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1901.

認知症入院患者におけるせん妄の発生率とリスク因子

 入院中の認知症高齢者におけるせん妄の発生率および関連するリスク因子を特定するため、中国・中日友好病院のQifan Xiao氏らは本調査を実施した。その結果、入院中の認知症高齢者におけるせん妄の独立したリスク因子として、糖尿病、脳血管疾患、ビジュアルアナログスケール(VAS)スコア4以上、鎮静薬の使用、血中スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)レベル129U/mL未満が特定された。American Journal of Alzheimer's Disease and Other Dementias誌2023年1~12月号の報告。 対象は、2019年10月~2023年2月に総合病棟に入院した65歳以上の認知症患者157例。臨床データをレトロスペクティブに分析した。対象患者を、入院中のせん妄発症の有無により、せん妄群と非せん妄群に割り付けた。患者に関連する一般的な情報、VASスコア、血中CRPレベル、血中SODレベルを収集した。せん妄の潜在的なリスク因子の特定には単変量解析を用い、統計学的に有意な因子には多変量ロジスティック回帰分析を用いた。ソフトウェアR 4.03を用いて認知症高齢者におけるせん妄発症の予測グラフを構築し、モデルの検証を行った。 主な結果は以下のとおり。・認知症高齢者157例中、せん妄を経験した患者は42例であった。・多変量ロジスティック回帰分析では、入院中の認知症高齢者におけるせん妄の独立したリスク因子として、糖尿病、脳血管疾患、VASスコア4以上、鎮静薬の使用、血中SODレベル129U/mL未満が特定された。・5つのリスク因子に基づく予測ノモグラムをプロットしたROC曲線分析では、AUCが0.875(95%信頼区間:0.816~0.934)であった。・予測モデルはブートストラップ法で内部検証し、予測結果と実臨床結果はおおむね一致していることが確認された。・Hosmer-Lemeshow検定により、予測モデルの適合性と予測能力の高さが実証された。 著者らは「本予測モデルは、入院中の認知症高齢者におけるせん妄を高精度で予測可能であり、臨床応用する価値がある」と述べている。

1902.

AI耐性HR+進行乳がんへのフルベストラント+capivasertib、日本人解析結果(CAPItello-291試験)/日本癌治療学会

 アロマターゼ阻害薬(AI)耐性のホルモン受容体陽性(HR+)HER2陰性(HER2-)進行乳がん(切除不能の局所進行もしくは転移・再発乳がん)に対するフルベストラントへのAKT阻害薬capivasertibの上乗せ効果を検討した第III相CAPItello-291試験の日本人サブグループ解析結果を、九州がんセンターの徳永 えり子氏が第61回日本癌治療学会学術集会(10月19~21日)で発表した。CAPItello-291試験で日本人サブグループのPFS中央値が長い理由・対象:閉経前/後の女性もしくは男性のHR+/HER2-の進行乳がん患者(AI投与中/後に再発・進行、進行がんに対して2ライン以下の内分泌療法・1ライン以下の化学療法、CDK4/6阻害薬治療歴ありも許容、SERD・mTOR阻害薬・PI3K阻害薬・AKT阻害薬の治療歴は不可、HbA1c 8.0%未満)・試験群(capi群):capivasertib(400mg1日2回、4日間投与、3日間休薬)+フルベストラント(500mg) 37例(グローバル:355例)・対照群(プラセボ群):プラセボ+フルベストラント 41例(353例)・評価項目:[主要評価項目]全体集団およびAKT経路(PIK3CA、AKT1、PTENのいずれか1つ以上)に変異のある患者集団における無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]全体集団およびAKT経路に変異のある患者集団における全生存期間(OS)、奏効率(ORR)など[層別化因子]CDK4/6阻害薬治療歴の有無、肝転移の有無など CAPItello-291試験の日本人サブグループ解析の主な結果は以下のとおり。・ベースライン特性は両群でバランスがとれており、年齢中央値は両群で61歳、閉経後患者はcapi群78.4% vs.プラセボ群70.7%だった。肝転移ありが29.7% vs.31.7%でグローバル(43.9% vs.42.5%)と比較すると少なく、ECOG PS 0が94.6% vs.85.4%と多かった(63.1% vs.68.3%)。・ベースラインで進行がんに対して1ラインの内分泌療法歴のある患者は51.4% vs.43.9%、CDK4/6阻害薬治療歴のある患者は13.5% vs.19.5%とそれぞれグローバル(80.8% vs.71.4%、69.0% vs.69.1%)と比較すると少なかった。・AKT経路に変異のある患者は51.4% vs.46.3%とグローバル(43.7% vs.38.0%)と比較してやや多かった。・全体集団におけるPFS中央値は、Capi群13.9ヵ月vs.プラセボ群7.6ヵ月(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.40~1.28)となり、Capi群で臨床的に意義のある改善が認められた(グローバルでは7.2ヵ月vs.3.6ヵ月、HR:0.60、95%CI:0.51~0.71、両側p<0.001)。・AKT経路に変異のある患者集団におけるPFS中央値は、Capi群13.9ヵ月vs.プラセボ群9.1ヵ月(HR:0.65、95%CI:0.29~1.39)となり、Capi群で臨床的に意義のある改善が認められた(グローバルでは7.3ヵ月vs.3.1ヵ月、HR:0.50、95%CI:0.38~0.65、両側p<0.001)。・ORRは全体集団でCapi群29.4% vs.プラセボ群22.0%(グローバルでは22.9% vs.12.2%)、AKT経路に変異のある患者集団で27.8% vs.15.8%(28.8% vs.9.7%)で、グローバルと同様の傾向がみられた。・重篤な有害事象(SAE)はCapi群で13.5%に認められ、グローバル(16.1%)と同様だったが、AEによる試験薬の中止(日本人サブグループ56.8%、グローバル34.9%)およびAEによる試験薬の減量(27.0%、19.7%)は日本人集団で多い傾向がみられた。・Capi群の安全性プロファイルはグローバルと同様で、多く認められたAEは下痢(73.0%)、皮疹(48.6%)、口内炎(29.7%)など。皮疹と口内炎は日本人サブグループで多い傾向がみられた。 徳永氏は日本人サブグループにおけるPFS中央値がグローバルより長いのは、ベースラインでECOG PS 0の患者の割合が多く、肝転移のある患者が少なく、進行がんに対する内分泌/化学療法歴あるいはCDK4/6阻害薬による治療歴のある患者が少なかったことによる可能性があると考察。グローバルでのCAPItello-291試験の結果と同様に、日本の患者におけるcapivasertib+フルベストラント併用療法のベネフィットとリスクのプロファイルは良好であり、将来の治療選択肢となる可能性があるとまとめている。

1903.

STEMI-PCIへの長期的有効性、BP-SES vs. DP-EES/Lancet

 初回経皮的冠動脈インターベンション(プライマリPCI)を受けるST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者において、生分解性ポリマー・シロリムス溶出ステント(BP-SES)は耐久性ポリマー・エベロリムス溶出ステント(DP-EES)と比較して、5年の時点での標的病変不全の発生が少なく、この差の要因は虚血による標的病変の再血行再建のリスクがBP-SESで数値上は低いためであったことが、スイス・ジュネーブ大学病院のJuan F. Iglesias氏らが実施した「BIOSTEMI ES試験」で示された。研究の成果はLancet誌オンライン版2023年10月25日号で報告された。スイスの無作為化試験の延長試験 BIOSTEMI ES試験は、STEMI患者に対するプライマリPCIにおけるBP-SES(Orsiro、Biotronik製)とDP-EES(Xience Prime/Xpedition、Abbott Vascular製)の有用性を比較した前向き単盲検無作為化優越性試験「BIOSTEMI試験」の、医師主導型延長試験である(Biotronikの助成を受けた)。BIOSTEMI試験では、2016年4月~2018年3月にスイスの10施設で患者の無作為化を行った。 BIOSTEMI試験の参加者のうちBIOSTEMI ES試験への参加の同意を得た患者を対象とした。 主要エンドポイントは、5年時点での標的病変不全(心臓死、標的血管の心筋梗塞再発、臨床所見に基づく標的病変の再血行再建の複合)であった。率比(RR)が1未満となるベイズ事後確率(BPP)が0.975より大きい場合に、DP-EES(対照)に対してBP-SESは優越性があると判定した。解析はITT集団で行った。全死因死亡やステント血栓症には差がない 1,300例(1,622病変)を登録し、BP-SES群に649例(816病変)、対照群に651例(806病変)を割り付けた。平均年齢は、BP-SES群が62.2(SD 11.8)歳、対照群が63.2(SD 11.8)歳で、それぞれ136例(21%)および174例(27%)が女性であり、73例(11%)および82例(13%)が糖尿病を有していた。 5年時点で、標的病変不全の発生は対照群が72例(11%)であったのに対し、BP-SES群は50例(8%)と少なく、優越性を認めた(群間差:-3%、RR:0.70、95%ベイズ信用区間[BCI]:0.51~0.95、BPP:0.988)。 5年時の標的病変不全の3つの項目の発生については、心臓死がBP-SES群5%、対照群6%(RR:0.81、95%BCI:0.54~1.23、BPP:0.839)、標的血管の心筋梗塞再発がそれぞれ2%および3%(0.76、0.41~1.34、0.833)、臨床所見に基づく標的病変の再血行再建が3%および5%(0.68、0.40~1.06、0.956)であり、5年時の主要エンドポイントの差は標的病変の再血行再建のリスクがBP-SES群で数値上低かったためであった。 また、5年時の標的血管不全(心臓死、標的血管の心筋梗塞再発、臨床所見に基づく標的血管の再血行再建)の発生は、対照群に比べBP-SES群で有意に低く(10% vs.13%、RR:0.74、95%BCI:0.55~0.97、BPP:0.984)、この差は臨床所見に基づく標的血管の再血行再建(4% vs.6%、0.59、0.34~0.98、0.979)のリスクがBP-SES群で有意に低かったことによるものであった。 5年時の全死因死亡(BPP:0.456)、ステント血栓症(definite)(0.933)、ステント血栓症(definiteまたはprobable)(0.887)、出血イベント(BARC type3~5)(0.477)の発生は、いずれも両群で同程度だった。 著者は、「新世代の生分解性ポリマー薬剤溶出ステントは、STEMI患者へのプライマリPCIにおいて、早期だけでなく長期的な臨床アウトカムの改善をもたらすことが明らかとなった」とまとめ、「本試験の結果は、BP-SESにはSTEMI患者におけるlate catch-up現象がないことを示している」としている。

1904.

小容量の採血管への切り替えでICU患者の輸血回数が減少

 集中治療室(ICU)に入室中の患者では、状態把握のために毎日、複数回の血液検査が行われる。この際、多くの病院で採血に用いられている標準的なサイズの採血管を小容量のものに変更することで患者に対する輸血の必要性が減り、赤血球製剤の大幅な節約につながり得ることが、大規模臨床試験で示された。オタワ病院(カナダ)のDeborah Siegal氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に10月12日掲載された。 Siegal氏は、「採血管1本当たりの採血量は比較的少ないが、ICU入室患者は通常、毎日、複数回の採血を必要とする。これにより大量の血液が失われ、貧血や赤血球数の減少がもたらされる可能性がある。しかし、ICU入室患者には、このような失血に対処できるような造血機能がないため、たいていの場合、赤血球製剤の輸血が必要になる」と説明する。 ほとんどの病院で用いられている標準的な採血管の場合、1本当たり4〜6mLの血液が自動的に採取される。しかし、通常の臨床検査で必要とされる血液量は0.5mL以下である。つまり、標準的な採血管を使っての採血では、採取した血液の90%以上が無駄になるということだ。これに対して、小容量(1.8〜3.5mL)の採血管は内部の真空度が低いため、自動的に採取される血液の量が標準的な採血管の半分程度になる。 この試験では、カナダの25カ所のICUを対象に、標準的な採血管から小容量の採血管に切り替えることで、血液検査に影響を与えることなく患者への輸血頻度を減らせるのかが評価された。試験は、コンピューターが生成したランダム化スケジュールに則り、クラスター(ICU)単位で介入時期をランダム化するStepped-wedgeクラスターランダム化比較試験のデザインで実施された。対象は、ICU入室が48時間未満の患者を除外した2万7,411人で、主要評価項目は、患者ごとのICU入室当たりの赤血球製剤輸血の単位(1回の献血で作成される製剤が1単位)であった。 その結果、赤血球製剤輸血の単位の最小二乗平均は、小容量の採血管への切り替え前で0.80(95%信頼区間0.61〜1.06)、切り替え後で0.71(同0.53〜0.93)であり、相対リスクは0.88(95%信頼区間0.77〜1.00、P=0.04)と切り替え前後で有意な差が認められた。切り替え前後でのICU入室患者100人当たりでの赤血球製剤輸血の単位の絶対差は9.84(95%信頼区間0.24〜20.76)単位であった。切り替え前後で、採血量が不十分で検査に支障が生じた例はまれだった(0.03%以下)。 こうした結果を受けてSiegal氏は、「この研究により、標準的な採血管から小容量の採血管に切り替えるだけで、血液検査に支障を来すことなく、ICU入室患者に対する赤血球製剤の輸血頻度を減らすことができる可能性のあることが明らかになった」と結論付けている。その上で、「誰もが、医療をより持続可能なものにし、赤血球製剤の供給を維持するための方法を模索している今の時代において、この研究は、悪影響を及ぼすこともコストを増加させることもなく簡単に実施できる解決策を提供するものだ」と述べている。

1906.

ESMO2023 レポート 乳がん

レポーター紹介はじめにESMO Congress2023が10月20日から24日の間、スペイン・マドリードで開催されました。155の国から3万3,000人以上の参加者があり、2,600演題を超える研究成果が発表されました。今年は、非常に重要なPhase3試験の結果が数多く報告され、今後の診療に影響を与える興味深い結果も多く報告されました。今回は乳がん領域で、非常に話題となったいくつかの演題をピックアップして今後の展望を考えてみたいと思います。周術期乳がん演題1)ホルモン受容体陽性(HR+)HER2陰性(HER2-)乳がん今年は、術前化学療法を行うようなHR+/HER2-乳がんに対して、周術期に免疫チェックポイント阻害薬を使用するランダム化比較第III相試験が2つ報告されました(CheckMate 7FL試験とKEYNOTE-756試験)。いずれも、主要評価項目である病理学的完全奏効割合(pCR[ypT0/is ypN0])については、免疫チェックポイント阻害薬併用によって向上することが示されました。CheckMate 7FL試験(NCT04109066、LBA20)本試験では、新規発症のER陽性(ER+)/HER2-乳がん(病期T1c~2、N1~2個またはT3~4、N0~2個、Grade2[かつER 1~10%]またはGrade3[かつER≧1%])と診断された早期乳がん患者521例が組み入れられました。患者は抗PD-1抗体のニボルマブ群またはプラセボ群に無作為に割り付けられました。術前化学療法相では、患者はニボルマブまたはプラセボとパクリタキセルの併用投与を受け、次いでニボルマブまたはプラセボとAC療法の併用投与を受けました。ニボルマブ360mgを3週ごとに、または240mgを2週ごとに投与されました。手術後、両群の患者は、治験責任医師が選択した内分泌療法を受けました。ニボルマブ投与群では、術後治療としてニボルマブ480mgを4週ごとに7サイクル投与されています。全体として、ニボルマブ群では89%、プラセボ群では91%の患者が手術を受けました。結果として、pCR率はニボルマブ群で24.5%、プラセボ群で13.8%(オッズ比[OR]:2.05、95%信頼区間[CI]:1.29~3.27、p=0.0021)であり、統計学的に有意な改善を示しました。とくに、SP142のPD-L1陽性(IC≧1)患者のpCR率はニボルマブ群で44.3%、プラセボ群で20.2%(OR:3.11、95%CI:1.58~6.11)であり、24.1%の差を認めました。KEYNOTE-756試験(NCT03725059、LBA21)本試験では、新規発症のER+/HER2-乳がん(病期T1c~2かつN1~2個、またはT3~4かつN0~2個、Grade3、中央判定)と診断された早期乳がん患者1,278例が組み入れられ、抗PD-1抗体のペムブロリズマブ群またはプラセボ群に無作為に割り付けられました。術前化学療法相では、患者はペムブロリズマブまたはプラセボとパクリタキセルの併用投与を受け、次いでペムブロリズマブまたはプラセボとAC療法またはEC療法の併用投与を受けました。手術後、患者はペムブロリズマブ200mgまたはプラセボを3週間ごとに6ヵ月間投与され、内分泌療法を最長10年間受け、適応があれば放射線療法を受けました。本試験の2つの主要評価項目は、ITT集団における最終手術時pCR(ypT0/TisおよびypN0)割合、およびITT集団における治験責任医師評価による無イベント生存期間(EFS)でした。主要評価項目のpCR割合は、ペムブロリズマブ群24.3%、プラセボ群15.6%であり、統計学的に有意な改善を示しました(推定差:8.5%[95%CI:4.2~12.8]、p=0.00005)。とくに、75%程度を占める22C3のPD-L1陽性(CPS≧1)患者において、pCR割合の差は9.8%(95%CI:4.4~15.2)であり、PD-L1陰性(CPS2)トリプルネガティブ乳がん NeoTRIP試験(NCT002620280、LBA19)NeoTRIP試験は、TNBC患者を、nab-パクリタキセルとカルボプラチンを8サイクル投与する群(化学療法群)とnab-パクリタキセルとカルボプラチンにアテゾリズマブを追加投与する群(アテゾリズマブ群)に無作為に割り付けた試験です。主要評価項目はEFS、副次評価項目はpCR割合で、以前にpCR割合のみが報告されていました。ITT解析において、アテゾリズマブ投与後のpCR割合(48.6%)は、アテゾリズマブ非投与(44.4%;OR:1.18、95%CI:0.74~1.89、p=0.48)と比較して統計学的有意な改善を認めませんでした。多変量解析では、PD-L1発現の有無がpCR率に最も影響する因子でした(OR:2.08)4)。今回発表のあった、追跡期間中央値54ヵ月後のEFS率は、アテゾリズマブ非投与の化学療法単独群74.9%に対してアテゾリズマブ+化学療法群70.6%でした(HR: 1.076、95%CI:0.670~1.731)。このため、主要評価項目のEFSも統計学的有意差を示せなかったという結果でした。アテゾリズマブを使用した術前抗がん剤として、IMpassion 031試験はpCRの改善は認めましたが、DFSやOSは検討できない症例数で、ESMO BC2023における報告では、明らかな有意差を示していませんでした。一方で、KEYNOTE-522の結果は、前述の通りペムブロリズマブ追加でpCRも改善して、EFSも改善していましたので、真逆の結果でした。NeoTRIP試験のKEYNOTE-522試験と異なる点は、術後療法では免疫チェックポイント阻害薬を使用しないこと、術前抗がん剤治療として免疫チェックポイント阻害薬の併用ではアントラサイクリン系薬剤は使用しないこと、異なる免疫チェックポイント阻害薬を使用していることがありましたが、どのくらいこういった要素が影響するかは定かではありません。転移・再発乳がん演題1)HR+/HER2-乳がん TROPION-Breast01試験(NCT05104866、LBA11)本試験では、手術不能または転移を有するHR+/HER2-(IHC 0、IHC 1+またはIHC 2+、ISH陰性)乳がん患者732例が組み入れられました。ECOG PS 0~1、内分泌療法で進行を認め内分泌療法が適さない患者であり、全身化学療法を1~2ライン受けた患者が対象となっています。患者は、datopotamab deruxtecan(Dato-DXd)(6mg/kgを1日目に投与、3週おき)を投与する群、または医師が選択した化学療法(エリブリン、ビノレルビン、カペシタビン、ゲムシタビン)を投与する群に1:1で無作為に割り付けられました。主要評価項目は、RECISTv1.1に基づく盲検下独立中央判定(BICR)による無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)でした。本試験の結果、BICRによるPFS中央値はDato-DXd群6.9ヵ月、医師選択化学療法群4.9ヵ月、HR0.63(95% CI:0.52~0.76、p<0.0001)と、有意にDato-DXd群のPFSが良好でした。奏効割合はDato-DXd群36.4%、医師選択化学療法群22.9%でした。OSについては、イベントが不十分な状況でしたが、Dato-DXd群で良好な傾向が認められ、HR0.84(95% CI:0.62~1.14)でした。治療関連有害事象(TRAE)はDato-DXd群で94%、医師選択化学療法群で86%に発生したのですが、Grade 3以上のTRAE割合は、Dato-DXd群で21%対医師選択化学療法群で45%と、Dato-DXd群で低い頻度でした。また、薬剤関連の間質性肺疾患はDato-DXd群で3%、ただしほとんどがGrade 1か2でした。画像を拡大するこれまでにHR+/HER2-(低発現)乳がんに対するランダム化比較第III相試験で、有効性を検証した抗体薬物複合体(ADC:antibody drug conjugate)は3つ目ということになります。HER2低発現に対するT-DXdはすでに保険適用となっていますが、Destiny Breast 04試験の結果、2次治療以降の症例でPFS、OSが医師選択化学療法よりも良好であることが示されています。ESMOではOSのupdate結果が報告され、HR陽性群のT-DXd群の成績は、OS中央値が23.9ヵ月で、HR0.69(95%CI:0.55~0.87)と、これまでの報告の有効性が維持されていました。また、TROP2に対するADCとして、sacituzumab govitecan(SG)があり、こちらもTROPiCS-02試験の結果、PFS、OSが医師選択化学療法よりも良好であることが示されています。SGは2023年10月時点で、まだ日本では承認されていませんが、将来的に承認されることが期待されている薬剤です。実臨床ではまだDato-DXdは使用できませんが、仮にこれら3剤が使用可能な場合のHR陽性HER2陰性乳がんのADCシークエンスはどうなるでしょうか。いずれにせよ、臨床試験で組み入れられた症例はTROPION-Breast01とDestiny Breast04試験は1~2ラインの抗がん剤治療歴がある患者、TROPiCS-02試験は全身化学療法を2~4ライン受けた患者が対象でした。このため、2次治療以降のADCシークエンスが検討されます。HER2低発現であればOS改善効果が証明されている現状では、T-DXdが2次治療では優先されると思います。さらに、3次治療となればSGのほうはOS改善効果が証明されているので、同じTROP2のADCではSGの方が優先されると思います。一方で、HER2 0の症例では、現時点ではT-DXdは使用されませんので、2次治療での有効性はDato-DXdが優先され、3次治療でSGが検討されるのかと考えます。今後、現在進行中のDESTINY-Breast06試験の結果により、1次治療や、HER2 0の症例でのT-DXdの有効性が報告されることが期待されます。さらに、ADCのシークエンスが本当に臨床試験通り有効か? という点は非常に議論されているところですので、今後のリアルワールドデータや、臨床研究の結果が待たれます。2)トリプルネガティブ乳がん BEGONIA試験(NCT03742102、379MO)BEGONIA試験は、進行転移トリプルネガティブ乳がん患者として化学療法歴がない患者を対象とした、デュルバルマブとその他の薬剤との併用療法の有効性を複数のコホートで検討するPhaseIb/II試験です。いくつもの試験治療群がありますが、Dato-DXdと抗PD-L1療法であるデュルバルマブの併用療法を検討したアーム7の有効性と安全性については、昨年2022年のサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)において、7.2ヵ月のフォローアップ中央値の結果として報告されていました。PD-L1発現が低い症例が53例(86.9%) (Tumor Area Positivity1)von Minckwitz G, et al. J Clin Oncol. 2012;30:1796-804.2)Masuda J, et al. J Immunother Cancer. 2023;11:e007126.3)Jerusalem G, et al. Breast. 2023;72:103580.4)Gianni L, et al. Ann Oncol. 2022;33:534-543.5)Modi S, et al. N Engl J Med. 2022;387:9-20.6)Rugo HS, et al. J Clin Oncol. 2022;40:3365-3376.7)Rugo HS, et al. Lancet. 2023;402:1423-1433.

1907.

HER2+乳がん脳転移例、T-DXdで高い頭蓋内奏効率とCNS-PFS改善(DESTINY-Breast01、02、03プール解析)/ESMO2023

 トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)のDESTINY-Breast01、02、03試験において、ベースライン時に脳転移のあったHER2陽性乳がん患者の探索的プール解析の結果、既治療で安定した脳転移患者および未治療で活動性の脳転移患者で高い頭蓋内奏効率(ORR)が示された。また、中枢神経系無増悪生存期間(CNS-PFS)は、とくに未治療で活動性の脳転移患者において顕著な改善がみられた。米国・Fred Hutchinson Cancer Center, University of WashingtonのSara A. Hurvitz氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)で発表した。・対象:DESTINY-Breast01、02試験(トラスツズマブ エムタンシンに抵抗性または不応例)およびDESTINY-Breast03試験(トラスツズマブおよびタキサン系抗がん剤による既治療例)で、ベースライン時に脳転移のあったHER2陽性乳がん患者・方法:ベースライン時に既治療で安定した脳転移患者と未治療で活動性脳転移患者に分け、T-DXd群と対照薬群で比較・評価項目:盲検下独立中央判定(BICR)による頭蓋内ORR(頭蓋内完全奏効[CR]/部分奏効[PR])、頭蓋内奏効期間(DOR)、BICRによるCNS-PFS、安全性 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時に脳転移のあった患者はT-DXd群148例、対照薬群83例、そのうち再発乳がんがそれぞれ85例、51例だった。脳転移患者での前治療歴の中央値は3レジメン(範囲:1.0~14.0)だった。・頭蓋内ORRは、既治療で安定した脳転移患者においてT-DXd群が45.2%(CR:17例/PR:30例)、対照薬群が27.6%(CR:2例/PR:14例)、未治療の活動性脳転移患者においてT-DXd群が45.5%(CR:7例/PR:13例)、対照薬群が12.0%(CR:0例/PR:3例)と、どちらもT-DXd群が高かった。・頭蓋内DOR中央値は、既治療で安定した脳転移患者において、T-DXd群12.3ヵ月vs.対照薬群11.0ヵ月、未治療の活動性転移患者ではT-DXd群17.5ヵ月vs.対照薬群NAだった。・CNS-PFS中央値は、既治療で安定した脳転移患者ではT-DXd群12.3ヵ月vs.対照薬群8.7ヵ月(ハザード比[HR]:0.5905、95%信頼区間[CI]:0.3921~0.8895)、未治療の活動性脳転移患者で18.5ヵ月vs.4.0ヵ月(HR:0.1919、95%CI:0.1060~0.3473)と、どちらもT-DXd群で延長し、とくに未治療の活動性脳転移患者で顕著だった。・脳転移患者におけるT-DXdの安全性プロファイルは認容可能で管理可能であり、全患者集団と同等であった。 Hurvitz氏は「T-DXdは、HER2陽性で既治療で安定した脳転移患者および未治療で活動性脳転移患者に対して有効で、許容可能で管理可能な安全性プロファイルを持つ治療オプションである」と結論した。

1908.

若者のうつ病に対する孤独感の影響

 COVID-19パンデミックは、孤立の長期化や社会的関係の混乱をもたらし、それに伴って学生の孤独感は増大した。孤独は、うつ病を含むさまざまな精神疾患と関連しており、自傷行為や自殺など、重大な事態を引き起こす可能性がある。中国・広東技術師範大学のM-Q Xiao氏らは、孤独感がうつ病に影響を及ぼす要因について調査を行った。European Review for Medical and Pharmacological Sciences誌2023年9月号の報告。 COVID-19パンデミック中に中国広東省広州市の中等教育および高等教育を受けていた学生879人を対象に、アンケート調査を実施した。収集したデータは、包括的に分析した。 主な結果は以下のとおり。・データの分析により、孤独感がうつ病に対し、有意な正の予測効果を示すことが明らかとなった。・孤独感とうつ病の症状との関係に、目標思考のアプローチとレジリエンスが部分的に関連していることが示唆された。・レジリエンスや目標へのフォーカスは、表現抑制や認知的再評価のレベルとは無関係に、メディエーターとして特定された。・認知的再評価は、孤独感とうつ病とのメディエーターとして、負の緩和効果を示した。・表現抑制は、孤独感とうつ病との関係を明確に媒介しており、この関係ではレジリエンスが役割を果たしていた。 著者らは、「本調査結果により、COVID-19パンデミック中は、社交や対人関係を通じてネガティブな感情を軽減できなかったことが、孤独感の増大や、その後のうつ病発症につながっていたことが示された」とし、以下のようにまとめている。 レジリエンスについては、孤独感による低下が、好ましくない対人関係の経験を人生の他の側面に投影すること、自身は困難を克服する能力に欠けると思い込むことにつながり、それによってうつ状態を悪化させる可能性がある。また、その向上は、パンデミックにより起きた変化により良く適応し、うつ病リスクの軽減に寄与すると考えられるという。目標へのフォーカスについては、高い場合には、自身の経験からの学び、生活リズムの調整、うつ病レベルが低い傾向などが認められた。このことから、うつ病リスク軽減に、目標へのフォーカス向上を目指した介入が有用であることが示唆された。 さらに、自身の不幸の表現を抑制している場合は、うつ病レベルが上昇する可能性があるが、認知的再評価スキルが高い場合には、困難な状況に対する認知的視点を変えることで、うつ病リスクの低下につながる傾向がある、としている。

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2型糖尿病の罹病期間と大脳皮質の厚さとの間に負の関連

 2型糖尿病患者の罹病期間と大脳皮質の厚さとの間に、負の関連が見られるとする報告が発表された。米ミシガン大学アナーバー校のEvan L. Reynolds氏らが米国先住民を対象に行った研究の結果であり、詳細は「Annals of Clinical and Translational Neurology」に7月30日掲載された。大脳皮質の厚さ以外にも、灰白質体積の減少や白質高信号領域の体積の増加という関連が認められたという。 認知症の有病率が世界的に上昇しており、その理由の一部は肥満や2型糖尿病の増加に起因するものと考えられている。また、糖尿病合併症と認知機能低下との関連も報告されている。一方、米国先住民であるピマインディアンは肥満や2型糖尿病の有病率が高く、糖代謝以外の代謝異常や慢性腎臓病の有病率も高い。しかしこれまでのところ、この集団を対象とする認知症リスクの詳細な検討は行われていない。これを背景としてReynolds氏らは、2型糖尿病罹病歴の長いピマインディアン51人を対象として、認知機能検査および脳画像検査による認知症リスクの評価結果と、糖代謝マーカーを含めた代謝関連臨床検査データとの関連を検討した。 解析対象者の主な特徴は、平均年齢が48.4±11.3歳、女性74.5%、BMI34.9±7.7で74.5%が肥満であり、糖尿病罹病期間は20.1±9.1年、HbA1c9.6±2.3%、降圧薬服用者58.8%など。認知機能に関しては、米国立衛生研究所(NIH)が公開している一般人口の標準値(Toolbox認知バッテリー)と有意差がなかった(45.3±9.8、P=0.64)。 脳画像検査が施行されたのは45人だった。代謝関連指標の中で、BMIやメタボリックシンドローム構成因子の該当項目数、血圧、HbA1c、トリグリセライド、HDL-Cなどは、脳画像検査データとの有意な関連が認められなかった。それに対して糖尿病罹病期間は、大脳皮質厚の菲薄化〔点推定値(PE)=-0.0061(95%信頼区間-0.0113~-0.0009)〕、灰白質体積の減少〔PE=-830.39(同-1503.14~-157.64)〕、白質高信号領域の体積の増加〔対数変換後のPE=0.0389(同0.0049~0.0729)〕という有意な関連が認められた。 論文の上席著者である同大学のEva Feldman氏は、「われわれの研究結果は、糖尿病が脳の健康に与える影響を理解する上で極めて重要と言える。今後、糖尿病患者の脳の健康を維持するための治療戦略を探る、大規模な長期介入研究が必要とされるが、今回の研究データはそのような将来の研究の基礎となり得る」と語っている。また同氏は、「糖尿病がなぜ認知機能を低下させるのかというメカニズムの解明と並行して、糖尿病患者の認知症発症予防につながる啓発活動を推し進めることも欠かせない。糖尿病が脳の健康の維持にとってリスクとなることを一般の人々に教育することも、われわれの使命の一部である」と付け加えている。 なお、2人の著者が、医薬品関連企業などとの利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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リポ蛋白(A)濃度の上昇は冠動脈心疾患再発の予測因子

 冠動脈心疾患(CHD)の既往のある高齢者におけるリポ蛋白(a)(Lpa)濃度の上昇は、CHD再発の予測因子であるという研究結果が、「Current Medical Research and Opinion」に6月12日掲載された論文で明らかにされた。 Lpaは、LDLの一部で、線溶因子であるプラスミノーゲンと相同性があるため、プラスミノーゲンと競合してその働きを阻害することによって動脈硬化を促進すると考えられている。LpaはCHDと死亡率の原因因子としてLDLと同等である可能性が示唆されている。Lpa濃度の上昇は、動脈硬化性心血管疾患および大動脈疾患の発症に関与することが明らかにされているが、CHD再発のリスク因子であるかどうかは明らかにされていない。そこで、ニューサウスウェールズ大学(オーストラリア)のLeon A. Simons氏および St. Vincent’s Hospital(オーストラリア)のJudith Simons氏は、オーストラリアのダボで1930年以前に生まれた高齢者を対象に、Lpa濃度の上昇とCHD再発との関連を調べる縦断的研究を実施した。 CHDの既往がある607例(平均年齢71歳、男性54%)を16年間追跡した。ベースライン時(1988~1989年)に脂質やその他のCHDリスク因子の検査を実施した。Cox比例ハザードモデルを用いて、Lpa濃度がCHDイベント再発の独立した寄与因子であるかどうかを評価した。 16年間の追跡期間中にCHDを再発した参加者は399例であった。CHD再発例のLpa濃度の中央値は130mg/L(四分位範囲60~315)、非再発例では105mg/L(同45~250)で、再発例の方が有意に高かった(Mann-WhitneyのU検定のP<0.07)。Lpa濃度が300mg/L以上の参加者の割合は、CHD再発例で26%、非再発例で19%と再発例の方が高く、Lpaが500mg/L以上の参加者の割合も、再発例で18%、非再発例で8%と再発例の方が高かった。 Lpa濃度の第1五分位(50mg/L未満)を基準とした場合、第5五分位(355mg/L以上)におけるCHD再発のハザード比(HR)は1.53〔95%信頼区間(CI)1.11~2.11、P=0.01〕であったことから、Lpa濃度の第5五分位はCHD再発の有意な予測因子であることが示された。その他のリスク因子(Lpa濃度の第5五分位を除く五分位数、年齢、性別など)は、CHD再発の有意な予測因子ではなかった。 Lpa濃度500mg/L未満を基準とした場合、500mg/L以上はCHD再発の有意な予測因子であった(HR 1.59、95%CI 1.16~2.17、P=0.004)。Lpa濃度300mg/L未満を基準とした場合、300mg/L以上はCHD再発の有意な予測因子であった(HR 1.37、95%CI 1.09~1.73、P=0.007)。 著者は、「本研究の結果は、Lpa濃度高値を改善することを目的として開発中の新規治療法が、CHD再発の予防に有効である可能性を示唆している。しかし、この治療法の潜在的な臨床効果はまだ確認できていない」と述べている。 なお、ノバルティスファーマは、本研究の解析を支援するために教育助成金を提供した。一名の著者は、脂質降下薬の製造会社との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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風邪にも長期間続く後遺症がある?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性期以後もさまざまな症状が持続している状態を指す「long COVID」という言葉は、今やすっかり認識されている。しかし、このような長引く健康への影響を引き起こす呼吸器系ウイルスは、新型コロナウイルスだけではないようだ。英ロンドン大学クイーン・メアリー校のGiulia Vivaldi氏らの研究で、風邪やインフルエンザなどのCOVID-19以外の急性呼吸器感染症(acute respiratory infection;ARI)でも、急性期後にさまざまな症状が4週間以上も続く、いわゆる「long cold」が生じ得ることが明らかになった。詳細は、「eClinicalMedicine」に10月6日掲載された。 この研究では、英国の成人でのARIに関する集団ベースの前向き研究(COVIDENCE UK)のデータを用いて、COVID-19への罹患歴がある人、COVID-19以外のARIへの罹患歴がある人、ARIへの罹患歴がない人(対照)を対象に、長期にわたり持続する症状の比較を行い、COVID-19とそれ以外のARIそれぞれで一定数見られる症状の特定を試みた。COVID-19以外のARIは、肺炎、インフルエンザ、気管支炎、扁桃炎、咽頭炎、中耳炎、風邪、新型コロナウイルス以外のウイルスを原因とする上・下気道感染症、新型コロナウイルス検査で陰性だった人の自己報告による症状から判断されたARIとされた。 対象は、2021年の1月21日から2月15日の間に実施された追跡調査に回答した、新型コロナワクチン未接種者1万171人(平均年齢62.8歳、女性68.8%)。このうち、1,311人(12.9%、COVID-19群)は4週間以上前にCOVID-19に罹患した経験を、472人(4.6%、ARI群)はCOVID-19以外のARIに罹患した経験を持っていた。COVID-19の症状は、咳、睡眠障害、記憶障害、集中力の低下、筋肉や関節の痛み、味覚障害/嗅覚障害、下痢、腹痛、声の異常、脱毛、心拍数の異常な増加、軽度の頭痛やめまい、異常な発汗、息切れ(呼吸困難)、不安や抑うつ、倦怠感の16種類とし、これらの症状の有病率や重症度(評価尺度で評価可能な呼吸困難、不安や抑うつ、倦怠感のみ)を評価した。また健康関連の生活の質(HRQoL)についての評価も行った。 その結果、COVID-19群では対照群に比べて、全ての症状の有病率や重症度が高く、HRQoLが低かったが、ARI群でも、筋肉や関節の痛み、味覚障害/嗅覚障害、脱毛を除くその他の症状の有病率や重症度が対照群よりも高く、HRQoLが低いことが明らかになった。研究グループは、「この結果は、認識されてはいないものの、COVID-19以外のARIでも『long cold』とでもいうべき後遺症が生じていることを示唆するものだ」との見方を示している。COVID-19群とARI群を比べると、前者では特に、味覚障害/嗅覚障害と軽度の頭痛やめまいが生じる傾向が強く、オッズ比は同順で19.74(95%信頼区間10.53〜37.00)、1.74(同1.18〜2.56)であった。 論文の上席著者である、ロンドン大学クイーン・メアリー校のAdrian Martineau氏は、「この結果は、新型コロナウイルス検査の結果が陰性だったにもかかわらず、呼吸器感染症への罹患後に症状が長引いて苦しんでいる人々の経験と一致するのではないかと思う」と話す。同氏は、COVID-19以外の呼吸器感染症への罹患後に症状が持続する病態についての認識や、その病態を言い表す共通の用語さえないことを指摘し、「long COVIDに関する研究を続ける必要はあるが、それとともに、他のARIが及ぼす持続的な影響について調査・検討することも重要だ。それにより、一部の人で症状が長引く理由を探ることが可能となり、最終的にはそうした患者に対する最適な治療やケアの特定に役立つ」と述べている。

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自殺企図リスクと関連する遺伝子座を同定

 自殺に関する大規模なゲノム研究2件を統合解析した研究により、自殺企図リスクと関連する12の遺伝子座が同定された。米ユタ大学ハンツマン・メンタルヘルス研究所の精神医学准教授であるAnna Docherty氏らによるこの研究の詳細は、「The American Journal of Psychiatry」に10月1日掲載された。この結果から、自殺の生物学的原因の理解が深まることが期待される。 Docherty氏らは、既存の大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)であるInternational Suicide Genetics ConsortiumおよびMillion Veteran Programのデータを用いて、GWASメタアナリシスを実施。解析対象には、民族的背景の多様な22集団(ヨーロッパ系15、東アジア系3、アフリカ系3、ヒスパニック・ラテンアメリカ系1)から構成される自殺企図歴のある4万3,871人(一部、自殺既遂者を含む)と、民族的背景が同じで自殺企図歴のない91万5,025人が含まれていた。 解析の結果、自殺企図リスクと関連する12の遺伝子座が同定された。また、関連する遺伝子バリアントについて、他の精神的・身体的な健康問題や行動に関する1,000を超える既発表の遺伝子データと比較したところ、自殺企図リスクは他の健康状態とも関連していることが判明した。具体的には、自殺企図リスクと関連する遺伝子バリアントは、喫煙、注意欠如・多動症(ADHD)、慢性疼痛などとも関連していた。 今回の研究から、自殺リスクは単一の遺伝子の関与として説明できるものではなく、さまざまな遺伝子の累積的な関与の結果であることが分かった。Docherty氏は、「精神疾患には小さな遺伝的要因が多数影響しており、それらを全て考慮に入れて初めて、実際の遺伝的リスクが見えてくる」と同大学のニュースリリースで解説している。 Docherty氏は、今回の研究により、「自殺の遺伝的リスクが、うつ病、心疾患など、他の多くのリスク因子とも関連していることを知ることができた。自殺は精神的な健康状態に限らず、特に喫煙や肺に関連する病気など、身体的な健康状態とも関連しているが、これらは自殺者の診療記録では必ずしも見ることができない」と述べる。その上で同氏は、遺伝情報を用いて自殺企図者の健康リスクを明らかにすることができれば、精神医療を必要とする患者を特定しやすくなると期待を寄せている。 ただし、この論文の共著者で、同大学の精神医学教授であるHilary Coon氏は、「これらの健康因子の一つでも持っている人が、自殺企図リスクが高いということにはならない。遺伝的素因に他のストレス因子が加わった場合に、リスクが高まる可能性がある」と解説している。 研究グループは、「関連する遺伝子のいくつかは、細胞のストレス応答、損傷したDNAの修復、免疫系との情報伝達に関与している。これらの遺伝子は、脳内でも高発現しており、抗精神病薬や抗うつ薬の標的として知られている」と説明。また今回の研究は、自殺と健康要因との関連性を示したに過ぎないとした上で、Docherty氏は、「自殺とこれらの健康要因に共通する生物学的背景を探求していきたい。それが、より確かな治療標的を特定する手助けになる」と述べている。

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検索型AIを活用する【医療者のためのAI活用術】第8回

ChatGPTは情報検索に向いていないこれまでの連載で、ChatGPTの活用について説明してきました。ChatGPTは文章の書き換えや英文校正などに向いていますが、無料版のChatGPTは情報検索には向いていません。これは、ChatGPTが学習したデータは2021年までの情報であり、また生成された回答には引用元がついていないため、情報の真偽が確認できないためです。有料版を利用していれば、プラグインやBingのブラウザを利用して検索することも可能ですが、ChatGPT以外にも情報検索に特化した無料で利用可能なAIツールがあるため、そちらを利用することをお勧めします。今回は、ChatGPT以外に、情報検索で使える無料のツールを2つ紹介します。(1)Perplexity AIPerplexity AIは2022年12月に発表されたサービスです。ChatGPTは事前に学習した内容から回答を考える「対話型AI」であるのに対し、Perplexity AIはインターネット上から情報を得る「検索型AI」といえます。Perplexity AIの特徴は以下のとおりです。基本的な機能は無料で利用可能(有料版も存在する)ログイン不要多言語に対応(日本語よりも英語の方が精度は高い)検索範囲の指定(WikipediaやYouTube、論文など)出典元が表示される使い方はシンプルで、Perplexity AIのウェブサイトにアクセスし、検索したい内容を文章で入力します(図1)。この時に、Focusのボタンをクリックすると、どの情報源を検索するか選ぶことができ、医療情報を検索したい時には「Academic」をクリックすると、論文から引用してくれます。検索ボタンをクリックすると、検索した情報が1段落程度の文章にまとめられて表示され、どの文献から引用したかも示されます(図2)。調べる際は日本語でも入力可能ですが、英語のほうが精度が高いため、英語で検索した後に回答を日本語に翻訳する方が良いかもしれません。欠点としては、検索した内容が必ずしも網羅的ではなく、引用の仕方も不正確な場合がある点です。自分の専門分野について検索すると、情報の妥当さは75点ぐらいの印象です。使い方としては、自分が詳しくない分野の検索の入り口として使用し、細かい内容はそれぞれの論文を読んだり、他の検索ツールを使ったりして補うのが良いと思います。(図1)論文の情報から医療情報を検索する方法画像を拡大する(図2)検索結果画像を拡大する(2)Elicitもう1つ、論文の検索に特化した無料のAIツールに「Elicit」があります。こちらも使い方は簡単で、ウェブサイトにアクセスし、調べたい内容を入力するだけです(図3)。すると、論文を検索し、論文の抄録から関連する内容を抽出して表示してくれます(図4)。Perplexity AIと違う点は、回答がひとまとまりの段落で表示されるのではなく、それぞれの論文から関連する要素を抽出した文章が個別に表示される点で、これにより一つひとつの論文をより吟味したり、取捨選択したりしやすくなります。また、ランダム化比較試験やメタ解析など、論文の種類を指定して検索することができます。さらに、表示順もカスタマイズできるのが優れている点で、たとえば、「Citation(引用回数)」を選択すると、他の論文に引用された回数が多い論文が優先的に表示されるため、その領域の鍵となる論文を簡単に見つけることができます。Perplexity AIよりも、1歩踏み込んだ詳しい内容の検索をするのに向いているといえます。(図3)調べたい内容を入力するだけで検索可能画像を拡大する(図4)検索結果と検索のカスタマイズ方法画像を拡大する

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ADHDと自閉スペクトラム症のWAIS-IVまたはWISC-Vによる認知プロファイル~メタ解析

 これまでの研究によると、神経発達の状態は、ウェクスラー式知能検査(最新版はWAIS-IV、WISC-V)における特有の認知プロファイルと関連している可能性がある。しかし、自閉スペクトラム症または注意欠如多動症(ADHD)患者の認知プロファイルをどの程度反映できているかは、はっきりしていなかった。英国・ニューカッスル大学のAlexander C. Wilson氏は、同検査による自閉スペクトラム症とADHDの認知プロファイルの評価を調査する目的でメタ解析を実施した。その結果、WAIS-IVまたはWISC-Vの成績パターンは、診断目的で使用するには感度および特異度が不十分であるものの、自閉スペクトラム症では、言語的および非言語的推論の相対的な強さと処理速度の低さの認知プロファイルと関連していることが示唆された。一方、ADHDでは、WAIS-IVまたはWISC-Vにおける特定の認知プロファイルとの関連性は低かった。Archives of Clinical Neuropsychology誌オンライン版2023年9月29日号の報告。ADHD患者のWAIS-IVまたはWISC-Vの結果は年齢で予想されるレベル 2022年10月までに公表された研究をPsycInfo、Embase、Medlineより検索した。自閉スペクトラム症またはADHDと診断された小児または成人を対象に、WAIS-IVまたはWISC-Vを用いて認知パフォーマンスを評価した研究を検索対象に含めた。検査のスコアはメタ解析を用いて集計した。自閉スペクトラム症とADHDのWAIS-IVまたはWISC-Vを用いた認知プロファイルの評価を調査した主な結果は以下のとおり。・18件のデータソースより報告された、ニューロダイバーシティ(神経多様性)1,800例超のスコアを分析した。・自閉スペクトラム症の小児および成人は、言語的および非言語的推論において典型的な範囲内のパフォーマンスを発揮していたが、処理速度スコアは平均より約1 SD低く、作業記憶スコアはわずかに低かった。これは、自閉スペクトラム症における「spiky」の認知プロファイルの根拠と考えられる。・ADHDの小児および成人のWAIS-IVまたはWISC-Vにおけるパフォーマンス結果は、ほとんどが年齢で予想されるレベルであったが、作業記憶スコアはわずかに低かった。 結果を踏まえて著者は、「自閉スペクトラム症では、自身の長所や困難を特定しサポートするための認知評価が、とくに有益である可能性がある」としている。

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BA.2.86「ピロラ」感染3週間後の抗体応答が大幅に増強/NEJM

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株であるオミクロン株BA.2.86(通称:ピロラ)は、2023年8月初頭にデンマークで初めて報告され、スウェーデンでは8月7日に初めて検出された。本症例(インデックスケース)は、慢性疾患のない免疫不全の女性であった。本症例の血清および鼻腔粘膜の抗体応答について、2023年2月に得られた検体と、BA.2.86感染から3週間後に得られた検体を用いて比較したところ、BA.2.86感染後ではIgA値およびIgG値の上昇が認められ、感染前より抗体応答が大幅に増強されることが示唆された。スウェーデン・カロリンスカ研究所のOscar Bladh氏らによる、NEJM誌2023年10月26日号CORRESPONDENCEに掲載の報告。 スウェーデンの医療従事者2,149人を対象としたCovid-19 Immunity(COMMUNITY)コホート研究内のスクリーニングプログラムにおいて、8月7日にBA.2.86感染の最初の症例が確認された。本症例は、慢性疾患のない免疫不全の女性で、SARS-CoV-2感染歴があり、BA.2.86感染の診断前にBNT162b2ワクチン(ファイザー製)を4回接種していた。症状は鼻漏、悪寒、発熱があり、症状期間は3日間であった。これらの症状は前年のSARS-CoV-2感染時よりも軽かった。 主な結果は以下のとおり。・2023年2月の検体採取時に得られた詳細な免疫データから、被験者はBA.2.86感染前では、COMMUNITYコホートと同程度の血清IgG値および鼻腔粘膜IgA値を有していたことが認められた。・BA.2.86感染から3週間後に得られた血清および粘膜検体を用いて、2023年2月に得られた検体と抗体応答について比較したところ、血清中のヌクレオカプシドIgG力価は36倍上昇していた。・野生株およびBA.5スパイクタンパク質に対する血清IgG結合は、2023年2月に得られた検体と比較して、BA.2.86感染後の検体では1.1倍および1.5倍だった。・一方、野生株およびBA.5スパイクタンパク質に対する粘膜IgA結合は、2023年2月に得られた検体と比較して、BA.2.86感染後の検体では3.6倍および3.4倍であり、血清IgGより強く誘導されていた。 本研究により、BA.2.86感染により抗体応答が大幅に増強されるという結果が得られた。著者らは、ワクチン接種を受けた免疫不全者や過去に感染したことのある正常な抗体レベルの人がBA.2.86に感染する可能性があることを裏付けており、BA.2.86が世界的な感染者急増を引き起こす可能性があることを指摘している。また、本研究では2月に検体を採取してから8月にBA.2.86感染と診断されるまでに6ヵ月が経過していたため、9月に抗体価が上昇する以前に抗体価が減少し、感染後の上昇率が過小評価されている可能性もあるという。

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既治療の進行NSCLC、Dato-DXdがPFS改善(TROPION-Lung01)/ESMO2023

 TROP2を標的とする抗体薬物複合体(ADC)のdatopotamab deruxtecan(Dato-DXd)は、複数のがん種において臨床試験が実施されており、有用性が検討されている。その1つに、前治療歴のある進行・転移非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象とした国際共同第III相比較試験TROPION-Lung01試験があり、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)において、米国・カリフォルニア大学のAaron Lisberg氏が第1回中間解析の結果を報告した。本試験において、Dato-DXdは2次治療の標準治療の1つとされるドセタキセルと比較して、有意に無増悪生存期間(PFS)を改善した。試験デザイン:国際共同第III相無作為化非盲検比較試験対象:前治療歴のあるStageIIIB、IIIC、IV(AJCC第8版に基づく)のNSCLC患者604例(actionable遺伝子変異の有無は問わない)試験群:Dato-DXd(6mg/kg)を3週ごと(Dato-DXd群:299例)対照群:ドセタキセル(75mg/m2)を3週ごと(ドセタキセル群:305例)評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)に基づくPFS、全生存期間(OS)[副次評価項目]BICRに基づく奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は64歳(範囲:24~88)で、43.1%(260/604例)が2ライン以上の前治療を受けていた。actionable遺伝子変異を有する患者の割合は17%(101/604例)で、多くがEGFR遺伝子変異であった(14%[84/604例])。・治療期間中央値は、Dato-DXd群4.2ヵ月(範囲:0.7~18.3)、ドセタキセル群2.8ヵ月(範囲:0.7~18.9)であった。・BICRに基づくPFS中央値は、Dato-DXd群4.4ヵ月、ドセタキセル群3.7ヵ月であり、Dato-DXd群が有意に改善した(ハザード比[HR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.62~0.91、p=0.004)。12ヵ月PFS率はそれぞれ30.1%、17.8%であった。・PFSに関するサブグループ解析において、扁平上皮がん(HR:1.38)を除いてDato-DXd群が良好な傾向にあった。・非扁平上皮がん(Non-Sq)のサブグループにおけるPFS中央値は、Dato-DXd群5.6ヵ月、ドセタキセル群3.7ヵ月であった(HR:0.63、95%CI:0.51~0.78)。・BICRに基づくORRは、Dato-DXd群26.4%、ドセタキセル群12.8%であり、DOR中央値はそれぞれ7.1ヵ月、5.6ヵ月であった。・OSのデータは未成熟であったが、OS中央値はDato-DXd群12.4ヵ月、ドセタキセル群11.0ヵ月であり、Dato-DXd群が良好な傾向にあった(HR:0.90、95%CI:0.72~1.13)。・Dato-DXd群の主な治療関連有害事象は、口内炎(47%)、悪心(37%)であった。・治療に関連すると判定されたGrade3以上の間質性肺疾患は、Dato-DXd群3.4%、ドセタキセル群1.4%に認められた(Grade5はそれぞれ7例、1例)。 本結果について、Lisberg氏は「前治療歴のある進行・転移NSCLC患者において、Dato-DXdはドセタキセルと比較してPFSを有意に改善した。ただし、PFSの改善は主にNon-Sqの患者でみられた。Grade3以上のTRAEの発現は少なく、新たな安全性シグナルは確認されなかった。しかし、Grade3以上の間質性肺疾患がみられたため、注意深く観察する必要があることが示された。以上から、Dato-DXdは前治療歴のあるNon-Sq NSCLC患者に対する、新たな治療選択肢になる可能性があると考えている」とまとめた。

1917.

幹細胞治療で1型糖尿病が寛解する可能性

 1型糖尿病患者に対して、幹細胞由来のインスリン産生細胞を移植するという新たな治療法の可能性を示した、トロント大学アジメラ移植センター(カナダ)のTrevor Reichman氏らの研究結果が、第59回欧州糖尿病学会(EASD2023、10月2~6日、ドイツ・ハンブルク)で発表された。 1型糖尿病は、膵臓内のランゲルハンス島にあるインスリン産生細胞(膵島細胞)の機能が失われることで発症し、発症後には1日数回のインスリン注射、またはインスリンポンプによる治療が必須とされる。しかし、今回報告された新たな研究が実を結べば、1型糖尿病患者の一部はそのようなインスリン療法が不要になるかもしれない。 この研究は、同種幹細胞由来の細胞療法として開発中の「VX-880」を用いて行われた。幹細胞とは、さまざまな種類の細胞に変化して、指数関数的に増殖する能力を備えた細胞のこと。VX-880の場合、幹細胞由来の膵島細胞を研究室内で数週間かけて増殖させた後、点滴によって患者へ移植する。投与後には完全に分化した機能的膵島細胞として、インスリンの分泌を開始する。「この手法は1型糖尿病の完治につながる可能性があり、今回の研究成果はその目標への大きな前進だと信じている」とReichman氏は語っている。 発表によると、この研究は1型糖尿病患者6人に対して行われ、全員がインスリンの必要量が減り、かつ重度の低血糖を起こさなくなる一方、HbA1cは低下して推奨される範囲内のコントロールが達成された。さらに、一部の患者はインスリン注射が不要になった。Reichman氏は、「研究に参加した患者は全員、血糖コントロールの困難な状態が長年続いており、重度の低血糖を来すリスクや生命にかかわる合併症を抱えていた。示された結果は、患者の人生を変える衝撃的なものと言える」と強調している。 これらの有効性が、投与後どれくらいの期間続くのかはまだ不明だ。ただし、Reichman氏によると、「追跡期間が最も長い患者は現在約2年経過したが、いまだインスリン非依存状態(生存のためのインスリン療法は不要な状態)を維持している」という。研究は現在も引き続き進行中だ。 VX-880の安全性に関しては、これまでのところ重篤な副作用は報告されていない。しかし拒絶反応を防ぐために、免疫抑制薬の服用が必要とされる。Reichman氏はその点について「潜在的なリスクが存在する」とし、「免疫抑制薬を必要としない治療法を開発することも、今後の目標だ」と述べている。なお、これまでにこの研究の対象とされたのは18~65歳の成人だが、将来的には子どもを対象とする研究も行う可能性があるという。 米ノースカロライナ大学チャペルヒル校の糖尿病ケアセンター長であるJohn Buse氏は、報告されたこの治療法について「かなりうまくいくようだ」と論評。また、「この治療法の重要なポイントは、移植に用いるインスリン産生細胞の供給源を得るための臓器提供者を必要としないという点にある」と解説する。そして、「治療後の患者は免疫抑制療法を継続しなければならないが、重度の低血糖のリスクを抱えながらインスリン療法を続けなければならない状態の患者にとって、それは合理的なトレードオフと言えよう」と付け加えている。 なお、本研究は、VX-880の開発企業であるVertex Pharmaceuticals社の援助を受けて行われた。また、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

1918.

心筋梗塞における完全血行再建はいつ行うべきか?(解説:上田恭敬氏)

 血行動態が安定しているST上昇型急性心筋梗塞症例において、非責任病変に対するPCIを急性期に同時に行う群(immediate群)が、19〜45日後にstaged PCIとして行う群(staged群)と比べて非劣性であることを検証する、無作為化非劣性試験(MULTISTARS AMI)の結果が報告された。主要エンドポイントは、1年の時点での、死亡・心筋梗塞・脳卒中・予定外の血行再建・心不全入院の複合エンドポイントである。 対象患者はimmediate群418症例とstaged群422症例に割り付けられた。主要エンドポイントの発生頻度は、immediate群で8.5%、staged群で16.3%であり、非劣性のみならず優位性の検定においてもp<0.001と有意であった。心筋梗塞(2.0%対5.3%)、予定外の血行再建(4.1%対9.3%)がstaged群で多くなっている。また、死亡、脳卒中、心不全入院については、群間で差はなさそうである。 本試験の結果から判断すると、血行動態が安定しているST上昇型急性心筋梗塞症例においては、非責任病変に対しても責任病変と同時に急性期にPCIを行うimmediate PCIは、staged PCIに劣らないことが証明されただけでなく、心筋梗塞の発生や予定外の血行再建を予防できる効果がありそうだ。 もちろん、どんな臨床試験についても言えることであるが、試験で設定された条件の範囲内に当てはまる結果である。「血行動態が安定しているST上昇型急性心筋梗塞症例」以外は対象外である。ほかにも、左冠動脈主幹部症例やCTO症例、CABG既往症例が本試験から除外されている。また、「死亡・心筋梗塞・脳卒中・予定外の血行再建・心不全入院の複合エンドポイント」によって評価した結果なので、それ以外のイベントが多いか少ないかは考慮されていない。難易度の高いPCIとなる場合や造影剤量が多くなる場合、患者さんの背部痛のために長時間の手技が困難な場合には、割り付けに反してstaged PCI群へcross-overさせているようであり、この点は実臨床に合った内容である。著者らは他のimmediate PCI のメリットとして、合計の造影剤量や被ばく線量の減少、入院期間の短縮、動脈穿刺回数の減少を指摘している。しかし、immediate PCIの多くは夜間や時間外に行われるため、staged PCIとは異なる医療スタッフや条件下で行われることになる施設もあるだろう。そのような背景の違いも考慮して、本試験の結果を実臨床に適用する必要がある。

1919.

進行/転移TN乳がん1次治療でのDato-DXd+デュルバルマブ、11.7ヵ月時点で奏効率79%(BEGONIA)/ESMO2023

 進行/転移トリプルネガティブ乳がん(TNBC)の1次治療として、抗TROP2抗体薬物複合体datopotamab deruxtecan(Dato-DXd)と抗PD-L1抗体デュルバルマブの併用を検討するBEGONIA試験のArm7では、追跡期間中央値7.2ヵ月で74%の奏効率(ORR)が得られている。今回、追跡期間中央値11.7ヵ月の解析でORRが79%であったことを、英国・Barts Cancer Institute, Queen Mary University of LondonのPeter Schmid氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)で報告した。 BEGONIA試験は、進行/転移TNBCの1次治療として、デュルバルマブと他の薬剤との併用による新たな治療を検討するために、2つのPartで構成された第Ib/II相試験である。・対象:StageIVに対する治療歴のない切除不能な進行/転移TN乳がん・方法:Dato-DXd 6mg/kg+デュルバルマブ1,120mg(3週ごと、静脈内投与)を病勢進行もしくは許容できない毒性発現まで投与・評価項目:[主要評価項目]安全性、忍容性[副次評価項目]ORR、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間 主な結果は以下のとおり。・2023年2月2日のデータカットオフ時点で、Dato-DXd+デュルバルマブの治療を受けた62例中29例(47%)が治療継続中で、追跡期間中央値は11.7ヵ月(範囲:2~20ヵ月)であった。ベースライン時の年齢中央値は53歳、60%に内臓転移があり、PD-L1低値が87%であった。・ORRは79%(95%信頼区間[CI]:66.8~88.3)で、完全奏効6例、部分奏効43例だった。抗腫瘍効果はPD-L1レベルにかかわらず認められた。・DOR中央値は15.5ヵ月(95%CI:9.92~NC)、PFS中央値は13.8ヵ月(同:11.0~NC)であった。・最も多くみられた有害事象(AE)は消化管系で概してGradeは低かった。・Dato-DXd減量の原因となるAEは口内炎(65%)が最も多かった。・治療関連間質性肺疾患/肺炎が3例(5%)に発現した(Grade2が2例、Grade1が1例)。・下痢(13%)、好中球減少症(5%)の発現率は低かった。 Schmid氏は「進行/転移TNBCの1次治療におけるDato-DXdとデュルバルマブの併用は、追跡期間中央値11.7ヵ月時点で、PD-L1発現にかかわらず引き続き強固で持続的な奏効を示した。新たな安全性シグナルはみられず、管理可能な安全性プロファイルを示した」と結論した。現在、PD-L1高値集団を対象としたArm8(Dato-DXd+デュルバルマブ)の登録を行っている。

1920.

滑膜炎を伴う手指変形性関節症、MTXは有効か/Lancet

 滑膜炎を伴う手指変形性関節症の治療において、メトトレキサート20mgの6ヵ月間の投与により、中等度ではあるが臨床的に意義を持つ可能性のある疼痛軽減効果を認めたことが、オーストラリア・モナシュ大学のYuanyuan Wang氏らが実施したMETHODS試験で示された。これにより、メトトレキサートは炎症を伴う手指変形性関節症の管理に有用との仮説が証明されたことになるという。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年10月12日号で報告された。オーストラリア4市の無作為化プラセボ対照試験 METHODS試験は、オーストラリアの4市(メルボルン、ホバート、アデレード、パース)の施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照試験であり、2017年11月~2021年11月に患者の登録を行った(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]の助成を受けた)。 年齢40~75歳、手指変形性関節症(1つ以上の関節がKellgren-Lawrence分類のGrade2以上)と診断され、MRIでGrade1以上の滑膜炎を認めた患者を、メトトレキサート20mgまたはプラセボを週1回6ヵ月間経口投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、ITT集団における6ヵ月の時点での疼痛軽減(100mm視覚的アナログスケール[VAS]で評価)であった。 97例を登録し、メトトレキサート群に50例、プラセボ群に47例を割り付けた。全体の平均年齢は61.4(SD 6.7)歳で、68例(70%)が女性であった。ベースラインの患者背景因子は、平均BMI値がメトトレキサート群で高かった点(29.7[SD 5.0]vs.27.9[5.0])を除き、全般に両群間でバランスが取れていた。AUSCANの疼痛およびこわばりも有意に改善 主要アウトカムのデータは、メトトレキサート群の84%、プラセボ群の85%から得た。6ヵ月時のVASによる疼痛の平均変化量は、プラセボ群が-7.7mm(SD 25.3)であったのに対し、メトトレキサート群は-15.2mm(SD 24.0)と有意に改善し(補正後平均群間差:-9.9mm、95%信頼区間[CI]:-19.3~-0.6、p=0.037)、効果量(標準化平均群間差)は0.45(95%CI:0.03~0.87)であった。 6ヵ月時のオーストラリア・カナダ手指変形性関節症指数(AUSCAN)の疼痛(補正後平均群間差:-47.0、95%CI:-91.5~-2.5、p=0.038)およびこわばり(-11.4、-20.8~-2.0、p=0.018)の平均値の改善はメトトレキサート群で有意に優れたが、AUSCANの機能(-52.7、-127.3~21.9、p=0.17)、手指変形性関節症機能指数(FIHOA)(-0.9、-3.4~1.7、p=0.50)、健康評価質問票(HAQ)(-0.0、-0.2~0.2、p=0.89)、ミシガン手指転帰質問票(MHQ)(5.5、-0.3~11.3、p=0.065)、握力(2.6、-0.8~6.1、p=0.13)には、両群間に有意な差を認めなかった。 VASによる疼痛の平均変化量の両群間の差は、4週の時点では臨床的に意義のあるものではなかった。また、AUSCANの疼痛およびこわばりは、3ヵ月時にはメトトレキサート群で改善度が高かったが、臨床的な意義は認めなかった。 有害事象は、メトトレキサート群の31例(62%)、プラセボ群の28例(60%)で発現した。重篤な有害事象はそれぞれ3例(6%)および1例(2%)で認められ、治療関連と判定されたものはなかったが投与の一時的な中断を招き、メトトレキサート群の1例(上腕骨骨折で手術)は試験から脱落した。試験薬関連の可能性があると判定された有害事象は、メトトレキサート群で39件、プラセボ群で49件発生し、それぞれ5例および4例が投与中止に至った。 著者は、「メトトレキサート20mgの週1回投与の効果が、6ヵ月以降も持続するか否か、また手指変形性関節症と滑膜炎を有する患者の構造的アウトカムを長期にわたって改善するか否かを確認するために、さらなる試験を行う必要がある」としている。

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