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炎症性サイトカインを標的とする生物学的製剤の登場により、関節リウマチ(RA)に対する治療指針は大きく変革し、関節破壊進行の抑制と身体機能の改善を目標に、疾患活動性を寛解にコントロールすることが重要と考えられるようになった。一方で生物学的製剤抵抗例も未だ存在し、また生物学的製剤は注射製剤で薬価が高いという問題点がある。 今回、平均年齢50歳、平均罹病期間8年で既存の治療に抵抗性(85%がMTX抵抗例、20%が生物学的製剤抵抗例)の難治例に対して、新規経口薬のヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬(トファシチニブ)の第3相無作為化試験の結果が示された。JAK阻害薬はIL-2,4,7,9,15,21のシグナルを阻害し、自己免疫応答を抑制すると考えられている。 治療開始3ヵ月で、トファシチニブ投与群の60%の患者が、腫脹関節数、圧痛関節数、患者あるいは医師の評価、身体機能評価、CRPの20%の改善を達成し、35%の患者が50%の改善、25%が70%の改善を示し、プラセボ群の26.7%,12.5%, 5.8%より有意に高く、治療開始後比較的速やかに疾患活動性が改善することが示された。身体機能についてもトファシチニブ投与群で有意に改善することが示された。腫脹関節数0-1、圧痛関節数0-1の寛解状態の達成は早期RA患者の治療目標であり予後を改善させると考えられているが、本研究にエントリーされたRA患者は難治例で罹病期間が長く寛解の達成は困難と予想され、トファシチニブ投与群の寛解率、低疾患活動性の達成率は8.7%、17%にとどまり、寛解達成率に関してはプラセボ群と比較して有意な改善は認められなかった。RAの治療は免疫抑制を伴うことから抗生剤の静脈投与を必要とするような重篤感染症の発生が問題となることがあるが、トファシチニブ投与群では610例中6例で6ヵ月以内に重篤感染症が発生した。 今後、早期例に対する寛解達成率、関節破壊進行の抑制効果、MTXの併用の治療成績、市販後全例調査等による安全性の評価などが検討されれば、経口薬であることで本剤の薬価が生物学的製剤より低く設定され、現在のRAの治療ストラテジーが再度大きく変革する可能性がある。