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治療抵抗性統合失調症の酸化ストレスバイオマーカー

 統合失調症は、世界で約2,000万人が罹患している精神疾患である。統合失調症の病態生理には、酸化ストレス(酸化促進作用と抗酸化作用の不均衡)などさまざまな因子が関与している。ブラジル・Faculdade de Medicina de Sao Jose do Rio PretoのPatrick Buosi氏らは、統合失調症患者の臨床情報、人口統計学的データ、ライフスタイルを用いて、酸化ストレスのバイオマーカーと薬物治療反応との関連を評価した。Trends in Psychiatry and Psychotherapy誌2021年10~12月号の報告。 治療反応性統合失調症患者26例、治療抵抗性統合失調症患者27例、健康対照者36例を対象に、末梢血サンプル、質問票を用いて臨床および人口統計学的データを収集した。分光光度法を用いて分析した酸化ストレスマーカーは、カタラーゼ(CAT)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)、総グルタチオン(GSH-t)、マロンジアルデヒド(MDA)、トロロックス等価抗酸化能(TEAC、p<0.05)であった。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者は、対照者と比較し、SOD(p<0.0001)レベルが低く、MDA(p<0.0001)、CAT(p=0.0191)レベルが高かった。・その他のマーカーについては、3群間で差は認められなかった(p>0.05)。 著者らは「統合失調症患者では、薬理学的治療反応とは無関係に、低SOD、高MDA、高CATレベルが認められた。喫煙は酸化ストレスと関連していることに加え、統合失調症では家族歴と関連していることが示唆された。このことは、統合失調症の遺伝的関連性を反映している可能性がある」としている。

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硬化性萎縮性苔癬〔LSA:lichen sclerosus et atrophicus〕

1 疾患概要■ 概念・定義外陰部に好発する難治性炎症性疾患である。男性の陰茎部に生じるbalanitis xerotica obliterans、女性の外陰部にみられるkraurosis vulvaeやhypoplastic dystrophyと呼ばれる疾患も本症と同義である。■ 疫学性差は男女比が1:9と、圧倒的に女性の罹患者が多い。初経前と閉経後の2つの年齢層に発症のピークがある。男性例は30~50歳の壮年層に発症頻度が高い。■ 病因不明であるが、Borrelia burgdorferi感染の関与が示唆されたことはあるが、菌体が同定された報告は無く、現在では否定的と考えられている。■ 症状女性外陰部の病変は、象牙色調の浸潤を触れる硬化性または萎縮性の紅色局面が主体で、びらん、水疱、紫斑、出血を伴うことがある(図1)。図1 女性外陰部の硬化性苔癬大陰唇から膣口にびらん、苔癬化、脱色素斑が混在する。劇痒と形容される強い瘙痒感や、灼熱感を訴えることが多い。約3割で肛門周囲にも病変がみられ、外陰部から肛門周囲にかけて「8の字型」と称される連続病変を呈することがある(図2)。図2 外陰部から肛囲までの8の字病変肛門部では萎縮した白色調の病変が広がり、さまざまな程度で色素脱失や色素沈着が混在することが多い。同部の皮膚粘膜境界部に生じた場合には、尿道口や腟口部の狭窄を来たしうる。経過中に瘢痕を生じやすく、進展すると癒着による小陰唇の消失や陰核包皮の癒着・閉鎖、陰核の埋没などを来す。通常は腟や子宮頸部などの粘膜部位は侵さないが、辺縁の皮膚病変からびらん、亀裂、腟口部の狭窄が進展した場合には、自発痛や排尿痛、性交痛を生じることがある。その一方、高齢者では無症状の場合もあり、健診で初めて指摘されることもある。男性例は、成人では包皮、冠状溝、亀頭部、小児では通常包皮に生じる。女性例に比べて瘙痒が主症状になることは少なく、陰茎や肛囲の病変はまれである。高度の包茎や癒着による尿道口の狭小化のため、排尿異常を生じることがある。■ 分類性差を問わず、ほとんどが外陰部のみに限局する。外陰部以外の病変が併存することや、外陰部外のみの症例もあるが、諸外国と比べてわが国では極めてまれである。■ 予後長期の罹患に伴って上皮系悪性腫瘍(ほとんどが有棘細胞がん)が本症の5~11%で出現し、最も予後に影響する。また、溶血性貧血、白斑、自己免疫性水疱症のような自己免疫疾患や臓器特異的な自己抗体が検出される症例が、おのおの全体の2割と4割に合併することが知られており、予後に関わるものもある。中でも甲状腺疾患が12%、次いで白斑が6%と多い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 諸検査1)皮膚生検と病理組織学的所見病理組織学的に不全角化を伴う過角化、毛孔性角栓を伴う様々な厚さの表皮肥厚や液状変性を認め、完成期には萎縮して表皮突起が平坦化する。直下の真皮浅層では、毛細血管拡張やリンパ球を主体とする炎症細胞浸潤に加え、膠原線維が均一化した無構造物「硝子様均質化(ヒアリン化, hyalinization)」が特徴的である(図3)。生検組織の蛍光抗体直接法では、免疫グロブリンや補体の沈着は通常認めない。図3 外陰部硬化性苔癬の病理組織像過角化、表皮突起の不規則化と消失、真皮上層の毛細血管拡張とヒアリン化、リンパ球浸潤を特徴とする。2)血液学的所見一般血液・生化学検査は正常であることが多く、本疾患の診断や病勢把握に有益な保険適応内のバイオマーカーは存在しない。上述のように、10~30%に自己免疫異常(抗甲状腺抗体、抗BP180抗体など)を認めることがある。■ 鑑別疾患外陰部カンジダ症を含む股部白癬、扁平苔癬、乳房外パジェット病、粘膜類天疱瘡、限局性強皮症(モルフェア)、白斑、円板状ループスエリテマトーデスなどを鑑別する必要がある。■ 合併症進行すると尿道狭窄や性交障害など、排尿や外陰部の機能障害を来すことがある。女性外陰部の硬化性苔癬では7~11%、また表皮が肥厚した病変では約30%に有棘細胞がんが出現するとの報告がある(図4)。図4 有棘細胞がんを合併した女性外陰部の硬化性苔癬右大陰唇から小陰唇の病変部内に隆起性の腫瘤を認める。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療目標ほとんどの症例が難治であり、各種治療に難渋することが多い。長期にわたって症状のコントロールが不良な症例では局所発癌の頻度が高まるため、通常の治療に抵抗する場合は、まず症状の緩和とその維持を目指す。■ 治療内容1)初期治療局所へのステロイド外用剤が第1選択である。外陰部は他の部位と比べて薬の吸収率が良いものの(42倍 vs. 0.14~13倍:前腕内側の吸収率を1とした場合)、治療効果を優先して、欧米やわが国のガイドラインでは強めのステロイド外用剤の使用が推奨されている。掻爬行為によって症状が悪化するため、抗ヒスタミン薬などを併用して瘙痒のコントロールを行うこともある。2)治療後期症状が軽快したのちも無治療ではなく、保湿剤による外陰部の保護を継続することで、再燃やそのピークが抑えられる場合が多い。3)治療抵抗例保険適応外ではあるが、ステロイド外用に加えてタクロリムス含有軟膏の併用や、局所への光線療法が奏効する場合もある。男性の場合、既存の包茎が症状の遷延化を招くことが多いため、症状に応じて専門科への紹介を考慮する。4)合併症への治療硬化性苔癬における外科的治療は、悪性腫瘍合併例の病変部切除や尿道口狭窄例の尿道拡張術や尿道再建手術などに限って行う。4 今後の展望■ 治療外用療法が基本となるため、ステロイド以外の抗炎症作用ならびに免疫抑制効果をもつ外用剤が期待されている。上述したタクロリムス外用や活性型ビタミンD3外用剤、局所紫外線療法の奏効例が報告されている(本邦保険適用外)。全身療法ではシクロスポリンやバリシチニブ(JAK阻害薬)の内服が奏効した報告がある。■ 診断本症の確定診断には皮膚生検による病理組織所見の確認が必須であるが、女性の罹患者が多く、病変部がプライベートパーツであることから、生検が困難な症例も少なくない。患者血清中の細胞外基質extracellular matrix protein 1(ECM1)に対するIgG抗体を用いた血清診断が、非侵襲的かつ経過中の病勢の把握に有用バイオマーカーになる可能性が指摘されている。いまだ本抗体の病的意義は不明であり、今後の検討が待たれる。5 主たる診療科皮膚科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本皮膚科学会 硬化性萎縮性苔癬 診断基準・重症度分類・診療ガイドライン(医療従事者向けのまとまった情報)1)長谷川 稔ほか. 日皮会誌. 2016;126:2251-2257.2)強皮症・皮膚線維化疾患の診断基準・重症度分類・診療ガイドライン作成委員会.全身性強皮症・限局性強皮症・好酸球性筋膜炎・硬化性萎縮性苔癬の診断基準・重症度分類・診療ガイドライン 2017. 金原出版;2017.3)Lewis FM, et al. Br J Dermatol. 2018;178:839-853.4)Kirtschig G, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2017;31:e81-e83.5)Oyama N, et al. Lancet. 2003;362:118-123.公開履歴初回2022年3月2日

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親密な男性パートナーによる暴力、15~49歳女性の27%が経験/Lancet

 持続可能な開発目標(SDGs)のターゲット5.2では、「人身売買や性的、その他の種類の搾取など、すべての女性および女児に対する、公共・私的空間におけるあらゆる形態の暴力の排除」がうたわれている。世界保健機関(WHO)のLynnmarie Sardinha氏らは、今回、この目標の達成状況を評価するために、366件の研究のデータを解析し、2018年時点で、年齢15~49歳の女性の4人に1人以上(27%)が、生涯において親密な男性パートナーからの身体的または性的、あるいはその両方の暴力を経験し、7人に1人(13%)は調査の過去1年以内に暴力を受けたと推定されると明らかにした。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2022年2月16日号で報告された。2000~18年の161の国と地域の研究を解析 研究チームは、SDGsのターゲット5.2の達成に向けた各国政府の取り組みの進捗状況を監視する目的で、親密な男性パートナーによる女性への暴力の世界的な発生状況を調査した(英国・国際開発省[DFID、現在は外務・英連邦・開発省に統合]などの助成を受けた)。 解析には、「WHOの女性に対する暴力に関する国際的データベース(WHO Global Database on Prevalence of Violence Against Women)」のデータが用いられた。これらのデータは、主に、文献データベース(MEDLINE、Global Health、Embase、Social Policy、Web of Science)の検索で得られた論文の系統的レビューと、各国の統計データなどのウェブサイトを包括的に調査することで収集された。 対象には、2000~18年に実施され、国または地方政府のレベルを代表しており、年齢15歳以上の女性を対象とし、親密なパートナーによる身体的または性的、あるいはその両方の暴力に関して行為に基づく評価を行っている研究が含まれた。 161の国と地域の366件の研究が解析の対象となった。これは、世界の親密なパートナーを持つ年齢15歳以上の女性の90%を代表するものであった。生涯における親密なパートナーからの暴力を含む研究は307件、過去1年以内の親密なパートナーからの暴力を含む研究は332件であり、調査に回答した女性の数はそれぞれ176万7,802人および176万3,989人だった。過去1年以内の暴力も、若年女性で高頻度 2018年の時点で、現在または以前に親密な男性パートナーまたは夫がいる(いた)年齢15~49歳の女性の27%(不確定区間[UI]:23~31)が、生涯においてパートナーからの身体的または性的、あるいはその両方の暴力を受け、13%(10~16)は調査時から過去1年以内に暴力を経験していた。年齢15歳以上の全女性では、生涯の暴力を26%(22~30)、過去1年以内の暴力を10%(8~12)が経験していた。日本では、それぞれ20%(10~38)および4%(1~10)であり、いずれも世界平均を下回っていた。 このような暴力は女性が若いころから始まり、15歳以降に少なくとも1回の暴力を受けた経験のある女性は、15~19歳が24%、20~24歳は26%と、ほぼ4人に1人の割合であった。暴力を受けた経験のある女性の割合が最も高かったのは、30~34歳と35~39歳(いずれも28%)であり、その後は徐々に低下して65歳以上では23%であった。 過去1年以内に暴力を受けた女性の割合も若い年代で高く、15~19歳が16%、20~24歳も16%であった。この割合は、50歳以降は実質的に低下し、60~64歳で5%、65歳以上は4%だった。 また、親密なパートナーからの暴力の経験の頻度には地域差が認められた。2018年時点の年齢15~49歳の女性のうち、生涯においてパートナーからの身体的または性的、あるいはその両方の暴力を受けた女性の割合が最も高かった地域はオセアニア(49%)で、次いでサハラ以南のアフリカの中部地域(44%)、アンデス山脈系の南米諸国(38%)、サハラ以南のアフリカの東部地域(38%)の順であった。暴力を受けた女性の割合が最も低かった地域は、中央ヨーロッパ(16%)、中央アジア(18%)、西ヨーロッパ(20%)であったが、それでも高率だった。 年齢15~49歳の女性に対する過去1年以内の暴力の割合は、全般に高所得地域で低く、オーストララシアが3%、西ヨーロッパが4%、中央ヨーロッパが5%、南米の南部諸国が5%、北米は6%であった。高所得地域と中・低所得地域における暴力の頻度の差は、生涯に比べて過去1年以内の暴力のほうが大きく、中・低所得地域では過去1年以内の暴力の頻度が高かった。 過去1年以内に暴力の発生が最も少なかった(最高で4%まで)30ヵ国のうち、24ヵ国は高所得国であった。また、この30ヵ国中23ヵ国はヨーロッパの国であり、日本は残りの7ヵ国に含まれた。 著者は、「これらの知見は、女性に対する親密な男性パートナーによる暴力は世界的な公衆衛生上の懸念事項であり、世界中の数100万人の女性とその子供たちの人生に悪影響を及ぼすことを裏付けるものである」とし、「暴力低減の進展は遅く、各国はSDGsの目標を達成するための行程に乗れていない。これらの確固たるエビデンスは、親密なパートナーからの暴力は予防可能であり、多層的で複数の領域にわたる予防介入を実施し、親密なパートナーからの暴力に対する保健対策などを強化するには、目標を絞った投資が必要であることを示すものだ」と指摘している。

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第94回 昨年の医学部入試で男女別合格率が逆転!医師が「An Unsuitable Job for a Woman」でなくなる日は本当に来るか(前編)

男性の合格率13.51%、女性合格率13.60%こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。日本のプロ野球がキャンプインする今頃、2月初旬のスポーツ観戦の楽しみの一つに、米国のプロアメリカンフットボールリーグ・NFL(National Football League)の「スーパーボウル」があります。今年は1月30日(現地時間)にAFCとNFC、両リーグのチャンピオンシップ・ゲームが行われ、2月13日のスーパーボウルの出場チームが、シンシナティ・ベンガルズとロサンゼルス・ラムズに決まりました。しかし、日本では今シーズンからNHK BSがNFLの放送を取り止めており、スーパーボウル(を含めたすべてのNFLの試合)は、DAZNなどの有料放送でお金を払って視聴するしかありません。私は勝手に、大谷 翔平選手の試合(MLB)を放送し過ぎてNHKの海外スポーツの放送予算がなくなってしまったからでは、と思っています。NHK BSは1980年代末から長年NFLの試合を放送し、日本のファン拡大・定着の重要な役割を担ってきただけに少々残念です。さて、今回も前回に引き続き、大学入試をめぐる話題を取り上げたいと思います。全国保険医団体連合会(保団連)は1月26日、「医学入試で男女別合格率が逆転」と題した資料を、報道各社に送付しました。同資料は、2013年~2021年の医学部入試の男女別合格率を、文部科学省の公表データをもとに保団連がまとめたもの。それによると、2021年度の医学部入試では、全体の男性の合格率(合格者数/受験者数)が13.51%、女性の合格率が13.60%と、医学部の男女別合格率が公表されている2013年度以降、初めて女性の合格率が男性を上回りました1)。さらに2021年度は、男性の合格率が女性よりも高い大学が、2020年度までの約7割(2020年度:55/81大学)から半数以下(2021年度:36/81大学、44.4%)に突如激減しました。保団連は「2021年度の医学部入試の動向は明らかに2020年度までとは異なっており、2020年年末に文科省が男女別合格率の毎年公表を決めたことで、女性差別のない公正な入試が後押しされた可能性がある」とコメントしています。東京医大不正入試事件をきっかけに、男女別合格率毎年公表へ2020年年末、文科省が男女別合格率の毎年公表を決めたのは、2018年7月に発覚した東京医科大学の不正入試事件がきっかけでした。東京医大の2018年度の一般入試において、同大が文科省の前局長の子息に不正に点数を加点したことが発覚しました。当初は一般的な贈収賄事件として扱われていましたが、その後の調査で、東京医大が行っていた点数操作が前局長の子息だけでなく、女子や複数年浪人した学生にも一律に不利になるように行われていたことが判明すると、事件は一気に社会問題化しました。文科省は医学部医学科がある全国81大学の入学者選抜の過去6年間の実態を緊急調査し、2018年9月に2013年〜2018年度の男女別の合格率を公表しました。これらの調査結果と各大学へのヒアリングを基に、東京医大以外の複数の大学の医学部医学科においても「不適切である可能性が高い」選抜や「疑惑を招きかねない」選抜が行われていた事実が明らかになったのです。その後、男女別の合格率については、与野党議員から公表を継続すべきだという意見が相次ぎ、2020年12月に2019年度と2020年度入試分が公表され、次年度以降も毎年公表することが決定しました。もっとも、この公表は特段記者会見が行われることはなく、言うならばひっそり資料が公開されているのが実情のようです。2021年度の結果を文科省がホームページにアップしたのは、保団連調べでは2021年9月30日だったとのことです。贈収賄事件は公判中、元文科省局長に検察は懲役2年6カ月を求刑東京医大の不正入試事件については、2021年7月には事件の影響で不当に不合格になったとして受験料の返還などを求めた訴訟で、同大が約560人の受験生に計約6,760万円を支払う和解が成立しています。一方で、不正入試を巡る贈収賄事件の公判はまだ続いています。2021年12月27日、東京地方裁判所で開かれた裁判で検察は「恣意的に点数を加算する行為は、公正な入学試験を害し、不公平感も与える。多額の現金を受け取る収賄事件よりも悪質だ」として、文科省元局長に懲役2年6ヵ月、東京医大の前理事長に懲役1年6ヵ月などと、関係者に実刑が求刑されています。無罪を主張している元局長らの最終弁論は、今年2月に行われる予定です。男性中心社会だった医師の世界話を戻しましょう。2021年度医学部合格率の異変は、東京医大不正入試事件をきっかけに行われた文科省の調査と男女別合格率の公表継続、さらには各大学に対して行われたであろう“指導”などが奏功した結果だと言えるでしょう。医学部入試の世界で男女平等、というか勉強ができる女子を正当に評価する仕組みがやっと定着してきたことは、将来の医療の現場をどう変えていくでしょうか。もともと、医師の世界は男性中心社会でした。特に外科系は技術修得が大変で、一人前になるまでに相当な時間がかかったため、専門科目を選ぶ際、女性医師は眼科や皮膚科といった比較的“ラク”とされるマイナー科を選びがちだったとも言われています。私は10年ほど前、女性の外科系医師のキャリアパスがテーマの座談会の司会をしたのですが、ある女性の消化器外科医が「手術が大好きだったが、出産や育児で時間を取られるうちに男の同僚に置いていかれ、出世競争などの第一線から退くことを余儀なくされた」と話していたのが印象的でした。医師は探偵と同様、長い間「女には向かない職業」とみられてきた英国の女流ミステリ作家、P.D.ジェイムズの1970年代の代表作に『女には向かない職業』(ハヤカワミステリ文庫、原題:An Unsuitable Job for a Woman)という魅力的なタイトルの作品があります。22歳の新米探偵コーデリアが「探偵稼業は女には向かない」と言われながら、ある青年の自殺事件の真相解明に挑む、というストーリーです。若くて頑張り屋の探偵コーデリアの活躍は人気を呼び、P.D.ジェイムズは『皮膚の下の頭蓋骨』という作品にも彼女を登場させています。女性医師の問題について考える時、私はいつもこのミステリを思い出します。この原題通り、日本では長い間、医師は探偵同様に「女には向かない職業」と見られてきたからです。ただ、その状況は変わりつつあるようです。医学部に入学する女性が増えてきたことで、外科系の医局であっても女性医師を積極的に入局させ、一人前に育てるカリキュラムやキャリアパス、子育て支援の仕組みなどを用意する必要が出てきました。そもそも、そうしないと大学病院自体が回らなくなってきています。そうした改革の必要性は大学病院だけでなく、市中の病院でも高まっています。女性が働きやすい病院、医局でないと研修医も集まらないからです。「医師の働き方改革」の認知進まずもっとも、そのような動きはまだまだ先進的な病院だけに留まっており、全国の病院どこでも、というわけではないようです。そんな中、女性医師の活躍の場を広げる上で大きな後押しになると期待されているのが「医師の働き方改革」です。2024年4月から、勤務医の残業時間の上限を原則年960時間、地域医療を担う医療機関などで、長時間労働を避けられない場合は年1,860時間とする「医師の働き方改革」は、医師の労働時間管理適正化の一手段として、女性医師の働き方への支援や、子育て環境の整備などに医療機関が積極的に取り組むよう求めています。本格施行まであと2年と近づいた「医師の働き方改革」ですが、現場の医師への周知は遅々として進んでいません。厚生労働省は1月24日、医師の働き方改革の推進に関する検討会の作業部会に、勤務医に対するアンケートの結果を報告しました。調査では、医師の働き方改革の制度認知について、業務内容に応じた各上限水準の内容や宿日直許可基準の内容について「全く知らない」という回答が約半数を占めていました。医学部入試で男女別合格率が逆転する一方で、現場での認知が一向に進んでいない「医師の働き方改革」。このギャップはある意味とても深刻だと言えるでしょう。女性医師が今まで以上に多く誕生する一方で、女性の働き方やキャリアパスが旧態依然のままでは、医師が「女には向かない職業」でなくなる日が日本ではいつまでたってもやって来ないからです(この項続く)。参考1)令和3年度医学部(医学科)の入学者選抜における男女別合格率について

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第96回 COVID-19ワクチン有害事象のノセボ効果の説明が必要

偽薬(プラセボ)は体調を良くすることもあれば損ねて有害事象を招くこともあり、プラセボで体を壊して有害事象が生じることはノセボ(nocebo)効果として知られています。これまでの12のプラセボ対照無作為化試験報告をメタ解析したところ1)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン1回目接種後の頭痛や疲労などの注射部位以外に及ぶ全身性有害事象の実に8割方はそのノセボ効果に起因していてワクチンが原因ではないと示唆されました2)。全身性有害事象はワクチン1回目投与後の人の46%、プラセボ投与後の人の35%に生じていました。その結果に基づくとワクチン1回目接種後の全身性有害事象の76%はワクチンとは無関係のノセボ効果に起因します。理由は定かではありませんがワクチン2回目接種後の全身性有害事象のノセボ効果は1回目接種後より低めでした。2回目投与後の全身性有害事象の発生率はプラセボ群では少し下がって32%、ワクチン投与群では逆に増えて61%であり、それらの数値に基づくとワクチン2回目接種後の全身性有害事象のうちおよそ半分(52%)がワクチンとは無関係のノセボ効果に端を発すると推定されました。一方、注射部位の有害事象は全身性有害事象とは対照的にワクチンを原因とするものが大半を占めるようです。1回目投与後の注射部位有害事象の発生率はワクチン群では67%、プラセボ群では16%であり、ワクチン1回目投与後の注射部位有害事象の24%がノセボ効果に起因すると示唆されました。ワクチン2回目投与後の注射部位有害事象のうちノセボ効果の割合は全身性有害事象と同様に1回目投与後より低く、16%ほどでした。頭痛や疲労などの漠然とした症状一揃いがCOVID-19ワクチン接種後の一般的な有害事象として説明書の多くに掲載されており、ノセボ効果でも生じうるそういった症状があたかもワクチン接種後に特有の有害事象であるという思い込みを増やしているかもしれません。現在出回るそのような説明書や報道はノセボ効果をおそらく誘発または助長していますが、その効果の存在を隠すのではなく正直に説明することでCOVID-19ワクチン接種に関する不安を減らして接種をより受け入れやすくすることができると今回紹介した試験の著者は考えています1,3)。実際、ノセボ効果の理解を促して詳らかにすることの利点はわかってきています。たとえばいつもの同意手順の有害事象の説明に“この手段を調べた無作為化試験のプラセボ群の被験者にも似た有害事象が認められており、それらはどうやら不安や心配に端を発する”といったノセボ効果の簡潔にして正確な情報を含めることが服薬に伴う有害事象を減らしうると示唆されています4)。患者との意思疎通手段はさらなる研究が必要ですが、そういったノセボ効果を正直に伝えることは開示をより完全にしこそすれ害を及ぼすことはまず無さそうです1)。参考1)Haas JW, et al. JAMA Netw Open . 2022 Jan 4;5:e2143955.[Epub ahead of print] 2)‘Nocebo effect’: two-thirds of Covid jab reactions not caused by vaccine, study suggests / Guardian3)Placebo effect accounts for more than two-thirds of COVID-19 vaccine adverse events, researchers find / Eurekalert4)Ballou S, et al. J Clin Gastroenterol. 2021 Jun 7.

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普遍的なうつ病予防~メタ解析レビュー

 うつ病は、心身に影響を及ぼす、非常に蔓延している、しばしば慢性的に経過、治療困難、認知機能や社会的および経済的負荷が非常に大きいといった特徴を有する疾患である。がんなどの非感染性疾患では、治療ではなく予防に焦点が置かれるようになっていることを考えると、うつ病予防は、優先すべき公衆衛生上の課題であろう。オーストリア・ディーキン大学のErin Hoare氏らは、うつ病に対する普遍的に提供される予防的介入についてのメタ解析文献の包括的なシステマティックレビューを実施した。Journal of Psychiatric Research誌2021年12月号の報告。 2021年3月18日にEBSCOHostを介してアクセスした各データベース(Allied and Complementary Medicine Database、CINAHL Complete、Global Health、Health Source: Nursing/Academic Edition、MEDLINE Complete、APA PsychArticles)より検索を行った。検索キーワードは、うつ病、予防、トライアルスタディデザインとした。2人独立したレビュアーが文献スクリーニングを実施し、3人目が不一致性を是正した。適格基準は、うつ病予防(うつ病発症率の低下)に対する普遍的な介入研究を調査したメタ解析とした。 主な結果は以下のとおり。・心理的介入に関するメタ解析6件、学校ベースのメタ解析2件、eHealthに関するメタ解析1件を包括的レビューに含めた。・特定されたすべての調査結果の質は高く、とくに1件は非常に高いものであった。・うつ病予防に対する身体活動の影響を調査した以前のメタ解析レビューは、8件のメタ解析に含まれていた。・予防的介入が成功する主な因子は、学校、地域社会、職場環境で提供される心理社会的介入の利用であった。・学校ベースおよびeHealthによる介入は、うつ病予防に対し一定程度の有用性が認められた。・身体活動は、うつ病予防に効果的であることが、メタ解析より示唆された。・普遍的な予防を一貫して定義することはできなかった。 著者らは「納得度の高いエビデンスによる推奨事項が広まる前に、うつ病予防に対する適切に設定されたランダム化比較試験を実施する必要がある」としている。

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アジアにおけるCOVID-19うつ病とそのリスク因子~メタ解析

 アジア太平洋地域におけるCOVID-19パンデミックに伴ううつ病の有病率やそのリスク因子について、マレーシア・マラヤ大学のVimala Balakrishnan氏らは、文献報告のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2021年11月18日号の報告。 2021年1月~3月30日までの文献をPubMed、Google Scholar、Scopusより検索した。PRISMAガイドラインに従ってシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。スクリーニングの結果、82文献(20万1,953人)が抽出された。 主な結果は以下のとおり。・プールされたうつ病の有病率は34%(95%信頼区間[CI]:29~38%、I2=99.7%)であった。コホート、タイムライン、地域間での有意な差は認められなかった(p>0.05)。・主なリスク因子は、COVID-19感染に対する恐怖(13%)、女性(12%)、基礎疾患の悪化(8.3%)であり、グループ間での差は認められなかった。・COVID-19感染に対する恐怖は、一般集団(研究数:14)および医療従事者(研究数:8)において最も報告されたリスク因子であった。・リスク因子として、医療従事者では女性(研究数:7)、作業負荷の増加(研究数:7)が報告されたのに対し、学生では教育の混乱(研究数:7)が報告された。・なお、今回のレビューは、3つの電子データべースからの論文に限定されている。 著者らは「COVID-19パンデミックは、アジア太平洋地域の一般集団、医療従事者、学生のうつ病発症に影響を及ぼしていることが示唆された。この問題に対処するためにも、関係当局による迅速な対応や介入が求められる」としている。

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第92回 英国でもオミクロン株入院リスクが低いと判明

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン(Omicron)株感染者の入院リスクはデルタ株感染者に比べて20~25%低いとの英国データ解析結果(Report 50)を同国の大学Imperial College Londonが先週22日水曜日に発表しました1,2)。その入院の定義はPCR検査でのSARS-CoV-2感染(COVID-19)が判明してから14日以内の事故/救急科(Accident and Emergency department;A&E)受診を含む来院記録があることです1)。オミクロン株感染者の1泊以上の入院リスクはより小さく、デルタ株感染者を40~45%下回りました。今月中旬16日の報告(Report 49)の段階ではオミクロン株感染者の入院全般(hospitalisation attendance)や症状のデルタ株との差は認められていませんでした3)。オミクロン株感染者の入院リスクがデルタ株感染者に比べてより低いことは英国政府の保健安全保障庁(UKHSA)の解析でも示されています4)。UKHSAの報告によると今月20日までのイングランドのオミクロン株感染者数は5万6,066人で、そのうち132人が病院で治療(admitted or transferred from emergency department)を受けました。14人がオミクロン株感染判明から28日以内に死亡しました。UKHSAの報告でのオミクロン株感染者の入院リスクはImperial College Londonの解析結果よりどうやらさらに小さく、デルタ株感染者より62%(95%信頼区間では50~70%)低いことが示されました。オミクロン株感染者は救急も含む入院(emergency department attendance or admission)にも至りにくく、デルタ株感染者より38%(95%信頼区間では31~45%)少ないという結果も得られています。オミクロン株感染者の入院リスクが他の変異株感染者に比べて低いらしいことは好ましい兆候だがひとまずの結果であって更なる検討が必要だとUKHSAの長Jenny Harries氏は言っています5)。オミクロン株感染がどうやら軽症らしいのはワクチン接種の普及または先立つ感染で備わった免疫のおかげかもしれません。またはウイルス自体の変化が軽症で済むようにさせている可能性もあります6)。参考1)Report 50 - Hospitalisation risk for Omicron cases in England / Imperial College London2)Some reduction in hospitalisation for Omicron v Delta in England: early analysis / Imperial College London3)Report 49 - Growth, population distribution and immune escape of Omicron in England. MRC Centre for Global Infectious Disease Analysis / Imperial College London4)SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England / UKHSA5)UKHSA publishes updated Omicron hospitalisation and vaccine efficacy analysis / UK Health Security Agency (UKHSA) 6)Omicron cases at much lower risk of hospital admission, UK says / Reuters

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第91回 オミクロン株がより広まりやすいことに寄与しうる特徴

治療で除去されたヒト組織を使った香港大学の研究の結果、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン(Omicron)株は去年2020年のSARS-CoV-2元祖やデルタ株に比べておよそ70倍も早く気管支で増えることができました1)。オミクロン株が人から人により広まりやすいゆえんかもしれません。一方、肺でのオミクロン株の複製はよりゆっくりでSARS-CoV-2元祖の10分の1足らずでした。もしオミクロン株感染がより軽症であるとするなら肺で増え難いことがその一因かもしれません。スパイクタンパク質に無数の変異を有するオミクロン株の感染しやすさが他のSARS-CoV-2を上回ることにはヒト細胞のACE2との相性の良さも寄与しているようです。SARS-CoV-2代理ウイルス(pseudovirus)を使った実験の結果、SARS-CoV-2がヒト細胞に感染するときの足がかりとなる細胞表面受容体であるACE2へのオミクロン株スパイクタンパク質の結合はデルタ株やSARS-CoV-2元祖のどちらにも勝りました2,3)。著者によるとオミクロン株代理ウイルスの感染しやすさは調べた他のSARS-CoV-2変異株のどれをも上回りました。重症度はどうかというと、南アフリカ最大の保険会社の先週14日の発表を含む同国からの一連の報告ではオミクロン株感染入院率がデルタ株に比べて一貫して低く、オミクロン株感染は比較的軽症らしいと示唆されています4)。その保険会社Discovery Healthの解析ではオミクロン株感染が同国で急増した先月11月中旬(15日)から今月12月初旬(7日)のおよそ8万件近くを含む21万件超のSARS-CoV-2感染症(COVID-19)検査情報が扱われ、オミクロン株感染者の入院率は同国での昨年2020年中頃のD614G変異株流行第一波に比べて29%低いことが示されました5,6)。それに、入院した成人がより高度な治療や集中治療室(ICU)に至る傾向も今のところ低く5)、入院後の経過も比較的良好なようです。とはいえ、他国の状況を鑑みるにオミクロン株感染は軽症で済むとまだ断定はできないようです。英国の大学インペリアル・カレッジ・ロンドンの先週16日の報告7,8)によると、同国イングランドでのオミクロン株感染の重症度はデルタ株と異なってはおらず、南アフリカからの報告とは対照的に入院が少なくて済んでいるわけではありません4)。ただしイングランドでの入院データはまだ十分ではありません。いずれにせよオミクロン株感染の重症度はまだ症例数が少なすぎて結論には至っておらず4)、さらなる調査が必要なようです。オミクロン株感染の増加が医療を圧迫する恐れ今後の研究で幸いにしてオミクロン株感染の重症化や死亡のリスクが低いと判明したとしてもその感染数が莫大ならとどのつまり重症例も多くなります。その結果医療への負担は大きくなり、他の病気の治療に差し障るかもしれません4)。たとえば英国バーミンガム大学が率いた研究では、オミクロン株流行で入院が増えることで同国イングランドのこの冬(今年12月~来年4月)の待機手術およそ10万件が手つかずになりうると推定されました9,10)。待機手術を受け入れる余力を残しておく必要があると著者は言っています。参考1)HKUMed finds Omicron SARS-CoV-2 can infect faster and better than Delta in human bronchus but with less severe infection in lung / University of Hong Kong 2)mRNA-based COVID-19 vaccine boosters induce neutralizing immunity against SARS-CoV-2 Omicron variant. medRxiv. December 14, 2021 3)Preliminary laboratory data hint at what makes Omicron the most superspreading variant yet / STAT4)How severe are Omicron infections? / Nature5)Discovery Health, South Africa’s largest private health insurance administrator, releases at-scale, real-world analysis of Omicron outbreak based on 211 000 COVID-19 test results in South Africa, including collaboration with the South Africa / Discovery Health6)Covid-19: Omicron is causing more infections but fewer hospital admissions than delta, South African data show / BMJ7)Report 49 - Growth, population distribution and immune escape of Omicron in England. MRC Centre for Global Infectious Disease Analysis8)[Summary] Report 49 - Growth, population distribution and immune escape of Omicron in England. MRC Centre for Global Infectious Disease Analysis9)COVIDSurg Collaborative.Lancet. December 16, 2021 [Epub ahead of print] 10)Omicron may cause 100,000 cancelled operations in England this winter / Eurekalert

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デュピルマブ、中等症~重症喘息児の急性増悪を抑制/NEJM

 コントロール不良の中等症~重症喘息児の治療において、標準治療にデュピルマブ(インターロイキン-4受容体のαサブユニットを遮断する完全ヒトモノクローナル抗体)を追加すると、標準治療単独と比較して、急性増悪の発生が減少し、肺機能や喘息コントロールが改善することが、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのLeonard B. Bacharier氏らが行った「Liberty Asthma VOYAGE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2021年12月9日号で報告された。追加効果を評価する国際的な第III相試験 研究グループは、コントロール不良の中等症~重症喘息の小児の治療におけるデュピルマブの有効性と安全性の評価を目的に、国際的な二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験を実施した(SanofiとRegeneron Pharmaceuticalsの助成による)。 対象は、年齢6~11歳で、Global Initiative for Asthma(GINA)ガイドラインに基づき、コントロール不良の中等症~重症の喘息と診断された患児であった。 被験者は、デュピルマブ(体重≦30kgは100mg、>30kgは200mg)またはプラセボを、2週ごとに52週間、皮下投与する群に無作為に割り付けられた。すべての患児が、一定の用量の標準的な基礎治療を継続した。 主要エンドポイントは、重度の急性増悪の年間発生率。副次エンドポイントは、12週時の気管支拡張薬投与前の予測1秒量の割合(ppFEV1)と、24週時の質問者記入式の喘息管理質問票7(ACQ-7-IA)のスコアのベースラインからの変化などであった。 エンドポイントは、次の2つの主要有効性解析集団で評価された。(1)喘息の表現型が2型炎症(ベースラインの血中好酸球数≧150/mm3または呼気中一酸化窒素濃度≧20ppb)の患者、(2)ベースラインの血中好酸球数≧300/mm3の患者。有害事象プロファイルは許容範囲 408例が登録され、デュピルマブ群に273例、プラセボ群に135例が割り付けられた。2型炎症の集団は、デュピルマブ群236例(平均年齢8.9±1.6歳、男児64.4%)、プラセボ群114例(9.0±1.6歳、68.4%)であり、好酸球数≧300/mm3の集団は、それぞれ175例(8.9±1.6歳、66.3%)および84例(9.0±1.5歳、69.0%)であった。追跡期間中央値は365日だった。 2型炎症の集団における重度急性増悪の補正後年間発生率は、デュピルマブ群が0.31(95%信頼区間[CI]:0.22~0.42)と、プラセボ群の0.75(0.54~1.03)に比べ有意に低かった(デュピルマブ群の相対リスク減少率:59.3%、95%CI:39.5~72.6、p<0.001)。また、好酸球数≧300/mm3の集団でも、重度急性増悪の補正後年間発生率はデュピルマブ群で良好であった(0.24[95%CI:0.16~0.35]vs.0.67[0.47~0.95]、デュピルマブ群の相対リスク減少率:64.7%、95%CI:43.8~77.8、p<0.001)。 ppFEV1のベースラインから12週までの変化の平均値(±SE)は、デュピルマブ群は10.5±1.01ポイントであり、プラセボ群の5.3±1.4ポイントに比し有意に大きく(平均群間差:5.2ポイント、95%CI:2.1~8.3、p<0.001)、肺機能の改善が認められた。この効果は、2型炎症の集団(プラセボ群との最小二乗平均の差:5.2、95%CI:2.1~8.3)と好酸球数≧300/mm3の集団(同5.3、1.8~8.9)でほぼ同程度であった。 24週時におけるACQ-7-IAスコア(減少幅が大きいほど喘息コントロールが良好)のベースラインからの変化の最小二乗平均(±SE)は、2型炎症の集団ではデュピルマブ群は-1.33±0.05、プラセボ群は-1.00±0.07(プラセボ群との最小二乗平均の差:-0.33、95%CI:-0.50~-0.16)、好酸球数≧300/mm3の集団ではそれぞれ-1.34±0.06および-0.88±0.09(同-0.46、-0.67~-0.26)であり、いずれもデュピルマブ群で有意に優れた(双方ともp<0.001)。 52週の試験期間中に、有害事象はデュピルマブ群83.0%、プラセボ群79.9%で発現した。頻度の高い有害事象は、鼻咽頭炎(デュピルマブ群18.5%、プラセボ群21.6%)、上気道感染症(12.9%、13.4%)、咽頭炎(8.9%、10.4%)、インフルエンザ(7.4%、9.0%)などであり、注射部位反応による紅斑がそれぞれ12.9%および9.7%で認められた。重篤な有害事象の発現率は両群で同程度だった(4.8%、4.5%)。喘息の増悪による入院が、デュピルマブ群の4例(1.5%)でみられた。 著者は、「この年齢層における生物学的製剤の上乗せ治療に関する無作為化試験はほとんど行われていないが、今回の研究で、デュピルマブは臨床的に意義のある肺機能の改善効果をもたらすとともに、バイオマーカー主導型のアプローチの効用性が明らかとなった」としている。

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マスク・手洗いでコロナ発症率がどの程度下がるのか~メタ解析/BMJ

 新型コロナウイルスへの感染、発症、死亡に関して、感染対策はどの程度有効だったのだろうか。オーストラリア・Monash UniversityのStella Talic氏らの系統的レビューとメタ解析から、手洗い、マスク着用、対人距離保持などがCOVID-19発症率の減少と関連することが示唆された。BMJ誌2021年11月17日号に掲載。マスク着用効果を35報の論文からメタ解析 本研究では、Medline、Embase、CINAHL、Biosis、Joanna Briggs、Global Health、World Health Organization COVID-19データベース(プレプリント)において、COVID-19発症率、SARS-CoV-2感染率、COVID-19死亡率の減少における感染対策の有効性を評価した観察研究と介入研究の論文を検索した。主要評価項目はCOVID-19発症率、副次評価項目はSARS-CoV-2感染率とCOVID-19死亡率などであった。マスク着用、手洗い、対人距離保持がCOVID-19発症率に及ぼす影響をDerSimonian Lairdのランダム効果メタ解析で評価した。 マスク着用などの効果をメタ解析した主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たした論文72報中35報が個別の感染対策を評価し、37報が複数の感染対策を「介入パッケージ」として評価していた。・35報中8報をメタ解析した結果、手洗い(相対リスク:0.47、95%信頼区間:0.19〜1.12、I2=12%)、マスク着用(0.47、0.29〜0.75、I2=84%)、対人距離保持(0.75、0.59〜0.95、I2=87%)がCOVID-19発症率の減少と関連していた。・検疫・隔離、ロックダウン、国境・学校・職場の封鎖による有効性は、研究の不均一性からメタ解析は不可能だった。

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非弁膜症性心房細動、早期カルディオバージョンで死亡リスク軽減/BMJ

 非弁膜症性心房細動で脳卒中リスク因子が1つ以上ある成人に対し、早期カルディオバージョンの実施率は約15%と低いものの、同実施を受けた患者の死亡リスクは有意に低いことが示された。また、直流カルディオバージョンの実施率は薬物的カルディオバージョンの約2倍に上ったが、主要アウトカムは両者で同等であることも示された。ノルウェー・オスロ大学のMarita Knudsen Pope氏らが、5万例超の患者情報が前向きに収集されていたレジストリデータ「GARFIELD-AF(Global Anticoagulant Registry in the FIELD-AF)」を解析し明らかにした。BMJ誌2021年10月27日号掲載の報告。35ヵ国1,317ヵ所からの5万例超の患者データを解析 GARFIELD-AFレジストリデータには、35ヵ国1,317ヵ所を通じて、6週間以内に非弁膜症性心房細動の診断を受け、1つ以上の脳卒中リスク因子が認められた成人患者5万2,057例のデータが登録されていた。 研究グループは、同レジストリデータを基にベースラインにおけるカルディオバージョンの実施者と非実施者、直流カルディオバージョン実施者と薬物的カルディオバージョン実施者について、それぞれアウトカムを比較する観察試験を行った。 臨床エンドポイントは、全死因死亡、非出血性脳卒中または全身性塞栓症、大出血で、Cox比例ハザードモデルによるオーバーラップ傾向スコア加重法で比較した。ベースラインのリスクと患者選別で補正を行った。カルディオバージョン群の死亡リスク、1年後まで0.74倍、1~2年後は0.77倍 カルディオバージョン実施群と非実施群の比較解析には、4万4,201例が包含された。そのうち、ベースラインでカルディオバージョンを実施した被験者は、6,595例(14.9%)だった。 カルディオバージョン群の傾向スコア加重後の全死因死亡に関するハザード比(HR)は、ベースラインからの1年間のフォローアップ期間中が0.74(95%信頼区間[CI]:0.63~0.86)、1~2年のフォローアップ期間中が0.77(0.64~0.93)だった。 ベースラインでカルディオバージョンを実施した6,595例のうち、299例が登録後48日を超えてから再度カルディオバージョンを受けていた。 直流または薬物的カルディオバージョンの比較解析には、7,175例が包含された。そのうち直流カルディオバージョンを受けたのは4,748例(66.2%)、薬物的カルディオバージョンを受けたのは2,427例(33.8%)だった。フォローアップ1年間の全死因死亡率は、直流カルディオバージョン群が1.36/100患者年(95%CI:1.13~1.64)、薬物的カルディオバージョン群が1.70/100患者年(1.35~2.14)だった。

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第76回 過労自殺の半数はうつ病発症から6日以内/過労死等防止対策白書

<先週の動き>1.過労自殺の半数はうつ病発症から6日以内/過労死等防止対策白書2.12月開始の3回目ワクチン、接種対象者は限定せず/厚労省3.新型コロナワクチンの接種率、日本は人口の7割に到達4.制度にそぐわないDPC病院に是正か退出を/中医協5.研修医マッチング、昨年に続き6割以上が大学病院外で内定1.過労自殺の半数はうつ病発症から6日以内/過労死等防止対策白書政府は、「過労死等防止対策白書」を10月26日に閣議決定した。これは2014年に成立した過労死等防止対策推進法に基づいて国会に毎年報告を行っており、過労死等の概要や政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況を取りまとめたもの。今回の白書によれば、うつ病など精神障害で労災認定された過労自殺者は、発症から6日以内と短期間で亡くなる人が半数に上るとの調査結果が明らかとなっており、より一層の対策を求めている。(参考)コロナ影響の悩み、ストレスチェックで気付きを 厚労省が過労死等防止対策白書を公表(CBnewsマネジメント)過労自殺の半数、うつなど発症から6日以内 厚労省報告(日経新聞)資料 令和3年版過労死等防止対策白書の概要(厚労省)2.12月開始の3回目ワクチン、接種対象者は限定せず/厚労省厚生労働省は、10月28日に厚生科学審議会予防接種を開催し、新型コロナウイルスワクチンの追加接種(3回目)の対応方針をめぐって議論を行った。国内外の感染動向やワクチン効果の持続期間、諸外国の対応状況から、追加接種の必要があるとした。また、追加接種の時期は2回目接種完了からおおむね8ヵ月以上経過後に実施、使用するワクチンは、原則1・2回目に用いたワクチンと同一のものを用いることとされる。3回目接種の実施対象者は、高齢者や重症化リスクのある人に限定せず、2回目接種が完了したすべての人とする方針で一致した。(参考)“3回目接種”12月から順次開始へ 気になる副反応は(NHK)3回目ワクチン接種、対象者を限定せず 2回目終えた全員に、厚科審・分科会(CBnewsマネジメント)資料 新型コロナワクチンの接種について(厚労省)3.新型コロナワクチンの接種率、日本は人口の7割に到達政府は10月26日に、新型コロナウイルスワクチンの2回目接種を終えた人が、全人口の70.1%である8,879万人に到達したと発表した。アメリカは全人口の57%、フランス68%、イギリス67%、ドイツ66%であり、G7では2位のイタリア(71%)とほぼ肩を並べ、1位のカナダ74%に次ぐトップ水準となった。(参考)新型コロナワクチンについて(内閣府)ワクチン2回接種終えた人、人口の7割超える…海外より高水準(読売新聞)人口7割がワクチン完了 G7でトップ水準(産経新聞)Which countries are on track to reach global COVID-19 vaccination targets?(Our World in Data)4.制度にそぐわないDPC病院に是正か退出を/中医協厚労省は10月27日に中央社会保険医療協議会 診療報酬基本問題小委員会を開催し、2022年度診療報酬改定に向けて検討結果の取りまとめを行った。そこでDPC病院において、診療密度や在院日数が平均から外れている病院も認められ、DPC制度にそぐわない可能性があると指摘があったことから、調査報告について、支払い側の委員から「イエローカードを出し、それでも是正がなければレッドカードを出すべきだ」と意見が出された。今後、DPC制度にそぐわない病院をどのように対処するか仕組みの検討がなされるだろう。(参考)DPC外れ値病院、当面は「退出ルール」設定でなく、「診断群分類を分ける」等の対応検討しては―入院医療分科会(Gem Med)DPC外れ値病院へ、「是正なければレッドカードを」中医協・小委で支払側委員(CBnewsマネジメント)資料 第206回 中央社会保険医療協議会 診療報酬基本問題小委員会(厚労省)5.研修医マッチング、昨年に続き6割以上が大学病院外で内定厚労省は10月28日に、2021年度「医師臨床研修マッチング」の結果を発表した。新医師臨床研修制度が2004年4月に導入され、その翌年から大学病院以外の研修病院で研修を受ける医師が半数を超えている。今回、大学病院の内定割合36.7%(前年度38.1%)に対し、大学病院以外の臨床研修病院での内定割合は63.3%(前年度61.9%)と、大学病院以外での研修がさらに浸透してきていることが明らかとなった。(参考)2022年4月からの臨床研修医、都市部6都府県以外での研修が59.2%、大学病院以外での研修が63.3%に―厚労省(Gem Med)医師臨床研修の内定者数が増加 厚労省が2021年度のマッチング結果公表(CBnewsマネジメント)資料 令和3年度 研修医マッチングの結果(医師臨床研修マッチング協議会)資料 2021年度 研修プログラム別マッチング結果(同)

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低Na塩の利用で血管イベント・全死亡が減少/NEJM

 脳卒中の既往者または60歳以上の高血圧症の患者において、通常の塩の代わりに、塩化ナトリウムの成分含有が75%の代替塩を使うことで、脳卒中率や主要心血管イベント率、および全死因死亡率が低下したことが示された。オーストラリア・George Institute for Global HealthのBruce Neal氏らが、中国農村部600村に住む2万例超を対象に行った、非盲検クラスター無作為化試験の結果を報告した。NEJM誌オンライン版2021年8月29日号で発表した。代替塩は、ナトリウム値を低下させ、カリウム値を上昇させ、血圧を低下させることが示されている。しかし、心血管への有効性や安全性アウトカムへの影響は明らかになっていなかった。中国600村を無作為に分け、代替塩使用と通常塩使用を比較 研究グループは2014年4月~2015年1月にかけて、中国農村部の600村を対象に、脳卒中の既往者または60歳以上で高血圧症の患者2万995例を対象に試験を開始した。 試験対象村を無作為に2群に分け、一方の村の被験者は代替塩(質量で塩化ナトリウム75%、塩化カリウム25%)を、もう一方の村の被験者は通常塩(塩化ナトリウム100%)を、それぞれ使用した。 主要アウトカムは脳卒中、副次アウトカムは主要心血管イベント、全死因死亡で、安全性アウトカムは臨床的高カリウム血症だった。 被験者2万995例の平均年齢は65.4歳、女性が49.5%、脳卒中既往者72.6%、高血圧症既往者は88.4%だった。平均追跡期間は4.74年。 脳卒中の発生率は、代替塩群29.14/1,000人年、通常塩群33.65/1,000人年で、代替塩群が低かった(率比:0.86、95%信頼区間[CI]:0.77~0.96、p=0.006)。 同様に、主要心血管イベント発生率(49.09 vs. 56.29/1,000人年、率比:0.87[95%CI:0.80~0.94]、p<0.001)、死亡率(39.28 vs. 44.61/1,000人年、0.88[0.82~0.95]、p<0.001)は代替塩群が低かった。 高カリウム血症による重篤有害イベントの発現頻度は、代替塩群3.35/1,000人年、通常塩群3.30/1,000人年で同程度だった(率比:1.04[95%CI:0.80~1.37]、p=0.76)。

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第77回【特集・第6波を防げ!】相マスクが濃厚接触者の感染を予防/有観客試合で感染は広まらず

大学でのマスク着用が濃厚接触者の感染を予防デルタ変異株をまだ見ず、ワクチン接種がこれからという今年1~5月の米国の大学で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染者との濃厚接触者を一律に隔離するのではなくマスク着用の状況に応じてそうするかしないかを決める取り組みが検証され、マスクをお互いに着用することでどうやら感染の連鎖がほぼ完全に断ち切れていました1,2)。米国のセントルイス大学では感染者と濃厚接触(24時間に2人が約2m以内で15分以上接触)しても感染者と濃厚接触者のどちらもマスクを着用していればそれら濃厚接触者の隔離は不要という対応が今年1月から実行され、その対応の成果を判定すべく同大学の学生およそ1万2,000人のその後5ヵ月間の感染状況が調べられました。その5ヵ月間に265人が感染し、それら感染者の申告で濃厚接触者378人が同定されました。感染者と濃厚接触者がどちらもマスクをしていた場合(相マスク)の濃厚接触者は毎日健診を受けて症状があればすぐに申告するよう指示され、ワクチン非接種で非相マスクの濃厚接触者のみ隔離されました。相マスクでの濃厚接触者は26人で、そのうち感染に陥ったのは僅か2人(7.7%)のみでした。一方、残りの多数(352人)の非相マスク濃厚接触者は3人に1人(32.4%)が感染に至っており、相マスク濃厚接触者の感染率はそうでない場合の5分の1ほどで済んでいました。相マスクにもかかわらず感染した濃厚接触者2人は感染判明後すぐに隔離され、それら2人から別の人への感染は9人との濃厚接触があってそれら濃厚接触者を隔離しなかったにもかかわらず一切認められませんでした。ワクチンはごく少数にしか接種されていませんでしたがその効果も伺え、接種済みの濃厚接触者18人は全員感染を免れました。一方、ワクチン接種一部完了(Partially vaccinated)の濃厚接触者24人は5人(20.8%)、ワクチン非接種の濃厚接触者336人は111人(33%)が感染に至っています。ワクチン接種が普及した現在において、直接会う授業がある大学はワクチン接種がまだ済んでいない濃厚接触者を隔離と検査観察のどちらに振り分けるかの判断材料にマスク着用状況を含めうると著者は言っています1)。アメフト有観客試合の開催地でCOVID-19増加はみられずマスク着用を含む感染対策が一箇所に大勢が集うイベントからの感染の広がりを防ぎうることが米国のアメリカンフットボール(アメフト)の有観客試合のデータ解析試験で示されました3,4)。試験では去年2020年8月末(29日)からその年末(12月28日)までに観客有りのアメフトの試合が実施された郡とそれらと同様の日程で観客なしの試合が開催された郡が検討されました。その結果、有観客試合が実施された郡での住民10万人当たりの1日のSARS-CoV-2感染数の一貫した増加は認められず、少なめな観客数でのアメフトの試合の開催はその開催地のCOVID-19増加を生じやすくはしないと示唆されました。マスク着用、少なめな観客数、野外開催がどうやらCOVID-19の広がりを防いだようであり、観客同士の距離を十分に保てば有観客試合は安全に実行できそうです。今はワクチンが出回っていますが、それだけに頼ることはできません。そもそも全員がワクチン接種済みとは限りませんし、ワクチンで感染を100%防げるわけではありません。より伝播しやすいデルタ株のような変異株の心配もあり、アメフトの試合のような大規模な集いでのCOVID-19伝播はマスクを着用しなければ依然として発生する恐れがあります。ワクチン接種が可能になったとはいえ今後もしばらくは行動の制限が続きそうですが、アメフトの試合ではマスク着用の観客を十分に離した席に招じ入れてよさそうだと試験の著者は結論しています4)。参考1)Rebmann T,et al.MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2021 Sep 10;70:1245-1248.2)CDC Report Finds Masks Curb Spread of COVID-19 on Campus / Inside Higher Ed3)No indication of COVID-19 spread from pro football events with limited attendance / Eurekalert4)Toumi A, et al. JAMA Netw Open. 2021 Aug 2;4:e2119621.

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地球温暖化により増加している死亡とは?(解説:有馬久富氏)

 疾患の発生には季節変動があることが知られている。最近も滋賀県全体で行なっている脳卒中登録事業より、脳卒中が気温の低い冬に増加することが報告されている(文献1)。逆に気温の高い夏に増加する疾患もある。このように、寒い気候も暑い気候も特定の疾患の発生に影響を与えうる。 Global Burden of Disease Studyの成績と気象データを結びつけて、寒い気候と暑い気候が死亡に及ぼす影響を検討した結果がLancet誌に掲載された(文献2)。その結果は、寒い気候と暑い気候により、世界で毎年約170万人が死亡しているというものであった。 寒い気候は、肺炎などの呼吸器疾患死亡や脳心血管死亡を引き起こしていたが、過去20年でその影響は減少する傾向にあった。一方、暑い気候は、溺死・自殺など外因死の増加と関連しており、その数は地球温暖化の影響で増加する傾向にあった。地球温暖化は、気候だけでなく、人々の健康にも影響を与えている可能性がある。健康面からも地球温暖化対策は急務といえよう。

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アントラサイクリンベース化療中の乳がん、心保護薬の併用でLVEF低下を予防

 イタリア・フィレンツェ大学Lorenzo Livi氏らがアントラサイクリンベースの化学療法で治療を受けている乳がん患者の無症候性の心臓損傷を軽減できるかどうかを調査した結果、β遮断薬のビソプロロールやACE阻害薬のラミプリル(日本未承認)を投与することで、がん治療に関連するLVEF低下や心臓リモデリングから保護する可能性を示唆した。JAMA Oncology誌2021年8月26日号オンライン版ブリーフレポートでの報告。 本研究であるSAFE試験は、イタリアの8施設の腫瘍科で実施された多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験で、12ヵ月で心臓評価を完了した最初の174例に関する中間分析。対象者の募集は2015年7月~2020年6月の期間で、中間分析は2020年に実施された。対象者はアントラサイクリンベースのレジメンを使用し、一次または術後の全身療法を受ける兆候があった患者で、事前に心血管疾患の診断を有していた患者は除外された。心臓保護薬としてビソプロロール、ラミプリル、ラミプリルとビソプロロール併用に割り付け、プラセボ群と比較。化学療法の開始から1年間、またはERBB2陽性者はトラスツズマブ療法の終了まで投与を行った。全グループの用量について、ビソプロロール(1日1回5mg)、ラミプリル(1日1回5mg)、プラセボを可能な範囲で体系的に漸増した。 主要評価項目は、無症状(10%以上悪化)の心筋機能(左心室駆出率[LVEF])と歪み(長軸方向の歪み[GLS:global longitudinal strain])で、2Dおよび3Dの心エコー法で検出した。 主な結果は以下のとおり。・対象者は174例の女性(年齢中央値48歳、範囲24〜75歳)だった。・12ヵ月間の3D心エコーでLVEFの低下状況を確認したところ、プラセボ群で4.4%、ラミプリル群、ビソプロロール群、併用群でそれぞれ3.0%、1.9%、1.3%の低下だった(p=0.01)。・全体的な長軸方向の歪みは、プラセボ群で6.0%、ラミプリル群とビソプロロール群でそれぞれ1.5%と0.6%悪化したが、併用群では変化しなかった(0.1%の改善、p<0.001)。・3D心エコーでLVEFが10%以上低下した患者数は、プラセボ群で8例(19%)、ラミプリル群で5例(11.5%)、ビソプロロール群で5例(11.4%)、併用群で3例(6.8%)だった。 ・プラセボ群15例(35.7%)は、ラミプリル群(7例:15.9%)、ビソプロロール(6例:13.6%)、および併用群(6例:13.6%)と比較して、GLSが10%以上も悪化を示した(p=0.03)。

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小児マラリア、ワクチン+化学予防で入院・死亡を大幅抑制/NEJM

 合併症のない臨床的に軽症の小児マラリアの予防治療において、季節性のRTS,S/AS01Eワクチン接種は化学予防に対し非劣性であり、RTS,S/AS01Eワクチンと化学予防の併用はワクチン単独および化学予防単独と比較して、軽症マラリア、重症マラリアによる入院、マラリアによる死亡を大幅に抑制することが、英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のDaniel Chandramohan氏らが西アフリカで行った臨床試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年8月25日号で報告された。ブルキナファソとマリの無作為化対照比較試験 研究グループは、西アフリカのブルキナファソとマリの小児を対象に、RTS,S/AS01Eを用いた季節性ワクチン接種の季節性化学予防に対する非劣性と、RTS,S/AS01Eワクチンと化学予防の併用は、このうち一方による単独療法と比較して優越性を有するかを検証する目的で、二重盲検無作為化対照比較試験を実施した(英国・Joint Global Health Trialsと米国・PATH Malaria Vaccine Initiativeの助成を受けた)。 2017年4月1日の時点で、生後5~17ヵ月の小児がいる試験地域内の全世帯が対象となった。6,861例の小児が登録され、このうち2,287例がsulfadoxine/pyrimethamine+amodiaquine(年4回投与)とRTS,S/AS01Eワクチンのプラセボの接種を受ける群(化学予防単独群)、2,288例がRTS,S/AS01Eワクチン接種と化学予防薬のプラセボの投与を受ける群(ワクチン単独群)、2,286例が化学予防+RTS,S/AS01Eワクチン接種を受ける群(併用群)に無作為に割り付けられた。RTS,S/AS01Eワクチンは、5回(2017年4月、5月、6月、2018年6月、2019年6月)接種された。 5,920例(化学予防単独群1,965例、ワクチン単独群1,988例、併用群1,967例)が、割り付けられた介入の初回投与を受け、3年間のフォローアップが行われた。2020年3月31日の時点で、それぞれ1,716例(87.3%)、1,734例(87.2%)、1,740例(88.5%)がフォローアップを終了した。接種後の熱性痙攣は回復、髄膜炎の発現はなかった 合併症のない臨床的マラリア(体温37.5℃以上または直近48時間以内の発熱の既往、かつ熱帯熱マラリア原虫[Plasmodium falciparum]による原虫血症[≧5,000/mm3])は、1,000人年当たり化学予防単独群で305イベント、ワクチン単独群で278イベント、併用群で113イベント認められた。 ワクチン単独群の、化学予防単独群との比較における予防効果のハザード比は0.92(95%信頼区間[CI]:0.84~1.01)であり、事前に規定された非劣性マージン(1.20)を満たしたため、3年間を通じたワクチン接種の化学予防に対する非劣性が確認された。 一方、併用群では、化学予防単独群との比較における臨床的なマラリアの予防効果は62.8%(95%CI:58.4~66.8)であり、世界保健機関(WHO)の定義による重症マラリアに伴う入院の予防効果は70.5%(41.9~85.0)、マラリアによる死亡の予防効果は72.9%(2.9~92.4)であった。 また、併用群では、ワクチン単独群との比較における臨床的なマラリアの予防効果は59.6%(95%CI:54.7~64.0)、WHO定義の重症マラリアによる入院の予防効果は70.6%(42.3~85.0)、マラリアによる死亡の予防効果は75.3%(12.5~93.0)だった。 ワクチン接種後に熱性痙攣が5例(ワクチン単独群3例、併用群2例、初回接種[プライミング]後3例、追加接種[ブースター]後2例)で発現したが、いずれも回復し、後遺症は認められなかった。8例(化学予防単独群4例、ワクチン単独群3例、併用群1例)で臨床的に髄膜炎が疑われたが、いずれも確定されなかった。また、RTS,S/AS01Eワクチン接種者で、入院や死亡が男児よりも女児で多いとの証拠は得られなかった。 著者は、「アフリカの季節性マラリアがみられる広範な地域では、マラリアのコントロールが現在も不十分であるため、季節性の化学予防と季節性のRTS,S/AS01Eワクチン接種の併用は有望な予防法となる。サヘル地域やサブサヘル地域のマラリアの負担が大きい地方では、今後、これらの併用の最適な方法を検討する必要があるだろう」としている。

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シノバック製ワクチン、ガンマ株蔓延下のブラジルで有効性検証/BMJ

 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のγ変異株(ブラジル型)が広くまん延している状況下で、70歳以上の集団における不活化全粒子ワクチンCoronaVac(中国Sinovac Biotech製)の2回接種者は非接種者と比較した場合、2回目接種から14日以降における症候性の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症に対するワクチン有効率は47%であり、COVID-19関連の入院に対する有効率は56%、死亡に対する有効率は61%との研究結果が、スペイン・ISGlobalのOtavio T. Ranzani氏らによって報告された。研究の詳細は、BMJ誌2021年8月20日号に掲載された。サンパウロ州で、診断陰性例コントロール試験 研究グループは、γ変異株まん延下のブラジル・サンパウロ州(地方自治体数645、人口4,600万人、70歳以上人口323万人)の高齢者を対象に、CoronaVacワクチン接種の有効性を評価する目的で、診断陰性例コントロール試験(negative case-control study)を行った(外部からの研究助成は受けていない)。 対象は、サンパウロ州の居住者で、COVID-19の症状がみられる70歳以上の集団であった。2021年1月17日~4月29日の期間に、4万4,055人が逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)によるSARS-CoV-2の検査を受け、2万6,433人が陽性(症候性COVID-19)、1万7,622人はCOVID-19の症状がみられるものの陰性(コントロール)であった。 年齢、性別、自己申告の人種、居住する地方自治体、COVID-19様疾患の既往、RT-PCR検査日(±3日)に関して、症例(陽性者)1人に対しコントロール(陰性者)を最大で5人までマッチさせた(症例1万3,283人、コントロール4万2,236人)。 マッチング集団のCoronaVacワクチン接種者と非接種者で、症候性COVID-19(RT-PCR検査で確定)と、これに伴う入院および死亡の比較が行われた。年齢層が高いほど有効率が低下 CoronaVacワクチン非接種者との比較における、2回接種者の症候性COVID-19に対する調整後のワクチン有効率(発症予防効果)は、2回目の接種から0~13日が24.7%(95%信頼区間[CI]:14.7~33.4、p<0.001)、14日以降は46.8%(38.7~53.8、p<0.001)であった。 また、COVID-19関連入院に対するワクチン有効率は、2回目の接種から0~13日が39.1%(95%CI:28.0~48.5、p<0.001)、14日以降は55.5%(46.5~62.9、p<0.001)であり、死亡に対するワクチン有効率はそれぞれ48.9%(34.4~60.1、p<0.001)および61.2%(48.9~70.5、p<0.001)であった。 2回目接種から14日以降のワクチン有効率は、最も若い年齢層(70~74歳)で優れており、年齢層が高くなるに従って低下した。すなわち、症候性COVID-19のワクチン有効率は70~74歳が59.0%(43.7~70.2)、75~79歳が56.2%(43.0~66.3)、80歳以上は32.7%(17.0~45.5)であり、入院のワクチン有効率はそれぞれ77.6%(62.5~86.7)、66.6%(51.8~76.9)、38.9%(21.4~52.5)、死亡のワクチン有効率は83.9%(59.2~93.7)、78.0%(58.8~88.3)、44.0%(20.3~60.6)だった。 著者は、「COVID-19の流行に対応した集団予防接種キャンペーンの一環としてCoronaVacを使用する場合は、ワクチンの供給を優先し、2回接種完了者数を最大限に増やす必要がある」としている。

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異常気温、世界中で死亡リスクに影響/Lancet

 米国・ワシントン大学のKatrin G Burkart氏らは、非最適気温への曝露による世界的・地域的負担の推定を目的に、欧州中期気象予報センター(European Centre for Medium-Range Weather Forecasts:ECMWF)が作成したERA5再解析データセットから得られた気温推定値と死亡との関連について解析。異常低温や異常高温への曝露は多様な死因による死亡リスクに影響し、ほとんどの地域では低温の影響が大きいが、気温が高い地域では低温の影響をはるかに上回る高温の影響がみられることを明らかにした。著者は、「高温リスクの曝露が着実に増加していることは、健康への懸念が高まっている」とまとめている。気温の高低と死亡率および罹患率の増加との関連はこれまでにも報告されているが、疾病負担の包括的な評価は行われていなかった。Lancet誌2021年8月21日号掲載の報告。気候変動監視のERA5再解析データを用い、気温と死亡の関連を解析 研究グループは、非最適気温への曝露による世界的・地域的負担の推定を目的に、パート1として、ECMWFが作成したERA5再解析データセットから得られた気温推定値を用い、死亡との関連を解析した。 ベイジアンメタ回帰の2次スプラインを用い、1日平均気温と23の平均気温帯に従い、個人の死因176疾患に関して死因別相対リスクをモデル化した後、日間死亡率データが入手可能な国について、死因別および全気温に起因する負担を算出した。また、パート1で得られた死因別相対リスクを世界のすべての場所に適用した。 曝露-反応曲線と日平均気温を組み合わせ、「世界の疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study)」による疾病負担に基づき、1990~2019年の死因別負担を算出した。異常低温・異常高温による死者は2019年では169万人 パート1では、1980年1月1日~2016年12月31日の、9ヵ国(ブラジル、チリ、中国、コロンビア、グアテマラ、メキシコ、ニュージーランド、南アフリカ、米国)における6,490万人の死亡データを用いた。評価対象となった死因176疾患のうち、有意差の基準を満たした17の死因が解析対象となった。 虚血性心疾患、脳卒中、心筋症/心筋炎、高血圧性心疾患、糖尿病、慢性腎臓病、下気道感染症、慢性閉塞性肺疾患は、日平均気温とJ字型の関連性を示したが、外因(例えば、殺人、自殺、溺死、および災害やその他の不慮の事故に関連するもの)リスクは、気温とともに単調に増加した。 理論的な最小リスク曝露レベルは、基本的な死因の構成の機能として、場所と年によって異なっていた。非最適気温に関する推定値は、ブラジルにおける死亡数7.98人/10万人(95%不確実性区間[UI]:7.10~8.85)、人口寄与割合(PAF)1.2%(95%UI:1.1~1.4)から、中国における死亡数35.1人/10万人(95%UI:29.9~40.3)、PA F4.7%(95%UI:4.3~5.1)の範囲であった。 2019年には、データが得られたすべての国で、低温に関連した死亡率が高温による死亡率を上回った。低温の影響が最も顕著だったのは、中国(PAFは4.3%[95%UI:3.9~4.7]、寄与率は10万人当たり32.0人[95%UI:27.2~36.8])、およびニュージーランド(それぞれ3.4%[95%UI:2.9~3.9]、26.4人[95%UI:22.1~30.2])、高温の影響が最も顕著だったのは、中国(0.4%[95%UI:0.3~0.6]、3.25人[95%UI:2.39~4.24])、およびブラジル(0.4%[95%UI:0.3~0.5]、2.71人[95%UI:2.15~3.37])であった。 これらの結果を世界のすべての国に適用した場合、2019年に世界で非最適気温に起因する死者は169万人と推定された。暑さに起因する負担が最も高かったのは、南・東南アジア、サハラ以南のアフリカ、北アフリカ・中東、寒さに起因する負担が最も高かったのは東・中央ヨーロッパ、中央アジアであった。

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