行、そして、禁煙なども指導される。 とくに薬物療法では、付着部炎症への治療が注目され、IL-17Aが炎症反応に関与する免疫応答に関わることから抗IL-17A抗体製剤の開発が行われてきた。開発されたセクキヌマブは、当初、乾癬の適応から始まり、海外と国内で2つの第III相二重盲検比較試験(MEASURE1およびMEASURE2)が行われ、今回適応に強直性脊椎炎が追加された。 MEASURE1は、活動性AS患者を対象に有効性と安全性を評価する2年間の多施設共同、ランダム化、プラセボ対照、第III相臨床試験。主要評価項目は、ASAS20反応基準で20%以上の改善を達成した患者の割合を指標とし、16週時点のプラセボに対するセクキヌマブの優越性を評価(プラセボ群に割付けられた患者は、16週時点のASAS20反応率に基づき、非反応例は16週、反応例は24週目にセクキヌマブ75mgまたは150mg投与に再割付)。 その結果、16週の時点での ASAS20達成率は,セクキヌマブ皮下投与 150mg群、75mg群、プラセボ群でそれぞれ 61%、60%、29%であった(P<0.001)ほか、患者の約80%で、208週間の治療を通して投与開始時と比較し、脊椎にX線像上の骨所見の進行を示されないことが示唆された(modified Stoke Ankylosing Spondylitis Spinal Score[mSASSS]X線評価尺度を指標)。安全性は良好で、重篤な有害事象では心筋梗塞、胆石症、腹部リンパ節膨脹などが報告されたが、薬剤と関連する死亡例は報告されなかった。また、MEASURE2もASAS20反応基準で20%以上の改善率、安全性ともにほぼ同様の結果が得られ、薬剤に起因する死亡例はなかった。 以上から、亀田氏は「ASは早期診断が難しい脊椎関節炎であり、画像検査の適切な活用が重要となる」と語るとともに、ASの病態では付着部炎が中心的な役割を果たしていることを指摘し、「付着部炎を誘導するIL-17Aを阻害するセクキヌマブのような新しい生物学的製剤は治療への有用性が高い」と述べ、講演を終えた。強直性脊椎炎への関心が高まることを期待 続いて町 亞聖氏をファシリテーターに、強直性脊椎炎患者の銭谷 有基氏、多田 久里守氏(順天堂大学 膠原病・リウマチ内科学 准教授)の3人が登壇し、同社が2018年9月に行ったアンケート調査結果などを基にパネルディスカッションが行われた。 はじめにアンケート調査結果が多田氏から報告され、7割以上の患者が確定診断まで2ヵ所以上の複数医療機関を受診していること、誤診として「ヘルニア」「腰痛症」などが多いこと、半数以上の患者が医師に症状を伝えるうえで(症状が一定化しないため)言葉にするのが難しいと感じていること、また半数の患者がASと診断されてほっとしていることなどが報告された(回答者はASと診断された男女103例/インターネット調査)。 この内容を受けて多田氏は「X線に変化が出づらく診断がつかないのが問題で、腰の痛みが指標となる。特徴的な腰痛と眼病変、皮膚の痛みから本症を疑うことができるかがカギとなる。患者は、痛みの量化、場所、表現の難しさから発信が難しいと思われるので『痛み日記』などをつけることで医療者に身体の状態を理解してもらう工夫ができる」と診療でのポイントを述べた。 また、強直性脊椎炎患者である銭谷氏からは、患者の思いとして周囲の友人や関係者へ自分の痛みを理解してもらうのが難しかったことで、精神的につらい思いをしたこと、患者・患者家族がよく病気を理解することが大切であることなどが語られた。 最後に多田氏からは「ASの診断ができるように医療者への啓発が大事。セクキヌマブの登場で本症への関心が高くなればと思う。誤診や過重診断がないように、迷ったら専門医へ紹介していただきたい」とコメントし、銭谷氏は「痛みと付き合っていき、同じ患者のために何かできればと思う」と抱負を述べ、パネルディスカッションを終えた。■参考文献1)van der Linden S, et al. Arthritis Rheum .1984;27:361-368.

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第11回 内科クリニックからのミノサイクリン、レボフロキサシンの処方 (後編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

前編 Q1予想される原因菌は?Q2患者さんに確認することは?Q3疑義照会する?Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?抗菌薬を飲みきる キャンプ人さん(病院)母子ともに、指示された期間きちんと服用するように説明します。服用時の注意や改善しない場合の対処 清水直明さん(病院)レボフロキサシンもしくはミノサイクリンの処方が確定している場合の説明例です。「牛乳などの乳製品や一部の制酸薬や下剤、貧血の薬(鉄剤)とともに服用すると効果が弱くなる可能性があるので、抗菌薬服用の前後2時間はそれらの摂取を避けるようにしてください」「3日ほど服用しても全く症状が改善しないか、悪化したと感じる時は、服用の途中でも一度ご相談ください」「ミノサイクリンを服用中は、めまい感があらわれることがあるので、車の運転など危険を伴う機械の操作、高所での作業などは行わないでください」「ミノサイクリンは、もしも食道にくっついてそこで溶けてしまうと食道に潰瘍ができることがありますので、多めの水でしっかり服用してください」尿の色 奥村雪男さん(薬局)ミノサイクリンは尿が青~緑に着色する場合があるので、あらかじめ伝えておいた方が無難だと思います。カルシウムと難溶性のキレートを形成するので、牛乳はミノマイシン服用後2時間程度あけて摂取するように、とも説明した方がよいでしょう。解熱鎮痛薬との併用について ふな3さん(薬局)母については、ひどいめまいや悪心・食欲不振が出た場合には、医師に相談するよう伝えます。子には抗菌薬を飲みきることと、服用期間に発熱・頭痛等が起きた場合、一部のNSAIDs で痙攣が誘発される可能性があるので、自己判断でのNSAIDsの使用を控え、重い症状であれば医師に相談するよう伝えます。飲み忘れた場合の対処 中西剛明さん(薬局)母には頭痛、めまい、倦怠感が起こる可能性について伝えます。おそらくすぐに良くなると思われるが、これらが起きたとしても途中で服用を中止しないこと、倦怠感の場合は、薬剤性肝障害の可能性もあるので受診をするように説明をしておきます。また、朝は乳製品の摂取をできるだけ控えることを伝えます。食道刺激作用があるため、服用後すぐに横にならないように、とも伝えます。子には短期間であれば関節障害の発症は心配いらないものの、アキレス腱などの腱断裂の危険があるので、治療中は激しい運動を避けるように説明します。また、朝の服用となっていますが、飲み忘れたときはすぐに飲むことと、夕から寝る前にかけて服用すると不眠や悪夢を経験する可能性があることを付け加えます。Q5 その他、気付いたことは?肺炎マイコプラズマの治療方針 奥村雪男さん(薬局)15歳以下の小児の場合日本マイコプラズマ学会の「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」では、マイコプラズマ感染症で、「マクロライド系薬が無効の肺炎には、使用する必要があると判断される場合は、トスフロキサシンあるいはテトラサイクリン系薬の投与を考慮する。ただし、8歳未満には、テトラサイクリン系薬剤は原則禁忌である」とされています。マクロライドが無効との判断は、服用2~3日で解熱しなかった場合でなされるようです。必要があると判断された場合と言うのは、年齢や流行状況、重症感で判断されるのではないかと思います。ちなみに、マクロライドで症状の改善が無い場合の耐性率は90%以上、一方でマクロライドの前投与がない場合の耐性率は50%以下に留まるとの報告があります(IASR Vol.33 p.267-268:2012年10月号)。他の医療機関で治療を受けていたとの事から、すでにクラリスロマイシンなどのマクロライドを服用していたのかも知れません。小児呼吸器感染症ガイドライン2011では、全身状態が良好で、チアノーゼがなく、呼吸数正常、努力呼吸なし、胸部X線陰影が片側の1/3以下、胸水なし、SpO2>96%、循環不全なし、人工呼吸器管理不要の全てを満たす場合、外来でフォロー出来る軽症と判断するようです。治療期間は、「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」に従うと、トスフロキサシン、テトラサイクリンの場合7~14日とされるようです。5日間はやや短く、治療への反応を見ているのかも知れません。成人の場合次に母親の方ですが、親子で同じような症状であり、息子さんからの感染が考えられます。「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」によれば、成人のマクロライド耐性マイコプラズマの第1選択はテトラサイクリンとされます。成人に対するマイコプラズマ肺炎の適切な治療期間についてはエビデンスに乏しいが、エキスパートオピニオンとして7~10日間が適当であると考えられるとしています。学校で広まっている可能性も キャンプ人さん(病院)乾いた咳はマイコプラズマ肺炎の初期症状でもあり、きちんと抗菌薬を服用すること。そして他の部員にも広がっている可能性があり、学校保健法を考慮して出席停止になる可能性もあることを伝えます。小児へのミノサイクリン投与について 中西剛明さん(薬局)本来は「肺炎の場合に抗菌薬を使う」が原則ですから、肺炎に至っていたのかどうかが気になるところです。おそらく、前医でマクロライドの投薬を受けてきたのでしょう。マイコプラズマは免疫系から逃れて増殖するので、免疫に作用するミノサイクリンは、最小発育阻止濃度(MIC)はマクロライド系抗菌薬に劣るものの、十分な効果が期待できます。小児の場合、1回の服用で歯の黄染の痕跡が残るとされているので、ミノサイクリンはできるだけ避けた方がよいと考えます。ニューキノロン系抗菌薬とのリスクとベネフィットのバランスを考えると、禁忌とはいえ、必要なこともあると思います。この症例ではレボフロキサシンが選択されていますが、本当は適応症を持っているトスフロキサシンの方がよいでしょう。ニューキノロン系抗菌薬は耐性ができやすいので、できるだけ避けたいですね。鎮咳薬は必要? 中堅薬剤師さん(薬局)母子ともにデキストロメトルファン2週間の処方は、必要なのかな? と思いました。咳喘息もあるようなら、吸入薬を導入するほうがよい気がします。子に抗菌薬は不要では JITHURYOUさん(病院)子は解熱しており、レボフロキサシンが必要か疑問です。必要な場合も当然あるとは思いますが、アキレス腱炎や断裂、また動物レベルで関節異常の副作用の報告があり、成長期の子供に使用が必要か吟味することを考えました。仮に肺炎マイコプラズマによる呼吸器感染であるならば、咳の症状は強いかもしれませんが解熱していること、改善しても咳症状のみ遷延することがあるからです。結核菌を考慮すると、症状をマスクするので菌の同定がされていないうちに投与することはリスクが高いのではないのかと考えました。加えて、マスク着用、水分補給をして安静を心がけることも指導したいです。後日談2週後の時点では来局なし。3 週間後、母にだけ「麦門冬湯9g 分3 毎食前 7日分」が処方された。抗菌薬の処方はなかった。聞き取りの結果、「割と早く咳は楽にはなった、咳は続くが特に抗菌薬によるトラブルはなかった」とのことだった。[PharmaTribune 2017年2月号掲載]

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第10回 内科クリニックからのミノサイクリン、レボフロキサシンの処方(前編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Mycoplasma pneumoniae(肺炎マイコプラズマ)・・・全員Bordetella pertussis(百日咳菌)・・・6名Chlamydophila pneumoniae(クラミジア・ニューモニエ)・・・4名Mycobacterium tuberculosis(結核菌)・・・3名マクロライド耐性の肺炎マイコプラズマ 奥村雪男さん(薬局)母子ともに急性の乾性咳嗽のみで他に目立った症状がないこと、およびテトラサイクリン、ニューキノロン系抗菌薬が選択されていることから、肺炎マイコプラズマ感染症、それもマクロライド耐性株による市中肺炎を想定しているのではないかと思います。「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」によれば、成人のマクロライド耐性マイコプラズマの第1選択はテトラサイクリンとされています。マイコプラズマと百日咳 中堅薬剤師さん(薬局)母子ともマイコプラズマか百日咳と予想します。しつこい乾性咳嗽(鎮咳薬が2週間も処方されていることから想像)もこれらの感染症の典型的症状だと思います。結核の可能性も わらび餅さん(病院)百日咳も考えましたが、普通に予防接種しているはずの13 歳がなる可能性は低いのではないでしょうか。症状からは結核も考えられますが、病歴など情報収集がもっと必要です。百日咳以外の可能性も? 清水直明さん(病院)発熱がなく2週間以上続く「カハっと乾いた咳」、「一度咳をし出すとなかなか止まらない」状態は、発作性けいれん性の咳嗽と考えられ、百日咳に特徴的な所見だと考えます。母親を含めた周囲の方にも咳嗽が見られることから、周囲への感染性が高い病原体であると予想されます。百日咳は基本再生産数(R0)※が16~21とされており、周囲へ感染させる確率がかなり高い疾患です。成人の百日咳の症状は小児ほど典型的ではないので、whoop(ゼーゼーとした息)が見られないのかもしれません。また、14日以上咳が続く成人の10~20%は百日咳だとも言われています。ただし、百日咳以外にもアデノウイルス、マイコプラズマ、クラミジアなどでも同様の症状が見られることがあるので、百日咳菌を含めたこれらが原因微生物の可能性が高いと予想します。※免疫を持たない人の集団の中に、感染者が1人入ったときに、何人感染するかを表した数で、この数値が高いほど感染力が高い。R0<1であれば、流行は自然と消失する。なお、インフルエンザはR0が2~3とされている。Q2 患者さんに確認することは?アレルギーやこれまでの投与歴など JITHURYOUさん(病院)母子ともにアトピー体質など含めたアレルギー、この処方に至るまでの投薬歴、ピロリ除菌中など含めた基礎疾患の有無、併用薬(間質性肺炎のリスク除外も含めて)、鳥接触歴を確認します。さらに、母親には妊娠の有無、子供には基礎疾患(喘息など)の有無、症状はいつからか、運動時など息苦しさや倦怠感の増強などがないかも合わせて確認します。併用薬・サプリメントについて  柏木紀久さん(薬局)車の運転や機械作業などをすることがあるか。ミノサイクリンやレボフロキサシンとの相互作用のあるサプリメントを含めた鉄、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの含有薬品の使用も確認します。結核の検査 ふな3さん(薬局)母には結核の検査を受けたか、結果確認の受診はいつかを聞きます。子にはNSAIDs などレボフロキサシンの併用注意薬の服用の有無、てんかん、痙攣などの既往、アレルギーを確認します。お薬手帳の確認 わらび餅さん(病院)母は前医での処方が何だったのか、お薬手帳などで確認したいです。Q3 疑義照会する?母の処方について疑義照会する・・・2人子の処方について疑義照会する・・・全員ミノサイクリンの用法 キャンプ人さん(病院)ミノサイクリンの副作用によるめまい感があるので、起床時から夕食後または眠前へ用法の変更を依頼します。疑義照会しない 中堅薬剤師さん(薬局)母については、第1選択はマクロライド系抗菌薬ですが、おそらく他で処方されて改善がないので第2 選択のミノサイクリンになったのでしょう。というわけで、疑義照会はしません。ミノサイクリン起床時服用の理由 ふな3さん(薬局)疑義照会はしません。ミノサイクリンが起床時となっているのは、相互作用が懸念される鉄剤や酸化マグネシウムを併用中などの理由があるのかもしれません。食事による相互作用も考えられるため、併用薬がなかったとしても、起床時で問題ないと思います。ミノサイクリンのあまりみない用法 中西剛明さん(薬局)母に関しては、疑義照会しません。初回200mgの用法は最近見かけませんが、PK-PD理論からしても、時間依存型、濃度依存型、どちらにも区分できない薬剤ですので、問題はないと考えます。加えて、2回目の服用法が添付文書通りなので、計算ずくの処方と考えます。起床時の服用も見かけませんが、食道刺激性があること、食物、特に乳製品との相互作用があることから、この服用法も理にかなっていると思います。レボフロキサシンは小児で禁忌 児玉暁人さん(病院)13歳は小児で禁忌にあたるので、レボフロキサシンについて疑義照会します。代替薬としてトスフロキサシン、ミノサイクリンがありますので、あえてレボフロキサシンでなくてもよいかと思います。キノロン系抗菌薬は切り札 キャンプ人さん(病院)最近の服用歴を確認して、前治療がなければマクロライド系抗菌薬がガイドラインなどで推奨されていることを伝えます。小児肺炎の各種原因菌の耐性化が進んでおり、レボフロキサシンはこれらの原因菌に対して良好な抗菌活性を示すため、キノロン系抗菌薬は小児(15 歳まで)では切り札としていることも伝えます。マクロライド系抗菌薬かミノサイクリンを提案 荒川隆之さん(病院)子に対して、医師がマイコプラズマを想定しているならクラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬、マクロライド耐性を危惧しているなら、母親と同じくミノサイクリンを提案します。ミノサイクリンの場合、歯牙着色などもあり8 才未満は特に注意なのですが、お子さんは13才ですので選択肢になると考えます。そもそも抗菌薬は必要か JITHURYOUさん(病院)子の抗菌薬投与の必要性を確認します。必要なら小児の適応があるノルフロキサシンやトスフロキサシンなどへの変更を提案します。咳自体はQOLを下げ、体力を消耗し飛沫感染リスクを上げることに加え、患者が投与を希望することがあり、心情的に鎮咳薬の必要性を感じます。効果不十分なら他の鎮咳薬も提案します。子の服薬アドヒアランスについて わらび餅さん(病院)体重56kgと言っても、まだ13歳。レボフロキサシンは禁忌であることを問い合わせる必要があります。処方医は一般内科なので、小児禁忌であることを知らないケースは有り得ます。ついでに、なぜ母と子で抗菌薬の選択が異なるのか、医師からその意図をききだしたいです。母の前医での処方がマクロライド系抗菌薬だったら、その効果不良(耐性)のためだと納得できます。子供だけがキノロン系抗菌薬になったのは、1日1回の服用で済むため、アドヒアランスを考慮しての選択かと思いました。学童が1日2~3回飲むのは、難しいこともありますが、母子でミノマイシンにしても1日2回になるだけで、アドヒアランスは維持できるものと思います。あくまで第1選択はマクロライド系抗菌薬 清水直明さん(病院)母と子は基本的に同じ病原体によって症状が出ていると考えられるので、同一の抗菌薬で様子を見てもよいのではないでしょうか。ミノサイクリン、レボフロキサシンともにマイコプラズマ、クラミジアなどの非定型菌にも効果があると思いますが、百日咳菌をカバーしていないので、これらをカバーするマクロライド系抗菌薬であるクラリスロマイシンやアジスロマイシンなどへの変更を打診します。マイコプラズマのマクロライド耐性化が問題になっていますが、それでも第1選択薬はマクロライド系抗菌薬です。13歳の小児にレボフロキサシン投与は添付文書上、禁忌とされていますが、アメリカでは安全かつ有効な他の選択肢がない場合、小児に対しても使用されているようです。前治療が不明なので何とも言えませんが、他の医療機関でマクロライド系抗菌薬の投与を「適正に」受けていたとすると、第2選択肢としてミノサイクリン、レボフロキサシン(15歳以上)が選択されることは妥当かもしれません。他の医療機関でマクロライド系抗菌薬の投与を「不適切に」(過少な投与量・投与期間)受けていたとすると、十分な投与量・投与期間で仕切り直してもよいのではないでしょうか。後編では、抗菌薬について患者さんに説明することは?、その他気付いたことを聞きます。

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第8回 アセトアミノフェンもワルファリン併用で用量依存的にINR上昇【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 ワルファリンはさまざまな食品や薬剤と相互作用があり、併用注意に当たる飲み合わせが多いことはよく知られています。私も以前、脳梗塞の既往があり、ワルファリンを服用している患者さんに、市販の解熱鎮痛薬を一緒に服用してよいか質問され、薬剤の種類や使用目的について少し回答に悩んだことがあります。ワルファリンの添付文書にも記載があるように、NSAIDsには血小板凝集抑制作用があり、互いに出血傾向を助長するおそれがあるため、アセトアミノフェンが優先して使用されることも多くあります。しかし、アセトアミノフェンも機序は不明ですが、ワルファリンの併用注意欄に作用増強の記載があり、疑義照会の判断に迷うところです。そこで、今回はワルファリンとアセトアミノフェンを併用したいくつかの研究を紹介します。まずは、1998年にJAMA誌に掲載された症例対照研究です(Hylek EM, et al. JAMA. 1998;279:657-662.)。症例対照研究はまれな疾患や症状を検証するのに適した研究デザインで、すでにある事象が発生している「症例群」と、その事象が発生しておらず条件をマッチさせた「対照群」を選び、過去にさかのぼって事象が生じた要因を特定しようとする研究です。研究開始時点ですでに事象が発生しているものを調べる後ろ向き研究であるという点で、コホート研究と趣が異なります。この研究では1995年4月~1996年3月に、ワルファリンを1ヵ月以上服用しており、目標INR 2.0~3.0の外来患者を対象としました。INRが6.0以上の症例群(93例)と1.7~3.3の対照群(196例)の比較から得られた結果の多変量解析により、INR 6.0以上になる要因としてアセトアミノフェンが独立して関連している可能性が示唆されました。とくにアセトアミノフェン服用量が9.1g/週(1.3g/日)以上のときのオッズ比は10倍以上(95%信頼区間:2.6~37.9)でした。次に、2006年に発表された二重盲検クロスオーバー試験です(Mahe I, et al. Haematologica. 2006;91:1621-1627.)。こちらもワルファリンを1ヵ月以上服用している患者(20例)が参加しています。アセトアミノフェン1gまたはプラセボを1日4回に分けて14日間服用し、2週間のウォッシュアウト期間を設けた後に試験薬と対照薬を入れ替えて経過を調査しました。4日目で脱落しINR値を測定できなかった患者1例とプロトコール違反1例が最終解析から除かれています。平均INRはアセトアミノフェンを服用開始後急速に上昇し、1週間以内にプラセボよりも有意に増加しました。INRの平均最大値はアセトアミノフェンで3.45±0.78、プラセボで2.66±0.73で、ベースラインからの上昇幅はアセトアミノフェンで1.20±0.62、プラセボで0.37±0.48でした。なお、プロトコールから逸脱する数値の上昇がある場合は中止され、出血イベントはいずれの群においてもみられませんでした。さらに、プラセボ対照のランダム化比較試験の報告もあります(Zhang Q, et al. Eur J Clin Pharmacol. 2011;67:309-314.)。ワルファリン継続中の患者(45例)をアセトアミノフェン2g/日群、アセトアミノフェン3g/日群、またはプラセボ群に2:2:1の比率で割り付けて比較した研究です。2g群、3g群、プラセボ群のINRの平均最大増加率はそれぞれ0.70±0.49、0.67±0.62、0.14±0.42で、INRの上昇はアセトアミノフェン開始3日目で有意となりました。なお、INRが3.5を超えた場合には治療は中止されています。同様に、メタ解析の論文(Caldeira D, et al. Thromb Res. 2015;135:58-61.)や観察研究の系統的文献レビュー(Roberts E, et al. Ann Rheum Dis. 2016;75:552-559.)でも、その相互作用の可能性について警鐘が鳴らされています。アセトアミノフェン1.3g/日以上を3日以上連用なら注意が必要実践に落とし込むとすると、INRのモニタリングについて、アセトアミノフェン1.3g~2g/日を超える用量を連続3日以上服用している場合は、一定の注意を払ってもよいと思います。時にはその服用状況をワルファリンの処方医に報告することも必要でしょう。一方で、急性疾患による数日間の短期治療でアセトアミノフェンが1g/日を超えない程度であれば影響は少なそうです。この相互作用の機序については不明とされていますが、いくつかの説はありますので、最後にそのうちの1つであるNAPQI(N-acetyl-p-benzoquinone-imine)の影響だとする仮説を紹介しましょう。アセトアミノフェンは代謝を受けると毒性代謝産物であるNAPQIを生成します。通常は肝臓中のグルタチオン抱合を受けて速やかに無毒化されて除去されますが、アセトアミノフェンの服用量過多や糖尿病の合併などでNAPQIが蓄積しやすくなることがあります。これは、アセトアミノフェンによる肝障害の原因としても知られています。このNAPQIがビタミンK依存性カルボキシラーゼおよびビタミンKエポキシド還元酵素(VKOR)を阻害するため、複数のポイントでビタミンKサイクルを阻害し、ワルファリンの効果に影響を及ぼしているのではないかというものです(Thijssen HH, et al. Thromb Haemost. 2004;92:797-802.)。あくまでも仮説ですが、説得力はありますね。ワルファリンとアセトアミノフェンの併用はよくある飲み合わせですが、つい見落としがちな相互作用ですので意識してみてはいかがでしょうか。 1.Hylek EM, et al. JAMA. 1998;279:657-662. 2.Mahe I, et al. Haematologica. 2006;91:1621-1627.(先行研究はMahe I, et al. Br J Clin Pharmacol. 2005;59:371-374.) 3.Zhang Q, et al. Eur J Clin Pharmacol. 2011;67:309-314. 4.Caldeira D, et al. Thromb Res. 2015;135:58-61. 5.Roberts E, et al. Ann Rheum Dis. 2016;75:552-559. 6.Thijssen HH, et al. Thromb Haemost. 2004;92:797-802. 7.ワーファリン錠 添付文書 2018年4月改訂(第26版)

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腰痛や肩こりなどの「痛み」による経済損失約1兆9千億円

 働き方改革のもと、仕事へのかかわり方や働き方が変化しつつある。その中でも見過ごされやすい問題として、健康問題を抱えて就業ができない、効率を上げることができないという就労問題がある。今回、健康に起因する就労問題の中でも「痛み」に焦点をあて、ファイザー株式会社とエーザイ株式会社が共催で、2018年8月8日にプレスセミナーを開催した。セミナーでは、「健康経営時代に欠かせない『痛み』の早期診断と治療」をテーマに、「痛み」がもたらす社会的損失と神経障害性疼痛のスクリーニングツールについて講演が行われた。腰痛などの慢性疼痛による経済損失は1兆9,530億円にのぼる はじめに「痛みによる労働生産性への影響とその経済損失?」をテーマに、五十嵐 中氏(東京大学大学院 薬学系研究科・医薬政策学 特任准教授)が、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践する方策と労働生産性を阻む「痛み」とその損失について講演を行った。 少子高齢化で労働人口が減少する中で、労働者1人当りの労働生産性はこれまで以上に重要とされ、「健康経営」という概念が登場した。「健康経営」とは、従業員の健康保持・増進の取り組みが、将来的に収益性などを高めるという考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践することである。この実践により従業員の活力向上、生産性向上と組織の活性化をもたらし、結果として業績向上や組織としての価値向上につながることが期待されている。 この健康経営で問題となるのが、従業員の健康問題である。健康問題に関するコストとして、直接かかる医療費とは別にアブセンティーズム(病欠)とプレゼンティーズム(健康問題で効率・生産性が低下している状況)の2つがある。そして、企業における従業員の健康コストの内訳では、アブセンティーズムが11%、プレゼンティーズムが64%で、プレゼンティーズムの比率が高く、就労問題の中でも2大要因として精神関連症状と筋骨格系障害がある1)。また、医療費と生産性でみた場合の疾病コストでは「肩こり・腰痛」がトップで、こうした慢性疼痛による損失は1週間平均で4.6時間に及ぶという試算がある。そして、時間ベースの経済損失は、1兆9,530億円にのぼるという報告2)もあり、「企業は健康経営として身体の痛み対策に取り組むべきときだ」と同氏は述べる。 おわりに「健康経営では人件費だけでなく、保健指導やそのシステムの充実、診療施設やフィットネスルームの設置など投資をすることで、経営には生産性の向上、医療コストの削減、モチベ―ションの向上など企業価値を高める効果が予想される。企業はこうした視点も踏まえ、従業員の健康対策を図ってもらいたい」と語り、レクチャーを終えた。腰痛などの神経障害性疼痛患者のQOLはがんの終末期と同等 つぎに紺野 愼一氏(福島県立医科大学 医学部整形外科学講座 主任教授)を講師に迎え、「痛みの種類に応じた適切な治療と最新スクリーニングツール」をテーマに、主に神経障害性疼痛の診療とスクリーニングツールについて説明を行った。 慢性疼痛の保有率は、成人の22.5%(患者数2,315万人)とされ、男女ともに「腰痛」「肩こり」が上位を占める。この慢性疼痛の中でも診療が難しいとされる神経障害性疼痛について触れ、臨床的特徴として刺激がなくとも起こる痛み、非侵害刺激での痛み誘発、侵害刺激による疼痛閾値の低下、しびれがあるという。また、疼痛領域は損傷部位などと同一ではなく、神経、神経根、脊髄、脳の支配領域で発生し、通常NSAIDsに反応しにくく、COX阻害薬以外の鎮痛薬が必要となる。神経障害性疼痛が患者のQOLに与える影響について、健康関連QOLを評価するために開発された包括的な評価尺度(EQ-5D-3L:0は死亡、1.0は健康な人)で調査した結果によれば、終末期がん患者のQOL(0.4~0.5)と比較し、神経障害性疼痛のQOLはそれと同程度の値を示し、さらに重症の神経障害性疼痛のQOLは心筋梗塞で絶対安静状態の患者のQOL(0.2)と同程度の結果だったという3)。 神経障害性疼痛の診断では、VASなどの痛み評価の多種多様なツールが使用される。なかでも“Spine painDETECT”は、脊椎疾患に伴う神経障害性疼痛のスクリーニング質問票として開発されたツールであり、8つの質問事項の素点から算出される(開発試験での感度78.8%、特異度75.6%)。さらに簡易版のSpine painDETECTでは、2つの質問事項の素点から算出される(開発試験での感度82.4%、特異度66.7%)。 紺野氏は、「神経障害性疼痛は、早期に診断できれば患者の痛みを治療・軽減できる疾患なので、病院やクリニックを問わず、プライマリケアの場などで、このスクリーニングツールを積極的に活用してもらい、診断に役立ててほしい」と期待を語り、講演を終えた。■参考1)Nagata T, et al. J Occup Environ Med. 2018;60:e273-e280.2)Inoue S, et al. PLoS One. 2015;10:e0129262.3)日本ペインクリニック学会神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂版作成ワーキンググループ. 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版.真興交易医書出版部;2016.p.43.■関連記事eディテーリング その痛み、神経障害性疼痛かも?

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高齢者の疼痛管理に必要なものとは?

 2018年7月19日より3日間開催された日本ペインクリニック学会 第52回大会(学会長:井関 雅子/テーマ「あなたの想いが未来のペインクリニックを創る」)のジョイント基調講演で「高齢者の疼痛管理に必要なものとは何か?」をテーマに、川井 康嗣氏(仙台ペインクリニック石巻分院 院長)が講演を行った。本稿ではこの講演の概要をお届けする。被災地特有の運動器障害と疼痛 川井氏は、東日本大震災の被災地である石巻・東松島地区で、約4年前からペインクリニックに従事し、主に高齢者の非がん性の痛みのマネジメントを行っている。 高齢者の「痛み」の多くは、加齢によるロコモティブシンドロームなどから起こる運動器障害の痛みであり、腰痛、関節痛および骨粗鬆症・脊椎椎体骨折などの整形外科疾患の痛みが多い。とくに石巻では、現在も狭小な仮設住宅に住む高齢者も多く、不良な生活環境が運動器の痛みの原因になっていることが推察される。また、震災で地域コミュニティが崩壊したこともあり、「生きがいを感じる場所の喪失は日常生活の不活発化~不動化をもたらし、患者に与えている影響は震災後7年を経過した現在でも大きい」と同氏は被災地の現状を語った。こうした高齢患者には良質の鎮痛とともに、不動化を予防するマネジメントが求められる。 不動化が生じている高齢患者の診療では、痛みが改善しても不動化が改善しない場合があり、その中には単なる運動不足ではない、いわゆる「生活不活発病」の症例があるという。これは、生活環境や人間関係の激変・喪失を契機に心身の機能が低下する状態であり、全国の他の被災地でも同様なことが生じているのではないかと危惧している。こうした症例では、「運動器の器質的なアプローチでは不十分であり、心理・社会的アセスメントと地域コミュニティ対策が求められる」と同氏は指摘する。老化の痛みのマネジメント 高齢者の運動アドヒアランスを維持するためには、1~2種類の体操に限定して指示することや、寝たきりが予防できる歩数として1日最低2,000歩以上は歩行するような提案(理想は速歩き20分を含む8,000歩/日:青柳幸利 The Nakanojo Studyより)、積極的な介護保険の申請と利用の推奨などを行う必要がある。また同時に、「医療者からは高齢患者に社会的な関わりを持たせるための工夫(男性ではスポーツ、ゲームなど競争要素のあるもの、女性では人間交流の点で利点の多い運動や趣味を中心に)を来院時に持ち掛けることも運動機能の維持に有益ではないか」と同氏は提案する。今後、こうした運動へのモチーベーションの提供のため、「同世代のサークル募集の張り紙や運動仲間のお誘いポスターを院内に掲示するなどの工夫をしたい」とも話す。 そのほか、高齢者では、退行変性(老化)の痛みを老化ではなく疾患と捉え、治癒を目指して闘っている姿がしばしば見られる。このような症例では、自己の老化を受け入れ、それをマネジメントしていくため、医療者からの丁寧な説明が必要だという。同氏は「医療者は、こうした患者に安易に鎮痛薬を処方するのではなく、薬物療法と同時に、投薬の意義についての教育も重要」と語る。高齢者の薬物療法はチームプレイで当たる 疼痛の薬物治療について、高齢者では出来る限りNSAIDsは慎重に使用し、アセトアミノフェンから使用することが望ましい。最近では、神経障害性疼痛に対する治療薬やオピオイド鎮痛薬が発売され、患者の選択肢は飛躍的に拡大した。しかし、忍容性の低い高齢者では、「細心の薬剤選択と用量調整(マルチモーダル鎮痛法や“start low, go slow”など)や副作用対策が必要となる。そのほか、薬物療法に神経ブロック療法を組み合わせることで、さらに良質な鎮痛が期待できる」と語る。 また、「高齢者では服薬アドヒアランスを維持することが重要で、看護師や薬剤師などを中心としたチームアプローチによって、患者に治療薬の説明や薬物療法の意義についての教育や副作用の相談や対処、残薬の確認などを行う必要がある。そのためにも日ごろから薬剤について学習会などを通じて、医療チーム全体で知識のアップデートを行うことが大事だ」と同氏は提案する。 最後に、「高齢者の疼痛管理では、鎮痛や不動化予防などの目標に加え、生きる自信を与えながら、人生のゴールに向かって苦痛や不安に寄り添う姿勢が求められる。今後も、高齢者が困ったときに、気軽に立ち寄れるようなクリニックを目指し診療を行っていく」と思いを語り、講演を終えた。■参考日本ペインクリニック学会 第52回大会■関連記事診療よろず相談TV シーズンII第21回「腰痛」回答者:福島県立医科大学 医学部 整形外科学講座 教授 紺野 愼一氏

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心房細動患者への抗凝固薬とNSAID併用で大出血リスク上昇【Dr.河田pick up】

 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は頻繁に使用される薬剤である一方、出血と血栓症のリスクを高める可能性がある。心房細動患者におけるNSAIDsの影響を定量化して求めることを目的として、Yale大学のAnthony P. Kent氏らが行ったRE-LY(Randomized Evaluation of Long Term Anticoagulant Therapy)試験のPost-Hoc解析結果が報告された。Journal of American College of Cardiology誌2018年7月17日号に掲載。RE-LY試験のpost-Hoc解析 RE-LY試験は、1万8,113例の心房細動患者を対象としてダビガトラン(110mgまたは150mgを1日2回)とワルファリンの有効性・安全性を比較した前向き試験で、2009年にNew England Journal of Medicine誌に報告された。 今回のPost-Hoc解析では、治療と独立した多変量Cox回帰解析を用いて、NSAIDsを使用した患者とそうでない患者の臨床成績を比較。相互作用解析は治療に応じたCox回帰分析を用いて求められた。NSAIDsの使用に関しては、時間依存共変量解析がCoxモデルを求めるのに使用された。大出血のエピソードはNSAIDsの使用で有意に上昇 RE-LY試験に組み入れられた1万8,113例の心房細動患者のうち、2,279例がNSAIDsを少なくとも一度、試験期間中に使用した。大出血の頻度はNSAIDs使用例で有意に高かった(ハザード比[HR]:1.68、95%信頼区間[CI]:1.40~2.02、p<0.0001)。 NSAIDsは糸球体濾過量(GFR)を減少させることが知られていて、ダビガトランは80%が腎臓からろ過されるが、NSAIDsの使用はダビガトラン110mg群、150 mg群いずれにおいても、ワルファリン群と比較して大出血のリスクに変化を与えなかった(相互作用のp=ダビガトラン110mg群:0.93、ダビガトラン150 mg群:0.63)。消化管出血はNSAIDs使用例で有意に高かった(HR:1.81、95% CI:1.35~2.43、p <0.0001)。脳梗塞および全身の血栓症もNSAIDs使用例で有意に高かった (HR:1.50、95% CI:1.12~2.01、p=0.007)。NSAIDsの使用による影響、ダビガトランとワルファリンで違いみられず NSAIDs使用例での脳梗塞、全身の血栓症に対する影響は、ダビガトラン110 mg群または150 mg群いずれでもワルファリン群との比較において違いはなかった。(相互作用のp=ダビガトラン110mg群:0.54、ダビガトラン150 mg群:0.59)。心筋梗塞の発生率や全死亡率はNSAIDs使用の有無で違いは認められなかった(HR:1.22、95% CI:0.77~1.93、p=0.40)が、NSAIDs使用例では入院率が高かった(HR:1.64、95% CI:1.51~1.77、p <0.0001)。心房細動患者で抗凝固薬が必要な患者において、NSAIDsの併用には注意が必要 筆者らは結論として、NSAIDsの使用は大出血、脳梗塞、全身の血栓症、入院率の上昇と関連していたと報告している。NSAIDsとの併用においてダビガトラン(110mgまたは150mg)の安全性と有効性は、NSAIDsとワルファリンの併用と比較しても違いがなかったとしている。 今回の研究で、これまでの研究と同様にNSAIDsは無害な薬ではないことが確認され、心房細動で抗凝固薬が使用されている患者においては、必要性を検討すべきであるとも記されている。

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