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巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)〔GCA : giant cell arteritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義巨細胞性動脈炎(giant cell arteritis:GCA)は、大動脈とその分枝の中~大型動脈に起こる肉芽腫性血管炎である。頸動脈の頭蓋外の動脈(とくに側頭動脈)が好発部位のため、以前は、側頭動脈炎(temporal arteritis:TA)といわれた。発症年齢の多くは50歳より高齢であり、しばしばリウマチ性多発筋痛症(PMR)を合併する。1890年HunchingtonらがTAの症例を報告し、1931年にHortonらがTAの臨床像や病理学的特徴を発表したことからTAとしての古い臨床概念が確立し、また、TAは“Horton’s disease”とも呼ばれてきた。その後1941年Gilmoreが病理学上、巨細胞を認めることから“giant cell chronic arteritis”の名称が提唱された。この報告により「巨細胞性動脈炎(GCA)」の概念が確立された。GCAは側頭動脈にも病変を認めるが、GCAのすべての症例が側頭動脈を傷害するものではない。また、他の血管炎であっても側頭動脈を障害することがある。このためTAよりもGCAの名称を使用することが推奨されている。■ 疫学 1997年の厚生省研究班の疫学調査の報告は、TA(GCA)の患者は人口10万人当たり、690人(95%CI:400~980)しか存在せず、50歳以上では1.48人(95%CI: 0.86~2.10)である。人口10万人当たりの50歳以上の住民のGCA発症率は、米国で200人、スペインで60人であり、わが国ではTA(GCA)は少ない。このときの本邦のTA(GCA)の臨床症状は欧米の症例と比べ、PMRは28.2%(欧米40~80%)、顎跛行は14.8%(8~50%)、失明は6.5%(15~27%)、脳梗塞は12.1%(27.4%)と重篤な症状はやや少ない傾向であった。米国カリフォルニア州での報告では、コーカシアンは31症例に対して、アジア人は1例しか検出されなかった。中国やアラブ民族でもGCAはまれである。スカンジナビアや北欧出身の家系に多いことが知られている。■ 病因病因は不明であるが、環境因子よりも遺伝因子が強く関与するものと考えられる。GCAと関連が深い遺伝子は、HLA-DRB1*0401、HLA-DRB1*0404が報告され、約60%のGCA症例においてどちらかの遺伝子を有する。わが国の一般人口にはこの2つの遺伝子保持者は少ないため、GCAが少ないことが推定される。■ 症状全身の炎症によって起こる症状と、個別の血管が詰まって起こる症状の2つに分けられる。 1)全身炎症症状発熱、倦怠感、易疲労感、体重減少、筋肉痛、関節痛などの非特異的な全身症状を伴うので、高齢者の鑑別診断には注意を要する。2)血管症状(1)頸部動脈:片側の頭痛、これまでに経験したことがないタイプの頭痛、食べ物を噛んでいるうちに、顎が痛くなって噛み続けられなくなる(間歇性下顎痛:jaw claudication)、側頭動脈の圧痛や拍動頸部痛、下顎痛、舌潰瘍など。(2)眼動脈:複視、片側(両側)の視力低下・失明など。(3)脳動脈:めまい、半身の麻痺、脳梗塞など。(4)大動脈:背部痛、解離性大動脈瘤など。(5)鎖骨下動脈:脈が触れにくい、血圧に左右差、腕の痛みなど。(6)冠動脈:狭心症、胸部痛、心筋梗塞など。(7)大腿・下腿動脈:間歇性跛行、下腿潰瘍など。3)合併症約30%にPMRを合併する。高齢者に起こる急性発症型の両側性の頸・肩、腰の硬直感、疼痛を示す。■ 分類側頭動脈や頭蓋内動脈の血管炎を呈する従来の側頭動脈炎を“Cranial GCA”、大型動脈に病変が認められるGCAを“Large-vessel GCA”とする分類法が提唱されている。大動脈を侵襲するGCAは、以前、高安動脈炎の高齢化発症として報告されていた経緯がある。GCA全体では“Cranial GCA”が75%である。“Large-vessel GCA”の中では、大動脈を罹患する型が57%、大腿動脈を罹患する型が43%と報告されている(図)。画像を拡大する■ 予後1998年の厚生省全国疫学調査では、治癒・軽快例は87.9%であり、生命予後は不良ではない。しかし、下記のように患者のQOLを著しく阻害する合併症がある。1)各血管の虚血による後遺症:失明(約10%)、脳梗塞、心筋梗塞など。2)大動脈瘤、その他の動脈瘤:解離・破裂の危険性に注意を要する。3)治療関連合併症:活動性制御に難渋する例では、ステロイドなどの免疫抑制療法を反復せねばならず、治療関連合併症(感染症、病的骨折、骨壊死など)で臓器や関連の合併症にてQOLが不良になる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)1990年米国リウマチ学会分類基準に準じる。5項目のうち3項目を満足する場合、GCAと分類する(感度93.5、特異度91.2%)。厚生労働省の特定疾患個人調査票(2015年1月)は、この基準にほぼ準拠している。5項目のうち3項目を満足する場合に、GCAと診断される(表1)。画像を拡大する■ 検査1)血液検査炎症データ:白血球増加、赤沈亢進、CRP上昇、症候性貧血など。CRP赤沈は疾患活動性を反映する。2)眼底検査必須である。虚血性視神経症では、視神経乳頭の虚血性混濁浮腫と、網膜の綿花様白斑(軟性白斑)を認める。3)動脈生検適応:大量ステロイドなどのリスクの高い免疫抑制治療の適応を決めるために、病理学的検討を行うべきである。ただし、進行性の視力障害など、臨床経過から治療を急ぐべきと判断される場合は、ステロイド治療開始を優先し、側頭動脈生検が治療開始の後でもかまわない。側頭動脈生検の実際:症状が強いほうの側頭動脈を局所麻酔下で2cm以上切除する。0.5mmの連続切片を観察する。病理組織像:中型・大型動脈における(1)肉芽腫性動脈炎(炎症細胞浸潤+多核巨細胞+壊死像)、(2)中膜と内膜を画する内弾性板の破壊、(3)著明な内膜肥厚、(4)進行期には内腔の血栓性閉塞を認める。病変は分節状に分布する(skip lesion)。動脈生検で巨細胞を認めないこともある。4)画像検査(1)血管エコー:側頭動脈周囲の“dark halo”(浮腫性変化)はGCAに特異的である。(2)MRアンギオグラフィー(MRA):非侵襲的である。頭蓋領域および頭蓋領域外の中型・大型動脈の評価が可能である。(3)造影CT/3D-CT:解像度でMRAに優る。全身の血管の評価が可能である。3次元構築により病変の把握が容易である。高齢者・腎機能低下者には注意すること。(4)血管造影:最も解像度が高いが、侵襲的である。高齢者・腎機能低下者には注意すること。(5)PET-CT(2015年1月現在、保険適用なし):質的検査である。血管壁への18FDGの取り込みは、血管の炎症を反映する。ただし動脈硬化性病変でもhotになることがある。5)心エコー・心電図など:心合併症のスクリーニングを要する。■ 鑑別診断1)高安動脈炎(Takayasu arteritis:TAK)欧米では高安動脈炎とGCAを1つのスペクトラムの中にある疾患で、発症年齢の約50歳という違いだけで分類するという考えが提案されている。しかし、両疾患の臨床的特徴は、高安動脈炎がより若年発症で、女性の比率が高く(約1:9)、肺動脈病変・腎動脈病変・大動脈の狭窄病変が高頻度にみられ、PMRの合併はみられず、潰瘍性大腸炎の合併が多く、HLA-B*52と関連する。また、受診時年齢と真の発症年齢に開きがある症例もあるので注意を要する。現時点では発症年齢のみで分けるのではなく、それぞれGCAとTAKは1990年米国リウマチ学会分類基準を参考にすることになる。2)動脈硬化症動脈硬化症は、各動脈の閉塞・虚血を来しうる。しかし、新規頭痛、顎跛行、血液炎症データなどの臨床的特徴が異なる。GCAと動脈硬化症は共存しうる。3)感染性大動脈瘤(サルモネラ、ブドウ球菌、結核など)、心血管梅毒細菌学的検査などの感染症の検索を十分に行う。4)膠原病に合併する大動脈炎など(表2)画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療の目標は、(1)全身炎症症状の改善、(2)臓器不全の抑制、(3)血管病変の進展抑制である。ステロイド(PSL)は強い抗炎症作用を有し、GCAにおいて最も確実な治療効果を示す標準治療薬である。■ 急性期ステロイド初期量:PSL 1mg/kg/日が標準とされるが、症状・合併症に応じて適切な投与量を選択すること。2006~2007年度の診療ガイドラインでは、下記のように推奨されている。とくに、高齢者には圧迫骨折合併に注意する必要がある。1)眼症状・中枢神経症状・脳神経症状がない場合:PSL 30~40 mg/日。2)上記のいずれかがある場合:PSL 1mg/kg/日。■ 慢性期ステロイド漸減:初期量のステロイドにより症状・所見の改善を認めたら、初期量をトータルで2~4週間継続したのちに、症状・赤沈・CRPなどを指標として、ステロイドを漸減する。2006~2007年度の診療ガイドラインにおける漸減速度を示す。1)PSL換算20mg/日以上のとき:2週ごとに10mgずつ漸減する。2)PSL換算10~20mg/日のとき:2週ごとに2.5mgずつ漸減する。3)PSL換算10mg/日以下のとき:4週ごとに1mgずつ、維持量まで漸減する。重症例や活動性マーカーが遷延する例では、もう少しゆっくり漸減する。■ 寛解期ステロイド維持量:維持量とは、疾患の再燃を抑制する必要最小限の用量である。2006~2007年度の診療ガイドラインでは、GCAへのステロイド維持量はPSL換算10mg/日以下とし、通常、ステロイドは中止できるとされている。しかし、GCAの再燃例がみられる場合もあり、GCAに合併するPMRはステロイド減量により再燃しやすい。■ 増悪期ステロイドの再増量:再燃を認めたら、通常、ステロイドを再増量する。標的となる臓器病変、血管病変の進展度、炎症所見の強度を検討し、(1)初期量でやり直す、(2)50%増量、(3)わずかな増量から選択する。免疫抑制薬併用の適応:免疫抑制薬はステロイドとの併用によって相乗効果を発揮するため、下記の場合に免疫抑制薬をステロイドと併用する。1)ステロイド効果が不十分な場合2)易再燃性によりステロイド減量が困難な場合免疫抑制薬の種類:メトトレキサート、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロホスファミドなど。■ 経過中に注意すべき合併症予後に関わる虚血性視神経症、脳動脈病変、冠動脈病変、大動脈瘤などに注意する。1)抗血小板薬脳心血管病変を伴うGCA患者の病変進展の予防目的で抗血小板薬が用いられる。少量アスピリンがGCA患者の脳血管イベントおよび失明のリスクを低下させたという報告がある。禁忌事項がない限り併用する。2)血管内治療/血管外科手術(1)各動脈の高度狭窄ないし閉塞により、重度の虚血症状を来す場合、血管内治療によるステント術か、バイパスグラフトなどによる血管外科手術が適応となる。(2)大動脈瘤やその他の動脈瘤に破裂・解離の危険がある場合も、血管外科手術の適応となる。4 今後の展望関節リウマチに保険適用がある生物学的製剤を、GCAに応用する試みがなされている(2015年1月現在、保険適用なし)。米国GiACTA試験(トシリズマブ)、米国AGATA試験(アバタセプト)などの治験が行われている。わが国では、トシリズマブの大型血管炎に対する治験が進行している。5 主たる診療科リウマチ科・膠原病内科、循環器内科、眼科、脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 巨細胞性動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)今日の臨床サポート 巨細胞性動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)J-STAGE(日本臨床免疫学会会誌) 巨細胞性動脈炎(医療従事者向けのまとまった情報)2006-2007年度合同研究班による血管炎症候群の診療ガイドライン(GCAについては1285~1288参照)(医療従事者向けのまとまった情報)1)Jennette JC, et al. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.2)Grayson PC, et al. Ann Rheum Dis. 2012;71:1329-1334.3)Maksimowicz-Mckinnon k,et al. Medicine. 2009;88:221-226.4)Luqmani R. Curr Opin Cardiol. 2012;27:578-584.5)Kermani TA, et al. Curr Opin Rheumatol. 2011;23:38-42.

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2つの月1回抗精神病薬持効性注射剤、有用性の違いは

 統合失調症患者に対する2つの持効性注射剤の有用性を評価するため、ドイツ・ハンブルク大学エッペンドルフメディカルセンターのDieter Naber氏らは直接比較試験を行った。アリピプラゾール400mg/月1回(AOM400)とパリペリドンパルミチン酸エステル月1回(PP)について、Heinrichs-Carpenter QOL評価尺度(QLS)、健康関連QOL、機能尺度を用いて検討した結果、AOM400はPPと比較し、健康関連QOLの優れた改善や良好な忍容性プロファイルにより、高い全般的有効性が示唆された。Schizophrenia research誌オンライン版2015年7月28日号の報告。 成人統合失調症患者(18~60歳)を対象に、経口薬からAOM400またはPP(筋肉内注射を4週間以上継続)への変更を行った。試験デザインは、28週間、無作為化、非劣性、オープンラベル、評価者盲検、直接比較にて実施した。主要評価項目は、混合モデルを用いた反復測定分析で評価した、QLS合計スコアの非劣性および優越性である。 主な結果は以下のとおり。・対象患者295例は、AOM400群(148例)、PP群(147例)に無作為に割り付けられ、それぞれ67.6%(100/148例)、56.5%(83/147例)が28週間の治療を完了した。・ベースラインから28週後のQLS合計スコアの変化における統計学的に有意な最小二乗平均値の差(4.67、95%CI:0.32~9.02、p=0.036)により、PP群に対するAOM400群の非劣性、ならびに優越性が認められた。・臨床全般印象・重症度尺度(CGI-S)スコアおよび治験責任医師による問診において、PP群に対するAOM400群の有意な改善が認められた。また、事前に定義したサブグループ解析では、35歳以下のAOM400群の患者において有意に良好な一貫したパターンが認められた。・治療継続期において治療下で発現した一般的な有害事象は、AOM400群と比較しPP群でより多く認められた。また、有害事象は継続中止の最も多い理由であった(PP群:19.7%[27/137例]、AOM400群:11.1%[16/144例])。・すべての理由による中止件数は、AOM400群で少なかった。関連医療ニュース アリピプラゾール持続性注射剤の評価は:東京女子医大 初回エピソード統合失調症、LAIは経口薬より優る 経口抗精神病薬とLAI併用の実態調査  担当者へのご意見箱はこちら

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ハイリスク医療機器の臨床試験の質・量、市販前後で変化/JAMA

 米国FDAの市販前承認(PMA)を受け上市したハイリスク医療機器の臨床試験は、市販前と市販後では量・質ともに変化がみられ、承認後3~5年で市販後試験を完了していたのは約13%であったことなどが明らかにされた。イェール大学医学部のVinay K. Rathi氏らが、2010~2011年に承認されたハイリスク(生命補助・維持または不当なリスクをもたらしうる)医療機器について調べ、報告した。JAMA誌2015年8月11日号掲載の報告より。2010~2011年にPMAで上市したハイリスク医療機器を評価 研究グループは、製品ライフサイクルにおける、ハイリスク医療機器の臨床エビデンス生成の特徴を明らかにする検討を行った。2014年10月時点でClinicalTrials.govを検索して、2010~2011年にPMAで上市したハイリスク医療機器のすべての臨床試験を特定し、FDA文書についても可能な限り入手した。 試験をタイプ別(FDA承認のための試験[市販前試験重視]、FDAが要請した市販後臨床試験[PAS]、メーカー/研究者主導型)、市販前または市販後試験それぞれの状況(完了、進行中、中止/不明)、試験デザイン(試験の登録、比較対照、主要有効性エンドポイントの追跡期間など)で特徴付けて評価した。試験の質・量が市販前と市販後で変化 2010~2011年にPMAで上市したハイリスク医療機器は28個あり、それらに関する286件の臨床試験を特定した。そのうち市販前試験が82件(28.7%)、市販後試験は204件(71.3%)であった。 全試験286件をタイプ別に分類すると、市販前試験非重視タイプは52件(18.2%)、市販前試験重視は30件(10.5%)、PASが33件(11.5%)、FDA非要請PAS(メーカー/研究者主導型市販後試験)は171件(59.8%)であった。 試験状況は、PASを要請されていた33件のうち完了は6件(18.2%)、メーカー/研究者主導型市販後試験171件のうち完了は20件(11.7%)であった。 また、市販後調査が特定できなかった装置は5個(17.9%)、3件以下であった装置は13個(46.4%)あった。 被験者登録中央値は、市販前試験非重視タイプの試験で65例(四分位範囲[IQR]:25~111)、市販前試験重視タイプで241例(147~415)、PASでは222例(119~640)、メーカー/研究者主導型市販後試験タイプは250例(60~800)であった。 全試験のうち約半分が比較対照を設定していなかった。市販前試験重視タイプで13/30件(43.3%)、市販後試験完了タイプ16/26件(61.5%)、市販後試験継続中タイプ70/153例(45.8%)であった。 主要有効性エンドポイント追跡期間中央値は、市販前試験重視タイプで3.0ヵ月(IQR:3.0~12.0)、市販後試験完了タイプ9.0ヵ月(0.3~12.0)、市販後試験継続中タイプは12.0ヵ月(7.0~24.0)であった。 なお、市販前試験非重視タイプ52件を除外した209件で試験の特徴付けを行った場合、市販前試験重視タイプの試験は30件(14.4%)、市販後試験完了タイプは26件(12.4%)、市販後試験進行中タイプは153件(73.2%)であった。 著者は、「ハイリスク医療機器の安全性や有効性を明らかにする臨床エビデンスの生成は、主として市販前に試験されていた状況から、製品ライフサイクルを通しての継続的な試験にシフトしている」と述べている。

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早期乳がんにおける術後補助療法としてのビスホスホネート:無作為化試験からの個々のデータのメタ分析(解説:矢形 寛 氏)-402

 ビスホスホネートは、転移抑制、とくに骨転移の予防に効果を示す可能性が指摘されているが、臨床試験によって結果が一定していない。しかし、サブセット解析では、閉経後または高齢女性に対してはベネフィットが示唆されている。そこで、術後補助療法としてのビスホスホネートのリスクとベネフィットを明らかにするため、Early Breast Cancer Trialists’Collaborative Group(EBCTCG)のグループによってメタ分析が行われた。主要評価項目は、再発、遠隔再発と乳がん死である。主要サブグループ調査項目は、遠隔転移部位(骨とそれ以外)、閉経状態(閉経後[自然および人工]とそれ以外)、ビスホスホネートのクラス(アミノ基を含有するもの[ゾレドロン酸、イバンドロン酸、パミドロン酸]とそれ以外[クロドロン酸])である。 26試験の参加女性1万8,766例のうち、2~5年のビスホスホネートの試験1万8,206例(97%)のデータが得られ、中央観察期間(5.6年)で3,453例の初回再発と、その後の2,106例の死亡が確認された。全体として、再発減少は(RR 0.94、95%[CI]:0.87~1.01、2p=0.08)、遠隔再発は(0.92、0.85~0.99、2p=0.03)、乳がん死は(0.91、0.83~0.99、2p=0.04)と、わずかに有意差が認められたのみであったが、骨転移の減少は明らかであった(0.83、0.73~0.94、2p=0.004)。 閉経前ではいずれも治療効果が認められなかったが、閉経後女性(1万1,767例)では、再発(RR 0.86、95%[CI]:0.78~0.94、2p=0.002)、遠隔再発(0.82、0.74~0.92、2p=0.0003)、骨転移(0.72、0.60~0.86、2p=0.0002)、乳がん死(0.82、0.73~0.93、2p=0.002)ともに大きな減少効果が認められた。絶対的な効果の違い(10年)は、骨転移2.2%、乳がん死3.3%である。 年齢でみると、45歳未満では効果がなく、55歳以上では明らかに有効であった。閉経状態と年齢による差は類似しており、どちらがより有意かは明らかにできなかった。ビスホスホネートのクラス、治療のスケジュール(治療の強度や期間)、エストロゲン受容体の状態、リンパ節、腫瘍グレード、化学療法の併用による効果の違いはなかった。乳がん以外のがん死は有意差が認められなかった。骨折の情報は1万3,341例(71%)からのみ得られ、5年の骨折リスクは6.3%から5.1%にわずかに減少した(RR 0.85、95%[CI]:0.75~0.97、2p=0.02)。最も効果がみられたのは2~4年の間であった。5年以降での効果はあまりないようであるが、情報が不完全であるためかもしれない。対側乳がんの発生率は疫学データとは異なり、無作為化試験では有意差がみられなかった。 ビスホスホネートは、治療開始時に閉経後(自然閉経と人工閉経)であった女性にのみ、転移抑制効果と乳がん死の抑制に明らかな効果が認められることが示された。今までも複数のメタ分析の報告がみられ、結果がまちまちであったが、本研究は最も信頼性の高いものと思われる。まず、ビスホスホネート開始時に閉経後であることが重要である。次に、乳がんの進行度やサブグループには関係なく、効果は一定であることから、再発リスクの低い乳がんではビスホスホネートの効果はきわめて小さく、逆にリスクの高い乳がんでは、それだけ絶対的な有効性が高まるであろう。さらに、顎骨壊死などの有害事象は、より強力なビスホスホネートの使い方で頻度が上がるため、内服治療や6ヵ月ごとのゾレドロン酸投与が推奨され、期間もやみくもに長く行われるべきではない。ビスホスホネートのレジメンによる違いについては、今後進行中の試験によって、より明確になってくるであろう(SWOG0307、SUCCESS、HOBOE-premenopausal、TEAM-IIb)。

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コーヒー4杯/日以上で結腸がんの再発が減少?

 座りがちな生活や肥満、食事による糖負荷増大などの相対的インスリン過剰状態では、結腸がんの再発が増加することが観察研究で示されている。一方、コーヒーの高摂取が、2型糖尿病リスクの減少とインスリン感受性の増大と関連しているが、結腸がんの再発と生存率に対するコーヒーの影響は不明である。米国・ハーバード大学のBrendan J. Guercio氏らは、コーヒー摂取量とステージIII結腸がん患者の再発および死亡との関連を検討し、コーヒーの高摂取が結腸がんの再発や死亡の減少に関連する可能性を報告した。Journal of clinical oncology誌オンライン版2015 年8月17日号に掲載。 著者らは、ステージIII結腸がん953例について、術後化学療法中および終了後6ヵ月間におけるカフェイン入りコーヒー、カフェイン抜きコーヒー、ハーブティー以外の紅茶、その他128種類の摂取量を前向きに調査した。がんの再発率や死亡率におけるコーヒー、ハーブティー以外の紅茶、カフェインの影響についてCox比例ハザード回帰を用いて調べた。 主な結果は以下のとおり。・コーヒー(カフェイン入りおよびカフェイン抜き)を4杯/日以上を摂取する患者の結腸がん再発または死亡の調整ハザード比(HR)は、まったく飲まない患者に比べ、0.58(95%CI:0.34~0.99)であった(傾向のp=0.002)。・カフェイン入りコーヒーを4杯/日以上摂取する患者では、がんの再発または死亡リスクがまったく飲まない人と比べて有意に減少し(HR:0.48、95%CI:0.25~0.91、傾向のp=0.002)、カフェイン摂取量の増加もがんの再発または死亡を有意に減少させた(HR:5分位の両端で0.66、95%CI:0.47~0.93、傾向のp=0.006)。・ハーブティー以外の紅茶とカフェイン抜きコーヒーの摂取量は患者の転帰と関連していなかった。・コーヒー摂取量と転帰改善の関連は、他の再発や死亡の予測因子を通じて一貫しているようにみえる。

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Stage IIIA/N2のNSCLC、術前化学放射線療法は有用か/Lancet

 Stage IIIA/N2の非小細胞肺がん(NSCLC)の治療では、術前の化学療法に放射線療法を併用しても、さらなるベネフィットは得られないことが、スイス・Kantonsspital WinterthurのMiklos Pless氏らSAKK Lung Cancer Project Groupの検討で示された。局所進行Stage III病変は治癒の達成が可能な最も進行したNSCLCであるが、最終的に患者の60%以上ががんで死亡する。Stage IIIA/N2の標準治療は同時併用化学放射線療法と手術+化学療法で、後者については術後または術前化学療法+手術が、手術単独よりも生存期間において優れることが示されているが、術前化学放射線療法+手術の第III相試験はこれまで行われていなかった。Lancet誌オンライン版2015年8月11日号掲載の報告より。術前放射線療法の逐次的追加の有用性を評価 研究グループは、術前放射線療法の追加により局所病変の奏効率や完全切除率が改善することで、無イベント生存期間(EFS)が延長し、全生存期間(OS)の延長の可能性もあるとの仮説を立て、これを検証するために無作為化第III相試験を行った(Swiss State Secretariat for Education, Research and Innovation[SERI]などの助成による)。 対象は、年齢18~75歳、T1~3N2M0、Stage IIIA/N2の局所進行NSCLCであり、全身状態が良好(ECOG PS:0、1)で、主要臓器機能が正常な患者であった。 被験者は、術前化学療法(シスプラチン100mg/m2+ドセタキセル85mg/m2、3週ごと)を3サイクル施行後に、術前放射線療法(総線量44Gy、22分割、3週間)を行う群(化学放射線療法群)、または同一レジメンの術前化学療法のみを行う群(化学療法単独群)に無作為に割り付けられた。術前化学放射線療法群は終了後21~28日に、術前化学療法単独群は21日に手術が予定された。 主要評価項目はEFS(割り付け時から再発、進行、2次がん、死亡のうち最初のイベント発生までの期間)とし、intention-to-treat解析を行った。 2001~2012年までに、スイス、ドイツ、セルビアの23施設に232例が登録され、化学放射線療法群に117例(年齢中央値60.0歳、女性33%、PS0 71%、喫煙者91%)が、化学療法単独群には115例(59.0歳、33%、69%、96%)が割り付けられた。フォローアップ期間中央値は52.4ヵ月だった。 本試験は、3回目の中間解析(イベント発生数134件)の結果を踏まえ、独立データ監視委員会の勧告により無効中止となった。奏効率は優れたが、EFSとOSに差なし 化学療法の完遂率は、化学放射線療法群が92%(108/117例)、化学療法単独群は90%(103/115例)であり、比較的高かった。化学放射線療法群の16%(19/117例)が放射線療法を開始できなかったが、予定線量の完遂率は96%(94/98例)だった。 化学療法を受けた患者では毒性作用が高頻度にみられ、Grade 3/4の発現率は化学放射線療法群が45%(49/110例)、化学療法単独群は60%(73/121例)であった。しかし、治療関連有害事象で化学療法が永続的に中止となった患者はそれぞれ4%(5/117例)、6%(7/115例)のみであった。放射線誘発性のGrade 3の嚥下障害が7%(7/98例)に認められた。 抗腫瘍効果は、化学放射線療法群で完全奏効(CR)が4例(3%)、部分奏効(PR)が67例(57%)にみられ、客観的奏効率は61%であったのに対し、化学療法単独群ではCRが2例(2%)、PRが48例(42%)で客観的奏効率は44%であり、両群間に有意な差が認められた(p=0.012)。 手術は、化学放射線療法群が85%(99/117例)、化学療法単独群は82%(94/115例)で行われた。完全切除率は両群間に有意な差はなく(p=0.06)、病理学的完全奏効(16 vs. 12%)やリンパ節転移のdownstaging(N2からN1/N0へ)(64 vs. 53%)も同等であった。術後30日以内に、化学療法単独群の3例が死亡した。 EFS中央値は、化学放射線療法群が12.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.7~22.9)、化学療法単独群は11.6ヵ月(95%CI:8.4~15.2)であり、両群間に差を認めなかった(ハザード比[HR]:1.1、95%CI:0.8~1.4、p=0.67)。また、OS中央値も、化学放射線療法群が37.1ヵ月(95%CI:22.6~50.0)、化学療法単独群は26.2ヵ月(95%CI:19.9~52.1)と、両群間に差はなかった(HR:1.0、95%CI:0.7~1.4)。 著者は、「Stage IIIA/N2 NSCLCに対する術前化学療法+手術はきわめて良好な予後をもたらし、術前放射線療法を追加してもそれ以上のベネフィットは得られなかった」とまとめ、「これまでの知見も考慮すると、放射線療法と手術のいずれか1つの局所治療と化学療法の組み合わせは、Stage IIIA/N2 NSCLCの患者に施行可能であり、標準治療とみなすべきと考えられる」と指摘している。

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骨粗鬆症の検査は何歳がベスト

検査は、いつ受ければいいですか?【骨粗鬆症】女性は50歳を過ぎたら、男性は70歳を過ぎたら、総合病院や整形外科クリニックで、骨密度検査を受けましょう!また、女性は、自治体の節目検診を上手に利用しましょう!!監修:習志野台整形外科内科 院長 宮川一郎 氏Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.

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Vol. 4 No. 1 HFpEF駆出率の保たれた心不全に対する診断と治療を考える

山本 一博 氏鳥取大学医学部病態情報内科HFpEFとは左室駆出率が保持された心不全(HFpEF:heart failure with preserved ejection fraction)という概念が定着してきたのはこの10年程度と日が浅く、いまだ全容は明らかとなっていない。疫学調査の結果から明らかにされている特徴は、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF:heart failure with reduced ejection fraction)と比較して高齢者と女性の占める割合が高いことである。地域住民を対象とした調査のなかで心不全患者のEFの分布をみると二峰性を示し、2つの峰の間にある“谷”に当たる位置のEFの値は、HFrEFとHFpEFを臨床的に分けているEFのカットオフポイントにあたる1)。このような結果をみるとHFrEFとHFpEFは異なる病態として扱うべきと考えられる。HFpEFの診断HFpEF診断の基本は心不全であることの臨床診断左室駆出率が保持されているが、左室拡張機能障害が認められるである。1. 心不全の臨床診断心不全に伴う自覚症状や他覚所見には、心不全に特異的なものがない。現在のところ血中Bタイプナトリウム利尿ペプチド(BNPないしNT-proBNP)の濃度が上昇している場合は、心不全に基づく症状や所見の可能性が高いと判断することになる。この基準値であるが、BNPでは100pg/mL、NT-proBNPであれば400pg/mLが目安になると思われる。2. 左室流入血流速波形を用いた拡張機能評価に関する誤解以前より左室流入血流速波形が拡張機能の指標として用いられてきたが、ここに大きな認識の誤りがある。左室駆出率が低下している症例においてE/Aは左室充満圧と正比例しE波の減衰時間(DT)は左室充満圧と負の相関を示すことから2)、拡張機能障害のために二次的に生じている左室充満圧上昇の検出を通じて間接的に左室拡張機能障害の評価に左室流入血流速波形は用いうる。一方、HFpEFのように左室駆出率が保持されている症例では、E/AやDTは左室充満圧と相関しない2)。つまり、左室流入血流速波形をワンポイントで計測しても、拡張機能障害のために二次的に起きてくる左室充満圧上昇の有無を判断することは不可能である。では、左室流入血流速波形のみを用いて直接的に拡張機能を評価できるか? 答えは「NO」である。E/Aの低下は拡張機能障害を表すかのようにいわれているが、これを裏づけるデータはほとんどない。1980年代にKitabatakeらが心疾患患者においてE/Aの低下やDTの延長が認められることを報告し3)、その後、左室拡張機能障害、特に弛緩障害が起きるとE/Aが低下しDTが短縮するという研究結果が報告されたこともあり、E/Aの低下とDTの延長を認めれば左室弛緩障害を有していると判断できると信じ込まれてきた。確かに左室弛緩障害が起きるとE/Aは低下しDTは延長するとはいえるが、E/Aが低下しDTが延長していれば弛緩障害が存在するとはいえない。これまでに行われてきた多くの臨床研究の結果をみると、E/Aと左室弛緩評価のゴールドスタンダードである時定数Tauとの間には相関を認めないとする報告がほとんどである。最近わが国で集められた臨床データをみても、E/Aが低下している症例であってもTauは異常値ではない症例が少なくないことが示されている4)。3. 左室駆出率が保持された患者における拡張機能評価これについては、確立した指標がない。現段階で受け入れられている、左室充満圧上昇の検出に用いうる指標としてパルスドプラ法で記録する左室流入血流速波形のE波と、組織ドプラ法で記録する急速流入期の僧帽弁輪部運動のピーク速度e’の比(E/e’)の上昇肺静脈血流速波形および左室流入血流速波形の心房収縮期波の幅の差の増加左房径/容積の増加E波とe’波の開始時間の差であるTE-e’、連続波ドプラにおいて左室流入血流速波形と左室流出路波形を同時記録して求める等容性弛緩時間IVRTの比(IVRT/TE-e’)の低下Valsalva法により急速前負荷軽減を行った際のE/Aの過大な低下などが挙げられるが、いずれの指標も単独で用いうるほどの信頼性はない。また、心エコー図検査は安静時にデータ収集を行っているので、これらを用いて診断できるのは病期がある程度進行し安静時から左房圧が上昇している患者のみである。安静時に左房圧は上昇しておらず、労作時に拡張機能障害により急激な左房圧上昇を来すために運動耐容能が低下している患者も少なくなく(図1)、このような患者を診断するには左室拡張機能(主に左室弛緩とスティフネス)を直接的に評価する必要がある。図1 労作時の左室拡張末期容積および拡張末期圧の変化のシェーマ画像を拡大する左室弛緩を直接的に評価しうる指標としてe’が挙げられる。e’は左室弛緩障害により減高し、簡便に記録できるので臨床的にも有用性が高い。また、弛緩障害はe’波の開始を遅らせるため、E波の開始とe’波の開始の時間差であるTE-e’もTauと相関すると報告されている。左房容積は左房圧と相関をするので、純粋に拡張機能だけを反映しているとはいえないが、左室拡張機能障害による慢性的な左房負荷を反映して左房が拡大することから、拡張機能評価における左房容積は糖尿病評価におけるHbA1cのような位置づけにあるとも考えられている5)。American Society of Echocardiographyから出されているガイドラインにおいて、拡張機能障害の有無を検出するfirst lineの指標として用いられているのはe’と左房容積である6)。一方、HFpEF発症には左室弛緩障害以上に左室スティフネス亢進が寄与しており、その評価が重要であると考えているが、確立した非侵襲的評価法がない。われわれは拡張期の左室壁心外膜面の動きに着目した7)。線形弾性理論に基づくと、“やわらかい”物質と“硬い”物質に圧を加えた場合、圧を加えた面の反対面の動きが前者に比べ後者では大となる。この法則を左室自由壁の拡張期の動きに当てはめ(図2)、かつ簡便化した定量的指標がであり、心筋スティフネス係数と有意な負の相関関係にある。DWS低値は糖尿病患者においてHFpEF発症の独立した危険因子であること8)、HFpEF患者においてDWSは、年齢、性、E/e’、左室駆出率、左室重量係数、肺動脈圧、血中BNP濃度とは独立した予後規定因子であることも明らかにした9)。ただし、まだ広く受け入れられている指標ではないので、今後の検討が必要である。間接的に左室拡張機能障害の存在を示唆する形態的な異常所見が左室肥大である。ただし、HFpEF症例の60%では左室肥大は存在しないので、左室肥大が存在しないからといって拡張機能障害を否定することはできない。図2 「やわらかい」左室自由壁と「硬い」左室自由壁のM-モード画像を拡大するHFpEFの治療基礎疾患として高血圧を有する患者では血圧コントロールが必須である。虚血性心疾患患者では、虚血が自覚症状の原因と判断されれば血行再建を行う。心房細動で心室レートが過剰に亢進している場合には、これを抑える薬剤を用いる。このような基礎疾患に対する治療ないし対症療法を除き、HFpEFに特異的な治療として有効性が確立しているものは現段階ではない。1. 利尿薬HFpEFの自覚症状に体液貯留が関与している場合は、自覚症状軽減を目的として、つまり代表的な対症療法として利尿薬を用いる。利尿薬の選択については、わが国で実施したJ-MELODIC試験の結果を考慮すると、短時間作用型のフロセミドよりも長時間作用型のアゾセミドを選択するほうが好ましい10)。利尿薬は、現在認識されているように単に自覚症状を軽減することだけを目的として使用する薬剤なのか否かを検討する余地がある。心不全入院歴がなく、かつ心不全症状を認めない患者において利尿薬を中断すると、1年以内に再開せざるをえなくなる患者が少なくない11)。われわれの検討において、HFpEF患者を多く含むクリニカルシナリオ1の病態を呈する急性心不全は冬季発症が多く(本誌p.17図を参照)、冬季に発症が増える危険因子はループ利尿薬を服用していないことであるという結果が導かれた12)。心不全増悪のほとんどは心拍出量の低下ではなくうっ血によるものであり、その原因となる左室充満圧上昇はある程度進行しなければ臨床所見として捉えることができない13)。したがって、現在のように症状を基準として利尿薬の投与を中止した場合、まだ左室充満圧が上昇している状況、つまり心不全発症リスクが十分に低下していない状況での利尿薬中止に至る。心不全の増悪を繰り返すことが、結果的に病態の悪化を招くことは広く知られているところであり、このような病態の“揺れ”を招かない心不全コントロールを行うには、安易な利尿薬の中止は避けるべきかもしれない。2. レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の阻害これまでの介入試験の結果に基づき、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の阻害はHFpEFには有効性が期待できないと結論づけられているが、果たしてその結論を安易に受け入れてよいものであろうか?アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)はHFpEFに対して無効であるという結果を提示したI-PRESERVE試験のサブ解析は、投与開始前のNT-proBNP値が低い患者ではARBは有用であることを示唆している14)。I-PRESERVE試験より軽症の患者を多く含むCHARM-Preserved試験では、ARBは心不全悪化による入院リスクを有意に低下させている15)。PEP-CHF試験では追跡1年経過後に多くの症例が割付治療から逸脱していたため90%の症例が割付治療を行っていた割付後1年目の時点での解析を行うと、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)投与群で1次エンドポイント発生率は低下傾向を認め、心不全入院は有意に減少し、NYHA心不全機能分類および6分間歩行も有意に改善した16)。さらに最近発表された大規模観察研究では、ACEIないしARBの服用はHFpEFの予後改善に結びつくとの結果が示されている17)。アルドステロンの作用を抑制するミネラロコルチコイド受容体拮抗薬のHFpEFにおける有用性を検討したTOPCAT試験は2014年に結果が発表された18)。スピロノラクトンは設定された1次エンドポイント(心血管死、突然死、心不全入院)の低下をもたらさなかったが、心不全入院は有意に減少させている。TOPCAT試験の対象患者もNYHAⅡ度の比較的軽症の患者が多い。以上の介入試験の主論文の結論からは、ARB、ACEI、ミネラロコルチコイド受容体拮抗薬はHFpEFに無効という意見が導かれるが、日常診療においてHFpEF患者の抱える大きな問題の1つが高い再入院率であることなども念頭においたうえでこのようなサブ解析の結果を眺めると、これらの薬剤に効果を期待できる患者群が存在すると推察すべきではないかと考える。3. β遮断薬HFrEF治療で有用性が確立しているβ遮断薬のHFpEFにおける効果を検討した介入試験はほとんど行われていなかったが、わが国で実施したJ-DHF試験の結果を2013年に発表した。カルベジロール投与群と非投与群の比較ではイベント発生率に差異を認めなかったが、カルベジロール群をカルベジロール投与量中間値の7.5mg/日で分けて検討したところ、7.5mg/日より大の投与群では心血管死ないし心血管系の原因による入院という複合エンドポイント発生率を有意に低下させていた(本誌p.18図を参照)19)。この結論はDobreらの観察研究から導かれた結論とも一致しており20)、現在進行中のβ-PRESERVE試験の結果が待たれる。4. 非心臓因子に着目した薬物治療HFpEFの重症化には非心臓因子も関与しており、その点に焦点をあてる治療法の有用性にも期待がかかる。しかしこれまでのところ、肺血管抵抗低下作用のあるphosphodiesterase-5阻害薬のシルデナフィル、貧血改善目的で使用されるエリスロポエチンには有用性が確認されなかった。おわりに以上、HFpEFの診断と治療について概説した。治療法については、ARBとneprilysin阻害薬の作用を有するLCZ696、イバブラジンなどの効果を検討する臨床試験が進行中であり、それらの結果に期待したい。文献1)Dunlay SM et al. Longitudinal changes in ejection fraction in heart failure patients with preserved and reduced ejection fraction. Circ Heart Fail 2012; 5: 720-726.2)Yamamoto K et al. Determination of left ventricular filling pressure by Doppler echocardiography in patients with coronary artery disease: critical role of left ventricular systolic function. J Am Coll Cardiol 1997; 30: 1819-1826.3)Kitabatake A et al. Transmitral blood flow reflecting diastolic behavior of the left ventricle in health and disease--a study by pulsed Doppler technique. Jpn Circ J 1982; 46: 92-102.4)Yamada S et al. Limitation of echocardiographic indexes for the accurate estimation of left ventricular relaxation and filling pressure: interim results of SMAP, a multicenter study in Japan (in Japanese). Jpn J Med Ultrasonics 2012; 39: 449-456.5)Douglas PS. The left atrium: a biomarker of chronic diastolic dysfunction and cardiovascular disease risk. J Am Coll Cardiol 2003; 42: 1206-1207.6)Nagueh SF et al. Recommendations for the evaluation of left ventricular diastolic function by echocardiography. J Am Soc Echocardiogr 2009; 22: 107-133.7)Takeda Y et al. Noninvasive assessment of wall distensibility with the evaluation of diastolic epicardial movement. J Card Fail 2009; 15: 68-77.8)Takeda Y et al. Competing risks of heart failure with preserved ejection fraction in diabetic patients. Eur J Heart Fail 2011; 13: 664-669.9)Ohtani T et al. Diastolic stiffness as assessed by diastolic wall strain is associated with adverse remodelling and poor outcomes in heart failure with preserved ejection fraction. Eur Heart J 2012; 33: 1742-1749.10)Masuyama T et al. Superiority of long-acting to short-acting loop diuretics in the treatment of congestive heart failure. Circ J 2012; 76: 833-842.11)Walma EP et al. Withdrawal of long-term diuretic medication in elderly patients: a double blind randomised trial. BMJ 1997; 315: 464-468.12)Hirai M et al. Clinical scenario 1 is associated with winter onset of acute heart failure. Circ J 2015; 79: 129-135.13)Gheorghiade M et al. Assessing and grading congestion in acute heart failure: a scientific statement from the acute heart failure committee of the heart failure association of the European Society of Cardiology and endorsed by the European Society of Intensive Care Medicine. Eur J Heart Fail 2010; 12: 423-433.14)Anand IS et al. Prognostic value of baseline plasma amino-terminal pro-brain natriuretic peptide and its interactions with irbesartan treatment effects in patients with heart failure and preserved ejection fraction: findings from the I-PRESERVE trial. Circ Heart Fail 2011; 4:569-577.15)Yusuf S et al. Effects of candesartan in patients with chronic heart failure and preserved left-ventricular ejection fraction: the CHARMPreserved Trial. Lancet 2003; 362: 777-781.16)Cleland JGF et al. The perindopril in elderly people with chronic heart failure (PEP-CHF) study. Eur Heart J 2006; 27: 2338-2345.17)Lund LH et al. Association between use of renin-angiotensin system antagonists and mortality in patients with heart failure and preserved ejection fraction. JAMA 2012; 308: 2108-2117.18)Pitt B et al. Spironolactone for heart failure with preserved ejection fraction. N Engl J Med 2014; 370: 1383-1392.19)Yamamoto K et al. Effects of carvedilol on heart failure with preserved ejection fraction: the Japanese Diastolic Heart Failure Study (J-DHF). Eur J Heart Fail 2013; 15: 110-118.20)Dobre D et al. Prescription of beta-blockers in patients with advanced heart failure and preserved left-ventricular ejection fraction. Clinical implications and survival. Eur J Heart Fail 2007; 9: 280-286.

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オオアリクイに殺された男性【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第49回

オオアリクイに殺された男性 Wikipediaより使用 「オオアリクイ」(写真)と聞くと、私のような30代のオッサンは『ドラゴンクエスト3』を思い出すのですが、いかがでしょう。え? そんなゲーム知らない? たしか、オオアリクイは序盤のほうで出てくるモンスターだったような気がします。アリアハン大陸西側によく出没します。ハイハイ、そんなことはどうでもいいですね。 Haddad V Jr, et al. Human death caused by a giant anteater (Myrmecophaga tridactyla) in Brazil. Wilderness Environ Med. 2014;25:446-449. この論文はオオアリクイに襲われた2人の不幸な親子について報告したケースシリーズです。そのうち親のほうは死亡しています。オオアリクイは本来人間に対して攻撃的な態度は取らないそうですが、視力が極端に弱いため、危険を感じたときは前脚の鋭い鉤爪で防衛行動に出るらしいです。まるで目隠しされた切り裂きジャック。どうやらこの論文の犠牲者は、親子で狩りをしていたようです。一緒に連れて行った狩猟犬がワンワンとオオアリクイを追い詰めたときに、この惨劇は起こりました。もともとオオアリクイを仕留めるために猟銃を撃つ予定だったのでしょうか、しかし誤射でかわいい愛犬に当たってしまうのがコワかったのでしょう、なかなか放銃できませんでした。そのためいっそのことオオアリクイをナイフで仕留めてやろうと考えましたが、そうこうしているうちにオオアリクイにつかまってしまいました。鋭い鉤爪が彼の鼠径部に食い込みました。息子がオオアリクイからどうにか父親をひっぺはがしたとき、彼の鼠径部からは大量に出血がみられたそうです。これが致命傷となりました。父親は出血性ショックで亡くなりました。皆さんも、オオアリクイを見かけたときには鉤爪に注意してください。『ドラゴンクエスト3』のように「たたかう」ではなく、できれば「にげる」を選択してください。インデックスページへ戻る

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ASPECT-cUTI試験:複雑性尿路感染症におけるセフトロザン/タゾバクタムの治療効果~レボフロキサシンとの第III相比較試験(解説:吉田 敦 氏)-401

 腎盂腎炎を含む複雑性尿路感染症の治療は、薬剤耐性菌の増加と蔓延によって選択できる薬剤が限られ、困難な状況に直面している。セファロスポリン系の注射薬であるセフトロザンとタゾバクタムの合剤である、セフトロザン/タゾバクタムは、βラクタマーゼを産生するグラム陰性桿菌に効果を有するとされ、これまで腹腔内感染症や院内肺炎で評価が行われてきた。今回、複雑性尿路感染症例を対象とした第III相試験が行われ、その効果と副作用が検証され、Lancet誌に発表された。用いられたランダム化比較試験 成人に1.5 gを8時間ごとに投与を行った、ランダム化プラセボ対照二重盲検試験であり、欧州・北米・南米など25ヵ国で実施された。膿尿があり、複雑性下部尿路感染症ないし腎盂腎炎と診断された入院例を、ランダムにセフトロザン/タゾバクタム投与群と高用量レボフロキサシン投与群(750mg /日)に割り付けた。投与期間は7日間とし、微生物学的に菌が証明されなくなり、かつ、治療開始5~9日後に臨床的に治癒と判断できた状態をエンドポイントとした(Microbiological modified Intention-to-treat:MITT)。同時に、合併症・副作用の内容と出現頻度を比較した。レボフロキサシンに対して優れた成績 参加した1,083例のうち、800例(73.9%)で治療開始前の尿培養などの条件が満たされ、MITT解析を行った。うち656例(82.0%)が腎盂腎炎であり、2群間で年齢やBMI、腎機能、尿道カテーテル留置率、糖尿病・菌血症合併率に差はなかった。また776例は単一菌の感染であり、E. coliがほとんどを占め(629例)、K. pneumoniae(58例)、P. mirabilis(24例)、P. aeruginosa(23例)がこれに次いだ。なお、開始前(ベースライン)の感受性検査では、731例中、レボフロキサシン耐性は195例、セフトロザン/タゾバクタム耐性は20例に認めた。 結果として、セフトロザン/タゾバクタム群の治癒率は76.9%(398例中306例)、レボフロキサシン群のそれは68.4%(402例中275例)であり、さらに尿中の菌消失効果もセフトロザン/タゾバクタム群が優れていることが判明した。菌種別にみても、ESBL産生大腸菌の菌消失率はセフトロザン/タゾバクタムで75%、レボフロキサシンで50%であった。合併症と副作用に及ぼす影響 セフトロザン/タゾバクタム群では34.7%、レボフロキサシン群では34.4%で何らかの副作用が報告された。ほとんどは頭痛や消化器症状など軽症であり、重い合併症(腎盂腎炎や菌血症への進行、C. difficile感染症など)はそれぞれ2.8%、3.4%であった。副作用の内容を比べると、下痢や不眠はレボフロキサシン群で、嘔気や肝機能異常はセフトロザン/タゾバクタム群で多かった。今後のセフトロザン/タゾバクタムの位置付け セフトロザン/タゾバクタムは抗緑膿菌作用を含む幅広いスペクトラムを有し、耐性菌の関与が大きくなっている主要な感染症(複雑性尿路感染症、腹腔内感染症、人工呼吸器関連肺炎)で結果が得られつつある。今回の検討は、尿路感染症に最も多く用いられているフルオロキノロンを対照に置き、その臨床的・微生物効果を比較し、セフトロザン/タゾバクタム群の優位性と忍容性を示したものである。 しかしながら、ベースラインでの耐性菌の頻度からみれば、レボフロキサシン群の効果が劣るのは説明可能であるし、尿路の基礎疾患(尿路の狭窄・閉塞)による治療効果への影響についても本報告はあまり言及していない。そもそも緑膿菌も、さらにESBL産生菌も視野に入れた抗菌薬を当初から開始することの是非は、今回の検討では顧みられていない。また、腸管内の嫌気性菌抑制効果も想定され、これが常在菌叢の著しいかく乱と、カルバぺネム耐性腸内細菌科細菌のような耐性度の高いグラム陰性桿菌の選択に結び付くことは十分ありうる。実際に、治療開始後のC. difficile感染症はセフトロザン/タゾバクタム群でみられている。 セフトロザン/タゾバクタムをいずれの病態で使用する場合でも、その臨床応用前に、適応について十分な議論がなされることを期待する。販売し、いったん市場に委ねてしまうと、適応は不明確になってしまう。本剤のような抗菌薬は、適応の明確化のみならず、使用期間の制限が必要かもしれない。

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話の切り出しあれこれ【Dr. 中島の 新・徒然草】(081)

八十一の段 話の切り出しあれこれ日本人の英語が通じにくい1つの理由として、結論が最後に来るというのがあるように思います。何を言いたいのか不明確なまましゃべり始め、いろいろ材料を並べながら結論を固めようとするわけですが、あまりうまくない英語だと聞いているほうがイライラしてしまいます。一方、英語圏の人たちは先に結論を言ってから、「なぜなら」と根拠を述べることが多いので、シャープに聞こえます。このような言語的特徴をそれぞれ「日本語は therefore 言語で、英語は because 言語だ」と耳にしたことがあります。つまり、日本語は「根拠 → therefore(それゆえ)→ 結論」となる一方、英語では「結論 → because(なぜなら)→ 根拠」となるという意味です。それぞれの言語の特徴をうまく対比していますね。ですから、うまそうな英語をしゃべるためには、結論を先に言うといいのではないかと思います。さて、外来診療において患者さんに「本日はどうしましたか?」などと尋ねると、「ああして、こうして、こうなって……」と材料を並べ始める方が多く、いつまでたっても結論に到達しません。これも therefore 言語の所以なのでしょう。できれば「頭を打って心配になったので受診しました」などと先に用件を言ってもらいたいところです。ではどうすれば診療を効率よく進められるのでしょうか。「今、1番お困りのことはなんでしょうか?」「1番解決してほしい問題は何でしょうか?」ずばり用件を聞くのも1つの方法です。しかし「夜眠れない」とか、「娘がいつまでたっても独身で」とか、あるいは「お通じが1週間ない」などと真顔で言われたりするのが現実です。脳外科外来で便の話をされても困りますよね。トホホ……。「脳外科で解決して欲しい1番の問題は何でしょうか?」このような切り出しも考えられます。ただし、こなれていない日本語なので、患者さんに通じるかどうか心配ではあります。あるいは、予想される用件をこちらで先にまとめてしまい、違っている部分があったら患者さんに訂正していただく、という方法もあるかと思います。たとえばこのような形です。「キラキラした光が見えたので眼科に行ったら、『これは脳の病気だ』と言われて脳外科に紹介されたわけですね」これは有力な方法ですが、かなり高度かもしれません。ということで、どうすればスムーズな問診ができるのか。日々、試行錯誤しているところです。うまくいったら読者の皆さんに報告いたしましょう。最後に1句まず結論 余裕があれば 無駄話

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全盲者の概日リズム調整に新規メラトニン受容体作動薬が有効/Lancet

 非24時間睡眠覚醒障害の全盲者における概日リズムの乱れの同調に、tasimelteonが有効であることが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のSteven W Lockley氏らの検討で示された。ヒトの概日周期は24時間よりも長く、明暗の周期に反応することでペースメーカー(体内時計)を24時間に同調させているが、非24時間睡眠覚醒障害ではこの同調機能が損なわれて入眠や起床時間が徐々に遅くなり、注意力や気分の周期的変動が発現し、就学や就業など社会的な計画的行動の維持が困難となる。全盲者の55~70%に概日リズムの脱同調がみられるという。tasimelteonは、松果体ホルモンであるメラトニンの2つの受容体(MT1、MT2)の作動薬で、先行研究で、晴眼者への経口投与により概日リズムを変移させ、また非24時間概日活動リズムのラットに注射したところこれを同調させたことが示されていた。Lancet誌オンライン版2015年8月4日掲載の報告。概日リズムの同調を2つのプラセボ対照無作為化試験で評価 研究グループは、非24時間睡眠覚醒障害の全盲者における概日リズムの同調とその維持に関するtasimelteonの有効性および安全性を評価する2つのプラセボ対照無作為化試験(SET試験、RESET試験)を行った(Vanda Pharmaceuticals社の助成による)。 SET試験の対象は、年齢18~75歳、メラトニンの主要代謝産物である6-sulfatoxymelatoninの尿中排泄リズムで評価した概日周期(τ)が24.25時間以上(95%信頼区間[CI]:24.0~24.9)の全盲者とした。被験者は、tasimelteon(20mg、24時間ごと)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。 SET試験でオープンラベル群に登録された患者と、SET試験の選択基準は満たさないがRESET試験の基準は満たす患者などが、RESET試験のスクリーニングの対象となった。RESET試験は、tasimelteon導入期に反応(同調の達成)がみられた患者を対象とし、tasimelteonの投与を継続する群またはtasimelteonを中止してプラセボに切り換える群に無作為に割り付けた。 SET試験の主要評価項目はintention-to-treat集団における概日リズムの同調の達成率とし、臨床効果(1ヵ月時、7ヵ月時の同調達成、Non-24 Clinical Response Scaleによる臨床的改善)の達成率の評価も行った。RESET試験の主要評価項目は同調非達成率であった。安全性は、全例の有害事象および検査値異常などで評価した。同調達成後にプラセボに切り換えると達成率が低下 SET試験では、2010年8月25日~2012年7月5日の間に、391例の全盲者がスクリーニングを受けた。米国の27施設とドイツの6施設に84例(22%、平均年齢50.7歳、男性58%)が登録され、tasimelteon群に42例、プラセボ群にも42例が割り付けられた。τ値の評価前に、tasimelteon群の2例、プラセボ群の4例が有害事象やプロトコル逸脱などで試験を中止した。 概日リズム同調達成率は、tasimelteon群が20%(8/40例)であり、プラセボ群の3%(1/38例)に比べ有意に優れていた(群間差:17%、95%CI:3.2~31.6、p=0.0171)。また、臨床効果の達成率は、tasimelteon群が24%(9/38例)と、プラセボ群の0%(0/34例)に比し有意に良好であった(群間差:24%、95%CI:8.4~39.0、p=0.0028)。 RESET試験のスクリーニングは、2011年9月15日~2012年10月4日に58例で行われ、48例(83%)がτ値の評価を受け、オープンラベルのtasimelteon導入期に登録された。このうち24例(50%)で概日リズムの同調が達成され、20例(34%、平均年齢51.7歳、男性60%)が無作為化試験に登録された。tasimelteonを継続する群に10例が、プラセボに切り換える群にも10例が割り付けられた。 概日リズム同調達成率は、tasimelteon継続群が90%(9/10例)、プラセボ群は20%(2/10例)であり、有意な差が認められた(群間差:70%、95%CI:26.4~100.0、p=0.0026)。 いずれの試験にも死亡例はなく、全治療期間を通じた有害事象による治療中止率はtasimelteon群が6%(3/52例)、プラセボ群は4%(2/52例)であった。SET試験中に最も高頻度に発現した治療関連副作用は、頭痛(tasimelteon群17%[7/42例] vs.プラセボ群7%[3/42例])、肝酵素上昇(10 vs.5%)、悪夢/異常な夢(10 vs.0%)、上気道感染症(7 vs.0%)、尿路感染症(7 vs.2%)であった。 著者は、「tasimelteonの1日1回投与は、全盲者の非24時間睡眠覚醒障害における概日リズムの同調に有効であったが、この改善効果を維持するにはtasimelteonの継続投与が必要であった」とまとめ、「本試験は、米国FDAおよび欧州医薬品庁(EMA)が非24時間睡眠覚醒障害に対するtasimelteonの適応を承認する際の基本的なデータとなった。これは、多くの全盲者が罹患する消耗性疾患の治療における進歩であり、概日リズム障害治療の新たなアプローチである」としている。

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病院での手指衛生を向上させる介入とは? ―システマティックレビューとネットワークメタアナリシスによる解析―(解説:吉田 敦 氏)-400

 医療関連感染を少なくする最も有効な手段は、スタッフの手指衛生を向上させることである。しかしながら、それが遵守されていない病院は多い。WHOは2005年に、病院での手指衛生の向上を目的とした一連のキャンペーン「Clean Care is Safer Care 清潔なケアがより安全なケア」(WHO-5)を開始した1)。これは以下の5点、(1)組織変革、(2)トレーニング/教育、(3)評価とフィードバック、(4)作業場でのリマインダー、(5)組織的な安全風土、を骨子とし、それらを組み合わせたものである。今回、WHO-5が実際の手指衛生行動を変容させたかについて、システマティックレビューとメタアナリシスによる解析が行われ、BMJ誌に発表された。スタディ抽出とレビュー 1980年から2009年の間に、Medline、Embaseなどの文献ソースに蓄積されたスタディの中から、病院医療従事者の手指衛生のコンプライアンス向上に関する介入が行われ、かつ、一定の質的評価がなされたものを解析した。この中にはランダム化比較試験、非ランダム化比較試験、介入前後の比較試験、時系列解析が含まれる。さらに、介入と医療従事者に関して偏りなく均一であると考えられる報告の中で、手指衛生のコンプライアンスが直接観察できたものについてネットワークメタアナリシスを行った。さらなる介入により、行動変容が大きく 検索した3,639スタディのうち、41が解析対象としての基準を満足した(ランダム化比較試験6、時系列解析32、非ランダム化比較試験1、介入前後の比較試験2)。2つのランダム化比較試験を用いたメタアナリシスでは、WHO-5に「手指衛生に関するゴール設定」を加えると、コンプライアンスが向上することが判明した。同時に時系列解析を一対比較したところ、22個の比較解析のうち18解析で、介入後にコンプライアンスが向上したという結果を得た。 一方、ネットワークメタアナリシスでは、WHO-5の効果そのものには不確実な部分が存在するものの、「手指衛生に関するゴール設定」「報酬・インセンティブ」「アカウンタビリティ(個人・組織レベルでの責任)」を加えると、より向上が認められた。また19スタディでは臨床的な結果が得られていたが、手指衛生の向上後に感染率が減少したものの、それは微生物によって差があった(例:MRSAでは減少率が大きく、C. difficileはそれに比べ小さかった)。なお、介入にかかったコストは1,000ベッド・日当たり225ドルから4,669ドルであった。有効な介入とは?その評価は? 今回の解析では、WHO-5自体は手指衛生の向上に有効であったものの、実際上ゴール設定など、ほかの方策を組み合わせることが望ましい結果であった。この意味では、複合的かつ合目的な、そして個人の前向きな問題意識・責任感・行動変容を引き出すような戦略が求められているといえよう。一方で、介入の効果の評価にあたっては、必要なデータはまだまだ不足している。今後の蓄積と介入によって、新たな方向性が見えてくる可能性は十分ある。参考文献はこちら1)World Health Organization. WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care. In WHO Guidelines Approved by the Guidelines Review Committee. 2009. 新潟県立六日町病院から邦訳刊行あり。「世界保健機関 医療における手指衛生ガイドライン:要約 最初の世界的患者安全の挑戦 清潔なケアがより安全なケア」

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テリパラチド連日投与の市販後調査中間解析結果

 近畿大学医学部 奈良病院 整形外科・リウマチ科の宗圓 聰氏らは、骨折リスクが高い日本人骨粗鬆症患者における、テリパラチド連日投与の有効性および安全性を検討する観察研究Japan fracture observational study(JFOS)について、試験デザイン、患者背景および中間解析結果を報告した。その中で、日常診察下におけるテリパラチドの有効性プロファイルは臨床試験ならびに欧州・米国で行われた観察研究の結果と類似していることを提示した。Current Medical Research & Opinion誌オンライン版2015年7月20日号の掲載報告。 研究グループは、骨折の危険が高い骨粗鬆症患者(男性/女性)に1日1回テリパラチドを投与し、3、6および12ヵ月後に評価した。 本中間解析は、臨床骨折、骨密度(BMD)、I型プロコラーゲン-N-プロペプチド(P1NP)、腰背部痛、健康関連QOL(HRQOL)および有害事象についての予備的報告である。 主な結果は以下のとおり。・1,810例(女性90.1%)が登録された。・本研究の対象は、他の観察研究でテリパラチドが投与された骨粗鬆症患者と比較し、年齢は高いが骨粗鬆症のリスク因子は少なかった。・臨床骨折の発生率は、6ヵ月後2.9%、12ヵ月後3.7%であった。・12ヵ月後の平均BMDは、ベースラインと比較して腰椎で8.9%、大腿骨近位部で0.8%増加した。・6ヵ月後の血清P1NP濃度中央値は、ベースラインと比較して187.7%高値であった。・12ヵ月後の疼痛スコア(視覚アナログスケールによる評価)はベースラインより低下し、HRQOLスコアは上昇した。・新しい有害事象は観察されなかった。

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がんを疑う症状があっても気付きにくいのは?

 社会経済的地位(SES)が低い人々では、がんが後期のステージで診断されるリスクが高い。これに対してはさまざまに解釈されているが、最近注目されているのは、がんが疑われる症状に関する患者の知識の低さであり、これが治療の遅れにつながるという。英国・サリー大学のKatriina L Whitaker氏らは、実際にがんの典型的な症状を経験している人々における「がんを疑うこと」の差を調査した。その結果、今回対象とされた集団では、全体的にがんを疑うレベルが低かったが、なかでも低学歴の人々でより低かった。このことから著者らは、初期症状の見逃しが診断時のステージの差につながっている可能性があるとしている。European journal of cancer誌オンライン版2015年8月8日号に掲載。 50歳以上のがんと診断されていない9,771人に、長引く咳や嗄声など、がんを疑う症状10項目を含む症状のリストと共に健康調査票を送付した。回答者に、過去3ヵ月間にいずれかの症状を経験したかどうかを尋ね、もし経験していた場合には「何がそれを引き起こしたと思うか?」と尋ねた。回答として、がんを挙げた場合には「がんを疑った」として点を付けた。SESは学歴により分類した。 主な結果は以下のとおり。・半数近くの回答者(3,756人中1,790人)ががんを疑う症状を経験していたが、考えられる原因として、がんを挙げたのは1,790人中63人(3.5%)だけであった。・学歴の低さは、「がんを疑うこと」の低さと関連していた。考えられる原因としてがんを挙げたのは、大学教育を受けた回答者で7.3%、大学未満の回答者では2.6%であった。・多変量解析によると、低学歴は「がんを疑うこと」の低さと関連する、独立した唯一の人口統計学的変数であった(オッズ比0.34、信頼区間:0.20~0.59)。

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ビタミンEとセレニウムは喫煙者の前立腺がんリスクを下げるか

 ビタミンEとセレニウムの疫学研究において、これら抗酸化物質が前立腺がんリスクを下げるとの仮説があるが、明確なベネフィットは示されていない。また、喫煙がこれらの効果に影響する可能性も示唆されている。米国・エモリー大学のYeunjung Kim氏らはメタ解析により、ビタミンEおよびセレニウムの摂取と前立腺がんリスクとの関連性を非喫煙者と喫煙経験者(現喫煙者/元喫煙者)について比較検討した。Anticancer research誌2015年9月号の掲載報告。 メタ解析の対象は、適格基準に合致した21件の研究であった。著者らはランダム効果モデルを用い、全体および階層別メタリスク比(meta-RRs)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・ビタミンE摂取と関連する前立腺がんのmeta-RRsは、非喫煙者で1.03(95%CI:0.95~1.11)、喫煙経験者で0.98(0.90~1.07)であった。・セレニウムについては、非喫煙者で1.09(0.78~1.52)、喫煙経験者で0.76(0.60~0.96)であった。しかし、現喫煙者における関連性は、元喫煙者におけるよりも弱かった。・異なる曝露の評価法とアウトカム定義に則ったサブ解析により、各層全体で類似した結果が出た。 以上の結果から、著者らは「ビタミンEと前立腺がんの関連性は、喫煙により変わらない。セレニウムの摂取は、喫煙経験者において前立腺がんリスクの低下と関連しているが、現喫煙者における関連性はないことから、本知見は注意深く解釈すべきである」としている。

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脳梗塞後の心房細動患者でのワルファリンの有用性/BMJ

 虚血性脳卒中を呈した心房細動患者に対するワルファリン投与は、長期臨床的アウトカムや自宅生活の期間を改善することが明らかにされた。米国・デューク臨床研究所のYing Xian氏らが、観察研究の結果、報告した。ワルファリンは、心房細動患者の血栓塞栓症予防のために使用が推奨されている。その根拠は、選択された患者集団での臨床試験に基づくものであり、試験設定以外(リアルワールド)の心房細動については、ワルファリンの投与および臨床的な有益性は確認されておらず、とくに、虚血性脳卒中を呈した高齢者において不明であった。BMJ誌オンライン版2015年7月31日号掲載の報告。虚血性脳卒中で入院したワルファリン未治療心房細動患者1万2,552例を追跡 研究グループは、心房細動患者で虚血性脳卒中後のワルファリン治療と長期アウトカムの関連を、地域医療ベースで評価した。検討は、2009~2011年にGet With The Guidelines (GWTG)-Strokeプログラムに参加した米国内1,487病院の協力を得て、虚血性脳卒中で入院したワルファリン未治療の心房細動患者1万2,552例の参加を得て行われた。 退院時にワルファリンを処方された患者と、あらゆる経口抗凝固薬が未処方であった患者を比較し、メディケア報酬支払記録とリンクして長期的アウトカムを評価した。 アウトカムは患者評価をベースとし、退院後継続的ケアを受けることなく暮らした総日数と定義して、主要有害心イベント(MACE)と自宅で暮らした期間を評価した。 治療群間で観察された特性のあらゆる差について、傾向スコア逆確率加重法を用いて検証した。退院時ワルファリン治療群のほうがMACEリスク低下、自宅生活期間が長期 1万2,552例のうち、退院時ワルファリン治療群は1万1,039例(88%)、経口抗凝固薬未治療患者は1,513例であった。 ワルファリン治療群のほうが、年齢はわずかに若く(平均80.1 vs.83.1歳)、脳卒中(14.8 vs.20.6%)や冠動脈疾患(30.8 vs.37.1%)の既往が少ないように思われたが、National Institutes of Health Stroke Scale評価の脳卒中の重症度は同程度であった(中央値6 vs.5)。 経口抗凝固薬未治療患者と比較して、ワルファリン治療群は、退院後2年間の自宅で暮らしている期間(施設ケアとの対比による)が有意に長期間であった。平均期間は治療群468.3日 vs.未治療群389.0日で、補正後の差は47.6日(99%信頼区間[CI]:26.9~68.2日、p<0.001)であった。 また、ワルファリン治療群は、MACEの発生リスク(補正後ハザード比:0.87、99%CI:0.78~0.98、p=0.003)、全死因死亡(同:0.72、0.63~0.84)、虚血性脳卒中の再発(同:0.63、0.48~0.83)についても有意な低下が認められた。 これらの差は、年齢、性別、脳卒中の重症度、冠動脈疾患と脳卒中の既往歴の別でみた臨床的に意義のあるサブグループでも一貫してみられた。

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循環器内科 米国臨床留学記 第1回

第1回:米国における専門医教育事情今回、ケアネットから寄稿をする貴重な機会をいただきました河田 宏と申します。私は2003年に大学を卒業後、日本で循環器専門医を取得し、不整脈のトレーニングを経た後、卒後7年目の2010年より米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校(UC San Diego)で、不整脈(Cardiac Electrophysiology:EP)の臨床留学(クリニカルフェロー)を開始しました。当初は不整脈のトレーニングを修了後に帰国する予定でしたが、米国に残り臨床医としてのトレーニングを続けることに決めました。カリフォルニア大学 アーバイン校米国で不整脈専門医となるには、内科、循環器の専門医の取得が条件となっており、2013年からはオハイオ州シンシナティーに移り、内科のレジデンシーを開始しました。内科レジデンシーを修了し、本年度からカリフォルニア大学アーバイン校(UC Irvine)に移り循環器のフェローを開始しました。米国の循環器フェローシップを経験された日本人医師の多くは、日本での循環器のトレーニングを経ずに米国に渡り、内科のレジデンシーから開始しておられます。ご存じのように日本で循環器専門医を取得するのも卒後6~7年かかります。同じ科目の研修を日本と米国で2回繰り返すということは時間の無駄になりますし、臨床留学を卒後6~7年からやり直すという人もあまりいませんので、私のように日本で循環器専門医を取得した後、米国に渡るというのはまれなケースだと思われます。米国で臨床留学していると聞くと「米国の臨床医学よりに偏向した意見の持ち主か」と思われるかもしれません。私は今でも日本の医療システムのほうが優れている点が多いと思っていますし、成果主義、金儲け主義的な米国の医療には渡米5年経った今でも違和感を覚えます。ただ、医学教育に関しては米国に一日の長があるように感じます。日本の研修医制度が始まって10年が経過し、ようやく専門医制度の改革が動き出したところで、日本の専門医教育(フェローシップ)はこれから大きく変わっていくと思います。米国の専門医教育は自分の学びたいことに集中できる環境が整っており、そこが米国臨床留学の醍醐味だと思いますし、日本が見習うべき点もあると思います。日本の専門医教育も日本の良さを残しつつ、米国の良いところのみを取り込んで、素晴らしいものになってほしいと思っております。今回のコラムでは、循環器を中心に、日本と米国の医療、専門医、教育の違いについて、できるだけ客観的に比較しながら伝えていきたいと思います。循環器医になるまでに何年かかる?最初に米国で循環器内科医となる過程をみてみたいと思います。米国で循環器専門医となるには医学部卒業後、最低6年間が必要です。3年間の内科のレジデンシーを修了後、3年間の循環器のフェローシップを修了して、専門医試験への資格を得ることができます。さらに、冠動脈インターベンション、EP、心不全などのサブ-スペシャルティートレーニングを1~2年間行うことも可能です。画像を拡大するたとえば、EPの場合、すべてのトレーニングを終えるのに内科レジデンシー終了後最低5年はかかります。他の内科のトレーニングは2年か3年で終わるものが多いので、循環器のトレーニングは他の内科のトレーニングより時間がかかります。EPや冠動脈インターベンションの専門医になるのは順調にいっても34歳ごろとなってしまいます。内科レジデンシー終了後、借金を返すために内科医として数年間働いたり、リサーチやチーフレジデントを行ってからフェローに応募することも多いため、トレーニング修了時で40歳ぐらいになってしまう人も珍しくはありません。狭き門? 循環器フェローへのマッチング内科の3年目の夏に循環器、消化器など内科のサブスペシャルティーのマッチングへの応募が始まります。12月のマッチデイ(マッチングの発表)まで、全米各地にインタビューに回ります。マッチする人で平均8個前後のインタビューを受けますし、飛行機を使うことも多いですから、5,000ドル程度の出費は覚悟しなければなりません。マッチングに関しては詳しいデータが公にされています。循環器は最近、給料が下がっている影響か少し人気が下がっています。ポジションに対する応募者の割合は、2011年から2013年までは倍率が1.5倍でしたが2014年~2015年は1.4倍に下がりました。具体的に、今年は835のポジションに対して1,142の応募があり、マッチ率が73%、つまり27%はマッチできなかったということになります。人口を考えると米国の循環器専門医の認定数は日本より少ないと思います。米国ではトレーニングの質を保つため、ACGMEというトレーニングを管轄する団体が病院の規模、ベッド数、手技の数、指導教官数、外来・入院患者数、カンファレンスの数などに応じてフェローの定員を決めています。このため、各病院の自由裁量では人数を増やせず、結果として上限が決まってきます。UC San DiegoやUC Irvineと言った大学病院ですら1学年の定員は5人です。米国人に有利なマッチング米国の医学部を卒業した米国人にとって、循環器のフェローシップを得ること自体はそれほど難しくなく、2011年のデータによると86%がマッチしています。一方、外国の医学部を卒業した外国人には狭き門であり、47%、半分以上が循環器フェローになれなかったということになります。優秀な候補者はどこでもいいというわけではありません。MayoやClevelandのような有名プログラムは競争も激しく、一つのポジションに対して50人を超える応募がくるようです。米国は学歴社会です。卒業した医学部に加えてどこで研修をしているかが非常に重要視されます。ホームページなどで確認できますが、有名プログラムの循環器フェローは殆どが有名なレジデントプログラムの出身です。また、住みやすいと言われる大きな都市のプログラムも倍率が高くなります。内科のレジデンシーを行った病院に循環器フェローシップがあれば、評価の高いレジデントは内部進学ができます。内部といっても競争が激しく、同期のレジデントに競り勝つ必要があります。内科を3年終えた後にチーフレジデントをやると、ほぼ確実に希望するフェローシップにいくことができるプログラムが多いため、最初からそれを目的としてチーフレジデントになる人もいます。日本のチーフレジデントとは違って実利があるのです。最近、一番人気の高いサブスペシャリティーは消化器内科でマッチ率は64%、それに呼吸器・集中治療、循環器、血液/腫瘍が続いています。逆に老年科、腎臓内科、感染症科は人気が低く、倍率は1倍以下になっています。科別の平均年収と人気の科には相関があるようで、この辺りがアメリカっぽいところでしょう。次回以降、具体的に日米のトレーニングの差についても触れていきたいと思います。

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慢性HBV感染の有病率、初の世界的分析結果/Lancet

 世界の慢性B型肝炎ウイルス(HBV)感染症の有病率は3.61%であり、アフリカおよび日本を含む西太平洋地域が最も高率であることなどが、ドイツ・ヘルムホルツ感染症研究センターのAparna Schweitzer氏らにより明らかにされた。世界的分析結果は初となるもので、研究グループは、1965~2013年の発表データを系統的にレビューし、プール解析を行った。Lancet誌オンライン版2015年7月28日号掲載の報告。1965~2013年の発表データを系統的にレビュー レビューは、1965年1月1日~2013年10月23日のMedline、Embase、CAB Abstracts(Global health)、Popline、Web of Scienceのデータベースを検索し、血清疫学データが入手できた国で一般集団に占めるHBV有病率(B型肝炎表面抗原[HBsAg]例)を報告している論文を適格とした。 各国のHBsAg有病率を、95%信頼区間[CI]値(試験サイズで加重)とともに推算し、また、2010年の国連人口統計を用いて、慢性HBV感染者数を算出した。世界で約2億4,800万人がHBsAg陽性と推計 検索により1万7,029件の文献を調べ、161ヵ国をカバーする1,800本のHBsAg有病率に関する報告が入手できた。 世界のHBsAgでみた慢性HBV感染症の有病率は、3.61%(95%CI:3.61~3.61)だった。WHOの6つの地域分類でみた結果、高率の地域はアフリカ(同地域の全体推計有病率8.83%、95%CI:8.82~8.83)と、日本を含む西太平洋(同:5.26%、5.26~5.26)だった。 また低率の地域でも、国によって有病率にばらつきがみられた。アメリカ地域では、メキシコの0.20%(同:0.19~0.21)からハイチの13.55%(同:9.00~19.89)まで、アフリカ地域ではセーシェル諸島の0.48%(同:0.12~1.90)から南スーダンの22.38%(同:20.10~24.83)までの差がみられた。 2010年の世界のHBsAg陽性者は、約2億4,800万人と推計された。 なお、日本の推定有病率は1.02%(同:1.01~1.02)、陽性者129万4,431例と報告されており、同地域では3番目に低かった。同地域で最も低率だったのはオーストラリアの0.37%。隣国では中国が5.49%、韓国は4.36%と報告されている。

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