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米国での循環器専門医試験を終えて【臨床留学通信 from Boston】第8回

米国での循環器専門医試験を終えて昨年の10月に、米国の循環器専門医試験を受けました。結果として無事に合格でき、晴れて日米総合内科、循環器内科専門医となれましたので、その過程を共通させていただきます。この専門医試験は、合格しなければ仕事にならない、もしくは仕事がみつからないほど重要な試験です。そのため真剣に試験を受ける必要があるのですが、今回はとくに過酷なスケジュールでした。10月下旬に試験が行われましたが、私は7月からMGH(マサチューセッツ総合病院)のカテーテルフェローとして昼夜問わず多忙で疲弊しきっていたため、正直なところ十分な準備時間を確保することができていませんでした。それでも試験の申し込み費用が2,500ドル(約40万円)と高額であることから、とりあえず不合格だけは避けることを目標に試験対策を行いました。主に使用した教材として、ACC(米国心臓病学会)に準拠した「ACCSAP」というアプリベースの問題集を、隙間時間に約600問解きました。総合内科は「MKSAP」という問題集がありましたが、それの循環器版です。循環器領域は馴染みがあるので難なく対応できるのですが、先天性心疾患など普段診ない専門性の高い疾患については特別な対策が必要でした。この分野に関しては、メイヨークリニックから出されているボードレビュー動画を活用しました。動画は35時間もあり、到底全部見ることはできませんが、弱点の分野を絞り込み、英語ですが1.5倍速で視聴しました。試験は2日間で行われました。1日目は2時間×4セッションで、知識問題をコンピューターベースで解答します。米国の試験はすべてコンピューターベースになっていて、日本のように東京の会場に集まるということはありません。ただし8時間もあるのがなかなか大変でした。合格点は320点、平均点が459点の中、私は567点で問題ありませんでした。2日目は心電図、心エコー、冠動脈造影の読影テストです。5つの選択肢から解答を1つ選ぶといったよくある形式だと楽なのですが、この試験はユニークな形式で、たとえば心電図所見の選択肢が100個ほどあり、その中から適切なものだけ選びます。選び過ぎると減点される過酷な形式でした。心電図を見て、洞調律、左房負荷、左室肥大、であればそれだけしか選べず、微妙な左軸偏位がないのにそう読んでしまうと減点、というようなものです。この試験はより対策が必要で、「ECG source」というウェブサイトで600問の問題をひたすら解きました。すべて解くのは到底無理で、効率も悪く、実際の感触は今ひとつでした。試験本番では、合格点が352点、平均点が463点の中で、私は542点を取得し、無事クリアしました。おそらく合格率は80~90%程度だと思われます。ほっと一息つくことができました。今年の11月にはInterventional Cardiologyの専門医試験があります。この試験の受験費用はなんと2,900ドルと45万円超。フェローの収入でこれだけの費用を捻出するのは厳しいので驚愕しています。Column今年は幸先良く、ACCの機関誌であるJACC(IF:21.7)に、私がcorresponding author/co-senior authorを担当した、STEMIに対する完全血行再建に関するメタ解析を掲載することができました1)。また、JAMA Cardiology(IF:14.7)に、co-first authorとしてApoBに関する論文を発表しました2)。カテーテル手技に多くの時間を費やしていますが、研究活動も続けていきたいと思います。1)Ueyama HA, Kuno T, et al. Optimal Strategy for Complete Revascularization in ST-Segment Elevation Myocardial Infarction and Multivessel Disease: A Network Meta-Analysis. J Am Coll Cardiol. 2025;85:19-38.2)Slipczuk L, Kuno T, et al. Heterogeneity of Apolipoprotein B Levels Among Hispanic or Latino Individuals Residing in the US. JAMA Cardiol. 2025 Jan 2. [Epub ahead of print]

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第252回 依存や鎮静などを回避しうる新しい鎮痛薬を米国が承認

ここ20年以上なかった新しい作用機序の非オピオイド鎮痛薬を米国FDAが先週金曜日に承認しました1,2)。承認されたのは昨春2月に本連載でも取り上げた米国のバイオテクノロジー企業であるVertex Pharmaceuticals社の経口錠剤です。製品名をJournavxといい、その成分suzetrigineは依存や鎮静などの有害事象と背中合わせのオピオイド受容体ではなく、痛み信号伝達に携わる末梢感覚神経のNaチャネルを標的とします。suzetrigineは数ある電位開口型Naチャネルの1つであるNaV1.8に限って阻害します。Naチャネルは扉のような役割を担い、神経細胞を伝う電気信号に応じて開閉します。その働きによるNaイオンの通過をとっかかりとする一連の神経反応によって脳へと痛み信号が伝わっていきます3)。suzetrigineの開発はNaV1.8の活性を高める変異一揃いの発見4)に端を発します。NaV1.8を開きっぱなしにするそれらの変異を有する人は、無傷にもかかわらずひどい神経痛を被っていました。ゆえに、NaV1.8を阻害することで痛みを減らせるだろうと想定され、NaV1.8を強力に阻害するsuzetrigineがいくつかの試みから頭ひとつ抜けて今回の承認に漕ぎ着けました。suzetrigineは昨年1月に初出の2つの第III相試験の結果5)を拠り所にして承認されました。その1つでは軟部組織の痛みを代表する腹部美容手術(腹部の過剰脂肪を除去する腹壁形成術)後の痛み、もう1つでは骨痛として代表的な外反母趾手術後の痛みへの同剤の効果が調べられ、2試験ともsuzetrigineの鎮痛効果がプラセボを上回りました。ただし、オピオイド含有薬(ヒドロコドンとアセトアミノフェンの組み合わせ)との鎮痛効果の比較でsuzetrigineは勝てませんでした。suzetrigineの安全性はより良好で、有害事象の発現率はプラセボ群より少なくて済みました5)。中等度~重度の急な疼痛の治療に使うことが許可されたsuzetrigineの1錠の値段は15.5ドルです。初回の用量は100mgで、その後1日に1錠を2回服用6)する患者の1日当たりの値段は31ドルとなります。慢性痛への効果はどうやら覚束ない次にsuzetrigineが目指すのはオピオイドに代わるより安全な鎮痛薬がより切実に待望される、いわば本丸の慢性痛治療の適応獲得であり、糖尿病性末梢神経障害患者を対象にした同剤の第III相試験が昨年の後半にすでに始まっています7)。一見順調そうだったその前途は、昨年の暮れに発表された第II相試験結果を受けて今や傍目には覚束なくなったように見えます。同試験には坐骨神経痛(LSR)患者が参加し、suzetrigine投与群102例の疼痛数値評価尺度(NPRS)の低下はプラセボ群100例と差がつきませんでした8)。Vertex社によると、プラセボ効果は試験を担った54施設ごとにまちまちでした。プラセボ効果がより低かったおよそ40%の施設のsuzetrigine投与患者47例の12週時点のNPRS低下は2点弱で、全体集団と遜色がありませんでした。ゆえにそれら40%の施設でのsuzetrigineの効果は、プラセボ群36例の1点弱のNPRS低下に比べて良好でした9)。Vertex社にどうやら迷いはなく、LSR相手のsuzetrigineの第III相試験を米国FDAなどの規制当局との相談(discussions with regulators)の後に始めます。第III相試験はより整ったプラセボ効果になるように設計すると同社は言っています8)。参考1)Vertex Announces FDA Approval of JOURNAVX (suzetrigine), a First-in-Class Treatment for Adults With Moderate-to-Severe Acute Pain / BusinessWire2)FDA Approves Novel Non-Opioid Treatment for Moderate to Severe Acute Pain / PRNewswire 3)Dolgin E. Nature. 2025 Jan 31. [Epub ahead of print]4)Faber CG, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2012;109:19444-9.5)Vertex Announces Positive Results From the VX-548 Phase 3 Program for the Treatment of Moderate-to-Severe Acute Pain / BusinessWire6)Journavx prescribing information7)Vertex Announces Positive Results From the VX-548 Phase 3 Program for the Treatment of Moderate-to-Severe Acute Pain / BusinessWire 8)Vertex Announces Results From Phase 2 Study of Suzetrigine for the Treatment of Painful Lumbosacral Radiculopathy / BusinessWire 9)SUZETRIGINE (VX-548) PHASE 2 RESULTS IN PAINFUL LUMBOSACRAL RADICULOPATHY / Vertex

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治療転帰、男女医師で有意差~35研究のメタ解析

 これまでに、女性医師が治療した患者は男性医師が治療した患者よりも転帰が良く、医療費も低くなる可能性が報告されている。医師と患者の性別の一致も転帰に影響する可能性があるが、これまでの研究では有意差は確認されておらず、統合解析によるエビデンスはほとんどない。今回、米国・メイヨークリニックのKiyan Heybati氏らがランダム効果メタ解析を実施した結果、女性医師の治療を受けた患者は、男性医師の治療を受けた患者に比べ死亡率が有意に低く、再入院も少なかったことがわかった。BMC Health Services Research誌2025年1月17日号に掲載。 本研究では、MEDLINEとEMBASEの開始から2023年10月4日まで検索し、関連研究を手作業で検索した。メタ解析には、成人(18歳以上)を登録し、内科および外科の専門領域にわたって医師の性別の影響を評価した観察研究を含めた。バイアスのリスクはROBINS-Iを用いて評価した。事前のサブグループ分析は、患者タイプ(外科対内科)に基づいて実施した。主要評価項目は全死亡率、副次評価項目は合併症、再入院、入院期間など。 主な結果は以下のとおり。・35件(1,340万4,840例)の観察研究のうち、20件(891万5,504例)は外科医の性別の影響を評価し、残りの15件(448万9,336例)は内科治療/麻酔ケアにおける医師の性別に焦点を当てた研究であった。バイアスのリスクがmoderateと評価されたのは15件、severeが15件、criticalは5件だった。・女性医師が治療した患者の死亡率は男性医師が治療した患者よりも有意に低く(オッズ比[OR]:0.95、95%信頼区間[CI]:0.93~0.97、PQ=0.13、I2=26%)、これは外科医と非外科医で一貫していた(相互作用:p=0.60)。・有意な出版バイアスは検出されなかった(Egger検定:p=0.08)。・女性医師による内科治療/麻酔ケアを受けた患者では再入院率が有意に低かった(OR:0.97、95%CI:0.96~0.98)。・9件(716万3,775例)の研究の質的統合では、医師と患者の性別の一致は良好なアウトカムと関連し、とくに女性医師と女性患者の一致で良好だった。 著者らは「すべての患者の健康アウトカムを最適化するためには、異なる国々のほかの医療状況におけるこれらの影響を検証し、根底にある機序と長期アウトカムを理解するために、さらなる研究が必要」としている。

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がん診断前の定期的な身体活動はがんの進行や死亡リスクを低下させる?

 がんと診断される前に運動を定期的に行っていた人では、がんとの闘いに成功する可能性が高まるようだ。がんの診断前に、たとえ低水準でも身体活動を行っていた人では、がんの進行リスクや全死亡リスクが低下する可能性のあることが明らかになった。ウィットウォーターズランド大学(南アフリカ)のJon Patricios氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Sports Medicine」に1月7日掲載された。 研究グループによると、運動ががんによる死亡のリスク低下に重要な役割を果たしていることに関しては説得力のあるエビデンスがあるものの、がんの進行に対する影響については決定的なエビデンスがない。 この点を明らかにするためにPatricios氏らは今回、南アフリカで最大の医療保険制度であるDHMS(Discovery Health Medical Scheme)のデータを用いて、2007年から2022年の間にステージ1のがんと診断された患者2万8,248人を対象に、がんの進行および全死亡と診断前の身体活動との関連を検討した。がん種で最も多かったのは乳がん(22.5%)と前立腺がん(21.4%)であった。フィットネスデバイスのデータやジムでの運動記録などから、がんの診断前12カ月間の対象者の身体活動レベルを調べ、身体活動なし(62%)、低水準の身体活動量(中強度以上の身体活動を週平均60分未満、13%)、中〜高水準の身体活動量(中強度以上の身体活動を週平均60分以上、25%)の3群に分類した。 解析の結果、中〜高水準の身体活動量の群では、がんの進行率と全死亡率の低いことが明らかになった。がん進行のリスクは、身体活動なしの群と比べて、低水準の身体活動量の群では16%(ハザード比0.84、95%信頼区間0.79〜0.89)、中〜高水準の身体活動量の群では27%(同0.73、0.70〜0.77)、全死亡リスクはそれぞれ33%(同0.67、0.61〜0.74)と47%(同0.53、0.50〜0.58)低かった。 診断から2年後にがんの進行が認められなかった対象者の割合は、身体活動なしの群で74%、低水準の身体活動量の群で78%、中〜高水準の身体活動量の群で80%であった。同割合は、3年後ではそれぞれ71%、75%、78%、5年後では66%、70%、73%であった。全死亡についても同様のパターンが認められ、2年後に生存していた対象者の割合は、91%、94%、95%、3年後では88%、92%、94%、5年後では84%、90%、91%であった。 Patricios氏らは、「身体活動は、がんと診断された人に対して、がんの進行と全死亡の観点で大きなベネフィットをもたらすと考えられる」と結論付けている。また、研究グループは、身体活動には自然免疫力を強化して、体ががんと闘う準備を整える効果があるのではないかと推測している。身体活動はまた、体内のエストロゲンとテストステロンのバランスやレベルの調整を改善することで、乳がんや前立腺がんなどのホルモンが原因のがんの進行リスクを低下させる可能性も考えられるという。 本研究結果に基づき研究グループは、「がんが依然として公衆衛生上の重大な課題である現状を踏まえると、身体活動の促進は、がんの進行だけでなく、その予防と管理においても重要なベネフィットをもたらす可能性がある」と指摘。「公衆衛生ガイドラインは、がんを予防するだけでなく、がんの進行リスクを軽減するためにも身体活動の実施を奨励すべきだ」と提言している。

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COVID-19パンデミック前後で医療の利用状況が大きく変化

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック前後で、国内医療機関の利用状況が大きく変わったことが明らかになった。全国的に入院患者の減少傾向が続いているという。慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュートの野村周平氏、東京海洋大学の田上悠太氏、東京大学のカオ・アルトン・クアン氏らの研究の結果であり、詳細は「Healthcare」に11月19日掲載された。著者らは、「入院患者数の減少は通常の状況下では医療システムの効率化の観点からポジティブに捉えられる可能性がある一方で、パンデミック期間中には超過死亡も観測されていることから、入院患者数の減少による国民の健康への潜在的な影響も排除できない」としている。 COVID-19パンデミックが世界中の医療体制に多大なインパクトを与えたことは明らかで、影響の大きさを詳細に検証した論文も既に多数報告されている。ただし、パンデミック収束後の実態に関する研究は多くない。また、日本は他の先進国と異なり、パンデミック初期には患者数が少なかったものの、オミクロン株が主流になって以降に患者数が顕著に増加するというやや特異な影響が現れた。これらを背景として野村氏らは、パンデミック以前の2012年1月から2023年11月までの厚生労働省「病院報告」の月次データを用いて、パンデミックによって国内の医療機関の利用状況がどのように変わったかを検討した。 「病院報告」では、一般病床、精神病床、感染症病床、療養病床などの病床種類別の入院患者数や利用率、在院日数などが月ごとに報告されている。これらのうち本研究では、パンデミックが医療に与えた間接的な影響(COVID-19治療以外の医療)に焦点を当てるという意図から、一般病床と精神病床のデータを解析対象とした。解析には、準ポアソン回帰モデルという手法を用いた。 まず、一般病床に関する解析結果を見ると、入院患者数はパンデミック以前から経年的に減少傾向にあった。これは、病院から地域(在宅や療養型施設)へという政策の推進によるものと考えられる。しかし、パンデミックが始まった2020年3月以降の入院患者数は、パンデミック以前の減少傾向から予測される患者数を有意に下回り、解析対象期間の最終月である2023年11月まで有意に少ない状態が続いていた。例えば、2023年の一般病床の1日平均在院患者数は62万6,450人で、パンデミック前の2017~2019年の67万9,092人と比較して、7.8%少なかった。月当たりの新規入院患者数についても、パンデミック以降は予測値より有意に少ない月が多く発生し、約10%減少していた。 病床数も2021年以降に減少傾向が見られたが、その変化は入院患者数の減少速度より緩徐であり、絶対数の減少幅は1%未満だった。病床数がわずかな減少で入院患者数は大きく減少した結果として、病床利用率は、パンデミック前の2017~2019年の平均が73.5%であるのに対して、パンデミック以降の2020~2022年は67.5%と、6パーセントポイント低下していた。 次に、精神病床について見ると、一般病床と同様、パンデミック前から入院患者数が経年的に減少傾向にあったが、パンデミック発生後には以前の減少傾向から予測される患者数を有意に下回り、解析対象期間の最終月である2023年11月まで有意に少ない状態が、ほぼ連続していた。また、新規入院患者数についても、パンデミック以降は予測値より有意に少ない月が多く発生し、約8%減少していた。病床利用率は、パンデミック前の2017~2019年が平均85.6%であったのに対し、2023年には81.3%へと5.3パーセントポイント低下していた。 これらの解析の結果として著者らは、「COVID-19パンデミックは国内の医療機関の利用状況を根本的に変え、その影響は世界保健機関(WHO)が2023年5月に緊急事態宣言を終了した後も続いている」と総括している。また、国内においてパンデミック後期にCOVID-19以外の超過死亡が報告されていたことに関連して、入院患者数の減少が国民の健康アウトカムに潜在的な影響を及ぼしていた可能性を指摘。「脱施設化や長期ケアの地域医療への移行を進める中で、政策立案者は医療提供パターンの変化を注意深くモニタリングし、適切な医療アクセスの確保に注意を払う必要がある」と付け加えている。

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T-DXd治療後のHER2発現の変化

 転移のある乳がん患者におけるトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の治療後のHER2発現状況の変化について、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのMohamed A. Gouda氏らが後ろ向きに検討したところ、約半数の患者でHER2の消失や低下がみられたという。Clinical Cancer Research誌オンライン版2025年1月22日号に掲載。 本研究では、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターでT-DXd治療を受けた転移乳がん患者を後ろ向きに検討した。T-DXd治療の前後で生検を実施しIHC染色を用いてHER2発現を評価した患者を対象とした。 本研究の結果、対象患者41例のうち、T-DXdによる治療後に11例(治療前にIHCスコアが1+、2+、3+だった34例のうち32.4%)でHER2の消失がみられた。さらに、10例(34例中29.4%)でHER2スコアの減少がみられた。 著者らは「T-DXdによる治療を受けている転移乳がん患者において、HER2の消失および低下が多く見られる。T-DXdの治療後にHER2過剰発現が必要なHER2標的療法を実施する際は、HER2の再評価を考慮すべき」としている。

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自閉スペクトラム症の易怒性に対するメトホルミン補助療法の有用性

 糖尿病治療薬は、自閉スペクトラム症(ASD)の症状緩和に有効であることが示唆されている。しかし、メトホルミンがASDに伴う易怒性に及ぼす影響についての臨床研究は、不十分である。イラン・テヘラン医科大学のZahra Bazrafshan氏らは、小児ASD患者の易怒性に対するリスペリドン+メトホルミン補助療法の有効性および安全性を評価するため、10週間のランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施した。Journal of Psychopharmacology誌オンライン版2024年12月15日号の報告。 本研究は、2024年3〜5月にイラン・Roozbeh Hospitalの小児自閉症外来で実施した。対象患者は、リスペリドン+メトホルミン(500mg/日)群またはリスペリドン+プラセボ群にランダムに割り付けられた。主要アウトカムは、易怒性とした。aberrant behavior checklist-community scale(ABC-C)を用いて、ベースライン、5週目、10週目に評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・最終分析には、55例を含めた。・メトホルミン群は、プラセボ群と比較し、易怒性の有意な減少が認められた(p=0.008)。・ABC-Cの4つのサブスケールのうち、多動性/ノンコンプライアンススコアは、ベースラインから5週目までに有意な低下を示した(p=0.021)。・メトホルミン群は、プラセボ群と比較し、ベースラインから5週目までの不適切な発言スコアの有意な減少が認められた(p=0.045)。・無気力/社会的引きこもり、常同行動スコアについては、統計学的に有意な差は認められなかった。 著者らは「メトホルミン補助療法は、ASD患者の易怒性軽減に有効であり、この結果は以前の研究と一致していたが、実臨床で推奨するためには、さらなる研究が必要である」と結論付けている。

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切除可能食道腺がん、FLOTによる周術期化学療法が有効/NEJM

 切除可能な食道腺がん患者の治療において、術前化学放射線療法と比較してフルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン+ドセタキセル(FLOT)による周術期化学療法は、3年の時点での全生存率を有意に改善し、3年無増悪生存率も良好で、術後合併症の発現は同程度であることが、ドイツ・Bielefeld大学のJens Hoeppner氏らが実施した「ESOPEC試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年1月23日号に掲載された。ドイツの医師主導型無為化第III相試験 ESOPEC試験は、切除可能食道がんの治療におけるFLOTによる周術期化学療法の有用性の評価を目的とする医師主導の非盲検無作為化対照比較第III相試験であり、2016年2月~2020年4月にドイツの25の施設で患者を登録した(ドイツ研究振興協会の助成を受けた)。 年齢18歳以上、組織学的に食道の腺がんが確認され、食道の腫瘍または食道胃接合部の原発巣から食道へ進展した腫瘍を有し、原発巣のUICC病期分類がcT1 cN+、cT2-4a cN+、cT2-4a cN0のいずれかで、遠隔転移がなく、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group performance status(ECOG PS)のスコアが0、1、2点の患者を対象とした。 被験者を、FLOTによる周術期化学療法+手術を受ける群、または術前化学放射線療法+手術を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。FLOT群では、術前に2週を1サイクルとする化学療法(FLOT)を4サイクル施行し、術後に同様の化学療法を4サイクル(退院から4~6週後に開始)行った。術前化学放射線療法群では、カルボプラチン+パクリタキセル(週1回[1、8、15、22、29日目]、静脈内投与)と放射線治療(総線量41.4Gy:23分割、1.8Gy/日)を施行した後に手術を行った。 主要エンドポイントは全生存とした。全生存期間は66ヵ月vs.37ヵ月 438例を登録し、FLOT群に221例(年齢中央値63歳[範囲:37~86]、男性89.1%)、術前化学放射線療法群に217例(63歳[30~80]、89.4%)を割り付けた。FLOT群の193例、術前化学放射線療法群の181例が手術を受けた。全体の追跡期間中央値は55ヵ月だった。 3年の時点での全生存率は、術前化学放射線療法群が50.7%(95%信頼区間[CI]:43.5~57.5)であったのに対し、FLOT群は57.4%(50.1~64.0)と有意に高い値を示した(死亡のハザード比[HR]:0.70、95%CI:0.53~0.92、p=0.01)。全生存期間中央値は、FLOT群が66ヵ月(36~評価不能)、術前化学放射線療法群は37ヵ月(28~43)だった。 また、3年時の無増悪生存率は、FLOT群が51.6%(95%CI:44.3~58.4)、術前化学放射線療法群は35.0%(28.4~41.7)であった(病勢進行または死亡のHR:0.66、95%CI:0.51~0.85)。術後の病理学的完全奏効は16.7% vs.10.1% 完全切除(R0)は、FLOT群の193例中182例(94.3%)、術前化学放射線療法群の181例中172例(95.0%)で達成した。術後の病理学的完全奏効(ypT0/ypN0:切除された原発巣およびリンパ節に浸潤がんの遺残がない)は、それぞれ192例中32例(16.7%)および179例中18例(10.1%)で得られた。 Grade3以上の有害事象は、FLOT群で207例中120例(58.0%)、術前化学放射線療法群で196例中98例(50.0%)に発現した。重篤な有害事象は、それぞれ207例中98例(47.3%)および196例中82例(41.8%)にみられた。手術を受けた患者における術後の手術部位および手術部位以外の合併症の頻度は両群で同程度であり、術後90日の時点での死亡はそれぞれ6例(3.1%)および10例(5.6%)であった。 著者は、「病理学的完全奏効の解析は、各試験を通じて標準化するのが困難な因子に依存するため、先行試験との比較では慎重に解釈する必要がある」「併存症のためFLOTが施行できない患者やFLOT関連有害事象を呈する患者では、2剤併用化学療法へのde-escalationや術前化学放射線療法への切り換えが望ましいアプローチであるかは、本試験では回答できない問題である」としている。

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アルコール摂取と因果関係のあるがん種

アルコール摂取と因果関係のある7つのがんとそのメカニズムがんのリスクは少量の飲酒でも増加すること、アルコール摂取と因果関係のあるがん種について、米国・保健福祉省公衆衛生局の長官が2025年1月に勧告しました。アルコール摂取と因果関係のあるがん種・乳がん(女性) ・大腸がん ・食道がん・口腔がん・肝臓がん・咽頭がん ・喉頭がんアルコールによる「がん」を引き起こす4つのメカニズム1. アセトアルデヒドによるDNAやタンパク質の損傷アルコールはアセトアルデヒドに分解され、それがさまざまな方法でDNAに損傷を与え、がんのリスクを高めます。2. 酸化ストレスアルコールは酸化ストレスを引き起こしてDNAタンパク質や細胞を損傷し、炎症を増加させることでがんのリスクを高めます。3. ホルモンの変化アルコールはエストロゲンを含むさまざまなホルモン値を変化させ、乳がんリスクを高めます。4. 発がん性物質を吸着するアルコールは発がん性物質の吸収を促進します。たとえば、アルコールはタバコの煙のような発がん性物質の溶媒として作用します。これにより、有害な粒子が身体に浸透しやすくなり、DNA損傷を引き起こし、とくに口腔がんなどのリスクを高めます。出典:Alcohol and Cancer Risk 2025(The U.S. Surgeon General’s Advisory)https://www.hhs.gov/surgeongeneral/priorities/alcohol-cancer/index.htmlCopyright © 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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rabies(狂犬病)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第19回

言葉の由来「狂犬病」は英語で“rabies”といいます。この病名は、ラテン語の“rabies”に由来し、これは「狂気」や「激怒」を意味します。さらにさかのぼると、ラテン語の“rabere”(激怒する)という動詞に関連しており、これは狂犬病に感染した動物や人間が示す過度の攻撃性や不安定な行動を反映して付けられたとされています。また、古代ギリシャでは、この病気を“lyssa”または“lytta”と呼んでいました。これは「狂乱」や「狂気」を意味する言葉で、狂犬病ウイルスの属名である“Lyssavirus”はこのギリシャ語に由来しています。歴史的には、紀元前5世紀ごろのギリシャの哲学者デモクリトスが狂犬病について記述しており、同時代のヒポクラテスも「狂乱状態の人々は水をほとんど飲まず、不安になり、最小の物音にも震え、痙攣を起こす」と記録しています。狂犬病は致死率がきわめて高く、長年にわたって恐れられていた病気ですが、19世紀後半にフランスの化学者ルイ・パスツールによって狂犬病ワクチンが開発され、予防可能な感染症になりました。併せて覚えよう! 周辺単語神経症状neurological symptoms恐水病hydrophobia予防接種vaccination興奮状態agitationこの病気、英語で説明できますか?Rabies is a viral disease that causes inflammation of the brain in humans and other mammals. It is typically transmitted through the bite of an infected animal. Early symptoms often include fever, headache, and a tingling at the site of exposure. As the disease progresses, symptoms can include violent movements, uncontrolled agitation, fear of water, and inability to move parts of the body.講師紹介

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日本における遺伝子パネル検査、悪性黒色腫の治療到達割合は6%

 悪性黒色腫(メラノーマ)は、アジア諸国では欧米に比べてまれな疾患であり、前向き臨床試験による検証が難しい状況がある。日本において、包括的がんゲノムプロファイリング検査(CGP)を使用して悪性黒色腫患者の遺伝子変異と転帰を解明することを目的とした後ろ向き研究が行われた。北海道大学の野口 卓郎氏らによる本研究の結果は、JCO Precision Oncology誌2025年1月9日号に掲載された。 研究者らは、標準治療が終了(完了見込みも含む)し、保険適用となるCGPを受けた悪性黒色腫患者のデータをがんゲノム情報管理センター(C-CAT)から得て、結果を分析した。 主な結果は以下のとおり。・2020年10月~2023年5月に、C-CATに登録された569例の悪性黒色腫患者が対象となった。遺伝子パネル検査の種類はFoundationOneCDxが84%、FoundationOne Liquid CDxが6%、OncoGuide NCCオンコパネルシステムが9.7%で、それぞれ324、324、137遺伝子が解析対象となった。・悪性黒色腫の発生部位は皮膚悪性黒色腫が64%、粘膜悪性黒色腫が28%、ブドウ膜悪性黒色腫が7%だった。・遺伝子変異で多かったものはBRAFが25%、NRASが20%、NF1が17%、KITが17%だった。BRAFの82%、NRASの97%、NF1の69%、KITの54%が特定の薬剤で対応可能な変異だった。・BRAF V600E/K変異は皮膚の22%、粘膜の2%で発生したが、ブドウ膜では発生しなかった。皮膚悪性黒色腫における平均腫瘍負荷は4.2variants/Mbだった。・BRAF V600E/K変異体を有する患者のうち、16例は検体採取前にBRAF/MEK阻害薬による治療を受けている一方で、66例は受けていなかった。以前にBRAF標的療法で治療を受けた患者は、治療を受けていない患者よりも頻繁にBRAFおよび細胞周期遺伝子の増幅を示した。・Molecular Tumor Board(MTB:がんゲノム医療カンファレンス)は全体の3分の1の患者に治療の推奨を行ったが、実際に推奨された治療を受けた患者は36例(6%)だった。36例中29例は詳細な治療情報が得られ、10人は米国食品医薬品局(FDA)承認薬以外の治療を受けていた。 研究者らは「BRAF、NRAS、NF1、KITにおける遺伝子変化は、日本人の悪性黒色腫患者によく見られるが、推奨に従って治療を受けた患者は少なかった。日本においては承認薬、もしくは臨床試験における治療薬へのアクセスを容易にすることが求められている」とした。

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BRAF V600E変異mCRC、1次治療のエンコラフェニブ+セツキシマブが有用(BREAKWATER)

 前治療歴のあるBRAF V600E変異型の転移大腸がん(mCRC)に対して、BRAF阻害薬・エンコラフェニブと抗EGFRモノクローナル抗体・セツキシマブの併用療法(EC療法)はBEACON試験の結果に基づき有用性が確認され、本邦でも承認されている。一方、BRAF V600E変異mCRCに対する1次化学療法の有効性は限定的であることが示されており、1次治療としてのEC療法の有用性を検証する、第III相BREAKWATER試験が計画・実施された。 1月23~25日、米国・サンフランシスコで行われた米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム(ASCO-GI 2025)では、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのScott Kopetz氏が本試験の解析結果を発表し、Nature Medicine誌オンライン版2025年1月25日号に同時掲載された。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:未治療のBRAF V600E変異mCRC、ECOG 0~1・試験群:EC群:エンコラフェニブ+セツキシマブEC+mFOLFOX6群:エンコラフェニブ+セツキシマブ+mFOLFOX6(オキサリプラチン、ロイコボリン、5-FU)・対照群:標準化学療法(SOC)群:CAPOX or FOLFOXIRI or mFOLFOX6±ベバシズマブ・評価項目:[主要評価項目]無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効期間(DOR)、安全性など※試験中にプロトコルが変更され、EC+mFOLFOX6群とSOC群を比較する試験デザインとなった。今回はORRの1次解析、OSの暫定的解析が報告され、PFSをはじめとするほかの評価項目は解析中で、後日報告される予定だ。 主な結果は以下のとおり。・2021年11月16日~2023年12月22日にEC+mFOLFOX6群に236例、SOC群243例が割り付けられた。治療期間中央値はEC+mFOLFOX6群で28.1週間、SOC群で20.4週間であり、データカットオフ(2023年12月22日)時点でEC+mFOLFOX6群は137例、SOC群は82例が治療継続中だった。・ORRはEC+mFOLFOX6群60.9%、SOC群40.0%だった(オッズ比:2.44、95%信頼区間[CI]:1.40~4.25、p=0.0008)。奏効期間中央値は13.9ヵ月対11.1ヵ月であった。設定されたすべてのサブグループにおいて同様の結果が認められた。DORが6ヵ月または12ヵ月を超える患者の割合は、EC+mFOLFOX6群ではSOC群の約2倍だった。・OSデータは未成熟であったが、EC+mFOLFOX6群が優位な傾向が見られた。・重篤な有害事象の発現率は、37.7%と34.6%であった。安全性プロファイルは既知のものと同様であった。 研究者らは、「本試験では、BRAF V600E変異を有するmCRC患者を対象に、1次治療としてのEC+mFOLFOX6併用療法がSOC療法と比較して、有意に高い奏効率を示し、その奏効が持続することが示された」とした。なお、2024年12月、米国食品医薬品局(FDA)は、本試験の結果に基づき、エンコラフェニブとセツキシマブの併用療法をBRAF V600E変異を有するmCRCの1次治療として迅速承認している。

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骨髄線維症、移植後30日目の変異消失が予後に関連/NEJM

 骨髄線維症患者において、移植後30日目におけるドライバー遺伝子変異の消失は、その種類に関係なく再発および生存に良好な影響を及ぼすことを、ドイツ・ハンブルグ・ エッペンドルフ大学医療センターのNico Gagelmann氏らが明らかにした。同種造血幹細胞移植は骨髄線維症に対する唯一の治癒的治療法である。この疾患の病態生理学的特徴はドライバー遺伝子変異であるが、移植後の変異の消失の影響は不明であった。NEJM誌2025年1月9日号掲載の報告。ドライバー遺伝子変異をモニタリング、予後との関連を評価 研究グループは、2000~23年にハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターにて初回移植を受けた原発性骨髄線維症または二次性骨髄線維症(真性多血症または本態性血小板血症に続発)の患者324例を対象に、移植前および移植後30日目、100日目、180日目にドライバー遺伝子変異をモニタリングし、変異の消失と再発および生存に及ぼす影響を検討した。 全例、移植の前処置には低強度ブスルファン+フルダラビンを用い、移植片対宿主病の予防は移植前に抗Tリンパ球グロブリン、移植後にカルシニューリン阻害薬(シクロスポリンAまたはタクロリムス)とミコフェノール酸モフェチルまたはメトトレキサートの併用投与を行った。 主要エンドポイントは、再発および無病生存期間(DFS)の2つとした。副次エンドポイントは全生存期間(OS)であった。移植後30日目の変異消失が予後に関連 患者背景は、年齢中央値が60歳、62%が原発性骨髄線維症であった。また、ドライバー遺伝子変異は、JAK2変異238例(73%)、CALR変異73例(23%)、MPL変異13例(4%)に認められ、58%の患者が移植前にJAK阻害薬による治療を受けていた。 移植後30日目には、JAK2変異の42%(101/238例)、CALR変異の73%(53/73例)、MPL変異の54%(7/13例)が遺伝子変異の消失を認めた。移植後100日目の変異消失はそれぞれ63%(117/185例)、82%(60/73例)、100%(13/13例)であり、移植後180日目はJAK2変異が79%(134/169例)、CALR変異が90%(62/69例)であった。 再発の1年累積発生率は、移植後30日目に変異が消失した患者で6%(95%信頼区間[CI]:2~10)、消失しなかった患者で21%(15~27)であった。 6年DFS率および6年OS率は、移植後30日目に変異が消失した患者でそれぞれ61%および74%、消失しなかった患者で41%および60%であった。 移植後30日目の変異消失は従来のドナーキメリズムよりも奏効の指標として優れ、再発や進行のリスク低下と独立して関連していることが示唆された(ハザード比:0.36、95%CI:0.21~0.61)。多変量解析の結果、移植後30日目の変異消失の影響は、ドライバー遺伝子変異の種類(JAK2、CALR、MPL)よりも大きいことが示唆された。

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65歳以上の全女性に骨粗鬆症スクリーニングを推奨――USPSTF

 米国予防医学専門委員会(USPSTF)は1月14日、65歳以上の全ての女性に対して、骨折予防のための骨粗鬆症スクリーニングを推奨するという内容のステートメントを発表した。また65歳未満であってもリスク因子のある女性は、やはりスクリーニングの対象とすべきとしている。一方、男性に対するスクリーニングに関しては、まだ十分なエビデンスがないとした。これらの推奨の詳細は、USPSTFのサイトに同日掲載された。 USPSTFのEsa Davis氏は、「骨粗鬆症患者に現れる最初の症状が骨折であることが非常に多い。このことが、その後の深刻な健康障害を引き起こしている」と、未診断の骨粗鬆症患者が少なくないという問題を指摘し、スクリーニング対象基準を明確にすることの意義を強調。また、「この基準の明確化によって、65歳以上の女性だけでなく、リスクが高い場合は65歳未満の女性も、骨折を来す前にスクリーニングを受けることで骨粗鬆症を早期に発見でき、女性の健康、自立、生活の質の維持につなげられる」と話している。 骨も体のほかの組織と同じように、新陳代謝を繰り返している。しかし加齢とともに、骨の吸収と形成のバランスが負になりやすく、吸収された骨が十分に補充されなくなっていく。骨粗鬆症の多くはこのような加齢の影響により進行し、徐々に骨密度が低下していき骨折のリスクが上昇してくる。米クリーブランドクリニックのデータによると、骨粗鬆症による骨折が生じやすい部位は、股関節、手首、脊椎などと報告されている。 USPSTFは予防医学関連のさまざまなステートメントを策定するとともに、それらを定期的に見直し、最新の医学的知見に準拠した内容を維持している。今回のUSPSTFのステートメントに関しては、2011年および2018年に発表された以前のバージョンと基本的には一致する内容だが、スクリーニングのための検査手法として、「二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)による骨密度(BMD)測定が含まれる」とされた。 推奨項目は以下のとおり。65歳以上の女性に対して骨粗鬆症のスクリーニングを行い骨折を予防する(グレードB)。骨粗鬆症の危険因子を一つ以上有する65歳未満の閉経後女性に対して骨粗鬆症のスクリーニングを行い骨折を予防する(グレードB)。男性の骨粗鬆症による骨折を予防するためにスクリーニングを行うことのリスク/ベネフィットのバランスを評価するには、現在のエビデンスは不十分。 男性のスクリーニングについてUSPSTF副委員長のJohn Wong氏は、「検査によって骨粗鬆症の男性を特定することは可能。しかし、検査とそれに続く治療が、男性の骨折を抑制するかどうかについては、さらなるエビデンスが必要な段階だ。USPSTFは現在、男性に対する研究を奨励している」と述べている。 なお、USPSTFは全米の予防医学に関する専門家で構成される独立したボランティア委員会で、USPSTFのステートメントが医療保険制度に変化をもたらすこともある。同国の医療保険制度改革法(Affordable Care Act)では、USPSTFの推奨度が高い検査は無料で受けられるようにすべきとしている。

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第248回 自家NK細胞療法を自費で行うクリニックに改善命令、敗血症発症は「生来健康」な成人の衝撃、厚労省は新たなガイダンス作成へ

「生来健康」な成人が「免疫力のアップ」を目的に細胞療法を自費で受け、敗血症にこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。キャンプインを目前にして野球が盛り上がってきました。日本のNPBでは複数の有名選手の不倫問題やトレバー・バウアー投手の横浜DeNAベイスターズ復帰が話題となっていますが、MLBでは佐々木 朗希投手(23)のロサンゼルス・ドジャース入団や、イチロー氏の米国野球殿堂入りなど、こちらも話題が盛り沢山です。個人的には中日ドラゴンズからポスティングシステムで MLBを目指していた小笠原 慎之介投手(27)のワシントン・ナショナルズ入りが興味を引きました。日刊スポーツなどの報道によれば、2年総額350万ドル(約5億4,300万円)で、今季年俸が150万ドル(約2億3,300万円)、来季年俸が200万ドル(約3億1,000万円)、中日への譲渡金はわずか70万ドル(約1億900万円)だそうです。同じくポスティングシステムで千葉ロッテマリーンズからドジャースに移籍した佐々木投手は、マイナー契約ながら契約金は今年の国際FAで最高額の6,500万ドル(約10億100万円)で、ロッテへの譲渡金は25%の約2億5,000万円だそうです。小笠原投手、中日で9年間に46勝(昨年は5勝)していますが、随分安く見られたものです。小笠原投手はまだ若く、カーブやチェンジアップを得意とする投手です。昨シーズンのシカゴ・カブス・今永 昇太投手ばりの活躍を期待したいところです。ちなみに、ワシントン・ナショナルズは2004年まではカナダが本拠地のモントリオール・エクスポズでした。現在の球場、ナショナルズ・パークはワシントンD.C.にあり、地下鉄利用でアクセスも良く、ドジャー・スタジアムのようには混まない上に、とても美しい球場です。ワシントンD.C.出張や旅行の折にはぜひ訪れてみて下さい。さて今回は、昨年10月に発生し、年末に厚生労働省が改善命令を出した東京の自由診療クリニックで起きた再生医療による敗血症事例について書いてみたいと思います。1月24日に開かれた厚生労働省の再生医療等評価部会でも、国立感染症研究所からその詳細が報告されましたが、敗血症を発症した2例ともなんと「生来健康」な成人で、「免疫力のアップ、がんの予防」を目的にクリニックを訪れていました。昨年10月にはクリニックなどに対し再生医療の提供を一時停止させる緊急命令この事例が最初の報道されたのは昨年の10月です。がん予防などを目的に都内のクリニックで自分のNK(ナチュラルキラー)細胞を採取、培養後に再び自分の体に戻す細胞療法を受けた人が重大な感染症にかかり入院したとして、厚生労働省は10月25日、クリニックなどに対し再生医療の提供を一時停止させる緊急命令を出しました。10月26日付の朝日新聞などの報道によれば、自由診療による細胞療法を提供していたのは医療法人輝鳳(きほう)会THE K CLINIC(東京都中央区)です。このクリニックで細胞療法を受けた2人が入院治療を要する重大な感染症を発症しました。細胞加工物を製造した同法人の池袋クリニック培養センター(東京都豊島区)において原因とみられる細菌が検査で検出されたとのことです。この事例については、10月24日に輝鳳会から厚労省に報告があり、同省は再生医療安全性確保法に基づいて、クリニックと培養センターに対し「悪性腫瘍の予防に対する自家NK細胞療法」の提供とその細胞加工物の製造の一時停止を命じました。調査の結果2人の細胞加工物の残液から細菌確認、12月に衛生管理体制の再検討や改善計画の提出などを求める改善命令この問題については厚労省と医薬品医療機器総合機構(PMDA)、国立感染症研究所が調査を進め、12月24日に改めて、THE K CLINICの管理者・橋口 華子氏、池袋クリニックの管理者・甲 陽平氏、池袋クリニック培養センターを管理する輝鳳会(理事長・久藤 しおり氏)に対し、再生医療安全性確保法に基づいた改善命令を出しました。この時公表された調査結果によれば、患者2人がTHE K CLINICで自家NK細胞療法を受けたのは9月30日でした。その帰宅中に2人とも体調不良となり、病院に緊急搬送され、敗血症の診断でICUに入院しました。2人とも健康な成人で、池袋クリニック培養センターにおいて別々(1人は投与4ヵ月前、1人は投与1ヵ月前)に細胞採取(採血)が行われ、培養後にTHE K CLINICで投与を受けました。10月3日、細胞加工物を製造した池袋クリニック培養センターの細胞培養加工施設が、2人に投与した細胞加工物の無菌試験検体が陽性となったことを報告。その後、同検体から好気性グラム陰性桿菌(Pseudoxanthomonas mexicana)が同定されたとのことです。THE K CLINICは当該療法の計画の審査を行う認定再生医療等委員会へ本事例の発生を報告、10月24日に輝鳳会から厚労省に報告 が行われ、10月25日の緊急命令に至ったものです。厚労省、PMDA、国立感染症研究所の調査でも、2人の細胞加工物の残液から細菌(Pseudoxanthomonas mexicana)が確認され、同菌が敗血症発症の原因と考えられるとしました。汚染原因としては、採血時又は無菌試験検体準備時の汚染や、細胞培養過程での交差汚染の可能性が高いとしました。また、培養センターでは、点検整備の記録の作成が行われないなど複数の法令違反があり、無菌試験の一部を目視で行うなど不適切な体制もあったとのことです。同省は改善命令で、衛生管理体制の再検討や、改善計画の提出などを求めました。なお、この培養センターの運営は組織培養用培地の製造・販売等を行うバイオ企業に全面的に任せていたようです。不適切な温度管理下での輸送が汚染された最終投与物内の細菌増殖に影響を与えた可能性もなお、1月27日に開かれた再生医療等評価部会では、国立感染症研究所は上述したような事故の原因に加え、池袋の培養センターからTHE K CLINICへの「不適切な温度管理下での輸送が、汚染された最終投与物内の細菌増殖に影響を与えた可能性は否定できなかった」ともしました。その上で、再発防止に向けて、1.細胞培養加工施設における操作毎の手指衛生を中心とした適切な清潔操 作と環境の清掃や消毒の手順書の作成2.手順に関する定期的な職員の研修・訓練の確実な実施3.迅速かつ信頼できる無菌試験体制の確立4.搬送時の適切な温度管理5.治療後の適切な健康観察6.適切な逸脱管理、時に認定再生医療等委員会への迅速な報告7.各手順における適切な記録と保管の7項目を提言しました。厚労省はこの提言も踏まえ、こうした感染事故等の再発を防止するために、再生医療を提供する医療機関などに向け、通知やガイダンスを発出する方針とのことです。1月28日付の日経バイオテクは、「部会では、CPCにおける清潔操作の徹底や無菌試験の実施法、細胞などの温度管理、問題が発生した際の報告体制などについて、既存のガイダンスに盛り込んだり、新たにガイダンスを作成したりすることが検討された」と書いています。自家NK細胞療法は再生医療等安全性確保法で比較的リスクの低い第3種再生医療等に位置付けそれにしても、「がんにかからない(あるいは再発しないため)ために免疫力をアップさせる」という触れ込みで自家NK細胞療法を自由診療で行う医療機関(主に美容クリニックや、がん免疫療法を看板に掲げるクリニック)がなんと多いことでしょう。今回の場合、「生来健康」だった人が敗血症にかかって死にかけているわけですから、本末転倒と言えます。なお、一部の情報では、敗血症を発症したのは日本人ではなく、中国からわざわざ再生医療を受けに来た人のようです。男女の性別はわかっていません。自家NK細胞療法については、その科学的根拠は確立していないにもかかわらず、自由診療での提供が拡大しているのは、その提供自体は再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)で認められているためです。自家NK細胞療法は、同法で比較的リスクの低い第3種再生医療等に位置付けられており、その高額な治療費や曖昧なエビデンスが批判されることはありましたが、提供禁止までには至っていません。ちなみに、「第189回 エクソソーム療法で死亡事故?日本再生医療学会が規制を求める中、真偽不明の“噂”が拡散し再生医療業界混乱中」で書いたエクソソーム療法も美容クリニックなどの自由診療で広がっています。しかし、日本では細胞培養上清液やエクソソームは細胞断片であり細胞には当たらないと整理されており、今のところ、再生医療等安全性確保法の対象外です。「第189回」では、エクソソームなどの細胞外小胞は「交差汚染管理が不十分な場合などに敗血症等重篤な事故を引き起こす可能性がある」(再生医療等評価部会・岡野 栄之氏資料より)との意見を紹介しましたが、今回は、第3種再生医療等のカテゴリーにある自家NK細胞療法で、その敗血症が起こってしまったわけです。「再生医療等安全性確保法が厳しいルールを定めていようとも、クリニックが実際にそれを守らなければ、安全性も絵に描いた餅」と週刊新潮今回の敗血症事例の発生で、美容クリニックなどで行われている細胞療法やエクソソーム療法などに対する世間の目が厳しくなる可能性があります。実際、週刊新潮の2025年1月16号は、「『専門家からすると“自殺行為”』 事故多発の再生医療の闇…」と題する記事を掲載、今回のTHE K CLINICで起きた事故を報じるとともに、「安確法(再生医療等安全性確保法)が厳しいルールを定めていようとも、クリニックが実際にそれを守らなければ、当然、安全性も絵に描いた餅に終わってしまう。冒頭で紹介したクリニックはその最たる問題例といえる。(中略)安確法は事実上骨抜きになっているといってよく、一般の患者にとって『本当に安全な再生医療』を見抜くことはほとんど不可能なのである」と書いています。さらに同記事は、再生医療等安全性確保法の対象外のエクソソーム療法や幹細胞培養上清液治療にも言及、「インターネットで検索すると、アンチエイジングや傷ついた組織の修復、育毛、疲労回復に免疫調節作用など、夢のような効果がうたわれている。(中略)現実には『夢のような治療』とは程遠い劣悪な製品が横行し、命の危険にさらされる恐れすら否定できないのが実態」と書くとともに、一般社団法人・再生医療安全推進機構の代表理事を務める香月 信滋氏の「現在の日本で表立って上清液治療やエクソソーム治療を提供している約700ヵ所の医療施設のうち、患者自身の細胞を使用していると明確に公表している施設はほとんどありません。それどころか8割以上が他人の細胞由来か、下手をすれば人間の細胞由来ではない恐れすらあります。また、専門家の調査によって、エクソソームとうたいながらエクソソームが全く含まれていない“謎の液体”が使用されている悪質な例も判明した」とのコメントも紹介しています。確固たるエビデンスもないまま、美容医療やがん予防における自由診療としてマーケットを広げつつある再生医療ですが、厚生労働省には安全性確保のため今まで以上の規制強化とともに、消費者側が悪徳医療機関の“詐欺”に遭わないようにするための何らかの対策も、ぜひ講じてもらいたいと思います。

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ブレクスピプラゾールは統合失調症患者の精神症状だけでなくQOLも改善

 統合失調症治療では、感情的、身体的、社会的、認知機能的な領域にわたる健康的な生活への関与と関連する因子の向上が重要である。カナダ・カルガリー大学のZahinoor Ismail氏らは、統合失調症患者の健康的な生活への関与に対するブレクスピプラゾールの短期的および長期的な影響を評価するため、臨床試験データの事後分析を行った。Current Medical Research and Opinion誌オンライン版2025年1月3日号の報告。 成人統合失調症患者に対するブレクスピプラゾールの有効性および安全性を評価した臨床試験のデータを分析した。臨床試験には、6週間のランダム化二重盲検プラセボ対照試験3件(1,385例)、52週間の非盲検延長試験2件(408例)を含めた。患者の生活への関与は、妥当性が証明されている陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の14のサブセットを用いて測定した(スコア範囲:最高14〜最低98)。平均スコアの変化および治療反応率(臨床的に重要な最小差異推定値5ポイント以上および10ポイント以上)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・ベースラインから6週目までの患者の生活への関与において、ブレクスピプラゾール群(2〜4mg/日)は、プラセボ群と比較し、より大きな改善が認められた(95%信頼区間:−3.57〜−1.58、p<0.001、エフェクトサイズCohen's d:0.28)。【ブレクスピプラゾール群】最小二乗平均差変化:−8.3±0.3(868例)【プラセボ群】最小二乗平均差変化:−5.7±0.4(517例)・これらの改善は、ブレクスピプラゾール1〜4mg/日の58週間投与においても、維持された(399例)。・6週目における治療反応率は、5ポイント以上の改善ではブレクスピプラゾール群71.6%、プラセボ群58.0%(p<0.001)、10ポイント以上の改善ではブレクスピプラゾール群43.5%、プラセボ群32.8%(p<0.001)であった。・58週目(179例)におけるブレクスピプラゾール群の治療反応率は、5ポイント以上の改善で90.5%、10ポイント以上の改善で78.2%であった。 著者らは「統合失調症に対するブレクスピプラゾール治療は、精神症状の改善だけでなく、重要なアウトカムである患者の生活への関与を改善する可能性を秘めていることが明らかとなった」と結論付けている。

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抗インフル薬、非重症者で症状改善が早いのは?~メタ解析

 重症ではないインフルエンザ患者に対する抗ウイルス薬の効果を調査した結果、バロキサビルは高リスク患者の入院リスクを低減し、症状改善までの時間を短縮する可能性があったものの、その他の抗ウイルス薬は患者のアウトカムにほとんどまたはまったく影響を与えないか不確実な影響であったことを、中国・山東大学のYa Gao氏らが明らかにした。JAMA Internal Medicine誌オンライン版2025年1月13日号掲載の報告。 インフルエンザは重大な転機に至ることがあり、高リスク者ではとくに抗ウイルス薬が処方されることが多い。しかし、重症でないインフルエンザの治療に最適な抗ウイルス薬は依然として不明である。そこで研究グループは、重症ではないインフルエンザ患者の治療における抗ウイルス薬の有用性を評価するため、系統的レビューとネットワークメタ解析を行った。 研究グループは、MEDLINE、Embase、CENTRAL、CINAHL、Global Health、Epistemonikos、ClinicalTrials.govをデータベース開設から2023年9月20日まで検索した。対象は、重症ではないインフルエンザ患者の治療として、直接作用型インフルエンザ抗ウイルス薬をプラセボ、標準治療(各施設のプロトコールに準拠またはプライマリケア医の裁量)、他の抗ウイルス薬と比較したランダム化比較試験であった。ペアのレビュワーが独立して試験をレビューしてデータを抽出し、バイアスリスクを評価した。頻度論に基づく変量効果モデルを用いたネットワークメタ解析でエビデンスを要約し、GRADEアプローチでエビデンスの確実性を評価した。主要アウトカムは死亡率、入院、集中治療室入室、入院期間、症状緩和までの時間、抗ウイルス薬耐性の発現、有害事象などであった。 主な結果は以下のとおり。・3万4,332例が参加した73件の試験が適格となった。平均年齢の中央値は35.0歳、男性が49.8%であった。・評価された抗ウイルス薬は、バロキサビル、オセルタミビル、ラニナミビル、ザナミビル、ペラミビル、umifenovir、ファビピラビル、アマンタジンであった。・すべての抗ウイルス薬は、標準治療またはプラセボと比較して、低リスク患者と高リスク患者の死亡率にほとんどまたはまったく影響を与えなかった(エビデンスの確実性「高」)。・抗ウイルス薬(ペラミビルとアマンタジンはデータなし)は、低リスク患者の入院にほとんどまたはまったく影響を与えなかった(エビデンスの確実性「高」)。・高リスク患者の入院については、オセルタミビルはほとんどまたはまったく影響を与えず(リスク差[RD]:-0.4%、95%信頼区間[CI]:-1.0~0.4、エビデンスの確実性「高」)、バロキサビルはリスクを低減した可能性があった(RD:-1.6%、95%CI:-2.0~0.4、エビデンスの確実性「低」)。他の抗ウイルス薬は効果がほとんどないか不確実な影響である可能性があった。・バロキサビルは症状持続期間を短縮した可能性が高く(平均差[MD]:-1.02日、95%CI:-1.41~-0.63、エビデンスの確実性「中」)、umifenovirも症状持続期間を短縮した可能性があった(MD:-1.10日、95%CI:-1.57~-0.63、エビデンスの確実性「低」)。オセルタミビルは症状持続期間に重要な影響をもたらさなかった(MD:-0.75日、95%CI:-0.93~-0.57、エビデンスの確実性「中」)。・治療に関連する有害事象については、バロキサビルでは有害事象がほとんどまたはまったくなかった(RD:-3.2%、95%CI:-5.2~-0.6、エビデンスの確実性「高」)。オセルタミビルでは有害事象が増加した可能性が高かった(RD:2.8%、95%CI:1.2~4.8、エビデンスの確実性「中」)。 これらの結果より、研究グループは「この系統的レビューとメタ解析により、バロキサビルは重症でないインフルエンザ患者の治療に関連する有害事象を増加させることなく、高リスク患者の入院リスクを低減し、症状改善までの時間を短縮する可能性があることが判明した。他のすべての抗ウイルス薬は、アウトカムにほとんどまたはまったく影響を与えないか、または不確かな影響しかなかった」とまとめた。

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高齢者救急、緩和ケア開始は入院率を改善するか/JAMA

 生命を脅かす重篤な疾患を呈し救急診療部(ED)を受診した高齢患者に対する、複数要素介入を取り入れた緩和ケア(Primary Palliative Care for Emergency Medicine:PRIM-ER)の開始は、入院率を改善せず、介入後の医療活用状況や短期死亡率にも影響を及ぼさないことが、米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのCorita R. Grudzen氏らが実施した「PRIM-ER試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年1月15日号に掲載された。米国の救急診療部のクラスター無作為化試験 PRIM-ER試験は、EDにおける救急医、医療助手、看護師などによる緩和ケアの実践を強化するための複数要素介入の評価を目的とするstepped-wedgeデザインを用いたクラスター無作為化試験であり、2018年5月~2022年12月に米国の29のEDで患者を登録した(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成を受けた)。 EDを初めて受診した66歳以上、Gagne comorbidityスコアが6点以上(短期的な死亡リスクが30%以上)のメディケア登録患者9万8,922例を対象とした(高齢者介護施設入居者は除外)。介入前の5万458例と介入後の4万8,464例を比較した。 PRIM-ERは主に次の4つで構成された。(1)エビデンスに基づく集学的な教育、(2)重篤な疾患のコミュニケーションに関するシミュレーションベースのワークショップ、(3)臨床意思決定支援、(4)EDの臨床スタッフに対する評価とフィードバック。 主要アウトカムは入院とした。副次アウトカムとして6ヵ月時の医療活用と生存を評価した。副次アウトカムにも差はない ED初診患者全体の年齢中央値は77歳(四分位範囲[IQR]:71~84)、女性が50%で、黒人が13%、白人が78%であり、Gagne comorbidityスコア中央値は8点(IQR:7~10)だった。 入院率は、介入前が64.4%、介入後は61.3%と差を認めなかった(絶対群間差:-3.1%、95%信頼区間[CI]:-3.7~-2.5、補正後オッズ比[OR]:1.03、95%CI:0.93~1.14)。 介入から6ヵ月時点の医療活用についても改善は得られず、ICU入室率は介入前が7.8%、介入後は6.7%(補正後OR:0.98、95%CI:0.83~1.15)、1回以上のED再診率はそれぞれ34.2%および32.2%(1.00、0.91~1.09)、ホスピス施設利用率は17.7%および17.2%(1.04、0.93~1.16)、在宅医療利用率は42.0%および38.1%(1.01、0.92~1.10)、1回以上の再入院率は41.0%および36.6%(1.01、0.92~1.10)であった。死亡率、死亡例の生存期間にも差はない 6ヵ月以内の死亡率は、介入前が28.1%、介入後は28.7%だった(補正後OR:1.07、95%CI:0.98~1.18)。また、死亡例のED初回受診から死亡までの平均期間は、介入前が17.3(SD 38.8)日、介入後は17.1(37.7)日であった(補正後ハザード比:1.00、95%CI:0.93~1.08)。 著者は、「試験期間中のCOVID-19の世界的な大流行はED治療の状況に大きく影響し、患者の社会人口学的構成や疾患の重症度、入院の可能性などに変化をもたらした。たとえば、多くの在宅医療提供者やホスピス施設がCOVID-19患者の受け入れを拒否したか、人手不足であったか、これら双方であったため、これらのサービスの活用が困難であったり、入院を回避できなかった可能性がある。また、介入後の期間の大部分がCOVID-19大流行の期間中であったため、その後の医療活用の変化がその結果として生じたのか、あるいは介入そのものによるのかを知るのは困難である」と指摘している。

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肝硬変と肝性脳症の併発患者で亜鉛低値見られる

 肝硬変と肝性脳症(HE)を併発している患者の多くにおいて、血清中の亜鉛が欠乏しているという研究結果が、「Journal of Family Medicine and Primary Care(JFMPC)」9月号に掲載された。 Rajendra Institute of Medical Sciences Ranchi(インド)のDivakar Kumar氏らは、HEを伴う肝硬変患者150人の血清亜鉛値を測定した。 その結果、HEを伴う肝硬変患者の過半数に亜鉛欠乏症が認められた。血清亜鉛低値とWest Haven CriteriaによるHEのグレードとの間に、統計学的に有意な関連が認められた。肝硬変の各クラス間で、血清亜鉛値にきわめて有意な差が見られた。死亡した患者では、平均血清亜鉛値が有意に低かった(35.56対48.36)。血清亜鉛値と血清アルブミン値との間に、強い正の相関が認められた(r=0.88)。 著者らは、「HEと低アルブミン血症を伴う肝硬変の全患者に対して、亜鉛欠乏症の評価を行うべきである。低亜鉛血症はHEの死亡率と有意に関連しているため、予後マーカーとしても使用できる。HEを伴う肝硬変患者における血清亜鉛値の早期スクリーニングと亜鉛補充によって、HEの悪化を予防できる可能性があるほか、HEの治療に使用できる可能性もある。これは、さらに大規模な研究、特に症例対照研究やランダム化比較試験によって証明できる」と述べている。

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第34回 高齢者の低体温症【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)冬場は常に疑い、深部体温を測定しよう!2)復温を速やかに行いながら初療を徹底しよう!3)原因検索とともに再発予防を行おう!【症例】81歳・男性ある日の朝方、自宅のベッド脇で倒れているところを同居の家族が発見し、呼びかけに対して反応が乏しいため救急要請。救急隊到着時以下のようなバイタルサイン。四肢は冷たく、SpO2、体温は測定できない。●搬送時のバイタルサイン意識100/JCS血圧76/56mmHg脈拍54回/分呼吸18回/分SpO2error体温error既往歴不明内服薬不明冬の救急外来インフルエンザが猛威を振るっています。今年も筆者が勤務する病院では、年末年始の救急外来が大混雑しました。心筋梗塞や脳卒中といった冬季に多発する疾患に加え、火災による一酸化炭素中毒や気道熱傷、さらには餅による窒息など、冬特有の症例も頻発し、現場は多忙を極めていました。さらに近年では、今回の症例のように低体温症の患者も増加しており、どのようなセッティングであっても初療の基本をしっかり把握しておく必要性がますます高まっています。偶発性低体温症(accidental hypothermia)とは低体温症(hypothermia)は、深部体温(直腸温、膀胱温、食道温、肺動脈温など)が35℃以下に低下した状態を指します。なお、事故や不慮の事態に起因する低体温を、低体温療法や低体温麻酔のように意図的に低体温とした場合と区別するために、「偶発性低体温症」と呼びます。水難事故や山岳避難など、環境要因のみが原因と想起される場合には、復温することに全集中すればよいですが、感染症や脳卒中、外傷などをきっかけに動けなくなり、結果として低体温が引き起こされている場合(二次性低体温)には、原因に対する介入を行わなければ改善は期待できません。熱中症と同様に、体温管理とともに原因検索を同時並行で行い対応する必要があるのです。二次性低体温の原因は、体温調節機能の障害、熱喪失の増加に大別され、それぞれ多岐に渡りますが、意識障害の原因検索に準じて行うとよいでしょう(参照:意識障害 その2 意識障害の具体的なアプローチ 10’s rule)。低体温の重症度低体温症の重症度分類としては、Swiss分類(Swiss Staging System)が広く知られています(表1)1)。この分類は、症状をもとに深部体温と重症度を推定できるよう設計されています。表1 偶発性低体温症重症度分類低体温症を確定診断するためには、深部体温の測定が不可欠です。腋窩体温で判断するのではなく、必ず深部体温を測定しましょう。これは熱中症の場合と同様で、体温が著しく低い(または高い)状況では、腋窩体温と深部体温の乖離が大きく、正確性を欠くためです2)。深部体温の測定方法としては、食道温が最も正確とされていますが、現場の実用性を考慮すると、温度センサー付きの尿道バルーンを使用し、膀胱温を尿量と併せて確認・管理する方法が推奨されます。一方で、深部体温の測定が困難な場合もあるでしょう。そのような場合には、意識状態に注目して重症度を推定することが重要です。意識状態が重度であるほど、低体温症の重症度は高くなり、予後が不良であることが明らかになっています3)。ショック+徐脈ショックでは通常、頻脈がみられますが、血圧が低下しているにもかかわらず脈拍が上昇しない、または徐脈である場合には、表2に示すような病態を考慮する必要があります4)。とくに冬など寒冷環境下では、低体温の関与を積極的に疑い、適切に対応しましょう。表2 ショック+徐脈Rescue collapse低体温患者、とくに重症度が高い場合、心臓の易刺激性により心室細動や無脈性心室頻拍が起こりやすいと報告されています。これはアシドーシスなどの影響が考えられますが、刺激や体動なども不整脈を惹起する可能性が示唆されており、この現象を“rescue collapse”と呼びます5)。過度な刺激は避け、愛護的な対応が必要です。実際〇℃以上になれば安全という絶対的な基準はありませんが、不整脈が起こりやすい状態であることを共通認識とし、復温や原因検索を行いながらバイタルサインを安定させることが重要です。「病着後、ある程度復温されない状態では患者を動かさない方がよい」というのは、皆さんの病院でも暗黙のルールになっているのではないでしょうか。これは、前述のrescue collapseを危惧した対応だと思われます。実際、体温が30℃未満ではリスクが高いとされていますが、30℃以上に上昇しても不整脈を完全に防ぐことができるわけではありません。また、根本的な原因に対する適切な介入を行わなければ、事態が改善しないことも多々あります。このため、注意深く観察しながら、精査を進める必要があります。仮にrescue collapseが発生した場合でも、周囲の人などからの目撃があれば蘇生率は比較的高いことが知られているため、慎重に経過を診ながら介入を行うのが現実的な対応といえるでしょう。低体温の治療脳卒中や外傷、低体温など、原因に対する治療も当然重要ですが、何よりも復温を急ぐ必要があります。原因検索を優先するあまり、復温のタイミングを逃してはなりません。 低体温と認識した段階で迅速に介入を開始しましょう。復温方法としては、以下のように3つの方法が挙げられます。1)受動的復温体温喪失を防ぐために、着替えや毛布、温かい飲み物を使用する。2)能動的体外復温ベアーハガーやArctic Sunなどの加温ブランケット、40~44℃の加温輸液を使用する。3)能動的体内復温 膀胱洗浄、血液透析、体外式膜型人工肺(ECMO)などを利用する。多くの症例では、体外復温で十分対応可能です。最も重要なのは、低体温であることを早期に認識し、迅速に介入することです。そのため、ECMOが行えないという理由で搬送を拒否するのではなく、まずは受け入れた上で復温を早期に開始することを徹底すべきです。低体温の予防救急外来で経験する低体温症の多くは、高齢者の自宅で発生した事例です。冒頭の症例のように、倒れているところを発見され、搬送されるケースが後を絶ちません。このような症例は、年々増加しているのではないでしょうか。高齢者、とくにフレイルの患者では死亡率が高いことが知られており6)、夏の熱中症と同様に、低体温への対策が急務です。基礎疾患の管理は当然ですが、暖房の適切な設置や、とくに発生しやすい朝の安否確認など、事前に対策を講じておくことが重要です。1)Paal P, et al. Scand J Trauma Resusc Emerg Med. 2016;24:111.2)Niven DJ, et al. Ann Intern Med. 2015;163:768-777.3)Fukuda M, et al. Acute Med Surg. 2022;9:e730.4)坂本 壮. 救急外来ただいま診断中 第2版. 中外医学社. 2024.5)Frei C, et al. Resuscitation. 2019;137:41-48.6)Takauji S, et al. BMC Geriatr. 2021;21:507.

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