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第121回 脳の不調が続くCOVID-19患者に高圧酸素投与が有効

高圧室で100%の酸素を吸う高圧酸素治療(HBOT;hyperbaric oxygen therapy)が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染(COVID-19)後の不調(post-COVID-19 condition)に有効なことがプラセボ対照二重盲検無作為化試験で示されました1-4)。老化と関連する認知や身体機能の衰えの治療に取り組み、人が持てる力をHBOTを頼りに最大限に引き出すことを目指す病院Aviv Clinicsが試験を手掛けました。Aviv Clinicsの本拠は米国フロリダ州で、試験はイスラエルにあるその研究所Shamir Medical Centerで実施されました。集中できない、頭がもやもやする(brain fog)、忘れっぽくなった、目当ての単語や考えを思い出すのが困難といった認知症状(cognitive symptom)がSARS-CoV-2感染後3ヵ月超続く患者73人が試験参加に同意し、その約半数の37人がHBOTを受ける群、残り36人がプラセボ群に割り振られました。試験ではドイツのHAUX社製の高圧室(Starmed-2700 chamber)が使われ、HBOT実施群は2絶対気圧(2ATA)の環境でマスクから100%の酸素を吸う所要時間90分間の治療を週に5日の頻度で合計40回受けました。プラセボ群の患者は高圧室には入るもののHBOT群のような高圧にはせずいつもの気圧(1.03 ATA)で普段の酸素濃度(21%)の空気を吸いました。40回が済んでから1~3週間後に検査したところ、HBOT群の方がプラセボ群に比べて認知機能全般、注意、遂行機能がより改善していました。活力(energy)、睡眠、うつや不安などの精神症状、嗅覚、痛み指標も改善しました。それら体調の改善はMRIで調べた脳血流の改善と関連しました。また、HBOTに伴う脳前方領域の神経新生も認められました。神経新生が認められた領域は注意、精神状態、遂行機能を担います。HBOTの安全性懸念は認められず、副作用の発現率にプラセボ治療との有意差はありませんでした。副作用のせいで治療を止めた患者はいませんでした。研究者は今後取り組むべき課題を幾つか挙げています。1つはより大規模な試験を実施してHBOTが最も有効な患者特徴を割り出すことです。また、今回の試験の治療回数は40回でしたが、それが果たして最適な回数かどうかは不明であり、今後調べる必要があります。それに、今回の試験での効果は治療を終えてから1~3週間後のものであり、より長期の経過を調べなくてはなりません。なお今回の試験で使われたプロトコールや手順はAviv Clinicsや試験実施研究所Shamir Medical Centerから入手可能です2)。参考1)Zilberman-Itskovich S,et al. Sci Rep. 2022 Jul 12;12:11252.2)Effective treatment is now available for millions suffering with long COVID symptoms / GLOBE NEWSWIRE3)High-pressure oxygen treatment may help long COVID / Reuters4)Better brain function, fewer long-COVID symptoms after hyperbaric oxygen / University of Minnesota

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皮膚の色が濃いと酸素飽和度は高く表示される?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第214回

皮膚の色が濃いと酸素飽和度は高く表示される?pixabayより使用いつもふざけた態度で連載を書いているトンデモドクターみたいな扱いになっていることもありますが、たまには臨床的に大事なおどろき論文も紹介しましょう。皮膚の色が濃いと、酸素飽和度が正しく表示されないとして、2021年にFDA(米国食品医薬品局)から注意喚起が発令されました1)。この発令はNEJM誌2020年12月17日号に掲載された研究結果に基づいており、同研究において、黒人の患者の11.7%が、経皮的酸素飽和度が正常であるにもかかわらず、動脈血液ガス分析で酸素飽和度が88%を下回っている「隠れ低酸素血症」を有していることが示されています2)。さて、呼吸器内科のトップジャーナルであるEuropean Respiratory Journalで、人種ごとの経皮的酸素飽和度を調べた研究が報告されています。Crooks CJ, et al. Pulse oximeter measurements vary across ethnic groups: an observational study in patients with COVID-19.Eur Respir J. 2022 Apr 7;59(4):2103246.2020年2月1日~2021年9月5日の間に、ノッティンガム大学病院にCOVID-19疑いまたは確定で入院した患者のデータを収集し、30分の間に血液ガス分析による酸素分圧+パルスオキシメーターの経皮的酸素飽和度のペアが揃ったデータを、主要アウトカムとして使用しました。ICUのデータは入手できなかったため、それ以外の患者さんが対象となりました。動脈血液ガス分析と比較して、パルスオキシメーターで測定した経皮的酸素飽和度の平均差には差が確認され(p=0.02)、2種類以上の人種が混ざった集団で、最も差が大きいことがわかりました(+6.9%、95%信頼区間[CI]:−21.9~+35.8)。反面、白人(+3.2%、95%CI:−22.8~+29.1)がその差が最も低く、黒人(+5.4、95%CI:−25.9~+36.8)とアジア人(+5.1%、95%CI:−23.8~+34.0)は中程度の差異が確認されました。動脈血液ガス分析による酸素飽和度の測定値が90%未満の集団では、パルスオキシメーターはすべての人種において酸素飽和度を過大評価し、95%以上の集団では過小評価することがわかりました(p<0.0001)。混合効果線形モデルでも、白人と比較した場合、黒人・アジア人・2種類以上の人種が混ざった集団において、動脈血液ガス分析よりもパルスオキシメーターで測定した酸素飽和度の数値が高いことがわかりました。そのため、皮膚の色が濃い人は、真の酸素飽和度が90%未満というとても重要なゾーンにおいて、過大評価されがちであり、隠れ低酸素血症を見逃すリスクが高いことがわかりました。ちなみに、マニキュアは一般的に測定エラーを引き起こすため、真っ黒や真っ赤なものは、できるだけ避けることが望ましいですが3)、光が散乱するので低めに出たり高めに出たりします。1)Pulse Oximeter Accuracy and Limitations: FDA Safety Communication. 2022 Feb. 19, UPDATE 2022 June 21.2)Sjoding MW, et al. Racial Bias in Pulse Oximetry Measurement. N Engl J Med. 2020;383:2477-2478.3)真茅孝志, 他. パルスオキシメータにおけるマニキュア使用と外乱光の影響についての基礎的検討. 医科器械学. 2003;73(4):207.

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インターネット依存に対する各種介入効果~メタ解析

 インターネット依存に対するさまざまな介入効果を評価するため、中国・Anhui Medical UniversityのXueqing Zhang氏らが、メタ解析およびネットワークメタ解析を実施した。その結果、インターネット依存にはほとんどの介入が効果的であるが、単一介入よりも組み合わせた介入のほうが、より顕著な症状改善が期待できることを報告した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2022年6月26日号の報告。 2021年8月までに公表されたインターネット依存に対する介入効果を評価したランダム化比較試験(RCT)を、各種データベース(PubMed、Cochrane、Embase、Web of Science、PsycINFO、ProQuest、CNKI、WanFang、VIP database、CBM)より検索した。バイアスリスクは、RCTのための改訂版コクランバイアスリスクツール(RoB2)を用いて評価した。従来のメタ解析およびネットワークメタ解析には、Rstudio SoftwareおよびStata 14.0を用いた。 主な結果は以下のとおり。・59件のRCT(3,832例)をメタ解析に含めた。・24件のRCTによる従来のメタ解析では、CBT、グループカウンセリング、スポーツ介入、インターネットベース介入などが、未治療の対照群との比較において、インターネット依存レベルを有意に低下させることが示唆された(SMD:-1.90、95%CI:-2.26~-1.55、p<0.01、I2=85.9%)。・さまざまなスケールに基づくネットワークメタ解析では、介入の組み合わせがインターネット依存に最適な介入である可能性が最も高いことが示唆された(IATに基づくSUCRA=91.0%、CIASに基づくSUCRA=89.0%)。

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手首膨隆骨折での疼痛・機能差、包帯vs.硬性固定/Lancet

 橈骨遠位端骨折の小児において、包帯固定vs.スプリントやギプスによる硬性固定の3日後の疼痛は同等であり、6週間の追跡期間中、疼痛や機能に差はないことが、英国・Kadoorie Research CentreのDaniel C. Perry氏らが英国の23施設で実施した無作為化比較同等性試験「Forearm Fracture Recovery in Children Evaluation trial:FORCE試験」の結果、示された。手首の膨隆(隆起)骨折は小児に最も多い骨折であるが、治療は副子固定、ギプス固定、経過観察などさまざまで、議論が分かれている。著者は、「今回の結果は、橈骨遠位端の膨隆骨折の小児に対しては、包帯を巻いて帰宅させるという戦略を支持するものである」とまとめている。Lancet誌2022年7月2日号掲載の報告。包帯vs.硬性固定、3日後の疼痛を評価 研究グループは、橈骨遠位端膨隆骨折の小児965例(4~15歳)を、特注のウェブベースの無作為化ソフトウエアを用いて、包帯群または硬性固定群に1対1の割合で無作為に割り付け、6週間追跡した。除外基準は、受傷後36時間以降での診断、患側手首以外にも骨折がある場合などとした。治療を行った医師、患者およびその家族は割り付けに関して盲検化できなかった。治療に当たった臨床チームは追跡評価に参加しなかった。 包帯群にはガーゼロール包帯などの簡単な包帯を提供し、包帯の使用・中止の決定は家族の自由裁量とした。硬性固定群では、手首用スプリントまたは治療医師が成形したギプスなどが救急外来で装着された。 主要評価項目は、無作為化後3日時点の疼痛(Wong-Baker FACES Pain Rating Scaleにより評価)で、修正intention-to-treat(ITT)およびper protocol解析を実施した。3日後の疼痛は両群で同等、試験期間を通じて疼痛・機能に群間差なし 2019年1月16日~2020年7月13日の期間に、965例が無作為化された。包帯群489例、硬性固定群476例で、女児が379例(39%)、男児が586例(61%)であった。965例中、主要評価項目データが収集されたのは908例(94%)で、その全例が修正intention-to-treat解析に組み込まれた。 無作為化後3日時点の疼痛スコア(平均±標準偏差[SD])は、包帯群3.21±2.08、硬性固定群3.14±2.11であり、同等であった。補正後群間差は、修正ITT集団で-0.10(95%信頼区間[CI]:-0.37~0.17)、per-protocol集団では-0.06(-0.34~0.21)で、いずれも事前に設定された同等性マージン(±1.0)内であった。 試験期間中の他の評価時点(無作為化後1週時、3週時および6週時)においても、疼痛スコアは両群で同等であった。また、患者報告アウトカム測定情報システム(PROMIS)を用いた機能についても、6週間の追跡期間中に群間差はなかった。

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この仕事量はミッション・インポッシブル!? 1年目フェローだけの24時間オンコール【臨床留学通信 from NY】第35回

第35回:この仕事量はミッション・インポッシブル!? 1年目フェローだけの24時間オンコールさて、前回までは講義やローテーションの仕組みの概要を説明いたしました。今回からもっと実務的な内容をご紹介したいと思います。その中でも、24時間当直について説明したいと思います。米国では、医学教育プログラムのトレーニング内容は施設によって差はありますが、ACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education、米国卒後医学教育認定評議会)という団体が、内科レジデントや、循環器フェローなど、各教育プログラムをおおむね管理しており、施設の大きさや教育の仕組みなどによって、病院が雇えるレジデント、フェローに制限を設けています。全米でのフェローの枠が一定数に決まっているため、内科の中でも人気のある循環器フェローには、希望者の6割程度の人しか進むことができません。さらにACGMEは、当直したその次の日に働くことを原則禁止しており、24時間を最大の連続勤務時間とし、週80時間を最大勤務時間としています。抜け道として、自宅待機で電話でのオンコール対応をメインとしている病院のフェローは、次の日も働かなければならないようです。それはさておき、そのような時間制限が可能なのは、豊富な数のレジデントないしフェローがいるからなのです。日本より楽!?と思うかもしれませんが、やはりここはアメリカ。日本の忙しい病院で寝る暇もなく夜通し働いて、次の日も通常の8時間、いや12時間勤務、ということまでは確かにありません。しかし、瞬間的に裁く仕事量は日本より多く、物理的にほぼ不可能な量(医療ミスが起きてもおかしくないレベル)の処理をしなければならないこともあります。私は卒後10年以上経っていて、医学的判断に問題はないといっても、瞬間的な量が一気に降りかかってしまう時のストレスは、日本の時以上です。しかも英語ということで、疲れも倍増している気がします。24時間オンコールについて、具体的に説明します。土曜から日曜の勤務の場合、朝7時半に病院に来て、その前の晩に泊まっていたオンコールフェローから引き継ぎを受けます。そして、CCUの12人の患者のラウンドが8時半から2~3時間ほどあり、必要な中心静脈カテーテルやスワンガンツカテーテルを入れるのはフェローの仕事です。さらには、病院の中のすべてのコンサルテーションを一手に引き受けます。胸痛があってトロポニンが陽性なら循環器内科の介入が必要で、コンサルテーションは妥当だとわかりますが、敗血症に伴ったトロポニン陽性で、大した介入が必要でない人もいます。介入が不要な患者でもコンサルテーションしてくるのは、訴訟対策のためかもしれません。一方で、不整脈や心不全のサブスペシャリティもカバーしなければならず、ICD(植込み型除細動器)の誤作動、頸静脈ペーシングが必要な人への対応や、LVAD(左室補助ポンプ)のトラブルや、移植後の拒絶反応への対応などさまざまです。そのような対応が1日平均で15~20件あり、STEMI(ST上昇型心筋梗塞)が来たらその判断をして、STEMIチームを始動することなどもフェローの仕事です。正直、アメリカのレジデントを終わりたてのフェロー1年目には手に負えるわけもなく(多くは中心静脈カテーテルを数回入れたかどうかの経験です)、2~3年目フェローのバックアップや、それぞれの分野の指導医に電話で指示を仰ぎながら、なんとかこなしていくことで経験を積んでいきます。経験の浅い1年目フェローに経験を積ませることが目的だとしても、1年目フェローしかいない最も大変な土日の24時間オンコールは、ちょっと野蛮な仕組みではないかな、と思う次第です。Column画像を拡大する祝日を利用して、2泊3日で同じニューヨーク州のナイアガラの滝に行ってきました。手前がアメリカ滝、奥がカナダ滝、対岸がカナダです。きれいに2本の虹がかかっていました。同じ州といってもマンハッタンから650kmほど離れているので、車で7時間ほどかかりました。カメラはLeica M9を使用しています。

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第2回 第7波到来―アフターコロナの女神は微笑まない?

6月12日に当院の新型コロナ病床はゼロ床になりました(写真)。軽症中等症病床を担当していますが、これまで1,000人以上のCOVID-19を診療してきました。ほとんどが回復して元気に退院してくれましたが、この病棟の中で亡くなった人も少なくありません。ゼロ床になったとき、「このままアフターコロナを迎えるのかもしれない」という、そんな淡い期待がありました。しかし、そうは問屋が卸さなかった。写真. いったん閉鎖した新型コロナ病棟(国立病院機構近畿中央呼吸器センター、6月12日)期待は必ず裏切られる厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードは6月30日、全国の直近1週間の10万人当たりの新規感染者数が約92人へ増加し、今週先週比は1.17になったことを報告しました1)。また、若者だけでなく、すべての年代で微増となっていることもわかっています。また、6月第5週に、保健所の知り合いからこんな連絡が来ました。「陽性者もじわじわ増えているけど、入院依頼も多そう。近々、そちらにも依頼が行くと思います」と。とはいえ、「増えても1人か2人程度だろう」と予想していましたが、6月第5週の1週間でなんと7人の入院依頼がありました。7月に入り、景色が少しずつ変わってきました。東京都のオミクロン株BA.5の割合は7月7日時点で33.4%に到達しました2)。入院要請数も増えてきて、高齢者だけでなく中高年層の入院も増えてきました。増加比は高く、東京都は4週間後の8月3日には新規感染者数が5万人以上と、第6波を超える可能性があるとしています。アフターコロナの女神は微笑んでくれず、かくも期待は裏切られました。コロナ禍では「こうだといいな」ということとは、たいてい逆のほうに物事が運ぶことが多いです。“Anything that can go wrong will go wrong.”というのはマーフィーの法則の基本理念。人類を、よくもまぁここまで翻弄してくれるな、と思わざるを得ません。オミクロン株の肺炎例は少ない関西では第4波のアルファ株、関東では第5波のアルファ株の下気道親和性が高く、肺炎の罹患率も相当高かったものの、オミクロン株以降では肺炎の頻度は極端に少なくなりました。酸素投与が必要な中等症IIは今のところいません。オミクロン株になってウイルスそのものが弱毒化していることと、ワクチン接種が進んだことの、両方の恩恵を受けていると考えられます。4回目のワクチン接種は重症化予防が主たる目的ですが、毎日COVID-19患者さんと接触機会がある医療従事者は全国にたくさんいます。重症化リスク因子がなくても重症化してしまう事例もありますので、廃棄されているワクチンがあるのなら、医療従事者を接種対象に含めてもよいのではと思います。このまま7月下旬にはBA.5に置き換わる予定です。BA.2との違いは、BA.5はスパイクタンパク質に69/70欠失、L452R、F486V変異を有していることです。しかし、現時点で既存のオミクロン株と比べて、重症度が増すというエビデンスはありません。ただし先日、東京大学医科学研究所から、BA.5は肺で増殖しやすく、BA.2と比較して肺炎が多いというデータが提示されています3)。これが本当ならば、「ただの風邪だから大丈夫だろう」となめてかかるとまずいことになります。「感染者数は多いが、肺炎はそこまで多くない」という状況がダラダラ続くのであれば、医療逼迫はそこまで起こらないかもしれません。しかし、過去最大の死者数を出したのは、直近の第6波です。決して油断できないと考えております。参考文献・参考サイト1)第89回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(2022年6月30日)2)(第92回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議(2022年7月7日)3)Kimura I, et al. Virological characteristics of the novel SARS-CoV-2 Omicron variants including BA.2.12.1, BA.4 and BA.5. bioRxiv. 2022 May 26.

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同時懸濁による配合変化が生じたため最適処方を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第48回

 今回は、経管投与のトラブルを解決した処方提案を紹介します。薬剤を経管投薬する際は簡易懸濁法がとても便利ですが、崩壊・懸濁の可否に加えて、同時懸濁による配合変化も事前に確認しましょう。患者情報80歳、男性(施設入居)基礎疾患アテローム血栓性脳梗塞、右内頚動脈狭窄症、認知症、膀胱がん術後服薬管理施設職員処方内容1.クロピドグレル錠75mg 1錠 朝食後2.アスピリン腸溶錠100mg 1錠 朝食後3.イルソグラジン口腔内崩壊錠4mg 1錠 朝食後4.ロスバスタチン口腔内崩壊錠2.5mg 1錠 朝食後5.酸化マグネシウム錠330mg 4錠 朝夕食後6.センナ・センナ実顆粒 1g 朝夕食後本症例のポイントこの患者さんは、直近で脳梗塞を急性発症して入院し、内服調整ののち退院しました。退院処方では抗血小板薬が2剤追加されていました。大脳が広範囲にわたって梗塞していたことから意識障害があり、むせこみも強いことから、経鼻胃管を挿入して経管投薬を継続する指示となっていました。退院してまもなく、施設看護師より経鼻チューブが詰まりやすいのでどうにかならないかという相談がありました。施設を訪問し、退院処方の内容を確認していると、簡易懸濁法による薬剤投与にいくつか問題があることに気付きました。<簡易懸濁法での薬剤投与の問題1)>(1)簡易懸濁法に適していない薬剤があるセンナ・センナ実顆粒(商品名:アローゼン顆粒)は簡易懸濁法で崩壊・懸濁しづらく、通過困難から経鼻チューブを詰まらせていた可能性がある。(2)複数薬の同時懸濁で配合変化の問題がある酸化マグネシウムは崩壊・懸濁後の液性が強アルカリ(pHが約10)となり、配合変化において問題となる薬剤の代表格である。本事例においては、クロピドグレルが酸化マグネシウムとの同時懸濁によりクロピドグレル(イオン形)から水に難溶性で粘性のあるクロピドグレル(分子形)に変化したことで、チューブを閉塞させた可能性がある。また、経管投与量自体が減少している可能性もある。2)そこで、簡易懸濁法による投与を最適化するための提案をトレーシングレポートと電話で実施することにしました。処方提案と経過医師に、上記の問題(1)(2)より、現行の処方薬では簡易懸濁法による投与が困難であること説明しました。改善策として、(1)簡易懸濁が困難なセンナ・センナ実顆粒を、簡易懸濁可能なピコスルファートナトリウム錠2.5mgに変更することを提案しました。また、(2)クロピドグレル錠と酸化マグネシウム錠に関しては、同時懸濁による配合変化を避けるため、酸化マグネシウム錠の処方コメントとして、別包にして同時に懸濁しない旨を処方箋に追記するよう依頼しました。医師より、その場で承認が得られたため、当日中に変更内容を反映した対応を開始しました。その後は、経鼻チューブの閉塞もなく、排便コントロールも安定していることを確認し、現在もモニタリングしています。1)藤島一郎監修, 倉田なおみ編集. 内服薬 経管投与ハンドブック 〜簡易懸濁法可能医薬品一覧〜 第3版. じほう;2015.2)Aoki M, et al. J Pharm Health Care Sci. 7;18: 2021.

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第120回 断食でCOVID-19重症化予防? / 音の鎮痛効果の仕組み

定期的な断食の習慣は健康に良いという報告がいくつかあり、たとえば心疾患や2型糖尿病を生じ難くなることやより長生きになることとの関連が示されています。断食の習慣が担いうる効能はどうやらまだ出尽くしてはおらず、米国ユタ州での試験で新型コロナウイルス感染(COVID-19)重症化を防ぐ効果が示唆されました1,2)。毎月最初の日曜日に2食続けて抜く断食(Intermittent fasting)をすることがユタ州の住民の大半(6割超)を占める末日聖徒イエス・キリスト教会教徒の典型的な習慣として知られています。試験ではそのユタ州の医療法人Intermountain HealthcareのCOVID-19患者201人が調べられ、断食の習慣がある人はない人に比べてCOVID-19による入院や死亡をより免れていました。COVID-19入院/死亡率は断食をしていた71人では11%、そうでない人では約28%でした(ハザード比:0.61、95%信頼区間:0.42~0.90)。断食の習慣とCOVID-19の経過が良好なことを関連付ける仕組みは今後調べる必要がありますが、考えられる仕組みが幾つかあります。断食をするとリノール酸を含む脂肪酸が体内で増えることが知られています。リノール酸は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質にきつく結合し、細胞受容体ACE2への親和性を低下させます。断食で増えたリノール酸はそのようにしてSARS-CoV-2感染細胞や細胞内SARS-CoV-2粒子を減らしてCOVID-19重症化を予防するのかもしれません。断食で増える多機能なタンパク質・ガレクチン3がSARS-CoV-2感染抑制に一役買っている可能性もあります。ガレクチン3は数多くの病原体に結合することができ、自然免疫を活性化し、抗ウイルスタンパク質遺伝子の発現を増やし、ウイルス複製を阻害することなどが知られています。また、COVID-19経過不良と関連する糖尿病や冠動脈疾患などの持病が断食で生じ難くなることでCOVID-19重症化が間接的に抑制されている可能性もあります。時々の断食はCOVID-19ワクチンの代役とはなりえませんが、ワクチン接種を補完してCOVID-19重症化を減らす予防や治療の役割を担えるかもしれません。全世界の誰もが数ヵ月に1回のCOVID-19ワクチン接種をいつまでも続けることはおよそ現実的ではなく1)、接種が行き届いていない国は多く存在します。COVID-19流行の目下やこれからの世界での断食のワクチン補完の役割はCOVID-19後遺症への効果も含めて更なる検討の価値があると著者は結論しています。音の鎮痛効果の仕組み約60年前の1960年、歯科処置中に音楽を流すことで患者の痛みが和らぐことを示した報告がScienceに掲載されました3)。難儀な処置を亜酸化窒素や局所麻酔なしでやりおおせた患者もいたほどの効果がありました。以降、モーツァルトの古典音楽やら現代のミュージシャン・マイケル ボルトンの歌やらさまざまな音の鎮痛効果が検討され、実際に効果も認められました。たとえば8年ほど前の2014年の報告ではそのモーツァルトやマイケル ボルトン等の好きな音楽を聴いているときの線維筋痛症患者の痛みが減ることが示されています4)。米国NIHの神経生物学者Yuanyuan Liu氏等が率いるチームがScienceに発表した最新のマウス研究成果によると、そういった音の鎮痛効果はどうやら脳の特定の神経回路を抑制することでもたらされるようです5)。研究でマウスには少なくとも人には心地よいバッハの交響曲Rejouissance(歓喜)を毎日20分聴かせました6)。曲の音の強さは50~60デシベルで、曲なしでの背景音(ambient noise)は45デシベルが保たれました。マウスの足には炎症痛誘発液(complete Freund’s adjuvant;CFA)が注射され、続いて微針(von Frey filament)でその足を突いてどれだけ痛がるかが調べられました。驚いたことに、痛みを緩和する音の強さは決まっているようで、曲が背景音を5デシベル上回る50デシベルのときにマウスの痛みが緩和しました。50デシベルだとマウスは足を刺激されても平気で、それより強い音だと音楽なしのときと同様により痛がりました。人にとって不快なように変化させたRejouissanceやホワイトノイズでどうかを試したところ、それらが背景音を若干上回るデシベルであればやはり痛みを和らげました。つまり音の種類や快不快ではなく強度が鎮痛の鍵を握るようです7)。そういう低強度の音の鎮痛効果を担う脳の神経回路を同定すべく色素を使って脳領域の連結を調べたところ聴覚皮質から視床への経路が見つかり、低強度の音はその経路の神経活動を低下させました。音なしでその経路を光や低分子化合物で止めると低強度の音と同様に痛みを和らげる効果があり、その経路が通るようにすれば痛みが復活しました。すなわち低強度の音は聴覚皮質から視床への神経信号を阻害することで鎮痛効果をもたらしているようです。今後の課題として、鎮痛には背景音を若干上回る低強度の音でないとどうしてだめなのかを解き明かしたいと研究者は考えています。また、音を使った痛み治療の実現に向けて人ではどうなのかも調べる必要があります。たとえばマウスに試したような低強度の音を聞いているときの視床の活動をMRIスキャンで測定する試験は実施する価値がありそうです6)。参考1)Horne BD, et al. BMJ Nutrition Prevention & Health. 2022 Jul 1.2)Study finds people who practice intermittent fasting experience less severe complications from COVID-19 / Eurekalert3)GARDNER WJ,et al. Science 1960 Jul 1;132:32-3.4)Garza-Villarreal EA,et al. Front Psychol. 2014 Feb 11;5:90. 5)Sound induces analgesia through corticothalamic circuits. Science. 2022 Jul 7.6)Soft sounds numb pain. Researchers may now know why / Science7)Researchers discover how sound reduces pain in mice / NIH

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家族性乳がんリスクの高い女性、BMI・身体活動・飲酒のガイドライン推奨順守でリスク低下

 米国がん協会(ACS)のがん予防ガイドライン2020年版における体重(BMI)、身体活動、飲酒に関する推奨事項を順守することで、閉経後女性および家族性乳がんリスクの高い女性の乳がんリスクが減少する可能性が、米国・コロンビア大学のAshley M. Geczik氏らの研究で示唆された。Breast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2022年7月2日号に掲載。 これまでに、ACSガイドライン2012年版の推奨の順守で乳がんリスクが低下する可能性を示唆した研究はあるが、家族性および遺伝性乳がんリスクが高い女性におけるエビデンスは少ない。本研究では、Breast Cancer Family Registry(BCFR)を用いて、9,615人の女性を対象にACSガイドライン2020年版におけるBMI、身体活動、飲酒に関する推奨の順守と乳がんリスクについて検討した。Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、全体におけるハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)、さらにBRCA1およびBRCA2の病的バリアントの有無、乳がんの家族歴、閉経状態、エストロゲン受容体(ER)で層別したHRと95%CIを、算出した。 主な結果は以下のとおり。・12.9年(中央値)の間に浸潤性乳がんまたはin situ乳がんが618例に発生した。・ACSガイドラインの推奨を順守していない女性(55人)と比較して、順守している女性(563人)は、乳がんリスクが27%低かった(HR:0.73、95%CI:0.55~0.97)。・このリスク低下は、第一度近親者に乳がん罹患歴のある女性(HR:0.68、95% CI:0.50~0.93)、BRCA1またはBRCA2の病的バリアントを有しない女性(HR:0.71、95%CI:0.53~0.95)、閉経後女性(HR:0.63、95%CI:0.44~0.89)、およびER陽性乳がん(HR:0.63、95%CI:0.40~0.98) において有意であった。

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動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版、主な改訂点5つ/日本動脈硬化学会

 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版が5年ぶりに改訂、7月4日に発刊された。本ガイドライン委員長の岡村 智教氏(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学 教授)が5日に開催されたプレスセミナーにおいて動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の変更点を紹介した(主催:日本動脈硬化学会)。 今回の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の改訂でキーワードとなるのが、「トリグリセライド」「アテローム血栓性脳梗塞」「糖尿病」である。これを踏まえて2017年版からの変更点がまとめられている動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の序章(p.11)に目を通すと、改訂点が一目瞭然である。なお、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版のPDFは動脈硬化学会のホームページより誰でもダウンロードできる。<動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の主な改訂点>1)随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG)の基準値を設定した。2)脂質管理目標値設定のための動脈硬化性疾患の絶対リスク評価手法として、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を合わせた動脈硬化性疾患をエンドポイントとした久山町研究のスコアが採用された。3)糖尿病がある場合のLDLコレステロール(LDL-C)の管理目標値について、末梢動脈疾患、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙ありの場合は100mg/dL未満とし、これらを伴わない場合は従前どおり120mg/dL未満とした。4)二次予防の対象として冠動脈疾患に加えてアテローム血栓症脳梗塞も追加し、LDL-Cの目標値は100mg/dL未満とした。さらに二次予防の中で、「急性冠症候群」「家族性高コレステロール血症」「糖尿病」「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併」の場合は、LDL-Cの管理目標値は70mg/dL未満とした。5)近年の研究成果や臨床現場からの要望を踏まえて、新たに下記の項目を掲載した。 (1)脂質異常症の検査 (2)潜在性動脈硬化(頸動脈超音波検査の内膜中膜複合体や脈波伝播速度、CAVI:Cardio Ankle Vascular Indexなどの現状での意義付) (3)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH) (4)生活習慣の改善に飲酒の項を追加 (5)健康行動倫理に基づく保健指導 (6)慢性腎臓病(CKD)のリスク管理 (7)続発性脂質異常症動脈硬化性疾患予防ガイドライン改訂に至った主な理由 1)について、「TGは食事の摂取後は値が上昇するなど変動が大きい。また空腹時でも非空腹時でも値が高いと将来の冠動脈疾患や脳梗塞の発症や死亡を予測することが国内の疫学調査で示されている。国内の疫学研究の結果およびESC/EASガイドラインとの整合性も考慮して、空腹時採血:150mg/dL以上または随時採血:175mg/dL以上を高TG血症と診断する」とコメントした(参照:BQ5)。 2)については、吹田スコアに代わり今回の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版では久山町研究のスコアを採用している。その理由として、同氏は「吹田スコアの場合、研究アウトカムが心筋梗塞を含む冠動脈疾患発症で脳卒中が含まれていなかった。久山町研究のスコアは、虚血性心疾患と、脳梗塞の中でとくにLDL-Cとの関連が強いアテローム血栓性脳梗塞の発症にフォーカスされていた点が大きい」と説明(参照:BQ16)。 3)については、ESC/EASガイドラインでの目標値、国内のEMPATHY試験やJ-DOIT3試験の報告を踏まえ、心血管イベントリスクを有する糖尿病患者の一次予防において、十分な根拠が整っている(参照:FQ24)。 4)については、国内でのアテローム血栓性脳梗塞が増加傾向であり、再発予防が重要になるためである。また二次予防の場合、糖尿病の合併がプラーク退縮の阻害要因となることなどから「これまで厳格なコントロールは合併症などがあるハイリスクの糖尿病のみが対象だったが、今回の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版より糖尿病全般においてLDL-C 70mg/dL未満となった」と解説した。 5)の(7)続発性脂質異常症は新たに追加され(第6章)、他疾患などが原因で起こる続発性なものへの注意喚起として「続発性(二次性)脂質異常症に対しては、原疾患の治療を十分に行う」とし、甲状腺機能低下症など、続発性脂質異常症の鑑別を行わずに、安易にスタチンなどによる脂質異常症の治療を開始すると横紋筋融解症などの重大な有害事象につながることもあるので注意が必要、と記載されている。<続発性脂質異常症の原因>1.甲状腺機能低下症 2.ネフローゼ症候群 3慢性腎臓病(CKD)4.原発性胆汁性胆嚢炎(PBC) 5.閉塞性黄疸 6.糖尿病 7.肥満8.クッシング症候群 9.褐色細胞腫 10.薬剤 11.アルコール多飲 12.喫煙――― このほか同氏は、「LDL-Cのコントロールにおいて飽和脂肪酸の割合を減らすことが重要(参照:FQ3)」「薬物開始後のフォローアップのエビデンスレベルはコンセンサスレベルだが、患者さんの状態を丁寧に見ていくことは重要(参照:BQ21)」などの点を補足した。 2007年版よりタイトルを“診療”から“予防”に変更したように、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版は動脈硬化性疾患の予防に焦点を当てて作成されている。同氏は「すぐに薬物治療を実行するのではなく、高リスク病態や他疾患の有無を見極めることが重要。治療開始基準と診断基準は異なるので、あくまでスクリーニング基準であることは忘れないでほしい」と締めくくった。

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抗うつ薬治療抵抗性うつ病に対する増強療法のブレクスピプラゾール最適用量~メタ解析

 ブレクスピプラゾールの増強は、治療抵抗性うつ病の効果的な治療戦略であるといわれているが、その最適な投与量はよくわかっていない。東京武蔵野病院の古川 由己氏らは、他の抗うつ薬の増強療法に用いるブレクスピプラゾールの最適な投与量について、検討を行った。その結果、抗うつ薬治療抵抗性うつ病患者に対する増強療法のブレクスピプラゾールは、1~2mgの用量で有効性、忍容性、受容性の最適なバランスが得られる可能性が示唆された。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2022年6月18日号の報告。 2021年9月16日までに公表された、1つ以上の抗うつ薬治療に反応しない18歳以上のうつ病患者を対象にブレクスピプラゾール増強療法を評価した二重盲検ランダム化プラセボ対照固定用量試験を、複数の電子データベースより検索した。アウトカムは、8週間(範囲:4~12週間)の有効性(治療反応の定義:うつ病重症度50%以上低下)、忍容性(副作用による脱落)、受容性(何らかの理由による脱落)とした。制限3次スプライン解析を用いて、メタ解析(ランダム効果、1段階用量効果)を実施した。 主な結果は以下のとおり。・6研究、1,671例が選択基準を満たした。・用量効果曲線は、約2mg(オッズ比[OR]:1.52、95%信頼区間[CI]:1.12~2.06)まで増加し、その後は3mg(OR:1.40、95%CI:0.95~2.08)まで減少傾向を示した。・用量忍容性曲線の形状は用量効果曲線と同様であり、用量受容性曲線の形状はより単調な増加傾向が認められたが、いずれも信頼帯は広かった。・本研究は該当試験数が少ないため、結果の信頼性が制限される。

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ASCO2022 レポート 老年腫瘍

レポーター紹介ここ2年ほど、ASCOでは、「高齢者総合的機能評価+脆弱な部分をサポートする診療」の有用性を評価するランダム化比較試験が続けて発表され、老年腫瘍の領域を大いに盛り上げた。今年のASCOでは、老年腫瘍に関するpivotal studyは少なかったものの、その数および質は高まっているように思えた。その中から、老年腫瘍の観点から興味深い研究を抜粋して紹介する。PS:2または70歳以上の進行非小細胞肺がんに対するカルボプラチン併用療法とニボルマブ+イピリムマブのランダム化比較第III相試験(Energy-GFPC 06-2015: #90111))今回のASCOにて、CheckMate-227の長期フォローアップの結果が公表された2)。具体的には、PD-L1陽性の進行非小細胞肺がんに対してニボルマブ+イピリムマブを投与された集団は化学療法と比較して長期生存が認められた(5年OS:24%vs.14%)。しかし、CheckMate-227の対象集団はPS:0~1であり、75歳以上の高齢者は10%程度しか登録されていないため、いわゆる脆弱な集団において、ニボルマブ+イピリムマブが有用なのかはわかっていない。実は、セカンドライン以降のニボルマブにおいても同様のクリニカルクエスチョンがあり、欧州における承認条件として実施されたCheckMate-171という、PS:2および70歳以上の高齢者進行非小細胞肺がんを対象とした単群試験が行われており、2020年にEuropean Journal of Cancerにその結果が掲載されている(いずれの集団においてもニボルマブの忍容性が示された)3)。PS:2および70歳以上の高齢者のみを対象としているのは、いわゆる「脆弱な集団」でもニボルマブが有用か否か評価したかったようである。前置きが長くなってしまったが、今回のASCOにて、CheckMate-171のクリニカルクエスチョンと同様に、PS:2および70歳以上の高齢者を対象として、カルボプラチン併用療法とニボルマブ+イピリムマブの有効性を評価するランダム化比較試験の結果が発表された。主な適格規準は、IV期または術後再発の非小細胞肺がん、「70歳以上かつPS:0~1」または「年齢不問かつPS:2」、治療歴なし、driver mutationなしなど。登録した患者は、標準治療群(化学療法群)および試験治療群(ニボルマブ+イピリムマブ群)に1対1で割り付けられた。Primary endpointを全生存期間(overall survival:OS)として、化学療法群と比較して、ニボルマブ+イピリムマブ群が優越性を示すことができるかを検証するデザインであった。当初、予定登録患者数は242例であったが、PS:2の集団の予後が不良であったため、効果安全評価委員会の勧告にて登録が途中で中止されている。217例が登録され、不適格例1例を除く216例が解析対象となった。結果、化学療法群と比較して、ニボルマブ+イピリムマブ群の生存曲線は上回っていたものの、ハザード比[HR]は0.85(95%信頼区間[CI]:0.62~1.16、p=0.2978)と優越性を示すことはできなかった。サブグループ解析において、「年齢不問かつPS:2」では化学療法群が有効な傾向であり、「70歳以上かつPS:0~1」ではニボルマブ+イピリムマブ群の方が有効な傾向にあった。セカンドライン以降のニボルマブの有用性を評価したCheckMate-171でも、「年齢不問かつPS:2」と比較して「70歳以上かつPS:0~1」はOSが良好(MST:5.2ヵ月vs.10.0ヵ月)であり、「75歳以上かつPS:0~1」の集団にいたってはMSTが11.2ヵ月と最も良好であった。臨床試験に登録する高齢者は一般的な高齢者よりも元気である可能性はあるとはいえ、本試験においてもCheckMate-171と同様の傾向がみられたことから、やはり「PS:2」と「暦年齢で規定された高齢者」を1つの集団とするのは無理があるのかもしれない。日常診療と同じように、「脆弱な集団」は暦年齢以外で規定する必要がありそうである。70歳以上の乳がん患者に対する術後補助化学療法のランダム化比較試験(ASTER 70s trial: #5004))HER2陽性の高齢者乳がん患者に対する術後補助化学療法については、本邦で実施されたランダム化比較試験の結果が2020年のJCOに掲載されている(試験治療群であるトラスツズマブ+化学療法は、標準治療群であるトラスツズマブ単剤と比較して全生存期間において非劣性を示せなかった)5)。今回、フランスの臨床研究グループが、ER陽性、HER2陰性の高齢者乳がん患者に対する術後補助化学療法の有用性を評価するランダム化比較試験の結果を公表した。結果だけみるとnegative studyではあるが、本試験は高齢がん患者を対象とする臨床試験デザインとしてはモデルになりうると考えるため、ここで紹介する。主な適格規準は、70歳以上の乳がん術後患者、ER陽性、HER2陰性、術後補助化学療法を検討されているなど。遺伝子発現解析としてGenomic Grade Index(GGI)を用いられており、再発リスクが高いとされる集団(GGIがhighまたはequivocal)はランダム化比較試験に登録、再発リスクが低いとされる集団(GGIがlow)は前向き観察研究に登録された。ランダム化比較試験に登録した患者は、標準治療群(エストロゲン単独療法)と試験治療群(化学療法4コース後にエストロゲン単独療法)に1対1に割り付けられた。割付調整因子は、pN、施設、G8(高齢者における脆弱性のスクリーニングツール)。Primary endpointをOSとして、標準治療群と比較して、試験治療群の優越性を検証するデザインであった。Secondary endpointsは、乳がん特異的生存期間や無浸潤疾患生存期間などの一般的なものに加えて、健康関連QOL(QLQ C-30、ELD-14)、費用対効果などであった。前向き観察研究に登録した患者は、ET療法を5年以上実施することとしていた。1,089例の患者がランダム化比較試験に登録され、880例の患者が前向き観察研究に登録された(今回の発表では前向き観察研究の結果は示されなかった)。患者背景として、IADL(手段的日常生活動作)、Mini-Mental State Examination(認知機能)、Charlson Comorbidity Index(併存症)、Lee Index(推定余命)、G8などは両群で大きな差はなかった。結果、標準治療群に対して試験治療群はOSにおいて優越性を示すことができなかった(HR:0.79[95%CI:0.60~1.03、p=0.08])。Grade3以上の有害事象は試験治療群で明らかに多く、治療関連死亡は、標準治療群で1名、試験治療群で3名であった。本試験は、高齢がん患者を対象とする臨床試験のデザインとして興味深い。まず、割付調整因子にG8が含まれている。G8は8つの質問で患者自身の脆弱性を評価するツールであり、14点以下は脆弱の疑いがあると判断される。多くのがん種で、G8は高齢がん患者の予後因子であることが知られているが、G8を割付調整因子にしている高齢者試験は少ない。これは、他に有用な予後因子があるためG8を割付調整因子としていない場合もあるだろうが、G8を日常診療で使用していないため、これを割付調整因子とすることに抵抗がある場合もあるだろう。フランスは老年腫瘍学先進国であり、高齢者機能評価を日常的に行っているため、これを割付調整因子にすることに抵抗がなかった可能性がある。次に、背景因子として、G8、IADL(手段的日常生活動作)、Charlson Comorbidity Index(併存症)、居住状況、Lee Index(推定余命)、ポリファーマシーの有無、Mini-Mental State Examination(認知機能)などを評価している。日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)は前4者を高齢者研究では実施することを推奨しているが6)、本試験ではさらに項目を追加している。データを収集することの負担とメリットのバランスは重要だが、フランスでは高齢者機能評価が日常的に行われているため、これらを収集することが過大な負担にならなかった可能性がある。最後に、健康関連QOLとして、高齢がん患者に特異的なEORTC ELD-14を評価している。EORTC ELD-14自体は14の質問に回答するのみだが、EORTC C-30とともに回答する必要があるため、合計44の質問に回答しなくてはならない。これを3ヵ月ごとに回答するというのは患者にとって負担であり、回答割合が低くなる可能性がある。また、これら全てに回答できる集団が果たして一般の高齢者を代表できるのかという疑問もある。とはいえ、高齢がん患者にとってはOSだけでなく健康関連QOLも重要であるため、データの回収割合なども含めて、今後の結果公表が待たれる。PD-L1≧50%の進行非小細胞肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬単剤と免疫チェックポイント阻害薬+化学療法の有効性に関するpooled analysis(#90007))進行非小細胞肺がんの1次治療において、化学療法(chemo群)、免疫チェックポイント阻害薬単剤(IO単剤群)、免疫チェックポイント阻害薬+化学療法(Chemo-IO群)を比較したランダム化比較試験のうち、PD-L1≧50%の集団のみを抜き出して解析したpooled analysisが公表された。ただし、FDAで承認されている薬剤に関する試験のみが対象である。PD-L1≧50%の進行非小細胞肺がん患者3,189例が解析対象とされた(chemo群:1,436例、IO単剤群:455例、Chemo-IO群:1,298例)。今回の発表では、IO単剤群とChemo-IO群を比較した結果が示された。OSの中央値は、Chemo-IO群で25.0ヵ月、IO単剤群で20.9ヵ月(HR:0.82、95%CI:0.62~1.08)、PFSの中央値は、9.6ヵ月vs.7.1ヵ月(HR:0.69、95%CI:0.55~0.87)であった。サブグループ解析において、75歳以上の集団のOSおよびPFSはIO単剤群で良好な傾向であった。対象試験が限定されていること、また、あくまでpooled analysisなのでOSで統計学的な有意差が出なかったことから、この試験の結果をもってIO単剤が標準治療になることはないと考えている。それよりも、老年腫瘍学的には、75歳以上のデータが公表されたことに意義がある。多くの論文では、65歳以上/未満のサブグループ解析しか掲載されてないため、70歳以上や75歳以上の、日常診療で困っている集団に対するデータが乏しいのである。今回、75歳以上の集団でIO単剤群が良好な傾向であった。しかし、75歳以上の集団は185例で1割程度と少ないため、この結果の解釈は注意が必要である。とはいえ、少しでもChemo-IOに不安を覚えるような脆弱な高齢者にIO単剤を勧める根拠にはなりそうである。参考1)Randomized phase III study of nivolumab and ipilimumab versus carboplatin-based doublet in first-line treatment of PS 2 or elderly (≧70 years) patients with advanced non-small cell lung cancer (Energy-GFPC 06-2015 study).2)Five-year survival outcomes with nivolumab (NIVO) plus ipilimumab (IPI) versus chemotherapy (chemo) as first-line (1L) treatment for metastatic non-small cell lung cancer (NSCLC): Results from CheckMate 227.3)Felip E, Ardizzoni A, Ciuleanu T, Cobo M, Laktionov K, Szilasi M, et al. CheckMate 171: A phase 2 trial of nivolumab in patients with previously treated advanced squamous non-small cell lung cancer, including ECOG PS 2 and elderly populations. European journal of cancer (Oxford, England : 1990). 2020;127:160-72.4)Final results from a phase III randomized clinical trial of adjuvant endocrine therapy ± chemotherapy in women ≧70 years old with ER+ HER2- breast cancer and a high genomic grade index: The Unicancer ASTER 70s trial.5)Sawaki M, Taira N, Uemura Y, Saito T, Baba S, Kobayashi K, et al. Randomized Controlled Trial of Trastuzumab With or Without Chemotherapy for HER2-Positive Early Breast Cancer in Older Patients. Journal of clinical oncology : official journal of the American Society of Clinical Oncology. 2020:Jco20001846)JCOG高齢者研究委員会 推奨高齢者機能評価ツール7)Outcomes of anti–PD-(L)1 therapy with or without chemotherapy (chemo) for first-line (1L) treatment of advanced non–small cell lung cancer (NSCLC) with PD-L1 score ≥ 50%: FDA pooled analysis.

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オンデキサの臨床的意義とDOAC投与中の患者に伝えておくべきこと/AZ

 アストラゼネカは国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤オンデキサ静注用200mg(一般名:アンデキサネット アルファ[遺伝子組み換え]、以下:オンデキサ)を発売したことをうけ、2022年6月28日にメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、はじめに緒方 史子氏(アストラゼネカ 執行役員 循環器・腎・代謝/消化器 事業本部長)により同部門の新領域拡大と今後の展望について語られた。 AstraZeneca(英国)とアレクシオン・ファーマシューティカルズが統合したことで、今後多くのシナジーが期待されるが、今回発売されたオンデキサはその象徴的なものであると考えている。同部門では、あらゆる診療科に情報提供を行っているため、オンデキサの処方が想定される診療科だけでなく、直接作用型第Xa因子阻害剤を処方している診療科にも幅広く情報提供が可能である。オンデキサが必要な患者さんに届けられるよう、認知拡大や医療機関での採用活動に注力していきたいと述べた。オンデキサは国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤 続いて、国立病院機構 九州医療センター 脳血管・神経内科 臨床研究センター 臨床研究推進部長 矢坂 正弘氏による国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤における臨床的意義と今後の展望が語られた。 心房細動などにより心臓内でできた血栓が脳に詰まることで生じる脳卒中を心原性脳塞栓症という。心原性脳塞栓症は再発率が高いことから、発症リスクの高いCHADS2スコア1点以上の患者では、直接経口抗凝固薬(DOAC)の投与による予防治療が推奨されている1)。DOACは従来の抗凝固薬であるワルファリンに比べ脳梗塞予防効果は同等かそれ以上、大出血発症リスクは同等かそれ以下とされるが、時には生命を脅かす出血あるいは止血困難な出血に至ることもあるため、投与中は出血時の止血対応が重要となる。出血時の対応として中和剤が使用されるが、これまでDOACのうち中和剤があるのはダビガトランのみで、直接作用型第Xa因子に対する中和剤はなかった。今回発売されたオンデキサは、国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤である。オンデキサ投与の有効性と安全性 オンデキサはヒト第Xa因子の遺伝子組換え改変デコイタンパク質で第Xa因子のデコイとして作用し、第Xa因子阻害剤に結合してこれらの抗凝固作用を中和する作用をもつ。 第Xa因子阻害剤(アピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバン、エノキサパリン)投与中の第Xa因子活性抑制下で急性大出血を発現した患者を対象にした試験では、評価可能であった有効性解析集団のうちエノキサパリン投与例を除く全体集団324例において79.6%(95%信頼区間[CI]:74.8~83.9%)の患者でオンデキサによる有効な止血効果が得られた。正確な95%CIの下限値が50%を上回ったため、オンデキサによる止血効果が認められた2)。副作用の発現割合は11.9%(57/477例)であり、主な副作用は虚血性脳卒中1.5%(7例)、頭痛1.0%(5例)、脳血管発作、心筋梗塞、発熱、肺塞栓症が各0.8%(各4例)であった2)。DOAC投与中の患者に伝えておくべきこと 止血を適切に行うためには、患者さんが服薬中のDOACを特定しそれに対する中和剤を投与することが重要である。そのため、医療機関と調剤薬局が協力して、DOAC服薬の患者さんに対して、最新のお薬手帳や抗凝固薬のカードを持ち歩いてもらうことや、自身の病名や服薬中の薬剤を家族と共有してもらうことの重要性を伝えていく必要がある、と締めくくった。

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fazirsiran、進行性肝疾患の原因物質を強力に抑制/NEJM

 α1アンチトリプシン(AAT)欠乏症は、SERPINA1“Z”変異のホモ接合体(プロテイナーゼ阻害因子[PI]ZZ)に起因する。Zアレルは変異型ATT蛋白質(Z-AATと呼ばれる)を生成し、Z-AATは肝細胞に蓄積して進行性の肝疾患や線維症を引き起こす可能性があるという。RNA干渉治療薬fazirsiranは、血清中および肝内のZ-AAT濃度を強力に低下させるとともに、肝内封入体や肝酵素濃度の改善をもたらすことが、ドイツ・アーヘン工科大学病院のPavel Strnad氏らが実施したAROAAT-2002試験で明らかとなった。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2022年6月25日号で報告された。3群でZ-AAT濃度を評価する第II相試験 AROAAT-2002は、ホモ接合型AAT欠乏症による肝疾患の患者におけるfazirsiranの安全性、薬力学および有効性の評価を目的とする多施設共同非盲検第II相試験であり、3ヵ国(オーストリア、ドイツ、英国)の4施設で、2019年12月19日~2020年10月28日の期間に行われた(米国Arrowhead Pharmaceuticalsの助成を受けた)。 対象は、年齢18~75歳、PI ZZ遺伝子型を有し、スクリーニング時の局所病理所見に基づき肝線維化がMetavir病期分類のF1~F3(または他の分類でこれに相当するもの)の患者であった。 16例が3つのコホートに登録された。コホート1はfazirsiran 200mg(4例)、コホート2も同200mg(8例)、コホート1bは同100mg(4例)の投与を受けた。 主要エンドポイントは、肝内Z-AAT濃度のベースラインから24週(コホート1および1b)または48週(コホート2)までの変化とし、液体クロマトグラフィー タンデム質量分析法で測定された。肝内Z-AAT蓄積量が83.3%減少 全体(16例)の平均(±SD)年齢は52±14歳で、14例(88%)が男性であった。コホート1の2例が肝硬変(F4)、コホート1bの1例は線維化なし(F0)だった。 全例で、肝内Z-AATの蓄積量が減少した。平均肝内Z-AAT濃度は、ベースラインの61.25±36.39nmol/gから、24または48週時には9.24±9.57 nmol/gへと低下し、減少率中央値は-83.3%(95%信頼区間[CI]:-89.7~-76.4)であった。 また、血清Z-AAT濃度の最低値(6週時)のベースラインからの減少率は、fazirsiran 200mg群(コホート1、2)が-90±5%、同100mg群(コホート1b)は-87±6%で、52週時の血清Z-AAT濃度の減少率は、200mg群が100mg群よりも、わずかだが大きかった。 ベースラインのPAS-D(ジアスターゼ消化PAS[periodic acid-Schiff]染色)検査では、ほとんどの患者で肝内封入体の増加が認められ、平均スコアは7.4点(0~9点、点数が高いほど封入体が多い)であった。fazirsiran治療により、すべての患者で肝内封入体が減少し、24または48週時には平均スコアが2.3点に低下した(減少率69%)。 肝損傷のバイオマーカーも低下した。平均ALT値は、ベースラインではすべてのコホートが正常上限値(55単位/L)を超えていたが、16週時までにすべてのコホートが正常上限値を下回り、52週まで正常範囲内で推移した。AST値もALT値と同程度に低下した。また、平均γ-グルタミルトランスフェラーゼ値は、8例中4例(50%)がベースラインで正常上限値を超えていたが、52週時にはいずれも正常値となった。 線維化の改善(≧Stage1の低下)は、fazirsiran 200mg群(コホート1、2)の12例中7例(肝硬変の2例を含む)で達成され、同100mg群(コホート1b)の3例では改善は認められなかった。一方、コホート2の2例は48週までに線維化が進行した(いずれもF2からF3へ)が、2例ともPAS-D検査で肝内封入体のスコアが大幅に改善していた(ベースラインのそれぞれ9点と4点から、48週時に2例とも0点に)。 試験や薬剤の中止につながる有害事象は認められなかった。コホート1と2の4例で重篤な有害事象(ウイルス性心筋炎、憩室炎、呼吸困難、前庭神経炎)が発現したが、いずれも回復し、拡大試験でfazirsiran治療を継続した。 著者は、「すべての患者で肝内Z-AAT濃度が低下したにもかかわらず、この変異蛋白質濃度の低下は、治療開始から24または48週時における全例の線維化の退縮には結び付かなかった。最終的に、AAT欠乏症による肝疾患患者の治療目標および臨床的利益は、線維化の予防または退縮と考えられることから、fazirsiranの線維化に対する効果を確認するために、より多くの症例とより長い治療期間のプラセボ対照臨床試験を行う必要がある」としている。

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うつ病患者における抗うつ薬の継続と慢性疼痛発症率~日本でのレトロスペクティブコホート

 うつ病と慢性疼痛との関連は、よく知られている。しかし、うつ病患者における抗うつ薬の治療継続およびアドヒアランスと慢性疼痛発症との関連は不明なままであった。これらの関連を明らかにするため、ヴィアトリス製薬のShingo Higa氏らは、日本国内のデータベースを用いたレトロスペクティブコホート研究を実施した。その結果、うつ病患者に対する6ヵ月以上の抗うつ薬の継続処方は、慢性疼痛発症を低減させる可能性があることが示唆された。Journal of clinical psychopharmacology誌2022年5-6月号の報告。慢性疼痛発症リスクは継続群のうつ病患者で有意に低かった 日本の保険請求データベースより、2014年4月~2020年3月に抗うつ薬を処方された成人うつ病患者のデータを抽出した。抗うつ薬の継続処方期間(継続群:6ヵ月以上、非継続群:6ヵ月未満)およびMPR(medication possession ratio、アドヒアランス良好群:80%以上、アドヒアランス不良群:80%未満)に応じて患者を分類した。アウトカムは、慢性疼痛発症とし、その定義は、3ヵ月超の鎮痛薬継続処方および抗うつ薬の継続処方中断後の疼痛関連診断とした。慢性疼痛発症リスクを、ペア群間で比較した。 うつ病患者における抗うつ薬の治療継続と慢性疼痛発症との関連を研究した主な結果は以下のとおり。・対象うつ病患者は、1,859例(継続群:406例、非継続群:1,453例およびアドヒアランス不良群:1,551例、アドヒアランス不良群:308例)であった。・重み付き回帰(standardized mortality ratio weighting)を介して交絡因子を調整した後、慢性疼痛発症リスクは、非継続群よりも、継続群のうつ病患者で有意に低かった(ハザード比:0.38、95%信頼区間:0.18~0.80、p=0.011)。・アドヒアランス良好群と不良群の間に、有意差は認められなかった。

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先天性心疾患、術後の人工心肺装置を介したNO吸入療法は有効か/JAMA

 先天性心疾患に対する心肺バイパス術を受けた2歳未満の小児において、人工心肺装置を介してのNO(一酸化窒素)吸入療法は、人工呼吸器使用日数に有意な影響を与えなかった。オーストラリア・クイーンズランド大学のLuregn J. Schlapbach氏らが、多施設共同無作為化二重盲検比較試験「Nitric Oxide During Cardiopulmonary Bypass to Improve Recovery in Infants With Congenital Heart Defects trial:NITRIC試験」の結果を報告した。心臓手術を受ける小児において、人工心肺装置を介した一酸化窒素吸入療法は、術後の低心拍出量症候群を軽減し、回復の改善や呼吸補助期間の短縮につながる可能性があるが、人工呼吸器離脱期間(人工換気を使用しない生存日数)を改善するかどうかについては不明であった。JAMA誌2022年7月5日号掲載の報告。人工心肺を介した一酸化窒素20ppm投与と標準治療を比較 研究グループは、オーストラリア、ニュージーランド、オランダの小児心臓外科センター6施設において、2017年7月~2021年4月の期間に先天性心疾患手術を受けた2歳未満児1,371例を対象として無作為化試験を行った。最終追跡調査日は2021年5月24日。 適格患児は、人工心肺装置を介して一酸化窒素20ppmを投与する一酸化窒素群(679例)、または一酸化窒素を含まない人工心肺装置による標準治療群(685例)に、無作為に割り付けられた。 主要評価項目は人工心肺開始後28日目までの人工呼吸器離脱日数、副次評価項目は低心拍出量症候群・体外式生命維持装置の使用・死亡の複合、集中治療室(ICU)在室期間、入院期間、術後トロポニン値であった。人工呼吸器離脱期間に両群で有意差なし 無作為化された1,371例(平均[±SD]生後21.2±23.5週、女児587例[42.8%])のうち、1,364例(99.5%)が試験を完遂した。 人工心肺開始後28日目までの人工呼吸器離脱日数の中央値は、一酸化窒素群26.6日(IQR:24.4~27.4)、標準治療群26.4日(24.0~27.2)で、両群に有意差は認められなかった(絶対群間差:-0.01日、95%信頼区間[CI]:-0.25~0.22、p=0.92)。 一酸化窒素群で22.5%、標準治療群で20.9%が、48時間以内に低心拍出量症候群を発症し、48時間以内に体外式生命維持装置を必要としたか、28日目までに死亡した(補正後オッズ比:1.12、95%CI:0.85~1.47)。その他の副次評価項目は、両群間に有意差はなかった。 著者は、研究の限界として、技術的な理由により人工心肺装置の技術者(灌流技師)は盲検化されていないこと、一酸化窒素の投与量が固定用量であったこと、ニトロソチオール値は計測されていなかったこと、両群の中に非盲検の一酸化窒素吸入療法を受けた患者がいたことなどを挙げ、そのうえで「今回の結果は、心臓手術中に人工心肺装置を介した一酸化窒素の投与を支持するものではない」とまとめている。

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双極性障害患者における生涯の自殺企図と関連する要因~BiD-CoIN研究

 インド・Post Graduate Institute of Medical Education & ResearchのSandeep Grover氏らは、双極性障害患者の生涯における自殺企図について、関連するリスク因子を評価するため検討を行った。その結果、双極性障害患者の約3分の1は生涯において自殺企図を経験しており、それらの患者は臨床経過がより不良であることを報告した。Nordic Journal of Psychiatry誌オンライン版2022年6月22日号の報告。 10年以上の疾患歴を有し、臨床的寛解状態にある双極性障害患者773例を対象に、生涯の自殺企図を評価した。自殺企図の有無にかかわらず、さまざまな人口統計学的および臨床的なリスク因子について比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象の双極性障害患者のうち、自殺企図歴を有する患者は242例(31.3%)であった。・自殺企図歴を有する患者は、そうでない患者と比較し、以下の特徴が認められた。 ●教育歴が短い ●多くの場合、女性である ●エピソード期間が長い ●総エピソード数が有意に多い(生涯、発症後5年間、1年ごと) ●うつ病の総エピソード数が有意に多い(生涯、発症後5年間、1年ごと) ●うつ病エピソード期間が長い ●より重篤なうつ病エピソードがある ●初回エピソードがうつ病である場合が多い ●躁/軽躁/混合エピソード期間が長い ●うつ症状または躁症状の残存が多い ●生涯においてラピッドサイクラーの場合が多い ●依存症として大麻を使用している ●自身の疾患について洞察力が乏しい ●障害レベルの高さ(とくにIndian disability evaluation assessment scaleの4領域中3領域)

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オミクロン株時代の未成年者に対するRNAワクチン接種法とは?(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 本論評の主たる対象論文として取り上げたのはFleming-Dutraらの報告で、未成年者(5~17歳)を対象としてBNT162b2(Pfizer社)のオミクロン株に対する感染/発症予防効果を調査したものである。未成年者の分類は国際的に統一されたものはなく、本論評では各製薬会社の分類に準拠し、生後6ヵ月以上~4歳(Pfizer社)あるいは6ヵ月以上~5歳(Moderna社)を幼児、5~11歳(Pfizer社)あるいは6~11歳(Moderna社)を小児、12~17歳(Pfizer社、Moderna社)を青少年と定義する。本論評では、ワクチン接種の最先端国である米国と本邦の現状を比較し、本邦において未成年者のワクチン接種として今後いかなる方法を導入すべきかについて考察する。小児、青少年におけるBNT162b2の2回目接種のオミクロン株に対する感染/発症予防効果 Fleming-Dutraらは2021年12月26日~2022年2月21日までのオミクロン株優勢期において、米国ほぼ全域から集積されたコロナ感染疑い症状を有し核酸増幅検査(NAAT)によって感染の有無が判定された5~11歳の小児と12~15歳の青少年を対象としてBNT162b2ワクチン2回接種のオミクロン株感染/発症予防効果(VE)を調査した。1回のワクチン接種量は小児で10μg、青少年で30μgであった。 ワクチン2回接種2~4週後におけるVEは小児で60.1%、青少年で59.5%とほぼ同等の値を示した。しかしながら、ワクチン2回接種2ヵ月後におけるVEは小児で28.9%、青少年で16.6%であり、とくに、青少年における時間経過に伴うVEの低下が著明であった。青少年のワクチン接種3ヵ月後のVEは9.6%で統計学的にゼロと判定された。以上の結果はオミクロン株優勢期に成人を対象として報告された傾向と概略一致している(Andrews N, et al. N Engl J Med. 2022;386:1532-1546.)。 Dorabawilaらは小児、青少年におけるBNT162b2の2回接種後のオミクロン株に対する入院予防効果を検討した(Dorabawila V, et al. medRxiv. 2022 Feb 28.)。その結果、小児の入院予防効果はワクチン2回接種1.5ヵ月後で100%から48%に低下、青少年では94%から73%まで低下することが示された。オミクロン株に対する入院予防効果が時間推移と共に低下する傾向は成人においても観察されている(UKHSA. Technical Briefing. 2021 Dec 31.)。青少年におけるBNT162b2の3回目追加接種のオミクロン株に対する感染/発症予防効果 Fleming-Dutraらは905例の青少年を対象として3回目追加接種のオミクロン株に対する感染/発症予防効果(VE)に関しても報告している。3回目接種後の観察期間が短く確実な検討とは言い難いが、2回目接種後時間経過と共に急速に低下したVEは3回目の追加接種2~6.5週後に71.1%まで回復した。この値は青少年における3回目追加接種によるVEの最大値と考えることができ、Andrewsらが報告した成人のオミクロン株に対する3回目追加接種によるVEの最大値(67.2%)と同等の値であった(Andrews N, et al. N Engl J Med. 2022;386:1532-1546.)。しかしながら、青少年において3回目追加接種によって回復したVEが時間経過と共にどの程度の速度で低下するかは解析されていない。小児に対する3回目追加接種の効果を検証した論文は発表されていない。米国、本邦における未成年者に対するRNAワクチン接種基準 インフルエンザウイルスを標的としたワクチン接種は生後6ヵ月以上の年齢層に適用されている。一方、新型コロナウイルスは発症後2.5年しか経過していないがために未成年者に対するワクチン接種法は流動的である。米国における未成年者に対するRNAワクチン接種に関する最新の指針が2022年6月17日にFDAから発表された(FDA. News Release. 2022 Jun 17.)。FDAの指針によると;(1)Pfizer社のBNT162b2に関しては、幼児(生後6ヵ月~4歳)に対し1回3μgを2回ではなく3回連続して接種する新たな方法が提唱された。2回目は1回目から21日後、3回目は2回目から8週後に接種し、3回連続接種をもってワクチン接種が完結する。すなわち、3回連続接種を“Primary series”とする斬新で価値ある考え方である(3回目接種を追加接種とは考えない)。この考え方の基礎になっているのは、成人においてオミクロン株に対するワクチン誘導性液性免疫(中和抗体形成)は2回接種では賦活化が弱く、3回目接種後に初めて有意な賦活化が観察されたという事実である(山口. 日本医事新報 2022;5111:28.)。幼児に対する追加接種(4回目接種)は推奨されていない。(2)小児(5~11歳)と青少年(12~17歳)に対するBNT162b2の接種法は以前に決定された内容が継承され、小児においては1回10μgを21日間隔で2回接種、青少年においては成人と同様に1回30μgを21日間隔で2回接種する。すなわち、小児、青少年においては2回接種をもって“Primary series”と定義された。3回目の追加接種は2回目接種より5ヵ月後に施行することが推奨された(接種量:2回目までと同量)。4回目の追加接種は推奨されていない。(3)Moderna社のmRNA-1273に関しては、生後6ヵ月~5歳までの幼児(Pfizer社の幼児の定義と異なる)に対して1回25μg、6~11歳までの小児(Pfizer社の小児の定義と異なる)に対して1回50μg、12~17歳の青少年に対して1回100μgを1ヵ月間隔で2回接種する。(4)mRNA-1273を用いた3回目の追加接種(接種量は初回量と同じで2回目より1ヵ月以上あけて接種)は免疫不全を有する未成年者(生後6ヵ月~17歳)において認められたが、BNT162b2の場合と異なり免疫不全を有さない未成年者には認められなかった。4回目の追加接種は推奨されていない。 BNT162b2とmRNA-1273の未成年者に対する3回目追加接種の適用の差は、各ワクチンの治験結果を基礎とした科学的根拠に基づくものであるが、本質的に同じ作用を有する両ワクチンの適用を異なった形のまま放置することは施策上混乱を招く恐れがある。 本邦における未成年者に対するワクチン接種に関する厚生労働省の指針は、2022年5月25日に更新された(厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き[第8版]. 2022年5月25日)。この指針では、BNT162b2(商品名:コミナティ筋注)のみが5~11歳の小児に対する2回接種(1回10μg、21日間隔)が認められているが、生後6ヵ月~4歳の幼児には認められていない。また、BNT162b2を用いた3回目追加接種は12歳以上の年齢層(青少年と成人)に対して認められているが(2回目接種後5ヵ月以降に30μg接種)、mRNA-1273(商品名:スパイクバックス筋注)においては18歳以上の成人にしか認められていない(2回目接種後5ヵ月以降に通常量の半量である50μgを接種)。未成年者に対する4回目の追加接種は推奨されていない。以上のように本邦における未成年者に対するRNAワクチン接種指針は不完全であり、とくに、5歳未満の幼児に対する有効なワクチン施策を早急に確立する必要がある。 Pfizer社、Moderna社は武漢原株のS蛋白に加え、オミクロン姉妹株(BA.4、BA.5)のS蛋白を標的とした2価ワクチンの開発を急ピッチで進めている。米国FDAはこの新規2価ワクチンを今秋以降に追加接種用のBoosterワクチンとして期待していると表明した(The Washington Post. updated. 2022 Jun 30.)。この場合にも、従来ワクチンは医療経済的側面から2回目接種までの“Primary series”として使用されるはずであり、成人、未成年者に対する従来ワクチンの接種法を現時点において確立しておくことは重要課題の1つである。

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年を取って嬉しいこと【Dr. 中島の 新・徒然草】(433)

四百三十三の段 年を取って嬉しいこと映画を劇場で観ようとしたら、一般が1,900円のところ、60歳以上のシニアは1,200円です。普通、年を取って嬉しいことはありませんが、これは得した気分です。今回観たのは「トップガン マーヴェリック」!思い起こせば30数年前、映画を観た若者は皆がトム・クルーズになりきっていました。で、今回。冒頭から30数年前と同じシーン、同じ音楽。僅かにアレンジが違うのか、それとも音響設備の違いなのでしょうか。同じDanger Zoneでも、21世紀版という感じがしました。また、戦闘機の発着シーンも、さまざまなカメラアングルを駆使して臨場感を出しています。そしてストーリーは単純明快。敵のウラン濃縮施設を完成前に破壊するというもの。あちこちに30数年前のトニー・スコット監督による「トップガン」に対するオマージュともいうべき台詞やシーンがあります。シーンとしては、ミラマーの滑走路の横をトム・クルーズがバイクで走るシーン。86年版では画面の右から左でしたが、今回は左から右。これは「帰ってきた」ということを示しているのかもしれません。また出撃するトム・クルーズに対して“Make us proud.”と言うシーン。これは86年版で出撃するパイロットたちに“This is what you have been trained for. You are America's best. Make us proud.”と言った台詞に対するオマージュでしょう。実はこの台詞は、何かの時に使えると思って覚えていたのです。で、2011年の東日本大震災のときに使う機会がありました。「お前はこの日のために厳しい訓練を受けてきたんだ。今こそ、その成果を見せてくれ!」と災害派遣チームとして出発するレジデントに言おうとしました。しかし、実際に口から出てきた台詞は「気を付けてな」というだけのものでした。ちょっと情けないですね。ということで、ぜひ読者の皆様にも劇場で観ることをおすすめします。前作を観た人はオマージュを探しながら。今作が初めての人は、新鮮な衝撃を受けるために。そういえば、映画館には1人で来ていた年配の男性が多かったような気がします。皆それぞれに感情移入していたのでしょうか?最後に1句夏の空 トム・クルーズも 還暦だ

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ASCO2022 レポート 乳がん

レポーター紹介2022年6月3日から7日まで5日間にわたり、2022 ASCO Annual Meetingが今年はハイブリッドで実施された。日本からの現地参加者はそれほど多くなかったようであるが(筆者調べでは、乳がん関係者は10人未満の参加)、プレナリーのトップバッターを務められた国立がん研究センター東病院の吉野先生をはじめ、オーラルやポスターで発表された方々の中には現地参加された方も多かったようである。私は昨年と同じくバーチャルでの参加となったが、やはり日常診療をしながら深夜に学会に参加するのは負担が大きく、また会場の特別な空気感の中でほかの研究者と直接意見交換する機会を持てないのは寂しいものである。来年は現地で参加できることを願ってやまない。さて、2022年のテーマは“Advancing Equitable Cancer Care Through Innovation”であった。乳がん領域では昨年に引き続きプレナリーで日常臨床を変える結果が発表され、ほかにも抗体医薬複合体(antibody drug conjugates:ADCs)の演題が多く、さまざまな概念が変わった年であったといえるであろう。乳がんの演題について、プレナリーセッションの1題、Metastaticから2題、Local/Adjuvantから1題を紹介する。HER2低発現の切除不能・転移乳がんに対するトラスツズマブ デルクステカンと主治医選択治療を比較した第III相臨床試験(DESTINY-Breast04試験, LBA2)まず1つ目に、これまで10年以上にわたって私たちがよりどころとしてきたサブタイプの概念を変えることとなったプレナリーの演題を紹介する。トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は抗HER2抗体にトポイソメラーゼ阻害剤を結合したADCsであり、単群第II相試験であるDESTINY-Breast01試験の結果をもって日本を含めた各国で承認され、HER2陽性乳がんに対して使用されている薬剤である。DESTINY-Breast03試験では圧倒的な差でT-DM1よりも優れており、2次治療における標準治療と位置付けられている。本薬剤の第I相試験ではHER2低発現(HER2 IHC 1+もしくは2+かつISH陰性)に対しても有効性が認められたことから、本試験が計画された。HER2低発現は転移乳がん(MBC)の約50%を占める。DESTINY-Breast04試験は、HER2低発現の切除不能・転移乳がんに対して、2~3次治療としてT-DXdと主治医選択治療(treatment of physician’s choice:TPC、カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、アルブミン結合パクリタキセルから選択)を、ホルモン受容体(hormone receptor:HR)陽性患者における無増悪生存期間(progression free survival:PFS)を主要評価項目として検証した第III相試験である。373例(うちHR陽性331例)がT-DXd群に、184例(うちHR陽性163例)がTPC群に割り付けられた。主要評価項目のHR陽性集団におけるPFSにおいて、10.1 vs.5.4ヵ月(HR:0.51、95%CI:0.40~0.64、p<0.0001)とT-DXd群において有意に良好であった。また、全患者においても9.9 vs.5.1ヵ月とHR陽性集団と同傾向であった。さらに副次評価項目の全生存期間(overall survival:OS)において、HR陽性集団では23.9 vs.17.5ヵ月(HR:0.64、95%CI:0.48~0.64、p=0.0028)と統計学的有意にT-DXd群で良好であり、全患者においても23.4 vs.16.8ヵ月とHR陽性集団と同様であった。探索的解析ではHR陰性(すなわち、これまでトリプルネガティブ乳がんと呼んでいたサブタイプ)においても、PFSで8.5 vs.2.9ヵ月、OSで18.2 vs.8.3ヵ月とHR陽性と同様にT-DXd群で良い傾向であった。サブグループ解析でも、あらゆるサブグループにおいてT-DXdの有効性が示された結果であった。腫瘍縮小においてもHR陽性で52.6 vs.16.3%、HR陰性で50.0 vs.16.7%であり、T-DXd群で高い奏効が得られた。一方、T-DXdは注意すべき有害事象の多い薬剤である。G3以上の有害事象はT-DXd群で53%、TPC群で67%であり、むしろT-DXd群で少ない傾向にあった。T-DXdでとくに注意すべき有害事象は12.1%であり、これまでの試験と大きな差は認めなかった。しかし、G5が0.8%で認められている。これはDESTINY-Breast03試験では認められなかった事象である。比較的治療歴の濃厚な症例が含まれていたことが一因かもしれないが、より詳細な検討が必要だと思われる。心毒性の頻度は低く許容範囲内であろう。本試験は、乳がんに「HER2低発現」という新たなサブタイプを築いた。今後われわれはこれまでのサブタイプの概念を捨てて、さまざまなバイオマーカーを複合的に判断しながら治療戦略を考えていく必要がある。HR陽性HER2陰性乳がんに対するsacituzumab govitecan(SG)と主TPCを比較した二重盲検無作為化第III相試験(TROPiCS-02試験, LBA1001)ADCsの試験をもうひとつ紹介する。SGはTROP-2という細胞表面タンパクを標的としたADCsであり、2020年のESMOでは、MBCに対する治療歴のあるトリプルネガティブ乳がん(triple negative breast cancer:TNBC)を対象として行われたASCENT試験で、PFS、OSのいずれも改善したことが示された薬剤である。国内ではまだ開発の途上であるが、米国などでは承認され標準治療の1つとなっている。こちらも、先行して行われた第I相試験でHR陽性HER2陰性集団に対しても有効性が期待されており、本試験が計画された。TROPiCS-02試験は、内分泌療法1レジメン、CDK4/6阻害剤1レジメン、タキサン含む化学療法2~4レジメンの治療歴があるHR陽性HER2陰性MBCを対象として行われた。SGとTPC(カペシタビン、エリブリン、ビノレルビン、ゲムシタビンから選択)に、それぞれ272例、271例が割り付けられた。いずれの群においても95%が内臓転移を有していた。主要評価項目のPFSにおいて5.5 vs.4.0ヵ月(HR:0.66、95%CI:0.53~0.83、p=0.0003)と、統計学的有意にSG群で良好であった。サブグループ解析では、いずれのサブグループにおいてもSG群で良好な結果であった。副次評価項目のOSについては中間解析が実施され有意差は認められなかったが、ややSG群で良好な傾向を認めた。奏効率についてはSG群で21%、TPC群で14%であった。G3以上の有害事象はSG群で74%、TPC群で60%であり、SGの特徴である血球減少や消化器毒性が報告された。DESTINY-Breast04試験と比べるとやや心もとない結果ではあるものの、TROPiCS-02試験のほうが治療歴はずっと濃厚であること、内臓転移のある症例がほとんどであること、全例がタキサン治療歴を有するなど、予後不良集団がエンリッチされていることが原因と考えられる。これら2試験の結果から、HR陽性HER2陰性乳がんにおいても複数のADCsが今後治療選択の中に入ってくることになるであろう。HER3を標的としたADCsであるpatritumab deruxtecanの第I/II相試験の結果(#1002)もうひとつ新しいバイオマーカーを対象とした試験を紹介しておきたい。patritumab deruxtecan(HER3-DXd)は、抗HER3抗体であるpatritumabにT-DXdと同じ殺細胞性薬剤であるデルクステカンを結合した新しいADCである。乳がんを対象として第I/II相試験が実施されていたが、その有効性の結果が発表された。なお、用量漸増パートでは最大耐用量に到達せず、最終的に6.4mg/kgが推奨用量となった。用量漸増パート、用量設定パートでは全サブタイプを対象として実施され、その後HR陽性HER2陰性またはTNBCかつHER3-highと、HR陽性HER2陰性かつHER3-lowを対象として拡大パートが実施された。全パートを統合して解析した奏効率は、HR陽性HER2陰性HER3-high and lowで30.1%(95%CI:21.8~39.4)、TNBC HER3-highで22.6%(95%CI:12.3~36.2)、HER2陽性HER3-highで42.9%(95%CI:17.7~71.1)と高い奏効を認めた。PFSはそれぞれ7.4ヵ月(4.7~8.4)、5.5ヵ月(3.9~8.4)、11.0ヵ月(4.4~16.4)であり、こちらも濃厚な治療歴のある症例を対象とした第I/II相試験としては十分良好な結果であった。毒性についてはG3以上が4.8mg/kgコホートで64.6%、6.4mg/kgコホートでは81.6%であった。とくに頻度が高い有害事象としては好中球減少、血小板減少、白血球減少、貧血などの血液毒性が多く、悪心、食欲低下、嘔吐、下痢などの消化器毒性や粘膜障害、倦怠感、脱毛などが見られていた。HER3という新たなバイオマーカーを対象としたADC出現によって、今後さらにサブタイプの概念が変わっていく可能性が高い。多くの治療選択肢からどのようにして最適な治療を選択していくか、より深い議論が必要となるであろう。乳房温存手術を受けたT1N0 Luminal A乳がんに対する放射線治療省略(LUMINA試験, LBA501)日本国内では乳房再建術が保険適用となってから乳房全切除術が増加しているものの、約半数には乳房温存手術(breast conserving surgery:BCS)が実施されている。温存乳房に対する放射線治療(radiation therapy:RT)は標準治療であり、RTによって局所再発を67%減らすことが可能である。一方、(寡分割照射の実施が増えているにせよ)毎日の照射は患者にとって負担であるし、皮膚の変化や放射線肺臓炎など、有害事象も少なくない。そこで、再発低リスクのLumina Aタイプの患者を対象として、術後RTの省略を試みた試験が本試験である。Luminal AタイプのBCS+RT後の5年局所再発率は2.8%と報告されている。LUMINA試験では低リスクのLuminal Aタイプの患者の定義として、55歳以上、T1N0、G1~2、ER≧1%、PgR>20%、HER2陰性かつKi67≦13.25%と定義した。前向き単群試験として、閾値5年局所再発率を5%未満と定義した。Ki67は中央判定で評価し、必要サンプル数は500と設定された。また試験参加者は少なくとも5年間のホルモン療法(アロマターゼ阻害剤またはタモキシフェン)を実施された。500例の患者が登録され、55~64歳が40%、65~74歳が48%、75歳以上が12%であった。主要評価項目の5年局所再発率は2.3%(95%CI:1.3~3.8)であった。局所再発は試験登録から2.5年たったところから徐々に増加していた。副次評価項目である対側乳がんの発症は1.9%(95%CI:1.1~3.2)、すべての再発は2.7%(95%CI:1.6~4.1)、5年無病生存は89.9%(95%CI:87.5~92.2%、半数が乳がん以外の2次がん)、5年OSは97.2%(95%CI:95.9~98.4%、乳がん死は1例のみ)と非常に良好な成績であった。この結果から55歳以上で増殖能が低く、また早期のLuminal Aタイプ乳がんではRT省略についても検討の余地が出てくると考えられる。

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