サイト内検索|page:9

検索結果 合計:414件 表示位置:161 - 180

161.

GLP-1RAによる肥満治療が食品ロスを増やしている

 減量目的で使用されているGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)が、食品の廃棄を増やしているとする、米オハイオ州立大学のBrian Roe氏と同パデュー大学のJamil Mansouri氏による論文が、「Nutrients」に9月27日掲載された。このような問題が示された一方で、GLP-1RAによる減量を開始後に、人々が摂取する食品が健康的なものにシフトする傾向も認められたという。 この研究では、GLP-1RAの新規使用者505人を対象に、食品廃棄状況の調査を行った。その結果、GLP-1RAの使用を開始後に「食べ物を無駄にする量が増えたか」という問いかけに否定した人が60.8%(強い不同意が26.7%、やや不同意が34.1%)いた一方で、同意した人が25.3%(強い同意が6.7%、やや同意が18.6%)を占めていた。ただし、GLP-1RAの使用開始から時間がたつほど食品の廃棄が減る傾向も認められた。 この結果についてRoe氏は、「GLP-1RA使用開始後に増加した食品廃棄が、薬剤使用の影響に患者が慣れるにつれて減るという事実は、この問題に対する簡単な解決策が存在する可能性を示唆している。つまり、GLP-1RAを新たに使い始める人たちに対してあらかじめ、食生活が変化するために食品廃棄が増加する可能性があることをアドバイスしておけば、使用開始後初期の食品廃棄を減らせ、出費も抑えられるだろう」と述べている。 GLP-1RAは、消化管ホルモンに作用して血糖値を下げるほかに、胃の内容物の排出を遅らせたり、脳に満腹感を伝えたりする働きを持つ。研究グループによると、米国では2024年春の時点で成人の6%がGLP-1RAを使用しているという。本調査の回答者の中で、GLP-1RAを1年以上継続使用していた人の減量幅は約20%だった。ただし、1年以上継続使用していたのは全体の4分の1程度だった。 調査データを詳しく解析した結果、同薬の使用に伴う吐き気が、人々が食べ物を廃棄する主な原因となっていることが示された。ただしそればかりでなく、GLP-1RA使用開始後に、人々が特定の食べ物をあまり好まなくなる傾向のあることも分かった。具体的には、GLP-1RA使用開始後は、アルコール、パスタなどの炭水化物、揚げ物、菓子、乳製品を避け、代わりに野菜、タンパク質食品、魚、健康的な脂質を食事に取り入れるような変化が見られるという。また野菜の消費量が増え始めるとともに、通常は最も廃棄されやすい食品である野菜の廃棄量は減る傾向が見られた。 では、GLP-1RAを使用している人に見られるこのような食習慣の変化は、食料品への出費を減らすことにつながるだろうか? この質問に対してRoe氏は、「おそらくそうだろう」と答え、実際にGLP-1RA使用による家計への影響を調査する研究を計画していることを明らかにした。また同氏は大学発のリリースの中で、「これらの薬剤を使用している人は、おそらく食費が減るだろう。その食費の削減効果がGLP-1RAの薬剤費によって相殺されてしまう可能性については、現時点では何とも言えない」と述べている。

162.

セマグルチドは心血管系疾患の既往と心不全を有する肥満患者の心不全イベントリスクを低下する:SELECT試験の2次解析(解説:原田和昌氏)

 肥満の人では心血管疾患のリスクが高まるが、これまでMACE(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)のリスクを低減しつつ効果的な体重管理ができることが証明された治療薬はなかった。SELECT試験は、糖尿病の既往がない過体重または肥満で、アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の既往を有する成人を対象に、GLP-1受容体作動薬セマグルチド2.4mg週1回皮下投与のMACE予防に対する有効性をプラセボ投与と比較した無作為化二重盲検試験であり、41ヵ国にて45歳以上の過体重または肥満の成人1万7,604例が登録された。なお、BMIが30以上を「肥満」とし、BMIが25以上30未満を「過体重」とした。セマグルチド2.4mg投与群ではプラセボ群と比較してMACEが20%有意に減少した。 本論文は英国のDeanfield氏らが、SELECT試験の症例登録時に心不全の既往を有する患者における、セマグルチドのMACE、および心不全(HF)リスクの軽減効果について、SELECT試験の事前規定分析により検証したものである。登録時にHFのあった患者4,286例中、53%がHFpEF、31.4%がHFrEF、15.5%が詳細不明のHFであった。エンドポイントは、MACE、複合HFエンドポイント(心血管死、HF入院、HF緊急受診)、心血管死、および全死因死亡である。 HFと非HFで、ベースライン特性は同様であったが、HF患者の臨床イベントの発生率が高かった。セマグルチド治療により、HF患者は非HF患者と比較してMACEのリスクが28%低下し、複合HFエンドポイントのリスクが21%有意に低下した。心血管死のリスクは24%低下し、全死因死亡のリスクは19%低下した。HFrEF患者はHFpEF患者よりも絶対リスクが高かった。セマグルチド治療により、HFrEF患者でMACEのリスクが35%、HFpEF患者では31%低下し、両タイプに有効であることが示された。複合HFエンドポイントのリスクは、HFrEFで21%、HFpEFで25%低下したがタイプ別では有意ではなかった。 本試験の結果はSELECT試験の主要結果と一致し、とくにHFrEF、HFpEFのタイプによらないHFイベントリスク低減効果を示したが、これまでGLP-1アナログ(リラグルチド)が急性心不全で入院したHFrEFの糖尿病患者の予後(死亡、再入院)を改善せず、むしろ悪化したという報告もあるため(FIGHT試験)、クラス・エフェクトと考えることは難しいかもしれない。また、Lancet誌の同じ号にてSELECT、FLOW、STEP-HFpEF、STEP-HFpEF DM試験の統合解析が行われて、「現時点で治療選択肢がほとんどないHFpEF患者において、セマグルチドが心血管死または心不全増悪イベントの複合を低減する有効かつ安全な治療法であることを支持する最も包括的なエビデンスをもたらすものである」(?)と結論付けているが、過体重または肥満で糖尿病のない、心血管系疾患の既往を有するというHFpEFの表現型が、とくに日本においてどれだけの患者に当てはまるのかは明らかでない。

163.

GLP-1RAが飲酒量を減らす?

 血糖降下薬であり近年では減量目的でも使用されているGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)が、飲酒量を減らすことを示唆する新たな論文が報告された。特に肥満者において、この作用が高い可能性があるという。英ノッティンガム大学のMohsan Subhani氏らによるシステマティックレビューの結果であり、詳細は「eClinicalMedicine」に11月14日掲載された。なお、本研究で言及されているエキセナチド等、GLP-1RAの禁酒・節酒目的での使用は日本を含めて承認されていない。一方で同薬が作用するGLP-1受容体は脳内にも分布しており、同薬が飲酒量を抑制するという前臨床試験のデータがある。 この研究では、Ovid Medline、EMBASE、PsycINFOなどのデータベースを用いて、2024年3月末までに報告された研究結果を検索、同年8月7日に新たに追加された報告の有無を確認した。主要評価項目は、GLP-1RAの使用と飲酒量の関連の評価であり、副次的に、GLP-1RAと飲酒関連イベントや機能的磁気共鳴画像法(fMRI)のデータなどとの関連を評価した。 解析対象研究として、6件の報告が特定された。このうち2件はランダム化比較試験(RCT)、3件は後ろ向き観察研究、1件はケースシリーズ(複数の症例報告)であり、3件は欧州、2件は米国、1件はインドで行われていた。研究参加者数は合計8万8,190人で、このうち3万8,740人(43.9%)にGLP-1RAが投与されていた。ただし、エビデンスレベルが高いと評価されるRCTとして実施されていた研究の参加者は286人だった。平均年齢は49.6±10.5歳で、男性が56.9%だった。 RCTとして実施されていた研究では、GLP-1RAのエキセナチドによる24週間の治療後30日間での飲酒量は、プラセボと差がなかった(大量飲酒の日数の群間差がP=0.37)。ただし、サブグループ解析では、肥満者(BMI30超)では肯定的な影響が認められ、fMRIで脳内の報酬中枢の反応に差が認められた。また、RCTの二次解析では、GLP-1RAのデュラグルチド群はプラセボ群と比較して、飲酒量が減少する可能性が有意に高かった(相対効果量0.71〔95%信頼区間0.52~0.97〕、P=0.04)。 観察研究では、DPP-4阻害薬が処方されていた患者や無治療の患者に比べて、GLP-1RAによる治療が行われていた患者では飲酒量が有意に少なく、飲酒関連イベントの発生も少なかった。 Subhani氏は、「GLP-1RAが将来的には過度の飲酒を抑制するための潜在的な治療選択肢となり、結果的に飲酒関連の死亡者数の減少につながる可能性があるのではないか」と述べている。なお、論文には、「GLP-1RAは一部の人の飲酒量を減らす可能性があることが示唆された。ただし、研究の結果に一貫性がなく、飲酒量を抑える目的でのGLP-1RAの有効性と安全性を確立するため、さらなる研究が求められる」と付記されている。

164.

セマグルチド2.4mg、MASHで有意な改善示す(ESSENCE)/ノボ ノルディスク

 GLP-1受容体作動薬のセマグルチドは代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)に有益であることが実証されているが、主要評価項目を「肝線維化の悪化を伴わないMASHの消失」「MASHの悪化を伴わない肝線維化の改善」とする第III相ESSENCE試験1)のPart Iで得られた結果がAASLD 2024 The Liver Meeting(米国肝臓学会議)において発表された。 本発表内容は11月25日付けでノボ ノルディスク ファーマがプレスリリースし、セマグルチド2.4mg(以下、セマグルチド群)のプラセボに対する優越性が報告された。 本試験の主要評価項目「肝線維化の悪化を伴わないMASHの消失」「MASHの悪化を伴わない肝線維化の改善」について、セマグルチド群でプラセボと比較し統計学的に有意な差が認められ、72週時で肝線維化の悪化を伴わないMASHの消失が認められたのは、セマグルチド群62.9%、プラセボ群34.1%だった。また、MASHの悪化を伴わない肝線維化の改善が認められたのは、セマグルチド群37.0%、プラセボ群22.5%であった。 副次評価項目である肝機能検査(ALT、AST、γ-GT[γ-GTP])やELFスコアも改善が示され、セマグルチド群の32.8%でMASHの消失と肝線維化の改善の両方が認められた。なお、プラセボ群では16.2%であった。 本試験の治験責任医師である米国・VCU School of MedicineのArun J. Sanyal氏は「本データからセマグルチド2.4 mgはMASHの進行を遅らせ、既存の肝機能障害を回復させることが明らかになった」とコメントしている。ESSENCE試験とは ESSENCE試験は、肝線維化が中等度~高度(ステージF2またはF3)の成人MASH患者を対象に、セマグルチド2.4 mg週1回皮下投与の効果を評価する第III相試験で、2つのパートから成る。被験者1,200例をセマグルチド2.4 mgまたはプラセボに2:1の割合で無作為に割り付け、標準治療に上乗せして240週間投与する。Part Iでは、無作為割付した最初の800例において、72週時点の肝生検の組織学的所見がセマグルチド2.4 mg投与により改善するかを検証した。Part IIは、セマグルチド2.4 mgによりプラセボと比較して240週時における肝関連事象の発現リスクが低下するかを検証することを目的としている。

165.

『糖尿病治療ガイド2024』発刊、GIP/GLP-1受容体作動薬を追加/糖尿病学会

 日本糖尿病学会は、糖尿病診療で頻用されている『糖尿病治療ガイド』の2024年版を11月に発刊した。糖尿病治療ガイド2024は、糖尿病診療の基本的な考え方から最新情報までをわかりやすくまとめ、専門医だけでなく非専門の内科医、他科の医師、医療スタッフなどにも、広く活用されている。今回の糖尿病治療ガイド改訂では、GIP/GLP-1受容体作動薬の追加をはじめ、2024年10月現在の最新の内容にアップデートされている。糖尿病治療ガイド2024は糖尿病診療ガイドライン2024に準拠 【糖尿病治療ガイド2024の主な改訂ポイント】・「糖尿病診療ガイドライン2024」に準拠しつつ、診療上必要な専門家のコンセンサスも掲載。・GIP/GLP-1受容体作動薬の追加など、最新の薬剤情報にアップデート。・「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)」に基づいた経口薬療法および注射薬療法の解説。・緩徐進行1型糖尿病の診断基準や糖尿病患者の脂質管理目標値、糖尿病性腎症の病期分類など、最新の基準・目標値の内容を反映。※アドボカシー活動の進展による言葉の変更は、いまだ適切な基準がないため、全面的な変更は見送った。 編集委員会は糖尿病治療ガイド2024の序文で「日々進歩している糖尿病治療の理解に役立ち、毎日の診療に一層活用されることを願ってやまない」と期待を述べている。

166.

減量薬のアクセス拡大が年4万人以上の米国人の命を救う可能性

 インクレチン製剤であるGLP-1受容体作動薬などの減量薬を、より広い対象に適用して多くの人がアクセスできるようにすることで、米国では年間4万人以上の命が救われる可能性があるとする論文が発表された。米イェール大学公衆衛生大学院のAlison Galvani氏らの研究によるもので、詳細は「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に10月15日掲載された。 肥満が死因として記録されることはめったにない。しかし、肥満は心血管代謝疾患をはじめとする多くの疾患のリスクを押し上げ、結果としてそれらの疾患による死亡リスクを高めている。米国では人口の74%が過体重や肥満(うち43%が肥満)に該当し、公衆衛生上の極めて大きな問題となっている。 消化管ホルモンであるインクレチンの作用を模倣した血糖降下薬であるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬(GLP-1RA)や、GLP-1とグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)の両受容体作動薬(GIP/GLP-1RA)が近年、減量目的で使用されるようになり、顕著な効果が報告されている。しかし、これらの薬剤は高額で、かつ肥満治療における保険の適用範囲も限られている。具体的には、肥満に伴う何らかの疾患を抱えている場合にのみ保険が適用され、単に減量目的で処方を受けるには月額1,000ドル以上の負担が発生する。そのため現状では、多くの肥満者がこれらの薬剤にアクセスできていない。Galvani氏らは、仮に減量目的でのGLP-1RAやGIP/GLP-1RAが、必要な全ての人にいきわたったとした場合のインパクトを推計した。 この研究では、まず、現時点での減量薬(GLP-1RA、GIP/GLP-1RA)の米国人の死亡抑制効果を推計したところ、1年間で8,592人(95%不確定区間8,580~8,604)の命が救われていると計算された。そのうち、糖尿病患者が2,670人(同2,657~2,684)を占めていた。 次に、BMIが30以上の人の全て、およびBMI25以上の糖尿病患者の全てがアクセス可能な状況を仮定した推計を行った。この場合、米国成人の45%以上が減量薬を使用することになる。解析の結果、1年間でさらに4万2,027人(4万1,990~4万2,064)の命が救われると計算された。そのうち、糖尿病患者は1万1,769人(1万1,707~1万1,832)だった。 この研究に関連してGalvani氏は、「医薬品へのアクセス拡大には、疾患罹患者の治療選択肢を増やすということだけでなく、重要な公衆衛生対策という側面もある」と解説。ただし同氏らは、GLP-1RAやGIP/GLP-1RAが高価であるため、全てを保険適用とするのは困難であり、かつ、現在でも既に需要の高まりによって慢性的な供給不足になっているという課題を指摘している。 論文共著者の1人である米フロリダ大学のBurton Singer氏は、「これらの課題に対しては多面的なアプローチが必要だ。医薬品の価格を製造コストに見合ったものとし、需要を満たし得る生産能力を確保しなければならない。それと同時に、多くの人々が必要な治療を受けられていないという、アクセスの問題にも取り組まなければならない」と述べている。

167.

エンパグリフロジン投与終了後もCKDの心・腎保護効果が持続、レガシー効果か?(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか EMPA-KIDNEY試験では、SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(エンパ)の心・腎保護作用が、糖尿病性腎症(DKD)のみならず非糖尿病CKD(CKD)においても示された(The EMPA-KIDNEY Collaborative Group. N Engl J Med. 2023;388:117-127.)。今回の報告は、同試験の終了後の追跡評価(post-trial follow-up)である。その結果、エンパの投与終了後、少なくとも1年間は心・腎保護作用が持続した。この成績が先行治療終了後も臓器保護作用が持続する、いわゆるレガシー(遺産)効果の初期像を観察しているとすれば、SGLT2阻害薬の新知見の可能性がある。EMPA-KIDNEY試験終了後の追跡研究 本研究では、EMPA-KIDNEY試験で無作為化された6,609例のうち、同意が得られた4,891例(74%)を登録し追跡評価の対象とした。EMPA-KIDNEY試験開始から追跡評価終了までを統合期間(4年間)とし、オーバーラップ期間を経て2年間を追跡観察期とした。全体での主要アウトカムイベントの発生は、エンパ群で865/3,304例(26.2%)、プラセボ群で1,001/3,305例(30.3%)であり(ハザード比[HR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.72~0.87)、統合期間中のエンパの有用性が示唆された。追跡期間の主要アウトカムは、腎疾患進行または心血管死の2つであった。その追跡評価期間の主要アウトカムイベントのHRは0.87(95%CI:0.76~0.99)であり、エンパ群で投与終了後も最長12ヵ月間、心・腎保護作用をもたらし続けることが示された。また、統合期間における腎疾患進行の発生率はエンパ群23.5%、プラセボ群27.1%、死亡または末期腎不全(ESKD)の複合の発生率はエンパ群16.9%、プラセボ群19.6%、心血管死の発生率はエンパ群3.8%、プラセボ群4.9%で、いずれもエンパ群で改善がみられた。一方、非心血管死への影響は両群とも5.3%で差異は認められなかった。なお、追跡期間中のエンパを含めたSGLT2阻害薬投与は治験担当医の判断に委ねられており、EMPA-KIDNEY試験終了後2年でエンパ群の45.4%、プラセボ群の42.0%がSGLT2阻害薬治療を受けていた。DKD/CKDにおけるSGLT2阻害薬の腎保護機序 DKD/CKDの進行性機序は多因子である。SGLT2阻害薬の腎保護作用は、Tubulo-Glomerular Feedback(TGF)機構を介した糸球体過剰濾過軽減が主な機序である。また、血圧改善、Na利尿、ブドウ糖尿とNa排泄による浸透圧利尿なども腎保護に寄与する。SGLT2阻害薬による代謝系改善は、血糖降下作用、尿酸値低下、脂質代謝改善、体重減少、Hb値上昇、ケトン体形成などがある。SGLT2阻害薬は、これらの複合的機序により、腎虚血改善、抗炎症作用、抗酸化作用、腎線維化抑制作用などを惹起する(Dharia A, et al. Annu Rev Med. 2023;74:369-384.)。CKDでは血糖低下による効果は期待されないため、腎保護にはTGFなど、他の機序が複合的に関与している。本論文のレガシー効果の信ぴょう性 2型糖尿病において早期から集中的に良好な血糖管理を行うと、全死亡リスク減少や糖尿病合併症を抑制するとの「レガシー効果」はUKPDS 91で報告された(1型糖尿病のDCCT研究のMetabolic Memoryも同義)。今回の所見が、エンパによる心・腎保護作用のレガシー効果の初期像を見ている可能性は否定できない。25万人の2型糖尿病治療のコホート研究において、SGLT2阻害薬を治療開始2年で早期導入することでCVD発症が減少するとのレガシー効果の報告はある(Ceriello A, et al. Lancet Reg Health Eur. 2023;31:100666.)。本研究は、観察期間がエンパ投与終了後2年と短期であることや、EMPA-KIDNEY試験終了後のエンパ群とプラセボ群とのSGLT2阻害薬投与率がほぼ同程度であることなどから、レガシー効果は(仮にあるとして)検出しにくい条件であった。それにもかかわらず、追跡期間に心・腎保護効果を認めたことは、レガシー効果を観察している可能性はある。DKD/CKDにおける心・腎保護療法の未来展望 DKDにおけるSGLT2阻害薬の心・腎保護作用は、EMPA-REG OUTCOME、CANVAS Program、DECLARE-TIMI 48、CREDENCEなどで確認され腎保護療法として確立してきた。その後、DAPA-CKDやEMPA-KIDNEYにおいてCKDにも腎保護作用が報告された。これらの試験の結果を踏まえ、2024年KDIGOガイドラインのDKD/CKD治療のアルゴリズムでは、SGLT2阻害薬とRAS阻害薬が第1選択とされ、病態に応じGLP-1受容体作動薬、非ステロイド型MRAを選択すべきことが推奨されている (Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) CKD Work Group. Kidney Int. 2024;105(4S):S205-S254.)。ここでRAS阻害薬とSGLT2阻害薬の腎複合エンドポイント(EP)のリスク減少度(RR)に注目すると、 RAS阻害薬であるARBを使用したRENAAL試験での腎複合EPのRRは16%、IDNT試験では19%であったが、SGLT2阻害薬を使用したDAPA-CKD試験ではRRは39%と著しい改善がみられた。また、EMPA-KIDNEY試験は、RR 28%の時点で有効性のエビデンスが明白であるとの理由で、独立データモニタリング委員会の勧告で早期中止となった。両薬剤間のRRは直接比較することはできないが、SGLT2阻害薬の優れた腎保護作用は明白である。 実臨床の問題として、DKDは低レニン性低アルドステロン血症によって、RAS阻害薬投与による高K血症のリスクは少なからず危惧される(Sousa AG, et al. World J Diabetes. 2016;7:101-111.)。その点、SGLT2阻害薬は、近位尿細管でのSGLT2抑制とそれに伴う浸透圧利尿によりK喪失的に作用するため高K血症は少ない。これらの両剤の相違から、今後、「SGLT2阻害薬をDKD/CKDの早期から使用することにより、さらなる腎予後改善が望めるかもしれない」との治療上の作業仮説が注目される。たとえば、EMPA-KIDNEY試験の試算では、エンパを腎機能軽度低下の早期(eGFR 60mL/分/1.73m2)に開始すると、中等度に低下した晩期(eGFR 30mL/分/1.73m2)に開始することに比較し、末期腎不全への移行を9年ほど延長することが期待される(腎生存期間:早期群17.8年vs.晩期群8.9年)(Fernandez-Fernandez B, et al. Clin Kidney J. 2023;16:1187-1198.)。SGLT2阻害薬のメタ解析からも、将来的に同剤がDKD/CKD治療において、Foundational drug therapy(基礎治療薬)となりうる可能性が注目されている(Mark PB, et al. Lancet. 2022;400:1745-1747.)。

168.

第241回 セマグルチドなどのGLP-1の類いが慢性痛の治療手段となりうる

セマグルチドなどのGLP-1の類いが慢性痛の治療手段となりうるGLP-1受容体作動薬セマグルチドが変形性膝関節症の痛みを緩和することが、先月末にNEJM誌に掲載された第III相STEP 9試験で示され1)、体重が大幅に減ればしばしば痛みが劇的に緩和することが確かとなりました2)。GLP-1受容体作動薬は多才で、体重を減らすことに加えて炎症抑制や免疫調節の働きがあります。心血管疾患では、体重減少以外のそのような作用が治療効果に寄与しているようです。たとえばGLP-1受容体作動薬の1つalbiglutideは2018年にLancet誌に結果が掲載されたHarmony Outcomes試験で、プラセボに比べて体重をほんの0.7kg多く減らしただけにも関わらず、心血管転帰(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)をより防ぎました3)。STEP 9試験で認められた鎮痛効果が心血管疾患での有益効果と同様に体重減少以外の要因を介しうるなら、痛みの新たな治療手段の道が開けそうです。そのような要因を示唆する動物実験結果が発表されています。10年前の2014年に発表されたネズミの実験では、脊髄のGLP-1受容体の活性化が炎症性の痛み、神経障害性疼痛、骨腫瘍の痛みを減らすことが示されています4)。最近発表された台湾のチームの研究では、セマグルチドが脊髄の神経炎症を阻害することで糖尿病ラットの神経障害性疼痛を緩和することが示されました。セマグルチドは糖尿病性神経障害による疼痛に対抗する神経保護作用を有するようであり、GLP-1受容体作動薬による炎症/痛覚過敏抑制が神経障害性疼痛の治療手段となりうると著者は言っています5)。また、韓国の研究者らによる別の最近の報告では、GLP-1から生じるペプチドの1つexendin 9-39がマウスの急性痛と慢性痛の両方を緩和しうることが示されました。さらに突き詰めたところ、exendin 9-39の一部のexendin 20-29がTRPV1に結合し、GLP-1受容体機能に手出しすることなく痛みを緩和すると判明しました。どうやらexendin 20-29は慢性痛の対処手段となりうると著者は言っています6)。セマグルチドはヒトのGLP-1と配列が94%一致するGLP-1アナログであり、セマグルチドもまたGLP-1受容体を介さない働きによる鎮痛作用を担うかもしれません。そのようなメカニズムの研究を進めることと並行して、セマグルチドをより活用できるようにする試験も実施できそうです。たとえば、肥満ではない変形性関節症(OA)患者の痛みもセマグルチドでSTEP 9試験と同様に緩和するかどうかを調べるべきでしょう2)。また、GLP-1受容体作動薬使用患者は軟骨がより損失し難いことが別の試験で示唆されており7)、OAでの関節の劣化をGLP-1受容体作動薬で抑制しうるかどうかを確かめるさらなる試験も必要なようです。参考1)Bliddal H, et al. N Engl J Med. 2024;391:1573-1583.2)Felson DT. N Engl J Med. 2024;391:1643-1644.3)Hernandez AF, et al. Lancet. 2018;392:1519-1529.4)Gong N, et al. J Neurosci. 2014;34:5322-5334.5)Lee SO, et al. Cells. 2024;13:857.6)Go EJ, et al. Exp Mol Med. 2024 Nov 1. [Epub ahead of print]7)Zhu H, et al. Ann Rheum Dis. 2023;82:1218-1226.

169.

肥満の膝OA患者へのセマグルチド、疼痛を改善/NEJM

 肥満(BMI値≧30)かつ中等度~重度の疼痛を伴う変形性膝関節症(OA)を有する患者において、週1回のセマグルチド皮下投与はプラセボと比較して、体重および膝OA関連の疼痛を有意に減少したことが示された。デンマーク・コペンハーゲン大学のHenning Bliddal氏らSTEP 9 Study Groupが二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果を報告した。体重の減少は疼痛などの膝OAの症状を緩和することが示されているが、肥満者のGLP-1受容体作動薬の効果は十分には研究されていなかった。NEJM誌2024年10月31日号掲載の報告。ベースラインから68週までの体重変化率、疼痛スコアの変化を評価 試験は11ヵ国61施設で68週間にわたり行われた。被験者は、肥満(BMI値≧30)であり、米国リウマチ学会(ACR)の分類基準で臨床的に膝OAと診断され、対象となる膝に放射線学的に中等度の変形が認められ、膝OA関連の疼痛(無作為化時のWestern Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index[WOMAC]疼痛スコアが40以上[スコア範囲:0~100、高スコアほどアウトカムが不良であることを示す])を有する患者を適格とした。 被験者を2対1の割合でセマグルチド群、プラセボ群に無作為に割り付け、セマグルチド(2.4mg)を週1回皮下投与またはプラセボを投与し追跡評価した。試験期間中、両群ともカロリー制限食と身体活動のカウンセリングを受けた。セマグルチドの投与は0.24mgで開始し、目標用量2.4mgの到達は16週時点とされた。2.4mgで許容できない副作用が認められた被験者には、治験担当医師が安全と判断すればより低用量(1.7mg)による投与の継続が可能であり、プロトコールでは、治験担当医師の裁量で目標用量2.4mgまで増量するための追加の試行を少なくとも1回行うことが推奨された。 主要エンドポイントは、ベースラインから68週までの体重変化率およびWOMAC疼痛スコアの変化。重要な検証的副次エンドポイントは、SF-36(ver.2)の身体機能スコア(スコア範囲:0~100、高スコアほどより良好な健康状態であることを示す)であった。体重、疼痛スコアいずれも有意に減少、SF-36身体機能スコアも有意に改善 2021年10月~2022年3月に計407例が無作為化された(セマグルチド群271例、プラセボ群136例)。平均年齢56歳、平均BMI値40.3、平均WOMAC疼痛スコア70.9であり、被験者の81.6%は女性であった。 被験者の多くが治療ピリオドを完了し(セマグルチド群86.7%、プラセボ群77.9%)、試験を完了した(それぞれ90.8%、89.7%)。試験ピリオドを完了したセマグルチド群235例において、最終受診時に2.4mgの投与を受けた被験者は211例(89.8%)であった。 ベースラインから68週までの体重の平均変化率は、セマグルチド群-13.7%、プラセボ群-3.2%であった(p<0.001)。同様にWOMAC疼痛スコアの変化は、セマグルチド群-41.7ポイント、プラセボ群-27.5ポイントであった(p<0.001)。 SF-36身体機能スコアの改善は、セマグルチド群がプラセボ群よりも有意に大きかった(スコアの平均変化12.0ポイントvs.6.5ポイント、p<0.001)。 重篤な有害事象の発現は、両群で同程度であった(セマグルチド群10.0%、プラセボ群8.1%)。最も多くみられた重篤な有害事象は良性、悪性および詳細不明の新生物(それぞれ3.3%、2.2%)および胃腸障害(1.5%、0.7%)であった。試験レジメンの永続的な中止に至ったのはセマグルチド群6.7%、プラセボ群3.0%であり、最も多くみられた理由は胃腸障害であった。

170.

GLP-1受容体作動薬、内視鏡検査の誤嚥リスクに影響するか/BMJ

 2型糖尿病患者に上部消化管内視鏡検査を行う際、検査前のSGLT-2阻害薬と比較してGLP-1受容体作動薬の使用では、肺吸引のリスクは上昇しないものの、内視鏡検査中止のリスクが高いことが、米国・ハーバード大学医学大学院のWajd Alkabbani氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年10月22日号に掲載された。米国のコホート研究 研究グループは、2型糖尿病患者の上部消化管内視鏡検査において、検査前のGLP-1受容体作動薬投与は、SGLT-2阻害薬投与に比べ肺吸引や検査中止のリスクを上昇させるかを評価する目的で、コホート研究を行った(ハーバード大学医学大学院薬剤疫学・薬剤経済学科などの助成を受けた)。 米国の2つの商用医療データベースを用いて、2016年1月1日~2023年8月31日に、上部消化管内視鏡検査前の30日以内にGLP-1受容体作動薬またはSGLT-2阻害薬を使用した18歳以上の2型糖尿病患者を特定した。 4万3,354例を解析の対象とした。内視鏡検査前に2万4,817例(平均年齢59.9歳、女性63.6%)がGLP-1受容体作動薬を、1万8,537例(59.8歳、63.7%)がSGLT-2阻害薬を使用していた。サブグループ解析でも全般に肺吸引リスクに差はない 主要アウトカムである内視鏡検査当日または翌日の肺吸引の1,000人当たりの重み付けリスクは、GLP-1受容体作動薬群が4.15、SGLT-2阻害薬群は4.26であり、両群で同程度であった(統合リスク比:0.98、95%信頼区間[CI]:0.73~1.31)。 内視鏡検査に使用した麻酔の種類や肥満度に基づくサブグループ解析でも、両群間に肺吸引リスクの差を認めなかった。また、個々のGLP-1受容体作動薬とSGLT-2阻害薬の比較でも、全般に肺吸引リスクに差はなく、エキセナチド-リキシセナチドのみリスクが高かった(統合リスク比:2.49、95%CI:1.36~4.59)が、症例数が少なく精度は低かった。BMI値≧30で検査中止リスクが高かった 副次アウトカムである内視鏡検査中止の1,000人当たりの重み付けリスクは、SGLT-2阻害薬群が4.91であったのに対し、GLP-1受容体作動薬群は9.79と増加していた(統合リスク比:1.99、95%CI:1.56~2.53)。 サブグループ解析では、BMI値≧30の患者でGLP-1受容体作動薬群の検査中止リスクが高かった(統合リスク比:2.60、95%CI:1.65~4.06)が、BMI値<30の患者では差を認めなかった(0.99、0.51~1.94)。また、SGLT-2阻害薬群と比較して、セマグルチド皮下注、デュラグルチド、エキセナチド-リキシセナチド、チルゼパチドは検査中止リスクが高かった。 著者は、「これらの知見は、無作為化試験によるエビデンスがない現在、内視鏡検査を必要とする患者に対する検査前のプロトコールの作成に役立つ可能性がある」としている。

171.

2型糖尿病患者の認知症リスクに対するSGLT2iの影響はデュラグルチドと同等

 高齢2型糖尿病患者の認知症リスクに対するSGLT2阻害薬(SGLT2i)の影響は、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)のデュラグルチドと同程度ではないかとする研究結果が報告された。推定リスク差の95%信頼区間は-2.45~0.63パーセントポイントだという。成均館大学(韓国)薬学部のBin Hong氏らの研究の結果であり、詳細は「Annals of Internal Medicine」に8月27日掲載された。 SGLT2iとGLP-1RAはいずれも、2型糖尿病に対して血糖降下以外の多面的な作用のあることが知られており、神経保護作用も有する可能性が報告されている。ただし、認知症予防という点での評価は定まっておらず、これら両剤の有効性を比較し得るデータは限られており、臨床上の疑問点として残されている。これを背景としてHong氏らは、リアルワールドデータを用いてランダム化比較試験を模倣する、ターゲット試験エミュレーション研究を行い、SGLT2iとGLP-1RAであるデュラグルチドの認知症リスクを比較検討した。 この研究では、韓国国民健康保険公団から入手した2010~2022年の同国における医療データを用いて、SGLT2iまたはデュラグルチドで治療が開始された60歳以上の2型糖尿病患者を抽出。主要評価項目を、臨床データに基づき推定される認知症とし、その発症は認知症の診断の記録から1年前と仮定した。交絡因子を調整後に、処方開始から5年間のリスク比とリスク差を求めた。 傾向スコアにより背景因子をマッチさせた結果、SGLT2iで治療が開始されていた1万2,489人(ダパグリフロジン51.9%、エンパグリフロジン48.1%)と、デュラグルチドで治療が開始されていた1,075人が解析対象となった。中央値4.4年の追跡期間中に、主要評価項目イベントはSGLT2i群で69人、デュラグルチド群で43人に発生。推定リスク差は-0.91パーセントポイント(95%信頼区間-2.45~0.63)、推定リスク比は0.81(同0.56~1.16)と計算され、いずれも非有意だった。 この結果に基づき著者らは、「われわれのデータから、SGLT2iとデュラグルチドの2型糖尿病患者の認知症リスクに対する影響はほとんど差がないことが分かった」と結論付けている。ただし、本研究の限界点として、HbA1cや糖尿病の罹病期間が調整されておらず、そのほかにも残余交絡が存在する可能性、および、GLP-1RAについては比較的初期に登場したデュラグルチドのみを評価対象としたことなどを挙げている。また、「われわれの研究結果は既報研究と一致するものではあるが、より新しいGLP-1RAを含めた解釈の一般化が可能か否かは不明であり、さらなる研究が求められる」と付け加えている。

172.

GLP-1受容体作動薬が消化管の内視鏡検査に影響か

 上部消化管内視鏡検査(以下、胃カメラ)や大腸内視鏡検査では、患者の胃の中に食べ物が残っていたり腸の中に便が残っていたりすると、医師が首尾よく検査を進められなくなる可能性がある。新たな研究で、患者がオゼンピックやウゴービといった人気の新規肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬)を使用している場合、このような事態に陥る可能性の高くなることが明らかになった。米シダーズ・サイナイ病院の内分泌学者で消化器研究者のRuchi Mathur氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に10月1日掲載された。 GLP-1受容体作動薬には胃残留物の排出を遅延させる作用があり、便秘を引き起こすこともある。このため、この薬の使用者では、全身麻酔を必要とする処置を受ける際に食べ物を「誤嚥」するリスクが増加する可能性のあることが指摘されている。Mathur氏らは、GLP-1受容体作動薬使用者では消化管に残留物が見られることがあり、それが内視鏡検査で鮮明な画像を得る上で障害になる可能性があると考えた。 そこでMathur氏らは、2023年1月1日から6月28日の間に胃カメラか大腸内視鏡検査、またはその両方を受けた過体重または肥満の患者209人のデータを後ろ向きに解析した。209人中70人がGLP-1受容体作動薬使用者(GLP-1群、平均年齢62.7歳、女性36人)、残りの139人は非使用者(対照群、平均年齢62.7歳、女性36人)であった。胃カメラのみを受けたのはGLP-1群23人、対照群46人、大腸内視鏡検査のみを受けたのはGLP-1群23人、対照群45人、両方の検査を受けたのはGLP-1群24人、対照群48人だった。 胃カメラのみを受けた対象者のうち胃残留物が認められた者の割合は、GLP-1群で17.4%(4人)であった。これに対し、対照群と、胃カメラと大腸内視鏡検査の両方を受けた患者で、胃残留物が認められた対象者はいなかった。 また、大腸内視鏡検査または胃カメラと大腸内視鏡検査の両方を受けた患者のうち、「腸管の準備が不十分」(便が残存しているなど腸管洗浄が不十分な状態)であった者の割合は、GLP-1群で21.3%(10/47人)に上ったのに対し、対照群では6.5%(6/93人)であった。 ただし、研究グループは良い知らせとして、GLP-1受容体作動薬使用の有無に関係なく、対象患者において誤嚥、呼吸困難、誤嚥性肺炎は発生しなかったことを挙げている。 それでも研究グループは、「胃や腸に食物や便が残留するリスクの上昇は憂慮すべきことだ」と注意を促す。なぜなら、そのような状態での内視鏡検査は、「病変の見逃しや患者の不満、処置のキャンセル、医療資源の浪費といった重大なリスク」をもたらすからだという。 研究グループは、「本研究結果は、内視鏡検査前のGLP-1受容体作動薬の使用に関するガイドラインの更新が必要かどうかを判断するために、さらなる研究が必要であることを示唆するものだ」との見方を示している。

173.

第236回 GLP-1薬セマグルチドは運動意欲を減らすらしい

GLP-1薬セマグルチドは運動意欲を減らすらしいマウスはよく走ります。回転車を与えると活動期である夜に10~12kmも毎日走ります1)。しかし糖尿病や肥満症の治療薬・オゼンピックやウゴービの成分であるセマグルチドをマウスに与えるとどうやら走る意欲が減るようで、プラセボ群の半分ほどしか走らなくなりました2)。セマグルチドのようなGLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)は今や信仰にも似たよすがとなっており、医療情報を提供するKFFが今年5月に結果を発表した調査では、米国の成人の実におよそ8人に1人(12%)がGLP-1薬を使ったことがあると回答しました3)。また、およそ17人に1人(6%)は使用中でした。セマグルチドはインスリン生成を促し、胃が空になるのを遅らせ、満腹感がより長続きするようにするGLP-1に似た働きを担います。過去20年ものあいだ調べられてきたGLP-1の代謝調節の仕組みはかなり詳しく判明しています。一方、最近になってGLP-1の代謝調節領域を超えたより広範な働きや脳への作用が明らかになりつつあります。そのような秘めたGLP-1の働きのいくつかが今月初めの米国・シカゴでの神経科学会(Society for Neuroscience)年次総会(Neuroscience 2024)で発表されました。セマグルチドがマウスの走る意欲をどうやら減退させることを示したイエール大学の上述の研究成果はその1つです。GLP-1の作用は食べ物、アルコール、コカイン、ニコチンと関連する快楽のほどを変えます。ネズミにGLP-1やその模倣薬を与えるとそれらの摂取意欲が下がることが示されています。セマグルチドを使う人の食べる楽しみが使い始める前ほどではなくなるのは、同剤が快楽や渇望に携わる脳領域の活性を抑えることに起因するようです。また、その働きのおかげでセマグルチドが薬物依存の治療の助けになりうることも示唆されています。イエール大学のRalph DiLeone氏らは運動などの気持ちよくなる行動にもセマグルチドの影響が及ぶかもしれないと考えました4)。そこで、根っからの運動好きで、それがどうやら楽しいらしいマウスを使ってセマグルチドの運動意欲への影響が調べられました。DiLeone氏らは14匹のマウスの半数7匹にセマグルチド、もう半数の7匹にはプラセボを1週間投与しました。それらマウスが回転車で毎日どれだけ走るかを調べたところ、セマグルチド投与群の走る距離は同剤投与前に比べて4割ほど(37.9%)減っていました2)。一方、プラセボ投与群ではそのようなことはなく、どうやらセマグルチドはマウスの走る意欲を減衰させたようです。続いて実際に走る意欲が低下しているのかが別のマウスを使って調べられました。その検討ではマウスが走っている最中に回転車がときどき強制停止(ロック)されます。マウスは鼻でレバーを押すこと(押下)でそのロックを解除することができます。ロックはその回数が多くなるほどレバーをより多く押下しないと解除できないようになっており、最終的にマウスはロックの解除を諦めます。諦めた時点でのレバー押下回数は回転車を走る意欲がどれだけ高いかを反映する指標となります。5日間のセマグルチド投与期間中のマウスのレバー最大押下回数はプラセボ投与群に比べて平均25%少なく、肥満マウスを使った検討でも同様の結果となりました4)。すなわちセマグルチドは食べ物や薬物への渇望を減らすのと同様に運動意欲も減らすようです。ヒトでの同様の作用は示されていません。オゼンピックやウゴービのヒトのデータのほとんどが運動を含む他の手当てを伴ったものであることがその理由かもしれません。とはいえ、セマグルチドのようなGLP-1薬が負の行動のみならず有益な振る舞いも妨げてしまう恐れがあることを今回の結果は示唆しています。Neuroscience 2024では他にもセマグルチドやGLP-1の類いの興味深い中枢神経系(CNS)作用の報告がありました。韓国のGachon Universityの研究者らはGLP-1受容体に結合するアンタゴニストexendin 9-39の断片の1つexendin 20-29の痛み緩和作用を示したマウス実験結果を報告しています5)。その研究ではexendin 20-29が痛み信号の伝達に携わる受容体TRPV1に結合し、GLP-1受容体機能には手出しすることなく痛みを緩和することが示されました。また、フランスの研究受託会社Neurofitのチームはセマグルチドのアルツハイマー病治療効果を示すマウスやラットの実験結果を報告しています6)。その効果の検討は臨床試験でも大詰め段階に入っており、Novo Nordisk社は初期アルツハイマー病患者へのセマグルチドの第III相試験2つ・EVOKE7)とEVOKE Plus8)を2021年に開始しています。結果は来年判明する見込みです9)。参考1)The Unexplored Effects of Weight-Loss Drugs on the Brain / TheScientist2)Semaglutide administration reduces free running as well as motivation for wheel access as measured by progressive ratio in mice / Neuroscience 20243)KFF Health Tracking Poll May 2024: The Public’s Use and Views of GLP-1 Drugs / KFF4)Weight-loss drugs lower impulse to eat - and perhaps to exercise too / NewScientist5)Glp-1 and its derived peptides mediate pain relief through direct trpv1 inhibition without affecting thermoregulation / Neuroscience 2024 6)Semaglutide's cognitive rescue: insights from rat and mouse models of alzheimer's disease / Neuroscience 20247)A Research Study Investigating Semaglutide in People With Early Alzheimer's Disease (EVOKE)8)A Research Study Investigating Semaglutide in People With Early Alzheimer's Disease (EVOKE Plus) 9)Atri A, et al. Alzheimers Dement. 2022;18:e06415.

174.

セマグルチドがタバコ使用障害リスクを下げる可能性

 GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)のセマグルチドが処方されている患者は、タバコ使用障害(tobacco use disorder;TUD)関連の受療行動が、他の糖尿病用薬が処方されている患者よりも少ないという研究結果が、「Annals of Internal Medicine」に7月30日掲載された。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学医学部のWilliam Wang氏らが報告した。 2型糖尿病または肥満の治療のためにセマグルチドが処方されている患者で喫煙欲求が低下したとの報告があり、同薬のTUDに対する潜在的なメリットへの関心が高まっている。これを背景としてWang氏らは、米国における2017年12月~2023年3月の医療データベースを用いたエミュレーションターゲット研究を実施した。エミュレーションターゲット研究は、リアルワールドデータを用いて実際の臨床試験をエミュレート(模倣)する研究手法で、観察研究でありながら介入効果を予測し得る。 本研究では、血糖管理目的でセマグルチドと他の7種類の血糖降下薬(インスリン、メトホルミン、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、スルホニル尿素薬、チアゾリジン薬、およびセマグルチド以外のGLP-1RA)が新規に処方された患者群での7件の比較対象試験を模倣した。12カ月間の追跡中にTUD関連の受療行動(TUD診断のための受診、禁煙補助薬の処方、禁煙カウンセリングの実施)を、Cox比例ハザードモデルとカプランマイヤー法により解析した。データセットに含まれる患者数は22万2,942人で、このうちセマグルチドが新規処方されていたのは5,967人だった。 解析の結果、セマグルチドは他の糖尿病用薬と比較してTUD診断のための受診が有意に少なく、特にインスリンとの比較において最も差が大きかった(ハザード比〔HR〕0.68〔95%信頼区間0.63~0.74〕)。一方、セマグルチド以外のGLP-1RAとの比較では最も差が小さかったが、統計学的に有意だった(HR0.88〔同0.81~0.96〕)。また、セマグルチドは禁煙補助薬の処方および禁煙カウンセリングの実施件数の低下とも関連していた。肥満の診断の有無で層別化した場合、いずれにおいても同様の関連が示された。なお、7件の比較対象試験の多くで、処方開始から30日以内にこれらの発生率の乖離が認められた。 著者らは本研究の限界点として、出版バイアスや残余交絡の存在、およびBMIや喫煙行動、薬剤使用コンプライアンスに関する情報が欠如していることを挙げている。その上で、「新たにセマグルチドが処方された患者は、セマグルチド以外のGLP-1RAを含む他の糖尿病用薬が新規処方された患者と比較して、TUD関連の受療行動が少ないことが示された。 これは、セマグルチドが禁煙に有益であるとする仮説と一致した結果と言えるかもしれないが、研究手法の限界により確固たる結論には至らず、臨床医が禁煙を目的としてセマグルチドを適応外使用することを正当化するものではない」と総括。また同薬によるTUD治療の可能性を評価するための臨床試験の必要性を指摘している。

175.

インスリン未治療の2型糖尿病、efsitora vs.デグルデク/NEJM

 インスリン治療歴のない2型糖尿病成人患者において、週1回投与のinsulin efsitoraα(efsitora)による治療は1日1回投与のインスリン デグルデク(デグルデク)治療に対して、糖化ヘモグロビン値(HbA1c)の低下に関して非劣性であることが示された。米国・the MultiCare Rockwood Center for Diabetes and EndocrinologyのCarol Wysham氏らQWINT-2 Investigatorsが、10ヵ国121施設で実施した52週間の無作為化非盲検実薬対照並行群間treat-to-target第III相試験「once-weekly [QW] insulin therapy:QWINT-2試験」の結果を報告した。efsitoraは、週1回投与を目的として設計された新しい基礎インスリンで、小規模な第I相ならびに第II相試験において、安全性および有効性はデグルデクと同等であることが示されていた。NEJM誌オンライン版2024年9月10日号掲載の報告。efsitoraの有効性についてデグルデクに対する非劣性を評価 研究グループは、18歳以上で、インスリン投与歴がなく、スクリーニングの3ヵ月以上前から1~3種類の非インスリン血糖降下薬による治療を受けるもHbA1cが7.0~10.5%で、BMIが45.0以下の2型糖尿病患者を、efsitora群またはデグルデク群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 efsitora群では週1回100単位(初回のみ300単位)を、デグルデク群では1日1回10単位から投与を開始し、空腹時血糖値80~120mg/dLを目標値として用量調整を行った。 主要エンドポイントは、ベースラインから52週までのHbA1cの変化量の非劣性で、efsitoraのデグルデクに対する非劣性マージンは0.4%ポイントとした。 副次エンドポイントは、GLP-1受容体作動薬使用の有無別のサブグループにおけるHbA1cの変化量の非劣性、ベースラインから52週までのHbA1cの変化量の優越性、48~52週の期間における持続血糖モニタリングによる血糖値が目標値70~180mg/dLの範囲内であった時間の割合などであった。 安全性の評価項目には低血糖エピソードなどが含まれた。52週のHbA1c変化量に関してefsitoraはデグルデクに対して非劣性 2022年6月3日~2024年4月10日の間に1,267例がスクリーニングを受け、合計928例(efsitora群466例、デグルデク群462例)が無作為化され、割付治療薬を少なくとも1回投与された。有効性解析集団には、efsitora群463例、デグルデク群458例が含まれた。 平均HbA1cは、efsitora群ではベースライン時8.21%から52週時には6.97%に低下した(最小二乗平均変化量:-1.26%ポイント)。一方、デグルデク群では8.24%から7.05%に低下した(同:-1.17%ポイント)。推定投与群間差は-0.09%ポイント(95%信頼区間[CI]:-0.22~0.04)であり、efsitoraのデグルデクに対する非劣性は確認されたが、優越性は示されなかった(p=0.19)。 GLP-1受容体作動薬の使用の有無別では、ベースラインから52週までのHbA1cの変化量(最小二乗平均変化量)は、使用患者集団ではefsitora群-1.26%ポイント、デグルデク群-1.19%ポイント、非使用患者集団ではそれぞれ-1.26%ポイント、-1.15%ポイントであり、群間差は-0.06%ポイントと-0.11%ポイントで、非劣性が示された。 血糖値が目標範囲内であった時間の割合は、efsitora群で64.3%、デグルデクで61.2%であった(推定群間差:3.1%ポイント、95%CI:0.1~6.1)。 臨床的に有意または重度の低血糖(レベル2または3)の発現頻度は、efsitora群では0.58件/曝露患者年(participant-year of exposure:PYE)、デグルデク群では0.45件/PYEであった(推定率比:1.30、95%CI:0.94~1.78)。efsitora群では重度の低血糖は報告されなかったが、デグルデク群では6件報告された。有害事象の発現率は、両群間で類似していた。 なお、中国で使用された持続血糖測定器は他国と異なるため、本報告には中国におけるデータは含まれていない。

176.

セマグルチドがHFpEF患者の心不全イベントを抑制/Lancet

 駆出率が軽度低下または保たれた心不全(HFpEF)患者の治療において、プラセボと比較してGLP-1受容体作動薬セマグルチドは、心血管死に対する効果は有意ではないものの、心血管死または心不全増悪イベントの複合エンドポイントと心不全増悪イベント単独のリスクを減少させ、忍容性も良好で重篤な有害事象の発現率は相対的に低いことが、米国・ミズーリ大学カンザスシティ校のMikhail N. Kosiborod氏らSELECT, FLOW, STEP-HFpEF, and STEP-HFpEF DM Trial Committees and Investigatorsの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌2024年9月7日号で報告された。4試験のHFpEF患者について統合解析 研究グループは、心不全イベントに及ぼすセマグルチド(週1回、皮下投与)の効果の評価を目的に、4つの無作為化プラセボ対照比較試験(SELECT、FLOW、STEP-HFpEF、STEP-HFpEF DM)の個々の参加者のデータを用いた事後的な統合解析を行った(Novo Nordiskの助成を受けた)。 STEP-HFpEF試験とSTEP-HFpF DM試験は肥満関連のHFpEF患者、SELECT試験はアテローム性動脈硬化性心血管疾患と過体重/肥満の患者、FLOW試験は2型糖尿病と慢性腎臓病の患者を登録した。セマグルチドの用量は、SELECT試験、STEP-HFpEF試験、STEP-HFpEF DM試験が2.4mg、FLOW試験は1.0mgだった。 今回の解析では、STEP-HFpEF試験およびSTEP-HFpF DM試験の全参加者と、SELECT試験およびFLOW試験の参加者のうちHFpEFの既往歴を有する患者を対象とした。 主要エンドポイントは、心血管死または初回心不全増悪イベント(心不全による入院または緊急受診と定義)までの期間の複合とし、心血管死までの期間と初回心不全増悪イベントまでの期間の解析も行った。主要エンドポイントはセマグルチド群5.4% vs.プラセボ群7.5% 4試験に合計2万2,282例が登録され、このうち3,743例(16.8%)がHFpEFの既往を有していた。1,914例がセマグルチド群、1,829例がプラセボ群だった。HFpEF患者の年齢中央値は64歳(四分位範囲:57~71)、1,425例(38.1%)が女性、3,382例(90.4%)が白人であった。追跡期間中央値は、STEP-HFpEF試験とSTEP-HFpF DM試験が13.2ヵ月、SELECT試験が41.8ヵ月、FLOW試験が40.9ヵ月だった。 HFpEF患者における心血管死または心不全増悪イベントの複合の発生は、プラセボ群が1,829例中138例(7.5%)であったのに対し、セマグルチド群は1,914例中103例(5.4%)と有意に低率であった(ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.53~0.89、p=0.0045)。複合エンドポイントのイベントを1件予防するのに要する治療必要数(NNT)は、1年間で97、4年間で28だった。 セマグルチド群では、心不全増悪イベントのリスクも低かった(54例[2.8%]vs.86例[4.7%]、HR:0.59[95%CI:0.41~0.82]、p=0.0019)。一方、心血管死単独のリスクには有意な差を認めなかった(59例[3.1%]vs.67例[3.7%]、0.82[0.57~1.16]、p=0.25)。投与中止に至った消化器イベントが多かった 重篤な有害事象の発現は、プラセボ群よりもセマグルチド群で少なかった(572例[29.9%]vs.708例[38.7%])。また、重篤な有害事象により試験薬の投与中止に至った患者も、セマグルチド群のほうが少なかった(142例[7.4%]vs.175例[9.6%])。 試験薬の投与中止に至った消化器イベントは、セマグルチド群で多かった(213例[11.1%]vs.49例[2.7%])。 著者は、「これらのデータは、現時点で治療選択肢がほとんどないHFpEF患者において、セマグルチドが心血管死または心不全増悪イベントの複合を低減する有効かつ安全な治療法であることを支持する最も包括的なエビデンスをもたらすものである」としている。

177.

セマグルチド、心不全で過体重/肥満ASCVDのMACE低下/Lancet

 アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)で過体重または肥満の患者において、GLP-1受容体作動薬セマグルチドはプラセボと比較し、心不全の有無やそのサブタイプにかかわらず、主要有害心血管イベント(MACE)と心不全複合エンドポイントの発生を減少させることが、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのJohn Deanfield氏らSELECT Trial Investigatorsが実施した「SELECT試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2024年8月24日号に掲載された。41ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 SELECT試験は、41ヵ国804施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2018年10月~2021年3月に参加者の無作為化を行った(Novo Nordiskの助成を受けた)。 年齢45歳以上、BMI値≧27の心血管疾患(心筋梗塞の既往歴、虚血性または出血性脳卒中の既往歴、症候性末梢動脈疾患)患者1万7,604例(平均年齢61.6[SD 8.9]歳、男性72.3%、平均BMI値33.4[5.0])を登録した。 これらの患者のうち8,803例を、セマグルチド2.4mgを目標用量として週1回皮下投与(16週間)で漸増する群に、8,801例をプラセボ群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、MACE(非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心血管死の複合)、心不全複合エンドポイント(心血管死、心不全による入院または緊急受診)、心血管死、全死因死亡とした。すべての評価項目を改善 1万7,604例中1万3,314例は登録時に心不全の既往歴がなく、4,286例(24.3%)は心不全の既往歴を有していた。心不全患者のうち2,273例(53.0%)は駆出率が保たれた心不全、1,347例(31.4%)は駆出率が低下した心不全、666例(15.5%)は分類不能の心不全だった。心不全の有無でベースラインの背景因子に差はなく、心不全患者は臨床イベントの罹患率が高かった。 セマグルチドは、心不全のない患者と比較して心不全患者において4つの評価項目のすべてを改善した。MACEのハザード比(HR)は0.72(95%信頼区間[CI]:0.60~0.87)、心不全複合エンドポイントのHRは0.79(0.64~0.98)、心血管死のHRは0.76(0.59~0.97)、全死因死亡のHRは0.81(0.66~1.00)であった。 セマグルチドによる治療は、駆出率が低下した心不全(MACEのHR:0.65[95%CI:0.49~0.87]、心不全複合エンドポイントのHR:0.79[0.58~1.08])と、駆出率が保たれた心不全(0.69[0.51~0.91]、0.75[0.52~1.07])の双方で予後を改善したが、駆出率が低下した心不全患者は駆出率が保たれた心不全患者よりも絶対的イベント発生率が高かった。投与中止率は駆出率が保たれた心不全で低い 重篤な有害事象は、心不全のサブタイプにかかわらず、プラセボ群に比べセマグルチド群で少なかった。また、セマグルチド群では、有害事象による恒久的な投与中止は主に胃腸障害によるもので、プラセボ群よりも高率であった(心不全患者:14.7% vs.9.0%、非心不全患者:17.2% vs.7.9%)。セマグルチド群の投与中止率は、駆出率が低下した心不全(17.4%)や分類不能の心不全(16.2%)に比べ、駆出率が保たれた心不全(12.7%)で低かった。 著者は、「この結果は、過体重または肥満で心不全を有するASCVD患者では、事前に詳細な心血管リスクの層別化を行う必要なしに、セマグルチドのベネフィットを受ける可能性があることを示唆する」としている。

178.

第230回 肥満症治療薬セマグルチドでコロナ死亡が減少

肥満症治療薬セマグルチドでコロナ死亡が減少ノボ ノルディスク ファーマの肥満症治療薬のGLP-1受容体作動薬セマグルチド2.4mg皮下注(商品名:ウゴービ)と新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)による死亡率低下との関連が第III相SELECT試験の長期経過解析で示されました1)。SELECT試験の被験者の割り振りは、COVID-19流行開始前の2018年10月に始まって2021年3月まで続き、被験者の受診は2023年6月29日に完了しました。すなわち同試験の期間はCOVID-19流行の最悪期である2020年3月~2022年3月の約2年間をすっかり含みます。SELECT試験には、太っていて(BMIが27以上)心血管疾患の既往があるものの糖尿病ではない45歳以上の1万7,604例が参加しました。それら被験者の選択基準は図らずも後に判明するCOVID-19重症化リスクが高い集団の特徴とかぶるものでした。よってSELECT試験のデータは、COVID-19重症化リスクが高い人のSARS-CoV-2感染後の経過がセマグルチドでどう変わるかを調べるのに好都合です。そこでハーバード大学関連のブリガム・アンド・ウィメンズ病院の研究者らはSELECT試験の被験者の半数の経過が3.3年間に達した時点までのデータを解析し、COVID-19の経過にセマグルチド投与がどう影響したかなどを検討しました。昨年の11月にNEJM誌にすでに報告されているとおり、心血管が原因の死亡率(心血管死亡率)はセマグルチド投与群のほうがプラセボ投与群に比べて低かったものの、p値は0.05を超える0.07で有意ではありませんでした2,3)。それゆえ他の副次転帰の検定はなされませんでしたが、あらゆる死亡の発生率(全死亡率)はセマグルチド投与群のほうが19%低く、そのハザード比0.81の95%信頼区間は有望なことに1未満に収まる0.71~0.93でした。そしてCOVID-19死亡率も全死亡率と同様にセマグルチド投与群のほうが低いことが今回の解析で示されました。セマグルチド投与患者はプラセボ群と同程度にSARS-CoV-2に感染しました。しかしSARS-CoV-2感染したセマグルチド投与患者のほうがSARS-CoV-2感染したプラセボ投与患者に比べてCOVID-19死亡をより免れており、その発生率はセマグルチド投与群のほうがプラセボ群より34%低くて済んでいました。また、SARS-CoV-2感染者の深刻なCOVID-19関連有害事象の発生率もセマグルチド投与群のほうがプラセボ群に比べて低いことが示されました(それぞれ2.6%と3.1%、p=0.04)。感染症による死亡率もセマグルチド投与群のほうがプラセボ群に比べて低くて済んでいました。それらの効果のメカニズムは不明です。体重の大幅な減少と重度のCOVID-19合併症が少なくて済むことの関連が肥満手術患者の観察試験で示されていることなどから察するに、セマグルチドの感染症死亡予防は体重減少のおかげらしいと著者は言っています1)。いずれにせよさらなる試験での検証が必要です。また、他の同種の薬の試験で新たな発見を得られそうです4)。参考1)Scirica BM, et al. J Am Coll Cardiol. 2024 Aug 27. [Epub ahead of print] 2)Lincoff AM, et al. N Engl J Med. 2023;389:2221-2232.3)Novo Nordisk A/S: Semaglutide 2.4 mg (Wegovy) cardiovascular outcomes data presented at American Heart Association Scientific Sessions and simultaneously published in New England Journal of Medicine. 4)Brigham-led study finds weight loss drug semaglutide reduced COVID-19 related deaths during the pandemic / Eurekalert

179.

高K血症によるRA系阻害薬の中止率が低い糖尿病治療薬は?

 高血圧治療中の2型糖尿病患者が高カリウム血症になった場合、レニン-アンジオテンシン系阻害薬(RA系阻害薬)を降圧薬として服用していたら、その使用を控えざるを得ない。最近の報告によれば、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は尿中カリウム(K)排泄を増加させ、高K血症のリスクを軽減させる可能性があることが示唆されている。今回、中国・北京大学のTao Huang氏らは2型糖尿病患者の治療において、GLP-1RAは高K血症の発生率が低く、DPP-4阻害薬と比較してRA系阻害薬が継続できることを示唆した。JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年8月12日号掲載の報告。 本研究はGLP-1RAとDPP-4阻害薬の新規処方患者における高K血症の発生率ならびにRA系阻害薬の継続率を比較するため、2008年1月1日~2021年12月31日の期間にGLP-1RAまたはDPP-4阻害薬による治療を開始したスウェーデン・ストックホルム地域の2型糖尿病の成人を対象に行ったコホート研究。解析期間は2023年10月1日~2024年4月29日。主要評価項目は、高K血症全体(K濃度>5.0mEq/L)および中等度~重度の高K血症(K濃度>5.5mEq/L)を発症する時間と、ベースラインでRA系阻害薬を使用している患者でのRA系阻害薬の中止までの時間であった。特定された交絡因子が70を超えたため、治療の逆確率重み付け法を用いた限界構造モデルによりプロトコルごとのハザード比(HR)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・ 対象者は3万3,280例で、その内訳はGLP-1RAが1万3,633例、DPP-4阻害薬が 1万9,647例、平均年齢±SDは63.7±12.6歳、男性は1万9,853例(59.7%)だった。・治療期間の中央値と四分位範囲(IQR)は3.9ヵ月(IQR:1.0~10.9)だった。・GLP-1RAはDPP-4阻害薬と比較して高K血症全体(HR:0.61、95%信頼区間[CI]:0.50~0.76)、中等度~重度の高K血症(HR:0.52、95%CI:0.28~0.84)の発生率の低さと関連していた。・RA系阻害薬を使用していた2万1,751例のうち、1,381例がRA系阻害薬を中止した。・GLP-1RAはDPP-4阻害薬と比較して、RA系阻害薬の中止率の低さと関連していた(HR:0.89、95%CI:0.82~0.97)。・本結果は、ITT解析および年齢、性別、心血管合併症、ベースライン時点の腎機能の層に渡って一貫していた。 研究者らは「糖尿病治療としてGLP-1RAを使用すれば、高血圧のガイドラインで推奨されている降圧薬をより広く使用できるかもしれない」としている。

180.

診療科別2024年上半期注目論文5選(糖尿病・代謝・内分泌内科編)

Post-trial monitoring of a randomised controlled trial of intensive glycaemic control in type 2 diabetes extended from 10 years to 24 years (UKPDS 91)Adler AI, et al. Lancet. 2024;404:145-155.<UKPDS 91>:早期からの血糖強化管理による糖尿病合併症低減効果は24年間持続する血糖の早期強化管理により合併症リスクが有意に低減し、その効果が長期にわたり持続する(メタボリックメモリー)ことを実証したUKPDSのさらなる延長報告です。まさに「鉄は熱いうちに打て」です。その効果はメトホルミンでもインスリン・SU薬でも認められました。Dapagliflozin in Myocardial Infarction without Diabetes or Heart FailureJames S, et al. NEJM Evid. 2024;3:EVIDoa2300286.<DAPA-MI>:急性心筋梗塞で入院した心不全・糖尿病のない患者において、ダパグリフロジンはプラセボと比較して総死亡・心不全入院のリスク低減効果に有意差なしSGLT2阻害薬は冠動脈疾患2次予防や心不全入院リスク低減の効果を有することが実証されていますが、それぞれのハイリスク者に限定した効果であることが示唆されました。同時期に、エンパグリフロジンでも同様の結果が報告されています(Butler J, et al. N Engl J Med. 2024;390:1455-1466)。Semaglutide in Patients with Obesity-Related Heart Failure and Type 2 Diabetes.Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2024;390:1394-1407.<STEP-HFpEF DM>:2型糖尿病を有する肥満関連心不全(HFpEF)患者において、セマグルチドはプラセボと比較して有意に症状スコア(KCCQ-CSS)を改善体重減少が心不全症状改善の主因だと思われますが、 GLP-1受容体作動薬による血行動態改善作用も関与したことが想定されています。本研究では心不全入院や心不全急性増悪といった臨床的アウトカムを評価できるほどの検出力はありませんでした。非糖尿病患者においても同様の結果が報告されています(Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2023;389:1069-1084)。Effects of Semaglutide on Chronic Kidney Disease in Patients with Type 2 Diabetes Perkovic V, et al. N Engl J Med. 2024;391:109-121.<FLOW>:2型糖尿病を有するCKD患者において、セマグルチドはプラセボと比較して有意にCKD進展を抑制GLP-1受容体作動薬には腎保護作用があることが期待されており、その機序として体重減少の他に、抗炎症・抗酸化ストレス・抗線維化作用が想定されています。本研究はCKD進展抑制を実証した点で臨床的意義が大きいでしょう。ただし、低リスク者での効果やSGLT2阻害薬等との併用効果を実証した質の高いエビデンスはまだありません。Effect of Fenofibrate on Progression of Diabetic RetinopathyPreiss D, et al. NEJM Evid. 2024:EVIDoa2400179.<LENS>:フェノフィブラートはプラセボと比較して早期糖尿病網膜症の進展を有意に抑制フェノフィブラートが中性脂肪低下作用とは独立して網膜保護効果を有することが示されました(本研究での中性脂肪中央値は138mg/dL)。本剤は腎機能低下者では投与禁忌である点や日本では網膜症への保険適用がない点に気をつけましょう。

検索結果 合計:414件 表示位置:161 - 180