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第15回:医療通訳士がいると外国人患者に対する医療の質と安全が高まる監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 近年、日本への外国人観光客が増えており、日本政府観光局によると2014年1月から10月までの訪日外客数は前年同期比27%増の1,100万9,000人で過去最高を記録しています1)。また、仕事や留学などで一定期間滞在する外国人も同様に増えており、法務省によると2014年6月末での在留外国人は前年同期比1.8%増の208万6,603人 です2)。そのため医療機関を受診する外国人は今後、都市部を中心に増えていくことが予想されます。しかし、国内では医療現場における通訳を専門とする「医療通訳士」について厚生労働省が作成した「医療通訳育成カリキュラム」はあるものの3)、統一した医療通訳養成課程や国家資格、また通訳登録システム等は存在せず、ボランティアやNGOの活動に頼っているのが現状です4)。また、言語の壁や習慣の違いから生じる医療トラブルも報告されており4)、外国籍の人に対する医療の質と安全、患者満足度を高めるためにも医療通訳について理解を深めたいところです。 以下、American Family Physician 2014年10月1日号5) よりアメリカには2,500万人以上の「英語をうまく話せない」人がおり、これらの人は適切な医療を受けることができず健康状態が悪くなる、または医療現場での患者満足度が低下する等の悪影響を認めている。このような問題に対して医療通訳士を介入させた場合、次のような有益性が報告されている。◆医療通訳士がもたらす有益性 患者医療者間のコミュニケーションエラーを減らす 患者満足度を向上させる 患者と医療者の双方が病状や説明について的確に理解できる 患者が医療を適切に利用できる 医療過誤を減らす 入院期間と30日以内の再入院率を減らす 一方で、医療通訳を専門的にトレーニングされていない者(家族や友人など)が通訳した場合には、次のような問題が報告されている。◆医療通訳士ではない者が通訳した場合の問題 小児は内容を理解できないことがある 家族は個人的な問題を抱えていることがある 医療者が伝えていない事を通訳士が勝手にアドバイスしたり、余計なアドバイスを与えることがある 守秘義務が保証されていない 入院期間の長期化や再入院のリスクが高くなる 通訳者と患者の間で不要な会話が生じて問診に支障が生じることがある 家族や友人に通訳させる場合は、患者のプライベートなことや性的なことについて十分に聞けないことがある 医学用語に不慣れなため誤解や誤訳が生じることがある また、医療通訳士を介入させた場合でも、次のような問題がよくみられるため注意が必要である。 問題:通訳に話しかけてしまう 対応:患者に直接話しかける 問題:通訳者と患者の間で会話や質疑が続いてしまう 対応:一文ごとに通訳してもらい、患者と直接コミュニケーションを図る 問題:複数の難しい問題についての議論に陥ってしまう 対応:要点を3つ以下に絞って話を進める 問題:話が横道に逸れてしまう 対応:一文ごとに通訳してもらう 問題:通訳者の技量不足に影響を受ける 対応:可能な限り有資格者の医療通訳士に依頼する 問題:患者から離れた場所に通訳者が座っている 対応:患者の隣、あるいはすぐ後ろに座ってもらう 問題:通訳者に同意書へ署名してもらう、治療に関わる同意書へ通訳者が署名する 対応:通訳者ではなく患者関係者に同意書へ署名してもらう 問題:家族や友人に通訳してもらう 対応:可能な限り有資格者の医療通訳士に依頼する 問題:通訳者が「彼は~といっている」など三人称を用いて話をしてしまう 対応:通訳者に「私は~です」と一人称を用いて話をしてもらう 以上のことから、英語を十分に話せない外国人患者に対してはコミュニケーションエラーを減らし、臨床経過を改善させ、患者満足度を向上させるために訓練を受けた医療通訳士を介入させる必要がある。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 日本政府観光局.統計発表 平成26年 訪日外客数・出国日本人数 (2014年11月19日公表) 2) 法務省.在留外国人統計(旧登録外国人統計)2014年6月末 (参照:2014年11月22日) 3) 厚生労働省.医療通訳に関する資料 (参照:2014年11月22日) 4) カレイラ松崎順子・杉山明枝.東京未来大学研究紀要.2012;5:21-29. 5) Juckett G, et al.Am Fam Physician. 2014; 90: 476-480.