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HIV-1への広域中和抗体VRC01、感染予防効果は?/NEJM

 ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)CD4結合部位を標的とする広域中和抗体(bnAb)の「VRC01」は、プラセボと比較してあらゆるHIV-1感染の予防効果はみられなかったが、VRC01感受性HIV-1分離株の解析から、bnAbによる予防は効果的であるとの概念は実証されたという。米国・Fred Hutchinson Cancer Research CenterのLawrence Corey氏らが、VRC01のHIV-1感染予防効果を検証した多施設共同無作為化二重盲検比較試験「HVTN 704/HPTN 085試験」および「HVTN 703/HPTN 081試験」の結果を報告した。bnAbによりHIV-1感染を予防できるかどうかは、これまで知られていなかった。NEJM誌2021年3月18日号掲載の報告。VRC01の2用量の有効性をプラセボと比較 「HVTN 704/HPTN 085試験」は、北米南米および欧州においてリスクを有するシスジェンダー男性およびトランスジェンダーを対象に、「HVTN 703/HPTN 081試験」は、サハラ以南のアフリカにおけるリスクを有する女性を対象としてそれぞれ行われた。 研究グループは、対象者をVRC01の10mg/kg群(低用量群)、30mg/kg群(高用量群)またはプラセボ群に無作為に割り付け、それぞれ8週ごとに計10回点滴投与し、4週ごとにHIV-1検査を実施した。また、TZM-blアッセイ法を用いて、得られた臨床分離株のVRC01 80%阻害濃度(IC80)を評価した。 2016年4月6日~2018年10月5日に、「HVTN 704/HPTN 085試験」に計2,699例が登録された。また、2016年5月17日~2018年9月20日に、「HVTN 703/HPTN 081試験」に計1,924例が登録された。VRC01はHIV-1感染全体として予防効果はないが、感受性株には有効 有害事象は、各試験内の治療群間で発現件数や重症度は類似していた。 HIV-1感染は、HVTN 704/HPTN 085試験(2,699例)において低用量群で32例、高用量群で28例、プラセボ群で38例が発生し、HVTN 703/HPTN 081試験(1,924例)においてはそれぞれ28例、19例、29例が発生した。HVTN 704/HPTN 085試験におけるHIV-1感染発生率(100人年当たり)は、VRC01統合群2.35、プラセボ群2.98であった(推定予防効果:26.6%、95%信頼区間[CI]:-11.7~51.8、p=0.15)。HVTN 703/HPTN 081試験においては、VRC01統合群2.49、プラセボ群3.10であった(8.8%、-45.1~42.6、p=0.70)。 事前に規定した両試験の統合解析の結果、VRC01感受性分離株(IC80<1μg/mL)による感染発生率(100人年当たり)は、VRC01群0.20、プラセボ群0.86であった(推定予防効果:75.4%、95%CI:45.5~88.9)。 感受性分離株に対する予防効果は、VRC01の各用量ならびに各試験で類似していたが、VRC01は他のHIV-1分離株の感染の予防効果は認められなかった。

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J&Jの新型コロナワクチン、単回接種で速やかな免疫応答を誘導/JAMA

 Janssen Pharmaceuticalsが開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)新規ワクチン候補「Ad26.COV2.S」について、第I相試験の一部として米国マサチューセッツ州ボストンの単施設で実施された無作為化二重盲検比較試験において、Ad26.COV2.Sの単回接種により速やかに結合抗体および中和抗体が産生されるとともに、細胞性免疫応答が誘導されることが示された。米国・ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのKathryn E. Stephenson氏らが報告した。COVID-19パンデミックのコントロールには、安全で有効なワクチンの開発と導入が必要とされている。JAMA誌オンライン版2021年3月11日号掲載の報告。25例で、ワクチン2用量の免疫原性をプラセボと比較 研究グループは、Ad26.COV2.Sワクチンのヒトにおける免疫原性(SARS-CoV-2スパイク特異的液性および細胞性免疫応答の動態、強さ、表現型など)を評価する目的で、2020年7月29日~8月7日の期間に25例を登録し、Ad26.COV2.Sをウイルス粒子量5×1010/mL(低用量)、同1×1011/mL(高用量)、またはプラセボを、1回または2回(56日間隔)筋肉内投与する群に無作為に割り付けた。 液性免疫応答として接種後複数時点でのスパイク結合抗体および中和抗体、細胞性免疫応答としてT細胞反応(ELISPOTおよび細胞内サイトカイン染色法)を評価した。 本論では、中間解析として71日目までの追跡調査(2020年10月3日時点)に関する結果が報告されている。持続性に関する追跡調査は2年間継続される。単回接種後、結合抗体および中和抗体の速やかな産生と細胞性免疫応答が誘導 全25例(年齢中央値42歳[範囲:22~52]、女性52%、男性44%、区別なし4%)が71日時点の中間解析評価を受けた。 初回接種後8日までに、結合抗体はワクチン接種者の90%に、中和抗体は25%で検出された。57日目までに、両抗体は単回接種者の100%で検出された。 ワクチン接種者において、71日時点のスパイク特異的結合抗体の幾何平均抗体価は2,432~5,729、中和抗体の幾何平均抗体価は242~449であった。また、さまざまな抗体のサブクラス、Fc受容体結合能、抗ウイルス機能が誘発されたこと、CD4+およびCD8+ T細胞応答が誘導されたことも確認された。 現在、Ad26.COV2.Sの有効性を評価するため、2件の第III相試験が進行中である。

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本邦3剤目のCAR-T療法liso-cel、国内承認/BMS

 ブリストル・マイヤーズ スクイブとその関連会社セルジーンは、2021年3月22日、CD19を標的とするCAR-T細胞療法リソカブタゲン マラルユーセル(liso-cel、商品名:ブレヤンジ)について、再発又は難治性の大細胞型B細胞リンパ腫と再発又は難治性の濾胞性リンパ腫を対象とした再生医療等製品製造販売承認を取得した。liso-celの全奏効割合(ORR)は日本人集団10例では70.0% 今回のliso-celの承認取得は、再発または難治性のB細胞非ホジキンリンパ腫患者を対象とした海外第I相臨床試験および再発または難治性のアグレッシブB細胞非ホジキンリンパ腫患者を対象とした国際共同第II相臨床試験で得られた有効性および安全性の結果に基づいたもの。 海外第I相試験の主たる有効性評価集団133例における主要評価項目の全奏効割合(ORR)は74.4%(95%CI:66.2~81.6)であり、95%CIの下限が事前に規定された閾値全奏効割合40%を上回った。有効性解析対象集団256例における全奏効割合は72.7%(95%CI:66.8~78.0)であった。また、国際共同II相試験におけるORRは、全体集団34例で58.8%(95%CI:40.7~75.4)であり、閾値40%に対して統計的に有意であった。日本人集団10例では70.0%であった。 海外第I相試験においては、269例中201例(74.7%)に副作用が認められた。主な副作用は、サイトカイン放出症候群(42.0%)、疲労(17.8%)、好中球減少症(16.4%)、貧血(13.8%)、頭痛(13.4%)、血小板減少症(11.5%)、錯乱状態(11.5%)、振戦(11.2%)、低血圧(10.4%)など。国際共同第II相試験においては、46例(日本人患者10例を含む)中42例(91.3%)に副作用が認められた。主な副作用は好中球減少症(52.2%)、サイトカイン放出症候群(41.3%)、貧血(39.1%)、血小板減少症(39.1%)、発熱(39.1%)、白血球減少症(23.9%)、錯乱状態(15.2%)、疲労(13.0%)、発熱性好中球減少症(13.0%)などであった。 大細胞型B細胞リンパ腫には、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)をはじめとする複数の病型が含まれる。DLBCLは国内のB細胞非ホジキンリンパ腫の30~40%を占めるもっとも発生頻度の高い病型で、60歳代を中心に高齢者に多くみられる。再発または難治性の大細胞型B細胞リンパ腫に対する標準的な治療法は確立しておらず、新たな治療法の開発が期待されている。濾胞性リンパ腫はB細胞非ホジキンリンパ腫全体の10~20%を占め、一般的に経過が緩徐で、かつ当初は化学療法感受性が良好だが、とくに進行期の患者は再発を繰り返すのが一般的である。また、グレード3Bの濾胞性リンパ腫は通常アグレッシブ(中・高悪性度)リンパ腫として治療されるが、大細胞型B細胞リンパ腫と同様に確立した治療法はない。

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異種アデノウイルス混在ワクチン(Gam-COVID-Vac, Sputnik V)の特性を読み解く (解説:山口佳寿博氏)-1366

 ロシアGamaleya研究所によって開発された遺伝子ワクチンはアデノウイルス(Ad)をベクター(輸送媒体)とし、そのDNAに新型コロナウイルスのS蛋白全長をコードする遺伝子情報を組み込んだ非自己増殖性ワクチン(Ad-vectored vaccine)の一種である。本ワクチンは“Gam-COVID-Vac”と命名されたが別名“Sputnik V”とも呼称される。“Sputnik”は1957年に旧ソ連が世界に先駆け打ち上げに成功した人工衛星の名前であり、ロシアのプーチン大統領は“Sputnik”という名称を用いることによって本ワクチンが新型コロナに対する世界初のワクチンであることを強調した。本ワクチンは2020年8月11日にロシアで承認、2021年3月18日現在、ロシアを含め世界53ヵ国で早期/緊急使用が承認されており、第III相試験を終了したワクチンの中で最も多くの国に導入されている(The New York Times 3/18, 2021)。しかしながら、現時点においてWHOはSputnik V使用に関する正当性(validation)を保証していない。さらに、欧州連合(EU)も製造を承認していない(現在、欧州医薬品庁(EMA)に製造認可を申請中とのこと)。ロシアはSputnik Vの医学的正当性(副反応を含む)の詳細を正式論文として発表する前からワクチン不足が深刻な貧困国、低開発国に対してワクチン外交を積極的に推進してきた。ワクチンの正当性が医学的に担保されていない段階でワクチン配布を政治的な具として利用するロシアの姿勢は医学的側面からは許容できるものではない。ロシアと同様の政治姿勢は中国においても認められるが、少なくとも中国の場合、中国製ワクチンに関する学問的内容を早期に正式論文として発表するという良識を有していた。 現在のところ、本ワクチンの本邦への導入は計画されていない。本ワクチンは臨床治験(第I~III相)の結果が正式論文として発表される前にロシア政府が承認したためワクチンの基礎的事項、臨床効果(副反応を含む)が不明確で世界の批判を浴びたことは記憶に新しい。しかしながら、2020年9月4日に第I/II相試験の結果(Logunov DY, et al. Lancet. 2020;396:887-897.)、次いで2021年2月2日に第III相試験の結果(Logunov DY, et al. Lancet. 2021;397:671-681.)が正式論文として発表され、ようやく本ワクチンの基礎的、臨床的意義が他の遺伝子ワクチンと同じレベルで議論できるようになった。 Sputnik VはAstraZeneca社のChAdOx1(ベクター:チンパンジーAd)、Johnson & Johnson社のAd26.COV2.S(ベクター:ヒトAd26型)など他のAd-vectored vaccineとは異なりpriming効果を得るための1回目ワクチン接種時にはヒトAd5型を、booster効果を得るための2回目ワクチン接種時にはヒトAd26型をベクターとして用いており、“異種Ad混在ワクチン(heterologous prime-boost COVID-19 vaccine)”と定義すべき特殊なワクチンである。ChAdOx1ならびにAd26.COV2.Sの基礎的研究で明らかにされたように、同種のAdを用いたワクチンでは1回目接種後にベクターであるAdに対して中和抗体が生体内で形成され、2回目ワクチン接種後には使用Adに対する中和抗体価がさらに上昇することが確認された(Ramasamy MN, et al. Lancet. 2021;396:1979-1993.、Stephenson KE, et al. JAMA. 2021 Mar 11. [Epub ahead of print])。すなわち、同種AdワクチンではAdに対する中和抗体によって一部のAdウイルスが破壊され、とくに、2回目のワクチン接種時にS蛋白に対する遺伝子情報の生体導入効率が低下、液性/細胞性免疫に対するbooster効果の発現が抑制される(山口. 日本医事新報(J-CLEAR通信 124) 5053:32-38, 2021)。異種Ad混在ワクチンに用いられるAdに対する中和抗体の推移については報告されていないが、2回目接種時には1回目接種時とは異なるAdをベクターとして用いるので2回目のワクチン接種後のAdを介したS蛋白遺伝子情報の生体への導入効率は同種Adワクチンの場合ほど抑制されないものと推察される。すなわち、異種Ad混在ワクチンの新型コロナ感染症に対する予防効果は同種Adワクチンよりも高いことが期待される。 以上のような視点で異種Ad混在ワクチンであるSputnik Vの新型コロナ発症予防効果を見てみると、第III相試験(n=19,866)において2回目ワクチン接種(1回目ワクチン接種21日後)7日目以降の発症予防効果は91.1%、重症化予防効果は100%であった(Logunov DY, et al. Lancet. 2021;397:671-681.)。一方、チンパンジーAdをベクターとしたAstraZeneca社の同種AdワクチンChAdOx1の2回目ワクチン接種後14日以上経過した時点での新型コロナ発症予防効果は、第III相試験(n=23,848)に関する中間報告において標準量(SD量:5×1010 viral particles)をある一定期間(中央値で69日)空けて2回接種した場合に62.1%と報告された(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:99-111.)。しかしながら、その後の第III相試験に関する最終報告では、発症予防効果が1回目と2回目のワクチン接種間隔に依存して変化することが示され、ChAdOx1の発症予防効果は、6週間以内にワクチンを2回接種した場合に55.1%、12週間以上空けて2回接種した場合に81.3%と訂正された(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:881-891.)。ChAdOx1に関して報告されたすべての発症予防効率値を考慮したとしても、新型コロナ発症予防効果は、同種AdワクチンChAdOx1に比べ異種Ad混在ワクチンSputnik Vのほうが高い。同種AdワクチンとしてJohnson & Johnson社のAd26.COV2.S(ベクター:ヒトAd26型)が存在するが、このワクチンは単回接種を目指したものであり2回接種を原則として開発が進められてきた異種Ad混在ワクチンSputnik Vとの比較は難しい。しかしながら、パンデミックという人類の緊急事態を鑑みたとき、Sputnik Vにおいても第III相試験の結果を再解析し、単回接種によってどの程度の新型コロナ発症予防効果を発揮するかを提示してもらいたい。 AstraZeneca社のChAdOx1 nCoV-19は本邦への導入が計画されている。しかしながら、前述した医学的解析結果を根拠として、2回接種のAdワクチンを本邦に導入するならばAstraZeneca社のChAdOx1ではなくロシア製の異種Ad混在ワクチンSputnik Vを導入すべきだと論評者は考えている。

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ChAdOx1 nCoV-19(AZ社)における1回接種の有効性と血栓形成を含む新たな展開 (解説:山口佳寿博氏)-1364

 AstraZeneca社のChAdOx1 nCoV-19(別名:AZD1222)は、チンパンジーアデノウイルス(Ad)をベクターとして用いた非自己増殖性の同種Adワクチンである(priming時とbooster時に同種のAdを使用)。ChAdOx1に関する第I~III相試験は、英国、ブラジル、南アフリカの3ヵ国で4つの試験が施行された(COV001:英国での第I/II相試験、COV002:英国での第II/III相試験、COV003:ブラジルでの第III相試験、COV005:南アフリカでの第I/II相試験)。それら4つの試験に関する総合的評価は中間解析(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:99-111.)と最終解析(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:881-891.)の2つに分けて報告された。 ChAdOx1に関する治験には種々の問題点が存在し、中間報告時から多くの疑問が投げ掛けられていた。最大の問題点は、最も重要な英国でのCOV002試験において37%の対象者に対して、ワクチン初回接種時に正式プロトコールで定められたAdウイルスの標準量(SD:5×1010 viral particles)ではなく、その半量(LD:2.2×1010 viral particles)が接種されていたことである。これは、Adウイルス量の調整間違いの結果と報告されたが、治験の信頼性を著しく損なうものであった。2番目の問題点は、ワクチンの1回目接種と2回目接種の間隔が正式プロトコールでは28日と定められていたにもかかわらず、多くの症例で28日間隔が順守されていなかったことである。たとえば英国のCOV002試験において、SD/SD群(初回接種:SD量、2回目接種:SD量)では中央値69日間隔、LD/SD群(初回接種:LD量、2回目接種:SD量)では中央値84日間隔の接種であり、SD/SD群における53%の症例で12週以上の間隔を空けて2回目のワクチンが接種されていた。ワクチン接種の間隔が一定でなかったことから、発症予防効果がワクチン接種の間隔に依存するという興味深い副産物的知見が得られたが、臨床試験の面からは許容されるべき内容ではない。3番目の問題点は、LD/SD群の発症予防効果(90%)が正式プロトコールのSD/SD群の発症予防効果(62%)を明確に凌駕していたことである(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:99-111.)。この現象を科学的に説明することは困難である。ただ、ChAdOx1の治験にあっては、他のワクチンで採用された有症状感染を評価指標とした発症予防効果に加え、無症候性感染を含めた感染全体に対する予防効果も評価されたことは特記に値する。 ChAdOx1の正式プロトコールであるSD/SD群における最終解析から得られた重要な知見(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:881-891.)は、(1)2回のワクチン接種間隔が12週以上の場合のS蛋白に対する中和抗体価(幾何学的平均)は、ワクチン接種間隔が6週以下の場合に比べ2倍以上高い。ただし、この現象は、55歳以下の若年/中年者において認められたもので56歳以上の高齢者では認められなかった。(2)その結果として、ワクチン接種間隔が12週以上の場合の発症予防効果(2回目ワクチン接種後14日以上経過した時点での判定)は、ワクチン接種間隔が6週以内の場合に比べ明らかに優っていた(12週以上で81.3% vs.6週以内で55.1%)。(3)無症候性感染に対する感染予防効果は、ワクチン接種間隔が6週以内の場合で-11.8%、12週以上の場合で22.8%であり共に有意な予防効果ではなかった。以上の結果より、ChAdOx1ワクチンの発症予防に関する最大の効果を得るためには、SD量のワクチンを12週間以上空けて接種すべきだと結論された。 ChAdOx1の治験では、LD/SD群、SD/SD群のすべてを対象として1回目のワクチン接種後22日目から90日目までの発症予防効果、無症候性感染予防効果が検討された(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:881-891.)。1回目ワクチン接種の発症予防効果は76.0%(有効)、無症候性感染予防効果は-17.2%(非有効)であった。一方、LD/SD群、SD/SD群のすべてを対象とした2回接種の発症予防効果は66.7%(有効)、無症候性感染予防効果は22.2%(非有効)であった。すなわち、ChAdOx1の1回接種は2回接種の発症予防効果に比べ優勢であっても劣勢であることはなく、ChAdOx1の2回接種の必要性に対して本質的疑問を投げ掛けるものであった(山口. ジャ-ナル四天王-1352「遺伝子ワクチンの単回接種は新型コロナ・パンデミックの克服に有効か?」、山口. 日本医事新報(J-CLEAR通信124). 2021;5053:32-38.)。3月18日現在、ChAdOx1は2回接種の同種AdワクチンとしてEU医薬品庁(EMA)の製造承認、WHOの使用に関する正当性(Validation)承認を得ているが、米国FDAの製造承認は得られていない。米国FDA、EU-EMAならびにWHOの全機関の承認を得ている単回接種の同種AdワクチンとしてJohnson & Johnson社のAd26.COV2.S(ベクター:ヒトAd26型Ad)が存在するが、その発症予防効果は米国、中南米、南アフリカにおける治験の平均で66%と報告された(山口. 日本医事新報(J-CLEAR通信124).2021;5053:32-38.)。すなわち、ChAdOx1の1回接種の発症予防効果はAd26.COV2.Sよりも優れており、パンデミックという緊急事態を考慮した場合、ChAdOx1を2回接種ではなく単回接種ワクチンとして発展させることを考慮すべきではないだろうか? 2021年2月7日、南アフリカはChAdOx1の導入計画を中止した。これはChAdOx1の南アフリカ変異株に対する予防効果が低いためであった(Fontanet A, et al. Lancet. 2021;397:952-954.)。3月に入りChAdOx1の使用を一時中断する国が増加している。2021年3月11日以降、デンマーク、アイスランド、ノルウェー、アイルランド、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダなど、欧州各国が相次いでChAdOx1の接種を一時中断すると発表した(The New York Times. March 18, 2021)。この原因は、ChAdOx1接種後に脳静脈血栓を含む全身の静脈血栓症が相次いで報告されたためである。2021年3月10日までにChAdOx1を接種した500万人にあって脳静脈血栓症による死亡者1人を含む30人に血栓症の発生が確認された。すなわち、ChAdOx1接種後の血栓症全体の発症頻度は6人/100万人、脳静脈血栓症の発症頻度は0.2人/100万人と推定された。重篤な脳静脈血栓症の一般人口における発症頻度は0.63人/100万人(ドイツ国立ワクチン研究機関ポール・エーリッヒ研究所)とされており、ChAdOx1接種後に観察された現時点での脳静脈血栓症の発症頻度は、一般人口における発症頻度を超過するものではなかった。このようなことから、2021年3月18日現在、EU-EMAはChAdOx1と血栓症との因果関係を否定し、欧州各国にChAdOx1の接種再開を呼びかけた。その提言を受け、ドイツ、フランス、イタリア、スペインはChAdOx1の接種を再開したが、ノルウェー、スウェーデンなど北欧諸国は一時中断を継続すると発表した。WHO、EU-EMAが示唆しているように、ChAdOx1接種後の静脈血栓の発症率は一般人口における血栓発症率を超過するものではない。しかしながら、米国CDCの副反応報告では、Pfizer社BNT162b2、Moderna社mRNA-1273の接種後(1,379万4,904回)に全身の静脈血栓発生を認めず(Gee J, et al. MMWR. 2021;70:283-288.)、ChAdOx1接種後のみに、頻度が低いものの血栓症が発生している事実は看過できない問題だと論評者は考えている。

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診察日記で綴る あたしの外来診療

医師という職能の果てにある「明察」と「decadence」治らない患者、納得しない患者。もしかしたら、病気がないかもしれない患者…。そんな患者たちが訪れる場末の診療所には「あたし」という1人の女性医師がいた。再診、再診、再診の繰り返し。その日記に綴られた吐露には….。鬼才・國松 淳和医師が目論む「日記ノベル」。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    診察日記で綴る あたしの外来診療定価2,640円(税込)判型四六版頁数242頁発行2021年3月著者國松 淳和

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「エフィエント」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第44回

第44回 「エフィエント」の名称の由来は?販売名エフィエント®錠 2.5mg エフィエント®錠 3.75mg エフィエント®錠 5mg エフィエント®錠 20mg エフィエント® OD錠 20mg一般名(和名[命名法])プラスグレル塩酸塩(JAN)効能又は効果経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される下記の虚血性心疾患○急性冠症候群(不安定狭心症、非ST上昇心筋梗塞、ST上昇心筋梗塞)○安定狭心症、陳旧性心筋梗塞用法及び用量通常、成人には、投与開始日にプラスグレルとして20mgを1日1回経口投与し、その後、維持用量として1日1回3.75mgを経口投与する。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)1.出血している患者(血友病、頭蓋内出血、消化管出血、尿路出血、喀血、硝子体出血等)[出血を助長するおそれがある。] 2.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年3月24日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2021年3月改定(第13版)医薬品インタビューフォーム「エフィエント®錠2.5mg・エフィエント®錠3.75mg・エフィエント®錠5mg・エフィエント®錠20mg /エフィエント® OD錠20mg」2)第一三共MedicaL Library:製品一覧

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ROS1陽性肺がんに対するエヌトレクチニブ、統合解析の結果/JCO

 ROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺がん(NSCLC)におけるROS1‐TKIエヌトレクチニブ(商品名:ロズリートレク)の3つの第I、II相臨床試験(ALKA-372-001、STARTRK-1、STARTRK-2)の統合分析の結果がJournal of Clinical Oncology誌に掲載された。 有効性評価集団は、局所進行または転移のあるROS1陽性NSCLCの成人患者で、CNS転移の有無にかかわらず600mg/日以上のエヌトレクチニブを投与された。複合主要評価項目は盲検化独立中央委員会評価の客観的奏効率(ORR)と奏効期間(DoR)、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、頭蓋内ORR、頭蓋内DoR、頭蓋内PFS、安全性などであった。 主な結果は以下のとおり。・6ヵ月以上の追跡を行った161例が評価対象となった。・治療期間中央値は10.7ヵ月であった。・ORRは67.1%であった。・DoR中央値は15.7ヵ月、12ヵ月DoR率63%であった。・PFS中央値は15.7ヵ月、12ヵ月PFS率は55%であった。・OS中央値は未達、12ヵ月OS率は81%であった。・CNS転移を有する患者(24例)の盲検化独立中央委員会による頭蓋内ORRは79.2%であった。・頭蓋内PFS中央値は12.0ヵ月、頭蓋内DoR中央値は12.9ヵ月、12ヵ月DoR割合は55%であった。・初回解析と同様、新たな安全性シグナルは見つからなかった。

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起立性頻脈症候群(POTS)に対するイバブラジンの効果【Dr.河田pick up】

 若い女性に多く見られる起立性頻脈症候群(Postural orthostatic tachycardia syndrome:POTS)は、複雑で多面的な要素を含み、患者の生活に影響を与えると共にQOLを低下させる。しかしながら、薬物療法の種類は限られている。本研究は、Jonathan C Hsu氏らカリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームが、イバブラジン(洞房結節内のHCNチャネルを選択的に阻害)が、高アドレナリン作動性POTS患者(血漿ノルエピネフリンレベル>600pg/mL、Tilt table試験陽性と定義)の心拍数およびQOL、血漿ノルエピネフリンレベルに与える効果を検証したものである。Journal of the American College of Cardiology誌2021年2月23日号掲載。高アドレナリン作動性POST患者22例、イバブラジン群で心拍数低下・QOL改善 本研究では、高アドレナリン作動性POTS患者22例について、イバブラジンによる無作為二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験を実施。参加者は、イバブラジンかプラセボに無作為に割り付けられ、1ヵ月間投与を受けた後、逆の治療を次の1ヵ月間受けた。心拍数、QOLそして血漿ノルエピネフリンレベルについて、試験開始時とそれぞれの投薬期間終了時に調べられた。参加者の平均年齢は33.9±11.7歳、95.5%(n=21)は女性で、86.4%(n=23)は白人であった。 プラセボ群と比べ、イバブラジン群では有意に心拍数が低下した(p<0.001)。また、RAND36項目健康調査1.0で評価したQOLは、イバブラジン群において肉体的活動(p=0.008)および社会的活動(p=0.021)共に有意な改善が認められた。また、起立時の血漿ノルエピネフリンは強い低下傾向を示した(p=0.0056)。徐脈や低血圧など、有意な副作用は認められなかった。高アドレナリン作動性POTS患者において、イバブラジンは安全であり、心拍数の低下とQOLの改善に有効であった。メリットが多いイバブラジン、一方で高額な負担がネックに 米国において、われわれの不整脈外来にもPOTSの若い女性患者が頻繁に紹介されてくる。多くの患者は、プライマリケア医や循環器医が病態の説明、生活指導に加え、β遮断薬、ミドドリン、フルドロコルチゾン、を試したものの、低血圧や倦怠感などで継続できず、治療法がなくお手上げであるという状態で紹介される。その場合、イバブラジンを試すことになる。それで改善が認められる患者もある程度いるが、別の問題にぶち当たる。というのも、米国ではイバブラジンは非常に高価なのである。保険会社にもよるが、患者負担が月に数百ドル以上となることが多く、学生などを含めた若い患者には大変な負担である。その結果、コストを理由に治療を断念したことも何度かある。日本では米国ほど薬価が問題にならないだろうから、POTSに対する適応が認められれば、一部の患者では有効な治療法となると考えられる。(Oregon Heart and Vascular Institute  河田 宏)

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英国・EU規制当局がAZ製ワクチンのレビューを発表、ベネフィットがリスクを上回る

 接種後に血栓などの報告があり、一部の国で接種が中止されていたアストラゼネカ製COVID-19ワクチン(AZD1222、日本では承認申請中)について、2021年3月18日、英国医薬品・医療製品規制庁(The Medicines and Healthcare products Regulatory Agency:MHRA)および欧州医薬品庁(European Medicines Agency:EMA)は、ベネフィットがリスクを上回ることを再確認した。同日、英国アストラゼネカ社が発表した。 MHRA・EMAの報告によると、ワクチン接種後の静脈血栓の発症率は、ワクチン接種を受けていない場合に想定される発症率を上回るという根拠はなく、接種のベネフィットがリスクを上回るとした。一方で、稀な血栓症である血小板の減少を伴う脳静脈洞血栓症(CVST)に関する5件の症例と関連する可能性は残され、ワクチンとの因果関係は確立されていないものの、さらなる分析に値する、としている。 世界保健機構(WHO)も、WHOワクチン安全性諮問委員会(GACVS)による安全性レビューを行い、ワクチンの投与後の深部静脈血栓症や肺塞栓症などの凝固状態の増加はなく、接種後に報告された血栓塞栓性イベントの発生率は自然発生の予想数と一致している、とした。また、CVSTなど血小板減少症と組み合わせた稀な血栓塞栓性イベントも報告されているものの、それらとワクチン接種の関係は不明だとした。 アストラゼネカのワクチンは英国では約1,100万回接種し、5例のCVSTが報告され、欧州全体では計2,000万回以上接種し、18例のCVSTが報告されていた。

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骨髄増殖性腫瘍の治療戦略に新展開【Oncologyインタビュー】第31回

ドライバー遺伝子の解明などと共に、長年停滞していた骨髄増殖性腫瘍の治療が変わりつつある。当該領域の第一人者である順天堂大学医学部 血液学講座の小松 則夫氏に、最新情報を解説していただいた。予後が長い故にQOLの低下が問題―骨髄増殖性腫瘍とは、どのような疾患なのでしょうか?骨髄増殖性腫瘍(MPN)は、造血幹細胞の異常で、白血球や赤血球、血小板など、1系統以上の骨髄系成熟細胞の過剰生産を来す疾患群です。代表的なものとして、慢性骨髄性白血病(CML)、真性赤血球増加症(真性多血症)(PV)、本態性血小板血症(ET)、原発性骨髄線維症(PMF)があります。BCR-ABL遺伝子の解明からチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が登場し、CMLの予後は劇的に改善しました。ここでは、CMLを除いたフィラデルフィア染色体陰性MPNの3疾患についてお話ししたいと思います。―MPNの予後について教えていただけますか。MPNの予後ですが、生存期間の中央値はETが約20年、PVが約14年と比較的予後良好ですが、PMFは4年と予後不良です。PV、ETでは長期の経過の中で、一部は急性白血病や骨髄線維症に移行することで予後が悪化しますが、これらの疾患の予後を規定する主な因子は、脳梗塞、心筋梗塞、肺梗塞といった血栓症で、時に致命的となります。一方、血小板が一定数(150万/μL)を超えると逆に出血しやすい状態となります。予後が長い反面、一旦血栓症や出血が起こると、患者さんは長期間その症状に向き合っていくことになり、QOLは著しく低下します。MPN特異的ドライバー遺伝子の発見が治療に結び付く―MPNに共通の遺伝子変異が発見されたとのことですが。画像を拡大するMPNに共通のJAK2 V617Fの他に、CALRやMPLの遺伝子変異が発見されています。JAK2 V617Fは、2005年にET、PV、PMFに共通の遺伝子変異として報告されました。PVの97%、ETおよびPMFの5~6割に発現しています。JAK2はサイトカインシグナル伝達の中心的役割を担うチロシンキナーゼです。JAK2 V617F変異によりJAK2は活性化され、恒常的にシグナルが伝達され腫瘍化が促されます。MPLは、造血因子サイトカインで、トロンボポエチンの受容体です。MPL変異によりMPLは常に活性化し、トロンボポエチンとの結合なしにJAK2シグナルが細胞内へと伝達され、血液細胞の腫瘍化が促進されます。画像を拡大するCALR遺伝子変異はETおよびPMFの2~3割に発現します。CALR(calreticulin)は、タンパク質を折りたたむ分子シャペロンの一種です。われわれの研究で、変異CALR遺伝子により作られる変異型CALRタンパク質はホモ多量体を形成し、あたかもトロンボポエチンのようにMPL(トロンボポエチン受容体)と強く結合し、JAK2シグナルを介して血液細胞の腫瘍化を促進することが明らかになりました。1)2)これら3つの変異は相互排他的に発現しますが、いずれもJAK2シグナルの活性化につながっています。―遺伝子変異の解明と共に治療も変化しているのでしょうか。ごく最近、インターフェロン(以下、IFN)についての研究結果が発表されました。IFNαは1970年代からMPNの治療に用いられていましたが、副作用が強く頻回投与が必要であること、大規模試験でのMPNへの有効性が証明されていないことから使用は限定されていました。しかし、改良したロペグIFNα2bが開発されたことでIFNは大きく見直され始めました。画像を拡大するロペグIFNα2bは単一異性体の長時間作用型ペグ化インターフェロンで、安全性が高い設計となっています。昨年(2020年)、ロペグIFNα2bを標準療法であるヒドロキシカルバミド(以下、HU)と直接比較した、第III相のPROUD-PV試験とその延長試験であるCONTINUATION-PV試験が発表されました3)。この試験は36ヵ月(PROUD-PV:12ヵ月まで、CONTINUATION-PV:36ヵ月まで)追跡されています。主要評価項目の血液学的完全奏効は治療経過と共にIFNα2bがHUを上回り、18ヵ月以降優越性を保っていました。安全性もHUに対して優れていました。さらに重要なことは、JAK2変異量も有意に減少させたことです(36ヵ月JAK2 V617F変異量:ロペグIFNα2b -22.9対HU -3.5、p<0.0001)。従来の薬剤ではここまでJAK2変異量を減らすというデータはありません。ロペグIFNα2bの大きな特徴と言えます。―JAK2変異量が減少するメカニズムは? また、それがどういうことにつながるのでしょうか。理由は明らかになっていませんが、ロペグIFNα2bは、正常細胞はそのままで、JAK2変異細胞を選択的に攻撃している可能性があります。つまり、疾患そのものを治す、治癒まで持っていくことができるかもしれないということです。したがって、これまでの治療は血栓症や出血の予防に主眼を置いてきましたが、今後は治癒を目指すことになると思います。すなわち治療アルゴリズムが大きく変わる可能性があり、将来的にはIFNが治療の中心となることを期待させます。―CALRを標的とした治療法も開発されているとお聞きしますが。CALR遺伝子変異により作られた変異型CALRタンパク質は、細胞内で未熟なMPLと結合した後、細胞表面に移行し活性化することが、われわれの研究で示されました4)。そこで、未成熟なMPLとの結合の阻害、細胞表面におけるMPLの活性化の阻害、あるいは細胞表面の変異型CALRタンパク質を標的として攻撃することで、MPNは治療可能だと考えられます。変異型CALRが細胞外に移行する際、ある酵素で切られますが、われわれは切断部位を特異的に認識して結合する抗体作成に成功しました。この抗体は非常に特異性が高くCALR変異陽性の細胞だけを標的にするため、今後抗体薬として開発されることが期待されます。正確かつ容易なバイオマーカーの開発―診断についても新たな進化がみられているそうですね。われわれの研究で、CREB3L1という遺伝子がMPNのバイオマーカーの役割を果たすことが示されました。CREB3L1は転写因子として機能し、タイプIコラーゲンを標的とするため、骨形成に関与しますが、乳がんの浸潤にも関係していると報告されています。ところで、血小板増加症として受診する患者の9割は反応性、つまり他の原因による血小板増加症です。しかし、この反応性とETなどの腫瘍性の血小板増加症を臨床的に鑑別することは難しいことが多く、治療法が全く異なるため、正確かつ容易な鑑別方法の確立が求められます。われわれはそこで、採取が簡単な血小板に着目し、血小板が腫瘍性に増加するETでバイオマーカーの検索を行いました。具体的にはETと反応性血小板増加症の患者末梢血から血小板を収集し、RNAの発現パターンを解析しました。その結果、ET症例は反応性血球増加症に比べ、CREB3L1が有意に高く発現することを発見しました(p=0.001770)5)。さらに追加解析で、フィラデルフィア染色体陰性MPN、反応性血球増加症のCREB3L1レベルを調査しました。その結果、CREB3L1はETだけでなく、PVやPMFを含めたMPN全般に高レベルに発現していました(p<0.0001)。興味深いことに、CMLでは反応性や健常人と同く陰性でした。このバイオマーカーは感度、特異度ともに100%です。フィラデルフィア染色体陰性MPN全般の画期的な診断バイオマーカーとして、きわめて優れていることがわかりました。―MPN特異的な遺伝子変異のないケースでは本当に腫瘍性なのか鑑別することが難しいと思いますが、このバイオマーカーの効果は?MPN特異的な遺伝子発現がないトリプルネガティブ症例(JAK2 V617F、CALR、MPL変異すべて陰性)においては、腫瘍性か反応性かの鑑別は悩ましいものです。前述の研究では、病理学的に確認されたトリプルネガティブET(20例)においてもCREB3L1を測定しました。その結果、この集団にもCREB3L1陽性例(12例)と陰性例(8例)が存在すること、そして血小板数と白血球数は陽性例で有意に多いことが判明しました。また、大変興味深いことに、陰性例8例のうち2例は、経過と共に血小板数が減少し、骨髄検査で最終的に正常化が確認されました。ここから言えることは、トリプルネガティブETと診断されても、CREB3L1陰性の場合は自然治癒する可能性があるということ、そして、その場合は不用意に抗がん剤を投与せず、経過観察という選択肢もありえるということです。診断と治療の進化で治療アルゴリズムが大きく変わる!?―こういった新たな診断や治療薬の開発で、MPNの治療はどう変わっていくでしょうか。現在のMPNの治療では、高リスク(60歳以上、または血栓症/出血の既往)になり、初めて抗がん剤が開始されます。患者さんからは「せっかく診断がついたのに60歳まで治療を待つのか、血栓症が起きるまでどうして治療できないのか」といった声を聞きます。IFNは、根本的な治療の実現が期待できますが、長期経過と共に他の遺伝子変異が加わって疾患が修飾されると、効果が低下するとの報告もあります。IFNを有効に使用するためにも、診断後すぐにIFN治療を開始することで、かなりの効果が期待できると、個人的には考えています。CREB3L1という新規バイオマーカーによる正確な診断とINFα2bのような新規薬剤の登場で、MPNの治療が大きく変化する可能性がある。ロペグINFα2bの国内臨床試験も行われているという。近い将来、長期間疾患と付き合わなければならないMPNの患者に朗報が届くことを期待したい。1)Araki M, et al. Activation of the thrombopoietin receptor by mutant calreticulin in CALR-mutant myeloproliferative neoplasms. Blood.2016;127:1307-1316.2)Araki M, et al. Homomultimerization of mutant calreticulin is a prerequisite for MPL binding and activation. Leukemia.2019;33:122-131.3)Gisslinger H, et al. Ropeginterferon alfa-2b versus standard therapy for polycythaemia vera (PROUD-PV and CONTINUATION-PV): a randomised, non-inferiority, phase 3 trial and its extension study. Lancet Haematol.2020;7:e196-e208. 4)Masubuchi N, et al. Mutant calreticulin interacts with MPL in the secretion pathway for activation on the cell surface. Leukemia.2020;34:499-509.5)Morishita S, et al.CREB3L1 overexpression as a potential diagnostic marker of Philadelphia chromosome-negative myeloproliferative neoplasms. Cancer Sci.2021;112:884-892

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第52回 南ア変異株を取り入れたCOVID-19ワクチンはより心強い

南アフリカでの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症流行第二波で台頭した変異株(南ア変異株)B.1.351の感染はSARS-CoV-2の古参も新顔も手広く相手する抗体一揃いを生み出すようで、その配列を取り入れたワクチンはどうやらより頼りがいがあるようです。同国での去年9月初めまでの流行第一波の後の10月に見つかって瞬く間に広まった1)B.1.351は回復者血漿(convalescent plasma)やモノクローナル抗体を効き難くするかまったく効かなくする変異を有し、取り急ぎ認可されたワクチンの効果にも差し障るのではないかと懸念されました。その懸念は杞憂ではなく、AstraZenecaのSARS-CoV-2ワクチンChAdOx1 nCoV-19(AZD1222)の試験ではB.1.351感染者の発症を防げませんでした2)。それに、Pfizer-BioNTechやModernaのワクチン接種者の血清(抗体)のB.1.351中和はかなり劣りました3)。その結果を踏まえてModernaはB.1.351の配列を取り入れたワクチンmRNA-1273.351を仕立てており、早くも今月前半には第II相試験でその投与が始まっています4)。mRNA-1273.351はB.1.351を含むSARS-CoV-2変異株も相手できるように免疫反応の幅を広げることを目指します。南アフリカの中心都市ヨハネスブルグのウィットウォータースランド大学の ペニー・ムーア(Penny Moore)氏のチームが今月11日にbiorxivに発表した報告5)によるとmRNA-1273.351はその狙い通りの効果をもたらしてくれそうです。ムーア氏等はB.1.351が免疫の網をかいくぐることなく強力な免疫反応を引き出しうると期待し6)、ケープタウンの病院にB.1.351感染で入院した89人の血清(抗体)のSARS-CoV-2代理ウイルス(pseudovirus)阻止効果を調べました。代理ウイルスはSARS-CoV-2スパイクタンパク質を使って細胞に感染するように加工したHIVです6)。結果はムーア氏等の期待に沿うもので、B.1.351感染者の抗体はB.1.351変異を有する代理ウイルスの阻止のみならずB.1.351台頭前の流行第一波の代理ウイルスやブラジルで見つかった変異株501Y.V3 (P.1)代理ウイルスも食い止めました5)。P.1もB.1.351と同様に手強く、抗体が効きにくいことが知られています。B.1.351も相手しうるワクチンの取り組みはModernaのみならずPfizer-BioNTechやその他のワクチン開発会社も進めています。それらのワクチンはおそらくより高性能であろうとムーア氏は言っています6)。変異株感染は総じてSARS-CoV-2を手広く相手する免疫反応を引き出すかというとそうではなさそうです。たとえば英国で見つかった変異株B.1.1.7感染で備わる抗体は南ア変異株や先立って流行したウイルスの面々の認識や抑制がより不得手です7)。南ア変異株B.1.351感染でSARS-CoV-2あれこれへの手広い免疫反応が備わる仕組みは不明で、これから調べる必要があります。もしかするとB.1.351は変異株の間で共通するスパイクタンパク質特徴を認識する抗体を引き出すのかもしれません6)。参考1)Emergence and rapid spread of a new severe acute respiratory syndrome-related coronavirus 2 (SARS-CoV-2) lineage with multiple spike mutations in South Africa. medRxiv. December 22, 20202)Madhi SA,et al, N Engl J Med.2021 Mar 16. [Epub ahead of print]3)Wang P, et al.Nature.2021 Mar 8. [Epub ahead of print]4)Moderna Announces First Participants Dosed in Study Evaluating COVID-19 Booster Vaccine Candidates / businesswire5)SARS-CoV-2 501Y.V2 (B.1.351) elicits cross-reactive neutralizing antibodies. bioRxiv. March 11, 20216)Rare COVID reactions might hold key to variant-proof vaccines / Nature7)Reduced antibody cross-reactivity following infection with B.1.1.7 than with parental SARS-CoV-2 strains. bioRxiv. March 01, 2021.

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mRNAワクチン、無症候性感染リスクも低下/大規模調査

 新型コロナウイルスワクチンは無症候性感染にも有効なのか。米国・メイヨークリニックのAaron J. Tande氏らによる大規模調査によって、ワクチン接種によって 無症候性の感染リスクも低下することがわかったという。Clinical Infectious Diseases誌オンライン版2021年3月10日号掲載の報告。 該当地域においてワクチン接種が始まった2020年12月17日から2021年2月8日の間に、処置/手術前にSARS-CoV-2検査を受けた無症状の患者(3万9,156例)の検査4万8,333件を対象として、後ろ向きコホート研究を実施した。 mRNAワクチン(ファイザーもしくはモデルナ社製)を1回以上接種した群(接種群)と、同じ期間内に接種しなかった群(未接種群)の間でSARS-CoV-2検査の陽性率を比較し、相対リスク(RR)を算出した。RRは混合効果log-binomial回帰を用いて、年齢、性別、人種/民族、病院と居住地の相対位置(医療アクセス)、地域の医療システム、反復検査について調整した。 主な結果は以下のとおり。・患者の年齢中央値は54.2(SD:19.7)歳で、2万5,364例(52.5%)が女性だった。接種群の検査数は3,006件(6.2%)、未接種群は4万5,327件(93.8%)だった。・接種群の初回接種から検査までの日数の中央値は16(四分位範囲:7~27)日だった。・接種群の検査3,006件中、陽性は42件(1.4%)、未接種群の検査4万5,327件中、陽性は1,436件(3.2%)だった(RR:0.44、95%CI:0.33~0.60、p<0.0001)。・接種群が未接種群と比較して調整後RRが低かった検査時期は、ワクチンの初回接種後11日以降2回目の接種前(RR:0.21、95%CI:0.12~0.37、p<0.0001)、および2回目の接種翌日以降(RR:0.20、95%CI:0.09~0.44、p<0.0001)だった。 研究者らは、mRNAワクチンは症候性の感染同様に無症候性感染のリスクも減らすことが裏付けられた、としている。

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日本人高齢者の認知症リスクと近隣歩道環境~日本老年学的評価研究コホート

 日常生活に欠かせない環境資源の1つである歩道は、身体活動を促進するうえで重要なポイントとなる。しかし、先進国においても歩道の設置率は十分とはいえない。東京医科歯科大学の谷 友香子氏らは、日本における近隣の歩道環境と認知症リスクとの関連を調査した。American Journal of Epidemiology誌オンライン版2021年2月19日号の報告。 地域在住の高齢者の人口ベースコホート研究である日本老年学的評価研究の参加者を対象に、3年間のフォローアップ調査(2010~13年)を実施した。公的介護保険制度のデータより高齢者7万6,053人の認知症発症率を調査した。436ヵ所の住宅近隣ユニットの道路面積に対する歩道の割合を、地理情報システムを用いて算出した。認知症発症率のハザード比(HR)は、マルチレベル生存モデルを用いて推定した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中に認知症を発症した高齢者は5,310人であった。・都市部では、歩道割合が最低四分位の地域と比較し、最高四分位の地域における認知症のHRは0.42(95%CI:0.33~0.54)であった(共変量で調整後)。・土地の傾斜、病院数、食料品店数、公園数、駅数、バス停数、教育レベル、失業率などのその他の近隣要因で連続調整した後でも、HR(0.75、95%CI:0.59~0.94)は統計学的に有意なままであった。 著者らは「都市部においては、歩道の割合が高い地域に住むことと認知症発症率の低さとの関連が認められた」としている。

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第47回 要申請、市町村へアドレナリン製剤の無償提供/マイラン

<先週の動き>1.【要申請】市町村へアドレナリン製剤の無償提供/マイラン2.緊急事態宣言の解除後、感染対策に「5つの柱」3.勤務医の働き方改革など、医療法改正法案が審議入り4.高齢者ワクチン、医師確保が間に合わない自治体2割5.ワクチン優先接種、精神疾患などの患者も対象に6.科学的介護情報システム「LIFE」を訪問・居宅支援に活用へ1.要申請、市町村へアドレナリン製剤の無償提供/マイラン厚生労働省は、4月12日から開始される高齢者の新型コロナワクチン接種に必要となる予診票などの情報提供を開始している。抗血小板薬や抗凝固薬を内服している患者については、接種前の休薬は必要なく、接種後は2分間以上しっかり押さえるようにと具体的な記載がされている。また、ワクチン接種の際にアナフィラキシーショックなどを発現した場合に必要となるアドレナリン製剤(商品名:エピペン注射液0.3mg)については、製造販売元であるマイランEPD合同会社より無償提供について、各市町村(特別区を含む)へ告知されるなど準備が進んでいる。なお、無償提供を希望する市町村は、専用のWEBサイト(https://med.epipen.jp/free/)を通じて申請を行うこと。受付は、18日より開始されている。(参考)新型コロナワクチンの予診票・説明書・情報提供資材(厚労省)予防接種会場での救急対応に用いるアドレナリン製剤の供給等について(その2)(同)マイランEPD 自治体向け「エピペン」無償提供の受付開始 コロナワクチン接種後のアナフィラキシー対応で(ミクスオンライン)2.緊急事態宣言の解除後、感染対策に「5つの柱」菅総理大臣は18日夜、東京都を含む1都3県の緊急事態宣言について、21日をもって解除することを明らかにした。1都3県の新規感染者数は、1月7日の4,277人と比較して、3月17日は725人と8割以上減少しており、東京では、解除の目安としていた1日当たり500人を40日連続で下回っていた。宣言解除に当たり、感染の再拡大を防ぐための5本の柱からなる総合的な対策を決定し、国と自治体が連携して、これらを着実に実施することを発表した。第1の柱「飲食の感染防止」大人数の会食は控えて第2の柱「変異ウイルス対応」第3の柱「戦略的な検査の実施」第4の柱「安全 迅速なワクチン接種」第5の柱「次の感染拡大に備えた医療体制の強化」また、ワクチンについては、今年6月までに少なくとも1億回分が確保できる見通しを示し、医療従事者と高齢者に行きわたらせるには十分な量だと述べた。(参考)新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見(首相官邸)【菅首相会見詳報】“宣言”解除へ 再拡大防ぐ「5つの柱」示す(NHK)3.勤務医の働き方改革など、医療法改正法案が審議入り長時間労働が問題となっている勤務医などの働き方改革を目指し、2024年度から、一般の勤務医は年間960時間、救急医療を担う医師は年間1,860時間までとする時間外労働規制を盛り込んだ医療法の改正案が、18日に衆議院本会議で審議入りした。今回の法案には、各都道府県が策定する医療計画の重点事項に「新興感染症等の感染拡大時における医療」が追加された。このほか、医師養成課程の見直しであるStudent Doctorの法的位置付けや地域医療構想の実現に向けた医療機関の再編支援、外来医療の機能の明確化・連携といった2025年問題と、今後の地域医療の提供体制にも大きな影響が出ると考えられる。(参考)勤務医などの働き方改革を推進へ 医療法改正案 衆院で審議入り(NHK)地域医療の感染症対策を強化、医療法改正案を閣議決定(読売新聞)資料 良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案(厚労省)4.高齢者ワクチン、医師確保が間に合わない自治体2割4月12日から開始される65歳以上の高齢者対象の新型コロナウイルスワクチン接種について、厚労省が全国1,741の自治体を対象に行った調査の結果、約2割の自治体が接種を担う医師を確保できていないことが明らかになった。調査は3月5日時点の各自治体の状況についてたずね、各接種会場で1人以上の医師を確保できているとする自治体は1,382(79.3%)だが、残り約2割の自治体では「0人」だった。地元医師の調整に時間がかかっている自治体や医師不足のため近隣自治体と調整中の自治体もあるため、体制の確立には時間を要するとみられる。また、各自治体より高齢者分の接種券の配送時期については4月23日が最も多く、次いで4月12日とする自治体が多かった。(参考)医師確保「0人」が2割 高齢者ワクチン接種(産経新聞)資料 予防接種実施計画の作成等の状況(厚労省)5.ワクチン優先接種、精神疾患などの患者も対象に厚労省は、18日に第44回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会を開催し、新型コロナウイルスワクチン接種の接種順位、対象者の範囲・規模について議論した。接種の対象については、接種実施日に16歳以上とし、一定の順位を決めて接種を進める。4月12日から高齢者への接種を始め、基礎疾患のある人などに優先して接種を行う。(1)医療従事者等(2)高齢者(2021年度中に65歳に達する、1957年4月1日以前に生まれた方)(3)高齢者以外で基礎疾患を有する方や高齢者施設等で従事されている方(4)それ以外この会議において、優先接種に「重い精神疾患」や「知的障害」がある人も加えることになった。具体的には精神疾患で入院中の患者のほか、精神障害者保健福祉手帳や療育手帳を持っている人などが対象で、合わせておよそ210万人と見積もられている。(参考)資料 接種順位の考え方(2021年3月18日時点)(厚労省)6.科学的介護情報システム「LIFE」を訪問・居宅支援に活用へ厚労省は、2021年の介護報酬改定により、科学的介護情報システム「LIFE」の運用を始め、科学的なエビデンスに基づいた自立支援・重度化防止の取り組みを評価する方向性を打ち出した。今回の介護報酬改定で新設される「科学的介護推進体制加算」をはじめ、LIFEの取り組みには多くの加算が連携しており、対応を図る介護事業者にとってはデータ提出などが必須だ。さらに、改定では「訪問看護」にも大きなメスが入った。訪問看護ステーションの中には、スタッフの大半がリハビリ専門職で「軽度者のみ、日中のみの対応しか行わない」施設が一部あり、問題視されていたが、今回の改定ではリハビリ専門職による訪問看護の単位数を引き下げる、他職種と連携のために書類記載を求めるなど対策が行われている。(参考)2021年度介護報酬改定踏まえ「介護医療院の実態」「LIFEデータベース利活用状況」など調査―介護給付費分科会・研究委員会(Gem Med)リハビリ専門職による訪問看護、計画書や報告書などに「利用者の状態や訪問看護の内容」などの詳細記載を―厚労省(同)介護報酬の“LIFE加算”、計画の策定・更新が必須 PDCA要件の概要判明(JOINT)資料 訪問看護計画書及び訪問看護報告書等の取扱いについて(厚労省)

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CGRPを標的とした片頭痛治療薬の作用機序比較

 カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を標的とした片頭痛治療薬の臨床効果は、片頭痛の病因に対し重要な役割を果たしている。3つのCGRPリガンドに対する抗体(fremanezumab、ガルカネズマブ、eptinezumab)とCGRP受容体に対する抗体(erenumab)は、米国において片頭痛予防に承認された薬剤である。また、2つの小分子CGRP受容体拮抗薬(ubrogepant、rimegepant)は、急性期片頭痛の治療薬として承認されている。片頭痛の治療では、CGRPリガンドまたは受容体を標的とすることが効果的であるが、これらの治療薬を比較したエビデンスは十分ではなかった。米国・Teva BiologicsのMinoti Bhakta氏らは、これらCGRPを標的とした薬剤における作用機序の違いを明らかにするため、検討を行った。Cephalalgia誌オンライン版2021年2月24日号の報告。片頭痛に対するCGRPを標的とした薬は標的部位により薬剤間で作用機序が異なる CGRPリガンド抗体(fremanezumab)、CGRP受容体抗体(erenumab)、小分子CGRP受容体拮抗薬(telcagepant)の潜在的な違いを評価するため、結合能、機能、イメージングアッセイの組み合わせを用いた。 CGRPを標的とした薬剤における作用機序の違いを明らかにするために検討を行った主な結果は以下のとおり。・erenumabやtelcagepantは、古典的な(canonical)ヒトCGRP受容体においてCGRP、アドレノメデュリン、インテルメジンのcAMPシグナル伝達と拮抗する。・fremanezumabは、ヒトCGRP受容体においてCGRP誘導cAMPシグナル伝達のみと拮抗する。・erenumabは、古典的なヒトCGRP受容体と結合し、内在化するだけでなく、ヒトAMY1受容体に対しても同様に作用する。・erenumabやtelcagepantは、アミリン誘発性cAMPシグナル伝達と拮抗したが、fremanezumabでは認められなかった。 著者らは「片頭痛の予防や急性期の治療に対するCGRPを標的とした薬剤を用いた治療では、標的部位により薬剤間で作用機序が異なる。この異なるメカニズムは、片頭痛患者に対する有効性、安全性、忍容性に影響を及ぼす可能性がある」としている。

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COVID-19に脳髄膜炎はあるのか?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第183回

COVID-19に脳髄膜炎はあるのか?pixabayより使用日本でも髄膜炎合併COVID-19が第1波の頃にニュースになり、当該症例が論文化されています1)。この24歳男性では、頭部MRIで脳室炎・脳炎がみられ、髄液のSARS-CoV-2 PCRも陽性になりました。その後、海外でもいくつか中枢神経の炎症を合併した症例が報告されているのですが、脳脊髄液(CSF)PCRは陰性になることが多いようです。さて、2021年に入ってまとまった報告がありました。Pilotto A, et al.Clinical Presentation and Outcomes of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2-Related Encephalitis: The ENCOVID Multicenter Study.J Infect Dis . 2021 Jan 4;223(1):28-37.イタリア13施設における多施設共同観察研究であり、CSF、脳波検査(EEG)、MRIデータが得られた脳炎合併SARS-CoV-2陽性患者が登録されました。現在、私はコロナ病棟でも勤務しておりますが、脳のMRIを撮影しに行くのは、なかなか大変だと思います。SARS-CoV-2陽性の脳炎25例が含まれました。CSFは68%の症例でタンパク高値、細胞上昇が見られましたが、CSF PCRは全例陰性だったそうです。MRI所見によると、25人のうち5人が急性散在性脳脊髄炎(ADEM)あるいは辺縁系脳炎で、これらの症例はほかの脳炎症例と比較して、発症が遅く(p=0.001)、重症COVID-19と関連していました。CSFのPCRが陰性というのはどういうことかというと、ウイルスが直接血液脳関門を突破して髄膜脳炎になったというよりも、炎症性サイトカインに関連した免疫介在性脳炎が主病態であることを意味します。――とはいえ、CSF PCRが陽性のCOVID-19もしばしば報告されており、8人のCSF PCR陽性例の報告を見ると2)、そのうち4人が血清に匹敵するほどの高力価を示しています。ちなみに、頭部MRIで異常が見られる頻度としては、これら髄膜脳炎よりも脳梗塞のほうが多いのが現状です3)。また、頭痛・倦怠感・息切れなどがあり、SARS-CoV-2が陽性となった患者に対して、入院後腰椎穿刺を行い、HIV合併クリプトコッカス脳髄膜炎と診断された症例も報告されています4)。ここぞというときにCSF検査を行うことが重要ですね。また、SARS-CoV-2 PCRが陽性でも、他疾患が隠れている可能性をいつも考える必要があることを思い知らされます。コロナ禍の上に、われわれはあぐらをかいてはいけないのです。1)Moriguchi T, et al. Int J Infect Dis . 2020 May;94:55-58.2)Alexopoulos H, et al. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm . 2020 Sep 25;7(6):e893.3)Kremer S, et al. Neurology . 2020 Sep 29;95(13):e1868-e1882.4)Cabot RC, et al. N Engl J Med. 2020 Dec 24; 383(26): 2572–2580.

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うつ病の再発予防に対する非薬理学的介入~ネットワークメタ解析

 うつ病に対する予防的介入を発見することは、臨床診療において重要な課題である。中国・重慶医科大学のDongdong Zhou氏らは、成人うつ病患者における再発予防に対する非薬理学的介入の相対的有効性の比較検討を行った。Journal of Affective Disorders誌2021年3月1日号の報告。 再発予防に対する非薬理学的介入を調査したランダム化比較試験を検索し、ベイジアンネットワークメタ解析を実施した。95%信頼区間(CI)のエフェクトサイズをハザード比(HR)として算出した。非一貫性(globalとlocal)、異質性、推移性を評価した。積極的な治療群と対照群または抗うつ薬(ADM)治療群とを比較した結果について、信頼性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・36件の研究をメタ解析に含めた。・非薬理学的介入のほとんどは、さまざまな心理療法であり、その他は非侵襲的神経刺激療法(電気痙攣療法:3件、経頭蓋磁気刺激法:1件)であった。・ADM治療または心理療法後の単独での心理療法によるアウトカムは、対照群より有意に良好であり、ADM治療群との間に有意な差は認められなかった。・心理療法とADM治療との併用は、どちらか一方の単独療法よりも優れていた。・3つ以上前のエピソードを有する患者においても、結果は同様であった。・神経刺激療法は、単独療法またはADM併用療法において、対照群よりも優れていた。 著者らは「ADM治療または心理療法後の単独での心理療法は効果的であり、再発予防においてADM治療と同様に有用である。神経刺激療法も有望ではあるが、その有効性を確認するためにはさらなる研究が必要である」としている。

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リスク低減卵管卵巣摘出術で乳がんリスクは減少するか/JAMA Oncol

 これまで不明であったリスク低減卵管卵巣摘出術(risk reducing salpingo-oophorectomy:RRSO)と乳がんリスクとの関連が明らかにされた。カナダ・ウェスタン大学のYun-Hee Choi氏らはケースシリーズ研究を行い、BRCA1またはBRCA2病的バリアント保持女性に対するRRSOは、術後5年間の乳がんリスク低下、ならびにBRCA1病的バリアント保持者での長期的な累積乳がんリスクと関連することを示した。著者は、「RRSOの主たる適応症は卵巣がんの予防であるが、RRSOの実施とそのタイミングに関する臨床的な意思決定を導くために、乳がんリスクとの関連を評価することも重要である」とまとめている。BRCA1/2病的バリアントを有する女性は、乳がんおよび卵巣がんの発症リスクが高いことが知られる。通常は集中的な監視を行いRRSOも考慮される。RRSOは、卵巣がんのリスクを低減することが知られているが、乳がんリスクとの関連は不明であった。JAMA Oncology誌オンライン版2021年2月25日号掲載の報告。 研究グループは、1996~2000年に「Breast Cancer Family Registry」に登録されたBRCA1/2の病的バリアント保持家族について分析した。 RRSOと乳がんリスクとの時間的な関連を評価し、他の潜在的なバイアスを説明するため特別に設計された生存分析アプローチを用いた。 主要評価項目は、初回原発性乳がん発症までの期間で、2019年8月~2020年11月に解析が行われた。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、BRCA1病的バリアント保持498家族(2,650例、平均年齢55.8歳、白人発端者87.8%)、BRCA2病的バリアント保持378家族(1,925例、平均年齢57.0歳、白人発端者79.1%)の合計876家族。・RRSOは、術後5年以内のBRCA1/2病的バリアント保持者の乳がんリスク低下と関連していた(ハザード比[HR]:0.28、95%信頼区間[CI]:0.10~0.63/0.19、95%CI:0.06~0.71)。一方で、術後5年以降は、低下との関連が減弱した(HR:0.64、95%CI:0.38~0.97/0.99、95%CI:0.84~1.00)。・40歳でRRSOを受けたBRCA1/2病的バリアント保持者の場合、乳がんの特異的累積リスクは70歳まででそれぞれ49.7%/52.7%であったのに対し、RRSOを受けていない患者では61.0%/54.0%であった。

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第49回 日本の科学者が見いだしたイベルメクチンは、コロナ治療の新たな希望か

新型コロナウイルスのワクチンを巡り、不安材料が浮上してきた。世界的なワクチン争奪戦の影響などで、米ファイザー製のワクチンが計画通りに供給されない可能性が出てきたり、英アストラゼネカ製のワクチンにおける副反応疑いが報じられたりしているからだ。翻って、ノーベル医学生理学賞受賞者(2015年)の大村 智氏(北里大学特別栄誉教授)の研究を基にした抗寄生虫薬「イベルメクチン」について、日本発の新型コロナウイルス感染症治療薬として期待する声が上がっている。新型コロナ治療薬としては未承認だが、中南米やアフリカ、中東でオンコセルカ症(河川盲目症)や類縁の感染症の治療薬として毎年約3億人が服用し、約30年間、副作用の報告がほとんどないという。イベルメクチンは2012年から、さまざまなウイルスに対する効果が多数報告されている。ヒトの後天性免疫不全症候群(AIDS)やデング熱ウイルス、インフルエンザウイルス、仮性狂犬病ウイルスなどだ。世界25ヵ国が新型コロナ治療薬に採用北里大学では2020年9月から、新型コロナウイルスに対する治療効果を調べる臨床試験を行っている。すでに医薬品として承認されているため、第I相を飛ばし、第II相の治験が実施されている。日本を含め、世界27ヵ国で91の臨床試験が行われており(2021年1月30日現在)、25ヵ国がイベルメクチンを新型コロナ感染症対策に採用している(2021年2月26日現在)。米国FLCCC(Front-Line COVID-19 Critical Care)アライアンスの会長Pierre Kory氏が2020年12月8日、上院国土安全保障と政府問題に関する委員会に証人として登壇した際は、イベルメクチンを新型コロナに対する「奇跡の薬」と評し、「政府はイベルメクチンの効果を早急に評価し、処方を示すべきだ」と訴えた。強力な支持、一方で効果を問う最新論文も…FLCCCは、2020年春以降、新型コロナ治療薬としてのイベルメクチンに関する臨床試験情報を収集・分析し、Webに公開している。これまでの臨床試験から可能性が示唆されているのは以下の通りだ。(1)患者の回復を早め、軽~中等症の患者の悪化を防ぐ。(2)入院患者の回復を早め、集中治療室(ICU)入室と死亡を回避させる。(3)重症患者の死亡率を低下させる。(4)イベルメクチンが広く使用されている地域では、新型コロナ感染者の致死率が著しく低い。さらにKory氏は、WHOがイベルメクチンを「必須医薬品リスト」に入れたことを強調。NIHやCDC、FDAに対し、イベルメクチンの臨床試験結果を早急に確認のうえ、医療従事者らに処方ガイドラインを示すように求めた。一方で、イベルメクチンが新型コロナ軽症患者に対して改善効果が認められなかったという無作為化試験の結果が今月、JAMA誌に掲載された1)。新型コロナを巡っては、ワクチンも治療薬も現在進行形で研究・開発が進み、エビデンスの蓄積と医療者や世間の期待とのバランスが非常に難しい。イベルメクチンが、コロナ治療における新たな希望になり得るのか、今後の研究の行方を注視したい。参考1)イベルメクチン、軽症COVID-19の改善効果見られず/JAMA

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