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GLP-1受容体作動薬のNew Normalな選択【令和時代の糖尿病診療】第1回

第1回 GLP-1受容体作動薬のNew Normalな選択GLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1 RA)、その登場は10年前にさかのぼる。ちなみに、今年はインスリン発見から100年という、糖尿病分野において記念すべき歴史的な年である(にもかかわらず、コロナの影響で大々的なイベントは開催できていない)。それに比べ、たかだか生誕10年ではあるものの、これまでに数多くのGLP-1 RA製剤が登場し、エビデンスもそろってきており、大きな注目を集めている。ここで知識の整理として、GLP-1の生理作用を見てみよう。図1:GLP-1の多彩な生理作用(間接的作用を含む)画像を拡大する非常に多彩ではあるが、GLP-1 RAは、主に膵臓において血糖依存的にインスリン分泌を促進・グルカゴン分泌を抑制、肝臓においてグルコース産生を抑制、胃においては胃内容物排出の遅延により、血糖コントロールを行うという作用機序である。次に、分類を見てみよう。図2:GLP-1受容体作動薬の分類分類としては、まずヒトGLP-1由来かExendin-4由来かに大別され、各々1日1~2回もしくは週1回の投与方法があり、それに対応する製剤が存在する。さらに、今まではGLP-1 RAといえば注射薬という位置付けだったが、2021年に経口薬も加わったのである。これには大きな衝撃を受けた。重要な3つのポイント:適応患者の選択、合併症の管理、体重減少効果GLP-1 RAを使用するに当たって、重要なポイントが3つあるので、順に説明する。(1)作用機序から考えた適応患者の選択と早期導入この薬剤の作用機序は、「インスリン分泌促進系」の中でも「血糖依存性」に分類1)されるため、膵機能が保たれているインスリン非依存状態であることが必須である。すなわち、この薬剤の醍醐味を感じていただけるのは、罹病歴が比較的短く、内因性インスリン分泌能が保たれている、SU薬を多量に服用していない患者ということになる。一方、血糖依存性といえども万能ではなく、高血糖毒性を伴いインスリンの絶対的適応となるようなケースには不向きであることをご理解いただきたい。こういった場合は、糖毒性解除後に使用するとうまくいくことが多い。ひとつ症例で考えてみよう。63歳男性。脳梗塞で脳神経内科入院となり、救急外来時の随時血糖値283mg/dL、HbA1c 10.6%とコントロール不良の糖尿病を認め、血糖コントロール依頼で当科受診となった。未治療の患者で、体重85.0kg、BMI 31.2で、2度肥満を認めた。入院後に強化インスリン療法を開始、その後リハビリ目的にて転院となっている。リハビリ病院では混合型インスリン2回打ちに変更になり、3ヵ月後、当科に今後の治療につき相談があった。この時は随時血糖値141mg/dL、HbA1c 6.9%まで改善しており、体重79.0kg、BMI 29.0の1度肥満まで改善していた。総インスリン量は、22単位から12単位まで減量となっており、軽度の右不全マヒがあるものの、インスリン自己注射は問題なくできた。そこで主治医は、患者への負担を少しでも軽くしようと考え、インスリン分泌能も保たれていたため、週1回のGLP-1 RAへの切り替えを選択した。その後、3ヵ月間単剤での管理で3.1kgの減量に成功し、HbA1cも5.9%まで改善、患者さんも減量の成功を大変喜び、継続を希望したとのことである。この例は、GLP-1 RAの早期導入が功を奏したと考えられる。実際のところ、JDDM(糖尿病データマネジメント研究会)のデータを見ると、GLP-1 RAの処方は年々増加しているものの、HbA1cの目標到達率はインスリンと大きく変わらず、あまりよくない(私も言える立場ではないが反省の意味も込めて)。もしかしたら導入が遅いため、十分な効力が発揮できていないのかもしれない。(2)合併症抑制を考慮した治療選択治療選択の際、合併症(大血管症、細小血管症)を考慮できているだろうか? 2008年から米国FDA(食品医薬品庁)で、新規の血糖降下薬は心血管合併症を増やさないことの証明が必須になっているが、最近はむしろ血糖コントロール改善とは異なる機序で、糖尿病合併症を抑制する薬剤が注目を集めてきている。実際、GLP-1 RAは2021年ADAのStandards of Medical Care in Diabetes2)にも記載されているように、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)やCKDの合併、または高リスクがある場合は、メトホルミン使用とは無関係に優先的に使用すべき薬剤の1つになっている。わが国において薬剤の使用優先順位までは決められていないが、エビデンスのある薬剤の1つとして位置付けられているため、より処方するベネフィットが大きいと考えられる。図3:2型糖尿病における血糖降下薬:総括的アプローチ(ADA2021)画像を拡大する(3)体重減少、食欲抑制に対する効果GLP-1 RAの生理作用は、糖代謝改善作用以外に、胃内容物排出の遅延作用と中枢における食欲抑制作用があり、それには消化管で産生されたGLP-1が主に迷走神経を介して中枢へ作用する系、および中枢で産生されたGLP-1が作用する系の2つが関与するといわれている3)。いずれにせよ体重減少効果は大きく、米国では抗肥満薬としても上市されている(糖尿病薬の用量とは異なる)。セマグルチドの最近のエビデンスとして、太り過ぎまたは肥満成人に対する集中的行動療法の補助として有意な体重減少をもたらし4)、また従来の薬剤の約2倍の減量効果があり5)、肥満外科手術に匹敵するといわれるほどである。近年、高齢化が進むにつれ高齢者糖尿病患者も増加し、サルコペニアの問題も大きく取り沙汰されている。体重減少効果が筋肉量の減少を誘発していないかの問題も言われる中、経口セマグルチドにおける2型糖尿病患者のエネルギー摂取量、食事の嗜好、食欲、体重の効果についての論文が発表されている6)。表1:Changes from baseline in body weight and body composition as measured by Bodpod※ and waist circumference at week 12(day 3)※Bodpod:体脂肪測定装置(イタリア・COSMED SRL社製)表によると、12週で体重2.7kg、ウエスト2.4cmが減少しており、脂肪量は-2.6kg、除脂肪量-0.1kgと、減量のほとんどを脂肪量の減少が占めた。さらに、摂取エネルギーが減少するのはもちろんのこと、高脂肪食や甘味が有意に減少していたという嗜好の変化が非常にユニークな結果であった。また、GLP-1 RAの効果について、さらに細かい話にはなるが、ショートアクティングとロングアクティングでは、作用時間だけでなく血糖降下作用も異なるといわれている。まずロングアクティングは、主にインスリン分泌促進およびグルカゴン分泌抑制を介して血糖改善効果を発揮し、ショートアクティングに比べて空腹時血糖値やHbA1cの改善効果が大きいとされる。一方、ショートアクティングは主に胃内容物排出遅延作用やグルカゴン分泌抑制を介して血糖改善効果を発揮するとされる。実際、ロングアクティングの血糖改善効果は残存膵β細胞機能に依存するのに対し、ショートアクティングでは血糖改善効果と残存β細胞機能に明確な関連性を認めない。New Normal Selection GLP-1 RAさて、今回のタイトル「GLP-1受容体作動薬のNew Normalな選択」に対して、「何だろう?」と思って読んでくれた方の疑問にお答えしよう。コロナで流行ワードとなった「New Normal」、すなわち新しい生活様式のように、あらゆる行動を時勢に合わせてアップデートして動く中で、薬物治療の新たな選択肢としてGLP-1 RAの登場、そしてこの治療の幅が非常に広がったことで、新しい糖尿病診療が始まったことを意味する。たとえば、今までWeeklyのGLP-1 RA製剤は用量調節ができなかったが、セマグルチドではDaily製剤のように用量調節ができるようになった。実際は初期投与量・維持量・コントロール困難例と分けられているものの、消化器系症状が出やすい人や体重をあまり落としたくない高齢者など、人によっては初期投与量が維持量になるなど、使用範囲が広がる。また、過体重でとにかく減量させたい人やインスリンを減量したい人に高用量を使用するといった方法もあるかと思う。さらには、注射製剤をかたくなに拒否する患者さんには経口薬を選ぶこともでき、こちらも同様に3つの規格が使用できる。注射指導にハードルを感じる非専門医にとっても、経口薬なら処方しやすいのではないかと考えられる。いずれにせよ、まさにNew Normalな世界が広がる。ぜひ、ワクワクしながらこの薬剤を使用してみてはいかがだろうか?1)日本糖尿病学会編著. 糖尿病治療ガイド2020-2021. 文光堂;2020.2)American Diabetes Association. Diabetes Care. 2021;44(Suppl 1):S111-S124.3)上野 浩晶ほか. 日本糖尿病学会誌. 2017;60:570-572.4)Wadden TA, et al. JAMA. 2021;325:1403-1413.5)Wilding JPH, et al. N Engl J Med. 2021;384:989.6)Gibbons C, et al. Diabetes Obs Metab. 2021;23:581-588.

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新薬GIP/GLP-1受容体ダブルアゴニストは糖尿病診療に新たなインパクトを与えるか?(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか? 本論文は、2型糖尿病治療薬として開発された新規薬剤GIP/GLP-1のダブルアゴニストtirzepatideを臨床評価したものである。 同剤は、グルコース依存性インスリン刺激性ポリペプチド(GIP)に類似した39個のアミノ酸残基に長鎖脂肪酸を結合させた週1回注射製剤である。本剤の特徴は、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)とGIPの両受容体を刺激するダブルアゴニスト製剤として開発されたことである(GIP受容体の単独作動薬はない)。 GLP-1受容体作動薬のエビデンスは、多くの臨床研究でその有用性が肯定されている。すなわち、LEADER、SUSTAIN-6、REWINDなどでは心血管イベント(MACE)の改善効果が、さらにLEADER、SUSTAIN-6、AWARD-7などで2型糖尿病腎症の腎エンドポイントにも改善効果が報告されている。 本論文(SURPASS-1試験)は、tirzepatideのHbA1cや体重への効果をプラセボ群と比較した臨床研究である。その改善結果は、既存の糖尿病治療薬に比較しても驚くほど顕著であり、今後の糖尿病治療に一石を投じるものと考えられる。本論文の主たる結果 SURPASS-1試験においては、試験参加者の54%は未治療、糖尿病の平均罹病期間は4.7年、ベースラインの平均HbA1c 7.9%、平均体重85.9kg、BMI 31.9kg/m2であった。主要評価項目と重要な副次評価項目に、ベースラインから40週投与後のHbA1c低下および体重減少を指標とした。tirzepatideの最高用量群(15mg)において、プラセボに対してHbA1cは2.07%低下、体重は9.5kg(11.0%)減少した。この投与群の半数以上(51.7%)は、非糖尿病レベルであるHbA1c 5.7%未満に改善した。全体的な安全性は、既知のGLP-1受容体作動薬と同等で、消化器系の副作用が最も多い有害事象であった。 以上の結果から、tirzepatideが従来の糖尿病治療薬と比較しても顕著なHbA1cと体重の低下効果を有する可能性が示唆された。特徴は、本剤によるHbA1c低下や体重の減少は、従来の糖尿病治療薬に比べても著明な薬効であるも、しかるに胃腸障害の副作用が増加しないことであろう。また、重症低血糖がほとんどないことも特筆に値する。HbA1c 5.7%未満を達成でき、低血糖が少ない薬効を証明できた成績は、糖尿病内科医にとってもインパクトの高い論文と思われる。推定されるtirzepatideの作用機序 脂肪細胞にあるGIP受容体にGIPが結合すると脂肪蓄積に働くため、GIPは体重を増加させる作用がある。一方、視床下部にもGIP受容体があり、こちらにGIPが結合すると食事量を減らし体重減少効果が認められる。そのため、全体的には、GIP自体はそれほど体重を増やさないのではないかと考えられる。一方、GLP-1受容体刺激とGIP受容体刺激が相加されると、なぜGLP-1受容体作動効果が相乗的に高まるか、という疑問に関しては不明であり、今後の研究課題と思う。本論文の日本での意義付け 本研究を今後の糖尿病治療に外挿すると、BMIが30超の高度の肥満を伴う2型糖尿病患者が最も良い適応症になると思われる。今後、日本人にも多いと思われるBMI 25~27あたりでの層別解析が注目される。また、この効果が実際にMACE抑制に結び付くか否かはそれにも増してさらに興味深い。現在進行中のSURPASS-CVOT(NCT04255433)においては、デュラグルチドとの比較が計画され2024年末ごろには効果が確認される。 ただ、危惧される点もいくつかある。試験を完了できなかった対象患者が15%と多いこと、体重減少が大き過ぎること、などである。とくに、本邦のように高齢者2型糖尿病患者が多い条件下では、体重が下がり過ぎることがデメリットになる可能性がある。このことから、本邦での薬剤選択上は第1・第2選択薬のように早期ステージでの使用は少なかろうと思う。治療継続率が対照薬よりも良くなかったことからも、あくまでも現在のGLP-1受容体作動薬などの糖尿病注射剤と近似した位置付けになるのではないかと推察する。一方、インスリン/GLP-1受容体作動薬の配合剤がtirzepatideに置き換わっていく可能性もありえよう。本論文から何を学ぶ? 今後のインクレチン薬の展望は? GIP/GLP-1受容体ダブルアゴニストtirzepatideは優れた糖代謝改善作用を有することが示された。SURPASS-1に追従して、ほぼ同時にSURPASS-2の結果が報告され、ここではtirzepatide群をセマグルチド群と比較して検討し、SURPASS-1の結果と同様に前者で優れたHbA1c低下効果ならびに体重減少効果が確認されている(Frias JP, et al. N Engl J Med. 2021 Jun 25. [Epub ahead of print])。今後、SURPASS-3やSURPASS-5などで本剤の評価が次々と報告されていく予定があり、すべての試験で結果が一貫していると聞く。これらの集積は、現行の糖尿病ガイドラインを変える可能性もあろう。 また、インクレチン関連薬の配合剤の創薬の新たな話題として、GLP-1受容体作動薬にグルカゴンを付帯したデュアル製剤(cotadutide)が2型糖尿病腎症やNASHの治療薬として開発されている(Nahra R, et al. Diabetes Care. 2021 May 20. [Epub ahead of print])。グルカゴンは糖代謝の絶対悪ではなく、エネルギー産生作用を有しておりエネルギー消費を上げる方向に作用し、蠕動運動の低下や中枢神経を介して食欲を抑制する作用もあるようだ。これらの作用をGLP-1と組み合わせて効果を増強しようというのが、GLP-1/グルカゴン受容体作動薬である。実際に、GLP-1/グルカゴン受容体作動薬に関してグルコース吸収の遅延とインスリン感受性の改善がみられている。作用機序の面から、まだまだ検討の余地は残されるものの、興味深いダブル製薬の1つと思われる。

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基礎インスリンで治療中の2型糖尿病患者の血糖コントロールに対するCGMの効果(解説:小川大輔氏)

 糖尿病の診療において、血糖コントロール状況を把握する検査として血糖値とヘモグロビンA1cが通常用いられる。血糖値は採血時点の、ヘモグロビンA1cは過去1~2ヵ月間の血糖の状況を表す検査であり、外来診療ではこの2つの検査を同時に測定することが多い。さらにインスリンあるいはGLP-1受容体作動薬などの注射製剤を使用している患者は、日常生活において血糖を把握するために自己血糖測定を行うことが一般的である。 通常の自己血糖測定によるモニタリング(BGM)は測定のたびに指先を穿刺する必要があり、また連続した血糖の変動を捉えることができないという欠点がある。一方、近年使用されている持続血糖モニタリング(CGM)は一度装着すると血糖の変動を連続して把握することができるというメリットがある。CGMは毎食後や睡眠中の血糖コントロール状況がわかるため、糖尿病専門外来では糖尿病治療薬の変更や選択に活用されている。 2018年7月から2019年10月までに米国のプライマリケア施設で基礎インスリンを使用している2型糖尿病患者に対し、CGMの有効性の評価を目的とする無作為化臨床試験の結果がJAMA誌に報告された1)。対象は1日1回あるいは2回の基礎インスリンを用いて治療中の2型糖尿病患者であり、CGMまたはBGMでのモニタリングを行う群に2対1の割合で無作為に割り付けられた。インスリン以外の糖尿病治療薬の有無は問わないが、食前のインスリンは使用していないことが条件である。主要評価項目は8ヵ月後の平均HbA1c値、副次評価項目は血糖値が目標範囲内(70~180mg/dL)の時間の割合、血糖値が250mg/dL以上の時間の割合、8ヵ月後の平均血糖値である。 30歳以上の2型糖尿病患者175例が登録され、CGM群に116例、BGM群に59例が割り付けられた。平均HbA1c値は、CGM群がベースラインの9.1%から8ヵ月後には8.0%へ、BGM群は9.0%から8.4%へと低下し、CGM群で有意な改善効果が認められた。またCGM群はBGM群に比べ、血糖値が目標範囲内(70~180mg/dL)の時間の割合(59% vs.43%)、血糖値>250mg/dLの時間の割合(11% vs.27%)、ベースライン値で補正された8ヵ月後の血糖値(179mg/dL vs.206mg/dL)が、いずれも有意に良好であった。有害事象としては重症低血糖がCGM群で1例(1%)、BGM群で1例(2%)報告された。 基礎インスリン療法を行っているが血糖コントロールが不良(HbA1c値7.8~11.5%)の2型糖尿病患者に対し、従来のBGMをCGMに替えると8ヵ月後のヘモグロビンA1cがより低下したという結果である。これまでに1型糖尿病を対象とした試験でCGMを用いることにより血糖コントロールが改善するということは複数報告されており、強化インスリン療法を行っている2型糖尿病を対象とした試験2)でも同様の結果が報告されている。今回初めて基礎インスリン療法を行っている2型糖尿病を対象とした試験でCGMの有効性が示された。ただ、1日1~3回血糖値を測定するBGM群に対し、血糖の情報量が圧倒的に多いCGM群でもっと差があるかと思ったが、予想外にその差は0.4%とわずかであった。またHbA1c値8.5%以上のとくに血糖コントロール不良の患者では両群で有意差がなかった。これは本試験が糖尿病専門医のいる医療機関ではなくプライマリケア施設で実施されており、専門医が直接インスリン投与量の管理を行っていないことが関係していると考えられる。せっかくCGMを用いても、得られた血糖日内変動のデータを解釈しインスリン投与量の調節に活かせなければ意味がない。ただCGMを装着すればよいというわけではない、というメッセージをこの研究は与えている。

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tirzepatide、強力な血糖コントロール改善と減量効果/Lancet

 tirzepatideは、グルカゴン様ペプチド(GLP)-1受容体とグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)受容体のデュアルアゴニストである。米国・Dallas Diabetes Research Center at Medical CityのJulio Rosenstock氏らは、「SURPASS-1試験」において、本薬はプラセボと比較して低血糖リスクを増加させずに血糖コントロールと体重の顕著な改善効果をもたらし、安全性プロファイルもGLP-1受容体作動薬と類似することを示した。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2021年6月25日号で報告された。3用量を評価する第III相無作為化プラセボ対照試験 本研究は、4ヵ国(インド、日本、メキシコ、米国)の52施設で行われた第III相二重盲検無作為化プラセボ対照試験であり、2019年6月~2020年10月の期間に参加者の登録が行われた(Eli Lilly and Companyの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、食事療法と運動療法だけではコントロール不良な2型糖尿病で、注射薬による治療を受けておらず、スクリーニング時に糖化ヘモグロビン(HbA1c)値が≧7.0%(53mmol/mol)~≦9.5%(80mmol/mol)で、BMI≧23、過去3ヵ月間の体重が安定している患者であった。 被験者は、tirzepatide 5mg、同10mg、同15mgまたはプラセボを週1回皮下投与する群に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。投与期間は40週だった。 主要エンドポイントは、ベースラインから40週までのHbA1c値の平均変化量とした。 478例(平均年齢54.1歳、女性48%、平均罹患期間4.7年、平均HbA1c値7.9%[63mmol/mol]、平均BMI 31.9)が登録され、tirzepatide 5mg群に121例、同10mg群に121例、同15mg群に121例、プラセボ群には115例が割り付けられた。66例(14%)が試験薬の投与を中止し、50例(10%)は試験を中止した。HbA1c値:1.87~2.07%低下、15%以上の体重減少:13~27% 40週の時点で、tirzepatideのすべての用量群はプラセボ群に比べ、HbA1c値、空腹時血糖値、体重のベースラインからの変化量と、HbA1c目標値<7.0%(<53mmol/mol)およびHbA1c目標値<5.7%(<39mmol/mol)の達成割合が優れた。 平均HbA1c値は、5mg群ではベースラインから1.87%(20mmol/mol)低下し、10mg群で1.89%(21mmol/mol)、15mg群で2.07%(23mmol/mol)低下したのに対し、プラセボ群は0.04%(0.4mmol/mol)増加しており、プラセボ群との治療間の平均差の推定値は、5mg群が-1.91%(-21mmol/mol)、10mg群が-1.93%(-21mmol/mol)、15mg群は-2.11%(-23mmol/mol)であった(いずれもp<0.0001)。 空腹時血糖値は、5mg群ではベースラインから43.6mg/dL低下し、10mg群で45.9mg/dL、15mg群で49.3mg/dL低下したが、プラセボ群は12.9mg/dL上昇しており、プラセボ群との治療間の平均差の推定値は、5mg群が-56.5mg/dL(-3mmol/L)、10mg群が-58.8mg/dL(-3mmol/L)、15mg群は-62.1mg/dL(-3mmol/L)であった(いずれもp<0.0001)。 HbA1c目標値<7.0%(<53mmol/mol)の達成割合は、3用量のtirzepatide群が87~92%、プラセボ群は19%であり(プラセボ群との比較で、すべての用量がp<0.0001)、HbA1c目標値≦6.5%(≦48mmol/mol)の達成割合は、それぞれ81~86%および10%であった(すべての用量でp<0.0001)。また、HbA1c目標値<5.7%(<39mmol/mol)の達成割合は、3用量のtirzepatide群が31~52%、プラセボ群は1%だった(すべての用量でp<0.0001)。 tirzepatide群では、体重がベースラインから用量依存性に7.0~9.5kg減少したのに対し、プラセボ群では0.7kg減少した(すべての用量でp<0.0001)。15%以上の体重減少は、tirzepatide群では13~27%で達成されたが、プラセボ群は0%だった。 tirzepatide群で頻度の高い有害事象として、軽度~中等度の一過性の消化器イベント(悪心[tirzepatide群12~18% vs.プラセボ群6%]、下痢[12~14% vs.8%]、嘔吐[2~6% vs.2%])が認められた。臨床的に重大な低血糖(<54mg/dL[<3mmol/L])および重症低血糖は、tirzepatide群では報告されなかった。プラセボ群で1例が心筋梗塞で死亡した。 著者は、「本薬は、ほぼ正常値範囲に達する強力な血糖降下作用と、これまでに報告がないほど確固とした減量効果を示した」とまとめ、「2型糖尿病の単剤療法の選択肢となる可能性がある」と指摘している。

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新規GIP/GLP-1受容体作動薬、セマグルチドに対し優越性を示す/NEJM

 2型糖尿病患者において、tirzepatideはセマグルチドに対しベースラインから40週までのHbA1c低下が有意に優れていることが認められた。米国・National Research InstituteのJuan P. Frias氏らが、第III相無作為化非盲検試験「SURPASS-2試験」の結果を報告した。tirzepatideは、新規2型糖尿病治療薬として開発中のデュアル・グルコース依存性インスリン刺激性ポリペプチド(GIP)/グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬で、第III相国際臨床開発プログラムであるSURPASSプログラムにおいて、有効性と安全性が検討されている。そのうちSURPASS-2試験では、選択的GLP-1受容体作動薬セマグルチドの承認されている最高用量との比較が行われた。NEJM誌オンライン版2021年6月25日号掲載の報告。メトホルミンで血糖コントロール不良、tirzepatide(3用量)vs.セマグルチド SURPASS-2試験の対象者は、メトホルミン1日1,500mg以上による単独療法で血糖コントロール不十分(HbA1c:7.0~10.5%)の、18歳以上、BMIが25以上の2型糖尿病患者1,879例。tirzepatideの5mg群、10mg群、15mg群、またはセマグルチド(1mg)群に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。ベースラインの平均HbA1cは8.28%、平均年齢は56.6歳、平均体重は93.7kgであった。 主要評価項目は、ベースラインから40週までのHbA1c変化量であった。主な副次評価項目は、ベースラインから40週までの体重変化、ならびにHbA1c 7.0%未満および5.7%未満を達成した患者の割合とした。tirzepatide全投与群でセマグルチドよりHbA1cおよび体重低下が有意に低下 HbA1cのベースラインから40週までの推定平均変化量は、tirzepatideの5mg群-2.01ポイント、10mg群-2.24ポイント、15mg群-2.30ポイントで、セマグルチド群は-1.86ポイントであった。5mg群、10mg群、15mg群とセマグルチド群との推定群間差は、それぞれ-0.15ポイント(95%信頼区間[CI]:-0.28~-0.03、p=0.02)、-0.39ポイント(-0.51~-0.26、p<0.001)、-0.45ポイント(-0.57~-0.32、p<0.001)であった。tirzepatideの全用量群で、セマグルチド群に対する優越性が示された。 体重のベースラインから40週までの推定平均変化量は、5mg群-7.6kg、10mg群-9.3kg、15mg群-11.2kgおよびセマグルチド群-5.7kgであり、tirzepatide群の用量依存的な体重減少が認められ、tirzepatideの全用量群で、セマグルチド群より有意に減少した(最小二乗平均推定群間差はそれぞれ-1.9kg、-3.6kg、-5.5kg、すべてのp<0.001)。 主な有害事象(いずれかの投与群で発現率5%以上)は胃腸障害で、悪心がtirzepatide群17~22%、セマグルチド群18%、下痢が13~16%、12%、嘔吐が6~10%、8%であった。重症度はいずれも軽度から中等度であった。低血糖症(血糖値<54mg/dL)の発現率は、tirzepatideの5mg群0.6%、10mg群0.2%、15mg群1.7%、セマグルチド群0.4%であった。重篤な有害事象は、tirzepatide群で5~7%、セマグルチド群で3%であった。

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厳格な降圧により心血管イベント抑制、しかし腎機能低下例は多い〜SPRINT追跡最終報告(解説:桑島巖氏)-1397

 収縮期血圧120mmHg未満の厳格な降圧が140mmHg未満の緩和降圧に比べて心血管イベントを有意に抑制するという結果を示した2015年発表のSPRINT試験は、世界のガイドラインに大きな影響を与えた。本論文はランダム化解除後、約8ヵ月延長された後のイベントを解析した追跡解析である。 主要エンドポイント(心筋梗塞、脳卒中、心不全、心血管死)の発生は、厳格治療群1.77%/年対緩和治療群2.40%/年(HR:0.75)、全死亡は各々1.06%/年対1.41%/年でいずれも厳格降圧群で有意に少なく、2015年のオリジナル発表と同じ結果であった。 急性腎障害の発生に関しては、厳格降圧群が緩和降圧群に比べて有意に多いことはオリジナル論文ですでに明らかになっていたが、可逆性であると解釈されていた。しかし今回の追跡では、eGFRが30%以上低下した腎機能低下例が厳格降圧群148例(1.39%/年)、緩和降圧群41例(0.38%/年)でHR 3.67と大幅に増えていることは注目すべきである。腎透析や腎移植にまで至った例は両群ともいなかったようであるが、実臨床にあたっては厳格降圧による心血管イベント抑制を目指す一方で、腎機能に配慮しながら慎重な個別的降圧治療が必要であることを示している。

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非糖尿病肥満症に対するGLP-1受容体作動薬と運動の併用によるリバウンド抑制効果(解説:小川大輔氏)-1398

 肥満によるさまざまな健康障害に内臓脂肪蓄積が関与していることが知られている。また内臓脂肪蓄積があれば糖尿病や脂質異常症などの疾患を発症することが予測されるため、減量治療が推奨されている。そして治療の基本は食事療法、運動療法、行動療法などの生活習慣改善療法である。ただBMI≧35kg/m2の高度肥満症では、生活習慣改善療法で一時的に体重の減少が得られても、リバウンドを繰り返し、長期的にみると減量治療が成功しないことも多いとされている。 今回減量治療後の体重維持に、GLP-1受容体作動薬リラグルチド3mgと運動療法の併用が運動療法単独より有効であることがNEJM誌に報告された1)。この試験は非糖尿病の肥満成人(平均BMI 37.0kg/m2)を対象に、まず8週間の低カロリー食による減量を行い、その後体重がベースラインから5%以上低下した195例を4群(リラグルチド群、運動群、併用群、プラセボ群)に割り付け1年間治療が行われた。その結果、主要エンドポイントである無作為化の時点から治療終了までの体重変化は、併用群で-9.5kgと最も大きく、次いでリラグルチド群-6.8kg、運動群-4.1kgであった。また、副次エンドポイントである体脂肪率の変化は、併用群で3.9%と最も低下し、次いで運動群2.2%、リラグルチド群2.0%であった。 本試験で減量治療後のリバウンド抑制や体脂肪率低下に対し、リラグルチドと運動療法の併用が運動療法単独より有効であることが示された。また、糖化ヘモグロビン値やインスリン感受性、心肺持久力の改善が認められたのは併用群のみであったことは、従来の肥満治療に薬物療法としてGLP-1受容体作動薬を加えることの有用性を示唆していると考えられる。ただし安全性については、リラグルチド群において心拍数上昇と胆石症が併用群より多く認められており注意が必要である。また本試験はデンマークで実施された試験であり、日本人を対象にしていない点についても留意したい。 日本では現在のところ、GLP-1受容体作動薬の保険適用は2型糖尿病に限られており、非糖尿病肥満症に対しては適応外となっている。また自由診療での処方について、日本糖尿病学会は2020年7月9日に『GLP-1受容体作動薬適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解』を発表している2)。一部引用すると、「我が国において2020年7月時点で、一部のGLP-1受容体作動薬については、健康障害リスクの高い肥満症患者に対する臨床試験が実施されていますが、その結果はまだ出ていません。したがって、2型糖尿病治療以外を適応症として承認されたGLP-1受容体作動薬は存在せず、美容・痩身・ダイエット等を目的とする適応外使用に関して、2型糖尿病を有さない日本人における安全性と有効性は確認されていません」と記されている。以前に本連載第1365回のセマグルチドの臨床試験(STEP 3)のコメントでも述べたが、リラグルチドについてもセマグルチドと同様に、日本人の非糖尿病肥満症を対象とした臨床試験で安全性や有効性が確認されれば、肥満症の治療の選択肢となる可能性があると考えられる。

108.

GLP-1受容体作動薬セマグルチドは中止により体重減少効果が消失する(解説:住谷哲氏)-1392

 ダイエットでよく知られた現象にヨーヨー効果(yo-yo effect)がある。運動や食事でうまく減量できても、サボるとすぐに元の体重に戻ってしまうことが、玩具のヨーヨーの上下運動に似ていることから名付けられた。運動による筋肉量の維持を伴わずにカロリー制限だけで減量を試みると、減った筋肉量が脂肪に置換されてその後の減量が一層困難になる弊害もよく知られている。 STEPは抗肥満薬としてのGLP-1受容体作動薬セマグルチド注射薬開発を目的とした国際第III相試験プログラムである。すでにSTEP 1-3において、2型糖尿病の合併の有無に関係なく、セマグルチド2.4mg/週の投与により著明な体重減少がもたらされることが報告されている。STEP 4である本試験では、セマグルチドによる体重減少が投与を中止することでリバウンドするか否かを検討したwithdrawal trialである。 STEP 1-3とほぼ同様のプロトコルで実施された本試験において、対象患者はセマグルチド2.4mg投与20週後に2対1の割合でセマグルチド継続群と中止群にランダム化され、その後68週まで観察された。結果は、中止群では中止4週後にすでに体重のリバウンドが認められ、その後68週まで体重が増加し続けた。一方、継続群では68週までさらなる体重減少が持続した。つまりセマグルチド投与による体重減少効果は中止すると同時に消失すると考えられる。中止群における68週でのベースラインからの体重減少は論文中のグラフから見ると約8%程度である。STEP 1におけるプラセボ群における体重減少は約3%程度なので、概算すると中止48週後においても5%の体重減少は維持できている。単純に考えると中止1年後にはほぼ元の体重に戻ると考えていいだろう。 読者の多くも、外来で患者さんに「この薬はずっと飲み続けないとだめですか?」と質問されたことがあると思う。「薬で血糖(血圧、コレステロール値など)を抑えているので病気を治す薬ではありません。将来起こるかもしれない心臓病などの予防のためにずっと服用する必要があります」といつも答えているが、セマグルチドにもまったく同じことが言える。体重減少を維持するためには投与を続ける必要がある。長期投与に伴う安全性の問題、医療経済上の問題など、抗肥満薬としての一般的治療薬となるまでは解決すべき問題は山積していると思われる。

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高用量セマグルチドが肥満糖尿病患者の体重減量やQOLに有効である(解説:安孫子亜津子氏)-1378

 わが国では2010年からGLP-1受容体作動薬を糖尿病治療薬として使用しており、血糖降下作用以外の、食欲抑制効果、胃内容物排出遅延効果により、体重の減少効果も期待できる薬剤である。2020年からわが国でも使用できるようになった週1回注射製剤のセマグルチド(Sema)(商品名:オゼンピック)は、26位アミノ酸のリジンに脂肪酸を結合させることでアルブミンへの結合が増強されて分解が遅延するため、血中半減期が約1週間のGLP-1アナログである。 これまでにSemaの2型糖尿病患者への臨床試験は「SUSTAINプログラム」として、多くの試験が実施され、Sema 0.5mgおよび1.0mgの血糖降下作用、および体重減少作用が報告されてきた。わが国でのSema 1.0mg単独療法での30週における体重減少効果は-3.87kgであった1)。さらにSUSTAIN-6では心血管イベントの有意な抑制効果が認められている2)。 今回Lancet誌で紹介された「STEP 2試験」は、BMI 27kg/m2以上の肥満または過体重である2型糖尿病患者に対して、高用量2.4mgのSemaの効果を、糖尿病治療薬として使用されている1.0mg Semaおよびプラセボと比較した第III相臨床試験である。12ヵ国、149施設の患者、計1,210名が参加しており、アジア人種も26.2%含まれている。参加者の治療介入前平均体重は99.8kg、平均BMIは35.7kg/m2であり、わが国の2型糖尿病患者の平均BMIに比較するとかなり高値である。 68週の治療で、本試験の主要評価項目である体重の減少率は、Sema 2.4mgでは-9.6%であり、プラセボの-3.4%に比較して6.2%減少に差が認められた。Sema 1.0mgでは-7.0%であり、Semaの投与用量を多くすることでさらなる体重減少効果が認められたこととなる。実際の体重減少で見るとSema 2.4mgでは-9.7kg、Sema 1.0mg で-6.9kg、プラセボ-3.5kgであり、これまでのSema治療用量に比較してその体重減少効果が大きいことが示されている。 そのほか、HbA1c、収縮期血圧、脂質パラメーターなど、すべてプラセボに比較して改善効果が認められているが、とくに興味深かった結果は、HbA1cはSema 2.4mgと1.0mgでともに-1.6%、-1.5%と同等の低下作用であり、糖尿病薬としてのGLP-1の効果は1.0mgでほぼ十分であることがわかる。ちなみに低血糖の発現はSema 2.4mgで5.7%、Sema 1.0mgで5.5%と同等であり、高用量のSemaで低血糖が誘発されるわけではないことも理解できる。 副作用に関しては、既存のGLP-1受容体作動薬同様に吐き気や嘔吐、下痢、便秘といった消化器症状が最も多く、Sema 2.4mgとSema 1.0mgでほぼ同程度であった。そのほか、高用量Semaによる特異的な副作用は認められていない。 肥満によって患者のQOLが低下することが多いが、本試験ではSF-36v2とIWQOL-Lite-CTといった2つの方法で治療によるQOL変化の評価を行っている。その結果、Sema 2.4mgではプラセボに比較して身体的活動が改善していることが示されている。週に1回の注射で、これだけの体重減少効果と各種代謝パラメーターの改善が認められることは、これまでの抗肥満薬や肥満手術に比較してもQOLを向上させる効果が期待できると考えられる。 今回のSTEP 2試験の結果から、高用量のSemaにより、長期的にどれくらいの心血管イベント抑制効果が認められるかどうかに今後注目したい。今後、肥満糖尿病患者の治療の主軸としてGLP-1受容体作動薬が位置付けられことが予想される。現在、数々のSTEP試験によって糖尿病のない肥満者においてもその有効性が示されており、さらに幅広い患者での使用機会が期待される。

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抗肥満薬としてのGLP-1受容体作動薬セマグルチドの有効性(解説:住谷哲氏)-1375

 高血圧、高脂血症および2型糖尿病などの生活習慣病の多くは肥満と関連している。さらに肥満を改善すれば高血圧、高脂血症および2型糖尿病の改善がみられることも少なくない。高血圧には降圧薬、高脂血症にはスタチンやフィブラート製剤、2型糖尿病には血糖降下薬が使用可能であるが、肥満に対する治療薬としてわが国で認可されているのは食欲抑制剤としてのマジンドール(商品名:サノレックス)のみである。肥満大国の米国ではこれに加えて、腸管からの脂肪吸収を抑制するリパーゼ阻害薬であるorlistat(商品名:Xenical)、中枢神経系に作用するphentermine/topiramate(商品名:Qsymia)、naltrexone/bupropion(商品名:Contrave)も販売されているがいずれも副作用が問題で長期使用できる薬剤ではない。 インクレチン関連薬であるGLP-1受容体作動薬は血糖降下薬として開発されたが、体重減少作用を有することから抗肥満薬として以前から注目されてきた。リラグルチドは抗肥満薬(商品名:Saxenda)としてすでにわが国以外の多くの国で認可されている。本論文はセマグルチドの抗肥満薬としての有効性と安全性を検討した国際第III相試験プログラムSemaglutide Treatment Effect in People with Obesity(STEP)の一つであるSTEP 1についての報告である。その結果は、セマグルチド2.4mgの週1回投与は68週後にプラセボと比較して約15%の体重減少をもたらした。head to head試験の結果を待つ必要があるが、SCALE試験1)で報告されたリラグルチド3.0mg投与による体重減少率はプラセボ群と比較して-4.5%であったのに対し、本試験ではプラセボ群と比較して-12.4%でありセマグルチド2.4mg投与による体重減少率がリラグルチド3.0mg投与より大きいと思われる。 Googleで「GLP-1ダイエット」と入力して検索すると249,000件がヒットした(2021年4月11日現在)。その多くは楽に痩せる注射としてGLP-1受容体作動薬を紹介している。この問題については2020年日本糖尿病学会が「GLP-1 受容体作動薬適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解」として警告を発している2)。現時点で2型糖尿病患者以外への投与は論外であるが、本剤を使用することが有益である肥満患者のためにも、わが国でも抗肥満薬としてのGLP-1受容体作動薬が認可されることを期待したい。

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高齢者糖尿病治療ガイド2021を発行/日本糖尿病学会・日本老年医学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木浩二郎)は、同学会と日本老年医学会で合同編集・執筆した『高齢者糖尿病治療ガイド2021』を同学会のホームページで3月24日に発表し、刊行した。 超高齢社会のわが国では、高齢者の糖尿病管理は深刻な問題であり、両学会は2015年4月に合同委員会を設置。「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」の策定・公表やさまざまなガイドを発行することで高齢者糖尿病診療に道筋を示してきた。高齢者糖尿病治療ガイド2021では11の具体的な症例を提示 今回改訂された高齢者糖尿病治療ガイド2021では、高齢糖尿病患者に多い認知症、サルコペニア・フレイル、“mulitimorbidity”などの併存症、介護保険など高齢者をサポートする諸制度などの高齢者糖尿病患者に特化した内容が掲載されている。また、読者の理解に役立つようにと「高用量SU薬投与中の高齢者」や「中等度の認知症」など11の具体的な症例を提示し、糖尿病診療に従事する医療者以外にでも参考にできるように工夫されている。 下記に高齢者糖尿病治療ガイド2021の主要な項目を示す。高齢者糖尿病治療ガイド2021主要な目次項目1.高齢者糖尿病の特徴2.高齢者糖尿病の診断3.高齢者糖尿病の総合機能評価4.高齢者糖尿病の治療方針5.高齢者糖尿病の食事療法6.高齢者糖尿病の運動療法7.高齢者糖尿病の薬物療法8.低血糖およびシックデイ9.高血圧、脂質異常症、メタボリックシンドローム、サルコペニア肥満10.高齢者糖尿病における合併症とその対策11.高齢者に多い併存症とその対策12.さまざまな病態における糖尿病の治療13.高齢者糖尿病をサポートする制度具体的な症例(各項目の間に挿入)[症例1]2型糖尿病の高齢女性[症例2]カテゴリーIIの高齢女性[症例3]カテゴリーIIの高齢男性[症例4]高齢者で高用量SU薬を使用している患者への治療見直し[症例5]非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を合併した2型糖尿病[症例6]認知機能の低下でインスリンの自己注射が困難な症例[症例7]心血管疾患を合併する糖尿病患者にGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬を検討[症例8]カテゴリーII:手段的ADL低下例[症例9]カテゴリーIII:中等度の認知症例[症例10]認知症合併例の治療例[症例11]フレイル合併例の治療例付録/索引

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過体重・肥満へのセマグルチド、中断で体重リバウンド/JAMA

 過体重または肥満の成人に対し、20週間のセマグルチド皮下投与後、2.4mg/週を48週間継続投与した群はプラセボに切り替えた群と比べて、体重減少が維持されていたことが示された。米国・Washington Center for Weight Management and ResearchのDomenica Rubino氏らが、約800例を対象に行った68週間の第III相無作為化二重盲検試験「STEP 4試験」で明らかにした。過体重または肥満者へのGLP-1受容体作動薬セマグルチドの投与について、投与を継続した場合と中断した場合の影響については、これまで明らかになっていなかった。JAMA誌オンライン版2021年3月23日号掲載の報告。10ヵ国73ヵ所の医療機関で試験 研究グループは2018年6月~2020年3月にかけて、10ヵ国73ヵ所の医療機関を通じて、BMI値30以上、または27以上で体重関連の併存疾患が1つ以上ある、非糖尿病成人を対象に試験を行った。 902例がrun-in期間中に週1回のセマグルチド皮下投与を受けた。20週間(16週は漸増投与、4週は維持投与)の実施後、803例(89.0%)が2対1の割合で無作為化され、2.4mg/週のセマグルチド継続投与(535例)またはプラセボへの切り替え投与(268例)を受け、体重減少効果などが検証された。両群ともに、専門家による毎月のカウンセリングを含む生活習慣への介入も行われた。 主要エンドポイントは、20週から68週の体重変化(%)だった。副次エンドポイントは、腹囲、収縮期血圧、身体機能(Short Form 36 Version 2 Health Survey, Acute Version[SF-36]を用いた評価)だった。セマグルチド継続群、対プラセボ群で腹囲-9.7cm、収縮期血圧-3.9mmHg 803例(平均年齢46歳[SD 12]、女性79%、平均体重107.2kg[SD 22.7])のうち、787例(98.0%)が試験を完了し、治療を完遂したのは741例(92.3%)だった。 20~68週の体重変化率は、プラセボ群は6.9%増加したのに対し、セマグルチド継続群は7.9%減少した(群間差:-14.8%、95%信頼区間[CI]:-16.0~-13.5、p<0.001)。 また、セマグルチド継続群はプラセボ群に比べ、腹囲(群間差:-9.7cm[95%CI:-10.9~-8.5])、収縮期血圧(-3.9mmHg[-5.8~-2.0])、SF-36身体機能スコア(2.5[1.6~3.3])のいずれも改善が認められた(すべてのp<0.001)。 なお、胃腸関連イベントの発生が、プラセボ群26.1%だったのに対しセマグルチド継続群では49.1%に認められた。有害事象による投与中断率は、セマグルチド継続群2.4%、プラセボ群2.2%で同程度だった。

113.

過体重・肥満におけるGLP-1受容体作動薬注射製剤の体重減少効果(解説:小川大輔氏)-1365

 肥満症の治療において食事療法と運動療法は重要であるが、実際には適切なカロリー摂取と適度な運動を実践し継続することは難しい。現在、肥満症の薬物療法として日本で認められている薬剤としてはマジンドールがあるが、BMI 35以上の高度肥満症に対象が限られており、投与期間も3ヵ月までと制限があるため実際にはほとんど使用されていない。また胃バイパス術という選択肢もあるが、外科療法ということもありハードルが高い。 過体重または肥満の成人に対し、食事療法と強化行動療法を行ったうえでGLP-1受容体作動薬セマグルチド2.4mgの週1回皮下投与により、プラセボと比較し有意な体重減少効果が示された(セマグルチド群-16.0%、プラセボ群-5.7%、p<0.001)1)。また有害事象としては消化器症状が最も多く認められた(セマグルチド群82.8%、プラセボ群63.2%)。本試験のポイントは、対象が肥満(BMIが30以上)、あるいは過体重(BMIが27以上)かつ体重関連の併存疾患(脂質異常症、高血圧症、SASなど)が1つ以上ある方となっており、糖尿病がないという点である。セマグルチドの臨床試験(STEP試験)は5つの試験で構成されており2)、本試験はその1つ(STEP 3)である。ちなみにSTEP 2で過体重・肥満の2型糖尿病成人患者を対象とした試験が行われている3)。 今回の試験により、ようやく過体重・肥満の有望な治療薬が出現したと思いたいところであるが、以下に述べる2つの理由によりこの結果をリアルワールドに当てはめることができない。 1つ目は、セマグルチド投与に加えて、栄養士による低カロリーの食事療法や厳格な行動療法のカウンセリングを68週間の投与期間中30回も併用することにより、16%の体重減少効果を認めたという点である。本試験のように、およそ毎月2回栄養士によるカウンセリングを継続して実施することは通常の診療では難しい。実臨床ではよくある食事・運動療法が不十分の状況で、セマグルチド投与によりどの程度の体重減少を認めるかは不明である。 2つ目は、日本ではセマグルチド2.4mgの注射製剤はまだないからである。2020年から2型糖尿病の治療薬としてセマグルチド1.0mgは使用できるようになってはいるが、保険適用はあくまでも2型糖尿病であり、本試験の対象のような非糖尿病の肥満者は適応外となる。もし日本人を対象としたセマグルチドの試験で安全性や有効性が認められれば、非糖尿病の過体重・肥満の治療の選択肢となる可能性があるだろう。

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肥満症へのセマグルチド皮下注、平均体重変化率14.9%減/NEJM

 過体重または肥満の成人に対し、GLP-1受容体作動薬セマグルチド2.4mgの週1回皮下投与とライフスタイルへの介入は、持続的で臨床的意義のある体重の減少と関連することが示された。英国・リバプール大学のJohn P. H. Wilding氏らが、アジアや欧州、北米、南米の16ヵ国129ヵ所の医療機関を通じて、1,961例を対象に行った無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果を報告した。肥満は世界的な健康課題で薬物治療のオプションは少ないが、今回の試験では、68週後の体重は平均約14.9%減少し、86%の被験者で体重が5%以上減少したことが報告された。NEJM誌オンライン版2021年2月10日号掲載の報告。BMI 30以上またはBMI 27以上+併存疾患の成人を対象に試験 研究グループは2018年6月~11月に、BMI 30以上(またはBMI 27以上で体重関連の併存疾患が1つ以上あり)で、非糖尿病の成人1,961例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2対1の割合で2群に分け、セマグルチド(2.4mg)またはプラセボの週1回皮下投与とライフスタイルへの介入を68週間行った。 主要エンドポイントは2つで、体重の変化と体重5%以上減少の達成率だった。主要推定値(同臨床試験の目的を反映する正確な説明)として、治療中断や救急介入実施の有無を問わない治療効果を評価した。セマグルチド群の過半数が体重15%以上減少 被験者の94.3%が試験を完了、91.2%が68週時点で体重の評価を受けた。救急介入はセマグルチド群で7例(肥満手術2例、その他の肥満薬物治療5例)、プラセボ群で13例(同3例、10例)が受けた。ベースラインの人口統計学特性は両群で類似しており、被験者の大半は女性(74.1%)で、平均年齢は46歳、平均体重は105.3kg、平均BMIは37.9、平均腹囲は114.7cmで43.7%が前糖尿病だった。 ベースラインから68週までの平均体重変化率の推定値は、プラセボ群-2.4%に対しセマグルチド群-14.9%で、推定治療群間差は-12.4ポイント(95%信頼区間[CI]:-13.4〜-11.5、p<0.001)だった。 68週時に体重5%以上の減少を達成したのは、セマグルチド群1,047例(86.4%)vs.プラセボ群182例(31.5%)で、10%以上の達成はそれぞれ838例(69.1%)vs.69例(12.0%)、15%以上の達成は612例(50.5%)vs.28例(4.9%)と、いずれもセマグルチド群で有意に高率だった(すべてのp<0.001)。 ベースラインから68週までの体重変化は、プラセボ群が-2.6kgに対しセマグルチド群は-15.3kgだった(推定治療群間差:-12.7kg、95%CI:-13.7~-11.7)。 セマグルチド群の被験者はプラセボ群の被験者と比べて、ベースラインからの、心血管の代謝に関する改善が大きく、また被験者自己申告の身体機能の増大も大きかった。 有害事象で最も多くみられたのは、悪心、下痢だったが、いずれも一時的で軽度〜中等度であり、時間の経過とともに沈静化した。なお治療中断率は、プラセボ群0.8%(5例)に対し、セマグルチド群が4.5%(59例)と高率だった。

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世界初の経口GLP-1受容体作動薬発売/ノボ ノルディスクファーマ・MSD

2型糖尿病に新たな治療オプション登場 ノボ ノルディスクファーマとMSDは、2型糖尿病を効能・効果とする1日1回服用の世界初にして唯一の経口投与可能なGLP-1受容体作動薬であるセマグルチド(商品名:リベルサス錠)を、2月5日に発売した。 今回発売された経口のセマグルチドは、2型糖尿病患者の食事および運動療法で効果不十分な場合の血糖コントロールの改善を適応とする糖尿病治療薬として承認されている。 承認にあたっては、9,543人の成人2型糖尿病患者が参加したグローバル臨床開発プログラム(PIONEER)に基づきなされた。このPIONEERの10試験のうち、2つの第IIIa相臨床試験では、日本人2型糖尿病患者を対象に行われた。 単独療法を評価する臨床試験で示されたHbA1cの低下量は、投与後26週でセマグルチド7mg(1日1回服用)で1.6%、リラグルチド0.9mg(1日1回投与)で1.4%、他の経口血糖降下薬1剤との併用療法においては投与後26週でセマグルチド7mg(1日1回服用)で1.7%、デュラグルチド0.75mg(週1回投与)で1.5%だった。また、セマグルチド14mg(1日1回服用)については、日本人2型糖尿病患者の単独療法のHbA1cの低下量は、投与後26週で1.8%、他の経口血糖降下薬1剤との併用療法においては投与後26週で2.0%だった。 ノボ ノルディスクファーマ社は「日本の2型糖尿病患者さんの血糖コントロール改善のために、新たな治療オプションを提供することができると信じている」と抱負を語っている。 なお、本剤については、ノボノルディスクファーマとMSDが販売提携契約を結んでおり、両社共同で医療機関への情報提供活動を行う。製品概要製品名:リベルサス錠 3mg/7mg/14mg一般名:セマグルチド効能・効果:2型糖尿病用法・用量:通常、成人には、セマグルチド (遺伝子組換え) として1日1回7mgを維持用量とし経口投与する。ただし、1日1回3mgから開始し、4週間以上投与した後、1日1回7mgに増量する。なお、患者の状態に応じて適宜増減するが、1日1回7mgを4週間以上投与しても効果不十分な場合には、1日1 回14mgに増量することができる。製造発売承認日:2020年6月29日薬価基準収載日:2020年11月18日発売日:2021年2月5日薬価:リベルサス錠 3mg:143.20円/7mg:334.20円/14mg:501.30円製造販売元:ノボ ノルディスク ファーマ株式会社販売提携:MSD株式会社

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SGLT2阻害薬とGLP-1作動薬の有効性と有害事象をレビュー(解説:桑島巖氏)-1349

 最近の2型糖尿病治療薬の進歩は目覚ましい。DPP-4阻害薬登場によってHbA1cのコントロールは容易になったが、大規模臨床試験では心血管イベント抑制効果は見いだせなかった。しかし、その後登場したSGLT2阻害薬とGLP-1作動薬については、血糖値低下のみならず、心血管イベント、腎障害進展や死亡を抑制するという臨床試験の成績が相次いで発表されている。そして両薬剤は、いまや単に糖尿病治療薬の域を越え、心・腎・脳血管障害予防薬としての地位を確保しつつある。 本論文は、SGLT2阻害薬とGLP-1作動薬に関して、プラセボや従来治療、その他の血糖降下薬とを比較した764トライアル、約42万人についてのsystematic reviewとメタ解析のレビューである。その結論としては、SGLT2阻害薬は心不全による入院と死亡の回避という点でGLP-1作動薬よりも優れており、一方、非致死的脳卒中予防においてはGLP-1作動薬のほうが優れていたというものである。また有害事象に関しては、SGLT2阻害薬は、高率に生殖器感染を惹起する一方、GLP-1作動薬は重症な消化管イベントを惹起したという。 SGLT2阻害薬、GLP-1作動薬に関しては信頼性の高いプラセボ対照無作為ランダム化試験の成績がいくつか発表されており、上記の両薬剤の心血管イベント抑制効果に関する有効性はすでに明らかになっている。 それらは、SGLT2阻害薬の心血管アウトカム試験としては、エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)のEMPA-REG OUTCOME研究、カナグリフロジン(同:カナグル)のCANVAS研究、ダパグリフロジン(同:フォシーガ)のDECLARE-TIMI 58研究、ertugliflozin(本邦未発売)のVERTIS CV研究、sotagliflozin(同)のSOLOIST-WHF研究が発表されている。またGLP-1作動薬の心血管アウトカム試験としては、リラグルチドのLEADER研究、リキシセナチドのELIXA研究、デュラグルチドのREWIND研究、セマグルチドのSUSTAIN-6研究などである。 これらのランダム化試験の結果から、SGLT2阻害薬は高リスク症例で、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中は抑制しないものの、心不全の入院と死亡を減少させることがクラスエフェクトとして明らかになっている。これはSGLT2阻害薬の利尿作用とそれに伴う血圧低下、心負荷の軽減が心不全の抑制につながっている。 一方、GLP-1作動薬は心不全による入院や死亡の抑制効果は認められないが、死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合エンドポイントは有意に抑制するという結果が発表されている。しかし、その機序については不明である。 しかしながら、本論文の膨大な数の比較試験を収集したメタ解析は、その異質性、多様性ゆえに、おおよその両薬剤の有効性、有害性をまとめるうえでは有用であっても、エビデンスレベルはランダム化試験のほうが上である。 しかし両薬剤が単に血糖値を下げるだけの薬剤ではなく、心血管保護薬として心血管疾患を有している症例の2次予防治療薬として有望であることを、あらためて示した点では意味がある。

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2型糖尿病へのSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬のベネフィット/BMJ

 成人2型糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬およびグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬が共有するベネフィットとして、重症低血糖を起こすことなく、全死因死亡、心血管死、心筋梗塞、腎不全、重症高血糖の発生低下および体重の減少があることを、ニュージーランド・オタゴ大学のSuetonia C. Palmer氏らが764試験、被験者総数42万例超を対象にしたネットワークメタ解析によって明らかにした。ただし、絶対ベネフィットは、心血管リスクや腎疾患リスクなど患者個々のリスクプロファイルによって、大幅に違いがみられることも示されたという。著者は、「今回のレビューは、BMJ Rapid Recommendationsに直接的に反映される方法が用いられ、すべての結果は既存の糖尿病治療への両クラスの薬剤の追加に言及するものであった」と述べている。BMJ誌2021年1月13日号掲載の報告。MedlineやEmbaseなど、20年8月までレビュー 研究グループは、Medline、Embase、Cochrane CENTRALを基に、2020年8月11日までに発表された試験結果についてシステマティック・レビューを行った。適格条件は、成人2型糖尿病患者を対象にSGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬と、プラセボや標準的治療、その他血糖降下治療を比較し、24週以上追跡した無作為化試験。2人の独立したレビュアーによって、適格性のスクリーニングおよびデータ抽出、バイアスリスクの評価が行われた。 データを基に頻度論に基づく変量効果モデルを用いてネットワークメタ解析を行い、エビデンスの確実性については、GRADEシステムで評価した。 アウトカムは、患者1,000人当たりの5年間の推定絶対治療効果で、被験者のリスクプロファイルに応じて次の5段階に分け検証した。非常に低リスク(心血管リスクなし)、低リスク(3つ以上の心血管リスクあり)、中リスク(心血管疾患)、高リスク(CKD)、非常に高リスク(心血管疾患・CKD)。検討はBMJ Rapid Recommendationsプロセスに準じ、ガイドラインパネルがレビューの監視を規定した。SGLT2阻害薬、死亡や心不全による入院リスクをGLP-1受容体作動薬より低下 764試験、被験者総数42万1,346例を対象に分析が行われた。 SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬ともに、全死因死亡、心血管死、非致死的心筋梗塞、腎不全のリスクをいずれも低下した(高い確実性のエビデンス)。 両薬剤間の顕著な違いは、SGLT2阻害薬はGLP-1受容体作動薬より死亡や心不全による入院のリスクを低下したこと、GLP-1受容体作動薬は非致死的脳卒中リスクを低下したがSGLT2阻害薬では同効果は認められなかったことだった。 また、SGLT2阻害薬は性器感染症の原因となり(高い確実性)、GLP-1受容体作動薬は重度消化器イベントの原因となる可能性が示された(低い確実性)。両薬剤ともに、体重減少効果も示されたが、エビデンスの確実性は低かった。 なお、手足切断、失明、眼疾患、神経障害性疼痛、健康関連の生活の質(QOL)については、両薬剤ともにその効果を示すエビデンスがほとんどもしくはまったくなかった。 両薬剤の絶対ベネフィットは、心血管リスクや腎疾患リスクのランクにより大きな違いが認められた。

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原発性腋窩多汗症を治療する日本初の保険適用外用薬「エクロックゲル5%」【下平博士のDIノート】第66回

原発性腋窩多汗症を治療する日本初の保険適用外用薬「エクロックゲル5%」今回は、原発性腋窩多汗症治療薬「ソフピロニウム臭化物ゲル(商品名:エクロックゲル5%、製造販売元:科研製薬)」を紹介します。本剤は、腋窩の発汗を抑制することで、多汗症に伴う患者の精神的苦痛の緩和やQOLの向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、原発性腋窩多汗症の適応で、2020年9月25日に承認され、同年11月26日より発売されています。<用法・用量>1日1回、適量を腋窩に塗布します。なお、塗布部位に創傷や湿疹・皮膚炎などが見られる患者では使用しないことが望ましいとされています。<安全性>国内第III相二重盲検比較試験において、副作用は141例中23例(16.3%)で報告されています。主なものは、適用部位皮膚炎9例(6.4%)、適用部位紅斑8例(5.7%)、適用部位そう痒感3例(2.1%)でした。また、国内第III相長期投与試験においては、本剤が投与された2群の計185例中78例(42.2%)で副作用が報告されています。主なものは、適用部位皮膚炎51例(27.6%)、適用部位湿疹13例(7.0%)、適用部位紅斑11例(5.9%)、適用部位そう痒感6例(3.2%)、散瞳3例(1.6%)、霧視1例(0.5%)でした。<患者さんへの指導例>1.この薬は、汗を分泌するエクリン汗腺の受容体をブロックすることで、過剰な発汗を抑えます。2.使用前に、腋窩(わき)の水気をタオルなどでよく拭き取ります。ボトルからキャップと塗布具(アプリケーター)を外し、ポンプ1押し分の薬液をアプリケーターに乗せ、片方のわき全体に塗布してください。もう一方のわきにも同様にポンプ1押し分の薬液を塗布します。3.使用後にアプリケーターに残った薬液は、ティッシュペーパーなどで拭き取るか、水で洗い流してください。4.薬液を直接手に乗せて塗布しないでください。手に薬液が付着した場合は、絶対に顔や目を触らず、すぐに手を洗ってください。薬液が目に入った場合はまぶしさや刺激を感じることがあります。慌てず、すぐに水で洗い流してください。5.わきに薬液を塗った後は、乾くまで寝具や衣服に触れないように注意してください。塗り忘れを防ぐために、起床時や入浴後など、薬を塗るタイミングを決めておきましょう。6.本剤にはアルコールが含まれるため、火気の近くでの保存および使用は避けてください。<Shimo's eyes>原発性腋窩多汗症は、温熱や精神的負荷の有無に関係なく腋窩に大量の汗をかく疾患で、頻繁な衣服交換やシャワーが必要になるなど患者の日常生活に支障を来します。汗じみや臭いが気になり、精神的な苦痛を受ける患者が多いともいわれています。原発性腋窩多汗症に対する治療の第1選択は、塩化アルミニウムの外用療法ですが、塩化アルミニウムローションは保険適用がなく、これまで院内製剤として処方されていました。重度の場合には、A型ボツリヌス毒素の皮内投与が選択されますが、その処置は実技講習を受けた医師に限定されています。本剤は、わが国で初めて保険適用のある原発性腋窩多汗症の外用薬で、1日1回両腋窩に塗ることで、エクリン汗腺に発現するムスカリン受容体サブタイプのM3を介したコリン作動性反応を阻害し、発汗を抑制します。この抗コリン作用のため、閉塞隅角緑内障の患者および前立腺肥大による排尿障害がある患者では禁忌となっています。また、手足など腋窩以外の部位には使用できません。12歳未満の小児に対しては、臨床試験における使用経験がないため注意が必要です。1本には14日分(28回分)が充填されています。アプリケーターを使用することで手が薬液に触れることなく塗布できますが、添加物として無水エタノールが含まれるため、アルコール過敏症の患者には注意して使うよう伝えましょう。参考1)PMDA 添付文書 エクロックゲル5%

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世界初の経口投与可能なGLP-1受容体作動薬「リベルサス錠3mg/7mg/14mg」【下平博士のDIノート】第64回

世界初の経口投与可能なGLP-1受容体作動薬「リベルサス錠3mg/7mg/14mg」今回は、2型糖尿病治療薬「セマグルチド(商品名:リベルサス錠3mg/7mg/14mg、製造販売元:ノボ ノルディスク ファーマ)」を紹介します。本剤は、世界初の経口投与可能なGLP-1受容体作動薬であり、注射剤に抵抗がある患者さんであってもQOLを損ねずに良好な血糖コントロールを得られることが期待できます。<効能・効果>本剤は、2型糖尿病の適応で、2020年6月29日に承認、同年11月18日に薬価収載されています。<用法・用量>通常、成人には、セマグルチド(遺伝子組換え)として1日1回3mgを開始用量として経口投与し、4週間以上投与した後に1日1回7mgの維持用量に増量します。1日1回7mgを4週間以上投与しても効果不十分な場合には、1日1回14mgまで増量することができます。なお、本剤の吸収は胃の内容物により低下することから、1日の最初の飲水・食事前にコップ半分の水(約120mL以下)とともに本剤を服用します。服用時および服用後少なくとも30分は、飲食およびほかの薬剤の経口摂取を避ける必要があります。分割や粉砕、かみ砕いて服用することはできません。<安全性>日本人が参加した第III相臨床試験(併合データ)において、安全性評価対象症例3,290例中1,166例(35.4%)に副作用が認められました。主な副作用は、悪心355例(10.8%)、下痢204例(6.2%)、食欲減退147例(4.5%)、便秘143例(4.3%)、嘔吐142例(4.3%)でした(承認時)。なお、重大な副作用として、急性膵炎(0.1%)、低血糖(頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は膵臓に作用して、血糖値が高くなった際にインスリンの分泌を促すことで血糖値を下げます。2.1日の最初の飲食の前に、空腹の状態でコップ約半分の水とともに服用してください。その後の飲食や他剤の服用は、本剤の服用から少なくとも30分経ってからにしてください。3.本剤は吸湿性が強いため、服用直前にシートから取り出してください。また、割ったりかんだりしないでください。4.冷や汗が出る、血の気が引く、手足の震えなど、低血糖が考えられる症状が発現した場合は、速やかに砂糖かブドウ糖が含まれる飲食物を摂取してください。高所作業、自動車の運転などを行う際は十分に注意してください。5.胃の不快感、便秘、下痢などの消化器症状が起こることがあります。症状が長く続く場合や、嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛などが現れた場合は、すぐに病院か薬局に連絡してください。<Shimo's eyes>本剤は初の経口GLP-1受容体作動薬であり、同成分の皮下注製剤(商品名:オゼンピック)は一足早く発売されています。GLP-1受容体作動薬は分子量が大きいため、胃からの吸収が難しく、消化酵素により分解されやすいこともあり、これまで注射剤しかありませんでした。本剤は、サルカプロザートナトリウム(SNAC)と呼ばれる吸収促進剤を添加することで、胃からの吸収が促進され、生物学的利用能が高まったことから経口投与が可能となりました。本剤の吸収は錠剤表面の周辺部に限定されることから、SNACの含有量の差異および物理的に2つの錠剤が胃内に存在すると本剤の吸収に影響を及ぼす可能性があるため、本剤14mgを投与する際に7mg錠を2錠で投与することはできません。また、本剤のシートをミシン目以外で切って保管すると、湿気などの影響を受ける恐れがあります。そのため、調剤の際はとくに注意が必要です。臨床効果については、2型糖尿病患者を対象とした2つの国内試験、国際共同試験、海外臨床試験などで、HbA1cの持続的な改善効果が示されました。また、SGLT2阻害薬のエンパグリフロジン、DPP-4阻害薬、さらにGLP-1受容体作動薬リラグルチド皮下注などとの比較試験においても、HbA1cや体重の低下量は同等かより良好な結果を示しています。本剤を含むGLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬は、いずれもGLP-1受容体を介した血糖降下作用を有しており、併用した場合の有効性および安全性は確認されていないため、両剤が処方されている場合は疑義照会が必要です。本剤の吸収は胃の内容物により低下するため、起床後に空腹の状態で服用し、その後の30分間は何も飲食してはいけないなど、特別な注意が必要です。患者さんの理解度を確かめながら指導とフォローアップをしっかり行いましょう。参考1)PMDA 添付文書 リベルサス錠3mg/リベルサス錠7mg/リベルサス錠14mg

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基礎インスリン週1回投与の時代は目前に来ている(解説:住谷哲氏)-1317

 1921年にカナダ・トロント大学のバンティングとベストがインスリンを発見してから来年で100年になる。1922年にはインスリンを含むウシの膵臓抽出液がLeonard Thompsonに投与されて劇的な効果をもたらした。同年に米国のイーライリリーが世界で初めてインスリンの製剤化に成功し、1923年にインスリン製剤「アイレチン」が発売された。また北欧での製造許可を得たデンマークのノルディスク(ノボ ノルディスクの前身、以下ノボ社)から「インスリンレオ」が発売された。膵臓抽出物から精製されたこれらのインスリンは正規インスリン(regular insulin)と呼ばれ、われわれが現在R(regularの頭文字)と称しているインスリンである。 レギュラーインスリンは作用時間が約6時間程度であり、血中有効濃度を維持するためには頻回の注射が必要となる。そこで作用時間を延長するための技術開発が開始され、最初に世に出たのがNPH(neutral protamine Hagedorn)で、これはレギュラーインスリンにプロタミンを添加することで作用時間の延長を可能とした。その後は遺伝子工学が導入されてインスリンのアミノ酸配列の変更や側鎖の追加が可能となり、われわれが現在持効型インスリンと称しているグラルギン、デグルデクが登場した。ノボ社のデグルデクはインスリン分子に脂肪酸側鎖を追加することでアルブミンとの結合を増強し、それにより血中有効濃度の維持を可能とした。この技術は同社のGLP-1受容体作動薬のリラグルチド、セマグルチドの開発にも応用された。とくにセマグルチドは週1回投与を可能としたものであり、この技術がインスリンに応用されるのも時間の問題であったが、本論文で週1回投与のinsulin icodecが報告された。 結果は、26週の観察期間において、毎日投与のグラルギンと比較して血糖降下作用、安全性の点で同等であることが明らかとなった。試験デザインとしてdouble-dummy法(被験者はグラルギン実薬毎日投与+icodecプラセボ週1回投与またはグラルギンプラセボ投与+icodec実薬投与のいずれかに振り分けられた)を用いることでmaskingは確保されているので、結果の内的妥当性に問題はない。 おそらくわが国では数年後にinsulin icodecが発売されると思われる。現在ある週1回投与のセマグルチドとの配合剤も遠からず登場してくるだろう。ひょっとすると月1回投与の基礎インスリンが登場するのも夢物語ではないかもしれない。一方で持続時間のより短い改良型超速効型インスリンもすでに2剤が発売されている。われわれ医療者はこれら多くの選択肢から目の前の患者に最も適したインスリン製剤を選択する腕が問われる時代になってきたといえるだろう。

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