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ICU入室期間、専門医療チームによる遠隔医療vs.通常ケア/JAMA

 集中治療室(ICU)に入室した成人重症患者では、通常ケアと比較して、専門医資格を持つ集中治療医が主導し現地の集学的医療チームと行う遠隔医療による毎日の集学的回診は、ICU入室期間(ICU LOS)を短縮せず、患者レベルおよびICUレベルのアウトカムにも改善を認めないことが、ブラジル・Hospital Israelita Albert EinsteinのAdriano J. Pereira氏らが実施した「TELESCOPE試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2024年10月9日号で報告された。ブラジルのICUのクラスター無作為化試験 TELESCOPE試験は、ICUにおける遠隔医療が重症患者の臨床アウトカムを改善するか評価することを目的とする非盲検クラスター無作為化対照比較試験であり、2019年6月~2021年4月の期間にブラジルの30ヵ所のICUで患者を登録した(ブラジル保健省などと提携した)。 専門医資格を有する集中治療医の主導による毎日の集学的回診が日常的に行われていない30ヵ所のICUを、月~金曜日に集中治療医が主導し現地の集学的医療チームと行う遠隔医療により集学的回診を行う群(遠隔ICU群、15施設)、または通常ケアを行う群(通常ケア群、15施設)に無作為に割り付けた。遠隔ICU群では、集中治療医主導の集学的遠隔回診のほか、ICUの能力に関する指標について議論するための月1回の監査とフィードバック会議を開催し、エビデンスに基づく臨床プロトコールが提供された。 司法関連の問題がある患者を除き、参加ICUに入室したすべての成人(年齢18歳以上)患者を対象とした。 主要アウトカムは、患者レベルでのICU LOS(ICU入室から退室[他の介護施設または病院への転院]またはICUでの死亡までの期間)とした。サブグループ解析でも差はない 1万7,024例(ベースライン期間1,794例[遠隔ICU群909例、通常ケア群885例]、介入期間1万5,230例[7,471例、7,759例])を登録した。全体の平均年齢は61(SD 18)歳、44.7%が女性で、SOFA(Sequential Organ Failure Assessment)スコア中央値は6点(四分位範囲:2~9)であり、45.5%が入室時に侵襲的機械換気を受けていた。 ベースライン評価で補正した平均ICU LOSは、遠隔ICU群が8.1(SD 10.0)日、通常ケア群は7.1(9.0)日と、両群間に有意な差を認めなかった(変化率:8.2%[95%信頼区間[CI]:-5.4~23.8]、群間差中央値:0日[-2~3]、p=0.24)。 感度分析および事前に規定されたサブグループにおいても、統計学的な有意差はみられなかった。副次アウトカムにも差はない 8項目の患者レベルの副次アウトカムにも両群間に有意差はなく、たとえば院内死亡率は遠隔ICU群が41.6%、通常ケア群は40.2%であった(オッズ比:0.93、95%CI:0.78~1.12)。また、ICUレベルの副次アウトカムにも差はなかった。 著者は、「遠隔医療の恩恵を受けるICUとはどのようなものかを含め、ICU患者のアウトカムを改善するための遠隔医療提供の最良のモデルは、いまだに定義されていない」としている。

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血栓除去術は単純CT上の大梗塞に有効か?(解説:内山真一郎氏)

 発症後24時間以内の、単純CTで認めた大梗塞に血管内血栓除去術(IVT)が有効かどうかは証明されていない。 TESLA試験は、前方循環の大血管閉塞があり、単純CT上大梗塞(Alberta Stroke Program Early CT Score、ASPECT2~5)を認めた、発症後24時間以内の300症例を対象とした米国での多施設共同無作為化比較試験であったが、90日後の機能予後はIVT群と通常の内科的治療のみの対照群との間で有意差がなかったという結果であった。 単純CT上の大梗塞を対象とした試験としては、先にTENSION試験が行われていたが、TENSION試験では発症後11時間以内の症例に限定していたのに対してTESLA試験では半数が発症後12時間以上の症例であり、これらの症例では大梗塞による浮腫の影響がIVTの治療効果を弱めた可能性がある。 また、日本で行われたRESCUE Japan-LIMIT試験の二次解析では、ASPECT3以下の症例ではIVTの効果が示されなかったことから、ASPECTレベル別の治療効果もメタ解析により明らかにする必要がある。

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高齢者の心不全救急搬送、気温低下の1~2日後に注意/日本心不全学会

 今冬はラニーニャ現象発生の影響で昨年よりも厳しい寒さとなり、心不全による入院の増加に一層の注意が必要かもしれない。では、どのような対策が必要なのだろうか―。これまで、寒冷曝露や気温の日内変動(寒暖差)が心筋梗塞や心不全入院を増加させる要因であることが示唆されてきたが、外気温低下の時間的影響までは明らかにされていない1,2)。10月4~6日に開催された第28回日本心不全学会学術集会のLate breaking sessionでは、これまでに雨季後の暑熱環境下における気温上昇と高齢者の心血管救急搬送リスクとの関連3)や脳卒中救急搬送リスク増加を示唆する疫学研究4)などを報告している藤本 竜平氏(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 疫学・衛生学分野/津山中央病院 心臓血管センター・循環器内科)が『時間層別による外気温低下と心不全救急搬送の関連』と題し、新たな知見を報告した。 同氏らは、気温低下が短期間に心不全へ及ぼす影響を検討するため、外気温が1℃ごと低下すると心不全の救急搬送にどのような影響を与えるかについて、時間層別の解析を行った。2009~19年に岡山市内に救急搬送された18歳以上の心不全患者を対象に自己対照研究デザインであるケースクロスオーバー研究を実施し、時間ごとの気温、気圧、相対湿度、PM2.5濃度を取得。条件付きロジスティック回帰分析により、気温1℃低下時の搬送前時間ごと(先行間隔:lag)に気圧や湿度などの交絡因子を調整したオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出し、年齢ごとに層別化した。主要評価項目は心不全救急搬送で、副次評価項目は性別、併存疾患、季節、曜日の影響を考慮した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は5,406例(男性49.4%、平均年齢81.9±11.2歳)で、65歳以上は4,985例(平均年齢84.1±8.1歳)であり、圧倒的に高齢者が多かった。・対象者の併存疾患には高血圧症、虚血性心疾患が多かった。・季節は冬季、曜日は月曜日に心不全による救急搬送が多かった。・年齢別で外気温低下の影響をみたところ、18~65歳未満ではリスク上昇を認めなかったものの、65歳以上の高齢者では低温にさらされてから24~47時間(1〜2日)のlagでOR:1.02(95%CI:1.00~1.03)とリスクが高くなり、その影響はさらに数日間持続していたことから、時間単位ではなく日単位で強く現れる遅延効果の存在が示唆された(24時間までのlagではリスク上昇を認めなかった)。・このリスク増強は、女性、併存心疾患(多くは心不全と推察)、現在のように段々と寒くなる秋期にみられた。・研究限界として、119番通報を発症時間としているので正確な発症時間が不明であること、自家用車や独歩での受診者が含まれていないこと、屋外の測定局データを利用したことなどが挙げられた。 寒冷による病態生理学的考察として、「交感神経緊張の亢進によりレニン-アンジオテンシン系の活性化をはじめ、心拍数や左室拡張末期圧および容積の増大、末梢血管抵抗や心筋酸素需要の増加、虚血閾値の低下、フィブリノゲン増加による血液凝固障害などを生じた結果、動脈圧が上昇し、左室後負荷不適合や心筋虚血による心不全増悪が考えられる」と説明した。また、気温が肺動脈圧に及ぼす影響などの報告5)も踏まえ、「気温低下に伴う交感神経系の緊張により急速な血圧上昇が時間単位で先行し、肺動脈圧上昇と合わさり、日単位で急性心不全を発症する遅延効果を説明するかもしれない」と推察した。このほか、併存疾患と寒冷関連新規発症心不全について、「ある観察研究6)によると60~69歳では併存疾患を2~3つ、70歳以上では1~2つ有する人でリスクが高まる」とも述べた。 同氏は本研究を踏まえ、「高齢者には、気温低下を観測した翌日から数日以降も、暖かい室内などで適温を維持し、とくに段々と寒くなる今の季節(秋)、心不全の既往がある女性(病型別ではHFpEF7))に対し多職種で予防策を講ずる必要性がある」と締めくくった。■参考1)Qiu H, et al. Circ Heart Fail. 2013;6:930-935.2)Ni W, et al. J Am Coll Cardiol. 2024;84:1149-1159. 3)Fujimoto R, et al. J Am Heart Assoc. 2023;12:e027046.4)岡山大学:梅雨明け後の暑さに注意!~梅雨明け後1か月間の暑さは高齢者の脳卒中救急搬送リスクを増やす~5)Carrete A, et al. Eur J Heart Fail. 2024;20:1830-1831.6)Chen DY, et al. Eur J Prev Cardiol. 2024 Aug 23. [Epub ahead of print]7)Jimba T, et al. ESC Heart Fail. 2022;9:2899-2908.

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DPP-4i既存治療の有無で腎予後に有意差

 2型糖尿病患者の腎予後がDPP-4阻害薬(DPP-4i)処方の有無で異なるとする研究結果が報告された。同薬が処方されている患者の方が、腎機能(eGFR)の低下速度が遅く、末期腎不全の発症リスクが低いという。東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室の佐藤倫広氏、同大学医学部内科学第三(腎臓内分泌内科)教室の橋本英明氏らが行ったリアルワールド研究の結果であり、詳細は「Diabetes, Obesity & Metabolism」に7月31日掲載された。 インクレチン関連薬であるDPP-4iは、国内の2型糖尿病治療薬として、プライマリケアを中心に最も多く処方されている。同薬は、基礎研究では血糖降下以外の多面的な効果が示唆されており、腎保護的に作用することが知られているが、臨床研究のエビデンスは確立されていない。過去に行われた臨床研究は、参加者が心血管疾患ハイリスク患者である、またはDPP-4i以外の血糖降下薬の影響が調整されていないなどの点で、結果の一般化が困難となっている。これを背景として佐藤氏らは、医療情報の商用データベース(DeSCヘルスケア株式会社)を用いて、実臨床に則した検討を行った。 2014~2021年のデータベースから、透析や腎移植の既往がなく、eGFR15mL/分/1.73m2超の30歳以上でデータ欠落のない2型糖尿病患者を抽出。eGFRが45mL/分/1.73m2以上のコホート(6万5,375人)ではeGFRの変化、eGFR45mL/分/1.73m2未満のコホート(9,866人)では末期腎不全への進行を評価アウトカムとして、ベースライン時点でのDPP-4iの処方(既存治療)の有無で比較した。 傾向スコアマッチングにより、患者数1対1のデータセットを作成。eGFR45以上のコホートは1万6,002のペア(計3万2,004人)となり平均年齢68.4±9.4歳、男性59.6%、eGFR45未満のコホートは2,086のペア(計4,172人)で76.5±8.5歳、男性60.3%となった。ベースライン特性をDPP-4i処方の有無で比較すると、両コホートともに年齢、性別、eGFR、各種臨床検査値、併存疾患、DPP-4i以外の血糖降下薬・降圧薬の処方などはよく一致していたが、DPP-4i処方あり群はHbA1cがわずかに高く(eGFR45以上は6.9±0.9対6.8±0.9%、eGFR45未満は6.8±1.0対6.7±0.9%)、服薬遵守率がわずかに良好だった(同順に84.1対80.4%、83.9対77.6%)。 解析の結果、eGFR45以上のコホートにおける2年後のeGFRは、DPP-4i処方群が-2.31mL/分/1.73m2、非処方群が-2.56mL/分/1.73m2で、群間差0.25mL/分/1.73m2(95%信頼区間0.06~0.44)と有意であり(P=0.010)、3年後の群間差は0.66mL/分/1.73m2(同0.39~0.93)に拡大していた(P<0.001)。ベースライン時に標準化平均差が10%以上の群間差が存在していた背景因子を調整した解析でも、同様の結果が得られた。 eGFR45未満のコホートでは、平均2.2年の観察期間中にDPP-4i処方群の1.15%、非処方群の2.30%が末期腎不全に進行し、カプランマイヤー法により有意差が認められた(P=0.005)。Cox回帰分析から、DPP-4iの処方は末期腎不全への進行抑制因子として特定された(ハザード比0.49〔95%信頼区間0.30~0.81〕)。 著者らは、「リアルワールドデータを用いた解析から、DPP-4iが処方されている2型糖尿病患者の腎予後改善が示唆された」と結論付けている。同薬の腎保護作用の機序としては、本研究において同薬処方群のHbA1cがわずかに高値であり、かつその差を調整後にもアウトカムに有意差が認められたことから、「血糖改善作用のみでは説明できない」とし、既報研究を基に「サブクリニカルに生じている可能性のある腎虚血や再灌流障害を抑制するなどの作用によるものではないか」との考察が述べられている。ただし本研究ではDPP-4i処方後の中止が考慮されていない。また、既存治療者を扱った研究デザインのため残余交絡の存在が考えられることから、新規治療者を対象とした研究デザインによる再検証の必要性が述べられている。

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第236回 GLP-1薬セマグルチドは運動意欲を減らすらしい

GLP-1薬セマグルチドは運動意欲を減らすらしいマウスはよく走ります。回転車を与えると活動期である夜に10~12kmも毎日走ります1)。しかし糖尿病や肥満症の治療薬・オゼンピックやウゴービの成分であるセマグルチドをマウスに与えるとどうやら走る意欲が減るようで、プラセボ群の半分ほどしか走らなくなりました2)。セマグルチドのようなGLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)は今や信仰にも似たよすがとなっており、医療情報を提供するKFFが今年5月に結果を発表した調査では、米国の成人の実におよそ8人に1人(12%)がGLP-1薬を使ったことがあると回答しました3)。また、およそ17人に1人(6%)は使用中でした。セマグルチドはインスリン生成を促し、胃が空になるのを遅らせ、満腹感がより長続きするようにするGLP-1に似た働きを担います。過去20年ものあいだ調べられてきたGLP-1の代謝調節の仕組みはかなり詳しく判明しています。一方、最近になってGLP-1の代謝調節領域を超えたより広範な働きや脳への作用が明らかになりつつあります。そのような秘めたGLP-1の働きのいくつかが今月初めの米国・シカゴでの神経科学会(Society for Neuroscience)年次総会(Neuroscience 2024)で発表されました。セマグルチドがマウスの走る意欲をどうやら減退させることを示したイエール大学の上述の研究成果はその1つです。GLP-1の作用は食べ物、アルコール、コカイン、ニコチンと関連する快楽のほどを変えます。ネズミにGLP-1やその模倣薬を与えるとそれらの摂取意欲が下がることが示されています。セマグルチドを使う人の食べる楽しみが使い始める前ほどではなくなるのは、同剤が快楽や渇望に携わる脳領域の活性を抑えることに起因するようです。また、その働きのおかげでセマグルチドが薬物依存の治療の助けになりうることも示唆されています。イエール大学のRalph DiLeone氏らは運動などの気持ちよくなる行動にもセマグルチドの影響が及ぶかもしれないと考えました4)。そこで、根っからの運動好きで、それがどうやら楽しいらしいマウスを使ってセマグルチドの運動意欲への影響が調べられました。DiLeone氏らは14匹のマウスの半数7匹にセマグルチド、もう半数の7匹にはプラセボを1週間投与しました。それらマウスが回転車で毎日どれだけ走るかを調べたところ、セマグルチド投与群の走る距離は同剤投与前に比べて4割ほど(37.9%)減っていました2)。一方、プラセボ投与群ではそのようなことはなく、どうやらセマグルチドはマウスの走る意欲を減衰させたようです。続いて実際に走る意欲が低下しているのかが別のマウスを使って調べられました。その検討ではマウスが走っている最中に回転車がときどき強制停止(ロック)されます。マウスは鼻でレバーを押すこと(押下)でそのロックを解除することができます。ロックはその回数が多くなるほどレバーをより多く押下しないと解除できないようになっており、最終的にマウスはロックの解除を諦めます。諦めた時点でのレバー押下回数は回転車を走る意欲がどれだけ高いかを反映する指標となります。5日間のセマグルチド投与期間中のマウスのレバー最大押下回数はプラセボ投与群に比べて平均25%少なく、肥満マウスを使った検討でも同様の結果となりました4)。すなわちセマグルチドは食べ物や薬物への渇望を減らすのと同様に運動意欲も減らすようです。ヒトでの同様の作用は示されていません。オゼンピックやウゴービのヒトのデータのほとんどが運動を含む他の手当てを伴ったものであることがその理由かもしれません。とはいえ、セマグルチドのようなGLP-1薬が負の行動のみならず有益な振る舞いも妨げてしまう恐れがあることを今回の結果は示唆しています。Neuroscience 2024では他にもセマグルチドやGLP-1の類いの興味深い中枢神経系(CNS)作用の報告がありました。韓国のGachon Universityの研究者らはGLP-1受容体に結合するアンタゴニストexendin 9-39の断片の1つexendin 20-29の痛み緩和作用を示したマウス実験結果を報告しています5)。その研究ではexendin 20-29が痛み信号の伝達に携わる受容体TRPV1に結合し、GLP-1受容体機能には手出しすることなく痛みを緩和することが示されました。また、フランスの研究受託会社Neurofitのチームはセマグルチドのアルツハイマー病治療効果を示すマウスやラットの実験結果を報告しています6)。その効果の検討は臨床試験でも大詰め段階に入っており、Novo Nordisk社は初期アルツハイマー病患者へのセマグルチドの第III相試験2つ・EVOKE7)とEVOKE Plus8)を2021年に開始しています。結果は来年判明する見込みです9)。参考1)The Unexplored Effects of Weight-Loss Drugs on the Brain / TheScientist2)Semaglutide administration reduces free running as well as motivation for wheel access as measured by progressive ratio in mice / Neuroscience 20243)KFF Health Tracking Poll May 2024: The Public’s Use and Views of GLP-1 Drugs / KFF4)Weight-loss drugs lower impulse to eat - and perhaps to exercise too / NewScientist5)Glp-1 and its derived peptides mediate pain relief through direct trpv1 inhibition without affecting thermoregulation / Neuroscience 2024 6)Semaglutide's cognitive rescue: insights from rat and mouse models of alzheimer's disease / Neuroscience 20247)A Research Study Investigating Semaglutide in People With Early Alzheimer's Disease (EVOKE)8)A Research Study Investigating Semaglutide in People With Early Alzheimer's Disease (EVOKE Plus) 9)Atri A, et al. Alzheimers Dement. 2022;18:e06415.

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新規3剤配合降圧薬の効果、標準治療を大きく上回る

 血圧がコントロールされていない高血圧患者を対象に、新たな3剤配合降圧薬であるGMRx2による治療と標準治療とを比較したところ、前者の降圧効果の方が優れていることが新たな臨床試験で明らかにされた。George Medicines社が開発したGMRx2は、降圧薬のテルミサルタン、アムロジピン、インダパミドの3剤配合薬で、1日1回服用する。アブジャ大学(ナイジェリア)心臓血管研究ユニット長のDike Ojji氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2024、8月30日~9月2日、英ロンドン)で発表されるとともに、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に8月31日掲載された。 成人の高血圧患者は世界で10億人以上に上り、患者の3分の2は低・中所得国に集中していると推定されている。高血圧は死亡の最大のリスク因子であり、年間1080万人が高血圧が原因で死亡している。 今回の臨床試験は、未治療または単剤の降圧薬を使用中で血圧がコントロールされていない黒人患者300人(女性54%、平均年齢52歳)を対象に、ナイジェリアで実施された。対象者は、6カ月にわたってGMRx2による治療を受ける群と、標準治療を受ける群にランダムに割り付けられた。GMRx2には、テルミサルタン、アムロジピン、インダパミドの4分の1用量(同順で、10/1.25/0.625mg)、2分の1用量(同20/2.5/1.25mg)、標準用量(同40/5/2.5mg)の3種類があり、治療は低用量から開始された。標準治療は、ナイジェリアの高血圧治療プロトコルに従い、アムロジピン5mgから開始された。有効性の主要評価項目は、ランダム化から6カ月後に自宅で測定した平均収縮期血圧の低下、安全性の主要評価項目は、副作用による治療の中止だった。 対象者の試験開始時の自宅で測定した平均血圧は151/97mmHg、病院で測定した平均血圧は156/97mmHgだった。300人中273人(91%)が試験を完了した。ランダム化から6カ月後の追跡調査時における自宅で測定した平均収縮期血圧の低下の幅は、GMRx2群で31mmHgであったのに対し標準治療群では26mmHgであり、両群間に統計学的に有意な差のあることが明らかになった(調整群間差は−5.8mmHg、95%信頼区間〔CI〕−8.0〜−3.6、P<0.001)。研究グループは、ジョージ研究所のニュースリリースの中で、収縮期血圧が5mmHg低下するごとに、脳卒中、心筋梗塞、心不全などの主要心血管イベントの発生リスクは10%低下することが報告されていると説明している。 また、ランダム化から1カ月後の時点でGMRx2群の81%、標準治療群の55%が医療機関での血圧コントロール目標(<140/90mmHg)を達成していた。この改善効果は6カ月後も持続しており、達成率は、GMRx2群で82%、標準治療群で72%だった。安全性については、副作用により治療を中止した対象者はいなかった。 こうした結果についてOjji氏は、「標準治療は現行のガイドラインに厳密に従い、より多くの通院を必要としたにもかかわらず、3剤配合降圧薬による治療は標準治療よりも臨床的に有意な血圧低下をもたらした」と話す。同氏は、「高血圧の治療により血圧コントロールを達成するのは、低所得国では治療を受けた人の4人に1人未満であり、高所得国でも50〜70%にとどまっている。そのことを考えると、わずか1カ月で80%以上の患者が目標を達成できたことは印象的だ」と付言する。 なお、George Medicines社は、米食品医薬品局(FDA)にGMRx2の承認申請を行ったとしている。

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冠動脈疾患診断後、禁煙で発作リスク半減も減煙では無効

 心臓病と診断された後に禁煙すると、心臓発作や心臓関連の死亡リスクが5年間で44%低下する可能性を示すデータが報告された。ただし、喫煙本数を減らしただけでは、この効果は期待できないという。ビシャ・クロード・ベルナール病院(フランス)のJules Mesnier氏らの研究の結果であり、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2024、8月30日~9月2日、英ロンドン)で発表された。 この研究では、安定冠動脈疾患患者の国際レジストリ(CLARIFY)のデータを用いて、冠動脈疾患患者の喫煙状況が、その後の心血管イベントリスクに与える影響が評価された。冠動脈疾患の診断から平均6.5年経過した患者3万2,378人を5年間追跡し、心血管死または心筋梗塞の発症で定義される主要心血管イベント(MACE)の発生率を検討した。登録時点で1万3,366人(41.3%)は喫煙歴がなく、1万4,973人(46.2%)は元喫煙者、4,039人(12.5%)は現喫煙者だった。冠動脈疾患診断時に喫煙していた元喫煙者のうち、72.8%は翌年までに禁煙していたが、27.2%は喫煙を継続していた。 冠動脈疾患の診断後に禁煙していた患者は、禁煙した時期にかかわらずイベントリスクが有意に低下していた。具体的には、喫煙を継続していた患者よりもMACE発生率が44%低かった(調整ハザード比〔aHR〕0.56〔95%信頼区間0.42~0.76〕)。一方、タバコの本数を減らしながらも喫煙を続けていた患者は、タバコの本数を変えずに喫煙を続けていた患者と、MACEリスクに有意差がなかった(aHR0.96〔同0.74~1.26〕)。また、喫煙期間が1年長くなるごとにMACEリスクが8%上昇するという関連が認められた(aHR1.08〔同1.04~1.12〕)。なお、禁煙した患者は前述のようにMACEリスクが急速かつ大幅に低下していたが、喫煙歴のない患者と同程度のリスクレベルには到達していなかった。 Mesnier氏は、「私は自分の患者に対してよく、『禁煙するのが遅すぎるということはないが、早ければ早いほど心血管疾患のリスクは低くなる。しかし、減煙では十分ではない』と話している」という。また、ESC発のリリースの中で、「心臓病の診断後1年以内に禁煙を成功させる重要性を強く伝え、患者をサポートする必要がある」と述べている。 一方、タバコを長年、吸い続けている人の中には、「今からでは禁煙しても遅すぎる」と考えている人が少なくないようだが、今回の研究ではそのような考え方が正しくないことも示された。この点についてMesnier氏は、「心臓病と診断された後での禁煙であっても、心筋梗塞や死亡という重大なリスクをほぼ半分に減らすことができる。この情報は、禁煙に踏み出せずにいる患者に向けた強力なメッセージとなるだろう」と語り、本研究の意義を強調している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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大動脈弁狭窄症の症例は特別扱いが必要か?(解説:山地杏平氏)

 経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)を行う症例において、有意な冠動脈病変がみられた場合、経皮的冠動脈形成術(PCI)を行うべきか否かを検討したNOTION-3試験がESC(欧州心臓病学会)で発表され、NEJM誌に同時掲載されました。 TAVIが必要とされる症例の多くは80歳以上の高齢者であり、動脈硬化のリスクファクターが重なることが多いため、冠動脈病変を合併することも多くみられます。TAVIが必要な、今後の予後が限られていると予想される症例において、合併している冠動脈病変に対し積極的な侵襲的治療を行う意義があるのかが検討されました。 TAVIを行う前後でPCIを行う群と保存的加療を行う群を比較した結果、死亡、心筋梗塞、緊急での冠血行再建の複合エンドポイントにおいて、PCI群で26%、保存的加療群で36%、ハザード比0.71(95%信頼区間:0.51~0.99、p=0.04)と、有意にPCI群でイベントが少ないという結果が得られました。その内訳では、とくに心筋梗塞と緊急冠血行再建において差がみられ、さらにTAVI後1年以降で各群のイベント発生率に差が認められました。 観察研究とは異なり、無作為化比較研究に同意して参加する症例は、比較的健康な方が登録されやすい傾向にあります。また、最近では低リスク群に対するTAVIも増加しており、NOTION-3試験に登録された症例の年齢中央値は82歳、STSスコアは3点と低値であり、比較的低リスクの症例が対象となっています。今回の試験で報告された死亡率は、PCI群で23%、保存的加療群で27%でした。追跡期間の中央値は2年でしたが、Kaplan-Meierカーブによる推定ではおおむね直線的な推移を示しており、これらの数値を5年の死亡率として扱ってもよいと考えられます。 NOTION-3試験はデンマークを中心とした北欧で行われ、本邦と同程度の平均寿命が見込まれます。2013~17年とやや古いデータですが、本邦の実情を反映したOCEAN-TAVIレジストリから石津 賢一先生らが行った報告によれば、STSスコア4点以下の症例の4年死亡率は22.6%、STSスコア4~8点では28.7%、STSスコア8点以上では49.0%であり(Ishizu K, et al. Am J Cardiol. 2021;149:86-94.)、NOTION-3でみられた死亡率とおおむね同等であると考えられます。 日本国勢調査では各年齢の死亡率が報告されており、これから生命表が作成されます。このデータから累乗することで、本邦における各年齢の推定予後を計算することが可能です。CURRENT-ASレジストリから谷口 智彦先生らが行った報告では、重症大動脈弁狭窄症を認めた症例と年齢および性別をマッチさせた場合の5年死亡率は3.2%とされています(Taniguchi T, et al. Ann Thorac Surg. 2023;116:1195-1203.)。これらを踏まえると、TAVIを行ううえでは低リスクとされる症例であっても、5年で4分の1が死亡することは一般人口と比較しても高い死亡率と考えられます。 FAME試験やFAME 2試験の結果を受け、FFR 0.80以下の病変では一般的にPCIを行ったほうが良いとされています。これに対し、NOTION-3試験に登録されたようなTAVIを必要とする、5年死亡率が約4分の1の症例においても、やはりPCIを行ったほうが良いという結果でした。 大動脈弁狭窄症の症例において、心筋虚血の評価やPCIの検討に関するプラクティスは、STSスコアが比較的低値であれば従来と大きく変える必要はないと考えられます。一方で、死亡率がより高いと予想される合併症の多い症例やフレイルな症例には、引き続き慎重なPCI適応検討が求められます。

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フルキンチニブ、切除不能大腸がんに承認/武田

 武田薬品は2024年9月24日、VEGFR1/2/3選択性の経口チロシンキナーゼ阻害薬フルキンチニブ(商品名:フリュザクラ)について、「がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」を効能又は効果として、厚生労働省より製造販売承認を取得したと発表。 今回の承認は主に、米国、欧州、日本およびオーストラリアで実施された国際共同第II相FRESCO-2試験の結果に基づいている。 同試験では、転移を有する既治療の大腸がん患者を対象としてフルキンチニブ+ベストサポーティブケア(BSC)群とプラセボ+BSC群を比較検討した。結果、有効性の主要評価項目および重要な副次評価項目はすべて達成し、前治療の種類にかかわらず、フルキンチニブ投与患者で一貫したベネフィットが示された。投与中止に至る有害事象の発現率は、プラセボ+BSC群の21%に対し、フルキンチニブ+BSC群は20%であった。

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厳しい寒さは心筋梗塞リスクを高める

 厳しい寒さは短期的に心筋梗塞(MI)リスクを高めることが、新たな研究で明らかになった。低い気温や寒波がMI発症に与える短期的な影響について検討した、米ハーバード大学のWenli Ni氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2024、8月30日~9月2日、英ロンドン)で発表されるとともに、「Journal of the American College of Cardiology(JACC)」に9月1日掲載された。Ni氏は、「寒冷ストレスがかかっている間は特に、急性MIが生じやすい可能性がある」と述べている。 研究グループによると、過去の研究では、外気温が心血管に及ぼす負荷は、高温よりも低温の方が大きいことが明らかにされている。今回、Ni氏らは、より寒冷な地域において低温と寒波が心血管に及ぼす影響を検討するために、スウェーデンのSWEDEHEART登録者12万380人の転帰を追跡した。対象者は、2005年から2019年の寒冷期(10〜3月)にMIにより入院していた。機械学習を用いて1km2単位での日平均気温を推定し、同じ自治体に住む人が経験した日々の気温のパーセンタイルに基づいて、それぞれの自治体ごとの寒さに対する適応度を評価した。寒波は、各自治体の気温分布の10パーセンタイル以下の日平均気温が2日以上続く期間として定義された。低温と寒波の影響は、ラグ(低温や寒波の発生からその影響が現れるまでの時間差)0〜1日(即時)とラグ2〜6日(遅延)に分けて検討した。 その結果、低温になってから2〜6日後に外気温パーセンタイルが1単位低下すると、MI、非ST上昇型MI(NSTEMI)、およびST上昇型MI(STEMI)のリスクがそれぞれ有意に増加し、そのオッズ比は同順で、1.099(95%信頼区間1.057〜1.142)、1.110(同1.060〜1.164)、1.076(同1.004〜1.153)であると推定された。また、到来から2〜6日後の寒波もMI、NSTEMI、STEMIの有意なリスク増加と関連し、オッズ比は同順で1.077(同1.037〜1.120)、1.069(同1.020〜1.119)、1.095(同1.023〜1.172)であった。一方、ラグ0〜1日の低温と寒波は、MIのリスク低下と関連していた。これらの結果は、初発のMIであったかや、MIの既往歴の有無を考慮しても変わらなかった。 Ni氏らは、寒くなってすぐの時点ではMIの発生が減少していた理由について、「気温が下がり始めた当初は、人々が用心して屋内で過ごそうとしたためかもしれない。しかし、そのような行動を持続するのは難しく、数日のうちに外出して極寒の気温に身をさらし、それがMIリスクの上昇を招いたのではないか」との見方を示す。 本論文の付随論評を執筆した、米イェール大学公衆衛生大学院疫学分野のKai Chen氏と米ヒューストン・メソジスト病院心臓病学のKhurram Nasir氏は、気候変動により気温は極端に高くなったり低くなったりし続けていることを踏まえ、「医療システムが心血管の健康に対するこれらの課題を管理し、緩和するのに十分な備えを整えるには、両極端の気温に対処する必要がある」と述べている。

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第234回 これまでにない作用の統合失調症治療薬を米国が承認

これまでにない作用の統合失調症治療薬を米国が承認ここ数十年なかった新しい作用機序の統合失調症治療薬Cobenfyが米国で先月末26日に承認されました1,2)。その承認により、統合失調症患者にこれまで処方されてきた薬剤とは一味違う抗精神病薬の使用が同国で可能になります。Cobenfyは神経伝達に携わるコリン作動性受容体の1つであるムスカリン受容体を標的とします3)。それらの受容体を活性化することは幻覚や妄想などの統合失調症を特徴づける症状の源である神経伝達物質ドーパミン放出に影響することが知られています。ムスカリン伝達は認知や感情の処理に携わる脳回路を調節することも知られています。ムスカリン伝達を手入れするCobenfyはそれゆえドーパミン活性の抑制を主とする他の統合失調症治療薬に比べてよりあまねく効果があるようです。Cobenfyの道のりCobenfyの歴史は古く、その始まりは米国の製薬会社Eli Lillyが1990年代の初めにキサノメリン(xanomeline)という化合物の開発を始めたことに端を発します3)。キサノメリンはムスカリン受容体の作動薬です。もっぱらアルツハイマー病患者の記憶の改善を目指して開発が始まりましたが、統合失調症の治療の可能性も検討されていました。幸いキサノメリンはアルツハイマー病患者や統合失調症患者を募った試験で認知機能や精神症状の改善効果を示しました4,5)。しかし、どうやら消化管のムスカリン受容体活性化のせいで、キサノメリン投与群には悪心や嘔吐などの胃腸有害事象が多く生じました。たとえばアルツハイマー病患者342例が参加した試験ではキサノメリン高用量投与群の半数強(52%)が有害事象で脱落しており4)、用量依存的な有害事象はもっぱら胃腸系でした。Lillyは最終的にキサノメリンの開発から手を引くことになります。Lillyが手を引いてからしばらくしてキサノメリンの復活を図る取り組みが始まります。2009年に米国のボストンにバイオテクノロジー企業Karuna Therapeuticsを設立したAndrew Miller氏は、ムスカリン受容体作動薬と脳の外でのその働きを打ち消す化合物を組み合わせた薬なら大した胃腸障害を生じることなく認知や精神症状への有益効果を保てるのではないかと思いつきました。そこでKarunaはLillyから権利を手に入れたキサノメリンと血液脳関門(BBB)を通過しないムスカリン受容体拮抗薬であるトロスピウム(trospium)を組み合わせた薬を作りました。それがCobenfyです。Cobenfyはキサノメリンが胃腸に手出しするのをトロスピウムによって防ぎ、脳に限って作用するようにすることを目指します。その後の臨床試験は順調に進み、最終的に2つの第III相試験(EMERGENT-2とEMERGENT-3)でCobenfyの統合失調症症状改善効果がプラセボを有意に上回りました。陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の合計点がCobenfy投与群5週時点ではベースラインに比べて21点ほど低く、プラセボ群の約12点低下を10点弱ほど上回りました6)。胃腸の有害事象はプラセボに比べてどうしても多かったものの、たいていは1週間か2週間で解消しました3)。Cobenfyとプラセボ群の有害事象での脱落率は似たりよったりでどちらも5%ほどです(それぞれ6%と4%)6)。Cobenfyで心配なことCobenfyはいくつか悩ましいことがあります。いまや抗精神病薬の多くは年に数回の注射で事足りる持効性製剤をそろえていますが、Cobenfyは1日2回の服用が必要です。頻繁な投与を要する薬は続けることが困難であり、中止してしまう統合失調症患者が多いようです7)。また、Cobenfyはご多分にもれずいい値段で、1ヵ月あたりの定価は1,850ドル、1年間では2万ドル強かかります。医療経済の専門家は他の薬剤に比べてその価格が効果に見合ったものかどうかを心配しています3)。そんな心配をよそに製薬業界のアナリストのほとんどはCobenfyの需要は大きいとみており、やがて数十億ドルの年間売り上げに達すると予想しています。そういう期待を背景にしてBristol Myers Squibb(BMS)は140億ドルも払ってKaruna Therapeuticsを今春3月に手中に収めました8)。BMSは米国の患者が今月遅くにCobenfyを入手できるようにするつもりです。長期効果は有望Cobenfyの長期使用の成績は有望で、この4月に発表された52週間のEMERGENT-4試験では同剤投与患者のPANSS合計点がベースラインと比べて約33点低下しました9)。EMERGENT-4試験は上述した5週間の二重盲検第III相試験2つのいずれかを完了した患者を募って実施されています。参考1)FDA Approves Drug with New Mechanism of Action for Treatment of Schizophrenia / PRNewswire2)U.S. Food and Drug Administration Approves Bristol Myers Squibb’s COBENFY? (xanomeline and trospium chloride), a First-In-Class Muscarinic Agonist for the Treatment of Schizophrenia in Adults / BUSINESS WIRE3)Revolutionary drug for schizophrenia wins US approval / Nature 4)Bodick NC, et al. Arch Neurol. 1997;54:465-473.5)Shekhar A, et al. Am J Psychiatry. 2008;165:1033-1039.6)OBENFY U.S.:Prescribing Information7)Zacker C, et al. Clinicoecon Outcomes Res. 2024;16:567-579.8)Bristol Myers Squibb Completes Acquisition of PureTech's Founded Entity Karuna Therapeutics for $14 Billion / BUSINESS WIRE9)Bristol Myers Squibb Presents New Interim Long-Term Efficacy Data from the EMERGENT-4 Trial Evaluating KarXT in Schizophrenia at the 2024 Annual Congress of the Schizophrenia International Research Society / BUSINESS WIRE

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HFpEFに2番目のエビデンスが登場―非ステロイド系MRAの時代が来るのか?(解説:絹川弘一郎氏)

 ESC2024はHFpEFの新たなエビデンスの幕開けとなった。HFpEFに対する臨床試験はCHARM-preserved、PEP-CHF、TOPCAT、PARAGONと有意差を検出できず、エビデンスのある薬剤はないという時代が続いた。 CHARM-preservedはプラセボ群の一部にACE阻害薬が入っていてなお、プライマリーエンドポイントの有意差0.051と大健闘したものの2003年時点ではmortality benefitがない薬剤なんて顧みられず、PEP-CHFはペリンドプリルは1年後まで順調に予後改善していたのにプラセボ群にACE阻害薬を投与される例が相次ぎ、2年後には予後改善効果消失、TOPCATはロシア、ジョージアの患者のほとんどがおそらくCOPDでイベントが異常に少なく、かつ実薬群に割り付けられてもカンレノ酸を血中で検出できない例がロシア人で多発したなど試験のqualityが低かった、PARAGONではなぜか対照にプラセボでなくARBの高用量を選んでしまうなど、数々の不運または不思議が重なってきた。 その後ここ数年でSGLT2阻害薬がHFmrEF/HFpEFにもmortality benefitこそ示せなかったが心不全入院の抑制は明らかにあることがわかり、初のHFpEFに対するエビデンスとなったことは記憶に新しい。今回のFinearts-HF試験は、スピロノラクトンやエプレレノンと異なる非ステロイド骨格を有するMRA、フィネレノンがHFmrEF/HFpEFを対象に検討された。ここで、ステロイド骨格のMRAとフィネレノンとの相違の可能性について、まず説明する。 アルドステロンが結合したミネラルコルチコイド受容体は、cofactorをリクルートしながら核内に入って転写因子として炎症や線維化を誘導する遺伝子の5’-regionに結合して、心臓や腎臓の臓器障害を招くとされてきた。ステロイド骨格のMRAではアルドステロンを拮抗的に阻害するものの、ミネラルコルチコイド受容体がcofactorをリクルートすることは抑制できず、わずかながらではあっても炎症や線維化を促進してしまうことが知られている。このことがステロイド系MRAに腎保護作用が明確には認めづらい原因かといわれてきた。 一方、フィネレノンはもともとCa拮抗薬の骨格から開発された非ステロイド系MRAであり、cofactorのリクルートはなく、アルドステロン依存性の遺伝子発現はほぼ完全にブロックされるといわれている。FIDELIO-DKD試験ですでに示されているように糖尿病の合併があるCKDに限定されているとはいえ、フィネレノンには腎保護作用が明確にある。さらに、フィネレノンの体内分布はステロイド系MRAに比較して腎臓より心臓に多く分布しているようであり、腎臓の副作用である高カリウム血症が少なくなるのではないかという期待があった。このような背景においてHFmrEF/HFpEF患者を対象に、心不全入院の総数と心血管死亡の複合エンドポイントの抑制をプライマリーとして達成したことはSGLT2阻害薬に続く快挙である。カプランマイヤー曲線はSGLT2阻害薬並みに早期分離があり、フィネレノン20mgをDKDに使用している現状では血圧や尿量にさほどの変化を感じないが、早期に効果があるということは、やはり血行動態的に作用しているとしか考えられず、40mgでの降圧や利尿に対する効果を今一度検証する必要があると感じた。またかというか、HFpEFでは心血管死亡の発症率が低いため、mortalityに差がついていないが、これはもともと6,000人2年の規模の試験では当初から狙えないことが明らかなので、もうあまりこの点をいうのはやめたほうがいいかと思われる。 ちなみに死亡のエンドポイントで事前に有意差を出すための症例数を計算すると、1万5,000人必要だそうである。しかし、高カリウム血症の頻度は依然として多く、非ステロイド系MRAとしての期待は裏切られた格好になっている。もっとも、プロトコル上、eGFR>60の症例にはターゲット40mg、eGFR<60ではターゲット20mgとなっており、腎機能の低い症例に高カリウムが多いのか、むしろ高用量にした場合に一定程度高カリウムになっているのか、など細かい解析は今後出てくる予定である。腎保護の観点でもAKIはむしろフィネレノンで多いという結果であり、DKDで認められたeGFR slopeの差などがHFpEFでどうなのかも今後明らかになるであろう。このように、現状では非ステロイド系という差別化にはいまだ明確なデータはないようであり、それもあってTOPCAT Americasとのメタ解析が出てしまうことで、MRA一般にHFpEFに対するクラスエフェクトでI/Aというような主張も米国のcardiologistから出ている。 しかし、前述のようにいかにロシア、ジョージアの症例エントリーやその後のマネジメントに問題があったとはいえ、いいとこ取りで試験結果を解釈するようになればもう前向きプラセボ対照RCTの強みは消失しているとしかいえず、あくまでもTOPCAT全体の結果で解釈すべきで、ここまで長年そういう立場で各国ガイドラインにも記述されてきたものを、FINEARTS-HF試験の助けでスピロノラクトンの評価が一変するというのは、さすがに多大なコストと時間と手間をかけた製薬企業に残酷過ぎると思う。 少なくともFINEARTS-HF試験の結果をIIa/B-Rと評価したうえで、今後フィネレノン自体がHFrEFにも有効であるのか、または第III相試験中の他の非ステロイド系MRAの結果がどうであるかなどを合わせて、本当に非ステロイド系MRAが既存のステロイド系MRAに取って代わるかの結論には、まだ数年の猶予は必要であろうか。

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週末の寝だめは心臓病リスクを低下させるか?

 ウィークデーの睡眠不足を週末に補う「キャッチアップ睡眠」は、心臓病のリスクを最大20%低下させる可能性のあることが、UKバイオバンク参加者9万人以上を対象にした研究で明らかになった。阜外病院(中国)の循環器専門家であるYanjun Song氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2024、8月30日~9月2日、英ロンドン)で発表された。 睡眠不足に悩まされている人は、休みの日の朝、普段より遅くまで寝て睡眠負債の影響を取り除こうとするものだ。しかし、このようなキャッチアップ睡眠が心臓の健康に役立つのかどうかについては明らかになっていない。 Song氏らは今回、UKバイオバンク参加者9万903人のデータを用いて、週末のキャッチアップ睡眠と心臓病との関連を検討した。参加者の睡眠に関するデータは活動量計で測定されていた。対象者は、キャッチアップ睡眠の時間の長さに応じて、最も少ないQ1(−16.05〜−0.26時間)から最も多いQ4(1.28〜16.06時間)までの4群に分類された(Q1群:2万2,475人、Q2群:2万2,901人、Q3群:2万2,692人、Q4群:2万2,695人)。夜間の睡眠時間が7時間未満と報告した場合を「睡眠負債あり」と見なしたところ、21.8%(1万9,816人)がこれに該当した。さらに、入院記録と死亡レジストリを用いて、虚血性心疾患、心不全、心房細動などさまざまな心臓病の診断歴についても調べた。追跡期間の中央値は約14年だった。 解析の結果、Q4群ではQ1群に比べて心臓病の発症リスクが19%低いことが明らかになった。睡眠負債ありに分類された人を対象にしたサブグループ解析でも、Q4群ではQ1群に比べて心臓病の発症リスクが20%低いことが示された。 こうした結果を受けてSong氏は、「十分なキャッチアップ睡眠は心臓病のリスク低下につながる。また、この関連性は、日常的に睡眠負債を抱えている人の間ではさらに顕著になる」と結論付けている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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騒音曝露は心臓の健康に影響を及ぼし心筋梗塞後のMACEリスクを高める

 ドイツとフランスの住民を対象にした2件の研究から、都会の騒音は心臓の健康に悪影響を及ぼす可能性のあることが明らかになった。これらの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2024、8月30日~9月2日、英ロンドン)で発表された。 1件目の研究は、ブレーメン心臓血管研究所(ドイツ)のHatim Kerniss氏らが、急性心筋梗塞(MI)によりブレーメン市の心臓センターに入院した50歳以下の患者430人を対象に実施したもの。研究グループが対象者の居住地の騒音レベルを調べたところ、これらの対象者は、同じ地域に居住する一般住民よりも高いレベルの騒音に曝露していることが判明した。また、糖尿病や喫煙などの従来の心血管疾患(CVD)リスク因子に関する評価指標(LIFE-CVD)のスコアから低リスクと判定されるMI患者では、スコアが高い人に比べて騒音レベルが有意に高いことも示された。 Kerniss氏は、「都会の騒音は、CVDのリスク因子として確定している因子が少ない若年層でのMIリスクを有意に増加させる可能性がある」とESCのニュースリリースの中で結論付けている。研究グループは、従来のリスク評価モデルでは、低リスクと考えられる若年層の心血管リスクを過小評価する可能性があると指摘。騒音曝露をモデルに組み込むことで、MIのリスクが高い若年層をより正確に特定でき、予防策や介入をより効果的に行うことができる可能性があるとの見方を示している。 2件目の研究は、ブルゴーニュ大学およびディジョン病院(フランス)のMarianne Zeller氏らが、フランスのMIに関するデータベース(RICO)を用いて、初発のMI後の患者における環境騒音の影響について検討したもの。対象は、急性MIによる入院後28日以上生存していた患者864人で、1年後の追跡調査の結果が分析された。 入院から1年後の時点で、19%の患者に主要心血管イベント(MACE;心臓突然死、心不全による再入院、MIの再発、緊急血行再建、脳卒中、狭心症/不安定狭心症)が生じていた。対象者の自宅の住所を基に騒音レベルを算出すると、平均騒音レベルは24時間を通して56.0dB、夜間で49.0dBと中程度であり、ヨーロッパの大部分の人口を代表する騒音曝露レベルであった。解析の結果、大気汚染や社会経済的レベルなどの他の因子に関わりなく、夜間の騒音レベルが10dB増加するごとにMACEリスクが25%増加することが明らかになった(ハザード比1.25、95%信頼区間1.09〜1.43)。 Zeller氏は、「これらのデータは、騒音曝露がMIの予後に影響を及ぼす可能性に関する初めての洞察となるものだ」と述べている。また同氏は、「より大規模な前向き研究によりこの結果が裏付けられれば、MIから回復した患者に対する治療の一環として、騒音低減に取り組むべきことが支持されるかもしれない」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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腎盂腎炎に対する内服抗菌薬を極める~スイッチのタイミングなど~【とことん極める!腎盂腎炎】第7回

腎盂腎炎に対する内服抗菌薬を極める~スイッチのタイミングなど~Teaching point(1)抗菌薬投与前に必ず血液/ 尿塗抹・培養検査を提出する(2)単純性腎盂腎炎ではセフトリアキソンなどの単回注射薬を使用し、適切なタイミングで内服抗菌薬に変更する(3)複雑性腎盂腎炎では基本的には入院にて広域抗菌薬を使用する。外来で加療する場合は慎重に、下記のプロセスで加療を行う(4)副作用や薬物相互作用に注意し、適切な内服抗菌薬を使用しよう《今回の症例》78歳、男性。ADLは自立。既往に前立腺肥大症があり尿道カテーテルを留置されている。来院3日前から悪寒戦慄を伴う発熱と右腰背部痛があり当院を受診した。尿中白血球(5/1視野)と尿中細菌105/mLで白血球貪食像があり、訪問看護師からの「尿道カテーテルをしばしば担ぎあげてしまっていた」という情報と併せ、カテーテル関連の腎盂腎炎と診断した。来院時、発熱に伴うふらつき・食思不振がみられたため入院加療とした。尿中のグラム染色とカテーテル留置の背景からSPACE(S:Serratia属、Pseudomonas aeruginosa[緑膿菌]、Acinetobacter属、Citrobacter属、Enterobacter属)などの耐性菌を考慮し、ピペラシリン/タゾバクタム1回4.5gを6時間ごとの経静脈投与を開始し、経過は良好であった。その後、尿培養と血液培養から緑膿菌が検出された。廃用予防のため早期退院の方針を立て、内服抗菌薬への切り替えを検討していた。また入院3日目に嚥下機能を確認したところ嚥下機能が低下していることが判明した。はじめに本項では腎盂腎炎の内服抗菌薬への変更のタイミングや嚥下機能や菌種による選択薬のポイントや副作用などについて述べる。まずひと口に腎盂腎炎といっても、単純性腎盂腎炎と複雑性腎盂腎炎では選択するべき抗菌薬や対応は異なる。 1.単純性腎盂腎炎単純性腎盂腎炎において、(1)ショックバイタルでない、(2)敗血症でない、(3)嘔気や嘔吐がない、(4)脱水症の徴候が認められない、(5)免疫機能を低下させる疾患(悪性腫瘍、糖尿病、免疫抑制薬使用、HIV感染症など)が存在しない、(6)意識障害や錯乱などがみられない、のすべてを満たせば外来での治癒が可能である1)。単純性腎盂腎炎の原因菌はグラム陰性桿菌が約80%を占め、そのうち大腸菌(Escherichia coli)が90%である。そのほかKlebsiella属やProteus属が一般的であることからエンピリックにセフトリアキソンによる静脈投与を行う。その後、治療開始後に静注抗菌薬から経口抗菌薬へのスイッチを考慮する場合、従来からよく知られた指標としてCOMS criteriaがある(表1)。画像を拡大する2.複雑性腎盂腎炎冒頭の症例も当てはまるが、複雑性腎盂腎炎は、尿路の解剖学的・機能学的問題(尿路狭窄・閉鎖、嚢胞、排尿障害、カテーテル)や全身の基礎疾患をもつ尿路感染症である。一番の問題としては再発・再燃を繰り返し、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、Enterobacter属、Serratia属、Citrobacter属、腸球菌(Enterococcus属)などの耐性菌が分離される頻度が増えることである。そのため単純性のように単純にセフトリアキソン単剤→内服スイッチともいかないのが厄介な点である。この罠にはまらないためには、必ず尿塗抹・培養検査を提出しグラム染色を確認することが大切である。基本的には全例入院で加療することが推奨されているが、全身状態良好でかつグラム陰性桿菌が起因菌とわかった際には周囲に見守れる人の確認(高齢者の場合)や連日通院することを約束しセフトリアキソンを投与し、培養結果と全身状態が改善したことを確認して内服抗菌薬を処方する2)。この場合も合計14日間の投与期間が推奨されている1)。なお、複雑性腎盂腎炎を外来加療することはリスクが高く、入院加療が理想である。【内服抗菌薬の使い分け】いずれにせよ培養の結果がKeyとなるが、一般的な内服抗菌薬は以下が推奨されている。処方例3,4)(1)ST合剤(商品名:バクタ)1回2錠を12時間ごとに内服(2)セファレキシン(同:ケフレックス)1回500mgを6〜8時間ごとに内服(3)シプロフロキサシン(同:シプロキサン)1回300mgを12時間ごとに内服(4)レボフロキサシン(同:クラビット)1回500mgを24時間ごとに内服腎機能に合わせた投与量や注意事項など表2に示す。なお、腎機能はeGFRではなくクレアチニンクリアランスを使用し評価する必要がある。画像を拡大する治療期間は一般に5〜14日間であり、選択する抗菌薬による。キノロン系は5〜7日間、ST合剤は7〜10日間、βラクタム系抗菌薬は10〜14日間の投与が勧められている2)。各施設や地域の感受性パターンに基づいて抗菌薬を選択することも大切である。筆者の所属施設では、単純性の腎盂腎炎の内服への切り替えは大腸菌のキノロン系への耐性が20%を超えていることから、セファレキシンやST合剤を選択することが多い。【各薬剤の特徴】<ST合剤>バイオアベイラビリティも良好で腎盂腎炎の起因菌を広くカバーする使いやすい薬剤である。ただし最近では耐性化も進んできており培養結果を確認することは重要である。また消化器症状、皮疹、高カリウム血症、腎機能障害、汎血球減少など比較的副作用が多いため注意して使用する5)。とくに65歳以上の高齢患者では高カリウム血症と腎不全をより来しやすいと報告されており経過中に血液検査で評価する必要がある6)。簡易懸濁も可能なため、嚥下機能低下時や胃ろう造設されている患者でも投与可能である。妊婦への投与は禁忌である。<セファレキシン>第1世代セフェム系抗菌薬であるセファレキシンは、一部の大腸菌などの腸内細菌に耐性の場合があるため、起因菌や感受性の結果を確認することが重要である。また一般的には長時間作用型の静注薬であるセフトリアキソンを初めの1回使用したうえで、セファレキシンを用いることが推奨されている。なお第2世代セフェム系内服抗菌薬であるセファクロル(商品名:ケフラール)はアレルギーの頻度が多いため推奨されていない。第3世代セフェム系抗菌薬(同:メイアクトMS、フロモックス)は、わが国ではさまざまな場面で使用されてきたが、バイオアベイラビリティの関係で処方しないほうがよい。ペニシリン系では、βラクタマーゼ阻害薬配合であれば使用可能とされている。日本のβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン(同:オーグメンチン)はペニシリン含有量が少なく、アモキシシリン(同:サワシリン)と併用し、サワシリン250mg+オーグメンチン375mgを8時間ごとに投与することが推奨されている。<ニューキノロン系>シプロフロキサシン、レボフロキサシンなどのニューキノロン系については、施設における大腸菌のニューキノロン耐性が10%以下の際は経験的治療として投与が可能とされている。また大腸菌以外に緑膿菌にも効果があることが最大の利点であるため、耐性獲得の点からはなるべく最低限の使用を心がけ、温存することが推奨される。副作用としてQT延長、消化器症状、アキレス腱断裂、血糖異常がある。相互作用として、NSAIDsやテオフィリン(とシプロフロキサシン)との併用で痙攣発作を誘発する7)。妊婦への投与は禁忌である。レボフロキサシンはOD錠があるため、嚥下機能が低下している高齢者にも使いやすい。細粒もあるが、経管栄養では溶けにくいため細粒ではなく錠剤を粉砕する方が望ましい。<ESBL産生菌>extended spectrum β-lactamases(ESBL)産生菌に対する経口抗菌薬としてST合剤やホスホマイシンが知られている。ST合剤は感受性があれば使用可能であり、カルバペネム系抗菌薬に治療効果が劣らず、入院期間の短縮、合併症の減少、医療コストの削減が期待できるとの報告がある8)。ホスホマイシンは、海外では有効性が示されているものの、国内で承認されている経口薬はfosfomycin calciumだが、海外で用いられているのはfosfomycin trometamolであるため注意を要する。fosfomycin trometamolのバイオアベイラビリティは42.3%だがfosfomycin calciumのバイオアベイラビリティは12%にすぎない。近年耐性菌が増加するなかで他剤と作用機序の異なる本剤が見直されてきてはいるが、国内で有効性が示されているのは単純性の膀胱炎のみである7,9)。腎盂腎炎に対する有効性は現在研究中であり、現時点では他剤が使用できない軽症膀胱炎、腎盂腎炎に使用を限定するべきである。《今回の症例のその後》尿培養から検出された緑膿菌はレボフロキサシンへの感性が良好であった。心電図にてQT延長がないことを確認し、入院5日目に全身状態良好で発熱など改善傾向であったことから、レボフロキサシンOD錠1回250mgを24時間ごと(腎機能低下あり、用量調節を要した)の内服へ切り替え同日退院し再発なく経過している。1)山本 新吾 ほか:JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 ─ 尿路感染症・男性性器感染症─. 日化療会誌. 2016;64:1-30.2)Johnson JR, Russo TA. N Engl J Med. 2018;378:48-59.3)Hernee J, et al. Am Fam Physician. 2020;102:173-180.4)Gupta K, Trautner B. Ann Intern Med. 2012;156:ITC3-1-ITC3-15, quiz:ITC3-16.5)Takenaka D, Nishizawa T. BMJ Case Rep. 2020;13:e238255.6)Crellin E, et al. BMJ. 2018;360:k341.7)青木 眞 著. レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版. 医学書院. 2020.8)Shi HJ, et al. Infect Drug Resist. 2021;14:3589-3597.9)Matsumoto T, et al. J infect Chemother. 2011;17:80-86.

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標準治療の方法は世界に1つ?(解説:後藤信哉氏)

 冠動脈インターベンション治療後の抗血小板薬併用療法を強化し続けた時代があった。心血管イベントリスクのみに注目すればアスピリンにクロピドグレル、さらに標準化されP2Y12受容体阻害効果が強化されたプラスグレル、チカグレロルと転換するメリットがあった。しかし、安全性のエンドポイントである重篤な出血合併症は、抗血小板療法の強化とともに増加した。冠動脈インターベンション後、血栓イベントリスクの高い短期間のみ抗血小板併用療法を行い、時間経過とともに単剤治療に戻す抗血小板薬治療の「de-escalation」が注目された。本研究では薬剤溶出ステント後に、2週間~3ヵ月の抗血小板薬併用療法後に抗血小板薬を「de-escalation」した症例と12ヵ月以上抗血小板併用療法を継続した症例を比較した。過去のランダム化比較試験の、個別症例あたりのメタ解析なのでエビデンスレベルは高い。 予想されたように重篤な出血イベントリスクは「de-escalation」した症例が、しない症例よりも少なかった。心血管イベントリスクには差異がなかった。臨床医の実感のように短期間の抗血小板併用療法後は、抗血小板薬単剤で十分であることが示唆された。「de-escalation」したほうが死亡すら少なくなるのは、重篤の出血イベントの抗血栓薬中止による心血管死亡、出血死亡などのためと考える。 本研究の提示するエビデンスは明確であるが、残念ながら日本では適応できない。本研究の対象とされた90mg bidのチカグレロルは日本を中心に施行されたPHILO試験ではクロピドグレルに対する優越性を示せなかった。日本では90mg bidチカグレロルは標準治療ではない。個別症例を標的とした多数のランダム化比較試験のメタ解析であっても、最初の症例選定クライテリアが異なる国には応用できない。われわれはclinical trialistsの1人として患者集団の標準治療のシステム的改善を目指した。しかし、世界に正解は多数あるのかもしれない。

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CABG後のAF予防、カリウム正常上限値の維持は不要/ESC2024

 冠動脈バイパス術(CABG)後の新規発症心房細動(AF)予防としてのカリウム投与について、濃度が正常下限値を下回った場合にのみカリウム投与することが、正常上限値になるまで定期投与することよりも劣らないことが最新の研究で明らかになった。本研究結果はドイツ・シャリテー-ベルリン医科大学のBenjamin O'Brien氏らが8月30日~9月2日に英国・ロンドンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2024(ESC2024、欧州心臓病学会)のホットラインで発表し、JAMA誌オンライン版2024年8月31日号に同時掲載された。 これまで、心臓手術後の心房細動(AFACS)予防のために血清カリウム濃度を正常値に維持するためのカリウム投与が行われていたが、明確な根拠がない上にリスクや費用を伴うため、疑問視されていた。 本研究は、英国とドイツの心臓外科センター23施設で行われた多施設前向き非盲検ランダム化非劣性試験(TIGHT-K試験)。2020年10月20日~2023年11月16日に、CABG手術を予定し、AF既往歴のない患者を登録した。対象患者は、厳格なカリウム管理群(カリウム補充を行う血清カリウム濃度下限値が4.5mEq/L[正常上限値])と緩やかなカリウム管理群(同:3.6mEq/L[正常下限値])に1対1でランダムに割り当てられた。 主要評価項目は、CABG手術後120時間以内または退院までのいずれか早いタイミングで心電図により確認された新規発症AFACS(30秒以上の持続性AF、心房粗動、頻脈と定義)。また、正常下限値群の非劣性は、新規発症AFACSのリスク差と、それに関連する片側97.5%信頼区間(CI)の上限が10%未満であると定義された。副次評価項目には、心拍リズム関連イベント、臨床転帰、介入に関連するコストが含まれた。 主な結果は以下のとおり。・対象患者1,690例は、平均年齢65歳、女性256例(15%)、EuroSCORE IIの平均スコア1.5%であった。・主要評価項目である新規発症AFACSは、正常上限値群の26.2%(n=219)および正常下限値群の27.8%(n=231)に発生し、リスク差は1.7%(95%CI:-2.6~5.9)であった。・携帯型心拍リズムモニターなどで検出されたAFACSの1回以上の発生率、AFACS以外の不整脈、入院患者の死亡率、入院期間については、グループ間に差はみられなかった。・正常下限値群でのカリウム投与回数の中央値(IQR)は0回(0~5)であったのに対し、正常上限値群では7回(4~12)で、カリウムの購入や投与にかかる患者1人当たりのコストは、正常下限値群で有意に低かった(平均差:111.89ドル、95%CI:103.60~120.19ドル、p<0.001)。 研究者らは「厳格なコントロールのためにカリウムを定期投与しても、緩やかなコントロールに比べてメリットはなく、コストが高くなることを示すことができた」と結論付けている。

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ACSのPCI後、短期DAPT後チカグレロルvs.12ヵ月DAPT~メタ解析/Lancet

 急性冠症候群(ACS)患者の冠動脈ステント留置後の標準治療は、12ヵ月間の抗血小板2剤併用療法(DAPT)となっている。この標準治療とDAPTからチカグレロルへと段階的減薬(de-escalation)を行う治療を比較したエビデンスの要約を目的に、スイス・Universita della Svizzera ItalianaのMarco Valgimigli氏らSingle Versus Dual Antiplatelet Therapy(Sidney-4)collaborator groupは、無作為化試験のシステマティックレビューおよび個々の患者データ(IPD)レベルのメタ解析を行った。とくにACS患者では、12ヵ月間のDAPT単独療法と比較して、DAPTからチカグレロルへの段階的減薬は、虚血のリスクを増大することなく大出血リスクを軽減することが示された。Lancet誌2024年9月7日号掲載の報告。チカグレロル単独療法の有効性と安全性をIPDレベルメタ解析で評価 研究グループは、冠動脈薬剤溶出ステントを用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた患者における短期DAPT(2週~3ヵ月)後チカグレロル単独療法(90mgを1日2回)について、12ヵ月DAPTと比較した有効性と安全性を評価するため、システマティックレビューおよびIPDレベルのメタ解析を行った。 対象試験は、冠動脈血行再建術後のP2Y12阻害薬単独療法とDAPTを比較した中央判定エンドポイントを有する無作為化試験とし、Ovid MEDLINE、Embaseおよび2つのウェブサイト(www.tctmd.comおよびwww.escardio.org)を各データベースの開始から2024年5月20日まで検索した。長期の経口抗凝固薬適応患者を含む試験は除外した。 Cochrane risk-of-biasツールを用いてバイアスリスクを評価。適格試験の主任研究者から匿名化された電子データセットでIPDの提供を受けた。 主要エンドポイントは、主要有害心血管または脳血管イベント(MACCE[全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合]、per-protocol集団で非劣性を検証)、Bleeding Academic Research Consortium(BARC)出血基準タイプ3または5の出血(ITT集団で優越性を検証)、および全死因死亡(ITT集団で優越性を検証)の3つとし、階層的に解析した。すべてのアウトカムは、Kaplan-Meier推定値で報告された。非劣性の検証は片側α値0.025を用い、事前規定の非劣性マージンは1.15(ハザード比[HR]スケール)であった。その後に順位付け優越性の検証を両側α値0.05を用いて行った。とくに女性で、チカグレロル単独療法にベネフィットありの可能性 合計8,361件の文献がスクリーニングされ、うち610件がタイトルおよび要約のスクリーニング中に適格の可能性があるとみなされた。その中で患者をチカグレロル単独療法またはDAPTに無作為化した6試験が特定された。 段階的減薬は介入後中央値78日(四分位範囲[IQR]:31~92)で行われ、治療期間の中央値は334日(329~365)であった。 per-protocol集団(2万3,256例)において、MACCE発生は、チカグレロル単独療法群297件(Kaplan-Meier推定値2.8%)、DAPT群は332件(3.2%)であった(HR:0.91[95%信頼区間[CI]:0.78~1.07]、非劣性のp=0.0039、τ2<0.0001)。 ITT集団(2万4,407例)において、BARC出血基準タイプ3または5の出血(Kaplan-Meier推定値0.9% vs.2.1%、HR:0.43[95%CI:0.34~0.54]、優越性のp<0.0001、τ2=0.079)および全死因死亡(0.9% vs.1.2%、0.76[0.59~0.98]、p=0.034、τ2<0.0001)は、いずれもチカグレロル単独療法群で低減した。 試験の逐次解析で、被験者全体およびACS集団におけるMACCEの非劣性および出血の優越性の強固なエビデンスが示された(z曲線は無益性の境界を越えたりnull値に近づいたりすることなく、モニタリング境界を越えるか必要な情報サイズを満たした)。 治療効果は、MACCE(相互作用のp=0.041)、全死因死亡(0.050)については性別による不均一性がみられ、女性ではチカグレロル単独療法のベネフィットがある可能性が示唆された。また、出血は臨床症状による不均一性がみられ(相互作用のp=0.022)、ACS患者ではチカグレロル単独療法にベネフィットがあることが示唆された。 これらの結果を踏まえて著者は、「チカグレロル単独療法は、とくに女性において生存ベネフィットとも関連する可能性があり、さらなる検討が必要である」と述べている。

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降圧薬の服用タイミング、5試験のメタ解析結果/ESC2024

 8月30日~9月2日に英国・ロンドンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2024(ESC2024、欧州心臓病学会)のホットラインセッションで、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のRicky Turgeon氏が降圧薬の服用タイミングに関する試験のメタ解析結果を報告し、服用タイミングによって主要な心血管イベント、死亡の発生率や安全性に差はみられなかったことを明らかにした。 本研究では、すべての降圧薬の服用タイミング(夕あるいは朝の服用)を比較するすべてのランダム化並行群間比較試験(RCT)の系統的レビューおよびメタ解析を実施。収集基準は、心血管系アウトカムが1つ以上、追跡期間が500患者年以上、追跡期間中央値が12ヵ月以上で、Cochrane Risk of Bias Tool ver.2を使用して評価を行った。主要評価項目は、主要有害心血管イベント(MACE:全死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、心不全増悪の複合)で、副次評価項目は、MACEのそれぞれの要因、全入院の原因、特定の安全なイベント(骨折、緑内障関連、認知機能の悪化)であった。 主な結果は以下のとおり。・4万6,606例を対象とした5件のRCTが解析対象となった(BedMed試験、BedMed-Frail試験、TIME試験、Hygia試験、MAPEC試験)。ただし、BedMed試験、BedMed-Frail試験、TIME試験は全体的にバイアスリスクが低いと判断された一方で、Hygia試験とMAPEC試験は、ランダム化プロセスに関してバイアスの懸念がいくつかみられた。・MACEの発生率は、5試験すべてにおいて夕方服用と朝方服用による影響を受けなかった(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.43~1.16)。・バイアスリスクによる感度分析の結果、バイアスが低いと判断された3つの試験では夕方服用と朝方服用のMACEのHRは0.94(95%CI:0.86~1.03)で、バイアスの懸念がある2つの試験のHRは0.43(95%CI:0.26~0.72)だった。・夕方服用と朝方服用による全死亡に差はみられなかった(HR:0.77、95%CI:0.51~1.16)。同様に、骨折、緑内障、認知機能に関するイベントなど、そのほかすべての副次評価項目においても、服用タイミングによる影響はみられなかった。 本結果から同氏は「本結果は夕方服用と朝方服用に違いがないという決定的な証拠を示す。また、患者は自分の都合に最適な時間に1日1回の降圧薬を服用できる」と結論付けた。

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大手術の周術期管理、ACE阻害薬やARBは継続していい?/ESC2024

 周術期管理における薬剤の継続・中止戦略は不明なことが多く、レニン-アンジオテンシン系阻害薬(RASI:ACE阻害薬またはARB)もその1つである。RASI継続が術中の血圧低下、術後の心血管イベントや急性腎障害につながる可能性もあるが、Stop-or-Not Trialのメンバーの1人である米国・カルフォルニア大学サンフランシスコ校のMatthieu Legrand氏は、心臓以外の大手術を受けた患者において、術前のRASI継続が中止と比較して術後合併症の発生率の高さに関連しないことを示唆した。この報告は8月30日~9月2日に英国・ロンドンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2024(ESC2024、欧州心臓病学会)のホットラインセッションで報告され、同時にJAMA誌オンライン版2024年8月30日号に掲載された。 研究者らは、心臓以外の大手術前でのRASIの継続あるいは中止が、術後28日時点での合併症の減少につながるかどうかを評価するため、フランスの病院40施設において、2018年1月~2023年4月にRASIによる治療を3ヵ月以上受け、心臓以外の大手術を受ける予定の患者を対象にランダム化比較試験を実施した。 対象患者は、手術当日までRASIの使用を継続する群(n=1,107)と手術48時間前にRASIの使用を中止する群(最終服用は手術3日前、n=1,115)に無作為に割り付けられた。主要評価項目は術後28日以内の全死亡と主な術後合併症の複合。副次評価項目は術中の血圧低下、急性腎障害、術後臓器不全、術後28日間の入院期間とICU滞在期間。 主な結果は以下のとおり。・対象患者2,222例は平均年齢±SDが67±10歳、男性が65%だった。また、患者全体の 98%が高血圧症、9%が慢性腎臓病、8%が糖尿病、4%が心不全の治療を受けており、ベースライン時点での降圧薬治療の内訳はACE阻害薬が46%、ARBが54%であった。・全死亡および主な術後合併症の発生率は、RASI中止群で22%(1,115例中245例)、RASI継続群で22%(1,107例中247例)であった(リスク比[RR]:1.02、95%信頼区間[CI]:0.87~1.19、p=0.85)。・術中の血圧低下は、RASI中止群の41%に発生し、RASI継続群の54%に発生した(RR:1.31、95%CI:1.19~1.44)。・平均動脈圧が60mmHg未満の持続時間中央値(四分位範囲)は、中止群で6分(4~12)、継続群で9分(5~16)だった(平均差:3.7分、95%CI:1.4~6.0)。・試験結果において、そのほかの差はみられなかった。

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