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原発性脳腫瘍の手術推奨における人種間格差(解説:中川原譲二氏)

 本研究の目的は、米国における原発性脳腫瘍の外科治療における人種的格差あるいは社会経済的格差について検討することにある。主要アウトカムを外科的切除の非実施を推奨するオッズ比とした 検討では、Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)データベース(1975~2016年)と、American College of Surgeons National Cancer Database(NCDB、2004~17年)のデータが用いられた。新たに髄膜腫、膠芽腫、下垂体腺腫、聴神経鞘腫、星細胞腫、乏突起膠腫の診断を受けた20歳以上で、腫瘍サイズと手術に関する推奨についての情報が得られた患者を対象に分析を行った。主要アウトカムは、外科医が原発性脳新生物の診断時に、外科的切除の非実施を推奨するオッズ比(OR)とした。臨床要素や人口統計学的要因、社会経済的要素を盛り込み、多重ロジスティック回帰分析で評価した。黒人患者に対して、外科医が手術の非実施を推奨する確率が高い SEERとNCDBのデータにおいて、髄膜腫はSEERに6万3,674例、NCDBに22万2,673例、膠芽腫はそれぞれ3万5,258例と10万4,047例、下垂体腺腫は2万7,506例と8万7,772例、聴神経鞘腫は1万1,525例と3万745例、星細胞腫は5,402例と1万631例、乏突起膠腫は3,977例と9,187例が含まれていた。 SEERデータセットによると、保険の状況や居住地域(農村部か都市部か)などを含む臨床要素および人口統計学的要因とは独立して、黒人患者に対しては外科医が手術の非実施を推奨する確率が高く、白人患者と比較した補正後ORは、髄膜腫が1.13(95%信頼区間[CI]:1.06~1.21、p<0.0001)、膠芽腫が1.14(1.01~1.28、p=0.038)、下垂体腺腫が1.13(1.05~1.22、p<0.0001)、聴神経鞘腫は1.48(1.19~1.84、p<0.0001)だった。さらに、人種が不明の患者に対しても、外科医が手術の非実施を推奨する確率は、下垂体腺腫(補正後OR:1.80、95%CI:1.41~2.30、p<0.0001)、聴神経鞘腫(1.49、1.10~2.04、p=0.011)で高かった。NCDBデータセットを用いた検証解析でも、黒人患者に対し外科医が手術非実施を推奨する確率が高いことが確認され、補正後ORは、髄膜腫が1.18(95%CI:1.14~1.22、p<0.0001)、膠芽腫が1.19(1.12~1.28、p<0.0001)、下垂体腺腫が1.21(1.16~1.25、p<0.0001)、聴神経鞘腫が1.19(1.04~1.35、p=0.0085)であり、患者の合併症とは独立していた。SEERデータセットで直近10年間に限定し分析したところ、黒人患者に対する手術の非実施を推奨する確率は、髄膜腫(補正後OR:1.18、95%CI:1.08~1.28、p<0.0001)、下垂体腺腫(1.20、1.09~1.31、p<0.0001)、聴神経鞘腫(1.54、1.16~2.04、p=0.0031)で高かった。米国では原発性脳腫瘍患者への手術推奨において人種間格差が存在する 米国では、臨床的、人口統計学的、特定の社会経済的要因とは無関係に、原発性脳腫瘍患者への手術推奨において人種間格差が存在する。さらなる研究で、こうした偏見の原因を明らかにし、手術における平等性を強化する必要がある。わが国とは無関係といえるのか? 人種間格差に関するこれまでの実質的な研究は、転帰に焦点が当てられていたが、外科医の推奨が患者の人種によってどのように影響されるかについては、ほとんど知られていない。米国では、原発性脳腫瘍患者への手術推奨において人種間格差が存在することが明らかになった。わが国は、米国のような多民族・多人種国家ではないが、日本国内で生活する外国人労働者とその家族が増加しており、彼らが医療機関を訪れる機会も増えている。その際に、主治医として親身になれない、できれば責任を回避したい、といった差別的意識や偏見が働くことはないであろうか? 外科医による手術の非実施の推奨は、はたしてわが国とは無関係といえるのか。わが国でも、医療環境の国際化が進む中で、医療者による他人種への差別的意識や偏見の克服が課題となる。

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若年性ポリポーシス症候群〔JPS:Juvenile Polyposis Syndrome〕

1 疾患概要■ 定義若年性ポリポーシス症候群(Juvenile polyposis syndrome:JPS)は消化管に若年性ポリープが多発する常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性の遺伝性ポリポーシス症候群である。臨床診断基準および2つの原因遺伝子の生殖細胞系列の遺伝子検査により診断する。本疾患は小児慢性特定疾病に指定されており、医療費助成の対象となる(20歳未満まで)。■ 頻度と平均発症年齢発症頻度は10~16万人に1人程度。わが国の推定患者数は750~1,200人。平均発症年齢は18.5歳とされる1)。■ 原因遺伝子JPSの原因遺伝子にはSMAD4遺伝子あるいはBMPR1A遺伝子の2つが知られている。臨床的若年性ポリポーシス症例において、この2つの遺伝子に病的バリアントが同定されるのは約60%とされる。SMAD4遺伝子は遺伝性出血性末梢血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia:HHT[オスラー病])の原因遺伝子でもあり、SMAD4病的バリアント症例では、若年性ポリポーシスとHHTの症状を併発していることもある。また、BMPR1A遺伝子は染色体10q23に位置しており、カウデン病(現在ではPTEN過誤腫性症候群と包括的に呼称されることが多い)の原因遺伝子であるPTEN遺伝子と隣接している。このためこの領域に欠失が生じた場合には、若年性ポリポーシスとPTEN過誤腫症候群を併発し、幼少期に発症することがある。この欠失の診断は染色体Gバンド法あるいはマイクロアレイ検査により行う。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床診断基準臨床的に、(1)大腸に5個以上の若年性ポリープが認められる(2)全消化管(2臓器以上)に複数の若年性ポリープが認められる(3)個数を問わずに若年性ポリープが認められ、かつ、JPSの家族歴が認められるのいずれかを満たしている場合を臨床的にJPSと診断する。■ 遺伝学的検査SMAD4遺伝子およびBMPR1A遺伝子のシークエンスおよび再構成の解析(MLPA:Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification)を行う。臨床的に若年性ポリポーシスと診断されても約40%の症例には病的バリアントが認められていない。現在では、がんパネル検査を実施したときに、偶然に両遺伝子に病的バリアントが検出される場合があるが、ほとんどの場合がん細胞のみに生じている体細胞変異である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)以下に各疾患の臨床的所見とその治療について述べる。1)若年性ポリープ(Juvenile Polyp:JP)遺伝性ではない孤発性の若年性ポリープについて概要を述べる。孤発性の若年性ポリープは病理学的には過誤腫性ポリープに属し、小児の腸管ポリープの90%以上を占め、3~5歳に好発するとされる2)。孤発性の若年性ポリープは、多くが有茎性あるいは亜有茎性で、易出血性、子供の下血の原因として重要である。表面は比較的平滑で赤色調で、びらんを認めることが多い。病理学的には、異型のない腺管が嚢胞状に拡張したり、間質に浮腫と炎症細胞浸潤や毛細血管の増生を認める(図1)。図1 若年性ポリープの臨床所見画像を拡大する(a)孤発性の若年性ポリープの内視鏡像。亜有茎性の発赤調ポリープ。表面にはびらんを認める。(b)若年性ポリープの病理組織像。弱拡大像。嚢胞状に拡張した腺管と間質の浮腫を認める。(c)同強拡大像。腺管は異型性を示さず、間質には炎症細胞浸潤と血管の増生を認める。若年性ポリープでは腺腫との混在例もあることから、治療は内視鏡切除により病理学的診断も行うことが一般的である。孤発性の若年性ポリープは一般には非遺伝性であり悪性病変のリスク上昇とは関連がないと考えられている。2)若年性ポリポーシス(JPS)一方で、遺伝性の若年性ポリポーシスでは、単に若年性ポリープが複数発症している状態であるほかに、消化管が悪性化のポテンシャルを有していると考えられるため、生涯にわたり消化管病変のマネジメントを行う。病型としてポリポーシスの発生部位により全消化管型、大腸限局型、胃限局型に分けられる。わが国の病型別の頻度は全消化管型が27.4%、大腸限局型が36.3%、胃限局型が36.3%とされる3)。胃限局型であっても大腸にポリープが数個認められることが多い。また、SMAD4遺伝子に病的バリアントを認める症例では、胃限局型の表現型となることが多い(図2)。図2 胃限局型の若年性ポリポーシスの臨床所見画像を拡大する(a)胃限局型の若年性ポリポーシス例の手術標本。特に胃の体下部から前庭部にかけて、丈の高いポリープが密集している。(b)手術標本の断面像(c)ポリープの病理組織。弱拡大像。(d)同拡大像(×40)。腺管の嚢胞状の拡張および間質の浮腫、炎症細胞浸潤を認める。消化管の若年性ポリポーシスについては、孤発性の若年性ポリープと異なり、ポリポーシスの発生部位や分布および病理所見により、局所の内視鏡切除だけではなく、広範な胃全摘術あるいは大腸全摘術を考慮しなければならない場合もある。JPSが貧血や低蛋白血症の原因であるためだけではなく、将来的にも悪性腫瘍を併発しているリスクがあるためでもある。胃限局型で著明な貧血や低蛋白血症を発症している場合、胃全摘術によりこれらの症状は改善する。若年性ポリポーシス患者の悪性腫瘍の70歳時点での生涯罹患リスクは86%、臓器別では胃がんが73%、大腸がんが51%と高くなっているが、これはポリープの分布に依存する3)。■ その他のがん消化管以外のがんについては、若年性ポリポーシスにおいてはリスク上昇の報告はない4)。SMAD4遺伝子の変異は膵がんの55%にみられるが、わが国のポリポーシスセンターの171例の登録をみても、消化管以外のがんでは小腸がんや乳がんの登録が各1例ずつあるのみで膵がんの登録はない3)。■ 血管病変SMAD4遺伝子はオスラー病の原因遺伝子でもあるため、SMAD4変異症例では、オスラー病の一分症として、鼻出血や毛細血管の拡張、肺動静脈瘻を認める場合がある。とくに鼻出血は頻度が高い。■ 血縁者の対策若年性ポリポーシスと診断された発端者の第1度近親者は50%、第2度近親者は25%の確率で同じ体質を有する可能性があるので、血縁者への医療介入の機会を提供することは極めて重要である。米国のNCCNガイドラインでは、胃や大腸の内視鏡を12~15歳で開始して2~3年ごとに実施すること、また、SMAD4遺伝子に病的バリアントがある場合には、生後6ヵ月から鼻出血や肺動静脈瘻などの血管病変のスクリーニングを行うことを推奨している5)。未発症の血縁者に発端者と同じ変異があるかを検査する未発症者のキャリア診断は、原則として遺伝カウンセリングの実施体制が整備されている医療機関で行う。また、病的バリアントが認められた場合に具体的なマネジメントを提案できるなど実行可能な医療が提供できることが前提となる。4 今後の展望現在、化学予防など実施中の臨床試験は検索しうる限りない。また、リスク低減のための大腸全摘術やSMAD4病的バリアント変異例におけるリスク低減胃全摘術の有効性は不明である。そのほか、SMAD4遺伝子やBMPR1A遺伝子に病的バリアントを有するがんにおいて、有効性が期待できる分子標的薬は現時点ではない。若年性ポリポーシスは、消化管ポリポーシスがコントロールでき、当事者の疾患に対する適切な認識を持つことができれば、十分に対応可能な病態である。そのために継続的な家族との関わりを保てられる診療体制が必要である。5 主たる診療科若年性ポリポーシスは多数の診療科が連携してマネジメントを行う。消化管ポリポーシスのマネジメントが喫緊の診療なので、消化器内科がコアになることが多い。手術適応があれば消化器外科が対応する。その他、鼻出血には耳鼻咽喉科、肺動静脈瘻の塞栓療法は呼吸器内科や放射線科が対応する。未発症の血縁者へのサーベイランスや遺伝子診断は遺伝カウンセリング部門が担当する。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報消化管ポリポーシス難病班 若年性ポリポーシス症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター 若年性ポリポーシス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)GeneReviews Japan 若年性ポリポーシス症候群(医療従事者向けのまとまった情報)1)松本主之、新井正美、岩間達、他. 遺伝性腫瘍. 2020;20:79-92.2)日本小児外科学会ホームページ. 消化管ポリープ、ポリポーシス.(最終アクセス日:2023年4月2日)3)Ishida H, et al. Surg Today. 2018;48:253-263.4)Boland CR, et al. Gastrointest Endosc. 2022;95:1025-1047.5) National Comprehensive Cancer Network. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Genetic/Familial High-Risk Assessment: Colorectal. Version2. 2022.Detection, Prevention, and Risk Reduction.(最終アクセス日:2023年4月2日)公開履歴初回2023年4月19日

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HER2+早期乳がんの術前化療、pCRは代替評価項目になり得るか/JCO

 病理学的完全奏効(pCR)は治療効果の確認と予後予測に有用であるものの、HER2陽性の早期乳がん患者に対する無イベント生存期間(EFS)および全生存期間(OS)の代替評価項目としては不適切であることを、ベルギー・International Drug Development InstituteのPierre Squifflet氏らが明らかにした。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2023年3月28日号掲載の報告。 臨床試験においてEFSやOSなどを主要評価項目とすると、結果が明らかになるまで長期間かかるため、pCRがしばしば用いられている。しかし、pCRをHER2陽性の早期乳がん患者におけるEFSおよびOSの代替評価項目とすることについては議論が続いている。 本研究は、HER2阻害薬による術前化学療法の有効性を調査したランダム化試験(登録100例以上、pCR/EFS/OSの記録あり、追跡期間中央値3年以上)の個々の患者データを取得して行われた。pCR(ypT0/Tis ypN0と定義)とEFSおよびOSの関連性を、患者レベルではオッズ比(OR)を用いて、試験レベルでは決定係数(R2)を用いて解析した。 主な結果は以下のとおり。・解析には11件のランダム化試験が組み込まれた(患者数3,980例、追跡期間中央値62ヵ月)。・患者レベルの関連性は、EFSのORが2.64(95%信頼区間[CI]:2.20~3.07)、OSのORが3.15(同:2.38~3.91)で強いものであった。・しかし、試験レベルの関連性は、EFSの未調整R2が0.23(95%CI:0~0.66)、OSの未調整R2が0.02(同:0~0.17)で弱いものであった。・ホルモン受容体陰性患者のみの場合、より厳格なpCRの定義(ypT0 ypN0)を用いた場合でサブグループ化した解析でも同様の結果であった。 これらの結果より、研究グループは「pCRは治療効果の確認と予後予測に有用である可能性はあるが、HER2陽性の手術可能な乳がん患者を対象とした術前化学療法の臨床試験において、pCRをEFSおよびOSの代替評価項目とすることはできない」とまとめた。

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胃がんの発症に対するピロリ菌感染と遺伝的背景の関連は?(解説:上村直実氏)

 胃がんはヘリコバクターピロリ感染に加えて環境因子や遺伝的素因が加味されて発症することが推定されている。なかでもピロリ感染に関しては、「ピロリ菌が胃がんの最大の発がん因子」としたWHOの声明(1994年)および精度の高いコホート研究により得られた結果の「ピロリ未感染者には胃がんの発生はまれであり、ピロリ陽性者では10年間で5%の方に胃がんが発症した」(Uemura N, et al. N Engl J Med. 2001;345:784-789.)により世界的なコンセンサスが得られているが、遺伝的背景に関しては不明な点が多かった。 今回、バイオバンク・ジャパン(BBJ)の検体を利用して日本人胃がん症例1万人以上と対照者約4万人を用いて、胃がんリスクに及ぼすがん素因遺伝子変異とピロリ感染の影響を検討した症例対照研究の結果が2023年3月のNEJM誌に掲載された。本研究の結果、胃がんリスクに関与する9遺伝子の生殖細胞系列遺伝子変異が発見され、さらにそのうち4つの相同組換え遺伝子(ATM、BRCA1、BRCA2、PALB2)の病原性変異がピロリ感染と相互関係にあることが明らかになった。この研究では2003年から始まった大規模な遺伝子データバンクであるBBJの検体を利用したために、これだけ多数の胃がん患者と対照症例の遺伝子を解析できたものであり、今後、バイオバンクの利用により疾患に影響する遺伝的背景に関する研究のさらなる発展が期待された。 今回の研究において、分化型胃がんのみでなくピロリ感染の関与を疑う向きのある未分化型胃がんの発生にも、ピロリ感染が深く関与していることが再確認されたことも重要な所見である。さらに遺伝的背景が胃がんの発生に関与する遺伝子変異の割合がせいぜい3%未満で、CDH1遺伝子変異による遺伝性びまん性胃がんなどを除く大部分の胃がんは、ピロリ感染による炎症(慢性胃炎)に起因するDNAメチル化の異常など、エピジェネティックな変化の蓄積が主たる原因であることも明らかにしたものといえる。 ピロリ感染率が次第に低下して、最近では、ピロリ除菌後の胃がんやピロリ感染とは関連のない未感染胃に生ずる未感染胃がんが注目されている。現時点で最大の懸案事項である除菌後胃がんのリスクに関してはメチル化の異常での層別化が期待されている一方、未感染胃がんでは胃底腺型胃がん、ラズベリー型胃がんなど特殊型の胃がんが明らかになっており、今後は未感染胃がんの予後を含めた自然史の解明と対策方法が重要なテーマとなっている。

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緩和ケア、Remort対in Personほか【侍オンコロジスト奮闘記】第146回

第146回:緩和ケア、Remort対in Personほか参考Temel JS, et al. Early palliative care for patients with metastatic non-small-cell lung cancer.N Engl J Med. 2010;363:733-742.Chua IS, et.al. Early Integrated Telehealth versus In-Person Palliative Care for Patients with Advanced Lung Cancer: A Study Protocol.J Palliat Med. 2019;22:7-19.

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英語で「非常にまれですが」は?【1分★医療英語】第76回

第76回 英語で「非常にまれですが」は?On rare occasions, we see the recurrence of this type of cancer.(非常にまれですが、このがんは再発することがあります)I see, but hopefully not.(そうなんですね。でもそうならないことを願います)《例文1》医師On rare occasions, you will experience fever with this medication.(非常にまれですが、この薬で発熱することがあります)患者I understand. (わかりました)《例文2》医師On rare occasions, we have to change the plan during surgery.(非常にまれですが、手術中に方針を変えることがあります)患者Please do whatever you think is the best.(先生が一番だと思う方針でお願いします)《解説》“On rare occasions”(非常にまれですが)、この表現は、治療方針や病状を説明するときに頻用されます。通常の治療経過から外れて予測される事態を説明する際に前置きすることで、「まれである」ことを強調でき、患者さんに余計な不安を与えずに予測される事態を伝えられるので有用です。“On rare occasions”で始めることで、その後に続く内容のインパクトを和らげる効果があります。使用できる場面は限られますが、便利な表現ですので、ぜひ使ってみてください。講師紹介

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第159回 アルツハイマー病行動障害の初の承認薬誕生近し?/コロナ肺炎患者への欧米認可薬の効果示せず

アルツハイマー型認知症の難儀な振る舞いの初の承認薬誕生が近づいているアルツハイマー型認知症患者の半数近い約45%、多ければ60%にも生じうる厄介な行動障害であるアジテーション(過剰行動、暴言、暴力など)の治療薬が米国・FDAの審査を順調に進んでいます。大塚製薬がデンマークを本拠とするLundbeck社と開発した抗精神病薬ブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ)は昨夏2022年6月に速報された第III相試験結果でアルツハイマー型認知症に伴うアジテーション(agitation associated with Alzheimer’s dementia、以下:AAD)を抑制する効果を示し1)、今年初めにその効能追加の承認申請がFDAに優先審査扱いで受理されました2)。アジテーションは誰もが生まれつき持つ感情や振る舞いが過度になることや場違いに現れてしまうことであり、多動や言動・振る舞いが攻撃的になることを特徴とします。アジテーションは患者本人の生きやすさを大いに妨げるのみならずその親しい人々をも困らせます。第III相試験では徘徊、怒鳴る、叩く、そわそわしているなどの29のアジテーション症状の頻度がプラセボと比較してどれだけ減ったかがCohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)という採点法によって調べられました。29のアジテーション症状それぞれの点数は1~7点で、点数が大きいほど悪く、症状がない(Never)場合が1点で、1時間に繰り返し認められる場合(Several times an hour)は最大の7点となります。試験にはAAD患者345例が参加し、ブレクスピプラゾール投与群の12週時点のCMAI総点がプラセボ群に比べて5点ほど多く低下し、統計学的な有意差を示しました(22.6点低下 vs.17.3点低下)3)。同試験結果をもとに承認申請されたその用途での米国審査は順調に進んでおり、先週14日に開催された専門家検討会では同剤が有益な患者が判明しているとの肯定的判断が得られています4)。FDAの審査官も肯定的で、同剤の効果はかなり確からしいとの見解を検討会の資料に記しています5)。AADを治療するFDA承認薬はありません。ブレクスピプラゾールのその用途のFDA審査結果は間もなく来月5月10日までに判明します。首尾よく承認に至れば、同剤はFDAが承認した初めてのAAD治療薬の座につくことになります。その承認は歴史的価値に加えて経済的価値もどうやら大きく、その効能追加で同剤の最大年間売り上げが5億ドル増えるとアナリストは予想しています6)。重症コロナ肺炎患者へのIL-1拮抗薬anakinraの効果示せずスペインでの非盲検の無作為化第II/III相試験でIL-1受容体拮抗薬anakinraが重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)肺炎患者の人工呼吸管理への移行を防ぐことができませんでした7)。ANA-COVID-GEASという名称の同試験は炎症指標の値が高い(hyperinflammation)の重症コロナ肺炎患者を募り、179例がanakinraといつもの治療(標準治療)または標準治療のみの群に割り振られました。プラセボ対照試験ではありません。主要転帰は15日間を人工呼吸なしで過ごせた患者の割合で、解析対象の161例のうちanakinra使用群では77%、標準治療のみの群では85.9%でした。すなわちanakinraなしのほうがその割合はむしろ高く、人工呼吸の出番を減らすanakinraの効果は残念ながら認められませんでした。侵襲性の人工呼吸を要した患者の割合、集中治療室(ICU)を要した患者の割合、ICU滞在期間にも有意差はありませんでした。それに死亡率にも差はなく、28日間の生存率はanakinra使用群と標準治療のみの群とも93%ほどでした。試験の最大の欠点は非盲検であることで、他に使われた治療薬の差などが結果に影響した恐れがあります。同試験の結果はanakinraが有効だった二重盲検のプラセボ対照第III相試験(SAVE-MORE)の結果と対照的です。欧州は600例近くが参加したそのSAVE-MORE試験結果に基づいてコロナ肺炎患者へのanakinraの使用を2021年12月に承認しています8)。SAVE-MORE試験は重度呼吸不全か死亡に至りやすいことと関連する可溶性ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子受容体(suPAR)上昇(6ng/mL以上)患者を対象としました。今回発表されたスペインでの試験結果と異なり、SAVE-MORE試験では重症呼吸不全への進展か死亡がanakinra使用群ではプラセボ群に比べて少なく済みました(20.7% vs.31.7%)9)。また、生存の改善も認められ、anakinraは28日間の死亡率をプラセボ群の半分以下に抑えました(3.2% vs.6.9%)。SAVE-MORE試験の被験者選定基準にならい、欧州はsuPARが6ng/mL以上の酸素投与コロナ肺炎患者への同剤使用を認めています10)。米国もsuPARが上昇しているコロナ肺炎患者への同剤使用を取り急ぎ認可しています11)。参考1)Otsuka Pharmaceutical and Lundbeck Announce Positive Results Showing Reduced Agitation in Patients with Alzheimer’s Dementia Treated with Brexpiprazole / BusinessWire 2)Otsuka and Lundbeck Announce FDA Acceptance and Priority Review of sNDA for Brexpiprazole for the Treatment of Agitation Associated With Alzheimer’s Dementia / BusinessWire3)Otsuka Pharmaceutical and Lundbeck present positive results showing reduced agitation in patients with Alzheimer’s dementia treated with brexpiprazole at the 2022 Alzheimer's Association International Conference / BusinessWire4)Otsuka and Lundbeck Issue Statement on U.S. Food and Drug Administration (FDA) Advisory Committee Meeting on REXULTI® (brexpiprazole) for the Treatment of Agitation Associated with Alzheimer’s Dementia / BusinessWire5)FDA Briefing Document6)Otsuka, Lundbeck head into key FDA panel meeting with agency support for their Rexulti application / FiercePharma7)Fanlo P, et al. JAMA Netw Open. 2023;6:e237243.8)COVID-19 treatments: authorised / EMA9)Kyriazopoulou E, et al. Nature Medicine. 2021;27:1752-1760.10)Kineret / EMA11)Kineret® authorised for emergency use by FDA for the treatment of COVID-19 related pneumonia / PRNewswire

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高齢の急性心筋梗塞患者、所得格差が生存率に影響か/JAMA

 高齢の急性心筋梗塞患者では、高所得者層は低所得者層と比較して、生存率が実質的に良好で、救命のための血行再建術を受ける可能性も高く、入院期間が短く再入院が少ないことが、米国・ハーバード大学医学大学院のBruce E. Landon氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年4月4日号に掲載された。66歳以上を対象とする6ヵ国の連続横断コホート研究 研究グループは、急性心筋梗塞の高齢患者では、治療パターンとアウトカムが、低所得者層と高所得者層で異なるかを明らかにする目的で、6ヵ国(米国、カナダ[オンタリオ州、マニトバ州]、イングランド、オランダ、イスラエル、台湾)において連続横断コホート研究を行った(米国国立老化研究所[NIA]などの助成を受けた)。 対象は、2013~18年に急性心筋梗塞で入院した年齢66歳以上の患者であった。五分位の最富裕層と最貧困層を国別に比較した。 主要アウトカムは30日および1年死亡率であった。副次アウトカムには、心臓カテーテル検査や血行再建術の実施率、入院期間、再入院率などが含まれた。皆保険の国でも所得による格差が存在 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)による入院患者28万9,376例と、非STEMI(NSTEMI)による入院患者84万3,046例が解析の対象となった。補正済み30日死亡率と1年死亡率は、STEMIおよびNSTEMIの双方とも、台湾を除く5ヵ国では高所得者層で低かった。 30日死亡率は、全般的に高所得者層で1~3ポイント低く、たとえばオランダのSTEMIの30日死亡率は、高所得者層が10.2%、低所得者層は13.1%だった(群間差:-2.8ポイント、95%信頼区間[CI]:-4.1~-1.5)。 STEMIの1年死亡率の差は、30日死亡率よりもさらに大きく、イスラエルで差が最も大きかった(高所得者層16.2% vs.低所得者層25.3%、群間差:-9.ポイント、95%CI:-16.7~-1.6)。 心臓カテーテル検査と経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の実施率は、すべての国で高所得者層が低所得者層よりも高く、群間差の幅は1~6ポイントであった。たとえば、イングランドのSTEMIにおけるPCIの実施率は、高所得者層が73.6%、低所得者層は67.4%であった(群間差:6.1ポイント、95%CI:1.2~11.0)。 STEMIにおける冠動脈バイパス(CABG)術の実施率は、6ヵ国とも高所得者層と低所得者層で同程度であったが、NSTEMIでは全般的に高所得者層で1~2ポイント高かった。たとえば、米国のNSTEMIでは高所得者層が12.5%、低所得者層は11.0%だった(群間差:1.5ポイント、95%CI:1.3~1.8)。 30日以内の再入院率は、全般的に高所得者層で1~3ポイント低く、在院日数も全般的に高所得者層で0.2~0.5日短かった。 結果を踏まえて著者は、「この結果は、皆保険や強固な社会的セーフティネットが整備されている国であっても、所得に基づく格差が存在することを示唆する」とまとめている。

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同側多発乳がんへの乳房温存療法、5年局所再発率は許容範囲(Alliance試験)/JCO

 同側乳房に2~3個の病巣を有する乳がん患者において、乳房温存手術後の全乳房放射線療法と切除部位へのブースト照射による5年局所再発率は3.1%であり、臨床的許容率として規定されていた8%を下回ったことが、第II相単群の前向き試験であるACOSOG Z11102(Alliance)試験で確認されたことを、米国・Mayo ClinicのJudy C. Boughey氏らが明らかにした。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2023年3月28日号掲載の報告。なお、本結果はサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2022)で発表されている。 乳房温存療法(乳房温存手術+標準的放射線療法、以下BCT)は、Stage0~IIの乳がんに対する標準的な治療であるが、過去の研究においてBCTを受けた患者では局所再発率が高いことが報告されているため、同側多発乳がん(MIBC)患者では乳房切除術を受けることが推奨されている。しかし、MIBCに対するBCT後の局所再発について評価した前向き臨床試験はない。そのため、本研究は、BCTを受けたMIBC患者の転帰を評価するため、前方視的に実施された。 対象は、40歳以上の女性で、同側乳房に2~3個の腫瘍を有する乳がん患者(cN0~1)であった。乳房温存手術後に、全乳房放射線療法と切除部位へのブースト照射を行った。主要評価項目は、放射線療法終了後5年目の局所再発の発生率で、臨床的許容率は8%未満と規定した。 主な結果は以下のとおり。・2012年11月~2016年8月に270例が登録され、うち204例(年齢中央値61歳[範囲:40~87歳])が評価可能であった。・追跡期間中央値は66.4ヵ月(1.3~90.6ヵ月)で、6例に局所再発が生じた。5年目の局所再発率は3.1%(95%信頼区間:1.3~6.4)であった。・年齢、術前の生検による病巣の数、ER/HER2発現状況、病理学的病期分類は、局所再発リスクと関連していなかった。・探索的解析において、術前にMRIを実施していない患者(15例)の局所再発率は22.6%で、術前にMRIを実施した患者(189例)の局所再発率は1.7%であった(p=0.002)。 これらの結果より、研究グループは「本試験によって、MIBC患者に対する乳房温存手術後の全乳房放射線療法と切除部位へのブースト照射の5年局所再発率は許容できるほど低いことが明らかになった。同側乳房に2~3個の病巣を有する乳がん患者で、とくに術前MRI実施した患者に対するBCTは妥当な外科的選択肢である」とまとめた。

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新薬の登場で変わる? GIST治療【消化器がんインタビュー】第13回

第13回 新薬の登場で変わる? GIST治療出演:北海道大学病院 腫瘍センター化学療法部 CancerBoard部 小松 嘉人氏発見が難しく、予後不良な消化管間質腫瘍(GIST)。近年、新たな薬剤が登場し、治療が変化している。GIST治療の最新情報を、北海道大学の小松 嘉人氏に紹介いただいた。

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片頭痛患者の血清尿酸値は痛みの強さに影響しているのか

 プリン体の最終代謝産物である尿酸は、抗酸化物質として作用し、酸化ストレスと関連している。血清尿酸(SUA)は、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、多発性硬化症などの神経変性疾患の病因と関連している可能性が報告されている。しかし、片頭痛とSUAレベルとの関連を評価した研究は、これまでほとんどなかった。トルコ・Istanbul Basaksehir Cam ve Sakura City HospitalのYavuz Altunkaynak氏らは、片頭痛患者の痛みの特徴とSUAレベルとの関係を調査し、頭痛発作中および頭痛がない期間における片頭痛患者のSUAレベルを対照群と比較検討した。その結果、片頭痛患者の発作中と発作がない期間のSUAレベルの差は、痛みの強さと正の相関を示していることが報告された。Medicine誌2023年2月3日号の報告。 片頭痛患者78例、病院職員よりランダムに抽出した健康な対照群78例を対象に、プロスペクティブ横断研究を実施した。頭痛の特徴(発作持続時間、痛みの強さ、頻度)および社会人口統計学的特徴を収集した。片頭痛患者では頭痛発作中および頭痛がない期間の2回、対照群では1回、SUAレベルを測定した。 主な結果は以下のとおり。・片頭痛患者における頭痛がない期間のSUAレベルは対照群より高かったが、その差は統計学的に有意ではなかった。・頭痛発作中および頭痛がない期間のSUAレベルの変化に、性差は認められなかった。・年齢、片頭痛の持続時間、頻度、間隔と痛みの強さの関連を調査したところ、女性の片頭痛患者においてSUAレベルの差は痛みの強さと弱い相関が認められ(p<0.05、R>0.250)、男性の片頭痛患者では中程度の相関が認められた(p<0.05、R>0.516)。・頭痛がない期間と比較した頭痛発作中のSUAレベルの差に痛みの強さとの正の相関が認められたことから、SUAはその抗酸化作用により片頭痛に関与している可能性が示唆された。

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【GET!ザ・トレンド】第2の聴診器ポケットエコーの進化はAirへ

(協力:GEヘルスケア社)医療検査機器の進歩は目覚ましいものがある。とくにCTやMRIは、さらに高画質化し、読影も立体的になるなど、最近ではソフトウェアの進歩も著しい。また、超音波も同様に高画質化、コンパクト化がはかられ、ベッドサイドではなくてはならない検査機器となりつつある。こうした診療機器を一堂に集めた国際医用画像総合展(ITEM 2023)が4月14日から3日間、パシフィコ横浜で開催される。ITEMの開催を前にCareNeTVやケアネットDVDでもお馴染みの白石 吉彦 氏(島根大学医学部附属病院 総合診療医センター センター長/隠岐広域連合立隠岐島前病院 参与)にポケットエコーの進化を振り返り、臨床現場での使い方のポイントや検査・読影のコツ、そして、今後の展望についてお聞きした。質問 ポケットエコーの進歩とハードウエアの課題について教えてください2010年にVscan(GEヘルスケア社製)がポケットエコーの嚆矢として発売されました。非常に衝撃的ではありましたが、当時は心エコーなど限定された部位・機能であり、現在のように処置などに使えませんでした。2010年に発売されたポケットエコーVscan(GEヘルスケア社製)その後、他のメーカーもポケットエコーを開発・発売していくなかで、先のVscanはプローブのデュアル化をしました。1個のプローブにセクタ型とリニア型が一体となり、携帯する機材の省力化で、臨床現場での使い勝手が向上しました。Vscan Dual Probe(GEヘルスケア社製)その間にも個々の機種は充電がしやすくなったり、起動までの時間が短縮化されたり、軽量化なども図られるとともに、本体の価格もかなり安くなっていきました。そして、現在の進化はVscan Air(GEヘルスケア社製)のように無線化であり、邪魔なコードがなくなり、プロ―ブを検査したいところに当て、機動性良く検査ができるようになりました。また、所見はタブレットやスマホに送ることができて、その画面で読影ができるようになりました。Vscan Air Carotid Artery(GEヘルスケア社製)臨床では、臨床判断と手技の向上に役立てる超音波検査を“point-of-care ultrasonography”(POCUS)と呼び、一般社団法人 日本ポイントオブケア超音波学会(j-pocus.com)が設立されるなど環境も大きくかわりつつあります。ポケットエコーで今後期待されることとしては、画質や画面の大きさ、価格、質の担保があります。たとえば、胆嚢炎について、本症では読影時に胆嚢壁の厚さや形状を知ることが大事です。ポータブルエコーでは、カラードップラーも使え、鮮明に壁の厚さもわかりやすい一方で、ポケットエコーではまだそこまで到達できていません。ほかに重要な点として非接触充電ができるようになったり、機能的にも良くなっていますが、「電池の持ち時間」がユーザーとしては気になります。もっと長時間使用できるようになって欲しいと思います。1点注意しなければいけないこととして、最近ではインターネットサイトで非常に安価なポケットエコーを入手することができます。サイトで買われたポケットエコーは、自己トレーニングなどでの使用は問題ありませんが、薬機法(医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品について安全性と、体への有効性を確保するための法律)を通っていない機器は、診療で使用すると法に抵触する恐れがあります。この点を医療者はよく理解して、診療にあたらなければいけないということがあります。質問 ポケットエコーの臨床現場での活用法やビギナー向けのポイントを教えてくださいポケットエコーは在宅診療をされている医療者などでは結構普及していますが、医師全体からすると、まだ5%も普及していません。理由はいろいろとありますが、はじめの頃は250万円くらいの高価なデバイスであったことが要因かと思います。ポケットエコーのメリットは、携帯性、経済性、起動時間の早さにあります。診療に使うことで診断精度と治療精度の向上が望めます。私の勤める病院では、看護師にも積極的にポケットエコーを扱ってもらっています。一例として「導尿」の有無の判断に膀胱にエコーを当て、導尿の必要があるかどうかを判断しています。導尿では、感染症のリスクや患者さんの羞恥心もあり、できればしたくない処置です。そこでエコーを当て要否を判断することで確実に導尿が必要な患者さんにだけ処置を施すことができます。これは全国でもまれかもしれません。また、膀胱の背側にある直腸の便を確認することもできます。膀胱横断面所見(提供:GEヘルスケア社)画像を拡大する診断の補助として、たとえばひざの腫れであれば、関節液の貯留か軟部組織の炎症による腫脹か、それ以外の原因なのか、ベテランでないと難しい診断もポケットエコーを使えば診断がし易くなります。触診した部位を見える化することによりポケットエコーで身体所見の診断の答え合わせもできます。ほかにもプライマリ・ケアでよくある主訴の「頻尿」では、問診では判断が難しい過活動膀胱か神経因性膀胱かどうかについて、ポケットエコーで膀胱の容量を把握し、残尿があるかないかを確認することができます。両疾患では治療薬も異なるので、適切な治療につなげることができます。エコーは軟部組織や水をよく描出するので胸水、肺B-line、胸膜、膝などの診断に強みを発揮します。今では初期の大動脈瘤の発見もできる精度であり、みつけることができれば予防的な治療も可能です。膀胱、前立腺所見(提供:GEヘルスケア社)画像を拡大する腹部大動脈所見(提供:GEヘルスケア社)画像を拡大する処置で使うのであれば、ひざの穿刺などで注射を必要な部位にピンポイントで施行できますし、膀胱、便秘、肺エコー、大静脈の点滴の適否、末梢血管確保についてポケットエコーは有効です。エコーを使用した処置により、ベテランでもそうでなくとも同じ視覚で処置ができるので、医療の均てん化にも役立つと考えています。質問 超音波所見の読影のコツやビギナー向けの学習法について教えてくださいエコーの上達については、とにかく「日々プローブを当てること」が基本です。自分でも仲間同士でもプローブを当て、手技や読影を訓練することです。もちろんこのときには指導する先輩医師の役割も重要ですし、身近にすぐできるエコーがあることも必要です。そういう意味ではポケットエコーは、エコーに馴染むという意味ではよいツールとなります。また、読影でわからない場合で先輩医師がいない場合には、成書やDVDなどで学習し、それでも難しいときは研修会などで勉強することが必要です。本当は、医学生のころからエコーに慣れ親しむのがいいのですが、現在、医学部でのエコーの講義や実習は、力の入れ具合に差があります。私が所属している島根大学医学部では、医学生にエコーの勉強会を実施していますし、エコーを使った診療の動画も島根大学医学部附属病院 総合診療医センターのサイトで公開して、学習のサポートを行っています。今年の7月には私が会長で行う「第15回 日本ポイントオブケア超音波学会学術集会」を島根で開催します。エコーに少しでも興味のある医療者にはぜひ参加していただきたいと思います。質問 ポケットエコーの将来の展望について教えてください診療でポケットエコーが普及していけば、診療ガイドラインなどにも記載されるようになるでしょう。日本ポイントオブケア超音波学会(JPOCUS)では、ガイドラインから試案を作成したりしていますし、日本救急医学会では「救急point–of–care超音波診療指針」を公開していますので、じわじわと臨床の中に入っていくと思われます。今後、プライマリ・ケアでも症状や病態の見える化は需要が増していきますので、「第2の聴診器」として医療者には必要な手技・スキルになると考えます。繰り返しますが、ポケットエコーの理想形としては、より小さく、軽く、鮮明な画像で、値段もお手ごろ、電池も長持ちし、操作も簡単、プローブのバリエーションもあり、そして、院内のPACSにつながるポケットエコーの登場を期待します。(インタビューは2023年3月6日に実施/ケアネット 稲川 進)

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第40回 「5類新型コロナ」の出勤停止は何日間?

意外にも政府は「5日間」を推す形にインフルエンザには、学校保健安全法において「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまで」という細かい規定があり、学校だけでなく、企業でもこれを用いて運用しているケースが多いと思います。新型コロナが「5類感染症」になった後、これまであった「療養期間はなしになる」という理解が広まっていますが、さすがにそれはないでしょう。たぶん。ゴホゴホ咳をして3日目で出勤されたら、いくら何でも迷惑というものですが、政府からは、どういうわけか「5日間」という提案がなされているようです。現在はまだ新型インフルエンザ等感染症のもとにあるため、感染症法に基づいて、症状がある人は7日間が経過し症状軽快から24時間経過した場合、無症状の人は5日目に検査キットで陰性が確認できたら6日目から解除可能、と定められています。有症状だと、インフルエンザより2日間長いくらい対応しないと、感染が広がりやすいという認識だったのです。それがどういうわけか、インフルエンザと同様「5日間」ということになりそうです。PCRで新型コロナ陽性が確定した後、感染性の新型コロナウイルスが検出されなくなるまでの期間は、オミクロン株で中央値5日間とされています1)。また、国立感染症研究所のデータでは10日を超えての感染リスクは低いとされています2)。7日間というのはちょうどこの間くらいの位置で、全員が感染させないというわけではない点に注意が必要です。発症後7日目には、幾何平均ウイルス力価が検出限界値を下回るというデータも直近示されており3)、CDCも現時点では療養期間は5日間としています。現状、いくらインフルエンザと同じ「5類感染症」に移行するとはいえ、同じようなウイルスだからということで5日間に短縮するとなると、それなりのリスクを抱えることになるかもしれません。学校保健安全法に明記される方針であり、近々厚労省から「5類」後の療養期間について正式な発表があるでしょう。医療機関で働く人の場合、感染の危険性にさらされるのは患者さんですから、個々の病院で検討されてもよいかもしれません。濃厚接触者の概念は新型コロナの濃厚接触者の自宅待機期間は5日間とされていました。しかしもはや、濃厚接触者かどうかなどあまり気にされていないムードになっていて、これについては「5類」化によって消失するのではないかと思います。濃厚に曝露した人は注意してください、くらいの文言になるかもしれません。参考文献・参考サイト1)Boucau J, et al. N Engl J Med. 2022;387:275-277.2)国立感染症研究所:SARS-CoV-2 オミクロン株感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査(第6報):ウイルス学的・血清学的特徴3)国立感染症研究所:オミクロン系統感染者鼻咽頭検体中の感染性ウイルスの定量

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sotaterceptは新しい作用機序の肺動脈性肺高血圧症の新薬である(解説:原田和昌氏)

 BMP(bone morphogenetic protein)シグナルの機能喪失とTGF-β(transforming growth factor-β)シグナルの過剰が肺動脈性肺高血圧症(PAH:pulmonary arterial hypertension)を進行させると報告されている。アクチビンIIA型受容体(ACTR IIA)-Fcは、免疫グロブリン(Ig)G1のFc領域とアクチビンIIA型受容体の細胞外領域からなる遺伝子組み換え融合糖タンパク質であり、アクチビンA/BとGDF(growth differentiation factor)8、GDF11を中和(trap)する。 STELLAR試験においてドイツ・Hannover Medical SchoolのHoeperらは、PAHにおいてACTR IIA-Fc(sotatercept)によるアクチビンとGDFの阻害がTGF-βシグナルの抑制により、BMPシグナルとTGF-βシグナルのバランスを修復し、肺血管リモデリングを防ぐ効果があると仮定して検討を行った。安定用量の基礎治療を受けているWHO Group 2/3成人PAH患者163例を対象に、sotaterceptの3週に1回皮下注射の効果・安全性を検証する第III相二重盲検RCTを行った。 この試験の主要評価項目であるベースラインから24週時の6分間歩行距離(6MWD)は、統計学的に有意かつ臨床的に意味のある改善を示した(差40.8m)。副次評価項目においては、9項目中8項目で統計学的な有意差が示された。これには複合的な評価項目の改善(6MWDの改善、NT-proBNP値の改善、かつWHO機能分類の改善またはWHO機能分類IIの維持と定義)を示した患者の割合や、死亡または最初の臨床的悪化イベントまでの時間などが含まれている。全般的な安全性プロファイルは第II相試験で確認された結果とほぼ一貫しており、鼻出血・めまい・毛細血管拡張・Hb値上昇・血小板減少・血圧上昇がより多く発生した。 増殖因子と増殖抑制因子の関係は自動車のアクセルとブレーキのような関係であるが、血小板にもPDGFのような正の増殖因子と、TGF-βという強力な増殖抑制因子が存在することが明らかとなった。その後、アクチビンやTGF-βII型受容体がクローニングされた。TGF-βには類似した物質が数多くあり、BMPやアクチビンはTGF-βスーパーファミリーに含まれる。1993年に宮園 浩平教授らはTGF-βII型受容体に類似したものの探索から6つのクローンを得たが、その1つがTGF-βI型受容体であった。また残りの受容体もアクチビンやBMP I型受容体であることが明らかとなり、TGF-βスーパーファミリーの受容体が系統的に明らかになった。 PAHにはすでに10薬がFDA承認されているが、なお予後不良な疾患である。sotaterceptは新しい作用機序の薬であり肺血管リモデリングの抑制が期待されている。エンドセリン受容体拮抗薬と並んで、日本人研究者による基礎研究の成果が実用化されようとしているよい一例である。

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ACC2023で発表、新たな関係を築くには学会での交流が欠かせない【臨床留学通信 from NY】第46回

第46回:ACC2023で発表、新たな関係を築くには学会での交流が欠かせない前回コラムでも書かせていただきましたが、3月上旬にニューオーリンズでACC(米国心臓病学会)がありました。Moderated Poster Sessionという、電光掲示板のポスターセッションでの発表でした。海外学会でよくある“ポスター貼り逃げ”(海外学会の通常のポスターセッションでは、日本と違って、発表、質疑応答などはなく、ただ立っているのみです)とはいかず、決まった時間の発表、および質疑応答の対応が必要です。渡米5年目とはいえ、1度や2度自作のポスターを眺めただけではすらすらとは英語は出てこないため、ある程度のストーリーを作って何回かぶつぶつ呟いて練習しておく必要があります。アメリカあるあるですが、行きの飛行機が5時間遅れだったため、そこで入念に練習することができ、発表は事なきを得ました。奇しくも、座長は私と同じMontefiore Medical Centerの先生でした。発表後、周りからの質疑にも回答することでき、他の座長の先生から「想定質問があったの?」とお褒めの言葉(?)もいただきました。心臓カテーテル領域のTCTという学会のニュースサイトのインタービューも受け、こちらの記事で紹介されました。学会といえば、セッションを聞いて、夕方になったらせっかく訪れた現地の観光もしたいところですが、ここはresearch giantsとのコネクションをキープするため、偉い先生方のセッションに足繁く通います。普段メールでやり取りしているとはいえ、学会の都度の挨拶は欠かせません。フェローシップのマッチの前などは、むしろ「推薦状を書いてください」といったお願いをすることが多かったのですが、今回は晴れてご挨拶のみで済んだのも気が楽でした。また、2024年7月からマサチューセッツ総合病院のカテーテル治療フェローを開始しますが、そこのプログラムディレクターが、実はACC2023のチェアパーソンのDouglas Drachman先生でした。昨年Zoom面接を経たのみだったので、直接にご挨拶ができたのもよかったです。それ以外にも、新たにメールで繋がることができていたハーバード系の先生方とも、現地で会うことで、新しい研究プロジェクトの話もできたのは有意義でした(Nice to e-meet youからNice to meet you)。米国内や日本から参加される日本人の先生方と会って情報交換できるのも楽しいものです。最近はハイブリッドの学会に慣れてきたせいか、ほとんどセッションには参加せず、後でオンデマンドを聴くことが多いです。朝一のセッションに早く起きれなくて間に合わなくても、オンラインでLate breaking clinical trialを聴くこともできます。結局、学会は人に会い、勉強はセッションをその場もしくはオンデマンドで聞く、または同時発表で文献になっていればそれを逐一チェックという流れになりそうです。実のところフェローの給料で学会参加はかなり大変なのですが、今回は発表があったので、プログラムが1,500ドルのサポートをしてくれました。といっても学会参加費用400ドル、宿泊3泊500ドル(他より安い反面、学会会場まで歩いて30分…)、飛行機350ドル(直行便が高く経由便にしてこの価格)となり、Uber、食事込みで合計1,500~1,600ドルかかりました。日本の学会に参加するよりはかなり高いのがネック、参加するためにはお金の工面も必要です。Column今回は同僚フェローのポスター発表セッションも聴講することができました。アメリカ人は合理的なのか、実はリサーチや学会発表に興味がある人はほんの一握りで、30人以上いるフェローの中で参加したのは6人のみ。参加しても多くはフェローシップアプライ前など、履歴書の見栄えを良くしたいという理由であって、リサーチ自体に興味がある人はほとんどいません。実際にこのような学会で発表する人は、レジデントでこれから循環器フェローを狙う人、はたまた循環器フェロー中で、インターベンション、不整脈や重症心不全といったアドバンスドフェローを狙う人に限定されています。

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重度の円形脱毛症、MTX+低用量ステロイドで毛髪再生

 フランス・ルーアン大学病院およびフランス国立衛生医学研究所(INSERM)U1234のPascal Joly氏らは、円形脱毛症(AA)のうち重度とされる全頭型AAまたは汎発型AA患者を対象に、メトトレキサート(MTX)単剤とプラセボの比較、MTX単剤とMTX+低用量prednisoneの併用療法を比較する2段階の二重盲検無作為化比較試験を実施した。その結果、MTX単剤では主に部分的発毛が可能であったが、MTX+低用量prednisone併用療法は患者の最大31%で完全発毛が可能であった。著者らは、「これらの結果は、JAK阻害薬で最近報告された結果と同程度であるが、コストははるかに安価と考えられる」とまとめている。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年3月8日号掲載の報告。 研究グループは、治療効果が低いと報告されているAAの中でも最も重度とされる全頭型AAと汎発型AAについて、安価な治療法であるMTX単剤とMTX+低用量prednisoneの併用療法の有効性と忍容性を検討した。 試験は、8つの大学病院の皮膚科部門で2014年3月~2016年12月の期間に行われた。対象は、6ヵ月超の局所および全身性の治療にもかかわらず症状進行が認められる全頭型AAまたは汎発型AA成人患者。 対象患者は第1段階として、MTX(25g/週)単剤群またはプラセボ群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。6ヵ月時点の評価で25%以上の発毛が認められた患者は、12ヵ月間後まで1段階目で割り付けられた治療を継続した。発毛が25%未満であった患者は、第2段階としてMTX+prednisone(20mg/日を3ヵ月と15mg/日を3ヵ月)併用群またはMTX単剤群(MTX+プラセボ)に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、MTX単剤の開始から12ヵ月後の完全発毛またはほぼ完全発毛(Severity of Alopecia Tool[SALT]スコア10未満)であった。なお、主要エンドポイントの評価は、試験開始時からMTXが投与された患者に限定され、4人の国際的な専門家が写真を基に評価した。副次エンドポイントは、頭皮の50%を超える発毛、QOL、忍容性などであった。データ解析は、2018年10月~2019年6月に行われた。 主な結果は以下のとおり。・合計89例(女性50例、男性39例、平均年齢±標準偏差:38.6±14.3歳、全頭型AA:1例、汎発型AA:88例)が、MTX単剤群(45例)またはプラセボ群(44例)に無作為に割り付けられた。・12ヵ月時点で、完全またはほぼ完全発毛が観察されたのは、MTX単剤群1例、プラセボ群0例であった。MTX(6または12ヵ月)+prednisone併用群では35例中7例(20.0%、95%信頼区間[CI]:8.4~37.0)で観察され、このうちMTX(12ヵ月)+prednisone(6ヵ月)併用群では16例中5例(31.2%、95%CI:11.0~58.7)で観察された。・完全またはほぼ完全発毛が観察された患者は非反応患者と比べて、QOLの改善が認められた。・MTX投与を受けた患者において、疲労が7例(6.9%)、悪心が14例(13.7%)に認められ、2例が疲労と悪心で試験を中断した。重度の治療関連有害事象は観察されなかった。

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肺がん・上部消化器がん、オランザピンが食欲・体重を改善/JCO

 食欲減退は進行がん患者の30~80%にみられ、化学療法により悪化することがある。そこで、インド・Jawaharlal Institute of Postgraduate Medical Education and ResearchのLakshmi Sandhya氏らは、がん患者の化学療法に伴う消化器症状の改善に用いられるオランザピンについて、食欲亢進・体重増加効果を検討した。肺がん患者、上部消化器がん患者に対して、化学療法中に低用量のオランザピンを毎日投与することで、食欲亢進および体重増加が認められた。本研究結果は、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2023年3月28日号に掲載された。 18歳以上で、未治療の進行または転移を有する胃がん患者(68例)、肺がん患者(43例)、肝がん・膵がん・胆道がん患者(13例)計124例を対象とした。対象患者を化学療法とともに低用量オランザピン(2.5g/日)を投与する群(オランザピン群)またはプラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付け、12週間投与した。両群とも、標準的な栄養評価と食事のアドバイスを受けた。主要評価項目は、5%以上の体重増加が認められた患者の割合と食欲改善であった。食欲については、VAS(visual analog scale)およびFAACT ACS(Functional Assessment of Chronic Illness Therapy system of Quality-of-Life questionnaires Anorexia Cachexia subscale)で評価した。副次評価項目は、栄養状態の変化、QOL、化学療法の毒性であった。 主な結果は以下のとおり。・対象患者124例(年齢中央値:55歳[範囲:18~78]、オランザピン群63例、プラセボ群61例)のうち、112例(オランザピン群58例、プラセボ群54例)が解析可能であった。・5%以上の体重増加が認められた患者の割合は、プラセボ群が9%(5/54例)であったのに対し、オランザピン群は60%(35/58例)であり、オランザピン群で有意に高率であった(p<0.001)。・VASに基づく食欲改善が認められた患者の割合は、プラセボ群が13%(7/54例)であったのに対し、オランザピン群は43%(25/58例)であり、オランザピン群で有意に高率であった(p<0.001)。・FAACT ACSに基づく食欲改善(37点以上)が認められた患者の割合は、プラセボ群が4%(2/54例)であったのに対し、オランザピン群は22%(13/58例)であり、オランザピン群で有意に高率であった(p=0.004)。・オランザピン群では、栄養状態、QOLが良好であり、化学毒性も少なかった。 著者らは、「低用量オランザピンは、未治療患者におけるがん化学療法中の食欲と体重を改善する、安価かつ忍容性の高い治療である。低用量オランザピンには、栄養状態の改善やQOLの改善、化学療法の毒性の低減といった副次的なベネフィットもみられた」とまとめた。

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医師の働き方改革、いまだ2割強が基準超の時間外勤務/医師1,000人アンケート

 2024年4月から勤務医の時間外労働の上限が原則960時間となる、いわゆる「医師の働き方改革」がスタートするのを踏まえ、会員の勤務医1,000人を対象に働き方改革の制度の理解度、期待と不安、勤務先の対応策などについて聞くアンケートを実施した(2023年3月9日実施)。 直近1年間の勤務時間について、1日8時間・週40時間(=5日)勤務を基準とした場合の「当直を含む時間外労働時間の合計」を聞いたところ、「月45時間未満・年360時間以下(≒週7時間)」が42%、「月100時間未満・年960時間以下(≒週20時間)」が36%、「月100時間未満・年1,860時間以下(≒週40時間)」が13%、「週40時間を超える」が9%という結果となった。この割合は年代別(20、30、40、50代以上)、診療科別(外科・救急科とそれ以外の診療科)で比較しても大きな違いは見られなかった。 2019年にCareNet.comが行ったアンケートでも同じ質問をしたが、このときは時間外労働が週40時間を超える医師は全体の19%だったが、今回は22%と悪化した。今回のアンケートは対象を勤務医(勤務先病床数20床以上)に限定、外科・救急科に総数の5分の1を割り当てるなどやや条件が異なるものの、この4年間で時間外労働の削減があまり進んでいないことがうかがわれる結果となった。 長年の議論を経て、ようやく固まりつつある医師の働き方改革の各制度についての理解度を聞いたところ、改革の柱となる「時間外労働の上限規制」については「完全に理解している」「おおよそ理解している」の合計が53%と半数を超えたが、「宿日直の扱いと許可」では45%、「自己研鑽時間の扱い」では43%と医師本人の働き方に関する項目でも半数に届かず、「B/連携B、Cの特例水準」では39%、「今後のスケジュール」では37%に留まった。 「医師の働き方改革に期待していることや不安なこと」を選択式(3つまで)で聞いたところ、期待としては「サービス残業がなくなる」が28%、「プライベートの時間が増える」が26%で続いた。一方、不安としては「収入が減る」がダントツの37%、続いて「アルバイト・副業等が禁止される」23%、「サービス残業が増える」22%で、全体として期待よりも不安に関する項目に多くの票が集まった。 「派遣先勤務・アルバイト・副業等について、主たる勤務先に業務内容・勤務時間を届け出ているか」との設問では、43%が「届け出ている」と回答したが、「届け出ていない」との回答も23%にのぼり、働き方改革スタートまで1年となっても、勤務医の正確な勤務時間や業務内容の把握ができていない医療機関が相当数に上ることが予想される結果となった。 「主たる勤務先では、働き方改革に対して何らかの対策をとっているか」(複数回答)との設問には、「医師スタッフの増員(常勤・非常勤とも)」が20%、「宿日直勤務の許可・申請」が19%で全体の5分の1を占めたものの、最多は「何もしていない」の35%だった。 最後に自由記述で「医師の働き方改革に関する意見」を聞いたところ、数多くの回答が集まった。最も目に付いたのは時間外労働規制による給与減の不安に関するもので、20~30代の若手層を中心に「収入減が一番困る。忙しくてもいいから維持したい」(20代、臨床研修医)、「給与改定を望む。基本給が少なく時間外勤務の補填で必要な給与を確保していたので、かなり痛い」(40代、脳神経外科)、「医師に働き方改革は不要。労働時間を減らすのではなく、労働時間分の給料を出せ」(30代、放射線科)といった「労働時間に見合った報酬を支払うべき」との声が目立った。 そのほか、「従うしかない。主治医制も変わっていくのでは」(50代、外科)、「公立病院は昔のブラックな働き方が残っているが、徐々に改善されるだろう。反面、人員の確保や報酬の増加により経営が圧迫される懸念がある」(60代、内科)、「若手が権利ばかりを主張し、結局しわ寄せが管理者側に来てしまうだけの制度だと思う」(40代、消化器内科)といった、多様な意見が寄せられた。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。1年後に迫る医師の「働き方改革」、認知度と対策は?…会員1,000人アンケート

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英語で「鼻うがい」は?【1分★医療英語】第75回

第75回 英語で「鼻うがい」は?My hay fever(seasonal allergy)is getting worse…(花粉症が悪化してきています)Nasal irrigation might help with your symptoms.(鼻うがいが良いかもしれません)《例文1》Gargling and nasal irrigation may ease sinus inflammation.([喉の]うがいと鼻うがいは、炎症を和らげる効果があります)《例文2》The idea behind nasal irrigation is that it helps flush out the nasal cavity.(鼻うがいは、鼻腔を洗い流す作業です)《解説》「鼻うがい」は“nasal irrigation”や“nasal rinse”と言いますが、うがいは“gargle”と言うので、“nasal gargle”と表現することもあります。日本では「手洗い・うがい」が習慣化されていますが、海外ではあまりうがいの習慣がないため、私が塩水でガラガラとうがいをしていたら、ルームメイトに注目されたこともありました。小規模な研究ですが、「1日2回の鼻うがいが新型コロナの感染後の入院や死亡率を下げる」という報告1)もあり、このときは米国でも鼻うがいが話題に上がりました。鼻孔のことを“nostril”と言います。鼻うがいのやり方の説明としては、“Pour the saline solution slowly into one nostril and let it drain out of the other nostril.”(片方の鼻孔から液体をゆっくり入れ、反対の鼻孔から流し出します)となります。“hay fever”(花粉症)の季節は毎年やってくるので、“personal hygiene”(清潔習慣)の一つである 鼻うがいの説明を覚えておくと、役に立つかもしれません。<参考>1)Baxter AL, et al. Ear Nose Throat J. 2022 Aug 25. [Epub ahead of print]講師紹介

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第158回 胎児脳のコロナ感染 / コロナ入院患者死亡率は依然として高い

妊婦感染コロナの胎児脳への移行が初めて判明妊婦に感染した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の胎児の脳への移行とその害が、米国・マイアミ大学の研究者いわく初めて認められました1,2,3)。調べられたのはコロナに感染した妊婦から生まれ、生まれてすぐに発作を起こし、出産時には認められなかった小頭症をやがて呈し、発達の大幅な遅れを示した小児2例です。2例の出産時の鼻ぬぐい液のPCR検査ではSARS-CoV-2は検出されませんでした。しかし2例とも抗コロナ抗体を有しており、血液中の炎症指標が有意に上昇していました。母親2例の胎盤を調べたところSARS-CoV-2のタンパク質が認められ、生まれた小児の血液と同様に炎症指標の亢進が認められました。小児の1例は1歳を迎えて間もない生後13ヵ月で不慮の死を遂げました。その脳を免疫染色で調べたところSARS-CoV-2に感染していたことを示すタンパク質が脳全域で認められました。亡くなったその小児が生前そうであったようにもう1例の小児も出生時には認められなかった小頭症をやがて呈し、発達もかなり遅れました。1歳になっても寝返りを打ったり支えなしで座ったりすることができず、報告の時点でホスピスを利用していました。妊娠半ばに感染したSARS-CoV-2は胎児と胎盤、さらには胎児の脳に至って胎盤と胎児の両方に炎症反応を誘発しうることを今回の調査結果は示しています。そうして生じた炎症反応は生後間もないころを過ぎても続く脳損傷や進行性の神経不調とどうやら関連しそうです。今回報告された2例の小児はコロナ流行が始まって間もない2020年のデルタ株優勢のころに妊娠第2期で感染した母親から生まれました。母親の1例は肺炎や多臓器疾患で集中治療室(ICU)に入り、そこでSARS-CoV-2感染が判明します。胎児の経過はその後も正常でしたが、妊娠32週時点で帝王切開による出産を要しました。死後脳に感染の痕跡が認められたのはこの母親の子です。一方、もう1例の母親のコロナ感染は無症状で、妊娠39週に満期出産に至っています。それら2例の母親が感染したころはワクチンが普及した現在と状況が違っていますが、胎児の経過観察の目下の方針は不十分であると著者は言っています。胎児の脳がSARS-CoV-2による影響を受けるのであればなおさら慎重な様子見が必要です。それは今後の課題でもあり、脳の発達へのコロナ感染の長期の影響を検討しなければなりません。コロナ入院患者の死亡率はインフル入院患者より依然として高いコロナ流行最初の年のその入院患者の死亡率はインフルエンザによる入院患者より5倍近く高いことが米国での試験で示唆されています。さてウイルスそのもの、治療、集団免疫が様変わりした今はどうなっているのでしょうか?この秋冬の同国のコロナ入院患者のデータを調べたところ、幸いにも差は縮まっているもののインフルエンザ入院患者の死亡率を依然として上回っていました4,5,6)。調べられたのは2020年10月1日~2023年1月31日にコロナまたはインフルエンザの感染前後(感染判明の2日前~10日後)に入院した退役軍人のデータです。いわずもがな高齢男性を主とするそれら1万1,399例のうちコロナ入院患者8,996例の30日間の死亡率は約6%(5.97%)であり、インフルエンザ入院患者2,403例のその割合である約4%(3.75%)を1.6倍ほど上回りました。他のコロナ転帰の調査がおおむねそうであるようにワクチンの効果がその解析でも認められています。ワクチン非接種者に比べて接種済みのコロナ入院患者の死亡率は低く、追加接種(boosted)も受けていると死亡率はさらに低くて済んでいました。コロナによる死を防ぐワクチンの価値を今回の結果は裏付けています。参考1)Benny M, et al. Pediatrics. 2023 Apr 06. [Epub ahead of print]2)COVID caused brain damage in 2 infants infected during pregnancy -US study / Reuters3)SARS-CoV-2 Crosses Placenta and Infects Brains of Two Infants: 'This Is a First' / MedScape4)Xie Y, et al. JAMA. 2023 Apr 06. [Epub ahead of print]5)COVID-19 patients were more likely to die than flu patients this past flu season: study / NMC6)Covid Is Still Deadlier for Patients Than Flu / Bloomberg

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