12.
レポーター紹介はじめにASCO2024の年次総会(5月31日~6月4日)は、今年も現地参加に加えWEBでの参加(視聴)も可能であり、私は昨年までと同様に現地参加はパスして(円安と米国のインフレ問題があり、現地参加は費用的に無理があります)、オンデマンドで注目演題を聴講したり発表スライドを閲覧したりしました。それらの演題の中から、今年は14演題を選んで、発表内容をレポートしたいと思います。以下に、悪性リンパ腫関連4演題、多発性骨髄腫関連6演題、白血病/骨髄増殖性腫瘍(MPN)関連4演題を紹介します。悪性リンパ腫関連Upfront allo-HSCT after intensive chemotherapy for untreated aggressive ATL: JCOG0907, a single-arm, phase 3 trial. (Abstract #7001)本演題は日本のJCOGからの発表で、ATLに対するアップフロントの同種移植の前向き試験の成績をまとめたものである。研究開始当初は、55歳以下で骨髄破壊的前処置(MAST)を行う患者のみをエントリー基準としたが、2014年9月以降は56~65歳の患者に対し骨髄非破壊的前処置(RIST)も許容された。2010年9月~2020年6月に110例の患者(72例:急性型、27例:リンパ腫型、10例:予後不良慢性型、1例:その他)がエントリーされ、92例が移植を受けた。41例がプロトコルどおりの治療を受け、51例はプロトコル治療外での移植であった(アップフロント同種移植は76例となった)。主要評価項目の3年OS(110例)は44.0%(90%CI:36.0~51.6)であり、仮説にメットした。プロトコル治療を受けた41例のうち、治療関連死(TRD)は血縁ドナー16.7%、非血縁ドナー20.7%であった。また、死亡した70例の死亡原因は、ATL 34例、TRD 30例、その他6例であった。結論として、ATLに対するアップフロント同種移植はアグレッシブATLに対し1つの治療オプションとなりうるが、生存期間の延長に関しては不明とされた。以下の3題はマントル細胞リンパ腫(MCL)に関する演題です。MCLは、悪性リンパ腫の中では比較的まれな疾患で、中悪性度に分類されますが、インドレントな経過を示す症例もあります。また、従来の免疫化学療法だけでは治癒が難しく、最近では、分子標的薬のBTK阻害薬やBCL-2阻害薬の有用性が示されています。Benefit of rituximab maintenance after first-line bendamustine-rituximab in mantle cell lymphoma. (Abstract #7006)初発MCLに対し、BR(ベンダムスチン-リツキシマブ)療法の後のR維持療法(RM)の意義については、PFS・OSを延長しない(Rummel, et al. ASCO 2016)、PFS・OSを延長する(Martin, et al. JCO 2023)という異なるデータが示されてきた。本研究では、米国で大規模な観察研究が実施され、RMの意義が検証された。BR療法(自家移植なし)後3ヵ月時点でPRあるいはCRの患者がエントリーされ、RM実施の有無で、無イベント(再発、次治療開始、死亡)率(EFS)が比較された。さらに、次治療開始例の無イベント率(EFS2)も比較された。613例がエントリーされ、318例がRMを受け、295例がRMを受けなかった。RM群では年齢が若く(69歳vs.71歳)、男性の割合が高く(78% vs.69%)、進展期の割合が高かった(95.2% vs.89.0%)が、リスク因子(MIPI)、組織型、Ki-67、TP53変異、複雑型染色体異常、BR療法の実施年代、BR療法の効果には差を認めなかった。追跡期間中央値が61.3ヵ月の時点で、RM群で有意にEFS(47.1ヵ月vs.29.7ヵ月)、EFS2(89.1ヵ月vs.48.3ヵ月)、OS(136.1ヵ月vs.74.3ヵ月)の延長を認めた。BR療法によりCRが得られた患者においても、RMにより有意にEFS、EFS2、OSの延長が示された。以上より、初発MCLに対するBR療法後のRMの有用性が明らかとなった。Efficacy and safety of ibrutinib plus venetoclax in patients with mantle cell lymphoma (MCL) and TP53 mutations in the SYMPATICO study. (Abstract #7007)SYMPATICO試験はMCL患者に対するイブルチニブ+ベネトクラクス(I-V)の効果を検証した試験であり、再発・難治(R/R)MCLに対しイブルチニブ+プラセボと比較した第III相試験では、有意にI-VのPFSがI単剤よりも延長することが報告されている(Wang M, et al. ASH 2023)。本発表では、R/R MCLに対するI-V療法の第I相試験、上記の第III相試験、また、初発MCLに対する第II相試験にエントリーされたTP53変異を有するMCL患者に対するI-V療法の効果が報告された。合計74例の患者(初発:29例、R/R:45例)が解析対象となり、年齢中央値67歳、HighリスクMIPI 43%、bulky 36%、骨髄浸潤64%、脾腫39%であった。治療期間中央値が40.1ヵ月時点で、PFS中央値20.9ヵ月、全奏効率84%、CR率57%、OS中央値47.1ヵ月であった。PFSは初発とR/Rにて差を認めなかった。I-V併用療法は、TP53変異陽性のHighリスクMCL患者にも有用であることが示された。Glofitamab monotherapy in patients with heavily pretreated relapsed/refractory (R/R) mantle cell lymphoma (MCL): Updated analysis from a phase I/II study. (Abstract #7008)CD20XCD3の二重特異性抗体であるglofitamab(Glof)単剤でのR/R MCLに対する臨床試験のフォローアップ(中央値:19.6ヵ月)のデータが報告された。Glofは固定期間(約8.5ヵ月間)の治療である。Glof治療を受けた60例のR/R MCL患者が解析された。前治療のライン数は2(1~5)、73.3%が最終治療に抵抗性、前治療にBTK阻害薬の投与を受けた31例中29例がBTK阻害薬に抵抗性であった。Glofは、中央値12サイクル投与され、全奏効率85.0%、CR率78.3%であり、CRが得られた患者の治療奏効期間(DOCR)の中央値は15.4ヵ月であった。とくに、BTK阻害薬の前治療歴のある患者の全奏効率は74.2%、CR率71.0%であり、DOCRは12.6ヵ月であった。R/R MCLの治療、とくにBTK阻害薬に抵抗性の患者に対し、Glofは有望な治療薬であることが示された。多発性骨髄腫関連今年の多発性骨髄腫(MM)の演題は、初発MMに対する4剤併用の試験の3演題とR/R MMに対するCAR-T細胞治療の3演題を紹介します。Phase 3 study results of isatuximab, bortezomib, lenalidomide, and dexamethasone (Isa-VRd) versus VRd for transplant-ineligible patients with newly diagnosed multiple myeloma (IMROZ). (Abstract #7500)移植非適応初発MM患者に対するVRd-Rd療法とIsaVRd-IsaRd療法を比較した第III相試験(IMROZ試験)の結果が報告された。80歳以上は除外され、VRd-Rd療法に181例、IsaVRd-IsaRd療法に265例が割り当てられた。主要評価項目はPFS、主な副次評価項目はCR率、MRD陰性率、VGPR以上率、OSであった。追跡期間中央値59.7ヵ月時点でのPFSは、54.3ヵ月vs.未達(HR:0.596)、CR率は64.1% vs.74.7%、MRD陰性CR率は40.9% vs.55.5%と、いずれもIsaVRd-IsaRd療法の有効性が優れた。Isa併用によりVRdのRDIの低下は認めず、安全性も問題とはならなかった。Phase 3 randomized study of isatuximab (Isa) plus lenalidomide and dexamethasone (Rd) with bortezomib versus IsaRd in patients with newly diagnosed transplant ineligible multiple myeloma (NDMM TI). (Abstract #7501)移植非適応初発MM患者に対するIsaRd(12サイクル)-IsaR療法とIsaVRd(12サイクル)-IsaVR(6サイクル)-IsaR療法を比較した第III相試験(BENEFIT/IFM2020-05試験)の結果が報告された。対象患者は65~79歳のnon-frail患者であった。両群135例ずつの患者が割り当てられた。主要評価項目は18ヵ月時点のMRD陰性率(NGS:10-5)であった。結果、MRD陰性率は26% vs.53%と、有意にボルテゾミブを追加した治療の効果が優れた。ただし、24ヵ月時点のPFS、OSは差を認めなかった。また、治療継続率には差を認めず安全性には問題がなかった。本研究では、主要評価項目でIsaVRd-IsaVR-IsaR療法が優れたため、対象の患者には本治療法が新たな標準療法となる可能性が示された。Daratumumab (DARA) + bortezomib/lenalidomide/dexamethasone (VRd) in transplant-eligible (TE) patients (pts) with newly diagnosed multiple myeloma (NDMM): Analysis of minimal residual disease (MRD) in the PERSEUS trial. (Abstract #7502)移植適応初発MM患者に対するDVRd療法とVRd療法、その後、DRとRによる維持療法を比較したPERSEUS試験の維持療法期のMRD陰性率についての結果が報告された。DVRd-DR群に355例、VRd-R群に354例が割り付けられた。治療開始後、12ヵ月、24ヵ月、36ヵ月時点のMRD陰性率(10-5)は、それぞれ65.1% vs.38.7%、72.1% vs.44.9%、74.6% vs.46.9%とDara併用群で有意に高い割合であり、また、経時的に陰性率の上昇を認めた。移植適応MM患者に対するDRによる維持療法の意義が示された。MRD陰性を持続できた患者のPFS、OSがどうなるか本試験の長期フォローアップの結果が注目される。Efficacy and safety of ciltacabtagene autoleucel±lenalidomide maintenance in newly diagnosed multiple myeloma with suboptimal response to frontline autologous stem cell transplant: CARTITUDE-2 cohort D. (Abstract #7505)自家移植治療(±地固め)を受けた後CRに到達しなかったMM患者を対象に、Cilta-Cel治療単独(最初の5例)とCilta-Cel治療21日以降から最長2年間レナリドミドを併用した12例の安全性、有効性が検証された。主要評価項目はMRD陰性率(10-5)であった。MRD評価が行えた15例中12例(80%)でMRD陰性が達成され、MRD陰性達成までの期間の中央値は1ヵ月であった。追跡期間の中央値が22ヵ月時点で、奏効期間の中央値は未到達、18ヵ月時点のPFSは94%(17例中16例)であった。CRSは14例でみられたが、すべてG1/2であった。ICANSは1例(G1)でみられた。また、レナリドミド併用による遷延する血球減少の有害事象の増加はみられていない。自家移植後にCRが得られない患者へのCilta-Celの投与は深い奏効が望める治療法である。Ciltacabtagene autoleucel vs standard of care in patients with functional high-risk multiple myeloma: CARTITUDE-4 subgroup analysis. (Abstract #7504)1~3ラインの前治療歴のあるR/R MM患者に対するCilta-Celと標準治療を比較したCARTITUDE-4試験に参加した患者(初期治療開始後18ヵ月以内に再発を認めたFunctional Highリスク患者を含む)の中で、セカンドラインでの治療効果を post hoc解析し、PFS、CR率、MRD陰性率を比較している。全体では、未到達vs.17ヵ月、71% vs.35%、63% vs.19%であり、Functional Highリスク患者では、未到達vs.12ヵ月、68% vs.39%、65% vs.10%であった。標準治療と比較し、Cilta-Celの有意な有効性が示された。R/R MM患者(とくにFunctional Highリスク患者)に対する早いラインでのCilta-Celの有用性が認められた。Impact of extramedullary multiple myeloma on outcomes with idecabtagene vicleucel. (Abstract #7508)髄外腫瘤(EMD)を有するMM患者に対するIde-Celの効果は不明である。Ide-Cel治療を受けた351例のR/R MM患者のうち、84例(24%)にEMDを認めた。EMD患者とEMDを有さない(Non-EMD)患者での患者背景で差を認めた因子は、年齢(62歳 vs.66歳)、PS 0-1(78% vs.89%)、ペンタドラッグ抵抗性(46% vs.32%)、リンパ球除去前の血清フェリチン値(591 vs.242)、CRP(2.1 vs.1.0)であった。治療効果は、全奏効率(@Day30)58% vs.69%(p=0.1)、全奏効率(@Day90)52% vs.82%(p<0.001)、PFS 5.3ヵ月vs.11.1ヵ月(p<0.0001)、OS 14.8ヵ月 vs.26.9ヵ月(p=0.0064)であった。また、EMD患者では、血球減少が多く認められた。EMDはIde-Cel治療の効果がNon-EMD患者と比較し、明らかに不良であることが示された。白血病/MPN関連Ponatinib (PON) in patients (pts) with chronic-phase chronic myeloid leukemia (CP-CML) and the T315I mutation (mut): 4-year results from OPTIC. (Abstract #6501)OPTIC試験の4年のフォローアップが報告された。OPTIC試験は、2剤以上のTKI治療抵抗性を有するか、T315I変異を有するCP-CML患者をポナチニブ45/30/15mgで開始し、IS-PCRが1%以下で45/30mg開始群は15mgに減量する治療法の有効性、安全性を検討した試験である。23.8%の患者がT315I変異を有していた。4年時点でのIS-PCRが1%以下率、PFS、OSを比較した。45mg→15mgの投与法で、T315I変異を有する患者で最も、IS-PCRの低下、PFSの延長がみられた。動脈閉塞の合併症率は同等であり、本試験の対象となった患者(とくにT315I変異を有する患者)に対しては、有効性、安全性の面から45mg→15mgのポナチニブの投与法が推奨される。A retrospective comparison of abbreviated course “7+7” vs standard hypomethylating agent plus venetoclax doublets in older/unfit patients with newly diagnosed acute myeloid leukemia. (Abstract #6507)メチル化阻害薬+ベネトクラクス(VEN)の併用治療は、通常の化学療法の実施が難しいfrail AML患者の標準療法となっている。VENの投与期間を28日/サイクルから短縮することで骨髄抑制は軽減されるが、有効性が失われないかどうかは不明である。VENの投与期間を7日間に短縮した7+7を実施したフランスの患者82例と通常の21~28日で投与したMDACC(USA)の患者166例をレトロスペクティブに比較した。CR+CRi率、CR率は両治療法で差を認めなかったが、CRに到達するためのサイクル数は7+7治療で、1サイクル多かった(2 vs.1サイクル)。OS中央値は11.2ヵ月 vs.10.3ヵ月、2年OSは28% vs.34%で差を認めなかった。8週時点での死亡率は6%と16%で有意に7+7で少なく、また、血小板輸血も少なかった。以上より、7+7の投与期間は、有効性、安全性の面でも十分に許容されると思われた。Updated safety and efficacy data from the phase 3 MANIFEST-2 study of pelabresib in combination with ruxolitinib for JAK inhibitor treatment-naive patients with myelofibrosis. (Abstract #6502)pelabresib(PELA)は新規のBET阻害薬であり、骨髄線維症(MF)の遺伝子発現を抑制する。MANIFEST-2試験はJAK阻害薬治療を受けたことがないMF患者に対するルキソリチニブ(Rux)+PELA(214例)とRux+プラセボ(216例)を比較した第III相比較試験である。DIPSSスコアがInt-1以上のMF患者が対象であり、主要評価項目は24週時点での脾臓体積の35%減少(SVR35)率であり、副次評価項目として症状スコア(TSS)の改善を検討している。結果、Rux+PELA群でSVR35率が65.9%(vs.35.2%)と、有意に多くの患者で脾腫の縮小が認められた。また、Rux+PELA群で、脾腫の縮小は早くみられ、その効果は長く維持された。TSSの改善も、Rux+PELA群で良い傾向が示された。また、貧血、骨髄線維化の改善がRux+PELA群で有意に多くみられた。有害事象としては、血小板減少と下痢がやや多かったが、総じてRux単独と変わりなかった。MFに対し、Rux単独と比較し、Rux+PELA併用が有効であることが示されている。ASC4FIRST, a pivotal phase 3 study of asciminib (ASC) vs investigator-selected tyrosine kinase inhibitors (IS TKIs) in newly diagnosed patients (pts) with chronic myeloid leukemia (CML): Primary results. (Abstract #LBA6500)初発CML患者に対し、既存のTKIとアシミニブ(ASC)を比較した第III相試験(ASC4FIRST試験)の最初の解析結果がLBAにて報告された。TKIの種類はランダム化前に主治医と患者の判断で選択された(IS-TKI)。また、ランダム化前に2週間以内であれば、TKIの服用が許容された。本試験の目的は、48週時点でのASC群のMMR達成率がIS-TKI群と比較して優れていることを示すことであった。ASC群に201例、IS-TKI群に204例(IM:102、第2世代[2G]:102[NI:48%、DA:41%、BO:11%])がエントリーされた。結果、48週時点のMMR達成率はASC群67.7%、IS-TKI群49.0%であり、有意にASC群で優れた。データカットオフ時点での治療薬の継続率は、ASC群86%、IM群62%、2G群75%であり、中止理由として、効果不十分が6%、21%、10%、有害事象が5%、11%、10%であった。以上の結果より、ASCは既存のTKIと比較し、初発CML患者に対する有効性、安全性に優れていることが示された。おわりに以上、ASCO2024で発表された血液腫瘍領域の演題の中から14演題を紹介しました。過去3年間のASCO2021、2022、2023では10演題ずつを紹介しましたが、今年発表された演題もこれまでと同様に、今後の治療を変えていくような結果であるように思いました。来年以降も現地開催に加えてWEB開催を継続してもらえるならば、ASCO2025にオンライン参加をしたいと考えています(1年前にも書きましたが、もう少しWEBでの参加費を安くしてほしい、さらに円安が続く今日この頃[笑])。