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高K血症の治療は心腎疾患患者のRAASi治療継続に寄与するか?/AZ

 アストラゼネカは2023年11月24日付のプレスリリースにて、リアルワールドエビデンス(RWE)の研究となるZORA多国間観察研究の結果を発表した。本結果は、2023年米国腎臓学会(ASN)で報告された。 世界中に、慢性腎臓病(CKD)患者は約8億4,000万人、心不全(HF)患者は6,400万人いるとされ、これらの患者における高カリウム血症発症リスクは2~3倍高いと推定されている1-4)。レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬(RAASi)治療は、CKDの進行を遅らせ、心血管イベントを低減させるためにガイドライン5-7)で推奨されているが、高カリウム血症と診断されると、投与量が減らされる、あるいは中止されることがある6-9)。このことが患者の転帰に影響を与えることは示されており、RAASiの最大投与量で治療を受けている患者と比較して、漸減または中止されたCKDおよびHF患者の死亡率は約2倍であった10)。7月の同社の発表では、米国および日本の臨床現場において、高カリウム血症発症後にRAASi治療の中止が依然として行われていることが示されている。 ZORA研究は、現行の高カリウム血症管理およびその臨床的影響について検証している世界規模のRWEプログラムである。ZORA研究「高カリウム血症発症後におけるジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物(SZC)によるRAASi治療継続に関する研究」では、高カリウム血症発症後にRAASi治療を受けたCKDおよび/またはHFの患者を対象とし、ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物(SZC、商品名:ロケルマ)の投与を120日以上受けた患者565例(米国)、776例(日本)、56例(スペイン)がSZC投与コホートに組み入れられ、カリウム吸着薬なしコホートには、カリウム吸着薬の処方を受けなかった患者2,068例(米国)、2,629例(日本)、203例(スペイン)が組み入れられた。2つ目のZORA研究「高カリウム血症を発症したCKD患者におけるRAASiの減量とESKDへの進行との関連性」では、CKDステージ3または4で、ベースライン時にRAASiを使用しており、高カリウム血症を発症した患者1万1,873例(米国)および1,427例(日本)が組み入れられた11)。高カリウム血症発症の前後3ヵ月におけるRAASiの処方状況に基づき、患者はRASSi減量群、中止群、維持群に分類された12)。 主な結果は以下のとおり。・高カリウム血症に対してSZCによる治療を行ったCKDまたはHFの患者は、治療されなかった患者と比較して、高カリウム血症の発症から6ヵ月後において、RAASi治療を維持できるオッズ比が約2.5倍となった(オッズ比:2.56、95%信頼区間:1.92~3.41、p<0.0001)11)。・末期腎不全(ESKD)※への進行リスクは、RAASi治療の維持群と比較し、中止群では73%増加、減量群で60%増加した12)。これらの結果は、高カリウム血症発症によるRAASi投与量の減量により、CKDまたはHFの患者における心腎イベントおよび死亡のリスクが増加することを示す過去のデータを裏付けた。・国別にみると、中止群におけるESKDへの進行リスクは維持群と比べて、米国では74%増加、日本では70%増加していた。なお、米国の対象患者(24.8%)に比べて日本の対象患者(62.6%)ではCKDステージ4の割合が高かったという違いがあったが、本研究により示されたRAASi治療が中止された患者におけるESKDへの進行リスクは、国によらず一貫していた。※高カリウム血症発症後6ヵ月以内に、CKDステージ5として診断あるいは透析開始と定義した。 UCLA HealthのAnjay Rastogi氏は、「高カリウム血症を積極的に管理することにより、ガイドライン5-7)で推奨されているRAASi治療を最適用量で維持することが可能となり、CKDまたはHFの患者の転帰を改善できることが明らかになった。しかし、本研究は、臨床現場で高カリウム血症発症後の心腎疾患患者に実際に起きていること、また、RAASiの減量や中止により重大な結果がもたらされ、転帰の悪化と死亡率の増加につながりうることについて、直視すべき実態を提示している」とコメントした。 AstraZeneca(英国)のエグゼクティブバイスプレジデント兼バイオファーマビジネスユニットの責任者であるRuud Dobber氏は、「今回のデータは、高カリウム血症が適切に管理されなければ、RAASiの減量や中止により、心血管疾患や腎疾患の転帰が悪化したり死亡率が増加したりする可能性があるという、過去に発表したエビデンスをさらに裏付けるものである。ロケルマは、高カリウム血症というしばしば緊急処置を要することのある疾病負荷に対応するための重要な治療戦略となる可能性がある。AstraZenecaは、ガイドライン5-7)で推奨されているRAASi治療を実施できるよう、また、より強力な心腎保護効果を患者に届けられるよう、引き続き医療従事者と協力していく」と述べている。■参考文献1)Jain N, et al. Am J Cardiol. 2012;109:1510-1513.2)Sarwar, CM. et al. J Am Coll Cardiol. 2016;68:1575-1589.3)Jager KJ, et al. Nephrol Dial Transplant. 2019;34:1803-1805.4)GBD 2016 Disease and Injury Incidence and Prevalence Collaborators. Lancet. 2017; 390:1211-1259.5)Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Diabetes Work Group. Kidney Int. 2020;98:S1-S115.6)Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Diabetes Work Group. Kidney Int. 2022;102:S1-S127.7)McDonagh TA, et al. Eur Heart J. 2021;42:3599-3726.8)Heidenreich PA, et al. J Am Coll Cardiol. 2022;79:e263-e421.9)Collins AJ, et al. Am J Nephrol. 2017;46:213-221.10)Epstein M, et al. Am J Manag Care. 2015;21:S212-S220.11)Rastogi A, et al. ZORA: Maintained RAASi Therapy with Sodium Zirconium Cyclosilicate Following a Hyperkalaemia Episode: A Multi-Country Cohort Study, presented at American Society of Nephrology Kidney Week, 1-5th November 2023, Philadelphia, PA, USA.12)Rastogi A, et al. ZORA: Association between reduced RAASi therapy and progression to ESKD in hyperkalaemic CKD patients, presented at American Society of Nephrology Kidney Week, 1-5th November 2023, Philadelphia, PA, USA.

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現代の血管インターベンション治療のレベルを無視しているのではないか(解説:野間重孝氏)

 この論文(ORBITA-2試験)の評価には、まず2017年に同グループによってLancet誌に発表されたORBITA試験について知っておく必要がある。同論文はジャーナル四天王で紹介されたのでお読みになった方も多いかと思う(「PCIで運動時間が改善するか?プラセボとのDBT:ORBITA試験/Lancet」)。また、奇縁にもその論文評を評者らが担当していた(下地 顕一郎君との共著)(「ORBITA試験:冷静な判断を求む」)。その関係から、以下前回の論文評と内容に一部重複する部分も見られると思うがご容赦願いたい。 ORBITA試験は至適薬物治療を受けている重症一枝病変の安定狭心症患者200例を対象とし、PCIが行われた群とプラセボ手術が行われた群とに分け、運動時間増加量を無作為化二重盲検試験で比較検討した試験である。この結果は大きな議論の対象となった。両群で運動時間増加量に差が認められなかったからである。つまり、少し乱暴な言い方をすれば、PCIなどやってもやらなくても同じだという結果が出されたのである。これを受けてLancet誌同号のeditorialで「薬物療法に対して不応な症例ですらPCIは無益」で「すべてのガイドラインでPCIを格下げすべきである」といった感情的な議論がなされ、これに対しこの論文の筆頭著者だったAl-Lameeが反論するといった、一種のドタバタ喜劇が演じられるという一幕もあった。 こうした議論のそもそもの背景には、2007年にNEJM誌に発表されたCOURAGE試験があった。この試験により、安定狭心症に対するPCIは薬物療法に比して心筋梗塞や死亡の発生率を減らすことができないことが示されたのである。以後、PCIはもっぱら症状の改善を目的として行われるようになっていた。ところがORBITA試験は、PCIでは肝心の症状の改善すら明確には望めないと断じたのである。 ただし、こうした結果を重症虚血症例にまで拡大適応してはならないことは、他ならぬCOURAGE試験のサブ解析によって示された。サブ解析については紙面の関係から深入りしないが、これはORBITA試験についてもいえることで、この試験では重症虚血例は除外されていた。 ORBITA試験の研究グループは、今回大きく視点を変えてPCI単独の効果の検討を試みた。抗狭心症薬による治療をほぼ受けておらず、かつ客観的虚血が認められる安定狭心症の患者に対してPCIを施行し、PCIにより狭心症症状スコアが有意に改善することを無作為化検定で証明したのである。発想の転換というか、「では薬物の影響を極力排除した場合、PCIは本当に単独で症状改善効果を期待できるのか?」という設問を立てたもので、PCIに対して疫学的観点から評価を与えたものといえるだろう。しかし、ORBITA試験の結果との関係を論じるとなると、難しいものがあるのが事実である。PCIが単独で症状改善効果を持つとして、ではなぜ薬物治療下では追加的な効果が期待できないのか? この疑問には何も答えていないからである。 本試験の問題点としてまず指摘されるのは、前回と同様に、重症患者が試験対象から除外されていることだろう。論文中には明記されてはいないが、血小板機能阻害薬とスタチン以外のすべての薬剤を中止することが医学的にも倫理的にも許容される安定狭心症とはどの程度の重症度であるかは、臨床に携わる医師ならば誰でもわかることである。 しかし、そうした除外規定を容認するとしても残るのが、症状を主要エンドポイントに据えたことであると思う。PCIを実際に施行されたグループでは、複数ある狭窄を含めてすべてを完全に治療されたのである。それでもプラセボ群と大きな差がついたとはいえ、無視できない数の患者が症状を訴えているのである。 こうした現象を評者はよく狭心症・心筋梗塞と脳虚血の違いを例にとって説明している。脳虚血発作の症状は傷害部位によって特徴的かつ明確であり、また発症時期も明らかである。それに対して虚血性心疾患の場合は、心筋梗塞の場合といえども症状は必ずしも典型的なものとは限らず、また発症時期も明らかにすることは難しい。心筋梗塞の治療成績の検討にdoor-to-balloon timeが用いられ、onset-to-balloon timeが用いられないのはonset timeが明確に決められないからである。狭心症についてはさらに難しい。狭心症状はある意味、大変に主観的なものなのである。虚血の発生を客観的に明示できる方法を用いない限り、この種の研究には常に限界が付きまとうのである。これはORBITA試験についてもいえることで、運動時間といっても息切れの発生や動悸の発生で運動を止めているのか、明確なST-T変化によって運動を止めているのかで意味はまったく異なってくる。両論文には、少なくとも明確なST-T変化が見られるまで続行したという、はっきりした記述は見られない。 PCIはすでに成熟した治療法である。一時は確かに業績欲しさに不必要なPCIが行われた嘆かわしい時期があったことは事実であるが、それは過去のことである。現在、冠動脈の形態は造影CTで無侵襲で見ることができ、虚血の評価はMRIだけでなく、最近はFFR-CTなどの技術も実用化している。ワイヤを冠動脈内に入れれば病変形態は冠動脈エコーにより観察できるし、OCTを用いれば石灰化の厚さ・形態、粥腫の安定性の評価も可能である。さらに、治療の必要性についてはFFR/iFRにより的確に判断できる。評者は、当たり前のことであってもきちんと証明することには常に価値があると、日頃より発言してきた。その意味からこの研究を評価するかと聞かれたとするなら、残念ながら現代の技術レベルを無視した研究には、どれだけ多くの人が関わり手間をかけたとしても、評価することはできないとお答えするしかない。この論文評を書いている2023年現在、PCIの効果をこうした疫学的手法から検討しようという時代は終わっているとしかいえないと考えるからである。

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マルウェア感染した医療機関が行うべき対策【サイバー攻撃の回避術】第6回

ランサムウェアなどに感染した被害者(Victim)の情報は瞬時にしてダークウェブ上でハッカーなどに共有されるため、一度感染するとほかのハッカーが次々と狙ってくる可能性が高い。従って、早急に脆弱性対策や体制整備を講じる必要がある。繰り返し被害を受ける事例もランサムウェアを始めとするマルウェア感染は、どんなに対策を講じていても起こる時には起こってしまうものです。それは世界中で多くの大企業が次々と被害に遭っていることからも明白です。また、わが国でも大都市圏の大病院のみならず、地方の中小病院、医科・歯科の診療所が被害に遭っていることから、正に「明日はわが身」なのです。一方で一度感染した被害者が複数回被害を受ける事例も海外事例では多数報告されています。バラクーダネットワークスの「2023年ランサムウェアに関する考察」1)によれば、調査対象となった組織の73%は、2022年に少なくとも1回のランサムウェア攻撃の被害を報告しており、38%は2回以上の攻撃を受けたと回答。複数回の攻撃を受けた組織は身代金を支払ったという回答が多く、3回以上攻撃を受けた組織の42%が暗号化されたデータを復元するために身代金を支払ったのに対し、攻撃を1回受けた組織の場合、身代金を支払った割合は31%だったそうです。繰り返し被害に遭う割合が比較的高いことから、最初のインシデントの後、セキュリティーギャップが十分に対処されていないことがわかります。今回はランサムウェアに限らず、一度、感染被害を受けた場合に対応すべき事項について概説します。インシデントレスポンスにおけるフォレンジック調査の重要性多くの被害者は、ランサムウェアなどの被害を受けた後に復旧を優先させるため、セキュリティーベンダーによるフォレンジック調査を十分に行っていない可能性があります。医療ISACが把握しているランサム被害に遭った病院の一つでは、電子カルテベンダーの担当者から「フォレンジック調査を行うと、その間の1~2週間は復旧のための作業ができず、またフォレンジック調査は高額の費用が必要なためお勧めできない」と主張された、とのことです。しかしながらフォレンジック調査を行わないと、感染経路や感染範囲を特定できず、結果として再発防止策が立てられない、という問題が生じます。フォレンジック調査を十分に行った大阪急性期・総合医療センターの事例の報告書2)によれば、常時ネットワーク接続を許していた給食センターのVPN装置の脆弱性が放置されていたが故に、給食センターへの侵入・ランサムウェア感染が生じました。次に病院とのRDP(Remote Desktop)接続を経由して病院側への侵入を許していますが、この際のログインは総当たり攻撃により突破されています。さらに病院内のシステムに侵入した後、すべての端末・サーバのログインID/PWが単一であったことを悪用され、短時間に2,000台以上の端末、200台以上のサーバでランサムウェア感染が生じました。では、フォレンジック調査の結果はどうだったのか、見てみましょう。サプライチェーン事業者に対する病院の管理責任大阪急性期・総合医療センターの事例では、給食センターはいわゆるサプライチェーン事業者に相当します。病院は自施設のサイバーセキュリティー対策のみではなく、このようなサプライチェーン事業者に対しても適切に管理監督してセキュリティーを確保する責任があるのです。厚生労働省は2022年11月にサプライチェーン事業者に対する管理監督を適切に行うように通知を発出しています3)。RDP接続におけるロックアウト設定についてRDP接続などの突破にはしばしば総当たり攻撃の手法が用いられますが、この手法に対する有効な対策として、一定回数ログインを失敗した場合に一定時間アクセスを不能とする、いわゆるロックアウト機能の設定があります。たとえば、3回ログインに失敗したら10分間アクセス不能とする、といった具合です。本事例でも仮にロックアウト機能が有効であったとすれば、実質上、侵入を許すことはなかったかもしれません。院内システムのログインID/PWの設定についてハッカーの視点では、何らかの手段で一般ユーザのログインID/PWを窃取してシステムに侵入した後に、管理者のID/PWでログインして権限昇格する、という「横移動:Lateral Movement」というプロセスが必要であすが、これが最も難易度が高い攻撃プロセスとされています。大阪急性期・総合医療センターの事例ではすべてのID/PWが共通であったことから、この横移動が不要であったこととなり、実際にアンチウイルスソフトの無効化やランサムウェア感染などの行為が瞬時に行われています。以上の結果から、行うべき対策として重要性が高いものは、1.サプライチェーン事業者のVPN装置等の脆弱性対策状況について、報告を求め確認をする2.RDP接続のログインに関してロックアウト機能を設定する3.院内システムのログインID/PWを個別にユニークなものとするが挙げられます。当然、上記対策の責任を持って行う、サイバーセキュリティー責任者を明確に定め、規程類を整備し、BCPを策定すること、またサイバー保険への加入なども重要となるでしょう。一方で比較的優先順位が低いのは、アンチウイルスソフトの定義ファイルの更新です。アンチウイルスソフトについては、昨今では毎日100万以上の新種ないし亜種のウイルスが発生していること、ファイル自体が存在しないファイルレスマルウェアが流行していること、実際に侵入を許した際にはハッカーがアンチウイルスソフトを無効化すること、などからその効果は既に限定的と言わざるを得ないのです。詳しくは本連載の第5回をご参照ください。インターネット側から攻撃に対する対応(1)E-mailセキュリティー業務用のE-mailからの攻撃でEMOTETというマルウェアに感染した結果、病院の職員名を騙るフィッシングメールが大量に送付されたといった事例が頻発しています4-9)。実際にサイバー攻撃の過半数は悪意あるE-mailが起点であり10)、その悪意あるメールはいわゆる“なりすましメール”として送付されます。この悪意あるメールの添付ファイルや添付されたURLを開くことによりマルウェアに感染し、被害を生じるのが一般的です。なりすましメール対策としてはDMARC(Domain-based Message Authentication, Reporting, and Conformance)という国際標準規格RFC 7489が定められており、これにより最初の悪意あるメールの受診拒否や迷惑メールフォルダーへの分類が可能となります。しかしながら、実際に被害にあった医療機関を含め多くの事例でDMARCの設定をしていないのが現実です。なりすましメール対策として従来推奨されてきたのは、変な日本語や中国でしか使わない漢字などを含むメールを開かない、といった個人のリテラシーに頼った方法ですが、実際はなりすましメールに上述のような“怪しい”手がかりはほとんどないのが現実です。(2)コンテンツデリバリーネットワーク(CDN)によるセキュリティー強化CDNとはインターネット上に広範囲に張り巡らされた巨大なネットワークであり、CDNを導入することで、インターネット側からのアクセスは一旦CDNを経由して、医療機関側のドメインに届く形となります。これによりハッカー側から医療機関のドメイン情報やGlobal IP情報が見えなくなるため、直接の攻撃対象となりにくくなります。また、ハッカーが大量の通信を短時間に送りつけて受診側のサーバ能力を超えた負荷をかけることによりサービスをダウンさせる、DDoS(Distributed Denial of Service)攻撃に対しても、CDNがグローバルネットワークの中に負荷を分散させて、結果として攻撃を無効化することが可能となります。さらに、CDNを利用することで、自施設へのアクセス状況、その中でBlack listに登録されているようなドメインやGlobal IPからのアクセスがどの程度あり、それらがブロックされている状況などを可視化できるようになります。さらに中国、北朝鮮、ロシアなどからのアクセスも可視化でき、必要があれば特定の国や地域からのアクセスをCDNでブロック設定することも容易です。(3)脆弱性対策についてアンチウイルスソフトの定義ファイルの更新の重要性は、相対的に下がっていますが、一方で利用しているネットワーク装置(VPNルータ、UTM…)や、ソフトウェアの脆弱性対策の重要性は高まっています。ただし、これらの対策を継続的かつ確実に行うことは必ずしも容易ではありません。なぜなら継続的に公表される脆弱性をすべて把握し、自施設で利用している機器やソフトウェアのバージョンなどから適用すべきものであるかどうかを判断し、実際に適用することは、相当の知識と能力を必要とするからです。また、医療機関の業務用のシステムはインターネットと直接接続していないことも多く、ネットワークを介した修正プログラムの適用が難しく、院内にて手作業で行わざるを得ない、などの課題も存在します。この課題に対するソリューションとして、クラウド上のエンジンで契約した事業者すべての機器やソフトウェアのバージョン情報を管理し、一方でメーカーからの新規の脆弱性情報と照合した上で必要な更新を自動的に行う、いうクラウドサービスをとくに人材の乏しい医療機関では検討すべきと考えます。フォレンジック調査フォレンジック調査とは、一般的には法的な監査プロセスを指すが、サイバー攻撃に際してログを解析することにより、どのような攻撃がいつ行われ、どの範囲が影響を受けていて、どのような方法で復旧するのが妥当か、などを客観的に分析する手法のこと。フォレンジック調査を行わずに復旧作業を急ぐと、結局、侵入経路や原因が不明のまま放置されたり、潜んでいたコンピュータウイルスが再燃したりするリスクが高く、必ず行うべきプロセスとされる。RDPRemote Desktop Protocolの略。画面を遠隔に転送するリモートデスクトップを実現するためのプロトコル(通信規約)の一つ。米・マイクロソフト(Microsoft)社が開発したもので、Windowsのリモートデスクトップ機能で利用されている。総当たり攻撃総当たり攻撃とは、暗号解読や認証情報取得方法のひとつで、可能な組合せを全て試すやり方。ブルートフォースアタックとも呼ばれる。サプライチェーン攻撃セキュリティーレベルの高い組織などに侵入するため、セキュリティーレベルの低い関連会社や取引先などを悪用するサイバー攻撃の1種。 大手企業などセキュリティー体制が整っている組織を狙うため、まずはセキュリティーの脆弱な子会社や取引先に攻撃を仕掛け、最終的な標的に辿り着くという流れを指す。コンテンツデリバリーネットワーク(CDN)Contents Delivery Networkとは、数多くのキャッシュサーバーなどで構成されたプラットフォームを用いることにより、Webサイト上のコンテンツを迅速にエンドユーザーに届けるための仕組みだが、その構成からセキュリティー上の有用な対策としても採用される。DMARC(Domain-based Message Authentication, Reporting, and Conformance)とは、 電子メールにおける送信ドメイン認証技術の一つであり、 RFC 7489で標準化されている。Global IPIPアドレスは、ネットワークに接続する際に、接続された機器を特定するために個々のデバイスに割り当てられるもので、数字の組み合わせで成り立っています。IPアドレスにはネットワーク上の住所のような役割があり、IPアドレスを確認することでインターネット接続に使っているプロバイダーの名称や、世界のどの地域から接続しているかなどの情報が判別できる。DDoS(Distributed Denial of Service)攻撃対象となるWebサーバなどに対し、複数のコンピューターから大量のパケットを送りつけることで、正常なサービス提供を妨げる行為を指します。Black listウイルス、スパムメール、有害なWebサイトを選別(フィルタリング)する際、あらかじめ悪意のあるとわかっているものをまとめた一覧のこと。セキュリティソフトなどの検知方法である、パターンマッチングという手法で用いられる。UTMコンピュータウイルスやハッキングなどの脅威から、コンピューターネットワークを効率的かつ包括的に保護する管理手法のこと。「Unified Threat Management」を略したもので、日本語では「統合脅威管理」あるいは「統合型脅威管理」と呼ばれている。参考1)バラクーダネットワークス:2023年ランサムウェアに関する考察2)大阪急性期・総合医療センター:情報セキュリティーインシデント調査委員会報告書について3)厚生労働省:医療機関等におけるサイバーセキュリティー対策の強化について(注意喚起)_令和4年11月10日4)杏雲堂病院病院:当院の職員を装った「なりすましメール」に関するお詫びとお知らせ5)医療法人健昌会:当法人を装った不審なメールに関するお詫びと注意喚起について6)東京都済生会向島病院:当院職員を装った不審なメールに関するお詫びと注意喚起について7)那須南病院:那須南病院におけるコンピュータウイルス感染と関係者への不審メール発生に関するお詫びとお知らせ8)社会医療法人大雄会:当会パソコンへのウイルス感染に伴う不審メール発生に関するお詫びとお知らせ9)秋田赤十字病院:当院職員を装った不審メールについて10)トレンドマイクロ社レポート:2022 年年間サイバーセキュリティーレポート

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重症コロナ患者に対するスタチンとビタミンCの治療効果、対照的な結果に

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者を対象に、広く使用されている安価なスタチン系薬のシンバスタチンとビタミンCのそれぞれの有効性を調べた2件の臨床試験で、大きく異なる結果が示された。これらの試験は感染症の患者を対象とした進行中の国際共同研究「REMAP-CAP(Randomised, Embedded, Multi-factorial, Adaptive Platform Trial for Community-Acquired Pneumonia)」の一環で実施され、スタチン系薬に関する試験の詳細は「The New England Journal of Medicine(NEJM)」、ビタミンCに関する試験の詳細は「Journal of the American Medical Association(JAMA)」にいずれも10月25日掲載されるとともに、欧州集中治療医学会(ESICM 2023、10月21~25日、イタリア・ミラノ)でも発表された。 シンバスタチンの臨床試験には13カ国、141施設の病院からCOVID-19重症患者が参加し、最終的に2,684人のデータが解析された。その結果、シンバスタチンはCOVID-19重症患者の集中治療室(ICU)での臓器サポートを要する日数の短縮に95.9%の確率で寄与し、90日時点での生存率向上に91.9%の確率で寄与することが明らかになった。研究グループの計算によると、この結果は、同薬を投与した33人のうち1人の命が救われることに相当するという。 REMAP-CAPのシンバスタチンの試験を主導した英クィーンズ大学ベルファストのDanny McAuley氏は、米国での研究のスポンサーとなったGlobal Coalition for Adaptive Research(GCAR)のニュースリリースで、「この結果は、シンバスタチンによる治療がCOVID-19重症患者の転帰を改善する可能性が高いことを示しており、実に心強いものだ」とした上で、「この研究は、各国の医療専門家がCOVID-19患者に対する治療を向上させる上で助けとなるだろう」と述べている。 一方、COVID-19重症患者に対する高用量ビタミンCの有効性については、2件の臨床試験(LOVIT-COVIDとREMAP-CAP)を組み合わせて検討された。対象は、20カ国のCOVID-19による入院患者2,590人で、重症患者と非重症患者の双方が含まれていた。その結果、ビタミンCが臓器サポートを要する日数の短縮や生存に寄与する可能性は低いことが示された。 ビタミンCに関する試験の共同代表である、サニーブルック・ヘルスサイエンスセンター(カナダ)のNeill Adhikari氏は、「この結果は、COVID-19入院患者に対するビタミンCの使用は控えるべきことを示している」と述べている。また、本試験の別の共同代表である、シャーブルック大学(カナダ)のFrancois Lamontagne氏は、「現時点で利用可能な治療法のうち、患者にとって有益性がなく、かえって有害な影響を与え得る治療法を特定し、それを中止することには健康と経済の両面でメリットがある。今回の臨床試験の結果はその重要性を示したものだ」と述べている。 REMAP-CAPの米国の研究責任者で米ピッツバーグ医療センター(UPMC)集中治療医学部長のDerek Angus氏は、「REMAP-CAPから2つの結果が論文として同時に掲載されたことは、REMAP-CAPが複数の介入方法を効率的に評価できることの証しともいえる」と説明。「この恐ろしいパンデミックを通じて、われわれは治療に関するいくつかの大きな疑問に迅速に対処するための新しい方法を開拓し、今いる患者の治療に取り組み、将来、より機敏に対応するための準備をしてきた」と述べている。

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ESMO2023 レポート 消化器がん

レポーター紹介本年、スペインのマドリードで欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)が、現地時間10月20日~24日にハイブリッド開催で行われた。日本の先生からの演題も多数報告されていたが、今回は消化器がんの注目演題について、いくつか取り上げていきたい。胃がん周術期の免疫チェックポイント阻害薬#LBA74Pembrolizumab plus chemotherapy vs chemotherapy as neoadjuvant and adjuvant therapy in locally-advanced gastric and gastroesophageal junction cancer:The Phase III KEYNOTE-585 study本試験は、T3以上の深達度もしくはリンパ節転移陽性と診断を受けた胃がんもしくは食道胃接合部がんに対する周術期治療として、術前・術後に化学療法+プラセボを3コースずつ行った後にプラセボを3週ごと11コース行う標準治療群と、術前・術後に化学療法+ペムブロリズマブ併用を3コースずつ行った後にペムブロリズマブを3週ごと11コース行う試験治療群を比較するランダム化二重盲検第III相試験である。国立がん研究センター東病院の設楽 紘平先生により結果が報告された。化学療法は、カペシタビン+シスプラチンまたは5-FU+シスプラチンを用いたメインコホートとFLOT療法を用いるFLOTコホートがあり、主要評価項目は全体の病理学的完全奏効(pCR)と無イベント生存期間(EFS)、メインコホートの全生存期間(OS)、FLOTコホートの安全性であった。全体で1,254例が登録され、メインコホートのペムブロリズマブ群402例とプラセボ群402例、FLOTコホートのペムブロリズマブ群100例とプラセボ群103例が登録された。メインコホートではアジアから約50%が登録され、PD-L1のCPS1以上は約75%、MSI-Hが約10%、StageIIIが約75%およびカペシタビン+シスプラチンが約75%であった。メインコホートのpCR率は、ペムブロリズマブ群の12.9%に対しプラセボ群では2.0%と、有意にペムブロリズマブ群で良好であった(p<0.0001)。pCR率のサブグループ解析では、PD-L1のCPS1未満でペムブロリズマブ群のpCR改善率が悪い傾向があり(4.2%の上乗せ)、MSI-H群ではペムブロリズマブ群のpCR率が有意に高かった(37.1%の上乗せ)。EFS中央値はペムブロリズマブ群で44.4ヵ月、プラセボ群で25.3ヵ月であり、事前に設定された統計設定を達成できなかった(HR:0.81、p=0.0198)。OS中央値はペムブロリズマブ群で60.7ヵ月、プラセボ群で58.0ヵ月であった(HR:0.90)。メインコホート+FLOTコホートにおける解析では、EFS中央値がペムブロリズマブ群で45.8ヵ月、プラセボ群で25.7ヵ月(HR:0.81)、OS中央値はペムブロリズマブ群で60.7ヵ月、プラセボ群で58.0ヵ月であった(HR:0.93)。重篤な毒性は全体では両群に有意差はなく、Grade3~4の免疫関連有害事象とインフュージョン・リアクションはペムブロリズマブ群で多い傾向があった。#LBA73Pathological complete response (pCR) to durvalumab plus 5-fluorouracil, leucovorin, oxaliplatin and docetaxel (FLOT) in resectable gastric and gastroesophageal junction cancer (GC/GEJC): interim results of the global, phase III MATTERHORN study本試験は、StageII、IIIおよびIVAの診断を受けた胃がんもしくは食道胃接合部がんに対する周術期治療として、FLOT+プラセボ療法4コース後に手術を行い、術後FLOT+プラセボ4コース施行後プラセボを4週ごと10サイクル追加する標準治療群に対し、術前および術後のFLOT療法に対するデュルバルマブを上乗せし、終了後デュルバルマブを4週ごと行う試験治療群の優越性を検証したランダム化二重盲検第III相試験である。主要評価項目はEFS、副次評価項目は中央判定のpCR率、OSであり、今回は副次評価項目であるpCR率が報告された。日本を含む20ヵ国から948例が登録され、474例がFLOT+デュルバルマブ群に、474例がFLOT+プラセボ群に登録された。デュルバルマブ群では91%で手術が行われ、87%が切除を完遂し86%が術後化学療法を施行、プラセボ群では91%で手術が行われ、85%が切除を完遂し86%が術後化学療法を施行された。患者背景は両群で偏りがなく、胃がんが約70%で食道胃接合部がんは約30%、T1~2/T3/T4が約10%/約65%/約25%、臨床的リンパ節転移陽性が約70%、病理はdiffuse typeが約20%、PD-L1発現(腫瘍における発現)は≦1%が約90%であった。副次評価項目である中央判定pCR率はデュルバルマブ群で19%、プラセボ群で7%と12%の上乗せとなり、統計学的有意差を認めた(オッズ比[OR]:3.08、95%信頼区間[CI]:2.03~4.67、p<0.00001)。pCRとnear pCRを合わせた改善率はデュルバルマブ群で27%、プラセボ群で14%と、13%の上乗せがあり、統計学的に有意な改善を認めた(OR:2.19、95%CI:1.58~3.04、p<0.00001)。サブグループ解析では全体にデュルバルマブ群で良好であったが、PD-L1発現1%未満の群ではpCR率の差が少ない傾向にあった。手術の完遂率・R0切除率・術式・リンパ節郭清の割合は両群で差がなかった。安全性に関しては両群とも新規の有害事象(AE)は認められなかった。周術期のFLOT療法にアテゾリズマブの上乗せを検証するDANTE試験がASCO2022で、中国で行われた周術期capeOX/SOXにtoripalimabの上乗せを検証する試験がASCO2023で報告され、tumor regression grade rate(TRG rate)という病理学的効果を見る指標が改善する可能性が示唆されている。今回、2つの周術期の大規模第III相試験が報告され、術前治療における免疫チェックポイント阻害薬の併用はpCR率を改善することが報告された。しかし、KEYNOTE-585試験では、ほかの主要評価項目であるEFSは統計学的に改善せず、OSもほぼ同等であった。今まで大規模第III相試験で、免疫チェックポイント阻害薬の追加でEFSやOSを改善した報告はなく、胃がん周術期の免疫チェックポイント阻害薬が予後を改善するかはまだ明らかではない。MATTERHORN試験の今後の解析や他研究を含め、PD-L1やMSIを含む、さらなるバイオマーカー研究が待たれる。HER2陽性進行胃がん1次治療へのペムブロリズマブ#1511OPembrolizumab plus trastuzumab and chemotherapy for HER2+ metastatic gastric or gastroesophageal junction (mG/GEJ) adenocarcinoma: Survival results from the phase III, randomized, double-blind, placebo-controlled KEYNOTE-811 studyKEYNOTE-811試験はHER2陽性の切除不能進行胃がんを対象に、標準治療である化学療法+トラスツズマブに対するペムブロリズマブの上乗せを検証する、プラセボ対照ランダム化二重盲検第III相試験である。2021年9月に副次評価項目の1つである奏効率(ORR)に関する報告がNature誌に掲載され、標準治療群の51.9%に対してペムブロリズマブの併用で74.4%と、22.5%の上乗せと統計学的有意差を認めていた。今回、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)とOSについて第3回中間解析(追跡期間中央値:38.5ヵ月)の報告がなされた。698例が、ペムブロリズマブ群350例、ブラセボ群348例に割り付けられた。第2回中間解析における全体集団においてペムブロリズマブ群はプラセボ群に対してPFS(10.0ヵ月vs.8.1ヵ月)に有意な改善を認めた(HR:0.73、p=0.0002)。PD-L1が≦1の症例においては、さらなる改善傾向を認めた(10.9ヵ月vs.7.3ヵ月、HR:0.71)。第3回中間解析の結果が示され、全体集団におけるOSは20.0ヵ月vs.16.8ヵ月(HR:0.84)であったが、統計学的なp値は示されなかった。PD-L1≦1の症例においては、PFSと同様にOSも改善傾向を認めた(20.0ヵ月vs.15.7ヵ月、HR:0.81)。まだイベントが少なく、OSは追加解析中である。ORRは73% vs.60%でありペムブロリズマブ群で13%の上乗せを認めた。今回の検討で、OSは全体集団で統計学的有意な改善を示さなかった。しかし、ORRの改善や、PFSは全体集団で有意な改善を認め、OSもPD-L1≦1症例では良好な結果が報告された。しかし、Lancet誌で論文化された結果を見ると、第2回中間解析でOSの延長は統計学的有意差を示せなかった。またディスカッションで述べられていたが、PD-L1がCPS1未満では、逆にペムブロリズマブ群でOSが不良であったことが示されている。以上よりEUではPD-L1 CPS1以上においてのみペムブロリズマブ併用が承認され、米国FDAも同様の基準に承認が変更されている。本邦ではまだ保険適用外であるが、治療効果が高いレジメンであり、承認されればHER2陽性胃がんの1次治療が大きく変化する。今後、本邦での承認の可否や承認された場合の適応条件を含め注目される。MSI-H胃がん1次治療のイピリブマブ+ニボルマブ#1513MOA Phase II study of Nivolumab plus low dose Ipilimumab as 1st line therapy in patients with advanced gastric or esophago-gastric junction MSI-H tumor:First results of the NO LIMIT study (WJOG13320G/CA209-7W7)本研究は本邦で行われた、MSI-High切除不能進行再発胃がんに対する1次治療としてのイピリムマブ+ニボルマブ(Ipi/Nivo)の有効性と安全性を探索した単群第II相試験である。主要評価項目はORR、副次評価項目は病勢コントロール率(DCR)、PFS、OS、奏効期間(DOR)、安全性であり、今回、主要評価項目であるORRの結果が愛知県がんセンター薬物療法部の室 圭先生より報告された。スクリーニング試験であるWJOG13320GPS試験が並行して行われており、2020年11月~2022年8月の期間に国内75施設から進行胃がん935例がスクリーニングされた。そのうちMSI-Highと診断された症例のうち29例が本試験に登録された。3例が完全奏効、15例が部分奏効を達成し、ORRは62.1%(95%CI:42.3~79.3)で事前の統計学的設定に達し、主要評価項目を達成した。DCRは79.3%、追跡期間中央値9.0ヵ月時点のPFS中央値は13.8ヵ月(95%CI:13.7~未達)、DORとOSは未到達、12ヵ月PFS率は73%、OS率は80%であった。Grade3のAEが11例、Grade4が1例発現したが、治療関連死は認めず、既存の研究と異なるAEは認めなかった。21例で治療が中止され、治療中止の最も多い理由はAE(13例)であった。進行胃がんの中でおよそ5%といわれるMSI-Highを対象にしており、スクリーニング研究を含め、本邦の多くの先生が協力して完遂されたことにまずは拍手を送りたい試験である。既報のCheckMate 649試験でもMSI-High群では免疫チェックポイント阻害薬の併用効果がきわめて高いことが知られており、MSI-Highは胃がん1次治療前の治療選択に重要なバイオマーカーであると考えられる。また、Ipi/Nivoは食道がんにおけるCheckMate 648試験でも長期生存につながる症例が他治療より多い可能性が示唆されており、胃がんにおいてもそのような対象があるかもしれない。もちろんIpi/Nivoは胃がんにおいて本邦では保険適用外であるが、本研究の長期フォローアップの結果やバイオマーカーの解析結果が期待される。RAS/BRAF野生型+左側原発大腸がんのm-FOLFOXIRI+セツキシマブ#555MOModified (m)-FOLFOXIRI plus cetuximab treatment and predictive clinical factors for RAS/BRAF wild-type and left-sided metastatic colorectal cancer (mCRC):The DEEPER trial (JACCRO CC-13)本試験は本邦で行われた大規模なランダム化第II相試験である。主要評価項目であるDpR(最大腫瘍縮小率)はASCO2021で有意な改善が報告されている。今回、聖マリアンナ医科大学腫瘍内科講座の砂川 優先生よりRAS/BRAF野生型かつ左側のサブグループ解析結果が報告された。RAS/BRAF野生型、左側の大腸がんにおいてDpRとPFSはいずれもm-FOLFOXIRI+セツキシマブ群においてm-FOLFOXIRI+ベバシズマブ群より良好であった(DpR中央値: 59.2% vs.47.5%、p=0.0017、PFS:14.5ヵ月vs.11.9ヵ月、HR:0.71、p=0.032)。またPFSにおけるサブグループ解析では男性、R0/1切除ができなかった症例、および肝限局以外の症例においてセツキシマブ群で良好な傾向があった。とくに肝限局転移例ではPFSは両群で有意差を認めなかった(14.5ヵ月vs.15.5ヵ月、HR:0.86、p=0.62)ものの、それ以外ではセツキシマブ群でPFSの改善を認めた(15.1ヵ月vs.11.4ヵ月、HR:0.63、p=0.015)。今回のサブグループ解析は、本邦の実臨床における実際と合致した対象で、期待できる効果が示された。深い奏効が期待できるため、個人的には詳細なゲノム検査が困難な、若いRAS/BRAF野生型大腸がん症例に期待したい治療である。次回のガイドラインの記載が注目される。KRAS G12C変異大腸がんへのソトラシブ+パニツムマブ#LBA10 Sotorasib plus panitumumab versus standard-of-care for chemorefractory KRAS G12C-mutated metastatic colorectal cancer (mCRC):CodeBreak 300 phase III study肺がんなどを中心に、新たに注目されているバイオマーカーであるKRAS G12Cに対する治療開発が進んでいる。大腸がんでは約3%の症例でKRAS G12C変異を認めるといわれており、ソトラシブ+パニツムマブは先行する第I相試験でORRが30%と期待できる結果を示していた。今回、1レジメン以上の治療を受けたKRAS G12C変異陽性切除不能進行再発大腸がんに対して、ソトラシブ+パニツムマブと標準治療(トリフルリジン・チピラシルもしくはレゴラフェニブ)を比較する第III相試験の結果が報告された。主要評価項目はPFS、主な副次評価項目はORRとOSで、160例がソトラシブ960mg/日+パニツムマブ(53例)と、ソトラシブ240mg/日+パニツムマブ(53例)、そして標準治療(54例)に1対1対1で割り付けられた。約90%が2レジメン以上、オキサリプラチン、フッ化ピリミジン、イリノテカン、血管新生阻害薬による治療を受けていた。主要評価項目であるPFSはソトラシブ960mg群、ソトラシブ240mg群、標準治療群でそれぞれ5.6ヵ月(HR:0.49、p=0.006)vs.3.9ヵ月(HR:0.58、p=0.03)vs.2.2ヵ月であり、ソトラシブ群で有意に改善を認めた。ORRはそれぞれ26% vs.6% vs.0%であり、ベースラインよりも腫瘍が縮小した症例の割合は81% vs.57% vs.20%であった。OSはイベント発生数がまだ約40%と未達で、8.1ヵ月vs.7.7ヵ月vs.7.8ヵ月であった。主なGrade3以上の毒性はソトラシブ群でざ瘡様皮疹(960mg群11% vs.240mg群4%)、皮疹(6% vs.2%)、下痢(4% vs.6%)、低マグネシウム血症(6% vs.8%)であり、標準治療群では好中球減少(24%)、貧血(6%)、嘔気(2%)であった。研究者らは、KRAS G12C変異を有する大腸がんに対してソトラシブ960mg/日+パニツムマブが新しい標準治療になる可能性があると結論付け、本結果はNEJM誌にも掲載された。PFSやORRは期待できる結果を示しているが、肺がんではソトラシブ単剤で28.1~37.1%のORRが報告されており、大腸がんではパニツムマブ併用ながら、やや劣る奏効である。またOSはそれほど差がなく、標準治療群でソトラシブをクロスオーバーして使用しているのかなど、後治療の影響があるのかも含めた長期フォローの結果が待たれる。いずれにせよ、希少な対象の薬剤であり、本邦でも早期にKRAS G12C変異陽性大腸がん患者に届けられるようになることが期待される。転移膵がん1次療法、ゲムシタビン+nab-パクリタキセル#1616ONab-paclitaxel plus gemcitabine versus modified FOLFIRINOX or S-IROX in metastatic or recurrent pancreatic cancer (JCOG1611, GENERATE):A multicentred, randomized, open-label, three-arm, phase II/III trial切除不能進行膵がんにおける1次化学療法の標準治療は(modified)FOLFIRINOX療法とゲムシタビン+nab-パクリタキセル(GnP)療法であるが、直接比較した大規模第III相試験はいまだなかった。今回、本邦でmFOLFIRINOX療法とGnP療法およびS-IROX療法(S-1、イリノテカン、オキサリプラチン)を比較する第II/III相試験であるGENERATE試験(JCOG1611)が行われ、国立がん研究センター中央病院の大場 彬博先生より結果が報告された。主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、ORRおよび安全性であった。PS0~1の症例を対象に、2019年4月~2023年3月に国内45施設から527例が登録され、GnP群(176例)、mFOLFIRINOX群(175例)、S-IROX群(176例)に1対1対1で割り付けられた。主要評価項目のOSはGnP群17.1ヵ月、mFOLFIRINOX群14.0ヵ月(HR:1.31、95%CI:0.97~1.77)、S-IROX群13.6ヵ月(HR:1.35、95%CI:1.00~1.82)であった。中間解析にて最終解析における優越性達成予測確率はmFOLFIRINOX群0.73%、S-IROX群0.48%とGnP群を上回る可能性がほとんどないため、本試験は中止となった。PFSはGnP群6.7ヵ月、mFOLFIRINOX群5.8ヵ月(HR:1.15、95%CI:0.91~1.45)、S-IROX群6.7ヵ月(HR:1.07、95%CI:0.84~1.35)、ORRはGnP群35.4%、mFOLFIRINOX群32.4%、S-IROX群42.4%であった。Grade3以上のAEで多かったものは好中球減少症で、GnP群60%、mFOLFIRINOX群52%、S-IROX群39%で認められた。食欲不振(5% vs.23% vs.28%)、下痢(1% vs.9% vs.23%)は、GnP群よりもmFOLFIRINOX群、S-IROX群で多く認められた。本研究は膵がんの実臨床に対する非常に重要な試験であり、今回の結果を鑑みると本邦における切除不能膵がんに対する1次治療の標準治療はGnP療法であると考えられる。本邦の現状では1次治療でGnP療法を行い、2次治療でナノリポソーマルイリノテカン+5-FU+レボホリナートを行うことが推奨されているが、2023年のASCOでナノリポソームイリノテカンを使ったNALIRIFOX療法のGnP療法に対する優越性が報告されている。本邦ではNALIRIFOX療法は保険適用外であるが、今後本邦での承認を含めた状況が注目される。

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毎年9%死亡者が増加する人獣共通感染症の行方/ギンコ・バイオワークス

 古くはスペイン風邪、近年では新型コロナウイルス感染症のように、歴史的にみると世界的に流行する人獣共通感染症の人への感染頻度が、今後も増加することが予想されている。そして、これらは現代の感染症のほとんどの原因となっている。人獣共通感染症の人への感染の歴史的傾向を明らかにすることは、将来予想される感染症の頻度や重症度に関する洞察に資するが、過去の疫学データは断片的であり分析が困難である。そこで、米国・カルフォルニア州のバイオベンチャー企業ギンコ・バイオワークス社のAmanda Meadows氏らの研究グループは、広範な疫学データベースを活用し、人獣共通感染症による動物から人に感染する重大な事象(波及事象)の特定のサブセットについて、アウトブレイクの年間発生頻度と重症度の傾向を分析した。その結果、波及事象の発生数は毎年約5%、死亡数は毎年約9%増加する可能性を報告した。BMJ Global Health誌2023年11月8日号に掲載。現状のままでは毎年約9%で人獣共通感染症の死亡者数が増加 研究では、エボラウイルス、マールブルグウイルス、SARSコロナウイルス、ニパウイルス、マチュポウイルスによる75件の波及事象を検討(SARS-CoV-2パンデミックは除外)。 主な結果は以下のとおり。・波及事象の発生数は、毎年4.98%(95%信頼区間[CI]:3.22~6.76)増加している。・死亡数は、毎年8.7%(95%CI:4.06~13.62)増加している。 この結果を踏まえ、Meadows氏らは「この増加傾向は、世界的な努力によって発生を予防し、食い止める能力を向上させることで変えることができる。その努力は、世界の健康に対する感染症の大きな、増大しつつあるリスクに対処するために必要である」と述べている。

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ネモリズマブ、結節性痒疹のそう痒・皮膚病変を改善/NEJM

 ネモリズマブ単剤療法はプラセボとの比較において、結節性痒疹のそう痒と皮膚病変を有意に改善したことが、海外第III相二重盲検無作為化比較試験「OLYMPIA 2試験」で示された。結節性痒疹は、慢性の神経免疫疾患であり、重度のそう痒を伴い疾病負荷が大きいとされる。ネモリズマブは、インターロイキン(IL)-31受容体αを標的としたモノクローナル抗体で、結節性痒疹の発症に重要な経路を阻害する。第II相試験では、IL-31を介したシグナル伝達を阻害し、そう痒と皮膚病変の改善、Th2細胞(IL-13)とTh17細胞(IL-17)を介した免疫応答を抑制することが示されていた。本結果は、米国・ジョンズ・ホプキンス大学のShawn G. Kwatra氏らによって、NEJM誌2023年10月26日号で報告された。 OLYMPIA 2試験は、9ヵ国68施設において実施され、18歳以上の中等度~重度の結節性痒疹患者が対象となった。登録は2020年9月~2021年11月に行われた。対象患者は、ネモリズマブ群(初回用量60mg、その後は30mgまたは60mg[ベースライン時の体重[90kg未満または90kg以上]に基づく]を4週ごとに16週間皮下注射)、プラセボ群へ無作為に2対1の割合で割り付けられた。 有効性の主要評価項目は、16週目のPeak Pruritus Numerical Rating Scale(PP-NRS、スコア範囲:0~10点、スコアが高いほど重度)に基づくそう痒の改善(PP-NRSスコアが4点以上低下)と、16週目のInvestigator's Global Assessment(IGA、スコア範囲:0~4点)に基づく奏効(IGAスコア0点[消失]または1点[ほとんど消失]かつベースラインから2点以上低下)であった。 主要な副次評価項目は以下の5つ。(1)4週目のPP-NRSスコアがベースラインから4点以上低下(2)4週目の週間平均PP-NRSスコアが2点未満(3)16週目の週間平均PP-NRSスコアが2点未満(4)4週目のsleep disturbance numerical rating scale(SD-NRS、スコア範囲:0~10点、スコアが高いほど重度)スコアがベースラインから4点以上低下(5)16週目のSD-NRSスコアがベースラインから4点以上低下 主な結果は以下のとおり。・合計274例が無作為化された(ネモリズマブ群183例、プラセボ群91例)。・16週目において、2つの主要評価項目に関して治療効果が示された。・16週目においてそう痒の改善を達成した患者の割合は、ネモリズマブ群56.3%、プラセボ群20.9%であり、ネモリズマブ群が有意に改善した(調整群間差:37.4パーセントポイント[95%信頼区間[CI]:26.3~48.5]、p<0.001)。・16週目においてIGAに基づく奏効を達成した患者の割合も、ネモリズマブ群37.7%、プラセボ群11.0%であり、ネモリズマブ群が有意に改善した(調整群間差:28.5パーセントポイント[95%CI:18.8~38.2]、p<0.001)。・5つの主要な副次評価項目について、いずれもネモリズマブ群が有意に改善した(いずれもp<0.001)。(1)4週目のPP-NRSスコアがベースラインから4点以上低下:41.0% vs.7.7%(2)4週目の週間平均PP-NRSスコアが2点未満:19.7% vs.2.2%(3)16週目の週間平均PP-NRSスコアが2点未満:35.0% vs.7.7%(4)4週目のSD-NRSスコアがベースラインから4点以上低下:37.2% vs.9.9%(5)16週目のSD-NRSスコアがベースラインから4点以上低下:51.9% vs.20.9%・主な有害事象(ネモリズマブ群で5%以上に発現)は、頭痛(ネモリズマブ群6.6%、プラセボ群4.4%)、アトピー性皮膚炎(それぞれ5.5%、0%)であった。

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犬の老化パターンは体のサイズにより異なる

 加齢に伴い生じる犬の行動面や認知面の機能低下のパターンは、体のサイズにより異なるようだ。犬の行動に関わる機能が低下し始める年齢は、体重が30kg以上の大型犬では7〜8歳であるのに対し、より小型の犬では10〜11歳であるが、低下速度は後者の方が前者よりも速いことが、ハンガリーの研究で明らかにされた。エトヴェシュ・ロラーンド大学(ハンガリー)でシニア・ファミリードッグ・プロジェクトに関わっているBorbala Turcsan氏とEniko Kubinyi氏によるこの研究の詳細は、「GeroScience」に9月23日掲載された。 犬の平均寿命は、最も大型の犬での7歳程度から小型犬での14歳程度までと、犬種によって最大で2倍以上の開きがある。また一般に、純血種の犬の方が雑種犬よりも短命なことも知られている。しかし、平均寿命と、行動や認知に関わる機能の加齢による低下との関連について判明していることはほとんどない。 Turcsan氏らは、1万5,000匹以上の犬のデータを収集し、さまざまな行動上の特徴と認知機能障害の有病率が、時間の経過に伴いどのように変化するかの評価を行った。具体的には、行動や認知に関わる機能に変化が現れ始める年齢、それらの変化の進行速度、さらには犬の体のサイズ、頭部の形状、純血種/雑種などを調べ、これらの因子と加齢に伴う変化との関連について検討した。犬の体のサイズは、トイ< 6.5kg、ミニチュア6.5〜 9kg、中型犬(小)9〜<15kg、中型犬(大)15〜<30kg、大型犬30〜40kg、超大型犬>40kgの6群に分類した。 その結果、犬では10歳半頃から行動に関わるさまざまな機能が低下し始めるものの、低下が始まる年齢や低下速度は体のサイズにより異なることが明らかになった。例えば、体重が30kg以上の大型犬では、行動に関わる機能低下がより小型の犬よりも2〜3歳早く現れ始めるが、低下速度は小型の犬よりも緩徐であった。この点についてTurcsan氏は、「大型犬ではより小型の犬に比べ、比較的若い年齢で肉体的な衰えが現れ、健康問題が蓄積し、感覚機能も低下するため、認知機能に低下が見られるはるか前に、老犬らしい行動を見せるようになる」と説明する。 一方、体重が6.5kg未満の最も小型の犬(トイ)では、老齢期の認知機能障害の有病率が、体重が40kgを超える超大型犬の4倍以上高かった。研究グループは、「この結果は、大型犬の平均寿命は相対的に短いが、認知機能低下の程度も小さいとの説を裏付けるものだ」との見方を示している。さらに、グレイハウンドのような長頭種(鼻が長い)の犬は中頭種や短頭種の犬よりも、さらに純血種の犬は雑種犬よりも、老齢期に認知機能障害を発症するリスクが高いことも明らかになった。 このほか、興味深いことに、飼い主は犬の体のサイズや純血種/雑種に関係なく、6歳頃になると自分の犬が「歳を取った」と感じ始めることも示された。Turcsan氏は、「6歳という年齢は、行動に関わるデータから機能が低下し始めると考えられている年齢よりも4〜5歳も若い。これは、犬の毛が白くなったり、一般には気付きにくい変化を飼い主が捉えているせいかもしれない」と述べている。 Turcsan氏は、「小型犬を飼いたいが、シニア犬になったときに精神面に深刻な問題が生じるリスク、あるいは大型犬を飼いたいが7~8歳になったときに身体的健康に問題が生じるリスクを避けたい人は、10~30kgサイズの犬を飼うのが良いだろう。このサイズの犬は、これより小型や大型の犬に比べて、予想される寿命に対する健康寿命が長いことが、われわれの研究で示されている」とアドバイスしている。

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中等症~重症の乾癬、リサンキズマブの実臨床の有効性は?

 インターロイキン(IL)-23阻害薬リサンキズマブによる治療を受けた中等症~重症の乾癬患者は、治療開始1年後において、多くの患者が高い皮疹消失レベルを達成した。また、乾癬症状も改善し、労働生産性・活動障害も改善した。米国・イェール大学のBruce Strober氏らが、中等症~重症の乾癬に対するリサンキズマブの実臨床における治療効果の検討を目的として実施した、後ろ向き観察研究の結果を報告した。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2023年9月20日号掲載の報告。 研究グループは米国およびカナダの乾癬データベースCorEvitas Psoriasis Registryを用いて、中等症~重症の乾癬と診断され、リサンキズマブによる治療開始後12±3ヵ月時点でリサンキズマブを継続使用していた成人患者287例を対象とした後ろ向き観察研究を実施した。皮疹の重症度(Investigator Global Assessment[IGA]スコア、Psoriasis Area Severity Index[PASI]など)、患者報告アウトカム(Dermatology Life Quality Index[DLQI]スコアに基づくQOL、VASで評価した疲労・皮膚疼痛・そう痒、Work Productivity and Activity Impairment Questionnaire[WPAI]に基づく労働生産性・活動障害)を検討した。 主な結果は以下のとおり。・治療開始1年時点において、多くの患者が皮疹の消失を達成した(IGAスコア0:55.4%[158/285例]、PASI 100[ベースラインから100%改善]:55.8%[159/285例])。また、多くの患者が皮疹の消失/ほぼ消失を達成した(IGAスコア0/1:74.4%[212/285例]、PASI 90[ベースラインから90%改善]:65.6%[187/285例])。・生活への影響なし(DLQIスコア0/1)の割合は67.7%(174/257例)であった。・乾癬症状(疲労、皮膚疼痛、そう痒)が有意に改善し(いずれもp<0.001)、労働生産性・活動障害も有意に改善した(いずれもp<0.001)。 著者らは本研究の限界として、CorEvitas Psoriasis Registryが米国およびカナダの成人乾癬患者を必ずしも代表しているわけではないこと、患者のアドヒアランスを評価していないことを挙げている。

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マルウェア、ランサムウェアとは【サイバー攻撃の回避術】第5回

ランサムウェアを始めとするマルウェアは、サイバー攻撃の目立つ部分であるため、そこのみに注目が集まりやすいが、実際に攻撃を防ぐためには、アンチウイルスソフトなどの直接的なマルウェア対策のみでは不十分であり、地道ではあるが脆弱性対策を優先すべきことを再確認されたい。はじめに医療機関に限らず、ランサムウェア1)などを用いたサイバー攻撃は後を絶たない。医療ISACの把握している範囲では、全世界で1日10件程度のランサムウェア被害が発生しており、日本でも2022年には過去最高の230件の被害が報告された2)。そもそもランサムウェアとは何か、また、ほかのさまざまなコンピュータウイルス3)などにはどのようなものがあり、どのような使い方をされており、われわれは何を知ってどのように対処すればよいか、といった点について、一般ユーザが最低限知っておくべき知識を概説する。マルウェア4)とはコンピュータやその利用者に被害をもたらすことを目的とした、悪意のあるソフトウェアをマルウェアと呼ぶ。もともとコンピュータウイルスやワーム5)などと呼ばれていたが、悪意のあるソフトウェアを総称する用語としてマルウェアが一般的になっているので、本稿では以降、悪意があるプログラムの総称として「マルウェア」を用いる。マルウェアの代表的なものとしては、以下のようなものが挙げられる。プログラムやファイルの一部を書き換えて自己複製するコンピュータウイルス独立したプログラムとして実行され、ネットワークなどを介してほかのコンピュータに拡散するワーム攻撃者の命令に従ってDDoS攻撃6)や迷惑メールの送信などを行うボット暗号化などによってファイルを利用不能な状態にして、元に戻すことと引き換えに金銭を要求するランサムウェアさらに、自己増殖能力はなく、深く潜伏して一定の条件下にて活性化する、トロイの木馬7)などもマルウェアの一種である。マルウェアは攻撃者が用いるツールの一つであり、マルウェア感染のみで身代金要求などの重大なサイバー被害を生じることは通常ない。それはハッカーらの攻撃手法の段階を示すサイバーキルチェーン8)を見ればよくわかる。攻撃者は攻撃候補を探すために、インターネット上に公開されているサーバやGlobal IP9)などのうち、脆弱性が存在するものを探索する。攻撃候補を決定したら、その脆弱性を利用してシステム内に侵入し、外部の攻撃用のサーバ(Command&Control Server:C2 Server)10)から、手動で内部探索を行う。その際に管理者の権限(ID/PW)を奪取する水平移動という行動をとり、攻撃を防御するような仕組みを次々と無効化していく。たとえば、アンチウイルスソフトの無効化などは常套手段である。その上で、システム内およびネットワークで接続された機器などの中から攻撃対象となり得るファイルサーバなどを定め、データを窃取した上で、ランサムウェアに感染させ、時限的に発動するように設定する。その猶予時間内に攻撃者は自分の侵入した痕跡を消し去った上で撤収するのである。マルウェア感染の防止方法とその意義サイバー攻撃においてマルウェアは重要なツールの一つだが、マルウェア感染を防げばすべての被害を防げるわけではない。まずは侵入を防ぐこと、次にマルウェア感染しないように脆弱性対策をいち早く行うことが重要である。従ってアンチウイルスソフトの意義は限定的となる。さらにアンチウイルスソフトの限界として1.一般に知られていない脆弱性を利用した攻撃(ゼロデイ攻撃)11)に用いられるマルウェアについては無効2.最近のトレンドとして、マルウェアの亜種や新種が一日に数十万~数百万件発生している12)ため、定義ファイルとのパターンマッチングでマルウェアを同定するアンチウイルスソフトが無効なケースが増えていること3.さらに最近流行しているファイルレスマルウェア13)は、直接メモリ上に展開して感染するため、最小するマルウェアのプログラムファイル自体が存在しないため、アンチウイルスソフトは無効であることなどが指摘できる。このような状況を考えれば基本的なスタンスとして、アンチウイルスソフトに一定の効果は期待できるものの過信は禁物であり、やはり根本的な対策として脆弱性対策に力を入れるべきことがわかる。市販されている各種アンチウイルスソフトについては機能的に大差なく14)、適用可能であればWindows標準のWindows Defenderでも問題はない。脆弱性対策については、OS、ブラウザ、Adobeなどのアプリケーション、VPN装置をはじめとするファームウェア15)を中心に考える必要がある。WindowsについてはMicrosoft社が月に一回、定期的な更新プログラムを公開しており、可能であれば自動的に更新する設定が好ましい。しかしながら、医療機関の業務系システムはインターネットには直接接続していないことも多く、その場合にどのように更新プログラムを適用するかは、事業者側とよく協議して確実に実行できる体制を構築する必要がある。2023年5月に改正された厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」16)でも、脆弱性対策について、ベンダー側と協議して責任分界点を明確にした上で確実に実行するように求めている。ほかのアプリケーションや、VPN装置などの脆弱性対策についても同様であるが、とくに後者については、実際の侵入経路となった被害実績があるため、重要性は高い。ランサムウェアの最新状況ランサムウェアはマルウェアの一種であるが、ランサムウェアを用いた身代金窃取を目的とした行動は、犯罪エコシステムを形成している17)。すなわち、ランサムウェアを開発し利用料を取って販売するグループ、実際に攻撃を行うグループ(アフィリエイト)18)、脆弱性などが存在する攻撃対象候補のリスト(Initial Access List)19)を販売するグループ、さまざまな攻撃用のツールを販売するグループ、身代金受け取りのため仮想通貨口座を貸し出すグループなど、さまざまな役割のグループが暗躍しているのが実態である。いわゆるRaaS(Ransomware as a Service)である(図1)。(図1)Ransomware as a Service:(RaaS)画像を拡大する以下に、最近活発に活動しているランサムウェアの代表的なグループとその特徴を列挙する。1)LockBit 3.020)ロシアの代表的なランサムウェアグループの一つ。楕円関数暗号を用いた高度の暗号化を図る。2021年の半田病院の事例を含め、日本にも被害事例は多い。二重脅迫を行うことも有名で、独自のLeak siteで被害者名と公表までのカウントダウンを行う。一部情報では幹部が「医療機関は狙わない、万が一、被害に遭った場合は無料で復号化キーを提供する」と発言しているようだが21)、実際にはアフィリエイトが独自にターゲットを選定するため、医療機関の被害も後を絶たないのが現実である。2)ALPHV(別名:BlackCat)22)2021年より活動を続けるロシアのランサムウェアグループの一つ。多数のアフィリエイトを用いた一大グループを形成している。上述の暗号化の復元、窃取データの公開に加え、DDos攻撃を行うとして脅迫する三重脅迫の手口でも知られる。2022年に日本の玩具メーカーのバンダイナムコが、2023年にはファイル転送・無害化サービスなどを行うクラウド事業者であるPlottが被害に遭っている。3)Conti23)2020年より活動を続けるロシアのランサムウェアグループ。多数の医療機関を問答無用で標的にするなどその凶悪さが注目を集めている。アメリカのセキュリティ企業Palo Alto Networks24)は「私たちが追跡している数十のランサムウェアギャングの中でも際立って冷酷なランサムウェアの一つ」と表現している。 FBIが発表したフラッシュアラートによると、医療機関や救急医療機関のネットワークシステムを標的にした攻撃が1年間に少なくとも16件確認されている。4)Stormous25)ロシアのランサムウェアグループの一つ。2022年のロシアによるウクライナ侵攻に前後して活動を活発化し、Contiランサムウェアにならい、ロシアへの支持を表明するとともに、ウクライナおよび西側諸国をターゲットに活動することを宣言した。これまでにウクライナ外務省やゲーム会社大手Epic Games、コカ・コーラ、ベトナム企業などを攻撃し、データを盗んだと主張しているが、一部の専門家は、Stormousが実際に攻撃したわけではなく、ダークウェブに以前から出回っていた流出データを再利用しただけの詐欺ではないかと疑っている。DDos(Distributed Denial of Service)DDos攻撃とは、攻撃対象となるWebサーバなどに対し、複数のコンピュータから大量のパケットを送りつけることで、正常なサービス提供を妨げる行為を指す。サイバーキルチェーンロッキード・マーティン社が確立したサイバーセキュリティーフレームワークのこと。 攻撃者が攻撃を達成するまでの活動を7ステップにわけることで、敵の戦術・技術・手順を分析し、攻撃を可視化することを可能にする。ファームウェア家電製品や、パソコン、周辺機器、携帯電話などのように、コンピュータシステムを組み込んだ電子機器本体(組み込みシステム)に所望の動作をさせるためのソフトウェアであり、ハードウェアに密接に結び付いていて、むやみに書き換えることのない媒体に書き込まれた物を指す。ほかのソフトウェアと同じく脆弱性が発見されることがあり、その対策を怠ると不正アクセスやマルウェア感染を惹起する可能性があり、セキュリティ対策の対象として重要である。参考1)NTTコミュニケーションズ:ICT Business Online. ランサムウェアとは2)警察庁:令和4年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について(令和5年3月16日)3)kikakurui.com:コンピュータウイルス. JIS X0008「情報処理用語-セキュリティ」4)NTTコミュニケーションズ:マルウェアとは?ウイルスとの違いは?5)Cyber Security.com:ワームとは?その種類・感染原因・対策・駆除・削除方法について徹底解説6)Cyber Security.com:DDoS攻撃とは?読み方や意味・最新事例と対策方法7)norton:トロイの木馬とは?ウイルスとの違いや感染被害例について8)AMIYA:サイバーキルチェーンとは9)NTTコミュニケーションズ:グローバルIPアドレスとは? プライベートIPとの違いや確認方法10)e-Words:C&Cサーバ11)NTT東日本:ゼロデイ攻撃についてわかりやすく解説_手口から被害事例・対策まで12)FORTINET:フォーティネットグローバル脅威レポート13)cyberreason:ファイルレスマルウェアとは?〜ファイルレス攻撃(非マルウェア型攻撃)を理解する~14)the比較:セキュリティソフトの比較202315)e-Words:ファームウェア16)厚生労働省:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版(令和5年5月)17)Canon:キャノンサイバーセキュリティ情報局. RaaS(Ransomware as a Service)18)FORTINET:アフィリエイト向けマニュアル:Contiが直接教えるその攻撃の手法19)MOTEX:NO MORE情報漏えい. 漏えいした個人情報が取引されるブラックマーケットとは?20)NHK:サイカルJournal. LockBit3.0とは何者か?21)TechTarget Japan:コロナ禍で「医療機関は狙わない」と宣言した攻撃者の新たな標的とは?22)Paloalto:脅威の評価:BlackCatランサムウェア23)MBSD:Contiランサムウェアの内部構造を紐解く24)Palpalto:Palo Alto Networks25)SOMPO CYBER SECURITY:サイバーセキュリティお役立ち情報

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仕事のストレスは男性の心疾患リスクを高める

 過酷なのにやりがいの感じられない仕事は、男性の心臓の健康に大きな打撃を与える可能性のあることが、6,400人以上を対象にした大規模研究で示唆された。仕事にストレスを感じている男性の心疾患発症リスクは、仕事への満足度がより高い同世代の男性の最大で2倍に達することが明らかになったという。CHU de Quebec-Universite Laval Research Center(カナダ)のMathilde Lavigne-Robichaud氏らによるこの研究の詳細は、「Circulation: Cardiovascular Quality and Outcomes」に9月19日掲載された。 この研究は、心疾患のない6,465人(男性3,118人、女性3,347人)のホワイトカラー(平均年齢45.3±6.7歳)を2000年から2018年まで追跡して、職場ストレイン(仕事の要求度は高いが裁量権や支援が不足している状態)や、努力報酬不均衡(effort-reward imbalance;ERI、努力が適切な報酬や昇進に結び付いていないと感じている状態)と心疾患発症との関連を検討したもの。職場ストレインとERIはそれぞれ信頼性と妥当性が示されている質問票により評価された。 中央値18.7年の追跡期間中に男性571人と女性265人に冠動脈疾患(CHD)が生じた。解析の結果、職場ストレインまたはERIのいずれかを感じている男性では、仕事のストレスに曝露していない(軽度の職場ストレインはあるが報酬は低くない)男性に比べて、CHDの発症リスクが49%(ハザード比1.49、95%信頼区間1.07〜2.09)、職場ストレインとERIの両方を感じている男性では103%(同2.03、1.38〜2.97)、有意に高かった。これらの結果は、教育レベルや婚姻状態、喫煙や飲酒の習慣、糖尿病や高血圧などの健康状態を考慮しても変わらなかった。これに対して、女性では、職場ストレインやERIとCHD発症との間に有意な関連は認められなかった。 研究グループは、これらの結果は、仕事のストレスが男性の心臓には打撃を与えるが、女性の心臓には影響を及ぼさないことを証明するものではないと話す。それでも、成人が1日の大半の時間を費やす職場でのストレスが心疾患の原因になり得る理由はあるという。その一つとしてLavigne-Robichaud氏は、慢性的なストレスが心血管系に直接的に影響を及ぼし得ることを指摘する。「職場ストレインとERIは、心拍数の増加、血圧の上昇、心血管の狭窄を含む身体的反応を引き起こす。これらが直接的に心臓に負荷をかけ、血流や心拍リズムに問題が生じ、最終的に心疾患の発症リスクが高まる」と説明する。 仕事のストレスが、それほど直接的でない方法で心臓に害を与えることもあるという。Lavigne-Robichaud氏は、「仕事でストレスを抱えていると、健全な食生活を送り、定期的に運動を行い、リラックスする時間を見つける能力が妨げられる可能性がある」と指摘し、「健康的なライフスタイルを送ることが困難な状況下では、ストレスが心血管系に及ぼす直接的な影響がいっそう顕著になる可能性がある」と付け加えている。同氏は、この研究結果は、職場は従業員の心臓の健康を促進することができ、また促進すべきであるとする、すでに山と積み上げられたエビデンスに加わるものだと述べている。 なお、本研究で、女性では仕事のストレスとCHDとの間に関連が認められなかった点についてLavigne-Robichaud氏は、「この研究での女性のCHD症例が男性の半分程度だったように、女性は、人生の後半に心疾患を発症する人が男性よりも多い。そのため、仕事のストレスと心疾患との間に明確な関連性を見出しにくくなっている可能性がある」と説明している。 Lavigne-Robichaud氏によると、米国心臓協会(AHA)などの団体は、すでに雇用主に対して、健康診断の実施や栄養価の高い食事選択肢の提供などを含む「包括的なウェルネスプログラム」を推奨しているとのことだ。「われわれの研究は、これらのプログラムに仕事のストレス軽減を目的とした介入を取り入れることが、心疾患の予防に役立つ可能性を示唆するものだ」と述べている。

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ボールペンで輪状甲状靭帯切開は可能か?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第242回

【第242回】ボールペンで輪状甲状靭帯切開は可能か? Unsplashより使用どの医療系マンガか忘れましたが、ボールペンを使って胸腔ドレナージや輪状甲状靭帯切開を行うというのは、なかなかドラマティックなものです。日本酒を口に含んでブーっと消毒するシーンもカッコよく見えてきますが、あれはさすがに汚いかもしれません。既存の消毒剤と「日本酒ブー」のランダム化比較試験を誰かやっていただきたいところです。さて、ボールペンが緊急輪状甲状靭帯切開に使えるシロモノかどうかを検討した珍しい研究があります。Kisser U, et al.Bystander cricothyrotomy with ballpoint pen: a fresh cadaveric feasibility study.Emerg Med J. 2016 Aug;33(8):553-556.この研究は、3種類のボールペンが緊急輪状甲状靭帯切開に有用かどうか調べたものです。マネキンではなく、新鮮な死体を用いておこなわれた実臨床的なものとなっています。まずボールペンの特性です。内径が狭すぎると、そもそも切開しても呼吸ができないというジレンマに陥ります。3本のうち2本の内径が3mm以上ということで、気管切開のカニューレとしては妥当な水準だったようです。私たちが行っているようなセルジンガー法のキットは、輪状甲状靭帯切開の内径がだいたい4mmなので、2mmになってくると、さすがに呼吸がちょっとしんどいですね。さて、問題は皮膚から気管まで到達できるかどうかです。ボールペンは、先がメスになっているわけではないので、気管を貫通できたのは10例中1例という、残念な結果でした。この1例も、5分以上かけて3回気管切開を試みていますので、簡単にブスっというわけではなさそうです。そのため、ボールペンがあっても、緊急輪状甲状靭帯切開を行うことは事実上不可能であると思っておいたほうがよいです。ちなみに、「ナイフを併用してもよい」という条件であれば、10例中8例という成功率だったと報告されています1)。ただし、メスを持ち歩くと逮捕されそうなので、街中でドラマティックに緊急輪状甲状靭帯切開を行うのは難しいかもしれません。1)Braun C, et al. Bystander cricothyroidotomy with household devices - A fresh cadaveric feasibility study. Resuscitation. 2017 Jan;110:37-41.

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過去30年で50歳未満のがん患者が大幅に増加

 50歳未満のがん患者が世界的に急増しているとの研究結果が報告された。過去30年間で、この年齢層の新規がん患者が世界で79%増加しており、また、若年発症のがんによる死亡者数も28.5%増加したことが明らかになったという。英エディンバラ大学のXue Li氏らによるこの研究の詳細は、「BMJ Oncology」に9月5日掲載された。 研究グループによると、がんは高齢者に多い疾患であるが、1990年代以降、世界の多くの地域で50歳未満のがん患者の数が増加していることが複数の研究で報告されているという。Li氏らは、2019年の世界の疾病負担(Global Burden of Disease;GBD)研究のデータを用いて、若年発症のがんの世界的な疾病負担について検討した。GBD 2019から、204の国と地域における14〜49歳の人での29種類のがんの罹患率や死亡率、障害調整生存年(DALY)、リスク因子に関するデータを抽出し、1990年から2019年の間にこれらがどのように変化したかを推定した。 その結果、2019年に50歳未満でがんの診断を受けた患者は326万人に上り、1990年と比べると79.1%も増加していたことが明らかになった。29種類のがんの中で、乳がんは発症率と死亡率ともに最も高かった(発症率:13.7/10万人、死亡率:3.5/10万人)。1990年から2019年の間に発症率の伸びが最も大きかったのは上咽頭がんと前立腺がんであり、それぞれ年平均2.28%と2.23%ずつ増加したと推定された。 2019年の50歳未満でのがんによる死亡者数は106万人以上に上り、1990年から27.7%増加していた。10万人当たりの死亡率とDALYが高かった上位4種のがんは、乳がん、気管・気管支・肺のがん、胃がん、大腸がんであり、また、腎臓がんと卵巣がんは死亡率が急上昇していた。 2019年に若年発症のがん症例が最も多く認められたのは、北米(273.2/10万人)、オーストラリア(157.7/10万人)、西ヨーロッパ(125.6/10万人)であった。一方、年齢調整死亡率(ASDR)が最も高かったのは、オセアニア(39.1/10万人)、東欧(33.7/10万人)、中央アジア(31.8/10万人)であり、若年発症のがんが低・中所得国にも大きな影響を及ぼしていることがうかがわれた。 このような世界的な傾向を考慮に入れた上で研究グループは、2030年までに若年発症のがんの新規患者数は31%、それによる死亡者数は21%増加し、特に40代でのリスクが高まると予測している。 なぜ若年発症のがんが急増しているのだろうか。研究グループは、遺伝的要因はもちろんのこと、それ以外にも、赤肉と塩分の摂取が多く果物や牛乳の摂取が不足した食生活、飲酒、喫煙、運動不足、肥満、高血糖も、がん患者の増加に影響している可能性があるとの見方を示している。 この論文の論説を執筆した英クイーンズ大学ベルファストのAshleigh Hamilton氏らは、「予防と早期発見のための対策を講じることが、若年発症のがんに対する最適な治療戦略の特定とともに喫緊に必要とされている」と述べている。同氏らは、「どのような治療法であれ、若年発症のがん患者に対する治療では、患者の特定のニーズに合わせた総合的なアプローチを取るべきだ」と強調している。

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食事の質は片頭痛にも影響

 イラン・Isfahan University of Medical SciencesのArghavan Balali氏らは、食事の質と片頭痛との関連性について、評価を行った。その結果、食事の質の改善は、片頭痛の頻度、重症度、関連する問題などの片頭痛アウトカムの改善と関連している可能性が示唆された。Nutritional Neuroscience誌オンライン版2023年8月5日号の報告。 20~50歳の片頭痛患者262例を対象に、横断的研究を実施した。食事の質の評価には、Healthy Eating Index 2015(HEI-2015)およびAlternative Healthy Eating Index 2010(AHEI-2010)を用いた。食事の摂取量の評価には、168項目の食事摂取頻度調査票(FFQ)を用いた。片頭痛のアウトカムには、臨床因子(重症度、期間、頻度、片頭痛に関連する問題)および血中一酸化窒素(NO)を含めた。食事の質と片頭痛アウトカムとの関連性は、線形回帰を用いて評価し、βおよび95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・HEI-2015では、関連する交絡因子で調整した後、HEIスコアが最も高い群(第3三分位)と最も低い群(第1三分位)との間において、片頭痛頻度の逆相関が認められた(β:-4.75、95%CI:-6.73~-2.76)。・AHEI-2010では、調整済みモデルにおいて、片頭痛頻度(β:-3.67、95%CI:-5.65~-1.69)および片頭痛に関連する問題(β:-2.74、95%CI:-4.79~-0.68)と逆相関が認められた。・AHEI-2010では、第2三分位と第1三分位との間において、片頭痛重症度の逆相関が認められた(β:-0.56、95%CI:-1.08~-0.05)。・食事の質とNOレベルとの関連は認められなかった(p>0.14)。・本メカニズムの解明には、今後の研究が求められる。

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既治療のHR+/HER2-転移乳がんへのSG、OSを改善(TROPiCS-02)/Lancet

 sacituzumab govitecan(SG)は、ヒト化抗Trop-2モノクローナル抗体と、トポイソメラーゼ阻害薬イリノテカンの活性代謝産物SN-38を結合した抗体薬物複合体。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のHope S. Rugo氏らは、「TROPiCS-02試験」において、既治療のホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)の切除不能な局所再発または転移のある乳がんの治療では、本薬は標準的な化学療法と比較して、全生存期間(OS)を有意に延長し、管理可能な安全性プロファイルを有することを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年8月23日号で報告された。9ヵ国の非盲検無作為化第III相試験 TROPiCS-02試験は、北米と欧州の9ヵ国91施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2019年5月~2021年4月に患者を登録した(Gilead Sciencesの助成を受けた)。 対象は、HR+/HER2-の切除不能な局所再発または転移のある乳がんで、内分泌療法、タキサン系薬剤、CDK4/6阻害薬による治療を1つ以上受け、転移病変に対し2~4レジメンの化学療法を受けており、年齢18歳以上で全身状態が良好な(ECOG PS 0/1)患者であった。 被験者を、sacituzumab govitecan(10mg/kg、21日ごとに1日目と8日目)または化学療法の静脈内投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。化学療法群は、担当医の選択でエリブリン、ビノレルビン、カペシタビン、ゲムシタビンのいずれかの単剤投与を受けた。 主要評価項目は、無増悪生存期間(PFS、すでに発表済みで、本論では報告がない)で、主な副次評価項目はOS、客観的奏効率(ORR)、患者報告アウトカムであった。 543例を登録し、sacituzumab govitecan群に272例(年齢中央値57歳[四分位範囲[IQR]:49~65]、男性2例)、化学療法群に271例(55歳[48~63]、3例)を割り付けた。全体の進行病変に対する化学療法のレジメン数中央値は3(IQR:2~3)で、86%が6ヵ月以上にわたり転移病変に対する内分泌療法を受けていた。ORR、全般的健康感/QOLも良好 追跡期間中央値12.5ヵ月(IQR:6.4~18.8)の時点で390例が死亡した。OS中央値は、化学療法群が11.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:10.1~12.7)であったのに対し、sacituzumab govitecan群は14.4ヵ月(13.0~15.7)と有意に改善した(ハザード比[HR]:0.79、95%CI:0.65~0.96、p=0.020)。生存に関するsacituzumab govitecan群の有益性は、Trop-2の発現レベルに基づくサブグループのすべてで認められた。 また、ORRは、化学療法群の14%(部分奏効38例)と比較して、sacituzumab govitecan群は21%(完全奏効2例、部分奏効55例)と有意に優れた(オッズ比[OR]:1.63、95%CI:1.03~2.56、p=0.035)。奏効期間中央値は、sacituzumab govitecan群が8.1ヵ月、化学療法群は5.6ヵ月だった。 全般的健康感(global health status)/QOLが悪化するまでの期間は、化学療法群が3.0ヵ月であったのに対し、sacituzumab govitecan群は4.3ヵ月であり、有意に良好であった(HR:0.75、95%CI:0.61~0.92、p=0.0059)。また、倦怠感が悪化するまでの期間も、sacituzumab govitecan群で有意に長かった(2.2ヵ月 vs.1.4ヵ月、HR:0.73、95%CI:0.60~0.89、p=0.0021)。 sacituzumab govitecanの安全性プロファイルは、先行研究との一貫性が認められた。sacituzumab govitecan群の1例で、治療関連の致死的有害事象(好中球減少性大腸炎に起因する敗血症性ショック)が発現した。 著者は、「これらのデータは、前治療歴を有する内分泌療法抵抗性のHR+/HER2-の転移乳がんの新たな治療選択肢としてのsacituzumab govitecanを支持するものである」としている。なお、sacituzumab govitecanは、米国では2023年2月、EUでは2023年7月に、内分泌療法ベースの治療と転移病変に対する2つ以上の全身療法を受けたHR+/HER2-の切除不能な局所再発または転移のある乳がんの治療法として承認されている。

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にきびに対して最も効果的な治療法とは?

 生活の質(QOL)に大きな影響を与えかねないにきび(ざ瘡)に対する最も効果的な治療法は何なのだろうか。台大病院(台湾)のChung-Yen Huang氏らによる200件以上の研究を対象にしたレビューから、その答えは、経口イソトレチノイン(商品名アキュテイン)であることが明らかになった。この研究結果は、「Annals of Family Medicine」7/8月号に掲載された。 Huang氏らは、にきびに対する薬物療法に関する包括的な比較を行うために、論文データベースを用いて2022年2月までに発表された関連論文を検索し、221件の臨床試験を含む210件の研究論文(対象者の総計6万5,601人、平均年齢20.4歳)をレビュー対象として抽出。これらの研究で検討されていた37種類のにきび治療法を、総皮疹数、炎症性皮疹数、非炎症性皮疹数の減少率に基づき比較した。対象とした37種類のにきび治療法には、外用と経口の抗菌薬、外用レチノイド、経口イソトレチノイン、過酸化ベンゾイル(BPO)、アゼライン酸、ホルモン治療薬の単剤療法と併用療法が含まれていた。治療期間中央値は12週間だった。 解析の結果、総皮疹数、炎症性皮疹数、非炎症性皮疹数のいずれについても、最も効果的な治療法は経口イソトレチノインであることが示された。イソトレチノインは、皮脂腺を縮小して皮脂分泌を抑制するとともに抗炎症作用も持つ。 経口イソトレチノインに次いで効果的な治療法は、総皮疹数と非炎症性皮疹数に対してはいずれも、外用の抗菌薬・BPO・レチノイドの3剤併用療法、経口抗菌薬・外用BPO・外用レチノイドの3剤併用療法の順であった。炎症性皮疹数に対しては、2番目に効果的な治療法が外用抗菌薬と外用アゼライン酸の2剤併用療法、3番目が経口抗菌薬・外用BPO・外用レチノイドの3剤併用療法であった。また、単剤療法に関しては、経口または外用抗菌薬と外用レチノイドは炎症性皮疹数に対して同等の効果があるが、抗菌薬は非炎症性皮疹数に対してあまり効果のないことが示された。 今回の研究には関与していない、米アラバマ州バーミンガムを拠点とする皮膚科医であるJulie Harper氏は、「経口イソトレチノインは、にきびの治療薬として最も効果が期待できる薬だ。イソトレチノインを服用した多くの人で、にきびが消えるだけでなく、その状態を長期にわたり維持できる」と言う。ただし、副作用として肝障害や抑うつ症状などが生じたり、妊娠中の女性では胎児に重篤な先天異常をもたらす可能性もあるため、誰もが服用できる薬剤ではないことも同氏は指摘している。 また、米ボストンの皮膚科医であるEmmy Graber氏は、「臨床試験参加者は、外用の抗菌薬・BPO・レチノイドによる3剤併用療法を処方されても遵守する可能性が高いが、実臨床で患者に複数の外用薬を1日に何度も使わせるのは困難だ」と指摘する。そして、「外用薬でも優れた効果を得ることはできるが、そのために重要になるのがコンプライアンスと併用だ」と述べ、「3剤併用療法では、内服薬を含める方が外用薬だけを3種類用いるよりも効果的だろう」との見方を示している。 一方、米Acne Treatment & Research Center(にきび治療研究センター)のメディカルディレクターを務めるHilary Baldwin氏は、「全ての外用レチノイドが同じように作られているわけではないのに、この研究では、外用レチノイドとしてまとめられている。外用レチノイドの強さを一括りにして評価することは不可能だ」と研究の限界点に言及する。同氏はさらに、「にきびは、その数だけでなく、病変の大きさ(赤み)も評価して、重症度を判断するべきだ」と主張する。さらに、「患者ごとにパラメーターは大きく異なっており、にきびの治療成績は、治療の遵守、皮膚の敏感さ、ライフスタイルの特徴など多くの要因に左右されるものだ」と説明している。

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中等症~重症の尋常性乾癬へのリサンキズマブ、5年追跡結果

 中等症~重症の尋常性乾癬患者に対するリサンキズマブ治療の長期安全性と有効性が報告された。最長5年の継続投与の忍容性は良好であり、持続的かつ高い有効性が示された。ベルギー・Alliance Clinical Research and Probity Medical ResearchのKim A. Papp氏らが、進行中の第III相非盲検延長試験「LIMMitless試験」の中間解析の結果をJournal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2023年8月6日号で報告した。乾癬は慢性の炎症性皮膚疾患で、長期にわたる治療が必要になることが多い。リサンキズマブはヒト化抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体製剤で、IL-23のp19サブユニットに結合し、IL-23の作用を中和することで乾癬による皮膚症状や関節炎などを改善する。 LIMMitless試験は、中等症~重症の尋常性乾癬患者を対象に、リサンキズマブ150mg(12週ごとに皮下注射)の長期安全性と有効性を評価する国際共同単群評価試験。日本を含む17の国と地域で、先行する複数の第II/III相試験のいずれかを完了した患者が登録された。今回の中間解析では、304週間にわたる安全性(治療中に発生した有害事象[TEAE])を評価した。有効性は、256週間にわたって評価した。Psoriasis Area and Severity Index(PASI)スコアが90%以上または100%減少(PASI 90/100)、static Physician's Global Assessment(sPGA)スコアで皮膚病変が消失/ほぼ消失(sPGA 0/1)、およびDermatology Life Quality Index(DLQI)で生活への影響なし(DLQI 0/1)を達成した患者の割合を評価した。 主な結果は以下のとおり。・先行研究でリサンキズマブ群に無作為化された897例のうち、データカットオフ時点で治療を継続していたのは706例であった。・TEAE、投与中止に至ったTEAE、とくに注目すべきTEAEの発現率は、いずれも低率であった。・256週時点において、PASI 90、PASI 100達成患者の割合は、それぞれ85.1%、52.3%であり、sPGA 0/1達成患者の割合は85.8%、DLQI 0/1達成患者の割合は76.4%であった。

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若者のうつ病・不安症、未治療での1年後の回復率~メタ解析

 抑うつ症状や不安症状を有する若者に対し、特別なメンタルヘルス介入を行わなかった場合の1年後の回復率は、どの程度か。英国・ロンドン大学クイーンメアリー校のAnna Roach氏らは、システマティックレビューおよびメタ解析を実施し、これを明らかにしようと試みた。その結果、不安や抑うつ症状を有する若者の約54%は、特別なメンタルヘルス介入を行わなくても回復することが示唆された。BMJ Open誌2023年7月21日号の報告。 1980年~2022年8月に公表された論文をMEDLINE、Embase、PsycINFO、Web of Science、Global Healthよりシステマティックに検索した。特別な介入を行わなかった10~24歳の若者を対象に、ベースラインおよびフォローアップ1年後の抑うつ症状および不安症状を評価した査読済みの英語論文を対象とした。3人のレビュアーにより関連データを抽出した。メタ解析を実施し、1年後の回復率を算出した。エビデンスの質は、Newcastle-Ottawa Scaleを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニングされた参考論文1万7,250件のうち5件(1,011例)をメタ解析に含めた。・1年間の回復率は、47~64%の範囲であった。・メタ解析では、全体をプールした若者の回復率は0.54(0.45~0.63)であった。・今後の研究において、回復の予測因子や回復に寄与するリソース、活動を調査する必要がある。

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双極性障害に対する薬物療法のパターン~メタ解析

 米国・メイヨークリニックのBalwinder Singh氏らは、双極性障害の治療実態を明らかにするため、Global Bipolar Cohortの共同ネットワークを活用して、北米、欧州、オーストラリアの双極性障害患者を対象とした複数のコホート研究における薬物療法のパターンを調査した。その結果、双極性障害患者に対しては、気分安定薬である抗けいれん薬、第2世代抗精神病薬、抗うつ薬の使用頻度が高く、必ずしもガイドラインと一致する治療パターンではなかった。また、地域ごとに治療パターンの大きな違いがあり、北米ではリチウムの使用頻度が低く、欧州では第1世代抗精神病薬の使用頻度が高かった。著者らは、これらの違いと治療アウトカムとの関係を調査し、双極性障害治療の改善に役立つエビデンスベースのガイドラインを提供し実践するには、今後、縦断的研究を実施する必要があるとしている。Bipolar Disorders誌オンライン版2023年7月18日号の報告。 薬物療法、人口統計、診断サブタイプ、併存疾患に関するデータを、各コホート研究より収集した。治療パターンを特定するため、一般化線形混合法を用いた個別および地域ごとにプールされた比例メタ分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象は、北米3,985例、欧州3,822例、オーストラリア2,544例を含む双極性障害患者1万351例(女性の割合:60%、双極I型障害:60%、双極II型障害:33%)。・気分安定薬としての抗けいれん薬(44%)、第2世代抗精神病薬(42%)、抗うつ薬(38%)の使用頻度が高かった。・リチウムは29%に使用されており、主にオーストラリア(31%)、欧州(36%)で使用頻度が高かった。・第1世代抗精神病薬は、欧州では24%で使用されていたが、北米では1%のみであった。・抗うつ薬の使用頻度は、双極I型障害(35%)よりも双極II型障害(47%)で高かった。・包含/除外基準、データソース、コホート研究への登録時期については、研究間で有意な違いが認められた。

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ボードゲームは小児の数学的スキルを高める

 夜に家族でボードゲームをして過ごす時間は、単に楽しいだけではないようだ。モノポリーやオセロなどのボードゲームは、幼児期の数学的スキルの育成にも役立つ可能性が、新たな研究で示された。チリ・カトリック大学のJaime Balladares氏らによる研究で、詳細は「Early Years」に7月6日掲載された。 ボードゲームの特徴は、コマの数や位置、動かし方などに関してルールが決められており、その動きや位置の変化がゲームの進行や結果に影響を与えることだ。そのため、小児期から成人期まで、目的と年齢層に応じてレベルを調整して、いくつかのプレイパターンを作ることも可能だ。過去の研究では、ボードゲームが小児の読み書きや読解力を向上させる可能性が報告されるなど、教育面で有効なことが示唆されている。しかし、特に、プリスクール(幼稚園前)や保育園・幼稚園でのボードゲームの使用が小児にもたらす効果について定量的に分析した研究結果は報告されていない。 Balladares氏らは論文データベースから、2000年以降に発表された、3〜9歳を対象にボードゲームが認知機能に及ぼす効果を検討した研究を19本抽出し、メタアナリシスを実施した。いずれの研究もボードゲームを介入手段としており、一つの研究を除き全ての研究がボードゲームと数学的スキルとの関係を探ることに焦点を当てていた。介入は、教師やセラピスト、訓練を受けた親の指導の下で、平均して1回当たり20分を週に2回、1カ月半にわたって実施されていた。一部の研究では、介入に使ったボードゲームが数学的スキルに焦点を当てたものであるかどうかで対象者を2群に分類していた。また、別の研究では、全ての対象者が数学的スキルに焦点を当てたボードゲームを行っていたものの、全員が同じ種類のゲームを割り当てられていたわけではなかった。対象者は、介入前と介入後に、数を数える能力や足し算・引き算の能力などの数学的スキルの評価を受けた。 その結果、介入後には介入前と比べて、分析した課題の52%以上で小児の数学的スキルが有意に向上していることが明らかになった。また、ボードゲームによる介入を受けた群と受けていない対照群とで数学的スキルを比較した研究結果の32%で、ボードゲームがスキル向上に有益であると示されていたことが判明した。 こうした結果を受けてBalladares氏は、「ボードゲームは幼児の数学的スキルを向上させる。ボードゲームをすることは、基礎的な数学的スキルとより高度な数学的スキルに潜在的な影響をもたらす方法と見なすことができる。ボードゲームは、数学的スキルや他の領域に関連した学習目標を含むように簡単にカスタマイズすることができる」と話す。 Balladares氏はさらに、「今後の研究では、このようなボードゲームが数学的スキル以外の認知能力や発達能力に及ぼす影響について調べる必要がある」と語る。また、「ゲームの複雑さや教育目的のためのより良質なゲームをこれまで以上に考えだす必要性に鑑みると、ボードゲームによる介入の開発と評価のための興味深い領域が、今後数年間で、拡大していくはずだ」と話している。(HealthDay News 2023年7月10日)

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