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治療歴のあるHER2+転移乳がん、アベルマブ追加でPFS改善(AVIATOR/TBCRC045)/SABCS2023

 治療歴のあるHER2+転移乳がんに対して、標準治療である化学療法+トラスツズマブに、抗PD-L1抗体であるアベルマブを追加することで無増悪生存期間(PFS)が有意に改善することが示された。一方、化学療法+トラスツズマブ+アベルマブに、4-1BBアゴニストであるutomilumabを追加してもPFSの改善はみられなかった。米国・Dana-Farber Cancer InstituteのAdrienne G. Waks氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2023)で発表した。 本試験は、HER2+転移乳がんに対して、化学療法+トラスツズマブにアベルマブおよびutomilumabを併用した場合の有効性と安全性を検討した無作為化第II相試験である。・対象:トラスツズマブ/ペルツズマブ/T-DM1の治療歴がある進行HER2+乳がん(ビノレルビン/免疫チェックポイント阻害薬の治療歴がある患者は除外)100例・試験方法:ビノレルビン+トラスツズマブ(NH)群、ビノレルビン+トラスツズマブ+アベルマブ(NHA)群、ビノレルビン+トラスツズマブ+アベルマブ+utomilumab(NHAU)群に1:2:2で無作為に割り付け・評価項目:[主要評価項目]PFS[副次評価項目]全奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性/忍容性※当初、NHA群とNH群、NHAU群とNHA群で比較予定だったが、2021年utomilumabの開発が中止され、中間無益性解析でNHAU群のNHA群に対するPFSのハザード比(HR)が1.14(p=0.32)であったことからNHAU群を終了した。 主な結果は以下のとおり。・NHA群(45例)は NH群(18例)に比べて PFS を有意に改善し(HR:0.56、90%信頼区間[CI]:0.31~0.91、片側log rank検定p=0.025)、中央値はNH群2.0ヵ月、NHA群3.8ヵ月だった。・ORRは、NH群11.1%に対してNHA群20.0%、DOR中央値は、NH群が評価不能、NHA群が15.8ヵ月だった。・患者全体において、治療前の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)が10%以上の患者では10%未満の患者よりPFSが良好な傾向を示した(HR:0.55、90%CI:0.29~1.04)。一方、PD-L1 CPSが1以上と1未満でPFSに差はみられなかった(HR:0.77、90%CI:0.43~1.36)。・Grade3/4の試験治療下における有害事象(TEAE)は、NH群61.1%、NHA群62.2%とほぼ同等だった。NHA群でGrade3の免疫関連有害事象が2例発現した(副腎機能不全、AST上昇)。予期しないTEAEは認められなかった。 Waks氏は「治療歴のあるHER2+転移乳がんに対する免疫チェックポイント阻害のさらなる研究が必要」と述べた。

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第68回 ROC解析で算出したカットオフ値【統計のそこが知りたい!】

第68回 ROC解析で算出したカットオフ値カットオフ値(Cutoff value)とは、定量データを区切るために用いる基準の値のことです。医療分野に絞って言えば、ある検査の陽性、陰性を分ける値のことで「病態識別値」とも呼ばれます。検査結果によって、特定の疾患に罹患した患者と罹患していない患者を分ける境界値のことです。前回第67回では、2×2分割表のクラメール連関係数で算出するカットオフ値について紹介しましたが、今回はROC解析で算出するカットオフ値について解説します。■ROC解析ROC解析について解説します。ROC曲線は第2次世界大戦中にレーダーの性能評価をするために開発されました。現在では、工業、医療などさまざまな分野で利用されています。ROCは“Receiver operating characteristic”の略です。ROC解析は、カットオフ値を連続的に変化(例題では表1 BMI30~21)させたときの、感度と100%から特異度を引いた値(1-特異度)を用います。縦軸(y軸)を感度とし、横軸(x軸)を1-特異度とするグラフ上に、感度および1-特異度をプロットして、グラフを作成します。こうして描かれた曲線が「ROC曲線」です。本事例におけるROC曲線のグラフを示します(表1、図1)。表1 感度、1-特異度図1 感度と1-特異度のROC曲線ROC曲線を用いて、最適なカットオフ値の求め方を示しますが、それには2つの方法があります。【方法(1)】グラフの左上隅の起点座標(0%、100%)から点までの距離が最小の検査結果が最適なカットオフ値です。例題では、横軸7.1%、縦軸83.3%の点まで距離が18.1%で最小です。そのBMIは26です。よって最適なカットオフ値は26です(表2、図2)。表2 起点から点までの距離(横:x、縦:y)図2 感度と1-特異度のROC曲線【方法(2)】点座標(0%、0%)と点座標(100%、100%)を結ぶ直線を引きます。点から直線までの距離を求めます。距離が最大の検査結果が最適なカットオフ値です。例題では、横軸7.1%、縦軸83.3%の点から直線まで距離が53.9%で最大です。そのBMIは26です。よって最適なカットオフ値は26です(表3、図3)。表3 点から斜線までの距離(横:x、縦:y)図3 感度と1-特異度のROC曲線用いる方法によっては、求めた最適なカットオフ値が異なることがあります。どれを選ぶかは分析者の判断に委ねられます。■検査の有用性を調べる方法について検査は、どれくらい有用性があるのかを調べる方法を説明するために、2つのケースを示します。【ケース1】表4のBMI26以上の10人は全員が陽性、BMI26未満の10人は全員が陰性です。検査陽性者(BMI検査で陽性と判定された患者)は全員疾患(疾病有無で陽性の患者)があり、検査陰性者は全員疾患がないと判定できる検査です。クラメール連関数の最大は1.000で当然ながらカットオフ値は26となります。表4 ケース1の検査結果画像を拡大するケース1のROC曲線を描きました(図4)。曲線で囲まれる面積は1(100%)となります。陽性と陰性を完璧に分ける理想的な検査の面積は100%となります。図4 ケース1のROC曲線【ケース2】表5のように疾患の有無で陰性10人のBMI検査は21~30です。陽性10人のBMI検査も21~30で、どのカットオフ値も陽性と陰性を判別することができていません。表5 ケース2の検査結果画像を拡大する図5にROC曲線を描いてみました。曲線で囲まれる面積は0.5(50%)となります。陽性と陰性をまったく判別できない検査における面積は、このように50%となります。図5 ケース2のROC曲線■AUCAUC(Area Under the Curve)とは、ROC曲線の下側の面積のことです。AUCはある検査が、どれくらい有用性があるのかを調べる指標です。先述の例からわかるように、陽性と陰性をまったく判別できない検査のときにAUCが0.50(50%)になり、陽性と陰性をきちんと判別できる検査のときにAUCは1(100%)になります。表1のAUCを図6に示します。AUCは92.3%で100%に近く有用性のある検査といえます。図6 表1のROC曲線この検査が母集団についても有用性があるかは1群母比率検定で調べることができます。帰無仮説:AUCは0.5(50%)である。対立仮説:AUCは0.5(50%)より大きい(片側検定)。p値はExcel関数で求めることができます。=1-NORMSDIST(検定統計量)→0.0001「p値<0.05より、BMI検査は有用な検査である」といえる結果となります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第50回 クラメール連関係数とは?第51回 期待度数がわかれば簡単! クラメール連関係数の計算法特別編 カットオフ値とROC解析

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統合失調症患者に対する心血管リスク最適化プログラム

 心血管疾患は、統合失調症患者の早期死亡の主な原因の1つである。関連する修正可能なリスク因子には、不健全なライフスタイル、薬剤性副作用、身体的併存疾患などが含まれる。スペイン・ビック大学のNuria Riera-Molist氏らは、統合失調症患者の心血管リスク(CVR)低下のための6ヵ月間にわたる多因子CVR介入の有効性を評価する目的で本研究を実施した。その結果、患者中心の多因子CVR介入は統合失調症患者の6ヵ月後のCVRを改善し、それは主に脂質プロファイルの改善によりもたらされていたという。Journal of Psychiatric Practice誌2023年11月1日号の報告。 地域の精神保健センターにおいて、2群間並行ランダム化臨床試験を実施した。1つ以上のCVR因子(高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、喫煙)のマネジメントが不十分な統合失調症患者46例を、介入群または対照群にランダムに割り付けた。介入群では、健康的なライフスタイルの促進、CVR因子の薬理学的管理、向精神薬の最適化、動機付けフォローアップなどの患者中心のアプローチ(心血管リスク最適化プログラム[Programa d'optimitzacio del RISc CArdiovascular:PRISCA])を行った。主要アウトカムは、両群のベースライン時と比較した6ヵ月後のCVRの変化とし、Framingham-REGICOR関数を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は、介入群23例、対照群23例にランダムに割り付けられた。・ベースライン時に最も高頻度で認められたCVR因子は、高コレステロール血症(84.8%)であり、次いで喫煙(39.1%)であった。・介入群では、6ヵ月後のREGICORスコアの有意な低下が認められたが(相対リスクの低減率:20.9%)、対照群では有意な変化が認められなかった。 【介入群】REGICORスコア:-0.96%、95%信頼区間(CI):-1.60~-0.32、p=0.011 【対象群】REGICORスコア:0.21%、95%CI:-0.47~0.89、p=0.706・介入群では、LDLコレステロールの有意な低下も確認された(-27.14mg/dL、95%CI:-46.28~-8.00、p=0.008)。

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投与時間短縮のペルツズマブ・トラスツズマブ配合皮下注、患者・医療者の使用感は/中外

 抗HER2ヒト化モノクローナル抗体のペルツズマブおよびトラスツズマブの配合皮下注製剤「フェスゴ配合皮下注IN(初回投与量)、同MA(維持投与量)」が11月22日に発売された。これを受けて11月30日、中外製薬は新製品発売説明会を開催。林 直輝氏(昭和大学医学部 乳腺外科)が登壇し、HER2陽性乳がん患者に対して実施された2つの臨床試験結果と現場での活用の可能性について講演した。 フェスゴはペルツズマブとトラスツズマブをそれぞれ固定用量で配合し、薬液の浸透吸収促進を目的としてボルヒアルロニダーゼアルファを配合した皮下注製剤。従来の静注製剤を続けて投与する場合、初回が約150分、2回目以降が60~150分かかるのに対し、フェスゴは初回が8分以上、2回目以降が5分以上に投与時間を短縮できる。 現在、国内ガイドラインでペルツズマブとトラスツズマブの併用療法が推奨されているのは、HER2陽性の乳がん(術前/術後療法と進行・再発乳がん1次治療)およびがん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がんとなっている。従来の静注製剤と同等の血中濃度が保たれていることを確認 フェスゴと従来の静注製剤を比較した臨床試験としては、HER2陽性早期乳がん患者の術前・術後療法としてフェスゴと化学療法を併用した場合の薬物動態、有効性・安全性を検討した国際共同第III相FeDeriCa試験(日本も参加)、および患者選好度と皮下投与の満足度を評価した第II相PHranceSCa試験がある。 FeDeriCa試験における主要評価項目(サイクル7でのペルツズマブ血清中トラフ濃度[Ctrough])は、静脈注射群に対するフェスゴ群の幾何平均値の比(GMR)が1.22(90%信頼区間[Cl]:1.14~1.31)と信頼区間の下限値が非劣性マージンの0.8を上回り、非劣性が示されている。また副次評価項目である全病理学的完全奏効率(tpCR率)は、フェスゴ群59.7%(95%CI:53.3~65.8)に対し静脈注射群59.5%(95%CI:53.2~65.6)と同等の結果が得られた。 主な有害事象の発現状況はおおむね同様で、注入に伴う反応が静脈注射群13.9%に対しフェスゴ群3.6%と少なく、注射部位反応は静脈注射群0.8%に対しフェスゴ群12.9%と多くみられた。投与中止に至った有害事象は、静脈注射群10.3%、フェスゴ群6.9%であった。クロスオーバー試験で患者満足度を比較・検証 PHranceSCa試験は、HER2陽性早期乳がん患者の術後療法としてフェスゴおよび静脈注射をクロスオーバーで3サイクルずつ投与し、その後どちらかの治療を選択するデザインで実施された。主要評価項目のフェスゴに対する患者選考度について、フェスゴを選好した患者は85.0%、静脈注射を選好したのは13.8%であった。林氏は、「5~8分以上の皮下投与と聞くとはじめは不安に感じる患者さんもいるかもしれないが、臨床試験に参加した患者さんの選好度の高さから、実際行ってみて多くの人が問題ないと感じたことがうかがえる」とした。また、看護師や薬剤師などの医療従事者に、利便性のほか時間や設備といった医療資源の利用状況について聞いた質問では、いずれもおよそ8割以上がフェスゴ群を選好した。 なお、投与準備時間のサイクルごとの中央値はフェスゴ群5分に対し静脈注射群15~20分、投与時間のサイクルごとの中央値はフェスゴ群7~8分に対し静脈注射群60~150分であった。 「働きながら、あるいは育児や介護をしながら治療を続ける乳がん患者さんが多い中で、投与時間を短縮できることは生活の質の向上に大きく寄与する可能性がある」と林氏。医療者側にとっても、外来化学療法室が非常に混雑していることを挙げ、初回投与は全体で約4時間~4時間半、2回目以降は約2時間~2時間半短縮できることは医療資源・人的資源の面でメリットが非常に大きいとしたうえで、「それぞれの患者さんの状態や希望に応じて、個別に最適な剤型を選択していくことが重要」とまとめた。 なお、医療者側の注意点としては、皮下注での投与中同じ体勢を保つ必要があるため、ベッドまたは投与者自身の膝に肘を固定するなど投与しやすい方法を事前に確認し、体勢を保持できるようにすることが必要だろうと話した。

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HER2+転移乳がんへのtucatinib+T-DM1がPFS改善、脳転移例にも有望(HER2CLIMB-02)/SABCS2023

 既治療のHER2陽性局所進行/転移乳がん患者に対する経口チロシンキナーゼ阻害薬tucatinibとトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)の併用が、T-DM1単独療法と比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に改善した。米国・フレッド・ハッチンソンがん研究センターのSara A. Hurvitz氏が第III相HER2CLIMB-02試験の結果を、サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2023、12月5~9日)で報告した。・対象:トラスツズマブとタキサンによる治療後に進行したHER2陽性局所進行/転移乳がん患者(ECOG PS≦1)。既治療で安定状態、あるいは即時の局所治療を必要としない活動性または未治療の脳転移を有する患者も対象とされた。・試験群:tucatinib(1日2回300mg、経口投与)+T-DM1(3週間間隔で3.6mg/kg、静脈内投与) 228例・対照群:プラセボ+T-DM1 235例・評価項目:[主要評価項目]RECIST v1.1を用いた治験担当医師評価に基づくPFS[主要副次評価項目]全生存期間(OS)、脳転移を有する患者におけるPFSおよびOS、RECIST v1.1に基づく確定奏効率(cORR) 主な結果は以下のとおり。・ベースラインにおける年齢中央値はtucatinib群55(26~83)歳vs.プラセボ群53(27~82)歳、ホルモン受容体陽性は60.1% vs.59.6%、脳転移を有する患者は43.4% vs.44.7%(活動性の脳転移:21.9% vs.24.3%)であった。進行がんに対する前治療歴は1ラインの患者が64.0% vs.63.8%、ペルツズマブ治療歴のある患者が88.6% vs.91.1%を占めた。・追跡期間中央値24.4ヵ月(データカットオフ:2023年6月29日)におけるPFS中央値は、tucatinib群9.5ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.4~10.9)vs.プラセボ群7.4ヵ月(95%CI:5.6~8.1)となりtucatinib群で有意に改善した(HR:0.76、95%CI:0.61~0.95、p=0.0163)。・脳転移を有する患者におけるPFS中央値は、tucatinib群7.8ヵ月(95%CI:6.7~10.0)vs.プラセボ群5.7ヵ月(95%CI:4.6~7.5)であった(HR:0.64、95%CI:0.46~0.89)。・cORRはtucatinib群42.0%(完全奏効[CR]:4.3%)vs.プラセボ群36.1%(CR:4.2%)であった。・両群で約8割の患者が1ライン以上の後治療を受けており、約5割がT-DXd、約4割が化学療法を受けていた。・OSの暫定結果は、必要なイベント数253件中134件(53%)が起きた段階のデータで、事前に規定された有意水準を満たさなかった。・Grade3以上の治療下での有害事象(TEAE)は、tucatinib群68.8%、プラセボ群41.2%で発現した。tucatinib群で多くみられたのはALT上昇、AST上昇(ともに16.5%)、疲労(6.1%)、下痢(4.8%)などであった。 Hurvitz氏は、「トラスツズマブとカペシタビンにtucatinibを追加することの有効性を示したHER2CLIMB試験に続いて、今回の結果はtucatinibをベースとしたレジメンが既治療のHER2陽性局所進行/転移乳がん患者において病勢進行を遅らせることを示した」としている。

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座って過ごすことは眠っているよりも心臓の健康に悪い

 心臓の健康にとって、座って過ごすことほど悪いことはないことが、新たな研究で確認された。研究論文の筆頭著者である、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)スポーツ・運動・健康研究所のJoanna Blodgett氏は、「われわれの研究から得られた大きな収穫は、活動量を少し増やすだけでも心臓の健康に良い影響を与えることができるということと、その強度も重要だということだ」と述べている。Blodgett氏らの研究では、心臓の健康に最も効果的なのは、たとえ数分でも、座って過ごす時間をランニングや早歩きなどの心拍数と呼吸数を上げるような中等度から高強度の運動(moderate to vigorous physical activity;MVPA)に置き換えることであり、立っていることや眠っていることでさえ、座っているよりは良いことが示されたという。この研究結果は、「European Heart Journal」に11月10日掲載された。 心血管疾患は世界の死因の第1位を占める疾患だ。研究グループによると、2021年には3人に1人が心血管疾患により死亡し、1997年以来、世界中で心血管疾患の罹患者数は倍増しているという。 この研究では、Prospective Physical Activity, Sitting, and Sleep(ProPASS)コンソーシアムから6件の研究(5カ国の対象者の総計1万5,253人、平均年齢53.7±9.7歳)のデータを抽出し、5種類の身体活動と6種類の肥満度および心血管代謝の指標との関連を調べた。5種類の身体活動とは、睡眠、座位行動、立位行動、低強度の運動(light intensity physical activity;LIPA)、MVPAで、6種類の指標とは、BMI、ウエスト周囲径、HDLコレステロール(HDL-C)、総コレステロール(TC)とHDL-Cの比(TC/HDL-C比)、トリグリセライド(中性脂肪)、HbA1cであった。対象者は、太ももに装着するウェアラブルデバイスで1日の活動量を測定していた。 対象者は平均して、睡眠に7.7時間、座位行動に10.4時間、立位行動に3.3時間、LIPAに1.5時間、MVPAに1.3時間を費やしていた。解析からは、座位行動と比べた場合に心臓の健康に最も良い影響をもたらすのはMVPAであり、次いで、LIVP、立位行動、睡眠の順であることが明らかになった。また、1日の中に占める座位行動、立位行動、LIPA、睡眠の時間の一部をMVPAに置き換えるだけで、検討した指標の全てが改善することも示された。例えば、BMIが26.5の54歳女性の場合、30分の座位時間をMVPAに置き換えることで、BMIが0.64、ウエスト周囲径が2.5cm、HbA1cが1.33mmol/mol減少した(それぞれ、2.4%、2.7%、3.6%の減少)。心血管代謝を改善させるためにMVPA以外の身体活動をMVPAに置き換えるのに必要な最小の時間には、3.8分(LIPAをMVPAに置き換えることでHbA1cが改善)から12.7分(座位をMVPAに置き換えることで中性脂肪が改善)の幅があった。 本研究に資金を提供した英国心臓財団のアソシエイトメディカルディレクターであるJames Leiper氏は、「運動が心血管の健康に実質的な効果をもたらすことはすでに知られている。今回の研究結果は、毎日のルーチンを少し調整するだけで心筋梗塞や脳卒中の発症リスクを低下させられることを示したもので、励みになる」とコメントしている。 Leiper氏は、「毎日を活動的に過ごすのは、容易なことではない。どのようなものであれ心拍数が上がるような活動を長く楽しみながら続けるには、何らかの変化を加えることが重要となる。電話をかけながら歩く、時計のアラームをセットして1時間おきに立ち上がってスタージャンプをするなどの『運動スナック』を取り入れることは、1日の活動の中に身体活動を取り入れるための良い方法だろう」と述べている。

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映画「イン・ハー・シューズ」【なんで読み書きだけできないの?なんで計算できないの?(学習障害)】Part 3

学習障害にどうする?学習障害の原因は、脳の機能の障害であり、学習環境ではないことがわかりました。これを踏まえて、学習障害の本質的な対策を大きく3つの時期にわけてみましょう。(1)小学校マギーは、実際に学習障害者向けの特別な学校に行っていました。小学校では、読み書き計算への特別なトレーニングをすることです。日本では、米国のような特別な学校はありませんが、たとえば、週1回2時間の特別支援教室を利用することができます。また、学習障害専門の医療機関で指導を受けることもできます。小学校は、読み書き計算の敏感期であることが考えられるため、この対策を優先的に行うことが必要です。(2)中学校・高校マギーは、自信も自尊心も低くなり、軽はずみな行動(逸脱行動)を繰り返していました。これは、学習障害による二次障害です。しかし、おばあちゃんや教授のサポーティブなかかわりによって、マギーは自信と自尊心を取り戻し、真面目に働くようになりました。中学校・高校では、このような二次障害の予防のために、もはや特別なトレーニングをするのではなく、読み書き計算へのサポートツールを使うことです。たとえば、読字の障害なら読み聞かせの音読機能のアプリを使う、書字の障害ならパソコンを持ち込む、計算の障害なら計算機を使うことです。また、字の書き順が間違っていても、形がほぼ合っていて読めるなら問題なしとすることです。このように、学習の形にこだわらないようにする必要があります。これは、学習条件を合理的に配慮する取り組みで、障害者差別解消法の一環の合理的配慮として推進されています。そもそも小学校で特別なトレーニングをしても限界があるなら、これ以上トレーニングを続けるメリットがなくなります。むしろ「どうせ自分はできないしだめだ」という二次障害のリスクを高めます。そうではなくて、「自分にもできることはあるし、大丈夫だ」という心を育むことがまず必要です。この点では、場合によっては、小学校高学年からこの取り組みを検討することが必要です。(3)成人後マギーは、やがて自分の美的センスを生かして、高齢者向けの服のコーディネートのビジネスを始めます。受付は、おばあちゃんが代わりにやっていました。成人後は、読み書き計算をなるべくしなくて済む仕事を選ぶことです。たとえば、専門職よりも一般職です。事務職よりも営業職です。デスクワークよりもフィールドワークです。ほとんどの能力(機能)の敏感期が20歳までであることを踏まえると、読み書き計算も20歳までであることが推定されます。成人してからの学習の効果があまり期待できないことから、やはり自分に合った、自分にできる仕事を見つけることが必要です。なお、敏感期の詳細については、関連記事2をご覧ください。「イン・ハー・シューズ」とは?マギーの姉は、弁護士という最も読み書き計算を駆使する職に就いていましたが、地味で容姿に自信がありませんでした。姉は、そんなマギーとは真逆なキャラクターですが、唯一同じなのが足のサイズなのでした。2人は反発し合いながらも、最後は仲直りします。そして、マギーは姉の結婚式で詩をゆっくり読み上げます。その中で「私の心を重ねて」(I carry your heart with me.)という言い回しが繰り返されます。「イン・ハー・シューズ」とは、「彼女の立場だったら(彼女の靴を履いたら)」という意味で、まさに「私の心を重ねて(わかり合えれば)」という言い回しに重なります。これは、この2人だけのことではなく、まさに社会としても学習障害を理解し、サポートすることであることをこの映画はほのめかしているように思われます。現代の社会は、ICT(情報通信技術)によって、学習障害へのサポートツールがますます充実してきています。そんななか、「自分だけずるい」「特別扱いだ」という周りのクラスメートの目も気になってきます。これは、「教育の平等」というこれまでの価値観によるものです。そして、個人の学習という内容を優先するか、それとも教育の平等という形式を優先するかという教育理念のぶつかり合いでもあります。この時、何が一番大事なのかを考えることが必要になってきます。それは、なんのために学んでいるのかということです。それは、たとえ障害があってもその子その子が成長するためです。足並みを揃えるためではないです。優劣をつけるためでもないです。この考え方は、先ほど紹介した合理的配慮(障害者差別解消法)が根拠としている障害者権利条約に通じており、グローバルスタンダードになっています。今回の「イン・ハー・シューズ」を通して、まさにその子その子の身になってみたら、持っている能力に寄り添う学びのあり方が必要であることをより理解できるのではないでしょうか?1)医療スタッフのためのLD診療・支援入門 P20:玉井浩(監)、診断と治療社、20222)ヒューマニエンス 40億年のたくらみ「“文字” ヒトを虜にした諸刃の剣」:NHKオンデマンド、2022<< 前のページへ■関連記事ピカソ「泣く女」【なんでこれがすごいの?だから子供は絵を描くんだ!(アートセラピー)】Part 1海外番組「セサミストリート」【子供をバイリンガルにさせようとして落ちる「落とし穴」とは?(言語障害)】Part 1

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化学眼外傷【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第9回

今回は化学眼外傷についてです。洗顔料や洗剤、化粧品などの化学物質が目に入ったという経験は誰でも一度はあると思います。私も皿洗い中に洗剤が目に入って痛い思いをしたことがあります。私の場合は目を洗えば症状が消失しましたが、化学物質の種類や経過によっては失明の恐れがあることが知られているため、ちょっとした受傷でも恐怖を覚える患者さんは少なくありません。救急外来に化学眼外傷の患者さんが来るのはたいてい夜です。日中であれば眼科を受診するため、眼科以外の開業医の先生が診察する機会はまれかもしれません。しかし、万が一来院したときのために初療を知っておくことは重要です。今回は、化学眼外傷患者が受診した際にどのような対応が必要かを解説します。<症例>30歳、男性主訴目に殺虫剤が入った受診2時間ほど前、家に虫が入ったため殺虫剤を使用した。目を離したすきに子供が殺虫剤を使用し、それが患者の顔面にかかった。その後、目がひりひりするため電話で問い合わせをしてから受診。既往歴、アレルギー歴、内服薬、バイタル:特記事項なし両目に結膜充血ありこれは、私が近くに眼科がないとある南方の島の病院で働いていたときの症例です。眼科を受診するためには、船+車で3~4時間程度かかります。「眼科に電話で相談する」が最も適切な回答だとは思いますが今回はそれはナシにして…。眼表面の異物に対して非専門医ができる治療は「洗浄」です。とにかく洗います。上記の症例では電話で問い合わせがあったため、私は「まず10分間水道水で洗ってから来て」と伝えました。化学眼外傷の初療で重要なことは「なるべく早く洗浄して、化学物質を洗い流す」です1)。診療ストラテジー(1)視力評価視力は眼のバイタルサインと呼ばれるほど重要ですので、視力を必ず確認しましょう。視力検査のランドルト環があればよいのですが、なければ「いつもと見え方が違いますか?」と質問し、視力障害がないかを判断しましょう。(2)化学物質の評価次に、何が目に入ったか聞いてpHを調べてみましょう。目に入った成分のpHを調べる最も優れた方法はインターネットで検索することです。多くの患者は眼に入ったものが何かわかっていますので、「商品名、SDS※」もしくは「商品名、pH」と検索すれば大抵の商品のpHはわかります。※SDS:Safety Data Sheet(安全データシート)目に入ったものがわからない、もしくは商品名を調べてもわからない場合は、pH試験紙で眼表面のpHを調べて、正常範囲を逸脱しているかどうかを確認します。人間の眼のpHは大体6.5~7.0、高くて8.0で日内変動があります2,3)。これより大きく外れた場合は緊急性が高いです。眼表面のpHの測定をするには、尿試験紙のpHの部位を当ててもよいですし、pH測定用の試験紙でも構いません。pH試験紙のpHごとの色アルカリだとどす黒くなり、酸性だと明るい赤になります。試しに家にあったハイター(pH12)を試験紙に付けてみたところこんな色でした。ハイターをpH試験紙につけてみたちなみにこの患者さんの目に入った殺虫剤を検索したところ「pH 該当しない」となっていました。そのため眼表面のpHを測定したところ、pH7.0と正常範囲内でした(後日、「該当しないとはどういう意味?」と経済産業省に問い合わせたところ、「本当は掲載しなければならないそうで対応します」と返事をいただきました)。(3)pHで組織障害を推測成分が強酸(pH<4)もしくは強アルカリ(pH>10)の場合は可及的速やかに眼球の洗浄が必要となります。とくに強アルカリの場合、「水酸化イオンと陽イオンに解離し、細胞膜の脂肪酸を鹸化しながら、眼球の上皮、間質、内皮を破壊する」という事象が生じます。わかりにくいのですが、端的に言うと「傷が深い」です。この患者さんは眼表面のpHが正常範囲内なので組織障害は低いと考えました。(4)鎮痛、洗浄治療は洗浄です。とにかく洗うことが重要です。しかし、結膜や角膜に障害が強い場合は、痛みで目が開けられなかったり、水をかけられなかったりすることがあります。その場合は、オキシブプロカイン点眼薬を投与して除痛します。除痛ができたら洗浄を開始します。多くの文献では最低2Lの水道水もしくは生理食塩水での洗浄を推奨しています4,5)。瞼の裏などに洗い残しがあることがあるため、必ず上眼瞼、下眼瞼を順番に反転させて眼球を動かしながら奥まで洗浄しましょう。強酸や強アルカリの成分の場合、化学物質が洗い流されていることを確認することが重要です。洗浄後に再度pH試験紙を使用し、正常pHである6.5~8.0になっていることを確認できれば洗い流せたと判断します。強アルカリはなかなか落ちませんので注意が必要です。ハイターを触ったことがある方は、あのネトネトした感じが洗っても洗っても落ちないという経験があると思います。私は実際にアルカリ眼症の洗浄をしたことがありますが、10Lの生理食塩水で洗ってもまだpH試験紙がどす黒い色をしていました。結局眼科に相談し、さらに10Lを追加して洗いましたが、やはりどす黒く、再度眼科と相談して引き継ぎました。なお、本症例の疼痛は違和感程度であったため、鎮痛薬は使用せず2Lの水道水で洗浄して終了としました。(5)洗浄後洗浄後の対応ですが、私は強酸や強アルカリ成分による外傷、視力障害がある場合は必ず緊急で眼科に相談するようにしています。pHが逸脱していなくても、オキシブプロカイン点眼を使わなければいけないほど疼痛が強い場合は眼表面に強い障害を起こしている可能性が高いので、抗菌薬入りの点眼薬と内服の鎮痛薬を処方して後日眼科に相談しています。オキシブプロカイン点眼薬でなく、内服の鎮痛薬を処方する理由は、オキシブプロカイン点眼薬の連続使用により創傷治癒遅延が生じる可能性があるという報告があるためです。しかし、創傷治癒遅延が起こったと記載しているのは症例報告のみで、近年の複数のメタアナリシスでは有害事象の増加は認めなかったという報告もあり、今後のプラクティスは変化するかもしれません6)。オキシブプロカイン点眼薬の効果はとても良好なので、点眼して痛みがなくなったら「治った」と思い、その後眼科に行かずに悪化したという事例を聞いたことがあるので、もしオキシブプロカイン点眼薬を処方するときは必ず眼科に受診するように念押ししましょう。軽い疼痛や無症状であれば、2Lの水道水で洗浄して帰宅、何かしらの症状が生じるようなら眼科を受診するように指示します。本症例は洗浄後に症状が消失したのでとくに処方はなく、目の見えにくさや目の強い痛みが出た場合は眼科を受診するよう指示しました。化学眼外傷は非専門医にはとっつきにくいですが、なるべく早く洗浄することが重要です。万が一対処が求められたときの参考になれば幸いです。●成分がわからずpH試験紙もない場合眼に入ったものが何かわからず、pH試験紙もない場合はどうしましょう? 何があってもまずは洗浄です。先述したとおり2Lの水道水または生理食塩水で洗浄し、その後は症状に合わせて方針を決めます。軽い痛みで物もしっかり見えていれば洗浄で終了。強い痛みもしくは視力障害があれば、角膜に障害があると考えて眼科に紹介します。●オキシブプロカイン点眼薬がない場合鎮痛用の点眼薬がない施設もあるかもしれません。代替薬として比較的多くの病院にあるのがリドカイン製剤(スプレー、ゼリー、局所注射用)だと思いますが、眼球に滴下し使用することは推奨されていません。これは完全に私の見解ですが、疼痛が強いということは眼表面に強い障害が起きており、洗浄が必要な状態です。リドカイン製剤しかない場合であっても、リスク・ベネフィットを考えてその場にあるリドカインを使用して洗浄しても許容されるのではないかと考えます。●眼洗浄の裏技大量の生理食塩水などで洗い続けるのは大変ですし、洗浄のためにずっとそばにいなければなりません。そのため、ある程度洗浄したところで私は点滴の先を切り取って眼瞼の内側に当てて自然滴下で洗浄します。点滴を用いた目の洗浄1)Gelston CD. Am Fam Physician. 2013;88:515-519.2)佐々木 克哉. 日本眼科學会雜誌. 1995;99:676-682.3)Abelson MB, et al. Archives of Ophthalmology. 1981;99:301.4)Rodrigues Z. Emergency Nurse. 2009;17:26-29.5)Solim MAN, et al. Ther Adv Ophthalmol. 2021;13:25158414211030429.6)St.Louis WUSoMi. Topical Anesthetics for Corneal Abrasions.

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ファイザーXBB.1.5対応コロナワクチン、流行中の各変異株に有効

 2023年9月に欧米諸国や日本で承認となったファイザーのオミクロン株XBB.1.5対応新型コロナワクチン(BNT162b2 XBB.1.5)の効果を検証するため、ドイツ・Hannover Medical SchoolのMetodi V Stankov氏らの研究チームは、ファイザーXBB.1.5対応コロナワクチン30μgを接種した医療従事者53人について、接種から8~10日後の免疫応答を解析した。その結果、すべてのファイザーXBB.1.5対応コロナワクチン接種者において抗スパイクIgG抗体が大幅に増加し、現在流行しているSARS-CoV-2の各系統に対する強力な中和反応が誘発されたことが示された。The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2023年11月20日号掲載の報告。ファイザーXBB.1.5対応ワクチン接種後に変異株の中和反応率が増加 本調査では、対象者の65人の医療従事者のうち、2023年9月にファイザーのオミクロン株XBB.1.5対応ワクチンを接種した53人について免疫応答をモニタリングし、接種から8~10日後を解析した。65人中43人(66%)が過去に4回以上のワクチン接種を受けており、19人(29%)がBA.4/5対応2価ワクチンの接種を受けていた。53人(82%)がSARS-CoV-2感染を経験していた。擬似ウイルス中和試験にて、SARS-CoV-2の8系統(起源株、B.1、BA.5、XBB.1.5、XBB.1.16、EG.5.1、XBB.2.3、BA.2.86)に対する中和反応を解析した。 ファイザーXBB.1.5対応コロナワクチンの効果を検証した主な結果は以下のとおり。・ファイザーXBB.1.5対応ワクチンの接種により、起源株へのIgG抗体は2~9倍、オミクロン株BA.1へのIgG抗体は3~6倍に有意に増加した(p<0.001)。・ファイザーXBB.1.5対応ワクチン接種後、受容体結合ドメインに結合するメモリーB細胞の総割合は、有意に増加した(平均頻度0.88%、p<0.0001)。全体として42.3%の増加がみられ、うち90.4%は交差反応性メモリーB細胞の増加によるものであった。・ファイザーXBB.1.5対応ワクチン接種前の中和反応率は、B.1で100%、BA.5で91%、XBB.1.5で55%、EG.5.1で43%、BA.2.86で77%であった。・ファイザーXBB.1.5対応ワクチン接種後、B.1の中和反応率は100%のままだったが、そのほかすべての変異株で中和反応率が増加した。とくに、XBB.1.5で44倍、XBB.1.16で32倍、EG.5.1で34倍、XBB.2.3で48倍、BA.2.86で17倍の増加を示した。・ファイザーXBB.1.5対応ワクチン接種前、IFN-γ陽性CD4T細胞およびCD8T細胞のスパイクタンパクに反応する頻度は比較的低かったが、接種後は、起源株およびXBB.1.5に対するIFN-γ陽性CD4T細胞の頻度が有意に増加した(p=0.026、p<0.0001)。XBB.1.5に反応するCD8T細胞でも有意な増加が認められた(p=0.0225)。TNF-αの有意な増加は認められなかった。・中和活性がワクチン接種後から次第に低下し、ウイルスが免疫逃避する可能性がある一方で、T細胞媒介の免疫反応はより持続的で強固だと考えられる。

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抗ヒスタミン薬が無効の慢性特発性蕁麻疹、ligelizumabの効果は?/Lancet

 ヒスタミンH1受容体拮抗薬(H1AH)による治療で、効果不十分な成人および青年期(12歳以上)の慢性特発性蕁麻疹(CSU)患者において、ligelizumabはプラセボに対する優越性を示したが、オマリズマブに対しては示さなかった。ドイツ・Urticaria Center of Reference and Excellence(UCARE)のMarcus Maurer氏らが、ligelizumabの有効性と安全性を評価した2つの第III相無作為化二重盲検比較試験「PEARL-1試験」および「PEARL-2試験」の結果を報告した。CSU患者の多くが、現在使用可能な治療ではその症状を完全に管理することができない。ligelizumabは、第IIb相用量設定試験ではH1AHで効果不十分なCSU患者において、蕁麻疹症状を改善することが報告されていた。Lancet誌オンライン版2023年11月23日号掲載の報告。2つの第III相試験で、ligelizumab 72mg、120mg、オマリズマブ300mgまたはプラセボに割り付け PEARL-1試験およびPEARL-2試験は、同一デザインの無作為化二重盲検実薬およびプラセボ対照並行群間比較試験で、46ヵ国347施設において実施された。 研究グループは、H1AHで効果不十分な中等度から重度の成人および青年期(12歳以上)のCSU患者を、ligelizumab 72mg、ligelizumab 120mg、オマリズマブ300mg、またはプラセボ群に3対3対3対1の割合で無作為に割り付け、4週間ごとに52週間投与した。プラセボ群では、24週目からligelizumab 120mgに切り替えた。 主要アウトカムは、12週時の週間蕁麻疹活動性スコア(UAS7)のベースラインからの変化量(CFB)で、試験薬を1回以上投与された成人患者を有効性解析対象集団として、無作為化された投与群に従って解析した。安全性は、試験薬を1回以上投与された青年期を含むすべての患者を安全性解析対象集団として、実際に投与された試験薬について評価した。ligelizumabの優越性、対プラセボでは示すも、対オマリズマブでは示されず 2018年10月17日~2021年10月26日に、2試験で合計2,057例が無作為に割り付けられた(ligelizumab 72mg群614例、ligelizumab 120mg群616例、オマリズマブ群618例、プラセボ群209例)。患者背景は、1,480例(72%)が女性、577例(28%)が男性で、両試験のベースラインでの平均UAS7は29.37~31.10であった。 12週時のUAS7のベースラインからの変化量(最小二乗平均値)のプラセボ群との差は、PEARL-1試験およびPEARL-2試験において、それぞれligelizumab 72mg群が-8.0(95%信頼区間[CI]:-10.6~-5.4)、-10.0(-12.6~-7.4)、ligelizumab120mg群が-8.0(-10.5~-5.4)、-11.1(-13.7~-8.5)であり、両試験においてligelizumab 72mg群および120mg群のプラセボ群に対する優越性が示された。 一方、12週時のUAS7のベースラインからの変化量(最小二乗平均値)のオマリズマブ群との差は、PEARL-1試験およびPEARL-2試験において、それぞれligelizumab 72mg群で0.7(95%CI:-1.2~2.5)、0.4(-1.4~2.2)、ligelizumab 120mg群で0.7(-1.1~2.5)、-0.7(-2.5~1.1)であり、ligelizumab 72mg群および120mg群のオマリズマブ群に対する優越性は示されなかった。 ligelizumab、オマリズマブのいずれも、新たな安全性シグナルは認められなかった。

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毎日のナッツ摂取は男性の生殖能力を上げる効果があるのか

 ナッツ類には、オメガ3系多価不飽和脂肪酸、食物繊維、ビタミン、ミネラル、ポリフェノールが豊富に含まれているため、定期的な摂取は健康に良いとされている。では、ナッツは生殖機能の改善にも貢献するのであろうか。オーストラリア・モナシュ大学栄養・栄養摂取・食物学科のBarbara R. Cardoso氏らの研究グループは、ナッツ類の摂取と生殖能力の系統的レビューおよびメタ解析を行った。その結果、栄養学的にナッツの摂取が生殖能力を高めることが示唆された。Advances in Nutrition誌オンライン版2023年11月17日号に掲載。毎日60gのナッツ摂取で男性の精子の運動率が増加 本研究は、Ovid MEDLINE、Embase、CINAHL、Scopusを2023年6月30日まで検索。対象とした論文は、生殖可能年齢(18~49歳)の男女を対象とした介入研究または観察研究で、食事からのナッツ摂取(最低3ヵ月)が妊孕性に関連する転帰に及ぼす影響・関連を評価したもの。 ナッツ類の摂取と生殖能力の系統的レビューおよびメタ解析を行った主な結果は以下のとおり。・健康な男性における精子の総運動率、活力、形態、濃度に対するナッツ摂取のプール効果推定値を算出するために、ランダム効果メタ解析を実施した。・875例(男性646例、女性229例)が参加した4件の研究がこのレビューに含まれた。・健康な男性223例が参加した2件のランダム化比較試験のメタ解析では、60g/日以上のナッツの摂取は対照群と比較して精子の運動率、活力、形態を増加させるが、精子濃度には影響を及ぼさないことが示された。・非ランダム化研究では、食事からのナッツ摂取と男性における従来の精子パラメーター、あるいは生殖補助医療を受けている男女における胚着床、臨床妊娠、生児出生との関連は報告されていない。 本研究では、健康な男性において、欧米式の食事の一部として毎日少なくとも60gのナッツを摂取することが、男性の受胎可能性の予測因子である精子パラメーターを改善することを示していた。ナッツ摂取は、その栄養学的内容から生殖を成功に導く可能性があることが示唆された。

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心臓リハビリテーションでCABG後の死亡リスク低下

 冠動脈バイパス手術(CABG)後の患者では、心臓リハビリテーション(CR)の利用により、退院後2年以内の死亡リスクが低下するという研究結果が「Annals of Thoracic Surgery」に6月29日掲載された。 CRは冠動脈血行再建術を受けた患者に対し、転帰改善を目的として外来で提供される監督下の運動リハビリテーションプログラムである。しかし、CABG後の患者に対するCRの実臨床での長期転帰データは十分には得られていない。そこで、米ミシガン大学アナーバー校のTyler M. Bauer氏らは、米ミシガン州におけるメディケア出来高払い請求登録と診療データを紐付け、2015年1月1日~2019年9月30日に同州内の33施設において単独CABGを受けて生存退院した患者を特定。退院後1年以内にCRを利用した患者と利用しなかった患者の間で、退院後2年以内の死亡リスクが異なるか否かを比較した。また、CRの利用セッション数のカテゴリによる違いも検討した。 解析では、まず、患者因子と病院ごとのランダム切片を調整した混合効果ロジスティック回帰により、CR利用に影響する要因を定量化した。次に、CR利用群と非利用群、および利用セッション数のカテゴリ間で、2年死亡率を算出。未調整、多変量調整、逆確率治療重み付け(IPTW)ロジスティック回帰モデルにより、CR利用と関連することが判明したベースライン時の患者因子を調整し、死亡率の変化を推定した。 解析の結果、CABGを受けた対象患者6,412人(平均71.16歳、女性28.85%)のうち、3,848人(60.0%)がCRを利用していた。CR利用群の利用セッション数は平均23.2回であり、米国心臓協会(AHA)などが推奨する36回のセッションを完了した患者は770人(12.0%)に留まった。CRへの紹介率は病院により48.9%から100%までの幅があったが、中央値は98.0%だった。実際の利用率にも病院により26.8%から80.5%までの幅があった。退院後のCR利用を予測する患者因子として、高齢、待機手術、自宅への退院(長期療養施設と比較)、入院期間の短さなどが挙げられた。 CR利用群では非利用群と比較して、未調整の2年死亡率が有意に低かった(3.7%対13.1%、9.4%減、95%信頼区間10.8~7.9、P<0.001)。IPTW解析をしても、同様の効果が認められた(4.8%減、95%信頼区間6.0~3.5、P<0.001)。さらにCR利用セッション数別に見ると、0回の患者では2年死亡率が13.1%だったのに対し、1~11回の患者では5.2%となり、12~23回で3.9%、24~35回で3.3%、全36回完了で2.7%となった。 Bauer氏は、「今回のデータから、CRの利用が2年死亡率の低下に関連することが示唆された。今後の質向上の取り組みでは、CRへの登録と完了が不十分となる根本原因を特定し、それに対処することを検討すべきである」と結論付けている。

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非インスリン療法患者のisCGMによるHbA1c改善には治療満足度が関与

 インスリン療法を行っていない2型糖尿病患者が間歇スキャン式持続血糖測定(isCGM)を使用すると、早ければ使用開始の翌週から血糖管理が有意に改善すること、HbA1c改善幅は治療継続に関する満足度の高さと相関することなどが明らかになった。名古屋大学大学院医学系研究科内分泌・糖尿病学の尾上剛史氏、有馬寛氏らによる論文が、「Primary Care Diabetes」に10月9日掲載された。 現在、保険診療でisCGMを使用できるのはインスリン療法を行っている患者のみだが、有馬氏らはインスリン療法を行っていない2型糖尿病患者でもisCGM使用によって血糖コントロールが改善することを、多施設共同無作為化比較試験の結果として既に報告している。今回の論文は、そのデータを詳細に事後解析した結果の報告。 この研究では、インスリン療法を行っていない20~70歳未満でHbA1c7.5~8.5%未満の2型糖尿病患者100人を登録し無作為に2群に分け、1群をisCGM群、他の1群を血糖自己測定(SMBG)群とした。過去にisCGMまたはSMBGを行ったことのある患者や腎機能障害のある患者などは除外されている。12週間の介入でisCGM群はSMBG群に比較しHbA1cが有意に大きく低下し、介入終了から12週後にも有意な改善効果が持続していた。今回の検討では、isCGM群(48人)のみを解析対象として、血糖管理改善の推移や関連因子を解析した。 まず血糖関連指標の推移を見るとisCGM開始後の翌週には、平均血糖値が有意に低下、血糖値が70~180mg/dL以内にあった時間が有意に増加、180mg/dLを超えていた時間が有意に減少していた。またGMI(glucose management indicator)やMAGE(mean amplitude of glycemic excursions)といったCGMを用いた血糖管理の評価指標も、それぞれ開始翌週、2週後に有意に改善していた。また、これらの有意な改善は、介入期間を通じて維持されていた。 次にisCGMの使用状況に着目すると、isCGM装着時間が占める割合は第1週が中央値97.1%(四分位範囲87.1~99.1)と最も長く、最終週は同86.1%(31.8~96.9)と、介入期間中に徐々に減少していた。同様に、血糖値や血糖トレンドの確認(スキャン)回数は、第1週が9.2回/日(5.7~12.7)と最も多く、最終の12週目は6.4回/日(3.0~10.0)と徐々に減少していた。isCGMの装着時間が長いほど、12週間の介入期間中のHbA1c低下幅が大きいという、有意な相関も認められた(r=-0.39、P=0.009)。ただし、介入終了から12週後まで(計24週間)のHbA1cの低下幅との関連は非有意だった(r=−0.13、P=0.395)。また、スキャン回数は、12週後および24週後、いずれのHbA1c低下幅との関連も非有意だった。 続いて、年齢や性別、罹病期間、BMI、介入時点のHbA1c、処方されている経口血糖降下薬(OHA)の数、および糖尿病治療満足度質問表(Diabetes Treatment Satisfaction Questionnaire;DTSQ)の回答と、HbA1c低下幅との関連を検討した。 その結果、介入終了時点(12週後)までのHbA1c低下幅は、介入時のHbA1cと逆相関し〔HbA1cが高い患者ほどより大きく改善(r=-0.290、P=0.048)〕、DTSQの8番目の項目(現在の治療を継続することへの満足度)のスコアと正相関していた(r=0.390、P=0.009)。一方、介入終了から12週後(介入開始から24週後)までのHbA1c低下幅は、DTSQの8番目の項目のスコア(r=0.373、P=0.012)、および、5番目の項目(治療法の融通性に関する評価)のスコア(r=0.364、P=0.014)と正相関していた。年齢や性別、罹病期間、BMI、OHAの数、DTSQの他の項目(自分自身の糖尿病の理解度に関する満足度など)は、HbA1c低下幅と有意な関連がなかった。 以上より著者らは、「非インスリン療法の2型糖尿病患者がisCGMを使用することにより、血糖コントロールが迅速かつ持続的に改善し、その改善の程度はisCGMの使用を含む治療の継続に対する満足度の高さと関連していた」と総括している。

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医師が選ぶ「2023年の漢字」TOP10を発表!【CareNet.com会員アンケート】

12月12日は漢字の日。毎年年末に1年の世相を表す漢字1字が募集され、最も応募数の多かった漢字が「今年の漢字」として発表されます(主催:日本漢字能力検定協会)。本家の発表に先立ち、CareNet.com医師会員の皆さんに選ばれた「2023年の漢字」TOP10を発表します。2023年を表す漢字として、どのような漢字をイメージしましたか?第1位「戦」(155票)第1位は、昨年に引き続き「戦」が選ばれました。2022年に始まったロシアのウクライナへの軍事侵攻に加え、2023年10月7日にはイスラム組織ハマスによるイスラエル急襲が発生し、戦争状態となっています。戦争に関するニュースを目にすることも多く、戦争に関するコメントが多く寄せられました。一方、野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表「侍ジャパン」が優勝したことなど、ポジティブな「戦」に関するコメントもみられました。「戦」を選んだ理由(コメント抜粋)ウクライナ‐ロシア間の戦争、パレスチナでのイスラエルの無差別攻撃、中国の海洋進出、北朝鮮の弾道ミサイルなど戦争につながる事態が多かった。(60代 外科/群馬)コロナとの戦い、ガザ地区やウクライナの戦争などがあるから。(50代 耳鼻咽喉科/北海道)争いが絶えない。(70代以上 内科/宮城)良い戦いから悪い戦いまで、いろいろな戦いがあった。(70代以上 内科/大阪)WBC優勝。(20代 整形外科/長野)第2位「税」(62票)第2位には、「税」がランクイン。物価上昇や増税、減税に関する報道が多く、票を集めました。税負担の大きさを感じているというコメントもみられました。岸田 文雄総理大臣がインターネット上などで「増税メガネ」と揶揄され、話題となったことも理由に挙げられました。2023年10月にインボイス制度が始まったことも記憶に新しいのではないでしょうか。 「税」を選んだ理由(コメント抜粋)税金が増える話ばかりで嫌になった1年だった。(30代 神経内科/福岡)今年は税負担の大きさを強く感じたため。(50代 小児科/群馬)増税、減税など税に関わる報道が多く、値上げなどにも関連しているため。(30代 小児科/宮城)「増税メガネ」の言葉が話題になった。(30代 内科/北海道)政府の税金対策、インボイスなど。(40代 内科/東京)■第3位「争」(46票)第3位は「争」。第1位の「戦」と同様に戦争に関するコメントが多く寄せられました。ロサンゼルス・エンジェルスの大谷 翔平選手についての話題など、スポーツの「争い」に言及するコメント、個人的な「争い」に関するコメントもみられました。 「争」を選んだ理由(コメント抜粋)ウクライナに続いてパレスチナでも戦争が始まり、争いが絶えなくなり今後が不安な世の中になってきた。(50代 その他/茨城)世界的な紛争。スポーツ界でも良い意味での争い(大谷選手のホームラン王、MVPなど)がみられたように思う。(40代 小児科/鹿児島)世界のあちこちで紛争があり、さまざまなスポーツで勝利を目指して争われ、メジャーリーグでは大谷選手の争奪戦が始まりそう。(50代 放射線科/福岡)争いが絶えない1年であった。(60代 小児科/福島)第4位「高」(43票)第4位は「高」。今年は、物価や気温など「高い」ものが多く、話題となった1年でした。生活に直結するものが多かったため、票を集めたのではないでしょうか。皆さんは「高」といえばどのようなものを思い浮かべますか? 「高」を選んだ理由(コメント抜粋)物価が高い、株価が高い、気温が高い。(50代 内科/滋賀)商品の値段が次々値上げ。価格を見て「高っ」と何度つぶやいたか。(50代 眼科/福岡)物価高、賃金上昇、金高騰など、なにかと高くなる出来事が多い1年でした。(40代 整形外科/徳島)高齢化、高税率など。(40代 小児科/静岡)医療費高騰のため。(30代 血液内科/東京)第5位「暑」(42票)第5位は「暑」。気象庁は、2023年の夏(6~8月)の全国の平均気温が、1898年の統計開始以来最高となったことを発表しています。この記録的な暑さは、印象的だったのではないでしょうか。また、アンケートを実施した11月上旬も季節外れの暑さとなり、夏日を記録した地域があったことに言及するコメントも複数寄せられました。 「暑」を選んだ理由(コメント抜粋)記録的な夏の暑さだったから。(60代 内科/三重)夏自体も暑かったが、東京では11月に夏日が3日もあってなかなか暑さがおさまらないから。(40代 消化器内科/東京)歴史的な猛暑の夏と暖冬。(40代 内科/奈良)第6~10位惜しくも第5位と1票差で第6位となった漢字は「虎」。阪神タイガースが1985年以来38年ぶりとなる日本一を達成したことで票が集まりました。第6~10位は以下のとおりでした。第6位:「虎」(41票)「言うまでもなく、阪神タイガースの38年ぶりの日本一!」など第7位:「乱」(40票)「混乱、戦乱、乱暴、騒乱、落ち着きの無い年だった。」など第8位:「明」(21票)「コロナが明けて、生活スタイルがもとに戻ったから。」など第9位:「変」(18票)「いろいろな価値観、常識、観念の変化が見え出した。」など第10位:「貧」(16票)「物価上昇が著しく、国民生活は苦しくなるばかり。」など アンケート概要アンケート名『2023年を総まとめ!今年の漢字と他の医師にも薦めたい今年の購入品をお聞かせください』実施日   2023年11月8日~15日調査方法  インターネット対象    CareNet.com医師会員有効回答数 1,029件

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皮膚疾患へのJAK阻害薬、心血管リスクを増加させず

 無作為化比較試験35件の皮膚疾患患者2万例超を対象としたメタ解析において、JAK阻害薬の使用はプラセボ/実薬対照と比較して、主要心血管イベント(MACE)および全死亡、静脈血栓塞栓症(VTE)のリスク増加と関連しなかった。米国・New York University Grossman School of MedicineのJenne P. Ingrassia氏らが報告した。JAK阻害薬は、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症などの皮膚疾患に対する有効な治療選択肢であるが、米国食品医薬品局(FDA)が経口・外用JAK阻害薬について、MACE、VTE、重篤な感染症、悪性新生物、死亡のリスク増加に関する枠囲み警告(boxed warning)を付している。しかし、この枠囲み警告は関節リウマチ患者を対象とした「Oral Rheumatoid Arthritis Trial(ORAL)Surveillance試験」の結果に基づくもので、皮膚疾患患者で同様の関連が観察されるかは明らかになっていなかった。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年11月1日号掲載の報告。 研究グループは、皮膚疾患患者におけるJAK阻害薬とMACE、全死亡、VTEの関連を評価するシステマティック・レビューおよびメタ解析を実施した。 データベース開始日~2023年4月1日の期間にPubMed、ClinicalTrials.govに登録された研究を検索し、皮膚疾患に対してJAK阻害薬を用いた第III相無作為化比較試験を抽出した。JAK阻害薬はFDA承認または承認申請中、あるいはEUや日本で承認されている薬剤とした。対照群の設定されていない試験、ケースレポート、観察研究、レビューに関する論文は除外した。 システマティック・レビューおよびメタ解析は、PRISMAガイドラインに則って実施した。有害事象はランダム効果モデルとDerSimonian-Laird法を用いてオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出して評価した。2人の独立した著者によりデータの抽出と質的評価が行われた。 主要アウトカムは、MACEおよび全死亡の複合、VTEであった。 主な結果は以下のとおり。・システマティック・レビューおよびメタ解析は、無作為化比較試験35件とその参加者2万651例を対象とした。・対象患者の平均年齢(標準偏差[SD])は38.5(10.1)歳、男性は54%であった。・平均追跡期間(SD)は、4.9(2.68)ヵ月であった。・MACEおよび全死亡の複合(OR:0.83、95%CI:0.44~1.57)、VTE(同:0.52、0.26~1.04)について、JAK阻害薬とプラセボ/実薬対照に有意差は認められなかった。

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カロリー制限より時間制限食は糖尿病の食事療法に向いている?

 糖尿病患者の食事療法における時間制限食の有用性を支持する新たなエビデンスが報告された。米イリノイ大学シカゴ校のKrista Varady氏らが行った無作為化比較試験(RCT)の結果であり、正午から午後8時の間だけ摂食可とする時間制限食を6カ月行ったところ体重が有意に減少したのに対して、カロリー制限の減量幅は何の介入も行わなかった群と有意差がなかったという。この研究の詳細は、「JAMA Network Open」に10月27日掲載された。 時間制限食はその手軽さから人気が高まっているが、2型糖尿病の食事療法としての有効性や安全性を評価したRCTに基づくエビデンスはまだ少ない。Varady氏らはこれらの点を6カ月間の介入試験にて検証した。 18~80歳の肥満2型糖尿病患者75人(平均年齢55±12歳、女性71%、BMI39±7、HbA1c8.1±1.6%)を無作為に、時間制限食(TRE)群、カロリー制限(CR)群、および対照群のいずれかに割付け。TRE群は毎日、正午から午後8時のみ食事摂取可とし、摂取カロリーは制限しなかった。CR群は毎日の摂取カロリーを25%減らすよう指示した。対照群は特に介入を行わなかった。データ解析は、ITT解析(脱落者も含めた解析)によった。 介入の遵守状況を見ると、TRE群で摂取時間帯が守られていたのは週当たり6.1±0.8日であり、CR群では68%(17人)が、6カ月にわたり摂取カロリー上限を守っていた。摂取カロリーの減少幅は、TRE群が-313±509kcal/日、CR群は-197±426kcal/日、対照群は-16±439kcal/日だった。6カ月間での減量幅は、TRE群は対照群より有意に大きかった〔-3.56%(95%信頼区間-5.92~-1.20)〕。一方、CR群では対照群と有意差がなかった〔-1.78%(同-3.67~0.11)〕。 HbA1cについては、TRE群は対照群に比し-0.91%(同-1.61~-0.20)、CR群は-0.94%(同-1.59~-0.30)であり、いずれも有意な血糖コントロール改善が確認された。ただしHbA1c低下幅はTRE群とCR群とで有意差がなく、連続血糖測定で把握した血糖値が70~180mg/dL内の時間や、血圧、血清脂質値にも、有意な群間差がなかった。なお、重篤な有害事象は報告されなかった。 Varady氏は、「われわれの研究は、2型糖尿病患者を対象に摂食時間を8時間とするTREとCRの効果を比較した初の研究である。この知見を基に、減量や血糖管理のための食事療法を必要としている患者に対して、医師や栄養士が自信を持ってTREを推奨することを期待している」と述べている。 ただし同氏は一方で、「TREをより長期間継続した場合にも、体重減少効果が維持されるのかという点がまだ不明であり、大規模な研究が必要とされる」と述べている。また、「薬物療法を行っている場合は、食事のタイミングに合わせて服用すべき薬もあるため、TRE開始に際しては先に医師に相談すべき」と注意を呼び掛けている。とは言え、「TREによって減量が成功すれば血糖値も下がることが多いため、薬剤を減らすこともできるはずだ」とも付け加えている。

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第192回 ヒト細胞の小さなロボットが神経損傷を修復

ヒト細胞の小さなロボットが神経損傷を修復小さなロボットのように動く有毛の細胞塊が神経損傷を治癒しました1)。ロボットのように動く細胞入りの構造物であるバイオボット(biobot)などの生きた機械を作る取り組みが近年盛んになっています。バイオボット作りの古くからの手段の1つは細胞とそれを支えるゲルや3Dプリンター印刷物などの不活性の物質を組み合わせることです。細菌、神経・筋肉・神経筋接合部などの哺乳類細胞、加工した細胞といった種々の細胞を慎重に手間ひまかけて細工する手順を経て生理機能を担う構造物が完成します。そういう手の込んだ手段のほかに、細胞がひとりでに集まるに任せて作られる多細胞構造のバイオボットの取り組みがあり、米国・タフツ大学のMichael Levin氏のチームは4年ほど前の2020年1月にそのような多細胞構造を実験動物としてよく知られるアフリカツメガエルの胚細胞から作ったことを報告しています2)。アフリカツメガエルの学名はXenopus laevis(ゼノパス レービス)で、同チームが作ったバイオボットはゼノボット(Xenobot)と呼ばれます。ゼノボットは船やカヌーのオールのような役割を担う繊毛で覆われており、そのおかげで這ったり泳いだりさえします。また多才で、通路を進んだり、物を集めたり、情報を記録したり、傷を自己治療したり、何回かの自己複製すらやってのけます3)。未経験の仕事を教えてできるようにすることも可能です4)。ゼノポットがヒトにもそのまま利用できればよいのですが、いかんせん両生類の細胞でできているのでヒトの免疫は受け入れずに拒絶してしまうでしょう。またゼノポットは削って目当ての形へ整える工程を要します。そこでLevin氏らのチームはヒトの細胞での取り組みを始めます。目をつけたのは繊毛を有する気道細胞です。その繊毛がゼノボットの繊毛と同様に機動力を担うことを研究チームは期待しました3)。まず気道細胞はヒトの気道に似せたゲルの環境で2週間を過ごして球状の小さな塊になります。続いてより粘性が低い環境に1週間置かれ5)、繊毛が外側を向いた球状の塊が完成します。人類(anthropos)起源で生物ロボット(biorobotics)として活用しうることからアンスロボット(anthrobot)とされたそれら球状の細胞塊は10~100個ほどの細胞で構成され、大きさも形もまちまちで、繊毛の配置も異なります。動きも異なり、まっすぐ進む、回転する、あるいはその両方の動きをするものもあれば、移動せず小刻みに動くものもありました。アンスロボットはそれら同士がひとりでに凝集して大型のスーパーボットを形成することができます。そのスーパーボットをあえて傷つけた神経細胞のシートに与えたところ、スーパーボットの下で神経が再び繋がって元どおりになりました。そのような治癒効果を得るにはアンスロボットにひと工夫必要だろうと考えられていましたが、驚いたことに手を加えていないアンスロボットがそれをやってのけました。研究チームはその意外な治癒効果がどういう仕組みによるのかを調べ始めています4)。アンスロボットの研究の資金の一部をLevin氏が設立者に名を連ねる企業Astonishing Labsが提供しています。同社はアンスロボット技術による神経疾患や脊髄損傷の治療を目指しています3)。また、同社の経営担当者の1人は熱傷治療への応用も想定しています。できそうなことはほかにも多くあり、人それぞれの組織から作ったアンスロボットでたとえば動脈の通りをよくしたり薬を届けたりすることが可能になるかもしれません5)。参考1)Gumuskaya G, et al. Adv Sci (Weinh). 2023 Nov 30. [Epub ahead of print] 2)Kriegman S, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2020;117:1853-1859. 3)Tiny ‘anthrobots’ built from human cells could help heal the body / Science 4)Scientists build tiny biological robots from human cells / Eurekalert5)Tiny robots made from human cells heal damaged tissue / Nature

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糖尿病の合併症があると大腸がんの予後がより不良に

 糖尿病患者が大腸がんを発症した場合、糖尿病のない人に比べて予後が良くない傾向があり、糖尿病の合併症が起きている場合はその傾向がより強いことを示唆するデータが報告された。国立台湾大学のKuo-Liong Chien氏らの研究によるもので、詳細は「Cancer」に10月23日掲載された。 糖尿病は大腸がん予後不良因子の一つだが、糖尿病の合併症の有無で予後への影響が異なるか否かは明らかになっていない。Chien氏らはこの点について、台湾のがん登録データベースを用いた後方視的コホート研究により検討。2007~2015年にデータ登録されていた症例のうち、ステージ(TNM分類)1~3で根治的切除術を受けた患者5万9,202人を、糖尿病の有無、糖尿病の合併症の有無で分類し、Cox回帰分析にて、全生存期間(OS)、無病生存期間(DFS)、がん特異的生存率(CSS)、再発リスクなどを比較した。なお、全死亡(あらゆる原因による死亡)は2万1,031人、治療後の再発は9,448人だった。 交絡因子(年齢、性別、TNM分類、組織学的悪性度、化学放射線療法の施行、高血圧・脂質異常症の併存など)の影響を調整後、糖尿病で合併症のない群(15.0%)は、OS〔ハザード比(HR)1.05(95%信頼区間1.01~1.09)〕やDFS〔HR1.08(同1.04~1.12)〕が、わずかに非糖尿病群(75.9%)に及ばないことが確認された。CSS〔HR0.98(0.93~1.03)〕は非糖尿病群と有意差がなかった。 一方、糖尿病で合併症のある群(9.1%)では、OS〔HR1.85(1.78~1.92)〕やDFS〔HR1.75(1.69~1.82)〕への影響がより大きく、かつCSS〔HR1.41(1.33~1.49)〕にも有意な影響が認められた。再発リスクに関しては、糖尿病で合併症のない群がHR1.11(1.05~1.17)、糖尿病で合併症のある群はHR1.10(1.02~1.19)であり、いずれも同程度のリスク上昇が観察された。 OSに関連する因子のサブグループ解析の結果、男性では糖尿病で合併症のある群でのみハザード比の有意な上昇が認められたのに対して、女性では合併症のない群でもハザード比が有意に高いという違いが認められた(交互作用P<0.0001)。また、TNM分類で層別化すると、より早期のステージの場合に、合併症の有無によるOSへの影響に大きな差が生じていることが示された(交互作用P<0.0001)。年齢(50歳未満/以上)やがんの部位(結腸/直腸)、組織学的悪性度の層別解析からは、有意な交互作用は示されなかった。 Chien氏はジャーナル発のリリースの中で、糖尿病が大腸がんの予後を悪化させる理由について、「高インスリン血症や高血糖によって引き起こされるさまざまなメカニズムが関与している可能性があり、その中には2型糖尿病の特徴の一つである炎症状態の亢進も含まれるのではないか」との考察を述べている。また、「糖尿病合併症の予防には、多職種の専門家が関与した連携に基づく医療が重要であり、われわれの研究結果は特に女性や早期がん患者において、そのような介入が長期的な腫瘍学的転帰を改善する可能性のあることを示唆している」と付け加えている。

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欧州で行われた臨床研究の結果は、日本の臨床に当てはめることはできない?(解説:山地杏平氏)

 BIOSTEMI試験の5年生存追跡結果が、TCT 2023で発表され、Lancet誌に掲載されました。ST上昇型心筋梗塞(STEMI)症例において、生分解性ポリマーを用いた超薄型シロリムス溶出性ステントであるOrsiroとエベロリムス溶出性ステントのXienceを比較した試験の追跡期間を5年に延長した試験になります。 第2世代の薬剤溶出性ステントであるXienceは、第1世代の薬剤溶出性ステントであるCypherやTaxusと比較し有意に優れていることが多くの試験で示されてきました。その一方で、Xience以降に新たに発売された薬剤溶出性ステントは、Xienceに対して非劣性は示されてきたものの、優越性が示されたものはありませんでした。2014年にLancet誌で発表されたBIOSCIENCE試験でも、これまでの試験と同様に、OrsiroはXienceと比較して非劣性であることが示されましたが、そのサブグループであるSTEMI症例において、有意にOrsiroが優れていることが示唆されました。 この結果を受けて始められたのが、BIOSTEMI試験で、BIOSCIENCE試験と同じく、ベルン大学が中心となって行われた多施設共同の無作為化比較試験です。STEMI症例においては、BIOSCIENCE試験のサブグループ解析と同様に、Orsiroが心筋虚血に伴う再血行再建が有意に少なかったことが2019年にLancet誌で報告されています。そしてさらに今回報告されたのが、追跡期間を5年まで延長したものであり、その結果はきわめて穏当で、初期の差が維持され、とくに“late catch-up phenomenon”が見られず、遠隔期のイベントにおいても変化がないと報告されています。 スイスでは、IVUSやOCTといった冠動脈イメージングデバイスは、臨床研究以外ではほとんど用いられておらず、日本で行われている手技と比べ、やや控えめなサイズのデバイスが選択されることが多いように思います。そのような環境においては、STEMI症例を治療するのであれば、より薄い金属でできているOrsiroのほうが、Xienceと比較して優れていることは間違いなさそうです。一方で、冠動脈イメージングデバイスを用いて、積極的に後拡張を行う日本の手技では、OrsiroがXienceと比較して有意に優れているかはわからないように思いますし、BIOSTEMI試験の結果を受けて使用するステントが大きく変わることはないようにも思います。ただし、少なくともOrsiroはその他の第2世代の薬剤溶出性ステントと比較して、劣ってはいないことは間違いない事実であることは認識しておいてよいのではないでしょうか。 BIOSTEMI試験および、BIOSCIENCE試験はいずれも私が留学していたベルン大学が中心となって行われており、TCTでは本試験のprincipal investigatorであるThomas Pilgrim先生や、その上司であるStephan Windecker先生に久しぶりにお会いできました。Stephan Windecker先生を一躍有名にしたのが、2005年にNew England Journal of Medicine誌に報告された第1世代の薬剤溶出性ステントであるCypherやTaxusを直接比較したSIRTAX試験です。以後も長期にわたってエビデンスを出し続けているベルン大学ですが、現在も日本からの留学生を受け入れてもらっています。われこそはと思われる方がおられましたら、ぜひベルン大学留学を考えてみてください!

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コーヒーがアルツハイマー型認知症リスクに及ぼす影響~メタ解析

 アルツハイマー型認知症は、世界中で数百万人が罹患している神経変性疾患である。その予防や発症を遅らせる可能性のある生活要因の特定は、研究者にとって非常に興味深いことである。現在の研究結果に一貫性はないものの、広く研究されている因子の1つにコーヒーの摂取量がある。韓国・仁済大学校のIrin Sultana Nila氏らは、コーヒー摂取量がアルツハイマー型認知症リスクに及ぼす影響について、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、1日のコーヒー摂取が1~4杯でアルツハイマー型認知症リスクの低減がみられたが、4杯超ではリスクが増加する可能性が示唆された。Journal of Lifestyle Medicine誌2023年8月31日号の報告。コーヒー摂取でアルツハイマー型認知症の発症リスクが増加するのは1日4杯超 "coffee"、"caffeine"、"Alzheimer's disease"など、さまざまなキーワードを組み合わせて、各データベース(Pubmed、Embase、Web of Science)より関連する研究を検索した。相対リスク(RR)および95%信頼区間(CI)を算出し、エフェクトサイズを推定した。分析には、ランダム効果モデル(不均一性がI2>50%の場合)または固定効果モデル(不均一性がI2<50%の場合)による一般化逆分散分析に制限付き最尤法を用いた。なお、分析に使用したソフトではp値の結果はp=0.00と表示された。 コーヒー摂取量がアルツハイマー型認知症リスクに及ぼす影響について調べた主な結果は以下のとおり。・11件の研究をメタ解析に含めた。・日常的に1日当たり1~2杯および2~4杯のコーヒーを摂取する人は、アルツハイマー型認知症の発症リスクが有意に低かった。 【1~2杯】RR:0.68、95%CI:0.54~0.83、I2=50.99% 【2~4杯】RR:0.79、95%CI:0.56~1.02、I2=71.79%・1日当たり4杯超コーヒーを摂取する人では、アルツハイマー型認知症の発症リスクの増加が認められた。 【4杯以上】RR:1.04、95%CI:0.91~1.17、I2=0.00%

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