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ピオグリタゾンと膀胱がんの関連はいかに…(解説:吉岡 成人 氏)-589

BMJ誌に2つの相反する解析データが掲載 2016年3月末、英国のプライマリケアのデータベースを利用して、14万5,806例の新たに治療を開始した2型糖尿病患者を解析したデータにおいて、ピオグリタゾン投与群ではそれ以外の薬剤治療群と比較してハザード比で1.63(95%信頼区間:1.22~2.19)倍、膀胱がんの発症が多いことがBritish Medical Journal誌に報告された1)。ピオグリタゾンの使用期間が2年以上、累積使用量が2万8,000mgを超えるとリスクが高まるとされている。そして、5ヵ月後の同誌には、ピオグリタゾンと膀胱がんのリスクは関連がないという報告が掲載されている2)。欧州4ヵ国の37万人の解析 フィンランド、オランダ、スウェーデン、英国の欧州4ヵ国の医療データベースを用いた後ろ向きコホート研究で、ピオグリタゾンが投与された5万6,337例とピオグリタゾン以外の薬剤を投与された同一国の2型糖尿病患者31万7,109例を対象として、1対1(nearest match cohort)および1対10(multiple match cohort)でマッチングした2つのコホートを設定し、Cox比例ハザードモデルを用いて解析を行っている。 平均追跡期間2.9年において、ピオグリタゾン群では130例の膀胱がんが認められ、対照群では1対1コホートで153例、1対10コホートで970例であった。膀胱がん発症のリスクについて、ピオグリタゾンの対照群に対するハザード比は1対1コホートで0.99(95%信頼区間:0.75~1.30)、1対10コホートで1.00(95%信頼区間:0.83~1.21)であった。また、ピオグリタゾンの投与期間や累積使用量と膀胱がんのリスクは関連せず、1対1コホートでピオグリタゾンの使用期間が48ヵ月を超えている群の補正後ハザード比は0.86(95%信頼区間:0.44~1.66)、累積使用量が4万mgを超えている群では0.65(95%信頼区間:0.33~1.26)であったと報告されている。いくつもの報告があるが… ピオグリタゾンは承認前の動物実験において、雄ラットにおける膀胱腫瘍の増加が確認されており、米国の医療保険組織であるKNPC(Kaiser Permanente North California)の医療保険加入者データベースを用いた前向きの観察研究が2004年から行われ、2011年に公表された5年時の中間報告で、ピオグリタゾンを2年間以上使用した患者において膀胱がんのリスクが1.40倍(95%信頼区間:1.03~2.00)と有意に上昇することが報告された。さらに、フランスでの保険データベースによる糖尿病患者約150万例を対象とした後ろ向きコホート研究でも膀胱がんのリスクが1.22倍(95%信頼区間:1.05~1.43)であることが報告され、フランスとドイツではピオグリタゾンが販売停止となっている。 その後、欧州と北米の6つのコホート研究を対象に、100万例以上の糖尿病患者を対象として、割り付けバイアス(allocation bias)を最小化したモデルを用いた検討が2015年3月に報告され、年齢、糖尿病の罹患期間、喫煙、ピオグリタゾンの使用歴で調整した後の100日間の累積使用当たりの発症率比は、男性で1.01(95%信頼区間:0.97~1.06)、女性で1.04(95%信頼区間:0.97~1.11)であり、ピオグリタゾンと膀胱がんのリスクは関連が認められないと結論付けられた3)。 KNPCの10年時における最終解析でも、ピオグリタゾンは、膀胱がんのリスクの増加とは関連しない(調整後ハザード比1.06:95%信頼区間:0.89~1.26)と報告されている4)。薬の安全性が確立されるには… 日本においては、ピオグリタゾンは1999年9月に製造が承認され、同年の12月に発売された。心血管イベントの発生抑制、冠動脈疾患におけるインターベンション後の再狭窄抑制などに対する有効性が喧伝され、一時期、多くの患者に使用された。しかし、副作用としての膀胱がん発症リスク、骨折のリスクなどに対する懸念が広まり、DPP-4阻害薬の発売とあいまってその使用量は減少している。ピオグリタゾンと膀胱がんの関連が示唆されてから5年以上経ってもこの問題には決着がついていない。 優れた臨床研究には長い期間と研究に対する情熱、膨大な基金が必要になるが、薬剤の安全性を担保するのに20年という期間が十分ではないということを私たちに教えてくれるのが、ピオグリタゾンという薬剤である。

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糖尿病治療薬が心不全治療薬となりうるのか? 瓢箪から駒が出続けるのか?(解説:絹川 弘一郎 氏)-579

 チアゾリジン薬の衝撃は、FDAをしてその後の糖尿病治療薬すべての認可の際に、心血管イベントをエンドポイントとしたプラセボ対照臨床試験を義務付けた。このことにより、図らずも循環器内科医にとっては糖尿病薬に関する勉強をする機会となり、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬などの糖尿病薬と心血管イベントの関連について知識が増えてきた。 DPP-4阻害薬の1つサキサグリプチンは、SAVOR-TIMI 53試験で心不全の発症増加ありとされたものの、その後のEXAMINE試験とTECOS試験で、ほかのDPP-4阻害薬は心不全発症に差がなかったことで、SAVOR-TIMI 53試験の結果は偶然であったという結論になっているようである。一方で、インクレチン関連という意味で体内動態には共通項が多いGLP-1受容体作動薬リラグルチドは、LEADER試験において心血管イベントを有意に減らした。 最近、世を騒がせているEMPA-REG OUTCOME試験は、LEADER試験と同じような心血管疾患の背景を有する患者を対象としており、糖尿病薬が血糖降下作用以外で心血管イベントを抑制する可能性が示唆されてきている点で興味深いが、しかしながら、その機序はまったく明らかでなく、そもそもFDAの勧告に従って、非劣性ならよしとした試験であるから、瓢箪から駒といわれても仕方がない。ネガティブに出たSAVOR-TIMI 53試験を偶然であったというなら、ポジティブに出たこれらの結果もまた慎重に受け止める姿勢があってもよいと思われる。この点、ESCの心不全ガイドラインの2016年アップデートにおいて、エンパグリフロジンを心不全の予防という観点でクラスIIa、レベルBで推奨しているのは勇み足ではないか。 ところで、本題である。このFIGHT試験は、収縮不全(LVEF<40%)の症例の中で、とくに最近2週間以内に(ガイドライン遵守の薬物治療中にもかかわらず)再入院した症例またはフロセミドの用量が1日40mg以上という症例をピックアップして、比較的重症度の高い症例に対してリラグルチドの効果があるかどうかを検討したものである。試験デザインはプラセボ対照、無作為化二重盲検であり、エンドポイントは死亡や心不全入院までの時間と180日間のNT-proBNPレベルの時間平均の複合スコアである。全部で300例がエントリーされ、実薬群154例、プラセボ群146例でそれぞれITT解析された。 結論からいうと、統計学的にはイベント発症など両者に差はなかった。ただし、シスタチンCはリラグルチド群で増加しており、腎機能障害をもたらす可能性がある。また、有意ではないものの(p=0.05)、死亡や心不全再入院はむしろリラグルチド群で多い傾向にあり、カプランマイヤー曲線をみても、リラグルチドが死亡や心不全入院を増加させる傾向は(とくに糖尿病合併例で)明らかであり、患者数を増やして検討すれば有意に出てしまいそうである。先のLEADER試験やEMPA-REG OUTCOME試験は、心不全のある症例は10%程度しか含まれておらず、このFIGHT試験にエントリーされた重症な心不全とは背景が異なるものの、この試験結果によればリラグルチドは心不全増悪に傾いている感じである。 このように糖尿病薬と心血管イベントの関係は最近入り乱れてまったく混乱の極みにある。そもそも、メカニズムの理解が先行しないところで、効いた効かないということを統計的に解析するのみで解釈は後回しという体勢は、再考すべき時に来ているのではないか。

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血糖降下薬9種、心血管・全死因死亡リスクは同等/JAMA

 2型糖尿病治療薬の心血管死リスク、全死因死亡リスクについて、インスリンを含む血糖降下薬9つのクラス間による有意な差はないことが明らかにされた。また、ヘモグロビンA1c(HbA1c)値の低減効果については、単剤療法ではメトホルミンが他の薬剤と比べて、同等もしくは低下する効果があることが、またすべての薬剤がメトホルミンとの併用効果があることも示唆されたという。ニュージーランド・オタゴ大学のSuetonia C. Palmer氏らが、無作為化試験300件超のメタ解析の結果、明らかにした。JAMA誌2016年7月19日号掲載の報告。 追跡期間24週間以上の無作為化試験をメタ解析 研究グループは、Cochrane Library Central Register of Controlled Trials、MEDLINE、EMBASEのデータベースから、2016年3月21日までに発表された試験期間24週間以上の無作為化試験を対象に、インスリンを含む血糖降下薬の有効性と有害事象について、メタ解析を行った。 主要評価項目は、心血管疾患死だった。副次評価項目は、全死因死亡、重篤な有害事象、心筋梗塞、脳卒中、HbA1c値、治療の失敗、低血糖、体重だった。メトホルミンとの併用はいずれの薬剤も血糖降下効果は同等 対象に包含されたのは、301試験、延べ141万7,367患者月だった。そのうち、単剤療法は177試験、メトホルミンに追加しての2剤併用療法は109試験、メトホルミン+SU薬への3剤併用療法は29試験だった。 分析の結果、心血管疾患死亡率と全死因死亡率については、単剤療法、2・3剤併用療法のいずれについても、薬剤クラスの別による有意な差はなかった。HbA1c値については、メトホルミンに比べ、SU薬(標準化平均差[SMD]:0.18、95%信頼区間[CI]:0.01~0.34)、チアゾリジンジオン系薬(同:0.16、0.00~0.31)、DPP-4阻害薬(同:0.33、0.13~0.52)、α-グルコシダーゼ阻害薬(同:0.35、0.12~0.58)で高かった。 低血糖リスクについては、SU薬(オッズ比[OR]:3.13、95%CI:2.39~4.12、リスク差[RD]:10%、95%CI:7~13)と、基礎インスリン(OR:17.9、95%CI:1.97~162、RD:10%、95%CI:0.08~20)で、いずれも高かった。 メトホルミンとの併用では、HbA1c値の低減効果はいずれの薬剤も同等だったが、低血糖リスクはSGLT2阻害薬が最も低かった(SU薬併用に対するOR:0.12、95%CI:0.08~0.18、RD:-22%、95%CI:-27~-18)。 メトホルミン+SU薬への3剤併用では、低血糖リスクはGLP-1受動体作動薬で最も低かった(チアゾリジンジオン系薬併用に対するOR:0.60、95%CI:0.39~0.94、RD:-10%、95%CI:-18~-2)。 著者は、「これらの結果は、米国糖尿病協会の推奨治療と一致するものだった」と述べている。

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DPP-4阻害薬は動脈硬化を抑制するか?

 DPP-4阻害薬による糖尿病治療の動脈硬化への効果を検証したPROLOGUE研究の結果が、7月15日に都内でプレス向けに発表された。DPP-4阻害薬投与群(n=222)と通常治療群(n=220)とで頸動脈内膜中膜複合体厚(IMT)を比較したところ、総頸動脈の平均IMTの変化率に、両群間で有意差は認められないという結果が示された。IMT計測数では国内最大規模の研究 はじめに、研究代表の野出 孝一氏(佐賀大学医学部循環器内科 教授)が研究の概要を説明。糖尿病患者の60%が心血管障害で死亡するといわれる中、本研究では動脈硬化進展に対してDPP-4阻害薬シタグリプチンがどのような効果を示すかを研究した。主要評価項目は総頸動脈の平均IMT変化率であり、本研究はIMT計測では国内最大規模の研究となる。国内48施設の協力を得て、2型糖尿病患者463例を登録し、シタグリプチン群と通常治療群に割り付け、2年にわたり研究が続けられた。その結果、IMTは両群間に有意差がなく、シタグリプチンを通常治療に追加することによる動脈硬化進展抑制効果は証明されなかった。ただし、シタグリプチン群では低血糖発生リスクの低下、HbA1cの改善には一定の効果がみられた。両群に有意差なし 続いて研究の詳細について、田中 敦史氏(佐賀大学医学部循環器内科)が説明を行った。今回の研究目的・デザインとしては、30歳以上の2型糖尿病の患者で、HbA1cが6.2~9.4%の患者をシタグリプチン投与群と通常治療(シタグリプチン以外の経口糖尿病治療薬)群に分け、24ヵ月後の両群のIMTを測定。動脈硬化進展に対するシタグリプチンの効果を比較検討した。 主な患者背景は、男女比でシタグリプチン群(男146・女76)に対し、通常治療群(男151・女69)。平均年齢でシタグリプチン群69.2歳に対し、通常治療群69.5歳。平均BMIでシタグリプチン群25.3に対し、通常治療群24.9。平均HbA1cでシタグリプチン群、通常治療群ともに6.96。開始時の平均IMTでシタグリプチン群0.829mmに対し、通常治療群0.835mmとなっている。 結果を見てみると12ヵ月後の平均IMTは、シタグリプチン群で0.825mm、通常治療群で0.828mmだった。そして、24ヵ月後の平均IMTは、シタグリプチン群で0.827mm、通常治療群で0.841mmとシタグリプチン群のほうがやや緩やかな下降であったが、統計的な有意差は認められなかった。 副次的なものとして、今回の研究ではHbA1cの値を6.2%未満に向けて厳格に治療したこともあり、両群で治療薬の増量を行った結果、シタグリプチン群では平均HbA1c 6.56%(-0.4%)、通常治療群で6.72%(-0.24%)とシタグリプチン群のほうが有意差をもってHbA1cを低下させていた。また、有害事象について、低血糖がシタグリプチン群0例だったのに対し、通常治療群では7例が報告された。その他、心不全、狭心症などの循環器系はシタグリプチン群では14例、通常治療群では8例が報告された(これは患者さんの元々の素因が関係すると推定されている)。 まとめとして、「今回の研究では、総頸動脈平均IMTの24ヵ月後の変化率には、シタグリプチン群と通常治療群の間には有意差は認められなかった。ただし、シタグリプチン治療群のほうがHbA1cを有意に低下させたほか、同群では低血糖を認めなかったが、通常治療群では低血糖を7例認めた。今後もサブ解析などで分析結果を報告していきたい」と説明を終えた。

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リラグルチドはインクレチン関連薬のLEADERとなりうるか?(解説:住谷 哲 氏)-564

 インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬およびGLP-1受容体作動薬)は、血糖依存性インスリン分泌作用を有することから低血糖の少ない血糖降下薬と位置付けられ、とくにDPP-4阻害薬は経口薬であることから、わが国で多用されている。心血管イベント高リスク2型糖尿病患者に対する安全性を確認する目的でこれまでに報告されたCVOTs(CardioVascular Outcomes Trials)は、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンを用いたEMPA-REG OUTCOME試験を除くと、SAVOR-TIMI53(サキサグリプチン)、EXAMINE(アログリプチン)、TECOS(シタグリプチン)、ELIXA(リキシセナチド)とも、すべてインクレチン関連薬を用いた試験であった。しかし、これら4試験においてはプラセボに対する有益性を示すことができず、インクレチン関連薬は2型糖尿病患者の心血管イベントを減らすことはできないだろうと考えられていた時に、今回のLEADER試験が発表された。  その結果は、リラグルチド投与量の中央値1.78mg/日(わが国の投与量の上限は0.9mg/日)、観察期間3年において、主要評価項目である心血管死、非致死性心筋梗塞および非致死性脳卒中からなる3-point MACEが、リラグルチド投与により13%減少し(HR:0.87、95%CI:0.78~0.97、p=0.01)、さらに全死亡も15%減少する(同:0.85、0.74~0.97、p=0.02)との結果であった。 主要評価項目を個別にみると、有意な減少を示したのは心血管死(HR:0.78、95%CI:0.66~0.93、p=0.007)のみであり、非致死性心筋梗塞(0.88、0.75~1.03、p=0.11)、非致死性脳卒中(0.89、0.72~1.11、p=0.30)には有意な減少が認められなかった。3-point MACEの中で心血管死のみが有意な減少を示した点は、SGLT2阻害薬を用いたEMPA-REG OUTCOME試験と同様である。 この結果は、心血管イベント高リスク2型糖尿病患者に対する包括的心血管リスクの減少を目指した現時点での標準的治療(メトホルミン、スタチン、ACE阻害薬、アスピリンなど)により、非致死性心筋梗塞・脳卒中の発症がほぼ限界まで抑制されている可能性を示唆している。したがって、本試験の結果もEMPA-REG OUTCOME試験と同じく、リラグルチドの標準的治療への上乗せの効果であることを再認識しておく必要がある。 ADA/EASD2015年高血糖管理ガイドライン1)では、メトホルミンへの追加薬剤としてSU薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、基礎インスリンの6種類を横並びに提示してある。どの薬剤を選択するかの判断基準として提示されているのは、有効性(HbA1c低下作用)、低血糖リスク、体重への影響、副作用、費用であり、アウトカムに基づいた判断基準は含まれていない。今後も多くのCVOTsの結果が発表される予定であるが2)、将来的にはガイドラインにもアウトカムに基づいた判断基準が含まれることになるのだろうか? ここで、CVOTsから得られるエビデンスについて、あらためて考えてみよう。本来CVOTsは、新規血糖降下薬が心血管イベントのリスクを、既存の標準的治療に比べて増加しないことを確認するための試験である。そこで、新規血糖降下薬が有する可能性のある血糖降下作用以外のリスクを検出するために、新規血糖降下薬群とプラセボ群とがほぼ同等の血糖コントロール状態になるよう最初からデザインされている。つまり、血糖降下薬に関する試験でありながら、得られた結果は血糖降下作用とは無関係であるという、ある意味矛盾した試験デザインとなっている。さらに、対象には心血管イベントをすでに発症した、または発症のリスクがきわめて高い患者、かつ糖尿病罹病歴の長い患者が含まれることになる。したがってCVOTsで得られたエビデンスは、厳密には糖尿病罹病歴の長い2次予防患者にのみ適用されるエビデンスといってよい。 一方、ADA/EASDをはじめとした各種ガイドラインは、初回治療initial therapyを示したものであり、その対象患者はCVOTsが対象とする患者とは大きく異なっている。したがって、ここではEBMに内包されている外的妥当性 external validity(一般化可能性 generalizability)の問題を避けて通れないことになる。換言すれば、糖尿病罹病歴の長い2次予防患者で得られたCVOTsのエビデンスを、ガイドラインが対象とする初回治療患者に適用できるのだろうか?教科書的には2次予防のエビデンスと1次予防のエビデンスははっきり区別しなければならない。つまり、CVOTsで得られたエビデンスは、厳密には1次予防には適用できないことになる。しかし、2次予防のエビデンスのない薬剤と2次予防のエビデンスのある薬剤との、二者のいずれかを選択しなくてはならない場合には、眼前の患者におけるリスクとベネフィットを十分に考慮したうえで、2次予防のエビデンスのある薬剤を選択するのは妥当と思われる。この点でリラグルチドは、インクレチン関連薬のLEADERとしての資格はあるだろう。ただし、部下の標準的治療(メトホルミン、スタチン、ACE阻害薬、アスピリンなど)に支えられてのLEADERであるのを忘れてはならない。 ADA/EASDのガイドラインには、治療にかかる費用も薬剤選択判断基準の1つに含まれている。本試験における全死亡のNNTは3年間で98であり、0.9mg/日の投与で同様の結果が得られると仮定すると(大きな仮定かもしれない)、薬剤費のみで約5,500万円の医療費を3年間に使用することで、1人の死亡が防げる計算になる。これが、高いか安いかの判断は筆者にはつきかねるが、この点も患者とのshared decision makingには必要な情報であろう。

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糖尿病薬の心血管アウトカム試験をどう読むか?ADAハイライトより

 ノボノルディスクファーマ株式会社は6月27日に都内にて2016年米国糖尿病学会(ADA)ハイライトセミナーを開催し、関西電力病院総長/関西電力医学研究所所長の清野 裕氏が「糖尿病治療の流れと最適な治療薬の選択を考える」をテーマに講演した。ADA 2016でとくに注目を集めたトピックとして、「最適な2型糖尿病の管理を目指して新しい糖尿病治療薬をどのように使うか」「糖尿病治療薬の心血管系への影響(大規模心血管アウトカム試験の結果から)」が紹介され、それらを中心に同氏が解説した。個々の状態と病態に合わせた目標設定と治療法選択を 糖尿病治療においては血糖値の低下だけを目指して、低血糖が発生したり、体重が増加したりすることは好ましくないため、「血糖値の改善」「低血糖発現の抑制」「体重の維持または減量」を最終目標とすることが重要であることのことだ。 そして、欧米で第1選択薬となっているメトホルミンへの追加投与として、リラグルチドとグリメピリドを比較した臨床試験の結果を基に、GLP-1受容体作動薬の追加は前述の目標達成に有用であることが説明された。欧米における糖尿病は肥満型が多いため、SU薬の効果が出にくい、という側面があるものの、日本でもGLP-1受容体作動薬の使用について再評価する必要があるのではとの考えが示された。またADAおよび欧州糖尿病学会(EASD)においても患者中心のアプローチをより重要視する傾向になってきており、年齢、罹患期間、生活環境など個々の状態と病態に合わせた目標と治療法選択が必要であることを清野氏は強調した。糖尿病治療薬の心血管系への影響をどう考えるか? これまでに発表された糖尿病薬の心血管アウトカム試験はDPP-4阻害薬を対象としたものが3件、GLP-1受容体作動薬を対象としたものが1件あったが、いずれもプラセボと比較して非劣性という結果であった。しかし、昨年発表された、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンのEMPA-REG OUTCOME試験で初めて優越性が示された。それに続き、今回発表されたGLP-1受容体作動薬リラグルチドを用いたLEADER試験でも優越性が認められた。 LEADER試験の主な結果としては、プライマリエンドポイントである心血管死、非致死性心筋梗塞または非致死性脳卒中のいずれかが発現するまでの時間に関して、プラセボ群に対しリラグルチド群において、13%の有意なリスク低下が示された。また、全死亡については15%の有意な低下がみられ、心血管死単独では22%の有意なリスク低下が認められた。顕性アルブミン尿、血清クレアチン倍加、末期腎不全、腎死亡のいずれかの腎障害が発生するリスクについても22%の有意な低下が認められ、部分集団解析では、eGFR60未満の腎機能低下群でリラグルチドによる心血管イベントリスクの有意な抑制が認められた。優越性が認められた2つの試験結果の違いとは? プラセボ群に比較して心血管アウトカム抑制の優越性が認められたEMPA-REG OUTCOME試験とLEADER試験だが、清野氏によると、「これら2つの試験では心血管イベントの抑制の仕方が異なる」とのことだ。 両試験を比較すると、イベント発生の傾向に差が認められるようになるのは試験開始後3ヵ月付近である。EMPA-REG OUTCOME試験では、3ヵ月頃からプラセボ群とイベント発生数に顕著な差がみられるようになる。これはエンパグリフロジンに対して著しい反応性を示す患者が存在するためではないかと清野氏はみている。一方でLEADER試験では、1.5年ころから少しずつ両群に差が開いてきている。これはリラグルチドの心血管系への効果が少しずつ現れているためではないかと説明した。 さらに、個別のイベント発生に注目すると、大きな違いがみられる。心血管死については、リラグルチドでも有意な抑制が示されたが、エンパグリフロジンではより顕著な差がみられる。また、非致死性心筋梗塞や非致死性脳卒中についても傾向が異なっており、とくに非致死性脳卒中については、エンパグリフロジンはプラセボ群よりむしろ増加する傾向が示されていることを指摘した。 心不全による入院や心血管死がエンパグリフロジンにより著しい抑制が認められたのは、エンパグリフロジンが血行動態に対して好影響を与えているためではないかとの見方が示された。一方でリラグルチドに関しては、動脈硬化に対して抑制的に働いたのでは、と考えることができ、これら2つの試験におけるイベントの抑制の期間による発現の差、個別のイベント発生率の差は、それぞれの薬剤が異なる作用機序により心血管イベントを抑制しているからでは、との推論が展開された。 最後に、「DPP-4阻害薬の心血管アウトカム試験はすべて非劣性であったが、LEDEAR試験で優越性が示されたのはGLP-1受容体作動薬の作用の強さによるものなのか」との会場からの質問に対し清野氏は、血中の活性型換算からそれも1つの理由である可能性があるが、試験デザインの影響もあることを説明した。これらの試験は心血管イベント既往のある重症度の高い患者を対象としており、これらの条件で優越性を示すことは難しいと考えられ、より軽症患者を対象により長期の試験を行えば優越性が示される可能性もあるのでは、との見解を示した。

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第2回 薬物療法のキホン(総論)【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第2回】薬物療法のキホン(総論)-薬物療法のポイントを教えてください。 糖尿病では、血糖のみならず、体重、血圧、脂質の良好なコントロール状態を維持し、細小血管合併症や動脈硬化性疾患の発症・進展を抑制し、健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)を維持し、寿命を確保することが求められます1)。そのために、まず、食事・運動療法から開始し、効果がなければ薬物療法を開始しますが、そのときも重要なのは“食事・運動療法”です。 第1回でもお話ししましたが、糖尿病では、食事・運動療法は治療の大前提です(第1回 食事療法・運動療法のキホン)。食事・運動療法、とくに食事療法が守られなければ、薬物療法の効果が十分に得られないからです。薬物治療を開始する際には、患者さんに“食事療法の代わりになる薬はない”こと、“食事療法が守られないと、どんな薬を使っても十分な効果が得られない”ことをお伝えするとよいでしょう。また、薬物療法で期待できる効果が得られないときには、食事・運動療法が守られていない可能性があるので、生活習慣が乱れていないかを確認してください。-経口血糖降下薬のファーストチョイスは?DPP-4阻害薬かメトホルミンかで迷っています。 DPP-4阻害薬、メトホルミンのいずれの薬剤も単独で低血糖を来しにくく、体重増加を来さないという点で使いやすい薬剤です。 DPP-4阻害薬は、腎機能、あるいは肝機能障害に注意が必要ですが、薬剤によって異なるので、各薬剤の腎・肝機能障害のある患者さんに対する適応を確認して選択します。メトホルミンは、高齢者や腎機能低下進行例注)では注意が必要ですが、薬価が安いというメリットがあります。糖尿病患者さんは他の薬剤を服用していることも多いため、経済的事情を考慮するのも大切な視点です。 私は、メトホルミンを最初に処方することが比較的多く、メトホルミンが使えない場合はDPP-4阻害薬を選択することがあります。また、メトホルミンで治療を開始するも、副作用である消化器症状のために治療が継続できない場合には、DPP-4阻害薬に切り替えることがあります。 DPP-4阻害薬はインスリン分泌促進系の薬剤で、メトホルミンはインスリン抵抗性改善系の薬剤ですので、若くて肥満があり、食事療法が守れない方であればメトホルミン、非肥満、高齢であればDPP-4阻害薬という考え方もよいと思います。それぞれの薬剤の特性や副作用、禁忌などを考慮し、患者さんに適した薬剤を選択するとよいでしょう。注:メトグルコを除くビグアナイド薬は、腎機能障害患者に禁忌となっています。-機序の異なる薬の使い分け・効果的な組み合わせを教えてください。 日本糖尿病学会の「糖尿病治療ガイド」1)では、病態に合わせた経口血糖降下薬の選択が示されています。病態で分けるとすれば、インスリン分泌能低下、あるいはインスリン抵抗性のどちらが優位かによって薬剤を選択できます。いずれかを使っても目標とする血糖コントロールが得られなければ、異なる作用機序の薬剤を組み合わせるのも有用です。 もう1つは、「平均血糖」と「血糖変動」という考え方です。診断、あるいは治療開始後の血糖コントロール状況の確認のために、空腹時血糖値とHbA1cでみることが多いと思いますが、HbA1cは、過去1~2ヵ月の血糖値の平均をみているものです。しかし、血糖値は1日の中で常に変動していて、その変動する血糖値をならした「平均血糖」を反映しているのがHbA1cであり、そこに大きく影響するのは基本的には空腹時血糖値です。 血糖値は、食事のたびに上昇し、食後1時間半~2時間の間にピークを迎えますが(食後血糖値)、糖尿病、あるいは予備軍であるIGT(境界型)で、食後高血糖が心血管疾患のリスクになることが、幾つかの大規模臨床試験で示されています2,3)。しかし、食後高血糖をHbA1cでみることはむずかしく、空腹時血糖値やHbA1cで良好な血糖コントロールが得られている患者さんで、CGM(Continuous Glucose Monitoring:持続血糖測定)により24時間の血糖変動をみたところ、空腹時血糖値は正常範囲でしたが、食後高血糖が認められたというケースも少なくありません。 糖尿病で血糖値を下げる目的は、合併症の予防です。生命予後を左右する心血管疾患などの大血管障害予防のために、空腹時血糖のみならず、食後の急激な血糖上昇を抑制し、血糖変動幅を縮小させる治療が重要だと私は考えています。血糖変動幅の縮小によりHbA1cが低下することを、われわれは「“上質”なHbA1cの低下」と呼んでいます。 平均血糖、つまり主に空腹時血糖値を低下させる薬剤には、スルホニル尿素(SU)薬、チアゾリジン薬、BG薬、SGLT2阻害薬があります。対して、食後高血糖を抑制し、血糖変動幅を縮小させる薬剤には、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)と速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)があります。DPP-4阻害薬はいずれの作用も持ちます。空腹時血糖値、食後血糖値ともに高い患者さんであれば、空腹時血糖値を低下させる薬剤と食後高血糖を改善する薬剤を組み合わせるのもよいでしょう。 このように病態や血糖日内変動幅などの観点から患者さんに適した薬剤を選択しますが、加えて年齢や肝・腎などの生理機能、肥満の有無や低血糖を起こしにくい、といった視点も合わせて、最適な治療を決めていきます。-同グループ内での薬剤の選択、使い分けを教えてください。 いざ、薬剤を選択しようとすると、同種・同効の薬剤が多いものもあり、どれを選べばよいか迷うこともあると思います。とくに比較的新しい薬剤はそうですね。 DPP-4阻害薬は血糖低下作用についてはおおむね同等ですが、排出経路が薬剤によって異なります。主に腎で排泄される薬剤と肝で排泄される薬剤があるので、腎機能、もしくは肝機能障害がある患者さんで使い分けるとよいでしょう。また、半減期の違いから、1日1回投与のものと2回投与のものがあるので、服薬回数で選択するというのもよいでしょう。 最も新しい薬剤であるSGLT2阻害薬は、腎の近位尿細管で糖の再吸収を担うSGLT2を阻害することで、腎における糖の再吸収を抑制し、尿中への糖排泄を促進させて血糖を低下させます。SGLT2阻害薬の血糖低下作用についてもおおむね同等と思っていますが、私は、SGLT2以外に腎でブドウ糖の再吸収を担うSGLT2と同じファミリーであるSGLT1に注目しています。 腎における糖の再吸収の90%はSGLT2によるものですが、残り10%を担っているのがSGLT1です4)。このSGLT1は主に小腸に存在し、腸管からの糖の吸収・再吸収という役割を担っています5)。SGLT2に選択性が高い場合、腎における糖の再吸収抑制という点ではよいのですが、食直後に消化管から糖が吸収されるスピードに、尿細管での糖の再吸収阻害がどうしても追い付かないという問題が出てきます。SGLT2阻害薬の中にはSGLT2に対する選択性が低い、つまりSGLT1の阻害作用を持つ薬剤もあり、その場合、食後の消化管における糖の吸収遅延が期待できます。実際に、カナグリフロジン(商品名:カナグル)で、小腸での糖の吸収を遅らせ、食後の血糖上昇を抑制したというデータもあります6)。α-GIと同じ作用と考えてよいでしょう。このSGLT1の小腸における糖の吸収・再吸収という作用に着目し、SGLT2とSGLT1の両方を阻害するデュアルインヒビターが現在、海外では開発中です。 インスリン分泌を促進する消化管ホルモンであるインクレチンに着目し、7年前にその関連薬として臨床応用できるようになったのがDPP-4阻害薬と、もう1つGLP-1受容体作動薬があります。間接的に作用するのがDPP-4阻害薬であるのに対し、直接作用するのがGLP-1受容体作動薬です。GLP-1受容体作動薬は注射ですので、インスリン療法のようにきめ細やかな用量設定の必要はないものの、患者さんの注射に対する心理的障壁もあって、導入は容易ではないかもしれません。GLP-1受容体作動薬では、血糖低下以外に体重減少が期待できますが、これは、中枢神経系にも作用して食欲を抑制する以外に、胃の内容物の排出を遅らせることで、内容物が胃にとどまっている時間が長くなり、満腹感を感じやすいことにもよります。 GLP-1受容体作動薬には、半減期の長い長時間作用型[リラグルチド(商品名:ビクトーザ)、持続性エキセナチド(同:ビデュリオン)、デュラグルチド(同:トルリシティ)]と、半減期の短い短時間作用型[エキセナチド(同:バイエッタ)、リキシセナチド(同:リキスミア)]があり、短時間作用型のものは、高濃度のGLP-1が維持されないため、胃排泄の遅延作用に対するタキフィラキシー(効果減弱)が起こりにくいという特徴があります。胃排泄の遅延作用が継続するため、体重減少効果が期待でき、さらに、食後高血糖の抑制作用が期待できます。対して、長時間作用型のものは、高濃度のGLP-1が維持されるため、空腹時の血糖低下作用が期待できます。1)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2015-2016. 文光堂;2016. 2)DECODE Study Group, the European Diabetes Epidemiology Group. Arch Intern Med 2001;161:397-405.3)Tominaga M et al. Diabetes Care 1999;22:920-924.4)Fujita Y, et al . J Diabetes Investig. 2014;5:265-275.5)稲垣暢也編. 糖輸送体の基礎を知る. SGLT阻害薬のすべて. 先端医学社;2014. 6)Polidori D et al. Diabetes Care. 2013;36:2154-2161.

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DPP-4阻害薬は糖尿病網膜症の進行を抑制する!?

 DPP-4阻害薬による糖尿病治療は、糖尿病網膜症の進行に対し血糖コントロールの改善とは独立した防御因子であることを、韓国・亜洲大学校のYoo-Ri Chung氏らが報告した。DPP-4阻害薬の糖尿病網膜症に対する有用性を示した最初の研究であり、著者らは「DPP-4阻害薬の糖尿病網膜症の進行に対する有効性について、無作為化二重盲検プラセボ比較試験によりさらなる評価を行うことを促す予備的データである」とまとめている。Retina誌オンライン版2016年6月9日号の掲載の報告。 研究グループは、2型糖尿病患者の糖尿病網膜症進行に対するDPP-4阻害薬の効果を糖尿病網膜症重症度スケールに基づいて評価する目的で、2型糖尿病患者82例について2005~15年の医療記録を後ろ向きに調査した。 眼底写真はETDRSを用いてグレード分類し、ベースラインの危険因子と糖尿病網膜症との関係について調査した。 主な結果は以下のとおり。・糖尿病網膜症が進行した(ETDRSスコアで1以上)のは、DPP-4阻害薬治療群は28例中7例、他の糖尿病治療薬治療群では54例中26例であった。・DPP-4阻害薬治療についてのみ、傾向スコアマッチング後に糖尿病網膜症の進行が有意に減少することが示された(p=0.009)。・DPP-4阻害薬による治療は、糖尿病網膜症進行のリスク低下と有意な関連が認められた(p=0.011)。

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DPP-4阻害薬の適正使用を再認識する(解説:吉岡 成人 氏)-538

糖尿病患者の半数以上がDPP-4阻害薬を使用している 日本では、糖尿病受療患者の半数を超える300万例以上にDPP-4阻害薬が投与されており、多くの医師により糖尿病治療の第1選択薬として広く使われている。 2009年12月にシタグリプチン(商品名:ジャヌビア、グラクティブ)が上市され、現在では、ビルダグリプチン(同:エクア)、アログリプチン(同:ネシーナ)、リナグリプチン(同:トラゼンタ)、テネリグリプチン(同:テネリア)、アナグリプチン(同:スイニー)、サキサグリプチン(同:オングリザ)、さらには週1回製剤としてトレラグリプチン(同:ザファテック)、オマリグリプチン(同:マリゼブ)の9製剤が使用可能となっている。DPP-4阻害薬とSU薬の併用による低血糖 DPP-4阻害薬は、消化管ホルモンであるGLP-1(glucagon-like peptide-1)、GIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)の作用を高めることによって、膵β細胞に作用してインスリン分泌を促進する。DPP-4阻害薬のインスリン分泌促進作用は血糖依存性であり、単独投与で低血糖を引き起こすことはまれである。しかし、シタグリプチンの販売後、SU薬にDPP-4阻害薬を追加投与した患者で重篤な低血糖症例が報告され、2010年4月には「インクレチンとSU薬の適正使用に関する委員会」から、SU薬を減量したうえでDPP-4阻害薬を使用するよう勧告が出された1)。その後、医薬品医療機器総合機構に報告された副作用報告症例や診療報酬明細データを利用した調査では、SU薬の使用量の適正化、低血糖症例の減少が報告されている2)。 血糖値が上昇すると、膵β細胞に取り込まれたグルコースは代謝されATPが産生される。膵β細胞内で増加したATPは、細胞膜のATP感受性K+チャネル(KATP)チャネルを閉鎖し、細胞膜の脱分極を起こし電位依存性Ca2+チャネルを開口し、細胞内のCa濃度が上昇することでインスリン分泌顆粒からインスリンが動員され、分泌が促進される。SU薬はグルコース濃度にかかわらず、KATPチャネルに直接作用してインスリン分泌を促進する。 一方、インクレチンはインクレチン受容体に結合した後、アデニル酸シクラーゼを活性化することでcAMPを産生し、膵β細胞内のグルコース代謝に依存したインスリン分泌作用を増強する。高血糖が持続している状態では膵β細胞内の代謝が著しく低下し、細胞内のATP産生が低下する。細胞内のATP濃度が低い状態ではSU薬のチャネル閉鎖が障害され、SU薬を使用してもインスリン分泌が促進されないという状態を引き起こす。 しかし、インクレチンはcAMPの上昇を介してインスリン分泌を促進するのみならずATP産生を回復させるため、グルコースによるインスリン分泌にとどまらず、SU薬によるインスリン分泌も改善させる。この相乗効果が低血糖を引き起こす原因と考えられる。メタアナリシスによる臨床試験の解析論文 2型糖尿病患者で、SU薬とDPP-4阻害薬の併用を行っている患者とプラセボを比較した無作為化試験10件(6,546例)を対象として、試験ごとに低血糖のリスク比とその95%信頼区間を算出し、統合解析を行った試験がBMJ誌に報告されている。ビルダグリプチン、アログリプチンを用いた日本における臨床試験も2件含まれている。 本論文の解析結果では、SU薬とDPP-4阻害薬の併用による低血糖のリスク比は1.52(95%信頼区間:1.29~1.80)、何人の患者を治療すると1人が低血糖を引き起こすかを示す指標である有害必要数(number needed to harm:NNH)は治療後6ヵ月で17(95%信頼区間:11~30)、6~ 12ヵ月で15(同:9~26)、1年以降で8(同:5~15)であった。また、サブグループ解析では、DPP-4阻害薬の常用量(最大投与量を含む)を投与している場合の低血糖リスクは1.66(95%信頼区間:1.34~2.06)であったが、半量投与群では1.33(同:0.92~1.94)と有意差を示さなかったことも報告されている。 日本においては「インクレチンとSU薬の適正使用に関する委員会」では、グリメピリド(商品名:アマリール)2mg以下、グリベンクラミド(同:オイグルコン、ダオニール)1.25mg以下、グリクラジド(同:グリミクロン)40mg以下に減量したうえでDPP-4阻害薬の併用を行うことを2010年に推奨している。きわめて妥当性のある推奨で、勧告後はSU薬とDPP-4阻害薬の併用による低血糖の頻度は減少している。 しかし、低血糖を引き起こす背景には、SU薬を漫然と高用量で処方しているという背景がある。臨床効果という点では、SU薬に用量依存性はないことを認識すべきである。一般医としては、DPP-4阻害薬の併用にかかわらず、SU薬を使用する場合には、グリメピリドであれば1mgまで、グリクラジドであれば40mgまでとし、作用時間が長いグリベンクラミドは使用しないというスタンスで糖尿病患者の治療に当たることが望ましいと考えられる。

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SU薬とDPP-4阻害薬の併用、低血糖リスクを50%増加/BMJ

 スルホニル尿素(SU)薬で治療を受けている2型糖尿病患者に対し、DPP-4阻害薬を追加投与すると、低血糖リスクが50%増加し、最初の6ヵ月間で低血糖症例が患者17人に1人増えることになる。フランス・ボルドー大学のFrancess Salvo氏らが、無作為化プラセボ対照比較試験のシステマティックレビューとメタ解析の結果、報告した。DPP-4阻害薬とSU薬との併用により低血糖リスクが増加することは知られていたが、そのリスクの定量化はなされていなかった。著者は、「DPP-4阻害薬の投与を開始する場合にはSU薬の減量が推奨されていることを尊重し、低血糖リスクを最小限にするこの治療法の有効性を評価する必要がある」とまとめている。BMJ誌オンライン版2016年5月3日号掲載の報告。SU薬+DPP-4阻害薬とSU薬+プラセボを比較した無作為化試験をメタ解析 研究グループは、Medline、ISI Web of Science、SCOPUS、Cochrane Central Register of Controlled Trials、clinicaltrial.govから、2型糖尿病患者においてDPP-4阻害薬+SU薬併用療法(被験者50例以上)とプラセボを比較した無作為化試験について、言語を問わず検索した。期間はclinicaltrial.govが2014年11月まで、それ以外は2013年10月15日までであった。 解析対象研究の調査とデータ収集は2人の研究者が独立して行い、各試験のバイアスリスクをコクラン共同計画のツールを用いて評価した。メタ解析のエビデンスの質はGRADEシステムを用いて評価。試験ごとに低血糖のリスク比とその95%信頼区間を算出した後、マンテル・ヘンツェル法またはランダム効果モデルを用いて統合解析を行った。併用で低血糖リスク比は1.52、6ヵ月間のNNHは17 解析に組み込まれた試験は10件、計6,546例であった(DPP-4阻害薬+SU薬4,020例、プラセボ+SU薬2,526例)。 低血糖のリスク比(RR)は、全体で1.52(95%CI:1.29~1.80)であった。また、NNH(有害必要数:何人の患者を治療するごとに低血糖1例が発生するかを示す)は治療期間6ヵ月以下で17(95%信頼区間[CI]:11~30)、6.1~12ヵ月で15(95%CI:9~26)、1年以上で8(95%CI:5~15)であった。 サブグループ解析の結果、DPP-4阻害薬の用量の違いによる、低血糖リスクの差はみられなかった。また、半量投与群で低血糖リスクの有意な増加は示されなかった。標準用量(最大投与量含む)群のRRは1.66(95%CI:1.34~2.06)、半量投与群のRRは1.33(95%CI:0.92~1.94)であった。

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2度目の改訂版を発表-SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation

 日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」は、5月12日に「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」の改訂版を公表した。SGLT2阻害薬は、新しい作用機序を有する2型糖尿病薬で、現在は6成分7製剤が臨床使用されている。 Recommendationでは、75歳以上の高齢者への投与を慎重投与とするほか、65歳以上でも老年症候群の患者には同様としている、また、利尿薬との併用については、「推奨されない」から「脱水に注意する」に変更された。そのほか、全身倦怠・悪心嘔吐・体重減少などを伴う場合には、血糖値が正常に近くともケトアシドーシスの可能性を考慮し、血中ケトン体の確認を推奨している。 今回の改訂は、1年9ヵ月ぶりの改訂となるが、その間に報告された副作用情報や高齢者(65歳以上)に投与する場合の全例特定使用成績調査による、高齢者糖尿病における副作用や有害事象の発生率や注意点について、一定のデータが得られたことから、改訂されたものである。 本委員会では、「これらの情報をさらに広く共有することにより、副作用や有害事象が可能な限り防止され、適正使用が推進されるよう、Recommendationをアップデートする」と表明している。Recommendation1)インスリンやSU薬などインスリン分泌促進薬と併用する場合には、低血糖に十分留意して、それらの用量を減じる(方法については下記参照)。患者にも低血糖に関する教育を十分行うこと。2)75歳以上の高齢者あるいは65~74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合には慎重に投与する。3)脱水防止について患者への説明も含めて十分に対策を講じること。利尿薬の併用の場合にはとくに脱水に注意する。4)発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。5)全身倦怠・悪心嘔吐・体重減少などを伴う場合には、血糖値が正常に近くてもケトアシドーシスの可能性があるので、血中ケトン体を確認すること。6)本剤投与後、薬疹を疑わせる紅斑などの皮膚症状が認められた場合には速やかに投与を中止し、皮膚科にコンサルテーションすること。また、必ず副作用報告を行うこと。7)尿路感染・性器感染については、適宜問診・検査を行って、発見に努めること。問診では質問紙の活用も推奨される。発見時には、泌尿器科、婦人科にコンサルテーションすること。副作用の事例と対策(抜粋)重症低血糖 重症低血糖の発生では、インスリン併用例が多く、SU薬などのインスリン分泌促進薬との併用が次いでいる。DPP-4阻害薬の重症低血糖の場合にSU薬との併用が多かったことに比し、本剤ではインスリンとの併用例が多いという特徴がある。SGLT2阻害薬による糖毒性改善などによりインスリンの効きが急に良くなり低血糖が起こっている可能性がある。このように、インスリン、SU薬または速効型インスリン分泌促進薬を投与中の患者へのSGLT2阻害薬の追加は、重症低血糖を起こす恐れがあり、あらかじめインスリン、SU薬または速効型インスリン分泌促進薬の減量を検討することが必要である。また、これらの低血糖は、比較的若年者にも生じていることに注意すべきである。 インスリン製剤と併用する場合には、低血糖に万全の注意を払い、インスリンをあらかじめ相当量減量して行うべきである。また、SU薬にSGLT2阻害薬を併用する場合には、DPP-4阻害薬の場合に準じて、以下のとおりSU薬の減量を検討することが必要である。 ・グリメピリド2mg/日を超えて使用している患者は2mg/日以下に減じる ・グリベンクラミド1.25mg/日を超えて使用している患者は1.25mg/日以下に減じる ・グリクラジド40mg/日を超えて使用している患者は40mg/日以下に減じるケトアシドーシス インスリンの中止、極端な糖質制限、清涼飲料水多飲などが原因となっている。血糖値が正常に近くてもケトアシドーシスの可能性がある。とくに、全身倦怠・悪心嘔吐・体重減少などを伴う場合には血中ケトン体を確認する。SGLT2阻害薬の投与に際し、インスリン分泌能が低下している症例への投与では、ケトアシドーシスの発現に厳重な注意が必要である。同時に、栄養不良状態、飢餓状態の患者や極端な糖質制限を行っている患者に対するSGLT2阻害薬投与開始やSGLT2阻害薬投与時の口渇に伴う清涼飲料水多飲は、ケトアシドーシスを発症させうることにいっそうの注意が必要である。脱水・脳梗塞など 循環動態の変化に基づく副作用として、引き続き重症の脱水と脳梗塞の発生が報告されている。脳梗塞発症者の年齢は50~80代である。脳梗塞はSGLT2阻害薬投与後数週間以内に起こることが大部分で、調査された例ではヘマトクリットの著明な上昇を認める場合があり、SGLT2阻害薬による脱水との関連が疑われる。また、SGLT2阻害薬投与後に心筋梗塞・狭心症も報告されている。SGLT2阻害薬投与により通常体液量が減少するので、適度な水分補給を行うよう指導すること、脱水が脳梗塞など血栓・塞栓症の発現に至りうることに改めて注意を喚起する。75歳以上の高齢者あるいは65~74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合や利尿薬併用患者などの体液量減少を起こしやすい患者に対するSGLT2阻害薬投与は、注意して慎重に行う、とくに投与の初期には体液量減少に対する十分な観察と適切な水分補給を必ず行い、投与中はその注意を継続する。脱水と関連して、高血糖高浸透圧性非ケトン性症候群も報告されている。また、脱水や脳梗塞は高齢者以外でも認められているので、非高齢者であっても十分な注意が必要である。脱水に対する注意は、SGLT2阻害薬投与開始時のみならず、発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には万全の注意が必要であり、SGLT2阻害薬は必ず休薬する。この点を患者にもあらかじめよく教育する。また、脱水がビグアナイド薬による乳酸アシドーシスの重大な危険因子であることに鑑み、ビグアナイド薬使用患者にSGLT2阻害薬を併用する場合には、脱水と乳酸アシドーシスに対する十分な注意を払う必要がある(「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」)。皮膚症状 皮膚症状は掻痒症、薬疹、発疹、皮疹、紅斑などが副作用として多数例報告されているが、非重篤のものが大半を占める。すべての種類のSGLT2阻害薬で皮膚症状の報告がある。皮膚症状が全身に及んでいるなど症状の重症度やステロイド治療がなされたことなどから重篤と判定されたものも報告されている。皮膚症状はSGLT2阻害薬投与後1日目からおよそ2週間以内に発症している。SGLT2阻害薬投与に際しては、投与日を含め投与後早期より十分な注意が必要である。あるSGLT2阻害薬で皮疹を生じた症例で、別のSGLT2阻害薬に変更しても皮疹が生じる可能性があるため、SGLT2阻害薬以外の薬剤への変更を考慮する。いずれにせよ皮疹を認めた場合には、速やかに皮膚科医にコンサルトすることが重要である。とくに粘膜(眼結膜、口唇、外陰部)に皮疹(発赤、びらん)を認めた場合には、スティーブンス・ジョンソン症候群などの重症薬疹の可能性があり、可及的速やかに皮膚科医にコンサルトするべきである。尿路・性器感染症 治験時よりSGLT2阻害薬使用との関連が認められている。これまで、多数例の尿路感染症、性器感染症が報告されている。尿路感染症は腎盂腎炎、膀胱炎など、性器感染症は外陰部膣カンジダ症などである。全体として、女性に多いが男性でも報告されている。投与開始から2、3日および1週間以内に起こる例もあれば2ヵ月程度経って起こる例もある。腎盂腎炎など重篤な尿路感染症も引き続き報告されている。尿路感染・性器感染については、質問紙の活用を含め適宜問診・検査を行って、発見に努めること、発見時には、泌尿器科、婦人科にコンサルテーションすることが重要である。 本委員会では、SGLT2阻害薬の使用にあたっては、「特定使用成績調査の結果、75歳以上では安全性への一定の留意が必要と思われる結果であった。本薬剤は適応やエビデンスを十分に考慮したうえで、添付文書に示されている安全性情報に十分な注意を払い、また本Recommendationを十分に踏まえて、適正使用されるべきである」と注意を喚起している。「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」からのお知らせはこちら。

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DPP-4阻害薬は2型糖尿病患者における重度腎不全のリスクを増加させる可能性がある(解説:住谷 哲 氏)-520

 DPP-4阻害薬は、わが国で最も多く処方されている血糖降下薬である。しかし、DPP-4阻害薬が2型糖尿病患者の心血管イベントを抑制する可能性は、TECOS試験1)などの3つのランダム化比較試験(RCT)の結果からほぼ否定された。同時に、これら3つのRCTにおいて、DPP-4阻害薬が他の血糖降下薬に比較して心血管イベントを増加させる可能性もほぼ否定された。つまり、少なくとも心血管イベント発症に対する安全性は担保されたことになる。しかし、DPP-4阻害薬が細小血管障害(網膜症、腎症、神経障害)に及ぼす影響については、これまでほとんど報告されていない。そこで著者らは、real worldにおいてDPP-4阻害薬が2型糖尿病患者の細小血管障害のリスクを減少させるか否かを検討した。その結果は、DPP-4阻害薬がメトホルミンと比較して重度腎不全のリスクを約3.5倍に増加させる可能性を示唆しており、DPP-4阻害薬が多用されているわが国の2型糖尿病診療に及ぼす影響は少なくない。 英国プライマリケアのデータベースであるQResearchデータベースを用いて、2007年4月1日から2015年1月31日の間に、2型糖尿病と診断された患者46万9,688例(25~84歳)をオープンコホートに組み込み、DPP-4阻害薬(80%はシタグリプチン)、チアゾリジン薬(90%はピオグリタゾン)、メトホルミン、SU薬、インスリン、その他の血糖降下薬(αGI薬、グリニド薬、SGLT2阻害薬)と5つの臨床アウトカム(失明、高血糖、低血糖、下肢切断、重度腎不全)との関連を検討した(ここで下肢切断は神経障害と考えられている点に注意が必要である)。血糖降下薬は、単剤、2剤併用、3剤併用のすべての組み合わせについてそれぞれ検討した。重度腎不全は、透析導入、腎移植、CKD ステージ5(eGFR<15 mL/min/1.73m2)のいずれかと定義した。それぞれのアウトカムに対するハザード比(HR)を、Cox比例ハザードモデルにより計算した。それぞれの薬剤への暴露(exposure)は、たとえば、ある患者がコホートに組み込まれた最初12ヵ月間はメトホルミンのみ、その後メトホルミンとチアゾリジン薬との併用24ヵ月、その後投薬なし6ヵ月の時点でイベントを発症した場合はメトホルミン単剤12ヵ月、メトホルミン+チアゾリジン薬24ヵ月、無投薬6ヵ月としてモデルに組み込まれた。 観察期間中に、27万4,324例(58.4%)が何らかの血糖降下薬を処方された。そのうちメトホルミンが25万6,024例(投薬群の93.3%)に処方された。一方、DPP-4阻害薬は3万2,533例(投薬群の11.9%)に処方された。その結果は表3に示されているように、メトホルミンのみが失明(HR:0.70、95%信頼区間:0.66~0.75、以下同様)、高血糖(0.65、0.62~0.67)、低血糖(0.58、0.55~0.61)、下肢切断(0.70、0.64~0.77)、重度腎不全(0.41、0.37~0.46)とすべてのアウトカムのリスクを減少させた。 これに基づいて、各薬剤群(単剤、2剤併用、3剤併用)および無投薬群のメトホルミン単剤投与群に対する、それぞれの5つのアウトカムの調整HRが表5にまとめられている。DPP-4阻害薬単剤投与群においては、失明(1.39、0.66~2.93)、高血糖(1.44、0.85~2.43)、低血糖(0.83、0.21~3.33)、下肢切断(1.03、0.33~3.20)、重度腎不全(3.52、2.04~6.07)であり、重度腎不全のリスクのみがメトホルミン単剤投与群に比較して3.52倍増加していた。この重度腎不全のリスク増加は、メトホルミン+DPP-4阻害薬の2剤併用群では消失(0.59、0.28~1.25)していたが、SU薬+DPP-4阻害薬の2剤併用群では残存(3.21、2.08~4.93)していた。さらに、メトホルミン+DPP-4阻害薬+SU薬の3剤併用群においては重度腎不全リスクの増加は認められなかった(0.68、0.39~1.20)。 本論文の結果は、DPP-4阻害薬単剤投与は2型糖尿病患者において重度腎不全のリスクを約3.5倍に増加させる可能性を示唆する。しかし、本論文はRCTではなくコホート研究であるため、因果関係を厳密に証明することは困難である。糖尿病罹病期間、血清クレアチニン値、HbA1c、合併症の有無をはじめとした26の潜在的交絡因子で調整した結果であるが、未知の交絡因子の残存は否定できない。著者らも本論文の限界として、recall bias、indication bias、channelling biasについて論じているが、DPP-4阻害薬を単剤投与された患者(おそらく何らかの理由でメトホルミンが投与できなかった患者)が、重度腎不全発症の高リスク群であった可能性が残るであろう。 単純には、これらの患者は最初から腎機能が悪かったのではないかと考えられるが、表2のbaseline characteristicsを見る限り、血清クレアチニン値はメトホルミン投与群(84.8 μmol/L、0.96 mg/dL)、DPP-4阻害薬投与群(84.9 μmol/L、0.96 mg/dL)であり、両群に差は認められていない。さらに、コホートに組み込まれた時点ですでに腎疾患(kidney diseaseと記載されているが詳細は不明)を有する患者から発症した重度腎不全は解析から除外されている。 DPP-4阻害薬が、尿中アルブミン排泄量を減少させるとの報告は散見されるが2)、病態生理学的および薬理学的にDPP-4阻害薬が重度腎不全を来すメカニズムは説明困難であると思われる。しかし、シタグリプチンの添付文書には重大な副作用に急性腎不全(頻度不明)が記載されている3)4)。したがって、本論文の結果は医薬品安全性監視(pharmacovigilance)の観点から解釈される必要がある。つまり、real worldで発生するDPP-4阻害薬の有害事象シグナルは微小であり、本論文のような膨大なデータの解析によって初めて明らかになったと考えられる。 英国においてはメトホルミンが第1選択薬とされていることから、DPP-4阻害薬の単剤投与はきわめて例外的であるが、わが国においては、メトホルミンではなくDPP-4阻害薬のみを投与されている患者はきわめて多く存在している。メトホルミンとの併用では重度腎不全の発症リスクが増加しないことから、DPP-4阻害薬は第1選択薬ではなく、メトホルミンへの追加薬剤としての位置付けが適切である。

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インクレチン関連薬の心不全リスクを検証/NEJM

 インクレチン関連薬は、一般的な経口糖尿病治療薬の併用療法と比較して、心不全による入院リスクを増大しないことが示された。カナダ・ジューイッシュ総合病院のKristian B. Filion氏らが、国際多施設共同コホート研究Canadian Network for Observational Drug Effect Studies(CNODES)の一環としてデータを解析し明らかにした。インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬、GLP-1受動体作動薬など)は、安全性に関して心不全リスクが増大する可能性が示唆されているが、現在進行中の臨床試験でこの問題を検証するには規模が不十分とされていた。NEJM誌2016年3月24日号掲載の報告。カナダ・米国・英国の約150万例でコホート内症例対照研究を実施 研究グループは、カナダ(アルバータ州、マニトバ州、オンタリオ州、サスカチワン州)、米国、英国の6施設からの糖尿病患者の医療データを用い、コホート内症例対照研究を行った(2014年6月30日まで)。コホート全体で149万9,650例が解析対象となった。 心不全により入院した患者1例に対し、同一コホートから性別、年齢、コホート登録日、糖尿病の治療期間、追跡調査期間をマッチさせた最大20例の対照を設定。条件付きロジスティック回帰分析により、経口糖尿病治療薬併用療法と比較したインクレチン関連薬の、心不全入院リスクのハザード比をコホートごとに推算し、ランダム効果モデルを用いてコホート全体を統合した。インクレチン関連薬の使用で心不全入院リスクは増大しない 全体で心不全による入院が2万9,741件認められた(発生率:9.2件/1,000人年)。経口糖尿病治療薬併用療法と比較したインクレチン関連薬の心不全入院リスクは、心不全の既往歴がある患者(ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.62~1.19)、心不全の既往歴がない患者(同:0.82、0.67~1.00)いずれにおいても増加はみられなかった。 DPP-4阻害薬(HR:0.84、95%CI:0.69~1.02)、GLP-1受容体作動薬(HR:0.95、95%CI:0.83~1.10)の別にみても結果は同様であった。 著者は、「これまでの臨床試験の対象集団と比較して、本コホートの糖尿病患者の多くは罹病期間が短く(心不全既往歴なし:0.7年、心不全既往歴あり:1.8年)、そのため心不全リスクが低くなった可能性があるが、一方で2次解析により、インクレチン関連薬による心不全リスクは、糖尿病治療期間による違いはないことが示された」と述べている。

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DPP-4阻害薬と心不全による入院に関連はあるのか?(解説:小川 大輔 氏)-494

 2型糖尿病の治療において、DPP-4阻害薬は海外では第1選択薬のメトホルミンに次ぐ第2選択薬の1つという位置付けであるが、わが国では最も広く使用されている糖尿病治療薬である。DPP-4阻害薬が汎用される理由は、使い勝手が良く低血糖を起こしにくいためと考えられる。 一方で、DPP-4阻害薬は免疫系に対する影響や、膵炎・膵臓がんに対するリスク、心不全に対するリスクが以前より懸念されている。最近BMJ誌に、インクレチン関連薬と膵臓がんに関するレビュー1)と、DPP-4阻害薬と心不全に関するレビューが同時に掲載された2)。それぞれ、ジャーナル四天王の2016年3月2日公開の記事(インクレチン製剤で膵がんリスクは増大するか)および2016年2月26日公開の記事(DPP-4阻害薬は心不全入院リスクを高める可能性)に、要旨が掲載されているので参照されたい。 今回、中国の研究者らは、2型糖尿病患者におけるDPP-4阻害薬の使用による心不全リスクの増大について、無作為化比較試験(RCT)および観察研究のシステマティックレビューとメタ解析を行い報告した。心不全については、RCTと観察研究のいずれの解析においても、DPP-4阻害薬群と対照群との間で心不全のリスクに有意差は認められなかった。一方、心不全による入院に関しては、RCT・観察研究ともDPP-4阻害薬群で対照群よりリスクが増加することが示唆された。 この論文では、とくに心血管疾患のリスクを有する2型糖尿病患者においてはDPP-4阻害薬の使用により、心不全そのもののリスクは増えないものの、心不全による“入院”のリスクが若干増大する可能性がある、と指摘している。しかし、この結論をそのまま受け入れることは難しい。なぜなら、著者らが本文中に記載しているとおり、RCT・観察研究の追跡期間が約1~2年と短く、また解析対象とした研究のエビデンスの質が、すべてにおいて高いとはいえないためである。 それ以前に、心不全は増えないが心不全による“入院”が増えるとは、一体何を意味するのか? 心不全が増えなければ、それによる入院も増えるはずがないのではないだろうか。結局、「DPP-4阻害薬の使用により、心不全のリスクも心不全による入院のリスクも増加するかどうかは不明である」というのがこのレビューの結論であろう。

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スーグラほかSGLT2阻害薬は高齢者に安全か

 3月3日、アステラス製薬株式会社は、「本邦の高齢者におけるSGLT2阻害薬の安全性と有効性」と題し、演者に横手 幸太郎氏(千葉大学大学院医学研究院 細胞治療内科学講座 教授)を招き、プレスセミナーを開催した。講演では、65歳以上の高齢者7,170人を対象としたSGLT2阻害薬イプラグリフロジン(商品名:スーグラ)錠の大規模調査「STELLA-ELDER」の中間報告も行われた。約10年でHbA1cは下がったが… はじめに、2型糖尿病をメインにその概要や機序が説明された。わが国の糖尿病患者は、疫学推計で2,050万人(2012年)と予想され、この5年間で予備群といわれている層が減少した半面、糖尿病と確定診断された層は増加しているという。血糖コントロールについては、さまざまな治療薬の発売もあり、2002年と2013年を比較すると、2型糖尿病患者のHbA1cは7.42%から6.96%へと低下している。しかしながら、患者の平均BMIは24.10から25.00と肥満化傾向がみられる。SGLT2阻害薬の課題 これまで糖尿病の治療薬は、SU薬をはじめメトホルミン、チアゾリジン、DPP-4阻害薬などさまざまな治療薬が上市されている。そして、これら治療薬では、患者へ食事療法などの生活介入なく治療を行うと、患者の体重増加を招き、このジレンマに医師、患者は悩まされてきた。 そうした中で発売されたSGLT2阻害薬は、糖を尿中排出することで血糖を下げる治療薬であり、体重減少ももたらす。また、期待される効果として、血糖降下、膵臓機能の改善、血清脂質の改善、血圧の低下、腎機能の改善などが挙げられる。その反面、危惧される副作用として、頻尿による尿路感染症、脱水による脳梗塞などがあり、昨年、日本糖尿病会から注意を促す「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」が発出されたのは記憶に新しい。 米国では、処方率においてDPP-4阻害薬をすでに抜く勢いであるが、わが国では、5%前後と低調である。今後、わが国でも適応の患者にきちんと使えるように、さらなる検証を行い、使用への道筋を作ることが大切だという。スーグラ処方の注意点 続いて、イプラグリフロジン(スーグラ)錠について、高齢者を対象に行われた全例調査「STELLA-ELDER」の中間報告の説明が行われた。 「STELLA-ELDER」は、スーグラの高齢者への安全性について確認することを目的に、2014年4月から2015年7月にかけて、本剤を服用した65歳以上(平均72.2歳)の2型糖尿病患者(n=7,170)について調査したものである。 スーグラの副作用の発現症例率は全体で10.06%(721例)であった。多かった副作用の上位5つをみてみると皮膚疾患(2.27%)が最も多く、次に体液量減少(1.90%)、性器感染症(1.45%)、多尿・頻尿(1.32%)、尿路感染症(0.77%)などであった。いずれも重篤ではなく、90%以上がすでに回復している。また、これら副作用の発現までの日数について、「脱水・熱中症」「脳血管障害」「皮膚関連疾患」「尿路/性器感染」は、投与開始後早期(30日以内)に発現する傾向が報告された。 スーグラの全例調査で注目すべきは、高齢者に懸念される「低血糖」の発現状況である。全例中23例(0.3%)に低血糖が発現し、とりわけBMIが18.5未満の患者では発現率が高い(6.8%)ことが示された。また、腎機能に中等度障害、軽度障害がある患者でも高いことが報告された。その他、体液減少に伴う副作用の発現については、75歳以上(68/2,223例)では75歳未満(68/4,947例)に比べ、発現率が約2倍高くなることも示された。 最後に、横手氏は、「これらの調査により、腎機能が低下している、痩せている高齢者(とくに75歳以上)には、処方でさらに注意が必要となることが示された。今後も適正な治療を実施してほしい」とレクチャーを終えた。アステラス製薬 「STELLA-ELDER」中間報告はこちら(pdfが開きます)「SGLT2阻害薬」関連記事SGLT2阻害薬、CV/腎アウトカムへのベースライン特性の影響は/Lancet

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インクレチン製剤で膵がんリスクは増大するか/BMJ

 糖尿病治療薬であるインクレチン製剤による膵がんの発症リスクは、スルホニル尿素(SU)薬と変わらないことが、カナダ・マギル大学のLaurent Azoulay氏らが行ったCNODES試験で確認された。研究の成果は、BMJ誌オンライン版2016年2月17日号に掲載された。インクレチン製剤は低血糖のリスクが低く、体重への好ましい作用があるが、膵がんとの関連が示唆されている。インクレチン製剤の膵がんリスクについては、これまでに6件の観察研究があるが、結果は相反するものであり、方法論上の欠陥の指摘もあるという。97万例以上を追跡し、コホート内症例対照研究で関連を評価 CNODES試験は、2型糖尿病患者の治療におけるインクレチン製剤とその膵がんリスクの関連を検証する国際的な多施設共同コホート研究(カナダ保健省健康研究所の助成による)。 カナダ、米国、英国の6施設が参加し、2007年1月1日~13年6月30日の間に抗糖尿病薬による治療を開始した97万2,384例が解析の対象となった。 各参加施設においてコホート内症例対照研究を行った。膵がん発症例に対し、性別、年齢、登録日、糖尿病治療期間、フォローアップ期間をマッチさせた対照を最大20例まで設定した。 SU薬と比較したインクレチン製剤の膵がん発症のハザード比(OR)および95%信頼区間(CI)を推算した。また、薬剤のクラス別(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)および使用期間別(累積使用期間、治療開始後期間)の膵がんリスクの評価を行った。 DPP-4阻害薬はリナグリプチン、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチンが、GLP-1受容体作動薬にはエキセナチド、リラグルチドが含まれた。使用期間が長くなると、リスクが低下する傾向に 全体(97万2,384例)の平均年齢は56.9歳、男性が50.9%含まれた。各施設のフォローアップ期間中央値は1.3~2.8年であり、全体のフォローアップ期間は202万4,441人年だった。 この間に、1,221例が新規に膵がんを発症した(粗発症率:0.60/1,000人年)。背景因子をマッチさせた対照は2万2,298例であった。 対照群に比べ、膵がん群は肥満が少なかったが、糖尿病のコントロール不良やアルコール関連疾患を有する患者が多く、喫煙歴や急性/慢性膵炎歴を有する症例も多かった。 SU薬の使用例はインクレチン製剤使用例よりも年齢が若く、治療期間が長く、肥満の頻度が高く、HbA1c値が高かった。また、インクレチン製剤使用例は、細小血管合併症の診断例が少なかった。膵炎の既往例は両薬剤で同等だった。 SU薬と比較したインクレチン製剤の膵がん発症の補正HRは1.02(95%CI:0.84~1.23)であり、有意な差を認めなかった。また、SU薬に比べて、DPP-4阻害薬(補正HR:1.02、95%CI:0.84~1.24)およびGLP-1受容体作動薬(1.13、0.38~3.38)の膵がん発症リスクは、いずれも同等であった。 累積使用期間が1年未満の症例では、インクレチン製剤で膵がんリスクが増大したが有意ではなかった(補正HR:1.53、95%CI:0.93~2.51)。これに対し、有意差はないものの、投与期間が1~1.9年の症例ではリスクが低下し(1.07、0.82~1.39)、2年以上の症例ではむしろインクレチン製剤のほうがリスクは低くなった(0.62、0.36~1.07)。 治療開始後期間についても、インクレチン製剤の膵がんリスクに有意な影響はなかった(1~1.9年=HR:1.06、95%CI:0.86~1.31、2年以上:0.93、0.60~1.45)。 個々のインクレチン製剤についても、同様の知見が得られた。 著者は、「インクレチン製剤に起因するがんが潜在している可能性があるため監視を継続する必要があるが、これらの知見によりインクレチン製剤の安全性が再確認された」としている。

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DPP-4阻害薬は心不全入院リスクを高める可能性/BMJ

 2型糖尿病患者に対するDPP-4阻害薬使用をめぐる心不全リスクの増大について、中国・四川大学のLing Li氏らが、無作為化比較試験(RCT)および観察研究のシステマティックレビューとメタ解析を行った。その結果、心不全リスクを増加させるかどうかは、研究の追跡期間が相対的に短くエビデンスの質も低いため不確かであるが、心血管疾患またはそのリスクを有する患者においては非使用との比較で心不全による入院のリスクが増大する可能性があることを明らかにした。BMJ誌オンライン版2016年2月17日号掲載の報告より。無作為化比較試験43件、観察研究12件についてメタ解析 研究グループは、Medline、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)、ClinicalTrials.govを用いて2015年6月25日までの論文を検索し、成人2型糖尿病患者においてDPP-4阻害薬と、プラセボ/生活習慣改善/血糖降下薬を比較したRCT、非RCT、コホート研究ならびに症例対照研究で、心不全または心不全による入院のアウトカムを明確に報告した研究を選択した。 解析対象研究のスクリーニング、バイアスのリスク評価およびデータ収集は、研究者2人1組からなるチームがそれぞれ独立して行った。臨床試験と観察研究のデータはそれぞれメタ解析を行い、エビデンスの質はGRADEシステムを用いて評価するとともに、研究の異質性をコクランχ2検定とI2統計量を用いて検証した。 RCTは43件(6万8,775例)および観察研究12件(コホート研究9件、症例対照研究3件;177万7,358例)が本研究に組み込まれた。入院リスクは増大の可能性も 心不全について報告しているRCT38件を解析した結果、DPP-4阻害薬群と対照群との間で心不全のリスクに有意差は認められなかった(イベント数42/1万5,701 vs.33/1万2,591、オッズ比0.97、95%信頼区間[CI]:0.61~1.56)。リスク差、すなわち5年間における2型糖尿病患者1,000例当たりの心不全イベント数の差は、-2(95%CI:-19~+28)であった。ただし、バイアスリスク等のためエビデンスの質は低かった。観察研究でも臨床試験とほぼ同様の結果であったが、エビデンスの質は非常に低かった。 一方、心不全による入院に関しては、RCT5件の解析において、DPP-4阻害薬群で対照群よりリスクが増加することが示され、エビデンスの質は中等度であった(イベント数622/1万8,554 vs.552/1万8,474、オッズ比:1.13、95%CI:1.00~1.26)、リスク差は、8(95%CI:0~16)。観察研究では、DPP-4阻害薬群(シタグリプチン)と非使用群を比較した2件の統合解析の結果、DPP-4阻害薬群で心不全による入院のリスク増加が示唆されたが(統合調整オッズ比:1.41、95%CI:0.95~2.09)、エビデンスの質は非常に低かった。 著者は、「報告されたデータには限界があり、心不全による入院のリスク増加が1つのクラス効果なのかは不明である」と述べている。

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DPP-4阻害薬の動脈硬化抑制、インスリン治療患者でも

 順天堂大学の三田 智也氏らは、2型糖尿病患者においてDPP-4阻害薬(アログリプチン)投与による動脈硬化進展抑制をすでに報告している(Diabetes Care. 2016;39:139-48)。今回、同氏らは、動脈硬化が進展していると考えられるインスリン治療中の2型糖尿病患者でのDPP-4阻害薬の影響を検証するため、シタグリプチン併用による頸動脈内膜中膜複合体肥厚度(IMT)への影響を評価した。その結果、シタグリプチンが通常治療に比べて頸動脈IMTの進展を抑制させることが認められた。Diabetes Care誌オンライン版2016年1月28日号に掲載。 本試験(SPIKE試験:Sitagliptin Preventive Study of Intima-Media Thickness Evaluation)は前向き、無作為化、オープン、エンドポイントブラインド、多施設、並行群間比較研究である。12施設で募集した、心血管疾患の既往がないインスリン治療下の2型糖尿病患者282例を、シタグリプチン併用群(142例)と通常治療群(140例)にランダムに割り付けた。主要アウトカムは、治療開始104週後における超音波検査による頸動脈の平均IMTと最大IMTの変化とした。 主な結果は以下のとおり。・シタグリプチン併用群では、通常治療群と比較して、低血糖エピソードや体重増加を伴うことなく、より強力な血糖降下作用が認められた(-0.5±1.0% vs.-0.2±0.9%、p=0.004)。・平均IMTと左の最大IMTの変化量は、シタグリプチン併用群が通常治療群と比較し、有意に大きかった(平均IMT:-0.029 [SE 0.013] vs.0.024 [0.013]mm、p=0.005、左の最大IMT:-0.065[0.027] vs.0.022[0.026]mm、p=0.021)。右の最大IMTについては有意ではなかった(-0.007[0.031] vs. 0.027[0.031]mm、p=0.45)。・シタグリプチン併用群では、平均IMTと左の最大IMTについて、104週にわたって、ベースラインに対して有意に減少した。

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鋭い論文解説が勢ぞろい!【CLEAR!ジャーナル四天王 2015年トップ30発表】

臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、日本の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しているNPO法人です。本企画『CLEAR!ジャーナル四天王』では、CareNet.comで報道された海外医学ニュース『ジャーナル四天王』に対し、鋭い視点で解説します。コメント総数は約450本(2015年11月時点)。今年掲載された150本以上のコメントの中から、アクセス数の多かった解説記事のトップ30を発表します。1位高齢者では、NOACよりもワルファリンが適していることを証明した貴重なデータ(解説:桑島 巖氏)(2015/5/20)2位LancetとNEJM、同じデータで割れる解釈; Door-to-Balloon はどこへ向かうか?(解説:香坂 俊氏)(2015/1/9)3位FINGER試験:もしあなたが、本当に認知症を予防したいなら・・・(解説:岡村 毅氏)(2015/3/20)4位降圧は「The faster the better(速やかなほど、よし)」へ(解説:桑島 巖氏)(2015/4/3)5位MRIが役に立たないという論文が出てしまいましたが…(解説:岡村 毅氏)(2015/7/22)6位DAPT試験を再考、より長期間(30ヵ月)のDAPTは必要か?(解説:中川 義久氏)(2015/1/8)7位やはり優れたワルファリン!(解説:後藤 信哉氏)(2015/8/19)8位ヘパリンブリッジに意味はあるのか?(解説:後藤 信哉氏)(2015/7/8)9位市中肺炎患者に対するステロイド投与は症状が安定するまでの期間を短くすることができるか?(解説:小金丸 博氏)(2015/2/18)10位CKD合併糖尿病患者では降圧治療は生命予後を改善しない?(解説:浦 信行氏)(2015/6/9)11位ワルファリン出血の急速止血に新たな選択肢?(解説:後藤 信哉氏)(2015/4/6)12位SPRINT試験:厳格な降圧が心血管発症を予防、しかし血圧測定環境が違うことに注意!(解説:桑島 巖氏)(2015/11/13)13位なんと!血糖降下薬RCT論文の1/3は製薬会社社員とお抱え医師が作成(解説:桑島 巖氏)(2015/7/14)14位COSIRA試験:血管を開けるのか?それとも、閉じるのか? 狭心症治療に新たな選択肢(解説:香坂 俊氏)(2015/3/27)15位SORT OUT VI試験:薬剤溶出性ステント留置は成熟した標準治療となった!(解説:平山 篤志氏)(2015/2/10)16位心血管リスクと関係があるのはHDL-C濃度ではなくその引き抜き能(解説:興梠 貴英氏)(2015/1/21)17位SPRINT試験:75歳以上の後期高齢者でも収縮期血圧120mmHg未満が目標?(解説:浦 信行氏)(2015/11/18)18位鼻腔から集中治療を行える時代へ:ハイフロー鼻腔酸素療法(解説:倉原 優氏)(2015/6/3)19位働き過ぎは、脳卒中のリスク!(解説:桑島 巖氏)(2015/8/31)20位CLEAN試験:血管内カテーテル挿入時の皮膚消毒はクロルヘキシジン・アルコール(解説:小金丸 博氏)(2015/10/30)21位IMPROVE-IT試験:LDL-コレステロールは低ければ低いほど良い!(解説:平山 篤志氏)(2015/6/22)22位なぜ心房細動ばかりが特別扱い?(解説:後藤 信哉氏)(2015/10/5)23位LDL-コレステロール低下で心血管イベントをどこまで減少させられるか?(解説:平山 篤志氏)(2015/4/21)24位EMPA-REG OUTCOME試験:試験の概要とその結果が投げかけるもの(解説:吉岡 成人氏)(2015/10/1)25位DPP-4阻害薬の副作用としての心不全-アログリプチンは安全か…(解説:吉岡 成人氏)(2015/4/14)26位食後血糖の上昇が低い低glycemic index(GI)の代謝指標への影響(解説:吉岡 成人氏)(2015/1/6)27位抗うつ薬、どれを使う? 選択によって転帰は変わる?(解説:岡村 毅氏)(2015/3/3)28位治療抵抗性高血圧の切り札は、これか?~ROX Couplerの挑戦!(解説:石上 友章氏)(2015/2/20)29位デブと呼んでごめんね! DEB改めDCB、君は立派だ(解説:中川 義久氏)(2015/9/30)30位問診と自己申告で全死亡が予測できる?(解説:桑島 巖氏)(2015/7/6)今回ご紹介しました「CLEAR!ジャーナル四天王」とは他にも、人気のランキングはこちらをどうぞ

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週1回のDPP-4阻害薬、メカニズムと安全性は?

 2015年11月27日都内にて、オマリグリプチン(商品名:マリゼブ)新発売を受けて「糖尿病治療における週1回投与のDPP-4阻害薬の役割」をテーマにメディアセミナーが開催された(主催:MSD株式会社)。以下、セミナーの概要を伝える。2型糖尿病治療に大きな影響をもたらした「DPP-4阻害薬」 DPP-4阻害薬は「血糖依存的にインスリン分泌量を調節する」というこれまでにないアプローチで、日本の2型糖尿病市場で大きな存在感を放っている。事実、2009年に本邦初のDPP-4阻害薬・シタグリプチン(商品名:ジャヌビア、グラクティブ)の発売以来、DPP-4阻害薬は、現在日本の2型糖尿病市場においてシェア第1位を誇っている。しかし、依然として糖尿病治療薬の服薬順守率は決して高くはない。そのため、服薬負担が少なく、患者の多様なライフスタイルに対応できる薬剤の登場が望まれている。週1回で効果が続くメカニズム オマリグリプチンは2015年11月26日に発売となった、本邦2成分目の週1回投与・長時間作用型DPP-4阻害薬である。本薬剤が長時間作用するのは、主に以下の4つの働きが関与し、半減期が延長したためである(t1/2=82.5時間)。(1)肝代謝をほとんど受けない(2)特定の組織に蓄積せず、分布容積が大きい(3)血流にのって腎臓へ移行する薬物量が少なく、濾過量が少ない(4)尿細管で薬剤の大部分が再吸収され、再び全身循環する有効性・安全性は連日投与製剤と同程度 国内第III相臨床試験の結果より、本薬剤はシタグリプチンと同程度の有効性、忍容性・安全性を有していることが示唆された。さらに、スルホニル尿素薬、ビグアナイド薬など他の経口糖尿病治療薬との併用においても臨床効果が確認された。 なお、本剤は腎排泄型の薬剤であるため重度腎機能障害のある患者、末期腎不全患者(eGFR<30)は減量して使用する必要がある点に注意が必要である。週1回製剤のメリット 現在、海外における本剤の心血管安全性を評価する大規模臨床試験が進行中であり、さらなるエビデンスが収集されている。試験結果によっては、2型糖尿病治療薬においてDPP-4阻害薬の重要性はますます高まってくる。 演者の石井 均氏(奈良県立医科大学 糖尿病学講座 教授)は、「週1回投与のDPP-4阻害薬によって、従来の血糖降下作用に加えて、その利便性が患者のQOLにも好影響を及ぼす可能性がある。これは患者にとって非常に大きなメリットとなる」と強調し、セミナーを結んだ。プレスリリースはこちら(ケアネット 中野 敬子)関連コンテンツマリゼブ新発売情報

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